第005話 ロスト・ネット・ワールド編その5
01 バラバラに行動している芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)達
芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)達は現在、ロスト・ネット・ワールドという宇宙世界でバラバラに行動している。
ロスト・ネット・ワールドとはついに誕生してしまった、最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータの双子の姉にして兄でもあるクアースリータが所有する宇宙世界の事を指す。
元々、吟侍達は幼い頃、さらわれた友達を救出するために行動していた。
ところが、様々なトラブルが発生し、王杯大会エカテリーナ枠でトーナメント戦に出場する事になったかと思えば、ついに誕生してしまった第一本体、(クアンスティータ・)セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドでの想像を絶する冒険に出ることになってしまった。
その冒険を通して、吟侍達は極端に大きな力を得てしまった。
戻って来た現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界を簡単に破壊できてしまうほどの強大過ぎる力だ。
それではまずいと思った吟侍達はセレークトゥース・ワールドから戻る前に力を制御してもらう事にした。
その上で、更に、力を内向きに使うという技術も習得し、現界でも十分に活動が可能となった。
そんな彼らだが、すぐにまた、別の宇宙世界に行くことになる。
それがロスト・ネット・ワールドだ。
吟侍達は、現界で片付け無ければならない問題をある程度こなした後、クアースリータにお願いして、この子が所有する宇宙世界、ロスト・ネット・ワールドに飛ばしてもらったのだった。
ロスト・ネット・ワールドに向かったメンバーは、
芦柄 吟侍、
ソナタ・リズム・メロディアス第六王女、
ステラ・レーター、
エカテリーナ・シヌィルコ、
レスティー、
ディアマンテ、
聖魔妖精(せいまようせい)エクス/クェスの7名だ。
フェンディナ・マカフシギもロスト・ネット・ワールドに渡ったが、彼女は自分の力と向き合うために、一人、別の場所に送ってもらったのだった。
フェンディナとは別行動する事になった吟侍達だが、来て早々、チームが更にバラバラになる事に。
見た目は幼いが、中味は大人だという謎の女、【アコンルーク】により、心理操作されたソナタ、ステラ、エカテリーナの三名はディアマンテに対する些細な嫉妬を増幅させられ、ヒステリーを起こし、結果、吟侍達と離れて行動する事に。
吟侍達はそのまま、信用の出来ない【アコンルーク】と行動を共にし、【宇宙海(うちゅうかい)】のエリアを目指す事になる。
一方、感情的になりすぎたと反省したソナタ達三人娘は、詫びの印として何か手土産を持って行こうと話し合い、吟侍達とは別行動を取ることになった。
こうして、吟侍達、ソナタ達、フェンディナの三チームに分かれて行動する事になったのだが、三チームともに何かしらのトラブルはやってきた。
吟侍達はディアマンテが【有続者(ゆうぞくしゃ)チョテウ】の利権に群がるクズ達を撃破した。
ソナタ達は、ステラが嘘で塗り固められた存在、【リトサ】を撃破した。
フェンディナの前には彼女と同じく【七大ボス】に数えられる4つの存在、【デュジル】、【ラクン・シュアル】、【バーンエディラ】、【ヴェレイ】が姿を現し同盟を持ちかけて来た。
三チーム三様の展開を見せるロスト・ネット・ワールドの冒険は続く。
02 怪物ファーブラ・フィクタの影
吟侍達は【宇宙海】のエリアに行く前の最後の壁となるエリアに来ていた。
そのエリアに来て早々、吟侍は名も知らぬ男から結婚式の招待状をもらった。
吟侍は、
「なぜ、おいらに?」
と当然、尋ねた。
すると男は、
「【F】と言えばわかると手紙の主は申しております」
と答えた。
【F】――心あたりがあるかどうかで言えば、約1名該当者がいる。
【F】――FABULA・FICTA(ファーブラ・フィクタ)――そう、怪物ファーブラ・フィクタの事だ。
現界にある謎の惑星ファーブラ・フィクタという場合もあるが、この場合は前者であっているだろう。
現界で気配が感じられないとは思っていたが、まさか、あの男がこのロスト・ネット・ワールドに来ているというのだろうか?
では、何故?
何のためにこの宇宙世界に来ているのだろうか?
恐らく、それは決まっている。
第二本体、クアンスティータ・ルーミスを生み出すためにだ。
第二のニナ――ニナ・カエルレウスはこのロスト・ネット・ワールドに居るのだ。
だから、怪物ファーブラ・フィクタはロスト・ネット・ワールドに来ているのだろう。
第一のニナ――ニナ・ルベルの時の様に、ニナ・カエルレウスも正体を隠し、別名を名乗っているのだろう。
その辺りの所を【答えの力】を使って探りだそうとすると使いの男は、
「【答えの力】とやらで探ろうとしても無駄な事だ。第六本体の力を少しだけ借りていると伝えて欲しいとも申しておりました」
と言った。
吟侍は使いの男を通して、怪物ファーブラ・フィクタの居所を探ろうとしたが、先手を打たれていたようだ。
第六本体――つまり、クアンスティータの第六本体と言いたいのだろう。
第六本体クアンスティータ・レアク・デには【答えの力】に対抗する特別な力があるという事なのだろう。
恐らく、怪物ファーブラ・フィクタはまだ誕生していないレアク・デの力のほんの一部にも満たない力を使ったのだろうが、それでも、今の吟侍の【答えの力】では全く歯が立たないほど強大なのだろう。
クアンスティータの本体はそれぞれが少なくとも1つ以上の代表的な力を持っているという。
他の存在が持っていない特別中の特別な力だ。
【答えの力】を無効化させている力はレアク・デの持つ代表的な力に違いない。
試しに強引に使いの男に対して【答えの力】を使って探りを入れたが、怪物ファーブラ・フィクタに関する事は何も出てこなかった。
何もだ。
使いの男が怪物ファーブラ・フィクタの言葉を述べているという事は何クッションがあろうともどこかでつながっているはずなのに、全くつかめなかった。
使いの男の他のプロフィールはこれでもかというほど探れたのに、怪物ファーブラ・フィクタの事は何も出なかった。
推測するに、これは【謎を作り出せる力】とも呼べる力なのでは無いかと思った。
答えを探れる【答えの力】に対して、答えに謎のベールをかぶせる【謎を作り出せる力】――つまり、真逆の属性の力という事になるのだろうか?
何にしろ、この使いの男にレアク・デの力のプロテクトがかかっているのであれば、今の吟侍にはどうしようも無い。
結婚式の招待状を見て推測するしかなかった。
招待状を開いてみる吟侍。
レスティー、ディアマンテ、クェスもじっと見る。
フとレスティーが、
「この招待状、受けちゃって良いの?」
と聞いた。
吟侍は、
「そう言われても、招待受けちゃったもんは……」
と言うが、レスティーは見当違いの答えだと言わんばかりに、
「違うわよ。この新婦のリーセロットって人、現界最大の財閥のご令嬢よ。ラフな格好でなんて行けないわよ。超特注品の超正礼装のドレスコードで行かないと参加なんかさせてくれないわよ、きっと。どうするの?用意出来るの?」
と言った。
吟侍はレスティーの言っている事がよくわからないがどうやらめちゃくちゃ高い服を着ていかないと参加出来ないという事らしいのは何となくわかった。
吟侍は、
「そうなのか?困ったな。セレークトゥース・ワールドのぴょこたんに相談すれば、なんとかなるかも知れねぇけど、今、セレークトゥースは眠ってるみてぇだし。そうなると行けるかどうかも怪しいぞ。どうすっかな〜」
と困った表情を浮かべた。
恋人であるカノンの実家からお金を借りる事も考えたが、レスティーから超正礼装のドレスコードは星が2、30個買えるほど高いと聞かされ目ん玉、飛びでるくらいびっくりした。
いくらセカンド・アースで英雄扱いされている吟侍でもそんな途方もない金額を貸してくれる訳が無い。
困惑顔で居る吟侍にレスティーは、
「ひょっとしてだけど、このリーセロット・セカイウチューがニナ・カエルレウスなんじゃないの?セカイウチュー財団は別名、カエルレウス財団とも呼ばれているし、たぶん、間違いないわよ。セカイウチュー家と言えば現界、最大の超大財閥よ。お金で雇われた強者なんて腐るほどいる。バックにクアンスティータの後ろ盾がつくとすれば、それはより強固なものになる。結婚式が開かれるというのであれば、それを邪魔しようとする存在を排除する警備は半端じゃなくあると思うわ。要は、リーセロット嬢がクアンスティータ・ルーミスを産み落とすのを邪魔出来るものなら邪魔して見ろと言いたいんじゃないの?これ……」
と言った。
つまり、許可は出したが参加するには途方も無い金額がかかる。
その不利な条件を突破して来いとの怪物ファーブラ・フィクタからの挑戦状だと言いたいのだ。
吟侍は、
「あの野郎……」
と歯ぎしりした。
確かに怪物ファーブラ・フィクタの性格ならば、吟侍にちょっかいをかけて来るというのも考えられる。
なんだかんだで吟侍のことを気にしていた様だったので。
吟侍達はセレークトゥース・ワールドで大き過ぎる力を得た。
その力を持ってすれば、怪物ファーブラ・フィクタと言えども簡単に吟侍達を始末する事はできなくなったはず……。
だが、怪物ファーブラ・フィクタには余裕がある。
いつでも、吟侍達を倒せるという余裕が。
怪物ファーブラ・フィクタは関係者全てを一掃する力を持っている。
その力を持ってすれば、吟侍と袖すりあった程度の知り合いでも捕まえて攻撃すれば、吟侍にダメージを与える事も出来るだろう。
それを回避するには能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)で怪物ファーブラ・フィクタを完全に上回るしかない。
だが、基本的に吟侍の七倍の魂を持っている怪物ファーブラ・フィクタのそれを超える事はそう容易ではない。
七倍の存在力を持って居る怪物ファーブラ・フィクタの方が能力浸透度(のうりょくしんとうど)と能力浸透耐久度では彼よりずっと上回っている。
パワーで超えられても能力浸透度と能力浸透耐久度の問題で怪物ファーブラ・フィクタに勝つ事は難しいと言える。
怪物ファーブラ・フィクタを始末出来ない以上、クアンスティータ・ルーミスの誕生を早めるという行為を邪魔出来ないという事でもある。
倒せないとわかって居るからこそ、怪物ファーブラ・フィクタは安心して、ルーミス誕生のプロセスを進めているのだ。
ロスト・ネット・ワールドに怪物ファーブラ・フィクタが来ているとわかった以上、【宇宙海】のエリアどころではないというのが本音だったが、吟侍はルーミスの誕生が悪いことだとは別に思ってはいなかった。
怪物ファーブラ・フィクタがクアンスティータを使って神や悪魔、人間達に対して復讐をしようとしているのが問題なだけであり、クアンスティータの誕生を否定するつもりは毛頭、無かった。
ただ、父親のエゴにより、クアンスティータ達が悪い子に育ってしまうのが心配なだけだった。
怪物ファーブラ・フィクタは恐らく、第五本体クアンスティータ・リステミュウムの誕生を早めさせようとしているのだ。
そのため、前倒しで第二、第三、第四本体の誕生を急がせているのだ。
リステミュウムは未来の世界において現界を壊滅状態にしたという無茶苦茶恐ろしいクアンスティータだ。
その悪夢の光景を怪物ファーブラ・フィクタは早めようとしているのだ。
父親の復讐のために子供を利用するなど言語道断――そんな事はさせないと思う吟侍だったが、今は、怪物ファーブラ・フィクタの邪魔をする事が良いことなのかどうかは判断がつかなかった。
ただ、ディアマンテの様子が気になった。
楽以外の感情が曖昧なディアマンテなのでよくわからないが、彼女の心の中では、未来の世界での凄惨な光景をフラッシュバックして少なからずショックを受けていた。
ディアマンテ達ブルー・フューチャーは怪物ファーブラ・フィクタの暗殺に失敗し、まんまと第一本体クアンスティータ・セレークトゥースを誕生させてしまったという経緯もある。
吟侍はその微妙な変化に気づき、
「大丈夫か、ディアマンテ?」
と聞いた。
ディアマンテは、
「だ、大丈夫ですよ、吟侍様。私は元気です。元気、元気ぃ〜」
と言ったが、空元気なのはよくわかった。
彼女の様子も心配だが、相談した結果、まずは、【宇宙海】のエリアを目指そうという事になった。
千里の道もまず、一歩から。
目の前の問題を一つ一つ解決していこう。
急がば廻れとも言う。
複数の問題を抱えていてはどうにもならない。
まずはなんとかなりそうな問題から片付けていこうと決めた。
03 【シスタール】カステヘルミの洗脳
吟侍達は【宇宙海】のエリアの前の最後の壁となるエリアに降り立った。
ここは【シスタール】のエリアと呼ばれる場所だった。
【シスタール】とは地球で表現するならば、聖職者、指導者、教主、神父などがそれに近い立場であると言えるだろう。
女性だという事を考慮すると呼び方も近いという事もあり、修道女、シスターの方がしっくり来るかも知れない。
地球で言えば神の教えなどを説いて聞かせるという立場だが、【シスタール】は高次元生命体の教えという立場をとっている。
【崇高なる存在】という事になっているが、それは【神】という事ではない。
自分達よりも高度な存在――それの教えを説いて聞かせる立場だと言える。
この【シスタール】のエリアは文字通り、【シスタール】達が支配しているエリアと言える。
【シスタール】と一口に言ってもピンからキリまで存在し、その優劣はどのくらい高度な存在の声を聞き取れるかという事と、どのくらいの数の高度な存在の声を聞けるかという事の二点が挙げられる。
質で言えば、レベル1からレベル1000000以上の高度の存在が居て、量で言えば1つの存在から1000以上の存在の声を聞く事が出来る【シスタール】がこのエリアのあちこちに存在しているという。
その中でも頂点に居るのが【カステヘルミ】という名前の【シスタール】だ。
彼女はレベル1280000以上の高度な存在の声が聞けて、更に、それらの数は1700以上にのぼるという。
質、量共に最強の【シスタール】と呼べるだろう。
他の【シスタール】により授かった言葉も【カステヘルミ】の言葉で否定されれば、無視されるという事にもなるらしい。
それだけ、【カステヘルミ】の言葉はこのエリアでは絶対的な立場だった。
このエリアの至る所に【カステヘルミ】を称える(?)銅像が建っていた。
シスターに近い服装で髪の長い女――銅像からその事だけはよくわかった。
吟侍はこのエリアの住民達の表情を見た。
どれも【シスタール】の言葉を信じて疑わない。
【シスタール】のためならば、例え、死すらいとわないという様な表情をしている。
明らかに洗脳の気配が感じられる。
洗脳者――それが、今回の敵となるのかと思った。
吟侍達の前に【シスタール】達が現れる。
【シスタール】達は、口々に、
「信じる者は救われる」
「大いなる存在を崇めよ」
「我が言葉は、上なる存在の言葉なり」
「高位なる存在を敬え」
「救いを求めよ」
等々言ってきた。
吟侍は、
「悪いが、おいらは別に救いとやらを求めてねぇんだよな。仲間達も同じだ。そういう訳で勧誘なら別を当たってくれ」
と言ったが、
「命を捧げよ」
「魂を引き渡せ」
「お前の命は我らが高位なる存在のためのもの」
等と危ない事を言ってきた。
話し合いが通用する相手ではないと判断した吟侍は戦闘態勢に入る。
ディアマンテは、
「吟侍様、ここは私が出ますよ」
と再び、自分をアピール。
基本的にレスティーとエクス/クェスは戦闘要員ではないため、戦うとなるとどうしても吟侍かディアマンテが出る事になる。
ディアマンテは吟侍のためならばと張り切るのもわかる。
だが、吟侍は、
「いや、ディアマンテ。気持ちはうれしいが今回はおいらが出る。どうもこの敵は気持ち悪い。おいらがかたをつける」
と言った。
ディアマンテは、
「そうですか?わかりました。じゃあ、頑張ってください」
と引き下がった。
吟侍は、
「………」
と一瞬、黙った。
慕ってくれるのはありがたいが、吟侍のイエスマンというだけでは、彼女は吟侍の横に並び立つ事は出来ない。
ソナタ達の様に時には反発し意見を違えるようなものではないと真のパートナーとは言えないだろう。
ソナタ達は自分が出ると言ったら吟侍にどうこう言われてもその意見は曲げなかっただろう。
そういう点ではディアマンテは頼りないと言える。
吟侍の反対意見が言えないのだ。
吟侍のファンだというのはわかる。
だが、それでも自分の思う通りに行動して欲しいと吟侍は思った。
そして、彼は思いもかけない行動を取ることになる。
吟侍は自らの【答えの力】を封印し、
「ディアマンテ――信じてるからな」
と言って、ほぼ無防備のまま、【シスタール】達に向かっていった。
敵対していた【シスタール】は一掃出来たが、どこから現れたのか、より高レベルの【シスタール】の総攻撃を食らい、背後から出て来た【シスタール】最強の【カステヘルミ】の洗脳を受けた。
洗脳術でも最も強固な洗脳効果があるとされる【洗脳の口づけ】を吟侍にかけた。
これは、別名、パーフェクト・プロミス・キスと呼ばれている。
最も重要な約束とされていて自分の全存在をかけて約束する事、自分の存在を担保にする事で強力過ぎる強制力を持たせるというものだ。
それによって、吟侍に絶対的な暗示がかけられてしまった。
儀式の道具パーフェクト・プロミス・キスを使っての口づけの強度はそれほど強くはないが、存在力を圧縮させて使う事により、約束を違えたら存在が消える事もあるという。
吟侍は自身の存在力を何故か圧縮させて戦ったので、まともにこの効果を受けてしまったのだ。
彼の中ではディアマンテの出方をうかがうためにした行為なのだが、危険過ぎる選択と言えた。
吟侍は、
「むぐぅっ……」
と思わずうめいた。
【洗脳の口づけ】は生涯ただ一度だけ使えると言う最も貴重な力だった。
そこまでして、吟侍の唇を奪った理由は吟侍が怪物ファーブラ・フィクタの生まれ変わりだという事にある。
結婚式の招待状の噂はロスト・ネット・ワールドでも広まっていた。
それを知ったロスト・ネット・ワールドの強者達はパニックになった。
クアンスティータから逃げて、このロスト・ネット・ワールドに避難して来たのに、第二のクアンスティータが、このロスト・ネット・ワールドで誕生するかも知れないと思ったからだ。
強者達は藁にもすがるつもりで、他へのアプローチを考えた。
その内の一つとして考えられたのが、クアンスティータの親である怪物ファーブラ・フィクタの生まれ変わりの一人である吟侍にすがるという事だった。
吟侍がクアンスティータと関わって生きて帰ってきているという噂は【アコンルーク】の裏のつながり、情報網を通してすでに情報として伝わっていた。
そのため、招待状の噂が広まった頃、ちょうど訪れていた【シスタール】のエリアでは吟侍に取り入ろうという動きがあったのだ。
取り入ると言っても吟侍を洗脳して、自分の思い通りにしようという魂胆だった。
【カステヘルミ】は、
「さぁ、ダーリン。こちらに……」
と言って、吟侍の手を引く。
吟侍は、
「あ、うん……」
とうつろな表情だ。
最も強力な洗脳術をかけられてしまった。
【カステヘルミ】は、
「さぁ、ダーリン、邪魔者を始末して……」
と言った。
吟侍は、
「わかった……」
と答えた。
【カステヘルミ】の言う【邪魔者】とはレスティー、ディアマンテ、エクス/クェスの事になる。
吟侍以外は邪魔なだけ。
吟侍によって、彼女達を始末させようとしているのだ。
その後悔の念を利用して、さらなる強力な暗示をかけようとしている。
レスティーは、
「まずいわね……戦闘力では吟侍君の相手にならない……」
と言った。
なんとか対応が取れるのはここにはディアマンテしか居ない。
ディアマンテは吟侍の言葉を思い出す。
「ディアマンテ――信じているからな」
と言う言葉を。
吟侍を正気に戻すにはまず吟侍の動きを止めなくてはならない。
つまり、吟侍と戦わなければならない。
残ったメンバーでそれが可能なのはディアマンテだけだ。
だが、彼女に吟侍と戦う事が出来るのだろうか?
レスティーは、
「ディアマンテさん、わかっているとは思うけど、彼を止められるのはあなたしか居ない。動きさえ止めてもらえれば、私の調治術(ちょうちじゅつ)と【答えの力】でなんとかするから、お願いね」
と言った。
ディアマンテは、
「や、やってみますぅ〜」
と緊張感の無い声で答える。
なんとも頼りない。
だが、なんとかしてもらうしかない。
意図せず、吟侍VSディアマンテの戦闘が始まった。
さすがに、数居る敵をたくさん撃破してきただけあって、吟侍は相当に強かった。
対して、ディアマンテは吟侍に対する遠慮から、攻撃に勢いが無い。
この状態はパーティーにとっての大ピンチと言えた。
いかにディアマンテと言えども一人では荷が重い。
そんな感じの戦いになっていた。
ディアマンテも頑張っているのだが、憧れの吟侍への攻撃はどうしても緩くなる。
たまらず、クェスも戦いに参加する。
彼女は捕まえた相手の能力を一つ、封印する力を持っていた。
クェスは吟侍に取り付き、吟侍が受けた【カステヘルミ】の洗脳術を封印しようとした。
だが、【カステヘルミ】の能力浸透度は強大であり、クェスの力だけでは、洗脳効果を半減させるだけが精一杯だった。
吟侍はクェスを振り払おうと彼女に手を伸ばそうとする。
その一瞬の隙をディアマンテは見逃さなかった。
ディアマンテは、
「吟侍様、ごめんなさい」
と言って、吟侍の唇を奪った。
吟侍は、
「むぐぅっ……」
と、うめく。
ディアマンテは攻撃を吸収し、増幅して跳ね返す力がある。
クェスにより、力が半減していたというのもあって跳ね返す事に成功した。
彼女は吟侍の受けた最強の洗脳術を自分に移し、その洗脳術を倍化させて、吟侍に跳ね返した。
この行為により、吟侍の洗脳術は解け、吟侍は【カステヘルミ】からディアマンテの虜になった。
ただし、ディアマンテは【カステヘルミ】への虜となってしまった。
吟侍が虜の対象の変化に戸惑っている一瞬の隙を見つけて、今度はレスティーが答えの力と【調治術】を使い、吟侍の洗脳を解いた。
復活した吟侍は【答えの力】の封印を自ら解いて、今度は答えの力でディアマンテがかかった洗脳を解いて見せた。
ここまでの動きが電光石火の勢いで連動したものになっていた。
チームワークが確立されていなければ出来ない芸当だった。
吟侍は、
「悪いがこの厄介な洗脳術を破壊させてもらう」
と言って、続けざまに【カステヘルミ】の能力全てを分解した。
ウィークポイントレシピにより、【カステヘルミ】の洗脳術の弱点属性を作り出した。
力を奪われた【カステヘルミ】は一目散に逃げ出した。
残った吟侍達。
ディアマンテは吟侍の側に近寄り、
バチンッ!
と平手打ちを吟侍にした。
そして、涙を流し、
「バカ!!もしもの事があったらどうするんですか」
と怒りの表情を彼に向けた。
感情表現が苦手な彼女には珍しく、怒りと悲しみの表情が見て取れた。
吟侍は、
「悪かった、ディアマンテ。そう――それで良いんだ。おいらだって判断を間違える事もある。その時は否定して欲しい。頼りにしてるぞ」
と言った。
ディアマンテは、頷き、
「はい……吟侍様」
と答えた。
一悶着あったが、パーティーとしての絆が強くなった瞬間だった。
無事、解決して万々歳と行きたいところだが、レスティーは、
「あ〜あ、彼女さん……カノンさんだっけ?――にも悪いことしたんじゃない?今の件で吟侍君、【カステヘルミ】とディアマンテさんに唇、許しちゃってるじゃない。言っちゃおうかなぁ〜」
と言った。
吟侍は、
「ま、待ってくれ、レスティー、おいらはそんなつもりじゃ」
と言ったが、唇を奪われたという事は消せない。
それを見たディアマンテは、
「吟侍様、なんだかかっこ悪い〜」
と言ってクスッと笑った。
クェスは、
「とんだ三枚目ですね」
と突っ込んだ。
吟侍は、
「なんでこうなるんだ……」
と嘆いた。
軽く天を仰ぎ、
(お花ちゃん、ごめん。おいらはお前さん一筋だから……)
と言い訳した。
お花ちゃんとは吟侍の恋人、カノン・アナリーゼ・メロディアス第七王女の事である。
と同時にこの場にソナタが居ない事に少しホッとした。
彼女がいたならば、からかわれるぐらいでは済まなかっただろう。
首を絞められていたかも知れない。
「この浮気者ぉ〜」
という言葉でも添えて。
【アコンルーク】はこの間、ただ見ていただけだった。
彼女は、
「なかなか面白い見世物だったわ」
と感想を述べた。
ひとまずこの場を収めた吟侍達は、いよいよ【アコンルーク】が指定した【宇宙海】のエリアへと進むのだった。
04 超職人【ジェーニヴィライ】の店にて……
一方、ソナタ達は、大物と遭遇していた。
どの様な大物かと言えば、クアースリータや【黒いフードの男――ソルテリアー】と同じくQOH(クォーターオブハンドレッド)に名を連ねる存在――それを作り出せるとされている女性だった。
その名を【ジェーニヴィライ】と言い、彼女が作り出す作品を【イクストーヴァス】と呼んでいる。
その【イクストーヴァス】の中からQOHが誕生すると言われているらしい。
期待されている超天才芸術家――それが【ジェーニヴィライ】という女性だった。
【ジェーニヴィライ】は、
「違う――これも違う。あーダメだ、出来ない、出来ない、出来ない、出来ない――あー出来ない」
とつぶやいている。
彼女は【イクストーヴァス】を作っている様だがうまく行っていないようだ。
それを店を訪れていたソナタ達が見学しているという感じだ。
ソナタは、
「何をそんなに焦っているのよ。この作品、結構っていうか、かなり凄いんじゃないの?そんなに卑屈になることないわよ、あんた……」
と声をかける。
ステラも、
「そうね。かなりの精度と言っても良いわね」
と言い、エカテリーナも、
「何がそのように不満なのじゃ?」
と言った。
ソナタ達は【イクストーヴァス】の制作過程を見ていたが、見事と言うより他、なかった。
存在を作り出す力を持つ存在は数多く居るが、【ジェーニヴィライ】の技術は群を抜いていた。
ソナタ達は吟侍への手土産として、この【イクストーヴァス】を一体、譲り受けたいと思っていた。
噂で、腕の良い職人がいると聞いて来てみたら、予想を遙かに超える腕前で、ソナタ達は思わず、舌を巻いた。
――にも関わらず、【ジェーニヴィライ】はその出来に満足出来ていないのだ。
これは売り物にならないと嘆いているのだ。
吟侍への手土産としてはこれでも十分過ぎるくらいなのに何がそんなに不満なのかがわからなかった。
確かにクアースリータや【ソルテリアー】あたりと比べるとかなり見劣りする出来だが、あんなものと同等の作品が早々出来る訳がない。
制作者が満足いっていないので、譲り受けるための交渉に入れず、ソナタ達は立ち往生していたのだ。
ソナタは、
「あの……私達はそれで良いから……」
と声をかけるも、【ジェーニヴィライ】は、
「いや、ダメよ。貴女たちは最高傑作をと言った。これは私の最高傑作じゃない」
と言って首を縦に振ってくれない。
ステラは、
「それについてはごめんなさい。謝るわ。私達からするとどの作品も素晴らしいの。どれでも良いから……」
と言ったが、【ジェーニヴィライ】は、
「ふざけないで!!!!どれでも良いなら他の店に寄ってちょうだい。私は最高のサービスを……」
と興奮する。
エカテリーナは、嘆息し、
「ダメじゃこりゃ……」
と半ば諦めかけている。
ソナタ達は面倒臭い店に入ってしまった。
それを後悔していた。
思わず、
「この店に置いてある作品より優れた作品を作ってちょうだい。オーダーメイドで」
と言ってしまったのを今更ながらに悔やんでいた。
その言葉が【ジェーニヴィライ】の職人魂に火をつけてしまった。
彼女は、
「任せてちょうだい。必ずや、最高傑作を貴女たちに提供するわ」
と言って、ソナタ達に作業を見せるように作り始めたのだ。
たまたま、【ジェーニヴィライ】の店に来ていた常連客風の男が、
「あんた達、とうとう、彼女にとっての禁句を言っちまったな、地雷踏んだぜ。ご愁傷様だな。こりゃ、いつ出来るかわかんねぇぞ」
と言ってそそくさと店を出て行った。
それから、制作と失敗を繰り返していたのだ。
もう、かれこれ、17体目だ。
制作が異様に早いと言っても1体作るのにそれなりに時間がかかる。
1日に3体作れるのは本当に凄いと思うが、17体目――つまり、6日間、ここで足止めを食っていた。
いつ出来るかわからない状態が延々と続いている。
悪い人じゃないのはわかっているので、無碍(むげ)にも出来ない。
最初の内は、
「頑張ってね」
とか、
「応援するわ」
とか、
「信じておるぞ」
とか言って応援していたが、こう失敗(?)が重なると、内心、いい加減にして欲しいと言いたくなってくる。
ただ、待っているのも時間がもったいないので、一人だけ、交替で【ジェーニヴィライ】の制作に付き合って、残る二人は手っ取り早く、賞金稼ぎをして、【イクストーヴァス】を買うためのお金を用意していった。
片っ端から賞金首を取っていったので、もう、かなりの金額が貯まっていた。
もう、【イクストーヴァス】を買ったとしてもかなりのおつりが来るくらいまで貯まったので、三人で待つことにして、2日――いっこうに終わる気配が無い。
【ジェーニヴィライ】が18体目の制作に取りかかろうとした時、しびれを切らしたエカテリーナが、
「もう、良い。邪魔をしたな」
と言って出て行こうとすると、【ジェーニヴィライ】は、彼女にすがりつき、
「あと、一体――後、一体だけ作らせて。お願い……」
と涙目になって訴える。
エカテリーナは苦虫をかみつぶした様な表情になり、
「――わかった、わかったから放せ。後、一体だけじゃぞ……それ以上は待たん。出来なければこの話は反故(ほご)にするぞ」
と言った。
【ジェーニヴィライ】は、パァっと明るい表情になり、
「ありがとう。全身全霊を持って制作するわ」
と言った。
初めからそうして欲しいと思ったのだが、それを言っても始まらない。
ソナタ達三人娘は、最後の一体の完成を待つことにした。
予定ではこの日の内に終わる――そう思っていた。
だが、次の日になってもその次の日になっても【イクストーヴァス】は完成しなかった。
とうとう、10日目の朝を迎えた時、エカテリーナは、
「どうなっておるんじゃ?何故作業が終わらん?」
と言った。
ステラが、
「それだけ、今度の【イクストーヴァス】には力を入れてるって事じゃないの?」
と言い、ソナタは、
「そうね。もしかしたら、本当にQOHクラスの【イクストーヴァス】が完成するかも知れないわね。ちょっと期待出来るわ」
と言った。
だが、エカテリーナは、
「そうかのう?妾は違うような気がするんじゃが……」
と言った。
ソナタとステラはQOHクラスの【イクストーヴァス】が出来ると期待し、エカテリーナは、うまく行かず、迷走している様に受け取っていた。
果たしてどちらが正しいのか?
結果は14日目の昼過ぎにわかった。
【ジェーニヴィライ】は、口惜しそうに、
「こ、ここ、これが……今の私の限界です。悔しい……悔しい」
と言って涙した。
どうやら、エカテリーナの方が合っていたようだ。
そんなに簡単にQOHクラスの【イクストーヴァス】が出来るのであれば苦労は無い。
エカテリーナ達に焦らされたというのもあって、十分なパフォーマンスを提供する事は敵わなかったらしい。
エカテリーナは、
「ではその出来た物をいただこう。金は用意してある」
と言った。
すると、【ジェーニヴィライ】は、
「本当に――本当にこれじゃなきゃダメですか?また、立ち寄ってもらえたら、今度こそ、今度こそ完璧な……」
と言ってきた。
エカテリーナは、
「あーわかった、わかった。気が向いたらまた立ち寄ってやる」
と適当に答えた。
【ジェーニヴィライ】は、
「死ぬ気で作ります。今度こそご期待に答えるために」
と決意を新たにした。
エカテリーナはそこまでしてもらう必要は無いと思っていたのだが、これで拒否したらどうなるかわからなかったので、
「そ、そうか、期待しておるぞ」
と言って、適当にお茶を濁した。
【ジェーニヴィライ】には困らされたが、無事、【イクストーヴァス】の一体を手に入れたソナタ達は、吟侍達を追いかける事にしたのだったが、彼らの行き先がわからなかった。
このまま、ぼーっとしていても仕方ないので、とりあえず、吟侍達が寄りそうな所を調べてみることにした。
決して、自分達が迷子になったとは思って居ない。
それは三人娘達のプライドが許さない。
だから、これははぐれているのであって、決して迷子ではない。
そう思い込むのだった。
ソナタ達の迷走は、続く。
05 語祖(ごそ)のちょっかい
一方、フェンディナ・マカフシギは、七大ボス達と別れた後、第三の【別自分】である、フェンディナ・モークェンを呼び出す場所を探してさまよっていた。
そんな彼女の前に新たなる影が――
フェンディナ・マカフシギは、
「ど、どちら様ですか?」
と聞く。
だが、返事がない。
もう一度、
「どなたですか?」
と聞くと、どこからか声がした。
その声に耳を傾けていると、フェンディナ・マカフシギはいつの間にかデザート屋さんに来ていた。
疑いもせず、何故か店内で餡を食べている。
すると、ウェイターらしき生命体が話しかけてくる。
ウェイターは、
「どちらから?」
と聞くのでフェンディナ・マカフシギは、
「あ、はい、実は……」
と質問に答えて行く。
店内の他の客は、
「あ〜あ、知らないよ、早く食べないと……」
というが意味がわからない。
それでもウェイターと話していると、ウェイターが雪の様にどんどん崩れて行った。
そのまま、フェンディナの口にウェイターだったものが流れ込んでくる。
「も、もが……」
とうめく。
すると――、
バスが行ってしまう――
乗り遅れてしまったら……
何故、バス?
意味がわからないと思った時、フェンディナは元の場所に戻っていた。
白昼夢なの?
私は白昼夢でも見せられていたの?
と思った。
どうやら、白昼夢を見せようとしてうまく行かなかったようだ。
確か、どこからか聞こえて来た声に耳をすませたらおかしくなった。
敵?
フェンディナ・マカフシギは身構える。
フェンディナ・マカフシギは、フェンディナ・モークェンを呼び出した。
フェンディナ・モークェンは、
「なぁに〜?何なの?……面倒くさい……」
と言った。
どうやら、フェンディナ・モークェンは面倒臭がりのようだ。
フェンディナ・マカフシギは、
「すみません。【モークェン】さん。敵……かも知れないです。どうかご助力を」
と言って助けを求めた。
フェンディナ・モークェンは、
「敵?――あぁ、それなら、あの辺りに十五、六人隠れているわね。やっている事から推測するに、あいつら、【語祖(ごそ)】ね。でも、大した連中じゃないわ」
と言った。
フェンディナ・マカフシギは、
「ご、【語祖】?」
と聞き返す。
彼女にとっては初耳だったからだ。
フェンディナ・モークェンは面倒臭そうに、
「何?知らないの?仕方ないわね……」
と言って、説明を始めた。
最強の化獣クアンスティータ――いくつもの勢力を持っている化獣としても有名だ。
フェンディナ・マカフシギもセレークトゥース・ワールドで道化やプリンセス、よそものなどにあっているがそれらがクアンスティータの所有する勢力であると言える。
道化やプリンセスは第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの勢力、よそものは第七本体クアンスティータ・テレメ・デの勢力として数えられる。
それらの勢力の中で最も有名だとされているのが第六本体クアンスティータ・レアク・デの持つ勢力とされる【話祖(わそ)】と呼ばれる存在だった。
【話祖】はその口から紡がれる物語により、物語の登場人物などを現実化させて出現させる力を持っている。
【話祖】が1名、居る限り、兵力としては無限だと言われている。
だが、そんな【話祖】達はレアク・デが誕生していない今は表に出るという事はない。
【話祖】よりも先に存在しながらも【話祖】の偽者、紛い物とされている存在――それが、フェンディナ・モークェンの言葉で出て来た【語祖】という事になる。
【語祖】としての特徴は【話祖】が物語全てを表現出来るのに対して、【語祖】は一部のキャラクターに絞られ、表現出来る数も一度には限られている。
出現させた存在が消えたりしないとある一定以上の数は出現させる事が出来ない。
言ってみれば、【話祖】をかなり劣化させたのが【語祖】と呼ばれる存在だった。
フェンディナ・マカフシギの頭に巣くっている10番の化獣、ティルウムスの持つ本棚の勢力も本に書かれている存在を作り出せるという力があるがそれとは少し異なる力になる。
【語祖】は希少種族と呼ばれ、現界の全宇宙に1500名に満たない数しか存在しないと言われていた。
【話祖】の紛い物――日陰者である彼ら彼女らはクアンスティータが誕生した現界に居る事が出来ず、ロスト・ネット・ワールドに流れて来たのだろう。
血縁関係は全く無く、あるとき、突然変異として【語祖】の力を得るようになるため、どの存在が【語祖】だという表だった特徴は無い。
別の種族でもある日、突然、【語祖】になるのだ。
ただ、その能力が【語祖】だと証明する唯一の手段だと言える。
【語祖】は【話祖】の様に言葉を紡ぐ事によって自分に味方をする存在を作り出す。
先制攻撃として、フェンディナ・マカフシギに白昼夢を見せる怪物を呼び出し、眠りの中に誘い込み、殺そうと思っていたのだろう。
【語祖】自体の戦闘力は大した事は無いが、問題は【語祖】により作り出された存在だ。
【語祖】が何を考え出すかわからない上に、放っておくと宇宙を破壊するとまで言われた邪悪な存在と言われているのは生み出された存在による被害が現界では甚大なものだったからでもある。
それが、十五、六名でチームを組んでフェンディナ・マカフシギに攻撃を仕掛けて来ているのだ。
こちらとしても対処を取るしかないだろう。
【語祖】達はさらに言葉を紡ぐ。
今度は、【腐敗人馬王(ふはいじんばおう)】を称える言葉だ。
それに呼応して、無数の人馬達が姿を現す。
名前の通り、腐敗したような姿形だ。
腐敗人馬達の側から、周りが腐り始めている。
かなりの距離があるにも関わらず、酷い匂いがフェンディナ・マカフシギの鼻孔(びこう)を刺激する。
フェンディナ・マカフシギは、
「うっ……」
とうめく。
フェンディナ・モークェンは、
「うっとうしいわね……あっち言ってもらいましょうか……」
と言うと、腐敗人馬の集団と【語祖】の集団の背後に巨大な扉を出現させた。
フェンディナ・モークェンは、
「彼の者達を何処かへと飛ばしなさい」
と言うと、扉が開き、そのまま、敵を扉の奥へと吸い込んでいった。
フェンディナ・マカフシギは、
「ど、どうなって……?」
と聞くと、フェンディナ・モークェンは、
「邪魔だから、どこかに飛ばしたのよ。どこかは私も知らないわよ。どこかじゃないの?」
と無関心な言葉を言った。
どうやら、扉を通して目障りな敵を強制的にどこかへ飛ばす力が彼女にはあるようだ。
逆にどこかから持ってくる事も出来るようだ。
何にしても助かったのは事実だ。
主立った敵も見当たらない様だし、フェンディナ・モークェンと話すチャンスと考えたフェンディナ・マカフシギは、
「あの……お話があります」
と言ったが、フェンディナ・モークェンの方は、
「私は……お話がありません」
と連れない態度。
面倒臭がって話を聞いてくれなさそうな態度だった。
そういう意味では厄介な相手とも言えるだろう。
フェンディナ・マカフシギは、
「そんな事、言わないでお話をさせてください」
とすがりつく。
フェンディナ・モークェンは、
「私、寝たいんだけど……」
と言う。
フェンディナ・マカフシギは、
「まだ、真っ昼間じゃないですか?」
と言うが、フェンディナ・モークェンは、
「うん。だからお昼寝……」
と返して来た。
その後も漫才の様なやりとりが続いた。
話たがるフェンディナ・マカフシギ。
話を打ち切りたがるフェンディナ・モークェン。
その言葉の攻防はしばらく続き。
このままでもしゃべり続ける事になると思ったフェンディナ・モークェンの方が折れて会話を続ける事になった。
そして、なんとか、説得して、打ち解ける事にもこぎ着ける事が出来た。
フェンディナ・モークェンは、
「もう、良いかしら?」
とちょっと、あきれ顔。
フェンディナ・マカフシギは、
「はい。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
と言って、ぺこりとお辞儀をして、別れた。
フェンディナ・ミステリアとフェンディナ・エラーズとの交渉は向こうにリードされていた。
だが、このフェンディナ・モークェンとの交渉はフェンディナ・マカフシギのリードで会話が進んだような印象だった。
仕事をやりきったような充実感をフェンディナ・マカフシギは感じた。
この調子で残る2名の【別自分】とも交渉していこう――そう思うのだった。
続けて、呼び出したい所だが、また、敵らしき、存在が、フェンディナ・マカフシギを狙って来ている気配がしてきた。
また、場所を移動した方が良さそうだ。
フェンディナ・マカフシギは、自分の特殊能力を駆使して、その場から行方をくらました。
彼女の数々の特殊能力を使えば、その場から突然、居なくなる様に見せかける事はそれほど難しくなかった。
だが、移動した先にもまた、敵らしき存在の気配は感じられた。
また、移動が必要な様だ。
彼女が一人で行動している限り、狙ってくださいと言っている様なものだ。
なかなか、落ち着いて【別自分】と会話出来そうな場所にはたどり着かない。
それだけ、色んな存在がうじゃうじゃ居る宇宙世界と言えた。
彼女は移動を繰り返す。
また、別の場所に移動した。
吟侍達、ソナタ達、そして、フェンディナのそれぞれの旅は続く。
まだ、彼ら彼女らは再会していない。
いつか再会する時は来るのだろうか?
それはまだ、わからない。
続く。
登場キャラクター説明
001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
敵からすると最も厄介な勇者である。
ウェントスでの救出チームに参加する。
【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。
セレークトゥース・ワールドの冒険を生きて帰ってきた。
今回はロスト・ネット・ワールドでの冒険をする事になる。
002 ルフォス
吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。
003 ソナタ・リズム・メロディアス
ウェントス編のヒロインの一人。
吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
吟侍の事が好きだが隠している。
メロディアス王家の第六王女でもある。
王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。
セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
セレークトゥース・ワールドに続き、ロスト・ネット・ワールドへも吟侍のお目付役としてついていく事になる。
吟侍達と喧嘩別れした状態になり、別行動を取っている。
004 フェンディナ・マカフシギ
3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。
セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
自分の力を見つめ直すため、今回はロスト・ネット・ワールドでは別行動に。
今回、自分が【七大ボス】という区分でクアンスティータと同じくくりで見られているという事を知る。
弱い方の5名の1名に数えられている。
005 エカテリーナ・シヌィルコ
風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。
オルオティーナに貰った4つの古き力の一つである【不可能を可能にする力】を会得する。
セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
ロスト・ネット・ワールドでも引き続き吟侍と同行する道を選ぶ。
吟侍達と些細な理由で喧嘩別れしてしまい、別行動を取っている。
006 ステラ・レーター
未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。
セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
ロスト・ネット・ワールドでも吟侍のサポートとしてついて行く事に。
【アコンルーク】に利用され、感情が爆発してしまい、吟侍達と別行動に。
嘘を見抜く力、【読偽術(どくぎじゅつ)】を特訓している。
007 レスティー
吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。
セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
ロスト・ネット・ワールドへも専属医のような立場として吟侍と同行する事に。
008 聖魔妖精エクス/クェス
カミーロが、ロスト・ワールドから現界に戻る時に出会った聖魔妖精のプリンセスであり、幸運をもたらす存在と言われている。
光属性のエクスと闇属性のクェスは交互に存在している。
どうしても吟侍と行動を共にするときかないソナタに幸運をと思って、カミーロの手から吟侍の側にという事になってロスト・ネット・ワールドの冒険に同行する事になった。
クェスの状態では捕まえた相手の能力を一つ封じるという力を持っている。
009 ディアマンテ
未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
ディアマンテはブルー・フューチャーの一員で、16体もの怪物と同化している超戦士でもある。
吟侍の大ファンであり彼のマニア。
ブルー・フューチャー最強でもある彼女はロスト・ネット・ワールドの冒険に同行する事になった。
同化している怪物の一体は万能言語細胞(ばんのうげんごさいぼう)を作り出す事が出来る。
また、相手の力を吸収して、増幅させて跳ね返す事も出来る。
010 赤いフードの男【クトゥーアル】
以前はフェンディナだけだったが、セレークトゥース・ワールドから帰ってきた吟侍達もスカウトしようと訪ねてきた存在。
実力はあるのだが、自信がプロデュースしている十大殿堂の評価は下がっていて対処が取れていない。
吟侍によってロスト・ネット・ワールドに逃げた十大殿堂のメンバーの様子を見に行ってもらう事になる。
吟侍に十大殿堂のメンバーが近づいたら反応する【メンバーメモリースティック】を渡している。
格好は、黒いフードの男の真似をしている。
彼の依頼もあり、吟侍達は十大殿堂と力試しをする予定を入れている。
011 クアースリータ
12番の化獣(ばけもの)。
クアンスティータを恐れる存在が集まって出来たロスト・ネット・ワールドという宇宙世界を持つ。
その最深奥(さいしんおう)には本当の意味で所有している宇宙世界クアースリータ・ワールドがあるとされている。
何でも特別な状態にするという力を持つ。
その力の強大さは、誕生時に、最強の化獣クアンスティータが誕生したと勘違いされる程のもの。
(第一本体)クアンスティータ・セレークトゥースの双子の姉であり兄でもある存在。
性別はおんこというものになる。
生まれたばかりで知識を得るなど、頭の回転は恐ろしく速いが、性格はてきとう。
時空重震(じくうちょうしん)という時空間で起きる地震を引き起こし、重震度(ちょうしんど)はそれまでの記録を大きく上回る9・7を記録する。
これは、震源地に当たる震源流点(しんげんりゅうてん)近くでは存在が存在を維持できず、分解と再生を繰り返す状態になってしまうほど巨大なものになる。
妹であり弟でもあるクアンスティータ・セレークトゥースが誕生したのを素直に喜んだ。
性別はおんこだが、クアンスティータに対し、お姉さんぶっている。
吟侍達をロスト・ネット・ワールドへと送り届けることになる。
012 アコンルーク
ロスト・ネット・ワールドに降り立った吟侍が最初に出会った、謎の女性。
見た目は幼い少女の様だが、中味は吟侍を【坊や】扱いするほど、年を経ている。
感情を操作する力を持っているらしく、ソナタ、ステラ、エカテリーナが心の憶測に持っていた感情を利用して、彼女達を怒らせ、吟侍達から去って行くように仕向けたりなどした。
性格はあまり良いとは言えず、吟侍を虚仮にしたりして好感が持てるような女性では無い。
どうやら、ロスト・ネット・ワールドの事情通らしく、吟侍達に案内を持ちかけるが、その真意のほどはわかっていない。
【宇宙海(うちゅうかい)】のエリアの宝を狙っている。
闇のネットワークを持っている。
013 【シスタール】カステヘルミ
地球で言えば聖職者、指導者、神父、等に当たる存在。
修道女、シスターに近い服装をした髪の長い女性。
神とは違う、高位存在の声を聞くことにより、それを教えとして住民達を洗脳していた。
強力な洗脳術を持っており、その中でも生涯、ただ一度きりという【洗脳の口づけ】を使って吟侍を洗脳してみせた。
これはパーフェクト・プロミス・キスとも呼ばれ、約束を違えると存在が消滅してしまうほど強力なもの。
吟侍達のチームワークで洗脳術を解かれると逃げ出した。
014 超職人【ジェーニヴィライ】
凄腕の超職人の女性で、彼女が作る作品を【イクストーヴァス】と呼んでいる。
その【イクストーヴァス】の中からクアースリータや【黒いフードの男ソルテリアー】と並び立つQOH(クォーターオブハンドレッド)になる者が出てくると言われているが、今だ、その完成品は出て来ていない。
ソナタ達が太鼓判を押すほど優れた作品ばかり作るが、その出来に満足しておらず、失敗作だと思って居る。
彼女には禁句があり、【最高傑作】を作って欲しいと頼むと、制作者魂に火がついて大変な事になる。
QOHレベルになる【イクストーヴァス】の名前はすでに決めていて、【グレーヌレーヌ】という名前が割り当てられる予定。
015 フェンディナ・モークェン
5名存在しているフェンディナ・マカフシギの【別自分】の一名。
同じ、フェンディナを名乗りつつも、フェンディナ・マカフシギの三名の姉、(長女ロ・レリラル・マカフシギ、次女ジェンヌ・マカフシギ、三女ナシェル・マカフシギ)とは血のつながりは無い別のフェンディナ。
フェンディナ・マカフシギにより別の宇宙から呼び出される事になる。
大きな扉を作りだし、そこから対象者をどこかに飛ばしたり、逆にどこかから何かを持ってきたりする事が出来る。
フェンディナ・マカフシギと違い、かなり面倒臭がりな性格をしている。