第005話 ロスト・ネット・ワールド編その2

ウェントス編第005−02話挿絵

01 吟侍達の状況


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)達は多少戸惑っていた。
 彼らは今まで、友人を助けに惑星ウェントスに来ていたが、それからめまぐるしく状況が変わっている。
 まずは、王杯大会エカテリーナ枠という大会に参加する事になったが、その途中で最強の化獣(ばけもの)とされている13番、クアンスティータの第一本体、セレークトゥースの誕生事件が起きた。
 そのまま、彼らはセレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで冒険をする事になった。
 そこは何もかもがそれまで居た現界(げんかい)という宇宙世界とはスケールが違っていた。
 何度も死線を越えて戻って来る時、パワーを落とさねばまともに生活すら出来ないくらいに彼らの力は跳ね上がっていた。
 だが、変わってしまったのは彼らの力だけでは無かった。
 次から次へとクアンスティータの利権を求める存在が吟侍達に近づいてきたのだ。
 だが、戸惑ってばかりも居られない。
 吟侍は【~上立者(しんじょうりっしゃ)】と呼ばれる高位存在からある程度の事情を聞き、一つ一つ解決して行く事を決める。
 吟侍と共にセレークトゥース・ワールドに渡っていたのは、
 ソナタ・リズム・メロディアス第六王女、
 ステラ・レーター、
 フェンディナ・マカフシギ、
 片倉 那遠(かたくら なえ)、
 レスティーの6名だったが、これからは新たに新風ネオ・エスクのブルー・フューチャー出身、ディアマンテも加わりたいという話もあった。
 他にもカミーロ・ペパーズの帰還や、【ウェットファイト】の見学、【ヌァニヲン】ゲット、【30選定委員会】の訪問等々、吟侍達はセレークトゥース・ワールドから帰ってからイベントなどが息つく間もなく次々とあった。
 【30選定委員会】の【ヨスマミ】が帰って落ち着くかと思ったが、まだ落ち着かない状況が続きそうだった。
 ソナタが、
「あ、あんた……」
 とつぶやいた。
 目の前に見覚えがある男が立っていたからだ。
 その男の名前は、赤いフードの男【クトゥーアル】と言う。
 クアンスティータ誕生前にフェンディナをスカウトに来た男でもある。


02 クトゥーアルとの会話


 今ならばわかる。
 この男の実力がとてつもないものだという事が。
 確かに、以前のソナタ達では相手にされないのも無理が無いと言えるほどの実力を秘めていた。
 【クトゥーアル】は、
「僕を覚えていますか、フェンディナ嬢。以前、貴女をスカウトに来た【クトゥーアル】と申します。お気持ち変わって居ませんか?僕がプロデュースする十大殿堂(じゅうだいでんどう)に入っていただけると大変ありがたいのですが」
 と言った。
 十大殿堂――それはクアンスティータが誕生する事で、クアンスティータ以外は勝てないとされる圧倒的な存在である総全殿堂(そうぜんでんどう)を真似て、作った殿堂制度だった。
 総全殿堂はbP(クアンスティータ関係)からbQ4までとされ、その次に当たる存在が次点座位(じてんざい)に該当する存在達になる。
 次点座位はレベル10を頂点として0を通ってレベルマイナス10までの21段階(レベル10〜0〜−10までです)存在し、その頂点であるレベル10はクアースリータを含む4名のQOH(クォーターオブハンドレッド)であるとされている。
 (総全殿堂と次点座位には大きな隔たりがあるとされ、場合によってはレベル11以降の存在も出てくる可能性があるとされてもいる)
 【クトゥーアル】がプロデュースしているのはスカウト出来たレベル9の次点座位の内、10名を頂点とする殿堂制度で、各殿堂毎に1位から100位まであり、十大殿堂入りを果たしているのは合計1000名という事になっている。
 十大殿堂としての評価はその上に総全殿堂やQOHも居るし、レベル9の次点座位も他に24名、参加していない存在が居るというので、【紛い物の殿堂制度】と揶揄(やゆ)されている。
 脱会者も少なからず出ている事から【クトゥーアル】はこの状況を打破し、十大殿堂制度を権威のある殿堂制度にしていきたいと考えているのだ。
 そのためにフェンディナを誘っていたのだが、今は少し違う。
 フェンディナだけでなく、吟侍やエカテリーナ、ステラやソナタ、那遠やレスティーもこの候補にあがったのだ。
 それだけ、セレークトゥース・ワールドに行って帰って来たという事は特別だったのだ。
 ソナタなどまるで相手にされていなかったのに手のひらを返したように、十大殿堂入りを進めてきた。
 ソナタは、
「返事はもちろんノーよ。フェンディナ、あんたからも言ってやんなさい」
 と言った。
 その言葉に促されるようにフェンディナは、
「すみませんが、そのような所に入るつもりは……」
 と申し訳なさそうに断った。
 エカテリーナは、
「なんじゃ、嫌なら嫌とはっきりせい。そなたのそういうところがダメなんじゃ」
 と言い、フェンディナは、
「ご、ごめんなさい……私……」
 と何故か謝った。
 気の弱いフェンディナは高圧的に来られるとどうしても腰が引けてしまうのだ。
 吟侍は、
「なあ、【クトゥーアル】さんって言ったか、新メンバーを集めるよりも、今居るメンバーってのをなんとかした方が良いんじゃねぇか?あんた、ばった物とか言われるのが嫌なんだろ?だったら、今居るメンバーでそいつらを見返してやった方が良いんじゃねぇか?新メンバーを集めるのはそれからだと思うけど?どうなんだい、そこんとこ?」
 と言った。
 【クトゥーアル】は、
「そう言われましてもねぇ、十大殿堂は【30選定委員会】によって紛い物認定がされてしまっていますし我々がどうにかしようとしても……」
 と消極的な姿勢だ。
 既存のメンバーではどうにもならないと言って諦めムードだった。
 十大殿堂のほとんどのメンバーはクアンスティータの誕生時、クアースリータの所有する宇宙世界、ロスト・ネット・ワールドに逃げてしまい、その負のイメージが強いのだと言う。
 吟侍は、
「ロスト・ネット・ワールドか……クアースリータの……」
 と少々考える。
 そして、
「なぁ、あんた、良かったら、その十大殿堂のメンバーのリストってやつを見せてくんねぇか?おいら、ちょっくら、ロスト・ネット・ワールドに行って、そのメンバーが本当に駄目な奴らかどうか確かめて来ても良いぞ」
 と言った。
 【クトゥーアル】は、
「何故、貴方が?」
 と聞いた。
 当然である。
 ただスカウトに来ただけの【クトゥーアル】のためにそこまでしてやる義理など全くないのだから。
 何か他に理由があると思うのは当然である。
 吟侍は、
「もちろん、そいつは、おいらの本当の目的のためのついでだ。本当の目的は他にある」
 と言った。
 吟侍の本当の目的――それはセレークトゥース・ワールドに行った時と同じだ。
 セレークトゥース・ワールドに行った目的がクアンスティータを理解しようとしたのに対して、ロスト・ネット・ワールドに行く目的はクアースリータを理解するためだ。
 吟侍はクアンスティータを導きたいと思っているが、クアンスティータだけではダメだと考えて居る。
 クアンスティータの双子の姉であり兄でもあるクアースリータの存在も外せない。
 クアースリータはクアンスティータの精神的支柱になるかも知れない――そう考えている。
 だったら、クアンスティータにだけ関わっているべきではない。
 クアースリータの事もしっかり理解しなくてはならないと考えている。
 吟侍は琴太(きんた)という義兄と導造(どうぞう)という義弟がいる。
 行方不明になっているが、涼至(すずし)と徹吾(てつご)という年上の義弟も居る。
 家族の――兄弟を大切に思うという気持ちは理解しているつもりだった。
 だから、クアンスティータだけでなく、クアースリータも一緒に導こう――そう考えていた。
 第一本体のセレークトゥースが誕生した時、クアースリータはほったらかしの状態になってしまった。
 それは良く無いと思っている。
 セレークトゥースが繭蛹卵(けんようらん)になって眠っている今こそ、クアースリータをかまうべきだと吟侍は判断していた。
 それだと、クアンスティータのオマケだと思われてしまうかも知れないが、クアースリータにも変わらぬ愛情を示したいと思っていた。
 だからこそ、セレークトゥース・ワールドに行ったのならば、次はロスト・ネット・ワールドに――そう決めていたのだ。
 【クトゥーアル】のプロデュースした十大殿堂のメンバーがロスト・ネット・ワールドに行ったのであれば一石二鳥だ。
 だから、【クトゥーアル】に話を持ちかけたのだ。
 【クトゥーアル】は、
「芦柄 吟侍さん、あなたを信用しろと?」
 と言ってきた。
 吟侍は、
「なんだ、お前さん、おいらの事を信用してないのにスカウトに来たのか?」
 と返した。
 【クトゥーアル】は、
「ですが、すぐに情報を開示する事は……」
 と、なにやらもごもご言っているので、
「はっきりしねぇな。おいらは別にやんなくてもいいんだぜ。さっきも言ったようにあんたの事はついでだ。ロスト・ネット・ワールドに行くからついでにどういうつもりで十大殿堂とやらのメンバーが行ったのか確かめてくるのに協力しても良い――ただ、それだけの話だ。せっかく、ロスト・ネット・ワールドに行くんだから目的があった方が良いと思ったから言ったんだが、嫌なら別に良いぜ。おいらは降りる」
 と言った。
 【クトゥーアル】は、
「ちょ、ちょっと待ってください。――あなた方は十大殿堂に入るつもりはないのですよね?」
 と聞いた。
「あぁ、全くねぇ」
「だから、既存のメンバーでイメージを払拭しろと、そうおっしゃるんですよね?」
「そうだ。新メンバーをいくら入れても今居るメンバーのイメージが最悪なら、それに引っ張られて新メンバーも悪いイメージがつくだろうぜ。そうなったら、また脱退騒ぎとかになるんじゃねぇか?今居るメンバーをクビにしねぇんだったら、今居るメンバーのイメージを底上げするしかねぇんじゃねーの?」
「た、確かに……そうですね」
「根性鍛え治すためにバトルして来いってんならやっても良いと思ってるんだけどな。おいら達の事を高く評価しているんだってんなら、おいら達とそこそこやり合えたらイメージだってアップするんじゃねぇの?」
「い、言われて見れば……」
 と思案する【クトゥーアル】。
 吟侍の見立てでは、この【クトゥーアル】という男――実力としては結構、あるのだが、プロデュース能力の方はてんで話にならないレベルと言わざるを得ないと思っている。
 このまま放っておいても良いのだが、このままでは【クトゥーアル】はプロデュースの力を問われ、辞任する事にもなりかねない。
 【答えの力】でその行く先が見えてしまっているだけあり、吟侍としては放っておく事は出来なかった。
 スカウトのためとは言え、わざわざ吟侍達を訪ねてきてくれているのだ。
 見捨てるのは粋じゃないなと思うのだった。
 何にしても煮え切らない態度なのでハッパをかける意味でも【別にやらなくても良い】という言葉を口にしているが、吟侍はやる気、満々だった。
 ロスト・ネット・ワールドでの目的が欲しいというのも理由の一つだ。
 セレークトゥース・ワールドではショップエリアやヒストリーエリアなど、目的に沿った場所がある程度、確立されていたため、目的に沿って、それらのエリアに足を運べば良かった。
 だが、ロスト・ネット・ワールドは寄せ集めの宇宙世界だ。
 ロスト・ネット・ワールドの最深奥(さいしんおう)にはクアースリータの所有する本当の宇宙世界、クアースリータ・ワールドがあると言われているが、これからいく予定の冒険でそこまでたどり着くかどうかはかなり怪しい。
 他の明確な目的も無く、訪れても立ち往生する事になりかねないと思っていたのだ。
 少々、優柔不断気味の【クトゥーアル】は渋々、十大殿堂のメンバーと出会ったら反応する【メンバーメモリースティック】を渡した。
 これで、ロスト・ネット・ワールドでの目標が一つ出来た事になる。
 吟侍は、
「まぁ、泥船にでも乗ったつもりになってだな」
 と地球の日本の言葉を引用して良いことを言ったつもりになったが、那遠が、
「吟侍さん、それ、泥船じゃなくて、大船です」
 と突っ込まれた。
 狸好きの吟侍らしい勘違いだった。
 ソナタが、
「バカね、泥船だと沈むでしょうが」
 と更に突っ込む。
 吟侍は、
「そ、そうだったか?」
 と言って頭をかいた。
 格好つけるつもりが赤っ恥をかいてしまった。


03 黒いフードの男ソルテリアーとスター吸収姫フロリゼル・チェルニー


 多少、おかしな事にもなったがこれで吟侍のロスト・ネット・ワールド行きが決まった。
 後はクアースリータを探してロスト・ネット・ワールドへと行きたい所だが、その前にメンバー集めだ。
 恐らく、エカテリーナは【ヌァニヲン】の一件で、同行すると言うだろうし、ステラやディアマンテもネオ・エスクの意向もあってついてくるというだろう。
 後はその他のメンバーをどうするかだ。
 ソナタにはアナスタシアによって見つけてもらった友達をセカンド・アースに連れて帰って欲しいとお願いしたのだが、彼女はその役目は彼女の三銃士、ロックとニネットとカミーロに任せて、自分は吟侍について行くと言って聞かなかった。
 まだ、建前上となっている吟侍に悪い虫がつかないように彼女であるカノンの代わりに監視するという事らしい。
 三銃士は反対したが、どうしても行くと聞かないので、カミーロは、
「では、せめて、この聖魔妖精も同行させてください。旅の幸運を祈る意味でも」
 と言った。
 結局、ソナタと聖魔妖精エクス/クェスもついて行くという事で押し切ってしまった。
 レスティーも吟侍の専属医のような立場なので、ついて行くと言った。
 那遠は自分の本職は地球屋(ちきゅうや)なので、地球の商品を仕入れて来なくてはならないと言って、一旦、パーティーから離れる事を選択した。
 吟侍としては彼女の商品はお気に入りなので、居なくなるのは寂しいとは思ったのだが、吟侍もただ遊びに行く訳では無い。
 基本的には普通の人間である那遠に無茶は強要出来ない。
 意外だったのはフェンディナだった。
 彼女は自分もついて行くと言うか、怖いから参加しないというかのどちらかだと思っていたが、第三の答えを用意してきた。
 それは、彼女もロスト・ネット・ワールドには行くが別行動を取るという事だった。
 気になる事があるので、別行動したいと言ってきたのだ。
 消極的だった彼女からは予想がつかない答えだった。
 彼女も成長しているという事なのだろうか。
 理由はわからないが、吟侍達と行動を共にしていたら不都合な点があるから別行動をすると言ったのだろう。
 ロスト・ネット・ワールドと言っても広いので、必ずしも全員が同じ目的だとは限らない。
 フェンディナの方で別の目的があるというのであればそれを優先させるべきだろう。
 反対する理由は吟侍にはない。
 となると、現時点でロスト・ネット・ワールドに吟侍と同行する予定なのは、
 ソナタ・リズム・メロディアス第六王女、
 ステラ・レーター、
 エカテリーナ・シヌィルコ、
 レスティー、
 ディアマンテ、
 聖魔妖精エクス/クェスの6名という事になる。
 またしても吟侍以外は全員女性という組み合わせになる。
 ここは一つ、陸 海空の回復を信じて彼にも同行してもらおうと思う吟侍だったが、やはり、クアンスティータが誕生してからそれほど時間が経っていないという状況もあり、海空の様態はとても同行出来るような精神状況ではなかった。
 まずい――このままでは、また女子トークイベントなどがあったとき、居心地の悪い思いをするかも知れないと吟侍は思った。
 なんとか同性の同行者をとは思うのだが、近くにめぼしい男性はいなかった。
 渋々、このメンバーでのロスト・ネット・ワールド入りを決めるのだった。

 吟侍達は、挨拶もそこそこにクアースリータの場所を感知して、そこに向かった。
 どうやって、クアースリータを説得してロスト・ネット・ワールドに入るか?
 そんな事を思案しながら向かっていると向かった先の宇宙空間にはクアースリータの他に二つの影があった。
 その内の一つは、クアースリータと同じくらいの威圧感を感じた。
 クアースリータは、
「おじちゃん、面白いねぇ〜、りーたちゃんと同じくらい力があるみたいだよ」
 と言った。
 その該当する影ではない方の影が、
「そりゃ、ダーリンも同じQOHだもん。あなたにだって負けないんだから」
 と言っていた。
 その光景を見ていた吟侍達は緊張に包まれる。
 おかしい――この光景はおかしい。
 吟侍達は目の前の光景に強い違和感を感じる。
 クアースリータだぞ――クアンスティータの姉であり兄である――
 なのに取り巻きが一名も居ないというのはどういう事だ?
 少なくとも直属の配下くらいは居てもおかしくないのに、敵対しているかも知れない存在2名を前にしてクアースリータただ1名だけとは……
 全員やられたというのか?
 だが、争ったようには全く感じなかった。
 吟侍は【答えの力】で名前などを探ろうとした。
 だが――
 吟侍は目の前に居るクアースリータ以外の2名について探ろうとしているが、吟侍の中の答えは見当違いな場所にいる二名を勝手に探っている。
 明らかに別の存在だ。
 何が起きているんだ?
 吟侍は違和感に包まれる。
 すると、二名の内、男性の方が口を開く。
「――無駄だ。俺の力が働いている――名前を知りたければ教えてやる。俺には名などない――」
 と言った。
 名前が無い?
 すると名無しだというのか?
 だが、二名の内、女性が口を開く。
「それだと不便だから、ダーリンは便宜上、【ソルテリアー】って呼ばれているわ。私は【フロリゼル・チェルニー】、ダーリンの押しかけ女房よ」
 と。
 【ソルテリアー】は、
「俺は認めていない」
 と言った。
 【フロリゼル】は、
「そんな冷たいダーリンが大好きよ」
 と言って、【ソルテリアー】の腕に絡みついた。
 見た所、【ソルテリアー】に完全に惚れ込んでいる【フロリゼル】が彼につきまとっているようだ。
 【ソルテリアー】――どこかで聞いた事のある名前だ――
 そうだ、赤いフードの男、【クトゥーアル】だ。
 【クトゥーアル】は黒いフードの男、つまり、この【ソルテリアー】の真似をしているのだ。
 つまり、【クトゥーアル】よりも数段上の存在という事になる。
 QOH――クォーター・オブ・ハンドレッド――クアースリータがそれに値するとされる呼び名だ。
 当然、クアースリータが誕生する前から他のQOHは居るとされていたが、まさか、目の前の男が?
 という事は【フロリゼル】はともかく、クアースリータだけでなく、この【ソルテリアー】にも今の吟侍達では束になってかかっても勝てない存在だという事だ。
 クアースリータの方は遊んでいるという感覚があるので、僅かながらに優しさというイメージもあるが、目の前の男からは圧倒的な威圧感しか感じなかった。
 今の【答えの力】では全く通用しないので、吟侍はこの男について探る事が出来ない。
 こんなことなら【クトゥーアル】にもう少し詳しく聞いておくんだったと後悔するが、この男の奇妙な力によって、【答えの力】の予想外の状況にある今は何も出来ない。
 恐らく、クアースリータの取り巻きがいないのもこの男の力なのだろう。
 全く得体の知れない力を持つ男――吟侍は強い戦慄を覚えた。
 何しに来たんだ、この男は……?
 疑問を浮かべるが答えが見つからない。
 そう思って居ると、吟侍の気持ちを察したのか、【ソルテリアー】は、
「別に……ただ、俺と互角のガキが居ると聞いて見に来ただけだ。他の奴らは邪魔だから俺の都合に合わせただけだ」
 と言った。
 【都合に合わせる】――【ソルテリアー】はそう言った。
 その言葉が真実なら、状況を自分に都合が良いように変更する力を持っているという事だろうか?
 もしも、そうなら恐ろしい力だと言える。
 対戦者は常に不利な状況に追い込まれるという事を意味しているからだ。
 目を合わせるが思わず背けてしまいそうになるくらいの背筋の凍る様な恐怖心が彼を襲う。
 まさか、セレークトゥース・ワールドから戻ってまでこの気持ちを味わうとは思わなかった。
 だが、強いが吟侍があった存在の中ではクアンスティータ関係は別にしても~上立者(しんじょうりっしゃ)よりは弱い。
 だからこそ、耐えられた。
 ~上立者は敵意を持って居なかったため、恐怖心は無かったが、敵意を向けられていたらこの【ソルテリアー】以上の恐怖を感じていただろう。
 それを思えば、【ソルテリアー】に対するすくみ上がるような恐怖心にも耐える事が出来た。
 この恐怖心はせっかくセレークトゥース・ワールドで身につけた力を制御して帰ってきたという喪失感も影響していた。
 目の前の【ソルテリアー】の力に対して、落としきった吟侍達の力は余りにも弱々しかったからだ。
 セレークトゥース・ワールドで手に入れた力をそのまま持ち帰っていれば、この【ソルテリアー】やクアースリータにさえもひけは取らなかっただろう。
 ただし、現界が耐えられないという状況に陥るのではあるが。
 クアンスティータの誕生以来、現界にはほとんどの強者が逃げてしまって不在になっていると思っていたが、それでもなお、残って居る強者というのは居るのだと思った。
 どうやら【ソルテリアー】達は帰るつもりらしく、よくわからない力を解いて見せた。
 それならばと、【答えの力】で探りを入れるが結局、【ソルテリアー】の事はわからなかった。
 その代わり、彼と一緒に居た【フロリゼル】の事はわかった。
 【フロリゼル・チェルニー】――惑星ファーブラ・フィクタで行われているという者喰い王頂上戦(ものぐいおうちょうじょうせん)という大会の優勝者、女王と呼ばれていた存在で、アイドル吸収姫(きゅうしゅうき)と呼ばれている存在だった。
 長い間ランク4位に居てなかなかトップ3に入れなかったが、最近になって、ようやく優勝し、女王の座についたらしい。
 負けて泣いている事が多かったので、【泣き虫姫】と呼ばれていたらしいが、優勝して自信がついたのかキャラチェンジをしたらしい。
 だが、ある時、【ソルテリアー】と出会い、一目惚れした彼女は彼を追って者喰い王頂上戦を引退したらしい。
 元々は、大したレベルの存在では無かったようだが、【吸収姫】とは吟侍達が参加した王杯大会エカテリーナ枠に出場していた吸収者(きゅうしゅうしゃ)マンジェ・ボワール族の様に何かを吸収する事に特化した存在であり、同行している【ソルテリアー】のパワーを相当、吸って、彼女自身の力も極端に上がっている。
 吸収し続けても吸収仕切れないほど、【ソルテリアー】の力は膨大なようだが。
 わかった事はそんな彼女のプロフィールくらいだった。
 【ソルテリアー】については全くと言って良いほど読めなかった。
 彼女の事は少しわかったが、【フロリゼル】はもちろん【ソルテリアー】にも吟侍達は用は無い。
 帰ってくれるというのであれば、それは歓迎するべき事だった。
 吟侍達にとってはまだ、【ソルテリアー】のなんだかわからない力がくすぶっている今の方が都合が良かった。
 それは、クアースリータの取り巻きがまだ姿を現さないからだ。
 吟侍はクアースリータとの交渉で取り巻き達は邪魔だと考えていた。
 クアースリータに良からぬ事を吹き込んで吟侍達と敵対させれば、一気に大ピンチとなる。
 それよりは、遊び相手を探したいと思っている状態のクアースリータと直接話をして、なんとか、ロスト・ネット・ワールドの冒険を通じて、もう少し、クアースリータと親しくなれないかと考えていた。


04 ロスト・ネット・ワールドへ


 余計な邪魔者がいない内にとばかりに吟侍は早速、残って居たクアースリータに声をかけた。
 吟侍は、
「よ、クアースリータ。久しぶり……って言っても現界で言えばちょっとぶりって事になんのか、元気だったか?」
 と。
 クアースリータは、プイッとそっぽを向き、
「ふぅーんだ。りーたちゃんって呼んでくれるまで話してあげないんだもんねー」
 と言った。
 吟侍は、
「ごめんごめん、じゃあ、りーたちゃん、元気してたか?」
 と改めて声をかける。
 すると、クアースリータは機嫌を取り戻し、
「うん、元気だったよ吟侍パパ。くーちゃんとばっかり遊ぼうとするから、りーたちゃん、ちょっとむっと来てたんだよ〜」
 と言った。
 【くーちゃん】とはクアンスティータの事だろう。
 やはり、クアンスティータの事ばかりかまっていたから少しむくれているのだろう。
 吟侍は、
「そいつは悪いことしたな〜ごめんな、りーたちゃん。だからさ、今度はりーたちゃんと遊ぼうと思ってさ、りーたちゃんの宇宙世界ってやつで冒険とかしてみようと思っているんだけどさ、ダメかな?」
 と聞いた。
 クアースリータは、
「ううん。ダメじゃ無いよ。良いよ、りーたちゃんのうちゅーせかいに招待してあげても」
 とにっこり笑いながら答えた。
 吟侍は、
「ホントか?うれしいな〜じゃあさ、何かりーたちゃんにお土産持ってこようと思うんだけどさ、リクエストとかあるかな?」
 と聞いて見た。
 狙いは、クアースリータの許可があれば、アイテムなどをロスト・ネット・ワールドから持って来易いという事での提案だ。
 お土産ついでに何か吟侍達も持ってきて良いかどうか聞いて見ようと思ったのだ。
 そんな吟侍の思惑に全く気づかない純真無垢なクアースリータは、
「何でも良いよ。吟侍パパが選んだものなら」
 と言った。
 それは都合が良いという事でもあるが、逆に難しいとも言える。
 クアースリータへのお土産は吟侍のセンスを問われるからだ。
 ろくでもないお土産を持って帰って日には、仲良くなるどころか反感を買い兼ねない。
 吟侍は、
「何でも、良いか〜困ったなぁ、りーたちゃん、何か好きな物とかってあるのか?」
 と聞いたが、同時に遠方に反応があった。
 どうやら、【ソルテリアー】のなんだかわからない力が大分薄まり、クアースリータの取り巻きがクアースリータの元に警戒しながら向かっているようだ。
 だとすれば、時間が無い。
 早々に、クアースリータによってロスト・ネット・ワールドに飛ばしてもらわないと邪魔されるという事も考えられる。
 吟侍の反応を見て、クアースリータは、
「どうしたの〜?」
 と聞いてきた。
 吟侍は、
「悪いな、じゃあ、善は急げだ。早速、おいら達をロスト・ネット・ワールドに飛ばしてくんねぇかな?あぁ、この子、フェンディナっていうんだけど、前に遊んだろ?この子だけは別ルートでって事で、よろしくな」
 と言った。
 クアースリータは、
「うん、わかった。じゃあ、お土産いっぱい持ってきてね〜」
 と喜んだ。
 吟侍は、敬礼のポーズを取り、
「了解。任せておけ、んじゃな」
 と言った。
 吟侍以外クアースリータと話さなかったのは、ある程度、なついていると思える吟侍以外の者が話すと機嫌を損ねるかも知れないと思ってみんな黙っていた。
 それが功を奏したのか、最短でロスト・ネット・ワールドに向かう事が出来た。
 タッチの差で、クアースリータ12傑(けつ)やクアースリータ真従臣(しんじゅうしん)21、クアースリータ・マネージャーズなどの数多くの取り巻きがクアースリータを取り囲んだ。
 クアースリータ・マネージャーズの1名、【レーフェース・クアースリータ】は、
「大事ありませんか、クアースリータ様?」
 と聞いてきたが、クアースリータは、
「うん。何でも無いよ」
 と答えた。
 その表情はいたずらっ子が何か秘密を見つけて黙っている時の様な感じだ。
 同じく、クアースリータ・マネージャーズの【クルニークス・クアースリータ】は、
「申し訳ございません。何故か、クアースリータ様とはぐれてしまい……」
 と申し訳なさそうに言ったが、クアースリータは、
「ううん、良いよ。楽しかったし〜」
 と新しいオモチャでも見つけたような感じでウキウキしながら答えた。
 取り巻き達は、まさか、クアースリータが吟侍達をロスト・ネット・ワールドに招き入れたとは夢にも思っていない。
 クアースリータは、
「お土産、楽しみだなぁ〜」
 とつぶやいた。
 取り巻き達は、
「?」
 と思いながらもそれを問いただす事は無礼に当たるとしてしなかった。
 このことが吉と出るか凶と出るかは吟侍達の行動しだいという所だろう。
 何にしても、吟侍達はうまく、クアースリータの配下の目を盗み、ロスト・ネット・ワールドに侵入する事が出来た。
 ロック達や那遠などの留守番組達は一回戻って来ると思ったので、まさか、そのまま、ロスト・ネット・ワールドに突入しているとは思っていなかった。
 突然にして、いきなり、ロスト・ネット・ワールドでの冒険が始まる事になった。
 だが、このタイミングを逃せば、その後、いつロスト・ネット・ワールドに行けるかわからなかった。
 絶対に外せなかったタイミングと言えたのだ。


05 ピリピリ――モヤモヤ


 吟侍達は、ロスト・ネット・ワールドのどこかに降り立った。
 吟侍の側には――
 ソナタ・リズム・メロディアス第六王女、
 ステラ・レーター、
 エカテリーナ・シヌィルコ、
 レスティー、
 ディアマンテ、
 聖魔妖精エクス/クェスの6名が居る。
 予定通りだ。
 吟侍の指定通り、フェンディナだけは、ロスト・ネット・ワールド内のどこか別の場所に運ばれたと思って間違いなさそうだ。
 さて、これからどうするかだ。
 とりあえず、目的らしいのは3つある。
 一つは、赤いフードの男、【クトゥーアル】のために、ロスト・ネット・ワールドにひっこんだ、十大殿堂のメンバー達と接触して、腕試しなりなんなりをする事。
 二つ目は、もし可能ならば、ロスト・ネット・ワールドの最深奥にあるクアースリータ・ワールド内に入って見てくる事。
 三つ目は、クアースリータに何かお土産を持って帰るという事だ。
 二つ目については、難しいとは思うが、一つ目と三つ目については、最低限、やって来なくてはならないだろう。
 今の所、十大殿堂のメンバーが近づいたら反応する【メンバーメモリースティック】に変化は無い。
 近くには居ないという事だろう。
 来て早々、クアースリータへのお土産を選ぶというのもあり得ない。
 それは帰る前にするべき事だろう。
 お土産を運びながらの冒険など邪魔になるだけだからだ。
 ――となると、何か他の目的を見つけた方が良さそうだった。
 三つの目的以外、何もしないというのも来た意味が無い。
 何か、ロスト・ネット・ワールド特有のものを見つけて体験してくるか手に入れるというのもやっておくべき事だろう。
 吟侍は、
「さて、どうするかだ……」
 とつぶやいた。
 独り言だったのだが、それにソナタが反応する。
「どうすんのよ吟侍?」
 と。
 吟侍は、
「どうすると言われても、ここがどんなとこかわかんねぇし、とりあえずは探索かな?それから、最初の目的かなんかを決めよう」
 と答えた。
 エカテリーナは、
「うむ。異論はない」
 と言い、他の女性陣も頷いた。
 ソナタ、ステラ、エカテリーナ、レスティーはお馴染みのメンバーだが、ディアマンテと聖魔妖精エクス/クェスの同行は初めてだ。
 この新パーティーに慣れる意味でも共通して何かのイベントをこなした方が良いだろう。
 では何をするかだ……。
 カフェでお茶でも――となると、また、吟侍の苦手な女子トーク合戦が始まってしまうかも知れないし、見た所、地上には降り立っているが、カフェらしきものは見当たらない。
 仮に見つけたとしても、吟侍達の持って居る通貨が使えるとは思えない。
 ここは現界とは別の宇宙世界なのだから。
 住民達の話を聞いて見るという事も考えたが、言葉が通じるかどうかもわからない。
 吟侍達の共通言語が通じるとは限らないのだ。
 少し考えていると、ディアマンテが、
「吟侍様、吟侍様……」
 と言って袖を引っ張ってきた。
 吟侍は、
「ん?何だ、ディアマンテ?」
 と聞くと、彼女は、
「なんだかデートみたいですねぇ〜」
 と言ってきた。
 吟侍は、
「で、デェトォ〜?」
 と素っ頓狂な声を上げた。
 冒険に出ているつもりにはなっているが、デートのつもりは全く無かったからだ。
 見当外れな言葉に思わず疑問符が頭に浮かぶ。
 そして、その言葉に反応する女性陣達。
 ソナタは、
「ちょっと、あんた、何、言ってんのよ。デートの訳ないでしょう、デートの訳が」
 と言い、ステラは、
「絶対にデートじゃない。少なくとも貴女とじゃないわね」
 と言い、エカテリーナは、
「そうじゃ。何を申しておるのじゃこやつは」
 と言い、レスティーは、
「――また、始まった……」
 と呆れた。
 レスティーはセレークトゥース・ワールドの冒険を通して、吟侍の事でムキになる女性陣の反応を見てきたのだ。
 メンバーは多少、入れ替わったが、同じような状況になったと思ったのだ。
 今回からは新たに、ディアマンテが加わる事になったのだ。
 ディアマンテは、
「吟侍様と一緒ならどこでもデートですよぉ〜」
 と脳天気な答えを返した。
 生粋の吟侍オタクである彼女にとって吟侍と一緒だという事は天にも昇る気持ちなのだ。
 憧れていた存在と一緒に行動出来るという事が素直にうれしいのだ。
 だが、その事は、この女性陣達の中では起爆剤でしかない。
 どことなくピリピリした雰囲気を感じとり、吟侍は、
「ははっ、ははは……」
 と愛想笑いを浮かべた。
 これだから、女の子達の多いパーティーは避けたかったんだと思ったのだった。
 彼の気持ちとしては恋人であるカノン一筋なのだが、ここに来ている女性陣の多くは、隙あらばという気持ちの者が多い。
 乙女心に疎い吟侍にとっては、何故、女性陣達はピリピリしているのかがいまいちよくわかって居なかった。
 原因がわかっていないからこそ、彼にとっては苦手な雰囲気と言えた。
 セレークトゥース・ワールドの冒険を通して、ちょっとは連帯感のようなものが芽生えたのかと思って居たが、そうそう、彼の都合通りに事は運んでくれそうも無かった。
 吟侍は思う――
 早々に、この関係を整理しないとまた、予想外の所でもめられても事だと。
 吟侍は、
「ま、まぁ、良いじゃねぇか、みんなでデートって事で。別に誰と誰が付き合っているって訳じゃあるめぇし。グループ交際って事でさ」
 と仲を取り持ったつもりになって発言したが、
 ソナタ、ステラ、エカテリーナの三名はギロっという目つきで彼を見た。
 どうやらお気に召さないらしい。
 吟侍は、
「お、おいらにど、どうしろと?」
 と聞いたが、その疑問に答えてくれる者は居なかった。
 エクスが、
「なぁに、あんた、鈍いわねぇ〜」
 と言った。
 どうやら、状況を察したようだ。
 吟侍は、
「何だ、エクス、お前さん、これがどういう状況かわかるってのか?」
 と聞いた。
 エクスは、
「わかるわよ。私だって女だもん。それにしても罪作りな男ねぇ、あんた。はっきりしなさいよ」
 と言った。
 吟侍は、
「?何だ?どういう事だ」
 と聞いたら、エクスは、
「――まぁ良いわ。もう少し、大人になんなさいって事よ。子供のままじゃ、痛い目見るわよ」
 と答えた。
 吟侍は、
「なんだ、お前さんもよくわかんねぇ奴だな……」
 と言ったが、エクスは、
「わかんないのはあんたのおつむが小学生以下だって事よ。バカなの?」
 と答えた。
 吟侍は、
「………まぁ、良いか、よくわかんねぇし、――それより、これからの事を決めねぇとな……」
 と話題を切り替える事にした。
 エクスは、
「ダメだこりゃ……」
 と呆れた。
 そういう意味ではレスティーと気が合うかも知れなかった。
 女の子が三人寄れば姦(かしま)しいという言葉もある。
 増して、その倍の六名揃っているのだ。
 何かしらあるのは仕方が無い事ではある。
 吟侍は完全に気持ちを他に持って行った。
 女性陣達のモヤモヤとした気持ちは置き去りになった感じだ。
 吟侍は唐変木(とうへんぼく)な所もある。
 女心を理解するには女性経験が不足していたのだ。
 吟侍の中では、一緒に何かをやったら、仲良くなる――そんな感じで捉えていた。
 果たしてどうなる事やら。


06 嫌な女


 吟侍は何となくムスッとしているソナタ、ステラ、エカテリーナよりも比較的冷静なレスティーやディアマンテに話しかけてどうするか相談した。
 すると、ディアマンテは同化している怪物の一つに万能言語細胞(ばんのうげんごさいぼう)を持って居るのが居て、彼女から生成したものを食べれば、ある程度、コミュニケーションが取れるかも知れないとの事だった。
 早速、吟侍の役に立ち、ディアマンテは、
「うれしいですぅ〜」
 と喜び、彼に抱きついて感謝の気持ちを示した。
 それが、ソナタ、ステラ、エカテリーナの感情を逆立てる。
 ソナタは、
「ちょっと、あんた、何やってんのよ」
 と言ったが、ディアマンテは、
「何って感謝の印ですよ」
 と答える。
 ステラは、
「正式に、ブルー・フューチャーに抗議するわよ」
 と言った。
 彼女はグリーン・フューチャーのメンバーとして、ブルー・フューチャーのメンバーであるディアマンテとは同盟関係にあるが、これは看過(かんか)出来なかった。
 自分達は吟侍にキスを迫った事もあるのだが、それは棚に上げてしまっている。
 ディアマンテは、
「なんで怒ってるの?なんだか怖いよ〜」
 と言ったが、その言葉が彼女達の気持ちを更に逆立てる。
 エカテリーナは、
「そこへなおれ。妾が根性をたたき直してくれる」
 と言った。
 吟侍は、
「まぁ、待てよ、ディアマンテは感謝の印って言ってんじゃねぇか」
 とディアマンテをかばう。
 ソナタは、
「なんで、その子の味方をするのよ〜」
 と言い、ステラも、
「そうよ、なんでよ?」
 と言った。
 吟侍は、
「なんでって、ディアマンテ一人に寄ってたかってって状況だからだよ。かわいそうじゃねぇか」
 と言った。
 ソナタは、
「わかった。じゃあ、あんたはその子と二人っきりになっていれば良いでしょ。私達とは別行動ね、はい、決まり」
 と言って、ステラも、
「そうね、そうしましょう」
 と言って、ついて行き、エカテリーナも、
「しばらく反省しろ」
 と言って、同行していった。
 吟侍は、
「お、おいおい、お前さん達、何やってんだよ〜」
 と言って引き留めようとしたが、手をふりほどいて早々にどこかに行ってしまった。
 後に残されたのは吟侍、レスティー、ディアマンテ、エクスだ。
 ぽかんとしていると、
「ぷっ……チョロいわね。ちょっと気持ちを高揚させてやったらすぐに仲間割れ。バカみたい……」
 という声が聞こえてきた。
 吟侍は、
「何者だ、お前?あいつらに何をした?」
 と怒りの表情を浮かべる。
 その視線の先には女の子が一人高いところに座っていた。
 女の子は、
「私はロスト・ネット・ワールドの案内人、そうね、カノンとでも名乗っておこうかしら?」
 と言った。
 吟侍は、
「何だと……?」
 と更に怒りの表情を浮かべる。
 虚仮(こけ)にされているのがわかったからだ。
 女の子は、
「冗談よ、冗談、ちょっとからかっただけじゃない。私の名前は、【アコンルーク】、よろしくね、坊や達」
 と言った。
 どうやら、見た目は幼いが、どうやら思っていた以上に年を重ねている者のようだ。
 そして、ソナタ達三名の気持ちを操った事と言い、ただ者ではなさそうだ。
 吟侍は、
「おいら達に何の用だ?」
 と聞いた。
 【アコンルーク】は、
「あら、ご挨拶ね。お上りさんなあなたたちの案内をしてあげようっていうのに」
 と言ってきた。
 吟侍は、
「誰も頼んでねぇよ」
 と突っぱねようとするが、
「あら?良いの、私の案内無しに行動してもどうなっても知らないわよ」
 と余裕顔だった。
 何かの事情を知っている。
 そんないけ好かない表情だ。
 レスティーは、
「吟侍君、怒るのもわかるけど、あの子の話を聞いて見ても良いかも知れないんじゃない?」
 と吟侍に問いかけた。
 確かにこのままでは途方に暮れるばかりだ。
 ソナタ達を引き離したのは気にくわないが、それでも、少なくとも今の吟侍達よりは、このロスト・ネット・ワールドについて何か知ってそうだ。
 彼女の性格から考えて吟侍達を騙そうとするかも知れないが、それは話を聞いてからでも変わらないだろう。
 ムカつくがまずは冷静になって、【アコンルーク】の話を聞いて見ようという事になった。
 不適な笑いを浮かべる【アコンルーク】。
 普段は、女性に対して、嫌悪感を持たない吟侍だったが、この【アコンルーク】のやり口は正直、気に入らない。
 ソナタ達の気持ちをもてあそんだ事はもちろん、それで、ディアマンテも嫌な思いをしただろうし、何より、このパーティーの雰囲気を傷つけた。
 それが、吟侍が【アコンルーク】に対して抱く、嫌悪感だった。
 【アコンルーク】は、
「改めて、よろしくね、坊や達」
 と笑って言った。
 第一印象は最悪――だが、彼女の情報というのも気になる。
 吟侍は気持ちを押し殺して【アコンルーク】との会話をする事にした。
 ロスト・ネット・ワールドに来て早々のトラブル。
 前途多難の予感がした。
 パーティーは一歩間違えば空中分解。
 それだけ脆く、危ういパーティーだったというのもあるが、それをつかれてしまったようだ。
 思わぬ弱点が露出した結果となった。
 残された吟侍達――
 離れて行ったソナタ達――
 別行動のフェンディナ――
 波乱必至の宇宙世界。
 どうなるかはこれからの話次第。
 吟侍達はまず、【アコンルーク】の話を聞くことにした。


続く。


登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

芦柄 吟侍 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。
 セレークトゥース・ワールドの冒険を生きて帰ってきた。
 今回はロスト・ネット・ワールドでの冒険をする事になる。


002 ルフォス

ルフォス 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス

ソナタ・リズム・メロディアス ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 セレークトゥース・ワールドに続き、ロスト・ネット・ワールドへも吟侍のお目付役としてついていく事になる。


004 フェンディナ・マカフシギ

フェンディナ・マカフシギ 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 何か目的があるらしく、今回はロスト・ネット・ワールドでは別行動に。


005 エカテリーナ・シヌィルコ

エカテリーナ・シヌィルコ 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。
 オルオティーナに貰った4つの古き力の一つである【不可能を可能にする力】を会得する。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 ロスト・ネット・ワールドでも引き続き吟侍と同行する道を選ぶ。
 

006 ステラ・レーター

ステラ・レーター 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 ロスト・ネット・ワールドでも吟侍のサポートとしてついて行く事に。


007 レスティー

レスティー 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 ロスト・ネット・ワールドへも専属医のような立場として吟侍と同行する事に。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)

片倉 那遠 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 今回は、地球の商品を仕入れに向かうので、ロスト・ネット・ワールドへは同行しないことになった。


009 聖魔妖精エクス/クェス

聖魔妖精エクス/クェス カミーロが、ロスト・ワールドから現界に戻る時に出会った聖魔妖精のプリンセスであり、幸運をもたらす存在と言われている。
 光属性のエクスと闇属性のクェスは交互に存在している。
 どうしても吟侍と行動を共にするときかないソナタに幸運をと思って、カミーロの手から吟侍の側にという事になってロスト・ネット・ワールドの冒険に同行する事になった。


010 ディアマンテ

ディアマンテ 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ディアマンテはブルー・フューチャーの一員で、16体もの怪物と同化している超戦士でもある。
 吟侍の大ファンであり彼のマニア。
 ブルー・フューチャー最強でもある彼女はロスト・ネット・ワールドの冒険に同行する事になった。
 同化している怪物の一体は万能言語細胞(ばんのうげんごさいぼう)を作り出す事が出来る。


011 赤いフードの男【クトゥーアル】

赤いフードの男クトゥーアル 以前はフェンディナだけだったが、セレークトゥース・ワールドから帰ってきた吟侍達もスカウトしようと訪ねてきた存在。
 実力はあるのだが、自信がプロデュースしている十大殿堂の評価は下がっていて対処が取れていない。
 吟侍によってロスト・ネット・ワールドに逃げた十大殿堂のメンバーの様子を見に行ってもらう事になる。
 吟侍に十大殿堂のメンバーが近づいたら反応する【メンバーメモリースティック】を渡している。
 格好は、黒いフードの男の真似をしている。







012 黒いフードの男ソルテリアー

黒いフードの男ソルテリアー 赤いフードの男、【クトゥーアル】が真似をしている男で、寡黙な男とも黒いフードの男とも呼ばれている。
 名前は無いのだが、それだと不便なので便宜上、【ソルテリアー】と呼ばれている。
 自分の都合の良い状況を作り出す力を持っていて、クアースリータの取り巻きを退けている。
 クアースリータと同様にQOHの一角を担っている男であり、実力はクアースリータと互角。
 謎に包まれた男で、力を落としている状態とは言え、吟侍の【答えの力】でも正体を読ませないほどの力を持っている。
 今の状態の吟侍よりも遙かに強い存在。


013 スター吸収姫フロリゼル・チェルニー

フロリゼル・チェルニー 黒いフードの男、【ソルテリアー】の押しかけ女房を気取っている元、者喰い王頂上戦という大会の優勝者であり女王だった女性。
 ずっと4位に甘んじていて勝てずに泣いていた事から【泣き虫姫】というあだ名もあったが、優勝して自信がついたのかキャラチェンジをした。
 【ソルテリアー】と知り合ってからそれまでの女王という立場をあっさりと捨て、彼について行動する事になった。
 存在を吸収する事に特化した吸収姫(きゅうしゅうき)と呼ばれていたが元々は大した存在では無かった。
 が、【ソルテリアー】のパワーをかなり吸って、無視できないくらいに力を増大させている。


014 クアースリータ

クアースリータ  12番の化獣(ばけもの)。
 クアンスティータを恐れる存在が集まって出来たロスト・ネット・ワールドという宇宙世界を持つ。
 その最深奥(さいしんおう)には本当の意味で所有している宇宙世界クアースリータ・ワールドがあるとされている。
 何でも特別な状態にするという力を持つ。
 その力の強大さは、誕生時に、最強の化獣クアンスティータが誕生したと勘違いされる程のもの。
 (第一本体)クアンスティータ・セレークトゥースの双子の姉であり兄でもある存在。
 性別はおんこというものになる。
 生まれたばかりで知識を得るなど、頭の回転は恐ろしく速いが、性格はてきとう。
 時空重震(じくうちょうしん)という時空間で起きる地震を引き起こし、重震度(ちょうしんど)はそれまでの記録を大きく上回る9・7を記録する。
 これは、震源地に当たる震源流点(しんげんりゅうてん)近くでは存在が存在を維持できず、分解と再生を繰り返す状態になってしまうほど巨大なものになる。
 妹であり弟でもあるクアンスティータ・セレークトゥースが誕生したのを素直に喜んだ。
 性別はおんこだが、クアンスティータに対し、お姉さんぶっている。
 吟侍達をロスト・ネット・ワールドへと送り届けることになる。


015 アコンルーク

アコンルーク ロスト・ネット・ワールドに降り立った吟侍が最初に出会った、謎の女性。
 見た目は幼い少女の様だが、中味は吟侍を【坊や】扱いするほど、年を経ている。
 感情を操作する力を持っているらしく、ソナタ、ステラ、エカテリーナが心の憶測に持っていた感情を利用して、彼女達を怒らせ、吟侍達から去って行くように仕向けたりなどした。
 性格はあまり良いとは言えず、吟侍を虚仮にしたりして好感が持てるような女性では無い。
 どうやら、ロスト・ネット・ワールドの事情通らしく、吟侍達に案内を持ちかけるが、その真意のほどはわかっていない。