第005話 ロスト・ネット・ワールド編その1

ウェントス編第005−01話挿絵

01 芦柄 吟侍達の帰還


 惑星ウェントスへ友人達への救出活動に向かっていた芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)一行は、様々な強敵達と出くわし、成り行きで王杯大会エカテリーナ枠に出場する事になった。
 そんなさなか、吟侍の前世でもある怪物ファーブラ・フィクタの暗躍により、ついに最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータが誕生してしまった。
 吟侍達はその誕生したばかりのクアンスティータ、その第一本体であるセレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドを冒険する事になった。
 彼と行動を共にしたいと主張してきた6名の女性達と共に、セレークトゥース・ワールド内のヒストリーエリアを中心に冒険した。
 まだ、出来て間もない宇宙世界であり、本格的な形が形成されていないにもかかわらず、それは吟侍達の想像を絶するような高すぎるレベルだった。
 何度も絶望感を味わいながらも必死で食らいつき、ある程度、目処がついた所で元々居た現界(げんかい)に戻る事にした。
 だが、そのまま戻るには、彼らのパワーなどは余りにも上がりすぎていた。
 クティータという気象現象を利用して、強引に力を引き上げたりしているために、現界に戻った場合、そのまま思うままに力を振る舞うと、現界に深刻なダメージを与えてしまう事を知った彼らはぴょこたんという名前の知り合ったゆるキャラのような存在にお願いして、パワー制御をしてもらってから帰ってきたのだった。
 戻ってみると、クティータでのパワーアップなどの効果はほとんど抜き取られている状況にもかかわらず、吟侍達から見る現界とは酷く脆い宇宙世界に映っていた。
 セレークトゥース・ワールドに行く前と行った後ではこうも違うのかと感じるのだった。
 そんな事を思いつつも、まずは、現界の状況を確かめるのが先だった。
 どうやら、時間感覚が現界とセレークトゥース・ワールドでは異なっており、あれだけ冒険したにもかかわらず、現界では吟侍達がセレークトゥース・ワールドに旅立ってからほとんど変わらない時間帯――つまり、あっという間に戻って来たような状況となっていた。
 だとすると、時間軸として、クアンスティータが誕生してからそれほど経っていないという事になる。
 戻ってすぐに、クアンスティータの乳母でもあり摂政(せっしょう)でもあるオルオティーナの使いだとする存在から、怪物ファーブラ・フィクタが時計の針を進めているという報告を受けた。
 本来であれば、現時点では起きているはずの第一本体セレークトゥースが繭蛹卵(けんようらん)という状態になっているというのだ。
 どうやら、まだ先の事になるはずだった第二本体、クアンスティータ・ルーミスの誕生を急がせているらしい。
 セレークトゥースは繭蛹卵の状態で一旦、眠りにつく。
 そして、ルーミスが第二のニナ――ニナ・カエルレウスにより再び生み出される時に、一緒に目覚め、最初に誕生した時とは比較にならないほど強大な力を持って動き出すというのだ。
 クアンスティータとは誕生と繭蛹卵の状態を繰り返して、どんどん強くなっていく存在のようだ。
 セレークトゥース誕生時でさえ、とんでもないパニック状態だったのに、これから次元外れに力を増して行くというのだから、どれだけ、めちゃくちゃな存在なのだと思わざるを得なかった。
 今の状態は、第一本体セレークトゥースは眠りについていて、第一側体クアンスティータ・トルムドアはどこかに消えている。
 (カノンに関わっているが、吟侍達はその事を知らない)
 神や悪魔の勢力はここぞとばかりにクアンスティータの誕生によってガタガタになっていた現界の立て直しに躍起のようだ。
 クアンスティータの事はひとまず落ち着いたと言っても良いだろう。
 吟侍としては偽クアンスティータやクアースリータの動向も気になるところだが、今は風の惑星ウェントスへ戻る事を優先させる事にした。
 王杯大会エカテリーナ枠はうやむやになってしまったが、まずは、同行していたエカテリーナ・シヌィルコの故郷でもある惑星ウェントスに戻るのが先決だった。
 惑星ウェントスには、王杯大会エカテリーナ枠戦以前に行動を共にしていたロック・ナックルやニネット・ピースメーカーなども待っているはずだ。
 彼らから、吟侍達が現界を離れていた僅かな間に何が起きて居たのかを聞く必要がある。
 吟侍はセレークトゥース・ワールドで同行していた6名の女性――
 ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーらと共に、ウェントスへと帰還した。


02 カミーロ・ペパーズ帰還


 ひとまず、ロック達に会いに行こうと思って彼らを探した。
 すると思いもかけない再会があった。
 ロックやニネットと共に吟侍やソナタの救出作戦に同行し、恋人でもあった魔形(まぎょう)666号(コーサン・ウォテアゲ)を追って、ロスト・ワールドに消えたはずのカミーロ・ペパーズの姿がそこにあったのだ。
 ロック達よりも先にカミーロと再会したのだ。
 吟侍は、
「お、お前さん……」
 と言い、主でもあったソナタは、
「カミーロじゃない。無事だったのね、――良かった」
 と素直に喜んだ。
 カミーロは、
「ソナタ姫、ただいま戻りました。結構お土産が――と言いたいところですが、あなた様もずいぶん、お変わりになられたようですね。なんだか自信に満ち満ちている様な気がしますよ」
 と言った。
 カミーロの肩には妖精が腰をかけている。
 妖精の名前は聖魔妖精のクェスと言った。
 彼女は光と闇の二つの属性を持つ妖精で、光の姿が【エクス】という名前、闇の姿が【クェス】という名前になっている。
 幸運を冒険者に運ぶ存在と言われているらしい。
 カミーロが現界に戻って来る途中で出会い、そのまま連れてきたのだという。
 【クェス】は、
「初めまして、皆さん、私はクェスと言います。私は闇属性の聖魔妖精で、光属性の聖魔妖精【エクス】と存在を共にしています」
 と自己紹介をしてきたので、吟侍達も自己紹介をした。
 カミーロの話を聞くと、吟侍の心臓にもなっている7番の化獣ルフォスの所有する宇宙世界、ルフォス・ワールドの戦力として使えそうな核を持って帰って来たりしていて、話も弾んだ。
 賑やかにしていると、
「な、なんで……?」
「ど、どうして?」
 という声がしたので振り返って見るとそれはロックとニネットだった。
 彼らも心配して、吟侍達を探しに来ていたのだ。
 彼らは、吟侍達の雰囲気が短期間に余りにも変わってしまっていて警戒していて、すぐには近寄れなかったというのだ。
 カミーロの話もかなり興味深かったのだが、まずは、現界の状況の把握だ。
 吟侍達は彼らから、現在の状況を聞くのだった。
 そこでわかった事だが、ロック達の目線では恐怖の存在、クアンスティータが生まれたという感覚は何となく味わったが、それ以外では目立って大きな事は無かったというのだ。
 それは吟侍達が旅立って戻って来るまでの間が極めて短かったからというのもある。
 何かが起きて、ロック達がそれを把握するまでには時間としては余りにも足りて居なかったのだ。
 わかった事はクアンスティータが誕生してから、何かが大きく変わった様な気がするが、余りにも大きすぎて、ロック達ではわからないという事だ。
 しかし、そうなると困ったことになる。
 状況を正確に把握出来て居る者がここには存在していないという事になる。
 連絡だけしてすぐに帰ってしまったオルオティーナの使い達にもう少し、状況を聞いておくんだったと後悔していると、吟侍の周りの光景だけがスウッと変わって行った。
 彼だけ、どこかに飛ばされたのだ。


03 ~上立者(しんじょうりっしゃ)との対話


 吟侍はあたりを見回す。
 周りには何もない――というか見えない。
 周りには誰も――いや、いつの間にか一つの光が近づいて来た。
 その存在は~上立者(しんじょうりっしゃ)と呼ばれる存在だった。
 神や悪魔を超越しきった存在とされ、この~上立者よりも上の存在は~超存(しんちょうそん)しかいないとされる存在だ。
 この~上立者は怪物ファーブラ・フィクタをも震え上がらせるほど、高位な存在であると言える。
 ~上立者は、
『そなたが怪物ファーブラ・フィクタの後世の存在、芦柄 吟侍……』
 と言った。
 吟侍は、
「確かにおいらは、芦柄 吟侍ってもんだ。あんたは?」
 と聞いた。
 雰囲気だけでも、吟侍とは次元違いの存在だというのはわかって居る。
 だが、クアンスティータの宇宙世界を旅していたという事もあり、あまり恐怖感は感じなかった。
 これがセレークトゥース・ワールドに行く前の吟侍だったならばこうは行かなかっただろう。
 ~上立者は、
『怪物ファーブラ・フィクタはついに、やってしまった。今の状態でさえ、クアンスティータと呼ばれる存在の力は~超存様とほぼ互角の力を持っている。二つ目の体を手にした時にはもはや~超存様のお力さえ及ばないだろう』
 と言った。
 真意のほどはいまいち定かではないが、とにかく、クアンスティータが~超存さえ、手の届かなくなるような領域に、第二本体ルーミスの誕生時に到達してしまうという事だというのは何となくわかった。
 吟侍は、
「何か問題があるのかい?」
 と尋ねると、
『全ての秩序を握るのが~超存様からクアンスティータと呼ばれる存在に移るやも知れないという事だ。踏み越えるべきではない領域にその存在はなろうとしている』
 という答えが返って来た。
「おいらはあの子はそんなに悪い子には見えねぇんだけど?」
『良い悪いは問題ではない。均衡が崩れるという事だ』
「わかっているさ。あの子を他の悪い奴に利用されたらそれこそ、えらいことになるってことくらいは」
『それがどういう結果をもたらすかわかって居るのか?』
「わかんねぇさ。ただ、あの子の親はおいらの前世なんでな。あまり良い親とは呼べねぇし、おいらは尻ぬぐいをするつもりでいる。あの子はおいらが導くさ。悪い子にはさせねぇ」
『お前に出来るのか?』
「それこそ、やってみねぇとわかんねぇさ。でも、おいらは感じるんだ。あの子は悪い子じゃねぇ。最悪の結果になるのなら、それは周りの環境が最悪だからだ。おいらはその環境を整理してやりてぇと思っている。背中は向けねぇ」
『力不足だ』
「だろうな。わかってるさ、今のままじゃ全く話にならねぇ事くれぇは。――今のおいらは出来もしない事をただ、のたまわっているだけのただのバカに過ぎねぇ。だから、今のままでいるつもりは毛頭ないさ。必ず大きく変わってやる。いや、変わり続ける。そうでないとあの子とまともに向き合えねぇ」
『我はお前のその気持ちを確かめたかった。だからこそ、あえて、クアンスティータ誕生には目をつぶった。お前の可能性を信じて』
「そいつぁ、ありがとうって言えば良いのかい?プレッシャーだなぁ。良いのかい?おいらに任せても成功するって保証は全然ねぇんだぜ。成功率はゼロと言っても良いくらいだ」
『お前の表情からは可能性がゼロではないと読み取れる』
「なるほどね、あんがとさん。あんた、かなりの高位の存在なんだろ?何となくわかるよ、今ならな。たぶん、セレークトゥース・ワールドに行く前だったら、全くわかんなかっただろうな。これだけでもかなり前進したんだと思うぜ。――と言ってもまだまだ、全然足りねぇけどな。クアンスティータはそれだけ奥が深い。だが、手のかかる子供ほど可愛いってのはこの事だとおいらは思っている」
『我らはお前に賭けよう。これより、知りうる限りの情報を伝えよう』
 と言う会話をした。
 吟侍は~上立者より、現界に何が起きて居るのかの説明などを受けた。
 彼は、
「なるほどな。教えてくれてサンキュー。確かにいろいろと大変だ。仲間達に全部話すとパニックを起こすかもしんねぇから、折を見て、少しずつ話していくか」
 と言った。
 ~上立者は、
『では戻るが良い芦柄 吟侍よ。我々はお前に期待をしている』
 と言って、吟侍を元の現界――風の星ウェントスへと戻してくれた。
 吟侍が消えてから戻るまでの間は一瞬にも満たない時間だったため、彼が一度消えて戻ったという事に気づく者はそこには居なかった。
 吟侍は、
「みんな、事情は大体、わかった。これから何をすべきか少しずつ話していくよ」
 と声をかけた。
 ソナタは、
「なんであんただけ、事情をわかったのよ?」
 と聞いてきたが、吟侍は、
「そいつは、その……ご都合主義っていうかな……。まぁ、良いじゃねぇか、まずは友達の救出だ。そいつを一気に解決しよう。エカテリーナ、頼めるかな?」
 と話題をエカテリーナに振った。
 エカテリーナは、
「お前の友人達の捜索か?よかろう、引き受けた。アナスタシアに頼めば、代わりにやってくれるだろう」
 と答えた。
 エカテリーナは最強の絶対者アブソルーターであり、親友でもある同じく絶対者アブソルーターのアナスタシアに頼めば、惑星ウェントスに連れて来られた吟侍達の幼なじみの行方はその内にわかるだろうとの事だ。
 となると、友人達の行方が見つかった段階で、吟侍達の本来の目的は果たした事になる。
 吟侍としては友人を見つけるという目的の次の目的が出来たのだ。
 クアンスティータの成長を見守るという目的が。
 クアンスティータをどうにかしないと例え、友人達を故郷のセカンド・アースに連れて帰ったとしても真の平和は訪れない。
 クアンスティータならば、現界を破壊する事など、全く造作も無い事なのだから。
 現に、ステラ達の居た未来では第五本体クアンスティータ・リステミュウムによって現界は壊滅寸前にまで追い込まれているのだ。
 その未来の結果を変えなくてはならない。
 怪物ファーブラ・フィクタが他の本体の誕生を急がせているとわかった以上、後回しにすべきではない。
 何らかの対処を考えて行かなければならないだろう。
 正直、今の吟侍であれば、他の存在はどんなに強大な力を持っていようともそれほど怖くはない。
 だが、クアンスティータだけは別だ。
 一番弱い状態であるはずのセレークトゥースの宇宙世界での旅ですら、下の下の下の〜……というレベルの冒険をちょこっとした程度に終わっただけなのだ。
 それでさえ、現界に戻れば、吟侍達のパワーで現界を破壊してしまうかも知れないという状況にまでなっている。
 それでも全くクアンスティータのレベルに追いついていないのだ。
 それだけクアンスティータは最別格であると言える。

 その前にクアンスティータの兄であり姉でもあり、今も活動しているクアースリータの問題もある。
 まずは、そのあたりをどうするか――
 考えても考えがまとまらない。
 答えの力でもその答えは導き出せない。
 そんな時は気分転換だ。
 吟侍はそう考えた。
 吟侍は、
「なぁ、エカテリーナ……このウェントスで、気分転換になりそうなイベントとかねぇかな?ちょっと頭をすっきりさせたいんだけどさ……」
 と言った。
 エカテリーナは、
「気分転換か……そうじゃな……あるにはあるが……」
 と言った。


04 ウェットファイトからエカテリーナの家へ


 エカテリーナは心あたりはあるがお勧めではない――そんな表情を浮かべた。
 吟侍は、
「なんだ?何か教えられない事でもあるのか?」
 と聞くと、エカテリーナは、
「妾にとっては気分転換になるのであって、そなたにとって気分転換になるとは……いや、そなたも男じゃし、あるいは……」
 と言いよどむ。
 吟侍は、
「何だよ、気になるじゃねぇか、教えてくれよ。それとも【答えの力】で探った方が良いのか?」
 と更に聞くが、エカテリーナは悩んでいた。
 しばし、考えた後、
「まぁ、よかろう。セレークトゥース・ワールドの楽しさと比べれば大した事はないんじゃが、【ウェットファイト】というイベントがこのウェントスでははやっておる。聞いた事はないか?」
 と言った。
 吟侍は、
「【ウェットファイト】?聞いた事ねぇな。お花ちゃんあたりだとそういう地域に根ざしたようなイベントとかにも興味を示すかもしんねぇけど、おいら達は基本的に人命救助で動いていたからなぁ〜あんまり、流行り物とかにはな」
 と答えた。
 お花ちゃんとは吟侍の恋人のカノンの事だ。
 彼女であれば、人々と触れあいながらの人命救助を選択しているという意味だ。
 エカテリーナは、
「――だろうな。まぁ、良かろう、ついてくるが良い。あぁ、お前達は来ん方が良いぞ」
 とソナタ達を遠ざけようとした。
 ソナタは、
「なんでよ?気分転換なら私達もしたいわよ。それとも何?私達に見せたら不都合とかある訳?」
 と言った。
 エカテリーナは、
「まぁ、そうじゃな。そなたらのようなおなごが見て、あまり気持ちの良いものではないじゃろうな。じゃから、来るなと申しておる」
 と言った。
 ソナタは、
「何よ、吟侍をいかがわしい店とかに連れて行くつもり?」
 と言ったが、エカテリーナは、
「店というかイベントじゃな」
 と答えた。
 吟侍は、
「イベント?」
 と聞いた。
 他の女性陣達も同じ意見だった。
 ロックが、
「吟侍、貴様、カノン姫という恋人が居ながら……」
 と怒鳴る。
 その言葉を聞いて女性陣がムッとなる。
 吟侍は、
「おいおい、おいらは気分転換になるところって言っただけだぞ。なんでおいらがおこられなきゃなんねぇんだ?」
 と抗議した。
 エカテリーナは、
「まぁ、百聞は一見にしかずじゃ。まとめてついて来るが良い」
 と言って【ウェットファイト】が行われているイベント会場に連れて行った。
 エカテリーナに案内された場所は、主に男性がたくさん来ていた。
 女性陣達が来ると何故ここに?というような目で見られた。
 ソナタは、
「なんなの、この異様な空気は?」
 とつぶやいた。
 エカテリーナは、
「まぁ、見ておれ。主に男共の目を楽しませるためにあるイベントじゃ。妾は、王杯大会エカテリーナ枠が開催されずにくすぶっておった時、このイベントを見てストレスを発散させておったのじゃ」
 と答えた。
 ソナタは、
「あんたのストレス発散?危険なバトルじゃないんでしょうね?」
 と聞いたが、エカテリーナは、
「バトルには違いないんじゃが、危険ではないぞ」
 と答えた。
 バトルだけど、危険じゃ無い?
 意味がわからない。
 だが、エカテリーナは言った。
 【百聞は一見にしかず】と。
 とにかく説明を受けるよりも前に見ろと言うことなのだろう。
 しばらく待っていると選手達が入場してきた。
 アナウンスが聞こえる。
「さぁ、皆さん、お待ちかねの【ウェットファイトチャンピオンシップ】の好カード、ミルヴォア・ムーサ選手とチェルローニ・デュカキス選手の戦いがついに実現しました。二人とも今日の戦いのためにおニューの下着を着けてきたと言っていました。さぁ、どちらが勝つでしょうか?私個人の意見としては両者痛み分けで、引き分けて欲しい所ですね。二人のあられも無い姿をぐふふふふっ……」
 と。
 エカテリーナは、
「相変わらずゲスなアナウンスよのぅ……」
 との感想だ。
 エカテリーナ以外は何が起きるのかわからない。
 見ていると風船が100個ずつ、運ばれてきている。
 何となくだが、その風船は、液体の入った水風船のようなものだというのが遠目にもわかる。
 吟侍は、
「何だ?」
 と言う表情をした。
 エカテリーナの説明によると色っぽいお姉さんタイプの女性がミルヴォア・ムーサ選手で、ぶりっこタイプの女の子がチェルローニ・デュカキス選手だという。
 二人ともこの【ウェットファイト】の人気選手だという。
 この【ウェットファイト】は元々、カノンが救出活動を行っているはずの惑星アクアで流行っていたものが惑星ウェントスに伝わったもので、惑星アクアは【歌優(かゆう)】が流行りだしたので衰退したため、惑星ウェントスの方に定着したイベントだと言う。
 吟侍の見立てではミルヴォアもチェルローニもそれなりに鍛えているのではあるだろうが、特に際立った力を持っているという感じでもない。
 そもそも、惑星ウェントスを支配している絶対者アブソルーター達のレベルを大きく超えてしまっている吟侍達が楽しめるような戦いになるとは思えなかった。
 だが、戦いが始まって見るとその面白さのベクトルが吟侍達が思っていたものと違っている事に気づいた。
 ソナタは、
「さ、最低……」
 と感想を言った。
 彼女の反応は予想出来たのでエカテリーナは来るなと言っていたのだ。
 吟侍は逆に、
「お、おぉぉぉっすげぇ……」
 と手に汗握るようなガッツポーズを取った。
 吟侍も男の子。
 この手のイベントは嫌いじゃ無かった。
 ソナタが嫌悪感を示し、吟侍が好意を持ったイベント――
 それは、互いに水の入った風船をぶつけ合うというバトルだった。
 選手達は水で溶ける服装をしていて水がかかるとどんどん素肌があらわになっていく。
 それぞれ100個ずつの水風船をぶつけ合い、最終的に露出度の低い方が勝ちというものだ。
 片方の選手が完全に下着姿になったら勝敗が決すると言う水かけバトルで、ギャラリー達は選手達が下着姿になるのを楽しみとしている。
 ギャラリーにとっては応援している選手が勝って良し、負けて良しの戦いとなる。
 カミーロは、
「げ、下劣だ……こんなものを見に戻って来た訳では無い」
 と言って、この場を後にした。
 ロックは、
「お、おい、待てよ、カミーロ」
 と言って、彼の後を追いかけた。
 ついてきた男性陣で残って居るのは吟侍だけとなった。
 女性陣の視線が彼に注ぐ。
 吟侍は、
「ん?どうかしたか?」
 と何故、こっちを見るんだ?という表情をした。
 ソナタは、そんな吟侍の耳を引っ張り、
「さぁ帰るわよ、吟侍君、気分転換はもっと違う事でしましょう」
 と言った。
 吟侍は、
「痛てて、痛てって、おそなちゃん、耳を引っ張るなって、わかった、わかったから……」
 と言って引きずられて行こうとしていたが、フッと、勝者に与えられる商品に目がとまる。
 吟侍は、
「ちょ、ちょっと待った、待ってくれ、おそなちゃん、待ってくれってば」
 と言った。
 ソナタは、
「教育上よろしく無いんだからさっさと帰るのよ。それともカノンに告げ口して欲しいのかしら?」
 とにらみをきかす。
 吟侍は、
「違う、違うって、あの勝者にもらえる商品の【ヌァニヲン】ってのは何だ?」
 と聞いた。
 エカテリーナは、
「おぉ、【ヌァニヲン】か、あれはじゃな、そなたらの世界で言えば馬や駱駝(らくだ)とか言う生き物にあたるやつじゃ。馬や駱駝は姿形が変わらぬそうじゃが、【ヌァニヲン】は別じゃ。乗り手に合わせて形態を変化させる事が出来る。馬に乗るのは乗馬(じょうば)というらしいが、【ヌァニヲン】には【乗何(じょうか)】と表現する。あんなもので良いのであれば、妾の家には腐るほど飼っておるぞ。この様な場末(ばすえ)の大会の優勝賞品などよりも毛並みの良いのが揃っておる。なんならそっちを見に行くか?」
 と言った。
 吟侍は、
「よろしく頼む」
 と言った。
 吟侍が着目したのは【ヌァニヲン】の特性だった。
 現界においては惑星ファーブラ・フィクタにしかない特殊な属性の準属性を持っていたからだ。
 現界は大きく分けて7属性となっており、それが土、風、火、水、雷、光、闇であるとされている。
 多少例外も存在するが大きな属性としてはこの7属性がメインとなっている。
 これらを七大属性原素(ななだいぞくせいげんそ)と呼んでいる。
 謎の惑星ファーブラ・フィクタには更に6属性が存在し、六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ)と呼ばれ、【変】、【幻】、【外】、【他】、【奇】、【妙】という属性名で表現されているが、それは、現界には適切な表現が存在していないために、近い表現を代用しているに過ぎない。
 【ヌァニヲン】はこの六大特殊属性原素の準属性の要素を持っているのだ。
 セレークトゥース・ワールドを冒険した時、気になっていた、現界には存在しない属性――それは、六大特殊属性原素以外にも数多くあったが、吟侍は今の時点では触れられないものとして、あえて無視していた。
 今触れても手に負えない代物――そういう認識で見ていたが、クアンスティータの所有する宇宙世界には吟侍達の知らない属性が数多く存在していた。
 残念ながら、現界に存在するのは13属性止まりだが、吟侍はもっと力をつけたら、いろいろと試して見たいと思っていたのだ。
 その素材の準属性が思いも寄らないところにあった。
 これは吟侍が【答えの力】を身につけて居なければ気づかなかった。
 それくらい微弱な属性だった。
 だが、微弱でもこれは貴重な素材と言って間違い無かった。
 吟侍の心臓となっているルフォスの所有する宇宙世界、ルフォス・ワールドに取り込んで戦力にする事がもしかしたら出来るのでは無いかと思えたのだ。
 と言っても、【ヌァニヲン】そのものはとても弱い生命体なので、直接の戦力とはならないだろう。
 ただ、DNAか何かを取り出して、それをルフォス・ワールドの管理者をしているウィンディスに解析してもらえれば、新たな戦力を作り出す事が出来るのではないかと考えたのだ。
 吟侍達は、早速、エカテリーナの家に行くことにした。
 家と言っても惑星ウェントスの支配者の一名でもあるエカテリーナの住まいは城と言った方が良いほど、大きかった。
 吟侍は、
「ほえ〜っ……エカテリーナ、お前さん、お姫様だったんだな」
 と言った。
 エカテリーナは、
「姫ではない、一応、女王じゃ。と言っても妾は戦いが趣味で、まつりごとには興味がないのでな。そのような事は全て大臣に任せておる」
 と言った。
 ソナタは、
「なによ、これくらい。私のうちだって」
 と張り合った。
 ――そう、ソナタもまた、セカンド・アースの三大王家の1つ、メロディアス王家の第六王女なのだ。
 吟侍は、
「まぁまぁ、お二人さん、それより、【ヌァニヲン】はどこだ?」
 と聞いた。
 エカテリーナは、
「慌てるでない。妾は久方ぶりに城に戻ったのじゃ、挨拶くらいさせろ」
 と言った。
 そういうと、自分の臣下達へ挨拶をしてまわった。
 那遠は、
「良いですねぇ〜憧れちゃいますぅ」
 と言った。
 彼女は、地球屋(ちきゅうや)をやって生活をしているので、お城を持っている生活というのに憧れているようだ。
 レスティーは、
「意外な一面が見れたわね」
 と言った。
 エカテリーナは意外にも家臣に慕われていたからだ。
 一般的な絶対者アブソルーター達は基本的にその権威を振りかざし威張り散らしている事の方が多い。
 そのため、陰口をたたかれるのは当たり前、本当の意味でかしづいている者はあまり居ない。
 だが、エカテリーナの家臣を見れば、如何に彼女が慕われているかがわかった。
 彼女は家臣達に無理難題を言ったりする事もないし、頑張った者には分け隔て無く、評価をしていたのだ。
 そのため、惑星ウェントスでは、エカテリーナ領かその親友、アナスタシア領に密入国するものが後を絶たず、他の絶対者アブソルーター達から猛抗議を受けていたくらいなのだ。
 一通り挨拶を済ませたエカテリーナは、【ヌァニヲン】牧場に案内してくれた。
 すると、居るわ居るわ、その数、およそ15万頭。
 エカテリーナはバトルほどの趣味では無いが、乗何の趣味も持っており、品質の良い【ヌァニヲン】を飼育していたのだ。
 それが増えに増えて15万頭まで来てしまったのだ。
 増えすぎたが殺処分にする訳にもいかずと言った所だったのだ。
 エカテリーナは【ヌァニヲン】用の飼育員を1万名も雇っている。
 競争馬ならぬ【競争何(きょうそうか)】としても育てており、それで収益を上げて飼育員および調教師を稼がせてもいる。
 エカテリーナは、
「条件次第では2、3頭くらいならば譲ってもよいぞ」
 と吟侍に言ってきた。
 ソナタは、
「条件って何よ?」
 と突っかかってきたが、エカテリーナは、
「大した事では無い。芦柄 吟侍、そなたのこれからの行動にも同行させてもらいたい、そう思うただけじゃ」
 と言った。
 ソナタは、
「な、なぁんだ、そんな事」
 と言ってホッとした。
 正直、彼女は吟侍に対してガツガツ行くという事ではエカテリーナの事を一番警戒していたのだ。
 吟侍は、
「んな事で良いのか?おいらは何か用意しようと思っていたんだけど」
 と聞き返した。
 エカテリーナは、
「元々、妾はそなた等の敵側の存在だからな。同行するにも理由が欲しいのじゃ」
 と答えた。
 吟侍は、
「おいらはお前さんを敵だと思った事はないぞ。仲間だと思ってる」
 と言い、エカテリーナは、
「ならば、友情とやらの証じゃ。受け取ってくれ」
 と言った。
 吟侍は、
「サンキュー。遠慮無くもらうわ」
 と言って、3頭の【ヌァニヲン】を譲り受けた。
 早速、ルフォス・ワールドからウィンディスを呼び出す。
 ウィンディスは、
「どうやら、現界に無事に戻ってこれたみたいね。これは……?」
 と言った。
 一目で、現界にはあり得ない属性を持った生物だと見抜く。
 吟侍は、
「頼めるか、ウィンディス?それとルフォスの様子はどうだ?」
 と聞いた。
 ウィンディスは、
「まだ、本調子じゃないみたいよ。クアンスティータのパワーを感じたんだもの、すぐに回復という訳にはいかないわよ。それに取り乱して恥ずかしいみたいよ。その辺は察してあげたら?」
 と言った。
 確かに、吟侍達より多く、クアンスティータのパワーを感じる事が出来ているはずのルフォスはクアンスティータが誕生してから、予想外のヘタレっぷりを発揮してしまった。
 そして、そのまま自分の宇宙世界に閉じこもっている。
 だが、元々、クアンスティータが怖いと言って、吟侍と命を共有する事になっていたのだ。
 ルフォスが怖がるという事は想定済みの事だった。
 それにルフォスだけでなく、1番の化獣ティアグラや他の強者達も恐がり、自分達の宇宙世界などに逃げて行っているのだ。
 ルフォスだけが特別にヘタレだという事では無い。
 クアンスティータを知る者は例外無く、みんなクアンスティータを恐れているのだ。
 なので、別に恥ずかしがるような事ではない。
 クアンスティータが特別過ぎる、化け物過ぎるのだ。
 吟侍は、
「了解。しばらくほっておくわ」
 と言った。


05 ブルー・フューチャーとグリーン・フューチャー

 エカテリーナの城で【ヌァニヲン】3頭を手に入れた吟侍達だったが、そこに訪ねてくる存在が居た。
 新風ネオ・エスクのブルー・フューチャーとグリーン・フューチャーの連合チームだ。
 ステラは、
「みんな……」
 とつぶやいた。
 グリーン・フューチャーは彼女が所属する部隊でもある。
 この二つの部隊は琴太の助っ人に向かったもう一つのチーム、レッドフューチャーと共にクアンスティータに対抗するために未来の世界から来ていて、怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナ・ルベルの暗殺に失敗――結局、クアンスティータを誕生させてしまった。
 そのまま、一時戦線離脱していたのだ。
 なので、現在、どういう状況にあるのか知りたいのだ。
 ブルー・フューチャーのディアマンテは、
「吟侍様、吟侍様。会いたかったですぅ」
 と緊張感の無い声を上げた。
 ブルー・フューチャー最強でもある彼女は緊張感というものが無い。
 その点は他のメンバーとは違うという事になる。
 他のメンバーはそれに反する様に、絶望感に満ちた表情を浮かべている。
 吟侍は、
「なんかみんな、諦めてるってつらだな、お前さん達は――絶望感に満ちた感じっつうか――だけど、おいらにちょっと任せてくんねぇかな?おいらはまだ絶望的な未来になるとは思っちゃいねぇんだよな」
 と言った。
 ブルー・フューチャーの面々が顔を見合わせる。
 この時代に来ているのは、
 隊長のテソロ、
 グラナテ、
 トパシオ、
 クアルソ、
 トゥルケサ、
 ペルラ、
 ラピスラスリ、
 トゥルマリナ、
 ルビー、
 サフィロ、
 エスメラルダ、
 そして最強の戦士、ディアマンテだ。
 グリーン・フューチャーの面々も顔を見合わせる。
 この時代に来ているのは、
 エル部隊隊長のbPジュエル、
 bQシエル、
 bRリュエル、
 bTフィエル、
 bUノエルだ。
 bSはステラとなっている。
 ブルー・フューチャー、グリーン・フューチャー共に組織として最強の面子が揃っている。
 だが、怪物ファーブラ・フィクタを相手にしたとき、彼に手玉にとられてしまった。
 レッド・フューチャーから来た、アリス・ルージュ、ドロシー・アスール、ウェンディ・ホアンもそうだが、ブルー・フューチャーとグリーン・フューチャーの面々は未来の世界から過去である現在の現界に渡る時に大幅にパワーを落として時を渡ってきていた。
 その最大の理由として未来の世界で戦っていた時のパワーでは時が渡れなかったからというのがあるのだ。
 つまり、クアンスティータに影響する空間や時に関する力が大きく制限されてしまうというのが最大の理由だ。
 本来の力であれば、怪物ファーブラ・フィクタにも遅れを取るつもりはなかった。
 本来の力であれば、怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナ・ルベルの暗殺は出来て居たはず――その思いがあった。
 未来の世界は壊滅状態にはなっているが、生き残っている生存者達のレベルは極限まで高まっているのだ。
 生きているという事だけで、相当強いと言えたのだ。
 だが、今は見る影も無く弱っている。
 クアンスティータは仕方が無いにしても、クアンスティータの利権をむさぼる連中にすら、うまく対応出来ずに居た。
 我ながら情けないという感じだった。
 こうなる事はわかっていた。
 わかっていた上で、あえて、吟侍に最後の希望を託したのだ。
 その吟侍が自分を信じてくれと言っている。
 今の現状は未来の世界から見た過去――吟侍が1番の化獣ティアグラに殺害されてしまったという過去は回避出来て居る。
 怪物ファーブラ・フィクタが時を早めて、クアンスティータの他の本体を早く誕生させようとしているのであれば、未来の世界において実現しなかった吟侍と第五本体クアンスティータ・リステミュウムの対決もあるかも知れない。
 未来の世界を壊滅寸前まで追い込んだ宿敵リステミュウムとの戦いが。
 新風ネオ・エスクでは手も足も出なかったリステミュウムをギャフンと言わせることが出来るかも知れない。
 グリーン・フューチャーのジュエル隊長が言う。
「芦柄 吟侍殿、我々は貴殿にこのままラエルをつけます。どうぞよしなに」
 と。
 【ラエル】とはステラのコードネームの事だ。
 彼女を吟侍のサポートとしてつけるという事なのだろう。
 ブルー・フューチャーのテソロ隊長が続けて、
「ならば、こちらはディアマンテを出します。よろしくお願いします。ディアマンテ、お前からも挨拶しろ」
 と言った。
 ディアマンテは、
「吟侍様、よろしくですぅ」
 と言ってぺこりと挨拶した。
 吟侍は内心、
(ま、また、女の子が増える……)
 と思った。
 セレークトゥース・ワールドでは、女子トークをされて肩身の狭い思いをしたので、今度、冒険に出るときは同性を連れて行こうと思っていたのだが、このままではまた何となく居心地の悪いハーレム状態となりそうだった。
 せっかく再会したカミーロとロックはさっき、どこかに行ってしまったし(ソナタが居るから戻って来るだろうが)、男性率が更に減るのはちょっと困るなぁ〜と思ったのだった。
 だが、邪険にも出来ない。
 なので、吟侍は、
「ん、まぁ、よろしくな」
 となんとも歯切れの悪い返事になった。
 ディアマンテは、
「あ〜、吟侍様、私と一緒なのがうれしく無いんですかぁ〜?」
 と言った。
 吟侍は、
「そ、そんな事はないぞ。綺麗な子が仲間に加わるのはうれしいぞ、おいら……」
 と言って誤魔化したつもりだったが、それに敏感に反応したのが、
 ソナタ、ステラ、エカテリーナだった。
 ソナタは、
「ちょっと吟侍、聞き捨てられないわね。何、今のは?」
 と言い、ステラは、
「八方美人って訳?誰にでも優しくすれば良いと思ってるの?」
 と問い詰め、エカテリーナは、
「えぇい、はっきりしろ」
 と怒った。
 吟侍は、
「あぁ、気を遣う……」
 とつぶやいたが、
 ソナタ、ステラ、エカテリーナは、
「「「何か言った(か)?」」」
 と睨んできた。
 吟侍は、
「那遠ちゃん、おいらラーメン食いたくなってきた。ちょっと作ってくんねぇかな?」
 と話題をそらそうとした。
 那遠は、
「良いですよ」
 と快く引き受けた。
 持参しているお店セットを使って、てきぱきとラーメンを作り始める。
 ソナタ達が
「「「(ちょっと、)聞いてるの(か)?」」」
 と言っていたが、聞こえないふりをした。
 女の子の扱いがうまいとは言えない対処だった。
 吟侍は、
「おいらは味噌ラーメンが一番好きなんだ」
 と言った。
 那遠は、
「はいです。味噌ラーメンですね」
 と答えた。
 その後、吟侍はソナタ達にグリグリやられたが、それは語るまい。
 だが、クアンスティータの宇宙世界から帰ってきて味わっている一時の平和とも言える時間だった。


06 30選定委員会と選考外強者(せんこうがいきょうしゃ)


 吟侍が、味噌ラーメンに続いて、醤油、塩、とんこつラーメンを平らげたころ、新たな訪問者が吟侍達の前に現れた。
 その訪問者は、
「初めまして。わたくし、【30選定委員会】の判定委員、ヨスマミと申します。序列27位の選定委員会所属です」
 と言ってきた。
 一同の答えは、
「は?」
 と聞き返す者が多かった。
 それくらい【30選定委員会】という名前になじみが無かった。
 困惑しているのを察したのか、【ヨスマミ】は、自分達のプロフィールを説明しだした。
 【30選定委員会】――それはbQ、bRを決める公的機関の総称だった。
 自分こそがクアンスティータに次ぐ存在だと主張する自称bQやbRが乱立するため、権威ある30団体がbQやbRの実力者を決める事を目的とした委員会が存在する。
 それが、【30選定委員会】と呼ばれる組織だった。
 一般的には、自称bQよりもこの委員会に選ばれたbQの方が実力があるとされている。
 だが、選定委員の方針などによりbQの選考からもれてしまったり、選定委員が存在を確認出来ないなどの例外も少なからずあるため、必ずしも正確であるとは言えない。
 あくまでも公で認められるための組織であると言える。
 この選考委員からもれた影の実力者達を選考外強者(せんこうがいきょうしゃ)と呼び、それは確実に存在する。
 また、30選定委員会にも序列があり1から30番目まで、きっちり決まって、例えば30番の【30選定委員会】が決めたbQより29番の【30選定委員会】が決めたbQの方がよりbQに近いとされているという。
 【ヨスマミ】は序列27位(27番)なのでそれよりも更に2つ権威が上という事になる。
 何故、【ヨスマミ】が吟侍達の元に訪れたかと言えば、力を制御していてもセレークトゥース・ワールドの冒険を通して、吟侍達の戦闘能力は著しく跳ね上がったため、【30選定委員会】の眼鏡にかなったのである。
 今までは歯牙にもかけられていなかったのだが、ここに来て大きく評価されたという事になるのだろう。
 この委員会に認められるという事はこの現界においては一目置かれる立場になったという事でもある。
 クアンスティータの宇宙世界を旅してきたという事はそれだけ、環境が変わってくるという事を意味していた。
 【ヨスマミ】意外にも彼が連れて来たのか後から後から、吟侍達を訪ねて来る存在が次々と現れた。
 めまぐるしい変化――そう言えば的を射ているのであろうか?
 吟侍達がクアンスティータの宇宙世界に行ったという事はなんとなく伝わっていて、クアンスティータの利権を持つ吟侍の利権――つまり、クアンスティータの利権の利権にあやかろうとする存在が数多く吟侍達を訪ねて来ていたのだ。
 吟侍は、
「お、おいおい、なんなんだ、こりゃ?」
 と戸惑いの表情を隠せない。
 ソナタ達も同様だ。
 自分達に何が起きておきているのかいまいちよくわからない状態になっている。
 パワーはかなり落として帰ってきているわけだから、今のソナタ達よりも強い者はゴロゴロ居た。
 にも関わらず、その強者達がへりくだるようにして、吟侍達とつながりを持とうとしているのだ。
 それだけ、クアンスティータの影響力というものが莫大なものだという事なのだろうが、あまりの状況に頭では何となく理解していても何となく戸惑っていた。
 吟侍は、
「ちょっと待ってくれ。おいら達はこれから海空の見舞いに行きたいんだけどさ」
 と次々に訪ねて来る存在に待ったをかけようとしていた。
 海空とはクアンスティータの誕生事件で気がふれてしまった、吟侍の茶飲み友達の【陸 海空(りく かいくう)】の事だ。
 まともな状況ではなかったので、セレークトゥース・ワールドでの冒険は置いて行ったのだが、どこかで入院しているはずなので、とりあえず無事に戻って来たという報告をしたいと思っていたのだが、【ヨスマミ】が連れてきたであろう様々な存在達が吟侍達の行動を遮ってしまっていた。
 有名人になって、ちやほやされるというのは吟侍達の柄ではない。
 それよりは、自分達の思った様に行動したいと思うのだった。
 吟侍は、
「なぁ、【ヨスマミ】さん、帰ってもらって良いかな?おいら達、とりあえず、bQとかbRとかに興味ねぇし。他あたってくんねぇかな?」
 と言った。
 【ヨスマミ】は、
「そうですか?それでは、【選考外強者】としての立場を貫くんですね?」
 と聞いてきた。
 つまり、正式には認められない強者で居るという意味だ。
 吟侍は
「そうだな。それで良い。お前さん達も異論はねぇな?」
 とエカテリーナ達の方を見た。
 全員返事はそれで良いとの事だった。
 吟侍達仲間内の中に、自分こそがbQであるという事を主張したい者などは一人も居ない。
 それが、虚像の主張であるという事がよくわかって居るからだ。
 そんな事よりも目の前の問題――特にクアンスティータの問題をどうにかする方が大事だった。

 【ヨスマミ】が帰ると蜘蛛の子を散らすように訪問者達も帰って行った。
 どうやら、【ヨスマミ】に認めてもらいたいというのもあったようだ。
 どちらにせよ、ろくな存在ではないなと思う吟侍達だった。


続く。


登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

芦柄 吟侍 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。
 セレークトゥース・ワールドの冒険を生きて帰ってきた。


002 ルフォス

ルフォス 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス

ソナタ・リズム・メロディアス ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。


004 フェンディナ・マカフシギ

フェンディナ・マカフシギ 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。


005 エカテリーナ・シヌィルコ

エカテリーナ・シヌィルコ 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。
 オルオティーナに貰った4つの古き力の一つである【不可能を可能にする力】を会得する。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。
 

006 ステラ・レーター

ステラ・レーター 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。


007 レスティー

レスティー 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)

片倉 那遠 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。
 セレークトゥース・ワールドの冒険により、大きな力を秘めて戻って来た。


009 クアンスティータ・セレークトゥース

クアンスティータ・セレークトゥース ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。
 現在は、繭蛹卵(けんようらん)という状態になり眠っている。


010 カミーロ・ペパーズ

カミーロ・ペパーズ 恋人のコーサン・ウォテアゲ(魔形666号)を追ってロスト・ワールドに消えたと思われていた、吟侍達救出チームのメンバーだった男性。
 神形職人(しんぎょうしょくにん)でもあり、自らを神形777号に改造している。
 ロスト・ワールドの冒険を通して多くのお土産を持って帰ってきている。




















011 聖魔妖精エクス/クェス

聖魔妖精エクス/クェス カミーロが、ロスト・ワールドから現界に戻る時に出会った聖魔妖精のプリンセスであり、幸運をもたらす存在と言われている。
 光属性のエクスと闇属性のクェスは交互に存在している。


012 ~上立者(しんじょうりっしゃ)

~上立者 怪物ファーブラ・フィクタをも震え上がらせるほどの力を持っているとされている存在で神や悪魔を超えた所に位置する存在でこの上には~超存(しんちょうそん)しか存在しないとされている。
 第一本体の状態でさえ、~超存と互角の力を持って生まれてしまったクアンスティータに対して、吟侍の考えを求めるために彼を一人自身の存在している場所に呼び寄せる。


013 ミルヴォア・ムーサ

ミルヴォア・ムーサ 風の惑星ウェントスで流行っている【ウェットファイト】の人気選手。
 【ウェットファイト】とは水に溶ける服を着ながら相手に水風船をぶつける競技で、下着姿になったら負けというスポーツ。
 ミルヴォアは色っぽいお姉さんタイプ。


014 チェルローニ・デュカキス

チェルローニ・デュカキス 風の惑星ウェントスで流行っている【ウェットファイト】の人気選手。
 【ウェットファイト】とは水に溶ける服を着ながら相手に水風船をぶつける競技で、下着姿になったら負けというスポーツ。
 チェルローニはぶりっ子タイプ。


015 ヌァニヲン

ヌァニヲン エカテリーナの城で主に飼育されているファーブラ・フィクタ星系の固有種。
 地球で言えば馬や駱駝(らくだ)に当たる立場の生物。
 乗る事を乗馬ではなく、乗何(じょうか)と呼ぶ。
 形は乗り手によって、変化するとされている。
 属性が、現界では一般的となっている七大属性原素(ななだいぞくせいげんそ)ではなく、六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ/【変】、【幻】、【外】、【他】、【奇】、【妙】という属性名)の準属性であるという事が吟侍の【答えの力】でわかった。











016 ディアマンテ

ディアマンテ 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ディアマンテはブルー・フューチャーの一員で、16体もの怪物と同化している超戦士でもある。
 吟侍の大ファンであり彼のマニア。
 ブルー・フューチャー最強でもある彼女はこの後の冒険から同行したいと申し出てきた。


017 ヨスマミ

ヨスマミ 【30選定委員会】の序列27位(27番)の選考委員会に所属するメンバーの男性。
 【30選定委員会】はbQ、bRを決める公的機関の総称で、自分こそがクアンスティータに次ぐ存在だと主張する自称bQやbRが乱立するため、権威ある30団体がbQやbRの実力者を決める事を目的とした委員会が作られその名称となった。
 一般的には、自称bQよりもこの委員会に選ばれたbQの方が実力があるとされている。
 この選考委員からもれた影の実力者達を選考外強者(せんこうがいきょうしゃ)と呼び、それは確実に存在する。
 また、30選定委員会にも序列があり1から30番目まで、きっちり決まって、例えば30番の【30選定委員会】が決めたbQより29番の【30選定委員会】が決めたbQの方がよりbQに近いとされているという。