第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その8
01 第二、第三の大魔王の同時攻略
芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は女性陣達と共に第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドに来ている。
行動を共にしている女性陣達の名前は、ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
ステラ・レーター
フェンディナ・マカフシギ
エカテリーナ・シヌィルコ
片倉 那遠(かたくら なえ)
レスティーの6名だ。
今まで、ヒストリーエリアはシェリル姫のエリア、アルフォンシーナ姫のエリアとクリアをして、現在は最後の目的地、レティシア姫のエリアで7名の大魔王の攻略戦を最後の目的としている。
現在、勝利には至らなかったものの、エカテリーナが第一の大魔王ゾクズォークとの戦いを経験した状態となっている。
次は同時攻略を目指していて、第二、第三の大魔王にあたる、レティシア姫の両足を生け贄に求めた者達の攻略という事になる。
第二の大魔王はソナタが担当でレティシア姫の右足を生け贄としていた大魔王でその名をドゥースルという。
第三の大魔王はステラが担当でレティシア姫の左足を生け贄としていた大魔王でその名をコエーナという。
どちらの大魔王もかなりの部下を持っている。
第二の大魔王ドゥースルは大幹部5名、幹部6名、将30名、部隊長1028名が居て、兵の数は不明だ。
第三の大魔王コエーナは大幹部4名、幹部8名、将28名、部隊長1056名が居て、兵の数はやはり不明だった。
エカテリーナの時の様にたった一人で部下の相手をするというのは不安が残った。
エカテリーナは【不可能を可能にする力】が覚醒したため、どんどん倒していったが、ソナタとステラの能力でそれを可能にするものは無い。
それぞれ、【クティータ地方】でエカテリーナよりも多くの【クティータ】を吸収したが、それでも、やはり単独での戦いならともかく、複数の強者――集団を相手にするという部分ではあまり向いていないと言える。
だが、エカテリーナがそうであったように、ソナタとステラもエカテリーナには負けたくないと思っている。
エカテリーナに出来て、自分達に出来ないという事は認めたく無かった。
例え、元々、秘めた力に差があったとしてもだ。
その気持ちを答えの力で察した吟侍は、
「一網打尽に出来るってんなら、【答えの力】をつかって全部、一カ所に集めて見ようか?」
と聞いてみた。
ソナタとステラは悩む。
吟侍の【答えの力】の力を借りるのは何だか負けた気もするが、一カ所に配下が集まってくれるのであれば、まだ対処のとりようがある。
ソナタは、
「ちょっと考えさせて……」
と言って黙った。
吟侍は、
「スーちゃんはどうするんだ?」
と更に聞いてみた。
ステラは、
「私もちょっと考えたい……けど、決めた。お願いするわ」
と即答した。
このままではソナタの真似をしたという事になり、それも悔しいと思ったので、迷わず決めたのだ。
それを聞いたソナタも、
「待って、私もお願いするわ」
と言ってきた。
結局、ソナタとステラは吟侍とレスティーの【答えの力】の力を借りて、それぞれ、一カ所に集めて、一気に倒すという方法をとることにした。
多数対1名の一見無謀とも思える戦いに対し、ソナタが用意した切り札は、【外宇宙とのアクセス】の力を最大限に使って、可能な限りの強い存在を呼び出し、CV4の四つの声霊、ソプラノ、アルト、テナー、バスを全て呼び出し、四重操作でゴーレムとして操り戦うというものだった。
後は、アルフォンシーナ姫のエリアで契約した魔女を呼び出して、何とかすると言った感じの対抗策だ。
また、ステラの方は、未来の世界から持ってきた、切り札中の切り札を使って見る事にした。
それは、第五本体クアンスティータ・リステミュウムの力の一つ、【攻撃効果の詰め合わせ】の欠片だ。
未来の世界においてその猛威を振るったクアンスティータ・リステミュウムは、全く訳のわからない【謎の力】の他にもう一つ、脅威の力をステラ達全宇宙の連合軍に示していた。
それが【攻撃効果の詰め合わせ】だ。
これは、一度出したら目的を達成するまで、永遠に攻撃が繰り出されるという光の塊だった。
【攻撃効果の詰め合わせ】はターゲットになった集団を全て倒したため、その役目を終えたのだが、そのくすぶったエネルギーだけでもステラ達ではどうしようもない程、取り扱えない危険なエネルギーだった。
その危険極まりないエネルギーももしかしたら、吟侍の戦いのヒントになればと持ってきていたものを使う事にしたのだ。
今までは全く使えなかったが、少なくとも第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの力の極一部である【クティータ】の力を得ている今であれば、あるいは……という希望的観測だった。
【攻撃効果の詰め合わせ】の欠片があるので、ステラの方は魔女の力は借りない事にしようと思っている。
どちらの方も勝てる可能性を持っているので、それを試すことにした。
まずは、ソナタの方だ。
吟侍とレスティーによって第二の大魔王の配下は一カ所に集められた。
そこへ、シェリル姫の森で可能な限り、上位のモンスターを【外宇宙とのアクセス】で呼び出し、それをCV4の四大声霊、全ての力を使って超々ゴーレムとして操る。
また、魔女パウリーナと魔女ボティルダを呼び出し、戦力として戦ってもらった。
二名の魔女は勝てたのが不思議なくらい強力な力を持っていた。
怪物達に対して一騎当千いや、万、億の働きをして、次々と大魔王ドゥースルの配下を倒していった。
あまりの勢いで配下が倒れていくので、大魔王ドゥースルが出てきた。
さすがに大魔王を名乗っているだけあって、ソナタの力では勝てなかった。
大魔王ドゥースルの力は第一の大魔王ゾクズォークの力と同じ、力を創造する力を持っていた。
どうやらレティシア姫の四肢を生け贄とする大魔王達は全く同じ力を有しているようだ。
大魔王ドゥースルも大魔王ゾクズォークがそうしたように、ソナタの力に対抗する力を作り出した。
【外宇宙とのアクセス】の力に対して、【内なる宇宙とのアクセス】、CV4の四大声霊に対しても逆属性の四大声霊、魔女に対しても魔法使いを召喚し、対抗してきた。
ソナタは内に秘める女悪空魔マーシモの力の高揚感を煽る力も使ったが、それに対しても対抗策を錬られた。
ソナタでは、能力浸透度(のうりょくしんとうど)と能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)が完全に下回っているので、彼女もまた、勝つことが不可能と判断して、撤退を余儀なくされた。
一方、同時進行でやはり吟侍とレスティーの答えの力による誘導で、第三の大魔王、コエーナの配下を一カ所に集めてもらったステラは、最後の切り札とも言える【攻撃効果の詰め合わせ】の欠片に【クティータ】で得た力を注いで見たら、大爆発を起こした。
それは、もうヒストリーエリアどころか、セレークトゥース・ワールド全体を揺るがすような大爆発だった。
その火消しをしたのが【よそもの】だった。
正確には【よそもの】が送った極一部の力だ。
セレークトゥース・ワールドを維持させるために機能したのだ。
【攻撃効果の詰め合わせ】の欠片は使うべきではなかった。
やり過ぎだった。
――そう、第五本体の力は残りカスであっても、今のレベルを信じられないくらい大きく超える力でもある。
不用意に使うべき力ではないのだ。
【よそもの】フェーリアイアリーフェによる【次は無い】との厳重注意で済んだのは、ラッキーであるとも言えた。
あまりの膨大な力にショックを受けたステラは、
「もう、良い――私、戦いたくない……」
と言った。
一応、火消し作業で第三の大魔王、コエーナも出てきていたし、恐らくコエーナの力もステラに対抗する力を使うのではないかと推測できたので、これで良し──目的を達成したという事になった。
ショックが抜けきらないステラを吟侍がショップエリアに送っていった。
吟侍もフェーリアイアリーフェのショックをショップエリアの【ふんわりふわふわ】で回復してもらっている。
その回復力は折り紙付きだ。
ステラが回復する前に次の第四の大魔王を攻略しておこうという事になった。
02 第四の大魔王ズルジュール攻略戦
第四の大魔王はレティシア姫の左腕を生け贄としたズルジュールという名前の存在だ。
大魔王ズルジュールも力を創造する力を持っているはず。
対するは、二度目の挑戦となるエカテリーナだ。
大魔王ズルジュールの配下は、大幹部が4名、幹部が6名、将が27名、部隊長が1041名で兵の数は不明だ。
やはり、数が多い。
だが、エカテリーナには【不可能を可能にする力】がある。
この力を持ってすれば、大魔王ズルジュールの配下など物の数ではない。
問題は大魔王ズルジュールの方だ。
大魔王ズルジュールの実力は第一の大魔王ゾクズォークの実力とほぼ互角と思って間違いない。
能力も同じ能力を作り出す力とするならば、また、エカテリーナは勝てないという事になる。
同じ様な相手に同じように負けるのであれば、芸が無い。
勝てないまでも何らかの成果を得たい所だった。
そして、その成果を得るための秘策──というより、イメージを持っていた。
エカテリーナはオルオティーナより、【古き力】を4つ、もらっていた。
その内の一つが、【不可能を可能にする力】だ。
残る3つは不明だったが、その不明だった内の1つのイメージが彼女の元に降りて来たのだ。
それは、【未来予測再現の力】だ。
未来において起きる事をエカテリーナの手によって一時的に再現できるという能力になる。
大魔王ズルジュールの配下は、レティシア姫のエリアでの未来の設定で、彫刻のジュビアルに敗れるという事になっている。
つまり、それを過去に当たる現在の時間軸設定で再現しようという力だった。
早速【未来予測再現の力】を発動するエカテリーナ。
思った通り、この力も【古き力】の一つとして、ふさわしい力だった。
彫刻のジュビアルの戦いぶりを見事に再現した。
彫刻のジュビアルの戦い方は、レティシア姫のエリアの超自然を削り出し、デザインするというものだった。
それで、自分と同じ彫刻の戦士を作る事によって自身の戦力として戦うというものだった。
いくらジュビアルの力を得ているとは言え、作る彫刻の戦士のセンスはエカテリーナのものなので、ジュビアルのものよりもいくらか見劣りするものが出来上がっていたが、それでも、戦力としてはかなりのもの。
あっという間に大魔王ズルジュールの配下を一掃した。
そして、ついに、大魔王ズルジュールも引きずり出した。
予想通り、大魔王ズルジュールの力も力の創造だった。
エカテリーナの新能力、【未来予測再現の力】に対して、【過去無効の力】を再現する。
これは他には使えない力だが、エカテリーナの【未来予測再現の力】に対してのみ特化した力だった。
【未来予測再現の力】をことごとく無効にしていくという力であるため、ここでもやはり、能力浸透度と能力浸透耐久度の差がものをいう事になった。
この2つの度数ではエカテリーナは大魔王ズルジュールには勝てないので、やはり、撤退を余儀なくされた。
エカテリーナ達でさえ勝てない大魔王達に勝てる彫刻のジュビアルがいかに強いかも思い知らされた。
これで、4名の大魔王と勝負した事になり、残るは吟侍とフェンディナが担当する3名の大魔王となった。
03 クアンスティータ・セレークトゥース来訪
吟侍はステラの回復を待って、次のレティシア姫の腰を生け贄とする第五の大魔王、ドキンチョに挑戦するフェンディナのために答えの力で情報を集めた。
大魔王ドキンチョの配下は、大幹部15名、幹部43名、将95名、部隊長238名とこれまでの大魔王よりも数が多い。
兵の数は同じく不明だが、恐らく、それまでの4名の大魔王の兵の数よりも多いだろう。
さらに、大魔王ドキンチョには大幹部の上に最高幹部が3名いる。
兵の数などを見ても、これまでの大魔王よりも大物であるという事がわかる。
それを聞いてガチガチに緊張するフェンディナ。
彼女は元々、気が弱いので、今までの大魔王よりも強いと聞かされるとより緊張してしまうのだ。
このままの状態で挑戦させるには危険だと判断して、少し、落ち着かせる意味でもレティシア城の城下町から少し離れた別荘地に一度、寄ることにした。
そこで、気持ちを少し整理して、戦いに備えようという事だ。
フェンディナは、
「涼しくて良いところですね」
と、この別荘地を気に入った。
このままフェンディナの精神が落ち着くのを待っていれば彼女ならば、大魔王ドキンチョの勢力に対し、かなり善戦してくれるのではないかという吟侍の思惑があった。
が、別の緊張がその別荘地を訪れた。
オルオティーナである。
その胸には第一本体クアンスティータ・セレークトゥースを抱いている。
オルオティーナは、
「どんな感じじゃ?様子を見に来たぞ」
と言ってきた。
オルオティーナとしても吟侍達にセレークトゥース・ワールドへの入界を許可したものの、一度くらい様子を見に来なくてはと思ってやってきたのだ。
本来はオルオティーナだけでやってくるつもりだったが、ショップエリアで発売している【真似っこ吟ちゃん人形バージョン】でセレークトゥースをあやしていたので、セレークトゥースが吟侍に会いたがるそぶりを見せたので、共に連れてやってきたのだ。
現界ではそれほど、時は進んでおらず、現在はセレークトゥースをクアンスティータ・ファンクラブなどにお披露目している最中ではあったが、セレークトゥースは身体を自由に分離させる事が出来るので、同時進行で、セレークトゥース・ワールドに遊びにこさせたのだ。
オルオティーナもまた、クアンスティータの摂政(せっしょう)をしている役割があるので、何かと忙しい。
なので、古き力の【不可能を可能にする力】で身体を分離させてやってきている。
エカテリーナの古き力は元々、オルオティーナの力である。
こちらの方が本家と言えるのだ。
基本的にオルオティーナは新たな力を得ているため、古き力を使うことは少なくなったが、必要に応じては使う事もまだあった。
クアンスティータは、
「だぁだ、だぁだ……」
と言った。
まだ、上手くしゃべれないのだ。
そういう意味では生まれてすぐにしゃべれるようになった姉であり兄でもあるクアースリータの方が優秀であると言える。
クアンスティータが【量】を司る化獣(ばけもの)であるように、クアースリータは【質】を司る化獣であるため、細かい部分で、クアンスティータよりも優れている部分を持っている。
クアンスティータはどうしようもない程、強大なパワーや量を持っている化獣だ。
しかし、コンパクトな精度で言えば、クアースリータの方が勝っている部分もあるという事だ。
フェンディナはショックでまた、生き残ろうという本能から色んなものが一気に再覚醒した。
それを見たオルオティーナは、
「そこの娘(フェンディナの事)、そう、構えるな。妾達は遊びに来ただけじゃ」
と言った。
やはり、怪物ファーブラ・フィクタと違い、オルオティーナは穏やかな面も持ち合わせているようだ。
むやみに戦闘をしようという性格ではないのだ。
吟侍は、
「そうだぜ、フェンディナ。ビクつくこたぁねぇ。セレークトゥースを連れて遊びに来てくれたんだと思えば良い。よ、久しぶりだな、セレークトゥース――って言っても現界じゃ全然時間が経ってねぇのかな?じゃあ、ちょっとぶりだな、元気にしてたか?」
と言った。
フェンディナは、
「す、すみません……」
と何故か謝った。
別に謝る事ではないのだが、困ったらとにかく謝るという性格の彼女ならではの反応と言える。
セレークトゥースは、
「ぱんぱ、ぱんぱ……」
と言った。
どうやら、パパと言いたいらしい。
怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の内の一つが人間に転生したのが吟侍であるため、セレークトゥースは父親と同じ感覚で接してくるのだ。
吟侍は、
「おー、よちよち――高い高いしてやろっか?」
と言った。
それを聞いたオルオティーナは、吟侍にセレークトゥースを手渡した。
吟侍は、
「そーら、高い、高ぁーい」
とセレークトゥースを抱えた腕を上げたり下げたりした。
セレークトゥースは、
「きゃっきゃっ」
と喜んだ。
こうしてみると普通の赤ん坊と変わらない。
だが、その赤ん坊は、全宇宙を恐れさせた最強の化獣なのだ。
少しでも扱いを誤れば、破滅の道をたどる事もあり得るのだ。
そんなセレークトゥースだが、吟侍はこの子も含めて、全てのクアンスティータを教育――つまり育てて行きたいと考えている。
他の存在と共に生きていくには、教育が絶対に必要不可欠だと思っている。
相手は吟侍を簡単に消せる力を持った化獣だ。
それが可能かどうかは解らない。
それに、吟侍の教育に対して、しゃしゃり出てくるなと反対する存在も少なからず、いや、かなり多くいるだろう。
吟侍がクアンスティータを自分の都合の良い様にコントロールしようとしていると思う者も出てくるだろう。
そう思われても仕方ないが、それでも、クアンスティータの方にまず世の中に合わせてもらわないと宇宙は簡単に壊れてしまう。
それは、セレークトゥース・ワールドを冒険して来て嫌という程、肌身にしみて思い知らされた。
クアンスティータをそのままにしておくのは危険過ぎる。
クアンスティータに邪心が無くとも、その力にすがる者の邪心で世は破滅に向かって進んでくる可能性が非常に高い。
強すぎるという事はそれだけで危険だった。
だから、せっかく遊びに来てくれたことだし、この機会にクアンスティータには少しでも吟侍自身の事を気に入ってもらおうと思った。
吟侍は続けて、
「いない、いない、ばぁ」
と言ってあやす。
ただのいない、いない、ばぁではない。
ルフォスの化身体を使って、顔の部分だけ、全く異なるものに作り替えてのいない、いない、ばぁだ。
可能な限りのとびっきりおかしな表情の顔を作り出して顔を手で隠している内にどんどん入れ替えて、セレークトゥースに見せて行った。
セレークトゥースは、
「んー、ぱんぱ、ぱんぱ」
と言った。
言っている事はよく解らないがとにかく喜んでいるようだ。
吟侍はこうやって人間の赤ん坊をあやす方法にアレンジを加えてあやしていった。
時には膝の上に乗せたりもして精一杯、あやす。
対して女性陣達は、
「………」(エカテリーナ、レスティー)
「こ、こわ……」(那遠)
「ちょ、ちょっと」(ステラ)
「あ、あの……」(フェンディナ)
「カチカチカチ(怯え)……」(ソナタ)
と、引き気味だった。
見た目は赤ん坊をあやしているだけだが、あやしているのは人間の赤ん坊ではなく、自分達がさんざん怖い思いをさせられたセレークトゥース・ワールドを所有する強大過ぎる超化物なのだ。
だが、吟侍は、
「何してんだ、みんな、赤ちゃんあやすなら、みんなの方が得意なんじゃねぇのか?前に、女子トークというやつで子供がどうのこうのと話してたじゃねぇか」
と言って、手招きした。
それを受けて、恐る恐るセレークトゥースに近づいて来る女性陣。
それを見たセレークトゥースは、
「あうわう……」
と言った。
その言葉に後ずさる女性陣。
見た目は赤ちゃんでも、もの凄く怖いのだ。
だが、セレークトゥースは、
「だ、だぁ……」
と言ってフワフワ浮きながら女性陣の元に寄って来た。
セレークトゥースの方も吟侍が心を許している女性陣達と遊びたいのだ。
ソナタはエカテリーナに向かい、
「ちょっと、エカテリーナ、あんた行きなさいよ。いつも強がってんだし、代表として」
と言った。
エカテリーナは、
「な、何を言うか貴様……」
と反論しようとしたが言葉が出ない。
予想以上にうろたえているのが自分でもわかった。
それを見た吟侍が、
「良いから、お前さん達、触ってみろよ。結構、可愛いぜ」
と言った。
それを聞いたオルオティーナが、
「何を言う。結構ではなく、ものすごく可愛いの間違いであろう?」
と訂正した。
吟侍は、
「そうだな。かなり可愛い。いとおしいくらいだ」
と言った。
それを見て、最初に手を出したのが、
フェンディナだった。
クアンスティータの小さな手を取り
「あ、あの……クアンスティータさん。よ、よろしく、お願いします。わ、私、フェンディナ・マカフシギと申しまして……」
と言った。
赤ちゃん相手に何を言っているんだ?とも思うが、女性陣で一番最初に手を取ったという事でもその勇気は称えるべきであろう。
フェンディナは、クアンスティータの小さな手を握り、
「ち、小さくて、可愛い……です」
と言った。
その言葉が引き金となって、他の女性陣達も恐る恐る近づいて来た。
「よ、よろしくね、私、ソナタ・リズム・メロディアスって言って、皇女やらせてもらってて……」(ソナタ)
「よ、よろしく頼む。妾はエカテリーナじゃ」(エカテリーナ)
「す、ステラ・レーターよ。未来じゃあなたの敵をやっているんだけど、今の時代じゃどうだか、ちょっとわからないから一応、挨拶しておくわ」(ステラ)
「レスティーよ。よろしくね、おちびちゃん」(レスティー)
「どどど、どうも御贔屓(ごひいき)にさせてもらってます片倉 那遠と申しまして……」(那遠)
と口々に挨拶をした。
レスティーだけは赤ちゃんに対しても有効な挨拶と言えるが他の女性陣は赤ん坊に対する挨拶ではないなと吟侍は思った。
だが、打ち解けてくれるのならばそれも良いかと思うのだった。
吟侍が考える未来はこうだ──
クアンスティータには力を制御するなりしてもらわなければならない。
だが、それだけではだめだ。
受け入れる側──吟侍達もまた、変わらなければならない。
吟侍は別として、女性陣達も他の存在と同じようにクアンスティータに対して必要以上に恐怖を感じている。
それも何とかしなくてはならないと思っていた。
とにかく、このセレークトゥースとの戯れがその第一歩──そう考えていた。
これがきっかけで、吟侍達7名は、オルオティーナとセレークトゥースと共に、別荘地での時を過ごすのだった。
しばらくして、オルオティーナ達が帰る事になった。
オルオティーナは、女性陣達の方を見て、
「お前たち、これを進呈しよう」
と言って、女性陣達に一つずつ何かを手渡した。
それはクアンスティータ・パスポート・ミニ(QPM)、吟侍の所有しているクアンスティータ・パスポート(QP)の簡易版だった。
ステラは、
「これは?」
と聞いた。
オルオティーナは、
「お前たちはこのままでは吟侍殿の金魚の糞と一緒であろうからな。吟侍殿の動きに合わせて行動するのでは何かと不便であろう。吟侍殿の許可が必要だが、許可が得られれば、自由にセレークトゥース・ワールドを行き来できる上に、単独行動も出来るというものだ。他にも多少、制限があるが、ある程度の行動はこのセレークトゥース・ワールドにおいては認められるという事になる。資金を稼ぐこともな」
と言った。
つまり、ある程度の制限付きで、セレークトゥース・ワールドを自由に行動できるようになったのだ。
これは大きいと言える。
今まではいざという時は吟侍に頼るしかなかったが女性陣達の自分の判断である程度、行動できるようになったいうお墨付きをもらったのだ。
セレークトゥースはまだ、赤ん坊なので、その代わりにセレークトゥース・ワールドの管理者をやっているオルオティーナにそれを渡されたという事はそういう意味である。
ソナタは、
「いやったぁ〜」
と皇女らしからぬ喜び方をしたが、オルオティーナは、
「ある程度のルールが守れなんだ時は没収じゃからな」
と付け加えた。
だが、この事はこのセレークトゥース・ワールドに来て最大の収穫と言ってよかった。
オルオティーナは、
「では、妾達はこれで失礼するぞ」
と言い、セレークトゥースは、
「ばぁいば、ばぁぃば……」
と言った。
どうやらバイバイと言いたいようだ。
吟侍は、
「おう、またな。いろいろ、サンキューな」
と言った。
女性陣達も
「また、遊ぼうね」(ソナタ)
「またね」(ステラ)
「楽しかったよ」(レスティー)
「うむ、悪くはなかった」(エカテリーナ)
「お別れは寂しいですぅ」(那遠)
「ありがとうございました」(フェンディナ)
と続いた。
オルオティーナとセレークトゥースが帰るころにはすっかり打ち解けて仲良くなっていた。
オルオティーナとセレークトゥースと仲良くなれたという事はフェンディナの自信にもつながった。
フェンディナの震えもなくなったので、本来の目的──大魔王ドキンチョ討伐に向かう事にした。
04 第五の大魔王ドキンチョ攻略戦
ソナタ、ステラ、エカテリーナの担当とする大魔王攻略も終え、女性陣の中ではフェンディナが担当する第五の大魔王ドキンチョの攻略戦を残すのみとなった。
後は、吟侍が担当する第六、第七の大魔王を攻略すれば、吟侍達はクアンスティータ・パスポートを使って現界に帰る事になる。
帰りは、ミニとは言え、女性陣達もクアンスティータ・パスポートを所持しているので、自分のタイミングで現界に戻れる事になる。
これまでの成果を考えると十分、セレークトゥース・ワールドでの目的を果たしたと言えるだろう。
後は、残る3名の大魔王戦を無事に帰る事だけだ。
自信を持ったフェンディナの行動も早かった。
彼女の両目に秘めた2つの存在──右の瞳のフェルディーナと左の瞳のフェナクティーナを同時解放させて、大魔王ドキンチョの配下を次々と一掃していった。
あっという間に部隊長238名を全滅させたかと思うと将95名、幹部43名と余りの早さにびっくりするほどのスピードで倒していった。
勢いをつけすぎて、大幹部15名が一斉に現れ攻撃してきたが、覚醒状態のフェンディナの敵ではなかった。
本来の力を出せてさえいれば、こんなにも強いのだと思わせるのに十分な働きをしていた。
そして、ついに最高幹部3名を出させたのだった。
この最高幹部達は大魔王程の能力浸透度と能力浸透耐久度を持ち合わせている訳ではないが、これまでの大魔王と同じく、能力を作り出せる力を持っている。
そういう意味では今まで吟侍チームが負け続けていた能力の保持者との戦いという事になる。
最高幹部を倒したからと言って大魔王討伐とはならないが、ソナタ、ステラ、エカテリーナのリベンジマッチとしてはこれほど適した相手はいない。
この能力を攻略して最後は勝って締めくくりたいものだ。
だが、相手は3名で連携して攻撃してくる。
決して、油断はできない相手と言えた。
それでもフェンディナは負けるつもりなどない。
右の瞳のフェルディーナと左の瞳のフェナクティーナの力は元々多才なフェンディナの能力を強化したものだ。
フェンディナと連動して、攻撃する事により、その威力は更に増す。
能力浸透度と能力浸透耐久度も一時的に遥かに跳ね上がる。
そして、それは、フェンディナの能力が敵に通用するという事を意味していた。
最高幹部3名の連携対フェンディナ、フェルディーナ、フェナクティーナの連携の連携対決はフェンディナ達の方に軍配が上がった。
ついに、対抗能力を作り出していた能力創造能力に打ち勝ったのだった。
続けて現れた本命──大魔王ドキンチョに負けてしまったのはご愛敬と言った感じだ。
大魔王ドキンチョの能力は、すべての能力の無効。
能力と名の付く力は全て無効、無力となる。
クアンスティータの宇宙世界では能力に分類される力以外の力も多数存在するため、大したことはないが、能力という部分にとらわれた力しか使えないフェンディナでは相性が悪かったと言わざるを得なかった。
だが、能力を作り出せる力を持つ存在に勝てたというのは大金星と言って良かった。
大魔王達に対しては全て全敗という事にはなってはいるが、大魔王を倒すのは彫刻のジュビアルに任せればそれで良いのだ。
フェンディナの担当も終わったので、後は真打ち吟侍が担当する2名の大魔王攻略戦を残すのみとなった。
05 第六の大魔王チャンチャラ攻略戦
吟侍は答えの力でレティシア姫の胸を生贄とする第六の大魔王であるチャンチャラの配下を調べた。
それによると大幹部20名、幹部56名、将126名、部隊長549名と第五の大魔王ドキンチョの配下よりもさらに多い。
大魔王ドキンチョの様に最高幹部も存在し、その数は6名とその倍になっている。
兵の数は相変わらず不明だが、大魔王ドキンチョのものよりもさらに多い事はまず間違いないだろう。
兵の数が全てではないが、それだけでも、大魔王チャンチャラが大魔王ドキンチョを上回る実力者だというのは推測できる。
とは言え、吟侍も女性陣達よりもずっと大きな成長をしている。
なので恥ずかしい戦いはできない。
少なくとも配下の全滅くらいはやり遂げないと面目が立たないだろう。
答えの力であれば、誘導して大魔王チャンチャラの配下を一カ所に集める事も出来るだろう。
だが、それは今回やらない事にした。
代わりに吟侍は一度、試して失敗した事をためそうとしていた。
それは怪物ファーブラ・フィクタの力でもある【離れた位置に居る仲間を全て一掃する力】だ。
怪物ファーブラ・フィクタは、どこに散らばっていようともある共通点を見つけて、それで敵の仲間、全てを倒す力を持っている。
前回試した時は、能力浸透度不足でだめだったが、大魔王チャンチャラに挑戦する前に出来るだけの自身への強化はしてきた。
【クティータ地方】へも行き、実に186万以上の【クティータ】を溶け込ませる事もした。
それだけではない。
セレークトゥース・ワールド内で思いつく限りの強化を試してきたのだ。
出来る出来ないではない──やり遂げるために出来る全てをやってきたのだ。
吟侍は弓と矢を作り出し、矢に全てのエネルギーを込める。
そして、最初に向かってきた大魔王チャンチャラの配下の兵に向かって矢を解き放つ。
──が、次の瞬間、吟侍は力を緩めた。
その矢は大魔王チャンチャラ軍どころか、レティシア姫のエリアを全滅するだけの力を持っていたからだ。
エリアをつぶしてしまってはどうしようもないと思って手加減したのだ。
そのせいで、大魔王チャンチャラの配下は全滅したが、大魔王チャンチャラは存命しており、倒すに至っていない。
ステラの様にやり過ぎてしまったら、【よそもの】フェーリアイアリーフェの粛清が待っている。
今の吟侍ではフェーリアイアリーフェに出て来られたらその瞬間にアウトだ。
なので、自分で、力を制御したのだ。
幸い、タブーには当たらないと判断されたのか、事なきを得た。
どうやら、吟侍は思っていた以上に強くなりすぎていたようだ。
吟侍は大魔王チャンチャラの存在だけを確認して、攻略を諦めた。
06 第七の大魔王トンデェモネー攻略戦
続けて、吟侍はレティシア姫の首を生贄とする第七にして最強の大魔王、トンデェモネー攻略を目指すのだった。
大魔王トンデェモネーの勢力としては、最高幹部、13名、大幹部54名、幹部102名、将600名、部隊長12000名とこれまでの最高数だ。
兵の数は不明となっているが、それも恐らくは最高数を示すだろう。
それだけの数をもってしても今の吟侍であれば、先ほどの大魔王チャンチャラの配下を一掃した時と同じ力で、全滅させられるだろう。
そして、同じように手加減が必要で、やり過ぎれば【よそもの】フェーリアイアリーフェに終わりを宣告される事になる。
強くなりすぎたとは言っても吟侍はセレークトゥース・ワールドでは下から数えた方が早いというレベルに過ぎない。
同じ下の位のプリンセスのエリアでもレティシア姫のエリアの勢力を大きく上回るエリアは掃いて捨てる程、腐る程、存在するのだから。
吟侍のレベルではそれでもまだ、中の位にすら届いていないと言える。
びっくりするほど、強くなっても、セレークトゥース・ワールドでは大したことが無いと言う事が多い。
ステラによる、第五本体クアンスティータ・リステミュウムの力──【攻撃効果の詰め合わせ】の大爆発事件が起きたことによって、セレークトゥース・ワールドの自己防衛本能機能が作動し、セレークトゥース・ワールドは更にとてつもなく強化された。
ヒストリーエリアだけをとっても上と中の位のプリンセスのエリアの間に、新たなる位が出来ている。
もはや、上中下の位分けは意味をなさなくなっている。
そういう意味では吟侍達の行動がクアンスティータの所有する宇宙世界の力をさらに上げたと言っても良い。
クアンスティータの宇宙世界に刺激を与え続ける限り、吟侍達はいつまでも下の位をチョロチョロしていることになるのだろう。
それだけ、クアンスティータとは通常の存在が手の届かない存在であると言える。
吟侍はまた、弓と矢を作り出す。
今度は最初から力をある一定に制御している。
つまり、手加減をしている。
その矢の力は的確に大魔王トンデェモネーの配下だけを倒した。
そして、大魔王チャンチャラの時の様に、大魔王トンデェモネーの顔だけ確認して、攻略は諦めた。
本来であれば、大魔王を1名も攻略していないのだから、自由な通行許可は得られないのだが、最後に挑戦した吟侍が十二分に大魔王討伐の可能性を持っていたという事が評価され、レティシア姫のエリアの通行許可ともなるハンコが押されるのだった。
こうして、シェリル姫、アルフォンシーナ姫に続いて、レティシア姫のエリアへの自由な行き来が可能となった。
レティシア姫のエリアのクリアにより、これで、セレークトゥース・ワールドでの目的は全て果たしたことになった。
吟侍達は誰一人、欠ける事なく、たくさんのお土産と多くの力を得て、セレークトゥース・ワールドを後にすることになる。
だが、このままでは戻れない。
今の吟侍達は余りにも強くなりすぎた。
戻る前に力の制御の事を解決していかないと戻れない。
戻ったとたんに現界を破壊してしまったら、笑い話にもならないのだから。
ちゃんと現界とセレークトゥース・ワールド内での力の配分を変えていかなければならないのだ。
吟侍達はショップエリアに戻った。
07 繭蛹卵(けんようらん)
吟侍達はショップエリアのぴょこたんのお店に立ち寄った。
ぴょこたんのお店で、吟侍達が現界に戻れるようにパワーなどを調節する必要があるからだ。
ぴょこたんは、
「おつかれさまでちゅ。どうやら、もくてきははたしたようでちゅね」
と言って出迎えてくれた。
吟侍は、
「まぁな。いろいろあったが楽しかった。だけど、一度、現界に戻らないといけねぇ。ルフォスも音信不通のままだし、色々解決したい事とかも出てくるだろうしな」
と言った。
ぴょこたんは、
「そのままだとかえれないでちゅよ」
と言い、吟侍も
「解ってる。そんな訳で力の調整とか頼みてぇんだ」
とぴょこたんに自分達の力の制御をお願いした。
一口に力の制御と言っても簡単にはいかない。
どこの力が現界を破壊するかわからない以上、身体の隅々までチェックをする必要があった。
吟侍は一度、すでに【真似っこ吟ちゃん】の商品化に伴い、自身の生体データをぴょこたんに見せてはいるが、女性陣達は初めてだ。
全てをさらすという事は恥ずかしい事でもある。
女性陣達が納得してくれるかどうかの問題もある。
だが、これに首を縦に振ってもらわないと、現界には危なくて戻せないのだ。
それは、一番力の弱い那遠についても例外ではない。
彼女ですら、簡単に銀河を揺るがすような力を得てしまっているのだ。
力の制御無しにはもはや、現界でまともに暮らすことも出来ない。
もう、ただの人間ではなくなってしまっているのだ。
少なくとも吟侍達は全員、クアンスティータの力を極一部であるが、身に着けてしまっている。
クアンスティータの力の危険性はセレークトゥース・ワールドで嫌と言うほど体感してきている。
異常に頑丈なセレークトゥース・ワールド内ですら危険なのだ。
そのままでは現界に戻れない事は容易に想像がつくことだ。
なので、女性陣達も薄々は勘づいている。
だが、はっきりと吟侍の言葉を待っている。
このままでは戻れないとはっきり言って欲しいのだ。
吟侍は覚悟を決めて、その事を出来るだけ丁寧に説明した。
女性陣達は、
「それは解っているわ」(ステラ)
「だけど……」(レスティー)
「責任とってくださいね」(那遠)
「そうね」(ソナタ)
「そうじゃな。きっちり全員の責任、とるんじゃぞ」(エカテリーナ)
「そうですね」(フェンディナ)
との反応だった。
それを聞いた吟侍は、
「え?責任って?」
とたじろいだ。
「これからもよろしくってことよ」(ソナタ)
「そうじゃ」(エカテリーナ)
「そうね」(ステラ)
「そうそう」(レスティー)
「そうですね」(フェンディナ)
「そうですぅ」(那遠)
と女性陣は言った。
女性陣達は全員、吟侍にはカノンという恋人が居る事が解っている。
だから恋人同士にはなれないかも知れない。
だけど、このセレークトゥース・ワールドの冒険を通して築いた絆の様なものは恋人であるカノンも得られなかった貴重な体験だ。
何度も命の危険に合うような大変な旅だったが、この時の思い出があれば彼女達は前向きに生きていける。
そんなちょっと切ない乙女心があった。
そんな思いに気づかない鈍い吟侍は、
「ま、まぁ、それで良いのなら……?こっちこそよろしく」
と手を差し出した。
それを見て、吟侍のニブチンぶりに少し腹を立てた女性陣達は、
「それ、もみくちゃにしてやれ」(ソナタ)
「こちょこちょこちょ」(レスティー)
「覚悟を決めい」(エカテリーナ)
「おしおきです」(フェンディナ)
「相変わらず、鈍いなぁ」(ステラ)
「吟侍さんらしいです」(那遠)
と言って、吟侍に襲い掛かった。
吟侍は、
「ちょ、ちょっと待ってって、なんなんだ、みんなぁ〜」
とくすぐられるのを理解できないでいた。
それを見ていたぴょこたんは、
「あいかわらず、おかちなひとたちでちゅねぇ〜」
と我関さずを決めていた。
紆余曲折、色々あったが、吟侍達7名は身体の隅々までチェックされ、現在の力を現界で制御する施しを受けたのだった。
吟侍達がセレークトゥース・ワールドで得たアイテム等はほとんどセレークトゥース・ワールドに置いていく事にした。
これらのアイテムは現界においては凄すぎるアイテムで争いを生むきっかけともなり得る危険なものでもある。
悪用される事を避ける意味でもセレークトゥース・ワールドにおいていこうという事になった。
それで、あまり、凄すぎないアイテムを2、3点ずつ持ち帰る事にした。
帰る時になって、吟侍はぴょこたんに挨拶をする。
「んじゃ、またな、ぴょこたん。他のみんなにもよろしく伝えておいてくれ。いつかまた、戻ってくるつもりだ」
と言った。
ぴょこたんは、
「いつでもおまちしてまちゅ。おみせをおおきくちてまっていまちゅ」
と返した。
その瞳からは涙のようなものがにじんでいるように見える。
愛や恋などには全く疎(うと)いぴょこたんだが、お別れして寂しいという気持ちはちゃんとあるのだ。
吟侍は、
「泣くなって──ぴょこたん、永遠の別れってわけじゃないんだからさ」
と言って励ました。
背後で見ていた女性陣達もちょっと、もらい泣きしている。
ちょっと切ない気持ちになったが、吟侍達7名は現界に戻った。
戻ってみると、クアンスティータ誕生事件からほとんど時間が経っていなかった。
長く感じられた吟侍達のセレークトゥース・ワールドでの冒険は現界での時間軸ではほとんど一瞬に近い冒険時間に過ぎなかった。
周りを見渡してみると、まだクアンスティータの誕生の影響で宇宙全体が慌てているのが答えの力で感じ取れた。
吟侍は、
「ただいま、現界──さて、立て直しますか」
と言った。
吟侍のそばには彼とは別口で(クアンスティータ・パスポート・ミニで)現界に戻って来た女性陣達もいた。
吟侍達は全員、現界用にパワー等を再調整されている。
さんざん吸収してきた【クティータ地方】での【クティータ】のパワーもない。
あれらの力は現界においてはかえって邪魔になる事の方が多いのだ。
今の吟侍達はセレークトゥース・ワールドでの状態よりも遥かに弱い。
だが、それでいい。
それでも、この現界においては十分すぎるくらいの力を持って帰って来ているのであるのだから。
一方、クアンスティータ・セレークトゥースのお披露目を行っている場所では異変があった。
オルオティーナは、
「ば、馬鹿な……早すぎる──何を考えておる、あ奴め……」
と言った。
【あ奴】とはクアンスティータ・セレークトゥースの実の父親、怪物ファーブラ・フィクタの事を指す。
何が起きたか──
それは誕生したばかりのクアンスティータ・セレークトゥースが、繭(まゆ)の様な、蛹(さなぎ)の様な、卵の様な状態になって行ったからだ。
この状態を繭蛹卵(けんようらん)と呼び、今の状態で言えば、第二本体、クアンスティータ・ルーミスが誕生する準備が始まったことを意味するのだ。
これから、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースは繭蛹卵の状態になり眠りにつくことになる。
そして、第二本体クアンスティータ・ルーミスの誕生に合わせて、生まれ直すのだ。
その時のセレークトゥースの力はルーミスの力に引っ張られ、現在のものよりも遥かにとんでもなくアップする。
クアンスティータは誕生と繭蛹卵の状態を繰り返し、よりさらに強くなっていく存在なのだ。
だが、本来の歴史では、セレークトゥースが繭蛹卵になるのはずっと先の事であるはずだった。
未来を見通せるオルオティーナにはそれが解っていたはずだった。
だが、実際には、遥かに早くセレークトゥースが繭蛹卵になってしまっている。
それは、怪物ファーブラ・フィクタが時計の針を進めようと行動している様にも見えた。
それで、オルオティーナが慌てたのだ。
オルオティーナは吟侍の元に使いを出す。
怪物ファーブラ・フィクタが何かを企んでいる様だから用心しろと伝えるためにだ。
何かが本来の歴史と大きく変わってきてしまっている。
これからの未来において何が起きるかは誰にもわからない。
だが、吟侍の宿敵?かもしれない第五本体、クアンスティータ・リステミュウムの誕生時期もまた、それだけ早まったという事を意味している。
風雲急を告げる──
そんな予感がしたのだった。
何かが大きくうねり、動き出そうとしている。
一難──いや、百難去って、また、百、千、万難──
事態がより困難な方向に向けて進んでいた。
人や神、悪魔に強い恨みを持つ、怪物ファーブラ・フィクタは第二のニナであるニナ・カエルレウスと接触をしている。
ニナ・カエルレウスはすでに第二本体、クアンスティータ・ルーミスを身ごもっている。
ニナ・カエルレウスは現在、別の名前で潜伏している。
一般の存在では手の届かない場所に匿われている。
だが、それがどこだかは吟侍の答えの力をもってしてもわからない。
怪物ファーブラ・フィクタが妨害しているのだ。
魂では単純計算して7倍の魂を持っている怪物ファーブラ・フィクタの方が吟侍よりも能力浸透度と能力浸透耐久度が上回っている。
セレークトゥース・ワールドで得て来た力を使えばとも思うが、その力は現界ではまともに使えない。
状況は怪物ファーブラ・フィクタの有利に働いていると言って良かった。
だが、セレークトゥース・ワールドを生き抜いて来たという自信を吟侍達は持っている。
セレークトゥース・ワールドでの圧倒的すぎる困難に比べれば、怪物ファーブラ・フィクタのちょっかいなど、大したことのないようにも思える。
吟侍達は諦めない。
未来を作るために、現界に戻って来たのだから。
続く。
登場キャラクター説明
001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
敵からすると最も厄介な勇者である。
ウェントスでの救出チームに参加する。
【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。
002 ルフォス
吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。
003 ソナタ・リズム・メロディアス
ウェントス編のヒロインの一人。
吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
吟侍の事が好きだが隠している。
メロディアス王家の第六王女でもある。
王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。
004 フェンディナ・マカフシギ
3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。
005 エカテリーナ・シヌィルコ
風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。
オルオティーナに貰った4つの古き力の一つである【不可能を可能にする力】を会得する。
006 ステラ・レーター
未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。
007 レスティー
吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。
008 片倉 那遠(かたくら なえ)
吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
地球出身でもある。
009 クアンスティータ・セレークトゥース
ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
現在は自我も確立されていない状態。
今回、急速な状態で繭蛹卵(けんようらん)という状態になり眠ることになる。
010 ぴょこたん
吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
吟侍とは共同経営者という立場になった。
011 気象現象クティータ
セレークトゥース・ワールドにおける【クティータ地方】に降り積もる気象現象の一つ。
その光を集めて固めるとクアンスティータ・セレークトゥースにそっくりな小さな生命体となる。
それを【クティータ】と呼び、遊んであげて気に入られれば、その者の力として溶け込んできてくれるというもの。
クアンスティータの力の欠片とも呼ばれている。
012 第二の大魔王、ドゥースル
ソナタが戦う事になったレティシア姫の右脚を生け贄とした大魔王。
能力を作り出せる力を持っていてソナタに対抗する力を作り出す。
013 第三の大魔王、コエーナ
ステラが戦う事になったレティシア姫の左脚を生け贄とした大魔王。
能力を作り出せる力を持っている。
014 【よそもの】フェーリアイアリーフェ
第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドを陰から見守る【よそもの】とされる超々高等存在の一つ。
その出現は対処のとりようのないダメージを全ての存在に与えるとされ、出現=宇宙世界の崩壊を意味する。
015 第四の大魔王、ズルジュール
エカテリーナが戦う事になったレティシア姫の左腕を生け贄とした大魔王。
能力を作り出せる力を持っていてエカテリーナに対抗する力を作り出す。
016 オルオティーナ
エカテリーナに力を与えた存在であり、クアンスティータの乳母でもある存在で摂政(せっしょう)でもある。
赤ん坊であるクアンスティータ・セレークトゥースの代わりにセレークトゥース・ワールドの管理者も任されており、今回、様子を見に来た。
女性陣達にクアンスティータ・パスポート・ミニを渡す。
017 第五の大魔王、ドキンチョ
フェンディナが戦う事になったレティシア姫の腰を生け贄とした大魔王。
能力を全て無効、無力にする力を作り出す。
018 第六の大魔王、チャンチャラ
吟侍が戦う事になったレティシア姫の胸を生け贄とした大魔王。
それまでの大魔王より強大な力を持つ。
019 第七の大魔王、トンデェモネー
吟侍が戦う事になったレティシア姫の首を生け贄とした大魔王。
レティシア姫のエリアの大魔王の中では最強の力を持つ。
020 レティシア姫
第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
呪いを受け身体の七カ所が陶器に変わっていってしまうお姫様。