第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その7

ウェントス編第004−07話挿絵

01 レティシア姫のエリアでのゴール設定


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は女性陣達6名と共に第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドに来ている。
 共に訪れた女性陣は、ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーの6名だ。
 吟侍も女性陣達もこのセレークトゥース・ワールドでの冒険で、かなりの大幅スキルアップを果たしている。
 現界に戻れば、殆ど無敵状態ではないかと思えるくらいのレベルアップを果たしている。
 これは、【ぴょこたん】に言われたのだが、現界に戻る前に身体にかなりの制御をして戻らないと大変な事になると言われている。
 セレークトゥース・ワールドでの通常活動は現界においてはそのままでは一切、通用しない。
 極端に繊細な動きをしないと現界はすぐに壊れてしまうのだ。
 クアンスティータに関わるという事はそういう大きな力を手にしたという事も意味しているのだ。
 それでもなお、吟侍達はセレークトゥース・ワールドでは下から数えた方が早い雑魚レベルであると言える。
 それは、吟侍達が弱いと言うよりもセレークトゥース・ワールド全体のレベルが尋常ではないくらい高すぎるというのもある。
 この宇宙世界では、現界であれば、宇宙崩壊レベルの力が小枝一本折れないという状態でしかない。
 破壊的な力に対する圧倒的過ぎる抵抗力と摩擦力を持つ、セレークトゥース・ワールドでは出来事一つ一つが驚きの連続だった。
 これだけたくさん起きれば、驚きにも慣れるかと思うとそうでもない。
 更にそれを上回るような驚きが次々と目の前に現れるのだから。
 吟侍達を軽く食ってしまうような存在がさらっと現れるのも特徴だ。
 そこいら中、吟侍達を凌駕する存在にあふれている危険地帯――それが、セレークトゥース・ワールドである。
 そんなセレークトゥース・ワールドでの冒険も残す所、後1つ。
 レティシア姫のエリアを回れば、吟侍達はQP(クアンスティータ・パスポート)で現界へと戻る。
 レティシア姫のエリアを回ったからセレークトゥース・ワールドの全てを感じ取る事が出来るかというと、それは全く違う。
 セレークトゥース・ワールドは余りにも大きく、そして、強すぎる。
 吟侍達はヒストリーエリアのプリンセスのエリアをまだ2つしか回っていないのに、かなりの大冒険をしたような感覚だった。
 例え、3つ目のレティシア姫のエリアを回ったからと言って、下の位のプリンセスのエリアを3つ回っただけに過ぎないのだ。
 吟侍達がセレークトゥース・ワールドを理解するにはまだまだ、たくさんの事をしていかなければならない。
 だが、セレークトゥース・ワールドにいつまでもいる訳にはいかない。
 現界ではクアンスティータとクアースリータの誕生事件で混乱しているはずなのだ。
 その状況を見過ごす訳にはいかない。
 安定を取り戻すために吟侍達も何かと動かねばならないかも知れないのだ。
 だから、セレークトゥース・ワールドでの冒険はここまでと一旦、区切ったのだ。
 有終の美を飾る意味でも、最後のレティシア姫のエリアで何らかの爪痕を残したいところだった。
 出来れば、まだ会っていない道化にも会って帰りたいところだ。
 それをふまえて吟侍達はレティシア姫のエリアでのゴールを決める事にした。
 レティシア姫のストーリーでは身体の七カ所が陶器に変わっていってしまう呪いにかかってしまうレティシア姫の他に敵役として、彼女の身体の七カ所が生け贄として差し出されることになっている大魔王7名とそもそもレティシア姫にその呪いをかけた意地の悪い女王ジンベリが居る。
 他にもレティシア姫の両親であるランス王子(国王)と村娘(王妃)、大魔王討伐に出る様々な英雄なども居るがあまり物語の重要な部分に関わるという役柄ではない。
 他にはレティシア姫の相手役として、彫刻(ジュビアル)が居る。
 これらのキャストの中でどう関わって何処をゴールとするかで、吟侍達の行動も変わってくるだろう。
 正直、一番の悪者は女王ジンベリなのだろうが、彼女の最期は何だか尻つぼみ感がある。
 隠れていた所が廃棄されてシクシク泣くだけだからだ。
 吟侍達としては、様々な英雄達と一緒に大魔王討伐に出るべきでは無いかと考えた。
 特にエカテリーナは戦闘がしたいみたいなので、十分にその条件を満たす結末としては7名の大魔王と戦うというのが解りやすいゴールと言えた。
 とは言え、セレークトゥース・ワールドでの大魔王は現界での大魔王クラスとは桁が違うだろう。
 普通に大魔王討伐気分で挑戦すれば、生きて帰れる保証はない。
 名称は同じでもこの宇宙世界での大魔王は格段に上の力を持っているのだから。
 そこで、大魔王討伐ではなく、大魔王と勝負して、生きて帰るというのをゴールとしようという事になった。
 勝ち負けはこの際、関係ないとする。
 吟侍達の数は7名、大魔王の数も7名で丁度良いという事になったが、レスティーと那遠は反対した。
 彼女達の力で大魔王と戦うのはあまりにも無理があるからだ。
 それは当然と言えた。
 なので、そこは彼女達の代わりにボーナスステージ?として、残る5名の中で余裕のある者が戦うという事で決まった。
 ゴールも決まったという事で、とりあえず、大魔王以外のキャラクターの確認をするため、レティシア姫の城を目指すことにした。


02 女王ジンベリの非道


 吟侍達がレティシア姫のエリアに入った時間設定はランス王子と村娘の結婚式のイベントとなっていた。
 性格の良い村娘――ソケットというらしいが、彼女は国民達の評判も良く、祝福されての結婚式となっていた。
 ただ、よく目を凝らしてみると、民衆の外れの方で、射殺そうとでもしてそうな表情でランス王子とソケット嬢をにらみつけている女性が居る。
 その豪奢な出で立ちから彼女が女王ジンベリであるというのはほぼ間違いないだろう。
 彼女の行動を止めて、めでたしめでたしという事にするという事もクリア条件の一つとして考えられるが、それでは、特にエカテリーナが納得しないだろう。
 彼女は大魔王との戦いを望んでいる。
 元々、戦闘狂の彼女は戦いを好む性格をしている。
 クアンスティータが凄すぎてそんな彼女も萎縮していたが、【クティータ地方】で大きな力を得た事で本来の彼女に戻ったのだろう。
 自身の力を試して見たい――
 その衝動が抑えられないのだろう。
 自他共に認める最強の絶対者、アブソルーターだった彼女は長い間、対戦相手が居なかった。
 彼女のレベルが高すぎてまともに戦える相手が周りには存在して居なかったのだ。
 そのため、彼女はいつも窮屈な思いをしていた。
 だが、クアンスティータ誕生が近づくにあたって、強者がどんどん出てきた。
 それらの存在が王杯大会エカテリーナ枠に参加してくれて、彼女は嬉しかった。
 だが、それも彼女の許容値を遙かに上回るクアンスティータの誕生によって、逆の意味で窮屈な思いをしていた。
 自分は所詮、中途半端な存在だと嘆いた。
 だが、恥を忍んでセレークトゥース・ワールドに来て良かった。
 圧倒されっぱなしだが、戦闘を好む彼女が望む相手は腐るほどこの宇宙世界には存在していたからだ。
 そんな彼女の気持ちがわかるからこそ、吟侍は今回、最後の目的地であるレティシア姫のエリアでは彼女が望む大魔王との戦いをして帰ろうと思っていた。
 なので、女王ジンベリの行動は見逃す事にした。
 多少、納得いかないところがあるが、結果で言えばハッピーエンドとなる物語の設定なので、レティシア姫の呪いは受けてもらおうという事になった。
 平和主義でもあるフェンディナは無理に争いの火種を見逃さなくても良いのではないかと反対したが、ここは、現実の世界とは違って物語という設定の元になりたっているエリアだからという事で渋々納得した。
 ヒストリーエリアはセレークトゥース・ワールドの歴史を意味しているエリアでもある。
 つまり、本来、吟侍達が無理矢理そこにある歴史を変えるということもその世の理に反する行為でもあるのだ。
 歴史に介入するからにはそれなりのルールを守る必要がある。
 だが、女王ジンベリがやり過ぎないようにしようという事では意見は一致したので、女王ジンベリを見張っていた。
 だが、それは吟侍達の思惑を大きく外していた。
 嘱託(しょくたく)による呪いだったのだ。
 女王ジンベリは他者に命令して、呪いをかけさせていた。
 女王自身は力を持っていなかったのだ。
 そのため、吟侍達は肩すかしを食らったような状態となり、対処がとれなかった。
 生まれたばかりのレティシア姫は陶器になっていく呪いを受けた。
 呪いをかけた者達は、女王ジンベリが手配した更なる刺客によって殺害された。
 これで、呪いを解く者が居なくなった。
 反吐(へど)が出そうになるくらいな汚いやり口だった。
 吟侍達は、女王ジンベリに手を出さなかった事を後悔した。
 女王ジンベリは廃棄されるという運命が待っているとは言え、胸くそ悪い女王だった。
 これだけ酷い事をしていれば、【泉に眠る少女姫】の浄化作用が作動するのではないのかと思ったが、これは物語に組み込まれている事なので、それには値しないらしい。
 憎まれ役を作って憎まれ役を後でお仕置きするという物語なのだ。
 吟侍達の気持ちはともかく、物語は予定通りに進んでいくのだった。
 ソナタは、
「あの女王、一発ぶん殴ってやりたかったわ」
 と言った。
 吟侍は、
「おそなちゃん、仮にも王女なんだから、もう少し、言い方ってもんがあるんじゃねぇか?」
 と言ったが、ソナタは、
「あんた達と幼馴染みやってたお陰で私は少し品がなくなっちゃったのよ」
 と返した。
 吟侍は、
「お花ちゃんはもっとおしとやかだぞ」
 と言った。
「悪かったわね。カノンみたいに優しくなくて」
「そうだな、もう少し、妹をみならってだな……」
「きぃ〜悔しい。こうしてやる」
「おひょなひゃんいひゃいって……」
 というやりとりがあった。


03 エカテリーナの劣等感


 結果的にレティシア姫の呪いを受け入れる事になってしまった吟侍達だが、気を取り直して、大魔王討伐を考える事にした。
 今度はアルフォンシーナ姫の魔女捜しの時と違って、目的地に着けば、大魔王と対面出来るというものではない。
 大魔王というくらいなので、当然、多くの部下が存在する。
 それも【大】がつく位だから、かなりの数が居ると思って良い。
 そうなると、大魔王の配下達とのバトルも考えていかなければならない。
 今回はその大魔王が7名存在する。
 1名でもかなりしんどいのに、7名も存在するという事は攻略がかなり長引く可能性もあるという事でもある。
 何らかの裏技などを使って、大魔王との戦いを短縮させる方向で動かない限り、いつまでもセレークトゥース・ワールドにとどまる事になる。
 それは別に考えるとして、とりあえず、暫定的な大魔王への担当は次の様な割り振りになった。
 レティシア姫の首と胸を生け贄としていた大魔王の担当は吟侍(2名分)
 レティシア姫の両腕を生け贄としていた大魔王の担当はエカテリーナ(2名分)
 レティシア姫の腰を生け贄としていた大魔王の担当はフェンディナ(1名分)
 レティシア姫の右足を生け贄としていた大魔王の担当はソナタ(1名分)
 レティシア姫の左足を生け贄としていた大魔王の担当はステラ(1名分)
 今回はレティシア姫の右腕を生け贄としていた大魔王の攻略という事になるので、エカテリーナが1回目の担当となる。
 他の6名はサポートにまわり、前面に出るのはエカテリーナという事になる。
 右腕の大魔王の名前は、ゾクズォークという。
 ゾクズォークの配下は、大幹部が4名、幹部が7名、各エリアに配置された将が21名存在する。
 これだけ、見てもゾクズォークにまでたどり着くまで、かなりある。
 アルフォンシーナ姫の魔女捜しは外れ魔女がたくさん居て捜しにくかったが、今回はバラバラではなく、統率された怪物達の軍隊のようなものだ。
 簡単にはいかないだろう。
 将の下にも部隊長が存在し、兵となる怪物達を仕切っている。
 これが人間であるのであれば、エカテリーナの力を持ってすれば、星毎破壊すれば、一挙に倒せる。
 だが、今回は相当な力を持った怪物達の集団だ。
 人間相手と同じようには行かない。
 エカテリーナも勢力を持つ力を持った2番の化獣(ばけもの)フリーアローラの力を子宮に宿す者ではあるが、彼女自身の勢力では、セレークトゥース・ワールドの勢力とまともに渡り合えるだけの力が無い。
 フリーアローラの力で名前のない強者達を呼び出しても無駄死にするだけだろう。
 無駄死にさせるくらいなら最初から出さない方が良い。
 エカテリーナはそう考えていた。
 エカテリーナは、【クティータ地方】で【クティータ】と戯れたものの、結果的には、128の【クティータ】に気に入られその身に溶け込んでくれた。
 元々、遊びが得意ではない彼女からするとそれでもかなり頑張ったと言えた。
 だが、那遠は134、レスティーは137、フェンディナは149、吟侍の幼馴染みだけあって、ステラとソナタはそれなりに遊びを考える要素は持っていたらしく、それぞれ158ずつの【クティータ】が溶け込んでくれたのだ。
 そして、吟侍にいたっては、15379もの【クティータ】が溶け込んでくれた。
 つまり、仲間内ではエカテリーナに溶け込んで来てくれた【クティータ】の数は一番少ないと言えた。
 吟侍やフェンディナは別として、他のメンバーより元々、圧倒的に強いエカテリーナだったが、吸収出来た【クティータ】の数が少なかった事により、それももしかしたら?と思う事があったのだ。
 だからこそ、自分の力を強く誇示したかった。
 自分はステラやソナタ達よりも上だと――そう証明したかった。
 【クティータ】によるスキルアップをしている以上、自分は他のメンバーよりも遅れをとるかも知れない――エカテリーナにはその不安があった。
 仲間であってもソナタ達はある意味ライバルでもある。
 吟侍の事もあり、他の女性には負けたくないというのがある。
 自分に対抗できる女性はフェンディナくらいだが、彼女は気が弱いため、何となくライバルという気持ちが薄かった。
 だが、ソナタやステラに対しては常に上位の力を示していたかった。
 負けるかも知れないという不安が彼女には常にあったのだ。
 それはオルオティーナに貰った古き力の大きさがいまだに理解できないからでもあった。
 フェンディナの方は次第に自分に秘められている力を使えだしている節がある。
 だが、エカテリーナはいまだに古き力を引き出せていない。
 魔女戦ではそれが露骨に現れてしまった。
 もたもたしていたら、引っ込み思案なフェンディナの方に手柄を持って行かれてしまったのだ。
 控えめなフェンディナに先を越されるという事は相当遅れをとっているという事でもある。
 だからこそ、今回の大魔王討伐戦では古き力の解放も目指そうとエカテリーナは思っていた。


04 第一の大魔王、ゾクズォーク


 エカテリーナは1つ提案をしてきた。
 今回は自分だけでやりたいので、出来るだけ、吟侍達は手が出せない状態になってくれないかと。
 最初は危険だからと反対しようと思っていた吟侍達だったが、エカテリーナは頭を下げて頼み込んだ。
「頼む。妾を信じてくれ」
 と。
 プライドの高いエカテリーナに頭を下げられると、吟侍達もただ、反対する訳には行かなかった。
 吟侍は、
「わかった、エカテリーナ。今回はあんたに任せる。ただ、これだけは約束してくれ。それを選択した場合、あんたの死はおいら達も命の危険にさらされるって事だ。だから、勝利よりも無理だと判断したら、撤退も選択肢の一つとして考えてくれ。それを了承してくれるのなら、おいら達はショップエリアで手に入れてきたこの【なりきりキャンディー】で、妖精にでもなってついていく。後、期限は【なりきりキャンディー】の効果が切れるまでだ。30粒あるから1人5粒ずつなめて、設定上の10日持つという事になる。10日の間に、大魔王までたどり着けるか?」
 と聞いた。
 エカテリーナは、
「誰に向かって申しておる。このエカテリーナ、その条件で、大魔王ゾクズォークにまで見事、たどり着いて見せるわ」
 と言った。
 それで話はまとまった。
 エカテリーナ以外の6名は大魔王ゾクズォークの支配地域に入って、最初の敵が出てきた時点で、【なりきりキャンディー】をなめる事になる。
 その時点で、大きな力を持っていないタイプの妖精に吟侍達6名はなってしまう。
 こうなってしまったら、いくら助けたくてもエカテリーナの助けになるような力は発揮されない。
 これは、エカテリーナが吟侍達の助けという退路を断った背水の陣で挑むクエストとなった。
 自分を追い込まないと古き力も発動しないと考えたのだ。

 ここはまだ、大魔王の支配地域ではないので、相談など、出来る事はここでしてしまおうと思った一同は、悔いの残らないようにした。
 ゾクズォークの支配地域に入る前にエカテリーナは、
「すまぬ。恩に着るぞ皆の者達よ」
 と言った。
 彼女なりの感謝の気持ちだった。
 吟侍は、
「お互い様だ」
 と言って親指を立てた。
 他の5名も合わせて親指を立てた。
 最後のレティシア姫のエリアでチームワークの様なものが出てきた。
 お互いの気持ちを確認した後で、いよいよ、ゾクズォークの支配地域に足を踏み入れた。
 ここから先はしばらく緊張が解ける事は無い。
 最初の敵が出てきた時点で吟侍達は【なりきりキャンディー】をなめる事になる。
 妖精になったとたんに、敵に襲われるかも知れない。
 なので、エカテリーナだけでなく、吟侍達6名にとっても危険な行為であると言えるのだ。
 しばらく歩く7名。
 時間や距離飛ばしはここでは使わない。
 目的地が無いからだ。
 最初の敵が現れた地点が目的地となる。
 なので、歩くことにしたのだ。
 現界の体感としては、1時間10分くらいの感覚だろうか――
 それくらい経った時、最初の敵と思われる存在が現れた。
 エカテリーナ以外の6名は早速全員、【なりきりキャンディー】を5つずつなめた。
 これで、現界での体感として一粒2日は持つので10日間は小さな妖精の姿で過ごすという事になる。
 ただ1人、元のままのエカテリーナは、
「妾の名前はエカテリーナ・シヌィルコじゃ。何者じゃ、名を名乗れ」
 と言った。
 まるで、自分の晴れ舞台とでも言いたげな晴れやかな表情だった。
 対する敵は、
「侵入者、殺す」×30
 と、どいつもこいつも問答無用とでも言いたげな対応だった。
 30対1――
 味方は手が出せない状況になっている。
 それは、解っている。
 なぜなら、それは、自分が提案したことだからだ。
 だからこそ、退くわけには行かなかった。
 初戦で負ける事などあってはならないことだった。
 敵が名乗らないのであれば、それもよし――
 それならば、エカテリーナも問答無用で戦うのみだった。
 勝負は一瞬にしてついた。
 エカテリーナの圧勝だった。
 襲ってきた刺客達の実力はかなりのものだった。
 セレークトゥース・ワールドにやってきた当初のエカテリーナであれば、1対1でも勝つのは難しいくらいのポテンシャルを持っていたようだ。
 だが、その秘めた力すらも出させずに結着した。
 エカテリーナの気魄がそれをさせなかったのだ。
 後がない――そんな強い気持ちがエカテリーナのパワーを押し上げさせていた。
 だが、それでも、これはオルオティーナに貰った古き力ではない。
 いくらパワーを上げても古き力には届かない。
 そのため、圧勝したにも関わらず、エカテリーナは苦悶の表情だった。
 言葉にはしていないが、これじゃない――こんな勝ち方ではない――そう言いたげな表情をしていた。
 エカテリーナは、
「時間がない。次へ行くぞ」
 と妖精となっている吟侍達へ合図した。
 妖精吟侍は、
「頑張れ」
 と励ました。
 挫折を経験した、吟侍もまた、エカテリーナの悔しさが痛いほど解ったからだ。
 エカテリーナと妖精化している吟侍達は先を進むのだった。
 続く、敵の数は50。
 その次は45。
 そのまた次は60。
 そのまたさらに次は70と、次々と敵を圧倒して撃破していくエカテリーナ。
 だが、その全ての戦闘に納得していなかった。
「違う。こうではない」
 と自分の成果を否定して、次なる戦闘を求めた。
 敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵……と次々と戦うが、これだという成果が得られない。
 勝っては居る。
 その全てが、鬼気迫る勢いで、エカテリーナの圧勝ばかりだ。
 だが、彼女にとっては、このような勝利など、いくら重ねても意味がない。
 また、今までの敵では良いとこ、部隊長までしか出てきていない。
 その上の将すら出てきていないのだ。
 下っ端をいくら倒しても意味がない。
 このままでは、ダメだ。
 何かを変えなければならない。
 エカテリーナは焦っていた。
 連勝していても焦る――
 勝って当たり前――だけど、それだけではダメだ。
 それがエカテリーナを焦りまくらせていた。
 何が足りない?
 何をすれば良い?
 吟侍やレスティーであれば、答えの力であっさりと見つけられるであろう答えがやってもやっても見つからない。
 吟侍に答えを聞く?
 いや、ダメだ。
 吟侍達は現在、妖精化していて、答えの力を使えない。
 そうさせたのは自分だ。
 だからこそ、自分で答えを見つけるしかない。
 焦る。
 焦りまくる。
 焦れば焦るほど、答えが遠のく。
 答えが見つからない。
 そんな悲壮感ただようエカテリーナに妖精吟侍が声をかける。
「エカテリーナ。焦るなって、自体はあんたが思っているより随分好転していると思うぞ」
 と。
 エカテリーナは、
「何故、そう思う?」
 と聞き返した。
 妖精吟侍は、
「あんたの気魄が凄すぎるんだ。敵さん、ビビッちまって攻めてこれないんだよ」
 と言った。
 エカテリーナは、
「何をバカな。何を根拠にそのような事を申すのだ」
 と言った。
 妖精吟侍は、
「あんたは知らず知らずの内にオルオティーナの古き力の一つってやつを使っているんだよ」
 と言った。
 妖精吟侍は、この姿でする事が無かったので、ちょこちょこ、女性陣達と離れて辺りの状況をさぐっていた。
 すると、うわさ話から、ある現象が起きているという事が解った。
 エカテリーナの闘争心が戦いのあった現場に残っていて、それが、意志となり、実体を持って、行動したのだ。
 戦いまくっていたエカテリーナは気づいていなかったが、エカテリーナが戦っていたと思われる場所は同じ時期に何カ所もあった。
 つまり、エカテリーナの意志がエカテリーナの戦果を広げていたのだ。
 その中には将を倒したという情報もある。
 エカテリーナ自身は将を倒しているという自覚がないので、本体ではない、エカテリーナの意志の方が将にまでたどり着き、将を打ち破っていたのだ。
 もちろん、エカテリーナの意志よりもエカテリーナ自身の方が強いので、彼女は既に将を倒せる器であるという事になる。
 エカテリーナの意志による行動はクアンスティータを産み落としたニナ・ルベルなどの複合多重生命体(ふくごうたじゅうせいめいたい)の1つと同じであるといえる。
 元々、単一の生命体であるエカテリーナが複合多重生命体となることはまず、あり得ない。
 だが、オルオティーナの古き力によって、【願いを叶えるために無理を通す力】が発動したのだ。
 エカテリーナがなかなか出てこない将を倒したいという気持ちを叶えるため、本来エカテリーナには不可能だった属性を彼女自身が自分に一時的に持たせたのだ。
 言ってみれば【不可能を可能にする力】であると言える。
 もちろん、これだけが、オルオティーナの古き力ではない。
 エカテリーナには更なる伸びしろが期待出来るのだ。
 エカテリーナは呆然となる。
 自分が無意識に使っていたとは思っていなかったからだ。
 自覚無く、オルオティーナの古き力を発揮したエカテリーナは、
「な、何が起きたんじゃ?」
 と言った。
 妖精吟侍は、
「おめでとう。ついに使えたんだよ」
 と言って、軽く、エカテリーナの肩をポンと叩いた。
 妖精吟侍の言葉を聞いたエカテリーナは、
「――感謝する」
 と言った。
 それは、自分の力を自覚し始めたという事でもあった。
 自身の力を意識出来る様になってからのエカテリーナは早かった。
 あっという間に21名の将を次々と倒し、幹部7名を引きずり出していた。
 幹部の上には大幹部4名が居て、その上は大魔王ゾクズォークしかいない。
 最初のスランプを感じていた時期も足してもここまでの期間は七日しか経っていない。
 つまり、電光石火の早さで、大魔王ゾクズォークをそこまで追い詰めているという事になる。
 エカテリーナは認識したての【不可能を可能にする力】を次々と発揮して、届かなかった事に次々と手を伸ばして行った。
 その勢いは凄まじく、幹部7名をもってしても食い止める事は出来なかった。
 たった半日で幹部を倒し、大幹部4名も出てきた。
 その出てきた大幹部4名に対し、エカテリーナは、
「貴様らでは埒があかぬ。トップを出せ、トップを……結着(けり)をつけようぞ」
 と宣言した。
 大幹部達は
「自惚れるな」
「身の程知らずが」
「愚か者が」
「ふざけるな」
 等と口々に反対したが、大魔王ゾクズォークはその重い腰を上げて、
「我に挑みし、無謀なる女戦士よ、名を聞こう」
 と言ってきた。
 どうやら、大魔王ゾクズォークは直々に戦うつもりになったようだ。
 エカテリーナは、
「妾の名はエカテリーナ・シヌィルコじゃ。貴様を倒す強き者の名前をしかと記憶するがよい」
 と言った。
 この勢いのまま、エカテリーナの勝利――とはならなかった。
 さすがに、大魔王を名乗るだけあって、実力は配下とは次元が違っていた。
 エカテリーナの今の実力であるならば、大幹部までは余裕で倒せるだろう。
 だが、大魔王ゾクズォークは全くの別格だった。
 オルオティーナの古き力、【不可能を可能にする力】を持ってしても、大魔王撃破とはならなかった。
 今更ながらに、クアンスティータの勢力の層の厚さを思い知らされた。
 大魔王ゾクズォークは力を創造する力を持っていた。
 それで、エカテリーナの【不可能を可能にする力】に対し、【可能を不可能にする力】を作りだし、対抗してきたのだ。
 まさかの対抗能力に加え、能力浸透度と能力浸透耐久度がどちらも大魔王ゾクズォークの方が遙かに上回っていた。
 それが、現在のエカテリーナの力では不足していた。
 つまり、勝つことが出来ない状態となっていた。
 悔しいが、このままやり続けても勝ち目は無い。
 吟侍との約束もあるので、エカテリーナは退く事を選択した。
 初めから勝つことが目的ではなかった。
 大魔王と戦う事――そこまでが目的だ。
 勝てなかったのはそこまでエカテリーナの力量が届いていなかったという事。
 クアンスティータの所有する宇宙世界の勢力において敗北をいちいち気にしていたらやっていけない。
 とにかく、大魔王と戦ったという記録は残ったのだ。
 大魔王達を倒すのは、彫刻の勇者ジュビアルの役目であって、エカテリーナ達ではない。
 そこはわきまえている。
 物語の一部を体感出来ればそれで良い――エカテリーナの出した結論はそれだった。
 こうして、エカテリーナを中心とした、第一の大魔王ゾクズォーク攻略戦は終了した。
 エカテリーナにはまだ、左腕の大魔王攻略が残っているが、それは、また今度だ。
 【なりきりキャンディー】の効果が切れるまで時間を飛ばして、吟侍達も元通りになった。
 このまま第二の大魔王攻略に行ってもいいのだが、他のメンバーはエカテリーナに大魔王攻略戦の感想等をこれからの参考までに聞きたいので、一旦、落ち着ける場所に移動する事にした。


05 朧道化(おぼろどうけ)


 吟侍達は一旦、レティシア姫のエリアの中のレティシア城の城下町に来た。
 その城下町のファミレスの様な場所で一息つくことにした。
 【ふんわりふわふわ】などのショップエリアのサービスを利用する事も考えたが、今はレティシア姫のエリアに来ているので、このエリアで満喫しようという事になったのだ。
 女子が6名集まれば、話は弾むものである。
 吟侍からするとワイワイキャッキャッという感じの女子トークが始まった。
 こういう時は何となく吟侍は疎外感に包まれる。
 やはり、男子の仲間を1人くらい連れて来たかった所だったが、候補に挙げられる茶飲み友達になった陸 海空(りく かいくう)はクアンスティータの誕生事件で心神喪失状態なので連れて来れなかったし、もう少し考えてメンバーを考えるんだったと少し後悔するのだった。
 とにかく、女性6名に男性1名では肩身が狭い。
 やはり、男には男にしか解らない事もあるのだ。
 少々、居心地の悪さを感じ、ふと、吟侍は店の外を見た。
 すると、上空をふわふわと進む何かが見えた。
 パッと見は解りづらいが、女の子の様に見える。
 セレークトゥース・ワールドにおいて、空を飛ぶ女の子は決して珍しい光景ではない。
 だが、その女の子から感じ取れる気配がどこか異質だった。
 吟侍は早速、答えの力で分析しようとした。
 それを見たレスティーが、
「あ、吟侍くん、何かやらしー事しようとしてなぁい?下から女の子のぞくなんて何だかエッチだよ」
 とからかった。
 吟侍は、
「いや、違うって、ほらっ、あの子、何か変だと思わないか、レスティー?」
 と言った。
 レスティーは、
「変って……え?……確かにどこか……」
 と言った。
 レスティーもまた、答えの力で、上空の女の子が異質であるという事を確認した。
 レスティーの方が単独の存在に対する感知能力は長けている。
 そのレスティーも何だかおかしいと感じ取った。
 ステラは、
「あの子の何処がおかしいの?」
 と聞いて来た。
 他の女性陣達も同じ意見だ。
 吟侍は、
「………」
 と黙っていた。
 答えが絞り出せないからだ。
 代わりにレスティーが、
「何だか変なのよ、あの子。答えの力を通して見るとね普通、単独の存在とかを見るとある部分はどの存在も同じになるんだけど、その部分が全く違うの。単独だけど、単独じゃない?複数だけど複数じゃない……いや、そんな事じゃない。存在がとても朧気(おぼろげ)なの。それも現界でいるような朧気な存在の感じともまた異なった、異質っていうか、何だか解らない……うーん……うまく言えない……」
 と答えに迷っていた。
 見た目は普通の女の子――だが、その本質の部分が全くの異質な存在に映っていた。
 解らない事があれば、共同経営者の【ぴょこたん】に聞けば良いと思って、クアンスティータ・パスポート(QP)を使って、ショップエリアに居る【ぴょこたん】に回答を求めた。
 すると【ぴょこたん】は、
「よかったじゃないでちゅか。それが【道化】しゃんでちゅよ。あえまちたね」
 と言った。
 それを聞いた吟侍は、
「な、何ぃ??」
 と言って飛び上がった。
 女の子は探していた道化だったのだ。
 吟侍達は急いで会計を済ませ、店を出て、女の子が飛んでいった方向に向かった。
 幸い、向こうは、ふわふわとゆっくり進んでいたので見失わず、追いつく事が出来た。
 吟侍は、
「あ、すみません、おいら、芦柄 吟侍ってもんなんだけど、実はあんた達みたいな存在を探していて。失礼ですけど、あんた、【道化】さんなのかな?」
 と聞いてみた。
 すると女の子は、
「そうですよ。朧道化(おぼろどうけ)と申します。今からレティシア姫というお姫様にお話を聞かせようと思って向かっている所です」
 と言った。
 確かに【ぴょこたん】の言った通り、【道化】だった。
 これで、一応、本来の目的は果たした事になる。
 まだ、このレティシア姫のエリアで大魔王残り6名と戦うという目的が残っているが、それをやっても【道化】と会えなかったらどこか心残りが出来ていた所だった。
 【朧道化】と会えた事により、【道化】と出会うという条件もクリアした事になった。
 ただ、【道化】と会うだけなら、例えるなら、一般の人が芸能人に会ってそれだけで満足して帰ってしまう様なものだ。
 何らかの形で、他に何かを残したいところだが、とりあえず、【道化】と戦っても仕方ないので、お話を聞く。
 それがベストではないかと思われた。
 なので、吟侍は、
「あの……ついていって良いっスかね?あんたの話、ちょこっと聞いて見たくって……」
 とお願いした。
 すると朧道化は、
「別に私はかまいませんが、私の役目はプリンセスにお話を聞かせるという事です。私の許可よりもプリンセスに許可を得てください。プリンセスがオッケーなら私もオッケーですよ」
 と答えた。
 確かにそうだ。
 【道化】だけじゃない。
 お話を聞く側、プリンセスの許可も得なくてはならない。
 だが、これで【道化】の方には半分許可を得た様なものだ。
 吟侍達は、早速、王家の方に交渉に行った。
 幸い、エカテリーナが第一の大魔王、ゾクズォークの幹部をかなり倒していたという噂が広まっていたので、王族達は快く、プリンセスと【朧道化】のお話会の参加を認めてくれた。
 吟侍達にとっては、今回、寄る事の無い、別のプリンセスの話などを聞けるのではないかと思って、ちょっとワクワクもしていた。
 【朧道化】は、
「それではお客様も少々増えたようですが、ワタクシ、【朧道化】めのお話会をさせていただきます。今回お持ちしましたお話は、3つです。エルヴィール(Elvire)姫のお話とロベルタ(Roberta)姫のお話とセシーリア(Cecilia)姫のお話になります」
 と言った。
 エルヴィール姫とロベルタ姫とセシーリア姫――どれも聞いたことのないプリンセスの名前だ。
 他のエリアという事になるのだろう。


06 他のエリアのプリンセス


 【朧道化】の物語を静聴する吟侍達。

 【エルヴィール姫の物語】――

 あるところに凄腕の人形職人がおりました。
 人形職人の名前はジャンと言いました。
 ジャンの作った人形やぬいぐるみは大変優れた一点物とされていて、誰にも真似できないものでした。
 ジャンが作った人形やぬいぐるみには美しい魂がこもっているからです。
 ジャンは1000体の人形やぬいぐるみを作りました。
 どれも国宝と呼ばれる優れたものでした。
 彼はその人形を誰にも譲りませんでした。
 譲る相手はただ一人と心に決めていたのです。
 その一人は恋人のミランダです。
 ミランダがジャンとの結婚を了承してくれれば、1000体全ての人形やぬいぐるみを彼女に渡しても良いと思っていました。
 ミランダもジャンの事を思っていて、二人は両思い。
 結婚とミランダへの譲渡はほぼ間違いないと思われていました。
 ところが、突然、ミランダが姿を消しました。
 とても美しかったミランダは誰かにさらわれて無理矢理花嫁にされようとしていたのです。
 それにショックを受けて倒れてしまったジャン。
 ミランダは帰って来る事はないのでしょうか?
 いいえ、違います。
 ジャンが作った1000体の人形やぬいぐるみ達が動きだし、ミランダを見つけるために各地に旅立っていったのです。
 人形やぬいぐるみ達はいくつもの困難にぶつかりますが、仲間達で協力しあい、次々と難関を突破していきます。
 ですが、困難は予想以上に過酷でした。
 次々と仲間の人形やぬいぐるみ達は倒れて行きます。
 だけど、諦めませんでした。
 最後の一体となった人形がミランダをつきとめます。
 ミランダはエルヴィール姫という仮の名前を与えられ、呪いの王国に釘付けにされていたのです。
 最後の一体の人形はミランダからエルヴィールの名前を受け取り、ミランダは元の名前を取り戻しました。
 1000体の人形やぬいぐるみは倒れてしまいましたが、ミランダは無事、愛するジャンの元に戻る事が出来ました。
 それから、ジャンとミランダは結婚し、生まれた娘の名前をエルヴィールとしました。
 それは、ミランダの代わりに呪いの王国に残ってしまった、人形を思っての事でした。
 すると、失ったはずの1000体の人形やぬいぐるみ達がジャンとミランダの元に戻ってきました。
 人形やぬいぐるみを大切に思う、ジャンとミランダの愛が奇跡を呼んだのです。
 ジャンとミランダは愛する娘と1000体の人形やぬいぐるみといつまでも幸せに暮らしました。

 ――という物語である。

 【ロベルタ姫の物語】――

 ある所にロベルタ姫というお姫様がいました。
 とてもおてんばで、好奇心旺盛な女の子でした。
 興味がある事には何でも挑戦しました。
 お城にはいろんな存在を呼び寄せては楽しく遊びました。
 そんなロベルタ姫はある時、魔女と出会います。
 魔女の出す様々な力を見たロベルタ姫は魔女になりたいと思いました。
 そして、ロベルタ姫は魔女にお願いして、少しの間、プリンセスと魔女を交代してもらえないかと頼みます。
 魔女の使う不思議な術を色々と使ってみたいと思ったからです。
 魔女は
「良いですよ。ただし、条件があります」
 と言いました。
 魔女が出した条件とは期限までにお城に戻らなかったら、ずっと交代したままになるというものでした。
 つまり、ロベルタ姫は魔女の力を使って自分のお城に戻ってくる冒険をしなくてはならないというものでした。
 深く考えないでロベルタ姫はそれで良いと返事をしてしまいます。
 魔女との契約は絶対です。
 それを破る事は誰にも出来ません。
 ロベルタ姫は遠くの地に飛ばされ、右も左も解らない状態で、魔女として放り出されてしまいました。
 魔女はプリンセスとして、わがまま放題の生活をする事になります。
 早く戻らなければ、ロベルタ姫の評判は悪くなってしまいます。
 だけど、ロベルタ姫は道すがらであった出来事に興味津々です。
 様々なトラブル、イベントなどに参加したりして、次々と成果を出していきます。
 いつしか、魔法使いロベルタの名前は評判になりました。
 それを面白く思わないのはロベルタ姫と入れ替わった魔女アデラ(Adela)です。
 魔女アデラはロベルタ姫の権力を使って様々な妨害、嫌がらせをします。
 ですが、ロベルタ姫は様々な機転を利かせ、トラブルを次々と解決していきます。
 そして、無事にお城まで期限内にたどり着いたロベルタ姫は元のプリンセスに戻ります。
 魔女アデラは元のイジワルな魔女に逆戻りとなってしまいました。
 さらに、魔女アデラの力は半分になっていました。
 魔女の不思議な力の半分はロベルタ姫の事が気に入ってそのままロベルタ姫の元に残ったのです。
 与えられた環境で邪(よこしま)な行為をしていた魔女アデラは力を半分失い、ずっと前向きに進んでいたロベルタ姫は不思議な力を半分貰いました。
 よい事をしていけば、よい事が帰ってきます。

 ――という物語である。

 【セシーリア姫の物語】――

 ある時、アールクヴィスト(Ahlkvist)王国には、三名のプリンセスが居ました。
 長女アルフリーダ(Alfrida)姫、次女ベアトリス(Beatrice)姫、そして、三女セシーリア(Cecilia)姫の三人です。
 ある時、国王は言いました。
「この国を継ぐのにふさわしいのは1000の呪いを受けた者だけだ」
 と。
 気の強いアルフリーダ姫とベアトリス姫はそんな呪いを受けるのはゴメンだと拒否します。
 だけど、女王の座にはつきたいという気持ちはあります。
 そこで、二人のプリンセスはまだ幼く、気の弱い、セシーリア姫に呪いだけを渡して、自分達のどちらかが王座に就こうと画策しました。
 1000の呪いだけをセシーリア姫に与えて、彼女を国の外に放り出します。
 そして、自分こそが次代女王に収まろうとしました。
 もちろん、王座に就けるのは1人だけです。
 アルフリーダ姫とベアトリス姫が同時に王座に就けることはありません。
 そこで、アルフリーダ姫とベアトリス姫はお互いで争いあい、共倒れともなりました。
 そして、アールクヴィスト王国は滅びてしまいました。
 一方、呪いを受けたまま、他国に放り出されたセシーリア姫は1000の呪いと向き合う生活をしていました。
 1000の呪いはとても厳しく大変なものばかりでしたが、それが気の弱かったセシーリア姫の精神をどんどん鍛えていきました。
 やがて、1000の呪いを全てクリアしたセシーリア姫は滅びてしまったアールクヴィスト王国を再建し、新生アールクヴィスト王国の新女王として即位しました。
 1000の呪いとは1000の試練であり、これらの試練を突破する事により、精神が国を治めるのに十分な条件を満たすというものでありました。
 1000の呪い→試練を突破したセシーリア姫の王国はより一層、栄えるのでした。

 ――という物語である。

 吟侍達は【朧道化】による他のプリンセスの物語に引き込まれるようだった。
 これらの物語をテーマとしたエリアはセレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアのどこかに存在しているという事でもある。
 プリンセス達は【道化】達の物語を聞くことによって、他のプリンセスのエリアとの情報交換をしているという事になるのだ。

 ちなみに、エルヴィール姫とロベルタ姫とセシーリア姫も下の位のプリンセスになる。
 つまり、吟侍達はまだ、中の位のプリンセスにさえ、たどり着いていないという事になる。
 セレークトゥース・ワールドというのがそれだけ大きすぎるという事になるのだ。


07 第二、第三の大魔王の支配地域へ


 【朧道化】の話を聞き終えた吟侍達は彼女やレティシア姫にお礼を言って、再び、大魔王に挑む事にした。
 ちなみに【朧道化】は穏やかな性格をしていたが、その潜在能力は吟侍達を遙かに上回っている。
 まともにぶつかれば、7対1でも今の戦力なら、【朧道化】が勝つだろう。
 【朧道化】の戦闘力はこれから挑む大魔王達よりもさらにずっと上の次元の力を秘めているのだ。
 だが、それは別に驚く事じゃない。
 力不足はこのセレークトゥース・ワールドでは何度も感じてきた事だ。
 今更、束になっても敵わない相手が出てきたところで慌てる様な事も無かった。
 クアンスティータの所有する勢力に対して全勝しようという考えの方が間違っているのだ。
 クアンスティータの勢力に対して、爪痕を残せた。
 それだけでも、十分に喜んで良いことなのだ。

 吟侍は、
「次、何処の大魔王に挑戦する?」
 と女性陣達に聞いて見た。
 エカテリーナが2つの分担の内、1つを進めた事により、2名の担当する大魔王を残しているのは吟侍のみとなった。
 だが、吟侍が担当している大魔王は第六、第七の大魔王に相当するレティシア姫の首と胸を生け贄とする者達だ。
 出来れば、最後に回したいところだ。
 また、フェンディナは第五の大魔王に相当するレティシア姫の腰を生け贄とする者でもある。
 そこで、レティシア姫の左腕と両足のどこかを生け贄とする大魔王の支配地域のどこかに挑戦しようという事になった。
 つまり、エカテリーナ、ソナタ、ステラの誰かが担当する大魔王という事になる。
 左腕とするならば、エカテリーナとなるが、彼女は第一の大魔王、右腕のゾクズォークと戦ったばかりだ。
 念には念を入れるじゃないが、連戦は控えた方が良いと言える。
 そこで、残るはソナタかステラの担当するレティシア姫の両足のどちらかを生け贄とする大魔王の支配地域に挑戦する事にして、その大魔王は第二の大魔王とする事にした。
 ソナタは、
「どうする、すーちゃん?」
 とステラに意見を求めた。
 ステラは、
「私はどちらでも良いわよ。おそなちゃんが、次行くなら、その次は私が行くつもりだし……」
 と返した。
 ソナタは、
「私もどっちでも良いのよね。どうしよっか?」
 と決めあぐねた。
 すると、吟侍は、
「んじゃ、同時攻略ってのはどうだ?第二と第三の大魔王を同時に攻略していくって事だ。もちろん、無理にとは言わねぇけど」
 と提案した。
 ソナタは、
「そうね、一つずつ攻略するのもちょっとまだるっこしいし、同時にってのもありかもね」
 と言い、ステラも、
「私も異存は無いわ」
 と言った。
 吟侍は、
「んじゃ決まりだな」
 という感じにまとまった。
 こうして、二つの大魔王の支配地域を同時に回るという事にしたのだった。


続く。









登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。


004 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。


005 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。
 オルオティーナに貰った4つの古き力の一つである【不可能を可能にする力】を会得する。


006 ステラ・レーター
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。


007 レスティー
レスティー
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)
片倉那遠
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。


009 クアンスティータ・セレークトゥース
クアンスティータ・セレークトゥース
 ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。


010 ぴょこたん
ぴょこたん
 吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
 店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
 吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
 名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
 吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
 幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
 吟侍とは共同経営者という立場になった。


011 気象現象クティータ
クティータ
 セレークトゥース・ワールドにおける【クティータ地方】に降り積もる気象現象の一つ。
 その光を集めて固めるとクアンスティータ・セレークトゥースにそっくりな小さな生命体となる。
 それを【クティータ】と呼び、遊んであげて気に入られれば、その者の力として溶け込んできてくれるというもの。
 クアンスティータの力の欠片とも呼ばれている。


012 第一の大魔王、ゾクズォーク
第一大魔王ゾクズォーク
 エカテリーナが戦う事になったレティシア姫の右腕を生け贄とした大魔王。
 能力を作り出せる力を持っていてエカテリーナに対抗する力を作り出す。


013 レティシア姫
レティシア姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 呪いを受け身体の七カ所が陶器に変わっていってしまうお姫様。





















014 朧道化(おぼろどうけ)
朧道化
 見た目はちょっと変わった少女だが、その実体はよくわからないもので構成された存在であり、それが道化という種族でもある。
 レティシア姫に他のエリアのプリンセスの話をしにやってきた。