第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その4

ウェントス編第004−04話挿絵

01 再び舞踏会会場へ


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は軽く途方に暮れていた。
 舞踏会会場を追い出されてしまったからだ。
 吟侍は現在、女性陣6名と共に、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドに来ている。
 例外は多数存在するが、大きなものはショップエリアとヒストリーエリアに別れていて、店舗が主体のショップエリアでの買い物をすませ、数々のプリンセスと道化の物語をテーマとするエリアの一つ、シェリル姫のエリアに来ている。
 当初は、シェリル姫の森に住む化け物達のレベルの高さに脅威を感じた彼らだが、何とか、目的とするシェリル姫の国のシェリル城まで来た。
 そこまでは良いが、なかなかシェリル姫のストーリーに関わる事は難しかった。
 まともに関われば殺されてしまう可能性が高かったのでイレギュラーとして参加する事にした吟侍は、見事、シェリル姫の影と相打ちになる化け物、【レズハミナ】を雇っている英雄ダンダンテに勝負を挑み倒すという所までは行ったのだが、肝心の舞踏会からは追い出されてしまっていた。
 舞踏会会場の外でボーッとしている吟侍の元へ、舞踏会会場から女性陣達が心配になり見に来てくれた。
 吟侍と行動を共にしている女性陣は、ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーの6名だ。
 吟侍は、
「さて、どうすっかな……」
 と考えようとしていると、レスティーが
「謝っておいたから入れるよ」
 と言った。
 吟侍だけでなく、彼女も吟侍から提供を受けて【答えの力】を多少なりとも使える。
 故に彼女もまた、答えを導き出していた。
 シェリル姫に詫びを入れつつ交渉し、吟侍が再び舞踏会会場に入れるように取りなしてくれていたのだ。
 ソナタは、
「レスティーに感謝しなさいよ。あんた、このままだったら、出禁だったのよ」
 と言った。
 それを聞いた吟侍は、
「あっぶねぇ、そいつは助かった」
 と返した。
 吟侍は答えの力で行動をしているがそれが必ずしも正解であるという事は限らない。
 吟侍が出した答え以上の答えも存在するし、答えが間違っている場合もある。
 現界であれば、吟侍の出した答えは100%近い確率で有利に運ぶが、この舞台はクアンスティータの宇宙世界である。
 答えの正解率もそれだけ落ちるという事になる。
 答えの力の持っている能力浸透度(のうりょくしんとうど)はクアンスティータの持っている能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)より大きく下回る。
 クアンスティータが相手では絶対的な強制力を持つ力などあり得ないのだ。
 それだけ、クアンスティータが別格だとも言える。
 とにかく、出入り禁止が無かった事だけでも良かった事ではある。
 吟侍は再び、会場入りをした。
 吟侍の順番はとうに過ぎており、不在(外に出されていた)だった事もあり、後ろに回されてしまっていた。
 居なかったのだから、仕方ないが、吟侍の思うような筋書き通りには進んでくれていなかった。
 だが、シェリル姫の影の戦いが見える位置には陣取る事が出来たので、出番が来るまで、シェリル姫の影の戦い方を見ておく事にした。
 吟侍は、特別な金貨で雇った【クイーンルウファ】等の化け物の力を借りる事無く、シェリル姫の影を倒さなくてはならない。
 そうでなくてはイレギュラーは成立しないからだ。
 吟侍はクアンスティータ・セレークトゥースの誕生時にクアンスティータ化という力の使い方を覚えた。
 だが、それも完璧ではない。
 それだけ、クアンスティータの力は制御しづらい。
 しかも、クアンスティータ化の力は現在のところ、せいぜい偽クアンスティータレベルだ。
 その力だけで、シェリル姫の影に勝てるかどうかはちょっと怪しかった。
 恐らく、今の吟侍ではクアンスティータ化したとたんに力を使い切ってしまう。
 クアンスティータ化の能力は殆ど活かし切れないだろう。
 何か他に手を打たねばやられてしまう。
 そんな感じだった。
 だからこそ、答えの力での研究が必要だと感じた吟侍は食い入るようにシェリル姫の影を観察した。
 シェリル姫の影と表現しているのは答えの力で見ると真っ黒に映るからそう読んでいるだけで、実際には、見る者によって見え方が違う存在であると言える。
 つまり、実際に戦おうとした場合、他の存在との戦いは全く参考にならないという意味でもある。
 吟侍には吟侍なりの見え方があるからだ。
 吟侍が答えの力抜きにしてシェリル姫の影を見ると、その姿は、二つの首を持つ牛の獣人に近い姿をしている。
 もちろん、これは、吟侍にはそう見えるだけで、ソナタに聞けば別の姿、ステラに聞けば更に別の姿が映っている。
 答えの力は見た目が全く参考にならないという答えを出している。
 真っ黒だが、答えの力を通して見た影の方がまだ、真実に近い形状と言えるだろう。
 厄介なのは姿形だけでなく、動きも見る者によって違うという点も挙げられる。
 ある者が右側にそのバトルの視線を送っていると、別の者は明後日の方向に視線を送っていること等が多々ある。
 それは対戦相手についても言える事で、対戦相手にはその様な能力は無いはずなのに、対戦相手も別の方向に存在している様に見える事もある。
 つまり目視による研究はまるで宛にならないという事だ。
 この宇宙世界の住民であれば、他の対戦を見て参考にしてという事が出来る存在など山ほどいるだろうに、それでも、戦いを見学させて、なおかつ研究がままならないのは、そういう力が作用しているからでもある。
 だが、間違い無く強敵であるという事だけは確かだった。
 吟侍は見えないなりの対処法をさぐった。


02 VSシェリル姫の影


 吟侍はシェリル姫の影の対戦を見続けたが、なかなか答えは見えて来なかった。
 答えの力で答えが見えない等という事があるだけでも驚きだった。
 それだけ、セレークトゥース・ワールドの勢力の力が途方もないという事でもある。
 特別中の特別な力を身につければ何とかなるような存在であるのであれば、吟侍の育ての親、ジョージ神父はクアンスティータに関わるなという言葉は発しなかっただろう。
 自身も相当な冒険を経ていて、吟侍の才能を見抜いていた神父から見ても、クアンスティータは全く届かない存在。
 レベルを上げても上げても上げても上げても……全く届かない存在――それがクアンスティータだ。
 早い段階からその力を知っていたジョージ神父はとにかく、クアンスティータには関わらない事が一番だと考えていた。
 だから、吟侍達が冒険に出るときに口を酸っぱくして反対していたのだが、それでも、クアンスティータは誕生してしまった。
 それは避けられなかった事であり、生まれてしまったものは仕方がない事でもある。
 とにかく、クアンスティータと向き合って行かなければ生存することは皆無であると言える。
 そんなクアンスティータだが、まだ、全くその存在に届いていない。
 クアンスティータ・セレークトゥースの誕生には立ち会ったが、すぐにオルオティーナによって引き離された。
 セレークトゥースの所有する宇宙世界に来てみてはっきりと解ったが、クアンスティータには全く自分達は届いていないあまりにも大き過ぎる隔たりがあるのだと実感せざるを得ない。
 ここはまだ、第一本体の宇宙世界であり、その中でも格下のプリンセスのエリア――そのプリンセスにさえも、まだ吟侍達は届いていないというレベルなのだ。
 ステラ達が未来の世界から来て望んでいたのは第五本体クアンスティータ・リステミュウムとの対戦だ。
 だが、今のレベルでは第一本体にすら全く届いていない。
 答えの力という反則的な力を持ってなお、遠すぎる化獣(ばけもの)。
 これが本当にルフォスと同じ化獣なのか?と思わずには居られなかった。
 それはそれとして、クアンスティータとは元々敵わない存在――胸を借りるつもりでどーんと向かっていくだけだ。
 その姿勢がクアンスティータに評価されてセレークトゥース・ワールドに招かれたのだから、思う存分、力を試してみる――そう考えた。
 大したアイディアも思い浮かばないまま、吟侍の対戦の順番まで後10名を切った。
 比較的ゆっくり目に戦っているようだが、それでも影の力は絶大なので、対戦相手はそんなにもたない。
 数名と言ってもあっという間に順番が回ってくるだろう。
 ソナタが心配し、
「大丈夫なの?あんたのことだから勝算はあるのだろうけど、鳥の化け物を相手にどこまでやれるの?」
 と言ってきた。
 彼女にはシェリル姫の影は鳥の化け物に映っているのだろう。
 吟侍は、
「おそなちゃんにはあれが鳥に見えんのか?おいらには牛に見えるんだけど、まぁ、良いか。やるだけやってくる」
 と答えた。
 吟侍には牛に見えると聞いてソナタは動揺した。
 鳥が牛に見えるなどあり得ないと思っているからだ。
 吟侍が狼狽えていると思って心配をより強めた。
 他の女性陣達もさらに動揺した。
 自分達が見ている姿と別の形容をしているからだ。
 みんなパニックになっているんだと思って動揺を強めた。
 エカテリーナが、
「お、お主達は動揺しているようだ。妾が代わりにだな……」
 と交代を申し出たが、吟侍は、
「大丈夫だ。あれは、見る者によって見え方が違う化け物、動揺しているって訳じゃねぇさ」
 と答えてウインクして見せた。
 それは大丈夫だという彼なりの合図だった。
 その姿勢に女性陣達は思わずドキンとなる。
 自分が女性陣達をドキドキさせているとは露程も気づかずに、吟侍は戦いの準備をするため、軽くウォーミングアップを始めた。
 軽い準備運動をしながら、対シェリル姫の影戦の攻略を考える。
 数え切れない程のアイディアを出しては消えて行き、一つの答えを導き出した。
 大丈夫だ。
 動揺はない。
 後は……
 いよいよ、吟侍の出番となった。

 吟侍は、
「芦柄 吟侍です。ってことで、よろしく」
 と言って軽く会釈する。
 戦うと言ってもこれは殺し合いではない。
 死んでしまうかもしれないが、これはシェリル姫の婿を探す舞踏会なのだ。
 先ほどの様に追い出されないためにも、それなりのマナーは必要だと判断したからだ。
 吟侍は、パンっと自分の頬を叩き気合いを入れ、
「それじゃ、始めっか」
 と言って構えた。
 対峙してみて初めて解ったが、プレッシャーが尋常ではなかった。
 現界の存在がこんな化け物のプレッシャーに晒されれば、あっという間に萎縮してしまうだろうし、下手したらショック死するレベルだ。
 テーマパークの様な所だと侮るようなレベルの相手ではない。
 もの凄い莫大な力を持った怪物が相手なのだ。
 吟侍は試しに怪物ファーブラ・フィクタの力を使ってみた。
 怪物ファーブラ・フィクタは関係者全てを同時に倒す力を持っている。
 その力の応用でこの舞踏会場に居合わせたものとして、レフェリー役のキャラクターに作り出した矢を放ち、間接的にシェリル姫の影に攻撃をしたのだ。
 怪物ファーブラ・フィクタの様に、関係者全てに影響をもたらせるという域には達しないが、それでも、存在している者を関連づけてシェリル姫の影に攻撃を当てるという事には成功した。
 成功したが、ダメージはほぼ、ゼロと言っても良かった。
 この力の持っている能力浸透度(のうりょくしんとうど)ではシェリル姫の影が持っている能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)には遠く及ばない。
 攻撃というよりは、撫でているだけと変わりなかった。
 その小手調べを皮切りに、吟侍は創作バトルスタイルで次々と変わった攻撃を仕掛けて見るがいずれも効果が殆どなかった。
 攻撃もたまに受けるが、一撃で倒されるという事を繰り返していた。
 倒されても戦っていられたのは咄嗟に、7番の化獣(ばけもの)ルフォスの力を使って化身体を用意して変わり身になっていたからだが、次々と化身体が消費されて行った。
 吟侍はショップエリアで買ったアイテムも使ってでの戦闘なのだが、それでもシェリル姫の影の戦闘能力は凄まじく、トリッキーな動きの吟侍も一歩間違えば一瞬でアウトという危険な状態を繰り返した。
 吟侍は、
「やるねぇ、あんた、やっぱ、強ぇわ」
 と言った。
 まともにやっても今の吟侍では、全く敵わないと判断したのだ。
 やはり、策が通用しなくてあれに頼るしかないかと判断した。
 あれとは、クアンスティータ化だ。
 だが、それをすれば、一瞬にして、吟侍はダウンしてしまう。
 そうなれば、例え倒せたとしても吟侍も共倒れとなってしまう。
 そうならない様に、一瞬だけ、クアンスティータ化してすぐに戻るという手段を取ろうとしていた。
 幸い、セレークトゥース・ワールドに来てたくさん食べたので、栄養は十分に満たしている。
 この貯めた栄養分をクアンスティータ化に回せば、一瞬だけならば、何とか立っているだけの体力くらいは残るだろうと判断していた。
 この作戦を成功させるには、シェリル姫の影を油断させなければならない。
 なので、吟侍は八方手を尽くしたが、シェリル姫の影に勝てる力は無くなったという事を演出しようとしていたのだ。
 チャンスは一回限り。
 失敗すれば、吟侍に勝ち目は無くなる。
 それだけに慎重だった。
 たっぷりと様々な攻撃方法を試す吟侍。
 出来れば、その攻撃のどれかが有効打になってくれれば良いのだが、敵はそれほど甘くはなかった。
 どの攻撃も決定打にはならず、吟侍の顔に焦りの表情が浮かぶ。
 もちろん、これも答えの力で導き出した演技なのだが、それで何とか上手く騙せたようだ。
 シェリル姫の影は力を落とした吟侍を倒そうと真っ正面から向かって行ったタイミングを見計らって、吟侍はクアンスティータ化して、その一瞬で攻撃を放ち、見事、シェリル姫の影をしとめた。
 クアンスティータ化と言ってもクアンスティータの様になるのではなく、左右のこめかみの髪の部分から旗の様に伸びたものが出来たり翼の様なものが出てきたりなどクアンスティータの特徴と微妙に違ったりもするが、千角尾などのクアンスティータの特徴ももっていた。
 一瞬だけなので、力を使ったといっても打撃一撃を放っただけだが、それでもクアンスティータの名前を冠する力だけあって、威力は絶大だった。
 こうして、吟侍は、化け物の力を借りる事無く、シェリル姫の影を倒す事が出来たので、テーマとしてはイレギュラー状態となり、シェリル姫がルリェシという更なる化け物に変わる事は無かった。
 そのまま、シェリル姫とのダンスのイベントになるのだった。
 だが、ここに一つ誤算が――
 吟侍はダンスなど踊ったことがないのだ。
 リズムも何もかもめちゃくちゃで不格好なダンスしか披露できなかった。
 恋人のカノンと結婚するようになったら、社交界デビューなどもする可能性があるので、ダンスは覚えて置きたかったが、独特のリズムを持つ吟侍に合わせられる女性は滅多にいないと言える。
 不格好なダンスを見ていたソナタは、
「見ているこっちが恥ずかしくなるわ……」
 と言った。
 女性陣達は全員、苦笑した。
 多少、予定外な事もあったが、吟侍達は一つのヒストリーエリアを体感した事にはなった。
 ポイントカードのようなものが現れ、ポンっとシェリル姫のエリアのスタンプが押されたのだった。
 体感してみた結果、やはり、今の状態のままでは、ヒストリーエリアを回るというのは自殺行為であるというのは否めなかった。
 これからの事も含めて、吟侍達は相談する事にした。
 吟侍は、再び、QP(クアンスティータ・パスポート)を使って、ショップエリアにある【接客レストラン】の内の1軒、【ふんわりふわふわ】に連絡を入れた。
 今度は、女の子達を呼ぶのではなく、無人ならぬ無存在ルームをチャーターした。
 予約を入れてすぐに、球体が現れた。
 今度は中に誰も居ない。
 回復アイテムだけは注文していたので、その中で回復を兼ねて話し合う事にした。


03 次に回るエリアの候補選び


 無存在ルームで相談する7名。
 やはり、シェリル姫のエリアを冒険してみて解ったが、セレークトゥースの所有する宇宙世界に対して、生身のままの吟侍達では力不足であると言うことははっきりと理解出来た。
 この先、セレークトゥースの成長に合わせて、セレークトゥース・ワールドのレベルも跳ね上がって行く事は容易に想像がつくので、これからの対策を相談する必要があった。
 冒険と言っても、まだ、シェリル姫のエリアを回っただけなのに、相当な脅威を感じてしまった。
 やはり、長居していては命がいくつあっても足りないので、後、1、2エリア回ったら、現界に一度、戻って立て直そうという意見が多かった。
 力不足というのもあったが、吟侍達がセレークトゥース・ワールドに来ているのとは別に、現界ではセレークトゥースが誕生してそのままになっている。
 なので、現界の事も気になるからだ。
 決して、逃げだそうという意見ではなかった。
 現界もそのまま放置しておくという訳には行かないのだ。
 帰る時期を決めた事で次にどのエリアを回るかという事になった。
 シェリル姫のエリアは中の100姫の1姫である【泉に眠る少女姫】に属するプリンセスだ。
 順調にいけば、その【泉に眠る少女姫】と行きたいところだが、シェリル姫でさえ、やっとこさ、体感出来たというレベルだ。
 その上の位になど、到底届かないのは間違いなかった。
 行けば即、全滅は十分、考えられる事だった。
 なので、次に回るエリアも、仮に更にもう一つ回る事にするとしてもシェリル姫のエリアと同じ、無数にある下のレベルのプリンセスのエリアという事にした。
 目標としては、道化に会うという事にしようという事になった。
 セレークトゥース・ワールドはその大半がプリンセスのエリアを道化達が回るという事で成立している。
 シェリル姫に会った事で一応、プリンセスには出会えたが、まだ、道化は確認していない。
 このヒストリーエリアに来たからには、道化も是非、見ておこうという事になったのだ。
 次に回るエリアで道化に会えたらそのまま現界に帰り、会えなかったら、もう一つ下のプリンセスのエリアを回るという事にした。
 3つのエリアを回ってそれでも道化に会えなかったらその時はまたの機会にして、一度、現界に戻ろうという事になった。
 現界はクアンスティータが誕生した事により、クアンスティータを崇拝する組織が活発にあっているはずだ。
 それに、クアンティータの父親、怪物ファーブラ・フィクタは第二本体クアンスティータ・ルーミスの誕生に向けて既に動き出しているはずだ。
 また、クアンスティータが誕生した事によって存在が確定したものがある。
 総全殿堂(そうぜんでんどう)だ。
 第一位をクアンスティータ(関係)とする第二十四位までの決して順位の覆る事のない強者達。
 それらの動きも気になる。
 他にも、クアンスティータの誕生によって現界の勢力図はかなり塗り変わっているはずだ。
 戻ってみたら故郷の星が無くなっているなんて事だって十分あり得るのだ。
 だが、幸い、セレークトゥース・ワールドと現界の時間軸は全く違う。
 戻る時に、セレークトゥース・ワールドに出発した時刻のすぐ後の時間軸に戻れば、タイムロスを心配する事なく、現界での事態に対処する事も出来るはずだ。
 このセレークトゥース・ワールドではショップエリアにて、便利なアイテムも手に入れて来た。
 クアンスティータの宇宙世界で手に入れたアイテムというのはもの凄いアドバンテージになる。
 パニック状態が予想される現界においても十分な助力となるだろう。

 吟侍は、QPを使って、ショップエリアに居るぴょこたんに連絡を入れた。
「あ、ぴょこたんか?おいらだ、吟侍だ。とりあえず、シェリル姫のエリアは体感してきたんで、次のプリンセスのエリアを紹介して欲しいんだけどさ。相談した結果、あんま、無理しない方向で行こうと思ったんだよな。んな訳でさ、シェリル姫と同レベルくらいのプリンセスをいくつか紹介して貰えっと助かるんだけどさっ」
 とのお願いに、ぴょこたんは即答でOKの返事をくれた。
 無存在ルームにあるファックスの様なものから順番に資料の様な物が出てくる。
 十数枚の資料が吟侍達の手元に届いた。
 吟侍は、
「さて、次に回るエリア、決めようぜ、どこにする?」
 と女性陣に声をかけた。
 ステラは、
「私は、ここが良いかな?」
 フェンディナは、
「わ、私はこちらがよろしいかと……」
 等々、意見が割れたので、相談して、候補を挙げて行った。
 最終的には、3つ目に回るかも知れないエリアも選んでおきたかったので、最終候補は二つにした。
 そして、相談の結果、いくつかの資料から2つのエリアの候補が残った。
 残った2つのエリアのプリンセスの名前は、アルフォンシーナ(Alfonsina)姫とレティシア(Laetitia)姫だ。
 この2名のプリンセスが選ばれた大きな理由はこの2名が【泉に眠る少女姫】の派閥に属する姫だったからだ。
 あまり他に属するプリンセスのエリアを回るよりは多少なりとも体感した、【泉に眠る少女姫】の派閥のプリンセスにしようという事になったのだ。
 そこで残ったのがアルフォンシーナ姫とレティシア姫の資料という事になる。
 プリンセス1名に対して、プリントされているのは1枚なので、あまり詳しくは書いていないが、簡単なテーマストーリーはそれぞれ書かれていた。
 それによると――

【アルフォンシーナ姫のストーリー】

 ――ある国では、とても愛らしいプリンセスが生まれました。
 アルフォンシーナと名付けられたそのお姫様は国王様もお后様もそれはそれは、目に入れても痛くない程可愛がりました。
 国王様はパーティーを開きます。
 そのプリンセスの誕生を祝うパーティーです。
 だけど、そのパーティーには魔女達は招かれませんでした。
 理由は不吉な存在と言われて居たからです。
 魔女達は怒ります。
 そんなパーティーなどぶち壊してしまえば良いと思います。
 魔女達は結託して、パーティーに乗り込み、赤ん坊のアルフォンシーナ姫を攫ってしまいました。
 プリンセスを攫った魔女達は言います。
「お前達の愛が本物ならば、本当のプリンセスを見つけられるはずだ。だけど、偽者をプリンセスを選べば、国が滅びるだろう」
 と。
 魔女達は散り散りに自分の家に戻ります。
 魔女達の中に1人だけ、本物のアルフォンシーナ姫を攫った魔女が居ますが、他の魔女はアルフォンシーナ姫の偽者をプリンセスとして育てていました。
 国王様は魔女達をくまなく探しますが、見つけられず、15年の時が流れてしまいました。
 アルフォンシーナ姫も大きくなっているはずなので、どんなお姫様に成長したのか解りません。
 国王様は15年前に捕らえた魔女達を全員捕まえましたが、プリンセスだと主張する女の子が20人出てきてしまいました。
 国王様やお后様、家臣達はどの女の子が本物のアルフォンシーナ姫だか解りません。
 魔女達は呪いの言葉を残しています。
 偽者の姫を迎え入れたら国が滅んでしまうという言葉を。
 困り果てた国王様達の前に一人の女性が現れます。
 彼女もまた魔女でした。
 その魔女は魔女への差別をやめてくれるなら本物のアルフォンシーナ姫を言い当てると言いました。
 憎っくき魔女を認めるということには国王様は反対します。
 ですが、お后様達の説得もあり、魔女達の権利を認める事にしました。
 それを聞いた魔女はフードを取ります。
 その姿は紛れもなくアルフォンシーナ姫そのものでした。
 気品が他の娘達とはまるで違います。
 そうです。
 魔女達と一緒に居たアルフォンシーナ姫達の中に本物は居なかったのです。
 魔女達は、こっそりとアルフォンシーナを別の郷で育てていたのです。
 魔女達の優しさに触れて育ったアルフォンシーナ姫は魔女達にも生きる権利を与えようと思って行動していたのです。

 ――というストーリーだ。

【レティシア姫のストーリー】

 ――ある時、とても意地の悪い女王が居ました。
 その女王の名前はジンベリと言いました。
 ジンベリ女王は恋をしました。
 ランス王子にです。
 ですが、ランス王子は性格の悪いジンベリ女王の求婚を断り、一人の村娘と結婚しました。
 ランス王子にフラレた事よりも、女王である自分がただの村娘に負けたという事実が許せなかったジンベリ女王は呪術師に依頼をして、国王に即位したランス王子と村娘の間に生まれたレティシア姫に呪いをかけました。
 それは、首、胸、腰、右腕、左腕、右足、左足の七カ所が、段々陶器に変わっていくと言う呪いです。
 陶器になった部分は、それぞれ、七名の大魔王の供物(くもつ)とされてしまいます。
 七カ所全てが陶器に変わった時、レティシア姫はただの陶器の人形となってしまい、本物のレティシア姫は大魔王達に食べられてしまいます。
 身体が徐々に陶器に変わっていくレティシア姫を見て、ランス国王と村娘だった王妃は悲しみます。
 様々な英雄達が呪いに挑みますが、全てやられて帰ってきました。
 どうしようもないと思われた時、お城に飾られていた彫刻がしゃべり出しました。
「僕を動けるようにして下さい。そうすれば、見事、レティシア姫を救ってみせましょう」
 と言って来たのだ。
 半信半疑ではあったものの、藁をも縋る(すがる)気持ちだったランス国王は魔法使いに依頼して彫刻を動ける様にしました。
 彫刻の名前は、ジュビアルと名付けられました。
 ジュビアルはモンスターを仲間にしながら、次々と大魔王達を倒して呪いを解きました。
 役目を終えたジュビアルは彫刻に戻ろうとしました。
 ですが、レティシア姫のキスで勇者として命を得ることが出来、彼女と結婚しました。
 それを知ったジンベリ女王はナイフを持ってジュビアルとレティシア姫の結婚式に忍び込みましたが、隠れていた所が廃棄され、人知れず、ジンベリ女王は泣きじゃくりました。

 ――というストーリーになる。
 アルフォンシーナ姫にしろ、レティシア姫にしろ、シェリル姫の時と同様にエリアのテーマのどこかに関係者として参加して、体感するという事になる。
 問題は、まず、どちらのプリンセスのエリアに進むかという事になる。
 どちらのテーマを進むにしてもシェリル姫の時の様に苦戦はするかも知れない。


04 新商品開発プロジェクト


 エカテリーナは、
「どっちにするのじゃ?妾はどちらでもかまわんぞ」
 と言った。
 その言葉にソナタ、ステラ、フェンディナ、レスティー、那遠が頷く。
 5人も同じ気持ちなのだろう。
 となると、後は吟侍の意見という事になるが、吟侍も、
「おいらの意見で決まる訳か、うーん、どっちだろうな……」
 とどちらにするかで悩んでいた。
 すると、フェンディナが、
「ラッキーフレンドを通して決めたらどうですか?」
 と提案した。
 彼女が吟侍に提供したラッキーフレンドと呼ばれる小さな妖精の様なものを通して見ると、比較的良い方向に事を進めるという事になっている。
 それがセレークトゥース・ワールドで何処まで通用するかは解らないが、全く無効という訳でもないだろう。
 物は試しと、吟侍は、
「そうだな、やってみっか」
 と言ってラッキーフレンドを呼び出した。
 すると、ラッキーフレンドは、
「こっち、こっち……」
 と一つの資料を指さした。
 指したのはアルフォンシーナ姫の資料だった。
 ラッキーフレンドが選んだのだから、レティシア姫のストーリーを先にするよりは、物事が好転するだろうという事になり、満場一致でアルフォンシーナ姫のエリアに行くことに決まった。
 となれば、準備が必要になる。
 吟侍達は無存在ルームの進路をショップエリアに指定した。
 ショップエリアで更なる買い物をするつもりだからだ。
 ショップエリアには、ぴょこたんが待っていた。
「ぎんちゃんさん、おまちしてましたでちゅ」
 相変わらずの舌っ足らずなしゃべり方だ。
 ぴょこたんが待っていたのは吟侍の個人口座の残高が、ある一定の基準を超えた事を知らせたものだった。
 看板商品である【真似っこ吟ちゃん】の売り上げが予想以上に大きく、吟侍の個人資産が思った以上に増えて来ているとのことだった。
 既に、セレークトゥース・ワールドに来た時点での吟侍の資産の1000倍以上はあるというのだ。
 吟侍は、
「そりゃ、ぶったまげたなぁ〜、そんなに売れたのか、あれ……」
 と言った。
 吟侍はぴょこたんに自身の生体データを商品化するという事を持ちかけていた。
 それを目玉商品として、店を大きくして行ったのだ。
 実際の経営は、ノウハウを吟侍なりにぴょこたんに伝授して、ぴょこたんが行っていたが、アイディアの提供者として、売れれば売れる程、吟侍の資産は大きくなって行くというものだった。
 だが、商品の人気にも陰りが見えてきたので、新たな新商品開発を手伝って欲しいという事で会いに来たのだ。
 吟侍達としては、アルフォンシーナ姫のエリアに行きたいので、それどころでは無いのだが、この新商品開発を次の冒険に活かせないかと思案した。
 とは言っても身一つでセレークトゥース・ワールドに来ている吟侍達に提供出来るのは基本的には自身の生体データくらいしかない。
 だとすると、吟侍以外の女性陣の生体データを提供するか?という事になるのだが、自分であれば良いが、女性が簡単に生体データを提供するとは思えない。
 クアンスティータ関係とは言え、知らない存在に自分の全てを晒すことにもなるのだ。
 女性としては気持ち悪いという事にもなる。
 女性だけに限らず、吟侍はさらっと提供したが、好きこのんで自分の生体データを他に提供したいとは思わないはずである。
 また、提供したとしても、【真似っこ吟ちゃん】の様に売れるとは限らない。
 なので、吟侍としては生体データではなく、別のサービスを提供するのが良いだろうと判断した。
 考えられる事と言えば、シェリル姫の森で手に入れた化け物達をどうにかするというのはどうだろうという事だった。
 シェリル姫の森に住んでいたという事は、今は、吟侍のルフォス・ワールドの所属になってはいるが、元々がクアンティータの宇宙世界の住民であるのだから、セレークトゥース・ワールドに拒絶されるという事にはならないはず。
 シェリル姫のエリアでは力不足を感じさせる事が多かったので、シェリル姫の森で手に入れた化け物達の力を女性陣達に付加する事が出来れば、この先の冒険も比較的有利に運べるのではないかという事を相談した。
 シェリル姫の森の化け物の戦闘力や能力を一時的にでも女性陣達に割り振るようなアイテムを開発出来ないかと話し合った。
 ぴょこたんの答えは、力を借りる化け物の属性が吟侍(ルフォス)のものとなっているのであれば、そんなに難しく無く出来るのではないかとの事だった。
 正直、エカテリーナやフェンディナ達は自分達に秘めている本来の力を発揮できているとは言えない状態なので、化け物の力を借りられるという事は次の冒険をするに当たって必要条件であると言えた。
 ぴょこたんは、
「わかったでちゅ。ではじょせーのみなちゃん、ちゅいてきてくだちゃい」
 と言った。
 ぴょこたんと吟侍による、新商品開発プロジェクトが始まった事になった。
 吟侍と違い、女性陣達は、セレークトゥース・ワールドに求められてという存在ではないので、適応外だったりなど、失敗を数多く重ねた。
 だが、その度に、吟侍は失敗に落ち込むぴょこたんを励まし、研究と実験を繰り返した。
 失敗して失敗して失敗して失敗して失敗を繰り替えて、ようやく、一つの研究成果――新たなる目玉商品の目処が立った。
 吟侍はその間、一人で、シェリル姫の森に行き、特別な金貨を使って片っ端から雇えるだけ、化け物を雇っていた。
 特別な金貨が無くなるとシェリル姫の城下町でバイトして、貯めて、また、シェリル姫の森に行って化け物を雇うという事を繰り返した。
 一応、クリアしたエリアではあるが、また来てはダメだという事は無い。
 化け物を雇うという意味でもシェリル姫の森は入れ食い状態なので、行く意味は十分にあった。
 気づいたら1000種類以上の化け物を雇った事になり、それら全てをルフォス・ワールドに送り込み、管理者ウィンディスによる属性変換手続きが行われた。
 吟侍はショップエリアのぴょこたんの店に戻り、その事を説明した。
 ぴょこたんは、
「それだけあればじゅうぶんでちゅ」
 と言った。

 吟侍とぴょこたんが共同で開発した新商品の名前は【プラスアップエキス】という飲料水だ。
 これは、力を提供する化け物が一定時間所持する事でエネルギーが充填されるというものになる。
 そのエネルギーの貯まった【プラスアップエキス】を飲む事により、力を提供した化け物の体力、能力、防御力などを一時的に飲んだ者に付与されるというアイテムになる。
 ただし、これは、完全に味方という属性になっていなければ成立しないというものになるので、吟侍が化け物を自分のルフォス・ワールドに取り込むという事が絶対条件としてあった。
 吟侍の仲間であるという事が証明されれば、吟侍の手に入れた化け物の力の提供を受ける事が出来るというものになる。
 その証明が問題で、ぴょこたんの計らいで、吟侍のほっぺにチュッとすれば認められるという事にしてしまった。
 吟侍は余計な事をと思ったが、女性陣の目は何となくギラギラしているように見えたという。
 吟侍は、
「お、おちつけって、みんな。これじゃキスが嫌な奴は提供されない事になる。設定を変えてもらおう」
 と言ったが、ぴょこたんは、
「だいじょうぶでちゅ。せいひんばんは、あくしゅにしまちたから」
 と言った。
 吟侍は、
「なら、なぜ、これもそれにしない?」
 と聞き返したが、ぴょこたんは、
「じょせいのかたたちがぜひにというのでそうちまちた」
 と言った。
 吟侍達が試すのは製品版ではなく、試作版だというのは解ったが、設定を変更する意味が彼にはわからなかった。
 ソナタは、
「さぁ、吟侍、覚悟なさい」
 と言った。
 吟侍は、
「な、なんの覚悟なの、おそなちゃん?」
 と狼狽えた。
 吟侍にはそのつもりは無くとも女性陣達には、このセレークトゥース・ワールドで吟侍とさらに親しくなろうという思惑がある。
 隙あらば、そういうイベントを割り込ませるという事は初めから考えにあったのだ。
 そんな乙女心の下心が全くわからないぴょこたんは、真面目に商品の説明をした。
 それによると、【プラスアップエキス】は3タイプあり、【松】・【竹】・【梅】のエキスになっている。
 【松】のエキスは、提供者の力を90%近くまで借りる事も出来るが、持続時間がかなり短い。
 逆に、【梅】のエキスは、提供者の力を10%前後くらいまでしか借りる事が出来ないが、持続時間は一番長い。
 【竹】のエキスは、その中間くらいの持続時間で提供者の力は50%くらい借りる事が出来ると言うことになっている。
 また、複数のエキスを同時に飲む事も出来るが、効果があるのは足して200%になるくらいまでで、後はいくら飲んでも効果が切れるまで、新たなる力の追加は無いとの事だった。
 また、例えば【松】のエキスは90%近くまで借りられるが、90%にする必要も無く、他のエキスとの併用を考えて70%などに抑えるなどの利用も可能だが、あくまでも【松】等のエキスの持続時間は変わらないとの事だった。
 それらの説明を舌っ足らずなしゃべりで淡々としたぴょこたんを余所に、吟侍と女性陣による、キスをするしないの応酬があった。
「吟侍さん、ほっぺにチュッとするだけです」(フェンディナ)
「カノンには黙っててあげるから」(ソナタ)
「犬にかまれたものだと思って」(ステラ)
「減るもんじゃないし……」(レスティー)
「お客さん、サービスです、サービス」(那遠)
「妾の口づけが受けられんと申すのか?」(エカテリーナ)
「お、おめぇ達、何か目的が変わってねぇか?」(吟侍)
「気のせい、気のせい」(女性陣)
「お、おめぇら……」(吟侍)
「なかいいでちゅね」(ぴょこたん)
「そ、そうか?」(吟侍)
 紆余曲折はあったが、多勢に無勢、吟侍は女性陣につかまり、仲間である証明を取らされた。
 結果、吟侍だけは釈然としなかったが、女性陣達は満足したようだった。


05 アルフォンシーナ姫のエリアへ


 一悶着あったものの、吟侍達は他にも必要と思えるアイテム等を揃え、アルフォンシーナ姫のエリアに行く準備を整えた。
 シェリル姫のエリアはスタンプもあるので比較的安全に回る事が出来るがアルフォンシーナ姫のエリアには初めて行くという事になる。
 シェリル姫のエリアに初めて訪れた時の様に、危険極まりない状態で足を踏み入れるという事になる。
 今回は【プラスアップエキス】(試薬版)という強味が出来たが、それでも100%安全かというとそれは絶対にない。
 痩せても枯れてもここは、クアンスティータの所有する宇宙世界に属する場所だ。
 余裕を持てるという事にはまずならない。
 念には念を入れてさらに念には念を入れてもまだ全然足りないくらいなのだ。
 吟侍達は、ここに来る前に、ぴょこたんの店で更にたくさん食べてきた。
 特に吟侍はシェリル姫のエリアの冒険で、せっかく貯めた栄養を使い切ってしまっていたので、女性陣達が呆れるくらい食べまくってから来た。
 なので、栄養的には十分過ぎるくらいの準備を整えて来ている。
 女性陣達は、心配なので、このエリアに足を踏み入れる前に【プラスアップエキス】を服用して来ている。
 【梅】のエキスを20本――つまり、一人あたり、20もの化け物の恩恵を得て来ている。
 【梅】のエキスは10%くらいまでしか力の提供を得られないが、持続時間は折り紙付きだ。
 それに、20本も飲めば、10%ずつとは言ってもかなりの力のプラスにはなる。
 体力や防御力だけを見ても、アルフォンシーナ姫のエリアの難敵達に対してもかなり対応出来ると考えていた。
 だが、油断は命取りになる。
 シェリル姫のエリアに行ってすぐに瞬殺された経験を持った吟侍達はもう、油断はしたりしなかった。
 慎重に行動する。
 アルフォンシーナ姫のストーリーは簡単なあらすじくらいは頭に入れている。
 そこで、吟侍達は、登場キャラクターをある程度、整理する事にした。
 まず、アルフォンシーナ姫のエリアでの最重要キャラクターはタイトルにもなっているアルフォンシーナ姫だが、シェリル姫の時と違い、アルフォンシーナ姫の所在は解らない事になっている。
 赤ちゃんの時に魔女達に攫われたアルフォンシーナ姫は魔女達に隠れて育てられたという設定になっているからだ。
 答えの力でアルフォンシーナ姫の所在を探すという事も考えたが、物語の重要なキーポイントの一つであるアルフォンシーナ姫の所在が吟侍達の答えの力でつきとめられるかどうかはかなり怪しい。
 試しにやってみたが、シェリル姫の時と違い、手元の資料にもアルフォンシーナ姫の素顔が書かれていない。
 つまり、探し出しても、それが、アルフォンシーナ姫だという確証は持てないという事になる。
 本物のアルフォンシーナ姫は素性を隠し、魔女として行動している。
 ただでさえ見つけにくい魔女達の居場所をつきとめ、更に、その中から本物のアルフォンシーナ姫にたどり着くのは天文学的確率しかないだろう。
 ラッキーフレンドの力を使っても効果は薄かった。
 なので、物語になぞって行動する事にした。
 今、居る時間軸は、アルフォンシーナ姫が行方不明となって、国王がおふれを出して、姫の行方を九眼になって捜しているシーンなので、時間軸を巻き戻して、アルフォンシーナ姫が生まれて開かれたパーティーの時に戻る事にした。
 このセレークトゥース・ワールドでは時や空間の概念が破綻しているので、時間を飛ばす事も出来れば戻す事も出来るのだ。
 最も、失われたもの等は時間が戻っても元に戻る事は無い。
 それにより、戻った場合、簡単にパラドックスが起きる。
 そういう意味では下手に時間を戻す事は出来ない危険な行為と言えた。
 慎重に配慮をして、時間軸を戻す。
 無事に目的の時間軸まで戻したは良いが、吟侍達は城の外に居た。
 赤ちゃんのアルフォンシーナ姫は居るだろうが、アルフォンシーナ姫の特徴を確認したくても、城に入る手段が思いつかなかった。
 ソナタが、
「こう見えても私はメロディアス王国の第六王女だからね。王族が他の王族のパーティーに招かれるのはよくあることよ」
 と根拠の無い自身を持って行ったが、門番に、
「知らんな、帰れ」
 と言って追い返された。
 ソナタは、
「無礼な奴だったわ」
 と激昂していたが、エカテリーナは、
「アホか貴様、ここは、現界ではなく、セレークトゥース・ワールドだ。現界での常識が通用する訳ないであろう」
 と言った。
 ソナタは、
「わ、解っているわよ。ちょっと試してみただけでしょ。もしかしたら上手く行くかもしれないと思ったのよ」
 と照れ隠しに言った。
 吟侍はソナタをフォローするつもりで、
「おそなちゃんは、ちょっと抜けたとこがあるんだよ。それが可愛いとこでもあるっていうか……」
 と言ったが、逆にソナタを怒らせた。
「あんたまで、バカにして。吟侍のくせにぃ〜」(ソナタ)
「うわっ、やめろって、おそなちゃん。おいらはフォローをだな……」(吟侍)
「フォローになってないわよ」(ソナタ)
「な、なんでだ?」(吟侍)
「仲がよろしいこって」(レスティー)
「ちょっと妬けちゃいますね」(フェンディナ)
「おふざけはそこまでにして。また、何かあるかもしれないわよ」(ステラ)
「そうですよ。皆さん。私なんて心臓がバクバク言ってますよ。皆さんと違って、私はか弱いんですから」(那遠)
「あんた、一人だけ可愛い子ぶろうと思ってんの?私だって、か弱いわよ」(ソナタ)
「喧嘩はやめて下さい」(フェンディナ)
「女は強くてなんぼだぞ」(エカテリーナ)
「おい、騒ぐなって」(吟侍)
「解っているわよ」(ソナタ)
 等の様に、チームワークにはいささか不安が残るメンバーだった。
 このままでは埒があかないので、誰かが、城に忍び込んでアルフォンシーナ姫の特徴を見てくるという事になった。
 吟侍かレスティーが確認すれば答えの力でイメージを共有する事が出来るが、レスティーに技量では忍び込むのは無理なので、吟侍が一人で見てくるという事になった。
 忍び込むと言えば、忍者だ。
 忍者と言えば、吟侍の義兄、芦柄 琴太(あしがら きんた)と一緒に土の惑星テララに居るはずのくのいち、野茂 偲(のも しのぶ)が居る。
 彼女の忍びとしての力を借りようと思って、ハイパーダウンロードという力を使う。
 これは、吟侍があらかじめ、ルフォス・ワールドに登録しておいた仲間の力を一時的に借りることが出来るという力だ。
 偲は、惑星テララに立つ前に、ルフォス・ワールドに登録してくれたので、彼女の力を使う事が出来るのだ。
 だが、吟侍は、
(あれ?……)
 と、何かを感じたようだった。
 偲のパワーから、1番の化獣、ティアグラの気配を感じたのだ。
 琴太達の冒険でも何かあったのかと少し、心配になった。
 琴太達の冒険では、偲はティアグラの傀儡として、敵に回ってしまっている。
 しかも、ティアグラはクアンスティータを恐れ、自身の所有する宇宙世界、ティアグラ・ワールドに琴太達ごと引きこもってしまっている。
 そのため、吟侍達には、琴太達の置かれている状況が解らなかった。
 また、義弟の芦柄 導造(あしがら どうぞう)の事は認識出来なくなっている。
 彼のパーティーもやはり、クアンスティータを恐れる死の回収者ファイシャにより、存在しない事になってしまう宇宙世界、抜回へと引っ込んでしまっているのだから。
 そして、最愛の恋人、カノンのパーティーもまた、8番の化獣、オリウァンコとの戦闘中であり、カノンだけは、第一側体、クアンスティータ・トルムドアにより、トルムドア・ワールドへ連れ去られている。
 吟侍達以外の救出班もまた、様々な、出来事と立ち向かっているという状況になっている。
 吟侍達が対応しているクアンスティータ・セレークトゥースほどではないにしても、彼ら彼女らもまた、超強敵、超難敵との戦いをしている。
 これらを突破して、また、再び、仲間と出会える事を信じて今は前に進むしかなかった。

 偲の遁走術をダウンロードした吟侍だが、そのままでは、このセレークトゥース・ワールドでは通用しない。
 なので、さっそく、【プラスアップエキス】でのブースト付加をして、城に忍び込んだ。
 ちょっとしたこそ泥気分という感じだった。
 吟侍が城に忍び込んだのに前後して、魔女達がぽつぽつと現れ始めた。
 城のパーティーに招待されなかったという怨みを持つ魔女達だ。
 これから、アルフォンシーナ姫を攫うというイベントが起きようとしていた。
 吟侍は魔女達にアルフォンシーナ姫を攫われる前にアルフォンシーナ姫の特徴を見てこなくてはならなかった。
 時は一刻を争う状況だが、吟侍の忍びの術をもってしても、お城の警備は厳重でなかなか思うようには事は運ばなかった。
 そうしている間にも魔女達は集結し、城の門を突破した。
 それを少し離れた位置で見ていたソナタは、
「ちょっとぉ〜大丈夫なのぉ〜?」
 と心配した。
 ステラは、
「吟ちゃんなら、何とかしてくれるとは思うけど……」
 とは言ったものの、彼女も心配だった。
 エカテリーナは、
「案ずることはない。妾が認めた男じゃ。何とかするじゃろう」
 と言った。
 レスティーは、
「そうね。私の答えの力も上手く行くという答えが導き出されているわ」
 と言い、那遠は、
「そうです。なんてったって、あのジョージさんの後継者さんですからね」
 と言った。
 那遠の言うジョージ神父は地球出身であり、彼女は大ファンでもある。
 その後継者の吟侍に憧れてここまでついてきたのだから。
 フェンディナも、
「吟侍さんなら、何とかしてくれるような気がします」
 と言った。
 それを聞いてソナタも
「なによ、私一人だけ?心配して、損した。私だって、あのバカの事は信じてるんだから」 と言い直した。
 女性陣が見守る中、吟侍の挑戦が始まった。


続く。







登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。


004 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。


005 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。


006 ステラ・レーター
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。


007 レスティー
レスティー
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)
片倉那遠
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。


009 クアンスティータ・セレークトゥース
クアンスティータ・セレークトゥース
 ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。


010 ぴょこたん
ぴょこたん
 吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
 店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
 吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
 名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
 吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
 幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
 吟侍とは共同経営者という立場になった。


011 シェリル姫
シェリル姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 自身の影に悩んでいて、影を倒してくれる勇者を待っているという設定だが、自身の名前が反転すると影以上の化獣になる。


012 アルフォンシーナ姫
アルフォンシーナ姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 圧倒的な力を持つ魔女達に攫われるが、魔女として、魔女の権利を訴える。















013 レティシア姫
レティシア姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 呪いを受け身体の七カ所が陶器に変わっていってしまうお姫様。