第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その5

ウェントス編第004−05話挿絵

01 クアンスティータの不幸?


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は1人、アルフォンシーナ姫の城に忍び込んでいる。
 城の外には女性陣達を待たせている。
 城の外で待機している女性陣は、ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーの6名だ。
 吟侍は、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの2つ目、アルフォンシーナ姫のエリアを無事に体感するために、素性の解らないアルフォンシーナ姫の特徴を拝見しに彼女の住む城に来ている。
 拝見すると言っても赤ちゃんの状態のアルフォンシーナ姫なので、成長したアルフォンシーナ姫にその特徴が残っているかどうかは不明だが、例え赤ちゃんでも答えの力で回答をさぐれば、成長したアルフォンシーナ姫がどの魔女に扮しているかというのは解るかも知れないと考えている。
 だからこそ派手に動かずに慎重に行動する必要があった。
 このエリアでも何が起きるか解らないからだ。
 最初に行ったシェリル姫のエリアの時にも感じたことなのだが、このセレークトゥース・ワールドは破壊的エネルギーに対して、恐ろしいくらい異常に高い摩擦力、抵抗力を持っている。
 現界であれば、宇宙全体の崩壊をまねきそうなエネルギーを作り出しても、シェリル姫の森の木一本に当たった時にはせいぜいが、枝一本焦がす程度。
 それも極端に早い再生力であっという間に修復する。
 能力効果で極端に再生しにくい要素を盛り込んでいてもその例外にはならなかった。
 外部からの衝撃に恐ろしく強い耐性を持ち、現界での常識が全く通用しない宇宙世界、それがセレークトゥース・ワールドだ。
 恐らくはクアンスティータの所有する宇宙世界はみんなこんな感じなんだろう。
 クアンスティータの宇宙世界自体が吟侍達を余裕で押しつぶすポテンシャルを持っているからこそ、一挙手一投足に気を配っていかなければそれが命取りになる。
 吟侍はラッキーフレンドを使用して、より良いルートを見つけ出そうとした。
 だが、ラッキーフレンドの妖精達からは、
「わかんない、わかんない……」
 という答えが返ってきた。
 幸運を呼び寄せるはずのラッキーフレンドが解らないという答えを出すなど尋常ではないくらいあり得ない事だ。
 だが、現実問題として、解らないという答えを出している以上、ラッキーフレンドは宛にはならない。
 ヒストリーエリアでの冒険はショップエリアで自身を極大ブーストしていかないととてもじゃないが、進んで行けそうも無かった。
 だが実は、吟侍は新必殺技の様なものをイメージしている。
 その必殺技の名前は、【インフレーション・バースト・キック】もしくは、【インフレーション・バースト・パンチ】という。
 その技はインフレーション現象を起こす火種を作り出し、対象者へ投げつけたりする。
 その火種が対象者に当たる瞬間にキックもしくはパンチなどを火種に当て、インフレーション現象を更に超加速させる。
 その加速されたインフレーションの超爆発的なエネルギーが対象者に全面的に降り注ぐという現界で放てば、現界の崩壊を招きかねない大技だ。
 だが、その超必殺技もこのセレークトゥース・ワールドではどこまで通用するか解らないというのが正直な気持ちだった。
 使いどころの無い必殺技に意味はない。
 破壊エネルギーなどを超強力に吸収してしまうセレークトゥース・ワールドで使えなかったら、恐らく使える所などはどこにも無いだろう。
 無用の長物という事になる。
 だが、現界であれば使えないくらいの大技を考えなければ、このセレークトゥース・ワールドでは通用しない――それだけは確かだった。
 力というのはある一定以上を飛び越えてしまうと逆に不便なんだなと吟侍は思った。
 強さを求めて何処までもスキルアップをしていく者は現界においてもかなりの数、存在する。
 だが、強さの行き着く果てというのは逆に窮屈であり、制限などが逆に出てきてしまうものなんだなと考えた。
 こういう考えが浮かぶのは吟侍の実力が知らず知らずの内に、現界でのレベルを大きく飛び越えているからでもあった。
 極端に強くなってしまったら、逆に守りたくても守れなくなる事も出来るし出てくる。
 その言葉をルフォス・ワールドの奥に住む、師匠、ガラバート・バラガからよく聞かされていたが、ようやく、その意味が解るようになってきた。
 クアンスティータの力は明らかに異常だ。
 ここまで強くなってしまうと逆にがんじがらめの制限が出てきてしまい、不便極まりなくなってくる。
 怪物ファーブラ・フィクタはクアンスティータに最強の力を与えて生まれさせた。
 それは、他者に殺されないためだという立て前があった。
 だが、この力を持っていて、本当に幸運なのか?
 クアンスティータの行動には常にあれもダメ、これもダメという制限がつきまとう。
 そのルールを破れば世界は崩壊する。
 嫌でもそのルールを守るしかない。
 自由なようでいて、逆に自由ではない。
 クアンスティータが邪心を持てば、それだけで、全てが終わる。
 だから、常に純粋で無くてはならない。
 清廉潔白でなくてはならない。
 それがクアンスティータなのではないか?
 吟侍はそう思った。
 彼にはクアンスティータが恐ろしい存在というより、何だか哀れで、不憫な存在――そう思えてきたのだ。


02 アルフォンシーナ姫と魔女


 余計な事を色々考えていたので、うっかりミスが出た吟侍は一度、城の警備に捕まってしまった。
 ブースト効果による超遁走術で逃げ出したは良いが、吟侍の存在がばれてしまった。
 昔からかくれんぼは得意だった吟侍にとって、見つかってしまうという事が信じられなかった。
 吟侍は、
「嘘だろ……?」
 と動揺を含んだ声をもらした。
 勝てないまでも見つかることはないと思っていただけに軽くショックを受けた。
 油断大敵。
 一瞬の油断が命取りになる。
 吟侍は改めてこのことを再確認した。
 クアンスティータの事を考えていたとは言え、雑念が多すぎた。
 今はクアンスティータの事よりもアルフォンシーナ姫の事を考えようと思い直した。
 吟侍は城の外側に一旦、引き上げる事にしたが、そこで、フードを被った女性20名とすれ違った。
 全く気配を感じさせない状態から、フッといきなり現れた感じだったので、吟侍は隠れる事さえ出来なかった。
 吟侍の実力でもこの20名といっぺんに戦えば負ける――いや、1対1でも危うい――そう感じさせた。
 その20名は魔女だった。
 魔女は魔女でも現界などに居る様な魔女とは明らかに実力が段違いな魔女だった。
 魔女というよりは超魔女とかで表現した方がよさそうな感じだった。
 1名1名が途轍もない呪力を持っている。
 こんなのに攻め込まれたら現界は終わりだと思わせるような迫力を感じさせた。
 そんな魔女達が、招待されなかった事を怨み、アルフォンシーナ姫を攫(さら)いにきたのだ。
 次から次へととんでもない実力者がさらっと現れるなと吟侍は思った。
 このアルフォンシーナ姫のエリアもまた、シェリル姫と同じ下の位のプリンセスのエリアに過ぎない。
 だが、現れた魔女達から感じる威圧感はとても下のプリンセスのエリアの中でのキャラクターだとは思えなかった。
 長くいれば長くいるほど、その世界の脅威に驚く事ばかりだ。
 吟侍のパートナー、7番の化獣ルフォスがクアンスティータの事を心の底から恐れるというのも解らなくは無かった。
 吟侍達もセレークトゥース・ワールドのポテンシャルの高さに圧倒されている。
 吟侍達よりも遙かに、宇宙世界の感覚について理解できているルフォスが感じている脅威は吟侍達の比ではないのだろう。
 ルフォスは吟侍の持っている勇気が欲しいと願い、彼の心臓となる道を選んだ。
 だが、勇気があれば勝てるというレベルではない。

 吟侍は惑星ウェントス主催の王杯大会に参加した。
 その大会のエカテリーナ枠には想像を絶するような力を持つ強者達がたくさん参加して来た。
 だが、その参加者達もこのセレークトゥース・ワールドで出てきた強者達と比べると大きく霞んでしまう。
 少なくとも王杯大会エカテリーナ枠では生身でいたら即死する可能性が高いという状態には陥(おちい)らなかった。
 ブーストしまくってもなおかつ命の危険が常につきまとうという状態ではなかった。
 それだけ、セレークトゥース・ワールドのレベルが高すぎるのだ。
 クアンスティータは、こういう宇宙世界を24も持つという事になる。
 信じられないくらいの脅威だ。
 この目の前の魔女もまた、脅威の一つであり、それでも全体から考えると、氷山の一角にも満たない脅威に過ぎない。
 だが、この魔女達の側に居る吟侍からは、ボタボタと冷や汗が流れ落ちる。
 選択を間違えれば、吟侍の運命はここで尽き果てる。
 小細工が通用するような相手ではないのは確かだった。
 吟侍の中に緊張が走る。
 ――と、魔女の一人が声をかけてきた。
「お前、私達が何なのか解っているな?何者だ?」
 と聞いてきた。
 吟侍の事を物語りと関係ない異分子だという事に気づいているのだ。
 その全てを見透かしていそうな瞳に見つめられると気が狂いそうだった。
 何というか格が違う――そんな感じだった。
 魔女に対して、自分がいかにちっぽけかということを認識させられる吟侍。
 魔女は続けて、
「……まぁ、良い。邪魔をするなら命はないぞ。黙って見ているんだな」
 と言った。
 吟侍に対して威嚇ともとれる言葉だ。
 本来の吟侍であれば、その威嚇に対して思わずうならせる回答をするのだが、その回答をすれば、即、命取りにもなりかねないというのを肌で感じ取っていた。
(おいらが、萎縮してるのか?)
 吟侍はそう思った。
 今まで、どんな敵が現れようとも気持ちは負けていなかった。
 偽クアンスティータに襲われた時も何とかしようという気持ちが強かった。
 だが、この魔女に対しては圧倒的なまでの言葉の暴力に屈してしまっている。
 屈している?
 そうか、これは、言霊だ。
 言葉による強制だ。
 そう気づくまでにしばらくかかった。
 通常の相手の言霊であれば、ここまで脅威を感じる事はなかった。
 だが、言霊による力にせよ、吟侍は屈してしまった。
 それに恐ろしさを感じた。
 吟侍の何とかしようという気持ちは彼の【答えの力】に直結している。
 答えをひねりだそうという気持ちがあって初めて【答えの力】は正常に機能する。
 だが、強制的にひれ伏されてしまったら――
 答えを出すことなく、屈服させられるかも知れない――
 吟侍はその事に対して強く恐怖を感じた。
 吟侍は、
「あんたら、おっかねぇな」
 と言った。
 これは正直な感想だった。
 勝てるイメージが浮かばない相手。
 それが、アルフォンシーナ姫のストーリーに出てくる魔女達だった。
 魔女の一人が
「ちょっかいをかけて来なければこちらも何もしない」
 と言った。
 吟侍は、
「そうだな。今は全くあんたらに勝てる気がしねぇや……」
 と答えた。
 それが精一杯だった。
 魔女達はその後、アルフォンシーナ姫を攫った。
 そして、隠れていた吟侍の前に現れ、
「この娘の顔が見たかったのだろう?」
 と言った。
 吟侍の思惑は魔女達にはお見通しだったのだ。
 吟侍は、黙ったまま、アルフォンシーナ姫の特徴を観察した。
 だが、気持ちとしては屈辱感でいっぱいだった。
 施しを受けた――
 その印象が強かったからだ。
 魔女達はアルフォンシーナ姫を攫い城を出て行ったが、吟侍は何も出来なかった。
 させて貰えなかった。
 こんなのは初めてだった。
 女性陣6名の元に戻った吟侍は複雑な顔でだった。
 愛想笑いのようなものをしている様な気がした。
 ソナタが、
「どうしたの?何か、変よ、あんた?顔真っ青だし……」
 と聞いた。
 吟侍は、
「ちょっとな。このままじゃダメだと思い知らされた」
 と答えた。
 吟侍は答えの力で、自身が味わった屈辱も含めて、アルフォンシーナ姫の特徴を女性陣達に伝えた。


03 気象現象クティータ


 ステラは、
「ちょっと安心した。吟ちゃんでもそういう気持ちってあるんだなと思ったよ」
 と言った。
 これは彼女なりの慰めだ。
 それは解るが、その優しさが吟侍には辛かった。
 自分の情けなさを感じるのだった。
 それを感じ取った女性陣も元気を無くしてしまった。
 シーンと静まりかえる一同――。
 自分のせいで雰囲気を悪くさせている事に気づいた吟侍は、
「ゴメン、おいらが悪かった。気まずくさせちまったな。ちょっとスランプみたいだな。どうしよっかな〜」
 と言った。
 これは照れ隠しもあった。
 強い挫折というものを吟侍は今まで経験してこなかった。
 何かトラブルがあっても自身の機転で何とかしてきたからだ。
 八方塞がりでどうしようもなかったという経験はしてこなかった。
 今回の魔女の一件では、八方塞がりとまではいかないまでも自身の無力感というのを多く感じ取った出来事であった。
 吟侍の落ち込みというのはそれだけ珍しい事でもあったので、また、一度、ショップエリアに戻って立て直す事にした。
 ショップエリアではぴょこたんが相変わらずのテンションで待っていてくれた。
 ぴょこたんは、
「ぎんちゃんさん、どうしたんでちゅか?なんだか、げんきがないみたいでちゅ」
 と聞いてきた。
 吟侍はそのまま口にするのでは無く、答えの力を使って、直接ぴょこたんの頭に説明した。
 それを理解したぴょこたんは、
「なんだ、そんなことでちゅか。それならかんたんなことでちゅ、【クティータ地方】にいって【クティータ】とたわむれてくれば、かいけちゅでちゅ。ぎんちゃんさんはおもいっきり、よわよわでちゅからね。しばらくは、せいちょーできまちゅよ」
 と言った。
 どういう事かと吟侍は聞いた。
 ぴょこたんは舌っ足らずな声で喋るので、代わりに【クティータ地方】の説明玉を渡してくれた。
 説明玉の説明によると、【クティータ地方】というのは【クティータ】と呼ばれる気象現象が起きるという事でそう呼ばれている。
 【クティータ】というのは雨や雪、雹などの様に天から降ってくるものだ。
 【クティータ】の正体はクアンスティータの意識の塊であり、降り積もった雪を集めて固めると雪玉になるように、降ってきた【クティータ】を集めて固めると小さなクアンスティータ(・セレークトゥース)の様になるという。
 その小さなクアンスティータを【クティータ】と呼び、遊んであげて、気に入られると、【クティータ】は遊んだ相手の力となってとけ込んでいくというものになる。
 セレークトゥース・ワールドは遊びがテーマの様な宇宙世界なので、セレークトゥースの意志の欠片でもある【クティータ】と遊ぶことによって気軽にスキルアップ出来るというのだ。
 気に入られるかどうかは、【クティータ】達の気分次第。
 だが、それが上手くいくというのであれば、これほど、良いものはない。
 気に入られれば良いというのであれば、吟侍に限らず、女性陣達も十分、スキルアップ出来る。
 何しろ、手に入るのがクアンスティータの力の欠片というのがまた良い。
 こんな力が手に入るのであれば、大金を払ってでも行きたい所だった。
 【クティータ】はある程度以上の力を持ったら、遊んでもそれ程意味が無くなるらしいが、このセレークトゥース・ワールド内での吟侍達のレベルは下の下の下の更に下の下〜……という所だ。
 ぴょこたんの言うように、遊んで気に入られれば気に入られるだけ、しばらくは力が増えるのだろう。
 それだけ、吟侍達が弱かったという事でもあるし、クアンスティータの宇宙世界のレベルが高すぎたという事でもあった。
 吟侍達7名は早速、【クティータ地方】に向かった。
 【クティータ地方】はショップエリアでもヒストリーエリアでも無い。
 その他に属するエリアとなる。
 セレークトゥース・ワールドは大きく分けるとショップエリアとヒストリーエリアの二大エリアがメインとなっては居るが、それ以外にも回る価値のある場所はいくらでもあるのだという事が解った。
 【クティータ地方】での【クティータ遊び】はその一つであり、他にも、吟侍達のためになりそうな場所はいくらでもありそうだった。
 移動時間飛ばしであっという間に【クティータ地方】に着く。
 そこには、【クティータ】の結晶だと思われる光が降りそそいでいた。
 吟侍は、
「じゃあ、みんな、やり方は解ったな?遊んで気に入られればスキルアップし放題だぞ」 と言った。
 レスティーが、
「遊んでと言われても何をすればいいのか……」
 と困惑顔だった。
 他の女性陣達も同様の顔をしていたし、特に、エカテリーナの顔は深刻そうだった。
 エカテリーナは、
「妾にとっての遊びは戦うことじゃ。他の遊びは知らぬ。どうすればいいのじゃ……?」
 と言っていた。
 それを見かねた吟侍が、
「んじゃ、エカテリーナはおいらとペアを組んで遊ぼうか。遊びの発想の仕方を教えるから、お前さんなりに、工夫して見てくれ。おいらが考えた遊びをやってしまったら、おいらだけが気に入られてしまって、お前さんが気に入られないかもしれねぇし」
 と言った。
 それを聞いたソナタが、
「ずるいわよ。私もあんたと遊ぶ」
 と言い、ステラも
「じゃあ、私も」
 と続いて来た。
 フェンディナと那遠も物欲しそうに吟侍の方を見ている。
 それに気づいた吟侍は、
「わ、わかった、わかった。おいらがみんなに遊びの考え方をレクチャーすっから、それから、みんななりに発想転換して、新しい遊びに変えてみてくれ」
 と言った。
 ソナタは、
「そんな事言ったって、新しい遊びを考えるなんて難しいわよ」
 と言ってきた。
 吟侍は、
「それはごもっとも。慣れてなけりゃ、何も思いつかねぇかも知れねぇな。だから、一例を挙げて発想の仕方ってのを教える。それを見て、自分達なりに考えてみてくれ」
 と言った。
 吟侍は小さい頃から新しい遊びを考えるのが得意だった。
 よく、恋人のカノンと新しい遊びを考えたりしたものだった。
 その頃の思い出を思い出し、懐かしい気分になった。
 まず、吟侍は慣れてない者でも考えやすいように単純な遊びから例に挙げるようにした。
 まずは、かくれんぼだ。
 鬼以外は隠れて、鬼に見つかったら、アウトという単純なルールだが、それに一工夫を入れて、時間制とポイント制を取り入れる事にした。
 鬼は時間毎に変わるという設定だ。
 鬼役になったら、それ以外の者を探して、見つける度に1ポイントずつ貰えるというものだ。
 鬼の間に多くのポイントを持っていた者が優勝というゲームだ。
 これならば鬼がいつまでも見つけられずに泣くという事も無い。
 みんな順番に鬼が回ってくるのだから、平等でもある。
 最後まで鬼になっていた者が負けではなく、鬼になった時、多くのポイントを取っていた者が勝ちというルールに変更している。
 女性陣達はこのルールを聞いて感心する。
 吟侍の発想力の多さはこういう遊びから来ているのだ。
 何もない所からでも生み出せる想像力の高さが、そのまま強さとして結びついている。
 芦柄 吟侍という男はそういう男である。
 女性陣達は惚れ直すに近い感情を持った。
 吟侍は、
「何をボーッとしてるんだ?みんな、こういう様にルールを変えてみてくれ。おいらがチェックして、ルールとして成立するようにすっから。慣れてきた所で【クティータ】を固めてそれぞれ遊ぼう」
 と言った。
 吟侍達はかつて無いくらい楽しい修業というのを体感していくことになる。
 修業と言えば苦しいというのが相場だが、【クティータ地方】での【クティータ遊び】は明らかに楽しい。
 苦しく無い。
 楽しくて、なおかつ信じられないくらいのスキルアップをする可能性のあるこの修業はいつまでもやっていたいくらいのものだ。
 【クティータ地方】を見てみるとパラパラと他の存在も来ているが、吟侍達の様な切実たる思いで来ている者は見あたらない。
 みんな、【クティータ】と遊ぼうと思って来ているのだ。
 そういう意味では、セレークトゥース・ワールドの住民達は強さに対してガツガツしていない、おおらかな性格であると言えるのかも知れない。
 吟侍達はたっぷり遊びを考えて、それから、【クティータ】の光を集めて、【クティータ】をたくさん作っていった。
 そして、出来た【クティータ】達と思う存分遊び倒すのだった。
 時の概念が破綻しているので、どのくらいたったか解らないが、現界の時間だったならば、かなり長い時を【クティータ】達と遊んだ事になるだろう。
 結果、遊びのオリジナルを多く提供した吟侍が97、女性陣達が平等に8つずつの【クティータ】に気に入られ、それぞれ自身の力として溶け込んで来てくれた。
 結果、生身のままでも最弱の那遠でさえ、現界であれば、銀河系を揺るがす程のパワーを引き出せるようになっていた。
 那遠はただの人間である。
 その人間でさえそれだ。
 他の女性陣や、97もの【クティータ】に気に入られた吟侍のスキルアップは計り知れないものがある。
 今の吟侍であれば、アルフォンシーナ姫のエリアで会った魔女達にも遅れをとることはないだろう。
 エカテリーナは、
「な、なんじゃ、この異常なパワーは?」
 と自身に秘めた新たなパワーに驚いていた。
 何もかもが次元違いだった。
 クアンスティータの関係者になるという事はこういう事なのかと思わずは居られなかった。
 まだ、クアンスティータの宇宙世界の一部しか体感していないのに、ここまでの格の違いを感じさせる事があろうとは思っても見なかった。
 今の自分達からしてみれば、【クティータ】の力を得る前の自分達が如何に身の程知らずだったかがよく解った。
 あのまま、セレークトゥース・ワールドを冒険するのは無謀を通り越してただのバカだとも言えた。
 もちろん、今の吟侍達は【クティータ】によって限界までスキルアップしたかというとそれは全く違う。
 まだまだ、途方もなく伸びしろがあるのだ。
 更に【クティータ】に気に入られれば、更にスキルアップするだろう。
 だが、セレークトゥース・ワールドの主力は【クティータ】によるスキルアップが殆ど無い程大きなパワーを持った存在達だ。
 とんでもなくスキルアップしている時点で、吟侍達のレベルは、セレークトゥース・ワールドにおいてかなりレベルの低い位置に居ると言えるのだ。
 またしても底なしの広がりを見せるセレークトゥース・ワールド。
 またしても、セレークトゥース・ワールドの奥深さを知るのだった。


04 魔女アルフォンシーナ姫を探して


 あまりある程、大きな力を手にした吟侍達は再び、アルフォンシーナ姫のエリアに入った。
 今度は【クティータ地方】を訪れる前の危うさは無かった。
 十分、アルフォンシーナ姫の勢力とも渡り合えるだけのパワーを得ていた。
 その力を得てみて今までの自分達がいかにちっぽけだったかを思い知るのだった。
 アルフォンシーナ姫のエリアでは時間設定が経過していて、アルフォンシーナ姫は大きく成長している。
 もう、赤ん坊ではないが、子供の頃見たアルフォンシーナ姫の雰囲気は答えの力で共有している。
 見た目が美人というよりは、強烈なオーラのようなものがアルフォンシーナ姫を絶世の美女のように感じさせているのだという推測がたっていた。
 つまり、吟侍達が探すアルフォンシーナ姫の特徴は顔などよりも、秘めているオーラの様なものを探せば、本物に行き当たる可能性があるという事だ。
 だが、物語の設定では、アルフォンシーナが扮した魔女の状態では誰もアルフォンシーナ姫だと気づかなかったという事になる。
 だとすれば、アルフォンシーナ姫がまとっているフードは彼女の大きなオーラを包み隠す力があると推測出来る。
 ならば、探し方としては虱潰(しらみつぶ)しのような探し方になってしまうが、魔女をひたすら見つけていって、フードを捕って行けば、本物のアルフォンシーナ姫にたどり着くはずだ。
 アルフォンシーナ姫のエリアのゴールは魔女を倒すことではなく、アルフォンシーナ姫を見つけるイベントに関わる事。
 それが、吟侍達の求める設定したゴールだ。
 物語上のアルフォンシーナ姫のお披露目は通常通りにしてもらうとしても、吟侍達はあらかじめアルフォンシーナ姫の正体を知っておきたいという思いがあった。
 吟侍は改めてラッキーフレンドを出した。
 ラッキーフレンドは、
「うーん……あっちの方。あと、わかんない」
 と答えた。
 結局は解らなかったが、方向だけは解ったようだ。
 これは大きな進歩と言って良かった。
 【クティータ地方】に行く前の状態でのラッキーフレンドではまるで解らなかったのだ。
 それだけでも、吟侍の力が全体的に大きく底上げされているというのが解った。
 後は、その方向に居る魔女を捜せば良い。
 ただ、魔女達の元には偽者のプリンセス達も居るはずだ。
 両親が実の子供と間違うくらいだから、かなり気品などもアルフォンシーナ姫のものに近いのだろう。
 そこは本物と偽者を見極めなければならない。
 吟侍達は慎重に探す事にした。
 ラッキーフレンドが示した方向にありそうな隠れ家っぽい所は52193カ所ある。
 城に乗り込んだ魔女の数は20名なので、その数よりもずっと多い。
 当然、52193カ所の中には魔女の住んでいないダミーの場所もあるだろうし、乗り込んだ魔女とは関係の無い魔女が住んでいるという事も十分に考えられた。
 時間や距離が飛ばせるとは言え、52193カ所は余りにも多い。
 手分けをしたい所だが、【クティータ地方】での成長度で考えると吟侍は一人で行動可能だが、女性陣達は単独行動には多少、不安が残る。
 そこで、AチームとBチームに分けて行動する事にした。
 Aチームは吟侍1人、Bチームは女性陣6名という割り振りだ。
 本当は吟侍の方にも女性を何人かという考えもあったのだが、それだと、また、女性陣達が喧嘩になるので、ここは、男性と女性チームに分けて行動するという事になった。
 吟侍だけ、飛び抜けて成長していたので、この案は渋々ながら、女性陣達にも賛成して貰えた。
 レスティーも答えの力を持っているので、吟侍の答えの力と波長を合わせれば、通信の様な役目も果たせる。
 片方のチームがもし、どうしようもなくなってしまったら、レスティーか吟侍が通信で危機を知らせるという事で決まった。
 答えの力で連絡を取り合う事により、二重の捜索も防ぐようにした。
 それと、女性陣達は吟侍と行動を共にしているからセレークトゥース・ワールドにも認められているという所があるので、あんまり離れすぎると女性陣達にも危険が迫ると判断した。
 よって、ある一定に調べたら、一旦、また、集合しようという事になった。
 女性陣と別れ、自由に行動出来るようになった吟侍は、
「さて、どうするか……」
 と考え込んだ。
 手っ取り早く本物を見つけたいところだが、手がかりが何もないからだ。
 道中、野生の生き物を多く見た。
 襲ってくる事は無いが、どの生き物もかなりのポテンシャルを持っているのがうかがえた。
 一見、のどかな風景だが、この自然も吟侍達を大きく飲み込む力を隠し持っている。
 【クティータ地方】で力を得たからと言って、安心できるという事にはならないのだ。
 【クティータ地方】で得た力は、言ってみれば、無料配布していたティッシュを手に入れたようなものだ。
 鼻をかむくらいには役に立つが大きな力にはならないのだ。
 それだけは自覚しなくてはならない。
 まだまだ、成長していかないとこのセレークトゥース・ワールドでは通用しないのだ。

 吟侍は気を引き締め、最初の隠れ家らしい場所についた。
 残念ながらハズレだ。
 本物のアルフォンシーナ姫は居ない。
 代わりに魔女は居た。
 そこに居た魔女は城で会った魔女とも違っていた。
 つまり、それもハズレだ。
 場所を移動しようとする吟侍に対し、魔女が声をかける。
「ちょいと、連れないじゃないか。素通りするなんてさ。あたしは、魔女アーデルヘイト(Adelheid)ってんだ。いい男だねぇ〜ちょいと遊んでいかないかい?」
 対して吟侍は、
「悪いね、お姉さん。おいら、急いでるんでさ。また、今度って訳にはいかないかい?」
 と答えた。
 魔女アーデルヘイトは、
「魔女の家を見たんだ。タダで帰れると思ってないよねぇ?」
 と言った。
 吟侍は、
「金か何か必要なんか?」
 と聞いた。
 魔女アーデルヘイトはニタリと笑い、
「あたしの場合はあんたの精気が駄賃だよ」
 と言った。
 吟侍は、
「そいつは、困るな。せっかくスキルアップしたのに、持って行かれたんじゃ、たまんねぇや。悪いけど抵抗させてもらうぜ」
 と言った。
 この魔女アーデルヘイトは城に来た魔女達から見るといくらか劣っているようにも見えるが、それでも、以前の吟侍なら、勝てなかった可能性が高い。
 だが、このチンピラ風な立ち振る舞いを見ていたら、大した存在ではないように思えた。
 ゲーム(RPG)に例えるなら、主人公が経験値を得るために倒す雑魚キャラと言ったところだろう。
 雑魚キャラにしては恐ろしく強いポテンシャルを感じるのではあるが。
 魔女アーデルヘイトは、
「あんたは、蝋で固めて部屋のオブジェとして飾ってあげよう」
 と言った。
 吟侍は、
「他当たってもらおうかじゃねぇな、それは……。そんなの誰だって嫌だからな。自分が嫌だと思うことは人にやるなって親御さんから聞かされてねぇか?」
 と言った。
「知らないねぇ、そんな事は」
「おいらの師匠の教えからすっと、あんたは弱ぇよ。本当に強いやつってのはそういう事はしねぇもんだ。あんたの行動があんたが大したことないって言ってるぜ」
「言うじゃないか。だったら、試して見ようかい?」
「クアンスティータもあんたみたいなのはいらねぇだろ。あんたは明らかに不純物だ」
「恐ろしい名前を口にするねぇ。殺されても知らないよ」
「おいらはクアンスティータに許可もらってここに来ているんでね。少しでも爪痕を残したいんだよ」
「おしゃべりはここまでだよ」
「そうだな」
 という言葉のやりとりの後に熾烈なバトルが始まった。
 少なくとも言葉のやりとりはいつもの吟侍のペースだったと言える。
 吟侍は、創作バトルスタイルで新しい戦い方をする事も一時は考えたのだが、この戦いにおいてはそれはやめた。
 新作は封印した。
 吟侍は今まで使った事のあるバトルスタイルだけで戦い、どこまで通用するか、どこまで上がったかを見てみようと思った。
 セレークトゥース・ワールドでは居場所のなさそうな魔女アーデルヘイトくらいのレベルであれば、通用すると判断したからだ。
 その判断は間違っては居なかった。
 例えば、エアポケットマジック――
 この力は、空間の狭間に魔法エネルギーを隠して、そこを通った時に炸裂する技だ。
 エアポケット・ボム、エアポケットサンダー等々応用が利くが、吟侍としては初期の能力で、セレークトゥース・ワールドではまるで役に立たないと思われていた力だ。
 だが、このエアポケットマジックにインフレーションを起こす力を持つ爆発力を込めることも出来るようになっていた。
 明らかに精度も威力も全く違っていた。
 他にもウィークポイントレシピ――
 この力は、弱点の無い存在でも弱点属性を作り出す事が出来るという不死身の力を持っている者を倒す力でもある。
 この力も、セレークトゥース・ワールドにおいては威力を十分発揮出来なかった。
 吟侍のウィークポイントレシピの能力浸透度が、このセレークトゥース・ワールドの住民の平均的な能力浸透耐久度を大きく下回っていたため、効果が得られなかった。
 だが、今はこの魔女アーデルヘイトに対しても効果があった。
 さらに、現界では作り出せなかった属性もこのセレークトゥース・ワールドでは作り出すことが出来た。
 バリエーションが最低でも数億倍以上には増えたと言って良かった。
 結果、魔女アーデルヘイトをスキルアップさせたエアポケットマジックとウィークポイントレシピだけで、倒すことが出来た。
 吟侍は、
「自画自賛になっちまうが、すげぇな、これは……。全然、違うわ」
 と感想した。
 何のことはない力だけでも身震いするほど強くなっていたのが確認出来たからだ。
 クアンスティータの力を得る得ないでここまで違うのかと思った。
 吟侍はクアンスティータに対抗するにはクアンスティータの力を持つしかないと以前から考えていた。
 その考えは間違いでは無かったと確信した。
 吟侍は、次の場所に移動するのだった。


05 女性陣達の戦い


 吟侍がハズレともなった魔女との戦いがあったように、別行動をしている女性陣達もまた魔女との戦闘があった。
 彼女達の前に立ち塞がった魔女の名前は、ダニエラ(Daniela)と言った。
 魔女ダニエラは魔女アーデルヘイトが吟侍にちょっかいをかけた様に女性陣達に因縁をふっかけてきた。
「通行料はあんた達の美貌だって言ってんだよ」(魔女ダニエラ)
「バカ言ってんじゃないわよ。殴るわよ」(ソナタ)
「貴様などに用はない。やられたく無くば、素直にここを通せ」(エカテリーナ)
「無理じゃない?素直な性格してませんって顔に書いてあるわよ」(ステラ)
「迷惑な魔女さんです」(那遠)
「戦う意味がありませんよ」(フェンディナ)
「あ、吟侍君の方でも魔女、一人倒したみたいよ。ここは力押しで良いんじゃない」(レスティー)
「身の程知らずの愚か者達だねぇ。素直に若さと美貌をよこせば死なずに済んだものを……」(魔女ダニエラ)
「女の子から美貌を捕ろうって方が間違ってんのよ。それで美しさを渡す女の子なんて1人もいないわよ」(ソナタ)
「そうだねぇ、一人もいないねぇ――だから私が無理矢理奪うのさ」(魔女ダニエラ)
「会話にならないわね」(ステラ)
「言っても解らんバカ者のようだ。妾が引導を渡してくれる」(エカテリーナ)
「ひぃっひっひっひ――引導を渡すのはこっちだよ」(魔女ダニエラ)
「お掃除しましょう」(フェンディナ)
「そうですね。不良品です」(那遠)
「私達も力試ししようよ」(レスティー)
「舐めるなよ、小娘どもがぁ〜……」(魔女ダニエラ)
 醜い本性を現す魔女ダニエラ。
 こういうキャラクターは早く倒さないと、ヒストリーエリアの浄化作用で勝手に浄化されてしまう。
 【泉に眠る少女姫】の泉に連れて行かれるのだ。
 良心の呵責を感じること無く、気兼ね無く倒せるという事で言えば、こういうキャラクターは大変ありがたい。
 クアンスティータの宇宙世界ではあまりこういうキャラクターは存在しない。
 どの存在も基本的には最強の存在クアンスティータの宇宙世界に存在しているキャラクターであるという誇りがどこかにあるからだ。
 だから、お手伝いという訳ではないが、クアンスティータの宇宙世界の浄化作業を代わりにやろうという事になった。
 何しろ貴重な憎まれ役のキャラクターだ。
 大事に戦わなくてはならない。
 力の確認をしたいので、最後の6番目の女の子が倒すという事にして、それ以外は倒さないというルールを決めて順番に戦っていく事にした。
 魔女ダニエラと戦う順番はじゃんけんで以下のように決まった。
 1番手 那遠
 2番手 ステラ
 3番手 フェンディナ
 4番手 レスティー
 5番手 ソナタ
 6番手 エカテリーナ
 最後になったエカテリーナは自分が倒せると思って喜んだ。
 戦士ではない那遠とレスティーが戦いに加わるのは自分がどれだけ強化されたかを確認する意味でもある。
 1番手の那遠が前に出る。
 そして、
「戦いの素人ですが、よろしくお願いします」
 と言ってぺこっとお辞儀した。
 それを見た魔女ダニエラは、
「舐めてんのかい?こんな素人を私に向けるなんて」
 と怒りをあらわにした。
 だが、
「おーふくびんたぁ〜……」
 とのかけ声で、びしびしびしびしと魔女ダニエラの頬を叩きまくった。
 魔女ダニエラは、
「ぶぶぶぶぶぶぶぶっぶぶうっっっっぶぶぶぶぶぶぶぶうっぶうぶっぶぶぶぶぶぶぶう……」
 と言って、みるみる頬が膨れあがった。
 魔女ダニエラは物理攻撃を完全防御するはずの魔法障壁を使っていたが、それをあっさり突破したのだ。
 那遠は、
「あー、怖かった。やっぱり、私は戦いには向いてませんね。はい、タッチ」
 と言って、次にバトンを渡した。
 2番手はステラとなる。
 ステラは、かかしの力を試して見ることにした。
 かかしはステラが未来から持ってきた兵器であり、ガンマ線バーストも出せる力を持っている。
 元々が、クアンスティータの背中についている変幻自在の万能細胞、背花変(はいかへん)を研究して作られているため、その使用例はかなり広範囲にわたってあるのだが、対クアンスティータ戦ではまるで役に立たなかった。
 このセレークトゥース・ワールドでも何度か使用したが、ガンマ線バーストの勢いは、超急速に宇宙世界の抵抗にあい、枝一本焦がせないという状態だった。
 ステラとしてはこの火力を試してみたかった。
 彼女としては、マッチに火をつけた程度の気分で放ったのだが、ちょっとしたファイヤーボールくらいの威力として発動した。
 これは、セレークトゥース・ワールドの破壊エネルギーの吸収力から考えると相当なレベルであると言える。
 この状態で現界に戻った時、気をつけないと威力はガンマ線バーストどころの騒ぎではないという事が予想された。
 恐らくは超ガンマ線バーストどころではない破壊力があるだろうことは容易に想像がつく。
 結果、ファイヤーボール程度の威力では魔女ダニエラに傷一つおわす事は出来ないが、この戦いはあくまでも自身のレベルアップの確認が目的だ。
 倒すのは最後のエカテリーナに任せれば良い。
 力の確認を終えたステラは、
「私はこれで良いわ」
 と言って、次につないだ。
 3番手はフェンディナだ。
 彼女は元々かなりのポテンシャルを持っている。
 だが、セレークトゥース・ワールドでは上手く、そのポテンシャルを発揮できていなかった。
 本来であれば生身であっても相当な実力者なのである。
 気の弱さからその実力は発揮できずにいた。
 吟侍と共に冒険をしていくらか改善したものの、それでも生来の気の弱さは簡単には直るものではない。
 そのため、この力試しの戦いも控えめだった。
 彼女は防御能力を試したのだ。
 魔女ダニエラの攻撃をひたすら受ける、流す、受けるの繰り返しだった。
 今まで受け身だった彼女はどのくらいの力で相手の攻撃を防いできたかというのは感覚として持っていた。
 今回はどのくらいの感覚で防御できるかを見てみたのだ。
 ある程度、防御した後、フェンディナは、
「あ、もう大丈夫です」
 と言って次につないだ。
 4番手はレスティーだ。
 彼女は元々、調治士(ちょうちし)だ。
 調治士とは化獣(ばけもの)などの超越者達にとっての医者のような存在だ。
 相手を倒すという事には長けていない。
 だが、那絵を通して、彼女でもかなりの戦闘力を持ったという事は解った。
 そんな彼女が試したのは治療術だ。
 調治士である彼女は治すのが専門分野となる。
 彼女としては、その治す技能を試したかった。
 治療対象は、敵である魔女ダニエラだ。
 彼女は那遠の往復ビンタで負傷している。
 それを治す事にした。
 通常、調治士が対象者を治す時は対象者の体質などをかなり調べる必要がある。
 それは、人間を治すのと違い、治療対象者の体質などはそれぞれ全く異なるからだ。
 今回は、体質の全くわからない状態である魔女ダニエラを治せるかという事を見る事にしたのだ。
 全くわからない状態でも治す事が出来たら、それだけ、彼女の調治士としての力が上がったという事でもある。
 彼女は一瞬にして、魔女ダニエラを治した。
 魔女ダニエラは、
「何のつもりだ?」
 と言い、仲間の女性陣達からはブーイングが出た。
 だけど、レスティーは、
「結局、倒すんなら一時的に治しても良いじゃない。これは力試しなんでしょ。調治士の私は治すのが仕事」
 と言った。
 確かにこれは、それぞれの力の確認作業だ。
 調治士は治すものだと言われればその通りだった。
 何だか釈然とはしないものの、他の女性陣達は納得した。
 5番手はソナタだ。
 彼女も多くの力を手にしてきたが、やはり、フェンディナやエカテリーナと比べると力不足を否めない。
 何となく、劣等感を持ってこのセレークトゥース・ワールドの冒険に来ていた。
 クアンスティータ誕生事件の時は全く何も関われなかったという負い目もあった。
 だからこそ、人一倍、スキルアップには飢えていた。
 そんな彼女が試すのはCV4の力だ。
 CV4は声霊と呼ばれる4つの存在を呼び出し、器に憑依させ、ゴーレムとして操る能力だ。
 元々、吟侍達の育ての親、ジョージ神父から譲り受けた力でもあるが、惑星ウェントスへ来てからの周りの環境の極端なレベルアップにより、殆ど役に立たなくなってしまった力でもある。
 今まで作っていた器ではどうしても勝てない。
 そこで、ソナタは、このセレークトゥース・ワールドで新たな器を作ってみようと思ったのだ。
 器の作り方は様々あるが、もっともオーソドックスなのは、その場にある自然との契約によるものだ。
 基本的にセレークトゥース・ワールドに歓迎されていないソナタでは無理だと思われて来た事だが、今は、【クティータ地方】で【クティータ】の力を得てきている。
 多少とは言え、クアンスティータの力をまとう今の彼女であれば、セレークトゥース・ワールドの自然とのアクセスも可能では無いかと思ったのだ。
 その考えは間違っていなかった。
 ソナタは、セレークトゥース・ワールドの超自然とのアクセスに成功し、小さいながら、器を作り出した。
 ソナタは、
「で、出来た。出来たわよ、吟侍――って居ないか。もう、何でこんな時に居ないのよぉ〜……」
 と興奮を隠せなかった。
 身体は小さいが、新しく出来た超ゴーレムの器は今までソナタが作ってきた器を遙かにしのぐ出来だった。
 戦わなくてもその凄さは十分に伝わって来た。
 ソナタとしては、それで満足だった。
 ソナタは、
「あ、私は、もう良いわ。じゃ、あんた、結着つけなさいよ」
 と言って、エカテリーナにバトンタッチした。
 エカテリーナは、
「言われるまでも無いわ。妾がけりをつけてくれる」
 と言った。
 エカテリーナもまた、フェンディナのように思うように力を発揮できない状態にあった。
 それと言うのも、クアンスティータの乳母にして摂政(せっしょう)のオルオティーナの古き力を貰ったは良いが、力が大きすぎて上手く引き出せずにいたからだ。
 今回は、その古き力を試しても良いのだが、その大きすぎる力に対して、相手の魔女ダニエラは余りにも小者過ぎる。
 なので、彼女は、自身の子宮に手を当てた。
 エカテリーナには2番の化獣(ばけもの)、フリーアローラの力がある。
 今回はそれを試そうという事にした。
 とは言え、フリーアローラも吟侍のルフォスの様にクアンスティータとは別の化獣になるので、セレークトゥース・ワールドでは思うように力を発揮できない。
 だが、【クティータ地方】の【クティータ】と戯れる事によって、少なからず、エカテリーナもクアンスティータの属性を得た事になる。
 エカテリーナがその属性を得たという事はその子宮に居るフリーアローラもまた、クアンスティータの属性を得たという事になる可能性がある。
 今回はそれを試してみようと言うことになった。
 フリーアローラと言えば、鏡の力がある。
 攻撃をそっくり跳ね返す力を試してみようという事になった。
 つまり、カウンターで倒すという事だ。
 今までのフリーアローラであれば、セレークトゥース・ワールドにおいては、能力浸透度が圧倒的に低く、自身の実体化すらままならなかった。
 だが、今のエカテリーナならば、ちゃんとフリーアローラの実体化を出来るようになっている。
 吟侍が使っていたクアンスティータの加護のアイテムの力を使わずに、出せるようになっていた。
 このことがなんと言っても大きい事だと言える。
 エカテリーナは、様子を見ていた魔女ダニエラの方を向き、
「何をしておる?貴様の最期の攻撃、打ってくるがよい」
 と言った。
 魔女ダニエラは、
「バカにするなぁ〜」
 と言って、彼女の最大魔力を込めた火球を作り出した。
 この火球はただの火球ではない。
 様々な要素が織り混ざった火球だ。
 現界ではあり得ないダメージもこの火球に当たればいくつも味わう事になる。
 魔女ダニエラはその火球を放った後、消えた。
 時間と距離を飛ばせるこのセレークトゥース・ワールドの環境を利用して、現界であれば別次元にまで逃げたのだ。
 エカテリーナは、
「逃がさぬ」
 と言った。
 エカテリーナに向けられた火球を次元の彼方に逃げた魔女ダニエラに跳ね返した。
 魔女ダニエラは断末魔を放つ前に消えた。
 終わってみれば、エカテリーナの圧勝だった。
 【クティータ地方】を訪れる前の彼女ではあり得なかった勝利だ。
 女性陣達も無事勝利したが、吟侍と同様にハズレ魔女を引いたという事になる。
 当たりを引くまではこの様な戦闘が続く可能性もあるという事だ。
 それにこの宇宙世界はクアンスティータの属性だ。
 余裕であるという事はいつまでも続かない。
 どんなにレベルアップしていても彼ら彼女らはセレークトゥース・ワールド全体からするとかなり下の方の弱者に過ぎないのだから。
 その事だけは、吟侍も女性陣達も心の片隅に刻んでいたのだった。


続く。








登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。


004 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。


005 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。


006 ステラ・レーター
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。


007 レスティー
レスティー
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)
片倉那遠
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。


009 クアンスティータ・セレークトゥース
クアンスティータ・セレークトゥース
 ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。


010 ぴょこたん
ぴょこたん
 吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
 店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
 吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
 名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
 吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
 幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
 吟侍とは共同経営者という立場になった。


011 気象現象クティータ
クティータ
 セレークトゥース・ワールドにおける【クティータ地方】に降り積もる気象現象の一つ。
 その光を集めて固めるとクアンスティータ・セレークトゥースにそっくりな小さな生命体となる。
 それを【クティータ】と呼び、遊んであげて気に入られれば、その者の力として溶け込んできてくれるというもの。
 クアンスティータの力の欠片とも呼ばれている。


012 魔女アーデルヘイト
魔女アーデルヘイト
 吟侍が戦う事になった外れにあたる魔女。
 成長した吟侍の敵ではなかった。


013 魔女ダニエラ
魔女ダニエラ
 女性陣6名が戦う事になった外れにあたる魔女。
 成長した彼女達の敵ではなかった。


014 アルフォンシーナ姫
アルフォンシーナ姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 圧倒的な力を持つ魔女達に攫われるが、魔女として、魔女の権利を訴える。