第001話 九頭おろち編


01 芦柄 吟時(あしがら ぎんじ)とルフォス

「♪フンフンフン〜吟侍くぅ〜ん…今日は何を克服しましょうかね〜ウインナ?ハム?それともお野菜?ヨーグルトなんてのも良いわね〜」
ウェントス編01話01 ソナタ・リズム・メロディアス第六王女は上機嫌だった。
 名目はやたらと多い、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の好き嫌いを直すという事が目的だったが、それでも好きな相手にお弁当を作れるのには女として幸せを感じてしまう。
 吟侍はソナタの双子の妹、カノン・アナリーゼ・メロディアスの恋人である。
 だが、二人は訳あって、同じ旅には出られなかった。
 カノンの代わりにソナタが吟侍と一緒に行くことになったのだ。
 吟侍…母星、セカンド・アースに襲いかかってきた侵略者アブソルーターを追い払った英雄…
 いつしか、ソナタは吟侍に惹かれていったが、その時には彼の隣に妹、カノンがいた。
 吟侍を奪うという事は横恋慕になるかもしれない…
 でも、気持ちに嘘はつけなかった。
 カノンの代わりに変な虫がつかないか監視するという理由を盾に吟侍の冒険に同行したのだ。
 彼は、自分の冒険は危険度が増すかも知れないから1人で行くといったのだが、それでもついて来た。
 危険度が増すというのは強敵を惹き付けるという意味で言った言葉だ。
 彼の心臓は侵略者を追い払った時に、食堂にあった【ルフォスの核】と同化し、彼に強大過ぎる潜在能力を与えた。
 ルフォス…7番の化獣(ばけもの)…
 化獣とはよく神御(かみ)や悪空魔(あくま)がその威光を示す時に使われる存在で、神話の時代、神御と悪空魔の連合軍が化獣を倒した事で、人々に崇められたり、恐れられたりしたという。
 ルフォスは神御や悪空魔に敗れた化獣という事になっている。
 もっとも、ルフォスは1番の化獣ティアグラと覇権を巡って争い、共倒れしたとされ、10番から13番の化獣は誕生すらしていないとされていて、神御と悪空魔が倒したとされているのは残る2〜6番、8番、9番の7核のみらしいが…
 要するに、漁夫の利を得たという事なのだろう。
 しかも、決してお互いが、協力しあわなかったという化獣に対して、神御と悪空魔の連合軍は集団で倒したらしい。
 そのためか、いまいち、神御や悪空魔が凄いとは思えなかった。
 しかも13番の化獣クアンスティータを誕生させていたら、今の時代は来なかったとされている。
 だから、ソナタにとって凄い存在というのは神話では勝者であるはずの神御や悪空魔より、むしろ敗者である化獣の方だった。
 吟侍はその化獣の一核の力を秘めているのだ。
 各星に渡った救出チームの殆どのメンバーも吟侍の心臓、ルフォスの世話になっている。
 勢力を持つとされている化獣の中でも、1番、7番、12番の化獣は世界をまるまる一つ所有している。
 24もの世界を持っているとされている13番の化獣、クアンスティータは別格としても7番であるルフォスも世界を一つ持っていた。
 ただし、ティアグラとの相打ちにより、殆ど、世界の方は原型をとどめていない状態だったが…
 だが、そんな世界でも救出チームが超人的な力を得るのには十分だった。
 仲間の多くがその世界で、特殊能力を身につけ、友達を攫った侵略者である絶対者、アブソルーターの支配する4連星(風の惑星・ウェントス、水の惑星・アクア、火の惑星・イグニス、土の惑星・テララ)に救出活動をする事が出来たのである。
 こうして、友達を取り戻す冒険に出られるのも吟侍がルフォスと契約するのに成功したからだと思っている。
 吟侍はセカンド・アースにとってのかけがえのない恩人なのである。
 話がそれたが、強敵をひきつけるのはルフォスの核が彼の心臓と同化している事に他ならない。
 七番の化獣と言えば、その力を欲する者達がこぞって狙ってくる可能性も高い。
 だが、弱者にはどうにもならないから近づいて来るのはかなりの力を持った者が多いだろう。
 吟侍はその事を心配していたのだ。
 だけど、ずっと着いていく…
 ソナタはそう決めていたのだ…。
「姫様…」
「何、ロック?」
ウェントス編01話02 「あいつ、逃げましたけど…」
「何ですって?追いなさい、早く!」
「は、はい、わかりました、まて、こら〜」
 ソナタは、部下である三銃士の1人、ロック・ナックルを追わせる。
 吟侍がソナタの弁当を食べたくなくて逃亡したのだ。
 彼女の弁当には彼の嫌いな食べ物が必ず混じっているからだ。
「…やれやれ…」
「…美しくない…」
 三銃士の残る二人、ニネット・ピースメーカーとカミーロ・ペパーズもあきれ顔で見ていた。
 ベースキャンプに居るスタッフを除けば、ソナタ班のメンバーはこの五人、ソナタ、吟侍(&ルフォス)、ロック、ニネット、カミーロだった。

02 九頭大蛇(くずおろち)

「こら、吟侍、どこ行った?」
「ばいばーい、ロックちゃん。頑張っておいらを探してね〜」
ウェントス編01話03 「くそ、どこ行った?出てこい…」
 吟侍はロックをまいた。
 これで、ソナタの作る、彼の苦手な食材の入った弁当を食べなくてすみそうだ。
「…さてと…ルフォス君、何から調べますかねぇ〜…」
『素直に調査に行くと言えば良いじゃねぇか…』
「まぁまぁ…おいらだけの方が自由に調べられるしな」
『俺様は数に入ってねぇってか…』
「一応、一心同体って事になっているからね…」
 吟侍は時々、居なくなる時があるが、その時は大抵、調べ物をしたりしている事が多かった。
 メンバーと一緒に行動するとどうしても、常識と言う部分に囚われてしまう…
 彼の独自の発想を活かすには一旦、パーティーから離れる事が有効と見ていた。

 吟侍達が現在、滞在しているのはトアル村と言った。
 村では毎年、うら若き乙女、9名が生け贄とされていた。
 吟侍達を村に招き入れてくれた少女、マリーも今年の生け贄に選ばれていて、昨年は姉のローザが選ばれたと言っていた。
 山神御(やまがみ)様への生け贄という事になっているが、吟侍の考えでは、神御ではないだろうと思っていた…。
 恐らく、この星を支配する絶対者、アブソルーターだろう事は予想がついた。
 だが、目撃者がいないため、どんなアブソルーターか解らない。
 生け贄以外は山神御を見た者はいないので、とにかく、情報が少なすぎた。
 そのため、吟侍は辺りを探って見ていた。
 ソナタ達の方だが、ソナタとニネットが生け贄の乙女に混じって様子を見ようという事を考えているのだが、村長達が、山神御の祟りを恐れて首を縦に振らず、説得を続けているようだ。
 吟侍の方の調査では敵はかなり大きな身体を持っている事、
 地盤の固さ等を調べた結果、地中を移動している可能性が高い事、
 恐らく、蛇のようなもの…というのが大体解ってきていた。
 毎年、9名の生け贄を取っていることから、9つの頭を持つ、九頭大蛇(くずおろち)と言ったところだろうか…
 何にせよ、生け贄の悲鳴を聞いたことがないというのが気になる…
 9名を同時に食べたりなど出来るものなのだろうか…。
 2、3名を同時に食べる事くらいなら可能かもしれないが、その一瞬で無事だった乙女が1人も悲鳴をあげないというのはあり得るのだろうか?
 生け贄を一見、安心させる何かがある…
 そう考えるのが妥当…。
 それと、一部の村人の動きが気になっていた…。
 村人の中に九頭大蛇のスパイがいる…
 吟侍はそう考えていた。
 悪いが、ソナタ達には囮になってもらって、その隙に本丸を叩くのが吟侍の狙いだった。

03 九頭大蛇対策

 吟侍を見失ったロックはソナタ達の元に戻って来た。
 彼女達は生け贄の少女マリーとの打ち合わせの最中だった。
「姫様、すみません、見失いました」
「何やってんのよ、全く…」
「面目ないです…」
「良いわ、吟侍の事はひとまず、置いておいて、私達は山神御対策をしましょう。あいつは後で嫌いなものを倍食べさせてやるわ」
「あ、あの…私…」
「安心して、マリーさん。死にたくないという気持ちは正常な反応よ。生け贄なんてバカな風習はこれっきりにしましょう」
「は、はい…」
ウェントス編01話04 「それより…どうかしら?ソプラノ!」
「ハイな!」
 ソナタは声霊ソプラノを呼び出した。
 彼女はCV4という特殊能力を使う。
 ソプラノ、アルト、テナー(テノール)、バスという4つの声霊を操り、その声霊を器に乗り移らせる事により、ゴーレムとして操る事が出来る。
 ゴーレムはキャラクター化し、その様々なキャラクターが設定として持っている特殊能力を使う事が出来るのだ。
 ソナタは声霊ソプラノをタイプG078の器に乗り移らせ、女怪盗カメレオン・レディーというアニメキャラクターになった。
 カメレオン・レディーの得意技の一つでもある変装により、マリーにうり二つの姿にさせたのだ。
 カメレオン・レディーをマリーの代わりに生け贄として忍ばせようという考えだった。
 ロック、ニネット、カミーロの三人は身を隠せる場所を探し、そこで待機して、様子を見るという事になった。
 ロック達三銃士はあくまでも、ソナタを守るのが使命として、彼女が身を隠す場所からすぐにフォロー出来る場所を隠れ場所に選んだ。
 マリーはソナタのすぐ側で隠れる事にした。
 村人達が諦めているので、村人達の助けは期待できそうもない…。
 ソナタ達だけで、やるしかなかった。
「ったく、吟侍のバカ…どこほっつき歩いてんのかしら…ネコの手も借りたいって時に…」 吟侍は山神御の正体を何となく気付いていたが、ソナタ達は山神御の正体には気付かず、生け贄も九名いるので、全員を守るには人数が足りないと思っていた。
 勝負は生け贄が祭壇に上る今夜にかけるしかなかった。

04 九頭大蛇退治とルフォスの世界への投獄

 夜も更け…村人達は家に引きこもり出てこなくなった。
 生け贄の少女達だけが、外に出て、祭壇へと歩いていった。
 みんな、村が助かる為だからと半ば、生きるのを諦めてしまっていた…。
(絶対、そんなの間違ってる…)
 ソナタは強くそう思う。
 みんなが助かるために誰かが涙を流さないといけない…
 そんな事が正しい訳がない…
 みんな幸せになるためにどうするか…
 それを考えるべきなんだ…
 山神御だろうとなんだろうとそれを許しちゃいけない…
 ソナタの正義感がそれを認めなかった。
「…どこ…?…一体、何処から出てくるの…山神御…」
 ソナタがそっとつぶやいた。
 そして、生け贄の少女達が祭壇に上がってから小一時間ほど経ったころ…
「アニー…」
「え?メリー?」
 生け贄の少女の1人、アニーに声をかける一つの影…
 それは昨年の生け贄の少女、メリーだった。
 メリーだけではない…昨年の生け贄の少女達が次々と現れた。
 もちろん、マリーの姉、ローザもいた。
「お姉ちゃん…」
 物陰に隠れていた本物のマリーがローザに駆け寄る…
 ソナタ達も一瞬、気が緩む…
 ローザがマリーを迎えるように両手を広げ待ちかまえる…
 マリーはそこに飛び込もうとした時…
「待った…」
 突然、現れた吟侍の手がそれを遮った。
 他の生け贄の子達も近づくのを止められている。
「どいて、お姉ちゃんなの…」
「違う…これはお前ぇさんのねーちゃんじゃねぇ…薄皮だけだ…」
「何で、そんな事いうの?」
 マリーは悲しそうな顔をする。
「あのバカ…今頃来て何を…」
 ソナタが吟侍を小突きに行こうとする。
「そいつは…こういう事だ!」
「えぇ?」
 吟侍は突然、ローザを蹴り飛ばす。
 マリーもソナタ達も一瞬、何が起こったか解らない。
 だが、それはすぐにどういう事か解った。
ウェントス編01話05 ローザの足元が、蛇の様なものとつながっていたのだ。
 そして、ローザの皮を破り、巨大な蛇の顔が顔を出す。
 同様に他の去年の生け贄達の皮から蛇の首が飛び出した。
 九頭大蛇だった。
 胴体は地下に埋まっていたのだ。
 地下に胴体を沈め、首は去年の生け贄の皮をかぶり、今年の生け贄に近づき、近づいた瞬間に一瞬にして食べるつもりだったのだ。
 生け贄の人間関係を送り込んだスパイに調べさせて、生け贄が油断するような組み合わせを作っていたのだ。
 それが、今までの生け贄が一瞬にして全員居なくなった理由だった。
 そうやって、近づいていたのだ。
「この野郎…」
 近くで待機していたロック達も参戦した。
 九頭大蛇との戦いが始まる。
「テノール、バス!」
 ソナタは声霊テノールとバスを呼び出し、タイプB005とB068に憑依させた。
 キャラクター名は魔剣士ソードと大巨人タイタンだ。
「いくわよ、トリプル・コンビネーション・アタックよ」
 ニネットが声を上げる。
 三銃士によるコンビネーション攻撃だ。
 だが、九頭大蛇は首を切り落としても再生し、新たな首が生えてくる。
 いわゆる不死身という訳だ。
「もう…、ちょっとぉ、どうやったら倒せるのよ〜」
 ソナタはちょっと弱気になる。
 彼女にとってこれが初戦…。
 攻撃が利かないという事に焦りを感じるのだった。
 だが、吟侍は…
「ちょっと待っててね〜」
 というとゆらりと右手をあげ、人差し指と中指に何らかの力をため始めた。
ウェントス編01話06 鈍い光が吟侍の右手の二本の指に集中する。
 そして、そのまま右手を振り下ろし、光が九頭大蛇に命中する。
 九頭大蛇は…
「キシャーッ…」
 まるで変化無しだった。
「ちょっと、何やってんのよ、全然、利いてないじゃないの…」
 ソナタが怒鳴る。
「…まぁ、見てなって…」
 吟侍は冷静だった。
 しばらくすると九頭大蛇から九つのかけらが飛び出して来た。
「気をつけて何か出てきたわ」
 ソナタ達が警戒する。
「大丈夫だよ」
 吟侍は平然としていた。
 そして、九つのかけらはそれぞれあさっての方向へと飛んでいった。
「な、何なんだ…あれは?」
 カミーロがつぶやく。
 それに答えるかのように吟侍は
「ウィークポイント・レシピ…今から、蛇の調理を始めまーす」
 とおどけて見せた。
「こら、ふざけるな。今、戦闘中よ!」
 ソナタが注意する。
「おいらは、ふざけてねぇよ。弱点が無けりゃ、作ればいいんだよ。九つのかけらが今、材料を仕入れに行っているさ」
 吟侍は自信たっぷりにそう答える。
「何言ってんのよ、あんたは?」
「すぐに解る…」
 やがて、九つのかけらが吟侍の元に戻って来て、彼の右手を中心に一つにまとまる…
「…出来たよ」
 そう、言うと、吟侍は右手で九頭大蛇を殴りつけた。
「シャーシャーシャーギシャーッ」
 とたんに苦しみ出し、九頭大蛇の身体が分解を始める。
「何…何なの…?」
 ソナタは絶句した。
 あれだけ攻撃しても全くこたえなかった大蛇がパンチ一発でもがき苦しんでいるからだ。
「…去年あたりまでが限界か…後は完全に栄養になっちまってる…」
 吟侍がそういうと、九頭大蛇の身体から、昨年の生け贄の少女達が裸で出てきた。
「お姉ちゃん…」
 マリーがローザの元に駆け寄る。
 心臓が動いている。
 生きているのだ。
「さて…こいつをどうするか…」
 完全にグロッキー状態の九頭大蛇の巨体を前に吟侍は悩む。
 生かしておけば九頭大蛇はまた暴れるだろう…
 だが、弱っている状態の九頭大蛇を殺すのも何となく気が引けた…
 その時…
『吟侍、そいつを俺の世界に取り込め、そいつは戦力になる…』
 吟侍の心臓から声がした。
 彼の心臓と同化しているルフォスだった。
「だって…良いかなおそなちゃん?」
 ソナタに聞いてみる。
「良いかなって、こんなの野放しにしてもあれだし…良いんじゃないの?」
「OKが出たわ、ルフォス、取り込んでくれ」
『よし、こい蛇』
 九頭大蛇の巨体がみるみる吟侍の心臓に取り込まれていく。
 正確には吟侍の心臓となっているルフォスの支配する世界へと吸い込まれていったのだ。
 九頭大蛇事件はこうして解決した。

05 ルフォスの世界とファーブラ・フィクタ

 ルフォスの世界に取り込まれた九頭大蛇を待っていたのはその世界の住民となっているウィンディスという魔女だった。
「いらっしゃい…大きな蛇さんね〜」
「キ、キシャー」
 九頭大蛇は威嚇する。
 だが、ウィンディスはさして慌てた風でもなく
「さて、まずは、改心しましょうか。そしたら、あなたに新たな力をあげるわね。この世界には力の源はたくさん転がっているから選びたい放題よ」
ウェントス編01話07
 九頭大蛇はウィンディスに襲いかかるが彼女の作り出す12色の炎で焼かれた。
「ギッギギギジャーッ」
 またしてももがき苦しむ九頭大蛇。
「ごめんね〜。これ、拷問用の炎なの。ちょっと熱いけど死なないから安心してね〜」
 手慣れた感じで、九頭大蛇を痛めつけるウィンディス。
 彼女の方針で、人を傷つけたのだから、反省をしてもらうという意味での攻撃だった。
 彼女はこれから、大蛇を新たなる生命体にクラスチェンジさせるつもりだった。
 新たなる生命となった大蛇は吟侍の心強い戦力となるのだ。
 ウィンディスは吟侍にルフォスの世界での管理を任されていた。
 ルフォスの世界は外の世界での何かを取り込む事によって大きな力を持ってくる…。
 ルフォスはそれが解っているからこそ九頭大蛇を取り込んだのだ。
 簡単にはいかないが、しばらくすれば、九頭大蛇は頼もしい味方へと生まれ変わるだろう…。

 一方、現実の世界では…
「よくも初陣の勝利を奪ったわね〜」
「く、くるしい…おそなちゃん、首、首…」
 手柄を奪われたソナタが吟侍の首を絞めていた。
 もっとも、これは吟侍の勝利を素直に喜べない彼女の照れ隠しなのだが…。
 マリーも無事にローザと再会出来て、一安心と言った所だった。
 それぞれが、九頭大蛇に勝ったという勝利の余韻を楽しむ…
 そんな一時だった。
 そんな時、時が突然止まった。
「ルフォス…これは一体…?」
 止まった時の中でもルフォスのエネルギーで動ける吟侍がルフォスに問いかける。
『時空を操る能力を持っているやつが近くにいる…』
 警戒を強める吟侍。
 だが、目にしたのは…
 時空を操る能力を有したと思われる男がその奥にいる何者かに瞬殺される所だった。
 その何かが男の能力を引き継いでいるかのように時は動き出さない。
 時空を操る能力…その力は限定されている…
 クアンスティータが誕生するとその力は特定の場合を除き一切使えなくなる。
 時や空間の中にクアンスティータが含まれるため、彼女に影響するとされる力が悉く、無力化されるからだ。
 その為、時空を操る能力者達はクアンスティータの誕生を酷く嫌っていた。
 クアンスティータ誕生に影響を及ぼしかねない力を秘めた吟侍は居てもらったら都合が悪いのだ。
 だから、時空を操る存在が刺客として現れるのはルフォスはある程度、読めていた。
 その事を吟侍にも伝え、あらかじめ、対抗策は用意していたのだが…
 刺客を殺した奥の何かは吟侍とルフォスの予想外の相手だった。
 いっそう、警戒を強める吟侍だったが、気付いたら別の場所に飛んでいた。
 恐らく、奥の何かが殺した時空を操る刺客の能力を使って、空間を別の場所につなげて移動させたのだろう…。

 そこは、川が上流に向かって流れ、土がクッションのように軟らかく、空には奇妙なマーブルカラーの雲が浮かび、そこには異形の怪物が出たり消えたりしている。
 重力は恐らく、20G以上はあるだろう…
 酸素は恐らく過呼吸になってしまいそうなくらい濃い。
 まともな人間なら数秒も持たない…
「こ、ここは…?」
『まずい、取り込まれた。逃げるぞ、吟侍』
 ルフォスが【逃げる】と口にした。
 それはよっぽどの事だった。
 ただごとではない…
「どうしたんだルフォス?」
『クアンスティータの世界だ…と言いたいが、あれはまだ生まれてねぇ…だとすると惑星ファーブラ・フィクタだ!ここには、クアンスティータの世界の住民になる様な怪物がうようよ、いやがる…危険だ…』
「クアンスティータ…」
『長居は無用だ。ずらかるぞ、吟侍』
「わ、わかった」
 そういう吟侍達だったが、そこに大きな壁が立ち塞がった。

06 ファーブラ・フィクタからの脱出

『もきゅ?』
 それは、可愛らしい声をあげた。
 姿形は大きなぬいぐるみ…
 そう言えなくもない…
 髭の生えた熊だか何だかの様な顔に前足二本に後ろ足三本…
 尾の部分には蝶の羽根のようなものがくっついている。
 背中には甲羅のようなものもついている。
 縫い物の上手くない人が作ったぬいぐるみという印象だった。
 ただし、その全長は40メートル近くはあるだろうか…。
ウェントス編01話08 『にゃごー!』
 なんの鳴き声だか解らない声を出す不細工なぬいぐるみ。
 指の一切無い前足が吟侍に襲いかかる。
 吟侍はすぐさま、その場を離れる。
 離れたはずの場所に爆発が起こりぬいぐるみを包み込む。
 空間の狭間に魔力を潜ませて、そこに踏み入れた者にダメージを与える吟侍の得意技、【エアポケットマジック】だった。
 炎の元を忍ばせていたので、【エアポケット・ボム】とでも言った方が良いだろうか。
 ぬいぐるみの方は…
 小さなぬいぐるみがいくつも現れ、バケツリレーでたちまち消化する。
 ふざけているとしか見えないがそのぬいぐるみが強いという事は解った。
 続けてぬいぐるみはおならをする。
『ぷぅ…』
 という可愛らしい音とは裏腹に強烈な砂嵐が巻き起こり、辺りを腐らす腐臭ガスが充満する。
「こ、これはたまらん…」
 吟侍は思わず顔を背ける。
 彼は先ほど九頭大蛇にやった【ウィークポイント・レシピ】をぬいぐるみに放つがいとも簡単にはじかれてしまった。
『吟侍ぃ〜倒そうと思うな、こいつには多分、勝てん!』
「みてぇだな…」
 吟侍とルフォスは早々に退却する事を選択する。
 が、そんなに簡単にぬいぐるみは逃がしてくれなかった。
 ぬいぐるみがぶんぶんと前足を振るとそれに合わせるように音符が現れた。
 音符は形を変え、不気味なモンスターとなって吟侍に襲いかかる。
 吟侍は能力破壊能力【アビリティー・クラッシャー】という力を使うがここでは全くの不発。
 能力浸透率が相手より低い為、吟侍の能力は相手の能力浸透耐久率の前に無効化されてしまうのだ。
【クアンスティータやクアンスティータに関わるものを世に解き放ったらおしまいだ…】
 噂ではルフォスから恐ろしく強いと聞かされていたが、実際に体験してみて、クアンスティータに関わる者の力の凄まじさを肌で経験するのだった。
 吟侍でさえ、これなのだ…
 ソナタ達では一溜まりも無い事は明白だった。
 【ハイパーダウンロード】…
 吟侍はルフォスの世界で修行した仲間…惑星テララに向かった野茂 偲(のも しのぶ)が身につけた超忍術を一時的に身につけ、その遁走術をルフォスの力でブーストアップさせて、逃げ回った。
 それでもぬいぐるみは執拗に追いかけて来る。
 吟侍にとっては必死でも、向こうにとっては遊んでいるという感覚なのだろう。
 実に楽しそうな鳴き声をあげてくる。
 吟侍に先ほどの九頭大蛇戦での戦いの時の様な余裕は一切無い…。
 生き延びるのに必死という感じだった。
 ぬいぐるみの後ろ足がピコピコハンマーの様な形に変わる。
『ピコっ』
 という可愛らしい音とは正反対のものすごい衝撃が吟侍を襲う。
 なにもかもがデタラメな力だった。
 全く力が入らない…。
 急激にパワーが吸い取られる。
 それだけじゃない…
 猛烈な吐き気が彼を襲う。
 一撃を食らっただけで、この大ダメージだった。
 姿形はふざけていてもものすごい驚異的な力だった。
 その圧倒的なパワーに押される吟侍。
 もう駄目だ…
 そう思った時…
 奇跡が起こった。
 水の惑星アクアに向かっているはずのカノンの歌声が聞こえてきたのだ。
 その歌を聴いたぬいぐるみは…
『すぅぴぃー…すぅぴぃー』
 と可愛らしい寝息を立て始めた。
 その隙に命からがらルフォスの世界を通しての時空間移動でウェントスのソナタ達の居る場所へ転移する事に成功した。
「ちょ、ちょっと吟侍、どうしたのその傷?」
 首を絞めていたソナタが驚き、声をかける。
 一瞬にしてボロ雑巾のような姿になった吟侍を見て驚いたのだ。
「へへ…ちょっとね…少し、休ま…せ…て…」
 力なく声を出し、そのまま気絶する吟侍。
 少なくとも九頭大蛇戦は吟侍の余裕勝ちだったはずなのに気付いてみたら、傷だらけという状況にみんな驚いた。
 更に、それをずっと見ていた影があった。
 その影は風の姫巫女の住む、風の神殿へと向かった。

07 風の神殿と傍観者アリス

 風の神殿では土の惑星テララの土の姫巫女ドゥナ・ツァルチェンからの風の便りを受け取っている最中だった。
「土の地の勇者が危機を迎えようとしているようですね…」
 風の姫巫女、カゼッタ・フゥルクロワが風の巫女達と相談をしていた。
ウェントス編01話09 カゼッタは風の星、ウェントスを支配する18名の上位絶対者と29名の中位絶対者から星見をすることで存在を許されている巫女だった。
 この風の神殿では風も比較的穏やかで比較的過ごしやすかった。
 奴隷としてこの星に住む人間達にとっては安住の地の一つだった。
「何とかしませんといけませんね…」
 風の巫女の1人が答える…。
 が、この巫女も含め、明確な答えを出せる者は居なかった。
「風の便り…つまり、私達が何かを為すヒントを持っているという事です」
 カゼッタが言う。
 その言葉に…
「風の便りってのは私達の事じゃない?」
 という言葉が返ってきた。
 巫女達ではない…
「何者ですか?」
「怪しくないって言えば嘘になるから怪しむなとは言わないわ。私達は【新風/ネオ・エスク】!未来から来たと言えば信じて貰えるかな?」
 その声は吟侍達を監視していた影のものだった。
「何をバカな…」
 巫女の1人が怒鳴る。
「私達は大まじめよ。謎の惑星ファーブラ・フィクタ…この星に最も近いウェントスの姫巫女さんになら解るわよね?…近いうちにクアンスティータは誕生する…私達はそのクアンスティータから未来を守って欲しくて過去に渡ってきた…」
「クアンスティータが生まれる?そんな与太話が信じられる訳…」
「皆さん、お下がりなさい。この方達は嘘は言っていないようです。私が直接話をします」
「ですが、カゼッタ様…」
「お下がりなさい…」
「は、はい…わかりました」
 カゼッタは巫女達を下がらせた。
 それは影に対し、敵意は無いという事を示すためでもあった。
「お話…伺えますか?」
「話が早くて助かるわ。早くしないと琴太って人、死んじゃうからね…」
「そうなると私達にも都合が悪くてね。私はアリス、アリス・ルージュ」
「私はドロシー・アスールよ、よろしくね」
「…ウェンディー・ホアン…」
 影達が名乗りをあげた。
 リーダー格で子供みたいなのがアリス。
 髪が長いのがドロシー。
 無口そうなのがウェンディーだ。
「私の名前はカゼッタ・フゥルクロワと申します」
 お互いが名乗り合った事で、少し打ち解け始め、話が始まった。
 アリスも代表として話す事にした。
 アリスはまず、クアンスティータの誕生から未来の世界で何が起きているかを話した。
 それはカゼッタが思うよりも壮絶な状況だった。
 未来の世界で暴れているという五番目のクアンスティータ…
 クアンスティータ・リステミュウムが誕生する前に、吟侍は死亡していて、その原因は彼が多くの問題を抱え込み過ぎた事にあると話した。
 未来から来た勢力、ネオ・エスクには吟侍との接触により、何らかの変化をもたらせたらと考えていること、ネオ・エスクには大きく分けて三つの集団があり、それはそれぞれ、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーと呼ばれ、アリス達はレッド・フューチャーに属する事等と次々と話して言った。
 アリス達にとっては本来、吟侍との接触を第一目的としたい所だが、琴太の死亡により、吟侍には惑星テララへも目を向けないといけない状況が出来てしまうため、誰かが、琴太のフォローに向かわないといけなかった。
 そこで、吟侍へのファースト・コンタクトの権利と共に琴太への助っ人をアリス達は引き受けたとも話した。
「なるほど…、それで、あなた方はどうなさるおつもりですか?」
「現場を離れないといけなくなった私達が知りたい事…それはまず、吟侍という男の可能性よ、だから、腕試しをしたい…」
「ですが、クアンスティータと戦ってきた貴女方の方が遙かにお強いのでは?」
「…クアンスティータがいる中での過去へのジャンプのリスクは著しくパワーが落ちてしまうということ…。今の私達の力はそれほど強くはないわ。ただ、私達が敵ではないと解ってしまうと彼は本気にはなれない…だから、その事は伏せておいてもらいたいわ」
「…解りました…御武運を…」
 カゼッタとアリスとの対談は終わった。
 カゼッタには腕試しとは言ったが、アリス達は三人がかりで殺すつもりで吟侍と戦うつもりでいた。
 そうしないと真意は測れないと思ったからだ。
 その戦いを誰かに邪魔されたくない…。
 そう思ったため、あらかじめ、断りを入れておいたのだ。
 命賭けでないと見えない事もあるのだ。

08 風の便りと条件

 友達の行方を占ってもらいに風の神殿に立ち寄った吟侍達。
 そこで、琴太のピンチを知らされた。
「あんちゃん…」
 吟侍は気持ちが焦る
。  琴太は吟侍の義理の兄。
 心配なのだ。
「落ち着いてください、吟侍さん。条件しだいでは、あなたの代わりにテララへと助っ人に向かってくれるという奇特な方々がいます」
「え?それって…?」
 キョトンとする吟侍。
 意味が解らないからだ。
 そこへ、アリス達が三人、現れる。
「芦柄…吟侍ね…?」
「そうだけど…あんた達は?」
「私はアリス、アリス・ルージュ。私達三人と戦って勝てたら琴太の助っ人に言ってあげる。私はサイコ・ネットという通信手段も持っている。私が居れば、彼の状況も把握出来るわよ」
「私はドロシー」
「ウェンディー…」
「あんた達の戦う理由は?」
「あなたに死んでもらっては困る…だけど、ここで私達に殺されるようなら、それまでの人間だって事だけどね…」
『吟侍…こいつら強いぞ…』
「らしいな…目で解る」
「見た目が女だからって手加減しないでね…」
「手加減してたら、こっちがやられそうだな…」
「解ってくれて、嬉しいわ。場所はここから南東に30キロ行った地点…悪いけど、あなた1人で来てもらえる?心臓のネズミさんは別にかまわないけどね…」
「吟侍、絶対罠よ、私達も行くわ」
「いや、おそなちゃん達はここで待っててくれ」
「何、言ってんのよ、あんた病み上がりなのよ」
「その三人はおいらの力を知りてぇみてぇだ。おいらを殺すのが本当の目的じゃねぇらしいし…」
「場合によっては殺しちゃうけど?」
「そんときゃ、そん時だ」
「よろしくね、吟侍君…」
「…よろしく…」
 吟侍はルフォスの世界を通しての空間転移で一瞬にして指定の場所に移った。
 瞬間移動は向こうも使えるようで、ドロシーが他の二人を現場へと連れてきた。
 ドロシーは超能力の様なものが使えるのだろう…。
 指定の場所は森があり大きな川があり、山があり崖がありと大自然のまっただ中という感じの場所だった。

09 吟侍VSアリス・ドロシー・ウェンディー

「始めるけど…準備は良いかしら?」
「戦いってのはいきなり始まるもんだと思うけど?」
「そうね…」
 その言葉が言い終わらない内に、ウェンディーがつっこんできた。
 吟侍がかわそうとするがウェンディーの腕が植物の様になり、何かを発射する。
 ドゴゴンッという音が吟侍の背後の壁からした。
 彼女は鳳仙花のように何かを飛ばしたのだ。
「怖え〜、当たり所が悪かったら即死だな…」
『来るぞ』
 続けて彼女は吟侍に抱きつき、一緒に川に落ちた。
 そのまま、川の中を引きずり回す。
「ぐぐぐ…」
 咄嗟で息が続かない吟侍。
 ウェンディの下半身は魚のように代わっている…。
 まるで人魚だ。
 どうやら、ウェンディーの力は動植物との同化をして、その力を発揮するタイプの能力のようだ。
「悪りぃなお花ちゃん、こいつは戦いだからさ」
 吟侍はお花ちゃん…惑星アクアに行った恋人カノンに詫びを入れた。
ウェントス編01話10
 ウェンディーの胸をわしづかみして僅かに手が緩んだ所を脱出した。
 川を駆け上る吟侍。
「セクハラよ、勇者さん」
ウェントス編01話11
 そこへドロシーが待ちかまえ、サイコキネシスで飛ばした大岩が彼を襲う。
 数百メートル離れた場所ではアリスが見ている。
 どうやら彼の動きをモニタリングをしているようだ。
 腕を大きな翼に変えたウェンディーがさらに追い打ちをかけに迫る。
 彼女の足は大きな鉤爪となっている。
 まるでハーピーだ。
 吟侍はウェンディーの一撃を足で受け止める。
 吟侍の足首には手の指がついている。
 手首と足首を入れ替えたのだ。
 到底、人間には出来ない芸当だ。
 人間を止めているとしか思えない。
 ルフォスの異能力を利用して、足のパワーと手の器用さを合わせた防御策だった。
 そのまま、相手の気を生成して練り込んだレアフォースで反撃にでようとする…
ウェントス編01話12
 が、衛星軌道上からのレーザーショットが吟侍を襲う。
 誰かが衛星兵器を使っているのだ。
 動かしているのはアリスだ。
 彼女は人造人間のようだ。
 さらに分裂したように見えたアリスが集団で襲いかかる。
 吟侍が殴りかかるが当たらない。
 アリスの身体をすり抜ける。
 だけど、アリスの一撃は吟侍にヒットする。
 吟侍はそのからくりをすぐに見抜き、アリスの幻影を消して回る。
 たくさんに見えるアリスは実はデコイ、偽物で、実際はアリスの映像を映しただけ。
 だから、彼女への攻撃が当たらない。
 反対に彼女の攻撃は圧縮空気をデコイの映写機がアリスの幻影の中を移動しながら当てていたのだ。
 吟侍はアリスの幻影の中を動き回る小さなデコイの場所を見つけ出し、それらを破壊してまわったのだ。
 アリス本体への一撃をしようと近づく吟侍の背後から左目の義眼を変えたドロシーの結界術が襲う。
 彼女は義眼を変更することによって別の能力が使えるスイッチファイターのようだ。
「ぐぐぐ…」
 結界にはまって上手く動けない吟侍。
 そこに…
「虫嫌いだぁ…」
 悲鳴を上げながら額からカブトムシの角、両腕がカマキリの鎌の姿になったウェンディーが向かってきた。
『小娘共がぁ〜』
 吟侍の心臓からルフォスが顔をだし、口から硫酸の詰まったシャボン玉を噴き、彼女を牽制する。
 ウェンディーは背中から大きな甲羅を出し手足首を引っ込めてそのまま背面アタックをしかける。
 吟侍はファーブラ・フィクタから拾ってきた小石をルフォスの世界から取り出す。
 彼は、行った場所を黙ってそのまま帰ったりはしない。
 ファーブラ・フィクタでも使えそうなものをいくつか物色してきていたのだ。
 転んでもただでは起きないという事だ。
 そのまま、レアフォースで小石を盾に加工しウェンディーの一撃を防ぐ。
 が、天空の七カ所からレーザーサーベルと追尾型のビームの雨嵐が降ってくる。
ウェントス編01話13
 それを防いだのはルフォスの世界で生まれ変わった元九頭大蛇、九頭龍獣(くずりゅうじゅう)だ。
 新たなる属性を持った龍獣がアリスに攻撃を仕掛ける…。
 この様な一進一退の攻防が続く。
 アリス達三人の猛攻をかわしながら、吟侍もどんどん応戦していく。
 その戦いが3時間程続いた頃…
 アリス達は攻撃を止めた。
「…どうした?おいらはまだやれるけど?」
「…もう、良いわ。これだけやれば、様々な条件に対する対応能力がかなり優れているのはよく解ったし…」
「そうか…倒しちまったらあんちゃんの助っ人に行ってもらえないと思っていたからどうしたら良いのかと思ってたんだ。もう良いってんならこっちも助かる…」
「潜在能力を見たいだけだったからね。合格ライン、ギリギリってとこだけどね」
「厳しいな…」
「甘いと言って欲しいわ。あなたの相手はクアンスティータなんだから」
「…なるほどね…」
「そうそう、ウェンディーが話しがあるそうよ」
「ん?何だ?」
 バシッ!
 近づいて来たウェンディーが吟侍に平手打ちをした。
「あいたっ!」
「…えっち…」
「わ、悪りぃ、他に脱出方法が思いつかなかったんだ。こっちも必死で…」
 ウェンディーはさっき、胸をわしづかみされたことをちょっと根に持っているようだった。
「今度は揉ませない…」
「ははは…」
 苦笑いをする吟侍。
 これをカノンに報告されたらと思うと気が気ではないのだった。
 アリス達との戦闘を終え、再び、風の神殿に戻る吟侍達をカゼッタとソナタ達が出迎えた。
ウェントス編01話14
「ほほほ…見ぃ〜てぇ〜たぁ〜わよぉ〜吟侍くぅ〜ん…君は何してくれちゃってるのかなぁ〜?…今晩は茄子とマッシュルームとピーマンと椎茸の和え物だからねぇ〜残さず、全部食べてねぇ〜」
「ひ〜おそなちゃん…み、見てらしたの…も、もう、しません、勘弁してぇ〜」
「お仕置きと好き嫌いを直す一石二鳥の良いことじゃない」
「よくない、よくない、そんなの食ったらおいら死んじゃうわよ」
「何言っているのよ、みんな栄養があるんだから、しっかり食べてね〜」
「さ、さいなら…」
「逃がすか、追いなさいロック!」
「吟侍ぃ〜今度は逃がさねぇぞ」
「後生だ、見逃してくれ…」
「何が後生だ。つべこべ言わずに食え」
「い、嫌だぁ〜殺されるぅ〜」
「ぴーぴーわめくな、男ならガッと食え、ガッと!」
「嫌だぁ〜誰か助けてぇ〜」
「あーんしてあげよっか?」
「いらないいらない…」
「遠慮しないでほら」
「お花ちゃんヘルプミー〜」
「そのお花ちゃんに一番知られたく無い事したんでしょうが〜」
「ノーノーノー、ワタシタベタクアリマセェ〜ン」
「何人(なにじん)の真似よ、それは」
「外国人ノ真似デェ〜ス」
「余裕あんじゃない、押さえつけなさい。私が直々に食べさせてあげる」
「そんなの食ったら吐いちゃうよぉ〜」
「根性で食べなさい」
「やめてぇ〜もがっ」
 さっきまでかっこよく戦っていた男の面影は微塵もなかった。
 茄子もマッシュルームもピーマンも椎茸も全て、吟侍の苦手な食材だった。
 ソナタ達はアリスのサイコネットで吟侍達の戦いを映像で見ていたのだ。
 吟侍がウェンディーの胸を揉んでいるところもバッチリと…
 吟侍へのお仕置きタイムが一通りすみ、しばらく会話した後、アリス達は彼の前にやってきて…
「じゃあ、私達は行くわ…」
 と言った。
 ルフォスの世界にアリスの機動要塞の一つを置いていくと言ってくれた。
 機動要塞の中にはサイコネットに必要な機材も含め、色々搭載されているという。
「あんちゃんの事…頼むな」
「解ってる、死なせないよ」
「グリーン・フューチャーとブルー・フューチャーからも後で接触があると思うわ」
「あぁ、解った」
「…おっぱいは、ほどほどに…」
「ははっ…ホント、悪りぃ…」
「…気にするな…」
「気にしてるのは君じゃないの?ホント、ごめんて…ほら…おそなちゃんが怖い顔して見てるから…」
「おもしろいから言ってみただけ…あたいは気にしてない」
「そ、そうでございますか…」
「もう、一回触るか?」
「い、いえ、もう、結構です…」
 なんだかんだはあったがアリス達とは打ち解ける事が出来た。
 彼女達はアリスの残った機動要塞の一つに乗って、土の惑星テララへと向かっていった。

10 次の冒険へ

 アリス達が去った後、吟侍達は攫われた友達の行方をカゼッタに占ってもらった。
それによるとこのウェントスには他の星に比べて、友達の数は少ないと出た。
 だが、0ではない。
 少なかろうが友達は確かにウェントスにもいるのだ。
 代わりに出たのはウェントスは他の問題が多いとも出た。
 当分は、その他の問題の解決からしていかなければならないと出ていた。
 ルフォスは手っ取り早く、このウェントスの支配者達をぶちのめして終わらせると言ったが、このウェントスの代表支配者、アナスタシアの側には、ルフォスを心臓に宿す吟侍の様にその子宮に化獣を宿す上位絶対者、エカテリーナが居るので止めた方が良いと忠告された。
 エカテリーナは2番の化獣、フリーアローラと同化しているというこの星、最強のアブソルーターだ。
 力の殆どを失っている今のルフォスの力ではフリーアローラには遠く及ばないだろう…。
 また、外の宇宙から10番の化獣、ティルウムスを脳に宿す何者かも潜伏している可能性があるという…。
 10番といえば、神話の時代に生まれなかった4核の内の1核…
 その力は全くの未知数だ。
 噂では、ルフォスや1番の化獣、ティアグラクラスの力を持っているとも言われている。
 もちろん、全盛期での力の方だ。
 そんな相手と戦うのは得策ではないとルフォスも少しずつ、力をつけながら、冒険をする事を了承した。
 そして、このウェントスはクアンスティータの元となる核があるとされている謎の惑星、ファーブラ・フィクタのすぐ近くにあるのだ。
 下手な刺激はクアンスティータ誕生を早めてしまう…。
 現に、九頭大蛇との戦いで、ファーブラ・フィクタの怪物に引き込まれたのだ。
 逆に、アリス達との戦いの時のように何もおこらないかも知れない…
 戦い方によって、何が起こるかは解らないのが、このウェントスなのだ。
 ファーブラ・フィクタでの戦いを見れば解る通り、今の戦力でクアンスティータと対峙すれば、あっという間に全滅するのは火を見るよりも明らかだった。
 いや、あっという間もかからないだろう…
 心の底からクアンスティータを恐れているルフォスはクアンスティータの名を出されると尻込みしてしまう。
 だからこそ、人並み以上に勇気を持っている吟侍の心臓と同化をする事を選択したルフォスだが、やっぱり怖いものは怖い…
 おっかないものはどうしようもないのだ。
 吟侍=ルフォスが居ることにより、このウェントスの救出チームの戦力は他の星に向かったメンバーより高い。
 高いが、その分だけ余計にリスクも背負って戦っている。
 戦闘力が高い分、危険度も他の星よりも遙かに上回っているのだ。

 とりあえず、目的地が欲しい、吟侍達は【吉】と出るような方角を決めてもらった。
 星見では当分、友達とは会えないと出ているためだ。
 星見では風の神殿の北西に向かって進むべしと出た。
 吟侍達はそれを信じてその方向に足を向けたのであった。
 吟侍達の旅は険しく辛い…
 だが、自分達ならやれる…
 そう信じて前に進むのだった。
 次なる出会いはいかなるものか…
 期待と不安を持ちながら一行は先へと進むのだった。

登場キャラクター説明


001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

芦柄吟侍 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。



002 ソナタ・リズム・メロディアス

ソナタ・リズム・メロディアス ウェントス編のヒロイン。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。





003 ルフォス

ルフォス 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア、スキルコア、ボディーコアを合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。

004 ロック・ナックル

ロック・ナックル ソナタを守る三銃士の1人。
 神御(かみ)の拳を持つ。
 吟侍事をあまり信用していない。













005 ニネット・ピースメーカー

ニネット・ピースメーカー ソナタを守る三銃士の1人。
 三つの目を持ち、神通力を使う。














006 カミーロ・ペパーズ

カミーロ・ペパーズ ソナタを守る三銃士の1人。
 神形(しんぎょう)職人。
 自らが神形デウス・フォルマ777号となった。
 666号である魔形を追っている。












007 九頭大蛇(くずおろち)

九頭大蛇 九つの首を持つ大蛇。
 山神御(やまがみ)とされていたが、正体は絶対者・アブソルーター。
 吟侍(ぎんじ)に退治され、ルフォスの世界に取り込まれる。











008 マリー

生け贄マリー 九頭大蛇(くずおろち)の生け贄として選ばれた少女。
 昨年、姉が生け贄に選ばれている。
 ソナタ達に助けを求めてきた。













009 カメレオン・レディー

カメレオン・レディー ソナタが、声霊ソプラノを使って動かしたキャラクター・ゴーレム。
 身体を自在に変色させる事が出来る。













010 声霊ソプラノ

声霊ソプラノ ソナタの異能力、CV4の声霊の一体。
 様々な器に入り、キャラクターゴーレムを動かす事が出来る。








011 魔剣士ソード

魔剣士ソード ソナタが、声霊テノールを使って動かしたキャラクター・ゴーレム。
 魔剣を使う剣士。













012 声霊テノール

声霊テノール ソナタの異能力、CV4の声霊の一体。
 様々な器に入り、キャラクターゴーレムを動かす事が出来る。







013 大巨人タイタン

大巨人タイタン ソナタが、声霊バスを使って動かしたキャラクター・ゴーレム。
 巨大な身体と怪力を持つ。
 身体は地中に埋まっている。












014 声霊バス

声霊バス ソナタの異能力、CV4の声霊の一体。
 様々な器に入り、キャラクターゴーレムを動かす事が出来る。







015 声霊アルト

声霊アルト ソナタの異能力、CV4の声霊の一体。
 様々な器に入り、キャラクターゴーレムを動かす事が出来る。








016 ウィンディス

ウィンディス 元全能者オムニーア。
 吟侍(ぎんじ)と契約し、ルフォスの世界で管理者になった。
 初仕事として、九頭大蛇(くずおろち)を改心させて九頭龍獣(くずりゅうじゅう)へと生まれ変わらせる。











017 ぬいぐるみの出来そこない

ぬいぐるみの出来そこない 謎の星、ファーブラ・フィクタに住む謎の生物?
 弱々しい外見とは裏腹に吟侍(ぎんじ)を上回る戦闘能力を発揮し、彼を追い詰めた。













018 カゼッタ・フゥルクロワ

カゼッタ・フゥルクロワ 風の姫巫女。
 土の姫巫女から連絡を受け、風の便りとして、惑星テララに救援を送るように依頼される。
 












019 アリス・ルージュ

アリス・ルージュ 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーからやってきた新風ネオ・エスクのメンバー。
 見た目は幼いが、レッド・フューチャーチームでのリーダーを務める。
 ロスト・ネットを元にしたサイコネットシステムや機動要塞等多数の兵器を持つ人造人間。
 吟侍(ぎんじ)の力試しをし、納得して、琴太(きんた)救出のために惑星テララへと向かっていった。







020 ドロシー・アスール

ドロシー・アスール 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーからやってきた新風ネオ・エスクのメンバー。
 左目の義眼を変える事により使う能力が変化するスイッチファイター。
 その内の一つ、超能力の瞬間移動を使って仲間を遠くに運んだりした。
 吟侍(ぎんじ)の力試しをし、納得して、琴太(きんた)救出のために惑星テララへと向かっていった。








021 ウェンディー・ホアン

ウェンディー・ホアン 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーからやってきた新風ネオ・エスクのメンバー。
 動植物等と同化して、その能力を使う事が出来る合成人間。
 口下手。
 吟侍(ぎんじ)の力試しをし、納得して、琴太(きんた)救出のために惑星テララへと向かっていった。
 戦闘中、吟侍にセクハラをされた。









022 九頭龍獣(くずりゅうじゅう)

九頭龍獣 ルフォスの世界で、吟侍(ぎんじ)の味方に生まれ変わった元、絶対者・アブソルーターの九頭大蛇(くずおろち)
 ルフォスの世界でコアと同化し、力を大幅にアップさせた。