第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その6

ウェントス編第004−06話挿絵

01 魔女探索


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は現在、単独行動をしている。
 自分1人だけだが、Aチームとして、Bチームの女性陣達と別行動をしていた。
 Bチームの女性陣達は、ソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーの6名だ。
 AチームもBチームもそれぞれ、1名ずつ外れ魔女を撃破していた。
 吟侍達は2チームに分かれて虱潰(しらみつぶ)しである魔女を捜していた。
 捜している魔女とはアルフォンシーナ姫が扮している魔女の事だ。
 本物のアルフォンシーナ姫を時が来るよりも先に見つける――
 それが、吟侍達が決めたアルフォンシーナ姫のエリアでのゴールだった。
 だから、アルフォンシーナ姫を見つけるまでは魔女の住処を回らなくてはならない。
 本物のアルフォンシーナ姫が居なかったと解った時、素直に帰してくれれば、何も問題無いのだが、どうやら、魔女の住処を見つけて素通りするというのは難しいようだ。
 そのため、吟侍は魔女アーデルヘイトと、女性陣達は魔女ダニエラとの戦闘になったのだ。
 このまま、外れ魔女との戦闘を続けていてはきりがない。
 何とかもっと効率よく探せる方法を考えようとする両チームだった。
 今まではアルフォンシーナ姫の気配をさぐろうとして失敗していた。
 彼女の気配は完全に遮断されているのか全くヒントすら得られなかった。
 では、発想を変えてみるのはどうだろう?
 アルフォンシーナ姫ではなく、あの時居た、魔女20名――その気配をたどって見るのだ。
 これならば、アルフォンシーナ姫を捜すよりいくらか容易なはず。
 もちろん、魔女は20名居る訳だからアルフォンシーナ姫を攫った魔女に当たる可能性は低い。
 だが、52193カ所捜す事を思えば、20分の1という確率は随分違う。
 また、ラッキーフレンドのエリア内に居るという条件を足せばそれから更に多少は数が減ってくれる。
 吟侍はラッキーフレンドを呼び出し、あの時感じた圧倒的な20種類の気配をたどるように言った。
 全部をいっぺんに見れないので、1つずつ気配を思い出し、答えの力でラッキーフレンドに思いを伝えた。
 すると、20名の魔女という条件と52193カ所の疑わしい場所という条件を照らし合わせて両方の条件を満たすのが、11種類あるという事があった。
 つまり、遅くともその11カ所を捜せば、本物のアルフォンシーナ姫に当たる可能性が高いという事になる。
 吟侍は早速、その導き出した答えをレスティーに伝え、彼女は他の女性陣達に同様の事を伝えた。
 つまり、最大でも11カ所捜せば、アルフォンシーナ姫のエリアのゴールとなる可能性が高いというところまで行ったのだ。
 全く先の見えない状況から一気にゴールが見えた気がした。
 だが、あの時の魔女達との戦闘になる事を考えたら手放しで喜んでばかりも居られなかった。
 あの時の20名の魔女の実力は吟侍や女性陣達が倒した魔女アーデルヘイトや魔女ダニエラの力を大きく上回っているのだから。
 また、魔女の側にはプリンセスを称した偽者もいる可能性が高い。
 その偽者のプリンセスもまた魔女の可能性がある。
 つまり、2名の魔女と同時に戦わなくてはならないかもしれないのだ。
 吟侍と女性陣達は気を引き締めながら、11カ所の該当地の1カ所ずつを目指して歩を進めた。
 当然、時間が飛ばせるのであっという間に着く。
 着いた場所には少なくとも魔女の方はハズレではないはず。
 後は、アルフォンシーナ姫が居るかどうかの問題が残る。
 泣いても笑ってもここにはあの時の圧倒的な気配が存在しているのだ。
 吟侍は、
「たのもーっ」
 と叫んだ。


02 魔女との戦闘


 吟侍の呼びかけに魔女の返事はなかった。
 代わりに周りの空間が指し変わる。
 魔女が自分のフィールドに作り替えたのだろう。
 氷で閉ざされた風景から、奇妙な形の岩や木が生い茂る場所へと変わっていった。
 吟侍は、
「もしかして、問答無用ってやつかな……」
 と冷や汗を流した。
 強くなったとは言え、彼の心にはあの時の恐怖心がぬぐい切れていない。
 やがて、異様な景色の中から一つの影が現れる。
 いかにもお姫様という感じの物腰だったが、吟侍には解る。
 偽者だ。
 やはり、そんな簡単に本物には行き着かないようだ。
 立ち去りたいところだが、果たしてすんなり通してくれるかどうか……。
 偽者のプリンセスは、
「何かご用?」
 と聞いてきた。
 吟侍は、
「いや、悪りぃ、人違いだったようだ。このまま帰してくれると助かるんだけどな……」
 と答えた。
 偽者のプリンセスは、
「魔女の住処を見つけてタダで帰れると思っているの?」
 と聞いてきた。
 この台詞は魔女アーデルヘイトにも言われた言葉と一緒だ。
 吟侍は、
「そこを何とか……お願いします」
 と頭を下げた。
 偽者のプリンセスは、
「無理よ、あなた、私が偽者だって気づいている。そんな人間を帰せる訳ないでしょ」
 と言ってきた。
 吟侍はダメ元で、
「あんたが、偽者だって誰にも言わねぇからさ。そこを何とか」
 と聞いてみた。
 それに対して、
「無理ね。魔女はとても臆病なの。自分達の不安の種は摘み取らないといけないわ」
 との回答。
 吟侍は、
「やっぱ無理か、んじゃ、戦うっきゃねぇな。もう一人居るんだろ?出てこいよ」
 と影に隠れているもう1名の魔女に声をかける。
 すると、
「久しいな、男。随分、見違えたじゃないか。あの時の小者感がいくらか消えている」
 と言って出てきた。
 あの時の魔女の1人だ。
 間違いない。
 吟侍は、
「小者と来たか。随分低く見積もられてんな――まぁ、いいや、おいらの名前は芦柄 吟侍。訳あって、このセレークトゥース・ワールドにお邪魔させて貰っているもんだ」
 と名乗った。
 魔女は、
「私の名前はアストリット(Astrid)だ」
 偽者のプリンセスは、
「私の名前は、ヴァレンチナ(Valentina)。私も魔女よ」
 と名乗った。
 魔女アストリットの威圧感は相変わらずだ。
 魔女アストリットほどではないにしても魔女ヴァレンチナの威圧感も魔女アーデルヘイトの威圧感を大きく上回っている。
 威圧感だけでも魔女アーデルヘイトの時の様な楽勝という訳には行かないというのが解った。
 オマケに今回は2名居る。
 2名の魔女による連携で来られたら、それこそ、たまらないだろう。
 吟侍の緊張は更に高まる。
 2対1――それ以上の数的不利での戦いは今まで経験した事は何度もある。
 だが、今回の相手はかなりの実力者2名だ。
 戦い方をさらに工夫しないとあっという間にやられてしまうことも考えられる。
 沈黙が走る。
 まるでシーンという音がどこまでも響いているかのようだ。
 相手の出方を窺う吟侍。
 魔女の攻撃の仕方によっては対応も異なる。
 受け身の姿勢――
 先手必勝とは言うが吟侍はそれを選択しなかった。
 この魔女達には得体の知れない何かがある。
 予想もしないトラップがあったりする可能性は十分に考えられる。
 だからこそ、慎重に相手の行動を見極める事にした。
 向こうが動けば、それなりの動きの予想が立つ。
 それを感じ取る事にしたのだ。
 とは言え、既に人間の知覚反応では対応出来ない。
 故に答えの力が必要だった。
 答えの力が予備動作の時点で、行動を予測する。
 それで、初めて、魔女達の動きに反応出来るのだ。
 魔女ヴァレンチナは自身の髪の毛をばっさりと切って吟侍の元に投げつける。
 その無数の髪の毛は全て、全く形状の違う怪物となった。
 答えの力で計る怪物1体1体の生体エネルギー量が尋常ではないくらい高い。
 【クティータ地方】を訪れる前の吟侍であれば圧殺されていたレベルだ。
 だが、吟侍は冷静に対処する。
 使おうと思っていたが使いどころの無かった超必殺技、【インフレーションバーストキック】を連発する。
 クアンスティータ化を瞬間的に行い、インフレーションを引き起こすエネルギーの塊を次々と作り出し、それを怪物の方向に投げつけ、エネルギーの塊が怪物に当たる瞬間に吟侍のキックでエネルギーを加速させる。
 1つ1つの超加速インフレーションエネルギーが現界を揺るがす程のパワーだ。
 怪物達は次々と消滅していく。
 だが、恐るべきはむしろ、怪物達のポテンシャルだ。
 【インフレーションバーストキック】の途方もないエネルギーを全て吸収して消滅している。
 つまり、外部への余分なエネルギーの噴出が全く無いのだ。
 それは、怪物達がその余りにも膨大なエネルギーを引き受けて消滅したという事になるのだ。
 吟侍は、
「大技出しておいて、なんだけど、凄いね、あんたの怪物達……」
 と素直な感想を述べた。
 魔女ヴァレンチナは更に、髪の毛を切った。
 どうやら、自由に髪の毛を伸ばせるようなので、髪の毛が尽きるという事はないようだ。
 先ほどと同じ様に怪物達が生まれる。
 今度は怪物達がそれぞれ、融合し、さらなる異形へと姿を変える。
 異形達のパワーは少なくとも怪物だった時の数百倍には膨れあがっている。
 吟侍はインフレーションの火力を上げて対応した。
 さらに二つのインフレーションの元を合わせて、それにキックやパンチ、チョップをたたき込むダブルインパクトなどの工夫をした。
 異形達も全滅させる事が出来たが、魔女ヴァレンチナからの攻撃にほぼ無抵抗状態だった吟侍の隙をついて、魔女ヴァレンチナの攻撃が来る。
 かろうじて避けたものの、一歩間違えば、それだけでアウトだ。
 何かの呪文を唱えているのだろうが、現界では聞いた事のない呪文だ。
 クアンスティータの宇宙世界では、現界では味わう事の無いダメージを負う事も多々ある。
 それは、言葉では表現しにくいものだ。
 表現出来るものでも、かろうじて、色や代わりのイメージで代行して伝える事くらいしかできない。
 例えば、赤のダメージとか痛さに近いダメージとか大波のようなダメージなどのような感じでだ。
 酷いのになると、そのダメージの種類の例えすらままならないものになる。
 それを考えると吟侍達はイメージ出来る限られたダメージの種類だけで、対応しなくてはならないのだから不利でもある。
 例えるなら10の戦術しか知らないし出来ないのに、相手は100、1000、10000の戦術を使う事が出来るようなものだ。
 比率としては、それ以上の開きがあると言って良い。
 また、魔女ヴァレンチナの攻撃だけに注意を払っているわけにはいかない。
 魔女アストリットのちょっかいも受けているのだ。
 一見、魔女アストリットは何もしていないように見える。
 だが、それが、魔女ヴァレンチナよりもやっかいな攻撃だった。
 映像として魔女アストリットの攻撃は吟侍に映らないのだ。
 攻撃されている様に見えない――それが非情に厄介だ。
 見た目が全く参考にならないのだ。
 全く感知を塞がれた状態での攻撃――これほど厄介な攻撃を受けたことはない。
 答えの力とラッキーフレンドの力でかろうじて、魔女アストリットの攻撃が当たらない方向へと逃げてはいるが、いつまでも続けていられない。
 そして、魔女アストリットの全く見えない攻撃は魔女ヴァレンチナの攻撃よりもパワーがあるという答えが出ている。
 魔女ヴァレンチナの見た目が派手な攻撃も吟侍の判断を惑わせる原因になっている。
 吟侍は、
「つ、強えぇ……」
 と言った。
 フェイクではなく、正直な感想だ。
 魔女アストリットは、
「しゃべれるだけ余裕があるって事か」
 と言った。
 ――そう、吟侍にはまだ余裕が有ることを察知しているのだ。
 吟侍は、
「多勢に無勢はちょっと不利だから、こっちも増援させてもらうぜ、出てこい、【クイーンルウファ】、九頭龍獣(くずりゅうじゅう)」
 と叫んだ。
 すると、吟侍の心臓部のルフォスの所有する宇宙世界ルフォス・ワールドから以前、惑星ウェントスで自身の勢力として取り込んだ九頭龍獣とセレークトゥース・ワールドのヒストリーエリア、シェリル姫の森で味方に取り込んだ【クイーンルウファ】を呼び出した。
 これも力試しの意味も込めている。
 九頭龍獣はエカテリーナと同じ元絶対者アブソルーターであるため、戦力としてはかなり頼りない。
 対して、【クイーンルウファ】はこのセレークトゥース・ワールドに来て手に入れた戦力であり、その力はかなり期待できるものがある。
 この2体についても【クティータ地方】でのスキルアップの影響がどのくらい及んでいるか、それを確かめる意味での召喚だった。
 見てみると九頭龍獣の方は怪物一体と戦うのがやっとのレベルのようだ。
 それでも、クアンスティータの宇宙世界の怪物と戦えるというのは大した進歩だ。
 【クイーンルウファ】の方は、次々と怪物どころか異形を倒して行った。
 やはり、戦闘力が桁違い、次元違いだった。
 状況は次第に吟侍の方が優勢となっていった。
 だが、吟侍にこれだけ、手数足数を出させるという事だけでも、この魔女達の実力が相当なものだという事が解った。
 完全に優勢になった所で、吟侍は二つの化身体(けしんたい)となり、二つの身体で、魔女達を押さえ込んだ。
 吟侍は、
「ここまでにしとこう。あんたらは強かった。ただ、おいらの方がすこぉ〜し上回っていただけだ」
 と相手を少し立てた。
 実は今の吟侍は全力を出せば、魔女達を瞬殺することも出来た。
 だが、これはあくまでもたくさんの【クティータ】を吸収できたお陰だ。
 吟侍の真の実力というには、おこがましいと言える。
 それが解っているからこそ、トドメは避けた。
 この魔女達は、真っ正面から向かってきた。
 それを言うなら魔女アーデルヘイトも同じだったが、気持ちの問題だ。
 この魔女達は倒すには惜しい性格をしている。
 強さに真っ直ぐ向き合った存在と言えた。
 だから、倒したくない――吟侍はそう判断したのだ。
 魔女アストリットは、
「ふ……お世辞は良い。実力では完全に負けていた。負けを認めるよ。これは誓いだ」
 と言って、吟侍の頬にキスをした。
 吟侍は、
「な、何を?」
 と狼狽えた。
 魔女アストリットは、
「何か呪いでもかけたと思ったか?違うぞ。これは服従の証だ。困った時に、呼ぶが良い、いつでも駆けつける」
 と言った。
 吟侍は、
「いや、従えという意味で戦った訳じゃ……」
 と言ったが、反対側の頬にヴァレンチナのキスが送られ、
「素直に喜んだらどうだ?お前は私達を従えたのだ。頬への口づけは、召喚契約の証だ。いつでも好きなときに呼び出せる」
 と言った。
 吟侍は、
「参ったなぁ〜お花ちゃんに何て言ったらいいのか……その前におそなちゃんにどやされそうだけど……」
 と言った。
 お花ちゃんとは恋人のカノンの事だ。
 おそなちゃんとはその姉、ソナタの事でもある。
 予想外の展開にはなったが、とにかく、吟侍は魔女の住処を一つクリアした。
 続けて、他の魔女の住処に向かうのだった。


03 魔女との戦闘2


 吟侍が魔女アストリットと魔女ヴァレンチナのコンビとぶつかっていた頃、女性陣達も他の魔女の住処に来ていた。
 女性陣達の方もアルフォンシーナ姫には当たらず、偽者のプリンセスと出くわしていた。
 余りにも気品があったので、本物のアルフォンシーナ姫かと思ったが、答えの力を持つレスティーに見破られて、吟侍の時と同じ様に戦闘となりそうだった。
 レスティーは、
「偽者のプリンセスの方の名前は魔女ボティルダ(Botilda)、背後の魔女の方の名前は、
魔女 パウリーナ(Pauliina)よ」
 と名前を言い当てた。
 レスティーの方の答えの力は吟侍のオリジナルと違い、戦闘面での力はほぼ無い。
 だが、その代わりに、吟侍の方では見破れなかった偽者のプリンセスの本当の名前などのように正体を看破するという面ではオリジナルをしのいでいた。
「私達の名前を言い当てるなんてなかなかの力ね」(魔女ボティルダ)
「だけど、そこまでだ。力はたいしたことない」(魔女パウリーナ)
「正解。私とそこの那遠は戦闘員じゃないんでね。あんた達と戦うのは他の4名よ」(レスティー)
「ですぅ」(那遠)
「簡単に言ってくれちゃって。あいつら相当強いわよ」(ソナタ)
「そうね。2人1組になって当たった方が良いかもね」(ステラ)
「悔しいが、そのようだな」(エカテリーナ)
「どう組みますか?」(フェンディナ)
 と言っていたが、どうやらペアを決める時間は貰えそうもなかった。
 お互い目配せで、ペアを決める。
 ソナタとステラがペアを組み、比較的弱い魔女ボティルダと、エカテリーナとフェンディナが組んで、難敵魔女パウリーナと戦う事にした。
 魔女ボティルダと魔女パウリーナの連携を防ぐため、二組は離れた。
 答えの力でレスティーが情報収拾係となり、二組に指示を送り、それを那遠がサポートする。
 そういうバトルスタイルとなった。
 魔女ボティルダも強敵だが、なんと言っても魔女パウリーナの方が非情に厄介な相手と言えた。
 吟侍が戦った魔女アストリットと同じ様に知覚出来ない攻撃を仕掛けてくる。
 しかも、状況が嘘をつくという非情に厄介極まりない攻撃方法だ。
 例えば、フェンディナがまだ戦えるのにエカテリーナの方にはフェンディナがやられたり、裏切ったという情報が伝わる。
 それにより、エカテリーナは対応を変えざるを得ないのだ。
 フェンディナにしてもそれは然りだ。
 知覚できる情報がまるで役に立たないという状況の中、フェンディナとエカテリーナはお互いを信じて戦うしかないのだ。
 ポテンシャルの高い二人であっても戦うのに非情に苦労する相手と言える。
 また、魔女ボティルダの方は、怪しげなダンスを踊り、精霊の様な存在をたくさん呼び出す。
 これらは、無意(むい)と呼ばれる存在だ。
 無意は意味が欠けているという存在でもある。
 例えば、肉体を持ち、攻撃を仕掛けるのであれば、攻撃を受けるという事もある。
 肉体を持っていればそれは当たり前の事だ。
 だが、無意はその攻撃を受ける肉体という部分などが欠けているのだ。
 それ故、非情に不安定な存在であり、ソナタやステラの攻撃が全く当たらない。
 攻撃を当てるには無意の存在理論を書き換える必要があるのだが、それが、また、複雑な術式を何重にも組み合わせないと上手く行かない。
 魔女パウリーナと魔女ボティルダ――
 どちらも超難敵と言えた。
 女性陣達は吟侍ほどのスキルアップを【クティータ地方】でした訳ではない。
 その状態で戦うには強すぎる相手と言えた。
 だが、ここで、フェンディナの秘められた力の一部が開放された。
 クアンスティータの誕生時に一度いっぺんに解放された力の一つで、【別自分】という別のフェンディナが現れる現象だった。
 別自分は5体存在する。
 それぞれ、フェンディナ・ミステリア、
 フェンディナ・エラーズ、
 フェンディナ・モークェン、
 フェンディナ・フェ・ナンディ、
 フェンディナ・ウェル・クァムドゥエスの5つだ。
 この5つの存在は、フェンディナ・マカフシギとは全く別の存在でありながら、フェンディナでもあるという不思議な関係だ。
 それは、複数の本体を持つクアンスティータと同じ様なもので、別自分はクアンスティータに例えれば第一本体と第二本体などの違いの様なものだった。
 今回、現れた別自分は、フェンディナ・ミステリアだった。
 性格もフェンディナ・マカフシギのものとは違い、戦闘にも特化していた。
 その秘められた力であっという間に魔女パウリーナを追い詰めた。
 魔女パウリーナは、
「殺しなさい」
 と自身の敗北=死を選択しようとした。
 だが、吟侍との冒険で、すぐに死を選択する者達との戦いを経てきたフェンディナ・マカフシギは、
「待って、(フェンディナ・)ミステリアさん。出来れば倒さないであげて」
 とお願いした。
 フェンディナ・ミステリアはこくんと頷いて、フェンディナ・マカフシギの中に消えた。
 状況の嘘が解け、フェンディナの勝利を確認したエカテリーナは、
「何じゃ、妾の出番が無いではないか」
 と活躍できなかった事を少し嘆いた。
 一方、魔女ボティルダとの戦闘をしているソナタとステラは苦戦していた。
 無意が思いの外厄介で、対応に四苦八苦していた。
 戦闘を終えて戻ってきたエカテリーナとフェンディナがそれを確認した。
 フェンディナが、
「あ、あの……お手伝いを……」
 と言ったが、フェンディナとエカテリーナに対して劣等感を持っているソナタは、
「無用よ。良いから、そこで見てらっしゃい」
 と協力をつっぱねた。
 ソナタは王杯大会では使うことの無かった切り札である外宇宙へのアクセスを使う事にした。
 これは現界の外の宇宙世界へのアクセスをする力だ。
 外の宇宙世界から力を借りて来られるというものだが、ここはセレークトゥース・ワールドだ。
 現界ではない。
 だが、ソナタのアクセスは外の宇宙世界に向けたものではない。
 大きすぎるセレークトゥース・ワールド内にアクセスを求めたのだ。
 宇宙世界を飛び越える訳ではなく、セレークトゥース・ワールド内での交信なので、出来ると考えたのだ。
 今のソナタがアクセスする所は一つしかない。
 すでにクリアしたシェリル姫のエリアだ。
 シェリル姫のエリアと交信し、その力を借りようと言うのだった。
 アクセス先はシェリル姫の森だ。
 そこに住む怪物の力を借りるつもりだった。
 今までのソナタだったならば、そんな事をしても無駄だっただろう。
 だが、今は少ないとは言え、【クティータ】の力を得ているのだ。
 やってやれないことは無いと思って交信した。
 ソナタは時々、吟侍もビックリするくらいの行動を取る事があった。
 今回もそれによる行動だ。
 出来ると確かめた訳ではない。
 やるしかない、成功させるしかないと自分を追い込んで、シェリル姫の森の怪物をスカウトした。
 これは賭けだった。
 だが、非情に僅かなクアンスティータの気配をソナタに感じ取った怪物が少し居た。
 そして、ソナタの呼びかけの答えてくれた。
 後は、CV4の精霊を呼び出し、シェリル姫の森の怪物を超ゴーレムに見立てて、操るという荒技に出た。
 そして、ステラもまた負けて居なかった。
 彼女は元々、七つ道具を持っていたが、クアンスティータの宇宙世界では全く通用しないと感じ、カカシの万能細胞を使って、コツコツと1から作り替えていたのだ。
 彼女には、生まれ変わった新しい七つ道具があった。
 【クティータ地方】で得た【クティータ】の力も込めて練り直した新しい七つの武器。
 今度は力不足とは言わせない。
 ステラは新七つ道具の一つ、【パラドックスカスタネット】を装着する。
 残念ながら、完全に練り上げるには、まだ、時間が足りず、【パラドックスカスタネット】は進化の過程の一つである。
 この後、また、姿形は変わるだろう。
 【クティータ】の力を得た時期が遅かったため、完全に練り上げる時間が足りなかったのだ。
 だが、それでも、【パラドックスカスタネット】の威力は以前の七つ道具からは想像も出来ないくらいの威力を持っていた。
 見た目は、ただのカスタネットとそう大差ないのに、音がなる度に大規模なパラドックス現象が起きるのだ。
 触れないはずの無意も【パラドックスカスタネット】のパラドックス現象にさらされると存在意味の書き換えが行われ、触れるようにもなるのだ。
 エカテリーナやフェンディナには負けられないというソナタとステラの意地が、彼女達を突き動かす。
 劣勢だった戦況が一挙に形成逆転していく。
 ソナタとステラの連係攻撃でついに魔女ボティルダを追い詰める。
 バチーン!
 と強烈なビンタをソナタが放った。
 ソナタは続けて、
「これで、私達に喧嘩ふっかけたのはチャラにしてあげるわ」
 と言った。
 魔女ボティルダは、
「……はい、お姉様……」
 と思わず言ってしまった。
 どうやら、押しの強い言い方に弱いタイプの様だ。
 これで、女性陣達も魔女パウリーナ、魔女ボティルダ組みを下した事になった。
 魔女パウリーナと魔女ボティルダは代表者として、ソナタの両頬にキスをした。
 吟侍の時と同じ様にピンチになったら、呼んだら参上するという証だ。
 これで、吟侍と合わせて、あの時の魔女の住処は2カ所回った事になる。
 対象箇所は11カ所だったので、残るは9カ所という事になる。
 その内の1カ所には、本物のアルフォンシーナ姫が居る可能性があるという事になるのだ。


04 本物のアルフォンシーナ姫


 女性陣達が勝利を喜んでいるとしばらくして、レスティーの元に吟侍から連絡があった。
(どうやら、ビンゴのようだ。当たりを引いたらしい。集合してくれ)
 との事だった。
 時間と距離とばしが出来るので、一気に、吟侍の元に女性陣達が駆けつけた。
 吟侍の前には1人の女性が居た。
 アルフォンシーナ姫ではない。
 あの時の魔女の1名だ。
 レスティーが早速、魔女の名前を言い当てる。
「あの魔女の名前は、アダルジーザ(Adalgisa)あの時の魔女のリーダー格の魔女だわ」
 と。
 その言葉が示す様に、強敵だった魔女アストリットや魔女パウリーナよりも更に格上の雰囲気をまとっている。
 アダルジーザは、
「よく、ここを突き止めたな。それだけは褒めてやる」
 と言った。
 魔女アダルジーザは、それまでの魔女とは別格の雰囲気を醸し出している。
 あの時、魔女アダルジーザは他の19名の魔女と同質の雰囲気だった。
 だが、それは、誰がアルフォンシーナ姫を攫ったか解らなくするためでもあった。
 1人だけ別格の雰囲気を醸し出していたら、間違いなく攫ったことが疑われるからだ。
 雰囲気の質を他の魔女と合わせていたのだ。
 だが、今、ここにいる魔女アダルジーザは明らかに別格だ。
 魔女アダルジーザは魔女の術の産みの親とも言われる存在だ。
 つまり、この魔女は今まで戦った魔女アーデルヘイト、魔女ダニエラ、魔女アストリット、魔女ヴァレンチナ、魔女パウリーナ、魔女ボティルダの力はもちろん、ここに現れていない他の魔女の力をも生み出した存在だ。
 全ての魔女の力を持っていると見てまずは、間違いがないだろうと言えた。
 これまでの魔女とはまるで違う。
 吟侍達に戦慄が走る。
 これは、吟侍も本気でかからねばやられてしまう――
 本気で行っても勝てるかどうか……
 そんな不安がよぎる。
 【クティータ地方】で得た力はまだまだ足りなかった。
 そんな気持ちが支配した。
 そこへ、新たに一つの影が現れた。
 その影は、
「争いはもうやめて。見たくない……」
 と告げた。
 その影はフードをとる。
 とった影のオーラはもの凄かった。
 本物のアルフォンシーナ姫――それは疑いようの無い事実だった。
 明らかに今までの偽プリンセスとはまとっているオーラが桁違いだった。
 これを見せられたら、本物だと納得せざるを得ない。
 これで、不完全な形での結着となったが、吟侍達は目的のアルフォンシーナ姫を見たという事になる。
 アダルジーザは、
「何故、出てきた?」
 ととがめたが、アルフォンシーナ姫は、
「この人達は関係ない。だから、正体を見せても良いでしょ」
 と言った。
 アルフォンシーナ姫は魔女アダルジーザに習った秘術を使って、吟侍や女性陣達の戦いを見てきた。
 そこで、吟侍達が悪い人間ではないと判断して出てきてくれたのだった。
 魔女アダルジーザとの戦闘が無いと解って、吟侍は思わず尻餅をついた。
「ふぅ〜、緊張したぁ〜。負けられねぇと思ってたから、どうしようと思ってたんだ。勝てるかどうか怪しかったし……」
 と本音を言った。
 それを聞いたアダルジーザも
「それはこちらも同じ事。お前、かなりやるな」
 と返事を返した。
 どうやら、お互いが勝利は危ういと思っていたようだ。
 吟侍達も魔女達もお互いが思っていた誤解も解け、無事、このアルフォンシーナ姫のエリアもクリアとなった。
 再び、判子の様なものが押された。
 これにより、シェリル姫のエリアに続いて、アルフォンシーナ姫のエリアもある程度自由に行き来出来るようになったのだった。
 無事、クリアはしたものの、無数にある下のプリンセスのエリアをたった2つクリアするだけで、かなり大変だったという印象だ。
 吟侍達は再び、【クティータ地方】を訪れた。
 まだまだ、修業が足りないと思って、より多くの【クティータ】の力を得ようと思ってやってきたのだ。
 思う存分、遊び倒し、さらなる高みを目指すのだった。
 セレークトゥース・ワールドでのとりあえずの最終目的である道化には会えなかったので、次に予定しているレティシア姫のストーリーも回る事になった。


05 レティシア姫のエリアに行く前に……


 【クティータ地方】で力を得てさえ、なお、アルフォンシーナ姫のエリアは大変だった。
 更に、力を得たとは言え、油断出来ないと思った、吟侍達は、一旦、休息も兼ねて、ショップエリアを少しブラブラすることにした。
 思えば、第三本体クアンスティータ・レクアーレが誕生するまで、本格的な品揃えは無いと言う事であまり回らなかったが、吟侍と業務提携をしているぴょこたんの店以外にもショップエリアには色々と店ができはじめている。
 本格開店はまだ先としても、唾をつけておくという意味でも他の店も回ってみようという事になった。
 特に、地球屋という商売人である那遠の主張は大きかった。
 商売人として、色んなお店を回ってみたいという欲求が出てきたのだ。
 那遠は言ってみれば、ほとんどパーティーの戦力外要員だ。
 だから、なるべく足手まといにならないように、危険を避けて、吟侍達と行動を共にしてきていた。
 だが、このセレークトゥース・ワールドに来ていた時から、ショップエリアと聞いて胸がわくわくしていたのだ。
 自身のパワーとしても少し、余裕が出てきたので、那遠は希望を言ってみたのだ。
 吟侍達としても一息、入れたかったので、あっさりとオッケーが出た。
 吟侍達はショップエリアを改めて観察してみる。
 今まではショップエリアと言えば、殆ど、=ぴょこたんのお店だったので、時間と距離を飛ばしてすぐにぴょこたんの店の店内に移動していたので、あんまりまじまじと店の外の風景を見てこなかったが、改めて見てみると、地球で言えばビルに当たるのが、丸い球体となっていてそれがぷかぷかと風船のように浮いている光景が見て取れる。
 店の外には呼び込みと思われる存在が何名か出ているようだが、それらは全て、地球で言えばゆるキャラのような姿形をしている。
 ――そう、ショップエリアの多くは、ゆるキャラのような存在が店を任されているのだ。
 ぴょこたんのような存在が他にもいるという事になる。
 ぴょこたんだけが例外では無かったのだ。
 とりあえず、ぴょこたんに挨拶を済ませ、お隣のビル――というか球体のお店を見て見る事にした。
 この店は以前に予約した、女の子によるサービスのお店、【接客レストラン】の内の1軒、【ふんわりふわふわ】が入っている店舗だ。
 お隣さんという事もあって、吟侍は予約を入れたのだ。
 もちろん、この店には【ふんわりふわふわ】以外のサービスもある。
 店長となって取り仕切っているのは、猫のようなゆるキャラ、もとい、存在、通称、【にゃんころりん】だ。
 これも吟侍が名付け親となったお陰で、【ふんわりふわふわ】は特別料金でサービスして貰えるようになっていた。
 本当はもっと高いのだ。
 ソナタは、
「ここ(【ふんわりふわふわ】)、隣だったのね?全然、気づかなかったわ」
 と言った。
 吟侍は、
「そうなんだよな。ここ、近いからさぁ……」
 と言ったが、その表情は硬かった。
 まるで浮気現場でも見つかったような気分だった。
 ステラは、
「場所が解れば、チェックしやすいわね」
 と言った。
 吟侍は、
「それじゃあ、おいらが悪いことしているいたいじゃねぇか、すーちゃん」
 と抗議したが、ソナタとステラとエカテリーナにギロっと睨まれ、
「なんでもないです……」
 と言って、シュンとなった。
 完全に尻に敷かれた状態だった。
 フェンディナが、
「ぎ、吟侍さんは息抜きのためにですねぇ……」
 とフォローを入れたつもりになったが、フォローになっていなかった。
 【にゃんころりん】は
「お隣さんのぎんちゃんさん、ここで立ち話も何だし、お店の中でくつろいでくれだにゃんころりん」
 と言った。
 【にゃんころりん】は、語尾に【にゃんころりん】という言葉をつける事から吟侍に安直に命名されたようだ。
 【にゃんころりん】自体が気に入っているみたいなので、名前に対してつっこむことはしなかったが。
 【にゃんころりん】の誘いは吟侍にとっては渡りに船だった。
 ソナタ達の問い詰めをかわす意味でも、【にゃんころりん】の店を見学する事にした。
 特に、那遠は吟侍達そっちのけで目がキラキラしていた。
 ウィンドウショッピングは、那遠の趣味でもあるのだ。
 那遠は、
「皆さん、早く行きましょう」
 とせかした。
 まるで、初めてデパートに来た子供のようにはしゃいでいる。
 吟侍は、
「そうだな、那遠ちゃん、競争だ」
 と言って、ついていった。
 ソナタはそれを見て、
「――ったく、ガキね、二人とも……」
 と言ったが、実は彼女も何となくワクワクしていた。
 ソナタも女の子――ショッピングは基本的に好きなのだ。

 吟侍達が最初に案内されたのは、映画館だった。
 と言ってもただの映画館ではない。
 食べる映画館だ。
 キャンディーのようになっていて、それを食べる事によって、映画を見たことになるのだ。
 舐めれば舐めている間、映像が頭に入り、噛んで一気に食べればそれだけ、早く映画の映像が頭に入る事になる。
 つまり、見ている時間を調節出来るのだ。
 映画館というよりは知識を食べる、知識売り場と言った感じの所だった。
 吟侍は映画キャンディーを一つ食べ、
「おっもしれーな、これは」
 と言って、続けて、二つの映画キャンディーを食べた。
 すると、ストーリーが混ざってより複雑な映像が吟侍の頭に入ってきた。
 もちろん、言うまでもなく、これは、現界ではあり得ない事だ。
 映画をキャンディーに込める技術など、現界には無いのだから。
 吟侍は、
「みんな、ここは戦闘区域じゃない。それぞれが、回りたい所を回ってみるってのはどうだろう?」
 と持ちかけた。
 これには吟侍の下心も入っている。
 だが、それは、ソナタ達にはお見通しだった。
 ソナタは、
「あ〜ら、吟侍くぅん、あなたのお顔にはムフフなお楽しみをしたいって書いてますわよぉ〜」
 と言ってほっぺたをつねった。
 吟侍は、
「いひゃい、いひゃいっておひょなひゃん……」
 と言った。
 ステラもにっこり笑い、
「一緒に行動しましょ、吟ちゃん」
 と言った。
 目が笑って居なかった。
 吟侍は渋々、一緒に行動するのだった。
 男の子である吟侍にとっては、たまには仲間の女性の目が届かない所で息抜きとかをしたい気分だったのだが、そうしたいですとはなかなか言えなかった。
 そんな吟侍と女性陣達のやりとりを見て、【にゃんころりん】は、
「おかしな人達ですにゃんころりん?」
 と言った。
 基本的にまだ、赤ちゃんであるクアンスティータの意識に近いショップエリアの店長達はまだ、恋とか愛とか言われてもピンと来ないのだ。
 よくわからない行動をしているとしか映らないのだ。
 そのようなやりとりをしながら、吟侍達は次の場所に移動した。
 次の場所はクアンスティータに関する情報をまとめたニュースを取り上げている所だった。
 ここに来れば、クアンスティータの情報が解る事もあるらしい。
 さすがに、あまりにも強大過ぎるクアンスティータの全情報という訳にはいかないが、それでもある程度の情報は手に入るという事だ。
 ここは【クアンスティータ情報局】と呼ばれる場所らしい。
 【クアンスティータ情報局】によると、現在、摂政であるオルオティーナはクアンスティータのご学友を捜しているという事らしい。
 クアンスティータも成長すると学校などに入って覚える事も出てくるので、一緒に学ぶ、それなりの存在を捜してくる必要があるらしい。
 クアンスティータが幼いため、その教育も含めて、オルオティーナ達は一度、吟侍達の前から姿を消したのだ。
 主(クアンスティータ)のみっともないところは見せられないと判断しての事だ。
 赤ちゃんなのだから、そういうところがあっても全然、おかしくないとは思うのだが、高度過ぎる存在にとって、赤ん坊の様な状態というのはあまり見せたく無いようだ。
 赤ちゃんは失敗するところが可愛かったりするのだが――
 それはオルオティーナの価値観ではノーらしい。
 吟侍達は【クアンスティータ情報局】で知れる限りのクアンスティータの情報を得て、次の場所に移動した。


06 よそもの


 次に吟侍達が訪れた所は通称【タブーエラーライブラリー】と呼ばれる場所だった。
 セレークトゥース・ワールドにおけるタブー行為などが、一つ一つ記されている場所だった。
 セレークトゥース・ワールドの法を管轄している所でもある。
 法と言うと裁判所などをイメージするが、それとも違う。
 法を犯せば、最終的に、このセレークトゥース・ワールドに存在する【よそもの】による罰が待っている。
 それは死よりも恐ろしい罰だとされている。
 【タブーエラーライブラリー】ではその【よそもの】による罰を疑似体験出来る。
 疑似体験とは言っても本物とはまるで比べものにならないくらい大したことはない。
 だが、それでも、心の底から震え上がるのは間違いなかった。
 それだけ、【よそもの】の力は絶大だった。
 セレークトゥース・ワールドに存在する【よそもの】の数は、2つ――
 1つは、ショップエリアを管轄するパクスクパ、
 もう1つの存在は、ヒストリーエリアを管轄するフェーリアイアリーフェだ。
 どちらの存在も現界においてはその出現=現界の消滅を意味する。
 それだけの存在だった。
 パクスクパはその出現により、全ての存在のバランスが崩壊し、フェーリアイアリーフェは全物質に対処のとりようのないダメージが付加される。
 セレークトゥース・ワールドではさすがに出現=消滅という事にはならないが、それでも目をつけられた者に残っているのは逃れようのない破滅だった。
 吟侍はヒストリーエリアの道化に会っていないという事もあるので、その道化達の元になったとされる【よそもの】、フェーリアイアリーフェの罰を疑似体験してみようと思った。
 【にゃんころりん】はしばらく動けなくなるからよした方が良いと言ったが、興味本位でちょっとだけ体感して見ることにした。
 結果――
 セレークトゥース・ワールドの住民の忠告は聞くものである。
 ほんの僅かな体験をしただけで、吟侍は、
 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ……
 としばらく震えが止まらなかった。
 魔女によって体感した、何も出来なかった事などが、全くどうでも良く思える位の恐怖を感じた。
 フェーリアイアリーフェは何も出来ないとかそういう次元の話ですら無かった。
 吟侍の理解を大きく超えた恐怖が彼を襲った。
 本当に吟侍なのか?
 と思えるくらい、一時的に取り乱していた。
 我を忘れるとはこのことだった。
 それくらいの強烈なインパクトを感じた。
 吟侍が本当にしばらく動けないので、女性陣達は少し、休憩をとって彼を休ませる事にした。
 【にゃんころりん】は、
【これを飲むにゃんころりん。いくらか症状がおさまるにゃんころりん】
 と言って特殊な丸薬を飲ませた。
 それにより、症状が落ち着く。
 吟侍の症状を見たソナタ達は体感しなくてよかったと胸をなで下ろすのだった。
 その後、いくつも楽しい所を回ったのだが、吟侍だけは浮かない表情だった。
 前向きの塊の吟侍でさえ、そういう鬱(うつ)状態に陥らせる程の恐怖を持つ【よそもの】――
 関わらない事に越したことはなさそうだった。


07 レティシア姫のエリアへ


 吟侍の症状が落ち着くのを待って、一同は、次の店舗を見て回る事にした。
 その頃には、吟侍もいくらか回復していた。
 吟侍が落ち込んだのを見て、不味いものを見せてしまったと【にゃんころりん】は気にしていたが、忠告を聞かなかった吟侍の方が悪いと言えた。
 仕方ないので、女性陣達は一回、【にゃんころりん】のお店の【ふんわりふわふわ】での自由行動を認めた。
 【にゃんころりん】は
「たっぷり、サービスさせてもらうにゃんころりん」
 と言って、出来る限りのサービスを提供した。
 女性陣と離れてからまた戻ってきた時の吟侍は何だかスッキリした顔をしていた。
 どことなく、デレェ〜っとした表情をしている気がした。
 一体どんなサービスを受けたんだろうと気にはなったが、つっこむとせっかく和らいだ吟侍の傷をえぐることにもなりかねないと思ってそれにはあえて触れないでおこうという事になった。
 他の店も楽しいことがいっぱいあり、特に那遠は目を輝かせていた。
「参考になります」
 との言葉を連呼し、メモを取りまくっていた。
 現界に戻ったら、この体験を参考に新たな商売をするつもりなのだろう。
 得られるものは出来るだけ得て来る。
 それが、那遠の信条だった。
 吟侍もある程度、復活した事により、いよいよ、ヒストリーエリアの3つ目、レティシア姫のエリアに足を踏み入れる事にした。
 今回は、【クティータ地方】で十分に【クティータ】達と戯れて来ている上に、ショップエリアでも【ぴょこたん】や【にゃんころりん】、その他の店を周り、ブーストや強化のアイテムをかなり揃えてでの挑戦だ。
 レティシア姫のエリアもシェリル姫やアルフォンシーナ姫のエリアと同じく下の位のプリンセスのエリアだ。
 2つのエリアをクリアできたのだから、レティシア姫のエリアもクリア出来る――そう考えるのが普通だが、ここは、セレークトゥース・ワールドである。
 クアンスティータの所有する宇宙世界なのだ。
 これで安全という事にはまずならない。
 レティシア姫のエリアはレティシア姫のエリアで新たなる脅威が吟侍達を待ち受ける事になるのだ。
 だが、三回目ともなれば、吟侍達も十分にそれを承知していた。
 【クティータ】による強化とショップエリアによるアイテムを揃えた事は念には念を入れたという事に過ぎない。
 下手をするとこれでもまだ足りない可能性だってあり得るという事は嫌と言うほど解っていた。
 吟侍は、
「もう、どこのエリアに進んでも油断は出来ないっていうのは言わなくても解るよな」
 とみんなに声をかけた。
 エカテリーナは、
「ふん。そのような事、言われずともわかっておるわ」
 と言った。
 今度は魔女戦の時の様な不完全な戦いではなく、活躍したいという気持ちが大きく出ている表情をしている。
 ステラは、
「一応、今回、最後の目的地になるわね。一人も欠ける事無く、無事、現界に戻りたいわね」
 と言った。
 全員がそれに頷く。
 気持ちは一緒だ。
 生きて帰る。
 それが、このセレークトゥース・ワールドでの最大の目標だ。
 死んだら何の意味もない。
 生きて帰ってこそ、このセレークトゥース・ワールドで得てきたものが色々と活きてくるのだ。
 それだけ確認すると全員が輪になる。
 円陣を囲んだのだ。
 吟侍は、
「行くぜ」
 と言った。
 女性陣は、
「はいな」(那遠)
「了解」(レスティー)
「うむ」(エカテリーナ)
「解ったわ」(ステラ)
「はい」(フェンディナ)
「オッケー」(ソナタ)
 と各々返事をした。


続く。








登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。


004 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。


005 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。


006 ステラ・レーター
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。


007 レスティー
レスティー
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)
片倉那遠
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。


009 クアンスティータ・セレークトゥース
クアンスティータ・セレークトゥース
 ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。


010 ぴょこたん
ぴょこたん
 吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
 店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
 吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
 名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
 吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
 幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
 吟侍とは共同経営者という立場になった。


011 気象現象クティータ
クティータ
 セレークトゥース・ワールドにおける【クティータ地方】に降り積もる気象現象の一つ。
 その光を集めて固めるとクアンスティータ・セレークトゥースにそっくりな小さな生命体となる。
 それを【クティータ】と呼び、遊んであげて気に入られれば、その者の力として溶け込んできてくれるというもの。
 クアンスティータの力の欠片とも呼ばれている。


012 魔女アストリット
魔女アストリット
 吟侍が戦う事になった魔女。
 効果が認識できないという厄介な能力を使う。
 敗北後は吟侍に誓いのキスをする。


013 魔女ヴァレンチナ
魔女ヴァレンチナ
 吟侍が戦う事になった魔女で偽者のプリンセス。
 髪の毛が無数の化け物に変わる力を持っていて理解できないダメージも与える事が出来る。
 敗北後は吟侍に誓いのキスをする。


014 魔女パウリーナ
魔女パウリーナ
 女性陣が戦う事になった魔女。
 効果が嘘をつくという厄介な能力を使う。
 敗北後は代表してソナタに誓いのキスをする。


015 魔女ボティルダ
魔女ボティルダ
 女性陣が戦う事になった魔女で偽者のプリンセス。
 意味が欠けているという無意(むい)と呼ばれる存在を作り出して攻撃してくる。
 敗北後は代表してソナタに誓いのキスをする。


016 魔女アダルジーザ
魔女アダルジーザ
 本物のアルフォンシーナ姫を匿っていた魔女でその力は他の魔女を大きく凌駕する。
 全ての魔女の力を作り出したとされていて、全ての能力を持っている。


017 アルフォンシーナ姫
アルフォンシーナ姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 圧倒的な力を持つ魔女達に攫われるが、魔女として、魔女の権利を訴える。


018 にゃんころりん
にゃんころりん
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界セレークトゥース・ワールドのショップエリアで経営しているゆるキャラで、猫の様な姿をしている。
 ぴょこたんの店のお隣さんでもある。
 語尾に【にゃんころりん】とつけることから吟侍に【にゃんころりん】という名前をつけられたため、吟侍は割引で利用する事が出来る。