第004話 クアンスティータ・セレークトゥース編その2

ウェントス編第004−02話挿絵

01 クアンスティータという化獣(ばけもの)


 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は女性陣達に答えの力でさぐったクアンスティータという化獣(ばけもの)についての印象について話す事にした。
 現在集まっている女性陣はソナタ・リズム・メロディアス第六王女
 ステラ・レーター
 フェンディナ・マカフシギ
 エカテリーナ・シヌィルコ
 片倉 那遠(かたくら なえ)
 レスティーの6名だ。
「おいらが感じたクアンスティータに対する印象だけど、どんな化獣かを別に例をあげて説明したいと思ってる。だけど、説明しきれるかどうかちょっとわかんねぇけどな」
 そう、告げる吟侍にソナタは、
「なるべく解りやすく頼むわよ。正直、クアンスティータと言われてもまだ、実感ないんだから」
 と言った。
「解ってる。おいら自身も半信半疑に近いイメージだ。それで、例を考えたんだけどさ、例えば、そうだな――年齢が一つ違いの兄弟がいたとする。年はそうだな――てきとーに11歳と10歳の兄弟で良いか。この条件で弟が兄の年を越えるにはどうしたら良いと思う?もちろん、兄が死ぬとかは無しでだ」
 この質問に対し、エカテリーナは、
「兄が光速か、それ以上のスピードで移動し続ければ良いのではないか?生命体とは基本的に光速に近くなれば時の流れが遅くなるはず……」
 と答えたが、吟侍は首を横にふり
「それだと、更に時間が必要だろ?そうじゃなくて、11歳と10歳の現在の状態を変えるんだ。数はどうでも良いんだが、そうだな――例えば、兄の二年間と弟の五年間を共通の時間として組み替えるというのはどうだ?それならば、兄は通常に11年間生きていたから11歳だが、兄が産まれた最初の一年ば産まれていないとして、弟はその後の10年間を25年生きた事になる。そうなると兄は11歳に対して弟は25歳生きた事になる。倍以上、成人も越える事になる」
 と言った。
 那遠が
「何をおっしゃってるんですか?生命体には共通して時間が流れて居るんですよ。兄の二年間と弟の五年間が一緒になる訳ないじゃないですか」
 と言い、吟侍は、
「それが出来ちまうのがクアンスティータなんだ。時の概念を破綻させる力があるって事だな」
 と言った。
 那遠は、
「そ、そんな、バカな……」
 と言ったが、吟侍は、
「それまで、当たり前の常識として考えていた事が崩される。本来、飛び越える事が無いこと、覆(くつがえ)る事が無い事が覆る――クアンスティータが産まれたって事はそういう事だと思う。それに考えたくない事だけど、これはまだ、序の口――クアンスティータはもっとすげえみてえだ」
 と言った。
 レスティーは、
「た、例えば?」
 と聞いて来たが吟侍は、
「そうだな、【全て】って言葉があるだろ?宇宙空間にある、ありとあらゆる全てだ。じゃあさ、【全て以外】ってあるか?」
 と言った。
 レスティーは、
「【全て】なんだから、【全て以外】なんてないんじゃないの?」
 と言った。
 だが、吟侍は、
「認識としては、無くても言葉として、【全て以外】って言葉が出来た以上、あるんだよ。ただ、おいら達が認識できないだけでな。クアンスティータはその認識の外側の事柄や力を恐らく、持っている……それも、理解できないくらい多く――」
 と言った。
 フェンディナが、みんなの言葉を代表して、
「そ、そんな……」
 と驚愕の声をあげた。
 ただ一人、黙って聞いていたステラだけは、驚いた顔をしていなかった。
 彼女は未来でそのクアンスティータを実際に見てきているのだから。
 それを感じとった吟侍は、
「だろっ?スーちゃん」
 と彼女に同意を求めた。
 ステラは黙って頷いた。
 それは肯定を意味していた。
 その誕生は全てが塗り変わる事を意味すると言われて来たクアンスティータ――
 どうやら、それが噂以下という事ではなく、むしろ、噂でさえ表現仕切れていなかったようだ。
 女性陣の認識や理解出来る範囲を遙かに超える力を持つ最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータの強大さは、これからもどんどん彼女達を怯えさせていくのだろうか?
 ここにはクアンスティータは居ない。
 ただ、吟侍が話しているだけだ。
 だが、それでも、完全な次元違いの脅威は彼の話からもひしひしと伝わってくるのだった。
 これから、そのとんでもなくバカでかすぎる存在、クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドに行こうと言うのだから、その場に居る者はまともな判断が出来ているとは到底、思えなかった。
 ある意味、狂っていると言っても良いのではないだろうか?
 まともな神経ではクアンスティータとはつきあえない。
 つまりはそういう事なのだろう。


02 いざ、再びセレークトゥース・ワールドへ


 吟侍はその後も女性陣に説明を続けた。
 何の準備も気構えも無しに飛び込むのは自殺行為と同じ意味だ。
 あらかじめ吟侍が聞いてきた情報を伝えておくだけでも随分、違うと言える。
 そのために、吟侍は話す事が出来る限りの情報を伝えた。
 まず、基本的に、クアンスティータの所有する宇宙世界と言っても、それぞれの宇宙世界にはある一定のテーマのようなものが存在する。
 セレークトゥース・ワールドで言えば、大きな商店街の様な宇宙世界と表現するのが一番的を射ているだろう。
 だが、その商店街の店も、第三本体クアンスティータ・レクアーレが誕生するまでは品揃えは完全にとは言わないが、余り無いと言った方がよいだろう。
 レクアーレの宇宙世界は、セレークトゥースの宇宙世界の問屋であり工場でもあるからだ。
 無いとは言ってもクアンスティータの所有する宇宙世界なので、他の存在からしてみたら、無茶苦茶揃っていると言っても良いのだが、本来のクアンスティータからすると品物は揃っていないという事になる。
 面子の問題では無いが、商品があまり揃って無い状態でのセレークトゥース・ワールドへ行っても本当の目的を果たした事にはならないかと言うとそうでもない。
 セレークトゥース・ワールドには、もう一つ、テーマが存在するからだ。
 それは、テーマパークの様なものが多く存在する宇宙世界でもある。
 例外はいくらでもあるのだが、基本的にはプリンセスと道化をテーマにしたテーマパークが数多く存在し、そこはヒストリーエリアと呼ばれている。
 品揃えが余り揃っていないという事になっているセレークトゥース・ワールドでの冒険はむしろ、商店街をイメージしたショップエリアよりも、ヒストリーエリアを選択した方が、良いと言えるだろう。
 もちろん、ショップエリアにも寄らないといけない。
 店の運営を【ぴょこたん】に任せきりという訳にも行かないからだ。
 なので、【ぴょこたん】の店に寄り、そこで揃えられるアイテムを持って、ヒストリーエリアへの冒険をするというのが妥当な線と言えた。

 ――という訳で、クアンスティータ・パスポート(QP)を使って、【ぴょこたん】と連絡を取り、適当なヒストリーエリアの一部を紹介して貰う事にした。
 QPは、セレークトゥース・ワールドの通行手形としての役目以外にもセレークトゥース・ワールド内に住む知り合いに連絡を取ることも出来るという便利なアイテムだ。
 吟侍は、
「あ、【ぴょこたん】?、おいらだ、吟侍だ。そっちはどうだ?商売とか上手く行ってるか?――へぇ、そりゃすげぇ、こっちからすると大した時間も経ってねぇのにそこまで大きくしたのか。そりゃ【ぴょこたん】の腕だな。え?あ、そうそう、話があってさぁ、ちょっと、仲間連れてそっちに遊びに行きたいと思っててさぁ、え?許可?それなんだけど、おいらからなるべく離れないってことを条件に許可してもらえ……わからない?多分、大丈夫だと思うんだけどさぁ、セレークトゥースにも軽く挨拶したし――責任持てない?あぁ、大丈夫、大丈夫、責任はおいらがとるから、うん、うん、それでさぁ、本題にもどるんだけど……」
 と話していた。
 女性陣は相手の声が聞こえないので、ドキドキして吟侍のやりとりを聞いていた。
 【ぴょこたん】という名前はどういう由来でつけた名前なのか気になる所ではあるが、それはそれ、あまり深く聞かない方が無難だと判断していた。
 吟侍のしゃべり方は何だか頼りなかった。
 答えの無い所から答えを持ってくる事は得意だが、事、交渉にかけては、吟侍よりも恋人のカノンの方が数段、優れていると言えるだろう。
 だが、吟侍が気安く話している所から見ても、ある程度、打ち解けた間柄なんだという事は解った。
 誰かから、ごくり……と唾を飲み込む音がした。
 この場合、誰かというよりは女性陣全員が同じ心境と言って良いだろう。
 ごくり……という音はそれを代弁しているようなものだ。
 約10分くらいの会話だったのだが、待っていた女性陣達にとっては途轍もなく長い時間に感じた。
 何しろ、これからの自分達の運命に関係するかも知れない会話なのだ。
 緊張するなという方が無理な話と言えた。
 吟侍は【ぴょこたん】との交渉で、いくつかのヒストリーエリアのパンフレットの様なものを送ってもらう事に成功した。
 カンニング――という訳ではないが、あらかじめ、自分達が行くエリアはどのような所かをある程度、把握しておこうと思ったのだ。
 【ぴょこたん】は仕事が早いというのもある。
 会話が終わって、ものの数秒で、パンフレットがいくつか送られて来た。
 今回は初心者向けとして、比較的、簡単なエリアを紹介してもらった。
 上には上が腐るほどいるが、セレークトゥース・ワールドビギナーである吟侍達はまず、慣れるというのが必要だ。
 あんまり強大過ぎるエリアに行くとショック死する恐れもあるので、あえて簡単なところを冒険する事に全員一致で決めていた。
 エカテリーナは、
「芦柄 吟侍、お主がどのプリンセスエリアに行くか決めるがいい。妾達はただの客人に過ぎん。セレークトゥース・ワールドではお主が主導権を持つことになりそうだ」
 と言った。
 エカテリーナは元々、自分が主体で行動したいタイプではあるのだが、クアンスティータの宇宙世界ではそれが即、命取りに繋がる行為にも繋がりかねないという事は重々承知していて、行動は吟侍に決めて貰おうと言うことにしたのだ。
 吟侍は、
「そうだなぁ――とりあえず、このシェリル姫のエリアってのが良いんじゃねぇか?この中じゃ、一番レベルが低そうだ。消極的な考え方になっちまうが、恐らく、このレベルくらいなら通用すると言う考えは捨てた方が良い。まずは、クアンスティータの所有している宇宙世界の下位のレベル――それを見ていこう」
 と答えた。
 エカテリーナは、
「確かに消極的じゃな。じゃが、異論はない。相手はクアンスティータじゃからな。慎重をどれだけ塗り重ねようとも足りんくらいじゃ。まずは、妾達がどこまで通用するか、それを見極めたいところじゃ」
 と頷いた。
 他の女性陣も異論は無かった。
 吟侍は、
「じゃあ、シェリル姫の話を説明するから聞いてくれ。これはテーマパークの様なものだから、プリンセスや道化にそのキャラクターをイメージした物語のようなものが付随してくるんだ」
 と言って、更に説明を始めた。

 シェリル姫の物語――

 ある時、とても美しい姫君がおりました。
 その姫君の名前はシェリル姫と言います。
 彼女は自身の影に取り憑いた化け物を倒して欲しいと勇者を募ります。
 姫を影から救い出した者は姫と結婚が出来るとして、数々の英雄が集まります。
 次々とシェリル姫の影に挑戦していく勇者達――
 ですが、誰も、影を倒せません。
 影はそれほど大きな力を持っていました。
 そこで、挑戦者達は化け物には化け物をぶつける方法が良いと様々なタイプの化け物を金で雇い、戦わせました。
 長い代理挑戦が続き、ついに、影が敗れる時が来ました。
 影を倒した化け物も影と共倒れになり、その化け物を雇った英雄は漁夫の利を得ました。
 だけど、それを見たシェリル姫は悲しみました。
 影を倒した化け物が評価されることなく、捨てられて、金で雇った英雄が評価される事に我慢できなかったのです。
 涙を流すシェリル姫――
 すると、シェリル姫の名前は反転し、影を超える力を持つ更なる化け物、【ルリェシ】となり、英雄を食い殺しました。
 【ルリェシ】はシェリル姫の姿に戻り、影を倒した化け物の亡骸に寄り添います。
 すると、化け物の亡骸は赤子に代わり、シェリル姫と共に何処かへと旅立って行きました。

 ――という物語だ。
 これは数多くの化け物が登場する事から別名、【化け物姫】とも呼ばれる物語だった。
 この物語をテーマとしたヒストリーエリアがあるので、まず、第一の目標としてはこのシェリル姫のエリアを冒険してみようという事になった。
 このシェリル姫のエリアを体感してみて、行けそうなら、次も回ってみるという事になった。

 第一の目的地が決まった所で、女性陣達の覚悟を改めて聞いた吟侍は彼女達を連れて、セレークトゥース・ワールドへ旅立って行こうとしている。
 セレークトゥース・ワールドと現界では時間軸が全く異なるため、戻ってくる時は現界での一瞬後という場合もある。
 だが、例え一瞬でも、吟侍達はこの現界から消えて無くなったという事実は消えない。
 現界から消えた吟侍達は舞台をセレークトゥース・ワールドに移し、新たなる冒険へと足を踏み出すのだった。


03 試食


 吟侍を中心にして、女性陣達が手をつなぐ。
 吟侍の所有しているQPを使うためだ。
 この場にセレークトゥースが居る必要は無い。
 吟侍は、セレークトゥース・ワールドへの立ち入りを許可されたのだ。
 QPを使っていつでも自由に行き来が出来る。
 女性陣達は行き来が許されていないので、セレークトゥース・ワールドへの行き来は、吟侍と一緒というのが絶対条件となる。
 女性陣はセレークトゥースに認められた吟侍が更に認めたという形で出入りするのだから。
 吟侍は、
「じゃあ、みんな、行ってこようか」
 と言った。
 女性陣達は緊張の面持ちでそれぞれがうなずいた。
 こうして、吟侍と女性陣の合計7名はセレークトゥース・ワールドへと旅立って行った。
 認められて入るという事と認められず侵入する事は天地の開きがある。
 認められて入る場合は、割と簡単かつ快適に入る事が出来るが、侵入する場合は絶対的な力で、異物として処理される。
 恐らくは塵一つ残らず消え去るだろう。
 クアンスティータの所有する宇宙世界自体がそれだけの力を有しているのだ。
 普通の宇宙世界とはまるで違う。
 吟侍達7名の場合は認められたという事で、やすやすと入ることが出来た。
 だが、クアンスティータの乳母にして摂政(せっしょう)でもあるオルオティーナにだけは一応、許可を取った方が良いと判断して、来て早々、その手続きを取り、オーケーを貰う事が出来た。
 クアンスティータが赤子であるため、クアンスティータの所有する宇宙世界はオルオティーナが代理で管轄しているとされている。
 そのため、オルオティーナを無視して行動を取るという事は避けることにしたのだ。
 念には念をというやつである。
 オルオティーナからすれば、セレークトゥースが許可したのだから、反対する理由は無いとの事だった。
 許可が下りない事も覚悟していたので、まずは、一安心というところだ。

 初めて訪れたセレークトゥース・ワールドに女性陣達はただただ、驚いた。
 意外と鈍いところもある吟侍は解らなかったが、感覚が繊細な女性陣達はセレークトゥース・ワールド――恐らく他のクアンスティータの所有する宇宙世界もだろうが、それは、他の宇宙世界と比べて、神聖度が極めて高いという事が肌で感じられた。
 神聖度を別の表現でするなら、他の宇宙世界は都会の淀んだ空気、クアンスティータの宇宙世界は、田舎等の澄んだ空気という様な感覚だ。
 まるで天国にでも居るかのような気持ちの良い感覚に包まれる。
 思わずうっとりする女性陣達。
 それを見た吟侍が、
「どうしたんだ、お前さん達?何か変なもんにでも当たったか?」
 とデリカシーの無い言葉をかけた。
 それを聞いたソナタが、
「バカね、吟侍、あんた、解らないの?この心地よさが」
 と言った。
 吟侍は、
「あぁ、解んねぇな?何かあるのか?」
 と返した。
 ソナタは、
「やだやだ、がさつな男は……」
 と首をふった。
 ムードが無いとでも言いたげだった。
 他の女性陣も否定しない所を見ると、ソナタの感覚がわかっていて、それが解らない吟侍に対して、何故だと思っているのだろう。
 吟侍はつまらなさそうに
「まぁ、良いや、じゃあ、まず、【ぴょこたん】紹介すっから、こっち来てくれ」
 と言った。
 よく解らない事を話しているよりも自分の解る事をしようと思ったからだ。
 フェンディナは、
「吟侍さん、本当に解らないんですか?」
 と言った。
 ステラも、
「悔しいけど、気持ち良いわ……」
 と追従した。
 吟侍は、
「その話はもう良いじゃねぇか」
 と話題を区切りたがった。
 ここに、男女間の差が現れた事になる。
 女性が喜ぶ事を見つけるのが基本的に不得意である吟侍は恋愛音痴でもある。
 女性のペースで何かしようと思う気持ちが少ないのだ。
 こんな吟侍を恋人と呼んでくれるカノンはよっぽど出来た人物だと言えるだろう。

 吟侍は、【ぴょこたん】との待ち合わせ場所に向かって進んでいった。
 吟侍達がたどり着いた場所から【ぴょこたん】との待ち合わせ場所までは相当距離があったのだが、この宇宙世界ではそういう移動にかかる時間を飛ばす事も出来る。
 なので、待ち合わせ場所にたどり着くまでは本当にあっという間だった。
 セレークトゥース・ワールドに限らず、クアンスティータの所有する宇宙世界では時間、空間に関する概念が破綻しているので、余計だと思っている時間や距離などは飛ばす事も出来るのだ。
 それだけでも、現界での時間や空間の感覚とは全く違っていた。

 【ぴょこたん】が出迎えた。
「ぎんちゃんさん、ちょこっとぶりでちゅね」
 相変わらずひらがな言葉の舌っ足らずのしゃべり方だ。
 それを見たレスティーが、
「人じゃなかったんだ……」
 と言った。
 那遠が、
「確かに【ぴょこたん】の名前に恥じない外見ですね。【ぴょんちゃん】でも良いかも知れませんね」
 と付け加えた。
 【ぴょこたん】の外見は兎に近いものだったので、その表現が合っていたという事になる。
 ここへ来る前、【ぴょこたん】の名付け親が吟侍だという事が解り、女性陣達は吟侍のセンスを一時、疑っていたが、この外見ならば、文句はないという所だった。
 吟侍は、
「とりあえず、【ぴょこたん】、新製品の方の売れ行きが良いって聞いたけど、特に、食いもんとかはどうなんだ?衛生上問題ないって事になってんのか?」
 と聞いた。
 吟侍の出身星であるセカンド・アースでは、度々、食品の質が悪いと問題になり、責任問題にまで発展する事が珍しくなかったので、その辺りを気にしての発言だった。
 【ぴょこたん】は、
「えいせいじょうってなんでちゅか?」
 と聞いた。
 吟侍は、
「安全が証明されているかどうかって事だな?とりあえず、試食してみて良いか?おいらの答えの力で安全かどうか判断すっから」
 と言った。
 実は、これは単なる口実で、セレークトゥース・ワールドでの美味しい食材を食べたいという下心でもあった。
 吟侍のそういう思惑には気づかず素直に、【ぴょこたん】は、
「そうでちゅね。たべてくだちゃい」
 と吟侍が現界に戻っている間に作り出した新商品の食べ物を用意した。
 ざっと見るだけでもとてもじゃないが食べきれないくらいの食べ物が用意された。
 吟侍が現界に戻ってからセレークトゥース・ワールドに来るまでそれほど、時間が経ってないのにこの量は凄いと言えた。
 見るだけで、お腹いっぱいになりそうな量だった。
 それを見た、レスティーは、
「あ、答えの力の一部は私にもあるから、私も試食、お手伝いするよ」
 と声をかけた。
 吟侍は、
「おー、助かる。この量はさすがにおいらだけじゃ食いきれねぇからな」
 と言った。
 ソナタは、
「ずるいわよ、あんた達だけ。私だって、王族なんだから、美味しいかそうでないかの区別くらいつく舌を持っているわよ」
 と良い、那遠は、
「それならば、私も地球屋をしていますので、言ってみれば広い意味で同業者です。同業者の意見も参考になるのではないかと」
 と続いた。
 要するに、珍しいセレークトゥースの食べ物をみんな食べて見たいのだった。
 【ぴょこたん】は
「いっぱいありまちゅから、おすきなのをどうぞでちゅ」
 と答えた。
 それが合図となり、吟侍達7名は試食した。
 どの食べ物も現界では味わえないような優れた食感と味、香りだった。
 五臓六腑に染み渡り、まるで、天にも昇るような快感を得られる食材だった。
 もちろん、麻薬ではない。
 現界に存在するものよりも超越的に高度な食材で出来ているからだ。
 ソナタは、
「んふぅー。美味しいわねぇ。どれも最高よぉ〜」
 と言った。
 吟侍は、
「んめぇ、んめぇ。これもうめぇ、そっちも食いてぇな。うめぇ、んめぇ」
 と言った。
 みんな美味いと言っているだけなので、試食の役に立っているか怪しい所ではあるが、吟侍とレスティーはしっかりと答えの力で仕事はしていた。
 吟侍は好き嫌いは多いが、相当な大食漢であるし、7名がかりで、食べていたのだが、それでも、全商品を食べるにはほど遠かった。
 吟侍は、
「も、もう、食えん……」
 と言った。
 腹がパンパンに膨れあがり胃の容量を超えてしまっていた。
 だが、すぐに吟侍の身体に吸収され栄養となった。
 他の女性陣達も同様の事が起こった。
 あっという間の事だったので、思わず目がぱちくりとする一同。
 食べ物一つとってもセレークトゥース・ワールドの常識は現界の常識と異なっていた。
 胃が空いたのでまた試食出来るという事になる。
 胃がパンパンに膨れあがっては、元に戻るというのを繰り返していたが、次第にそれも面倒になり、時間の節約であっという間に試食を終えたという状態になった。
 見渡す限りあった食べ物を全て試食したという事実になった事に少なからず驚く一同。
 現界での常識はこのセレークトゥース・ワールドでは通じないというのが嫌という程、解ったのだった。


04 入場準備


 吟侍と【ぴょこたん】の店の新商品の試食も終わり、本題に入る事にした。
 吟侍は、
「んじゃ、【ぴょこたん】、悪いけど、簡単なアドバイスとかあったらくれねぇかな?おいら達は、シェリル姫のエリアを目指そうと思ってんだけどさ」
 と言った。
 【ぴょこたん】は、
「いいでちゅよ」
 と言ったが、一瞬、女性陣はこの舌っ足らずな声で説明されるのかと身構えた。
 だが、それは、取り越し苦労だったようだ。
「これが、しぇりるひめのえりあの【説明玉】でちゅ」
 と言って、一つのボールを出した。
 どうやら、【ぴょこたん】自身が説明するのでは無く、説明玉という便利なアイテムが存在するらしい。
 考えて見ればそうだ。
 このしゃべり方で説明されてもよく解らないという事がある。
 だとすれば代わりの何かがあってしかるべきなのだ。
 それが説明玉という事になるのだ。
 吟侍は早速、説明玉を使う事にした。
 これは、上に軽くぽーんと放り投げれば良い。
 そうすると、説明玉は空中で制止し、プロジェクションマッピングのように巨大な映像が説明玉を中心に浮かび上がる。
 この説明玉は上空に行けば行くほど大きな映像になってしまうので、あまり高く上げすぎると説明を聞いている間に首が痛くなってしまうこともあるので、本当に軽く上に投げるだけで良いのだ。
 吟侍は初めて使うという事でもあったのだが、その辺りはわきまえていて、丁度良い位置に上げて、適度な大きさの映像となった。
 映し出された映像は、ナビゲーター役の女性だった。
 その女性は、
「初めまして、わたくし、シェリル姫のエリアの解説を担当させていただいております、シャリラと申します。それでは、僭越(せんえつ)ながら説明をさせていただきます」
 と言った。
 シャリラの説明はとても解りやすかった。
 その上で質疑応答もしてくれた。
 質疑応答は、まず、ショップエリアで何を揃えて行けば良いのか解らないという質問に対しては、登録ボックスという所に手を入れて、自分のデータを記録して貰えばいいという答えだった。
 この登録ボックスで登録すると振り込まれた予算で最善のアイテムを後で所在地に転送してくれるというサービスだ。
 何を買ったら良いのか解らない存在はこの登録ボックスに登録して、適したアイテムを決めてもらうのが、一番良いという事を知った。
 予算についてだが、基本的には吟侍がこのセレークトゥース・ワールドで稼いだ金額からポケットマネーとして提供する事になる。
 女性陣は元々、招かれざるお客様という事で、基本的にショップエリアで買い物をする権利が無いので、吟侍に買って貰うしかないのだ。
 吟侍はこの先何があるか解らないので、全額を使うという事は避けて、預金額の10分の1程を7等分して、登録ボックスに振り込んだ。
 通常、お金を7等分すると殆どの場合、端数が出てしまうが、セレークトゥース・ワールドでのお金の考え方は現界とは異なるので、7等分にしようと思ったら、ぴったり7等分する事が出来るというのも特徴の一つと言えた。
 次に、避けた方が良い戦闘――つまり、戦闘力が全く違いすぎる相手との戦闘をどう避けたら良いかという質問に対しては、基本的にヒストリーエリア内はその設定された物語を崩すような戦闘にはならないという事になっているが、それでも、ヒストリーエリアを支配する【よそもの】には注意した方が良いというアドバイスをもらった。
 【よそもの】――その言葉に吟侍が反応した。
 吟侍は元々、【よそもの】の孫弟子と呼ばれる存在でもある。
 師匠であるガラバート・バラガは【よそもの】の弟子と呼ばれる存在だったからだ。
 ガラバート・バラガは吟侍の心臓にもなっている7番の化獣(ばけもの)、ルフォスの所有する宇宙世界、ルフォス・ワールドの奥深くに住んでいるが元々は別の場所で、【よそもの】と呼ばれる存在の弟子をしていたのだ。
 ガラバートですら、いまだに吟侍にとっては天井知らずの雲の上の様な存在だ。
 ガラバートと幼い頃、接していたおかげで、吟侍はクアンスティータに対するある程度の耐性を持っていたとも言える。
 シャリラの説明では、【よそもの】とは元々、第七本体、クアンスティータ・テレメ・デの所有する宇宙世界、テレメ・デ・ワールドに属する存在であるのだが、各本体クアンスティータの所有する宇宙世界にも僅かながら存在しているとの事だった。
 セレークトゥース・ワールドについて言えば、【フェーリアイアリーフェ】という【よそもの】が居るとの事だ。
 道化をイメージしたような姿をしており、ヒストリーエリアがプリンセスの案内役として、道化が多いのはこの【フェーリアイアリーフェ】の影響が強いとの事だった。
 【よそもの】は基本的に出現した瞬間、他の存在は死滅するという出たらアウトの存在であるのだが、自身の力を極端に抑えて、仮の出現をしているらしい。
 だからこそ、その危険極まりない存在に触れようとするのはセレークトゥース・ワールドとしての最大のタブーと言えた。
 吟侍はその【フェーリアイアリーフェ】だけが、【よそもの】なのかと聞いたが、答えはノーだった。
 もう一名、【よそもの】と呼ばれる存在がこのセレークトゥース・ワールドには存在すると言った。
 その名前は、【パクスクパ】と言うらしい。
 ゼリー状の身体を持つ存在だが、【フェーリアイアリーフェ】同様に基本的には出たらアウトの存在だ。
 【パクスクパ】と【フェーリアイアリーフェ】という名前からも解る通り、【よそもの】の特徴の一つとしては名前が回文のようになっているというのも挙げられる。
 そして、共通して、出たらおしまいという恐ろしい存在であるという事も共通する。
 【フェーリアイアリーフェ】がヒストリーエリアを支配しているのに対して、【パクスクパ】はショップエリアを担当しているらしい。
 つまり、2名の【よそもの】がそれぞれ支配している2つのエリアがこのセレークトゥース・ワールドでのメインエリアとなる。
 もちろん、他にも色んなエリアが存在するが、それはセレークトゥース・ワールドにとってのメインではないという事になる。
 続いての質疑応答は、栄養などの取り方だ。
 吟侍達は栄養を摂取しないと死んでしまう。
 だから、どうしてもセレークトゥース・ワールドでも栄養を摂取していかないといけない。
 その質問に対してはセレークトゥース・ワールドでは食べ貯めが出来るという言葉が返って来た。
 例えば、現界ではお腹いっぱい食べて、もう食べられないという状態になってもしばらくするとお腹が減って来る。
 どうしても、ある一定以上は食べる事が出来ない。
 それは当たり前の事ではあるが、セレークトゥース・ワールドでは勝手が全く違う。
 先ほどの試食についても然りだが、セレークトゥース・ワールドではお腹いっぱいになってもまた、通常に食べる事が可能になる。
 それは、栄養を貯める事になり、お腹が減ってきた頃に、前に余分に食べた分が栄養として身体に変換してくれるため、一度、もの凄く食べてしまえば、しばらく何も食べなくても死にはしないのだ。
 ――などの様に、吟侍達がセレークトゥース・ワールドに来て、疑問や不安に思っている事などを詳しく解説してくれた。
 最後にこの後訪れるシェリル姫のエリアについての質疑応答をして、シャリラの解説を終えた。
 シャリラは、
「他にご質問等ございませんでしたら、解説を終わらせていただきます。また、疑問などがございましたら、同じように、説明玉を上げて下されば、その都度、説明させていただきます。本日はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
 と言って消えた。
 終わって見れば、ただの映像ではなく、こちらの質問にもちゃんと答えてくれるし、いつの間に用意したのか、資料映像なども多く出てきた。
 これもセレークトゥース・ワールドならではのアイテムと言えるだろう。
 吟侍達は素直に便利だなと思った。
 準備も整い、いざ、ヒストリーエリアへと行きたいところだが、女性陣達はセレークトゥース・ワールドへ来た事への気疲れをしているのが解った吟侍は、
「とりあえず、一晩、休んでから行くか」
 と気遣った。
 その言葉を聞いたソナタは、
「ナイス、吟侍、そうこなくっちゃ」
 と言った。
 泊まるにしてもここでは吟侍の財布が頼りであるので、吟侍の意見が優先される。
 登録ボックスに全額使ってしまったら、店の売り上げが出るまで泊まる事も出来なかったので、残しておいて正解と言えた。


05 今夜の宿


 吟侍は、
「じゃあ、どこに泊まるかな……適当な宿で良いか」
 と言った。
 それを聞いた女性陣が、
「却下よ」(ソナタ)
「ちょっと待って」(ステラ)
「ダメじゃ」(エカテリーナ)
「それはちょっと困ります」(フェンディナ)
「もうちょっと考えようよ」(レスティー)
「せっかく来たんですから記念に」(那遠)
 と一斉に反対した。
 吟侍にとっては、
「屋根がついてて、疲れが取れりゃ、どこでも一緒じゃねぇか」
 という気持ちだったが、女性陣達は、【それは違う】ときっぱり言いきった。
 やっぱり、みんな女の子、綺麗な宿に泊まりたいというのは譲りたくは無かったのだ。
 吟侍としては、セレークトゥース・ワールドの特徴でもある、時間とばしを使って、泊まった時間をすっ飛ばしたかったのだが、どうもそれは認めてくれそうもなかった。
 泊まる所でちゃんと楽しみたいという気持ちが女性陣は強かった。
 その辺りが、冒険に来ている吟侍と旅に来ている女性陣達との気持ちの差となって現れた。
 吟侍は、
「じゃあ、ここで貯まるかどうかわかんねぇけど、おいらは余暇貯時間管理で、時間を節約するからしばらくいなくなるんで……」
 と言ったが、全員一致で却下された。
 余暇貯時間管理とは吟侍の能力の一つで、無駄な時間を貯蓄して後で有効に使う事が出来るという力だ。
 この余分な時間を使って、一瞬の時の間に、他の宇宙世界などに冒険に出ることが出来、急成長してきた経緯があった。
 クアンスティータが誕生してからは、時間や空間に関する力が制限されてしまうので、使えるかどうか解らない力ではあったのだが、そんな事をされたら、吟侍と一緒に宿に泊まるというイベントの意味が無くなってしまうと思って女性陣達は一斉に反対したのだ。
 かなりのニブチンである吟侍はその事には全く気づいていないのであるが。
 彼は恋人のカノンに一筋なので、他の色恋沙汰には気づいていないのだ。
 女性陣達は一つの狙いがあった。
 時間を節約する事が出来るのであれば、逆に引き延ばす事も出来るはず――
 引き延ばした時間で出来るだけ長い時間、吟侍と二人っきりになろうという野望があったのだ。
 疲れを取ろうと思っている者は一人も居なかった。
 見えない女の戦いが始まろうとしていた。
 吟侍は、
「お前さん達は6人居るから良いだろうけど、男はおいら1人だぞ。ルフォスの奴が怯えて隠れちまってるから、ルフォス・ワールドとのリンクも上手く行ってねぇし、どうしろってんだよ。まぁ、1人遊びが嫌いって訳じゃねぇけどさ……」
 と言った。
 彼はあくまでも男性と女性は別々に泊まるつもりでいるのだ。
 据え膳食わぬや夜ばいなどの下心は微塵もなかった。
 結局、女性陣達は何とか吟侍と二人っきりになろうとして、他の女性陣との駆け引きに夢中になっていた。
 吟侍とのお泊まり会というよりは、駆け引きのある女子会と言った感じだろう。
 そのまま、吟侍が、適度な時間で時間を進めてしまったので、タイムアウト。
 素敵な宿に泊まったのだが、それだけで、終わってしまった。
 翌朝、吟侍は、
「何だよ、お前さん達、疲れ取れてねぇんじゃねぇか?何のために泊まったかわかんねぇじゃねぇか」
 と言った。
 女性陣達は、それは【それは私(妾)達が言いたい】という言葉を飲み込んだ。
 またのチャンスに期待するのだった。


06 アイテムの確認


 中途半端な泊まりになってしまったが、一応、立て前上は、疲れが取れたとして、いよいよ、ヒストリーエリアに向かう事になった。
 宿屋の玄関には、7つの荷物が置いてあった。
 それは昨日、登録ボックスで登録したデータを元に、吟侍達それぞれに合わせた便利なアイテムが揃い、宿屋に届けられたものだ。
 吟侍としては、宿屋、旅館などに泊まる事が目的でセレークトゥース・ワールドに来た訳じゃない。
 赤ん坊であるクアンスティータ・セレークトゥースの代わりの意見として、セレークトゥース・ワールドのご意見番などの意見をまとめて現界への被害を最小限にとどめるという目的がある。
 そういう意味でも、このヒストリーエリアでの冒険は最初の第一歩となる重要な冒険であると思っている。
 吟侍は浮かれている女性陣を連れてきた事をちょっとだけ後悔していた。

 だが、連れてきてしまったものは仕方がない。
 吟侍は気持ちを切り替える。
 これからの行動の方が大切なんだという事を再確認した。
 吟侍は、
「準備できたか〜、行くぞぉ〜」
 と女性陣に声をかけた。
 女の子は支度に時間がかかるもの。
 吟侍の声かけから全員揃うまで30分かかった。
 これでも早いくらいだ。
 という感じでペースが乱れるのだった。
 吟侍は女性陣に届いた荷物を配った。
 それぞれが荷物を開けると女性陣に共通したアイテムが有ることに気づいた。
 それはメイク道具だった。
 説明玉を使ってシャリラに解説してもらうと、それは、【桁外れのメイクポーチ】というアイテムで、このメイク道具で化粧をする事により、数百倍以上の力を持つことが出来るというものだった。
 つまり、セレークトゥース・ワールドにおいて女性陣の力は力不足と出て、まずは、その底力を上げるアイテムが用意されたという事になる。
 一口に力不足と言ってもエカテリーナやフェンディナは薄化粧、その次のレベルとしてステラ、更に次がソナタ、レスティー、那遠と段々厚化粧にしないとレベルについて行けないので、同じ【桁外れのメイクポーチ】でも容量が違っていた。
 那遠が、
「えー、私が一番厚化粧にならないといけないんですか?」
 と言ったが、化粧は化粧でも特別な化粧なため、厚化粧であっても、露骨に厚化粧に見えるというものではなく、見た目はナチュラルメイクだと言われたので、ひとまずホッとするのだった。
 那遠が一番容量が多いので、一番金額が高いと思われがちだが、実はそうでもなく、どのような容量であれ、【桁外れのメイクポーチ】というアイテム自体につく金額なので、薄化粧ですむエカテリーナやフェンディナと那遠の金額的な差はこのアイテムだけではつかなかった。
 つまり、同じ金額だけ、【桁外れのメイクポーチ】で使った事になる。
 吟侍はこの【桁外れのメイクポーチ】は入っていないので、その分、他のアイテムにお金をかけることが出来る。
 女性陣にはもう一つ共通するアイテムがあった。
 それは、【緊急離脱カプセルセット】だ。
 これを1カプセル飲み込んでいると1ピンチに対して1カプセルの割合で、命の危険を判断したカプセルが緊急離脱効果を発動するというものだ。
 これは、クアンスティータの宇宙世界でのアイテムだからというのが関係しているのか解らないが、2ダース、24カプセルが1セットとなっていた。
 つまり、24回助かる事が出来るかも知れないというものだ。
 完全に助かると断言出来ないのは、そのカプセルの力を超える力の者から与えられるピンチを回避出来ないからだ。
 本当に駄目な時はどうしようもないという事だ。
 これも女性陣の力不足を暗に示しているという感じのアイテムだった。
 これらのアイテムを一つ一つ効果などを説明玉に説明して貰った。
 いくら便利なアイテムがあっても使い方が解らない、間違った使い方をしてしまっては無意味だったり、もっとピンチになったりする事だってある。
 使い方をしっかり把握する事が大事だと言えるのだ。

 一通り、アイテムの確認をしたが、どれも珍しいアイテムだったので、女性陣は楽しそうだった。
 これは、吟侍にも言える事で、女性陣だけに限らず、吟侍用になっているアイテムも女性陣に負けず劣らずの便利道具ばかりとなったので、彼も宝物を手にしたみたいで楽しかった。
 男女問わず、誰でも、面白いアイテムが複数プレゼントされれば楽しくなるものである。
 アイテム――つまり、荷物としては結構な量になってしまうのだが、後は収納の問題が残るという事になる。
 だが、ここは、セレークトゥース・ワールドだ。
 収納に困るという事はない。
 時間も飛ばしたり延ばしたりが可能な様に、空間もまた自由に変更する事が出来る。
 つまり、荷物を置いておく空間を圧縮したり、削ったりして、持ち運ぶ事が出来るのだ。
 リュックや鞄入らずという事になる。
 つくづく便利な宇宙世界だなと思うのだった。
 不安だらけなセレークトゥース・ワールドの冒険だが、この便利すぎるアイテムがあるだけでも随分違うと言えた。


07 危険極まりないシェリル姫のエリア


 少し、寄り道をしてしまったが、いよいよ、最初に行くと決めたヒストリーエリアの一つ、シェリル姫のエリアに行くことになった。
 吟侍達はさっそく現在地を確認する。
 シェリル姫のエリアは、シェリル姫の物語を元に構成されている。
 シェリル姫の主な登場キャラクターは、
 シェリル姫(ルリェシ)、
 シェリル姫の影(化け物)、
 王子や英雄達、
 王子や英雄達が雇う化け物達の4つだ。
 他にも王家の護衛達や町民達などのサブキャラクターも居るが主要キャラは前述の4種類となる。
 町民達が居る町のエリアをスタート地点として、その周りには、王子や英雄達が雇う事になる化け物達が住む森が配置されている。
 その森は広大で、その森に点在する形で王国や国が存在し、王子や英雄達が住んでいるという設定になっている。
 この森の大きさだけで、現界の宇宙空間の数倍の大きさがあるらしい。
 それだけでも、このセレークトゥース・ワールドの大きさがうかがい知れる。
 移動時間を飛ばせないとまず、この森すら抜け出る事は叶わないのだから驚きだ。
 森の最も奥に位置する場所にひときわ大きな王国があり、そこに、シェリル姫とシェリル姫の影が住んでいるという事になる。
 王子や英雄達は、この最も大きな王国を手にするために、シェリル姫に求婚しに来るという設定になっている。
 スタート地点の町からも英雄達が参加しているので、その英雄達と打ち解ける事が出来たら、比較的安全に英雄達に同行する形で、シェリル姫の王国に行くことが出来るが、そうでない場合は、裏ルートを見つけるか、それとも、危険な化け物が居る森を通るかという事になる。
 化け物は特別な金貨をある程度持っていけば雇う事も出来る可能性があるので、町でバイトをして、特別な金貨を貯めるという手もある。
 化け物を雇う事が出来れば、その者もシェリル姫への求婚者の役になることが出来るという世界観だ。
 エカテリーナの意見としては、つまらん小細工を弄するくらいならば、力押しで押し進みたいが、ここはセレークトゥース・ワールドなので、その軽はずみな行動が命を落とす事にも繋がりかねないとも言った。
 強気のエカテリーナもいつになく弱気な発言だった。
 それだけ、クアンスティータに関わっているという事が怖いのだ。
 だが、虎穴に入らずんば虎児を得ずとも言うので、アイテムとして、【緊急離脱カプセルセット】も有ることだし、まずは、森に入ってみようという事になった。
 吟侍は【緊急離脱カプセルセット】を持っていないので留守番という事にさせられた。
 吟侍は、
「おいおい、お前さん達だけで大丈夫か?」
 と心配したが、
 ソナタは、
「吟侍、あんた、私達を舐め過ぎよ」
 と言い、ステラは、
「大丈夫よ。メイクもしているんだから」
 と言った。
 だが、レスティーと那遠は足手まといになるからと探索を辞退した。
 なので、ソナタ、ステラ、フェンディナ、エカテリーナの4名で森を探索し、吟侍とレスティーと那遠は町で待機という事になった。
 ただ、待っているのも無駄なので、吟侍達3名は、町でバイトをしながら待つ事にした。
 だが、バイトを探している間に、ソナタ達4名は戻ってきた。
 戻ってきたというよりは、【緊急離脱カプセルセット】で緊急退避させられてきたのだ。
 いくら、クアンスティータの所有する宇宙世界の住民であろうと、フェンディナやエカテリーナが居るんだしそう簡単にやられることは無いと高をくくっていた4名だったが、完全に油断していたというのもあって、いきなり暗殺されかかった。
 体内に飲み込んでいた【緊急離脱カプセル】が即座に反応し、離脱したが、なおも追って来て、脱出するために4カプセルくらいが一気に削られた。
 エカテリーナは、
「な、なんだったんじゃ、あれは……?」
 と驚愕していた。
 フェンディナも、
「び、びっくりした……」
 と驚いていた。
 ソナタとステラは、
「………………」
「………………」
 声も出なかった。
 紹介された中で、最も低い数値を示していたシェリル姫のエリアだが、だからといって舐めてかかれるほど甘くはなかった。
 気を抜いてかかれば、即死なんてあっという間に訪れるとみんな理解した。
 改めて、スタート地点の町で相談する。
 森に住む化け物を雇うにしても吟侍の所持金は使えない。
 シェリル姫のエリアではこのエリアでしか通じない通貨がある。
 それが、特別な金貨という事になる。
 とにかく、先立つものが何もない状態では話にならないので、吟侍達7名はスタート地点の町でアルバイトをして、ある程度の特別な金貨を稼ぐ事にした。
 化け物を雇えるような特別な金貨を得るには、結構稼がなくてはならない。
 バイトで手に入るのは1時間あたり、特別な銅貨が1枚からせいぜい8枚辺りがやっとだ。
 特別な銅貨10枚で特別な銀貨1枚と同じ価値で、特別な銀貨10枚で特別な金貨1枚と同じ価値だ。
 つまり、特別な金貨1枚を手に入れるためには、特別な銅貨100枚が必要になる。
 もちろん、特別な金貨1枚で雇える化け物などたかが知れている。
 シェリル姫の王国に挑戦出来るようなレベルの化け物を雇えるようになるのは少なくとも十数枚の特別な金貨は必要になるだろう。
 7名で手分けしても結構かかりそうだ。
 だが、このセレークトゥース・ワールドは特別な宇宙世界でもある。
 バイトの時間をもまた、飛ばす事が出来るのだ。
 身体をバイト先に貸し出すという行為さえ認めれば、時間調節はしてくれるというものになっている。
 やりたい行動に対して、不要だと思える時間は飛ばせるというのがこのセレークトゥース・ワールドの良いところでもある。
 英雄達に媚びを売って同行させてもらうという選択肢は吟侍達には無いし、答えの力がどこまで通用するかも解らないので、裏ルートを探すというのも危険を伴う。
 なので、吟侍達はバイトを選択した。
 これは元々、商売人という事もあって、那遠が一番多くの特別な金貨を稼ぎ出した。
 那遠が特別な金貨13枚、
 吟侍が特別な金貨11枚、
 他5名が特別な金貨それぞれ10.5枚ずつ稼ぎ出した。
 合計、75.5枚。
 これだけあれば、かなり強力な化け物を雇える可能性がある。
 だが、これは、あくまでも最終手段、保険として、稼ぎ出したものだ。
 今度は、吟侍達も加わる。
 次は油断しない。
 適切な行動をとって次につなげようと思っていた。
 シェリル姫のエリアでの冒険は始まったばかり。
 この先、何が起きるのであろうか。
 不安は尽きない。


続く。






登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。
 【答えの力】を身につけ、ティアグラに殺される未来も回避出来た。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
 ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
 クアンスティータ誕生により完全に萎縮してしまっている。


003 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
 力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。


004 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
 吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
 潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
 脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
 クアンスティータ誕生のショックで自身に秘めていた力が一気に解放されて、ショック状態になっていて、必要以上に怯えている。


005 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
 切り札としていた力がオルオティーナという存在だという事が解り、彼女の古き力を得て、極端なスキルアップを果たす。
 それでも、クアンスティータには遠く及ばず、萎縮してしまっている。
 初めて男性(吟侍)を頼りになると思い、自身に芽生えた恋心に動揺している。


006 ステラ・レーター
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。
 力不足から、フェンディナやエカテリーナより、一歩遅れて戦線に出てくることになったが、役に立てなかった。


007 レスティー
レスティー
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた調治士(ちょうちし)の少女。
 調治士とは化獣(ばけもの)等の超越的存在の医者のようなもの。
 彼女は吟侍の専属医の様な存在となる。
 吟侍から【答えの力】を受け取り、彼女も少ないながら【答えの力】が使える様になっている。


008 片倉 那遠(かたくら なえ)
片倉那遠
 吟侍にひっついてセレークトゥース・ワールドにやってきた地球屋(ちきゅうや)の少女。
 地球屋とは地球の製品を売り歩く商売の事を指す。
 元々、吟侍の育ての親であるジョージ神父の大ファンだったが、その最強の後継者である吟侍の大ファンにもなっている。
 地球出身でもある。


009 クアンスティータ・セレークトゥース
クアンスティータ・セレークトゥース
 ついに誕生したラスボス、クアンスティータの第一本体。
 セレークトゥース・ワールドという宇宙世界をまるまる一つ所有している。
 【ミステイク・フィルタ】という代表的な特別な力を持ち、それは、勘違いの力と呼ばれ、セレークトゥースが都合良く勘違いしたものに事柄が変わってしまう。
 セレークトゥースが認識出来ない事はうやむやにしてしまうという部分もあり、それにより、1番の化獣ティアグラの策はいっぺんに全て無効になってしまう程。
 無邪気で人懐っこい性格をしているが、少しでも後ろ暗い行動を取る者には、鏡の反射の様に絶対的な恐怖という形で跳ね返ってくる。
 悪意を持たない、もしくは自然体でいるものには影響が無く、吟侍は敵意を無くし、クアンスティータの恐怖を逃れる事に成功している。
 現在は自我も確立されていない状態。


010 ぴょこたん
ぴょこたん
 吟侍が、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドで初めて会った存在。
 店の開店準備をしている事から、吟侍が自身の生体データを担保に【真似っこ吟ちゃん】の商品化を持ちかける。
 吟侍が適当に選んだ相手なのだが、それでも吟侍のコピーを作り出せる程のポテンシャルを示す。
 名前はまだ、無かったが、吟侍がその雰囲気から【ぴょこたん】と命名した。
 吟侍の事を【ぎんちゃんさん】と呼ぶ。
 幼児語【〜でちゅ】とかで話すが、クアンスティータや商品名の発音はしっかりしている。
 吟侍とは共同経営者という立場になった。


011 シェリル姫
シェリル姫
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドのヒストリーエリアの下の位に属するプリンセス。
 自身の影に悩んでいて、影を倒してくれる勇者を待っているという設定だが、自身の名前が反転すると影以上の化獣になる。