第005話 第二側体 クアンスティータ・ソリイントゥス編

第005-02話挿絵

01 カノン達の状況


 カノン・アナリーゼ・メロディアスは現在、ついに誕生してしまった第一本体、クアンスティータ・セレークトゥースの従属でもある第一側体クアンスティータ・トルムドアの所有する宇宙世界、トルムドア・ワールドに来ている。
 仲間であるシアン・マゼンタ・イエローやパスト・フューチャー、七英雄達は現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界に居て、現在、彼女とは離ればなれとなっている。
 だが、ハーフバーチャルボディ【クァノン】という存在を通して、彼ら彼女らには自分が無事だと伝えている。
 仲間にはさらわれた友人達の救出活動をお願いするとして、今は、クアンスティータと向き合うために、トルムドア・ワールドに残り、各地を旅する事を選択している。
 【クァノン】に【オーケストラコーラスダンサロイド】や【ミューズ・アニマル】を連れてきてもらったカノンはトルムドアに命を与えられた狸のぬいぐるみ、【まめぽん】も連れだって、他の側体との【コンタクト・ポイント】を目指して旅を始めた。
 そんな矢先、彼女は裏歴史から来たという少女【沖椰子 ゆのあ(おきやし ゆのあ)】と知り合い、意気投合。
 行動を共にすることになる。
 カノン達は他の側体との【コンタクト・ポイント】での交渉の練習として、すでに打ち解けているトルムドアの【コンタクト・ポイント】を目指した。
 そこへたどり着く前にトルムドア・ワールドの特徴となる場所で体験等をした。
 それらの体験などを通して、【コンタクト・ポイント】での交渉の材料にするのだと確認した彼女達は、いよいよ、未開拓のエリア、第二側体クアンスティータ・ソリイントゥスの【コンタクト・ポイント】を目指す事にしたのだった。
 トルムドアから得た情報ではソリイントゥスのエリアは【芸術】のエリアという所まで確認してる。
 後は、地道に探っていくしかないのだった。


02 情報収集


 カノン達は、第二側体クアンスティータ・ソリイントゥスのエリア宇宙に入った。
 トルムドアから【芸術】の宇宙世界だとは聞かされていたが、惑星よりも大きな彫刻がこのエリアにある星の数よりも多く点在していた。
 宇宙にある星を見つけるよりも彫刻を見つける方が早そうだ。
 彫刻だけじゃ無い。
 やはり星よりも大きな立方体の物体があり、その六面全てに絵画が設置してある。
 やはり、それらも星の数よりも多いだろう。
 立ち寄って見てわかったが、星では無く、この超巨大な彫刻や絵画に住んでいる存在も少なからずいた。
 星から飛び出した建築なども数多くあり、そこからは様々な音楽が聞こえて来る。
 そういう意味でも【芸術】の宇宙と呼んでも良いだろう。
 【芸術】と言えば音楽という意味でもカノンや【ゆのあ】も得意とするジャンルではある。
 早速、彫刻に住む住民にご挨拶とばかりに歌を披露した。
 今回はカノンと【ゆのあ】のデュエットだ。
「「♪摘み取られたのなら また種をまきましょう
 摘まれても摘まれても
 また、まきましょう
 いつか芽が出ると信じて
 いつか いつか いつか きっと
 綺麗な花が咲くことを信じて
 あなただけのためにさく 綺麗な花が咲くことを 夢見て
 今日もまた 種をまきます
 水をかけます
 信じて待ちます
 明日こそは咲き誇ると信じて
 明日はどんな花が咲くのかな
 赤かな 青かな 黄色かな
 七色のかな 虹色かな
 それを楽しみに今日も 種をまきます
 明日は咲くと良いな
 明日は咲くと良いな……♪」」
 すると、
 パチパチパチパチ……
 と拍手が巻き起こった。
 住民とのつかみはオッケーというところだ。
 トルムドアのエリアで買って置いた食材を使って調理した食べ物を配り、住民達と打ち解けて行く。
 カノンがよく惑星アクアで使っていた方法だ。
 これはトルムドア・ワールドでも有効のようだ。
 そして、世間話をしながら、このソリイントゥスのエリアの特徴を聞き出す。
 カノンは、
「このエリアの特産品とかそういうものは何でしょうか?」
 と聞き、【ゆのあ】も、
「このエリアの特徴とかでも良いんですが。私達、ここに来たばかりで何も知らないので、気をつけなきゃならないこととかありますか?」
 と聞いた。
 すると、住民は、
「そうだなぁ、このエリアの特徴としては芸術家が多いって事かな?――と言っても本家であるソリイントゥス・ワールドじゃないから小規模だけどね。このエリアでは十三大画伯というのが居て、その13名を中心にこのあたりにある星より大きな【芸術】作品を作っているかな?後は、そうだなぁ……似面(じめん)とかも盛んかな?」
 と言った。
 【似面】――聞いた事のない単語だ。
 聞いて見ると地球風で考えると能の様なものらしい。
 何かのキャラクターを模した面をかぶり、芸をするという伝統芸能らしい。
 機会があれば覗いてみたいなとカノン達は思った。
 他の住民は、
「後、お前さん達、注意しなきゃなんねぇのはなぁ、なんと言っても【禁存館(きんそんかん)】には近づいちゃなんねぇぞ」
 と言った。
 【禁存館】――やはり、聞いた事のない単語だ。
 何でも【禁存(きんそん)】と呼ばれる危険な存在を封じている所らしい。
 【禁存】は芸術作品として、封じられて展示されているらしいが、特別な許可無しに近づかない様にルールが定められているらしい。
 以前は、自由に出入りが出来たらしいが、【解放者(かいほうしゃ)】と呼ばれる、【禁存】を解放させて倒したり、封じなおしたりする不届き者が出るようになったらしく、出入りのチェックが厳しくなったらしい。
 【芸術】作品は【禁存館】だけに限ったことではないし、芸術鑑賞をするなら他の所を回るのが無難だと言うことだ。
 だが、ソリイントゥスとの交渉に向かうカノン達にとっては、やはり、ソリイントゥスのエリアの特徴の一つである【禁存館】や【解放者】達にも少しは触れておかないと交渉の材料としてはちょっともの足りない。
 ご忠告痛み入るけど、それに従う事はちょっと出来ないかも知れないと思うカノン達だった。
 だけど、【禁存館】が住民達が注意するほど危険な所だという事は理解した。
 カノン達は他の住民などの住む場所も周り、同じような事をしながら情報を集めていった。
 何をするにしてもまずはこのエリアの情報が必要不可欠となる。
 情報を集めて、その上で、次の行動を決める事にした。


03 似面(じめん)鑑賞


 カノン達はある程度、情報を集めたので、まずは、住民達に聞いた、【似面】を見てみる事にした。
 【似面】は【能】や【狂言】、【歌舞伎】等に近い芸術という事だから大変興味が沸いていた。
 【似面】となる面はソリイントゥスのエリアでの有名な存在に似せて作っている。
 つまり、この【似面】を鑑賞するとこのソリイントゥスのエリアの事が大まかにわかる可能性があるのだ。
 これは好都合と言えた。
 早速、カノン達はチケットを入手した。
 【似面】と一口に言っても様々あり、どれから見れば検討もつかなかったが、親しくなった住民達から勧められた講演を見る事になった。
 演目は【巨匠】――
 十三大画伯の一人、【ソントク】が【巨匠】と呼ばれるまでになったストーリーを表現するものらしい。
 【ソントク】は元々、売れないただの絵描きだった。
 そんな【ソントク】はある時、道ばたで食べ物をもらい、そのお礼にと絵を描いた。
 その絵を見た通りすがりの大金持ちがこれを売ってくれとせがむが、【ソントク】はこれは食べ物をくれた人に対して描いたものだから売れないと言った。
 どうしても欲しければ、【ソントク】がプレゼントした人から譲り受けて欲しいと言った。
 そのかたくなな態度が受けて、次から次へと絵の仕事が舞い込んでくるというシンデレラストーリーだ。
 どんな立場になろうともその姿勢は決して崩さないという【ソントク】の人気はうなぎ登りに上がっていったというストーリーを描いている。
 ソリイントゥスのエリアの住民にとっての人気作となっている。
 見てみると、カノンが故郷で見た光景と大差ない光景だった。
 それを見て確信する。
 クアンスティータは恐ろしい存在ではない。
 カノン達と同じようにものを考え、同じように感情を抱く存在だ。
 だから、話せばわかるはずだと思った。
 ソリイントゥスのエリアはそのまま、ソリイントゥスの気配、顔も感じる事になる。
 そんな事を考えながらの鑑賞だった。
 終了後、演者との記念撮影などにも参加させてもらい、グッズなども買った。
 娯楽としては至れり尽くせりというところだろう。
 カノンもまさか、友人の救出活動に来て、こんな体験が出来るとは夢にも思っていなかった。
 カノンはそれらの体験を通して感じるものがあった。
 トルムドア・ワールドに限った事では無いのだろうが、クアンスティータの所有する宇宙世界では一般的な住民達はみんな共通して毒が少ないという印象を受けた。
 毒は毒でも【悪意】という意味での毒の話だ。
 存在している者はどこか純粋な印象を受ける。
 現界では当たり前である裏の顔を持っているという感覚が感じられない。
 素朴でいい人ばかり――そんな感じだ。
 歌う事により、人の気持ちに触れる力を持っているカノンは特にそれを感じた。
 接しているとみんな親切で心が温かい気持ちになる。
 惑星アクアの時の様な悪意を隠して近づいて来るという気配が感じられない。
 居心地の良さのようなものを感じとっていた。
 悪意を持つ存在が存在しにくい宇宙世界――それがクアンスティータの所有する宇宙世界なのだろうと思った。
 幸せそう――それがカノンが住民達に対して抱いた印象だった。
 親しくなった演者達はソリイントゥスの印象も答えてくれた。

 演者達の説明によると、第二側体クアンスティータ・ソリイントゥス――第二本体クアンスティータ・ルーミスの従属側体にして、変わったものが好きという変わり者タイプの側体らしい。
 逆に、普通のものというものが嫌いらしい。
 それがわかっただけでも収穫と言える。
 【似面】鑑賞は大きな成果だと言えた。
 演者達との別れを惜しみ、カノン達は次の立ち寄り場所を目指して進んだ。


04 放牧の里(ほうぼくのさと)


 次にカノン達が立ち寄った所は、レア・クリーチャーの核がある【放牧の里(ほうぼくのさと)】だ。
 トルムドアのエリアは第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの従属側体だったため、セレークトゥース・ワールドのショップエリアの特徴も僅かながら(それでもカノンにとっては大きかった)有していた。
 だとすれば、このソリイントゥスのエリアも第二本体クアンスティータ・ルーミスの特徴をどこか持っているのではないかと聞いて見たところ、見事的中した。
 住民達の話によるとそれは【放牧の里】にある三つの核だという。
 カノンの恋人、吟侍の心臓にもなっている7番の化獣ルフォスはルフォス・ワールドという宇宙世界を所有し、その中には無数の核が存在する。
 それらの核は大きく分けて三種類存在し、心核(しんかく)マインドコア、技核(ぎかく)スキルコア、体核(たいかく)ボディコアと呼ばれ、その三種類の核を混ぜ合わせる事により、怪物を生み出す事が出来るというものだ。
 その三種類の核は無数のタイプがそれぞれあり、組み合わせでオリジナルのクリーチャーなどを生み出す事が出来るのだ。
 クアンスティータ・ルーミスのルーミス・ワールドにも同じ特徴を持った核が存在する。
 ルーミス・ワールドの方はルフォス・ワールドのものよりも進化バージョンと呼ばれていて、三種類の核はより、多くのタイプの核をルーミス・ワールド内に所有していると言われている。
 さらに言えば、右核(うかく)ライトコア、左核(さかく)レフトコア、前核(ぜんかく)フロントコア、後核(こうかく)バックコア、上核(じょうかく)アップコア、下核(げかく)ダウンコア、中央核(ちゅうおうかく)メインコアの七核を合わせて誕生する七核レア・クリーチャーというのも存在する。
 メインコアだけは変わりが無いが、後の六つの核はマインドコア、スキルコア、ボディコアの一般核から変化することも出来る。
 (例えば、マインドコアからライトコアに変化するなどだ)
 ソリイントゥスのエリアではさすがに七核レア・クリーチャーは存在しないが、三核融合により誕生する一般レア・クリーチャーは作る事が出来るという。
 カノン達はこれも体験しておこうと思って【放牧の里】に立ち寄る事にしたのだ。
 狙いは、ソリイントゥスとの交渉のためだ。
 ソリイントゥスは変わったものが好きだという事だから、この【放牧の里】で珍しいクリーチャーを作ってプレゼントしてみてはどうかという事になったのだ。
 だが、闇雲に運任せで融合させても滅多に珍しいクリーチャーは生まれないだろう。
 そこで、カノンの発明家としての才能が試されるという事になる。
 【融合誕生予想システム】を発明して、それを使って珍しいクリーチャーを産みだそうと考えたのだ。
 だが、何も無い状態では如何にカノンとは言え思いつかない。
 まずは、見学をさせてもらって、三つの核というものがどのようなものなのかを確認してその上で発明をするという事になった。
 まずは、【酪農家】達がどのようにして、新しいクリーチャーなどを生み出すのかを見学することになった。
 郷に入っては郷に従えとも言う。
 カノンや【ゆのあ】達は【酪農家】の標準着に着替えて見学した。
 見学してみると新しい発見でいっぱいだった。
 カノン達は牛や豚、馬などを育てるという感覚で見に行ったのだが、全く異なっていたのだった。
 まずは、放牧しているクリーチャー達を見たが、属性事に別の場所に放牧していた。
 理由は、他の属性の悪影響を極力防ぐためだ。
 なので、例えば火の属性のクリーチャーを見に行ったら、周りにいるのは火の属性のクリーチャーばかりで、他の属性の放牧地に行かないと火以外の属性のクリーチャーは見れなかった。
 また、核の見学も同じだった。
 マインドコアとスキルコアとボディコアを混ぜてしまうとクリーチャーになってしまうので、基本的に三種類の核は別の場所で管理されている。
 ルフォス・ワールドはコアは出鱈目に放置されていると聞いた事があったが、少なくともトルムドア・ワールドのソリイントゥスのエリアはしっかりと整理されているようだ。
 言ってみれば几帳面なタイプがソリイントゥスのエリアでルフォス・ワールドの方はがさつなタイプだと言える。
 どちらが良いとはカノンには判断出来ないが、吟侍に言わせるといろんな素材が混ざり合っている方がいろんな発想が出来るらしい。
 カノンもその気持ちはわかった。
 カノンも最初は整理整頓して発想するのだが、いろいろ考えて行くと整理しているのが煩わしくなったりもする。
 ごちゃ混ぜになった状態だと意外な発想が生まれたりするのをよく経験している。
 発明家としての技能は吟侍との幼少期の体験から生まれる事も多く、吟侍は整理整頓とは無縁の男の子だったので、彼に好意を抱いていたカノンはその気持ちが少しわかるのだ。
 ソリイントゥスのエリアは整理整頓がされているので、あまり変わったクリーチャーは生まれて居ないと判断した。
 ならばどうやって珍しいクリーチャーを生み出すか?
 テーブルをひっくり返すような考えでやって行かないと珍しいクリーチャーは生まれないだろう。
 さて……どうしたものか……?
 カノンは考える。
 サイコネットの通信で聞いていた、吟侍が風の惑星ウェントスで仲間とした絶対者アブソルーターの九頭大蛇(くずおろち)の事を思いついた。
 九頭大蛇は元々、惑星ウェントスで生け贄を食らっていた不死身の存在だったが、吟侍のウィークポイントレシピにより、弱点属性を合成され倒された。
 殺しはしなかったが、そのまま放置しておけば、また、人を襲うと判断した吟侍はルフォス・ワールドに取り込み、そこを管理していた全能者(ぜんのうしゃ)オムニーアのウィンディスの手により、核と合成して、新たに九頭龍獣(くずりゅうじゅう)として生まれ変わったという話を聞いていた。
 つまり、混ぜ合わせるのは核だけじゃなくても良いのではないか?という事だ。
 しかし、それはウィンディスの力があってこそ、初めて出来る事かも知れない。
 カノンが出来るという保証はないのだ。
 可能性があるだけ。
 だが、可能性があるという事は試すだけの理由となる。
 根気よくやるのには慣れている。
 カノンはすでにクリーチャーになっている生き物の中から、これだというクリーチャーをチョイスし、それと核を融合させて新たなクリーチャーを生み出して見るという方法を【酪農家】に提案した。
 いくらカノンが思いついても【酪農家】がオッケーを出さなければこれは出来ない。
 【酪農家】の返事はカノン達が演奏会を開いてくれるのなら何でも一匹、提供するとの事だった。
 カノンは早速、【オーケストラコーラスダンサロイド アリア】、【オーケストラコーラスダンサロイド オペレッタ】、【オーケストラコーラスダンサロイド リート】、【ミューズ・アニマル ピア】、【クァノン】と共にコンサートを開いた。
 本当はカノンだけでリサイタル(独演会)をするつもりだったが、どうせなら、新生【アインマール】としてやろうという事になった。
 なので今回、【ゆのあ】はお休みだ。
 【まめぽん】と共に酪農家達とカノン達のコンサートを楽しんだ。
 コンサートの曲数は全部で、30曲だった。
 お願いするための取引とは言え、演奏を頼まれればプロとして本気でやらねばならない。
 決して手を抜く訳には行かないのだ。
 いつでも全力投球。
 それがカノンの持ち味だ。
 カノン達の熱唱に【酪農家】達は感動し、
「いくらでも持って行ってくれ」
 と言っていたが、カノンは、
「お気持ちだけ――じゃあ、この子だけいただいていきますね」
 と一匹のクリーチャーを選択し、もらい受けた。
 預かったクリーチャーの名前は【もへらへ】というらしい。
 名前の由来は【もへらへ】と泣くかららしい。
 この【もへらへ】はすでに三つの核の要素を持っている。
 それに、新たに二つの核を融合させて、新たなクリーチャーとして生まれ変わるのだ。
 失敗は出来ない。
 それだけは絶対に出来ない。
 まずは、【もへらへ】の生体を調べ、それに適した核を探す。
 問題は【もへらへ】と新たに融合させる核をマインドコア、スキルコア、ボディコアの内、どの二つにするかだ。
 混ぜる核によってどの部分が強くなったり弱くなったりするかが変わって来るのだ。
 カノンは【もへらへ】の体毛を一本もらってそれを使って実験をした。
 今回の場合、失敗して傷つくのはカノンではない。
 【もへらへ】の方だ。
 だから、こそ、慎重に進める必要があった。
 他の命を預かるという事が如何に大変な事かカノンは身にしみてよくわかった。
 慎重にそして、大胆に核を探す。
 そして――
「決めた、これとこれ」
 と言った。
 カノンはどの核と融合させるか決めたのだ。
 次に融合させる方法を探すことにした。
 核の状態ならば、三つを合わせれば自然にクリーチャーになる場合もあるが、その内一つはすでにクリーチャーとなっている状態だ。
 基本的には三つの核を合わせる事で誕生するクリーチャーを実質、5つ使って再誕生させるという行為になる。
 間違いがあってはいけないので、緊張が走る。
 失敗したら大変なので止めようとも思ったが、【ゆのあ】が裏歴史にある【生命コード】という裏情報を教えてくれたので、思い切ってやってみる事にした。
 【生命コード】とは生命に対する情報の事で裏の歴史では一般的に伝わっているらしい。
 結果は成功したのか、新たなクリーチャーとして【もへらへ】は生まれ変わった。
 当然、生まれ変わった【もへらへ】には名前がない。
 カノンは、
「【ゆのあ】さん。【生命コード】の事を教えてもらえなかったら、断念したかも知れない。だから、あなたのおかげでもある。よかったら、この子の名前をつけてくれないかな?」
 と言った。
 【ゆのあ】は、
「良いの、私で?」
 と聞き返したが、カノンは、
「お願い」
 と頭を下げた。
 【ゆのあ】は少し考え、
「じゃあ、お前は、【ソリー】よ。ソリイントゥスに気に入ってもらって大切にして欲しいからソリイントゥスから一部、名前をもらって【ソリー】」
 と言った。
 カノンは、
「少しの間かも知れないけど、よろしくね、【ソリー】」
 と言って喜んだ。
 こうして【放牧の里】での体験も終え、次なる立ち寄り場所を目指して、カノン達は【ソリー】を連れて旅立った。
 名残惜しそうに酪農家達に見送られた。
 やっぱりいい人達だった。
 別れが辛い。


05 禁存館(きんそんかん)


 カノン達が次に立ち寄ったのは、住民達に近寄るなと言われて居た【禁存館】だ。
 やはり、ソリイントゥスのエリアの大きな特徴であるここは、せめて遠巻きにだけでも確認して起きたかったのだ。
 ソリイントゥスとの交渉で、【禁存館】を知らないでは、笑い話にもなりそうもないからだ。
 もちろん、【解放者】達のように【禁存館】に封じられている【禁存】を解放させるつもりは全くない。
 封じられているという事は危険視されているという事なので、そんなものを解放させた日には目も当てられない。
 カノン達としては【禁存】がどのような存在でどのように封じられているか、それだけでも知っておきたいと思って居る。
 やはり、最悪の事態を想定して、安全策を用意しておかねばならないだろう。
 安全策とは、もしも【禁存】が解放されてしまった場合、カノン達に代わって封じてくれる存在を連れてくるというものだ。
 それは、【解放者】という場合も考えられるが、正統派のカノンとしてはやはり警備隊などにお願いするのが筋だろうと判断した。
 だが、普通にお願いしても断られる可能性がある。
 ならばどうする?
 そこはまた、発明だ。
 最低限の視覚情報と通信設備だけをつけた【通信玉(つうしんぎょく)】を発明し、カノン達は【飛行移動装置】で待機。
 警備隊に説明してもらうという形を取るというものだ。
 カノン達は【通信玉】の安全性を説明し、警備隊に【通信玉】を持って【禁存館】に入って説明してもらうという方法を選択した。
 後はそれをお願いする警備隊を探すだけだ。
 カノン達はコンサートを開き、発明品などを売ったりしながら、情報を集め、やってくれそうな警備隊の存在を探した。
 駄目かも知れないと思ってやっていたが、やってみるものである。
 快く引き受けてくれる存在が居た。
 警備隊をしている【ロスター】氏だ。
 彼は警備隊長をしているらしく、彼が回っている【禁存館】のレベルまでなら例え【禁存】が解放されても元に戻せる力を持っているらしい。
 彼はカノン達の事をえらく気に入ってくれて、彼女達のためならばと二つ返事で引き受けてくれた。
 【ロスター】氏の特徴と言えば、なんと言っても腕が四本生えている事だろうか。
 それだけでも普通の人間とは違う。
 更にその体には不釣り合いなほど大きな翼も生えている。
 なんとなくではあるが、人間以上の力を持っている事は想像がついた。
 【ロスター】氏は、
「感激です。自分がレディー達に案内をさせてもらえるなんて」
 と言っていた。
 カノンは、
「あ、ありがとうございます。テレパシー通信でこの玉から直接あなたの頭に声が届くようになっていますので、【禁存】の解説の方、よろしくお願いします」
 と言った。
 【ロスター】氏は、
「はい、わかりました。お任せください」
 とやる気満々だ。
 威勢が良いのは結構だが、何となくちょっと頼りない感じだなとは思いつつ、カノンと【ゆのあ】は大人の対応で、
「「よろしくお願いします」」
 と頭を下げた。
 こうして、遠隔による【禁存館】見学が決まったのだった。

 【ロスター】氏の案内で【通信玉】は【禁存館】に近づく。
 ごくっと緊張が走る。
 【禁存】が出て来てしまったら【ロスター】氏に頼るしかないのだ。
 【ロスター】氏が失敗しないようにあまり細かな指示は出せないという事でもある。
 【ロスター】氏は、
「ここが、自分達が担当する【禁存館】であります。じゃあ、入りまーす」
 と軽い口調で【禁存館】に入っていった。
 普段はチームで行動するのだが、現在はカノン達への案内のために【ロスター】氏は警護を部下に任せ、単独で行動している。
 このことが裏目に出てしまわないように【ロスター】氏には気をつけて行動してもらわねばならない。
 【ロスター】氏の説明ではこの【禁存館】に封じられている【禁存】の数は、たったの4つ。
 つまり基本的に展示物も4つしかない。
 【禁存館】としては最も小規模なものと言っても良い。
 だからといって安心は出来ない。
 封じられているのは危険な【禁存】なのだから。
 ちなみにお子様な【まめぽん】には目の毒かも知れないので【クァノン】に引率してもらって、別の場所に行ってもらっている。
 それは【光車(こうしゃ)】での旅だ。
 【光車】とは光で動く電車の様な物を指す。
 本来、第四側体クアンスティータ・レマのエリアでの特徴なのだが、変わったものが好きなクアンスティータ・ソリイントゥスと唯一無二のものが大好きなクアンスティータ・レマは趣味が似ていると言っても良い。
 なので、ソリイントゥスはレマの宇宙世界の事もチェックしていて、気に入ったものはソリイントゥス・ワールドでも取り入れる事にしているらしい。
 【光車】もその一つで、光速で移動する事で見える超絶景ポイントというのがレマ・ワールドには無数存在しているという。
 ソリイントゥス・ワールドは本来、その様な絶景ポイントは存在しないのだが、ソリイントゥスがちょこちょこ作っているようだ。
 おかげで、ソリイントゥス・ワールドには数百の【光車】が走る様になったらしい。
 トルムドア・ワールドのソリイントゥスのエリアにも【光車】は一両だけ走っているとの事なので、子供だましじゃないが【まめぽん】にはそこで楽しんで来てもらう事にしたのだ。
 レマのエリアに行けば、カノン達が乗ってきている【飛行移動装置】ごと積める大型の【光車】も走っているらしいが、ソリイントゥスのエリアのものは小型なので、住民達からそれを聞いた時、正直、どうしようかと思っていたのだ。
 ソリイントゥスのエリアの【光車】は大体二日で一回りするらしいので、それまでにカノン達は【禁存館】をある程度、把握したいと思っている。

 【ロスター】氏は【禁存館】に入った。
 【禁存館】とは名前がついているが、最も規模が小さいので、大きさとしてはごく普通の一軒家の2、3倍の大きさという小さな建物だ。
 二階建てになっていて、一階の部分はロビーのようになっている。
 一階の中央にらせん階段があり、それを昇っていくと二階に出るという作りで、二階の部分は三階分の高さがある。
 天井には巨大なシャンデリアがありそれは宙に浮いている。
 シャンデリアの上の天蓋(てんがい)の部分には大きな宗教画のような絵画があるが、それは普通の絵画だ。
 他にも二階にはロココ調の調度品を思わせるようなものが所狭しと置いてあるがそれも関係無い。
 他の調度品が飾られているのはこの規模でもたまに、関係者を集めてサロンが開かれる事もあったので、その名残りだという。
 二階の四方の壁一面に飾られた四つの大きな絵画――それが【禁存】が封じられている【封禁物(ふうきんぶつ)】と呼ばれるものだ。
 この四枚の絵画にそれぞれ、一名ずつ【禁存】が封じられている。
 ソリイントゥスのエリアの美術品などはそのまま、【禁存】を封じる道具としても使われている特別製のものが多く、絵画だけでなく、彫刻などにも封じられている場合もある。
 絵画や彫刻と一口に言っても現界で見られる絵画や彫刻とは少し違う。
 ソリイントゥスのエリアの絵画や彫刻は動くのだ。
 なので管理が必要となる。
 【禁存】を絵画や彫刻に封じた場合、更に一定の場所から動けないようにするために特別な処理をする必要がある。
 そこで、必要なのが建物などに特別な封印処理を施すという事になる。
 それは建物に限ったことではないが、最も多いのは建物型になっているため、名称が、【禁存館】という建物の様な名前になっているのだ。
 【ロスター】氏はこの【禁存館】で封じられている【禁存】の説明を始めた。
 名前を唱えると封印が解除される場合もあるので、ここでは【一枚目】、【二枚目】という表現で使っている。
 【一枚目】は混ざり合うという力を持った存在が封じられているらしい。
 誰彼かまわず混ざってしまうので、存在としての秩序が保てなくなるとして封じられているらしい。
 【二枚目】は、視線を浴びると記憶が消えてしまう力を持った存在が封じられているらしい。
 目を合わせただけで記憶がなくなってしまうというのは大変危険であると言える。
 【三枚目】は、ワープ現象を引き起こしてしまう存在が封じられているらしい。
 近づいただけで、どこかに飛ばされてしまうらしいので、普通に生活することは無理だろう。
 【四枚目】は、近づいただけで存在が溶解してしまう存在が封じられているらしい。
 そう言えば、琴太とパーティーを組んでいた賞金稼ぎの【クイーン・ハート】は髪の毛を溶解質に変化させるという力を持っていた。
 それの超危険版であるという所だろう。
 ちなみに、カノンは【クイーン・ハート】がすでに故人となっている事は知らない。
 レッド・フューチャーという未来から来た琴太チームの助っ人アリスのサイコネットを通じて琴太チームと話した時にも琴太がはっきりと自分のチームのピンチを言わなかったためだ。
 弱味を見せないというのが琴太らしいのではあるが。
 四枚の絵画に封じられている【禁存】はどれも表の世界に解放したらパニックになりそうな存在であると言えるだろう。
 だが、それで【禁存】が不自由な思いをしているというのも【禁存】側からしたら理不尽な事かも知れない。
 そんな四枚の【封禁物】を前にしてカノンが出来る事は鎮魂歌を歌う事くらいだった。
 【ロスター】氏が持っている【通信玉】の音声をオンにしてもらって、カノンは【ゆのあ】と共に歌った。
 それを聴いたからか、それまで、【禁存館】に漂っていた禍々しい雰囲気がいくらか緩んだ気がした。
 だからといって、封印が解かれるという事にはならないのだが、それでも少しは気が晴れたのかも知れない。
 【ロスター】氏は、他にも【禁存館】の成り立ちや、他の【禁存館】などの軽い情報なども話してくれた。
 やはり、本家本元のソリイントゥス・ワールドよりも遙かに規模は小さいが、それでもこのソリイントゥスのエリアには数え切れないくらいの【禁存館】が点在する事もわかった。
 他にも【解放者】達の主張や対立の事なども聞かせてくれた。
 それに対する【ロスター】氏の考えなども詳しく聞かせてもらった。
 最初は頼りない雰囲気だったが、やはり隊長をしているだけあって、【ロスター】氏の考えはそれなりにしっかりしていた。
 やはり、【禁存館】を知っておいて正解だったとカノン達は思った。
 【禁存館】の事を知らずにソリイントゥスとの【コンタクト・ポイント】に行っても何しに来たと思われるのが関の山だっただろう。
 危険だからと言って避けてばかりは居られないという事だ。
 危険でも何かしらのコンタクトの仕方を模索していけば、それなりになんとかなるものだと言うことでもある。
 【ロスター】氏の説明は的確だったので、思いの外、早く【禁存館】見学を終えたカノン達は【まめぽん】達が帰って来た時のために、ごちそうを用意して待つことにした。
 少しして戻って来た【まめぽん】は、
「凄かったタヌ。みんなにも見せたかったタヌ」
 と興奮気味だった。
 カノン達もレマのエリアに行ったら是非【光車】に乗ってみようと思うのだった。
 【まめぽん】達も合流した事で、カノン達も次へ進む事にした。
 【ロスター】氏にはお礼に作ったクッキーをプレゼントした。
 【ロスター】氏は頬を赤らめ、
「また、何かあったら協力しますんで」
 と言って喜んだ。


06 混価(こんか)


 カノン達はソリイントゥスとの【コンタクト・ポイント】に行く前に、もう一カ所立ち寄る事にした。
 それは、【混価(こんか)】と呼ばれる伝統工芸を体験するためだ。
 【混価】とは一体何なのか?
 それは、地球で言えば陶芸やガラス工芸がイメージに近いと言えるだろう。
 【混価】は焼いたりなどはしないが、工芸品を作るという点では共通している。
 例を挙げれば、Aという物質とBという物質があったとする。
 Aは粘土のように形をこねくり回して作るものであり、Bという物質はドロドロしている水飴のようなものだとする。
 AとBは単独ではそれぞれの性質を持っているがAとBの物質が混ざり合うと一瞬、もしくは時間をかけてCという物質になり固まる。
 そのCという物質を工芸品として作る技術の事を言う。
 化学を利用した工芸というものだ。
 混ぜる事で価値ある工芸品になる事から混ぜるの【混】と価値の【価】を合わせて【混価】と呼ばれる伝統工芸となる。
 これには正しい化学の知識が必要とされ免許を取得しないと作る事が出来ない。
 カノンはこれでもセカンド・アースの時、いろいろな免許を取得していた。
 発明をするのに資格が必要なものもあり、それで何となく取得していったのだ。
 カノンはソリイントゥスのエリアでも資格を取って作って見ようと思ったのだ。
 その作った物をソリイントゥスにプレゼントするつもりでだ。
 トルムドア・ワールドの中なので、現界とは時間の流れが違うので軽い気持ちで【混価】の資格を取得するための勉強会に参加し、受験料を払って試験を受けて合格した。
 この間、トルムドア・ワールドの時間でたったの一週間だった。
 カノンは元々、天才プリンセスと呼ばれていたので、この程度の事は朝飯前だった。
 彼女にとっては当たり前の事だったのだが、間近で見ていた【ゆのあ】は、
「す、すごいね。あっという間に資格とっちゃったね……」
 と驚いていた。
 カノンはそれを聞いて、
「あ、ありがとう。でも化学の知識は元々あったし、覚える事はそれほど多く無かったから……」
 と謙遜した。
 この言葉は言う人によっては嫌味に聞こえるのだが、根がまじめで一生懸命な彼女に言われると嫌味には聞こえなかった。
 【ゆのあ】は、
「何を作るの?」
 と聞いた。
 カノンは、
「【変わったもの】をテーマに何かを作ろうと思って。ソリイントゥスちゃんは変わったものが好きみたいなので……」
 と答えた。
 【まめぽん】が、
「おいらもつくりたいタヌ」
 と言った。
 だが、これは資格が居る作業だ。
 カノンは、
「ごめんね、【まめぽん】ちゃん。危ない作業だから、資格を取らないと出来ない作業みたいなのよ。でもね、【混ぜる】事は出来なくても、物質単独で捏ねたり、何かを形作ったりは出来るからそっちを手伝ってもらえるかな?」
 とやんわりと【まめぽん】でも出来る作業を伝えた。
 それを聞いた【ゆのあ】も、
「私も手伝っても良いかな?」
 と聞いてきた。
 カノンは、
「お願いしてもらっても良い?じゃあ、これから作るのは三人の合作ってことで」
 と言った。
 【まめぽん】が、
「【合作】って何タヌ?」
 と聞いてきた。
 カノンは、
「一緒に作るってことだよ。三人で一緒に作りましょうってお話」
 と言った。
 【まめぽん】は、
「一緒に作るタヌぅ〜」
 と言ってはしゃいだ。
 こうして、【混価】体験も済ませたのだった。
 寄れるところはだいたい寄ったので、次はいよいよ、ソリイントゥスとの【コンタクト・ポイント】に向かう事にしたのだった。


07 クアンスティータ・ソリイントゥスとの【コンタクト・ポイント】


 カノン達は、【飛行移動装置】に乗り込み、先を急いだ。
 そして、ついに、第二側体クアンスティータ・ソリイントゥスとの【コンタクト・ポイント】にまでたどり着いたのだった。
 【コンタクト・ポイント】にあるのはやはり、トルムドアのエリアの時と同様に巨大な胸像だった。
 胸像の顔はソリイントゥスを表しているのか、トルムドアのものと異なっている。
 トルムドアの巨大胸像はカノンそっくりだったが、ソリイントゥスの巨大胸像の髪型は短めのツインテールになっていた。
 カノン達は【飛行移動装置】を降りて、ソリイントゥスの巨大胸像と向き合う。
 向き合うと言っても胸像は大きいので、目線が合うように、少し離れた位置ではあるのだが。
 カノンは、
「初めまして、クアンスティータ・ソリイントゥスさん。トルムドアちゃんの事は【ちゃん】付けで話しているからあなたの事もソリイントゥスちゃんでいいかな?――なれなれしいかな?」
 と話しかけた。
 すると、ソリイントゥスの胸像の目が光り、
「良いよ、別に――でもボクチンは、【ただもの】には用は無いよ。変わったものとか持ってる?」
 と聞いてきた。
 恐らく普通の人間ですと言って近づいていたら処分されていたかも知れない。
 ソリイントゥスは自分の事を【ボクチン】と言うのかとカノン達は思った。
 カノンは、
「この子は【ソリー】って言います。私なりに品種配合してみたのですが」
 と言って、【放牧の里】でレア・クリーチャーに更に二つの核を混ぜて誕生させた五核で出来たレア・クリーチャー【ソリー】を連れてきた。
 本来であれば、【放牧の里】で主従契約を結び、カノンのペットなどとしても良かったのだが、あえてそれはしなかった。
 ソリイントゥスが気に入れば、ソリイントゥスのペットとしてかわいがってもらっても良いと思っていたからだ。
 そのため、ソリイントゥスから名前を一部拝借して【ソリー】と名付けたのだ。
 ソリイントゥスが気に入らなければ、カノンが責任を持って引き取るつもりでいた。
 ソリイントゥスの反応は――
「ふぅん……まぁ、特に変わっているとは言えないけど、見ない種類だね。この子、くれるの?」
 との返事が返って来た。
 カノンは、
「かわいがってもらえるのであれば……」
 と言った。
 ソリイントゥスと言えども虐待するというのであれば、渡す訳には行かない。
 生き物なのだから、責任を持ってもらわなければならない。
 ソリイントゥスは、
「うん、良いよ。この子はソリイントゥス・ワールドが引き取るよ」
 と言った。
 口調からすると少し喜んだようだ。
 反応はまずまずだ。
 さて、この後はどうするか?
 カノン達がソリイントゥスのエリアで体感してきた事などの会話から入って、【混価】で作った工芸品をもう一つの贈り物として――などと会話を組み立てていると、【ゆのあ】が、
「【カノン】さん、私にもしゃべらせてもらって良いかな?」
 と言ってきた。
 ――そう、今まではカノンが主体となって話をしてきたが、交渉権は【ゆのあ】にもあるのだ。
 カノンは、
「ご、ごめん、【ゆのあ】さん、じゃあ、どうぞ」
 と譲った。
 ここからが【ゆのあ】の交渉術となる。
 カノンがこれまでソリイントゥスのエリアで体感したことなどを元に【共感】というスタイルで話しを進めるのに対し、【ゆのあ】は自身が体験してきた珍しい話などをして、相手を楽しませるタイプの交渉術をしていた。
 カノンがここへ来る前に会話の素材を探していたのに対し、【ゆのあ】はあまりそれには積極的とは言えなかったのは彼女には元々、会話の話題となる元ネタをたくさん持っていたからだったのだ。
 それは、カノンから見ても興味が惹かれる話だった。
 【ゆのあ】は主に、現界の裏歴史の話をしているのだが、表の歴史にはない裏の歴史の常識や秘密などを面白おかしく話して聞かせた。
 吟遊詩人である彼女の話はとてもうまかった。
 変わったものが大好きなソリイントゥスもみるみる【ゆのあ】の話に引き込まれて言った。
 カノンの方はソリイントゥスのエリアにあるものの中から話題を探していたのに対して、【ゆのあ】は外から話題を持ってきていた。
 これを勝負とすれば、【ゆのあ】の方に軍配が上がるだろう。
 実際に、ソリイントゥスも
「良いね、良いね、君、良いね」
 と大層お気に入りのご様子だった。
 後で聞いたことだが、【ゆのあ】はこの会話術もクアンスティータに気に入られた理由の一つとの事だった。
 そう言えば、トルムドアにとってカノンは【母親】のような立場だったのに対して、【ゆのあ】は【お友達】的立場だった。
 どちらが上とは言えないが、やはり、【ゆのあ】は一緒に居て楽しいと思われているようだ。
 【ゆのあ】の話を元に、クアンスティータ達の所有する宇宙世界もまた広がりを見せるだろう。
 そういう意味でも【ゆのあ】との会話は、有意義な会話であり、貴重な人材であるとも言える。
 【ゆのあ】はカノンの事を凄いと思い、そう彼女に伝えてきたが、カノンにとっても【ゆのあ】は凄いと思える存在だった。
 カノンも【ゆのあ】に負けじと現界の表の歴史の事を話し出した。
 だが、【ゆのあ】の話に比べると多少、面白味が欠ける話になった。
 だが、それでも、珍しい話をしていたので、ソリイントゥスには、
「うん。まぁ、なかなかなんじゃないかな」
 くらいの感想はもらえた。
 カノンと【ゆのあ】の会話で大分、ソリイントゥスの巨大胸像とも打ち解けてきた。
 後は本題となる話題をするだけだ。
 では、本題とは何か?
 カノンとしては、みんなで歌を歌ってみたいと思っている。
 トルムドアには【クァノン】をもらった。
 ソリイントゥスにも何か、歌うための要員を出してもらって、17の側体クアンスティータ全てに出会った後で、最後にみんなで歌って見ようと思っているのだ。
 一緒に歌えば絆も深まるのではないかと思っての案だ。
それを聞いたソリイントゥスは
「うーん……」
 と少し考える。
 そして、
「なんか生き物とか飼ってる?それを擬人化させてあげるよ。それがボクチンからのプレゼントっていうのはどう?」
 と言ってきた。
 生き物と言えば、【ミューズ・アニマル ピア】をトルムドア・ワールドに連れてきては居るが――
 カノンが迷っていると主人のためと言わんばかりに、【ピア】はソリイントゥスの巨大胸像の前に立った。
 カノンが、
「あ……」
 と言った。
 どうしたら良いのかわからないからだ。
 【ピア】が【ピア】で無くなってしまうのではないかという恐怖もあった。
 ソリイントゥスの巨大胸像は、
「主人思いだね、お前。大丈夫、怖く無いよ。ほら、すぐ終わった」
 と言った。
 すると、【ピア】の姿が獣人のようになった。
 ソリイントゥスは、
「元の姿にも戻れるよ。変身能力を付与しただけだからさ」
 と言った。
 カノンは、
「そ、そうなの?」
 と聞いたが、ソリイントゥスは、
「踊るだけじゃ物足りないでしょ。その【ピア】っていうのは歌う事も出来るはずだよ」
 と答えた。
 それに回答するように、【ピア】は、
「♪ラーラララーラララララー♪」
 と軽く歌って見せた。
 カノンは、
「凄い、凄い、ありがとう、ソリイントゥスちゃん」
 とお礼を言った。
 ソリイントゥスは、
「良いよ、良いよ、カノンママ、楽しませてもらったほんのお礼だよ」
 と言った。
 なんだか照れくさそうだった。
 トルムドアがカノンの事を【カノンママ】と呼んでいると聞いて、ソリイントゥスもそう呼ぶ事にしたらしい。
 これで、トルムドアに続いて、ソリイントゥスとも仲良くなることが出来たカノン達は次の側体、第三側体のクアンスティータ・ファムトゥのエリアを目指す事になった。
「ソリイントゥスちゃん……」(カノン)
「何かなカノンママ?」(ソリイントゥス)
「私達は次のエリアに進もうと思うんだけど、ファムトゥちゃんについて知っている事があったら教えてくれないかな?」(カノン)
「何でも良いんだけどね。ちょっとしたことでも」(【ゆのあ】)
「そうだなぁ……戦闘狂だからバトルは避けられないかもね」(ソリイントゥス)
「「え、ば、バトル?」」(カノン&【ゆのあ】)
「大丈夫、ちゃんと手加減してくれると思うよ。戦うのが趣味ってだけだから。バトル抜きにファムトゥのエリアは進めないんじゃないかな?」(ソリイントゥス)
「ちょ、ちょっと怖い……かな……」(【ゆのあ】)
「そ、そうね。話し合いじゃ駄目なのかな?」(カノン)
「どちらかっていうと拳で語る方が好きみたいだよ」(ソリイントゥス)
「こ、困ったな……」(カノン)
「話せばわかるってタイプじゃないってことだよね?」(【ゆのあ】)
「大丈夫タヌ、おいらがついてるタヌ」(【まめぽん】)
 【まめぽん】がついていてもどうにもならないとは思うが、
「そ、そうだね、ありがとう【まめぽん】ちゃん」(カノン)
「さ、サンキュー」(【ゆのあ】)
 というのが精一杯だった。
 力がものを言うというのはカノンにとっても【ゆのあ】にとっても専門外と言えた。
 どうするのか不安を抱えたまま、ソリイントゥスの巨大胸像と別れを告げ、次のファムトゥのエリアへと向かうのだった。


続く。









登場キャラクター説明

001 カノン・アナリーゼ・メロディアス
カノン・アナリーゼ・メロディアス
 001 カノン・アナリーゼ・メロディアス

 アクア編の主人公で、ファーブラ・フィクタのメインヒロイン。
 メロディアス王家の第七王女にして、発明女王兼歌姫でもあるスーパープリンセス。
 恋人の吟侍(ぎんじ)とは彼女が女神御(めがみ)セラピアの化身であるため、同じ星での冒険が出来なかった。
 基本的に無法者とされる絶対者・アブソルーターを相手に交渉で人助けをしようという無謀な行動をする事にした。
 発明と歌、交渉を駆使して、攫われた友達救出作戦を実行する。
 歌優(かゆう)という新職業に就くことになったり、惑星アクアを救ったりして活躍し、惑星アクアにとっては英雄扱いを受けるようになる。
 惑星アクアからトルムドア・ワールドに連れて来られ、それぞれの側体クアンスティータとの交渉をすることになる。
 【奉崇歌(ほうすうか)】の基礎を学んでいる。
 今回は【似面(じめん)】や【混価(こんか)】など、未体験を体験することになる。


002 クアンスティータ・トルムドア
クアンスティータ・トルムドア
 誰もが恐れる最強の化獣(ばけもの)。
 その第一側体。
 第一本体、クアンスティータ・セレークトゥースの従属にあたり、カノンから生体データを抽出して、他のクアンスティータに送ったのはこのクアンスティータ。
 トルムドア・ワールドという宇宙世界を所有している。
 トルムドア・ワールドにあるそれぞれの側体との【コンタクト・ポイント】を目指そうとするカノンを心配して、キャラメルの様な謎の箱(16個入り)のお守りを彼女に届ける。
 カノンにとっては娘、【ゆのあ】にとっては友達の様な関係となっている。


003 クァノン
クァノン
 クアンスティータ・トルムドアがカノンにプレゼントしたハーフバーチャルボディでカノンの意のままに動く複合多重生命体の元の様なもの。
 カノンに少し似ているが足元まで伸びる長いお下げ髪が特徴。
 クァノンの登場により、その場に居なくともカノンの歌を届ける事が出来る様になった。


004 オーケストラコーラスダンサロイド アリア
アリア
 カノンの歌のサポートをするアンドロイドの一号機。


005 オーケストラコーラスダンサロイド オペレッタ
オペレッタ
 カノンの歌のサポートをするアンドロイドの二号機。


006 オーケストラコーラスダンサロイド リート
リート
 カノンの歌のサポートをするアンドロイドの三号機。





























007 ミューズ・アニマル ピア
ピア獣人バージョン
 カノンの歌のサポートをする生物。今回、ソリイントゥスの巨大胸像の力で獣人のような姿に変身する事が出来るようになり、歌う事も出来るようになった。


008 まめぽん
まめぽん
 冒険に出る前に吟侍がカノンに送ったぬいぐるみ。
 行方不明だったが、クアンスティータの公式キャラクターとして、生命を得ていた。
 吟侍と同じ様に一人称が【おいら】である。
 語尾に【タヌ】もつく。
 強者とは無関係な小動物。


009 沖椰子 ゆのあ(おきやし ゆのあ)
沖椰子 ゆのあ
 トルムドア・ワールドでカノンと出会った現界の裏歴史出身の吟遊詩人であり、歴史学者でもある少女。
 裏歴史においてカノンと同じようにクアンスティータ・トルムドアに認められ、招かれている。
 元々、二重構造になっているトルムドア・ワールドの裏側で招かれていたが、カノンが招かれた表側に迷い込んでカノンと出会う事になった。
 その後は意気投合したカノンと行動を共にすることになる。
 研究テーマはクアンスティータであり、クアンスティータの事をよく知ろうとする。


010 ソリー
レア・クリーチャーソリー
 カノンがソリイントゥスのエリアの【放牧の里】で品種配合したレア・クリーチャー。
 元々は【もへらへ】というレア・クリーチャーだったが、更に二つの核と融合させて五核によるレア・クリーチャーとなった。
 ソリイントゥスに気に入られ、ソリイントゥス・ワールドに引き取られる事になった。

















011 ロスター
ロスター
 カノン達が【禁存館】を案内してもらった警備隊の隊長。
 四本腕にその体には不釣り合いなほど大きな翼を持った種族。
 頼りない印象だったが、意外と考えはしっかりしていた。
 女の子には甘い性格。















012 巨大胸像ソリイントゥス
巨大胸像ソリイントゥス
 クアンスティータ・ソリイントゥスとのコンタクト・ポイントに設置してあるソリイントゥスの顔に似せた巨大な胸像。
 これにはソリイントゥスが意識を飛ばして話す事が出来る。
 また、転送も可能で、カノンがプレゼントした【ソリー】をソリイントゥス・ワールドに引き取っている。
 目が光る事で会話が可能となる。
 これは、第十三側体クアンスティータ・ヒアトリスの姿からヒントを得ている。
 一人称は【ボクチン】、カノンの事は【カノンママ】、【ゆのあ】の事は【ゆのあちゃん】と呼ぶ。