第004話 オリウァンコ編その5

アクア編挿絵動画004−05

01 クアンスティータとは……


「あ、まめぽんちゃん、お口、ついてるよ」
 カノン・アナリーゼ・メロディアスはパフェをほおばるまめぽんのぬいぐるみの口を拭いてあげた。
 まめぽんは、
「ありがとうタヌ」
 とお礼を言った。
 まめぽんはぬいぐるみだが、このトルムドア・ワールドという宇宙世界を支配する第一側体(クアンスティータ・)トルムドアにより命を与えられているため、動く事も喋る事も出来るのだ。
 それを見ていたトルムドアが
「カノンママ、私も私もぉ〜」
 と口を拭いてもらおうとした。
 カノンは、
「トルムドアちゃんは甘えんぼさんですねぇ。はい、取れたよ」
 と言った。
 トルムドアは、
「ありがとう、カノンママ」
 とお礼を言った。
 それを見た清依 美架(きよい みか)は
「こうして見ていると家族みたいですね」
 と言った。
 確かに、端から見ると家族が仲良く食事しているようにも見えた。
 だが、カノンにとっての本番はこれからだ。
 トルムドアの事を話して貰わなければならない。
 クアンスティータという存在を知る意味でもだ。

 カノンは、自分が知っているクアンスティータの事を話した。
 伝説ではクアンスティータとは7つの本体と17の側体の合計24の身体を持つとされていると言ったが、それをトルムドアは否定した。
「違うよ、カノンママ。クアンスティータは元々10の本体と24の側体を持つポテンシャルを持って生まれてくるはずだったんだよ」
 と。
 もう少し詳しく聞いてみると、どうやら、クアンスティータは元々10の本体を持って生まれてくるはずだったが、7番目の本体、クアンスティータ・テレメ・デの力があまりにも大きすぎて8番目以降のクアンスティータが産まれにくくなったため、7番目で区切ったという。
 そして、テレメ・デ以降、産まれるはずだった3核の本体は仮の身体を与えられ、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界セレークトゥース・ワールドにしまわれたというのだ。
 本当は内緒の話らしいのだが、カノンは特別だと更に話してくれた。
 実は、仮の身体となった第8本体から第10本体には別の名前が与えられていて、本来の力を持っている身体は第11本体から第13本体として、別の所に保管されているという話も話してくれた。
 これによると第8本体と第11本体、第9本体と第12本体、第10本体と第13本体は同じ代表的な力を持っているという事になる。
 また、第18側体から第24側体までの側体クアンスティータも動くことがないとされる第8〜第10(第11〜第13も含む)本体を守るために存在しているので、出現しないという事になっているらしい。
 現実世界には、現れない本体と側体が存在するという事もカノンは初めて知ることが出来た。
 それだけでも、クアンスティータの事はまだ、一部しか知られていないのだと思った。
 また、クアンスティータ自身の誕生のバランスを崩した第七本体クアンスティータ・テレメ・デという存在が如何に巨大な力を持っているかも再確認した。
 第十二側体から第十七側体まではこの(クアンスティータ・)テレメ・デを眠らせるために存在しているらしい。
 そのようなトルムドアの話を聞いていると、同じクアンスティータでも意見がバラバラに分かれている印象を受けたカノンは同じ存在なのだから、せめて、気持ちを一つに出来ないかという事を持ちかけた。
 側体が本体の保護、サポート、監視、封印を目的としているのであれば、その側体達の意見を統一する事は出来ないかと考えたカノンは、全ての側体とコンタクトを取れないかとトルムドアに聞いて見た。
 するとトルムドアは元々、カノンの生体データを他のクアンスティータに送っていた関係で、全ての側体とアクセスする事が出来るという事を言っていたが、
「危ないよぉ〜カノンママ」
 と心配した。
 トルムドアが言うには、このトルムドア・ワールドに各側体クアンスティータとアクセス出来るポイントがそれぞれ点在するらしいが、それはトルムドアにとっても管轄外となっているらしい。
 トルムドア・ワールドがカノンにとって安全なのは、それはトルムドアの目が届いているからだ。
 メインストリートから外れると所有者であるトルムドアの目も届かなくなる。
 カノンにとって危険な存在が現れないとも限らない事を心配しているのだ。
 だが、他の宇宙世界に行かずともこのトルムドア・ワールドの中で全ての側体とコンタクトが取れるというのであれば、カノンにとっては都合が良いという事でもある。
 カノンとしても退くわけには行かない事だった。
 カノンは次の目標が決まった。

 また、カノンはトルムドアとの会話から、クアンスティータは宇宙という単位では収まりきらない存在だという事も知った。
 トルムドアにとっては雑談のつもりで話しているのだが、カノン独自の測定法で聞いてみると、クアンスティータの所有する宇宙世界はどれも他の宇宙世界よりも遙かに大きい事が解った。
 だが、そのクアンスティータの宇宙世界もそれぞれのクアンスティータにとっては自分の部屋の様な物の感覚で捉えていた。
 つまり、クアンスティータの所有する宇宙世界よりも大きな単位が存在するという事でもあった。
 世界他外(せかいたがい)――無限にあった宇宙を包み込むもっと大きな単位をそう呼んでいた。
 さらにその上の単位も存在し、それを偉唯位場(いゆいば)と呼び、その更に上を何抜違至(かぬいし)と呼び、クアンスティータはそれぞれ24ずつ所有しているというのだ。
 クアンスティータと関わると更に上の表現がどんどん顔を出してくる――これはその内の一つと言えた。
 発想が、宇宙など、遙かに大きく飛び越えてしまっている。
 トルムドアに聞かなければ、人間の知識では決してたどり着かない領域と言えた。
 クアンスティータは思っていたよりも更に奥深い存在で有ることを再確認した。
 化獣(ばけもの)と言えば恋人である芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の心臓にもなっている7番の化獣ルフォスやカノンにストーカーをしていた8番の化獣オリウァンコなどを知っているが、明らかに別格どころか全くの別の存在と言える化獣であると言う感じがした。
 トルムドアはただの世間話をするかの様に話しているのだが、話している内容が飛び抜けすぎていて、カノンの想像力を遙かに上回っていた。

 そんな、トルムドアが支配するトルムドア・ワールドでの冒険はまだ始まったばかりだった。


02 ユリシーズ・ホメロスVS八化身 陰陽


 七英雄達は、救出班のリーダーであるカノンとは別の時間軸で動いていた。
 8番の化獣オリウァンコの刺客を次々と各個撃破していき、ついにオリウァンコまで、後1名、八化身最強の陰陽(いんよう)を残すのみとなった。
 後、1名とは言っても陰陽は元々、2名の存在が一つになった者でもある。
 オリウァンコの化身体の力を使いこなしていなかった他の7名の八化身とは別格の実力者だ。
 油断は出来なかった。
 対する七英雄達の方は、全員無事に残っていたが、リーダーのユリシーズが一人で戦うと宣言しているので、他の七英雄達は、戦いを見守るという形を取る。
 例え、ユリシーズがやられるような事があっても手出し無用。
 それが、1対1での勝負を持ちかけているオリウァンコの刺客達に対する返礼だった。
 タイマン――それが絶対条件となる。
 加勢してもらう事になるくらいなら死んだ方がまし――それがユリシーズの強い気持ちだった。
 陰陽の力はこれまでの八化身と違い、2つあった。
 1つは、臣下の衣装という。
 無数に飛び回っている衣装は存在であれ、物であれかまわず着せると、たちまち陰陽の配下となって動き出すという力だ。
 これは、同じ八化身のマーラードの所有者の判子を強力にしたような力だ。
 所有者の判子は判子を押した相手の部位を操るだけだったが、これは着た者や物が強制的に陰陽の支配下となる。
 もう1つは、六属性の面と呼ばれる力だ。
 これはエネルギーを放出して敵にダメージを与えるというエネルギー弾を放出する力だが、弾となっている部分が立方体の様になっていて、それぞれ、土、水、火、風、光、闇の六属性となっている。
 その面は常に回転しており、どの属性の部位が相手に当たるか解らない。
 例えば水に対する耐性を持っている相手でも火の属性に当たったらダメージを受けるというものだ。
 どの面が当たるか全くわからないから、ユリシーズには防ぎようがない。
 中には全く逆の属性もあるのだから、当たり所が悪ければ大ダメージとなるのだ。

 対するユリシーズは5つの力を有している。
 1つ目はユリシーズの身体に見え隠れしている動き回るタトゥーだ。
 これは、ユリシーズの身体を飛びだして攻撃する事もできる。
 2つ目は反物質の盾だ。
 通常の物質とは反対の性質を持つ反物質で出来ている盾なので、攻撃が対消滅したり、相手を消滅させたりすることが出来る力だ。
 3つ目はトリックアートトラップだ。
 これは、だまし絵の様に見た目とは違ったトラップを仕掛けることが出来る力でもある。
 4つ目はセカンド・サイトの悪鬼だ。
 これは、出せるのが悪鬼という事ではなく、ユリシーズが見ている間はユリシーズが考えた存在を視界の許す限り、作り出すことが出来るという力だ。
 5つ目は、七化身だ。
 オリウァンコの化身体と同じ様に、ユリシーズも化身体としての力を持っている。
 パターンが7つ存在しているために七化身と呼ばれているのだ。

 お互いが、相手に対する必殺の威力を持つ者同士の激突となる。
 ユリシーズは初めて構えた。
 今までユリシーズはオリウァンコの刺客達に対して構えはろくにとってこなかった。
 とらずとも勝てる相手とばかり戦ってきたからだ。
 だが、今回は違う。
 構えをとった。
 それだけ、陰陽の実力が他の八化身を大きく凌駕しているという事でもあった。
 しばらくじっと相手の出方を窺う両者。
 だが、突然両者動き出す。
 双方、相手の出方を待つよりも自分から戦況に変化を与えようと思ったからだ。
 陰陽が臣下の衣装を使って、複数の配下を作り出すと、ユリシーズはセカンド・サイトの悪鬼の力を使って、イメージ状の怪物を数体作り出す。
 それぞれの配下がぶつかりあう。
 もの凄い乱戦となる。
 潰し潰され、また潰しと、見るからに凄惨な戦いとなっていった。
 配下の数が減ってもまた増やして、戦線に出すという事の繰り返しだった。
 勝負は互角のようにも思えたが、僅かに陰陽の方が押していた。
 それは、セカンド・サイトの悪鬼がユリシーズの視界に収まっていなければならないというのが理由だ。
 人の視界は360度開けている訳ではないので、ユリシーズの視界から漏れた敵の先兵は攻撃対象から外れてしまう。
 また、ユリシーズはずっと見続けている訳にも行かない。
 人の身である以上、瞬きが必要となる。
 その瞬きの一瞬の間、セカンド・サイトの悪鬼は消える事になる。
 その消えた一瞬の隙をついて、陰陽の配下はユリシーズとの間合いを詰めてくるので、ユリシーズはその分、退いて間合いを取り直す必要があった。
 異能力の制限による不利――臣下の衣装とセカンド・サイトの悪鬼について言えば、それは適用された。
 どうしても、ユリシーズに攻撃が届いて来た配下は別の力、反物質の盾で攻撃を防ぎつつ、消滅させるという事になった。
 戦況はユリシーズが僅かに押されていると見られる。
 さすが、オリウァンコの刺客最後の砦と言ったところだろう。
 だが、陰陽にいつまでもかまっている場合ではない。
 その後にはオリウァンコとの決戦が待っているのだから。
 何とかしたいが、陰陽は強い。
 オリウァンコの化身体のエネルギーを臣下の衣装にも送り込んでいて、その衣装を着た配下達はそれぞれが変身、変貌を遂げて、パワーなどを増強させて襲ってくる。
 変身、変貌と言えば、オリウァンコを現す言葉でもある。
 敵がより強大に変身してくるという事がオリウァンコの化身体を使いこなしている何よりの証拠だった。
 敵が化身体の力も使ってくる以上、ユリシーズも化身体の力を使うしかない。
 ユリシーズは、赤の化身体の力を使う事にした。
 怒りの化身、全身真っ赤なユリシーズが出現し、元のユリシーズは異空間に消えた。
 これからは、ユリシーズの化身体がオリウァンコの化身体と完全融合を果たした陰陽と激突する事になる。
 ユリシーズは、
「行くぜ、おらぁ〜」
 と言って、突っ込んでいった。
 明らかに今までのユリシーズとはスピードもパワーも違う。
 人間を遙かに超えた動きをした。
 対する陰陽も化身体の力を100%解放して迎え撃つ。
 力と力、技と技、スピードとスピード、体力と体力……の勝負となった。
 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……
 という音が響いていたが、その内、音も響かなくなった。
 音速から光速へとシフトして行ったのだ。
 次に両者が見えた瞬間、結着は着いていた。
 ユリシーズの拳が、陰陽の胸を貫いていたのだ。
 陰陽は、
「む、無念……」
 と言って、息絶えた。
 ユリシーズは、
「てめぇの敗因は使える主を間違えたんだよ」
 と言った。
 ここで果てさせるのは勿体ないくらいの実力者だったと認めたのだ。
 ユリシーズにとっては最大の賛辞と言えた。
 大激闘になったが、ようやく結着した。
 残すは、オリウァンコだ。
 まだ、オリウァンコにはたくさんの配下は存在しているが、八化身と比べると遙かに劣る。
 烏合の衆と言っても良い連中ばかりだ。
 オリウァンコはクアンスティータに認められるために配下は1対1ずつでしか戦わせられない。
 陰陽ですら勝てなかったユリシーズに勝てる者など、オリウァンコの勢力、配下には存在しなかった。
 ユリシーズ達七英雄達はオリウァンコの精鋭達を全て撃破した事になる。

 続けてユリシーズは、
「後は、オリウァンコ、てめぇの首を取るだけだ」
 と言った。
 それを遠方で聞いていたオリウァンコは、
「図に乗るなよ、人間風情が……」
 とどす黒い本性をむき出しにして小声で言った。
 それを近くで見ていた人質となっているシアン・マゼンタ・イエローとパスト・フューチャーは嫌悪感を抱いた。
 カノンの偽者、ダミーカノンもシアンやパストに合わせて嫌悪感を抱いた表情をしたが、こういう時の場合、本物のカノンがどういう表情をするか解らなかったので、とりあえず合わせた感じになっていた。
 ユリシーズ達は息を整え、オリウァンコの元に歩いて行く。
 オリウァンコは迎え撃つつもりのようだ。
 対オリウァンコ戦の最終決戦が始まろうとしていた。


03 トルムドア・ワールドにて……


 ユリシーズ達がオリウァンコとの戦いを残すのみとなった時もカノンはその状況を知らなかった。
 カノンはまた、別の宇宙世界であるトルムドア・ワールドで別の行動を取ろうとしていたからだ。
 トルムドア・ワールドには側体達とコンタクトを取れるポイントが24カ所ある。
 それは側体の数と同じだ。
 だが、機能しているのはその内の17カ所だ。
 他の7カ所は第18側体から第24側体までが出現するまで機能しない。
 カノンは機能している17カ所のポイントを回る事にした。
 その内、1カ所はトルムドアとのコンタクトポイントなのだが、他の側体と条件を合わせる意味でもあえて回る事にした。
 トルムドアにはメインストリートエリアに残ってもらって、カノンがトルムドアとのコンタクトポイントにたどり着くのを待ってもらう事にした。
 トルムドアは、
「やだやだやだぁ〜私も行くぅ〜」
 と駄々をこねたが、カノンとしては他の側体とのコンタクトを練習する意味でもまずは、トルムドアとのコンタクトポイントでトルムドアと話したいと思っている。
 なので、ついてきてもらったら練習にならないのだ。
 また、トルムドアを従えての他の側体との交渉はどんなマイナスポイントになるか解らない。
 トルムドアと敵対している可能性だってあるのだから。
 だからこそ、トルムドアにはお留守番をしていて貰いたいのだが、ぐずったので、少しの間、トルムドアの好きな所を周り、それで、しばらく待って貰おうと思った。
 トルムドアはあんまり納得していなかったようだが、大好きな【カノンママ】のためだからという事で渋々、了承するのだった。
 とりあえず、出発を決めたトルムドア・ワールドの基準時間での2週間後までにトルムドアをある程度満足させなければならない。
 カノンの事が好きで好きでたまらなくてトルムドア・ワールドに連れてきたトルムドアに対してついて来るなというのは酷な話ではあるが、カノンとしては全ての側体と仲良くしたいと思っている。
 トルムドアだけにかまっている事は出来ないのだ。
 カノンとしてもトルムドアと離れるのは寂しいし、不安でもあるが、それは涙を飲んで、お互いが我慢しようという事になった。
 2週間後には離ればなれになってしまうという事になって、トルムドアは必死でカノンとの思い出を作ろうと思った。
 そのため、出発前の2週間のスケジュールはびっしり埋まっていた。
 カノンとしては、疲れを残したくないというのが本音だったのだが、もてなそうとするトルムドアの態度にそれは困るとは言えなかった。
 ただ、大切に思ってくれているという事を受け止め、トルムドアのサプライズにありがたい気持ちで付き合うのだった。
 最初の三日間はパーティーだった。
 王族でもあるカノンにとってパーティーというのは珍しい事ではないが、王族では無く強者が開くパーティーというのは初めての参加だった。
 招待客はカノンなど瞬殺出来る力を有した存在が殆どだ。
 みんな、現界にくれば、間違いなく、勢力図を書き換えるようなとんでもない力を持った者達だ。
 その強者達がカノンに対して、心から頭を垂れている。
 それはトルムドアによる絶対統制がしっかりしているという事の証明でもある。
 カノンに頭を下げているのは言ってみればカノンを通してトルムドアに頭を下げているという事でもある。
 カノンは、
「頭を上げてください。私はそういうつもりはありません。パーティーなんですから皆さん、楽しく過ごしましょう」
 と言ったが、招待客達は一斉にトルムドアを見た。
 いくらカノンが許可してもトルムドアが許可しなければ羽目など外せない。
 トルムドアは、
「カノンママの言うとおり。楽しくなきゃパーティーじゃないよ。みんな、今日はぶれーこーってやつだよ。さぁ、楽しもう」
 と言った。
 その言葉を切っ掛けに、招待客達は、騒ぎ出した。
 このパーティーは楽しくがルール。
 楽しまなくてはルール違反。
 だから、招待客達も楽しむ。
 だが、心からは楽しめていない――それはトルムドアが怖いからだ。
 羽目を外しすぎてトルムドアの機嫌を損ねるのは命取りとなる。
 カノンが制止するだろうからそれはないとは解っていても、やはり怖いのだ。
 そんな微妙な緊張感はカノンも感じていた。
 これは本当の意味でのパーティーじゃない。
 楽しいと思っているのはトルムドアだけ。
 他の招待客達の心も感じるからカノンも楽しめていない。
 ここは、自分が前に出て楽しませなくては――カノンはそう思った。
 元々、惑星アクアでも歌優(かゆう)として、みんなを楽しませる事を優先させて来た旅をしてきたのだ。
 このトルムドア・ワールドでも同じ事をすれば良い。
 いや、ガチガチにトルムドアに対する恐怖を感じている招待客を楽しませるにはもっと頑張らなくてはならないと思った。
 カノンは自身の身体に秘める女神御(めがみ)セラピアの力を使って、簡単な人形をいくつか作り出した。
 そして、カノンは、
「さぁさぁ、お客様、ご注目ください。私はカノン・アナリーゼ・メロディアスと申します。これから、ご挨拶も兼ねて、人形劇をさせていただきます。人形劇というのは人形という人を模したものを使って、物語を表現する事です。今回、披露するのは私の出身の星で伝わっている童話の一つで……」
 という様に、説明を始めた。
 招待客の強者達とは恐らく考え方自体が人間のものとは全く異なっているのだろう。
 だったら、人間はどういうものを考えどのような行動をとっていくのか教えようとカノンは思った。
 人形劇はそれをディフォルメしたものになる。
 カノンの一人人形劇が始まった。
 招待客はトルムドアが怖いからみんな、見る。
 正直、全く興味ないのではあるのだが。

 ――つまらない――
 最初はそう思いながら、招待客達は、カノンの人形劇を見始めていた。
 だが、客を楽しませる事は天性の才能がある彼女は、強者がどうすれば、興味を惹くかを考えてストーリー構成をしていた。
 強者達は人間とはくだらないもの――そういう目で見ている節がある。
 ならば、道化を演じよう。
 道化を主人公にするのだ。
 道化は人間であり、数々の失敗を繰り返す。
 でも、それでもめげずに前に進んで、ようやく少しの成功を得る。
 それを糧として、また、次の挑戦をしていく。
 強者達は何でも出来ると思っている者が多い。
 だけど、何でも出来るという事は難しい事に挑戦するという楽しみが出来る事が多い分だけ少ないという事でもある。
 カノンの人形劇ではそんな強者達の盲点が見え隠れしていた。
 時に挟まれるカノンの歌もあり、次第に招待客もカノンの人形劇に惹き込まれていった。
 自分達では経験出来なかった楽しみ方がそこにはあったのだ。
 カノンが人形劇を始めた頃はまばらだった拍手が、第一幕が終わる頃には大喝采に変わって行った。
 トルムドアは招待客達の変化を感じ取った。
 そして、それはカノンが引き出したものだと言うことも理解している。
 トルムドアは、
「すごいすごい、カノンママ」
 と言った。
 それに合わせる形で、招待客達も
「ブラボー」
「アンコール」
「素晴らしい」
「最高ーっ」
 等の声が上がった。
 カノンは、
「さて、第二幕は趣向を変えまして……」
 と言って、第一幕とは別のことを描こうとした。
 今度は人間の弱さを題材にした人形劇だった。
 人間は弱いから間違えてばかり、だけど、相談したり、間違えに気づいて修正していくという事を描いた。
 そして、助け合う事も同時に描いた。
 一人一人は小さな力でも繋がる事で大きな力になっていくこともある――そんな物語を紡いだ。
 元々、カノンをもてなすために開かれたパーティーだったが、リクエストが多くて、最終的にはカノンが招待客達をもてなしているような印象を受けるパーティーになった。
 トルムドアは、
「カノンママ、ごめんなさい。最初はこんなつもりじゃなくて……」
 と上手くもてなせなかった事を謝罪したが、カノンは、
「あら、どうして?みんな楽しそうだったじゃない。みんな楽しかったら、それでオッケー!それじゃダメなの?」
 と返した。
 それを聞いたトルムドアは、ぱぁっと嬉しそうな笑顔になり、
「ううん、ダメじゃない。これで良いんだよね?」
 と言った。
「良いと思うよ。トルムドアちゃんは、私と別れてしまうかも知れないと思って一生懸命になってくれているのは解るけど、ずっと永遠にお別れするわけじゃないよ。いつかまた、トルムドアちゃんの元に帰ってくるつもりだよ。だからちょこっとのお別れ。寂しいかもしれないけどまた会えるよ」
「うん、うん。そうだね。そうなんだよね」
「じゃあ、いいこいいこしてあげる。こっちいらっしゃい」
「うん、カノンママ」
 という様に、トルムドアはカノンに子供のように甘えてくるのだった。
 パーティーが終わってからトルムドアは予定を変更した。
 カノンが出発するまでの過密スケジュールから余裕のあるものに変えた。
 これは、トルムドアがカノンの気持ちになって考えた事でもある。
 それは、トルムドアの内面的な成長でもあった。
 相手の気持ちになって行動してくれるようになった事を嬉しく思うカノンだった。
 限られた時間をトルムドアと過ごし、充実した日々を過ごすのだった。


04 決戦 対オリウァンコ


 カノンがカノンなりの戦いをしている頃、七英雄達は、オリウァンコとの決戦に向かって進んでいる所だった。
 オリウァンコの元には、人質として、ダミーカノンとシアンとパストが居るが彼女達は招待されている形でいるので、酷い目にはあわされてはいない。
 もっとも、されようとすれば、ダミーカノンはその正体を現し、【ファーミリアリス・ルベル】としての力を発揮するだろう。
 クアンスティータを恐れるが故に姑息な手段を使わないオリウァンコだが、その事がかえって彼の立場を安全なものにさせていた。
 だが、オリウァンコにとって優秀な手駒達は、七英雄達に撃破されてしまった。
 配下はまだまだ居るが、役に立ちそうな手駒は居ない。
 オリウァンコとしては、七英雄を自らの手で倒し、自身の配下を再編成させる事が必要となった。
 オリウァンコは【変貌の化獣】とも呼ばれる化獣だった。
 化獣の中で唯一、神御(かみ)や悪空魔(あくま)でも単独で戦いを挑めるくらい力が弱いとされている彼は、神話の時代より、度々、神御や悪空魔に戦いを挑まれている。
 その度に勝ったり負けたりしていて、負けた場合はその身体を捨てて新しい身体を作って復活を繰り返してきていた。
 カノンにつきまとっていた時の姿は最初の時の姿であり、そこから何度も変貌を繰り返しているので、今、現在の姿は別の形になっている。
 戦う時はその姿になって初めて本性を現したという事になっている。
 一口に姿形を変えると言っても、他の化獣にとっては、化身体とどう違うんだ?という事になる。
 ──そう、元々、化獣は化身体という別の身体を持てる存在なので、本体が姿形を変えるからと言ってそう意味のある事ではないのだ。
 勢力としても他の化獣と比べ、脆弱さは否めなかった。
 神でも悪魔でもない人間である七英雄達に簡単とまでも言わないまでも、あっさり精鋭達を全滅させられたのも最弱の化獣と言われる所以でもある。
 他の化獣の勢力とまともにぶつかった場合、七英雄だけで精鋭を全滅させられるという事などまず、ありえないのだ。
 本体の力も勢力の力も最弱であるからこそ、強く最強に惹かれているオリウァンコにとって七英雄達との決戦は、自分の力をクアンスティータにアピールして認めて貰おうとする戦いでもある。
 人間風情がと蔑んで見ているオリウァンコにとって、七英雄達との戦いの利点はそれに尽きる。
 また、僅かにオリウァンコ自身の顔に泥を塗った七英雄が許せないというのもあった。
 オリウァンコは、
「この私は逃げも隠れもしない。全員でかかってくるが良い」
 と七英雄達に向かって言った。
 あくまでも、自分の方が上位種であり、人間達の挑戦に受けてやっているという立場を貫いている。
 実際にはオリウァンコから売った喧嘩ではあるのだが、体裁上では、逆だと言いたいのだろう。
 オリウァンコはかりそめの姿となっていた誕生時の姿から、現在の姿へと形を変えて行った。
 その姿は、頭に矢印の様な突起物をはやし、ニッカポッカを思わせる脚の膝横からは尾のようなものが1本ずつ生えていてそれは腕にも同様の形状となっている。
 身長は一般的な人型サイズから、一挙に50メートルくらいの大きさに変わった。
 これは、4番の化獣、クルムレピタークの所有する勢力、巨獣徒(きょじゅうと)と呼ばれる巨大生物兵器に習って体格を大きくしたものになっている。
 神話の時代より、化獣が所有する勢力で最もインパクトがあったのは、全長の大きさからも巨獣徒であるとも言われている。
 何でも、強い要素を取り入れたがっていたオリウァンコが選択した結果がその巨獣徒に合わせたこの姿となったのだ。
 クアンスティータほどではないが、巨獣徒もまた多くの伝説を残している。
 最弱とされている巨獣徒でさえ、簡単に山脈の1つや2つは吹き飛ばせたと言われている。
 七英雄達に与えるインパクトとしては、十分と言えた。
 ユリシーズは、
「……この、でかぶつがぁ……」
 と毒づいた。
 今までの七英雄達の相手は、基本的には、通常の人間サイズが殆どだった。
 たまに大きな相手とも戦ったが、せいぜい、10数メートルが良いところで、大概、大きいだけのでくの坊が多かった。
 だが、今回の相手は、腐っても神話の時代から生き抜いてきた化獣の1核だ。
 神話の時代から、敗北は常につきまとっていたが、それでも、生き残り、復活し、今日まで来ている存在なのだ。
 クアンスティータのインパクトからするとまるで大した事ないので、舐めてかかっていたが、相手は化獣――七英雄達が、惑星アクアで相対して来た絶対者・アブソルーター達よりも格上の存在なのだ。
 オリウァンコは、
「小さくて、よく見えんな。どれ、踏みつぶしてやろうかな」
 と言って、右足を天高く上げ、そのまま、七英雄達の居た場所に足を踏み込んだ。
 七英雄達は寸前でかわしたものの、その巨体から繰り出される衝撃に身体が軽く吹き飛んだ。
 七英雄達は、すぐさま、体制を整え、反撃を試みようとするが、右足についている尾が七英雄達をはたき落とす。
「ぐっ……」
「がっ……」
「うがっ……」
「あっ……」
「うあっ……」
「くっ……」
「ぎあっ……」
 七英雄達はそれぞれうめく。
 それだけ、尾による一撃が強力だった。
 オリウァンコは大して動いていない。
 足を振り上げ、振り下ろし、尾で薙いだだけだ。
 それでも、七英雄達に大きなダメージを与えた。
 能力的にはオリウァンコにも引けを取っているつもりはない。
 だが、いかんせん、体格が違いすぎた。
 一番身体の大きなヘラクレスとでさえ、25倍の身長差があるのだ。
 パワー自慢のヘラクレスでさえ、この体格差ではどうしようもない。
 しかも、身体の大きな存在にはありがちなのっそりとした動きではない。
 オリウァンコは機敏な動きで攻撃を仕掛けてくる。
 50メートルの体格で、アスリート顔負けの動きをしてくるので、巻き起こる風だけで吹き飛ばされそうだった。
 そんな状態であるから、オリウァンコの攻撃がヒットしてしまった時の衝撃は計り知れない。
 最弱、軟弱とバカにされていても、やはり化獣であるオリウァンコは強かった。
 7番の化獣ルフォスを心臓に宿す芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)ならまだしも、元がタダの人間の七英雄達では力が違いすぎた。
 その後も七英雄達は、自身が身につけた特殊能力を使おうとするが、人間と化獣では基本的な能力浸透度と能力浸透耐久度が違っていた。
 つまり、対人間に対しては強い効果をもたらす七英雄達の特殊能力も化獣であるオリウァンコには良くても効果が極めて低い状態だった。
 七英雄達は、ゼルトザームとの修業の最中にゼルトザームから言われていた事がある。
 それは、
「うーん……オリウァンコさんの刺客に対してはあなた方はかなり有利に戦う事が出来るかもしれませんが、オリウァンコさん自身に対してはどうですかねぇ……あの方も一応、化獣ですからねぇ。クアンスティータ様から見れば鼻くそのような……おっと失礼しました失言でしたね、でも、意識する程の相手では完全にないのは確かですけどね」
 という言葉だった。
 クアンスティータは確かに強い、凄すぎる――だが、現実味がまるでない上のまた上の存在から見たものの見方など、七英雄達には全く関係ない。
 問題は七英雄達の力がオリウァンコに届くかどうかだ。
 ゼルトザームははっきりとは肯定しなかったが、ニュアンス的に敵わない――そう、言いたげな言葉だった。
 ゼルトザームの意見が絶対という事は無い。
 だが、それでも、これから何かを変えないとオリウァンコには勝てない――それだけは確かだった。
 オリウァンコは、
「どうしました?顔が青ざめているように見えますねぇ。さっきまでの根拠のない自信はどこへ行ったんです?泣いて謝るなら10分くらいなら、言い訳のための延命は許可してあげなくもないですよ」
 と言った。
 勝ちを確信した態度だ。
 オリウァンコとしてもこのままただ、勝つよりも少しぐらい七英雄達を嬲(なぶ)ってやろうという気持ちになったのだろう。
 七英雄達には、自身が所有している勢力の精鋭達を全滅にまで追い込まれてしまったのだ。
 ただ、殺したのでは飽き足らないのだ。
 だが、そこに油断がある。
 そこにつけいる隙があるはず……。
 七英雄達は勝利を諦めてはいなかった。
 まず、前衛として、ジャンヌ、ヘラクレス、タケルの三人がオリウァンコの相手をしていた。
 この三人が前に出たのには理由がある。
 残る四人で特殊能力の共同効果を狙おうと思っているため、それに参加しない、残り三名が囮役を買って出たのだ。
 これは、オリウァンコの挑戦を受けた時から相談して決めていたことだった。
 オリウァンコを倒すには七名全員の協力が必要だ。
 だから、一人も欠ける事無く、勝ち進む。
 それが、七人で決めた絶対のルールだった。
 だからこそ、どんなに苦戦しても勝ち残り、先に突破した者が居ても、他のメンバーが突破してくるのを待っていたのだ。
 全ては、この時のためにだ。
 テセウスは超越進化の能力をジークフリートに送り込む。
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……」
 ジークフリートに信じられないくらいのダメージが与えられた。
 だが、ジークフリートはこれに耐えねばならない。
 そして、ジークフリートは、能力預金から通常では出せない力を下ろす。
 テセウスの超越進化はそのための布石だった。
 そして、その下ろした力をアーサーの成立言霊の力で、増殖させ、それをユリシーズに定着させる。
 ユリシーズは、七化身最強の紫の化身体となり待ちかまえていた。
 ユリシーズに超特殊能力が付与されて、彼の力が途轍もなく跳ね上がる。
 ユリシーズに付与された超々特殊能力の名前は、【届かなかったはずの一撃】だ。
 この力は本来であれば、全く届かないはずのパワーを様々な法則違反、犯則技を組み合わせて一時的に作り出すという力だ。
 その力は――
 オリウァンコが完全に油断していたというのもある。
 それ以外にも様々な要素が重なって、オリウァンコに致命の一撃を与えた。
 オリウァンコは、
「うぐわぁあぁぁぐわぁあぁぁあぁっ……」
 とうめきだした。
 自分が何をされたのか理解出来ないようだ。
 化獣である自分が人間ごときに負ける筈がない。
 そう思っていた過信とユリシーズ達七英雄が協力してひねり出したたった一回きりの最大の力が届かなかった差を一挙に縮めたのだ。
 神話の時代の事を書かれた絵本、【神御の絵本】と【悪空魔の絵本】にはこう書かれている。
 化獣達は強力で神御や悪空魔達では単独では決して勝てなかった。
 だが、決して、協力しあわなかった化獣達に対し、神御や悪空魔達は協力して戦った。
 それが一因となり、神御や悪空魔は、化獣を倒したと――。
 そう、計らずも神話の再現という事になったのだ。
 倒したのは神御や悪空魔では無く、人間ではあったのだが。
「ぎあぁぁぁぁぁぁぁっ」
 という断末魔をあげ、オリウァンコの身体が消滅していく……
 ジャンヌは、
「か、勝ったのか?」
 と言った。
 自分達が化獣を倒した事が今でも信じられないからだ。
 ユリシーズは、元の身体にもどり、
「勝ったんだよ、俺達は」
 と言った。
 その瞬間、七英雄達がワッと騒ぎ出した。
 お祭り騒ぎだ。
 疲労が蓄積し、本来であれば、絶対安静と言われてもおかしくない状態だったのだが、それでも気持ちがハイになりすぎて、勝利を喜んだ。
 シアンが、
「あいつら勝っちゃったよ……」
 パストが、
「ホント、どこから、こんな力が……」
 とそれぞれびっくりした。
 知らない内に自分達が七英雄達に遅れをとったと思ったのだ。
 シアンもパストもルフォスの宇宙世界で、特殊能力を身につけた。
 だが、今回の戦いでは彼女達は、ゼルトザームの特訓に加わらなかった。
 そのまま、カノン(ダミーカノン)と共に、人質という選択をした。
 招かれた状態だったとは言え、オリウァンコとの戦いを選択しなかった自分達に対し、七英雄達は売られた喧嘩を買い、見事、勝利して見せたのだ。
 これは、天晴れと言う他になかった。
 普段から喧嘩ばかりしていたシアン、パストと七英雄達だったが、今回ばかりは素直に喜んだ。
 審判役に居た、ゼルトザームも、
「あらま、勝っちゃいましたよ……」
 と驚いていた。

 オリウァンコ戦の勝利を祝って仲間同士、勝利の美酒を味わう事にしたのだが、ただ、一人(?)笑っていない者が居た。
 カノンのふりをしているダミーカノンだ。
 ゼルトザームをも騙したオリウァンコの嘘をダミーカノンは見抜いていた。
 カノンのふりをしていたダミーカノンはカノンの皮を脱ぎ捨て、本来の【ファーミリアリス・ルベル】の姿に戻った。
 七英雄とシアン、パスト、そして、ゼルトザームは驚愕する。
 今までカノンだと思って接していた存在が、カノンでは無かった事の事実に直面したからだ。
 【ファーミリアリス・ルベル】の姿形は、人間のものと変わらなかったが、ただ一つ、尾が1本、生えていた。
 それが、彼女が人間ではないという事を物語っていた。
 ゼルトザームは、
「な、何者です……ですが、この感じは……?」
 と動揺していた。
 【ファーミリアリス・ルベル】は、自身が仕えるべき存在であるクアンスティータではない。
 だが、それに近い感じがする。
 そして、それがすぐに、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースが誕生した折に、出てきた余分物の塊だという事が解った。
 ゼルトザームとしては、クアンスティータではないとは言え、クアンスティータ誕生に関わっていたものである以上、無下にも扱う訳には行かない。
 対応に困っていると、
 【ファーミリアリス・ルベル】は、
「さっきのやつ、逃げたよ……」
 と言った。
 さっきのやつとはオリウァンコの事だ。
 最弱の化獣であるオリウァンコだが、ただ一つ、他の化獣にもひけにとらないと自負している事がある。
 それは遁走術――つまり、逃げるための力だ。
 事、ピンチになってから逃げる力は他の化獣よりも抜きんでていると言っても良かった。
 最弱であるが故に、逃げる手段は無数に持っていたのだ。
 ユリシーズに致命の一撃を与えられた瞬間、オリウァンコは現在の身体を捨てた。
 本能的に負けると理解してからの身体の動きは自身の心の動きよりも数段、早かった。
 すぐさま、身体を更に変貌させ、次の身体へと形を変えていった。
 そのため、ユリシーズが貫いた本体の部分から、個別に生きている部分だけをかき集めた新たなオリウァンコとして再構成したため、オリウァンコを倒しはしたものの、消滅させるまでには至らなかったのだ。
 さすがに、神話の時代から生き抜いているだけあって、生き残る手段は見事と言わざるを得なかった。
 とは言え、力の大部分を減らしてしまったので、力を貯めるためにも少なからず潜伏する時間を必要としたオリウァンコは逃げの一手に徹した。
 力が激減してしまったため、ゼルトザームの感知に引っ掛からなくなる程になったオリウァンコはこれ幸いと逃げた。
 だが、【ファーミリアリス・ルベル】の目は誤魔化せなかった。
 カノンだったら、見逃していたかも知れないと思った【ファーミリアリス・ルベル】はカノンのふりをやめて、本来の姿で真実を告げる事にしたのだ。
 それは、カノンの姿で間違った判断をさせないという【ファーミリアリス・ルベル】なりの配慮とも言えた。
 【ファーミリアリス・ルベル】は、
「捕まえる?」
 と意見を聞いてきた。
 どうすればいいのか自分では判断できなかったからだ。
 逃げたオリウァンコを捕まえるのは簡単だけど、どうする?と聞きたいのだ。
 だが、そんな事よりも、他の者達が気になるのは違っていた。
 ユリシーズは、
「お、おい、姫さんはどこやったんだよ?」
 と聞いてきた。
 当然だ。
 いままで、オリウァンコの人質として居たと言う事実は違っていて、カノンのふりをしていた偽者が現れたという事は本物のカノンは何処へ行ってしまったのかというのがまず、気になる所だ。
 ゼルトザームも
「そうですね、それは僕も気になります。あなたからクアンスティータ様に関する気配を感じますので僕にはあなたをどうする権利は無いように思いますが、カノン姫がどこにいらっしゃっているのか気になるところではあります」
 と言った。
 ゼルトザームもこの事実を知らなかったのだ。
 【ファーミリアリス・ルベル】は
「カノン姫なら、トルムドア・ワールドに居るよ。私はそのピンチヒッター。カノン姫の事で心配させないようにクアンスティータ・トルムドアにお願いされて、私はカノン姫のふりをしていたよ」
 と答えた。
 その言葉を聞いて、七英雄とシアン、パストは絶望した。
 オリウァンコ戦での勝利が一転して、焦燥感がその場を支配する。
 クアンスティータが相手では、オリウァンコ相手の時とは訳が違い過ぎる。
 どうしようもない相手にカノンが捕まったと諦める心が強くなる。
 ゼルトザームは、
「第一側体、クアンスティータ・トルムドア様が何故?」
 と聞き返した。
 【ファーミリアリス・ルベル】は、
「招待したいんだって。嬉しそうに話してたよ」
 としれっと答えた。
 クアンスティータにとって、吟侍やカノンは親の代わりでもあり、また、VIPでもあった。
 丁重にもてなしているはずだと【ファーミリアリス・ルベル】は付け加えたのだが、七英雄達やシアン、パストの不安は消えない。
 ユリシーズは、
「おい、ゼルトザーム、どうすりゃ良いんだ?」
 と詰め寄る。
 だが、ゼルトザームは、
「クアンスティータ様が関わっている以上、僕にはどうすることもできません。オリウァンコさんが怯えていたのを見ているでしょうから、僕がオリウァンコさんよりもはるかに強いというのはお解りでしょうが、僕はクアンスティータ様の勢力からすると大して大物でもないんですよ。ただの小間使いレベルの存在にすぎません。そんな、僕の立場でクアンスティータ様のご意思に背くことはできません。トルムドア様は本体ではなく、側体ですが、それは関係ありません。側体であってもクアンスティータ様はクアンスティータ様。僕ごときが逆らえる存在ではありません」
 と言った。
 想像を絶する力を持っているゼルトザームでさえ、雲の上の存在以上の存在であるクアンスティータが動いている以上、カノンの命を助けられる存在などいない。
 意気消沈する仲間達にゼルトザームは付け加える。
「カノン姫には、交渉術があります。あの方はそれまで、無理だと言われてきた惑星アクアでの交渉を成功させてきたではありませんか。クアンスティータ様はそんなカノン姫の交渉術を高くご評価されていらっしゃいます。その交渉術を信じて待つしかありません。──そんなに気を落とされても僕も困ります。あなた方は主を──カノン姫を信じる事も出来ないのですか?」
 と言った。
 さすがのゼルトザームも肩を落としている七英雄やシアン、パストに対して出来ることは励ます事くらいしかできなかった。
 だが、それは何の慰めにもなっていなかった。
 シーンとなる一同。
 愛すべき主人が行方不明になり、どうしようもなくなった今、何をしたらいいのか全くわからなくなったのだ。
 全員、気力がなくなっていたその時、歌が聞こえた。
「♪心配しないで
 私はここにいる
 いつもみんなを見守っている
 だから、心配しないで
 いつかみんなとまた会える♪」
 短い歌だったが、カノンの歌で間違いなかった。
 ふっと上空を見ると人影が。
 カノン?
 いや、違った。
 カノンにしては髪が長すぎる。
 おさげ髪をしているが、そのおさげがかなり長い。
 カノンの雰囲気を持っているがカノンではない。
 カノンがトルムドア・ワールドで手に入れた【クァノン】だった。
 カノンが仲間達に心配させないように、トルムドアの許可を得て、【クァノン】を現界に送り、歌わせたのだ。
 それを聞いたユリシーズは、
「……姫さんだ」
 と言った。
 アーサーも、
「そうだ、姫さんに間違いない」
 と追従した。
 【クァノン】を通してのカノンの歌声が七英雄達やシアン、パストに希望を運んだ。
 シアンは、
「カノンに伝えて、私達待ってるから」
 と言った。
 パストも
「みんなで再会しようって伝えて」
 と言った。
 その言葉を聞いて、【クァノン】は頷いた様に見えたかと思うとフッと消えた。
 七英雄達とシアン、パストはカノンも戦っている事を知った。
 オリウァンコを退け、自分達の戦いは一区切りついた。
 後は、カノンが無事で戻ってくるのを待つことも自分達の戦いだと思う事にした。


続く。






登場キャラクター説明

001 カノン・アナリーゼ・メロディアス
カノン・アナリーゼ・メロディアス
 アクア編の主人公で、ファーブラ・フィクタのメインヒロイン。
 メロディアス王家の第七王女にして、発明女王兼歌姫でもあるスーパープリンセス。
 恋人の吟侍(ぎんじ)とは彼女が女神御(めがみ)セラピアの化身であるため、同じ星での冒険が出来なかった。
 基本的に無法者とされる絶対者・アブソルーターを相手に交渉で人助けをしようという無謀な行動をする事にした。
 発明と歌、交渉を駆使して、攫われた友達救出作戦を実行する。
 歌優(かゆう)という新職業に就くことになったり、惑星アクアを救ったりして活躍し、惑星アクアにとっては英雄扱いを受けるようになる。


002 クアンスティータ・トルムドア
クアンスティータ・トルムドア
 誰もが恐れる最強の化獣(ばけもの)。
 その第一側体。
 第一本体、クアンスティータ・セレークトゥースの従属にあたり、カノンから生体データを抽出して、他のクアンスティータに送ったのはこのクアンスティータ。
 トルムドア・ワールドという宇宙世界を所有している。


003 ダミーカノン(ファーミリアリス・ルベル)
ダミーカノン
 クアンスティータ・トルムドアがカノンを攫う時、カノンの身代わりとして作った彼女のダミーの存在。
 カノンの行動を真似ている。
 元々は、クアンスティータが誕生時に出てきたクアンスティータ以外の部分(人間の出産に例えれば羊水や血液などに当たる存在)で、ニナ・ルベルから出てきた事から本来の名前は【ファーミリアリス・ルベル】という。
 カノンの代わりに、ユリシーズ達と行動を共にする。


004 聖依 美架(きよい みか)
聖依美架
 トルムドア・ワールドには現実世界と夢の世界の二つがあり、夢の世界には現実世界で生きる存在にとっての理想の存在となる、存在する夢、イグジスト・ドリームが居る。
 聖依 美架(きよい みか)はもう一つの全能者アナザーオムニーアの富吉(とめきち)にとってのイグジスト・ドリームに当たる。
 本来はトルムドア・ワールドの現実世界には出てこれない存在だが、アナザーオムニーアの力で現実世界に出現する。


005 クァノン
クァノン
 クアンスティータ・トルムドアがカノンにプレゼントしたハーフバーチャルボディでカノンの意のままに動く複合多重生命体の元の様なもの。
 カノンに少し似ているが足元まで伸びる長いお下げ髪が特徴。
 クァノンの登場により、その場に居なくともカノンの歌を届ける事が出来る様になった。


006 まめぽん
まめぽん
 冒険に出る前に吟侍がカノンに送ったぬいぐるみ。
 行方不明だったが、クアンスティータの公式キャラクターとして、生命を得ていた。
 吟侍と同じ様に一人称が【おいら】である。
 語尾に【タヌ】もつく。


007 ユリシーズ・ホメロス
ユリシーズ・ホメロス
 不良グループ七英雄のリーダーでメンバーの中では頭一つ実力が飛び抜けている。。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、見え隠れする動き回るタトゥーと反物質の盾とトリックアートトラップという三つの能力を得ている。
 今回、ゼルトザームの修業で更に二つ、ユリシーズの視界に怪物を出現させる力、セカンドサイトの悪鬼と、赤、青、黄、緑、白、黒、紫の七つのイメージカラーの化身体(けしんたい)となる力、七化身(ななけしん)という特殊能力を得ている。


008 八化身(はちけしん) 陰陽(いんよう)
八化身陰陽
 オリウァンコの最強の部下。
 元々二つの存在だったのを一つの存在として融合した存在。
 無数に飛び回っている衣装は存在であれ、物であれかまわず着せると、たちまち陰陽の配下となって動き出すという力、臣下の衣装と、エネルギーを放出して敵にダメージを与えるというエネルギー弾を放出する力だが、弾となっている部分が立方体の様になっていて、それぞれ、土、水、火、風、光、闇の六属性となっていてあたる面により効果が変わる六属性の面という力を使う。














009 ジャンヌ・オルレアン
ジャンヌ・オルレアン
 不良グループ七英雄のメンバーでは紅一点。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、不思議な羽衣を得る。
 今回、ゼルトザームの修業で森羅万象陣(しんらばんしょうじん)という地面に敷いた紙に砂絵で絵を描く事で自然現象を促す力も得る事になる。









010 ヘラクレス・テバイ
ヘラクレス・テバイ
 不良グループ七英雄のメンバーでメンバーの中では最も力が強いパワー自慢。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、超剛力を誇る第三の腕を得る。
 今回、ゼルトザームの修業で女性体4体に分裂し、スピード重視の戦い方も出来る様になる。












011 クサナギ・タケル
クサナギ・タケル
 不良グループ七英雄のメンバーでメンバーの中では奇剣を重視した剣士でもある。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、空間の歪みに倉庫を持ち無数の武器を保管出来るようになっている。
 今回、ゼルトザームの修業で様々な要素を持つ小さな10個の圧縮天体(あっしゅくてんたい)を出し入れし自在に操れる様になる。














012 テセウス・クレタ・ミノス
テセウス・クレタ・ミノス
 不良グループ七英雄のメンバーでメンバーの中では最もモテる男でもある。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、特別なフェロモンを得て、怪物達を虜にし、モンスターハーレムに住まわせる事が出来ている。
 今回、ゼルトザームの修業で激痛と引き替えに急激な身体の進化を促す超越進化と元に戻る逆退化の力を得た。


013 ジークフリート・シグルズ
ジークフリート・シグルズ
 不良グループ七英雄のメンバーでメンバーの中では最もせっかちな男。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、槍を飛び出させる雲の塊、スピア・クラウドを作り出せるようになっている。
 今回、ゼルトザームの修業でスキルを貯める事により、強大な力を使う事が出来る能力預金(のうりょくよきん)という特殊能力を持った。


014 アーサー・ランスロット
アーサー・ランスロット
 不良グループ七英雄のサブリーダーでメンバーの中では最も喧嘩慣れしている。
 交渉で救出作戦をするという無謀な行動にでたカノンが心配で、彼女を守るために、救出チームに参加する。
 吟侍(ぎんじ)の心臓であるルフォスの世界で修行を積み、気の粘土、クレイオブマインドという特殊能力を得ている。
 今回、ゼルトザームの修業で言いくるめる事により、その言った言葉を成立させる力、言葉に力を込める力の成立言霊(せいりつことだま)という特殊能力を得た。










015 ゼルトザーム
ゼルトザーム
 クアンスティータのオモチャと呼ばれるふざけたピエロ。
 実力の方は未知数だが、少なくとも今のカノン達が束になってかかって行っても勝てる相手ではない。
 主であるクアンスティータがカノンを母と認めた事から、彼女を見守る様につかず離れずの立場を貫く。
 ブレセ・チルマとは顔見知り。
 今回ユリシーズ達の修業に協力する事になる。


016 オリウァンコ
オリウァンコ
 神話の時代、カノンの前身、女神御(めがみ)セラピアのストーカーをしていた、8番の化獣(ばけもの)。
 最弱の化獣と呼ばれているが故に最強とされるクアンスティータに執着をしていて、クアンスティータに影響力を持つ存在、カノンにも興味を持つ。
 クアンスティータの誕生により、姑息な手段でのカノンへのちょっかいは出来なくなり、正式な形として、ユリシーズ達に決闘を申し込み、カノンへのプロポーズへの足がかりとしようとしている。