第005話 第四側体 クアンスティータ・レマ編
01 カノン達の行動
カノン・アナリーゼ・メロディアスは現在、仲間達とはぐれている。
第一側体クアンスティータ・トルムドアに気に入られ、トルムドアの所有する宇宙世界、トルムドア・ワールドに招かれたのだ。
仲間達――シアン・マゼンタ・イエローやパスト・フューチャー、七英雄達にはトルムドアに提供されたハーフバーチャルボディ【クァノン】という存在を通して、無事だという事は知らせている。
元々は絶対者アブソルーター達にさらわれた友人達を救出するために惑星アクアに向かっていたカノンだったが、トルムドア・ワールドに来てしまった以上、それをする事は出来ない。
友人達の救出は元の場所に残った仲間達に任せ、カノンは側体のクアンスティータ達の意見をまとめるために、各側体クアンスティータとの【コンタクト・ポイント】を回る事にした。
お供には動けるようにしてもらったぬいぐるみ【まめぽん】やハーフバーチャルボディの【クァノン】、【ミューズ・アニマル ピア】や三機の【オーケストラコーラスダンサロイド】などがいる。
まずは、練習とばかりにトルムドアとの【コンタクト・ポイント】を目指すカノン一行は現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界の裏歴史からトルムドアに招待されたという吟遊詩人の少女、【沖椰子 ゆのあ(おきやし ゆのあ)】と出会う。
そこで【ゆのあ】と意気投合し、一緒に各側体クアンスティータとの【コンタクト・ポイント】を回る事にした。
今までは第二側体であるクアンスティータ・ソリイントゥスの巨大胸像、第三側体であるクアンスティータ・ファムトゥの巨大胸像のあるエリアをまわり、なんとか、それぞれの巨大胸像と打ち解けた。
ソリイントゥスからは【ピア】を獣人化する力を付与してもらい、ファムトゥには【オーケストラコーラスダンサロイド】の三号機、【リート】にパワーを送ってもらい、新たに【ファムトゥーナ】として生まれ変わる作業を手伝ってもらった。
こうして、各側体クアンスティータに存在を提供してもらうか力を受け取ったりしながら、みんなで最後に歌を歌うのがカノン達の目的となる。
次は第四側体クアンスティータ・レマのエリアを冒険する事になる。
カノン達の旅は続く。
02 特稀資格(とっけしかく)
レマのエリアに入ったカノン達はいつものように情報収集をするために住民達の前でコンサートを開いたり、発明品を売ったりして、人を集めた。
ここまでくると大体、パターン化している。
各側体のクアンスティータのエリアに入るとまずはコンサートや発明品を売りながら情報収集、
続いて、その情報を元にエリアの特徴である何かを体験したりする。
その体験した事を元に【コンタクト・ポイント】にある巨大胸像と面会し、打ち解ける様に交渉する。
それがうまくいったら、何かを提供してもらって歌唱要員にする。
後は、次の側体の情報をもらって別れるというパターンだ。
レマの場合は第五側体クアンスティータ・ウァウスクスの情報をもらうという事になるだろう。
今回もそのパターンに沿って行動する事になる。
レマのエリアには何故か男性がいなかった。
なので、一応、男性である【まめぽん】が珍しがられた。
情報収集する前の段階では、ソリイントゥスのエリアからの情報で、【光車(こうしゃ)】という電車の様なものがあり、それで光速移動する事によって見れるという超絶景ポイントがレマ・ワールドの特徴の一つである。
このレマのエリアにもレマ・ワールドほどではないにしても少なからず存在する事はわかって居る。
それは後で体験してみるとして、まずは、それ以外の情報を収集する事が重要だ。
観光だけして、レマの巨大胸像に会う訳には行かないからだ。
聞いて見ると、第四本体クアンスティータ・ミールクラームは【特稀資格(とっけしかく)】というものを発行しているらしく、その代行者として第四側体クアンスティータ・レマが下部の資格を請け負っているらしい。
では、【特稀資格】とは何なのか?
――それは、特別なものなどを作る技能などの資格の事を言う。
第三本体クアンスティータ・レクアーレの宇宙世界は工場などがあり、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースのショップエリアに品を下ろす事になるのだが、レクアーレの宇宙世界での技術者、技能者達が特別なものを作るのに必要な資格が【特稀資格】となる。
【特稀資格】は、無数の種類と1から無量大数以上の段位があるとされている。
段位1でさえ、現界で言えば宇宙の至宝を作るクラスの技能が手に入るとされている。
それが無量大数以上の段位があるという事は途方もなく凄い技能の資格があるという事になる。
また、それでも、それはレマが扱っている下部の一部でしかなく、ミールクラームが隠し持っている【特稀資格】はそれよりも遙かに多く把握仕切れないほどの上位の段位があるとされているらしい。
レクアーレの工場ではそのミールクラームから段位無量大数以上の段位をもらって仕事をする者などもかなり存在すると言われている。
(現在、レクアーレもミールクラームも生まれて居ないが所有する宇宙世界はすでに存在しているとされている)
それを聞いたカノンの感想は、
「そ、想像もつかないね……」
であり、【ゆのあ】も
「そ、そうだね……」
と答えるのが精一杯だった。
クアンスティータの宇宙世界に来て二人が感じる事は凄いと思った事にさらに上書きされる形でどんどん凄い事が顔を出してくるという事だった。
もう、大体網羅したかな?と思ったら、後から後からどんどん新しい驚きが沸いて出てくる。
大分、慣れはしたが、それでも驚く事は驚くのだった。
03 クアンスティータ・パールとクアンスティータ・リバースパール
カノン達は更に情報を収集する。
すると、レマのエリアで行われているイベントで、【本日の福存(ふくそん)】と【本日の落存(らくそん)】というものがあるという事がわかって居る。
これもミールクラームの代行者としての役目を持つレマの所有する宇宙世界ならではなのだが、ミールクラーム・ワールドから流れてくるものとして、【クアンスティータ・パール】と【クアンスティータ・リバースパール】の模造品というのがある。
【クアンスティータ・パール】とは奇跡のクアンスティータと呼ばれるミールクラームの大きな特徴で、ミールクラームの涙は強力過ぎる奇跡を起こす結晶の事を言う。
それとは反対に逆奇跡と呼ばれる不幸を与える結晶もあり、それを【クアンスティータ・リバースパール】と言う。
【クアンスティータ・パール】を作り出す事が出来るミールクラームはそのため、あらゆる存在が最も欲しいとされる存在となっている。
本物の【クアンスティータ・パール】と【クアンスティータ・リバースパール】を持ってくる訳には行かないが、レマ・ワールドではその模造品を作り出す技術が伝承されており、少量――と言っても1日あたり数百億セットほど作り出す事が出来るのだ。
また、僅かながら、その中から1日あたり2、3粒ずつ、レマの巨大胸像を通して、レマ・ワールドからトルムドア・ワールドのレマのエリアに運び込まれるのだ。
運び込まれた【クアンスティータ・パール】と【クアンスティータ・リバースパール】の模造品は【パール管理委員】と呼ばれる存在達によって宝箱にしまわれ、レマのエリアの各地にこっそりと運ばれ隠される。
レマ・ワールドの住民達はこの宝箱を探し出す事に熱中する。
模造品の隠された宝箱は最初に発見した者が所有者となる。
例え、【クアンスティータ・リバースパール】の模造品だとしてもだ。
模造品なので、効果が1日しか続かないし、奇跡と逆奇跡の度合いも低いという事もあり、気軽に宝探し感覚で広まっているらしい。
そのため、【本日】とついているのだ。
模造品の効果は宝箱を開けてからまる一日しか続かないようだ。
【クアンスティータ・パール】の模造品を手にした者が【本日の福存】となり、【クアンスティータ・リバースパール】の模造品を手にした者が【本日の落存】となり、幸運か不幸がその日にわたって起きる事になる。
住民達の感覚としては大ハズレもある宝くじの様なものの感覚でとらえているようだ。
庶民の楽しみの一つと言ったところだろうか。
ちなみに、【クアンスティータ・パール】の模造品は【パール・イミテーション】と呼ばれ、【クアンスティータ・リバースパール】の模造品は、【リバースパール・イミテーション】と呼ばれている。
模造品とは言え、【パール・イミテーション】も【リバースパール・イミテーション】もまるで真珠のような宝石として、効果が切れた後も装飾品としても使える。
女の子であるカノンや【ゆのあ】にとっても興味が無いとは言えなかった。
恐らく、現界に効果の消えた【パール・イミテーション】や【リバースパール・イミテーション】を持って行ったら、かなりの金額で取引されるだろう。
だが、カノンも【ゆのあ】も守銭奴ではない。
女の子として着飾りたいという気持ちくらいしか無かった。
奇跡を起こせる宝石――それを聞いただけで、胸が高鳴るカノン達だった。
04 光車(こうしゃ)の旅
カノン達は更に情報を集める。
聞いた事によると、レマ・ワールドは美女の楽園と呼ばれていて、美しい女性が数多く存在する事で有名らしい。
また、男子禁制と言う噂もあり、男性が紛れ込んだ場合、処刑される事もあるとの噂もあったが、それが本当かどうか真偽のほどはわからない。
だが、このレマのエリアでもそれを裏付けるように、美女が多いというのも確かだった。
住民達もスタイルや容姿の良い女性が多かった。
男性の目線が無いと女性はだらしなくなるという事は現界ではありがちだったのだが、クアンスティータの宇宙世界ではそれは当てはまらないらしい。
地球で言う所の歌劇団のようなものもあり、絶世の美女達に女性達が熱を上げるという光景も珍しく無かった。
景色も素晴らしいし、情報を集めている場所なども美しい石庭がどこまでも続いていたりしていた。
ソリイントゥスのエリアでは芸術作品が目の抱擁となったが、このエリアでは自然美や存在達の美しさが目の抱擁となっていた。
カノン達の目から見てもつい、
「はぁ……」
とため息をついてうっとり見とれてしまう様な景色や存在があふれていた。
【まめぽん】など、興奮し過ぎて鼻血を吹き出して倒れたくらいだった。
やはり、この流れでとばかりに念願の【光車(こうしゃ)】に乗ってみようと言うことになった。
【まめぽん】は【クァノン】と共に、ソリイントゥスのエリアで【光車】は体験済みだったが、このレマのエリアの方が本家本元だ(実際にはレマ・ワールドの方が本当の本家本元だが)。
ソリイントゥスのエリアでは移動に使っている【飛行移動装置(ひこういどうそうち)】ごと乗車できるほど大型の【光車】は走っていなかった。
だが、このレマのエリアは違う。
【飛行移動装置】も収納できる大型の【光車】が何両も走っているのだ。
また、【光車】事にサービスや廻る地域も違ってくるため、様々な超絶景ポイントを楽しむ事が出来るという。
光速で移動する電車のようなもの、【光車】でしか見れないというものがどのような景色か想像もつかない。
ただでさえ、見渡す限りが美しい景色しか見えないレマのエリアだ。
どんな素晴らしい光景が見えるのか楽しみだった。
早速、カノン達はコンサートや発明品を売ったりして得た収入で、【光車】のチケットを手に入れ、乗車する事にした。
彼女達が選んだのは、レマの名前も使っている【レマ・レア4号】という【光車】だった。
92400両編成と言う現界では考えられないような大きさだった。
天井までの高さもあり、床から天井まではビルの15階くらいに相当する。
つまり、【光車】内の空間としてかなり広いので、その分、サービスも充実している。
【光車】に乗りながら、プールで泳いだり、運動したりなども出来るのだ。
レストランや劇場、スポーツなども出来るようになっている言わば動く町とでも言うべきものだった。
もちろん、外から見える景色も半端なかった。
光速で移動する前の景色も美しいのだが、光速で移動してからの景色は口では言い表せないほど、美しかった。
レマのエリアでは光速で移動する事で見える特別な景色、【光速景色】というものがあるのだ。
これは光速で移動しない限り、決して見る事が出来ない光景で正に絵にも描けない美しさとはこの事を指していると言えるような光景だった。
ソリイントゥスのエリアで【まめぽん】が興奮していたのもよくわかった。
【まめぽん】は、
「凄すぎるタヌ……前のやつ以上タヌ……」
とつぶやいた。
実際、そうなのだろう。
ソリイントゥスのエリアの【光車】はレマのエリアの【光車】を真似てつくったものに過ぎない。
やはり、オリジナルよりはいくらか見劣りするのだろう。
【光車】内の食事も凄かった。
どこからこんな旨みが?と思えるほどの食事がたくさん用意された。
「後で飲んでくださいね」
と渡されたのは食事の【中和薬(ちゅうわやく)】だった。
この【中和薬】を飲まないと余所では食べられなくなるほどの【美味しさ】という中毒性を持つ食事だった。
これは癖になる――カノン達はそう思った。
いつまでも乗っていたくなる様な夢の様な旅だった。
途中駅でも降りて、観光もしたが、やはり、表現出来ないほどの素晴らしい光景の連続だった。
レマのエリア――美しさという意味では異常とも言えるエリアだった。
このエリアにいるとなんだか自分がつまらない存在の様に思えて来た。
間違い無く、レマのエリアは【美】のエリアなのだろう。
本家のレマ・ワールドとはどのような【美】なのか、ある意味、興味が沸いた。
カノン達は余りにも楽しくて、つい、【お代わり】をしてしまった。
【レマ・レア4号】に続いて、【ピュアスノウ215号】、【ナインスレインボゥ23号】、【アクアドロップ68号】、【ナイスミストレス465号】、【チャレンジャーナイト333号】、【ディアレディー5号】と次々に乗り継いだ。
途中で、これ以上乗っていたらおかしくなると危険を感じ、【光車】への乗車を取りやめた。
それくらい魅力的だった。
レマのエリアに来た以上、【光車】に乗ってばかりもいられない。
さらなる体験をしなくてはレマとの【コンタクト・ポイント】には行かれない。
カノン達は気持ちを切り替えるのだった。
05 エンテオア・ウェーントゥエス
カノン達は更に情報を集めた。
すると、気になる存在の情報がわかった。
その気になる存在とは【エンテオア・ウェーントゥエス】と言う名前の怪物の事だ。
レマ・ワールドでは存在している唯一の【雄】との事だった。
何故、気になったかと言うと、神話の中にチラッと出て来た名前だからだ。
【大化獣(おおばけもの)】とされる【エンテオア】は、神話の時代に【怪物ファーブラ・フィクタ】と【魔女ニナ】の間に誕生したとされる化獣達の元になった核を作り出すのに必要な素材だった。
――つまり、【エンテオア】の体から核が取り出されたというので伝わっているのだ。
【エンテオア】の体から取り出された核の数は、百六十八あり、その内の十二核が1番の化獣ティアグラから12番の化獣クアースリータの元になる核であり、六十核が行方不明、残った九十六核が13番の化獣クアンスティータの元になる核に使われたとされている。
九十六核も使われている。
ここでもクアンスティータの存在感は圧倒的だった。
それはさておき、【エンテオア】は化獣達にとっては祖父、つまり【おじいちゃん】的な立場にある存在であると言えるのだ。
もちろん、クアンスティータは他の要素も取り込んで飛び抜けた存在となったのだが、元々の極端なまでの頑丈さというのはこの【エンテオア】から受け継がれているということになるのだ。
【エンテオア】の命はとても重く、その命を左右する事は何者でも出来ないとされていたが、【怪物ファーブラ・フィクタ】により、その体を分解された【エンテオア】は命が尽きるとされていた。
その命をつなぎ止めたのが未来の世界から時を渡って来た第四本体クアンスティータ・ミールクラームの【クアンスティータ・パール】であり、それが世に伝わってミールクラームは奇跡のクアンスティータと呼ばれる様になったという伝説があるのだ。
その伝説――神話だけの話だと思っていた存在が首だけで実在するという事をカノン達は聞いた。
【エンテオア】は無敵の存在と言われていたのに何故、【怪物ファーブラ・フィクタ】は倒す事が出来たのか?
【エンテオア】は竜族に似た容姿をしているが異なる存在だと言われて居るのだが、どのような存在なのか?
【エンテオア】は神話の時代よりも前の時代に覇権を握っていたと言われているが、神話よりも前の時代とはどのような時代だったのか?
【エンテオア】は神話よりも前の時代、どのようにして【最強】と言われていたのか?
等々、【エンテオア】に関する事で不明とされている事は数多く存在する。
そのあたりの事を知るには【エンテオア】自身から聞いた方が早い。
カノンよりもむしろ、歴史学者でもある【ゆのあ】の方が興味津々な話題だった。
だが、【エンテオア】はレマ・ワールドの楽園に居るのであって、レマのエリアに居る訳では無い。
レマの巨大胸像を通して、その噂が広まっているだけなのだ。
それにしても【パールイミテーション】や【リバースパールイミテーション】の事といい、【エンテオア】の事と言い、レマの巨大胸像とは結構、おしゃべりな性格をしているのかもしれないなと思うカノン達だった。
06 【巨大モノリス】での情報
カノン達は更に情報を収集していった。
すると、献血ならぬ【献力(けんりょく)】というものがあったり、【ニュースランキング】というものがあったり、新情報は次々と入って来た。
【献力】とは力に対する献血のようなものであり、パワーをいざという時のために収拾していて、どこかの力のある存在が力を失い、死にそうになると、貯めておいたパワーを送りこみ命をつなぎ止めるという献血と同じような事をする処置の事を指す。
【ニュースランキング】とはレマのエリアの各地で起きている事件などを発表していくというものだ。
レマのエリアは女性だけのエリアでもある。
女の子と言えば噂好きでもある。
そういう意味で【ニュースランキング】というものが出来たのではないかと思われた。
【ニュースランキング】は、レマのエリアの各地にある【巨大モノリス(これも美しい)】に表示されていく。
【ニュース】はレマのエリアのどの地域か選択する事も出来るし、見たい情報の検索も可能だ。
それは感覚的に出来るもので、特別な操作を必要ともしないし、見る者によって、【巨大モノリス】に映し出されるニュースは異なる。
なので、同じ【巨大モノリス】を見てもカノンと【ゆのあ】では見ているニュースが異なるという事が多い。
それぞれの存在の趣向に合わせて【ニュース】も変化するのだ。
もちろん、【ニュース】を共有したい場合はそう感じればそうなる。
この【ニュースランキング】が表示される【巨大モノリス】はレマのエリアの特徴の一つでもある。
【ニュース】が表示されるという事はレマのエリアの情報が表示されるという事でもある。
住民達からの情報収集も必要だが、大きな【ニュース】というのも気になったカノン達は、その【ニュース】が表示される【巨大モノリス】を見に行く事にした。
住民達の話だと、どの【巨大モノリス】からも共通して【ニュース】が見れるらしいので、現在地から一番近い【巨大モノリス】を目指した。
現場に着いてみるとその【巨大モノリス】の大きさに圧倒される。
【巨大モノリス】に情報を収集に来ていた住民達の話だと、これでも小型バージョンらしい。
大きいものになると100万メートルくらいはざらにあるらしい。
カノン達のはざっと100メートルくらいだから10000万分の1という大きさと言うことになる。
早速、試しに検索してみる。
するとあるわあるわ、様々な情報が。
とても把握しきれる情報量ではないので、とりあえずテーマを決めて調べて見る事にした。
まずは、生活面や娯楽面などから調べてみようと思った。
やはり、女の子のエリアというだけあって、【ファッションショー】や【ミスコン】などのイベントも数多く開催されているようだ。
男子が居なくても着飾るという事は忘れていないようだ。
女として見習いたい所だ。
更に見てみると、現界では当たり前の事がこのレマのエリアでは無い事に気づいた。
それは【ダイエット】に関する項目だ。
美味しいものなども数多くあるレマのエリアだ。
当然、美味しいものを食べ過ぎれば太るものである。
となれば、女の子の大敵、【脂肪】が増えるという事になる。
なので【ダイエット】は必要不可欠のような気もするのだが……
どうしても答えがわからず、たまたまそこへ来ていた住民に聞いて見た。
住民達は、
「【ダイエット】?なにそれ?」
とか、
「は?」
「え?」
など、要領を得ない表情を浮かべた。
それを聞いていた一人の女性が近づいて来て、
「あぁ、それ、私わかるわよ。余所のエリアにはあるものね、【ダイエット】。でも、レマのエリアでは無縁なのよ。このエリアにはレマ様からの【美的物質(びてきぶっしつ)】というのが充満しているのよ。だから、女性は美しく、均整の取れた体型を維持できるのよ。私は他のエリアに行った事があるんだけど、その時、ぶくぶく太って来ちゃって大変だったのよ。慌ててレマのエリアに戻ってきたわ」
と説明してくれた。
なんと、レマのエリアでは【ダイエット】は必要ないのだ。
自然と美しい体型が維持されるらしいのだ。
ますます、このエリアから離れたくなくなるカノン達だった。
ファムトゥのエリアではずいぶん怖い目にもあっていたので、なおさら引き立てていたのだ。
男はいないがある意味、女の子にとっての理想郷であるとも言える場所だった。
美しくなる要素がエリアのあちこちに存在するのだ。
このエリアに美女が多いのも納得するしかなかった。
綺麗になりたいというのは女の子の共通の夢でもある。
この良さがわからないのはここでは、
「おいら、お腹すいたタヌ〜」
と言っている【まめぽん】くらいのものだろう。
そんな【まめぽん】はついさっき、このエリアでは珍しい【雄】だという事で、美女達にもみくちゃにされていた。
あまりに触られるので、逆に、
「怖いタヌ、助けてタヌ」
と怯えていたくらいだった。
カノン達は検索を続ける。
すると、天然の【万華鏡】の様な場所もあるなど、興味深い情報もあった。
行ってみたいと思うのだが、観光は【光車】の時の反省で、レマのエリアでは少し控えようと思っていた。
観光にはまり過ぎてしまうのが怖いのだ。
だが、【【一視十五景(いっしじゅうごけい)】を知らなければもぐりだ】というニュースにはなるほどと思わずうならせられた。
では【一視十五景】とはなんなのか?
それは地球などで言う【朝】、【昼】、【夕】、【晩】などを指す言葉だった。
レマのエリアには、
朝を表す【朝景(ちょうけい)】
昼を表す【昼景(ちゅうけい)】
夕方を表す【夕景(ゆうけい)】
夜を表す【夜景(やけい)】というものがあり、他にも、
春を表す【春景(しゅんけい)】
夏を表す【夏景(かけい)】
秋を表す【秋景(しゅうけい)】
冬を表す【冬景(とうけい)】
暖かさを表す【温景(おんけい)】
涼しさを表す【涼景(りょうけい)】
暑さを表す【暑景(しょけい)】
寒さを表す【寒景(かんけい)】
明るさを表す【光景(こうけい)】
影を強調する【暗景(あんけい)】
幻想的な【幻景(げんけい)】というものがあり、それをたすと【十五景】となる。
レマのエリアの多くでは一つの視点――つまり一カ所あたり、一日を通して15回見え方が変わるというのだ。
カノン達は移動しながらあたりの景色を見て来たため、この【一視十五景】というものを堪能していなかった。
確かにこれを知っている、知っていないでは雲泥の差となるだろう。
知らなかったのが恥ずかしいくらいだ。
ちなみにレマ・ワールドの方では【一視四千九十六景(いっしよんせんきゅうじゅうろっけい)】と言われているらしい。
さすがに一日に【四千九十六景】も見る事は出来ずランダムとなるようだが、それでもレマのエリアが子供だましだと思えるくらいの美しい光景だという。
まさに美しさを極めたような宇宙世界なのだろう。
後、気になったのは男性が侵入して来た時の【処刑】についてだ。
このエリアでの【処刑】とは殺害するという意味ではなく、男性としての体や心を消し去り、完全な女性とする事を意味していた。
吟侍達が不用意にこのエリアに来たら女の子にされてしまうかも知れないと思うとゾッとなるカノンだった。
また、このエリアの強者達の特徴は【三面容姿(さんめんようし)】というのも挙げられる。
【三面容姿】とは阿修羅像のように顔が三つくっついているのではなく、顔を着替える事が出来るというもので、基本的に三つの容姿を持っているというのだ。
吟侍から、化獣には【身替え(みがえ)】という体を取り替えるという事が出来ると聞いた事があったが、それと似たようなものだろう。
レマのエリアの強者達は顔を中心に二つのストックを持っているという事になる。
ただでさえ美女なのに、他に二つも別の容姿を持っているなど、うらやましい限りだとカノン達は思った。
ちなみにレマ・ワールドではそれのスケールがアップして【七面容姿(しちめんようし)】と呼ばれ、顔を7つ持っている強者達がたくさんいるらしい。
(ただし、レマ・ワールドについてはこれが全てではないらしい)
また、女の子ならではの【化粧】の仕方も現界の常識とはかなり断っていた。
大きな違いは現界では【化粧】とはコンプレックスな部分を隠したり綺麗に見せたりするものであるのに対し、レマ・ワールドの【化粧】は顔などへの【栄養】ととらえていた。
つまり、現界の【化粧】は寝るとき等に落とすものだが、レマ・ワールドやレマのエリアでの【化粧】とは吸収するものであるというのが最も違う所だろう。
【化粧】の仕方によっていくつもの印象を持たせる事が出来るというのは変わらないが、レマのエリアなどでは落とさないので、いつでも出し入れ可能な顔等の【栄養】であるという点が驚いた事だった。
マニキュアやペディキュア、アイシャドウやルージュやウィッグ、エクステンションや、タトゥーに至るまで、コスメ(化粧品)は全て吸収する対象となるらしい。
【化粧】に対する考え方が根本から違っているのだろう。
【温泉】などもあるが、効能というよりはこれも明確な【美】の成分の【吸収】であるととらえられているようだ。
美しさはどこでも同じと考えていたが根本的な部分では違うという世界もあるのだと改めて思った。
他にも気になる情報をいくつも見たカノン達は検索を止めて次の立ち寄り場所に行く事にした。
調べてばかりでは意味が無いので、体験も必要だと判断したからだ。
彼女達は巨大モノリスを後にした。
07 花輝行列(かきぎょうれつ)
カノン達は【巨大モノリス】で知り得た情報を元に、【花輝行列(かきぎょうれつ)】というのを見に行った。
【行列】とは【パレード】の様なものを意味する。
【花輝】は地球で言えば【花魁(おいらん)】や【舞妓(まいこ)】などが見た目のイメージとして近いだろう。
綺麗な花や宝石などで装飾された着物をまとう女性を【花輝】と呼んでいる。
つまり、【花輝行列】とは【花輝】による【パレード】という事になる。
これもやはり女性としては憧れるものの一つと言えるだろう。
レマのエリア――レマ・ワールドもそうであろうが、このエリアは【美】に関するイベントがやたらと多い。
それ以外のイベントも数多くあるにはあるのだが、やはり目立つのは何かしらの【美】に関するイベントだろう。
そういう訳でどうしても【美】関係のイベントに立ち寄る事が多いのだ。
カノンは、
「楽しみだね。でも、仲間達が救出活動をしている時にこんな事していて良いのかな?ってちょっと罪悪感が沸くわね」
と言った。
【ゆのあ】は、
「現界とこのトルムドア・ワールドの時間軸は、ずれているから、必ずしも同じ時間だとは限らないんじゃない?」
と言ってくれた。
とにかく、レマのエリアに来てから楽しいことばかりなのだ。
カノンはこんな事をしていて良いのかという気持ちを誰かに確認したかったようだ。
カノン達が見学する【花輝行列】はオーディションで選ばれた百万名の【花輝】がパレードをするもので、【花輝行列】としては中規模のものとなる。
多いものでは1000兆を超す【花輝】が参加するものもあり、少ないと100名に満たない規模もあるという。
そわそわしながら【行列】を待つカノン達。
待ちくたびれたのか【まめぽん】は、
「お代わりタヌ……」
と言っていた。
どうやら、寝ぼけて寝言を言っているようだ。
【花輝行列】はどちらかというと【まめぽん】が気に入るというタイプの【パレード】ではない。
あまり興味ないというのが態度でわかる。
だが、カノン達女の子にとっては大変、興味あるイベントだった。
出来たら【花輝】の衣装で着飾って参加したいくらいの気持ちだ。
サービスで簡単な【花輝】の衣装を着させてくれる所もある様だが、浮かれてはならないとそれは我慢した。
待っていると、やがて、【花輝行列】の先頭が見えてくる。
カノンと【ゆのあ】の感想は、
「「素敵……」」
だった。
このエリアに来てからもう何百回目になるだろう――【うっとり】とした表情を浮かべる。
美しさの脅威というのはこういうエリアの事を言うのだろうと実感していた。
どの【花輝】達も、選ばれたというだけあって、全員、飛び抜けて美しかった。
そして、【花輝】の衣装も圧巻の一言だった。
【花輝行列】は言ってみれば、楽園にある珍しく美しい花々が少しずつ動いている様な光景を思わせる【行列】だった。
この【花輝行列】の【花輝】達にも大きく分けて5ランクがあり、
下から、左右を10列で歩く【添花(そえばな)】、
列の先頭と後方を固めて歩く【上添花(かみそえばな)】、
【神輿(みこし)】の周りを歩く【献上花(けんじょうばな)】、
【神輿】の上に立つ【上絢爛花(かみけんらんばな)】、
そして、【神輿】の最上段にして中央に立つ【最上華尊花(さいじょうかそんばな)】と呼ばれているらしい。
【最上華尊花】に選ばれる事は最高の名誉の一つとされる。
もちろん、【花輝行列】一つに対して、【最上華尊花】はたったの1名だ。
この5ランクは中規模の【花輝行列】の基本形式であり、小規模のになると【添花】と【上添花】と【最上華尊花】の3ランクだけだったりするし、大規模になると、【添花】の下に【下添花(しもそえばな)】というランクが追加され、【最上華尊花】の上に【崇大上花・極(すうだいじょうしょうばな・きわめ)】というランクが追加される。
【崇大上花・極】が居る場合は【崇大上花・極】が1〜7名、【最上華尊花】は、10〜150名くらいになるという。
また、【花輝行列】を見た女性は幸せになれると信じられているらしい。
カノンは吟侍と添い遂げられるようにこっそりと祈るのだった。
カノン達が見学している【花輝行列】は、トルムドア・ワールドの時間で、10日間続くらしいが全部を見ている訳には行かない。
他にも知りたいことはあるので、ある程度を見たら、そこそこにして引き上げる事にした。
それでも、この【花輝行列】の花でもある【最上華尊花】だけは見ておこうと思って、場所を移動して、確認しに行った。
目移りしそうなくらい色んな【花輝】が居たが、やはり、【最上華尊花】に選ばれる女性は別格と言って良かった。
普通であれば選ばれなかったら悔しいと思うが、彼女に負けたのならば仕方が無いと思わせるほどの美女だった。
【最上華尊花】を確認したのを最後にカノン達は、【花輝行列】が行われている所から離れるのだった。
08 アイスドール・レディー
カノン達が次に立ち寄ったのは【一視十五景】で言えば、【寒景】にあたる所だけの地域だ。
この地域はずっと極寒の景色が広がる。
あたりには決して解けない氷や雪が広がっている。
カノン達はかなり厚着してそこへ向かった。
何故、そんな寒い思いをしてまで向かったかと言うと、そこには、氷の中で眠っている女性が居ると聞いたからだ。
まるでおとぎ話にでも出て来そうなシチュエーションではあるが、どうも、眠っている女性の数は1名ではないらしい。
数十名から数百名の女性が氷の中で眠っていると聞いて立ち寄って見る事にしたのだ。
もし、無実の罪などでそうなっているのであれば、出来れば解放したいと思っていたのだが、どうもそうでも無いらしい。
それらの存在は【アイスドール・レディー】と呼ばれ、存在してからずっと氷の中で眠り続けている存在だという話だった。
【アイスドール・レディー】は見られるためだけに存在する女性で、もしも氷を溶かすなどして、出してしまうとその女性も溶けて無くなってしまうという氷の中の世界だけに生きる存在だという。
【アイスドール・レディー】達は主に、レマ・ワールドに存在しているらしく、このレマのエリアにも少し存在している。
変わったものが好きなソリイントゥスはこの【アイスドール・レディー】を欲しがったのだが、環境が整わないと存在出来ない儚げな存在として認め、自身のエリアや宇宙世界に取り込むのを諦めたという。
まさに、レマ・ワールドやレマのエリアだけで見られるという限定された存在であると言える。
【アイスドール・レディー】達も【花輝行列】の【花輝】達に負けないくらいの美貌を兼ね備えていると言われていて、つい、氷の中から出してあげたくなるのだそうだが、そこは我慢して、見ているだけというのがマナーだという。
【アイスドール・レディー】達は、氷の中に居るが死んでいる訳ではなく、ちゃんと生きていて、夢を見ながら生きているとされている。
生きている限り氷の中で眠り続ける【アイスドール・レディー】――悲しげな存在であるようにも思えるが、【アイスドール・レディー】達は夢を見る事で幸せを感じているのだという。
不幸だと思うのはカノン達の感性によるもので、【アイスドール・レディー】達は【アイスドール・レディー】達で、その状態は普通の事だという。
極寒の地でしか見る事が出来ず、外界から遮断されている神秘的な存在【アイスドール・レディー】をカノン達は見る事が出来た。
【アイスドール・レディー】は、女神御(めがみ)の化身であるカノンが言うのもなんだが、どこか神々しさを感じさせる存在だった。
レマのエリアに来てみて感じた事は色んな【美】の形があるのだという事だった。
09 クアンスティータ・レマの巨大胸像との【コンタクト・ポイント】へ
レマのエリアで様々な【美】を体感したカノン達だが、そろそろ、レマの巨大胸像と会うために【コンタクト・ポイント】を目指す事を考えなくてはいけない時期が来た。
そう思うと、かなり名残惜しいと言える。
カノン達は次に立ち寄る場所を最後にしてレマとの【コンタクト・ポイント】を目指す事にした。
彼女達が最後に立ち寄り場所として選んだのは、【美】の結晶が取れるという山地だった。
【美】そのものが物質としてあり、それが採れる産地として有名な場所らしい。
その名も【美採山(びさいさん)】というらしい。
カノン達は色んな【美】と接触してきたが、やはり最後を締めくくる事では【美】そのものが採れるという場所に行くのが良いのかと思ったからだ。
彼女達が見た【美】とは表現するのであれば、【綿】や【綿飴】、【雪】などだろうか?
【たんぽぽ】の種という表現もしっくりくるかも知れない。
そういう、ふわっとしたものであり、触れるとふわっとカノン達に吸収されていった。
シミやソバカスを消したりするのはもちろん、雰囲気なども美しくする効果があるらしい。
【花輝行列】や【アイスドール・レディー】と比べると地味かも知れないが、地味かどうかはこの際、関係ない。
ためになったかならないかで言えばもちろん、ためになった。
この体験を最後にカノン達は【飛行移動装置】に乗り込み、レマの巨大胸像との【コンタクト・ポイント】を目指すのだった。
途中、色んな誘惑があった。
どれもこれも女の子としては興味津々のイベントがあちこちにあった。
どんどん立ち寄りたいという気持ちは後から後から沸いてきた。
だが、どこかで区切りをつけなければいつまでもこのレマのエリアに居る事になる。
カノン達は誘惑を断ち切り、レマの巨大胸像がある【コンタクト・ポイント】についた。
様々な【美】を提供していたレマのエリアを治めるレマの巨大胸像――聞きたい事は山ほどあった。
カノンは、
「こんにちは。クアンスティータ・レマさん。私はカノン・アナリーゼ・メロディアスと言います。私はトルムドアちゃんに招待されて、このトルムドア・ワールドにやってきました。他の側体のクアンスティータちゃん達は【ちゃん】づけなのであなたもレマちゃんで良いかな?」
と言った。
正直、この【美】のエリアでは驚く事が多すぎて、レマの事を【ちゃん】付けで呼ぶより、尊敬の意を込めて【さん】付けや【様】付けで呼びたいくらいだが、そこは他の側体クアンスティータに合わせる事にした。
【ゆのあ】は、
「こんにちは。クアンスティータ・レマさん。私は【沖椰子 ゆのあ】と言います。私もトルムドアちゃんに招かれて来ています。私もレマちゃんって呼んで良いですか?」
と言った。
やはり、どこかかしこまっている。
クアンスティータ・レマはカノンや【ゆのあ】にとって、可愛がるべき【赤ちゃん】や【子供】ではなく、弟子入りしたいくらいの偉大な存在として映っていた。
【ゆのあ】は、今まで現界の裏歴史の話をして側体のクアンスティータ達の気を引きつけて居たが、どんな話も見劣りするのではないかと思えるほど、レマのエリアは【美】という意味においてスケールが大きすぎた。
話しかけては居てもカノンも【ゆのあ】も今までに無く緊張していた。
まるでさんざん待ち焦がれた憧れの人にあった時のような感覚だ。
カノン達の呼びかけにレマの巨大胸像が反応して、やはり目が光った。
目が光るという事は巨大胸像に側体クアンスティータの意識が入ったという事を意味している。
レマの巨大胸像は、
「初めましてカノン・アナリーゼ・メロディアスさんに【沖椰子 ゆのあ】さんですね。わたくし、クアンスティータ・レマと申します」
と話しかけて来た。
聞いているとずいぶん、丁寧な口調だ。
これまでの側体クアンスティータとは品が違うという感じだった。
清楚な印象がある透き通った声だ。
どうやらおしゃべりのクアンスティータという印象は間違っていたようだ。
カノンは、今までの側体クアンスティータに対してしてきた様に、レマのエリアで体験して来た事を会話のベースとしてレマと話した。
【ゆのあ】は今まで現界の裏歴史の事だけをベースにして話して来たが、やはり、それでは、弱いと判断したのか、彼女には珍しく、レマのエリアで体験して来た事も話の種として加えて、そのレマのエリアと現界の裏歴史の相似点、相違点などをベースとした話に切り替えて言った。
カノンはともかく、【ゆのあ】の方は慣れない話し方になったので彼女はヒヤヒヤしたが、言葉使いの印象通り、おしとやかなクアンスティータであるレマは、気を損ねる事無く、カノン達と打ち解けて行った。
話してみれば一番、カノン達と話しやすいクアンスティータかも知れない。
好戦的だったファムトゥと違い、レマは平和主義的な性格らしく、交渉もしやすかった。
カノンは行けると判断し、
「あのね、レマちゃんにもお願いしたい事があって、私は側体のクアンスティータちゃんの所を順番に廻っていって、最後にその縁の存在を集めて歌を歌いたいと思って居るの。
これには、トルムドアちゃんとソリイントゥスちゃん、歌が苦手だっていうファムトゥちゃんも賛同してくれたんだ。レマちゃんにも何か歌を歌える存在とかがいたら紹介してもらえたらうれしいかなって思うんだ」
と言った。
レマの巨大胸像は、
「わかりました。用意しましょう。でもその代わりに条件があるのですが、よろしいでしょうか?」
と言った。
カノンは、
「何かな?私に出来る事ならなんでも言って」
と返した。
すると、レマの巨大胸像は、
「わたくしは【カノン母上様】と【ゆのあ様】とお呼びしてよろしいでしょうか?」
と言った。
カノンは、
「なんだ、そんな事?全然大丈夫。オッケーだよ。他のクアンスティータちゃんも【カノンママ】とか【カノン母上】とかで呼んでいるからレマちゃんも大丈夫。【様】とかはいらないかもね」
と言い、【ゆのあ】は、
「私も【様】とかつけなくて【ゆのあ】で結構だよ」
と言った。
レマの巨大胸像は、
「わたくしがそう呼びたいのです。ですので、どうか……」
と言ってきた。
こちらが恐縮してしまいそうなくらい丁寧な応対だった。
カノンは、
「良いよ、良いよ。呼びたい様に呼んでもらえれば」
と答え、【ゆのあ】は、
「これでレマちゃんとも【友達】だね」
とウインクして見せた。
すると、レマの巨大胸像はどことなく頬を赤らめたような感じがした。
レマは、どことなく奥ゆかしい、古風な大和撫子を思わせるようなクアンスティータだった。
レマの巨大胸像の目が輝いたかと思うと、中から【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】が一つずつ出て来た。
それら二つの宝石は合わさり、一つの存在が無から誕生した。
レマの巨大胸像は、
「この子は、【パール・チルドレン】と呼ぶ存在です。【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】が合わさる事によって誕生する生命体です。歌も歌えると思います。どうぞ、名前をつけて可愛がってください」
と言ってきた。
【パール・チルドレン】――奇跡の子。
カノンは、
「ありがとう。じゃあ、この子の名前は【パルーナ】にしましょう。よろしくね、【パルーナ】ちゃん」
と言って、【ゆのあ】も
「よろしくね、【パルーナ】ちゃん」
と挨拶した。
【パルーナ】はレマに似たのか頬を赤らめ、
「よ、よろしくパル……」
と言った。
どうやら、【まめぽん】の様に語尾がつく、しゃべり方をするようだ。
【パルーナ】の場合は【パル】らしい。
歌う時は語尾が無くなるらしいので問題はないだろう。
【パルーナ】は【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】がくっついている事で生まれて居る奇跡の存在なので、それを引き離した状態にすれば、【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】に戻るという。
【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】は、奇跡の効果と逆奇跡の効果を使い切った後のものなので、所持していたからと言って奇跡や不幸が起きるという事はない。
【パルーナ】を仲間にしたことで、このレマのエリアでの目標は達成した事になる。
お約束という事になるが、次は第五側体の情報を聞いて、このエリアを去る事になる。
離れたくないという気持ちは強いがこれも最初に決めた事だ。
カノンは、
「じゃあ、最後にレマちゃん、第五側体クアンスティータ・ウァウスクスちゃんの事で知っている事があったら私達に教えてくれないかな?次の旅の参考にしたいんだ」
と言い、【ゆのあ】は、
「レマちゃんのエリアみたいに、ウァウスクスちゃんのエリアの特徴とかわかるとずいぶん助かるんだけどね」
と聞いた。
すると、レマの巨大胸像は、
「その事ですが、カノン母上様、【ゆのあ】様、ウァウスクス様のエリアも大事ですが、これまでの側体は本体、一核に対して、側体も一核でしたが、第五本体からは従属側体は複数となります。第五本体クアンスティータ・リステミュウム様の従属側体は三核、存在します。第五側体クアンスティータ・ウァウスクス様、第六側体クアンスティータ・ククントゥス様、第七側体クアンスティータ・イグスルナ様がそれにあたります」
と言った。
意識してこなかったと言えば嘘になるが、アリスとのサイコネットを通して名前が出ていた【リステミュウム】の名前がついに出たという事になる。
アリス達やカノンの幼なじみである依良 双葉(いら ふたば)の生まれ変わりとされるステラ・レーターの居た未来の世界において、壊滅寸前まで追い込んだと言われているクアンスティータの名前だ。
【謎の力】と呼ばれる強大過ぎる力を代表的な力とし、未来の勢力、全てが恐れていたクアンスティータの名前だ。
未来の世界の勢力はこのリステミュウムを倒せる希望として、リステミュウムが誕生する前に1番の化獣ティアグラによって殺害されたとされていた吟侍をサポートするためにやってきたと聞いていた。
すでにティアグラに殺害されるという未来は回避されているが、リステミュウムが誕生するという未来は変わっていない。
恐ろしいクアンスティータ――その代名詞の一つに関する側体が次に目指すウァウスクスなのだ。
ファムトゥのエリアに行く時以上の緊張が走る。
カノン達の緊張を察したのか、レマの巨大胸像は、
「そんなに緊張なさらないでください。第四側体までは本体のサポートが主な目的となっていますが、第五側体からは本体の監視または、封印なども役割としてあります。ですので、カノン母上様達が思っていらっしゃるような展開にはならないと思いますよ」
と言った。
それを聞いて少し、ホッとしたカノン達だった。
現界を壊滅状態にまで追い込んだクアンスティータの関係クアンスティータと聞いて、少し身構えていたようだ。
差別はよくないと考えを改めるのだった。
リステミュウムにしろ、まだ、現在では何もやっていないのだ。
ひょっとしたら未来は変わったかも知れない。
悪戯に敵対意識を持つのは間違っていると反省した。
カノン達が気持ちを落ち着けたのを確認してからレマの巨大胸像は、
「ウァウスクス様のエリアの特徴の一つとしては【釣り】や【狩り】であると聞き及んでいます」
と言った。
【釣り】と【狩り】――また、これまでの側体クアンスティータとは違ったテーマの様だ。
やはり、十七の側体は全員、それぞれ、違った個性を持っていると思って間違いないようだ。
【ゆのあ】が、
「他には無いの?」
と聞くと、レマの巨大胸像は、
「ウァウスクス様は【規則】を大事にされる方と思って居ます。決められた【ルール】を大切にされるお方です」
と答えた。
【釣り】と【狩り】、そして【規則(ルール)】――
それが前情報として確認したカノン達はレマの巨大胸像に別れを告げ、レマのエリアを後にした。
目指すは、第五側体クアンスティータ・ウァウスクスのエリア。
そこでは如何なる事が待ち受けているのか?
幸運か絶望かはたまたそれとも違う別の事か?
それは行ってみるまでわからない。
期待と不安が入り交じった感情を抱いたまま、カノン達は【飛行移動装置】に乗り込み、ウァウスクスのエリアを目指して、出発した。
続く。
登場キャラクター説明
001 カノン・アナリーゼ・メロディアス
001 カノン・アナリーゼ・メロディアス
アクア編の主人公で、ファーブラ・フィクタのメインヒロイン。
メロディアス王家の第七王女にして、発明女王兼歌姫でもあるスーパープリンセス。
恋人の吟侍(ぎんじ)とは彼女が女神御(めがみ)セラピアの化身であるため、同じ星での冒険が出来なかった。
基本的に無法者とされる絶対者・アブソルーターを相手に交渉で人助けをしようという無謀な行動をする事にした。
発明と歌、交渉を駆使して、攫われた友達救出作戦を実行する。
歌優(かゆう)という新職業に就くことになったり、惑星アクアを救ったりして活躍し、惑星アクアにとっては英雄扱いを受けるようになる。
惑星アクアからトルムドア・ワールドに連れて来られ、それぞれの側体クアンスティータとの交渉をすることになる。
【奉崇歌(ほうすうか)】の基礎を学んでいる。
女神御セラピアの力として【フォース・ハグ】という天罰を与える力を持っている。
002 クアンスティータ・トルムドア
誰もが恐れる最強の化獣(ばけもの)。
その第一側体。
第一本体、クアンスティータ・セレークトゥースの従属にあたり、カノンから生体データを抽出して、他のクアンスティータに送ったのはこのクアンスティータ。
トルムドア・ワールドという宇宙世界を所有している。
トルムドア・ワールドにあるそれぞれの側体との【コンタクト・ポイント】を目指そうとするカノンを心配して、キャラメルの様な謎の箱(16個入り)のお守りを彼女に届ける。
カノンにとっては娘、【ゆのあ】にとっては友達の様な関係となっている。
003 クァノン
クアンスティータ・トルムドアがカノンにプレゼントしたハーフバーチャルボディでカノンの意のままに動く複合多重生命体の元の様なもの。
カノンに少し似ているが足元まで伸びる長いお下げ髪が特徴。
クァノンの登場により、その場に居なくともカノンの歌を届ける事が出来る様になった。
004 オーケストラコーラスダンサロイド アリア
カノンの歌のサポートをするアンドロイドの一号機。
005 オーケストラコーラスダンサロイド オペレッタ
カノンの歌のサポートをするアンドロイドの二号機。
006 ファムトゥーナ
カノンの歌のサポートをするアンドロイドの三号機だった【リート】にファムトゥ巨大胸像のパワーを送り、生まれ変わったもの。
オーケストラコーラスダンサロイドとしての特性を持ちながらファムトゥの属性も得た。
007 ミューズ・アニマル ピア
カノンの歌のサポートをする生物。ソリイントゥスの巨大胸像の力で獣人のような姿に変身する事が出来るようになり、歌う事も出来るようになった。
008 まめぽん
冒険に出る前に吟侍がカノンに送ったぬいぐるみ。
行方不明だったが、クアンスティータの公式キャラクターとして、生命を得ていた。
吟侍と同じ様に一人称が【おいら】である。
語尾に【タヌ】もつく。
強者とは無関係な小動物。
009 沖椰子 ゆのあ(おきやし ゆのあ)
トルムドア・ワールドでカノンと出会った現界の裏歴史出身の吟遊詩人であり、歴史学者でもある少女。
裏歴史においてカノンと同じようにクアンスティータ・トルムドアに認められ、招かれている。
元々、二重構造になっているトルムドア・ワールドの裏側で招かれていたが、カノンが招かれた表側に迷い込んでカノンと出会う事になった。
その後は意気投合したカノンと行動を共にすることになる。
研究テーマはクアンスティータであり、クアンスティータの事をよく知ろうとする。
【ヒストリー・コピー】という擬似的に小宇宙を作り出し、その中に裏歴史の情報を与えて擬似的な宇宙を作り出し、そこから攻撃を仕掛けるという裏技を持っている。
010 エンテオア・ウェーントゥエス
神話より前の時代より伝わっている【大化獣(おおばけもの)】。
その頑丈さは飛び抜けており、何者もその命などを左右する事は出来ないくらい存在が重いとされている。
化獣(ばけもの)達の元になる核はこの【エンテオア・ウェーントゥエス】の体を加工したものとされていて、神話の時代に【怪物ファーブラ・フィクタ】によって抜き取られたものとされている。
消滅する所だったが、未来の世界から第四本体クアンスティータ・ミールクラームの涙、【クアンスティータ・パール】で命をつなぎ止め、第四側体クアンスティータ・レマの所有する宇宙世界、レマ・ワールドで唯一の【雄】として居座る事になっている。
011 パルーナ
クアンスティータ・レマの巨大胸像によって【パール・イミテーション】と【リバースパール・イミテーション】を合わせて生み出された奇跡の存在。
【パール・チルドレン】と呼ばれている。
語尾に【パル】をつけて話すが歌う時は語尾が消える。
レマに似て少しはにかみ屋でもある。
012 巨大胸像レマ
クアンスティータ・レマとのコンタクト・ポイントに設置してあるレマの顔に似せた巨大な胸像。
これにはレマが意識を飛ばして話す事が出来る。
また、転送も可能で、【クアンスティータ・パール】の模造品【パール・イミテーション】や【クアンスティータ・リバースパール】の模造品【リバースパール・イミテーション】などをレマ・ワールドからトルムドア・ワールドのレマのエリアに運び込んだりしている。
目が光る事で会話が可能となる。
これは、第十三側体クアンスティータ・ヒアトリスの姿からヒントを得ている。
一人称は【わたくし】、カノンの事は【カノン母上様】、【ゆのあ】の事は【ゆのあ様】と呼ぶ。