第七弾 プハンタシア・クアンティタース 序章 中編

第七弾中編挿絵

00 クアンスティータの後継者の続報

 成り上がるクアンスティータ――【トゥルフォーナ】
 天下るクアンスティータ――【クアトゥウス】
 クアンスティータの子?――【クエニーデ】
 いずれもクアンスティータの後継者とされる【三つの名前】だ。
 これらの名前に該当する者は存在しない。
 ――下から
 ――上から
 ――母親の行方から
 クアンスティータの後継者を求めて様々な存在が手を尽くしたが、【ネクスト・クアンスティータプロジェクト】として始まったこの計画は破綻した。
 まるで条件に満たす存在が居なかった――とされていた。
 だが、クアンスティータの乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあったオルオティーナは新たな情報を得て居た。
 後継者にまつわる続報だ。
 【三つの名前】――それぞれに関する続報だった。
 まず、成り上がるクアンスティータに関する情報だ。
 実は、成り上がるクアンスティータとは文字通り、成り上がっているため、名前がコロコロ変わっているというものだった。
 つまり、今はクアンスティータとは関係無い別の名前を名乗って居るという事だった。
 最終的には1234回目の改名である【前異名(ぜんいみょう)】――【ルウァラ・トゥルオス】となる37名に入れば、その37名が自動的に、【トゥルフォーナ】となるとされているらしい。
 最も、それで、【トゥルフォーナ・クアンスティータ】として成り立つかどうかは別問題になるらしいが。
 だが、今現在は1233回目の改名である【前々異名(ぜんぜんいみょう)】――【ケレファ・トゥムリメ】になりつつある存在が居るかも知れないとの事だった。
 ちなみに【前異名】とは【トゥルフォーナ】となる前の異名という意味、
 【前々異名】とは【トゥルフォーナ】となる前の前の異名という意味である。
 この情報はかなり信憑性があるとの事だった。
 次に、天下るクアンスティータに関する情報だ。
 今までは【クアトゥウス】のみとされてきた。
 だが、他に候補が3名存在している事が新たに解った。
 他の3名の名前は――
 【リクビア】、
 【クモオード】、
 【ビウクーエ】、
 だそうだ。
 つまり、クアンスティータの後継者の名前の数は【三つの名前】というのは謝りで、実際は、天下るクアンスティータで加わった3名を含めると【六つの名前】というのが正解だったという事になる。
 天下るクアンスティータも成り上がるクアンスティータやクアンスティータの子と同じ様に1名と決めつけた誤解により、1名であるとされ、合計すると【三つの名前】とされてきたが、実際に天下ってきている存在は【クアトゥウス】、【リクビア】、【クモオード】、【ビウクーエ】の4名居たという事だ。
 これも有力な情報だ。
 最後にクアンスティータの子?に関する新情報だ。
 【他存置換(たそんちかん)】――という方法がある。
 これは、目的の存在を存在させないために――隠すために、他の存在して居ない存在を身代わりとして存在させ、本来の存在を隠すという方法だ。
 どうやら、クアンスティータの子?は【他存置換】をされているのでは無いか?との推測だった。
 クアンスティータの子?である【クエニーデ】はクアンスティータ・テレメ・デの宇宙世界の奥の奥にある他の場所とは隔離された場所に居るとされるレインメーアという永遠の少女が産み落とす存在とされていた。
 レインメーアとは怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナの最初の愛娘であるレインミリーの生まれ変わりとされる純粋無垢な少女で、彼女の回りには【三竦み(さんすくみ)】と呼ばれるこれ以上無い最強の護衛がついているとされている。
 【三竦み】の内、一つはクアンスティータの究極の姿で、残る二つはクアンスティータとは別の存在だが、同等の力を持っているとされている。
 同じレベルの力を持っている事から【三竦み】と呼ばれている。
 この【三竦み】もレインメーアと同様に究極の幻(まぼろし)中の幻とされている存在だ。
 その【三竦み】が用意した本来存在していないものが【他存置換】で利用されているらしい。
 これはあくまでも推測の域を出ないのだが、【他存置換】として、代わりに用意された名前が三つ出て来た事から無視する訳にもいかないとされてきたのだ。
 その【他存置換】で使われた三つの名前が、
 【レウィーブ・クロルプ】、
 【クアシス・ウェーラエレース】、
 【クイア・ントンスイ】、
 というらしい。
 この【他存置換】の三つの名前は小さな妖精の様な存在を指しているらしく。
 この三つの名前が消えた時、代わりに【クエニーデ】が出現するとされているらしいのだ。
 この事は【レインメーアのささやき】による情報とされている。
 【レインメーアのささやき】とは隔離された場所に居る【レインメーア】のささやき声がどこからともなく聞こえて来ることがあるとされているのだ。
 その美しき声にどんな屈強な男も骨抜きにされるとされているもので、この【レインメーアのささやき】から得た情報を元に、クアンスティータの子?が居るのでは無いかという仮説が出来たとされているのだ。
 以上の【三つの名前】(六つの名前では無く、三つの名前で通っているため、そのまま使用する事にする。【三つの名前】とは【トゥルフォーナ】、【クアトゥウス】、【クエニーデ】の三つの名前を指す事から【成り上がるクアンスティータ】、【天下るクアンスティータ】、【クアンスティータの子?】という言葉を指す言葉に変更された)それぞれに関する情報を得たオルオティーナは新たな資料としてまとめ上げるのだった。


01 オルオティーナの調査


 クアンスティータ・ファンクラブを統括するオルオティーナは様々な調査をしている。
 クアンスティータの後継者探しだけという訳にはいかないのだ。
 クアンスティータの脅威になりそうな存在の有無も当然チェックしていた。
 結果はもちろん、居ないのだが、唯一の例外としては【~超存(しんちょうそん)】についてだろうか?
 【~超存】とは――神や悪魔の最上位、最真~(または最深~/さいしんじん)や極超魔(または極頂魔/ごくちょうま)の更に上の存在で善悪を超越した存在である~上立者(しんじょうりっしゃ)――この~上立者の更に上に位置する存在とされ、その上は無いとされている。
 その【~超存】の力は最初に誕生した時の第一本体クアンスティータ・セレークトゥースに匹敵する力を持っていたとされている。
 当時は、その逆の言い方で、クアンスティータ・セレークトゥースが【~超存】と互角の力を持っているとされていた。
 その後、第二本体クアンスティータ・ルーミスなどが生まれ、再生誕(さいせいたん)を繰り返したクアンスティータはセレークトゥースも【~超存】を大きく飛び越えて行った。
 だが、最初のセレークトゥースと互角だったという点は消せない。
 オルオティーナにとっては並ぶべき存在のいないはずのクアンスティータと、最弱だった状態とは言え、並び立つ存在が居たという事の方が問題だった。
 その事実がわかってから、オルオティーナは【~超存】について調べていた。
 【~超存】とは恐らくは、【世界他外(せかいたがい)】から落ち延びて来た存在ではないかという事まで推測していた。
 【~超存】がクアンスティータ誕生まで並び立つ存在が居なかったのはあくまでも宇宙世界(うちゅうせかい)レベルでの話だった。
 オルオティーナでも容易に手が出せない【世界他外】も含んだ話ではない。
 【~超存】の想像を超える力も【世界他外】から来たと説明すれば、得心(とくしん)がいくのだ。
 現に、【~超存】は吟侍の考えに習って、自らの存在以上の存在を作ろうとしているようだ。
 クアンスティータは例外として、【宇宙世界】においては、自ら(【~超存】)の存在以上の存在など居るはずが無いのだ。
 あるとすれば、その上の場所である【世界他外】以上の場所から引っ張ってくるという場合だけだ。
 如何に、【~超存】と言えど、【世界他外】レベルで考えれば、生きるのも難しい弱者に過ぎないだろう。
 これまでの【超吟侍】達を使った調べで、【世界他外】とは過酷どころの騒ぎでは無い場所だという事が解っている。
 【世界他外】からの歩み寄りで、【世界他外】の白き世界(人間の目には白く見える世界)の中に【宇宙世界】の黒き世界(宇宙空間の真っ暗な部分を指す)を作り出す事で【世界他外】へ行く事も全くの不可能では無いと思われるが、通常の白き世界では1分も持たないだろう。
 最も、時間や空間の概念も破綻しているので、1分という考え方も成り立ってはいないだろうが。
 白き世界は【宇宙世界】の存在が耐えられるような精神状態では無くなる場所だからだ。
 逆に、【世界他外】の存在が、【宇宙世界】に来た場合は【宇宙世界】の方が崩壊するだろう。
 それは、第七本体クアンスティータ・テレメ・デの勢力であった【よそもの】の例と同じだ。
 【よそもの】も本体の顕現(けんげん)は宇宙世界の崩壊と同じ意味だとされる。
 なので、部分的な顕現とせざるを得ないのだ。
 【~超存】は自身の上の存在として、【~超不現存(しんちょうふげんそん)】もしくは【~超不化存(しんちょうふかそん)】として、顕現させようと考えているようだが、部分的な顕現になるのではないかと推測出来る。
 悪魔もそうだが、神の延長線上に居る【~超存】が自らが司る【宇宙世界】を崩壊させる様な事はしないだろう。
 存在に罰を与える事はあっても【宇宙世界】を潰すなどという事は【~超存】の行いとしてでは考えられなかった。
 何にせよ、【~超不現存】だか、【~超不化存】だか知らないが、敬愛すべき、クアンスティータの領域に足を踏み入れようとしているのはオルオティーナにとっては気に入らない事ではあった。
 それに【世界他外】と言えば、クアンスティータが所有している場所だ。
 それが、鳶が油揚げをさらうがごとく、【~超存】が自らの上の存在として据えるなど、あって良いものかと憤慨しているのだった。
 だが、オルオティーナにはそれを邪魔することは出来ない。
 力が【~超存】には及んでいないというのもあるが、あったとしても、力をつけようとしている者の足を引っ張るというやり方はクアンスティータの考えとは相反する行為だからだ。
 それは、1番の化獣ティアグラと7番の化獣ルフォスに対する反応でも明らかだ。
 クアンスティータの力を利用しようとしたティアグラは冷遇され、怯えながらも、クアンスティータに挑んで上を目指そうとしたルフォスは評価されていた。
 つまり、クアンスティータは自身の座を脅かそうとするものに対しては寛容であり、自分の力を悪意を持って利用しようとしている者に対しては嫌悪感を示すという事である。
 では、【世界他外】から、自らの上の存在を顕現させようとしているのはクアンスティータの力を利用しようとしている事ではないのか?
 それは微妙だが、考え方の差であろう。
 ティアグラは自らの野心のため悪意を持って利用しようとしていた。
 だが、【~超存】は別だろう。
 あの存在は秩序を守るため、強い存在を作ろうとしているのだ。
 例え、自らが、下の位になろうとも――
 その考えでいる限り、クアンスティータ・ファンクラブとしては手が出せなかった。
 出来る事は【~超存】の動向をチェックする事くらいだ。
 手をこまねいて見ているだけ――それしか出来なかった。
 以上の理由で、【~超存】の動きは気になるものの、他には気になる存在は居なかった。
 【~超存】とは別の意味でオルオティーナもまた秩序を守るために行動している。
 彼女の行動はクアンスティータやクアンスティータの後継者のためにとっての安定した秩序という事ではあるのだが。
 オルオティーナの調査は続く。


02 挑戦者、遊浮(ゆうき)の失敗


 オルオティーナが慎重には慎重を重ねて調査を進めている世界他外――
 その宇宙世界を超える場所に挑戦しようと言う者が少なからず存在していた。
 そのほとんどの者が道半ばに全てが終わるという最後を迎えていた。
 遊浮(ゆうき)と名乗った挑戦者も終わりを迎えようとしていた1人だった。
 彼は元々、クアンスティータの宇宙世界出身――それ故、力にはかなり自信を持っていた。
 中途半端な自信を。
 己の力を過信した彼は、クアンスティータの宇宙世界を飛び出し、世界他外へ挑戦する決意をした。
 彼はオルオティーナの調査結果を盗み出し、それを手に、世界他外へ向かった。
 彼の実力であれば、世界他外の中の黒き世界でならば、なんとかやっていく事が出来た。
 だが、それも時間の問題だった。
 宇宙世界と同じ様に見える黒き世界も元は世界他外のもの――世界他外の事をほとんど知らずに挑戦した彼は身の程知らずとしか言えなかった。
 彼は世界他外の理さえ知らないのだ。
 最期の時を迎えようとする遊浮――
「へへっ俺も焼きが回ったな……これでしめぇか……」
 辞世の句を言おうとする。
 その彼を救ったのは1人の少女だった。
 いや、少女というのは違うかも知れない。
 彼女は少女に見えて、これまで、遊浮が想像もしないレベルの苦難を生き抜いてきた者だからだ。
 少女は、
「まだ、生きているのであれば、そこから帰りなさい。
 ここは貴方が来るような所じゃない……」
 と言った。
 彼女が指し示した方向には、空間の歪みの様に見える穴が空いていた。
 その先は宇宙世界――遊浮が帰るべき場所である。
 少女は、
「貴方では実力不足――ここではやっていけない。
 悪い事は言わないからおとなしく帰りなさい」
 とそう告げた。
 遊浮は、
「俺は……、誰だかわかんねぇ奴に従うほど、お人好しじゃ……ねぇ」
 と言うと、少女は、自分の正体を明かす。
 少女は、
「私は現在、【ケレファ・トゥムリメ777】と呼ばれている。
 【トリプルセブン】とも呼ばれているけど、私はそれは好きじゃ無い。
 私は名前を変えて生きてきた。
 ある存在になるために」
 と言うと、遊浮は、
「そ、それじゃ、あんたが何者かわかんねぇよ……」
 と聞き返す。
 ケレファ・トゥムリメ777と名乗った少女は、
「では、私、本来の名前だと自負している【エクシトゥス】と名乗ろう。
 これが私が最初に授かった名前だ。
 まだ、普通の存在だった頃の大切な名前だ。
 だが、私が現在、目指している名前は知らない方が良い。
 身のためだ」
 と言った。
 遊浮は、
「そ、そんなんで納得できるかぁ〜納得出来る理由をよこせ」
 と言った。
 完全な八つ当たりだった。
 自分の力が及ばなかった事への苛立ち――それを助けに来た【エクシトゥス】に向けている。
 見事なまでにかっこ悪い事だった。
 だが、そうでもしなければやってられないほど、世界他外のレベルの高さに絶望していたのだった。
 エクシトゥスは、
「ならば、これが貴方にはわかりますか?」
 と問いかけた。
 口調が先ほどよりも柔らかくなっている。
 どうやら、優しく声をかけているようだ。
 遊浮は、
「知らねぇよぉ、何でそんな玉っころが関係あんだよ?」
 と怒鳴り散らした。
 その怒鳴り声にもエクシトゥスは冷静だった。
 冷静に遊浮はこの場にはふさわしくない存在だと分析しているのだ。
 エクシトゥスは、
「――これは、【膨張騎兵(ぼうちょうきへい)】と言います。
 もしくは、【爆誕増兵(ばくたんぞうへい)】、【拡張工機(かくちょうこうき)】とも言います。
 作られた場所によって呼び名は異なりますが全て同じものを指しています。
 これらの名前は、皆、人間タイプの存在が乗る、いわゆるロボットを指す言葉です」
 と言った。
 遊浮は、
「嘘つけ、そんな小さな玉っころに乗れる訳がねぇだろ。
 しかもロボットだぁ?仮に大きくなってもスカスカで張りぼてにしかなんねぇだろうが」
 と言った。
 もはや、何でも良いからケチをつけて憂さを晴らしたいのだ。
 エクシトゥスは、
「いいえ、びっしりとつまっていますよ。
 【膨張騎兵】は爆発させる事によって、人間タイプが乗れる大きさのロボットになります。
 これは、宇宙世界の技術で作った物ですが、考え方は世界他外に習ったものです。
 これと同じ様な考え方が、世界他外の常識の一つです。
 貴方は【個は多、多は個】という考え方を知っていますか?」
 と言った。
 当然、遊浮は知らない。
 遊浮は、
「知らねぇよぉ、それがなんなんだよ?」
 と言った。
 エクシトゥスは、ゆっくり諭す様に、
「通常の【世界他外】では存在を1名とは表現されていません。
 個体であるのと多数であるのとが曖昧なためです。
 多少ですが、わかりやすく言えば、【宇宙世界】での個体に当たる存在は【世界他外】では【宇宙世界】なのです。
 それが、【世界他外】が【宇宙世界】の一つ上の場所とされる所以でもあります。
 あなたの目で個人だと映っているものは実は複数――いえ、【宇宙世界】そのものなのです。
 私達はそれを私達の住んでいる【宇宙世界】と区別するために【宇宙自界(うちゅうじかい)】もしくは、【自由宇宙(じゆううちゅう)】と呼んでいます。
 【世界他外】においては個で動いているというのは極めて稀なのです。
 【宇宙世界】単位で動いているというのが常識なのです。
 【世界他外】の白き世界の中に点在する黒き世界は【宇宙世界】と環境を同じ様にして、圧縮した【宇宙自界】である【世界他外】の存在を個に見せて居る場所なのです。
 貴方はそれが解って居なかった。
 だから敗北したのです。
 少なくとも、それが解っていたら、距離だけは取れたはずです。
 時間と空間が破綻している【世界他外】で距離の話をするのもおかしな話ですが……」
 と言った。
 聞いて見たが説明が良く解らない。
 【世界他外】とはそういう所なのだろうというのだけは解った。
 遊浮は、
「あんた、……ほんとに何者だ……」
 と聞いた。
 エクシトゥスは、
「詳しくは話せませんと申したはずです。
 ですが、クアンスティータ様の引退を機に、宇宙世界を飛び出して行ってしまった貴方の様な方達を宇宙世界に戻す役目を負った者とだけ説明しておきます」
 と言った。
 それを聞いた遊浮は、
「オーケイ、それだけ聞けりゃ十分だ。
 何となくあんたの立場が解った気がするよ。
 解った。
 確かに俺じゃ、ここは役不足も良いところだ。
 力が及ばなかった事を素直に認めて引き下がるよ。
 この場は俺が主役となれる舞台じゃなかった。
 それだけは間違いない。
 俺は、挑戦者として失敗した――そういうことだな」
 と言った。
 彼を気遣ってか、エクシトゥスは、はいともいいえとも言わなかった。
 遊浮は、
「じゃあ、帰らせてもらうわ。
 俺よりあんたの方が主役向きだ。
 いや、あんたはヒロインなのかな?」
 と言うと、エクシトゥスは、
「私は主役になれる器ではありません。
 ヒロインにも」
 と答えた。
 遊浮は、
「そうかな?それだけは俺は否定させてもらうぜ。
 俺の目にはあんたが次世代のヒロインに見えるぜ」
 と言った。
 エクシトゥスは、
「買いかぶりすぎです。
 私は自分の事で手一杯です」
 と言うと、遊浮は、
「俺は女を見る目だけは自信あんだけどな。
 じゃあな、あんたの活躍、期待しているぜ。
 俺に引導渡したお姫様」
 と言ってエクシトゥスが用意した穴に入り、宇宙世界に戻って行ったのだった。
 彼を見送ったエクシトゥスは、
「簡単にヒロインになれるのであれば、苦労は無いわ……」
 と答えたのだった。
 彼女は、引き続き行動を開始した。
 彼女の現在の名前である【ケレファ・トゥムリメ】は1233回目の改名した名前だ。
 この名前は別名【前々異名(ぜんぜんいみょう)】と呼ばれている。
 次の1234回目の改名である【前異名(ぜんいみょう)】、【ルウァラ・トゥルオス】こそ、彼女が目指すべき最後の名。
 その時、彼女は選ばれる――
 クアンスティータの後継の一つとされる【成り上がるクアンスティータ】――【トゥルフォーナ】として。
 【ルウァラ・トゥルオス】になるまでは【クアンスティータ】の名前は出せない。
 自分がクアンスティータの後継者候補の一名だとは名乗れない。
 【ケレファ・トゥムリメ】のままではまだ、クアンスティータの後継者たる資格が無いからだ。
 後、たった1つ。
 だが、その1つが途方も無く遠い。
 彼女がクアンスティータの後継者たる資格を得られるかどうかは今は解らない。
 ただ、【トゥルフォーナ】となるために、彼女は【エクシトゥス】という名前を捨てて、今日まで生きてきた。
 ――そう、全ては、クアンスティータの後継者になるために――
 エクシトゥスの名前を捨てた少女の試練は続く。
 先の見えない試練は……。


03 世界他外での自殺


 宇宙世界において自分で自分を殺す事――
 宇宙世界ではそれを自殺と呼ぶ。
 では、世界他外にはどうだ?
 エクシトゥスは言った。
 個は多、多は個であると――
 つまり、宇宙世界そのものが個としてなりたつ場所が世界他外である。
 多くの存在の集まりでもある世界他外の存在が、自殺という事はあり得るのだろうか?
 宇宙世界にも集団自殺という言葉がある。
 世界他外ではそれに近い表現で表される。
 宇宙世界の様な存在をエクシトゥスは、【宇宙自界】や【自由宇宙】と表現した。
 存在が多の場合、【宇宙自界】や【自由宇宙】にはその身の中で宇宙世界でいうところの存在と同じ様なものが多くひしめいている。
 人間で表現するならば細胞や細菌のようなものだ。
 世界他外の存在による自殺とは、その多の状況において、自分の中の存在達による超大戦争を引き起こせば良いのだ。
 その戦火が拡大する事によって世界他外の存在――【宇宙自界】は自壊する。
 それを世界他外の自殺と呼んでいる。
――この世界他外の存在を宇宙世界の存在と区別するために【他外存在(たがいそんざい)】とする――
 【他外存在】の自殺は【宇宙自界】全体の大いなる意志として、その身の中にいる存在達――【他外存在】とその中の存在とでと紛らわしいので、仮に【他外存在】の中に居る存在を【自界存在(じかいそんざい)】としよう――その【自界存在】達が【宇宙自界】となった【他外存在】が崩壊するまで中で戦いを繰り広げるのだ。
 それによって【他外存在】は自決する。
 ややこしいが、これが、世界他外での自殺だ。
 これが、宇宙世界による自殺との大きな違いだった。
 たくさんの【他外存在】が居れば、中には自殺しようとする【他外存在】も居る。
 【他外存在】にとっては神にでも懺悔するかの様な気持ちでの自決でも、中に居る【自界存在】達にとっては、激しい感情をかき立てられ、本来、仲間同士である他の【自界存在】達とぶつかり合う。
 それは、人間に例えれば、抗体が細菌を駆除するというものではない。
 出鱈目に――
 ランダムに――
 手当たり次第、相手を見つけてはつぶし合う。
 【宇宙自界】が壊れるのにも目をくれずだ。
 【宇宙自界】――【他外存在】自体が、それを望んでいる。
 自らの死を願っているからだ。
 【自界存在】は【他外存在】の願いを叶えるために、つぶし合うのだ。

 芦柄 吟侍が得意とした創作バトルの技の一つ、【インフレーション・バースト・キック】クラスのエネルギーは【他外存在】あちこちから感じる事が出来る。
 ちなみに、【インフレーション・バースト・キック】とはインフレーション現象を起こす火種を作り出し、対象者へ投げつけたりするものを指す。
 その火種が対象者に当たる瞬間にキックもしくはパンチなどを火種に当て、インフレーション現象を更に超加速させる。
 その加速されたインフレーションの超爆発的なエネルギーが対象者に全面的に降り注ぐという現界で放てば、現界の崩壊を招きかねないという大技の事だ。
 クアンスティータの宇宙世界ではともかく、現界などで放った場合は一発で【宇宙世界】が崩壊する力でもある。
 そのクラス以上の力が、【他外存在】のあちこちで起きている。
 それだけ、【宇宙世界】のレベルを【世界他外】の中の【他外存在】のレベルだけで飛び越えているという事を意味していた。
 こうして説明していても非情にわかりにくい――それが、【世界他外】と言う超難関な場所だった。


04 事究変(じきゅうへん)、混結果現象(こんけっかげんしょう)


 宇宙世界で言う事変(じへん)とは広範囲による非常事態や騒乱のことを指す。
 事件よりも大きな言葉だ。
 だが、世界他外では事変(じへん)よりも大きな言葉が存在する。
 【事極変(じきょくへん)】という言葉だ。
 これは、【他外存在】に起きる非常事態の事を指す。
 【他外存在】による自殺も言葉を変えればこれに含まれる。
 だが、これが極限の非常事態を指す言葉では無い。
 更に上が存在する。
 それが、【事究変(じきゅうへん)】と呼ばれる言葉だ。
 これは2つ以上の【他外存在】による衝突などを指す言葉でもある。
 【宇宙世界】の場合、最大単位が宇宙世界自体であるため、これを越える規模の衝突は存在しない。
 だが、【世界他外】はその上の規模の単位だ。
 そのため、【宇宙世界】と【宇宙世界】の衝突などに相当する、【他外存在】と【他外存在】の衝突なども、あり得るのだ。
 それは、個のレベルである【宇宙世界】の存在が引き起こすエネルギーとは次元が全く異なるものだ。
 それは人の知が及ぶ世界では無い。
 表現出来ないほどの大きな衝撃が起きるのだ。
 それが、【他外世界】では日常として起こる。
 この事も【宇宙世界】ではあり得ない事だ。
 見ようと思えば【世界他外】にはまだまだ、【宇宙世界】の常識では計れない事がたくさんあった。
 【混結果現象(こんけっかげんしょう)】と呼ばれる事象(じしょう)の様なものも、その一つと言えるだろう。
 事象の様なもの――つまり、事象では無いそれは、それが事象ではない理由が存在する。
 事象とは同じ条件下で繰り返し行うことのできる実験もしくは観測などの試行によって起こる結果のことを指す。
 つまり、同じ条件であれば結果は同じという事を指すのだ。
 だが、【混結果現象】は違う。
 同じ事をしながら別の結果も同時に起こる事を指した言葉なのだ。
 第二本体クアンスティータ・ルーミスは代表的な力として、【矛盾の肯定】という力を持っていた。
 それは、すなわち、両立するには矛盾がある二つ以上の結果が同時に起こる力を指し、例えば、同じ人物が12月3日の4時56分に北海道と沖縄に旅立ったという事が実在する事を指す。
 これは年度が違うというオチでは無い。
 年度も星(地球)も同じという場合だ。
 普通であれば同時に北海道と沖縄に旅立つ事などあり得ない。
 それを肯定させる力が【矛盾の肯定】だった。
 【混結果現象】とはこれに近い事象の様なものが起きる事を指すのだ。
 【宇宙世界】の常識では同じ結果が同時に起きる事があり得ない事が同時に起きる。
 そして、結果が別れ、また、再集結もするのだ。
 例を挙げれば、先ほどの同じ人物が12月3日の4時56分に北海道と沖縄に旅立ったという事があった場合、年が明けて、1月2日の3時45分に東京に戻るという事で、北海道に行った自分と沖縄に行った自分が元の1人に戻るという現象だ。
 【宇宙世界】でこの様な現象が起きれば通常、パニックになる。
 だが、【個が多、多が個】である【世界他外】では決して珍しい現象(の様にみえるもの)ではないのだ。
 いくらでも起きてもおかしくない至って、普通の事なのだ。
 これらの現象の様なものが頻繁に起きるため、基本的に【宇宙世界】の存在は、【世界他外】では、生きて行けないのだ。
 【世界他外】だけのレベルで言ってもこれである。
 だが、【世界他外】には更に上の単位である【偉唯位場(いゆいば)】へと通じる部分も存在し、その更に上の【何抜違至(かぬいし)】とのつながるルートもある。
 【偉唯位場】への道に近づけば、存在を維持出来なくなる、恐ろしく危険な場所でもあるのだ。
 オルオティーナはその危険な場所を調べ上げ続けてはいるが、何分、想像を絶する場所なため、わかる事はごく僅かずつというのが関の山だった。


05 【天下りしクアンスティータ】は【クアンスティータの子?】のお姉ちゃんであるという事……


 報告を受けたオルオティーナは驚愕した。
 報告をした者はいつものように【超吟侍】達では無い。
 別の存在だ。
 その名前は、【ケレファ・トゥムリメ777】だ。
 【世界他外】においてクアンスティータの宇宙世界から飛び出した遊浮を元の宇宙世界に戻したエクシトゥスという少女の現在の名前だ。
 【超吟侍】でさえ、困難な【世界他外】での情報を彼女は山ほど持って来た。
 何故か?
 それは、彼女が【ケレファ・トゥムリメ】という名前から【ルウァラ・トゥルオス】という名前に改名するのに、クアンスティータの乳母であるオルオティーナの承諾がいるからだ。
 オルオティーナの承諾無くして、彼女は、その先にある【成り上がるクアンスティータ】である【トゥルフォーナ】を名乗る事が出来ない。
 それが、クアンスティータの後継者である【三つの名前】において、【成り上がるクアンスティータ】だけに設けられている制約だった。
 そのため、元エクシトゥスはたくさんの【世界他外】の情報を手土産に、オルオティーナの元を訪れたのだった。
 オルオティーナは、
「た……確かに、これらの情報が本当であれば、貴女様は紛れもなく、【成り上がるクアンスティータ】の1核として認められましょう。
 じゃが、この情報は貴女様が、クアンスティータ様の後継者として脱落を予感させるものでもある。
 まことにこれでよろしいのか?」
 と問うた。
 【ケレファ・トゥムリメ777】がもたらした情報はそれだけの意味を持っていた。
 【ケレファ・トゥムリメ777】は、
「仕方が無いわ。
 これは元々、出来レース。
 【成り上がる――】は【天下る――】には勝てないし、更に上には【子?】が出てくる。
 後継者争いの勝ち負けなんて、初めからはっきりしていたのよ。
 それより解ったでしょ?
 クアンスティータ様にはクアースリータ様という姉であり兄でもあったクアースリータ様という双子の兄弟姉妹が居た。
 クアンスティータ様の後継者である証拠としてはこれ以上はないでしょ」
 と言った。
 オルオティーナは、
「じゃが、親がそうだったからと言って……」
 と言うが、【ケレファ・トゥムリメ777】はそれをシャットアウトし、
「クアンスティータの後継者を目指している私が言うのよ。
 間違い無いわ。
 【天下るクアンスティータ】は4名居て、その最も有力な候補が、【クアンスティータの子?】の双子の姉であるという関係を作ったらしいという事実はね。
 【世界他外】においては、元々血縁関係が無い【他外存在】を血縁がある関係にする事など、造作も無いこと。
 隔離された場所に居るとされている【クアンスティータの子?】と兄弟姉妹になることでも不可能では無いわ。
 つまり、【天下るクアンスティータ】は本能的に、クアンスティータ様の立ち位置ではなく、クアースリータ様の立ち位置を選んだ。
 それは、つまり、そういう事でしょ?
 【天下るクアンスティータ】も【クアンスティータの子?】も実在する。
 そして、後継者は【クアンスティータの子?】で決まり。
 いくら、【トゥルフォーナ】として認められようと、そこに私が入り込む余地はないわ。
 それで、どうなの?
 私を【ルウァラ・トゥルオス】として認めてくれるの?
 くれないの?」
 と言った。
 オルオティーナは、
「認めよう――とは思う。
 じゃが、しばし時を待って欲しい」
 と言った。
 【ケレファ・トゥムリメ777】は、
「時?――時などいくらでも飛ばせるじゃない?」
 と言うと、オルオティーナは、
「妾に必要な時間ではない。
 状況を馴染ませるための時じゃ。
 事が大きすぎる。
 この宇宙世界が、その状況に馴染むまでしばし待って欲しいのじゃ。
 もちろん、【トゥルフォーナ】様であっても妾としては、クアンスティータ様の後継者として向かい入れても申し分の無いお方であると思うておる。
 じゃが、他の存在が、それを受け入れるには少々時間が居る。
 貴女様が、【ルウァラ・トゥルオス】の名を手に入れ、【トゥルフォーナ】様となられた時、それは、すなわち、後継者争いがはじまる事を意味しておる。
 妾を含む、クアンスティータ様を崇拝する存在達にとって、受け入れるための準備期間が必要じゃ。
 いきなり来て、そのまま承諾する訳にはいかぬのじゃ。
 それだけは、解って欲しい。
 もう一度、申す。
 妾は貴女様の事に反対している訳では無い。
 それは事実じゃ」
 と言った。
 【ケレファ・トゥムリメ777】は、
「――解ったわ。
 私もすぐに承諾をもらおうとは思って居なかったから。
 貴女も私が持って来た情報を整理する事も必要でしょうからね。
 なんせ、後継者が決まったら、クアンスティータ様がやり残した事を引き継がなければならない。
 それは大事だものね。
 それで、私はいつまで待てば良いのかしら?
 その時、また、出直すから、期間を決めて」
 と言った。
 オルオティーナは、
「そうじゃな……事が重大なだけに……そう簡単には……三年――いや、一年で良い。
 待ってはくれぬか?
 現界基準時における一年じゃ」
 と言った。
 一年と言っても、宇宙世界においては、その時間は異なる。
 そのため、現界基準時(げんかいきじゅんじ)という基準をオルオティーナは決めたのだ。
 現界基準時での1年とは地球時間で言う所の1年1ヶ月と24日分という事になる。
 その期間の間に、【ケレファ・トゥムリメ777】として、やり残した事をやっていて欲しいとオルオティーナは願い出た。
 【ケレファ・トゥムリメ777】は、
「解ったわ。
 現界基準時においての1年間ね。
 私はその間、最初の名前だった【エクシトゥス】に戻って生活しているわ。
 来たるべき、その時を待ってね」
 と言い残し、去って行った。
 【ケレファ・トゥムリメ777】改め、【エクシトゥス】は人間として、現界で1年1ヶ月24日間を過ごす事になる。
 この期間は彼女は自由だ。
 逆に大変なのは、オルオティーナだ。
 彼女は【エクシトゥス】が持ち込んだ情報の整理を始めて、更に同時進行で、クアンスティータの後継者争いの準備を始めなくてはならないのだ。
 それこそ、ネコの手も借りたい状況と言えるだろう。
 だが、オルオティーナとしては望む所だ。
 彼女は、諦めなかった。
 クアンスティータの後継者を探して奔走していた。
 それでも手が届かなかった事が、ついにやって来てくれたのだ。
 これを喜ばずして、何を喜べというのであろうか?
 オルオティーナは仕事の忙しさをうれしさとして受け止めたのだった。
 何か大きな事が起きるまで後、1年1ヶ月24日――
 その時が来たら、何が起きるのかは誰も解らない。
 だが、【エクシトゥス】が言っている事が事実であれば、【天下るクアンスティータ】の誰かと【クアンスティータの子?】である【クエニーデ】はどちらもクアンスティータの力を継承するまさしく最強の双子という事になるだろう。
 クアンスティータが2核居る――
 複数の本体と側体を持っているだろうが、そういう意味ではない。
 クアンスティータの後継者が2核居るという事だ。
 一核でもあらゆる所に大きすぎる影響をもたらしたクアンスティータだ。
 今度は二核――
 その影響の大きさは想像すら出来ないものとなろう。
 それ以外にも【天下るクアンスティータ】の候補が三名。
 【成り上がるクアンスティータ】の候補として、【エクシトゥス】が居る。
 これはかつて無いほどの大騒ぎになりそうだった。
 オルオティーナは武者震いの様な感覚を持ったのだった。


06 【エクシトゥス】のもたらした情報


 オルオティーナは【エクシトゥス】がもたらした情報を整理した。
 【超吟侍】達でさえ、1つか2つの情報を持って行くのが、やっとである【世界他外】の情報を彼女は数多くオルオティーナのクアンスティータ・ファンクラブにもたらした。
 彼女の持ち込んだ情報――
 その一つ目は、【存在濃度(そんざいのうど)】についてだ。
 【世界他外】において、個となる【他外存在】と【宇宙世界】のような【他外存在】は同じ存在と考えられている。
 つまり、個であったり複数であったりするというものだ。
 【世界他外】の白き世界の中の黒き世界において個となった場合は【宇宙世界】による個の存在達との戦いと同じ様な戦いとなる場合もある。
 だが、【宇宙世界】の様な状態での【他外存在】と【他外存在】での戦闘は別だ。
 別の戦闘方法が存在する。
 【他外存在】が【宇宙世界】の様な状態だという事は、複数の要素が絡み合い、単純な個と個の戦闘という訳にもいかない。
 複数対複数の戦闘になる。
 だが、【宇宙世界】の様な状態であるという事は【他外存在】の中でも複雑に状態が絡み合っている。
 その様な複雑な動きがある中で、戦いに勝つという共通の方向性を持たせる事は個と個の戦いの様な戦い方では実現出来ない。
 それには、別の決着の方法を模索しなくてはならない。
 そこで出て来たのが【存在濃度】という考え方だ。
 【存在濃度】と言うものは、【宇宙世界】の常識と照らし合わせて近いもので表現するのであれば、【キャラクターの濃さ】だ。
 【キャラ】が濃い方が勝つという考え方に近いのだ。
 【宇宙世界】の様な状態の【他外存在】と【宇宙世界】の様な状態の【他外存在】での戦闘の場合、【キャラクター】等の要素を集約した何かを放出する。
 その何かは、【存在集(そんざいしゅう)】と呼ばれるもので、様々な要素が入り交じったものである。
 【宇宙世界】に照らし合わせれば、たくさん要素が詰まったアメーバーの様なものだろうか?
 その【存在集】をぶつけあって、その【存在集】の【存在濃度】の高い【宇宙世界】の様な状態の【他外存在】が勝つというものだ。
 【存在集】は存在であって存在ではない。
 存在となりうる要素の塊である。
 勝敗は、より濃い、【存在濃度】を示した【他外存在】が勝つという事になるのだ。
 この考え方も【宇宙世界】には無かった考え方だ。
 これをどうやって調べたのかは疑問だが、【エクシトゥス】は優れた調査能力を持っていると言って良いだろう。
 もちろん、彼女がもたらした情報はこれだけでは無い。
 他にも、いくつもある。
 例えば、【曖昧虚実(あいまいきょじつ)の概念(がいねん)】、もしくは、【嘘虚実(うそきょじつ)の概念】という考え方もある。
 言葉は違うが【曖昧虚実の概念】も【嘘虚実の概念】も同じ事を意味しているとされている。
 これは、【宇宙世界】においては、本当は事実、嘘は出鱈目という考えが一般的だが、【世界他外】においては、嘘でも本当でも無い、第三の概念が存在する。
 それを【曖昧虚実(あいまいきょじつ)】または、【嘘虚実(うそきょじつ)】と呼んでいる。
 それは、例えるなら、嘘でも本当でもあるもの――
 もしくは考え方次第で、嘘にも本当にもなるもの――
 これを指す言葉だった。
 嘘と本当の境界線の狭間にある事柄、それが、【曖昧虚実】、【嘘虚実】であるとされている。
 それに対する概念を【曖昧虚実の概念】や【嘘虚実の概念】と呼んでいるのだ。
 この様に、【世界他外】では難しい考え方をする見方がたくさんあるとされている。
 他にも【至様流(しようりゅう)】という考え方もある。
 それは【宇宙世界】的に考えて現状意味をなさない言葉であるとされる。
 【世界他外】の【他外存在】は、その【至様流】とされる言葉に適合する何かを生み出す様に状況が変化するというもので、現時点では意味の無い言葉とされている。
 これは言葉に当てはまる様に状況が変化するという意味だ。
 まだ、ある。
 【選択個種(せんたくこしゅ)】という考え方もある。
 これは、【他外存在】の中の様々な個の存在が様々な事をして、その中で一番良いとされる、もしくはベストとされる状況などを選択して、該当するものだけを肯定し、それ以外は無効とする事を指す。
 これも、【個は多、多は個】である【世界他外】で無くては成立しない事だ。
 これらの事は普通に調べても出てくる事ではない。
 【エクシトゥス】だから調べられた事である。
 彼女は他にも数多くの【世界他外】独自のルールや事柄などを調べて来ていた。
 オルオティーナがこれらの情報を整理するのはかなり骨が折れた。
 だが、心地よい苦労だった。


07 クアンスティータ・ブルー


 自らが【トゥルフォーナ】となるための仕事をこなした【エクシトゥス】は現界基準時での1年間――地球時間でいう所の1年1ヶ月と24日分という時間をもらった。
 1年1ヶ月24日後には彼女は、正式に【ケレファ・トゥムリメ777】から【ルウァラ・トゥルオス】へと改名し、【トゥルフォーナ】となるための手続きがはじまる事になる。
 後は待つだけ――
 そう、それだけだ。
 だが、彼女は旅をする事にした。
 気になる存在を探すためにだ。
 【気になる存在を探すために】?
 奇妙な言葉だ。
 【気になる】存在が居ないので探すという意味だからだ。
 【気になる】のに現在、存在していない。
 おかしな話だ。
 だが、【成り上がるクアンスティータ】となろうとしている彼女には気になる存在が居る。
 いや、正式には、クアンスティータには居たというのが正解だろう。
 クアンスティータには【芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)】という、自分の力を捨てさせる決意の原因となった存在が居た。
 【カノン・アナリーゼ・メロディアス第七王女】という、存在もだ。
 後継者だから、必ずしも同じ事があるとは限らないのだが、【エクシトゥス】はクアンスティータの後継者として認められた時、クアンスティータにとっての吟侍やカノンの様な存在が現れるのか?という事を気にしていたのだ。
 クアンスティータにとって特別な存在だった精神的支柱になり得た吟侍とカノンの様な存在がいるかどうかを気にしていたのだ。
 吟侍やカノンがクアンスティータの後継者に対しても同じ様に接してくれるという可能性もある。
 だが、【エクシトゥス】は別の存在がクアンスティータにとっての吟侍やカノンの役割を果たしてくれるのではないかと考えていた。
 【トゥルフォーナ】もまた、【トゥルフォーナ・クアンスティータ】となった時、自分の力をどうするか?――決める時が来るのでは無いか?――そう、考えていた。
 【天下るクアンスティータ】と【クアンスティータの子?】は元々、特別な存在であろうから、別の考え方をするかも知れない。
 だが、【成り上がるクアンスティータ】は下の存在から成り上がってきた存在だ。
 弱かったからこそ、つきまとう精神的な不安もあるのだ。
 【エクシトゥス】も成り上がりながら、他の【成り上がろうとする者】達の脱落も見てきたし、強くなっていく事の不安も出て来ていた。
 彼女がなろうとしているのは最強の存在だ。
 最強とはすなわち、彼女が決めた事は絶対となる存在を指す。
 間違えられないのだ。
 間違えれば、大変な事になるだけでは済まされない。
 つまり、自分のする事の重大さも伴うのだ。
 そんな大役を自分が勤まるのか?
 そういう不安が無いと言えば嘘になる。
 要するに最強の存在になる事が怖いのだ。
 だから逃げたくなる。
 逃げ道を用意したくなる。
 クアンスティータにとっての逃げ道――それが、吟侍やカノンだったのではないか?
 【エクシトゥス】はそう分析したのだ。
 クアンスティータは文句なく最強だった。
 だが、中味はただの赤ん坊だった。
 誰かに頼って生きたい、ただの赤ん坊だった。
 それ故、クアンスティータは自分が最強だという事に耐えられなかった。
 だから、降りた。
 引退した。
 【エクシトゥス】はクアンスティータをそう分析していた。
 自分がクアンスティータとなった時、同じ問題が降りかかる事として。
 気は張っている。
 自分ではなく、恐らく、クアンスティータの後継者に選ばれるのは【クアンスティータの子?】である【クエニーデ】であるという事も理解している。
 だが、もしも、自分がクアンスティータになってしまったら?
 今更ながらに、自分のしている事が恐ろしかった。
 結婚式を迎える女性がマリッジブルーになる様に、【エクシトゥス】もまた、クアンスティータの後継者になろうとしている時に憂鬱になっていたのだった。
 言ってみればこれは、【クアンスティータ・ブルー】とも言える症状だった。
 【エクシトゥス】は、
「いけない――これは、私が決めた事。でも、迷いは吹っ切ったと思ったけど……」
 とつぶやいた。
 しっかりしている様で、【エクシトゥス】も若い女の子。
 不安は隠し通せるものでは無かった。
 不安を紛らわせるために、彼女は吟侍やカノンの代わりになる存在を探して、旅をする事にした。
 期限は、1年1ヶ月24日――
 彼女の冒険はこれからはじまるのだった。


続く。








登場キャラクター説明

001 【成り上がるクアンスティータ】【トゥルフォーナ】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 このクアンスティータはクアンスティータよりも弱い者を成長させてクアンスティータの後継者にしようというものであるが、そもそも宇宙世界にクアンスティータの力に耐えられる体は存在しないので、実現不可能とされている。


002 【天下るクアンスティータ】【クアトゥウス】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 このクアンスティータは世界他外(せかいたがい)以上に居るとされる人知を超えきった【変様何(へんようか)】とされる存在からパワーを落としてクアンスティータの後継者を作るというものであるが、【変様何】の一種である【秘謎稀超(ひめいけちょう)】という存在までの【ウルトラ・マックス・ダウン・グレード・サイジング】は確認されたものの、それ以下の存在となる【秘謎】と【稀超】への分離、および、更に、部分顕現(ぶぶんけんげん)が不可能であるとされており、実現は絶望視されている。


003 【クアンスティータの子?】【クエニーデ】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 クアンスティータの子と言われているが、クアンスティータには生殖能力が無いため、実際にはクアンスティータの宇宙世界の奥の奥の隔離された場所に居るとされているレインメーアとされるレインミリー(クアンスティータの元になった少女)の生まれ変わりの子供というのが最も確率が高いとされている。
 その場合、【トゥルフォーナ】や【クアトゥウス】よりも優れた後継者となるが、先の二例に漏れる事なく、これもレインメーアが隔離空間に居る以上、生まれても宇宙世界には出て来れないとして実現が無理だとされている。


004 オルオティーナ

 クアンスティータ・ファンクラブを統括する責任者であると同時にクアンスティータの乳母であり摂政でもあった古き者。
 その力は計り知れなく、有能な才覚も持っている。
 クアンスティータの後継問題を巡って頭を悩ませ、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に【遣上超使(けんじょうちょうし)】と呼ばれる超存在を作り出し、世界他外(せかいたがい)探査のために派遣する。
 今回、エクシトゥスと名乗る少女の出現によって転換期を迎えようとしていた。


005 遊浮(ゆうき)

クアンスティータの宇宙世界出身の勇者。
クアンスティータの宇宙世界を飛び出し、世界他外に挑戦するも、その圧倒的な力の前に冒険を断念する事になる存在。
エクシトゥスと名乗る少女によって、自分の未熟さを悟らされる。


006 【ケレファ・トゥムリメ777】(【トリプルセブン】)→【エクシトゥス】

【成り上がるクアンスティータ】となるために1233回目の改名した事によって【前々異名(ぜんぜんいみょう)】――【ケレファ・トゥムリメ】と呼ばれる様になった少女。
彼女は777番目だという事で、【トリプルセブン】とも呼ばれていた(本人はその呼ばれ方は好きじゃ無い)。
オルオティーナに世界他外の情報を持ち込んだとして、次の名前となる【ルウァラ・トゥルオス】と言う名前になる内定をもらう。
が、現界基準時における1年(地球時間での1年1ヶ月24日分)の猶予をもらう。
その間は、最初の名前であった【エクシトゥス】に戻り、冒険する事にした少女。
その力は【超吟侍】でさえ為し得なかった、世界他外の情報を複数持ってくるという事を実現したほど高い。
最強の存在となるべく頑張っているが、内心は不安だらけでもある。
クアンスティータで言う所の吟侍やカノンに当たる、クアンスティータの後継者にとっての精神的支柱を探そうとしている。