第四弾 ファーブラ・プエリーリス序章

第四弾挿絵

01 ファーブラ・プエリーリスの物語


 男の子はおばあちゃんの家に遊びに来ていた。
 おじいちゃんは既に他界していて、この家にはおばあちゃんしか住んでいない。
 おばあちゃんと男の子に血縁関係は無い。
 男の子はおばあちゃんが寂しそうだと思って毎日かよっていたのだ。
 おばあちゃんは毎回、男の子のお話を聞かせてくれる。
 男の子はそれが楽しみだった。
 特に、いつも、聞かせてくれる【ファーブラ・プエリーリスの物語】は大変、面白かった。
 その【ファーブラ・プエリーリスの物語】とは一体、どんなお話なのだろう?
 それは、永遠の子供――【ファーブラ・プエリーリス】という女の子を描いたストーリーだった。

【ファーブラ・プエリーリスの物語】序章――

 昔、昔、ある所に永遠の子供、【ファーブラ・プエリーリス】と呼ばれる女の子が居ました。
 【ファーブラ・プエリーリス】はお友達が出来ても、いつもお友達は成長して行って彼女から離れて行ってしまうので、いつも一人、残されていました。
 ひとりぼっちの【ファーブラ・プエリーリス】――
 寂しいよぉ――
 ひとりぼっちは嫌だよぉ〜……
 私はいつも一人。
 お友達を作ってもいつもお友達は大きくなって彼女の元を去って行ってしまう……
 どうすれば、お友達と一緒に居られるんだろう?
 そうだ、お友達を作って見よう。
 ずっと私と遊んでくれるお友達を作って見よう。
 どんなのが出来るかな?
 楽しみだなぁ……

 こうして、【ファーブラ・プエリーリス】はお友達を作ることにしました。
 お友達と言っても普通の人間のお友達を作ってもすぐに離れて行ってしまいます。
 なので、【ファーブラ・プエリーリス】は特別な力を持った特別なお友達を作る事にしました。
 【ファーブラ・プエリーリス】が作ったのは13体のぬいぐるみと24体の人形でした。
 13番目のぬいぐるみと24番目の人形は双子として作りました。
 さぁ、パーティーの始まりです。
 いつまでも終わらない。
 【ファーブラ・プエリーリス】とお友達のパーティーが始まります。

 だけど、それに嫉妬をする存在が居ました。
 人間達です。
 人間達は自分達が殺されるかも知れないと思って【ファーブラ・プエリーリス】に襲いかかりました。
 なんで?
 なんでなの?
 人間達はなんで私をいじめるの?
 前はあんなに仲良しだったのに……
 なんで?
 なんでなの?
 【ファーブラ・プエリーリス】は悲しみます。
 だけど、それに答えてくれる人は居ません。
 どこにも居ませんでした。
 【ファーブラ・プエリーリス】は人間達の世界とお別れする決心をしました。
 バイバイみんな――
 バイバイ人間達――
 【ファーブラ・プエリーリス】は人間のみんなにさよならを言いました。
 【ファーブラ・プエリーリス】は新たなお友達と別の世界で楽しむ事にしました。

 ――となっている。
 それから【ファーブラ・プエリーリス】と13体のぬいぐるみ、24体の人形との楽しい冒険が描かれる事になる。
 だが、結局、12番目のぬいぐるみと23番目の人形の話までしか語られる事は無かった。
 13番目のぬいぐるみ【アンスクティタ】と24番目の人形【レディカノン】という双子の話をする前におばあちゃんが亡くなったからだった。
 おばあちゃんが【とっておき】だと言っていた最後の双子の話――男の子は聞けずに終わってしまった。


02 ファーブラ・ローマーネンシスの物語


 少女は老人に攫われた。
 長い月日、少女の行方は解らず、両親は何度も少女を諦めかけた。
 せめて、遺体だけでも――そんな願いもむなしく月日は重ねられる。
 少女が救い出されたのはそれから数年経っての事だった。
 少女も大きくなり、見違える様に美しく成長していた。
 少女を攫ったのは一人の老紳士だった。
 一見、人格者の様に見えたその老人は少女に毎日、話を聞かせていた。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説を。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説は怖かった。
 幼かった少女には耐えがたい恐怖を感じさせる物語だった。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】は【ファーブラ・ローマーネンシス】という青年をモデルにした小説だった。
 【ファーブラ・ローマーネンシス】は一見、好青年だった。
 ちょうど、この話を聞かせている老紳士が若かりし頃の様に。
 何をやらせても完璧で、誰も悪く言う者は居ない――そんな青年として、物語の冒頭は描かれていた。
 非の打ち所のない完璧な青年――そう思って居たが、すぐに少女は崖から突き落とされた様な表情を浮かべる事になる。
 その【ファーブラ・ローマーネンシス】は恐ろしい青年だったからだ。
 【ファーブラ・ローマーネンシス】はちょっとでも悪事を働いた者を許さなかった。
 とことんまで追い詰めて、じわじわとなぶり殺しにする――そんな恐怖の物語だった。
 少女はトラウマとなった。
 トラウマとなってからも老紳士は話を続けていた。
 その話は【ファーブラ・ローマーネンシス】が自ら人間を地獄に落とすのに飽きて、自分の代わりに人間を恐怖のどん底に突き落とす7体の【殖死(しょくし)】と呼ばれるいわゆるゾンビの様な存在と17枚(種類)の【奈落のCD】を用意した。
 7体の【殖死】が被害者となる存在に17枚の【奈落のCD】の内の1枚を無理矢理聞かせるために現れ、始末していくという物語が淡々と語られていた。
 少女が助けられた時、老紳士は既に白骨化しており、少女がどうやって生き延びたかは不明となっていた。
 少女は重度のPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)となり、治療を余儀なくされた。
 少女はこの恐怖を忘れない。
 いつまでも。
 いつまでも。
 ……いつまでも。
 少女の悪夢は終わらない。
 彼女はいつまでも悪夢に苛まれる事になる。


03 ファーブラの物語


 男の子はおばあちゃんに【ファーブラ・プエリーリスの物語】という童話を聞かされ、
 少女は老紳士に【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説を聞かされた。
 一見、関係ない二つの出来事――
 だが、おばあちゃんと老紳士、【ファーブラ・プエリーリスの物語】と【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】にはつながりがあった。
 おばあちゃんと老紳士――それは【年寄りの神話】――【ファーブラ】の残党だった。
 全ての世界は【ファーブラ】と戦い、勝利した。
 だが、三部作と呼ばれている一つが無くなったに過ぎなかった。
 残る二つ――それこそが、【青年の小説】とされる【ファーブラ・ローマーネンシス】と、【子供の童話】とされる【ファーブラ・プエリーリス】だった。
 おばあちゃんと老紳士は【ファーブラ】の中のキャラクター【語り聞かせ】のメンバーだった。
 【語り聞かせ】は【ファーブラの物語】とされる物語の中にいる登場人物だった。
 【語り聞かせ】は100名の老人達で構成される組織で、【語り聞かせ】が語ったいわゆる【神話】が実在化して人を襲うという物語となっていた。
 いや、物語というよりは資料集の様なものだった。
 明確なストーリーが存在せず、【語り聞かせ】のメンバーの姿形やどの様な【神話】を聞かせるかなどが綿密に設定として描かれており、それを元にお話が作れるという状態のものだった。
 ある時、一人の魔道士が【ファーブラの物語】を奪い、それを実在化させた。
 それが、全ての世界と【ファーブラの物語】の登場キャラクターとの戦いの始まりだった。
 【ファーブラの物語】――特に【語り聞かせ】達の力は凄まじく、多くの犠牲を払った。
 だが、それでも一人、また一人と【語り聞かせ】を潰していき、ついには、【ファーブラの物語】の登場キャラクターのほとんどを倒す事ができたのだった。
 ついには、残るは、二人の【語り聞かせ】を残すのみとなった。
 その二人の用意した【神話】も底をつき、後は、始末すれば全ては終わる――そう思っていた。
 しかし、事はそう上手くはいかなかった。
 残る二人の【語り聞かせ】は三部作の残る二つ、【ファーブラ・ローマーネンシス】と【ファーブラ・プエリーリス】を奪って逃げたのだった。
 老紳士は【ファーブラ・ローマーネンシス】を、
 おばあちゃんは、【ファーブラ・プエリーリス】の物語を盗み、姿を消したのだった。
 そして、それぞれ、最後の力を振り絞り、二つの物語を語って聞かせたのだった。
 老紳士に【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】を聞かされた少女の名前は、【鈴原 六花(すずはら りっか)】、
 おばあちゃんに【ファーブラ・プエリーリスの物語】を途中まで聞かされた男の子の名前は、【植村 吟侍狼(うえむら ぎんじろう)】、
 二人は人生を三部作の物語に取り込まれたのだった。


04 その後の二人の言い争い


 物語に対する憧れと恐怖――
 それぞれの感情を抱いた二人はその後、成長した。
 六花は、同じ、三部作と縁がある吟侍狼の元を訪ねた。
 六花は吟侍狼に対して、
「おめぇか、あのクソ物語に熱を上げているっていうイカれ野郎ってのは?」
 と言った。
 彼女はすっかりやさぐれていた。
 三部作を潰す。
 それだけが、彼女が味わったトラウマを鎮めてくれる唯一の手段だとして、目についた有りとあらゆる力を身につけた。
 それは内に潜む、どうしようもない恐怖心から逃れる手段でもあった。
 それだけ、彼女にとっては三部作の一つ、【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】とは嫌悪すべきものだった。
 それに対して、吟侍狼は真逆だった。
 三部作の一つ、【ファーブラ・プエリーリスの物語】に憧れを抱き、【ファーブラ・プエリーリス】に会いたいと思うようになっていた。
 六花にとっては【ファーブラ・プエリーリス】も【ファーブラ・ローマーネンシス】と同じクソの様な物語として映っている。
 だから、それに憧れる人間が居るというのが許せなかった。
 なので、それに憧れている人間が居ると聞いて、いわゆる因縁をつけにやってきたのだ。
 吟侍狼は、
「もしかして、あのクソ物語っていうのは【ファーブラ・プエリーリス】の事を指しているのかい?だとしたら聞き捨てならないんだけどねぇ……」
 と不機嫌をあらわにした。
 吟侍狼にとっては、【ファーブラ・プエリーリス】は憧れの象徴でもある。
 【ファーブラ・プエリーリスの物語】は楽しさの象徴でもある。
 それを否定されるという事は吟侍狼の全人格を否定される様なものだった。
 なので敵意に対して敵意で答えたのだ。
 六花は、
「ふんっ……【ファーブラ・プエリーリス】ってのはガキが見るもんだろうが。んなもん、いつまでもご大層に憧れている奴っていうのがどんな小者か見に来てやったんだよ」
 と言う。
 吟侍狼は、
「僕の事は良い。どんな風に思われても。だけど、【ファーブラ・プエリーリス】の事は改めろ。あれは最高の物語だ。お前なんかに何が解るって言うんだ?」
 と返した。
 売り言葉に買い言葉。
 言い争いはエスカレートしていく。
 六花は、
「アタシは、【ファーブラの物語】みてぇに【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】もぶっつぶす。そいつが終わったら、次は【ファーブラ・プエリーリスの物語】の番だ。この世から三部作は全部消してやんよぉ」
 と言う。
 吟侍狼は、
「だったら、あんたと僕は敵同士だ。僕は【ファーブラ・プエリーリス】を守る。彼女は純粋な子だ。あんたなんかとは全然、違う」
 と言い返した。
 六花は、
「女に何、くだらねぇ理想像押しつけてんだよ。【ファーブラ・プエリーリス】もつまらねぇ雌豚野郎さ、へっ、ざまぁみろってんだよぉ」
 と言うと、吟侍狼は、
「訂正しろ。彼女は綺麗な心を持っているんだ」
 と怒鳴った。
 結局、二人の争いはそれを聞きつけた人達によって制止された。
 六花は、
「一昨日来やがれってんだ」
 と言い、吟侍狼は、
「勝手に来たのはあんただ、あんたが来るな」
 と言った。
 お互い引き離されても言い争いを止めない二人。
 水と油――そんな印象のある二人だった。
 初対面の印象は最悪――お互い吐き気を覚えるほど嫌い合った。
 六花は【ファーブラ】の次の脅威となりそうな【ファーブラ・ローマーネンシス】を追い、吟侍狼は【ファーブラ・プエリーリス】に幻想を抱いた。
 二人の人生は平行線。
 交わらない。
 同じ三部作への印象でもここまで真逆の印象を持った二人だった。


05 クイーンズ・イレブン


 六花は、吟侍狼の元を去って行った。
 そして、彼女の本拠地に戻る。
 彼女のホームは【クイーンズ・イレブン】と言う。
 三部作に対抗する全ての世界の勢力が11名の女王を見立て、そこに集う戦士達を求める広告塔とした。
 その11名の一人とされたのが、bP1の女王に選ばれた六花だった。
 【ファーブラ】との戦闘時はこれは【クイーンズ・エイト】と呼ばれていたが、その後、三部作の一つ、【ファーブラ・ローマーネンシス】と深く関わった六花を初めとして3名分、増えたのだ。
 そして、名称も、【クイーンズ・ナイン】、【クイーンズ・テン】と変わり、現在は【クイーンズ・イレブン】となったのだ。
 新しい女王に奉り上げられた六花だが、まだ、彼女に集う彼女のナイト達は少なかった。
 新しい女王なのだから、仕方が無い事なのだが、それでも、集う者が集まらない理由は彼女の素行の悪さが一つの原因となっていた。
 品位が無い。
 今までの女王の中で一番、女王らしくない。
 まるで悪党だ。
 ビッチだ。
 あばずれだ。
 知性の欠片も無い。
 女王じゃない。
 等々、彼女の悪評は後を絶たない。
 だが、六花はそんな事どうでも良かった。
 三部作さえつぶせればどうでも良かったのだ。
 だが、兵隊が少ないという事は活動範囲もそれだけ他の女王に比べて制限されるという事になる。
 そこで、彼女と同じ様に三部作と縁が深い少年、吟侍狼のスカウトに女王自らが出向いて喧嘩して帰って来たのだった。
 数少ない兵隊達が自分達もつきそう。
 自分達が行くなど意見を言ったのだが、全て却下。
「アタシの下につくってんならアタシのやり方に従えよ」
 と言ったのだった。
 それを言われてしまえば、兵隊達には従うより他、無かった。
 結果、彼女を一人で向かわせたため、交渉は見事に失敗したという事になったのだった。
 六花は、
「あぁ、クソがぁ、面白くもねぇ……」
 と言って、側にあった机を蹴った。
 評判通り柄が悪い。
 彼女を出迎えたのは彼女の懐刀でもある3人だった。
 名前は、
 【武藤 栄三郎(むとう えいざぶろう)】、
 【米田 翔真(よねだ しょうま)】、
 【倉田 一朗太(くらた いちろうた)】と言う。
 彼らは【六花の親衛隊】と呼ばれている。
 六花軍には将軍4名、隊長16名の幹部達が居るが、【親衛隊】の3名はそれとは別の所属――六花直轄となる。
 栄三郎は、
「六花さん、だから言ったんですよ。我々に任せてくださいと」
 と小言を言う。
 六花は、
「うるせぇな。栄三郎。アタシはあの野郎とはソリが合わねぇんだよ。だからあの話は無しだ」
 と答える。
 翔真は、
「六花さん、端っから喧嘩腰なんだよ。あれじゃあ、まとまる話もまとまらないよ」
 と言うと、六花は、
「翔真、てめぇ、見てたのか?」
 と怒鳴り散らす。
 ついてくるなと言ったのについてきた事に怒っているのだ。
 翔真は、
「ついて行ったのは謝るよ。だけど、あれじゃあねぇ……」
 と言って両手をあげてため息をつく。
 一朗太は、
「植村 吟侍狼……あの男は戦力になる……それだけは間違い無い」
 と言うと、六花は、
「うっせぇな、一朗太。だったら、てめぇでやってこい。アタシは降りた」
 と言った。
 栄三郎は、
「短気は損気ですよ。もう少し、冷静になってください。【ファーブラ・ローマーネンシス】に関わりがある六花さんよりも、確実に【ファーブラ・プエリーリス】に関わりがある彼の方が大きな力を持っているのですよ。三部作最強――【ファーブラ・プエリーリス】それと深く関わっているという事はそれだけで特別なのですよ。彼を戦力として加えないのはあり得ません」
 と彼女をたしなめた。
 六花の原動力は【怒り】と【恐怖からの回避】だ。
 だが、この二つの行動原理だけでは足りない。
 強い気持ち、【憧れ】を持っている吟侍狼の力を実力不足の【六花軍】としては強く欲していた。
 【六花軍】の現在の戦力はとても足りない。
 敵に対して、四将軍の内、三将軍が負傷。
 隊長も13人が負傷中だった。
 つまり、現状ではほとんど【六花軍】として機能していなかった。
 こうしている間も、【六花軍】の兵隊達は次々と敵の襲撃にあい、戦線離脱を余儀なくされており、中には裏切り者まで出る始末だった。
 このままでは【六花軍】はスピード消滅する可能性があった。
 早くも上層部では彼女には無理だ。
 彼女には荷が重かった。
 彼女は役不足だ。
 彼女は使えない。
 等の声が次々と上がっていたのだ。
 三部作への【怒り】だけではどうにもならないという事を不本意ながら証明しかけているのだった。
 だからこそ、兵力の増強が必要だった。
 それもただの増強じゃない。
 新たなるカリスマ性を示す必要があった。
 ではどうやって?
 彼女は女王とは思えない品の無い性格をしていた。
 なので、彼女に新しいカリスマ性を示せと言われてもそれは無理な相談だった。
 だからこそ、彼女に関わる別の何かで新たなカリスマ性を示す必要があった。
 そこで目をつけたのが、彼女と同じ様に【ファーブラの物語】の残党、【語り聞かせ】から物語を聞いた吟侍狼に目をつけたのだ。
 彼を【六花軍】の二大カリスマに据えて、【六花軍】をもり立てようと言う目論見は見事に六花自身の手によって台無しにされたのだった。
 このままでは【六花軍】は空中分解の危機となっている。
 なんとかしなくては……
 だが、打つ手は今の所、無かったのだった。
 今となっては配下の誰もが、
(彼女に女王は無理だったのか……)
 と思うようになっていた。
 それは親衛隊の気持ちも同様だった。
 いつ、彼女に三行半をつきつけて【六花軍】を去るか解らない状況だったのだ。
 【六花軍】の大ピンチ――
 彼女はそれを自覚していても、急に彼女の性格は変えられない。
 彼女は彼女の信じる道を進むしか無かった。


06 ひとりぼっちの六花


 【六花軍】が崩壊するまでそれほど時はかからなかった。
 【六花軍】の幹部達の側には、【殖死】達が近づいて来ており、その死の色香に惑わされた幹部達は次々と六花の前から姿を消して行った。
 気づいた時には、【六花軍】はその大半が【殖死】達の虜となりはてていた。
 【六花軍】約6千名は一夜にして、全滅した。
 最後の砦だった【親衛隊】達からも、
「あなたが悪いんですよ」
「バイバイ女王様」
「さらば……」
 と別れの言葉が突きつけられる。
 今まで彼女に従ってやってきた6千名の兵隊達はそのまま、彼女の敵に回った。
 たった一人残される六花。
 そこには味方と呼べる者は誰も居ない。
 相談できる者も全く居なかった。
 全ては部下に見限られた彼女の責任でもある。
 責任ではあるのだが、彼女は納得しなかった。
 それでも、今まで味方だと思っていた存在が、全員、屍(しかばね)――敵、【殖死】の傀儡(かいらい)になりはてた時、彼女はこれまでの行動を後悔した。
 後悔先に立たず――今となってはどうしようも無い。
 敵に寝返った6千名の裏切り者達は他の女王の軍達が代わりに始末してくれた。
 何も出来ずにたった一人残される六花。
 【クイーンズ・イレブン】の女王軍は基本的に女王が死亡しない限りは崩壊とはならない。
 それが、女王ただ一人が残ったとしても、女王軍は生きていると判断される。
 それは女王さえ生きていれば、また、兵隊は増やせるからだ。
 女王はそのために存在している。
 だから、【六花軍】は六花一人となってしまったが、まだ生きているとされていた。
 六花は、
「くそったれが……ちくしょう……諦めるもんか……」
 という台詞を残し、姿を消した。
 女王が行方不明の場合、半年で死亡扱いとなる。
 六花に残されたのは、そのタイムリミットまでの半年間という時間だ。
 それ以降に立て直したとしても、彼女はもう女王とは認められない。
 一度、女王の座から降りた者は二度目の女王復帰は基本的にあり得ない。
 女王として、再び、活躍するには半年後までに姿を現さなければならなかった。
 六花はひとりぼっち。
 誰も味方が居ない。
 その状態で再び這い上がるための行動を取るのだった。
 何が自分に出来るのか?
 それを考え、その出来る事から一つ一つ始めよう。
 六花は腹をくくった。
 三部作を潰すためなら何でもやってやる。
 例えどんな事をしてでもだ。
 六花は泥水をすするつもりで行動を開始した。


07 六花と吟侍狼


 六花は仲間を探さなかった。
 あくまでも一人で【殖死】や【奈落のCD】と戦った。
 仲間は居なくても彼女は自力で身につけた力がある。
 その力だけで、【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】の中のキャラクターと戦った。 対する【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】のキャラクターは【殖死】と【奈落のCD】だけでは無かった。
 物語では、【ファーブラ・ローマーネンシス】は七つ道具として【殖死】と【奈落のCD】を使っていた。
 つまり、他に五つ、何かが存在するのだ。
 残念ながら、六花が読んで聞かされた【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】はそこまで語られ無かった。
 だが、他に五つ、【ファーブラ・ローマーネンシス】が用意するという所まではわかって居た。
 他にも七つ道具には含まれないが様々な悪鬼羅刹、妖怪、モンスターに至るまで【ファーブラ・ローマーネンシス】は使役したと語られている。
 六花が倒して行ったのはその七つ道具に含まれない有象無象の怪物達だった。
 だが、そのような雑魚をいくら倒した所でそれらはいくらでも後から後から増えて来る。
 七つ道具を潰さなければ【ファーブラ・ローマーネンシス】を潰した事にはならなかった。
 疲弊する六花。
 ついには数に押し切られて追い詰められてしまった。
 絶体絶命の大ピンチ――
 彼女を救うナイトは現れないのか?
 彼女は自身の最期を覚悟した。
 そんな時、
「あんたに手を貸すのは不本意だけど、手を貸してあげるよ。あんたが嫌いな【ファーブラ・プエリーリス】はたった一人で困っている人を見ると助け船を出す女の子なんだ。だから、僕もあんたを助ける。だけど、勘違いしないでくれ。僕はあんたを認めた訳じゃ無い。僕の中の正義に――憧れの【ファーブラ・プエリーリス】の考えに従うだけだ。あんたは関係ない」
 と言う声が響き渡った。
 吟侍狼だった。
 彼が、たった一人で戦っている頑固者、六花のピンチを見つけて救いの手をさしのべてきたのだった。
 六花は、
「けっ、誰がてめぇの手なんざ借りるかよぉ」
 と悪態をつく。
 だが、気持ちとしては九死に一生を得た気持ちになっていた。
 認めたくないが、吟侍狼は六花がスカウトに行くだけあって、その力には期待が持てる。
 吟侍狼は、
「だから、君なんかどうでも良いって言っているだろう。僕は僕のやりたい事をやりに行くだけだ。そこにたまたま、あんたが居ただけだ。勘違いしないでくれ」
 と言う。
 六花は、
「消えな。ここはてめぇみたいなお子様野郎がなんとか出来るような戦場じゃねぇんだよ。役立たずはすっこんでな」
 と言う。
 気持ちとは裏腹に考え方の違いからやはり吟侍狼を拒否してしまう。
 吟侍狼は、
「嫌だね。僕はあんたを助ける。そして悔しがらせる。僕はあんたが嫌いだ。だから、あんたの言う事なんかに従ってやるもんか」
 と言い、六花は、
「あぁ、そうかよ。勝手にしな」
 と答える。
 吟侍狼は、
「あぁ、勝手にさせてもらうよ。あんたより手柄を立てて、あんたを悔しがらせてやるよ」
 と言い、六花は、
「ざけんな。アタシはてめぇより多くの敵をぶったたいてやんよ。悔しがるのはてめぇの方だ」
 と言った。
 この二人、意見は全く合わないが、どうやら協力して戦う事に決めたようだ。
 一時間後、敵は一掃される。
 それを確認した吟侍狼は、
「僕の方が1人多く倒した」
 と言い、六花は、
「あぁ?寝ぼけてんのか、てめぇ、アタシの方が一人多く倒してんだよぉ」
 と返す。
 吟侍狼は、
「あんたは数もまともに数えられないのか?僕の方が確実に一人多く倒してるんだ」
 と言うと、六花は、
「ふざけろよ、てめぇ。数字に弱えぇのはてめぇの方だろうが、アタシはちゃんと数えていたんだよ」
 と返す。
 二人の言い合いは終わらない。
 喧嘩するほど仲が良いと言う言葉もあるがこの二人に当てはまるのかどうか――
 六花は、悩む。
 このまま、吟侍狼を帰したら、彼女はまた、一人に逆戻りだった。
 【ファーブラ・ローマーネンシス】と戦うには戦力が居る。
 ただ、数だけ居てもそれは意味をなさない。
 吟侍狼の様な実力者が必要なのだ。
 そこで、六花は、
「……じゃあ、百歩譲っててめぇの方が一人多く倒した事にしてやんよ。その代わり、てめぇはアタシの下僕だ。それで良いだろう?」
 と言う。
 吟侍狼は、
「言い訳あるか。そんな条件飲める訳ないだろう。僕が一人多く倒しているのは間違い無いんだ。僕は人助けで君に協力してやった。それ以上でもそれ以下でもない。間違えるな」
 と言い、六花は、
「ざけんなっつってんだろうが、てめぇはつくづくムカつく野郎だなぁ。てめぇを下僕として使ってやるっつってんだから、素直に受ければ良いんだよ」
 と言った。
「解らない人だなぁ、僕は人助けとして君に協力してあげるって言ったんだ。君の下僕になんかなるつもりはない。間違えるな」
「てめぇなんざ、下僕で十分なんだよ。下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、下僕、はい、決まり、てめぇは満場一致で下僕に決定。はい、決まった」
「満場一致ってあんたしか居ないじゃないか。たった一人で可哀想だから僕が情けをかけてあげるんだ。それが解らないのか?」
「情けをかけてあげるだぁ?誰がそんな事頼んだよぉ〜アタシは一人でもやれるんだよぉ。だけど、てめぇが物欲しそうに見てっから協力させてやろうってんだ。それくらい理解しろや、こらぁ」
「寂しいなら寂しいと言えよ、このひねくれ者。あんたがひとりぼっちで寂しそうにしてたからお情けで協力してあげるんだよ。間違えるなと何度も言っただろう。どこまで分からず屋なんだ、あんたは」
「なんだとこら、やんのかてめぇ」
「望むところだよ。白黒つけようじゃないか」
 等々、言い争いは続いた。
 結局二人とも協力し合うという事を言っているのだが、それぞれの立場で物を言っているので意見がまとまらない。
 水と油――男と女――吟侍狼と六花――二人はどこまでもわかり合えないでいた。
 わかり合えないままだが、とにかく、協力しあうという事にはまとまった。
 こうして、たった一人となった【六花軍】は一人から二人に増えたのだった。
 六花にとっては下僕を増やした事になり、
 吟侍狼にとっては哀れな女に協力してあげた事になった。
 協力し合うという意味では一緒だが、その意味合いが双方の解釈で全く異なっていた。
 いつしか、ののしり合うのにも飽きた二人は、
「とりあえず協力者って事にはしといてやるよ」
「最初からそう言えばいいだよ……」
 という台詞を最後に黙り込んだ。
 結果的に六花が少し折れた感じになった。
 自分中心で生きてきた六花にとっては少し成長したと言える事だった。
 吟侍狼と六花――新たなコンビが誕生した。
 意見は全く合わないがそれでも協力する二人。
 共に三部作に縁が深くても考え方はまるで違う。
 この先、どうなるかは全く見えて来ないがとにかく、【六花軍】は再起した。
 六花は【六花軍】の復活を宣言。
 【クイーンズ・テン】に戻ってしまう危機は回避したのだった。


08 後片付け


 とりあえず、仲間として受け入れた六花は吟侍狼を【六花軍】に向かい入れた。
 向かい入れたとは言っても、この本部には六花と吟侍狼しか居ない。
 これから何の行動を取ろうにも、二人から始めないと行けないのだ。
 吟侍狼は、
「何もないんだな……」
 とつぶやいた。
 本部はかつての仲間達に裏切られた状態のまま、散らかっていた。
 六花は片付けるという柄ではないので、そのままにしてあったのだ。
 多くの部下がここで会議などを開き、対三部作に対して、色々と議論していた。
 幹部達は全て姿を消し、他の【女王軍】に始末されてしまった。
 ここには辛い思い出以外、何も残って居なかった。
 吟侍狼は、
「汚いな……まずは片付けから始めないとな……」
 と言って掃除を始めた。
 六花は、
「けっ、そんなもんほっとけってんだよ」
 と言うが、吟侍狼は、
「こんな状態のままだから、心が荒むんだよ」
 と言った。
 六花は、
「あぁ、喧嘩売ってんのか、てめぇは?」
 と凄んでみせる。
 口を開けば喧嘩、喧嘩、喧嘩。
 六花と吟侍狼はどこまでも意見が合わない。
 吟侍狼は、
「売ってないよ。あんたが勝手に怒っているだけだ」
 と言う。
 あくまでも自分は冷静で、六花の方が勝手に怒っているとでも言いたげだった。
 だが、客観的に判断すれば、吟侍狼の言葉にもトゲがある。
 どっちもどっち。
 どちらも大人になりきれていないからこそ、口汚く、ののしり合う事になる。
 六花は、
「アタシは片付けねぇからな。これは裏切りもん共が勝手に散らかしたんだ。アタシじゃねぇ。だからやるいわれはねぇ」
 と言った。
 吟侍狼は、
「それを言うなら僕にも片付けるいわれはないんだけどねぇ。だけど、片付け無いと心が荒れる。だから片付けるんだ。片付け無いのならかまわない。僕だけで片付ける。その代わり、僕がここの責任者だ。文句は言わせない」
 と言う。
 六花は、
「あぁ?ざけんなっつってんだろう。アタシも片付けんよ。だからアタシが責任者だ。リーダーだ。文句はねぇだろ」
 と言って片付け始めた。
 吟侍狼一人に片付けさせたら、主導権を奪われると思った六花は慌てて片付け始めた。
 相変わらずぶつかってばかりの二人。
 だが、ぶつかる事によって、少しずつ前進していった。
 まずは、【六花軍】本部の後片付けから。
 ただ、片付けただけ。
 だが、これも前進だ。
 前に進んだ事には変わりが無い。
 黙々と片付ける二人。
 お互い一緒に居るだけで、ムカムカする。
 出来れば一緒に居たくない。
 だけど、二人は共に居る。
 何となく、そうしなくてはならない気持ちになっていたからだ。
 世の中が荒れるのは二人とも好きじゃ無い。
 その事では意見は一致している。
 だけど、二人は素直じゃ無い。
 お互いを認めるという懐の深さが不足している。
 二人はまだ未熟である。
 冷静になれば、自分の非も少しは理解できるのだが、二人が目を合わせると素直になれなかった。
 会うと喧嘩をしてしまう。
 そんな二人だった。


09 ほんの少しの歩み寄り


 お互いにムカつきながらも吟侍狼と六花は【六花軍】本部の掃除を終えた。
 さて、ここからが、軍の立て直し作業となる。
 まずは、仲間を集めなければならない。
 たった二人では【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】の勢力には勝てない。
 今までの様に他の【女王軍】のお荷物【女王軍】でいるしか無い。
 六花女王には仲間が必要だった。
 敵と戦うための兵力が。
 だが、今はそれを探すつてが無い。
 今できる事――それは生活を安定させて、敵と戦う準備を整える事だ。
 吟侍狼は【六花軍】に来た事で引っ越しをする事になる。
 この地に慣れなくてはならない。
 六花は色々と親切に案内してくれるというタイプではないので、彼は自分で、この地の事を知らねばならない。
 そう、思って居たのだが、六花は、
「ここ、知らねぇんだろ?案内してやんよ、感謝しろよ」
 と言った。
 吟侍狼は、
「意外だな……」
 と言うと、六花は、
「うっせぇ。てめぇに案内もろくにできねぇと見下されるのが嫌なんだよ」
 と言った。
 吟侍狼は、
「じゃあ、案内してもらおうじゃないか」
 と言うと、六花は、
「黙って、ついてこいよ」
 と言って案内を開始した。
 相変わらず仲が良いとは言えない関係。
 仲は決して良くは無いが、少しは歩み寄らなければ【六花軍】は成立しない。
 六花はこんな奴に頼らなければならないのが悔しい。
 吟侍狼は何故、名称が【六花軍】何だという不満がある。
 二人はそれ以外にも色々と不満を持っている。
 だが、それは今は飲み込んで行動を共にした。
 六花にとっては本当に憎むべきは吟侍狼ではなく三部作。
 吟侍狼にとってはこの分からず屋に【ファーブラ・プエリーリス】の良さを教える事。
 それまでは出て行けない。
 だから、一緒に居る。
 嫌々だけど、一緒に居た。
 六花は、近くの町を案内した。
「ここのばあさんはしみったれてんだ。アタシがまけてくれっつってもぜってぇまけねぇし」
 と言う、案内というよりは愚痴の様なものだった。
 吟侍狼にとっては、
「当たり前じゃないか。向こうも商売でやっているんだ。そんなに簡単にオマケしたら商売あがったりだ」
 というツッコミは思いつくのだが、案内されている身なので、言葉を飲み込んでいた。
 だが、それだけでストレスだった。
 こうして、案内――とは呼べない案内は一通り行われた。
 吟侍狼は後で挨拶をし直そうと思うのだった。
 このままでは六花と一緒に居て、印象は最悪だ。
 自分はこんなんじゃないと証明して行かなければならないと思うのだった。


10 吟侍狼対六花


 六花による【六花軍】のお膝元の説明も終えた所で、次にするべき事――
 それは六花と吟侍狼――この二人のどちらに主導権があるかというものを決めるという事だ。
 このまま、意見が平行線をたどっていてはまとまるものもまとまらない。
 多少の優劣だけでも決めておこうかという事になった。
 手の内、全てを見せる必要は無い。
 お互い、一種類だけ、手の内をさらし、それで勝負をつけるというものになった。
 勝敗は――
 相手が降参した場合。
 相手が二つ目以上の手の内を見せた場合。
 相手が気絶した場合(相手を殺してはならない)。
 相手を行動不能にした場合。
 等だ。
 どの力を示すかで結果は変わってくる。
 お互い、どのような力を使うかを宣言して、その力を説明して戦う。
 時間無制限一本勝負で決めるというものになった。
 六花は、
「じゃあ、アタシから説明するぜ。アタシが使うのは【ケンヨー】って武器だ。武器のイメージは【剣玉】と【ヨーヨー】から来ている。【剣玉】の部分は原型をとどめてねぇが、先端の六つに広がった【シリンダーソード】って言う突起物にヨーヨーの部分をぶつけて放す事によって六種類の属性の攻撃特性をヨーヨーに持たせる武器だ。こいつがアタシの得物さ。ぶっつぶした敵は三桁じゃ収まらねぇ」
 と言った。
 対して吟侍狼は、
「ふぅん……じゃあ、僕は【チアフォロワーシステム】を使わせてもらうよ。これは異世界に居るチアガールのフォロワーを集める力だ。フォローしてくれるチアリーダー達が、僕の使う力を集めてくれる。今回の戦いでは一から集めるよ。今までのフォロワーが居る【アクション・チャンネル】とは違う【アクション・チャンネル】を開設する。【アクション・チャンネル】って言うのは僕の行動に関する事で、行動毎に別のチャンネルを作っている。僕が行うその行動に対して賛同してくれる【チアフォロワー】が僕に力を貸してくれるって力だ。今まで使っていた【アクション・チャンネル】はどれも、今回の行動とは異なるし、既に集めている【チアフォロワー】の力を使うのはフェアじゃない。戦いながら【アクション・パッド】を使って集めるよ」
 と言った。
 六花も吟侍狼もオリジナル武器を使うという事になる。
 場所を戦いやすい体育館に移動し、二人は対峙する。
 お互いにらみ合う。
 二人ともお互いを傷つけるのに何の躊躇もない。
 だが、気にくわなくても二人は一応、仲間という事になっている。
 だから、やり過ぎない様にしなくてはならない。
 加減も必要なのだ。
 その辺りが難しいところだった。

 戦いの火ぶたを切ったのは六花だった。
 【チアフォロワー】を一から集める吟侍狼はどうしても動作が遅れる。
 【チアフォロワー】が最低でも一人集まるまでは彼は逃げ回るしかない。
 六花は、
「くたばれやぁ〜」
 と品の無い事を言う。
 もちろん、本当に【くたばれ】という意味では無いのだろうが、敵と認識した相手に発するかけ声の様なものだ。
 ヨーヨーの部分が、伸び縮みして、【シリンダーソード】にぶつかっては別の属性を帯びた状態で、敵対者である吟侍狼の元に向かって行く。
 そのぶつかった形跡から、六つの属性はそれぞれ、火、氷、雷、毒、溶解、爆発特性を持っている様だ。
 六花は、
「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれ……そら、どうした、いくぜ、おらぁ〜」
 と叫びながら攻撃の手を緩めない。
 吟侍狼は防戦一方だった。
 彼はまず、この戦いを【チアフォロワー】を集めるために説明しなくてはならない。
 【アクション・パッド】で、現在の戦いを撮影し、
『彼女との戦いでみんなの助けが欲しい。何か良い力はないでしょうか?』
 という文章を作って【オムニネット】に上げた。
 すると、それに賛同する声がポツポツと集まって来た。
 吟侍狼は六花の猛攻を避けながら、【アクション・パッド】に集まって来た【チアフォロワー】達が提示した力の説明を読んでいく。
 ずら〜っと能力が並ぶ。
 これだけあれば壮観だという感じもするが、ただ、あってもダメだ。
 その中から使える力を選ばなければならない。
 一つの行動で、呼べる【チアフォロワー】の数は現在の所、10名までだ。
 同じ【チアフォロワー】が別の力をいくつか提示してくれれば、別だが、基本的には10名という事は10種類の力までしか使えないというのが実状となる。
 他の行動であれば、裏技を使い、呼び出せる【チアフォロワー】の数を20名とか30名に増やしている行動もあるが、一から集めている、【対六花戦チアフォロワー】は最低条件の10名までとなっている。
 吟侍狼は、パパッと見て、使えそうな10種類10名の【チアフォロワー】を呼び出した。
 すると、【アクション・パッド】から、チアガール姿の10名の女の子が現れる。
 と、同時に、吟侍狼はこの出現した10名の女の子が持ってきた力を使える様になるのだ。
 これが【チアフォロワーシステム】という力だった。
 残念ながら、これに使えるのはあらゆる世界の若い女の子に限定される。
 例えば、屈強な男性が特別な力を持っていても【チアフォロワーシステム】には登録されないのだ。
 あくまでも、【若い女の子】であるという事。
 一つ以上の【特別な力】を提供出来るという事。
 吟侍狼の居る場所に応援(チアガールとして)に来てくれる事。
 の三つの条件をクリアしていないと使えない力だった。
 つまり非情に限定的な力で決して万能では無いのだ。
 この力を使った結果、吟侍狼が六花を絡め取った所で彼女が動けないため、吟侍狼の勝利――という事になったのだったが、六花は、
「こんな力、認めねぇ。このナンパ野郎が。無効だ無効」
 と抗議した。
 六花にとってはこの力が若い女の子に限定されているというのが面白く無かったのだ。
 黄色い声援で、キャーキャー言われている吟侍狼を見て戦う気持ちがそがれたと抗議したのだ。
 吟侍狼は、
「何、言ってんだよ。勝ちは勝ちだよ。最初に約束したじゃないか。武器を一つ選んで行動不能にしたら勝ちだって」
 と言うが、六花は、
「なよなよした力に負けるってのが納得いかねぇんだよ」
 と言う。
 吟侍狼は、
「今、負けるって認めたじゃないか」
 と言うが、六花は、
「うるせぇ、言葉のあやだ。こんな戦い認めねぇ」
 と言う。
 吟侍狼は、
「男らしくないぞって、あんたは女の子だったな。すっかり忘れてたよ」
 と言うと六花は、
「ぶっ殺す。こいつをほどけ」
 と言った。
 やっぱりどこまで言っても二人の仲は悪かった。
 だが、この二人は三部作と向き合っていかねばならないのだ。
 まとまらないまま時間が過ぎていく。
 二人の仲は良くならない。


 続く。








登場キャラクター説明

001 植村 吟侍狼(うえむら ぎんじろう)

 この物語の主人公。
 おばあちゃんに【ファーブラ・プエリーリスの物語】という童話を聞かされて以降、【ファーブラ・プエリーリス】に憧れる様になる。
 【ファーブラ・プエリーリス】の影響で数々の秘技を会得している実力者。
 今回はその内の一つ、【チアフォロワーシステム】という全ての世界【オムニネット】の若い女の子で、特殊な力を持っていて、応援に来てくれるという条件を全て飲める存在という限定的な条件でのみ、【チアフォロワー】と呼ばれる女の子から力を譲り受ける事が出来るという力を使った。
 この力は【アクション・パッド】という板を使って使う事が出来る。
 【ファーブラ・プエリーリス】に絶対の信頼を持って居て、この【ファーブラ・プエリーリス】の悪口を言う者を嫌う。
 少々、融通が利かない性格でもある。
 六花とは犬猿の仲となる。


002 鈴原 六花(すずはら りっか)

 この物語のもう一人の主人公。
 老紳士に【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説を聞かされてその恐怖の物語にトラウマを覚える。
 全世界の勢力をまとめた11人の女王、【クイーンズ・イレブン】の一人に抜擢されるも素行の悪さから失格女王などの陰口をたたかれている。
 6千名の部下が敵の手に落ち、全員に裏切られ、【六花軍】は全滅する。
 【六花軍】復活のためにソリの合わない吟侍狼と手を組む事になるが喧嘩してばかり。
 気が荒く、女の子とは思えない言動を使う。
 彼女も数々の力を身につけていて、その内の一つが【ケンヨー】と呼ばれる剣玉とヨーヨーからヒントを得た武器を使う事。
 【ケンヨー】は先端に6又に分かれた【シリンダーソード】にヨーヨーの部分を当てる事により、火、氷、雷、毒、溶解、爆発という六つの特性をヨーヨーに持たせて攻撃する事が出来る。


003 おばあちゃん

 吟侍狼に【ファーブラ・プエリーリスの物語】を語って聞かせた老婆。
 正体は三部作と呼ばれるものの一つ、【年寄りの神話】とされる【ファーブラの物語】に登場するキャラクター――100名いた【語り聞かせ】の残党。
 【語り聞かせ】は神話を現実化させる力を持っていた。
 彼女の力は既に底をついていたが、三部作最強とされている【ファーブラ・プエリーリスの物語】を奪って逃げていた。
 吟侍狼に【ファーブラ・プエリーリス】のお友達、13体のぬいぐるみと24体の人形の話を聞かせていたが、双子という設定でとっておきと言っていた、13番目のぬいぐるみ【アンスクティタ】と24番目の人形【レディカノン】の話をする前に絶命する。
 吟侍狼にとっては優しいおばあちゃんとして映っていた。
 夫が居たとされているがその真偽は不明。
 本名も不明。


004 老紳士

 幼い頃の六花を攫った老紳士。
 人格者の様な容貌とは裏腹に六花に恐怖の物語でもある三部作の一つ、【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】を語って聞かせて、彼女のトラウマとする。
 正体は三部作と呼ばれるものの一つ、【年寄りの神話】とされる【ファーブラの物語】に登場するキャラクター――100名いた【語り聞かせ】の残党。
 【語り聞かせ】は神話を現実化させる力を持っていた。
 彼の力は既に底をついていたが、三部作の二作目とされている【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】を奪って逃げていた。
 六花が救い出される頃には彼は白骨化した遺体となっていた。
 本名は不明。


005 ファーブラ・プエリーリス

 三部作と言われる三つの作品の中で最強とされる【ファーブラ・プエリーリスの物語】の主人公とされる永遠の子供である少女。
 人間の事が大好きだったとされるが、人間は成長して彼女の元を去って行くため、彼女は代わりに特別な力を持った13体のぬいぐるみと24体の人形をお友達として作る。
 だが、それに恐怖した人間達は彼女を追い出し、彼女は人間と別れを告げ、別の世界で新たなお友達と共に幸せに暮らしていると童話では描かれている。
 ひとりぼっちを見るとつい、助けたくなる性格だとされている。
 主人公、吟侍狼の道しるべ的存在となっている。
 【ファーブラ・プエリーリス】の物語は別名、【子供の童話】と呼ばれている。


006 ファーブラ・ローマーネンシス

 三部作の第二作と言われる【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】と呼ばれる小説の主人公(?)とされる青年。
 品行方正と思われていたが、実は少しの悪も許せない性格であるとされていて、彼が目をつけたターゲットは作中でむごたらしい最期を迎えるとされている。
 七つ道具と呼ばれる彼の手足が作中のキャラクターに恐怖を運ぶ。
 七つ道具の内、二つは【殖死(しょくし)】と呼ばれる7名のゾンビの様な少女達と【奈落のCD】と呼ばれる17枚(種類)の不幸を作るCDとされる。
 残り5つについては不明。