第七弾 プハンタシア・クアンティタース 序章 後編

第七弾後編挿絵

00 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の後継者への手紙

 クアンスティータを引退に導いた芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)とカノン・アナリーゼ・メロディアスのカップル――
 クアンスティータの後継者問題が浮上するに当たって彼らの戦いの舞台への再参戦はあるのだろうか?
 先の事は解らないが、答えは一応、ノーである。
 芦柄 吟侍は自分の後継者となるべく存在への手紙を用意していた。
 クアンスティータの乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあったオルオティーナは尋ねる。
「芦柄 吟侍――お前ほどの男――そのままに、しておくのは惜しい。
 どうじゃ、妾の元で働かぬか?
 お前になら特別待遇を用意出来るが?」
 と。
 吟侍は、答えた。
「やめとくわ。
 おいらはそんな柄じゃねぇし、クアースリータとクアンスティータ――今は、くあすとくあんだけどな。
 この手のかかる双子を育てなきゃなんねぇし。
 おいらはそれで手一杯さ。
 どうしてもってんなら、おいらの後継者への手紙かなんかを用意しようか?」
 と。
 オルオティーナは、
「手紙?後継者が見つかったのか?」
 と尋ねると、吟侍は、
「いや、見つかってねぇよ。
 そもそも、おいらの後継者なんて必要かどうかもわかんねぇしな。
 だけど、クアンスティータの後継者にとってのおいらの役割を果たす存在がいるかも知れねぇなら、おいらの【答えの力】で、手紙を書くさ。
 【答えの力】は知ってるだろ?
 答えを探す力だ。
 為すべき形に変化する無形の力で、どんな形態にも変化する力だ。
 投げ技にもなれば、打撃技や放出系にもなる。
 効果も求める結果によって変わる力だ。
 当然、手紙を書くのにも利用出来る。
 ってことで、おいらの後継者っていう答えを手紙にして書いておくよ」
 と言った。
 そう言うと、吟侍は早速、【答えの力】を使っての筆記を開始した。
 吟侍は、
「まぁ、クアンスティータの後継者は探せねぇけど、おいらの後継者くらいなんとか見つかるだろ……どれどれ、うーん……3……人……ってとこかな?一人目は……何か暗い奴だな?
 悩み事が多そうだ。
 二人目は……琴太兄(きんたにい)見たいな感じかな?
 曲がった事が大っ嫌ぇな、猪突猛進型って感じだな……
 三人目は……うーん……つかみ所のねぇ、何考えてっかよく解んねぇタイプってとこか?
 んじゃまぁ、そいつらに向けて送信……っと」
 と言ってすらすらと手紙を書いた。
 そして、書き終えると、
「おいらが用意した手紙は三通だ。
 その時が来たら、おいらが書いた手紙がそいつらに届く様にはした。
 まぁ、何もねぇ事に越した事はねぇけどな。
 一応書いといたぜ。
 じゃ、後よろしく」
 と言って、帰って行った。
 オルオティーナは、
「三通……つまり、三名おるという事じゃな?」
 とつぶやいた。
 吟侍はその後継者達の簡単な性格もつぶやいていた。
 それは良いヒントになるだろう。
 オルオティーナは大きな仕事を一つ追加する事にした。
 クアンスティータの後継者探しの次に重要な事として、芦柄 吟侍の後継者探しも追加したのだった。


01 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の後継者1 未知御 終主(みちお しめす)の物語――僕自身の問題だ


「う、うう……ううう……」
 未知御 終主(みちお しめす)は呻いた。
 いわれの無い暴力を受けたからだ。
 フとした事から彼が特別な力を手にしたという噂が広まり、それを求めるならず者達が彼に因縁をふっかけて来て、詫びとして、その手にしたという力をよこせと言ってきたのだ。
 理不尽な要求だった。
 終主はもちらん、断った。
 理由はもちろん、そのならず者が自分が手にした力を使うのにふさわしくないと思っているからだ。
 その力は何も考えて居ないような存在が、
 ただ、自分の欲望のためにしか行動していないような存在が、
 ろくに責任も取れないような愚か者が、
 遊び半分に手にして良い力では無い――終主はそう思っている。
 この力は軽はずみに使って良い力ではない。
 彼はそう思っている。
 出来れば使わずに人生を終わりたい。
 使わずにすんで人生が終わるのなら、それもまた良し。
 だが、一度でも使えば、彼の運命は流転する。
 だから、その力を使えば、この様なならず者ごとき、瞬殺出来るにも関わらず、彼はその力を使わない。
 それは彼が掲げたルールだから。
 少なくともこんなくだらない相手に対して決断するに至る事になる力じゃ無い。
 だから、彼は耐えた。
 黙って、ならず者の暴力を耐え続けた。
 何も無いとならず者達が諦めるまで。
 ひたすら耐えたのだった。
 では彼が使わない事を決めた力とは何だったのだろうか?
 それは、彼が、芦柄 吟侍によって、後継者の1人に選ばれた力でもあった。
 その名称は【答装(とうそう)】という。
 芦柄 吟侍には【答えの力】という力があった。
 答えを作り出す力の事だ。
 【答装】とはそれに近い力でもある。
 答えの結晶――それが、【答装】と呼ばれるものだ。
 それが何なのかは解って居ない。
 それがどうやって彼が身につける?事になったのか?
 どのような力なのか?
 どのような形なのか?
 どのようなものなのか?
 それらは全く解らない。
 ただ、それは【答えの力】に匹敵する何かだという事だ。
 力なのかも解らない。
 何らかの効果があるものなのか?
 それも解らない。
 解らない事だらけの【答装】。
 だが、【答えの力】に匹敵するというのであれば、それを欲しがる者は星の数だけでは数が足りないほどいる。
 クアンスティータを引退に導いたとまで言われている【答えの力】――それを欲しがる者は無数に居る。
 だが、その力の所有者である芦柄 吟侍達は歴戦の戦士だ。
 どこの馬の骨とも解らない存在が手にする事はまず不可能だろう。
 だが、【答装】は別だ。
 【答えの力】と同等の何かだと言う事だが、それの所有者?は、未知御 終主という全くの無名の存在。
 吟侍相手に【答えの力】を奪うより、よほど楽な仕事に見えるのだ。
 だから、彼はならず者達に狙われるのだ。
 もちろん、ならず者達は【答装】を手にするという事で降りかかる事については何も考えていない。
 それどころか、何かあるとは想像だにすらしていないのだ。
 想像力が欠落しているからこそ、軽はずみにその何かを奪おうと動くのだ。
 大きな力?を求めれば、それだけ、大きなリスクがつきまとう。
 ならず者達はそれを考えるだけの知能が無かった。
 悪く言えばバカな愚か者だったという事だった。
 そんな、ならず者達の非道な暴力は続く。
 こういう手合いは手加減というものを知らない。
 考え無しに振るった暴力がどういう結果をもたらすか想像すら出来ないのだ。
 だから、愚かな愚行は続く。
 このまま行けば、終主が死ぬまで続けるだろう。
 だから、生きて回避するために、終主は自力でなんとかするしかない。
 彼は決意する。
 これは、【僕自身の問題だ】――
 吟侍の言う、【暗い奴】――それは彼――【未知御 終主】を指す言葉だ。


02 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の後継者2 海城 恭精(かいじょう きょうせい)の物語――わしゃ、あんたが良いんじゃ


 パシャ!
 パシャ、パシャ!
 パシャ、パシャ、パシャ!
 パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャッ!
「お、良いねぇ、言い表情だねぇ、まどりちゃん。
 もっと色っぽくこっち見て。
 それともっと大胆なポーズをちょっと……」
 カメラマンがモデルの女性に指示を出す。
 女性はその指示に従って、下着姿で大胆で、セクシーなポーズを色々と取っていく。
 女性の名前は、【殺陣模(たても) まどり】――下着姿でセクシーなポーズを写真で撮られ、それが、絵描き、イラストレーター、アーティストなどの参考する写真資料となる。
 それらを出版し、収入を得ている女性モデルだ。
 AV女優では無いので、男優との絡み、最後の一線は越えない。
 肌はさらしても愛する人のために純潔は守る。
 それが彼女のポリシーでもある。
 彼女は誇りを持ってこの仕事で生計を立てている。
 これでも売れっ子で、自分以外にも人、1人、養ってきた。
 こういう職業についているので、偏見や差別の目もある。
 だが、彼女は生きていくために、自分の美貌を使って仕事とすることを自らの意志で選んだ。
 誰がどうこう言おうと、この仕事にプライドを持ってやっている。
 ある者は言う。
「どうせ、色々やってんだろ?
 俺と寝てくれよ」
 と。
 またべつのある者は言う。
「お高くとまってんじゃねぇよ。
 男に向かって腰ふってる様な仕事をしている雌犬がぁ」
 と。
 だが、彼女は怯まない。
 どう言われようと自分は未来ある男のために体張って生きているんだ。
 お前達なんかにどうこう言われる筋合いは全く無いと。
 私が彼を英雄に押し上げるんだ。
 その強い意志を持って生活してきた。
 彼女が養っていた男――それは夢を一度、諦めた男だった。
 全身不随という状態にまで陥り、体が動かないという状態にまで落ち込んだ男だ。
 男の名前は【海城 恭精(かいじょう きょうせい)】――全身不随になる前は俺様的な態度で振る舞い、忌み嫌われていた男だった。
 恭精が全身不随の事故にあった時、助ける者は誰も居なかった。
 そのまま、死ぬのを待つだけだった。
 そんな時、出会ったのがまどりだった。
 まどりは恭精を養うために、今の仕事についた。
 元々は令嬢として育った彼女だったが、初めて全てを賭けるだけの男に出会ったと彼女は思った。
 そして、彼女は反対する両親と決別までして恭精を養ってくれたのだ。
 そして、【ポテンシャル・アンサー・リスト】というものも恭精のために手に入れてくれた。
 これは芦柄 吟侍の後継者の1人に選ばれるための条件の一つでもある。
 【答えの力】に匹敵する様な何かだ。
 だが、それが何のリストだかは解らない。
 それでも、もの凄いものには違い無い。
 彼女は掃き溜め状態の恭精にその英雄への道をお膳立てしてくれたのだ。
 その代わり、彼女は代償を支払ってしまった。
 数年後には彼女は醜くただれるという運命が待っている。
 だから、彼女は決意する。
 恭精との別れを――
 彼はこれから這い上がって行く男――自分の様な存在が周りに居ても邪魔になるだけ。
 彼に道を示せたら黙って身を引こう――そう考えていた。
 だが、恭精にとってはそれは承服(しょうふく)しかねる事だった。
 例え、この先、どの様な美人が彼の前に現れようと、彼にとって最も美しい女性はまどりであって、それ以外はあり得無い。
 彼女が望むのであれば、【ポテンシャル・アンサー・リスト】を使ってのし上がって行くが、それは彼女あっての事だ。
 恭精は叫ぶ。
 【わしゃ、あんたが良いんじゃ】と――
 吟侍の言う、【曲がった事が大っ嫌ぇな、猪突猛進型】――それは彼――【海城 恭精】を指す言葉だ。


03 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の後継者3 稀生 踊詩(きにゅう ようし)の物語――おいらっちのことかい?


 ポンポンポン……
「はぁ〜忙し、忙し……」
 彼女は忙しなく働いている。
 彼女と言っても、彼女は人ではない。
 近いもので表すのであれば、【人形】が近いだろうか?
 だが、彼女は【人形】でもない。
 クアンスティータの様な【化獣(ばけもの)】をかたどったとされる【化形(けぎょう)】
と呼ばれている。
 見た目は普通の女の子の【人形】と変わらない。
 だが、普通の【人形】では出来ない力などを数多く与えられているのが、この【化形の少女】だ。
 彼女にはパートナーと持ち主が居る。
 パートナーは【ぬいこっと】だ。
 【ぬいぐるみ】と【マスコット】を合わせた存在が【ぬいこっと】になる。
 【化形の少女】もそうだが、【ぬいこっと】も【人形】や【ぬいぐるみ】を指す名称であって、個体名ではない。
 ――そう、彼女達にはまだ名前が無い。
 名前は無いが、【化形の少女】と【ぬいこっと】以外にも呼び方があった。
 それは、【クエニーデのお友達】だ。
 【クエニーデ】――それは、クアンスティータの後継者を示す【三つの名】である【成り上がるクアンスティータ】と【天下るクアンスティータ】と共に表される最後の名であり、最も力があるとされている【クアンスティータの子?】に与えられるべき仮の名前である。
 つまり、彼女達はその最も有力なクアンスティータの後継者のお友達という事になる。
 と、言っても彼女達は【クエニーデ】に会ったことは無い。
 【クエニーデ】のオモチャとしてでも良いので、【クエニーデ】に名付けてもらう事が彼女達の夢でもある。
 それを夢見て、彼女達は現在の持ち主の元でせっせと働いているのだ。
 【化形の少女】と【ぬいこっと】――彼女達の現在の持ち主の名前は、【稀生 踊詩(きにゅう ようし)】だ。
 名前の由来も【記入用紙(きにゅうようし)】から来ているてきとーな感じの謎の男性だった。
 【化形の少女】曰く、何を考えているのかいまいち掴みかねる変わった人間――そもそも、人間であるのかも怪しい存在。
 人と同じ姿はしている。
 だけど、どこか浮き世離れしている感じのする男性だ。
 踊詩はどこから来てどこで誕生したかも解らない。
 だが、こうして、異空間を作り出し、自分の趣味の世界を作ってまったりとしている所を見ると、ただ者とは思えない。
 彼は自分をこう、表現する。
 おいらっちは【創作者】さと。
 【おいらっち】――自分の事を【おいら】と呼んでいた吟侍に近い呼称だ。
 そう、彼も吟侍の後継者に選ばれた男でもある。
 吟侍はクアンスティータの後継者、それぞれに対して、吟侍の後継者を用意した。
 【成り上がるクアンスティータ】に対しては一人目の【答装】という何かを手にした未知御 終主を――
 【天下るクアンスティータ】に対しては二人目の【ポテンシャル・アンサー・リスト】を手にした海城 恭精を――
 そして、【クアンスティータの子?】に対しては三人目であるこの謎多き男性、稀生 踊詩を――
 それぞれ使命したのだ。
 つまり、同じ吟侍の後継者であっても三人目である踊詩は飛び抜けてただ者では無い素質の持ち主だ。
 同じ後継者であっても格がいくつも違うようだ。
 吟侍が後継者として選ぶにはそれだけの理由がある。
 その手紙を3人に向けて吟侍は送っている。
 当然、踊詩にも三通目が届いていた。
 【化形の少女】は言う。
「ご主人、ご主人、読まなくて良いんですかぁ?」
 と。
 踊詩は言う。
「うーん……今、読む気分じゃないんだよね……」
 と答える。
 【化形の少女】は言う。
「何か凄い人に指名されたんじゃないんですかぁ?
 選ばれた人は凄いって聞きましたけどぉ……」
 と言う。
 踊詩は聞く。
 それは、【おいらっちのことかい?】と――
 吟侍の言う、【つかみ所のねぇ、何考えてっかよく解んねぇタイプ】――それは彼――【稀生 踊詩】を指す言葉だ。


04 趣味の人――稀生 踊詩(きにゅう ようし)1


 パタパタパタ……
 はたきをかける音が響く。
 ここは趣味の人――稀生 踊詩(きにゅう ようし)の作り出した空間の様な場所だった。
 正確にはその内の一つという表現が正解だろうか。
 彼は、世界他外(せかいたがい)の中の様々な場所(?)に自分の趣味の空間の様なものを作ってそこで生活している。
 それらに飾っているものは彼の趣味の産物達だ。
 彼は創作者を自負している。
 様々な所を見て、自分なりにアレンジしたものを作りだし、それを飾るなどしてコレクションしているのだ。
 男性とはコレクションをしたがる生き物だ。
 彼もその例に漏れなかった。
「うーん……美しい……」
 ウットリと眺める男性が。
 この空間の様な場所――彼は【マイスペース】と呼んでいるが、その【マイスペース】の主である踊詩、その人だった。
 彼は女性を模した美術作品、【愛裏女銘(アリメナ)シリーズ】を創作し、所狭しと飾っているのだ。
 地球で言う所のフィギュアを飾っている様なものだろうか?
 ただ、フィギュアと違うのは生きている様な状態を作り出しているという事だろうか?
 【愛裏女銘シリーズ】は食べ物も食べるし何かを【愛裏女銘シリーズ】が作るという事も出来るしものも考える。
 もちろん、自分で服を着替える事も出来る。
 生きた人間と遜色ないのだが、違う点は年を取らないという事だった。
 お肌の衰えなど、人間の持っているマイナスにも見える要素を徹底的に排除して鑑賞出来る様にしたのだ。
 ただ、これは宇宙世界に居る存在の女性をモデルにしたバージョンであり、彼はいずれ、世界他外の女性をモデルにしたバージョンを作ってみようと現在模索中なのだった。
 世界他外の女性的存在は他の存在と同じく【個は多、多は個】である。
 つまり、宇宙世界で言う所の複合多重生命体(ふくごうたじゅうせいめいたい)を更に大きくした様な存在でもある。
 それらを【愛裏女銘シリーズ】に応用させるのはかなり骨が折れる。
 だが、創作者魂がうずくのか、彼はいつかやってやろうと思っているのだ。
 これを見ていたお掃除担当の【化形の少女】は、
「はぁ……ご主人の変な趣味に付き合うのも大変ですね。
 お掃除、やってもやっても終わらないです」
 とため息をついた。
 踊詩は、
「おいらっちはお前さんに掃除をしてくれなんて頼んでないぞ。
 お前さんもおいらっちにとっては大事な宝物。
 掃除なんかして傷ついて欲しくないんだけど」
 と言った。
 【化形の少女】は、
「お掃除は私の趣味です。
 それより、多趣味なのは結構ですけど、もう少し、整理されたらどうですか?」
 と言うと、踊詩は、
「おいらっちはねぇ、この散らかっている感じが新たな創作意欲が増して良いんだよ。
 だから、わざとやっているんだよ」
 と言う。
 【化形の少女】は、
「私は綺麗な方が好きです。
 だから片付けてくださいね」
 と言うと、踊詩は、
「えー?それだけは、お前さんの頼みでも聞けないなぁ〜
 おいらっちのポリシーの問題だ」
 と答える。
 【化形の少女】は、
「たまには世の中に戻って楽しんで来てくださいな。
 私は彼女さんとか作って来てくれたら嬉しく思いますよ」
 と言う。
 まるで保護者の様だ。
 踊詩は、
「えー?面倒臭いよそれ。
 おいらっちは趣味に生きたいんだよね〜」
 というと、【化形の少女】は、
「はいはい、そこ、掃除しますからどいてくださいね」
 と言ってぱたぱたとはたきを続けるのだった。
 そんな答えは聞きたくないという態度だった。
 【化形の少女】は【愛裏女銘シリーズ】の元になったという女性という存在にも会ってみたかった。
 お話して見たかった。
 踊詩がその女性の名前は【ニズ・クォトヌァール】だと教えてくれたが、彼の名前が【記入用紙】からもじったものであるようにこの名前も【似ず】と【異なる】から適当にもじったものである事は解って居る。
 なのでどこまで本気なのか解らないのだ。
 ただ、【ニズちゃんならお嫁さんにしても良い】と言っている。
 踊詩が【ニズちゃん】とやらを彼女として連れてきてくれるのが理想なのだが、この唐変木は自分の趣味の世界にどっぷり浸かってしまっている。
 地球で例えるならば、引きこもりの様な状態だった。
 なんとか、踊詩を世の中に出さなくては――
 芦柄 吟侍からの手紙は彼を世に出す良い機会だったのだが、肝心の彼は手紙を読みもしなかった。
 【化形の少女】の気苦労は続きそうだった。
 パタパタパタ……
 【化形の少女】による一見、無意味にも思えるはたきがけは続く。
 彼女はこれで自分の理想が実現しないストレスを発散しているのだった。
「はぁ〜忙し……」
 これも彼女の口癖だ。
 本当は別に忙しく無い。
 混乱している世の中とは裏腹に、この【マイスペース】では、至って平穏な毎日が続くのだった。


05 悩む人――未知御 終主(みちお しめす)


 ならず者に絡まれていた未知御 終主はそこから逃げ出した。
 力を使わずに対処するにはそこから逃げ出すのが一番だからだ。
 だから、彼は端も外聞も捨て、そこから逃げる選択をした。
 どんなに辱めを受けようとも【答装】を使う恐怖に比べたらどうという事は無かった。
 逃げた先で終主は疲労もあり、そのまま寝てしまった。
 寝た時に見るのは決まってあの悪夢だ。
 いや、正確には悪夢かどうかは解らない。
 ただ、【答装】を使えばついてくる宿命の様なものでそれを誘う夢だという事は感覚的に解って居た。
 終主の夢にはいつも子供が出てくる。
 自分の事を、
「お兄ちゃん……遊ぼうよぉ……」
「お兄ちゃん……遊んでぇ……」
「お兄ちゃん……遊ぼ……」
「お兄ちゃん……遊ぶのぉ……」
「お兄ちゃん……遊ぶのおいや?……」
「お兄ちゃん……遊んでください……」
 何名居るのかは夢の中では解らない。
 同じ子供が言っている様な気もするし、複数の子供が言っている様な気もする。
 解って居るのはその子供は1名だろうと複数だろうと、何か大きな宿命を彼のために持ってやってくる。
 それは、終主の器ではおさまりきれない程、とてつもなく大きなもの――
 そんな気がするのだ。
 彼が【答装】を一度でも使った時、その宿命はセットでやってくる。
 それが解っているから――夢で何度も見たからこそ、彼は意固地になって【答装】を使わないという選択をしていた。
 いつまでもそれは続かない。
 いつかは使わなくてはならない。
 ――それは理解しているのに、使おうとすると心の底から震えが来る。
 怖い。
 恐ろしい。
 得体が知れない。
 逃げ出したい。
 誰か助けて欲しい。
 誰か代わって欲しい。
 僕自身の宿命じゃない。
 違う。
 他の人をあたって。
 何で僕が?
 嫌だ。
 やりたくない。
 何でなんだ?
 負の感情が後から後から沸いてくる。
 解って居るんだ。
 【答装】というとてつもなく大きな力に対して、それを手にした終主という存在は酷く矮小であるという事が。
 器が小さい。
 小さすぎる。
 絶対成功しない。
 必ず、失敗する。
 自分の柄じゃ無い。
 【答装】に対しての自分を否定する言葉が次から次へと浮かんでくる。
 彼は心の底から、事が成功しないと決めつけていた。
 これでは成功するものも成功しない。
 それは解って居ても、常に自分は否定系。
 駄目な要素が前にでる。
 その常につきまとう不安が、彼にとっての悪夢となって、眠る度にこの子供の夢を見せるのだ。
 普通の存在が見れば子供がじゃれついて来ている様なほのぼのしい夢――それでも彼の目には悪夢に映っていた。
 どうしても、その子供の奥にある宿命がちらつくのだ。
 僕自身は絶対失敗する。
 死んでしまう。
 選択したらダメだ。
 彼は逃れられない宿命からこうやって逃げ続けていた。
 逃げる。
 逃げる。
 どこまでも逃げる。
 逃げて、逃げて、逃げまくる。
 負け犬人生と言われてもずっと逃げ続ける。
 彼はずっとこうしてきた。
 これまでは。
 これからは――どうなのだろうか?
 【答装】を使うにふさわしい存在になるようなきっかけでもあればよいのだが、現時点では、まだ、その様なきっかけも存在も現れていない。
 彼はただ、怯え続ける。
 昨日も。
 今日も。
 明日は……?
 それはまだ、解らない。
 ただ、彼は今も怯え続けている。
 丸くなって、うずくまって、仔犬の様に震えている。
 彼はこのまま、怯え続ける人生でいるのか?
 それとも――それはこの先の行動しだいだと言えるだろう。


06 まっすぐな人――海城 恭精(かいじょう きょうせい)


 海城 恭精は大恩人、殺陣模 まどりのおかげで【ポテンシャル・アンサー・リスト】を手にした。
 このリストは様々な形に変わるとされるリストでもある。
 第一のリストは恭精が最強レベルの力を手にするのに必要な力を手にするために必要なアイテムなどを記したマップをリスト化したものになる。
 この第一のリストに書かれている【リスト・マップ】を全て周り必要なものを全て手にした時、押しも押されもせぬ、最強レベルの力を手にするようだ。
 そうリストには記されている。
 第一のリストと呼ぶからには第二のリスト以降にも形態変化するのだろうが、それは現在の所、不明だ。
 だが、このリストを手にした事により、全身不随だった恭精の体は動く様になった。
 リストに正式に選ばれたのだ。
 後は第一のリストにある【リスト・マップ】全てに記されている場所を廻れば落ちぶれた勇者もどきから晴れて英雄への仲間入り――あるいはその遙か先を目指す事も出来るはずだ。
 後は旅立つだけ――。
 だが、心残りがある。
 当然、まどりの事だ。
 最強レベルの力を持つための旅には当然、危険がまとわりつく。
 そんな危険な旅にまどりは連れて行けない。
 連れて行けないとは思うが、残して行くにも不安がある。
 残して行くという事は彼女は自分に降りかかる、醜くただれてしまうという運命と1人で立ち向かわなくてはならないのだ。
 気丈に振る舞っていても彼女はか弱い乙女だ。
 そんな彼女を1人残して行く訳にはいかない。
 一緒に行けば彼女を危険にさらす。
 残して行けば彼女を1人にする。
 彼女は両親から勘当されている。
 仕事から、それまでの友達にも三行半を突きつけられている。
 頼る者は誰もいないのだ。
 恭精はまどりに頼って生きながらえて来たが、彼女もまた、恭精を心のよりどころにして生きてきた。
 恭精のためならばと、下着姿の自分を写真に撮られても耐える事が出来た。
 これは仕事だと割り切る事が出来た。
 だが、彼が旅立ってしまえば、彼女は1人、目的も無く、醜くただれるまで寂しく生きて行かねばならない。
 どちらを選んでも彼女を不幸にする。
 そんな葛藤と恭精は戦っていた。
 悩みに悩んだ末、彼は決断する。
 まどりに恭精は、
「一緒に行けば、危険も伴う。
 夢半ばに終わる事もある。
 じゃが、わしゃ、あんたと居たい。
 離れとうない。
 わがままじゃと思うが、わしゃと来てくれんかのぅ?」
 と言った。
 彼は、自分が死ぬ気でまどりを守って側に置いておきたいという気持ちを選択した。
 彼女を守りながらの旅なので負担は増えるかも知れないが、何が何でもやる。
 そんな強い決意を持って彼女に告白した。
 彼にとってはプロポーズに匹敵する言葉だった。
 その言葉を聞いたまどりは、
「少し、時間をください。私も考えたいの」
 と言った。
 恭精は、
「お、おう。
 もちろんじゃ」
 と言った。
 恭精がまどりを思う様にまどりもまた恭精を思い、自分がどうすれば良いのか迷っていたのだ。
 恭精と一緒に行きたい。
 一緒に生きたい。
 だが、今の自分が行けば、必ず足手まといになる。
 それどころか、醜くただれる自分の姿を彼の元にさらす事になるかも知れない。
 彼はそんな事は気にしないだろう。
 彼が自分に対して持ってくれている愛情は本物だ。
 それは一緒にいた自分が痛いほどよく解っている。
 でも、彼の負担にはなりたくない。
 このまま、別れるのがベスト――そうも思う。
 だが、彼の性格は把握している。
 自分が拒めば、彼は気を落とす。
 それは、その後の彼の冒険に影響するかも知れない。
 まどりにとっても着いて行っても別れてもどちらも彼の負担になるという結果だった。
 恭精とまどり――
 思いは一緒。
 お互いがお互いを思っている。
 お互いのためになることなら命さえ投げ出すだろう。
 そして、悩みも一緒だった。
 相手の負担になりたくない。
 相手のためになる行動をしたい。
 まどりは恭精の出発の時間までのそれほど多くない時間でそれを決めなくてはならなかった。
 お互いを思うが故に恭精とまどりは決断に苦しむのだった。


07 趣味の人――稀生 踊詩(きにゅう ようし)2


「ぷきゅきゅっ?(どちら様?)」
 【化形の少女】と共に、稀生 踊詩の作った【マイスペース】のどこかで暮らしている【ぬいこっと】は尋ねる。
 尋ねると言っても、【化形の少女】の様に、人間語が話せる訳では無い。
 【ぷきゅきゅ】――それしか言えない。
 なので、【ぬいこっと】とのコミュニケーションは相棒である【化形の少女】か、踊詩抜きにはあり得なかった。
 踊詩か【化形の少女】であれば、【ぬいこっと】の意図をくんでくれるのだ。
 だが、あいにく、今、2人は別の【マイスペース】に行っているようだ。
 この【マイスペース】には【ぬいこっと】しかいない。
 侵入者達を除けばだが。
 侵入者達は宇宙世界から迷い込んで来た存在達だった。
 意気込んで世界他外に挑戦したものの、そのレベルの高さに挫折した者達だ。
 そういう連中が行くのは大抵、【成り上がるクアンスティータ】の候補となったエクシトゥスによって救出されるか、世界他外の白き世界の中に点在する宇宙世界に環境を近づけた黒き世界に逃げ込むかだ。
 そのまま白き世界に居たら、存在崩壊を引き起こしかねないからだ。
 だが、ごくたまに、踊詩が作った【マイスペース】に紛れ込んで来る者もいる。
 【マイスペース】も基本的には宇宙世界に合わせた空間の様な場所であるため、逃げ込むには良い場所と言える。
 更に言えば、【マイスペース】は踊詩の趣味の世界(場所)でもある。
 宇宙世界に持ち帰れば至宝以上となり得る宝が腐るほど配置されているのだ。
 侵入者達は、
「何だここは?」
「すっげぇ……なんだこりゃ?」
「ひょっとして、宝の山じゃねぇか?」
「これで大金持ちじゃねぇか?」
「これで土産が出来た」
「ひゃっほぅ〜」
 等々口にする。
 【ぬいこっと】は、
「ぷきゅきゅ(ここは、私有地です。お引き取りを)」
 と言うが、もちろん、侵入者達には何を言っているのか解らない。
 侵入者達は、
「ん?何だ、こいつ?」
「こいつも珍しい生き物じゃねぇか?」
「生き物か、こいつ?」
「わかんねぇけど、持ち帰ったら良い見世物になんじゃねぇか?」
「俺、こいつ欲しいな。
 ペットにして飼ってやっても良いや」
「それより、このお宝だよ、お宝。一生遊べるんじゃねぇか?」
「山分けだ。山分け、抜け駆けすんじゃねぇぞ」
 と口々に言う。
 【ぬいこっと】と侵入者達十数名の意思疎通は出来て居ない。
 だが、【ぬいこっと】の困った感情に引き寄せられてやって来た影があった。
「これはこれは、お客さんですか?
 おいらっちは稀生 踊詩と申します。
 この場所の主っすね。
 良いでしょ、ここ。
 【歌曲音御(もしくは歌曲音々で呼び方はどちらも【かきょくねおん】)】って言ってね。
 誰かが歌ったり演奏したりじゃなくて、場所そのものが歌や音を出すものを指すんですよ。
 おいらっちは世界他外に散らばったこの【歌曲音御】を集めるのも趣味の一つにしてるんですよね。
 本当はコイン型に加工するのが一般的なんだけど、まだ、ここに置いてあるのは加工前の天然物なんだよね。
 あげる訳にはいかないけど、聴いていく分には一向にかまわないよ。
 一緒に聴いてみようか?」
 と声をかけてきた。
 もちろん、名乗った通り、踊詩が現れたのだ。
 彼は趣味の人(?)だ。
 先ほどの【愛裏女銘シリーズ】以外にも多数の趣味を持っている。
 【歌曲音御】もまた、彼が作り出した趣味の一つだった。
 彼は様々な趣味を考え出しては自分の【マイスペース】で楽しもうとする。
 それでいて【マイスペース】に迷い込んで来た存在には自分の趣味を自慢したりするのだ。
 それが楽しみの一つとなっている。
 彼は善意でやっていると思っている。
 侵入者達は、
「へぇ……これあんたのか?」
「良いねぇ、俺たちも欲しいな」
「黙って譲ってくれるとありがたいんだけどな」
 等と踊詩からこの【マイスペース】にある宝の山を奪う気満々の言葉を口にする。
 踊詩は、
「残念だけど、さっきも言った通りあげられないんだよね。
 だって、これおいらっちのものだから」
 と言う。
 そこに後から来た【化形の少女】が、
「ご主人、この人達、強盗さんじゃないの?」
 とツッコんで来た。
 侵入者達は元々強盗では無いのだが、世界他外のレベルの高さで夢破れて来た存在達でもある。
 彼らとしても手ぶらで宇宙世界には戻れないのだ。
 そこに、この【マイスペース】の宝の山――取ってくれと言っている様なものだったのだ。
 侵入者達は、
「力づくが嫌なら交渉って手もあるんだがよ……」
「俺たちも乱暴は好きじゃねぇんだけどよ。
 ちょっとくらいわけてくれても良いと思わねぇか?」
「譲り合いが大切だと思うぜ」
 と言う。
 少々、脅しも入っているようだ。
 それを知ってか知らずか、踊詩は、
「いやいやいや、お客さん達だったら、悪いけど、おいらっちが集めた宝がダメになっちゃうからね。
 お客さん達だとせっかくのコレクションをダメにしちゃうからさ。
 やっぱりおいらっちが保管するのが一番。
 聴きたくなったら言ってもらえれば場を設けても良いからさ。
 悪いけど諦めてね」
 と言う。
 侵入者達は、
「諦めてと言われてはい、そうですかと言うと思ってんのか?」
「なめてんのか、てめぇ」
「やってやんよ、こらっ」
 と先ほどより怒気を強めた口調に変わっていく。
 踊詩は、
「お客さん、それ以上の悪意はここからご退場を願う事になるけど良いのかな?」
 と言う。
 侵入者は、
「ぶっ殺されてぇの……」
 【か】と言い終わる前に、1人消えた。
 他の侵入者達は、
「な、何だ?何があった?」
「どうなってんだ?」
「何しやがった?」
「何なんだお前は?」
「気をつけろ、なんかあるぞ、こいつ」
「や、やんのか?」
 と動揺し始めた。
 踊詩は、
「お客さんでは無くなったので、ご退場願っただけだよ。
 彼はちゃんと元の宇宙世界に送り届けているよ。
 ただ、また来られると迷惑なので、ここに来た記憶だけは消させてもらったよ。
 あ、世界他外で挫折したという思い出は残しているから大丈夫。
 挫折も成長には必要な要素だからね。
 余計なものは差し引かない。
 それがおいらっちのポリシーさ」
 と言った。
 瞬く間も無い時間でそれだけの処理をしたというのだろうか?
 侵入者達は踊詩が追い出された侵入者にそれだけの事をしたにも関わらず、その行為は全く認識されなかった。
 怒声の途中で退場させられただけにしか映っていなかった。
 侵入者達は、
「な、何者だ?」
「こ、こいつ、怖ぇぇ……」
「お、俺たちをどうするつもりだ……」
「や、やんのか?」
「か、数では俺たちの方が……」
「こ、殺される……」
 等と怯え始めている。
 今の一回だけで、踊詩と自分達の実力差がハッキリと解ったのだ。
 彼らも伊達や酔狂で世界他外に挑戦した訳では無い。
 自分達が敵わない相手である事くらい解るだけの目は持って居た。
 全くの節穴という訳では無いのだ。
 踊詩は、
「何もしないよ。
 ただ、【歌曲音御】の音色を聴いていくだけならあんた達はお客さんだ。
 遠慮無く聴いて行ってくれ。
 でもあんまり他言しないでね。
 あんまりここに来られても困るから」
 とフレンドリーに言った。
 どうやらお客さんでいる限り、無下な扱いはしないようだ。
 侵入者達に取っては何を考えているのか解らない得体の知れない男――それが踊詩だった。
 侵入者達は緊張が高まり、
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
 と誰もが口をつぐんだ。
 踊詩は、
「そんなに緊張しなくても良いよ。
 お客さんはもてなさないとね。
 あ、ジュースとお菓子あるけど食べるかな?
 これがねぇ、絶品なんだよね〜」
 と聞いて来た。
 脅しているのか受け入れようとしているのかいまいち解らない。
 つかみ所のない性格だ。
 ある程度聴いた所で侵入者達は帰ろうとすると、踊詩は、
「……あ、そうだ……」
 と言った。
 それを聞いた侵入者達は、
「……ひぃ……」
「あ、あわわ……」
「た、助け……」
 と悲鳴を上げる。
 もはや先ほどまでの強気が嘘の様だ。
 踊詩は十数名の侵入者達をあっさりと萎縮させていた。
 彼と侵入者達とでは役者が全く違うという感じだった。
 踊詩は、
「良かったら、感想を……」
 【聞かせてよ】と言い終える前に、侵入者達はそそくさと逃げ帰ってしまった。
 【化形の少女】は、
「せっかちな連中ですね。
 お菓子のお礼くらい言ってもバチは当たらないのに」
 と言った。
 【ぬいこっと】は、
「ぷきゅきゅっ(緊張し過ぎて味はわかんなかったと思う)」
 と言った。
 踊詩は、
「どうも、余所様とのコミュニケーションってやつは苦手だなぁ〜
 ……どう対応したら良いのかいまいちわかんないんだよねぇ〜」
 と言った。
 彼はズレた感性の持ち主だった。
 今のはコミュニケーションがどうのこうのという話では無い。
 きっちり、踊詩が侵入者を追い返したという話なのだ。
 その辺りの事に彼は疎かった。
 自覚が無いとも言えた。
 侵入者達を一通り追い払った踊詩は、
「んじゃまぁ、次の所に行ってみようかな」
 と言って、別の趣味の産物が置いてある【マイスペース】の所に消えて行ったのだった。
 彼はあくまでもマイペース――マイルールな男だった。


08 追伸――その他?


 クアンスティータ・ファンクラブの元を立ち去った吟侍の元にオルオティーナからの連絡――手紙が届く。
 手紙の内容は、吟侍の後継者は3人で足りるのか?という事だった。
 オルオティーナとしては、吟侍ほどの逸材が存在するとは思えないのだった。
 吟侍は、
「仕方ねぇなぁ……」
 とつぶやいた。
 そして、更に、
「んじゃ、女の子でも良いのかねぇ……?
 それならいくつか心当たりが……
 って言ってもどうすっかなぁ……
 女の子に手紙なんか書いたらお花ちゃんに嫉妬されちゃうかも知んねぇな。
 一応、許可取ってから書くか……」
 と言ってカノンの所に【答えの力】による手紙の【追伸】を女の子に対して書いても良いかどうか聞くのだった。
 カノンの許可を得た吟侍は、
「んじゃまぁ、書くか。
 ……っつっても女の子に手紙ねぇ……なんて書いたら良いんだろうなぁ……」
 と言った。
 吟侍としては、彼の後継者に不安が残っているオルオティーナのために、何名かの女の子を彼の準後継者として指名する事にしたのだ。
 3人の後継者に送ったと同じく【答えの力】を使った【後継者への手紙】追伸バージョンを書くのだった。
 そして、
「……それっ、行ってこい。
 もっとも、後継者3人がふがいない時にしか届かねぇようにしてっけどな」
 と独り言をつぶやいた。
 吟侍の準後継者が何名居るのかは不明だ。
 だが、全員、女の子で、複数名居る事は確かなようだった。
 吟侍はオルオティーナに対して心配性だなという感想を持った。
 心配しなくても、吟侍の後継者に選んだ3名はそれなりにやってくれるはずさ――吟侍はそう思って自分の生活に戻るのだった。
 彼にはお転婆娘となった、くあすとくあんの双子の面倒を見るという仕事が残っている。
 まだ、この双子が安心して生活出来るという状況には達して居ない。
 問題はまだまだ山積みなのだ。
 彼としても自分の後継者達の事までかまっているような余裕は無いのだ。
 まずは、自分とカノンを慕って着いてきてくれた、くあすとくあんを幸せにする。
 それが、今の吟侍に課せられた宿命――大事なライフワークだ。
 彼の活躍する時代は終わった。
 後は、次の世代に任せよう。
 吟侍はそう思ったのだった。


続く。








登場キャラクター説明

001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

 【ファーブラ・フィクタ】の物語のメイン主人公だった男性。
 【ファーブラ・フィクタ】の最強のラスボス、クアンスティータを引退させたとして有名になった男性(カノン・アナリーゼ・メロディアス第七王女という彼女と共にクアンスティータに懐かれていたと言われている)。
 クアンスティータが芦柄 くあんとして引退したのに合わせて、吟侍もまた、その英雄としての立場を引退する。
 理由はくあす(クアースリータ)とくあん(クアンスティータ)の双子をカノンと共に育てるため。
 オルオティーナ達からその引退を惜しまれた彼は自身の代名詞ともなる力、【答えの力】という答えを見つける事が出来る力を利用して、吟侍の後継者3名に宛てた手紙を作成し、送信する。
 また、それでも心配だというオルオティーナを安心させるために追伸として準後継者に宛てた手紙も何通か作って送っている。
 後継者は男性三名、準後継者は女性複数名と言われている。


002 オルオティーナ

 クアンスティータの乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあった力のある女性。
 クアンスティータのための超大組織、クアンスティータ・ファンクラブを統括している。
 クアンスティータの後継者である三つの名称、【成り上がるクアンスティータ】、【天下るクアンスティータ】、【クアンスティータの子?】への該当者を探すために躍起になっている。
 【成り上がるクアンスティータ】の候補者としてエクシトゥスという少女を見つける事に成功している。
 追加業務として、吟侍の後継者を探すことも加える事にした。
 世界他外の研究などもあり、気苦労が絶えない。


003 未知御 終主(みちお しめす)

 吟侍によって選ばれた3名の後継者の1人で立ち位置は【成り上がるクアンスティータ】に対しての吟侍の代わりとして選ばれた少年。
 物事を悲観して見る癖があるようで、吟侍の【答えの力】に匹敵するとされる【答装(とうそう)】というものを手にするも使う事を酷く恐れている。
 【お兄ちゃん遊ぼう】という子供の夢を見る。
 その子供は何名なのか解らないが、その子供と遊ぶ事は自分の器では成功しない程の大きな運命が立ち塞がる事だと直感していて、それを恐れて【答装】を一度も使わずにいる。
 一度でも使えば運命がやってくるとして怯えている。
 吟侍の後継者としては、精神面では不安が残る少年。
 吟侍と違い後ろ向きな性格をしている。
 吟侍よりは格下の存在と言える。
 一人称は【僕自身】。


004 海城 恭精(かいじょう きょうせい)

 吟侍によって選ばれた3名の後継者の1人で立ち位置は【天下るクアンスティータ】に対しての吟侍の代わりとして選ばれた少年。
 元々、俺様的な態度を取っていた嫌われ者だったが、まどりという女性と出会い、改心する。
 一度は全身不随という状態に陥るも、まどりに生活の面倒をみてもらい、さらには吟侍の後継者となる【ポテンシャル・アンサー・リスト】を手に入れてもらう。
 そのため、彼女はペナルティーを支払う事になり、絶望的な未来が待っている事になってしまった。
 その返しても返しきれないまどりと共に幸せになるのが彼の夢である。
 【ポテンシャル・アンサー・リスト】の第一形態は力をつけるためのアイテムなどを記した【リスト・マップ】が記されているリストになっている。
 その冒険にまどりも連れて行こうとしている。
 一人称は【わしゃ】。
 口癖は【〜じゃ】。
 吟侍よりは格下の存在と言える。


005 殺陣模(たても) まどり

 恭精を立派な英雄にするために全てを賭けて尽くしている女性。
 下着姿で写真を撮られ、それがイラストレーターや芸術家などの資料として売られる事によって収入を得ている。
 恭精のために無理をして【ポテンシャル・アンサー・リスト】を手に入れて彼に渡したが、そのペナルティーとして数年後には醜くただれるという運命が降りかかった。
 元々は令嬢だったが、恭精の面倒をみるという事で両親から勘当され、職業によってそれまで親しくしていた友人達からも三行半を突きつけられて居る。
 恭精とはお互いしか頼る者が居ないという状態。
 彼女にとっての幸せは恭精が英雄となること。
 それが叶うのであれば死すらいとわないという強い気持ちを持って居る。
 恭精のために身を引こうとするも恭精からは、一緒に居たいと誘われる。


006 稀生 踊詩(きにゅう ようし)

 吟侍によって選ばれた3名の後継者の1人で立ち位置は【クアンスティータの子?】に対しての吟侍の代わりとして選ばれた男性。
 趣味の人(?)と言われる様に多数の趣味を持ち、それを世界他外(せかいたがい)の中に【マイスペース】という空間の様なものを作りだし、趣味の産物を色々と飾っている。
 どこか浮き世離れした印象で感性が普通の男性とはズレている。
 時々、【マイスペース】に迷い込んだ存在に自分のコレクションを自慢したりするのが好きな事でもある。
 【愛裏女銘(アリメナ)シリーズ】という動くフィギュアの様な趣味を持って居たり、誰かが歌ったり演奏したりするのではなく、その場所が音を奏でたりする【歌曲音御/歌曲音々(かきょくねおん)】を集めて加工したりなど、普通の宇宙世界では無い様な趣味を多数持って居る。
 自分の事を【創作者】と呼んでいて様々な何かを作ったりするのが好き。
 自覚なく、侵入者を追い払う事が出来るなど、通常の存在よりも高度な存在である雰囲気を持っている。
 【マイスペース】の中は散らかっていて、それを【化形の少女】にたしなめられたりするが、彼が言うには散らかっていた方が創作意欲がわくとの事。
 一人称は【おいらっち】。
 侵入者をあっという間に記憶を操作して追い払うなどのポテンシャルの高さを示すが具体的にどのような力を使うか不明。
 吟侍よりは格上の存在と言える。
 【マイスペース】に引きこもり状態で、吟侍からの手紙もほったらかしにして読んでいない。


007 化形の少女

 踊詩が所有している【化獣(ばけもの)】をかたどった【人形】の様な存在。
 【人形】には無いいくつもの力を持っているとされている。
 お掃除が趣味で綺麗好き。
 踊詩の事を【ご主人】と呼んでいる。
 自分が女の子の姿をしているという事もあり、宇宙世界の女の子とお話がしてみたいという夢を持っている。
 自身の持ち主である踊詩をなんとか世の中に出したいと思っているが、肝心の彼が引きこもっているので困っている。
 【化形の少女】というのは本名では無く、【人形】の様な名称。
 他にももう一つ、【クエニーデのお友達】という名称を持って居るが、名前が無い。
 夢の一つは【クアンスティータの子?】である【クエニーデ】に名前をもらう事。
 一人称は【私】。


008 ぬいこっと

 踊詩が所有している【ぬいぐるみ】と【マスコット】を合わせた存在で【ぬいこっと】と呼ばれている。
 人間語はしゃべる事が出来ずに【ぷきゅきゅ】としかしゃべれない。(()付きで訳があるが、踊詩と【化形の少女】以外には意思疎通は出来ない)。
 他にももう一つ、【クエニーデのお友達】という名称を持って居るが、名前が無い。
 夢の一つは【クアンスティータの子?】である【クエニーデ】に名前をもらう事。
 一人称は【僕】だが、他者に伝わるのは【ぷきゅきゅ】。