第五弾 ラティオ・ステルラ

第五弾挿絵

00 ご主人思いのキツネコ

 我はキツネコ――
 天狐(キツネ)と化け猫(ネコ)の掛け合わせじゃ。
 と言っても大したもんじゃない。
 どちらの力も大したレベルまで到達しなかった半端物じゃ。
 我のことはよい。
 我は物語の主人公ではないのじゃからな。
 それより、我は主人公に推挙したい者がおる。
 傷ついた我を介抱してくれた優しいお人じゃ。
 名前は宮平 運萌(みやだいら うんも)という。
 とても優しい人柄じゃったが、この度、自ら命を絶ってしまわれた。
 悲しい事じゃ。
 優しいが故に、心ない人間共の下劣な嫌がらせに耐えかねたのじゃ。
 我に自ら命を絶つ事の詫びを入れ、そのまま、首を吊ろうとなされた。
 ここはだめじゃ。
 この世はだめじゃ。
 こんな世界では、ご主人の真の良さは伝わらぬ。
 別の世界が良い。
 別の世界でご主人を大成させたい。
 そう思うた我は、一つの決意をしたのじゃ。
 我は幸い、命を13ほどもっておる。
 我自身が使う、1つは別にしても残り12は正直、余っておる。
 使い道が無かったのじゃ。
 そこでじゃ、余った12の命を使こうて、ご主人に見合った世界で成功を収めてもらおうと言う事にしたのじゃ。
 どうじゃ、良い考えであろう?
 命は12もあるのじゃ。
 どこかでご主人に見合った世界も見つかるじゃろう。
 我はプレゼンターとして、ご主人にたどり着いた世界の説明をする義務もあるので着いて行くが、ご主人には是非とも自力で大英雄になっていただきたいものじゃ。
 間違っても自ら命を絶つような結末で終わらせる様な器ではない。
 さぁ、行きましょうぞ。
 彼の地へ――ご主人が讃えられるべき伝説を作りに。


01 ラティオ・ステルラの見える光景


 我はキツネコじゃ。
 ご主人と我がたどり着いた世界は上空にラティオ・ステルラという惑星が浮かんでいる異世界じゃった。
 ご主人の名前は宮平 運萌からこの異世界では美緑 宗史郎(みろく そうしろう)という名に変わっておる。
 性格も宮平 雲萌という心優しい性格から変化しておる。
 性格は変わってしもうたが、真の部分は心お優しいご主人であると信じておる。
 魂は変わらないというやつじゃ。
 さて、ご主人も不安じゃろうから、状況説明をしないとならぬな。
「ご主人、ご主人、ここは異世界じゃ。あなた様は転生されたのじゃ。解るか?」
 と尋ねて見る。
 宗史郎殿は、
「痛ってぇ……」
 と言った。
 【痛ってぇ?】――以前のご主人からは決して出ない言葉じゃ。
 やはり変わられてしもうたようじゃ。
 じゃが、仕方ないことじゃ。
 元のままのご主人の性格では生き残れぬ。
 もっと強い気持ちを持つ様に我が祈願したのじゃ。
 これは予定調和というやつじゃ。
 宗史郎殿は、
「なんだ、お前は?キツネか?ネコか?まぁ、どっちでも良いか。ってか、なんでしゃべれんだお前?ここはどこだ?俺は誰だ?訳がわかんねぇ……」
 と混乱しておる様子じゃ。
 すかさず我は、
「落ち着くのじゃ、ご主人、我が説明する」
 と言った。
 宗史郎殿は、
「お前が?んじゃ、まぁ、聞かせてもらおうか、後、お前が何もんかも追加で頼むぜ。まだ、お前を信用しても良いのかどうかわかんねぇし、聞いてから判断するわ」
 と言った。
 我は、
「そうじゃな、まずは、自己紹介からじゃ、我は【キツネコ】――天狐と化け猫のハーフじゃ。キツネにもネコにも見えるのはそう言った理由からじゃ。我は二つの姿がぶれており、キツネの様に見えたりネコの様に見えたりする。見る角度により、見え方が違うのじゃ。我は前の世界でご主人――宗史郎殿に助けられておる。宗史郎殿は以前の世界では宮平 運萌という少年で、それはもう、大層心の清いお方じゃった……」
 と言うと、宗史郎殿は、
「いや、前世とかは良いから、それより、ここは何なのかとか教えてくれよ」
 と言うので、我は、
「そうじゃな。我もこの世界に来たばかりで、完全には把握してはおらぬのだが、どうやらここは、あれに見える失われた惑星――ラティオ・ステルラなる星が見える光景のようじゃ。名も無き惑星――それがこの星じゃ。重要なのはこの星よりも、上空に見える彼の星、ラティオ・ステルラこそ意味のあるという事になっておるようじゃ」
 と答えた。
 宗史郎殿は、
「するってぇと何か?あの星を目指せって事になんのか?」
 と聞いて来た。
 我は、
「どうやらそうなるようじゃな」
 と言うた。
 すると、宗史郎殿は、
「なんでだ?」
 と聞くので、我は、
「なんでだ?とは?」
 と聞き返す。
 宗史郎殿は、
「何で俺がそのラティオ・ステルラってのを目指さねぇといけねぇんだ?って事だよ。理由があんのか?」
 と言うので、我は、
「それは、もちろん、大英雄になるためじゃ。我はそのために我が持っている13の命の内、12を宗史郎殿のために使うと決めておる」
 と答えた。
 我と宗史郎殿の関係を示す良い機会である。
 宗史郎殿は、
「嫌だっつったら?」
 と言うので、思わず我は、
「は?」
 と聞き返してしもうた。
 宗史郎殿は、
「俺は命令されてやるのは嫌いだ。だから嫌だ」
 と答えた。
 これは我も想定外じゃった。
 まさか、英雄となる道を拒まれるとは思わなんだ。
「待ってくだされ、宗史郎殿、それでは我が何のために……」
「俺に命を与えたのはお前の勝手だろ?もらった事には感謝するが俺は俺のしたいことのために命を使う」
「た、確かに、それでかまわぬが……」
「じゃあ、何の問題もないな?」
「ない……が、それでは……」
「それでは?」
「い、いや……なんでも……ない……」
「じゃあ、良いな。で、お前、どうするんだ?何の目的も持ってねぇ、俺についてくんのか?」
「つ、ついていく……我には見届ける義務が……」
「義務なんか関係ねぇだろ?俺はラティオ・ステルラってとこに行かねぇっつってんだから」
「それは……そうじゃが……我には、宗史郎殿を転生させたという……責任が……」
「そんなのほっとけ……好きに生きようぜ」
「好きにって……それはそうなんじゃが……」
「なんだ?俺に行って欲しいのか?」
「で、出来れば……じゃが、これは強制することでは……」
「ねぇよな?」
「あ、あぁ、そうじゃ……」
「まぁ、命の恩があるみてぇだからな。行かねぇとは言わねぇ事にするよ。もしかしたら、何かのきっかけで行く事になるかも知れねぇし。絶対に行かねぇとは言えねぇな。ただし、今の所は行くつもりはねぇ。どうせ、無名の俺だ。この名も無い星の方が性に合ってる。ここをブラブラさせてもらって、それから今後の事は考えるさ。ついてくる、ついて来ないはお前の勝手、だが、俺は好きにさせてもらう。それで良いか?」
「か、かまわぬ……それで良い」
「じゃぁ、とりあえず、よろしくな」
「う、うむ……」
 我はどうも思い違いをしていた様じゃ。
 宗史郎殿に絶望したという意味ではない。
 我の考え方の間違いに気づいたという意味でじゃ。
 確かに我は宗史郎殿に英雄の道をたどって欲しいと思うておる。
 願っておる。
 じゃが、それは強制されてするものでは決してない。
 自分の意志で行かねば意味をなさぬ。
 我に強制されて行くのであれば、それはそれだけの男であったと言う事じゃ。
 恐らく大成はせぬだろう。
 それよりも、自らの意志で行く決意をしてこそ、本当の意味での英雄の道は開けてくるというものじゃ。
 嫌々行って英雄になるなど無理があるからな。
 そういう意味では期待以上のお方でもあるとも言えるやも知れん。
 恐らくはじゃが……。
 まぁ、しばらくは宗史郎殿につきおうて、この無名の星をぶらつくというのもありじゃの。
 新たな命は与えたばかりなのじゃ。
 慌ててどうこうせいと言う方がおかしな話なのじゃ。
 まずは、しっかりと自分という者を見て、それから、動いた方が良い――と、そういう訳なのじゃろう。
 我としたことがこの様な事にも気づかぬとは――
 我ながら半端物であると言えるのじゃろう。
 はてさて、この先どうなる事やら――
 まずは、のんびり、宗史郎殿とこの星の散策に出る事にしようぞ。


02 神の目線が見通す動き


 我の力をここで言おう。
 まずは、命が13ある。
 それに世界を渡る力じゃ。
 この力を持って、我はご主人を異世界に転生させたのじゃ。
 命の力と世界を渡る力は先に示した通りじゃ。
 他にもいくつか力をもっておる。
 今回言うべき力はその内の一つでもある神の目線じゃ。
 我はまるで小説の読者が物語の全容を把握するかの様に、渡って来た異世界の大きな動きというものを知り得る事が出来る。
 動いてもらわねば見る事は出来ぬが、それでも強大な力を持つ存在が動き出せば、すぐに解るという仕組みじゃ。
 この力を持って、ご主人の力になれればと我は思うておる。
 どうじゃ?
 凄かろ?
 他に4つほど力を持っておるが、今はそれを示すときではない。
 まずは、神の目線をもってご主人のため、役に立とうでは無いか。
 どれどれ……
 この辺りで大きな動きは……
 うーむ……無いのう……
 あっちはどうじゃ?
 うーむ……あっちも似た様なものか……
 そっちは……同じか……
 そう、都合良く動いてはくれぬか……
 少し感度を調整して、小悪党でも引っかかるようにしてみるか――
 我はな、神の目線の感度を調整する事が出来るのじゃ。
 レベルで表現するのであれば、レベル1からレベル10までじゃな。
 レベル10に調整すれば、レベル10以上のものも見える時があるが、あまり高すぎるレベルはさすがの我でも容易には探れぬ。
 じゃが、レベル10と言えば、その辺の惑星なら一瞬で破壊出来るくらいのレベルを言う。
 そうそう、それ以上のレベルの奴など存在しないのじゃ。
 レベル10以上の存在がうじゃうじゃ居る世界など想像もしとうもないわ。
 とは言え、我はご主人には最大級の英雄になって欲しいのでな。
 最初から我の探れる最大レベルのレベル10の神の目線でみていたのじゃが、そう都合良くレベル10の存在が動き出すという事はなかったという訳じゃ。
 そこで、我はレベルを下げて探りを入れる事にしたのじゃ。
 さすがの我とて、レベル10とレベル1の神の目線では見えるものも全く違うてくるからのう。
 という訳で、レベルを一つずつ下げてみようと思うておる。
 次は当然、レベル9じゃ……
 どれどれ……
 この辺りで大きな動きは……
 うむ……やはり無いのう……
 レベルが一つ違うだけでも見えるものはかなり違うてくるので何か無いかと思うておったが、やはり、このレベルでも無いようじゃ。
 次はレベル8じゃ……
 どれどれ……
 やはり無いのう……
 えーい、レベル7じゃ……
 これもダメか?
 レベル6じゃ……
 レベル5……
 レベル4……
 レベル3……
 えーい、これでもダメか、レベル2じゃ……
 ――ダメじゃ……
 ではレベル1――
 ……うむ、さすがにこのレベルであれば、いくつも動きが確認できたのぅ。
 とは言え、レベル1か……
 ご主人のデビュー戦としてはなんともしょぼいのぅ……
 まぁ、良い。
 レベル1とてピンからキリまである。
 なるべく高いレベルのものを探すとするか……
 では、何が良いかのう……?
 うーむ……
 これか?
 これにするか?
 いや、違うのぅ。
 隣の方が多少、レベル的にも上の様にも見えるしのぅ……。
 じゃが、ドングリの背比べじゃな。
 大して変わらぬ。
 ご主人の相手としては役不足じゃ。
 何かもっと派手な感じの者が動いてくれぬかのう?
 うーむ……
 これ……にするかのぅ?
 いささか不満じゃが、他のレベル1よりは大分ましじゃからな。
 少なくとも他のレベル1よりは多少意味がある。
 相手がラティオ・ステルラならまだしも、この名も無き星の上じゃからな。
 このレベルでも高い方かのぅ……?
 良し、これで行こう。
 あれこれ選り好みしていても始まらぬ。
 ご主人には派手に打ち上げ花火でも上げてもらえば、相手の力量不足は何とでもなるであろう。
 そう思うた我は、
「宗史郎殿、これからの行き先なのですが、どのようなお考えでいるのです?」
 と聞いて見た。
 我が目的地を決めてしもうては意味が無いのでな、それとなく、我が選んだ相手の方向に足が向くように会話を通して導いてみようと思うたのじゃ。
 宗史郎殿は、
「何を企んでるんだ?」
 と聞いて来た。
 我は、
「うっ……」
 とつい、唸ってしまった。
 さすがはご主人。
 我の考えはお見通しか。
 ならば、それならそれで正直に言うまでじゃ。
 我は、
「宗史郎殿。腕試しなどしてみてはいかがだろうか?我は大きな動きを探る力を持っておる。宗史郎殿はまだ、ご自分が何者かを理解されてはおらぬ様であるし、自分を知る意味でも自分を知るための戦いというのをやってみてはいかがであろうか?」
 と言った。
 宗史郎殿は、
「さっきも言っただろう?俺は好きに行動したいんだ」
 と答えた。
「それはそうなのだが……」
「――とは言っても、確かに、この世界に来て何の目的も無く、ただぶらついていても始まらねぇな。何となく面白くねぇが、お前の口車に乗ってやるか。って言ってもこれはお前が言ったからじゃねぇからな。俺が俺の意志でお前の口車に乗るって事を選択したんだ。それは忘れるなよ?」
「それでかまわぬよ。我としては、宗史郎殿を立身出世させたいだけなのじゃ。それが我の言う事に従ったものであれ、宗史郎殿がご自分で決意された事であれ、どちらでもかまわぬのじゃ」
「その言い方はちょっとひっかかるが、まぁ良いか。お前の口車に乗ると言ったからには、お前のしたいことを聞かせてもらおうか?動くのはそれからだ」
「そうじゃな。まずは、我が探った情報から宗史郎殿に伝えねばならぬな」
「そうしてくれ」
「うむ。では、我が見たのは、神の目線という力で大きな力を持つ存在が動けば我の視界に入る事が出来るというものじゃ。我はレベル10の目線まで持っておるが、隠しても宗史郎殿には気づかれるやも知れんので申すが、引っかかったのはせいぜい、レベル1だけじゃ。やはり、この名も無き星の上では大した存在はそうそう居そうもないようじゃ――もしくは、居ても動かぬという事じゃな」
「まぁそうだろうな」
「レベル1と申してもピンからキリまであってな。我は数百ほど確認出来たレベル1の中より、比較的ましな存在の動きに注目したのじゃ」
「ほう、それで?」
「そこでなんじゃが、我はその存在の事を宗史郎殿に話して聞かせる事も出来るが、冒険の醍醐味としては知らずに訪れてご自身の力で状況を知り、勝つという方法もある。宗史郎殿はどちらを希望されるか?」
「――そうだなぁ……確かにお前の言葉を聞いて、どんな奴がいるのか知った方が勝ちやすくはなるだろうが、それじゃ、何となく情けねぇな。お前の希望は俺の力試しなんだろ?
だったら、俺が俺の力で解決しなきゃ意味ねぇよな?って事で、場所だけ教えてもらおうか?する事は現場について考える。それで良いか?」
「さすがは、宗史郎殿。我の期待通りじゃ。では、場所だけお教えしよう。その場所に出向き、宗史郎殿の判断で行動してくだされ。我は出来うる限り、宗史郎殿の行動の妨げにはなりとうないのでな」
「で、場所は?」
「ここから、まずは南東の道に向かってくだされ。距離で言えば今は歩いて三日半ほどの距離にあるのじゃ」
「歩いて三日半か……何かかったるいな」
「宗史郎殿!」
「解ってるって、行くよ。面倒臭がって見たかっただけだよ」
「では参ろう」
 我はご主人を先導する事にした。
 さぁ、見せてくだされ、ご主人。
 貴方様の力を。
 我は気がはやるのを抑えるのに苦労した。
 宗史郎殿と我の冒険はここからが始まりなのじゃ。


03 ウォーコイン


 我は宗史郎殿を最初の目的地へと案内した。
 宗史郎殿には、自らの力で理解して欲しいので、宗史郎殿には伏せて置くが、ここは【ウォーコイン】なるバトルイベントが行われている場所だ。
 【ウォーコイン】は彼の星、【ラティオ・ステルラ】より、伝わったイベントであり、本場は、この名も無き惑星ではなく、当然、【ラティオ・ステルラ】じゃ。
 本来のルールは自らの力をコインに注入し、メンコの様に裏返せば、そのコインはもらえるというものじゃ。
 特殊能力の奪い合いというのがこのバトルの発祥のきっかけのようじゃな。
 場には最初、自陣10枚、敵陣10枚のコインが設置されており、それ以外に自分の代わりとなる大コインが1枚設置されておる。
 プレイヤーとなる戦士は、手持ちのコインで場にある敵陣のコインを裏返すか、自陣にあるコインに追加付与をして、防御を高めるかなどをして攻防を繰り返す。
 裏返したコインは使用不可にするも良し、自陣のコインとして使用するも良しのようじゃ。
 敵陣のコインが場に無くなると初めて大コインに攻撃出来る様になり、大コインを裏返すと裏返したプレイヤーの勝ちとなる。
 言ってみればカードゲームのコイン版の様なものじゃな。
 本場の方のルールじゃが、特殊能力などをコインに込める事が出来、攻防に変化をもたらす事が出来るらしい。
 相手を傷つけず、勝負する事が出来るバトルとして、【ラティオ・ステルラ】では広まっているという。
 あくまでも平和的解決を目的としたゲームじゃな。
 名も無き星に伝わったのは、力を込める事が出来る空コインのみだったようじゃ。
 それでは、この星の住民は何もプレイ出来ぬ。
 そこでこの星独自のルールとして考え出されたのが、五行三すくみルールじゃ。
 五行とは、【五行相生】と【五行相剋】の事じゃ。
 すなわち、【五行相生】が、
 木は燃えて火になる。
 火が燃えて土(灰)が生じる。
 土が集まり山となった所からは金(鉱物)が出てくる。
 金は腐食して水に帰る。
 水は木を成長させるであり、
 【五行相剋】が、
 木は土を押しのけて成長する。
 土は水の流れを止める。
水は火を消す。
 火は金を溶かす。
 金属の刃物は木を切り倒すというものを指す。
 まず、この二つのルールを【ウォーコイン】に当てはめるのじゃ。
 つまり、【ウォーコイン】は、木火土金水の要素を持っている。
 場には10枚の【ウォーコイン】を設置するが、それは表を上にしても裏を上にしても良い。
 プレイヤーは敵陣のコインに対して、それを裏返せば良いのじゃからな。
 元々が表になっていようが裏になっていようが関係無いのじゃ。
 関係あるのは、コインを裏返す場合にじゃ。
 コインが表の場合には、【五行相生】のルールが適用される。
 逆にコインが裏の場合には、【五行相剋】のルールが適用されるのじゃ。
 それは、
 コインが表の場合は、
 木のコインを裏返せるのは火のコイン
 火のコインを裏返せるのは土のコイン
 土のコインを裏返せるのは金のコイン
 金のコインを裏返せるのは水のコイン
 水のコインを裏返せるのは木のコイン
 ――となり、コインが裏の場合は、
 木のコインを裏返せるのは金のコイン
 火のコインを裏返せるのは水のコイン
 土のコインを裏返せるのは木のコイン
 金のコインを裏返せるのは火のコイン
 水のコインを裏返せるのは土のコイン
 となるのじゃ。
 基本ルールとしてはこれじゃが、それぞれ、全く属性の同じコインでも裏返せる場合があるのじゃ。
 それぞれのコインには、三すくみの要素も含まれておる。
 すなわち、
 ヘビ
 カエル
 ナメクジじゃ。
 じゃんけんの様なものじゃな。
 ヘビはカエルを丸呑みし、
 カエルはナメクジを丸呑みする。
 ナメクジはヘビを溶かすという力関係じゃ。
 つまり、ヘビはカエルを倒せる。
 カエルはナメクジを倒せる。
 ナメクジはヘビを倒せるので、同じ属性の五行でもこの三すくみの要素を用いる事で裏返す事が出来るというものじゃ。
 この二つの要素を合わせて五行三すくみの要素という無名に惑星特有のルールとなっておるようじゃ。
 コインにはあらかじめ、この五行三すくみの15種類の要素を注入しておる。
 要は、受け取ったコインを使って、如何に相手のコインを裏返して行くかというのが絶対のルールとなっておる。
 本場の【ウォーコイン】も存在によって持ちコインの数が変わっているため、無名の星でも所持出来る【ウォーコイン】の数に差を持たせるためのルールが決められておる。
 それは【パワールーレット】というものじゃ。
 そのルーレットに力を込めて、回す事により、プレイヤーが所持出来るコインの数が決まるというものじゃ。
 全パワーを込めてコインを多く獲得する事も出来るが、この【ウォーコイン】をするのに必要な体力が残らない。
 そこで、プレイする体力を残しつつ、パワーを調節して、【ウォーコイン】を如何に多く獲得するかが勝敗を分けるカギともなる。
 言うて見れば、自らのパワーを担保にコインを獲得するという事じゃな。
 もちろん、パワーをほとんど使わなくてもかまわぬ。
 所持出来るコインの数は減ってしまうが、それもありじゃ。
 あまりにもパワーの実力差がありすぎる相手との戦いの場合はハンデをつけるために、パワーの大きい方は力を制御して【パワールーレット】を回す事も多い様じゃからな。
 バトルとは言うてもここは娯楽要素の強いバトル空間じゃ。
 それぞれの存在のマナーに頼るところが多いが、ここは、【ウォーコイン】以外での戦闘は禁止されておる。
 安全に宗史郎殿の力量を見るには適した場所だと判断し、我はここに導いたのじゃ。
 どれ、宗史郎殿のお手並みを拝見するか。
 我は宗史郎殿の行動を見る。
 すると、宗史郎殿は他のプレイヤー達のバトルを見学した。
 どうやら、他のプレイヤーを参考にして、この【ウォーコイン】のエリアの戦闘スタイルを見て行くようだ。
 宗史郎殿は、
「………」
 と黙って見ていた。
 4、5戦を見学し、理解したのか、【パワールーレット】のある場所へと赴いた。
 パワーを込め、ルーレットを回す。
 すると、コインは100枚となった。
 疲れた様子は無い。
 どうやら、パワーをしぼって出したようじゃ。
 ご主人にとってはカジノにでも遊びに来ている様な感覚なのじゃろう。
 どこかやんわりとした表情で、戦場に来たという感じはしない。
 適当に歩いて回る。
 相手を探しておるようじゃ。
 そこに、
「お前、ここ、初めてか?俺とやらないか?」
 と声をかける者がおった。
 手には宗史郎殿と同じ100枚前後のコインを持っておる。
 どうやら、実力が互角なので、勝負しないかと持ちかけて来た様じゃ。
 宗史郎殿は、
「良いぜ、やろうか。俺も連れに力を示さないといけないんでな」
 とおっしゃった。
 勝負を受けるつもりのようじゃ。
 相手の男は、
「そうこなくっちゃな。俺の名はブチャイクンだ。お前は?」
 と言った。
 宗史郎殿は、
「俺の名前は美緑 宗史郎と言うらしい……あんまり実感はないが……」
 と答えた。
 ブチャイクンは、
「そうか、よろしくな。良かったら、契約バトルにしねぇか?」
 と言ってきた。
 【契約バトル】とは、ルールを決め、お互い、そのルールを破る事は命で償うという契約を結ぶというものじゃ。
 おかしい……。
 宗史郎殿は素人じゃ。
 素人相手にこの様なバトルを提案するなど、何か裏があるはず――
 宗史郎殿、受けてはならぬ。
 そう思う我の思いに反して、宗史郎殿は、
「いいぜ、受けてやる。どんなルールにするんだ?」
 と聞いた。
 ブチャイクンは、
「なぁに、簡単な事さ、勝負は繰り返し行う。止める事を選択出来るのは勝者のみってのはどうだ?勝負を降りたけりゃ勝つしかない。どうも俺とやる奴は臆病者が多くてな。すぐに勝負を降りちまう。俺としては不完全燃焼な訳よ。そこでだ、止めるには俺に勝ってからにしてもらおう――そういう保険だ。お前を男と見込んでこのルールを適用したいんだが、どうだ?」
 と言った。
 宗史郎殿は、
「良いぜ、それでやろう」
 と言い、相手の思うがままに契約書にサインをする。
 いけないと駆け寄る我だったが、宗史郎殿は、
「心配すんなって。要すりゃ勝ちゃいいんだ、勝ちゃ」
 と言った。
 その言葉を待っていたかのようにブチャイクンは、
「そう……勝てればなぁ」
 と薄気味悪い笑いを浮かべる。
 まるでカモでも見つけたかの様な表情じゃ。
 してやられた――我はそう思うた。
 このブチャイクンという男はこの場所に迷い込んだ初心者をカモにするごろつきじゃ。
 その事に気づいておりながら、我は――
 と思うておると、宗史郎殿は、
「そんな辛気くせぇ顔すんなって。これは俺の力を見るって事なんだろ?だったら、それに答えてやるよ。こんなちんけなカス相手に負ける訳ねぇだろ」
 と言った。
 我は、
「そ、宗史郎殿……」
 と言うとブチャイクンは、
「言ってくれるじゃねぇか。俺をカスだと?後悔させてやるぜ」
 と言ってニタリと笑った。
 宗史郎殿は、
「それはお前が見せた100枚じゃなくて、本当は10000万枚のコインを持っているって事の余裕だろ?」
 と答えた。
 ブチャイクンは、
「何だ、解ってたのか?はっ、解っていて、なお、罠にはまるとはバカな奴だ。言っておくがやめさせねぇぜ。勝負は受けてもらう。体力に余裕を残しているようだが、どんどん【パワールーレット】でコインを出してもらうぜ。俺が良いというまでゲームは止められねぇ。搾り取れるだけ搾り取ってやるぜ」
 と言う。
 どうやら体力だけには自信があるようだ。
 例え、この10000枚のコインを使い切ってもまだまだ余裕があるようだ。
 宗史郎殿は、
「ばぁ〜か、お前の様な三下相手に100枚でも多いんだよ。宣言するぜ、この100枚を元手にお前から搾り取れるだけ搾り取ってやるよ」
 と啖呵を切った。
 ブチャイクンは、
「後悔するなよ。ぶっ倒れても搾り取ってやるからよぉ」
 と言った。
 このエリアでは私的な戦闘は禁止されておる。
 それを破れば、死の制裁が待っておる。
 じゃから、ブチャイクンは手を出して来ぬが、もし、戦闘可能な区域であれば、間違い無く、つかみかかってくるような勢いじゃった。
 相手は初心者達から奪ったコインで肥え太った体力バカじゃ。
 本場のラティオ・ステルラバージョンの【ウォーコイン】と違い、コイン自体に大きな特殊効果などは付与されておらぬ。
 100倍のコインの差というのはすなわち、戦力の差ともなるのじゃ。
 奴には10000万枚のコインという、鉄壁のガードがある。
 それを100枚ぽっちのコインで突破するなど――
 と思うておったら、あっという間に宗史郎殿が勝利した。
 我は幻覚でも見ておるのか?と思うてしまった。
 ブチャイクンも納得がいかぬようで、
「い、いかさまだ。こんなのはいかさまだ」
 とわめき散らす。
 確かに100倍の戦力差をそんなに簡単に覆せるとは思えぬ。
 じゃが、宗史郎殿は、
「わかんねぇのなら解説してやるよ。お前の表情見てれば、持ちコインがなんなのかは大体わかるんだよ。場のコインは表と裏に配置し変えれば、お前が今手元に持っていないコインの属性にすることは不可能じゃねぇ。10000万枚持っていようが何だろうが直接プレイに関係できるのは手持ちに出来る20枚まで。後はお前が持っていない様な配置を守備の時に配置して行けば簡単に勝てるんだよ。本場と違って、こっちのバージョンは比較的ルールは単純。自陣のコインを裏返させない様な配置にして、手持ちのコインで敵陣のコインを潰していけば、勝機は見えてくる。敵陣のコイン10枚を裏返せば、補充されない限り大コインに直接攻撃が出来る。大コインさえ裏返せば、敵が何枚コインを持っていようが関係無い。お前の攻撃は体力に物を言わせた直接攻撃のみ。そこには戦術も何もねぇ。防御の仕方も解らねぇ素人相手に勝利をもぎ取るなんてのは今の俺でも簡単なんだよ」
 とおっしゃった。
 確かに、敵のコインの数に圧倒されたが、勝負は大コインを裏返せば良いのじゃ。
 大コインだけは相手がどの属性を選んだか解らぬようになっておる。
 そのため、大コインを攻撃する場合はプレイヤーはコインを当てて試していくのじゃ。
 相手を倒せる属性のコインを選択しておれば、3回の攻撃で裏返せるが、もしも相手よりも弱い属性のコインを当てていたら相手の大コインのライフゲージは一つずつ上がってしまう。
 そこを見分けるのがこの【ウォーコイン】の醍醐味の一つなのじゃが、相手がどんなタイプか丸わかりなのであれば、ブチャイクンの選択した大コインの属性など、簡単に読めるのじゃろう。
 宗史郎殿はたった数ターンで勝利をもぎ取ったのじゃ。
 敗者は手持ちのコインと場に配置したコインを相手に支払う事になる。
 さすがに10000万枚のコイン全てを奪う事は出来ないが、これを繰り返して行けば10000万枚のコインもどんどん無くなるのじゃ。
 勝負を開始して、10分後にはブチャイクンは10000枚のコインを使い切った。
 ブチャイクンは、
「も、もう……」
 と言ったが、宗史郎殿は、
「何言ってんだよ。勝負はこれからだろ?さっさと【パワールーレット】のとこ行ってコイン出して来いよ。続けるぞ」
 と言った。
 ブチャイクンは、
「お、お前の勝ちで良いじゃないか」
 と言うも、宗史郎殿は、
「寝言は寝て言えよ。お前もぶっ倒れても搾り取るって事で納得してただろうが。お互い合意の上での勝負だろ」
 と非情な一言を告げる。
 とても、運萌殿の生まれ変わりとは思えぬ一言じゃ。
 やはり、生まれ変わると性格なども変わるのは避けられない事なのじゃな。
 悲しいが、これもご主人であることには変わらぬ。
 我としては宗史郎殿の事も受け入れねばならぬのであろうな。
 お優しかった運萌殿が懐かしい。
 結果、ブチャイクンは合計、145000枚のコインを出させられ、昏倒(こんとう)したのじゃ。
 宗史郎殿は、
「もう、飽きたから良いや」
 と言って、興味なさそうにブチャイクンを勝負から解放したのじゃ。
 ご主人の非情な一面を見てしもうた。
 少々というより、かなりショックじゃった。
 このままでも良いものかと我は思うてしまう。
 こうして、宗史郎殿の初戦を我は見たのじゃ。
 ご主人との旅は始まったばかり――
 まだ、ご主人の全てを見たという訳ではないのじゃが、先行き不安じゃ。
 それでも宗史郎殿との旅は続くのじゃ。


04 ラティオ・ステルラへ1


 我は宗史郎殿に次なる目的地を示した。
 その後もいくつか名も無き星を回った。
 宗史郎殿を試す様な場所にばかり案内してしもうたのは何となく我がご主人を信用しておらなんだという事を物語っておる。
 【ウォーコイン】のエリアでの一件がわだかまりとなって残っておるのじゃ。
 確かにブチャイクンはろくな男では無かったが、あそこまで追い詰める必要があったのかと我は思うてしまう。
 宗史郎殿の人間性を疑ってしもうておるのじゃ。
 それはご主人を英雄と信じ、行動している者にとってはあるまじき背信じゃ。
 強大な敵が欲しい――
 我がそう願い、再び【神の目線】を使ったからなのか、その男は現れた。
 その男の名前は、【ジギャク】という。
 【ジギャク】は、
「お前の行動は見させてもらった。ブチャイクンという愚か者もそうだが、お前も【ウォーコイン】のバトルを穢した男だ。バトルの神聖さを穢したルールの適用。持ちかけた者も従った者も同罪だ。お前から【ウォーコイン】を取りあげねばならぬ。この地に【ウォーコイン】を伝えた者としてな」
 と申した。
 どうやら、この男がラティオ・ステルラから名も無き星に【ウォーコイン】を持ち込んだ存在のようじゃ。
 宗史郎殿は戦利品として、ブチャイクンから奪った【ウォーコイン】を持っていたので、【ジギャク】と名乗るこの男と【ウォーコイン】で勝負した。
 結果は宗史郎殿の惨敗。
 宗史郎殿がブチャイクンに勝った戦法をそのまま、【ジギャク】はご主人に対して行った。
 やはり、【ジギャク】という男――本場の【ウォーコイン】の経験者なのだろう。
 小悪党を倒していい気になっていた宗史郎殿の鼻をへし折り、こてんぱんにまで叩きのめした。
 【ジギャク】が示したのは【ウォーコイン】だけではない。
 様々な秘技を見せたのじゃ。
 宗史郎殿は為す術無く、それを見ている事しか出来なかった。
 【ジギャク】は、
「小僧……悔しかったら俺を追ってこい。【ジギャク】と名乗ったが、それは本名ではない。俺の本名も含めて、俺を探してみろ。再会した時、お前が男になっていれば、相手をしてやろう。せっかくの才能をくすぶらせているお前を見ていると歯がゆくてな。ついかまってしまったが、かけてやる情けは一度きりだ。ここでふてくされるようならお前はそれまでの男だ。存分にくだらない人生でも謳歌するが良い。その時は万人が認めても俺だけはお前をつまらない男として認識し続けるだろう。悔しければ俺に拳を入れて見ろ。俺はあそこに戻る。追ってくるかどうかはお前次第だ」
 と言った。
 【ジギャク】の言う【あそこ】とは【ラティオ・ステルラ】の事を指す。
 我としては宗史郎殿が完膚なきまでの敗北を喫したのは悔しいのではあるが、あの様な男を待っていたとも言える。
 今までの宗史郎殿は己のあるべき道を見失った状態じゃった。
 目的も無く、ただ、ぶらついておった。
 覇気の無い目をしておった。
 このままではまずい。
 誰かがなんとかせねば。
 我はそう思うておった。
 故に誰かが喝を入れてくれるのを待っておった。
 【ジギャク】という男は我の代わりにそれをやってくれたのじゃ。
 これで宗史郎殿に良い目標が出来たのじゃ。
 宗史郎殿は、
「あんたじゃねぇ。あんたでもねぇんだ……」
 とつぶやいた。
 ダメなのか?
 【ジギャク】の喝でもダメなのか?
 そう思う我だったが、【ジギャク】は、
「だったら、俺を超えて行けばよかろう。彼の星にとって俺など単なる小者よ。お前はその小者に良いようにやられたのだ。今のお前はその程度だと言う事だ。それが悔しければ、俺など、とっとと超えていただきを目指せ。俺はお前にはその素質があると見ている。ただ、動くためのきっかけが無い。きっかけを求めているただの子供、それがお前だ。俺から言わせれば、きっかけなどどうでも良い。強く求めねば、結果はついてこない。今のお前は小者の俺にもあしらわれる程度のレベルだ。俺は強い奴をたくさん見てきた。お前が想像出来てない様な大物までな。だから、腹が立つ。己の才能にあぐらをかき、チンピラ相手にいい気になっていたお前を見るとな」
 と言った。
 どうやら、ブチャイクンとの一戦を言っているのじゃろう。
 確かにあれは、いじめっ子をより強いいじめっ子がいじめていただけにも映る行為だった。
 お世辞にも褒められた行為ではない。
 やはり、大きな才能を持つものは大きな目標が居るということなのだろう。
 夢や目標も無ければ、大きな力というのはクズを育てるだけのただの邪魔者、余計な物でしかない。
 宗史郎殿は、
「俺はあんた何か目じゃねぇ。あんたなんかあっという間に超えて行ってやる」
 と【ジギャク】をにらみつける。
 【ジギャク】は、
「その意気だ。期待しているぞ、少年……」
 と言って去って行った。
 よくぞ申してくれた。
 感謝する。
 【ジギャク】の言葉に影響されたのか、宗史郎殿は、
「キツネコ、俺はあの星に行くことに決めたぜ。お前にとっちゃ待たせたなか?ようやく、俺もあの星に行くきっかけをもらえた。まずは、あの【ジギャク】とかいうすました野郎からだ。あいつを踏み台に俺はてっぺんをとってやる。あの星だけじゃねぇ。俺の前に立ちふさがる奴は残らず倒してやるよ」
 と言ったのじゃ。
 我は感動した。
 よくぞ、そこまで決心してくれたとな。
 我は、
「では、宗史郎殿。参りましょうぞ」
 と言った。
 【ラティオ・ステルラ】への行き方は先刻承知じゃ。
 我がしかと導こうぞ。


05 ラティオ・ステルラへ2


 宗史郎殿が【ラティオ・ステルラ】行きを決意してくれた事には安堵した。
 我は、このまま、くすぶったまま、人生を終えてしまうのではないかと心配したのじゃ。
 じゃが杞憂(きゆう)じゃったな。
 運命の輪はちゃんと宗史郎殿を英雄とするための道を用意して待っておってくれたようじゃ。
 我はまだ、宗史郎殿の本来の力を確認してはおらぬ。
 宗史郎殿は、ブチャイクン戦で勝ち取った【ウォーコイン】の力のみを駆使して戦ってきたからじゃ。
 言うてみれば、力の使い回しじゃ。
 じゃが、その力は【ジギャク】に奪われた。
 【ジギャク】は、
「これからは、借り物の力ではなく、己自身の力を指し示せ」
 と言い残し、宗史郎殿が取得した【ウォーコイン】を奪い、立ち去っておる。
 つまり、次の戦いこそが、宗史郎殿が今回の転生で得た力を示す時となるはずじゃ。
 宗史郎殿本来の力無くして本当の意味での成功はあり得ぬ。
 その機会は、【ラティオ・ステルラ】に行く際に訪れるであろう。
 通行手形一つ持ち合わせておらぬ、宗史郎殿が【ラティオ・ステルラ】へ渡るには、力を示して渡るしかない。
 実力者は【ラティオ・ステルラ】へ渡る時に必要な宇宙船に乗ることを許可されるという話じゃ。
 宗史郎殿の今ある条件で、【ラティオ・ステルラ】へ行くにはその方法しかない。
 当然、借り物の力である【ウォーコイン】で示しても認められる事はなかったじゃろう。
 それが解っておるから、【ジギャク】は宗史郎殿の手から、【ウォーコイン】を奪い去ったのじゃ。
 力を示せれば良し。
 示せなければ、未熟者として、最低でも一ヶ月はそのテストを受けられぬと言う。
 我は宗史郎殿にその事を説明した。
 もはや、宗史郎殿に答えを見つけてもらうという段階は過ぎておる。
 それよりは、【ラティオ・ステルラ】に向かうために必要な試練に集中して欲しいと――そう、思うたのじゃ。
 宗史郎殿は、
「なるほどな。力なき者は去れ――そういう事か。上等じゃねぇか。挑戦してやるよ。待ってろよ、くそったれ共」
 と言った。
 我は、
「【ジギャク】という男に負けて、焦っておるのは解る。じゃが、ここは力をつけてからの挑戦でもかまわぬのじゃよ?」
 と聞いて見るも宗史郎殿は、
「心配ねぇよ。あの時は横着しただけだ。俺の力を使わなくても借り物の力だけでなんとかなると思って舐めてたんだ。それが俺のおごりだった。だが、目が覚めた。俺は同じ相手に二度負けるつもりはねぇ。まして、この試験で落ちるつもりもねぇ。かならず、【ラティオ・ステルラ】への切符を手にしてやる」
 と申してくれた。
 我は、
「それは頼もしい限りじゃ。それでこそ、我が見込んだお方じゃ」
 と言った。
 宗史郎殿は、
「ところでお前はどうするんだ?俺だけじゃ無く、お前も試練とやらに受からねぇといけないんじゃねぇのか?」
 と聞かれたので我は、
「心配無用じゃ。我も試練を受ける。我も力を持っておる。その力を持って宗史郎殿と共に【ラティオ・ステルラ】に参ろうぞ」
 と言った。
 我は7つの力を持っておる。
 一つは、命を13もっておるという事。
 二つ目は、異世界を渡る力。
 三つ目は、神の目線というのは以前にも申した通りじゃ。
 我はそれ以外に4つの力を持っておる。
 なので、宗史郎殿の足手まといになるつもりは毛頭ない。
 我はその旨、宗史郎殿に伝えた。
 宗史郎殿は、
「なるほどな。それなら問題ねぇか。じゃあ、失敗しやがったら許さねぇからな。一緒に【ラティオ・ステルラ】へ行こうぜ」
 と言ってくださった。
 我は感無量になり、
「もちろんじゃ。共に【ラティオ・ステルラ】の地を踏みましょうぞ」
 と言い、涙した。
 宗史郎殿は、
「おいおい、感動するのは無事に【ラティオ・ステルラ】に行けてからにしてくれよ。これで、どっちかが落ちたりしたら笑い話にもなんねぇぜ」
「そうじゃったな。まだ、喜ぶのは早かった。我も気を引き締める故、宗史郎殿もしっかりな。我を失望させないでくれ」
「誰にものを言ってるんだ。俺はやるっつったらやるぜ。【ジギャク】んときゃ、醜態見せたが、もう、お前に醜態見せるつもりはねぇぜ。サービスは一回だけだぜ」
「その意気じゃ。時には強がりも必要じゃ」
「強がりじゃねぇよ。俺は本気だ」
「そうじゃな。失礼した」
「じゃあ、引き続き、宇宙船の所まで案内してくれ。お前の神の目線ってのはそのためにあるんだろ?」
「任せるがよい。ちゃんと案内する」
「おう、頼むぜ」
 我と宗史郎殿は、【ラティオ・ステルラ】行きの試練の待つ宇宙船乗り場に向かうのじゃった。
 本番はこれからじゃ。


続く。








登場キャラクター説明

001 宮平 運萌(みやだいら うんも)→美緑 宗史郎(みろく そうしろう)

 この物語の主人公。
 元々は心優しき宮平 運萌(みやだいら うんも)という少年だったが、自ら命を絶つ事になる。生前、キツネコという天狐(てんこ)と化け猫(ばけねこ)の掛け合わせの子を救った事により、異世界にて別の人格や体などを与えられ別の人生を歩む事になる。
 【ラティオ・ステルラ】とは運萌が初めて転生した姿、美緑 宗史郎(みろく そうしろう)としての人生を歩む時に訪れた星の名前。
 彼が死ぬと生まれ変わり、タイトルも【ラティオ・ステルラ】から別のタイトルに変わる事になる。
 キツネコには12の命を用意されている。
 宗史郎の時の性格は多少傲慢になっている。


002 キツネコ

 この物語の語り部であり、主人公のサポーター。
 天狐(てんこ)と化け猫(ばけねこ)の掛け合わせの子。
 見方によってはキツネにもネコにも見える存在がダブったように映る体をしている。
 宮平 運萌(みやだいら うんも)という少年に命を救われたキツネコは恩義を感じ、13ある命の内12を彼のために使う決意をする。
 13の命、異世界を渡る力を含めた7つの力を使う事が出来る。
 強い存在の動きを感じ取れるという神の目線という力もその一つでレベル1からレベル10までのレベルに応じた存在を感じ取れる。
 (レベル11以降は見ることが困難)
 一人称は我で、〜じゃというのが口癖で古風なしゃべり方をする。


003 ブチャイクン

 宗史郎に【ウォーコイン】という【ラティオ・ステルラ】から伝わった勝負事へ誘いをかけた男。
 【ウォーコイン】初心者達から巻き上げた力を使って肥え太ったチンピラ。
 45000枚分のコインを作る体力を持ちながらも、たった100枚のコインで勝負した宗史郎に完膚なきまで叩きのめされる。
 【ウォーコイン】の戦術としては三流以下。
 攻撃には強いが防御には無茶苦茶弱い。
 宗史郎をカモにするつもりが逆にカモにされた哀れな男。


004 ジギャク

 傲り高ぶった宗史郎の目を覚まさせた男。
 【ラティオ・ステルラ】から名も無き惑星に【ウォーコイン】というゲームを持ち込んだ男でもある。
 【ジギャク】と名乗って居るが本名ではなく、本人曰く、【ラティオ・ステルラ】では自分は単なる小者に過ぎないと言う。
 宗史郎の才能を見て、遙かな高みを指し示す。
 自分を超えててっぺんを目指せと言い残し、【ラティオ・ステルラ】へと帰って行った。