第七弾 プハンタシア・クアンティタース 序章 前編

第七弾前編挿絵

00 ファーブラ・フィクタという物語とクアンスティータというラスボスのおさらい

 かつて【ファーブラ・フィクタ】という物語には最強最大、最超最謎(さいちょうさいめい)の出鱈目過ぎる力を持ったラスボスが君臨していた。
 その名前をクアンスティータという。
 クアンスティータは神話の時代より、その名前は恐怖の代名詞として神や悪魔はもちろん全ての存在その他より恐れられていた。
 クアンスティータが神話の時代に誕生していたら神は悪魔の勢力に勝ち目は欠片も無かったと言われるほどに。
 時代は進み、その恐怖の存在であるラスボス、クアンスティータはついに誕生してしまう。
 全ての存在がかつて無いほど危機感を感じ、超大パニック状態となった。
 それほど恐れられたクアンスティータとは――
 背中の万能細胞、背花変(はいかへん)と千種類以上の自動防御能力を持つ無数の尻尾、千角尾(せんかくび)を共通特徴とする存在で、24の宇宙世界(うちゅうせかい)を所有し、13核の本体と24核の側体を持っていたとされている。
 それはすなわち――
 第一本体クアンスティータ・セレークトゥース
 第二本体クアンスティータ・ルーミス
 第三本体クアンスティータ・レクアーレ
 第四本体クアンスティータ・ミールクラーム
 第五本体クアンスティータ・リステミュウム
 第六本体クアンスティータ・レアク・デ
 第七本体クアンスティータ・テレメ・デ
 第八本体クアンスティータ・リデュソーム
 第九本体クアンスティータ・クィデュリース
 第十本体クアンスティータ・フォリメリエ
 第十一本体クアンスティータ・ティオンコムーダ
 第十二本体クアンスティータ・フィニカシティーオ
 第十三本体クアンスティータ・ティアーラーオード
 という13核の本体と、
 第一側体クアンスティータ・トルムドア
 第二側体クアンスティータ・ソリイントゥス
 第三側体クアンスティータ・ファムトゥ
 第四側体クアンスティータ・レマ
 第五側体クアンスティータ・ウァウスクス
 第六側体クアンスティータ・ククントゥス
 第七側体クアンスティータ・イグスルナ
 第八側体クアンスティータ・ウルステーサ
 第九側体クアンスティータ・ティクスエレハ
 第十側体クアンスティータ・トゥルストゥス
 第十一側体クアンスティータ・アーサウェル
 第十二側体クアンスティータ・イスクリア
 第十三側体クアンスティータ・ヒアトリス
 第十四側体クアンスティータ・フィーニス
 第十五側体クアンスティータ・イティニウム
 第十六側体クアンスティータ・ウェンインティオ
 第十七側体クアンスティータ・オムニテンポス
 第十八側体クアンスティータ・クリスディール
 第十九側体クアンスティータ・プリプロウス
 第二十側体クアンスティータ・ニュマス
 第二十一側体クアンスティータ・ウェヌトゥスス
 第二十二側体クアンスティータ・ニーウスク
 第二十三側体クアンスティータ・ルプーム
 第二十四側体クアンスティータ・フィウキマレム
 という24核の側体からなっている。
 本体はそれぞれ1つ以上の強力過ぎる特別な力を持っていた。
 基本的には純粋な性格をしているこれらのクアンスティータが恐怖の代名詞として恐れられたのは他の存在が全く敵わないほど、力が強大過ぎたからであった。
 いくら正しい心を持って力を制御していようとも、それを利用し悪用しようとする不届き者の存在は後を絶たない。
 それ故に、悪用されるという心配事が最も恐ろしい存在と呼ばれていた理由なのである。
 そんなクアンスティータだったが、1組のカップルと出会い、自らの力を全て捨てる決意をする。
 その決意をさせた者こそ、【ファーブラ・フィクタ】のメイン主人公である芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)であり、その恋人でメインヒロインでもあるカノン・アナリーゼ・メロディアス第七王女だった。
 この2人と出会い、クアンスティータは、姉であり、兄でもあったクアースリータと共に、芦柄 くあす(クアースリータ)と芦柄 くあん(クアンスティータ)という存在として生きていく道を選んだ。
 くあん(クアンスティータ)が、全ての力を放棄して、物語は終了――したかに見えた。
 だが、違っていた。
 ――お気づきだろうか?
 元々、クアンスティータと呼ばれる13番の化獣(ばけもの)はセレークトゥースやルーミスと言った最強と言える要素を全てかき集めたものであるという事に。
 クアンスティータという化獣は最強の要素を集めたものであり、クアンスティータがそれを放棄した事によってセレークトゥースやルーミスと言った要素は残る事になったのだ。
 今作、【プハンタシア・クアンティタース】では、そのクアンスティータの力の後継を巡る物語として始まろうとしていた。
 【ファーブラ・フィクタ】時代には出なかったクアンスティータの更に更に奥の奥の力というものは存在している。
 それだけ、クアンスティータという化獣は強すぎたのだ。
 一つの物語では表現しきれないほどに。
 そして今、クアンスティータの後継者を巡る物語は静かに始まろうとしていたのだった。


01 動き出す物語――動乱の時代へ


 クアンスティータの、【ファーブラ・フィクタ】まででの時代では、物語は宇宙世界だった。
 同じ、宇宙世界でも現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界よりも遙かにでかく、強靱かつ、恐ろしい力を秘めたクアンスティータの宇宙世界――その余りにも大きすぎる舞台を元に出来事は展開していった。
 何故ならば、それは人間達の視点から始まった物語だったからだ。
 人間達の知識ならば宇宙世界であれば、事足りる事だったのだ。
 基本的に、恐ろしく高いポテンシャルを持っていたクアンスティータだったが、その子が使った力など、全体から考えればほぼゼロに等しい力に過ぎなかった。
 強大過ぎるパワーだったにもかかわらずだ。
 クアンスティータとはそれだけ、計り知れなかったのだ。
 その計り知れないパワーもクアンスティータだったから成立した力だった。
 クアンスティータはその力を持つのにふさわしい存在だった。
 しかし、クアンスティータはその力を放棄した。
 自分には必要の無い力として捨てたのだ。
 捨てた力は消える運命だった。
 だが、それを良しとしない者は無数に存在した。
 理由――それは、クアンスティータの力=最強の力だからだ。
 決して揺るがない最強の力が消えると解っていてそれを黙って見ているという手は無い。
 あわよくばその力を手にしようという者は数え切れないほど存在した。
 その争いはもはや、宇宙世界という単位を超えつつある。
 その上の世界他外(せかいたがい)という単位に入りつつあった。
 それは同時に、クアンスティータの力を受け継ごうとしていたものが制御仕切れていないという事を意味していた。
 本来、宇宙世界に住む者にとっては、手の届かない位置にあった世界他外――そこに到達しようという事はクアンスティータの時代を超える動乱の時代になる可能性を秘めていた。
 それをおさめるには、クアンスティータの力は正しい後継者に引き継がねばならない。
 適任者はいるのか?
 それも解らない。
 ただ、クアンスティータの力が消える事無く、保存され、それが使われる時を待っている状態になってしまっているという事だけは確かだった。
 クアンスティータの力はまだ、表舞台に登場していない。
 影に、裏に、見えない所に、歪みに、どこかに隠れてその時を待っている。
 力自体の姿こそは見えないが、クアンスティータの力を狙う多くの者達は、どこかにクアンスティータの力が眠っている事を知り始めた。
 その文句なく最強の力を巡ってそれぞれが動き出したのだった。


02 クアンスティータの力を求めて


 クアンスティータの持っていた力の継承――それは、普通の存在では、まず引き継げはしない。
 クアンスティータの力を僅かでも体内に宿した時点で、その絶対的に大きなパワーで存在を保てなくなり、消え去るだろう。
 消え去るだけならましかも知れない。
 何が起きるか解らないのだ。
 それくらい、クアンスティータの力を継承するという事は特別な事なのだ。
 そのため、クアンスティータの力を利用したい者はその力を保存して出し入れ出来る引き出し――器を探さねばならない。
 クアンスティータの力をしっかりと貯蔵出来る極端に頑丈な器を。
 完全に安全な制御装置無くして、クアンスティータの力は利用出来ないのだ。
 だが、それを装備するとなると、どうしても巨大過ぎる設備が必要となる。
 クアンスティータという存在の様にコンパクトに収まる方が本来あり得ない事なのだ。
 そのため、まず、器として目をつけられるのはその余りにも巨大過ぎる体躯を持っている極獣(きょくじゅう/もしくはごくじゅう)と呼ばれる生命体だった。
 言ってみれば怪獣を極限まで大きくした化け物の事だ。
 小さな極獣ですら、宇宙を二、三〇〇個またがるような大きさを持つため、これならば、クアンスティータのパワーを受け取るだけの器として大丈夫だろうと思われた。
 結果はノー――クアンスティータの力のほんの一部ですら、耐えられる極獣は存在しなかった。
 あの極獣でも全く駄目だった――その事実がクアンスティータの力を欲していた者達を驚愕させる。
 クアンスティータの力は自分達が考えていたものより遙かに大きいことを知るのだった。
 通常の宇宙世界の存在ではクアンスティータの力を受け継ぐ器たり得ない。
 ならばどうする?
 それは、クアンスティータの宇宙世界に居た勢力を器とするしかないのではないか?
 という事を考える様になる。
 だが、それもすぐに否定される。
 クアンスティータ・ファンクラブというクアンスティータを崇拝するために組織された集団達の言葉によって。
 クアンスティータの宇宙世界の勢力ではクアンスティータの力に耐えられない。
 何故ならば、クアンスティータの真の力は宇宙世界よりも更に上の場所――世界他外以上の場所ともつながっているからだ。
 クアンスティータの宇宙世界程度のレベルの器ではクアンスティータの世界他外以上のレベルには耐えられないというのだ。
 宇宙世界レベルでは、現界においては出現、顕現する事=他の全ての崩壊を意味するとされている【よそもの】と呼ばれる存在までが限界。
 世界他外以上にはその【よそもの】という考え方をも超える【変様何(へんようか)】と呼ばれる領域が存在する。
 それらは、宇宙世界に住む者の知を遙かに超えたレベルとなる。
 もしも、クアンスティータの力を継承させるという器を用意するのであれば、その【変様何】を圧縮させるなどして、器として作り変えるしかないだろうとの事だった。
 その【変様何】と呼ばれる存在は宇宙世界には存在していない。
 それは、世界他外以上という宇宙世界を超える単位でしか、存在出来ないものなのだから。
 そのため、宇宙世界に居る者はその存在には手が出ない。
 それが、クアンスティータ・ファンクラブの出した結論だった。
 クアンスティータ・ファンクラブとしても、クアンスティータの力を失うという事は何よりも惜しい事だと認識している。
 だが、クアンスティータ自身が力を捨てると決めたのであれば、クアンスティータ・ファンクラブはそれに従うしかない。
 ならば、せめて、その後継となる何かを――そう思ってずいぶん研究したらしいが、結果として導き出されたのはそういう結果だったという。
 万策尽きる。
 打つ手無し。
 取る手立て無し。
 他のクアンスティータの力を求めていた存在達よりも先に、クアンスティータ・ファンクラブがその事で落胆、絶望していたという。
 【ネクスト・クアンスティータプロジェクト】として動いて居たが、結果、計画は破綻したという事だ。
 最強とされる存在の喪失――それは良くも悪くも色んな所で影響していた。
 クアンスティータの力を渇望する者。
 クアンスティータの復活を願う者。
 クアンスティータに成り代わり、自分がbPになろうとする者。
 色々居る。
 だが、それは全て、クアンスティータという存在の大きさを物語る事の一つでしかない。
 クアンスティータが力を捨てた事によって、真の意味での最強と呼ばれる存在は居なくなったという事でもあった。
 クアンスティータは力を捨てた。
 だが、そのクアンスティータの力を求める者は数え切れないほど存在し、くすぶっている状態だという事だ。
 クアンスティータ・ファンクラブは後継者が見つからず絶望したが、実は後継者の名前として【三つの名前】が上がっていたという事はほとんど知られて居なかった。
 その【三つの名前】が何なのか?
 どういう意味を持っているのか?
 それは伝わっては居なかった。
 ただ、【三つの名前】――それがあるのみだった。


03 成り上がるクアンスティータ、天下るクアンスティータ、クアンスティータの子?


 【三つの名前】には現在の所、該当者は居ない。
 だが、その【三つの名前】はそれぞれ、
 【成り上がるクアンスティータ】、
 【天下るクアンスティータ】、
 【クアンスティータの子?】、
 と言われている。
 存在して居ないにも関わらず、名前も決まっている。
 【成り上がるクアンスティータ】は【トゥルフォーナ】という名前が、
 【天下るクアンスティータ】は【クアトゥウス】という名前が、
 【クアンスティータの子?】は【クエニーデ】という名前が、
 それぞれ、割り当てられている。
 それぞれの名前がクアンスティータの力を受け継げば、どうなるのか?
 それは、例えば第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの力を受け継げば、
 【トゥルフォーナ・セレークトゥース】、
 【クアトゥウス・セレークトゥース】、
 【クエニーデ・セレークトゥース】、
 となる。
 だが、これは真にクアンスティータの力を受け継いだ事にはならない。
 真なるクアンスティータの力を受け継いだ時、名前は、
 【名・元のクアンスティータという名前・それぞれの本体、側体などの名称】
 という事になる。
 すなわち、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの力ならば、
 【トゥルフォーナ・クアンスティータ・セレークトゥース】、
 【クアトゥウス・クアンスティータ・セレークトゥース】、
 【クエニーデ・クアンスティータ・セレークトゥース】、
 となるのだ。
 これは別に第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの力を受け継いだ場合だけではない。
 第二本体クアンスティータ・ルーミスの力を受け継げば、
 【トゥルフォーナ・ルーミス】、
 【クアトゥウス・ルーミス】、
 【クエニーデ・ルーミス】、
 となり、真なる継承をすれば、
 【トゥルフォーナ・クアンスティータ・ルーミス】、
 【クアトゥウス・クアンスティータ・ルーミス】、
 【クエニーデ・クアンスティータ・ルーミス】、
 となる。
 他の本体や側体の継承、真なる継承も同様となる。
 が、前述した通り、この名前に該当する者は居ないとされている。
 理由はいくつかあるが、その最大の理由とされているのが――
 【第五本体クアンスティータ・リステミュウム】、
 【第六本体クアンスティータ・レアク・デ】、
 【第七本体クアンスティータ・テレメ・デ】、
 の力の継承問題だ。
 特に第七本体の力は別格どころの話ではない。
 この力の継承は物理的に不可能だとされているのだ。
 クアンスティータの力の継承など無理だ。
 不可能だ。
 出来る訳が無い。
 それが、一般的な考え方なのだ。
 ただ――
 【成り上がるクアンスティータ】とはクアンスティータよりも弱い存在からなりあがってくる者がクアンスティータの力を受け継ぐという場合を指し、
 【天下るクアンスティータ】とはクアンスティータが所有している世界他外以上の場所などから、力を落としていき、宇宙世界などで活動出来る状態となり、クアンスティータの力を受け継ぐ者とされている。
 【クアンスティータの子?】とは、生殖能力の無いクアンスティータの子供という訳ではなく、クアンスティータ(第七本体クアンスティータ・テレメ・デ)の所有する宇宙世界の遙かな奥の奥に居るとされているレインメーア(クアンスティータとなる前の姿である神話の時代に生きた存在で怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナの愛娘であるレインミリーの生まれ変わりだとされる少女で他の宇宙世界などから隔絶(かくぜつ)された場所に居る心が澄み切った少女)の子供とされている。
 クアンスティータがレインミリーの生まれ変わりであるレインメーアを守るために存在していたと考えるとその重要度は【成り上がるクアンスティータ】や【天下るクアンスティータ】よりもずっと高いとされるクアンスティータとなる。
 だが、【成り上がるクアンスティータ】も【天下るクアンスティータ】も【クアンスティータの子?】も、もしも居たら?と言われているだけでの話だ。
 それらは、存在するとされて居ないので、クアンスティータ・ファンクラブは絶望しているのだ。
 居ないとされているが、名前だけは存在する【三つの名前】――
 これが何を意味しているのかは誰も解らない。
 宇宙世界に住む者にとって、この話は想像を遙かに飛び越える問題であり、伺い知れるものでは決してないのだった。
 【三つの名前】――それだけが、取り残されている。


04 秘謎稀超(ひめいけちょう)


 クアンスティータ・ファンクラブが【三つの名前】の一つ、【天下るクアンスティータ】の可能性として、掴んだ事実がある。
 それは、今まで世界他外以上の場所に存在している存在は全て【変様何(へんようか)】という名称で統一されていたが、初めて、【変様何】以外の名称がついたのだ。
 その名称は、【秘謎稀超(ひめいけちょう)】という。
 【秘謎稀超】は【変様何】の中の一部であるとされており、それは【天下るクアンスティータ】となるため、力を落として来ているとされている存在だった。
 【秘謎稀超】が更に、【秘謎(ひめい)】と【稀超(けちょう)】に分離する事が出来たら、クアンスティータ・テレメ・デの勢力である【よそもの】と同じ様な扱いで宇宙世界に出てくる事が出来るとされているのだ。
 もちろん、【よそもの】もそのままでは全ての存在が死に絶えてしまうので、限定的な顕現(けんげん)しか出来ないのと同じ様に【秘謎】や【稀超】も限定的な顕現となるだろう。
 クアンスティータの宇宙世界であれば、普通に顕現する事も可能だろうが、クアンスティータの宇宙世界以外の宇宙世界での顕現はまともにする事は出来ない。
 それでも、一部とは言え、顕現する事が出来たら、クアンスティータの後を継ぐことが出来るかもしれないという希望は持てる。
 だが、そもそも、【秘謎稀超】から【秘謎】と【稀超】に分離する方法が現時点では存在しないとされているようだ。
 そこに【変様何】と呼ばれる飛び抜けた存在と他の存在の大きな隔たりがあると言わざるを得ないという事も解っている。
 【秘謎稀超】から【秘謎】と【稀超】に分離して、更に力を限定的にするだけだから、もうちょっとだと思うかも知れない。
 だが、その二つは通常の現界などで考えられている力の減退とは全く訳が違うのだ。
 完全に超えられない二つの壁となっているのだ。
 これが、【天下るクアンスティータ】に対してクアンスティータ・ファンクラブが絶望した理由だった。
 また、逆に、下から這い上がる者として【成り上がるクアンスティータ】はどうだろうか?
 これは単純に、クアンスティータの圧倒的過ぎるパワーに耐えられる肉体などがこの宇宙世界には全く存在していないという事だった。
 どれをどう組み合わせようが、クアンスティータたり得る存在になり得ない。
 それが、【成り上がるクアンスティータ】に対してクアンスティータ・ファンクラブが絶望した理由だった。
 人工(じんこう)よりも遙かに上、【神工(しんこう)】でもそれは不可能。
 それどころか第三本体クアンスティータ・レクアーレのオンリー・テクノロジーでもクアンスティータの力を受け継ぐという大それ過ぎた事は不可能だろう。
 残る一つ、【クアンスティータの子?】についてはどうだろう?
 これは他の宇宙世界とは完全に隔絶された場所に居るレインメーアが産むという事実が例え、産んだとしても宇宙世界に来ることはないという事が挙げられる。
 この様に三者三様の理由でクアンスティータ・ファンクラブは【三つの名前】に対して存在はあり得ないとして絶望していたのだった。


05 代理クアンスティータ制度


 【三つの名前】によるクアンスティータの後継者が望み無い状態でいるからと言ってクアンスティータ・ファンクラブはクアンスティータの抜けた穴を補わないという訳にはいかない。
 そこで、用意されようとしているのが、【代理クアンスティータ制度】だった。
 クアンスティータには21核の公式の偽クアンスティータが存在したという事をヒントに考えられたのがこの制度だった。
 クアンスティータの代わりとなる存在を立てるという制度で、その代理はクアンスティータという名前では無く、【シュストゥムヴィーノ】という代わりの名前が用意されている。
 【シュストゥムヴィーノ】にはクアンスティータの基本とされる7つの本体と17の側体を擬似的に持たせているのだ。
 すなわち、
 第一本体 【シュストゥムヴィーノ・イェムストゥタヴィー】、
 第二本体 【シュストゥムヴィーノ・ニードハーザ】、
 第三本体 【シュストゥムヴィーノ・ジェニートゥヴィヴォ】、
 第四本体 【シュストゥムヴィーノ・ラックズーザ】、
 第五本体 【シュストゥムヴィーノ・ハザーダ】、
 第六本体 【シュストゥムヴィーノ・チュロップ】、
 第七本体 【シュストゥムヴィーノ・ヴィーミルス】、
 という7つで、言葉こそ違えど、名前の由来はクアンスティータと同じ様な意味であるとされている。
 また、
 第一側体 【シュストゥムヴィーノ・ホムノ】、
 第二側体 【シュストゥムヴィーノ・ヴヂニーポ】、
 第三側体 【シュストゥムヴィーノ・クライオ】、
 第四側体 【シュストゥムヴィーノ・ザーツニーヴ】、
 第五側体 【シュストゥムヴィーノ・シュレ】、
 第六側体 【シュストゥムヴィーノ・シェフノフ】、
 第七側体 【シュストゥムヴィーノ・ビネート】、
 第八側体 【シュストゥムヴィーノ・ラットポク】、
 第九側体 【シュストゥムヴィーノ・ヴィートゥシェドゥニース】、
 第十側体 【シュストゥムヴィーノ・ロウピーフ】、
 第十一側体 【シュストゥムヴィーノ・プッル】、
 第十二側体 【シュストゥムヴィーノ・グニェド】、
 第十三側体 【シュストゥムヴィーノ・シービェプフ】、
 第十四側体 【シュストゥムヴィーノ・ツコネ】、
 第十五側体 【シュストゥムヴィーノ・ザテークッチャ】、
 第十六側体 【シュストゥムヴィーノ・レーナス】、
 第十七側体 【シュストゥムヴィーノ・シェスフトランニー】、
 という17の側体の名前も用意されている。
 一応、これだけの準備はされてはいるのだが、正直な所、クアンスティータの存在力に比べて、余りにも貧弱であり、定着しそうも無い名前であるという指摘もあるのが現状だった。
 クアンスティータ・ファンクラブとしてはこの【シュストゥムヴィーノ】による【代理クアンスティータ制度】に頼るというのではなく、正式なクアンスティータの後継者を擁立したいというのが本音としてあったのだった。
 居ないものは仕方が無いので、お飾りのトップとなる【シュストゥムヴィーノ】を仮に置いているだけに過ぎないのだ。
 それは、【シュストゥムヴィーノ】に奉り上げられる者にとってもクアンスティータ・ファンクラブのメンバーにとっても健全な事では無かった。
 その多くが、【シュストゥムヴィーノ】はクアンスティータのトップとしては認められないという意見が多かったのだ。
 多くの意見が【シュストゥムヴィーノ】にはクアンスティータの後継たる品格が無いとの意見も多く、【シュストゥムヴィーノ】の視点はクアンスティータの視点には達していないというものだった。


06 クアンスティータの視点


 では【クアンスティータの視点】とはなんなのだろうか?
 それは、考え方によるものが理由の一つとしてあげられる。
 例を挙げよう。
 例えば、仮にクアンスティータの能力が全て使えなくなったとする。
 他の者であったならば、それは全ての力の停止を意味し、どうにもならなくなる。
 だが、クアンスティータの場合は違う。
 能力が使えないというのであれば能力以外の力を使えば良いのだ。
 超力(ちょうりょく)、
 謎力(めいりょく)、
 異質力(いしつりょく)、
 変貌力(へんぼうりょく)、
 不可思議力(ふかしぎりょく)、
 他力(たりょく)、
 何力(かりょく)、
 稀力(きりょく)、
 失われし力、
 力ではない力、
 力の様なもの、
 変質力(へんしつりょく)、
 妙力(みょうりょく)、
 偉力(いりょく)、
 至力(しりょく)、
 全くよくわからない何か、
 そもそも力という概念の外にあるもの、
 偽能力(ぎのうりょく)、
 秘力(ひりょく)、
 力力(りょくりょく)、
 力力力(りょくりょくりょく)、
 不可能力(ふかのうりょく)、
 封じる事の出来ない力、
 名称がないもの、
 等々、数え上げたら切りが無い。
 どんな力を使っても能力と同じ効果を持たせる事も出来るのだ。
 完全にへりくつの世界だ。
 能力がだめなら別の力というルールを元に、別の力を考え出している。
 この様な視点をクアンスティータは持っているのだ。
 それが、【シュストゥムヴィーノ】の視点には無いというのだ。
 他にも例を挙げて見よう。
 例えば不死性について見てみよう。
 【ファーブラ・フィクタ】という物語において、不死身、不老不死という存在は絶対的な強さを持っていなかった。
 クアンスティータを引退させた芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)という男を始め、数多くの存在が不死身や不老不死と呼ばれる存在をいとも簡単に倒している。
 弱点が無ければ弱点を作り出せば良い。
 生み出せば良いという考えだ。
 能力浸透度(のうりょくしんとうど)と能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)の問題でもある。
 能力浸透度が2のナイフであれば、能力浸透耐久度が1の不死身の存在を刺し殺せるという考え方だ。
 他にも不死身という能力そのものを【アビリティー・クラッシャー】などを初めとした能力破壊能力で破壊してしまったら、その存在は不死身では無くなる。
 存在ごと消してしまえば良い――
 等多くの撃退方法が存在している。
 それ故、【ファーブラ・フィクタ】という世界観には不死身とは絶対ではなく、その不死身よりも上の存在が居るとされているのだ。
 不死身より上の者は下から、
 【有続者(ゆうぞくしゃ)】、
 【不変者(ふへんしゃ)】、
 【よくわからない何か】という上位種が存在する。
 【有続者】とはクアンスティータやクアースリータ以外の化獣(ばけもの)がこれにあたり、完全に消え去っても次の瞬間、元に戻れる力を持つものを指す。
 【不変者】とはクアンスティータの双子の姉にして兄でもあるクアースリータがこれにあたり、存在ごと消されても元に戻る力を持った者を指す。
 そして、その上の【よくわからない何か】とはそれら不死身などの概念の外に位置する存在で、これこそが、クアンスティータたる証でもある。
 最も、クアンスティータの中でもこの【よくわからない何か】もピンからキリまであるようだが、それでも、どんなに弱小のクアンスティータであっても本物に部類されるものではこの【よくわからない何か】であるという最低条件は余裕でクリアしているのだ。
 クアンスティータの後継者たる【三つの名前】もこの【よくわからない何か】であるという条件をクリアして初めて、後継者(真なる後継者になるには更に上を行かねばならないが――)と認められるのだ。
 だからこそ、この条件を満たす者が存在しないため、該当者無しという事になっているのだ。
 【シュストゥムヴィーノ】はこのクアンスティータたる最低条件である【よくわからない何か】であるという条件も満たしていないのだ。
 そのため、多くの者がクアンスティータの代理として認めたくないと思っているという事なのだ。
 他にもある。
 本物のクアンスティータとしての特徴である【背花変(はいかへん)】の問題もある。
 【背花変】とは本物のクアンスティータであるという証明になるもので、本体は六角形のものが七片あり、花の様になっている事から背中にある花の変わったもので【背花変】と呼ばれている万能細胞の塊だ。
 側体はこれが、五角形のものが六片あり、偽クアンスティータにもタティー・クアスンという存在が三角形で四片の【背花変】を有していたという事実がある。
 つまり、この万能細胞【背花変】は本物のクアンスティータであるという証の一つとなっている。
 【シュストゥムヴィーノ】はこの【背花変】が、円で一片しかないのだ。
 これでは、偽クアンスティータであるタティー・クアスン以下であるという事になる。
 偽クアンスティータにも劣る力しか無い者をクアンスティータの代理とするのはどうかという問題もあるのだ。
 同様に、もう一つあるクアンスティータの象徴として、相手の最も弱い時期に時を移動して攻撃する力を初めとして、自動防御能力が1000以上封じられているとされている【千角尾(せんかくび)】だが、【シュストゥムヴィーノ】はこの【千角尾】を持っていないのだ。
 尻尾そのものが無いのだ。
 【背花変】および、【千角尾】が一つもしくはついていないという状態であるため、【シュストゥムヴィーノ】はもはや、クアンスティータの後継として認めづらい状態となっている。
 今回挙げた四例以外にも、数多くのチェックポイントで【シュストゥムヴィーノ】はクアンスティータの後継者たる条件を満たしていない。
 無名であるという前に、
 名前が浸透していないという前に、
 【シュストゥムヴィーノ】は力不足を指摘されているのだ。
 なので、多くの存在が【シュストゥムヴィーノ】をクアンスティータの後継者と認めないというどころか、存在さえ、認識していないという者が数多く居るという状態になっていた。
 クアンスティータ・ファンクラブを束ねる、古き者――クアンスティータの乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあったオルオティーナはこれが悩みの種だった。
 クアンスティータの乳母としてはこのまま、クアンスティータは引退したいというのだから、その気持ちをくんでやりたいとは思うが、クアンスティータ・ファンクラブやそれらに従う者達の暴動を防ぐためにも、クアンスティータ自身の復権も視野に入れておかねばならないと思う様になっていた。
 求心力のあるトップが不在という事態――
 それが、クアンスティータ・ファンクラブが抱えている大問題だった。


07 遣上超使(けんじょうちょうし)と超吟侍(ちょうぎんじ)


 クアンスティータ・ファンクラブとしてはクアンスティータの後継問題は諦めの境地に片足を踏み入れている状態だが、実はオルオティーナ自身は諦めてなど居なかった。
 実は、【三つの名前】の内、【天下るクアンスティータ】の情報として、【秘謎稀超】等のネタを掴んできたのはそう言った諦めの悪さで色々やっていた成果だった。
 オルオティーナは【遣上超使(けんじょうちょうし)】と呼んでいる存在を世界他外に派遣して情報を得ていたのだ。
 世界他外と言えば、宇宙世界を超える単位である。
 とてもじゃないが、通常の存在を派遣しても生きて帰る事は出来ない。
 だが、オルオティーナは不可能を可能にしていく特別な存在のデータを手に入れていた。
 クアンスティータを引退に導いた【芦柄 吟侍】という存在のデータを。
 芦柄 吟侍は、第一本体クアンスティータ・セレークトゥースの所有する宇宙世界、セレークトゥース・ワールドに招かれた際、後の共同経営者となる【ぴょこたん】というゆるキャラの様な存在に自身の生体データを提供していた。
 そのデータは、複製加工されて、当時、【真似っこ吟ちゃん】として、セレークトゥース・ワールドのゆるキャラ達にバカ売れした。
 その噂は幼いクアンスティータに代わって、クアンスティータの宇宙世界を管理していたオルオティーナの耳にも入っていた。
 オルオティーナはもしもの時があった時のため、そのデータをゆるキャラ達に提供してもらい、自ら育てていたのだ。
 その後、クアンスティータが力を捨て、引退する事が起きてしまった時、クアンスティータを引退に導いた責任をとってもらおうと、提供された吟侍の生体データを鍛え上げ、【遣上超使】となる様にしていったのだ。
 クアンスティータの宇宙世界ですら、完全制覇など、通常の存在には不可能な事である。
 ましてや、【遣上超使】を向かわせるのはそのクアンスティータの宇宙世界よりも上位に当たる単位の世界他外である。
 並大抵の事をしていても全く事足りない。
 そこで、オルオティーナはできうる限りの事は全て実行した。
 それこそ、人道から外れる様な事まで何もかもだ。
 そうやって、吟侍の生体データは、【遣上超使】として鍛えられたのだった。
 力で言えば、本物の吟侍をも遙かに凌駕する力を【遣上超使】は与えられていた。
 それでも、たった1人の【遣上超使】では、任務に失敗する可能性があるとして、吟侍の生体データで【遣上超使】に調整された数は、379不可思議(ふかしぎ)人以上とも言われていた。
 それだけの数の吟侍の超複製――【遣上超使】を用いても世界他外を冒険して、生きて帰って来る確率は400那由他(なゆた)分の1にも満たなかった。
 無理難題には無茶苦茶強いはずの吟侍を更に高めた存在ですら、ほとんど戻って来れないところ――それが、世界他外という宇宙世界以上に広大な場所だった。
 1万を切る9418名の【遣上超使】の生き残りは、戻って来た時は吟侍という存在自体を超越し尽くした存在として戻って来ていた。
 これが元人間だったとは思えないほどの強大なエネルギーを要する【遣上超使】は仮に【超吟侍(ちょうぎんじ)】と呼称された。
 【遣上超使】として、世界他外でもまれて帰ってきて別次元の力を持った者をそう呼ぶ事にしたのだ。
 オルオティーナは【超吟侍】達から、世界他外にまつわる様々な事を聞いていた。
 それが――その事がやはり、クアンスティータの後継者を作り出すという事の難しさを感じさせると共に、これだけ、素晴らしいものを諦めたくないという気持ちがわき出ていたのだった。


08 世界他外(せかいたがい)


 オルオティーナは【超吟侍】達の報告を受けていた。
 如何に【超吟侍】達と言えども、更に上の場所である偉唯位場(いゆいば)や何抜違至(かぬいし)には全く届かないと言う事だった。
 だが、世界他外(せかいたがい)までならば、なんとか理解するに至ったという事だった。
 9418名の【超吟侍】――その中の一名の報告を例に挙げてみよう。
 全員を【超吟侍】と表現するのには無理があるので、その報告をしに来た【超吟侍】は、8367番目に帰還した【超吟侍】なので、仮に【超吟侍bW367】とするとしよう。
 【超吟侍】は帰還した順番の早い者から順番に【超吟侍bP】から【超吟侍bX418】と呼称するという事にする。
 【超吟侍bW367】によると、世界他外とは――
 宇宙世界で言う宇宙空間――仮に【他外空間(たがいくうかん)】と呼称しよう。
 宇宙空間は真っ暗な世界だ。
 それに対して【他外空間】は【超吟侍】の目には白く映っていたという。
 完全に白だとは断定出来ない。
 あくまでも【超吟侍】の目には白く映っていたというだけなのだ。
 と言うのも人間の視覚情報には限界がある。
 人間の目には見えない色もあるのだ。
 そのため、人間は近いイメージの色などで代用して物を見る事になる。
 錯覚の一つであるが、人間という不完全な存在である以上、そうするしかないのだ。
 これは吟侍という存在を超えた【超吟侍】であっても例外ではない。
 見えない色というものは確実に存在するのだ。
 人間の視覚情報を超えた色というものは。
 長くこの【他外空間】を見ていると失明する恐れもあるという。
 この色だけとっても、宇宙世界の常識を越えたところに世界他外は位置するのだ。
 また、偉唯位場(いゆいば)や何抜違至(かぬいし)にいけないという理由は以上のものだった。
 【超吟侍】という存在を維持したままでは世界他外と偉唯位場(いゆいば)の境界線を越える事が不可能なのだ。
 超えた途端に【超吟侍】は【超吟侍】ですら無くなってしまう。
 また、【超吟侍】個人の問題ならいざ知らず、その境界線を飛び越えれば、【連鎖超崩壊(れんさちょうほうかい)】を引き起こしかねないというのが最大の理由だった。
 【連鎖超崩壊】とは、【超吟侍】と同じ宇宙世界の者は残らず、崩壊し消えるという事だ。
 つまり、【超吟侍】がその境界線を越えた事によって、連帯責任で、現界の存在、全てが責任をとって消え去るという事になるのだ。
 そんなリスクを背負ってまで偉唯位場(いゆいば)以上の場所に行くことは出来ない。
 それが、【超吟侍】がいける場所としての限界は世界他外の単位までと言った理由だった。
 世界他外は時間や空間の概念が曖昧となっており、これは、クアンスティータの宇宙世界でも見られた特徴と似ている。
 そのため、クアンスティータの宇宙世界の延長線上にある場所だと思えばなんとか行き着く事が出来るというものだった。
 結果、【超吟侍】の調べたという情報では、通常の存在がたどり着ける果ては世界他外までという事になる。
 偉唯位場(いゆいば)以上に行きたければ存在を遙かに超えた何かになるしかない。
 存在を止めるしかない。
 それは全ての存在にとって完全に不可能な事だった。
 【超吟侍bW367】がこの情報を得るだけで正に命がけどころか存在がけだったのだ。
 【超吟侍】と言えども、得られる情報は1つか2つあれば良い――それが世界他外という場所だった。
 宇宙世界と同じ感覚では何も出来ない――それが、世界他外という世界観だった。
 宇宙世界とは何もかもがスケールやルールが全く違うのだ。
 宇宙世界では無敵でも世界他外に行けば無力となる――それが、世界他外における常識だった。
 また、世界他外に行けば、ものの考え方、概念の問題に直面する事になる。
 宇宙世界ではそれで当たり前だった事が世界他外以上ではそれは当たり前ではないのだ。
 宇宙世界の常識で世界他外にやってくれば、何も出来ずに消滅すればまだ、ましな方だった。
 消滅以上の目にだってあってもおかしく無い場所だという事だった。
 かつて、クアンスティータを生み出した怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナはこの景色を見て、クアンスティータという現界においてはあり得ない存在を作り出したのだった。
 クアンスティータとはそこまでしなくては生み出せないものだったのだ。


09 ウルトラ・マックス・ダウン・グレード・サイジング


 1名の【超吟侍】では、仕入れて来る情報は限りがある。
 せいぜい、1つか2つの情報を仕入れてくれば、良い方で、中には生き残っただけで、何の情報も持って帰れなかった【超吟侍】も数多く居た。
 9418名の生き残った【超吟侍】であっても、その中で有益な情報を持って帰れた者は1割に満たない93名しか居なかったのだ。
 【超吟侍】が体たらくだったのではない。
 それだけ、情報を得るだけでももの凄い偉業だとされる場所が世界他外という所なのだった。
 ほとんどの場合、何も出来ずに終わるのだ。
 それが当たり前なのだ。
 生きて帰れただけで、凄い事でもあるのだ。
 更に情報を得てくるなど、一握りでも居たのが驚きなくらいだった。
 【超吟侍bW367】が得てきた情報は他には無いので、他の情報を得てきた【超吟侍】の情報を検討してみよう。
 オルオティーナは次なる【超吟侍】の情報を確認した。
 他の有益な情報を得てきた【超吟侍】は、7137番目に戻って来た【超吟侍】だった。
 これを【超吟侍bW367】の命名に習って呼称するのであれば、【超吟侍bV137】という事になる。
 【超吟侍bV137】が持ち帰った情報は以下の様なものだった。
 それは、世界他外から宇宙世界に対するアプローチに関するものだった。
 これこそが、宇宙世界へ→クアンスティータの後継者となるためのものだ。
 これは、パワーを落とす事によって、世界他外を宇宙世界の環境に近づけるという動きであり、それを【ウルトラ・マックス・ダウン・グレード・サイジング】と呼んでいた。
 【超吟侍】とっては白く見える他外空間の中において、宇宙世界の様に黒く見える部分を作り出し、その黒い部分では、宇宙世界とほぼ同じ状況にするという試みが至る所で行われているという情報を【超吟侍bV137】は教えてくれた。
 その方法は無数にあるが、最も多く用いられている方法というのが、【眠り姫の脱力】と呼ばれる方法だという。
 理屈は良く解らないらしいのだが、世界他外にいる存在が眠り続ける事によって、世界他外の中に宇宙世界を泡の様に作り出すという技術のようだ。
 その世界他外の中の宇宙世界では、例えば、1名という概念と多数という概念が混在し、その存在の数を数えるという事柄事態も曖昧という【存在不確定(そんざいふかくてい)】というものを1名で確定化させるという事もあるという。
 それは意味合いとしてはわかりにくいのだが、現界でも似た様な事が起きた事がある。
 それは【総全殿堂(そうぜんでんどう)】と呼ばれる存在だ。
 【総全殿堂】はクアンスティータが生まれる前までは存在が確定化されていなかった。
 だが、クアンスティータが生まれる事によって、クアンスティータ以下、現界において、決して覆る事の無いとされる第24位までの順番を【総全殿堂】と呼ぶようになったという事と同じ現象を指すのだ。
 つまり、【存在不確定】と言う数が確定的では無かったものが、世界他外の中にある宇宙世界においては【1名】であると確定化された事を言うのだ。
 非情にわかりにくい表現ではあるが、要するに【ウルトラ・マックス・ダウン・グレード・サイジング】とは、世界他外において、存在したりするもの(存在という表現も異なる場合もある)を宇宙世界でも通用するように組み替えるという方法を言うのだ。
 世界他外の中にある宇宙世界においては現界などとほぼ、同じ様な条件で存在が存在しているという事になる。
 世界他外においては、現界などの存在はその存在理由を見失う事も多いが、世界他外に無数に存在する宇宙世界もどき――仮に【宇宙世界他外(うちゅうせかいたがい)】とするが――その【宇宙世界他外】であれば、なんとか存在し続ける事も可能であると言うのだ。
 【超吟侍bV137】はそれを利用出来た者が生き残ったらしいというのが報告としてあったのだ。
 この生き残った情報を得られた事は大きな成果と言えるだろう。
 オルオティーナはこの情報を得て居たため、まだ、世界他外へのアプローチを諦めるにはまだ早いのでは無いかと思っていたのだった。
 【超吟侍bV137】の知り得た情報はこれだけである。
 やはり、如何に【超吟侍】と言えども、一つ、情報を得てこられれば良い方なのだ。
 何も情報を得られずに帰って来た【超吟侍】の方が多いのであるから。


10 他の【超吟侍】の報告の一部抜粋


 オルオティーナは更に情報を整理した。
 今度は、6549番目に戻って来た【超吟侍】だ。
 今までの例に習うなら、【超吟侍bU549】という事になる。
 【超吟侍bU549】の報告は、以下の様なものだった。
 人類が宇宙を知る事で必要不可欠な事。
 それは、【統一性の整合】であるといえる。
 つまり、宇宙とは一様に等方である、どこまで行っても同じ条件であるという条件、仮定があってこそ、人類という小さな存在は自分達より遙かに大きな宇宙という広大過ぎる範囲に推測を持つ事が出来る。
 それは人類に限った事ではない。
 ほとんどの存在が直に知る事は出来なかった。
 それを直に知る事が出来るのは~超存(しんちょうそん)と呼ばれる神や悪魔などを超越した存在やクアンスティータの勢力くらいなものだった。
 そのほとんどの存在が宇宙世界を知る上で必要な絶対条件ともなっている、どこまで行っても同じであるという条件が世界他外の【他外空間】では通用しないとの事だった。
 感覚が宇宙世界の空間と全く違うので、これも確かな数値とは言えないのだが、宇宙世界で言う100メートルに相当する先には元居た位置とは別の法則が成り立っているとの事だった。
 つまり、他の存在が宇宙世界を知るための方法では世界他外は計れないと言う事を意味していたのだ。
 宇宙世界の常識が全く通じないのが世界他外――どうやらそれで間違いは無いようだった。
 【超吟侍bU549】の報告は以上だ。
 オルオティーナは別の【超吟侍】の報告資料にも目を通す。
 今度は5113番目に帰還した【超吟侍】だ。
 つまり、【超吟侍bT113】という事になる。
 【超吟侍bT113】の報告は以下のものとなっている。
 歌に関するものだ。
 歌と表現するのも違うだろうか?
 宇宙世界においても例外はいくらでもあるのだが、歌とは基本的に口から発せられるものであり、空気の振動によって相手に伝わる。
 これは楽器による演奏も同じだ。
 だが、【超吟侍bU549】の報告にもあった様に、世界他外とは少し先では条件が全く異なるのだ。
 これでは、空気による振動で、相手にそれが伝わる事は無い事も意味している。
 (最も、これは、【超吟侍bT113】より【超吟侍bU549】の方が後に帰還したため、それらの報告を受けたオルオティーナ自身の推測が混じっている)
 では、歌というものは存在していないのか?
 答えはノーだ。
 歌というものでは無いのだが、歌の様な相手の心を振るわせるものは存在しているという。
 歌に近い役目を持っているので、命名するのであれば【似歌(じか)】とでも言うべきものなのだろうが、仕組みの様なものは全くの別物である。
 それはわかりやすい表現で言えば、放出する運搬用のエネルギーに歌を乗せるというのが良いだろうか?
 それが基本の一つとなっているようだ。
 【超吟侍bU549】の報告でもあるように、世界他外は全てのルールが一緒という訳では無いようなので、これは【超吟侍bT113】が調べた範囲、調べた地域の様なものの中でのルールの様なものなのだろう。
 この様に、【超吟侍】達がもたらす情報は1名1名はごく僅かなものに過ぎない。
 だが、それらの情報を合わせて考える事によって見えてくるものもあるという事だった。
 残念ながら、どこまで行っても一緒では無いという事が解ってしまったので、完全に世界他外とはどのようなものであるという事は知る事は出来ないが、それでもどのようなものがあるのかという事が解っただけでも御の字と言える事だった。
 オルオティーナはこれらの報告をしてきた【超吟侍】だけでなく、ただ、生きて帰って来ただけの【超吟侍】達に対しても、
「うむ。報告ご苦労じゃった。疲れを癒やすが良い。お前達にはまた働いて欲しいと思うておる。言葉も無いほど感謝する。褒美も取らす。好きに申すがよい」
 とねぎらいの言葉をかけるのだった。
 これが、吟侍の生体データを元にした存在でない者を強化した【遣上超使】であったならば、同じパワーどころか倍以上のパワーを持たせていたとしても、ここまでの成果はあげられなかっただろう。
 超特異の存在でもあった吟侍の生体データを元にした存在だったからこそ、ここまでの情報が得られたのだ。
 やはり、自分の目に狂いは無かった。
 怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の一つの生まれ変わりであり、人間であった芦柄 吟侍――
 それが、恋人のカノン・アナリーゼ・メロディアス第七王女と共に、クアンスティータに気に入られ、ついにはクアンスティータに力を捨てさせる決意までさせたというよく解らない力――
 そんな吟侍を初対面の時より、目をかけていて良かったとオルオティーナは思うのだった。
 当時はいざという時、これほど役に立つ逸材だとは思って居なかった。
 ただ、何かある男――そう見ていただけだった。
 目をかけてみるものだなとつくづく思うのだった。
 クアンスティータに芦柄 吟侍とカノン・アナリーゼ・メロディアスが居た様に、もしもクアンスティータの後継者が誕生した場合、吟侍やカノンの様な精神的な支柱となり得る存在が必要なのか?
 クアンスティータの乳母だった者として、それも考えるようになったのだった。
 もし、そうなると、やはり、クアンスティータの後継者もクアンスティータの様に引退の道をたどってしまうのか?という不安もあるのだが……
 だが、これはクアンスティータやクアンスティータの後継者の世話役としての悩み――特権でもある。
 これはこれで楽しむべきことなのやも知れぬなと彼女は思い、ほほえむのだった。
 そのほほえみは主に、まだ、存在していないクアンスティータの後継者に向けられたものだ。
(妾は待っておりますぞ……)
 オルオティーナはそう思い、存在していない新たな主に向けて思いを馳せるのだった。


続く。








登場キャラクター説明

001 【成り上がるクアンスティータ】【トゥルフォーナ】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 このクアンスティータはクアンスティータよりも弱い者を成長させてクアンスティータの後継者にしようというものであるが、そもそも宇宙世界にクアンスティータの力に耐えられる体は存在しないので、実現不可能とされている。


002 【天下るクアンスティータ】【クアトゥウス】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 このクアンスティータは世界他外(せかいたがい)以上に居るとされる人知を超えきった【変様何(へんようか)】とされる存在からパワーを落としてクアンスティータの後継者を作るというものであるが、【変様何】の一種である【秘謎稀超(ひめいけちょう)】という存在までの【ウルトラ・マックス・ダウン・グレード・サイジング】は確認されたものの、それ以下の存在となる【秘謎】と【稀超】への分離、および、更に、部分顕現(ぶぶんけんげん)が不可能であるとされており、実現は絶望視されている。


003 【クアンスティータの子?】【クエニーデ】

 力を捨てたクアンスティータの力を受け継ぐ後継者としてある【三つの名前】の一つ。
 該当者は現在居ないとされている。
 クアンスティータの子と言われているが、クアンスティータには生殖能力が無いため、実際にはクアンスティータの宇宙世界の奥の奥の隔離された場所に居るとされているレインメーアとされるレインミリー(クアンスティータの元になった少女)の生まれ変わりの子供というのが最も確率が高いとされている。
 その場合、【トゥルフォーナ】や【クアトゥウス】よりも優れた後継者となるが、先の二例に漏れる事なく、これもレインメーアが隔離空間に居る以上、生まれても宇宙世界には出て来れないとして実現が無理だとされている。


004 【シュストゥムヴィーノ】

 実現不可能とされるクアンスティータの後継者である【三つの名前】に代わり、クアンスティータの代理としてクアンスティータに擁立されているのがこの【シュストゥムヴィーノ】である。
 だが、7つの本体と17の側体を用意している所までは良いが、数多くの部分で、クアンスティータたる力が無いとされている。
 背花変(はいかへん)も円が1片だけしかなく、偽クアンスティータだったタティー・クアスン以下だと揶揄されている。
 また、千角尾(せんかくび)に至っては一本も生えていない。
 力量不足のため、【シュストゥムヴィーノ】自身もそれに従う立場の者も両者共に不満があるという状態になっている。


005 オルオティーナ

 クアンスティータ・ファンクラブを統括する責任者であると同時にクアンスティータの乳母であり摂政でもあった古き者。
 その力は計り知れなく、有能な才覚も持っている。
 クアンスティータの後継問題を巡って頭を悩ませ、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に【遣上超使(けんじょうちょうし)】と呼ばれる超存在を作り出し、世界他外(せかいたがい)探査のために派遣する。


006 【超吟侍(ちょうぎんじ)bW367】

 オルオティーナが世界他外(せかいたがい)探査のために、派遣した存在。
 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に作られ強化された存在。
 全てが生き残った訳では無く、9418名の生き残りの8367番目に帰還した事により、【超吟侍bW367】と命名された。
 彼が持ち帰った情報は、存在が知り得る現界は世界他外までで、それ以上の単位である偉唯位場(いゆいば)や何抜違至(かぬいし)に足を踏み入れれば存在崩壊(そんざいほうかい)を引き起こし、【連鎖超崩壊(れんさちょうほうかい)】により、全ての宇宙世界の存在も消滅以上の状態になってしまう事を調べてきた。
 世界他外とは時間と空間の概念が曖昧となっており、それはクアンスティータの宇宙世界の延長でもあると言う考えも示した。

 
007 【超吟侍(ちょうぎんじ)bV137】

 オルオティーナが世界他外(せかいたがい)探査のために、派遣した存在。
 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に作られ強化された存在。
 全てが生き残った訳では無く、9418名の生き残りの7137番目に帰還した事により、【超吟侍bV137】と命名された。
 彼が持ち帰った情報は、世界他外の存在から宇宙世界の存在へのアプローチとして、人間の目には真っ白に見える世界他外の【他外空間(たがいくうかん)】の中に宇宙世界と同じ真っ黒な場所を作り出す事によって宇宙世界と同じ様な環境、【宇宙世界他外(うちゅうせかいたがい)】を生み出しているという事である。


008 【超吟侍(ちょうぎんじ)bU549】

 オルオティーナが世界他外(せかいたがい)探査のために、派遣した存在。
 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に作られ強化された存在。
 全てが生き残った訳では無く、9418名の生き残りの6549番目に帰還した事により、【超吟侍bU549】と命名された。
 彼が持ち帰った情報は、人間が宇宙空間を知る事で仮定としてある宇宙はどこまで行っても同じ条件であるというものが世界他外(せかいたがい)では当てはまらないという事だった。
 宇宙世界でいう所の100メートルに相当する先には元居た位置とは別の法則がなりたっているという事実も得てきた。


009 【超吟侍(ちょうぎんじ)bT113】

 オルオティーナが世界他外(せかいたがい)探査のために、派遣した存在。
 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の生体データを元に作られ強化された存在。
 全てが生き残った訳では無く、9418名の生き残りの5113番目に帰還した事により、【超吟侍bT113】と命名された。
 彼が持ち帰った情報は、歌に関するものだった。
 声を振動させる事によって伝わるという歌にとっての当たり前のルールが世界他外(せかいたがい)では通用せず、無数にあるパターンで最も多いのは運搬用のエネルギーに歌を乗せて伝えるという事を調べて来た。
 歌では無いので仮に【似歌(じか)】という命名にしたのもこの報告によるものだった。