第三弾 クオード・レ・ウェラ序章

第三弾挿絵

01 最強の双子勇者の引退



「真魚(まお)!」
「架美(かみ)!」
「「これであなた(あんた)も最後よ!!」」
「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
 最強の力を持った双子の藤里姉妹――
 姉、藤里 真魚(ふじさと まお)――魔王の力を持つ者、
 妹、藤里 架美(ふじさと かみ)――神の知識を持つ者、
 この二人の女性勇者の手によってついに最大の宿敵、クオード・レ・ウェラが倒されようとしていた。
 クオード・レ・ウェラは、
「ふ、ふふ、ふふふふふ……」
 と笑い出した。
 真魚は、
「何がおかしいのよあんた」
 と問う。
 クオード・レ・ウェラは、
「……いや、何……君たち姉妹との戦いは実に有意義だった。まだ、君たちと戦っていたいが、もうそんな時間も残されていないのかと思うとね……」
 と言った。
 架美は、
「あなたはもう終わりよ。諦めなさい」
 と言うと、クオード・レ・ウェラは、
「そうだな。終わりだ。だが、私が残したものが次の君たちの遊び相手だ。退屈はさせない……」
 と言った。
 真魚は、
「残念ね。私達は引退すんのよ。花の命は短いのよ。これから恋に夢に生きるのよ。あんたの残りカスなんかに用は無いわ。とっとと引退よ。青春の大事な時期をあんたとのバカ騒ぎに付き合わされるのはこれで終わりよ。他の勇者にでも引き継ぐわ、そんなもん」
 と切って捨てた。
 クオード・レ・ウェラは、
「君たち以外には無理だよ。私の残したものの相手をするのは――特に七つの悪夢最大の【13女身像(にょしんぞう)】はねぇ……【13母身像(ぼしんぞう)】ともいうけどねぇ……あれは私より強い。君たち以外の誰が相手を出来ると言うんだよ……退屈はさせない。つまらない男や夢なんかにうつつを抜かすより、是非ともこれの相手をして欲しいな……君たちは美しい。他の男なんかにやるものか……」
 と言った。
 架美は、
「後継者にでも任せるわ、それ……」
 と言うが、クオード・レ・ウェラは、
「私の死後はアクター12(トゥエルブ)とアクトレス24(トゥエンティーフォー)が、動いてくれる。ふふ……ふ……草葉の陰で楽しませてもらうよ……愛している……君たちを……」
 と言った。
 真魚は、
「冗談じゃ無いわ。あんたなんかお断りよ」
 と言い、架美も、
「右に同じ。好みじゃ無いわ」
 と言った。
 クオード・レ・ウェラは、
「君たち……以外には……無理……だ……」
 と言って事切れた。
 藤里姉妹にとって最大の悪役の最後だった。
 彼女達はこのクオード・レ・ウェラ討伐を最後に勇者引退を宣言。
 二人は伝説となった。
 それから、約1年――時は経った。


02 少年の名前は魔奥 神倒(まおう かむと)


「ふぁ〜あ〜っ」
 少年は大あくびをした。
 少年の名前は魔奥 神倒(まおう かむと)。
 藤里姉妹の後を継ぐ勇者となるべき運命を背負った少年だった。
 神倒は、
「さてと、行きますか……柄じゃねぇんだけどなぁ〜正義の味方なんて……」
 とつぶやいた。
 彼はこれから藤里姉妹の代わりに勇者とならねばならなかった。
 一体、魔奥 神倒とは何者なのか?
 ――それを語る前に藤里姉妹の活躍を述べねばなるまい。
 藤里姉妹は星を救った勇者となった。
 そう呼ばれるためには敵とされる存在との戦いが無ければならない。
 その敵こそ、クオード・レ・ウェラだった。
 では、そのクオード・レ・ウェラとはどのような存在だったのだろう。
 彼は死の間際、藤里姉妹に七つの悪夢と【アクター12】、【アクトレス24】の存在の説明はしたが、藤里姉妹との戦いではそれらを使ってはいない。
 では、単独で、クオード・レ・ウェラは暴れていたのだろうか?
 否、それは違う。
 彼は、【アクター12】と【アクトレス24】という自分の手足の育成と七つの悪夢の用意をしている間、隠れ蓑として、別の犯罪組織を影で操っていた。
 クオード・レ・ウェラ――彼の名前を冠する犯罪組織同盟だ。
 彼は【仮面の紳士】と名乗り、正体を隠して、犯罪組織同盟を言いように操りながら、自分は、雇われ用心棒の一人として行動していた。
 星との戦いに対し、犯罪組織同盟14組織の首領達を上手く操り、犯罪活動を行っていた。
 首領達が神と崇める存在として組織名にもなった【クオード・レ・ウェラ】を据えて、その信仰心を利用していた。
 首領達は自分こそが【クオード・レ・ウェラ】の加護を多く受けると主張し、その手柄を争った。
 同盟組織同士の争いは硬く禁じていたため、その鬱憤は星の勢力に向けられた。
 犯罪同盟組織【クオード・レ・ウェラ】の脅威は世界を恐怖に陥れた。
 その【クオード・レ・ウェラ】に対抗するため、様々な勇者が誕生しては敗れ去っていった。
 不幸な時代が続き、ついに、組織に対抗出来る存在が現れた。
 それが、藤里姉妹である。
 藤里姉妹は次々と犯罪同盟組織を壊滅に追いやった。
 そして、影で操っていたのが【仮面の紳士】を名乗って居たクオード・レ・ウェラだと突き止め、ついには彼を倒したのである。
 そして、藤里姉妹は伝説となった。
 だが、ここまで来ても神倒が出て来ていない。
 彼はどこで登場したのだろうか?
 それは、【仮面の紳士】(クオード・レ・ウェラ)と行動を共にしていたもう一人の用心棒として登場していた。
 強い敵と戦う事を喜びとしていた神倒は【仮面の紳士】と共に、度々、藤里姉妹に挑んでいた。
 そして、彼女達の強さに毎回敗北していたのである。
 だが、藤里姉妹は、彼が根っからの悪人では無いと見抜いていて、真魚は、
「あんたは、そんなに悪い奴じゃないから見逃してあげるわ。でも、ただじゃ無いわ。後でたっぷりと私達のために働いてもらう。わかったわね」
 と言い、架美は、
「あなたにはたくさん仕事を用意してあげます。逃げないでくださいね」
 と言っていた。
 そして、犯罪組織同盟【クオード・レ・ウェラ】壊滅から程なくして、何となくぶら〜っとしていた彼の前に藤里姉妹が現れ、彼の首には決して外せないチョーカーが装着された。
 架美が神の知識を使って作った特別なチョーカー『しめつけくん』だった。
 これは彼の悪行に反応して、彼の首を絞めるというものだ。
 西遊記で孫悟空がしている頭のわっか、『緊箍児(きんこじ)』の様なものだ。
 首を絞められたく無ければしっかりと善行に励めという事らしい。
 藤里姉妹は自分達が引退するために、なかなか、見所があると考えて、彼を後継者と選んだのだ。
 悪事に荷担していた彼をそのまま信用する訳にはいかなかったので、『しめつけくん』を用意したようだ。
 幸か不幸か、神倒は藤里姉妹の前以外には基本的に敵として現れていなかったので、彼は藤里姉妹の後継者としてすんなり受け入れられたのだった。
 彼は藤里姉妹の直弟子として、1年間鍛えられた後、勇者として送り出すと無理矢理決められた。
 そして、1年に及ぶ、無茶苦茶な特訓を経て、彼は藤里姉妹に恋愛の邪魔だから、どこかへ行きなさいという自分達の勝手な理由でたたき出されたのだった。
 それが、彼の経緯である。
 神倒としては、クオード・レ・ウェラが影で何をやっていたかも知らないし、もちろん、彼が言い残した【13女身像】、7つの悪夢、【アクター12】、【アクトレス24】という単語も初耳だ。
 そもそも、共に行動していても本心は絶対に見せなかったので、クオード・レ・ウェラが何を考えていたかも解らなかった。
 結構、単純な性格だったので、彼としては親友とまでも言わないまでも結構気の合う仲間くらいのつもりに思っていた【仮面の紳士】が実はクオード・レ・ウェラというとんでもない大物で彼が残した数々の遺産がこれからの脅威になるなどとは夢にも思っていなかったのだ。
 正に寝耳に水状態だった。
 訳もわからず、最強勇者、藤里姉妹の後継者に任命されて放り出された。
 それが、今の状況だった。
 どこへ行って何をすれば良いのかも解らない。
 全く先が見えない状態。
 ただ、姉妹にはどこへ行けとだけ言われていたので、そこを目指すしかない――という状況だった。
 神倒は、
「はぁ〜……」
 とため息をつく。
 勇者という立場になってもお先真っ暗状態だった。
 彼はトボトボと指定された場所に向かって歩き出したのだった。


03 謎の少女と入居テスト


 神倒は指定された場所に着いた。
 そこは、とある一軒家だった。
 閑静な住宅地にある四階建ての建物だ。
 部屋数は7部屋とキッチンがついている。
 バストイレ付きだ。
 トイレは3つ設置されている。
 小さいがベランダも二階から四階に三つ、ついている。
 屋上にも行くことが出来て、そこには、小さな家庭菜園がある。
 そこは、藤里姉妹が勇者をしていた時に、他の勇者達とのシェアハウスとして利用していた家だった。
 現在は持ち主が藤里姉妹から別の持ち主に代わっており、現在も勇者候補達が共同で住むシェアハウスとして使われている。
 神倒は、そこの家主と会い、住まわせてもらえるかどうか決めてもらうという事になっている。
 ここを追い出されたら、神倒は路頭に迷う事になる。
 ここは猫でもかぶって、認めてもらいたい所だった。
 家主だと言うのは女性だった。
 今は、勇者候補達は全員その家を巣立っており、また、一から勇者候補を募ろうという事になっているらしい。
 今までは女子寮の様なものだったが、神倒が認められれば、男子寮になる可能性もあると言う。
 全ては、神倒次第という所だろう。
 家主の名前は【恒田 雅(つねだ みやび)】という。
 それらしい女性を探すが、見当たらない。
 代わりにいたのは……
「よ、兄ちゃん、元気か?」
 と話しかけてきた謎の少女だった。
 年の頃、恐らくは10歳前後だろうか?
 その少女が神倒に声をかけて来た。
 だが、あいにく、神倒は少女に用は無い。
 家主の女性を探しているのだ。
 見た所、それらしい女性が居ないのでとりあえず、その少女に聞いて見る事にした。
「なぁ、お嬢ちゃん、俺は魔奥 神倒って言うとっても怪しくないもんだけどさ、この家の家主の恒田 雅さんって言う人を探してるんだ?知らないかな?」
 と尋ねた。
 するとその少女は、
「知ってるも何も私が恒田 雅だ。よろしくな、男の子」
 と返した。
 【私が恒田 雅】?
 ひょっとして同姓同名ってやつか?
 神倒はそう思い、
「そうか、お嬢ちゃんの名前も恒田 雅って言うのか――だが、俺が探してるのは大人の恒田 雅さんなんだ。お嬢ちゃんと同じ名前を持ったお姉さんかおばさん――もしかするとおばあさんかも知れねぇけど、いるかな?」
 と聞き返した。
 雅は、
「私の他に雅はおらんぞ。私がお前さんの探している恒田 雅だ」
 と言う。
 神倒は、
「あのなぁ、お嬢ちゃんが家主の訳ねぇじゃねぇか。冗談に付き合ってやりたい所だが、俺は住むところが無いんで今、それどころじゃねぇんだよ」
 と言った。
 その言葉を聞いて自分の姿の事に気づいたのか、
「……あ、あぁこれか、これは、確かに若い体だったな。ちと訳があってな、少女の体を借りとるが、私は間違いなく、私は恒田 雅だ。ちょっと体を無くしてしまってな。この子の体を借りている」
 と言った。
 神倒は、
「え?じゃあ、あんたが……」
 と言うと、雅は、
「だから、何度も恒田 雅だと言っているではないか。体は10歳の少女でも中味は50のお姉さんだ」
 と言った。
 神倒は、
「お姉さんって……50じゃ、ほとんど……」
 と言うと、雅は、
「なんか言ったか?」
 と言い、ギロっと睨んだ。
 神倒は、機嫌を損ねたら路頭に迷うと思い、
「い、いや、何でも……よろしく、雅さん……」
 と言って、手を差し出した。
 友好の証の握手を求めた。
 雅は、
「よろしくねぇ、坊や」
 と言って握手を受ける。
 なんだか、少女に【坊や】と言われている様な感じがした。
 ちょっとムッときたが、それはおくびにも出さずに雅の面接を受ける事になった。
 これからの生活がかかっている大事な面接だ。
 雅の面接は簡単にすんだ。
 十二、三質問してそれに答えただけで終わったのだ。
 面接としては簡単過ぎる部類に入るだろう。
 終わったところで雅は、
「さてと、じゃあ、実技の方のテストをさせてもらおうかな」
 と言った。
 神倒は、
「実技?」
 と聞くと、雅は、
「そう。実技。弱い奴はここではいらないんでね。実力を見させてもらうよ」
 と言うので、神倒は、
「どうやってだ?実力って言ったってここじゃ……」
 と質問する。
 雅は、
「大丈夫さ。心配はいらない。この家はちょっと特殊でね。家の外見は四階建ての建物でも中味は自由に変わるのさ。あんたの師匠、藤里 架美さんの【神の知識】によってこの家は建てられている。家の主である私が念じれば……」
 と言うと、普通の外見だった家の内装がまるでドーム球場の様な作りの内装に変わった。
 あの家の外見でどこにこんなものが入っていたのだろうかと思うくらい大きなものだった。
 観客席には10万人は入るであろう席が用意されている。
 神倒は、
「す、すげぇな……」
 とつぶやいた。
 雅は、
「凄いのはあんたの師匠達だよ。なんせ、最強の勇者と呼ばれた二人だからねぇ。私の力は別にある。これからそれを見せる。もちろん、あんたにも自分の力を見せてもらう。いくら藤里姉妹の直弟子でもあんたが使えなかったらここへ置く意味が無い。強い勇者がそのまま優れた師匠だとは限らないからね。あんたの実力をテストさせてもらう。私と戦って見て、合格点を出してもらう。それがあんたが、ここへ住む条件だよ。さっきまでの質問は単なるオマケさ。実力こそが全てものを言う。ここには最大でも7人しか住めないからね。実力が無い者には遠慮無く出て行ってもらうよ」
 と言うと、雅の体が溶けて行く。
 神倒は、
「なんだ……?」
 と言う。
 雅は、
「この力は私、本来の力じゃない。私の体はとうに朽ち果ててるかね。この力はこの体の本来の持ち主――戦闘中に心を奪われてしまった財前 由香子(ざいぜん ゆかこ)という少女の力さ」
 と言った。
 どうやら、雅の体の本来の持ち主の名前は【財前 由香子】というらしい。
 才能があれば何歳でもこの家に住み、勇者として迎え入れられる。
 由香子もそうして選ばれた一人だった。
 だが、敵との戦闘中、心を奪う能力に特化した相手と遭遇、心を喰われてしまった。
 心を奪われてしまうと肉体も死んでしまう。
 そこで、昔の戦闘で体が腐っており、魂だけ架美の【神の知識】で作った【霊魂保護ランプ】で、アドバイザーとして現世に残っていた雅が彼女の体に入り、彼女の代わりとして、生きていく事になったのだ。
 勇者となる以上、敵との戦闘は避けられない。
 戦闘になれば、命を落とす事だってある。
 勇者としてこの家に来る以上、遊び半分ではすまないのだ。
 だからこそ、厳しいテストがある。
 実力が無い者は勇者として認められない。
 つまり、ここで追い返すのも優しさの一つなのだ。
 由香子の能力は体を溶かして、物に入り込み、物を動かすと言う能力だった。
 本来であれば、一つしか動かせなかったが、雅は技を昇華させて、体を分離させて最大三つまで同時に動かせるようになっていた。
 雅は由香子の体を三つの物体に入り込ませた。
 彼女が入ったのはドームの外装に設置された3体の巨像だった。
 筋肉質な3体の古代の戦士がモチーフの巨像は雅に操られて動き出す。
 残念ながら、飾りなので、上半身までしか無いが、上半身だけで宙に浮き、ゆっくりと神倒の元に近づき、彼を三方から囲む。
 雅は、
「さあ、あんたの力を見せなさいよ。この巨像三体を壊したら一応、合格をあげるわ。倒せなかったら、出て行ってもらう。アンダースタンド?」
 と言った。
 【アンダースタンド】とは理解した?という意味だ。
 神倒は、
「了解。あんたを倒せば住んで良いってことだな。簡単な事だ。じゃあ、こっちもはじめさせてもらうぜ」
 と言った。
 神倒は戦闘準備をした。
 彼は現在、3つの力を持っている。
 元々は、2つだったが、藤里 真魚が、
「3つぅ〜?少ないわね――せめてもう一つくらい身につけておきなさいよ」
 と言って、修行時代、もう1つ覚えさせられたので、3つに増えたのだ。
 だが、この住んで良いかどうかのテストで手の内、全部さらすのはクールじゃない。
 なので、1つの能力で巨像を倒そうと考えていた。
 全部出さなければこの家に住めないのであれば、遅かれ早かれいずれは追い出されるだろう。
 まだ、隠し球はありますよと余裕を示すくらいじゃないとこの家には居られない。
 彼は三つの力の内の一つを選び、それを使う事にした。
 彼が選択した力の名前は、【イラストゴースト】だ。
 この力は彼が元々持っていた力の一つだ。
 彼は紙に書いたイラストに自分の魂の半分を憑依させて実体化させて操る事が出来る。
 雅や由香子の力が同じ様なイメージの力なので、こちらを選択したのだ。
 元々、大した力ではなかったのだが、架美が発明した特殊な紙を利用する事で、紙ごとに別の能力を持たせる事が出来る。
 修行時代、50枚綴りの便せんにしてもらい架美にもらっていたのだ。
 50枚の便せんに封じられている力は10種類5枚ずつ。
 描くイラストによって使える力は変わらないが、その能力を使いやすいフォルムというものもある。
 それらを描くのは神倒のセンスしだいというところだろう。
 便せんの名前は安直ではあるが、【イラストゴーストペーパー】としている。
 【イラストゴースト】がやられるとそれを描いた便せんは破けて使えなくなってしまう。
 普通の紙でも【イラストゴースト】は作れるが、それは単なる亡霊に過ぎない。
 何らかの力を持っている【イラストゴースト】は【イラストゴーストペーパー】を使ってでしか使えないのだ。
 無くなったら架美にまた作ってもらえば良いと思って居たが行く前に、
「甘えないの。自分でなんとかなさい」
 と言われて来たので、頼んでも作ってくれないかも知れない。
 彼女達は自分達の恋愛や夢の事で夢中なのだ。
 そこに、神倒の都合は含まれていないのだ。
 なので、この50枚は大事に使わなければならない。
 神倒は大事に【イラストゴーストペーパー】にささっとイラストを描いて、実現化させた。
 彼が描いたイラストは、男性拳士(だんせいけんし)――使った紙は【パワー】の能力だ。
 最もシンプルな力の一つで、この紙に描いたキャラクターは【パワー】を上げる事に特化した力を持てる。
 拳に重さを足せる力を持っているのだ。
 単純に重い物を振り回せば破壊力が増す。
 それを普通に拳を繰り出すのと同じ力で出せるという力だった。
 重さとしては、7段階あり、【10キロ】、【20キロ】、【50キロ】、【1トン】、【2トン】、【100トン】、【10000トン】だ。
 その重りをつけた状態になる拳を男性拳士は繰り出せるというものになる。
 大理石で出来た様な巨像を破壊するのはこの【パワー】を用いた【イラストゴースト】でぶったたき、破壊するのが一番だと考えたのだ。
 神倒は、
「よいっしょぉ〜、まず、一つ」
 と言ったかと思うと、巨像の一つを男性拳士の拳でたたき割った。
 雅は、
「ふぅん……なかなかやるわね。でくの坊じゃないというのはこれで解ったわ」
 と言ったかと思うと、残り二つの巨像を合体させた。
 まるでトランプの絵札の様に上半身の腹部と上半身の腹部を逆さまに合体させて、一つにつなげた。
 そして、二つに合わさった巨像はぐるぐると回転し始める。
 両手にはサーベルの様なものを持って居る。
 二つの巨像がまるで、巨大なコマの様に回る。
 そのまま、神倒の元に向かってくる。
 神倒は、
「うわっと、あっぶねぇ〜」
 と言って交わすが、危なかった。
 一歩、間違えば神倒はサーベルで細切れにされていたかも知れない。
 男性拳士のリーチでは、巨像の本体に拳が届く前にサーベルに切り刻まれてしまう。
 このままではまずいと思った神倒は、
「戻れ」
 と言った。
 すると男性拳士は【イラストゴーストペーパー】に戻り、やがてスウッと消えた。
 男性拳士が紙(白紙)に戻ったので、また、イラストが描ける。
 同じ紙に神倒はまた、ささっとイラストを描く。
 今度のイラストはハヤブサの様なイラストだ。
 そのイラストの右下の部分に【×20】と追加されている。
 すると、今度は巨大なハヤブサの様なモンスターが現れた。
 【×20】とはその描いたキャラクターの大きさを示したものだ。
 つまり、神倒は、通常のハヤブサよりも20倍大きなハヤブサをモンスターとして出したのだ。
 ハヤブサと言えば、スピードが速いという事でも有名な鳥だ。
 能力としては、同じ【パワー】なのだが、それにハヤブサのデザインを追加する事によって、【パワー】にスピードを乗せたのだ。
 更に大きくする事でリーチも稼いだ。
 ハヤブサモンスターのスピードとパワーで巨大巨像を撃破しようと考えたのだ。
 同じ【パワー】の能力でもそのデザインによって、使うバリエーションも変わって来る。
 それが、昇華させた【イラストゴースト】の力だった。
 神倒はハヤブサモンスターを上手く操り、巨像ゴマを撃破した。
 壊れた巨像の欠片から由香子の体が溶けたものが染みだし一つにまとまり、やがて由香子の形を取る。
 雅は、
「合格!見事な戦いぶりだったわ。もちろん、それだけじゃ足りないけど、ここに住む最低条件はクリアしたわ」
 と言った。
 神倒は、
「そう言ってくれると助かるわ。腹減っちまったんで、食事にありつきたいんだけどな……」
 と言うと、雅は、
「ちょっと待ってなさい。今、おもてなしをするわ」
 と言って笑顔で返した。
 なんとか居住を認めてもらって安堵する神倒だった。
 住む所は決まった。
 これから、彼の伝説が始まるのだった。


04 神倒のお仕事と入居条件


 神倒がこの家で与えられたのは4階の一部屋だった。
 この家に住む以上、神倒には仕事をしてもらわないと行けない。
 勇者としての仕事を。
 では、どのような仕事が割り当てられるのか?
 キッチンで神倒と話していた雅は、十数枚の写真を出した。
 その写真には、
 【鷲尾 平三(わしお へいぞう)】、
 【設楽 望(したら のぞむ)】、
 【長瀬 真次(ながせ まさつぐ)】、
 【清川 新十朗(きよかわ しんじゅうろう)】、
 【源 三郎(みなもと さぶろう)】、
 【飯島 浩介(いいじま こうすけ)】、
 【森田 瞬(もりた しゅん)】、
 【重森 準(しげもり じゅん)】、
 【薦田 裕也(こもだ ゆうや)】、
 【篠田 雅弘(しのだ まさひろ)】、
 【近井 紀行(ちかい のりゆき)】、
 【海藤 道明(かいどう みちあき)】、
 【長田 治(ながた おさむ)】、
 【川上 彰(かわかみ あきら)】
 【千代田 竜馬(ちよだ りょうま)】、
 【マイケル・ペンデルトン】とそれぞれに名前が書かれて居る。
 性別こそは全て男性だが、年齢も体格もバラバラだった。
 神倒は、
「何これ?」
 と聞く。
 彼は普通に女性が好きな男性だ。
 男の写真を見せられても大して興味はなかった。
 雅は、
「これを見てどう思う?」
 と聞いて来た。
 神倒は、
「どうって……正直、どうでも良いっていうか、この中にあんたの好みがいるって事か?」
 と聞くが、雅は、
「違うわ。これは全員、たった一人が演じていたのだよ。つまり、これは同じ人物の写真って訳だ」
 と答えた。
 神倒は、
「おいおいおい、嘘ならもっとましな嘘をついてくれよ。ここにはデブもいればガリガリのもやしも居るし、肉だるまも居る。ジジイも居ればガキもいる。ごりごりの不細工づらもいれば、色男、ニューハーフ、外人までいんじゃねぇか。これをどう真似れば一人でやれるんだよ?一生かけても難しいだろうが」
 と言った。
 雅は、
「残念ながら、これは一ヶ月以内に撮影された写真だよ。そして、これが、あんたがこれから戦う事になる【アクター12】の特徴だ。何にでも演じられて一般人の中に溶け込んでいて潜んでいる。これが12名いる。女性版の【アクトレス24】は24名もいる。こいつらがクオード・レ・ウェラの遺産でもある【七つの悪夢】を動かすために動いている。こいつらを止めるのがお前さんの役目だよ。これでも、【七つの悪夢】と相対するより、ずっとまし。だから、【七つの悪夢】が解放される前にこいつらを叩く」
 と言った。
 神倒は、
「どうやって探すんだよ?」
 と聞くが、雅は、
「それは自分で考えるんだな。何のために力を持っていると思っている?探し出して暗躍する悪の手先を叩くのがお前さんのお仕事。あんたには立派な力があるだろ」
 と言った。
 確かに、雅の言う様に、何から何まで彼女にやり方を聞いていたのでは、神倒は勇者として成り立たない。
 とは言え、この神出鬼没な相手を前にどう探せと言うのだろうか?
 成果を出さなければこの家を追い出される可能性がある。
 神倒は、
「はぁ……」
 とため息をついた。
 雅は、
「あんたはまだ、学生をやっている年齢だからね。学校にも行ってもらう。それがお前さんの日常になる。だけどあんたの本業はあくまでも正義の味方。何かあれば、出動してもらうことになる。転入手続きは済ませているからそれも後で説明する」
 と言う。
 どうやら彼の行動は決められているようだ。
 敵が現れるまでは自由行動――という訳にはいかないようだ。
 勇者として行動しやすいようにある程度、行動を把握しておくための処置だという。
 何かあったら、この家に戻ってくれば良いと言われた。
 この家は自由にどこにでも出現出来る力も備わっている言って見れば【移動基地】の様なものだった。
 この家に戻って着替えながら準備を済ませて、敵の居る場所の近くに出現して、家から出動するというスタイルをとるらしい。
 そのため、本来の家の位置にある場所の近くの学校に通う事になっているし、遠出には許可が居るという事になっている。
 この【移動基地】である建物、【ベースハウス】は世界に約1700軒ほど存在し、神倒が所属する【ベースハウス】は【ニィホン】という国が担当だという。
 1軒の【ベースハウス】には7名から2、30名が住めるバージョンがあるので、神倒が所属している、通称、【藤里家(ふじさとけ)】は最も少ない7名タイプだ。
 この【ベースハウス】は元々、藤里 架美の発明で、一番最初に出来たのがこの【藤里家】だ。
 その後、藤里姉妹の活躍が広まり、世界に【ベースハウス】が普及したのだ。
 言って見れば、この【藤里家】は由緒正しい、1軒目の【ベースハウス】という事になる。
 【ベースハウス】は基本的に家主の名前をとって【●●●(←家主の名前)家】と呼ばれる事が多いが、一軒目であるこの【藤里家】だけは、偉大なる功績を残した藤里姉妹に敬意を払い、【藤里家】という事になっているのだ。
 そのため、このベースハウスは、【恒田 雅】の【恒田家】でもなければ、
 【財前 由香子】の【財前家】でも無い。
 【藤里家】なのだ。
 規模は一番小さいタイプとは言っても、その人気は【ベースハウス】の中で最もある。
 勇者を目指す者は誰でも藤里姉妹の住んだ【藤里家】に住みたいのだ。
 入居希望者が殺到する中、神倒が新規メンバーの1人目に選ばれたのは他ならぬ、【藤里姉妹】の直弟子だからなのだ。
 つまり、特別扱いをされていたのだ。
 藤里姉妹の偉大さを改めて知った神倒は、
「あの、双子がねぇ……全然、そうは見えなかったんだけどなぁ……」
 と、藤里姉妹にしごかれていた時を思い出した。
 二人と過ごして見て、彼が抱いた感想は、
 こりゃ、当分、彼氏は出来そうもねぇな……とか、
 無茶言うな、そんな真似が出来るか、俺をオモチャにするな……とか、
 限度ってもんを知らねぇのかこいつらは……とかだった。
 無茶苦茶な双子だとは思って居たが、尊敬する人間がこれほど多いとは正直、思って居なかった。
 外面は良かったんだなぁ……と思うのだった。
 一人目は神倒だとして、家主である雅は通い家主でもあるため、実際に住んでは居ない。
 彼女には、財前 由香子としての生活があるため、彼女は普段、財前家に居るのだ。
 つまり、【藤里家】には、後、6名の入居者が入るという事になる。
 その入居者は全員、特別なエリート揃いという事になるだろう。
 それだけ、【藤里家】は特別な空間なのだ。
 一体、どんな入居者が来るのだろうか?
 雅は、
「入居希望者なんだけど、何か注文とかある?」
 と聞いて来た。
 神倒は、
「注文?……例えば、自分以外、全員女にしてくれっつったら、考慮してくれんのか?」
 と冗談交じりに言ったつもりだった。
 雅は、
「オーケー……考慮に入れておくわ……」
 と言った。
 神倒は、
「おいおいおい、冗談だって。女と同居なんてどう考えても無理だろ?」
 と言うが、雅は、
「冗談じゃないわ。藤里姉妹から、入居資格があったら何でもあなたの言う事を一つだけ認めてあげてと言われているの。それがあなたのチョーカー、『しめつけくん』の効力を上げる事になるからとね。条件はのんであげるわ。ただし、もう逃げられない。あなたには、何が何でも勇者をやってもらう。良いわね?」
 と言った。
 神倒は、
「だ、騙しやがったなぁ……これだから女ってやつは……」
 と悔しさをにじませる。
 雅は、
「この【藤里家】には藤里姉妹の直弟子の男性と同居をしても良いという条件を飲める女性勇者のみ募集するわ。これで文句は無いでしょ?ただし、最低限のマナーは守ってもらう。女の子との同居だからね。勇者なら当然よねぇ?」
 と言ってにっこりと笑った。
 神倒は、
「……まるで悪党だな。手口が汚ぇよ……」
 と言うが後の祭りだった。
 雅は、
「同居する女の子の中でこの子は特別だと思う子が居たのなら、認めるわよ。恋人になる女性との邪魔はしたくないからね。ただし、浮気はダメよ、絶対に。特別な女性が出来た場合のみ認めますからね」
 と言った。
 雅の後ろに藤里姉妹が見えるようだった。
 藤里姉妹と離れる事にはなったが、いつまでも彼女達の手のひらの上で踊らされているような気分になるのだった。
 だが、女の子と一緒に暮らせるというのは決して悪い話ではない。
 事故に見せかけてお風呂でばったりなどのイベントも期待出来る。
 彼はそう考えていた。
 なので、騙されたと思いつつも、正直うれしかった。
 彼も男の子。
 おいしい思いをするかも知れないという事はいらっしゃいませ状態なのだ。
 雅はそれを見透かした様に、
「あ、何かあったらペナルティーだから……」
 と付け足した。
 つまり、下手なことは出来ないという事だ。
 例えば寝る部屋を間違えて、部屋に行くとか、女性が口をつけたコップを間違えて飲んだと言う事をすると何らかの罰があるという事になる。
 だが、罰を怖がっていては何も出来ない。
 彼は、下心に対して前向きだった。


05 二人目の入居者


 翌日から、【藤里家】への入居希望者達がわんさかと来た。
 みんな女性だ。
 神倒との同居が条件の一つとなっているが、神倒は藤里姉妹の直弟子だという触れ込みから、それならば男でもかまわないと言って入居希望者の女性がたくさん申し込んで来たのだ。
 試験としては、家主である雅が神倒と同じ様に実技テストを行う。
 だが、綺麗な子はたくさん来たが、雅の出す条件に見合った入居希望者は現れなかった。
 初日には実に、107名の入居希望者は現れたが、顔を見ただけで、神倒には合格ですと言いたい様な綺麗な女性はたくさんいたが、実力の伴っている者は一人も居なかった。
 みんな、神倒のバックに藤里姉妹を見ているのだ。
 女性達は皆、神倒を色仕掛けで落とし、彼とどこかでつながっていると思われる藤里姉妹とお近づきになりたいという下心があったのだ。
 そのため、実力は二の次――自身の力の研鑽(けんさん)よりも、自身の美しさに磨きをかけて来る女性達がほとんどだった。
 多少、ましだと思える者がいても、雅の決める合格点からはほど遠い、実力不足の女性ばかりだった。
 顔やスタイルなどで判断すれば、8割以上が神倒にとっては合格点だったのだが、それらの女性が悉く(ことごとく)不合格通知を出されるので、彼は沈んでいた。
 誰でも良いじゃねぇか。
 可愛いければ、それだけで合格で。
 ――という彼の意見は却下された。
 実力主義――このままでは、彼の全く好みじゃ無い女性達で固められてもおかしく無かった。
 神倒は、雅に、
「もう少し、条件を緩くしても良いんじゃねぇの?」
 と聞くが、雅は、
「ダメだよ。言っただろう、実力主義だって。女なら誰でも良い訳じゃ無いのだよ。きっちり実力が伴って無いと勇者としては認められない。でも、これは予定通り。最初の内は藤里姉妹目当てのミーハーの女の子ばかりが来るのはわかって居た事だからね。その子達全員に不合格を通知してたら、最後に残るのは実力も兼ね備えた実力者だけが残る――という寸法だよ」
 と答えた。
 それで誰も残らなかったらどうするんだ?
 とは思ったが、家主は雅である。
 彼にそれに対して異議を唱える権利は無い。
 彼は渋々、それに従った。
 そして、来る日も来る日も入居希望者の試験が行われた。
 あ、可愛い――と思っても、その子は実力不足で不合格というのを繰り返した。
 神倒は、
(今度こそ、受かってくれぇ〜)
 と願うものの、その希望とは裏腹に女性達には不合格の烙印が押されていった。
 こう、彼の意に添わない状態が続くと彼も次第に諦めて来る。
 もう、どうでもいいやとどこかで思うようになっていた。
 女性入居希望者を募集してすでに15日――この頃には彼も学校の方での生活も次第に慣れていった。
 いつ決まるとも解らない入居希望者に期待するよりも彼の通う学校は共学だった。
 学校には彼の大好きな女の子も多く通っているのだ。
 意識は、同居人よりも同級生に向けられる様になって行ったのだった。
 神倒は、
「ねぇねぇ、君、今日は暇?良かったら俺と……」
 と言うが、女性は、
「ご、ごめんなさい。私……用事があって……」
 と断られていた。
 彼には内緒にしているが、実は、学校では神倒には勇者としての仕事があるため、彼女は作らない事になっている。
 もし、これを破って彼と付き合った生徒は退学を申しつけるという御触れがあるのだ。
 そのため、彼を勇者として尊敬しては居ても、彼の誘いに乗る女生徒は一人も居なかったのだ。
 もしも、下手に付き合えば放校処分となる。
 なので、勇者の彼女になれるという利点はあっても彼がモテる事はなかった。
 恋人を作りたければ、これから決められる同居人の中から――そう言う様に雅の――そのバックの藤里姉妹の手に寄って道を決められていた。
 それを知らない彼は、
(なんでモテないんだ?勇者と言えば、モテる仕事じゃ無かったのか?これじゃ、何のためにやってんだか……)
 と思っていたのだった。
 そんな中、彼がテストの見学に参加していないうちに、二人目の入居者が決まった。
 テストを見ていれば彼女の顔も見れたのだが、彼女は雅に言われて、しばらくは仮面で顔を隠して生活する事を条件に入居を認められた。
 そのため、神倒は彼女の素顔をしばらく見れないのだ。
 二人目の入居者の名前は、【神崎 結花里(かんざき ゆかり)】という。
 彼女は顔の大部分が隠れるマスクを着用して生活をする事になる。
 彼女は七人目の入居者が決まるまではマスクを取れない。
 三人目から六人目までも同じ条件となる。
 七名全員の入居が決まるまではマスクを外して神倒の前には現れないというのが条件となった。
 このルールを決めてから、神倒のテスト参加が禁止となった。
 テストを女性入居希望者が受けている間、神倒の入室は禁止という事になった。
 ちょっと学校の方に視点を向けていたらこういうことになってしまったのだった。
 結花里が、
「神崎 結花里です。よろしくお願いします」
 と神倒に挨拶をしに来た。
 神倒は、
「お、おう、よろしくな。で、そのマスクなんだが……」
 と聞くが、結花里は、
「これは、七人目の同居者が決まるまで貴方の前では取れません。ご了承ください」
 と返した。
 神倒は、
「え?そうなの?じゃあ、ちょっとだけ……」
 と言って、マスクを取ろうとするが、雅が、
「ペナルティーよ」
 と言う。
 と同時に『しめつけくん』が神倒の首を締め付ける。
 神倒は、
「くうぉぅぅぅ……」
 とうめき声を上げる。
 苦しいからだ。
 雅は藤里姉妹から、彼が勇者らしくない行為をした時にお仕置きするため、『しめつけくん』の操作許可を得ていたのだ。
 おいたはダメよという事だ。
 神倒は、
「わ……わがっだ……わがっだがら……」
 と苦しそうに答える。
 この瞬間、自分の人生が女性達によって管理されている様な気持ちになるのだった。
 神倒は、
「げ、げほ……、仲間なんだろ?それなのに、顔が解らなかったら、いざという時、困るだろ?」
 と訴える。
 だが、雅は、
「あんたが下心のままに暴走する事の方がいざという時になりかねないんだな、これが。だから、七人目が揃うまで彼女達にはマスクをして生活をしてもらう。これは彼女達が守るべきルール。お前さんが守るルールじゃない。あんたの口出しは無用だよ」
 と神倒の意見を切って捨てた。
 神倒は女の子との同居を内心、楽しみにしていた。
 だが、実際は、目の前に餌をぶら下げてお預け状態を喰らっているようなものだった。
 ムラムラするぶん、余計質が悪かった。
 女性と一緒に暮らしながら、一切近づけない生活。
 これは生き地獄だった。
 ちっとも楽しくない。
 むしろ辛い。
 神倒は、
「はぁ……」
 とため息をついた。
 ここへ来て何度目のため息だ?
 ため息はするほど幸せが逃げていくとは言うが、ため息をつかざるを得ない状況がここのところ続いている。
 これなら、まだ、むさ苦しい男共と暮らしていた方がましだった。
 それなら気持ちは外に向くからだ。
 この状況では気持ちは内側に向くが、それが叶う事は無く、お預けとなっている。
 自分に性犯罪者にでもなれと言われている様な状況だった。
 このまま、ムラムラお預け状態が続けば、いつか――そんな気持ちがよぎる。
 だが、それも許されない。
 勇者であるという事は聖者でもあれという事と同じ意味だった。
 神倒は清廉潔白(せいれんけっぱく)であれ――という事が強制的に求められている。
 彼はそんな人間ではない。
 彼は欲望に忠実な人間だった。
 力を求め、女を求める――聖者とは呼べない人間だった。
 だから、我慢しろと言われても息が詰まるだけ。
 溜まりにたまった欲求はいつか爆発する。
 藤里姉妹には自分達の代わりに勇者となれと言われている。
 だが、このままでは勇者というよりは勇者に退治される側になってしまう。
 その事を必死に雅に訴えると、彼女は、
「しょうが無いなぁ、じゃあ、条件を変えてあげても良いが、その変える条件は、男性勇者希望者と同室で生活してもらう事になる。一旦、神崎さんの入居を決めてしまった以上、彼女もどこかに住まわせなくてはならない。だから、男性勇者希望者の【ベースハウス】との交換となる。その交換する【ベースハウス】は16部屋を用意している【麻生家(あそうけ)】になるな。【ニィホン】エリアでは【麻生家(あそうけ)】と【周防家(すおうけ)】と【毛利家(もうりけ)】と【藤里家】の四つが新規入居者を募集している【ベースハウス】になっている。【周防家】と【毛利家】は女性勇者の入居者募集をしている所だから、男性となると【麻生家】しかない。そこと交換となるとお前さんと合わせて17人で7部屋を使う事になる。となれば、一部屋辺り、2、3人ですし詰め状態という事になるけど、それでも良いのか?」
 と言ってきた。
 男と共同の部屋で四六時中顔をつきあわせる。
 17人となれば、少なくとも二人で相部屋という事になる。
 冗談じゃ無い。
 男との相部屋などごめんだった。
 神倒は、
「こ、このままの条件でお願いします……」
 と言った。
 女性との同居で我慢を強いられるのと、むさ苦しい男との相部屋――天秤にかけたら前者の方を選ばざるを得なかった。
 彼は泣く泣く、この条件を飲むのだった。
 彼の苦行は続きそうだった。
 それを見た雅は、
「そんなに落ち込むな。七人目まで入居者が決まったら、全員、マスクを取っても良いことになってるから――そうなったら、後は自由恋愛だよ――好きな子と仲良くなってかまわない。た・だ・し、繰り返しになるが浮気はダメだ。これだと思った子には一途で当たってもらう」
 と言った。
 まぁ、このままの状態がいつまでも続くわけでは無く、七人目まで決まれば素顔解禁に恋愛解禁になるのであれば、しばらく我慢すれば済む事になる。
 まずは二人目。
 後は5人。
 5人集まれば結花里も含めて6人の女性の素顔が解る。
 結花里だが、マスクで顔を隠しては居るが、見えている部分だけでも、彼女の容姿は良いと言うのが何となく解る。
 それだけでも良しとしようではないかと思うのだった。
 だが、彼の本分は同居人と恋人同士になることではない。
 彼は【アクター12】や【アクトレス24】を探し出して倒さなければならないのだ。
 いつまでもモタモタしていると、奴らは七つの悪夢を解放してしまう。
 そうなってしまったら、この世界は終わりになってしまうかも知れない。
 魔奥 神倒――彼の戦いはこれから始まるのだ。


続く。







登場キャラクター説明

001 魔奥 神倒(まおう かむと)

 この物語の主人公。
 元々は、犯罪組織同盟【クオード・レ・ウェラ】の雇われ用心棒として生活していたが根っからの悪人ではないと藤里姉妹に認められ、彼女達の勇者としての後継者に選ばれる。
 勇者をする様な性格ではなく、力と女性を求める性格。
 彼を戒めるために藤里 架美は『しめつけくん』と呼ばれるチョーカー型アイテムを彼にする。
 『しめつけくん』の使用許可を得ている者が念じると『しめつけくん』が絞まり、彼をお仕置きする。
 元々、二つの能力を持っていたが、藤里姉妹との修行で三つ目を身につける。
 元々持って居た力の一つは紙に描いたイラストに自身の魂の半分を憑依させて使役する【イラストゴースト】という力だが、架美が用意した50枚綴りの特別な便せん、【イラストゴーストペーパー】を使用する事により、10種類5枚ずつの特殊能力を持った【イラストゴースト】が作れるようになる。
 10種類の特殊能力の一つは【パワー】と呼ばれる破壊力を強化する力。
 それは衝撃に重さを乗せる事が出来、7段階ある。
 【10キロ】、【20キロ】、【50キロ】、【1トン】、【2トン】、【100トン】、【10000トン】となる。
 不思議な家、【ベースハウス】に入居が決まり、彼は勇者としての道を歩むことになる。


002 藤里 真魚(ふじさと まお)

 最強の勇者とされる双子の姉妹の姉の方。
 最悪の存在とされるクオード・レ・ウェラを妹の架美と共に打ち倒した。
 その後、引退し、勇者の後継者として神倒を指名して無理矢理鍛える。
 魔王の力があるとされ、その力の影響か荒っぽい性格をしている。
 前衛として戦う事が多かった。


003 藤里 架美(ふじさと かみ)

 最強の勇者とされる双子の姉妹の妹の方。
 最悪の存在とされるクオード・レ・ウェラを姉の真魚と共に打ち倒した。
 その後、引退し、勇者の後継者として神倒を指名して無理矢理鍛える。
 神の知識があるとされ、『しめつけくん』や【ベースハウス】等、様々な発明を残している。
 性格は姉に比べて比較的温厚。


004 クオード・レ・ウェラ

 犯罪組織同盟【クオード・レ・ウェラ】の象徴となった存在で、自身は雇われ用心棒、【仮面の紳士】として、組織を裏で操っていた。
 犯罪組織同盟【クオード・レ・ウェラ】は藤里姉妹によって壊滅させられ、彼自身も倒されたが、彼の本命は【アクター12】や【アクトレス24】という自身の手足を使って七つの悪夢とされる何かを解放させる事だった。
 特に、七つの悪夢最強とされる【13女身像(にょしんぞう)】(または13母身像(ぼしんぞう)と呼ばれている)は彼の力を大きく上回ると言われている。


005 恒田 雅(つねだ みやび)

 藤里姉妹が勇者をしていた時に他の勇者と共にシェアハウスとして使っていた【ベースハウス】の今の家主。
 10歳の少女の姿をしているが実年齢は50歳。
 彼女は過去の戦いで肉体を失っており、その魂は、架美の作ったアイテム、【霊魂保護ランプ】で現世に残って居た。
 ある時、10歳の勇者として【財前 由香子(ざいぜん ゆかこ)】という少女が戦いの最中、心を食べられてしまい、その代わりとして雅が肉体に入った。
 由香子の能力としては体を溶かして、物に憑依させて操るという力を持っていた。
 由香子の時は一度に一つだけだったが、雅は技を昇華させて三つ同時に操れるようになっている。
 【藤里家】の家主だが、彼女は通い家主で、普段は【財前家】で暮らしている。
 神倒の『しめつけくん』の使用許可も藤里姉妹から受けている。


006 神崎 結花里(かんざき ゆかり)

 神倒に続いて【ベースハウス】【藤里家】の二人目の入居者に決まった女の子。
 雅のテストに合格したのでそれなりの力は持っているはずだが、現時点では不明。
 また、入居者が7人目が揃うまで、彼女は神倒の前では顔が隠れる大きなマスクをしての生活を入居条件とされている。
 言葉遣いはそれなりに丁寧だった様な印象だが、彼女はまだ本性を見せては居ない。
 どのような性格、力を持っているかはまだ解らない。