C002話 グレイテスト・ビック編


01 ルックマン教授の教え子


 悩みに悩んだ末、ゲスデゲスはフリーサイズの使用を断念した。
 自身の10年の寿命と引き替えにするのは惜しいと判断したからだ。
 代わりに用意したのは、薬物中毒にさせ正気を失っている男、ダラシという男だった。
 ダラシに、共に死んでこいと命令して、爆薬を持たせて、フェンディナとの戦いにのぞませた。
 ゲスデゲスは、爆発の影響が無いように離れた位置で観戦した。
 戦いが始まった時、爆発のスイッチを押すつもりでいた。
 そんな事は、先刻承知済みだった、吟侍は、フェンディナに相手の男の所持しているものは危険物だから、ゲスデゲスの所に置いておいた方が良いとアドバイスした。
 戦いのゴングが鳴らされる前に、吟侍は、ゲスデゲスに向かい、
「余計な事すると罰が当たるぞ」
 と忠告しておいた。
 だが、そんな事を聞くゲスデゲスではなかった。
 開始早々、起爆スイッチを押す。
 フェンディナがダラシの腰にあった爆発物をゲスデゲスの元に部分的な瞬間移動をさせた後で。
 ドッカーンという大きな音がして、ゲスデゲスのいた場所で大爆発が起きる。
 観戦していた吟侍達とは離れていたので、被害にあったのはゲスデゲスと彼の囲う愛人達だけだった。
 至近距離で爆発したので、ゲスデゲス達の身体は吹き飛んだ。
 それを見た、フェンディナは、
「ど、どうしましょう……」
 と慌てたが、吟侍は、
「気にすんな、あれは、自業自得だ。自分で、てめぇの首を絞めただけだ」
 と言って、彼女のフォローをした。
 ゲスデゲスの死により、充命人(じゅうめいじん)達の命の源、マザー神樹は魔の手から救われる事になった。
 吟侍達にとっては、ゲスデゲスとの戦いは、単なるオマケに過ぎない。
 ゲスデゲスとの配下との戦いで解ったルックマン教授の教え子達というのを追ってみようと思うのだった。
 得た情報が確かなら、0番から40番までの出席番号がある41名の教え子達がそれぞれ暴れ回っているようだから。
 ゲスデゲス戦ではちょっと使ってしまったが、これからは、【答えの力】は封印しようと思うのだった。
 この世界はあくまでもフェンディナを鍛えるために来た世界だ。
 吟侍としては、余計な手出しをせずに、必要最低限で、彼女の成長のサポートをしていこうと思うのだった。
 ルックマン教授が生前残していた痕跡を吟侍とフェンディナは追っていった。
 ルックマン教授は生前は評価されていなかったが、その痕跡からも彼は凄い才能の持ち主だというのが解った。
 こんな所からあんな発想がと思えるようなものが数多くあった。
 創作バトルを得意とする吟侍にとってはこの発想に触れるだけで、インスピレーションが湧き、更なるスキルアップを促すような感じがした。
 型にはまらないやり方という意味では共通点が多かったからだ。
 ルックマン教授の遺産では、なるほどなと思える事も多くあった。
 途中、グレイテスト・ビッグの強者達とぶつかる事もあった。
 だが、吟侍とフェンディナからしてみれば、よく居る敵に過ぎなかった。
 ほぼ問題なく、淡々と撃破していき、ルックマン教授の痕跡を追っていった。
 すると、まもなくして、明らかに今までと雰囲気の違う男が現れた。
 見た目が変わっていると言う意味ではない。
 その存在が持っている感じ、雰囲気がどこか異質だという事になる。
 吟侍は、
「ようやく、お出ましになったってとこか、あんたの出席番号はいくつなんだい?」
 と聞いた。
 出席番号という事を聞いたという事がその男はルックマン教授の教え子だと確信しているという事になる。
 フェンディナは、
「この方なんですか?」
 と吟侍に尋ねた。
「そうだ、フェンディナ、お前さんの新たな対戦相手になる」
「ですが、吟侍さん、この方は何も悪いことをしたと決まった訳では……」
「もちろん、決まってねぇ。だが、ルックマン教授の弟子達はこの世界を滅ぼそうとしているって事は聞いている。返答次第ではって事になるな」
 フェンディナは、チラッとその男を見る。
 見ると、その男の身体は、次第に変貌していった。
 向こうも戦闘の意志ありと見て良いようだ。

 ルックマン教授の弟子達は、個々に力をつけている。
 独自の強化であるため、弟子達の中でも共通点は無いと言って良い。
 これから戦って行く事になるかも知れないルックマン教授の弟子達は、それぞれ別々の能力を持っていると思った方が良い。
 これは、その初戦。
 仮にこれに勝利したとしても次のルックマン教授の弟子に同じ戦法は通じない。
 男の姿は、身体の左半分がドロドロ溶けていた。
 見るからにグロテスクな姿形をしている。
 溶けている事が何の意味を持つのかわからない。
 だが、見た目からもこれが普通の敵ではないというのが解った。
 男は名乗らない。
 なので、仮に、生徒Aとする。
 生徒Aは、フェンディナに向かって攻撃をし始める。
 見るとただのエネルギーの放出――そのようにも思う。
 だが、次の瞬間、生徒Aの溶けている部分が、左半分から上半身に変わった。
 その動きに合わせるように、放出されたエネルギーが不規則な動きをする。
 たまらず、フェンディナは更に回避するが、その度に、生徒Aは身体の溶けている部分を変化させ、エネルギーが複雑な動きをして、彼女に襲いかかる。
 推測だが、恐らくは、エネルギーの成分自体も変わり続けているのだろう。
 現実世界では理解の出来ない変化を身体の溶けている部分を変化させる事で、変えているのだろう。
 身体が溶けている意味が全くわからない以上、フェンディナに襲いかかっているエネルギーの成分も判明しない。
 吟侍の【答えの力】であれば、一発で解るかも知れないが、今度はその力は封印すると決めている。
 【答えの力】に頼っていては、吟侍自身ももちろんだが、フェンディナも成長しない。
 ここは、なんとしても【答えの力】抜きで、この難敵を倒す事が彼女の目標だ。
 フェンディナは自身の潜在的な力を解放させた。
 その奥にも更なる力を秘めてはいるが、今回、解放させたのは、ブラック・ルーム・オペレーション・システムという力だった。
 現界からは見えない秘密の部屋に何かを隠したり出したりする事で攻防するというものだ。
 フェンディナは生徒Aの操るエネルギーをブラック・ルーム・オペレーション・システム――略してブロス(BROS)に取り込み、解析を開始した。
 ブロスに取り込んだエネルギーは生徒Aの支配下を離れ、徹底的に調べ上げられた。
 これにより、謎のエネルギーの反物質を作り出し、消滅させる事が出来た。
 マカフシギ四姉妹──
 設定を変える力を持つ長女ロ・レリラル・マカフシギ、
 スーパーアーカイブとリンクし無限の知識を得る次女ジェンヌ・マカフシギ、
 結果を捻じ曲げる力を持つ三女ナシェル・マカフシギ、
 そして、姉妹最強のポテンシャルを持っているとされる四女フェンディナ・マカフシギは、数多の力を持つ容量を持っている。
 容量と言っても同じ容量を司るクアンスティータと比べると見劣りしてしまうが、それでも、【量】を司る存在として、その力を所持している。
 ブロスもそんなフェンディナの持つ力の一つだった。
 彼女にはまだまだ、隠された秘密がある。
 彼女はクアンスティータ(関係)という存在が無ければ、十分、最強の座を狙える立場にあるのだ。
 生来の気の弱さが災いしているために、彼女は十分にその圧倒的なポテンシャルを発揮できずにいた。
 吟侍はそれに気づいているからこそ、彼女と共に、このロスト・ワールドに来ていた。
 彼女の身体に秘められている圧倒的なポテンシャルを引き出すために。
 吟侍は圧倒的な才能を持っているが、それでも、元が人間であるため、ある一定以上のレベルになると、無理が出てくる。
 その点、フェンディナは元々が人間ではなく、全能者オムニーアという種族だ。
 吟侍の様に無理をしなくても、十分、一定以上のスキルアップは見込めた。

 生徒Aの攻撃をブロスで完全に封じたフェンディナ。
 彼女の勝ちは火を見るよりも明らかとなったのだが、彼女はとどめをさすという事が出来ない。
 敵は、世界を滅ぼそうとしている存在だ。
 気を許せば、そこに付け込み、滅びの道を選択するだろう。
 クアンスティータの様に飛びぬけ過ぎた存在であれば、フェンディナの様な態度でも何とかなってしまうのだろうが、フェンディナはそこまで徹底した強さを示せていない。
 そこが彼女の弱さでもあった。
 生徒Aは玉砕覚悟で突っ込み、自爆した。
 とっさに、ブロスに生徒Aを取り込み事なきを得たが、一歩間違えば、彼女の身は危なかった。
 何とか生徒Aを撃破したものの、その後もルックマン教授の教え子達は強力で、不思議で強大な力を多種多様に用いてきた。
 そのたびに、フェンディナはぎりぎりの状態で勝利していった。
 気づけば、倒した教え子の数は、男性12名、女性11名の23名に達していた。
 どの教え子達も最後は自爆を選んで突っ込んできた。
 敗れる事=自身の死ととらえているのだろう。
 教え子達はいずれも名乗らなかったので、生徒B、C、D、E……とつけて行ったが、今回倒した生徒で23名目だ。
 つまり生徒Wというところまで来ている。
 アルファベットはZまでなので、それだと26名まででストップしてしまう。
 生徒の数は41名いるはずなので、それだと足りない。
 だが、男女で分ければ、男性生徒Lまで、女性生徒Kまでが出て来たと仮定すれば、いくらか余裕は出来る。
 当初は誰かは名乗るものだと思っていたが、どうも誰も、自分の名前を名乗らないようだ。
 自身の名前よりもむしろ、ルックマン教授の教え子だという事を強調したいようだ。
 教え子達に共通しているのは破滅思想──それだけだった。
 吟侍はフェンディナの修行のためと割り切っているが、フェンディナ自身は割り切れずにいた。
 戦っていて虚しさを感じ始めていた。
 それでも修行のための戦いは続き、男子生徒R、女子生徒Rまでも撃破していった。
 Rと言うと、男子生徒、女子生徒共に、18名ずつ倒したという事になり、合計すると36名倒した事になるのだ。
 残る生徒は5名という事になる。
 だが、男子生徒Rは自爆する前に言っていた。
 残る5名は、出席番号0〜4番だと。
 つまり、最優秀生徒5名が残ったという事になる。
 そして、今までの様にはいかないとも言っていた。
 考え方も、違うらしい。
 これまでの様に惰性で勝てる相手ではないという事かも知れない。
 吟侍はその考えをフェンディナに伝えた。
 聞いたフェンディナはではどうすればいいのかというのは解らないで戸惑っていた。


02 出席番号4番〜2番の挑戦


 引き続き、吟侍とフェンディナはルックマン教授の痕跡を追って行った。
 この痕跡を追うという事がルックマン教授の教え子達にたどり着く最短コースだからだ。
 教え子達にとっては、吟侍達が痕跡をたどる行為が癇に障るのか、よく戦闘を挑んで来た。
 出席番号4番もまた、そんな中の一人だった。
 女性だから、今までの呼び方を続ければ女子生徒Sという事になるが、ここはあえて出席番号4番と呼ばせてもらおう。
 出席番号4番は名前も名乗った。
 その点だけでも今までとは違う。
 今までの生徒は存在が希薄という感じがした。
 だが、この出席番号4番、アナレンマと名乗るこの女は違う──
 生命力が満ち満ちている感じがした。
 アナレンマは、
「私の名前はアナレンマ。今までの様には行かないよ。仲間達の仇、討たせてもらう」
 と言ってきた。
 仇と言われても、フェンディナ自身が始末した教え子は一名もいない。
 フェンディナに攻撃を封じられて、その後、自ら自爆していったのだ。
 それを仇扱いされても困るのだった。
 アナレンマは自身の力を解放させる。
 すると、アナレンマの腰のあたりからズルリと太いものが出てきた。
 しっぽだ。
 出てきたしっぽはどんどん伸びる。
 どこまでも、どこまでも、どこまでも、どこまでも……だ。
 そして、そのしっぽの途中から無数の小さなしっぽが生えてくる。
 大きなしっぽから無数の小さなしっぽが雑草のようにびっしりと生えていた。
 ズドンという大きな音がして、しっぽが地面に潜っていく。
 しっぽはボコボコボコボコと地中を縦横無尽に走り回る。
 そして、地面から出鱈目に、小さなしっぽが出てきて、フェンディナを襲う。
 その数は数え切れないくらいに多い。
 出てきた小さなしっぽからさらにまた、小さなしっぽが無数に生えてきて、更にフェンディナを追っていく。
 しっぽには様々な腐敗毒が塗られており、しっぽに触れた岩がもの凄い勢いで腐っていくのを確認した。
 吟侍は、
「距離を取れ、フェンディナ、このままじゃまずい」
 と言った。
 フェンディナもそれを解っているようで、
「はい、吟侍さん」
 と素直に従った。
 フェンディナは空に逃げる。
 だが、空に逃げたからと言って逃げ切れた訳じゃない。
 しっぽから小さなしっぽ、小さなしっぽからさらに小さなしっぽが無数に飛びだし、フェンディナを襲う。
 かなりのスピードで動き回るフェンディナだが、それでもしっぽによる無数の攻撃から逃げ切れない。
 本体をどうにかしないとこのままではしっぽによる超連続攻撃の前にやられると判断して、フェンディナはアナレンマの所に向かうが、それを迎え撃つ形で、大きな顎(あぎと)と化した両腕が待ちかまえていた。
 単純な戦闘能力がこれまでの教え子の十倍はある。
 フェンディナはそう判断した。
 彼女は両腕をかざして大きな光る玉を作り出す。
 この玉もフェンディナの秘められた力の一つだ。
 名付けるならショッキングチェンジボール(SCB)――
 この玉に触れたものはどんどん、粒子が変質していくという玉だ。
 SCBは獰猛なまでに、アナレンマの無数のしっぽの粒子を組み替えていく。
 自身のしっぽが上手く操れない事を悟ったアナレンマは、腰からしっぽを切り離した。
 更に胸元を開いて、自身の身体にブラックホールを造り出す。
 光をも飲み込むブラックホールを自身の身体に造った事によって、アナレンマは自らの身体も吸い込まれてしまった。
 これもある意味、自爆と言っても良い行為だった。
 フェンディナはブラックホールにSCBを当て、ホワイトホールを造り出し、相殺した。
 勝つには勝ったが苦しい戦いだった。
 間髪入れず、次の挑戦者が現れた。
 出席番号3番の男子の教え子だ。
 どうやら、アナレンマとの結着がつくのを待っていたらしい。
 よく、見ると、もう一名、男子が後ろに控えている。
 恐らくはその男子が出席番号2番なのだろう。
 ルックマン教授の教え子達に共通する事は破滅願望があるという事だが、それ以外にも、フェンディナに対し、1対1で戦いを挑んで来ているというのもある。
 これまで、フェンディナはチームを組んでいる教え子と戦っていない。
 全てが単独で挑んで来ている。
 一種のルールなのだろうか、それとも美学なのか、仲間と組んで戦うという事はしない。
 例え、仲間がやられようと戦いが終わるまで待っている。
 それが、ルックマン教授の教え子としての共通点だった。
 それは、化獣達の考え方にも似ている。
 出席番号3番の男子は名乗る。
「俺の名はエントロピー。仲間の無念は俺が晴らす」
 あくまでも淡々と話す挑戦者達にフェンディナはどう対応したらいいのか解らない。
 それでも何とか会話しようと
「あ、あの……」
 と話しかけようとするが、
「言うな。聞きたくない」
 と突っぱねられた。
 エントロピーは口から何かを出す。
 その何かは、爆発を繰り返し、次々と姿形を変えて行く。
 ボンボンボンボンボンボンボンボンボボボボボボボボボボンボンボンボンボン……
 爆発を切っ掛けにどのようなものになるのか解らないので、対応するのも一苦労だった。
 エントロピーは次々と口から何かを出し、それらは混乱するかのように、絶えず爆発を繰り返し、姿形を変えていく。
 爆発に当たってもダメージを負うので、爆発と爆発の間に何とかするしかないが、爆発と爆発の間は極めて短時間だった。
 せいぜい、数十個くらいなら何とか対応出来るが、エントロピーは絶えず、口から何かを出して増やして行っている。
 気づいたらその数は三桁以上になっていった。
 このままでは埒があかないとフェンディナもSCBをどんどん作って対抗していく。
 最後はポテンシャルの高いフェンディナが何とか競り勝った。
 エントロピーもまた、自身の身体を爆発物に変えて自滅していった。
 やらなければやられるとは言え、何でこんな戦いをとフェンディナは思うのだった。
 エントロピーが最後を迎えた事で、残る出席番号2番の男子の教え子が前に出てきた。
 男子生徒は名乗る。
「俺の名は、パラメータ。お前に死合いを申し込む」
 パラメータもまた、それまでの教え子の例に漏れず、フェンディナに勝負を持ちかけた。
 パラメータが攻撃してきた。
 これまでの教え子のように特殊な力ではない。
 単なる蹴りやパンチだ。
 だが、とてつもなく重い。
 パラメータは自身の攻撃全てが途轍もなく重いのだ。
 重すぎるから、この攻撃を受けたら一溜まりもない。
 一撃で、致命の負傷となるだろう。
 だが、それならそれで、戦い方はある。
 ここまで極端に攻撃が重いという存在とは戦った事はないが、それでも似たような力を持った者の戦いは見たことがあった。
 なので、比較的容易にこの敵を倒す事が出来た。
 戦いの相性というのもある。
 今までの敵とは相性はあんまりよくなかったが、今回の敵はフェンディナにとっては相性の良い相手だった。
 パラメータの力をBROSに取り込み、無効化させた。
 爆破能力を持たないパラメータであれば、生き残ってくれるのではと期待したが、やはりパラメータも生き恥は晒さないとばかりに、自決した。
 それを見たフェンディナは、
「吟侍さん……この戦いに意味があるんですか?」
 と聞いた。
 吟侍としても、フェンディナの覚醒のタメに戦っているとは言え、このルックマン教授の教え子達の考え方はおかしいと思っている。
 ルックマン教授の死が悲しいのから、教え子達は破滅に向かうことが正しいと思っている節がある。
 吟侍は、
「だったら、残る2名の教え子の生き方を変えて見せるってのはどうだ?倒すだけじゃだめだ。生き方を変えさせる。それが、お前さんにやってもらう新たな課題だ」
 と言った。
 フェンディナは、
「それならば、了解です。やってみます」
 と答えた。
 だが、それは、ただ、倒すという事よりも更に難しい事でもある。
 倒したとたんに死を選ばれる可能性が高いからだ。
 その難問を突破した時、このグレイテスト・ビッグから立ち去る時だと吟侍は判断した。
 グレイテスト・ビッグ以外にもいくつかフェンディナと世界を回るつもりでいるが、吟侍の考え方にただ従うだけが芸じゃない。
 時には反発し、時には逆な事をしていってはじめてフェンディナは成長したと言える。
 吟侍の指示を待っているだけでは、意味はないのだ。
 自分で考え、自分で行動していって初めて彼女は自立したと言える。
 ここが正念場の一つだなと思うのだった。


03 出席番号1番と0番


 ルックマン教授の教え子も後は出席番号1番と0番を残すのみとなった。
 この2名はトップ2だ。
 これまでの教え子達より、強力な2名が来るに違いない。
 対して、フェンディナはここまで連戦に次ぐ連戦で、疲れ切っている。
 ここらで少し休憩が必要だなと思って、吟侍は見張っているから、少し休むように彼女に言った。
 だが、敵は休ませてくれないようだった。
 二人の女が現れた。
 恐らくは、この二人が出席番号1番と0番なのだろう。
 持っている雰囲気が、出席番号2番までと更に違うものを感じる。
「あなた方が、ルックマン教授の教え子達を倒した方ですね……」
 女の一人がこちらに尋ねて来た。
 どうやら、こちらが、今までの教え子を倒したという事を知らないようだ。
 その点だけでも、今までとは違う。
「あなた方もルックマン教授さんの教え子の方ですか?」
 とフェンディナが聞いてみる。
 フェンディナは連戦で疲れているので、今度は吟侍が代わりに出ようと、彼女の前に出た。
「おいらは、芦柄 吟侍ってもんだ。こっちは、フェンディナ・マカフシギ──そっちも名乗ってもらえると助かるんだが」
 と吟侍は言った。
 名前くらいならば、吟侍の答えの力でさぐり出す事は可能だが、答えの力は封印しているので、あえて尋ねた。
 女の一人が答える。
「私は出席番号1番のファラ、こっちは0番のファル。共に、元ルックマン教授の教え子だった者です」
 二人をよく見ると少し似ている。
 双子という事はないだろうが、姉妹か、親戚関係にあるのではないかと言う印象はあった。
 それを察したのか、ファラが、
「私を元に作り出された生命体、それがファルです。元々はクローンのようなものだけど、それぞれが得た力の影響で、あまり似ていない容姿に代わっていきました。だから親戚でも姉妹でもないです。元は同じ命……」
 と言った。
 吟侍は戦うつもりでいたが、どうも、この二人からは戦闘の意思が感じられなかった。
 ルックマン教授の痕跡を追う者は敵だという意思表示を示していたこれまでの教え子達と明らかに違っている。
 これではフェンディナへの課題、二人を生かして倒すというのは容易に出来そうだった。
 敗北イコール自らの死を選ぶという感じがしない。
 戦闘の意思が無いという事は何かあるのかと吟侍は尋ねてみた。
 すると、ファラはルックマン教授とのやりとりを話して聞かせていた。
 ルックマン教授は人格者で通った人物だったが、まるでジキルとハイドの様に、二面性を持った人物でもあった。
 教え子達は、善意の意思を持つルックマン教授に教えられていたが、ある時、悪意の意思を持つルックマン教授の教えを学ぶ様になっていったという。
 その悪意のルックマン教授の方を危険人物として、このグレイテスト・ビッグの正義が鉄槌を下し、彼は死亡した。
 悪意の思想の教えにどっぷりつかった出席番号2番から40番までの男女はグレイテスト・ビッグの正義に対して反発し、世界崩壊を望むテロ行為に没頭するようになった。
 その過程で生まれたのが、当時、最強と言われた出席番号1番のファラを元に作られた出席番号0番のファルだった。
 だが、そのファルを生み出す実験を繰り返されている内に、ファラの洗脳は解け、彼女はファルと共に、悪意のルックマン教授の教えに背いた。
 この時、既に、ルックマン教授は故人となっていたため他の教え子達に、ファラとファルは破門宣告を受けた。
 こうして、出席番号1番0番と2番〜40番の間で、亀裂が生じた。
 なので、2番から40番は裏で密に連絡を取り合っていたが、ファラとファルには連絡は来ず、彼女達は、他のルックマン教授の教え子達の動向を知らずにいたのだ。
 話してみると、この二名は感じが良かったので、フェンディナの頭に入っている10番の化獣(ばけもの)ティルウムスの勢力の力として、加わってもらおうという事になった。
 このまま、滅びゆくグレイテスト・ビッグに居たままであれば彼女達も滅びる運命なので、それは勿体ないと思って吟侍がフェンディナの代わりにスカウトしたのだ。
 ティルウムスの勢力の力は吟侍のルフォスの様に、宇宙世界をまるまる所有しているという事ではないが、本棚の力で、一つ一つの物語に閉じ込める事が出来る。
 その本の一つの物語の中に彼女達を移動させようという事になったのだ。
 移動させるには、まず、彼女達の力を知らねばならない。
 そこで、自己紹介を兼ねて、軽く手合わせをしてみる事にした。
 フェンディナは疲れているので、彼女の回復を待ってからの試合という事になる。
 出席番号1番、ファラとの戦いが始まった。
 始まったが、今度は命の奪い合いではない。
 あくまでも、お互いの実力を確かめ合うための戦いだ。
 練習試合と言っても良かった。
 ただし、スケールはものすごかったが。

 ファラの特徴は指先から音が出るという事だ。
 その音によって、闘いあっているお互いのパラメーターが反転するという力になる。
 フェンディナは元々かなりのポテンシャルを持っている。
 つまり、フェンディナとファラが戦えば、パラメーターの反転により、ファラの方が強くなるというものだ。
 これは、10本の指それぞれが別々の音を出し、反転するパラメーターもそれぞれ異なる。
 それにより、自身の身体の複雑な変化に対応しにくくなるというものだった。
 続く、ファルの特徴は、代行システムというものを使っている。
 化獣でも同じ様な力を使う者は存在する。
 2番の化獣、フリーアローラだ。
 ただ、フリーアローラの場合は、花びらに仮の名前を持たせ、その名前を求めてやってくる鏡の中に保存している名も無き強者達に名前を与える代わりに従わせるというものだ。
 ファルの場合、自身の存在を担保にする。
 存在していない強者に対し、ファルは消滅する事で、その対象者に生を与える。
 対象者となる強者はファルが望む事を叶える事で生の時間を得られるというものだ。
 自身の存在を使って存在していない強者と契約関係を結ぶ、それがファルの力だ。
 どんな強者が現れるか解らないが場合によっては途方もない力を持つ存在が現れる事もあるだろう。
 ファラもファルもどちらも魅力的な力を持っていると言えるだろう。
 この二人がフェンディナの戦力となってくれるのであれば、心強い味方が増えるという事でもある。
 フェンディナは二人を歓迎した。
 ティルウムスを一時的に呼び出し、契約を結ぶ。
 ここはルフォス・ワールドの一部でもあるので、本格的には呼び出せず、仮契約の状態ではあるが。
 これにより、ファラとファルはティルウムスの所有する本の一冊に仲良く入っていった。

 ファラとファルを取り入れた事により、グレイテスト・ビッグでの目的はほぼ完了したと言っても良かった。
 他にも強者は居るが、グレイテスト・ビッグでの強者全てがフェンディナと相性が良い訳ではない。
 中には害でしかない存在も居るだろう。
 そう言う意味では、ファラとファルという存在と出会えたという事は、フェンディナにとって、大きな収穫であったと言える。
 ルックマン教授の痕跡を追っていた事で、グレイテスト・ビッグでの残り時間も後僅かとなった。
 もう、他の存在を追っている余裕はない。
 吟侍とフェンディナは、次の世界に疲れを残さないように、グレイテスト・ビッグの残り時間は休憩を主として、あちこち観光するなどして、過ごしたのだった。


04 次のロスト・ワールド、パラソル・アンブレラへ


 グレイテスト・ビッグでの目的は無事に果たした、吟侍とフェンディナだが、このまま、現界(げんかい)に戻る訳には行かない。
 吟侍は制限時間ギリギリまでやるつもりだが、フェンディナももういくつかの宇宙世界を渡るのに付き合うつもりだからだ。
 元々、吟侍が、ロスト・ワールドに彼女を連れて来たのは、彼女の潜在能力を引き出すためでもある。
 グレイテスト・ビッグはまだ、一つ目で、これで彼女を満足のいくくらいまで、力を引き上げたかと言うと答えはノーだ。
 彼女には、まだまだ、たくさんの伸びしろがある。
 つまり、一つ目の宇宙世界が終わったというだけで、まだ、現界に戻る時ではなかった。
 4、5回は行くつもりだったので、つまり、後3、4回はどこかの宇宙世界に寄るつもりだ。
 余暇貯時間管理(よかちょじかんかんり)を担保に吟侍は、更にロスト・ワールドの選択をすることになった。
 グレイテスト・ビッグで使った360日は、やはり、一つの冒険をする事を考えると大体二人に合っている日数だと思ったので、今回もまた、360日を担保とした。
 グレイテスト・ビッグではフェンディナとの最初の冒険だったという事もあり、答えの力に頼っていた部分が多かった。
 なので、あると使ってしまうと思った吟侍は、次の宇宙世界に行く前にあらかじめ答えの力を簡易に封印をした。
 これで、次の宇宙世界を突破するまで、答えの力は使えなくなる。
 その事をあらかじめフェンディナにも説明した。
 グレイテスト・ビッグでは、いざとなったら、答えの力でサポートするつもりでいたが、それでは、ギリギリの成長というのは見込めない。
 やはり、本物の窮地というのは必要だとも説明した。
 気の弱いフェンディナは最後の所で、誰かに頼ってしまうという部分が強い。
 その部分を少しでも改善出来ればと思っての対処だった。
 吟侍の能力制限という条件付きで訪れた次なる宇宙世界の名前は、パラソル・アンブレラという。
 日傘や傘の意味を持つこの宇宙世界は殆どの星で生命体は生身では居られない。
 日よけ、雨よけになる傘のようなものが必需品となっており、生身でいると常に致命的なダメージを外気から浴びる事になるという危険な宇宙世界だった。
 吟侍とフェンディナは一応、念には念を入れて化身体(けしんたい)という仮のボディーを先に送っていた。
 化身体とは化獣などが、使える能力の一つで、本体となる身体を傷つけたくない時などに、仮のボディーを用意して、その身体に入って行動する事が出来るというものだ。
 吟侍は心臓にルフォス、フェンディナは脳にティルウムスという化獣をそれぞれ宿しているので、この化身体という力を使う事が出来た。
 適当に選んで降りてみた時、その強烈な外気に化身体は一気に傷ついてしまった。
 それくらい危険な場所だった。
 吟侍もフェンディナもポテンシャルがとても高いので、死ぬという事は無いが、外気に触れるだけで、相当なダメージを負うことは間違いなかった。
 まず、人間の住めるような環境ではない。
 そもそも、人間が住める環境の星というのはなかなか偶然がいくつも重ならない限り、出来にくい。
 奇跡が重なって生命体というのは星の中で生きていけるのだから。
 もの凄い環境でそれでも生きていられるとしたら、それはすでにタダの生命体ではない、超越的な何かという事になる。
 パラソル・アンブレラは、普通の人間、いや、生命体が存在しにくい環境の星が数多く存在している世界でもあった。
 だが、生命体というのが全く居ないという訳ではない。
 そんな過酷な状況であれば、その状況に合わせて、生命体というのもそれに合った進化をして生き残る。
 独自の傘を用意して、探索する吟侍とフェンディナの前に、そう言った進化をたどった異なる生命体が現れた。
 残念ながら、言葉が通じるような相手ではなかった。
 吟侍達は何とかコミュニケーションを取ろうとするが、通じず、相手は吟侍達を敵と判断して、襲いかかってきた。
 答えの力を封印しているとは言え、吟侍には創作バトルとしての力は健在だ。
 ウィークポイントレシピによる、弱点創作をして、見事、しとめた吟侍。
 フェンディナも負けじと様々な特殊能力を駆使して戦った。
 今回はグレイテスト・ビッグの時のような戸惑いはない。
 敵意をむき出しにしている相手に対し、迷えば、それが、リスクになる事を学んできたからだ。
 敵は倒したが、このままでは、まともな会話が出来そうな相手とも出会えそうもない。
 答えの力による答えを導き出せない吟侍の代わりにフェンディナは、ラッキーフレンドという力を使った。
 このラッキーフレンドは言ってみれば占いの様なものだった。
 ラッキーフレンドと呼ばれる小さな妖精の様な存在を呼び出し、相談させるのだ。
 そうすると、フェンディナ達にとって良さそうな方位というのを見つけてくれる。
 運命や因果律に関する糸の様なものを見つける力があるのだ。
 ラッキーフレンド達の
「あっち、あっちぃ〜」
 という声に従って、吟侍とフェンディナはパラソル・アンブレラでの最初の星を後にした。
 近くに適当な星が無いのかラッキーフレンド達は、遠くを示した。
 どうやら、吟侍達は相当な危険地帯に飛び込んでしまっていたらしい。
 安全地帯はかなり遠方にあるようだ。
 途中、危険な生命体などが、現れる星などの近くの星を通っていたが、危険な存在全てと戦っていては、きりがない。
 それよりは、まず、この宇宙世界での拠点となる、比較的に安全な所に移動して、一息つきたいという思いだった。
 かなり、移動したが、ようやく、比較的安全と思える星にたどり着く。
 とは言っても、人体には多少害がある外気が少し混ざっているので、傘は手放せないのではあるが。
 フェンディナは、
「吟侍さん、これからどうしましょうか?」
 と聞いてきた。
 吟侍は、
「そうだな。まだ、この宇宙世界を理解するに足りる出逢いとかもないしな。このまま闇雲に移動しても仕方ないし、とりあえず、このパラソル・アンブレラでの目的を決めようか」
 と答えた。
 一旦、ロスト・ワールドに入ってしまえば、期限が来るまで出られない。
 なので、時間を無駄にしないためにも、その宇宙世界毎に目標のようなものを決めて、それを達成する事を目的に行動しようという事になった。
 目標としては、このパラソル・アンブレラでの勢力図を調べ上げ、その上で、上位に属する存在に勝負を挑んで勝つという事とした。
 目標が決まれば、後はやることは一つだった。
 吟侍とフェンディナはそれぞれの探査能力を駆使してこの世界の勢力図を出来るだけ正確に調べ上げた。
 解った事――
 それは、このパラソル・アンブレラには、甲冑鎧(かっちゅうがい)という兵器が勢力図で上位に位置していると言うことだ。
 この宇宙世界は生身で居ることに優しくないところだ。
 そのため、身体を鎧(よろい)のようなもので、保護するのが一般的となっている。
 一般的になっているという事はそれだけ、発展する事も意味している。
 パラソル・アンブレラが滅び行く運命になっているのは、この甲冑鎧による大戦争が切っ掛けと言われている。
 生命体の多くはより優れた甲冑鎧の製作に力を注いでいる。
 他者よりもより優れた甲冑鎧を製造するために心血を注ぎ、甲冑鎧は発展、進化していった。
 甲冑鎧とは、生きた鎧のような疑似生命体で元の身体は、甲冑鎧に魂を移した後で、放棄される。
 新しい肉体となった甲冑鎧は元の身体よりも長命で、この宇宙世界の住民は元の身体という事にこだわっていない。
 だが、子供を作るには、元の身体でいる必要があり、大体の存在は子供を作った後、甲冑鎧となる道を選ぶと言う。
 甲冑鎧の身体となれば、生身に優しくない外気でも傘を必要とする必要もなく、行動が取れる。
 つまり、傘を必要として行動している吟侍やフェンディナにとっては不利な状況という事になる。
 傘を手にしながらの戦いとなるとどうしても、動きに制限が出てきてしまうからだ。
 それでは、縦横無尽に動き回れる甲冑鎧の相手はかなり難しいとも言える。
 だが、今回はこの不利な条件で甲冑鎧と戦う事をルール付けた。
 日が進むにつれ、この宇宙世界の住民は話が通じるという存在が極めて少ない事が解った。
 存在が出てきたとたんに、攻撃を仕掛けてくるので、そこに交渉の余地は全く無い。
 とにかく、目があったら、すぐに戦闘という事になる。
 やりとりなど一切無視の状態で、すぐさま戦闘が始まる。
 そういう戦いを強いられたフェンディナは広い宇宙の中には話の全く通じない相手もいるんだなという事を思い知るのだった。
 激しい戦闘の日々が続く。
 そこには、誰かと仲良くなったという事は一切無い。
 出てきたとたんにすぐバトル――
 それは、いつまで経っても変わらなかった。
 来る日も来る日も戦闘の連続――
 360日という日数は残り時間がどんどん過ぎて行く。
 フェンディナはこの戦いを通して、細かな能力の解放などを繰り返し、戦闘面では成長していった。
 だが、感情面では、成長らしい成長は一切なかった。
 目の前に居るのは全て敵――
 そのやるせない現実が彼女の繊細なハートを傷つけていった。
 戦っても戦っても戦闘が終わらない。
 そんな虚しい日々が続いた。
 諦めかけた時、ようやく、話の解る存在と出会った。
 孫娘と祖父の2人だった。
 穏やかな人柄で、好感が持てる生命体だったが、残念ながら時間切れ。
 会話も半ばで中断されることとなり、パラソル・アンブレラを去る事になってしまった。
 フェンディナは涙した。
 頑張っても結果に繋がらない事もあるんだと思っての涙だ。
 そんな彼女の頭にポンと手を置き、吟侍は、
「ま、こんな事もあるさ……」
 と言って慰めた。
 フェンディナは、
「吟侍さん……」
 と言ってうつむいた。
 結果としては、パラソル・アンブレラで得られたものは少ないが、それでも、吟侍の温かさに触れる事が出来て彼女は満足した。

 正直、パラソル・アンブレラでの冒険は正否で言えば失敗と言わざるを得なかった。
 ロスト・ワールドはどんな所があるのか解らないので、必ずしも、吟侍達の成長に適した宇宙世界に当たるとは限らない。
 むしろ、ハズレ――成長に適さない宇宙世界に当たる確率の方が高いのだ。
 その点から考えると最初に行った、グレイテスト・ビッグは運が良かったと言える。
 だが、失敗を悔やんでいても仕方がない。
 現界で起きようとしている事に対応するため、少しでも、成長して帰らねばならない。
 フェンディナは、次に吟侍がロスト・ワールドを選ぼうとしているのに手をさしのべ、ラッキーフレンドの能力を付与した。
 ラッキーフレンドの能力効果により、吟侍とフェンディナに適した宇宙世界に行きやすくしたのだ。
 ラッキーフレンドの効果により、これで、吟侍達に適した冒険を選びやすくなったと言えた。
 吟侍達は、3つ目の宇宙世界を選び、そこに向かったのだった。


05 トレジャー・ネームへ


 次に訪れた宇宙世界の名前はトレジャー・ネームと言った。
 この宇宙世界の特徴としては、この宇宙空間にある殆どの存在に名前がついていないというものだ。
 いや、正確には、名前をつけても記憶から消去されていく宇宙世界であるという事だった。
 そのため、この世界では、【おい】とか【お前】、【あなた】とか、【そこの人間】などの言い方で相手を指す事になる。
 この世界で名前を維持出来るのは、この世界全体の10000分の1名以下のみとなる。
 当然、世界の存在の数が減れば、それだけ、名前を維持出来る存在の数も減る事になる。
 名前を維持できる数が増えるという事はない。
 この宇宙世界もまた、滅びに向かっているのだから。
 現在、名前を維持出来ているのは、1億2300万名と少しだという。
 つまり、この宇宙世界全体の存在の数は、1兆2300億名くらいまでに激減しているという事になる。
 これは、一つの星全体の数ではなく、トレジャー・ネームという宇宙世界全体の数だ。
 宇宙の規模から考えるとどれだけ、滅びかけている世界であるかがうかがい知れる。
 滅びかけてはいるが、名前とはこの宇宙世界全体にとっては貴重であり、その名前を巡って、日々戦いが起きている。
 他を一切寄せ付けない程、圧倒的な力を持っている者はそれほどでもないだろうが、他の名前を持っていない存在と大差の無い、ネームホルダー(名前を持っている存在)は、生きている限り命を狙われるという事になる。
 基本的にネームホルダーを消せば、それだけ、名前を持てる可能性が増えるからだ。
 名前を巡って日々、存在が消されていて、それは、滅びの道をたどっている。
 この宇宙世界での半年前までは、1億5000万名くらいはネームホルダーが居たという。
 それだけ、急速に存在の数が減ってきているという事になる。
 存在の数が減れば減るだけ、それに対応して、ネームホルダーの数も減っていく。
 全ての存在がそれを解っているのだが、やはり、名前は欲しい。
 その名前を巡って、名無しの存在達は、ネームホルダーを襲う事になるという悪循環を繰り返していた。
 名前を消しているのは、トレジャー・ネームのどこかにあると言われている巨大なウルトラコンピューターだと言われている。
 吟侍とフェンディナはまず、このウルトラコンピューターを見つけて、その不毛なシステムを破壊する事を目標とすることにした。
 ウルトラコンピューターは22名のネームホルダーがそれぞれ、小さくして隠し持っているとされている。
 そう――ウルトラコンピューターの数は1つではない。
 破壊するにしても、22のウルトラコンピューター全てを壊さない限り、1つでも有れば、名前は消え続ける。
 今度の敵は、その22名のネームホルダー、名前の利権取得者達だ。
 ネームホルダー全てが敵という訳ではない。
 その中で、ウルトラコンピューターを所有している22名だけが対象となる。
 この22名の事は他のネームホルダーと区別する意味でネームユーザーという事にする。
 ネームユーザーはネームホルダー達と同様に名前を取得しているだけあって、かなりの強敵になることが予想された。
 ネームユーザーを追う吟侍達の前に次々と刺客が襲ってきた。
 色んな力を使う者が多く現れたが、この世界では、全てが無名。
 ネームユーザー達に名前を与えるという事を餌に利用され、手足となって働く哀れな者達だ。
 戦いを挑んでくる以上、倒すべきだが、刺客達の多くはただ、名前が欲しいだけなのだ。
 名前が欲しくて欲しくて仕方ないため、ネームユーザー達に利用されているだけなのだ。
 なので、倒しはするが、戦闘不能にはしても、命まで奪うという事はしたくは無かった。
 だが、刺客達は必死だった。
 死ぬ気でかかってきている刺客達に対して、生かして無効化させるというのはただ倒すよりもさらに難しかった。
 ただ、戦っただけではない。
 無効化させた名も無き者達に、吟侍達は名前を与えて見た。
 だが、名付け親である吟侍達もしばらくすると与えた名前を忘れてしまう。
 というより、名前が定着しないシステムが、この宇宙世界にはあった。
 吟侍達の記憶が消えたというよりは、与えた名前がこの宇宙世界に決定されないと言った方が近い表現だった。

 吟侍達は諦めなかった。
 姿を隠しながら名も無き者達を操る卑怯者、ネームユーザー達は吟侍達の考えからすると弱者になる。
 本当の強者であれば、このような姑息な手段を持ち入らずとも堂々と自身の力で勝負してくるはずであるからだ。
 卑怯な手を使うという事はまともに勝負するとどこかに弱点である部分が現れる可能性があるか、弱い部分を持っているかのどちらかだ。
 手段を選ばないと言うことはそれだけ、どこかに弱い部分を持っているという事の証明でもある。
 また、正攻法でいかないという事はどこかにほころびを持つ可能性が高いということでもある。
 吟侍とフェンディナは地道にその小さな穴を見つけるために必死に探し回った。

 そして、その成果がついに現れた。
 ネームユーザー達のしっぽを掴んだのだ。
 苦労して見つけたその手がかりを吟侍達は手放さなかった。
 そこから、捜査を念入りに進め、ついに、ネームユーザーの1名を追い詰めた。
 そのネームユーザーの名前は、ツンテンコという。
 ツンテンコは22名のネームユーザーの中でも最弱の存在だが、それ故に、最も姑息な男だった。
 吟侍達に刺客として差し向けた殆どの名無しの存在はこのツンテンコに雇われ、吟侍達に向かってきたのだ。
 つまり、この男を倒せば、刺客は激減する可能性が高いという事でもある。
 ツンテンコは自身の名前を名無しの存在に貸して、その名無しの存在の力を使うという能力をメインにして攻撃してきた。
 自分では土俵に立たずに勝負しようとしているツンテンコらしい能力と言えた。
 だが、ここまで、成長してきた吟侍やフェンディナにとって見れば大した相手とは言えなかった。
 フェンディナの往復ビンタで倒した。
 気を失っているツンテンコの身体を吟侍がまさぐり、小さくなってポケットに収まっていたウルトラコンピューターを破壊した。
 ツンテンコは撃破したが、それでも21名のネームユーザー達はのさばっているので、引き続き、吟侍とフェンディナは、残ったネームユーザー達を追っては倒して、ウルトラコンピューターを破壊するという行動を続けていった。
 途中で様々な出逢いもあった。
 そんな中、ネームユーザーではない、ネームホルダー達の中から、3名をフェンディナの戦力としてスカウトする事が出来た。
 3名のネームホルダーの名前は、カルサとフォルマールとユレと言った。
 カルサの能力は、接着能力だった。
 融合出来ない者同士を上手く接着する事で、新たな可能性を示せるという力だ。
 反発する成分などを上手く封印する力等に長けている。
 フォルマールの能力は、移し替えの力の能力を持っている。
 もしも、死ぬ間際の存在がいたら、精神を仮の身体に移し替える事が出来る。
 ユレの能力は、いたこのような能力だ。
 前世などの魂を呼び出し、会話を成立させる事が出来る力を持っている。
 3名とも特に際だった力の持ち主という訳ではないが、何も強ければ良いというものでもない。
 今まで使えなかった力を使える者が加わるという事は新たな可能性も見出してくれるものだ。
 3名とも、ネームホルダーとしては、特に強いという力の持ち主という訳ではないが、フェンディナとも気が合った。
 もの凄い強い存在とは仲間になることは出来なかったが、新たにティルウムスの本に入って貰える存在と出会えて、フェンディナは十分に満足した。
 それなりの成果を得て、吟侍とフェンディナはトレジャー・ネームを後にするのだった。
 今回は、極端な勢力としては成功して居ないが、出逢いや感情面では失敗しているとも言えない冒険だった。
 吟侍とフェンディナは、続いて、4つ目のロスト・ワールドとして、ダーク・ライト・スケルトンという宇宙世界に行った。
 また、その後、5つ目のロスト・ワールドとして、コード・インフィニティー・ゼロという宇宙世界に行った。
 ダーク・ライト・スケルトンもコード・インフィニティー・ゼロもフェンディナのラッキーフレンドの能力付与の効果もあり、それなりに、彼女にとってためになる冒険となった。
 これで、フェンディナは5つのロスト・ワールドを冒険した事になり、かなり成長したと言えた。
 だが、これでも、まだ、現界で起きようとしている事――クアンスティータ誕生からしてみると全く足りていない。
 最も、クアンスティータが関わるとどのような成長を遂げたとしても全然足りないという事は変わりないのであるが。
 フェンディナは、グレイテスト・ビッグ→パラソル・アンブレラ→トレジャー・ネーム→ダーク・ライト・スケルトン→コード・インフィニティー・ゼロという5つの宇宙世界を冒険したという事で、目的を達成し、吟侍より、一足早く現界に戻る事になった。
 この5つの冒険を通して、彼女はいくらか前向きに考えるようになり、力の解放も随分した。
 フェンディナはお礼も兼ねて、ラッキーフレンドの能力を吟侍に譲渡する事にした。
 これは、ロスト・ワールドの中での限定的な力となるが、これで、フェンディナが戻っても、吟侍は自身に適した冒険をする事が出来るようになる。
 フェンディナは、
「じゃあ、吟侍さん、私、一足先に戻ります。吟侍さんはこれからお一人で冒険されるのですよね?」
 と聞いた。
 吟侍は、
「あぁ、そうだ。これからは、おいらの冒険の本番ってことになる。ボロボロになって帰ってくるかも知れねぇから、そん時はよろしくな」
 と言った。
 フェンディナは、それを聞いても吟侍の事だから、きっと大丈夫だと思い、
「お気をつけて。私、信じてます」
 と言った。
 吟侍は、
「おう、任せておけ」
 とウインクして答えた。
 その後、フェンディナは現界へ戻った。
 吟侍は、次なるロスト・ワールドを探すのだった。


【ファーブラ・フィクタ】ウェントス編第003−04話に戻る。





 続く。

登場キャラクター説明


001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄 吟侍

 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。


002 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。


003 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 戦闘能力に反して、気弱な性格であるため、吟侍に誘われて共にロスト・ワールドにやってきた全能者オムニーアの少女。
 マカフシギ四姉妹の末っ子で、極端に高い潜在能力を持っている。
 10番の化獣(ばけもの)ティルウムスに脳を浸食されているが、それでもティルウムスの傀儡に成り果てないのは彼女の両目にあるとされている。













004 ゲスデゲス
ゲスデゲス
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックでその資金力にものを言わせて違法な商売をしている悪徳商人。
 金でグレイテスト・ビックの強者達を雇い、無法の限りを尽くしている。
 卑怯な手を使い自爆する。















005 出席番号4番、アナレンマ
アナレンマ
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックで破壊活動をしているルックマン教授の教え子の女生徒。
 様々な腐敗毒が塗られているしっぽを無数に増やす力がある。
















006 出席番号3番、エントロピー
エントロピー
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックで破壊活動をしているルックマン教授の教え子の男子生徒。
 口から次々と姿形を変える爆発物を作り出す。


















007 出席番号2番、パラメータ
パラメータ
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックで破壊活動をしているルックマン教授の教え子の男子生徒。
 途轍もなく重たい打撃を撃てる。


















008 出席番号1番、ファラ
ファラ
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックで破壊活動をしているルックマン教授の教え子の女生徒だが、他の生徒達とは反発している。
 指先から音が出る。
 その音によって、闘いあっているお互いのパラメーターが反転するという力になる。
 これは、10本の指それぞれが別々の音を出し、反転するパラメーターもそれぞれ異なる。
 それにより、自身の身体の複雑な変化に対応しにくくなるというもの。










009 出席番号0番、ファル
ファル
 ロスト・ワールドの一つ、グレイテスト・ビックで破壊活動をしているルックマン教授の教え子の女生徒だが、他の生徒達とは反発している。
 元々はファラを元に作られた生命体であるため、容姿が少し似ている。
 代行システムというものを使っている。
 自身の存在を担保にし、存在していない強者に対し、ファルは消滅する事で、その対象者に生を与える。
 対象者となる強者はファルが望む事を叶える事で生の時間を得られる。
 自身の存在を使って存在していない強者と契約関係を結ぶ力。
 どんな強者が現れるか解らないが場合によっては途方もない力を持つ存在が現れる事もある。








010 ネームユーザー、ツンテンコ
ツンテンコ
 トレジャー・ネームという宇宙世界で我が物顔にふるまっている22名のネームユーザーの1名。
 ネームユーザーの中では最弱だが、そのため、姑息な手段を使う。
 ウルトラコンピューターという名前を管理するシステムの一つを所有している。















011 ネームホルダー、カルサ
カルサ
 トレジャー・ネームでフェンディナが仲間にした三名のネームホルダーの一名。
 接着能力を持つ。
 融合出来ない者同士を上手く接着する事で、新たな可能性を示せるという力。
















012 ネームホルダー、フォルマール
フォルマール
 トレジャー・ネームでフェンディナが仲間にした三名のネームホルダーの一名。
 移し替えの力の能力を持っている。
 もしも、死ぬ間際の存在がいたら、精神を仮の身体に移し替える事が出来る力。
















013 ネームホルダー、ユレ
ユレ
 トレジャー・ネームでフェンディナが仲間にした三名のネームホルダーの一名。
 いたこのような能力を持つ。
 前世などの魂を呼び出し、会話を成立させる事が出来る力。