第007話 フィクジュエモ界との激闘と新四天王誕生

テララ編007話挿絵

01 琴太達の置かれている現状


 芦柄 琴太(あしがら きんた)達はひっきりなしに刺客と戦う毎日を送っていた。
 事は最強の化獣(ばけもの)13番クアンスティータ誕生事件から始まった。
 クアンスティータの誕生時、数々の策略を巡らせていた1番の化獣ティアグラは全て徒労に終わった。
 クアンスティータの余りにも強大な力に怯えたティアグラは自身が作り出した宇宙世界ティアグラ・ワールドに逃げ帰った。
 一緒に琴太達も惑星テララごとティアグラ・ワールドに取り込まれたが、対処に困ったティアグラ側はティアグラの恋人と呼ばれながらも切り捨てた【ルツ】を戦いの相手としてあてがった。
 だが、それも判断ミスと言わざるを得なかった。
 クアンスティータに対する出産能力が使えないとわかって、ティアグラに捨てられた【ルツ】がティアグラとの交渉用に持っていた四つの切り札を琴太達が手にして力をつけたのだ。
 ティアグラの判断ミスはこれだけに収まらなかった。
 クアンスティータへのアプローチを大失敗したティアグラの求心力が急激に低下し、四天王として大幹部待遇で迎え入れていた二名、偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】と謎のフィクサー【ツィテリュ】がティアグラに代わる覇権を巡って戦争を始めたのだった。
 【ソイツァ】と【ツィテリュ】の双方にそれぞれ賛同する組織もたくさん現れ戦火は日増しに増大していった。
 残る四天王、【エメロディア・トライアル】と【匿名者(とくめいしゃ)】が組織するフィクジュエモ界などの連合軍が火消しに向かうも【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍との三つ巴の争いに発展する。
 その戦火を避けながら、琴太達はティアグラを打ち破ろうと進軍を続けた。
 留守を任されていたフィクジュエモクリエーター達が待ち構えていたが、レギュラーとも言えるbP8からbQ0のフィクジュエモクリエーター達の作り出す架空世界を突破し、琴太達はなおも前に進む。
 業を煮やしたbTフィクジュエモクリエーターの【シュガーレス】が出陣しようとするが、それをbP6フィクジュエモクリエーターの【ラット】とbP7フィクジュエモクリエーターの【ミアン】が止める。
 自分達が同時に迎え撃つからと言うことで【シュガーレス】に一週間の期限をもらい、琴太達を倒すために現場に向かうのだった。
 二名のフィクジュエモクリエーターが琴太達を分断させて襲いかかろうとしていた。


02 二つの架空世界


 琴太達はbP6フィクジュエモクリエーター【ラット】とbP7フィクジュエモクリエーターの【ミアン】が作り出す架空世界に取り込まれた。
 【ラット】と【ミアン】の狙い通り分断して。
 分断の仕方も考えていた。
 アリス達三人娘を同じところで取り込むと連携を取りやすいと判断して、琴太とウェンディの体力自慢二人と、アリス、ドロシー、【K】の技能自慢三人で分けて架空世界に取り込んだのだ。
 これにより、二組のバランスは偏ることになる。
 偏ったところをついて攻撃すると言うものだった。
 琴太とウェンディを取り込んだのは【ラット】が作り出す架空世界。
 アリス、ドロシー、【K】を取り込んだのは【ミアン】が作り出す架空世界だった。
 【ラット】が作り出す架空世界の名前は、【進化論サバイバル】という。
 フィールド上に最大三つまでの要素を持つキャラクターを配置し、その中でサバイバルを行う。
 敵キャラクターと戦い、倒したら敵キャラクターの要素で気に入ったものを持っていたら敵キャラクターを食べる事でその要素が使えるようになるという世界観だ。
 それを【進化論サバイバル】では進化として位置づけている。
 キャラクターは初期設定では一つの要素を持っていて、それらの要素は読者や視聴者にあたるギャラリーから募集している。
 気に入らない要素は奪う必要はないが、この【進化論サバイバル】では進化と称して敵の力を奪い合う事が醍醐味とされている。
 【ラット】が用意したのは最新作である【進化論サバイバル17】だった。
 この最新作ではギャラリー達が考えたキャラクターだけでなく、【ラット】自身が考えた要素も取り込まれていてそれはキャラクターではなく、道などに落ちていたり、穴の中に隠れていたりする。
 その新要素が初めて加わったタイプが【進化論サバイバル16】で、この【進化論サバイバル17】はそれに更に改良を加えたタイプと言えた。
 フィールド上に居るキャラクターの数は全部で1000体。
 この1000体で、ルーレットで決められた数になるまでつぶし合うというものだが、今回の場合は1000体全てを倒すというのが条件となる。
 一方、【ミアン】が作り出す架空世界の名前は、【人造人間トリプルエックス】だ。
 これもギャラリー参加型であり、ギャラリー達は人造人間のパーツとなるアイディアを出し応募する。
 それをデータ化し、フィールド上に配置する。
 プレイヤーとなるのはラボの研究員となる。
 敵に見つからない様に、ギャラリー達が考えた素材を拾い集め、自分のラボに持ち帰り、組み合わせて人造人間を作り出すというものになっている。
 その作り出した人造人間に他のラボを襲わせるというものになっている。
 100名のプレイヤーとそれに合わせて100のラボがあり、プレイヤー達は他のラボをつぶすか配下に治めるという形を取る。
 言ってみればラボという名の陣取り合戦のようなものだ。
 他のラボをつぶすか配下に治めるかの違いはラボの人造人間の生産能力に関わってくる。
 自分のラボが増えれば、生産能力も向上するが、ラボの数が増えるという事は敵の人造人間からの襲撃を受けやすいという事にもなる。
 同時に複数のラボも守らなければならないから、あまり多いと管理が大変なのだ。
 また、一つのラボで生産出来る人造人間の数は10体までとなっている。
 人造人間が破壊されたら破壊された数だけは再生産出来るが、最大でも10体以上の人造人間を保有する事は出来ないとされている。
 他のラボは全てつぶして、自分のラボ一つだけを守り抜くという方法も考えられるが、それだと、防御力もたかが知れている。
 10体の人造人間を攻撃と防御に割り振らなければならないのだ。
 どんなに強力な要素を持っていたとしても10体だけでは、他の99のラボから自分のラボを守りながら攻撃に出るのは至難の業となる。
 そのあたりを戦略でどうするかというのもこの架空世界の魅力の一つと言えた。
 これもシリーズ化されており、最新作は【人造人間トリプルエックス23】という事になっている。
 だが、【ミアン】は最新作ではなく、二つ前の【人造人間トリプルエックス21】の架空世界を利用した。
 これには理由がある。
 著作権の問題で、【人造人間トリプルエックス21】を最後に使用出来なくなった要素があったのだ。
 今では伝説となっている5つの要素が使える最後の作品が【人造人間トリプルエックス21】なのだ。
 今でも【人造人間トリプルエックス21】こそがこの作品の最強だと信じているギャラリーも多いと言われている。
 なので、【ミアン】は満を持して、この21作目を持ってきたのだ。
 今回のクリアの条件としては100のラボ全ての壊滅としている。
 【ラット】と【ミアン】が琴太達に襲いかかる。
 これまでの戦いを通して何となく、基礎データを得る事は難しく無くなっている。
 基礎データの取り方さえわからなかったら、琴太達はそれだけでやられてしまうだろう。
 だから、必要最低限の技術として、琴太達は例え一人で放り込まれても事前に基礎データを取って自身の体を架空世界に合わせた【架空化(かくうか)】を行う事だけは慣れて来ていた。
 慣れてきたとは言っても苦しい戦いになることには違いないのだが。


03 それぞれの架空世界の戦い


 それぞれの架空世界での戦いを追っていく。
 まずは、琴太とウェンディが取り込まれた【進化論サバイバル】の方だ。
 琴太は、
「頼りにしてるぜ、ウェンディ」
 と言った。
 ウェンディはコクンと頷いた。
 二人とも手の込んだやり方というのを苦手としている。
 つまり、力押しタイプだ。
 だから、敵が奇策を使ってきたら、対処に困る。
 苦戦するだろう。
 【進化論サバイバル】は敵キャラクターを食べる事で進化出来るという世界観だ。
 それは、厄介な力を持つ敵を倒したとしても、他の敵が倒れた厄介な力を持っていたキャラクターを食べる事によって、その厄介な力を持つ新たな敵が出てくるという事になるのだ。
 つまり、能力に対して苦手意識を敵に認識させる訳にはいかないということだ。
 敵にこの能力が苦手だという事が知れたら、敵はその力を中心に増やしていくだろう。
 だから、どの能力に対しても均等に全然平気という態度で倒して行かなければならない。
 敵は1000体。
 この数を使って敵は効率よく攻めてくる事が予想される。
 【ミアン】もそうだが、【ラット】も用意した架空世界にさらなる加工を加えて用意したのだ。
 【ミアン】の方は本来、敵同士である1000体のキャラクターを連携が取れるように加工している。
 1000体のキャラクター同士の通信を可能とさせているのだ。
 まるで、アリスのサイコネットのように。
 手を変え品を変えながら、琴太とウェンディの苦手な能力を模索していく戦術で攻めてくる難敵にどう対処するかが問題だった。
 ろくに相談する間も与えられず、敵の攻撃が始まった。
 ウェンディは【セパレーションマイセルフ】の力で【ハンズ&フィート(HF)】を作りだし、獰猛な攻撃で敵を殲滅していく。
 もはや定番ともなった攻撃スタイルだ。
 彼女は他にも合成人間でもあるので、他の素材と融合して戦う事が出来る。
 つまり、ウェンディもまた、敵の力を奪えるという事だ。
 また、琴太の攻撃スタイルは敵の力を分解するキーアクションと同位相に他の要素を加える事でより強力な一撃を与えられる【加重撃(かじゅうげき)】だ。
 この二つの力を組み合わせて対処する。
 敵は休み無く攻めてくる。
 攻めてきた。
 倒す。
 また、攻めてきた。
 また、倒す。
 更に、攻めてきた。
 更に、倒すというのを繰り返す。
 最初は敵も模索段階。
 いろんな能力を試しつつ、琴太とウェンディの苦手な能力を模索する。
 倒せば、倒すほど数は減っていくが、次第に苦手分野もバレてくる。
 すでに頭を使ったバトルスタイルが苦手という事はバレていた。
 さらに、琴太の方は強力な一撃を加える時はオーバーアクションなので、その分、動きも遅くなるという事も敵にバレてしまった。
 一定の距離を取りつつ、立て続けに連続攻撃をする敵キャラ。
 パワーよりも手数で勝負する事にしたようだ。
 手が止まった時、やられる。
 これを打開したくても考えがまとまらない。
 耐えるしかない。
 なんとか1000体全てを倒すまで耐えきるしかない。
 琴太とウェンディはそう判断した。
 策ではなく、ド根性。
 それが二人が決めた最大の解決策だった。
 琴太は、
「ぬぉおぉぉうぅっこんじょぉう……」
 と気合いを入れて戦い続ける。
 ウェンディも
「負けるかぁ〜」
 と気合い十分だった。
 結果、二人は本当に根性だけで1000キャラ倒してしまった。
 中には苦手とする能力もあったのだが、そんな事を気にしている余裕は無く、とにかくどんどん倒していった。
 それが好転したのか、敵は琴太達の苦手能力を判断仕切れず、品切れ。
 1000キャラ全てが倒されたのだった。
 【進化論サバイバル】の架空世界を脱出した琴太達は即座に【ラット】を倒した。
 bP8フィクジュエモクリエーターの【メタリー】の時の様に同作の他のシリーズに放り込まれてはたまらなかったからだ。
 根性で倒したので、もう、出来ないところまで追い詰められていた。
 次に【進化論サバイバル】の架空世界に放り込まれていたら、やられていただろう。
 とにかく、どこかに身を隠して休む必要があった。
 それだけ、琴太とウェンディは疲労していた。
 次は、アリス、ドロシー、【K】の方だ。
 彼女達は、【ミアン】が用意した【人造人間トリプルエックス21】の架空世界に取り込まれている。
 この架空世界には、100のラボがあり、一つのラボあたり10体までの人造人間が生産可能という事だったが、【ミアン】が改良を加え、生産力を十倍にしていた。
 つまり、100のラボで100体ずつの人造人間が生産可能となっている。
 つまり、最大10000体の人造人間がアリス達に襲いかかってくる事になるのだ。
 頭脳派タイプが揃ったアリス達に対しては数で攻め込む事にしたのだ。
 しかも、人造人間を例え倒してもその人造人間を作ったラボを破壊しない限り、いくらでも補充される。
 人造人間を倒す事よりも先に100カ所のラボを探し出してそこを破壊することの方が優先すべきだとアリス達は判断した。
 その上でないと、いくら人造人間を倒してもいたちごっことなり、数はいつまでも減らない事になる。
 アイディアを出しているのが素人であるギャラリー達とは言っても三人寄れば文殊の知恵と言われる様に、たくさんのアイディアが集まれば脅威ともなる。
 それらの要素がたくさんつまったフィールドでプレイヤー達は素材を集めてどんどん人造人間を生産していく。
 架空世界だけあって、人造人間を作っているという時間は省略されている。
 つまり、素材さえ集めてきてしまったら、一瞬にして人造人間達はできあがるのだ。
 人造人間と言えばアリスもそうである。
 未来から来た最新型の人造人間として、こんな過去の世界の架空の人造人間などに負けてはいられないと奮起した。
 アリスはこうしている間も【ルツ】の切り札の一つだった【アンチウイルステクノロジー】でどんどん体の構造を作り替えている。
 今では人造人間の領域を完全に突破したと自負もしている。
 【架空化】を行っている状態のアリスはこの架空世界でのウイルスを作り出し、架空世界自体を破壊しようと試みた。
 アリスの作り出した特殊ウイルスは強力で、架空世界自体が揺らいでいった。
 アリスを危険と判断した、プレイヤー達はアリスをメインターゲットとして、人造人間達を襲撃させていった。
 そうはさせまいとドロシーと【K】がカバーに入る。
 アリスの特殊ウイルスが有効な場合、他のフィクジュエモクリエーター達が作り出す架空世界自体も破壊出来る可能性がある。
 そうなった場合、フィクジュエモクリエーター達にとってアリスは天敵とも言える存在となる。
 また、ドロシーの【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】も良い牽制となっている。
 情報として、ドロシーが相手の力を100%自分の力として複製する【完全複製丸】を飲んでおり、一つは形にしたが、まだ二つ残っているというのがあって、下手に能力を見せられないようになっていた。
 下手に強力な能力を真似られたら、人造人間達にとっての脅威となるからだ。
 実は、【ラット】と【ミアン】で琴太達の誰を取り込むかでもめていた。
 明らかに力押しタイプの琴太とウェンディの方を狙った方が、有利に事を進めるからだ。
 結局、ランクが一つ上であるbP6の【ラット】が琴太とウェンディ組を取り、貧乏くじという形でアリス、ドロシー、【K】をbP7の【ミアン】が引き受けていたのだ。
 決して琴太とウェンディが弱いという訳ではないが、戦い易さから考えたらこの二人と戦った方が有利に事を進められた。
 現に、相手にする人数が多いというのもあるが、あっという間に【人造人間トリプルエックス21】の架空世界は追い詰められていた。
 このままやられるだけでなく、アリスが作り出す架空世界に対する特殊ウイルスが有効となったら、フィクジュエモクリエーター達は戦力から除外される事にもなりかねない。
 なんとしてもアリスを倒したい。
 だが、ドロシーの【完全複製丸】も怖いし、【K】が持っている六つの最強も恐ろしい脅威だ。
 架空世界を管理している【ミアン】は焦りが出てくる。
 このまま逃げ帰ってもbTフィクジュエモクリエーターの【シュガーレス】に粛正されることは間違いない。
 後が無い状況に追い込まれる。
 【ミアン】が出した結論は、
「こ、降参します」
 だった。
 アリス達に白旗をあげる【ミアン】。
 降伏してティアグラの元に案内すると言った。
 だが、本当に降伏した訳では無い。
 だまし討ちで、アリス達を倒そうと考えて居た。
 【ミアン】は念のために持ってきていたジュエモを用意する。
 それは、ジュエモクリエーターに頼んで作ってもらっていた【ミアン】そっくりなジュエモだった。
 彼女はアリス達の隙を見て、【ミアンジュエモ】と入れ替わる事にした。
 【ミアンジュエモ】には超高性能爆弾を仕込んでいる。
 それを【ミアン】が安全なところに離れたところで遠隔操作で爆発させるという安易なものだった。
 その策はドロシーが彼女に触れてサイコメトリーをしてバレバレだった。
 アリス達は騙されたふりをして、【ミアン】が【ミアンジュエモ】と入れ替わるのを黙認した。
 安全地帯まで来たところで爆破スイッチを押す【ミアン】。
 それよりも一瞬早く、ドロシーはテレポーテーションで【ミアンジュエモ】を【ミアン】の側に運んで、再びアリス達のところにテレポートした。
 残されたのは【ミアン】と【ミアンジュエモ】のみ。
 彼女は自らを滅ぼすスイッチを押し、爆死した。
 ドロシーは、
「哀れな……」
 とつぶやいた。
 追い詰められたフィクジュエモクリエーターの末路の哀れさを悲しんだのだ。
 いろいろあったが、琴太達とアリス達はそれぞれ、bP6フィクジュエモクリエーター【ラット】とbP7フィクジュエモクリエーター【ミアン】を撃破した。
 そして、更に前に進むのだった。
 哀れなフィクジュエモクリエーター達を戦いに駆り立てさせているのはティアグラだ。
 ティアグラを倒さない限り、この悲劇の連鎖は止まらない。
 捕まって利用されている野茂 偲(のも しのぶ)も助けられない。
 だから、琴太達は前に進む。
 ティアグラののど元に食らいつき、倒すために。


04 新四天王


 琴太達は前進を続けていた。
 だが、動きがあるのは琴太達だけでは無かった。
 ティアグラ側にも動きがあった。
 四天王であった偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】と謎のフィクサー【ツィテリュ】は反逆の罪で正式に除名された。
 なので、四天王はフィクジュエモ界を代表する【エメロディア・トライアル】と【匿名者(とくめいしゃ)】のみとなったのだが、ここで新たに二名、四天王を用意して新四天王とする事になった。
 新四天王となった二人、それはどちらも偲に関係していた。
 まず、一人目は少数精鋭として、ティアグラの恋人12名をまとめ上げた謎の女、【ジェニファー】だ。
 実は仮面をかぶり正体を隠しているが、正体は野茂 偲、本人である。
 ジュエモクリエーター達による大改造を施された彼女は新四天王の一角として正式に採用されたのだ。
 もう一名の新四天王の名前は【スーパーS】だ。
 【スーパーS】の【S】は【偲(しのぶ)】の【S】だ。
 本物の偲はティアグラの恋人達をまとめ上げる謎の女、【ジェニファー】として正体を隠しているが、表向き、偲のふりをしているのは彼女の生体データを元にして作られたトップジュエモクリエーター達による合作にして最高傑作のジュエルモデルとなっている。
 【スーパーS】の下にはフィクジュエモクリエーター達の影に隠れていたジュエモクリエーター達とその作った作品である実在した存在のジュエルモデル達がつくことになった。
 つまり、新四天王は【エメロディア・トライアル】と【匿名者】がフィクジュエモ関係、【ジェニファー】と【スーパーS】がジュエモ関係と関わっているという事になる。
 こうして、ジュエモ、フィクジュエモ界がティアグラにとって大きな地位を占める事になったのだった。
 新四天王の【ジェニファー】と【スーパーS】の役目は元四天王の裏切り者【ソイツァ】と【ツィテリュ】の討伐が最初の仕事となる。
 二つの新四天王軍は火消しにあたっているフィクジュエモ界の組織に加勢に向かった。
 【ジェニファー】と【スーパーS】が加わったフィクジュエモ界の組織の勢いは増した。
 そして、戦況は一変し、不利だったフィクジュエモ界の組織の勢力が増し、次々と戦果をあげていった。
 勢いが止まりつつある【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍。
 このままいけば、そう遠くない時期に事態は鎮火すると思える戦況に変わりだしていた。
 完全に敗色が強くなれば【ソイツァ】と【ツィテリュ】は逃走するかも知れないが、それはティアグラが許さない。
 ただでさえ、非情なティアグラは一度でも裏切った【ソイツァ】と【ツィテリュ】を許しはしないのだ。
 一族郎党皆殺し。
 それは間違い無いだろう。
 【ジェニファー】と【スーパーS】に与えられた使命はそれぞれ、【ソイツァ】と【ツィテリュ】の首をティアグラの元に持って帰ること。
 心が凍り付いている【ジェニファー】と【スーパーS】はそれを実行してくるだろう。
 【ソイツァ】と【ツィテリュ】の始末がすんだら、次のターゲットとなるのは、フィクジュエモクリエーター達に対して快進撃を続けて目立っている琴太達になるだろう。
 そうなれば偲との激突は避けられない。
 そういう暗い未来が予想出来る。
 だが、偲が姿を見せてくれないと彼女の気持ちを取り戻す事も出来ない。
 つまり、これはピンチでもあり、チャンスでもある事でもあった。
 偲との再会もそう遠くないだろう。
 現在、【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍は戦争を始めた頃と比べると勢力は半数にまで減っていた。
 敵の敵は味方と言わんばかりに戦争をしていた【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍が一時休戦し、協力して、フィクジュエモ界の組織と新四天王二人の連合軍に戦いをする事になったが、昨日までいがみ合っていた者同士が協力してもそう簡単にうまくいくわけがない。
 協力する前よりも組織は混乱し、勢いがどんどん無くなっていった。
 もはや、【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍が討伐されるのも時間の問題と言えた。
 それだけに琴太達に与えられているチャンスの時間も限られてきていた。
 どうする琴太?
 後が無くなってきた。
 という状況だった。


05 新たなる敵?


 bP6フィクジュエモクリエーターとbP7フィクジュエモクリエーターによる攻撃をそれぞれ攻略した琴太達とアリス達は合流し、ティアグラの元に急ぐ。
 ティアグラ軍も息を吹き返してきたので、あまり時間もない。
 とにかく出来るだけティアグラ軍の本陣近くまで行きたいところだが、やはり有象無象のフィクジュエモクリエーター達の邪魔が入りすんなりとは進めない。
 刺客として現れたフィクジュエモクリエーター達の実力はわざわざ書くほどの事でもないが、フィクジュエモクリエーター達は失敗すればティアグラに捨てられるという恐怖心が不思議な力を与えていて、思ったよりも琴太達は苦戦していた。
 とにかく正攻法で来ずにひたすら邪道を突き進むような罠を仕掛けてくるのだ。
 訳のわからない気迫におされてしまったという感じだった。
 だが、それでも琴太達の敵では無い。
 いつかは倒されるのだが、その数といい、執念といい、うっとうしかった。
 そうやって琴太達がなかなか進めずにいた頃、琴太達が留守にしていた惑星テララでは動きがあった。
 土の姫巫女ドゥナ・ツァルチェンの居る土の神殿に訪問者が来て居た。
 上位絶対者アブソルーターのルゥオ・スタト・ゴォルである。
 ルゥオは琴太達の留守中にドゥナ達を襲撃するという事はしなかった。
 それはルゥオの誇りでもあった。
 だが、彼はティアグラの加護を受ける上位絶対者だった。
 絶対者は上位、中位、下位にランク分けされており、中位と下位は神御(かみ)と悪空魔(あくま)の加護を受けている。
 上位絶対者は化獣(ばけもの)の加護を受ける存在であり、ルゥオに加護を与えていたのはティアグラであった。
 かつてはティアグラの命令で、セカンド・アースに人さらいにも行った事があるルゥオにとってはティアグラの命令は絶対だった。
 故に、ティアグラに仇なす存在があれば、全力を持って戦わなければならない。
 だが、すでに琴太達は絶対者アブソルーターとしての領域を超えていた。
 別格の絶対者アブソルーターであるエカテリーナは別としても【加重撃】などの切り札を得た琴太達の力はルゥオ達絶対者アブソルーターのパワーをも大きく超えてしまっていた。
 琴太はかつて、未熟者として相手にしなかった存在だ。
 だが、気づいてみれば、自分の力をも超えて行かれてしまっていた。
 その事に対してルゥオは不満は無い。
 精進を怠っていたとは言わないが、現界を超えなければ生き残れないような緊迫した事態にはこれといってあっていなかった。
 逆に琴太達はギリギリのところを常に生き抜いてきたのだ。
 これでは、立場が抜かされても仕方ないと言わざるを得ない。
 だが、ルゥオは黙ってこの状況を見過ごしている事は出来ない。
 ティアグラの配下として、さらなる力を得て、琴太と戦わなくてはならない。
 ルゥオがさらなる力を得る方法――それはジュエモクリエーター達の力を借りるという事になる。
 ジュエモクリエーター達は実在する存在のジュエルモデルを作り出す存在。
 その最大の目的は実在する存在を実物以上に伝説化させる事にある。
 つまり、本物以上の力を与えて、後世に話を膨らませて伝える事にあるのだ。
 そのために、ジュエルモデルをデコレーションしていき、本物の作った伝説にさらに上乗せして伝説を作って行くという事になる。
 そういう意味で、ジュエモクリエーター達は元のモデルを神格化させる事に全てを注いでいる。
 なので、本物以上の力を持たせる事に特化していた。
 その技術はもちろん、ジュエルモデルだけでなく、本物が生きていればその本物に活かす事も出来る。
 生き仏、生きる伝説の様に、元のモデルの伝説のスケールを引き上げる事が出来るのだ。
 その技術を利用して、偲は強化されたのだ。
 そして、ルゥオもまた、その技術の一部を利用して、強化してもらう事にした。
 ルゥオは自身の体をいじめ抜いて鍛える事もいとわないが、それでは限度がある。
 力を跳ね上げるには、ジュエモクリエーター達による手術を受けなくてはならない。
 その手術を受ける前に琴太が立ち寄った事のある土の神殿を訪れて、ドゥナに琴太の話を聞こうとしたのだ。
 ドゥナは元々、土の惑星テララの土の姫巫女だ。
 姫巫女は絶対者アブソルーターのために星見で占うという役目が与えられた人間達だ。
 それをやることによって、安全地帯である土の神殿で存在することを許されているという存在でもある。
 絶対者アブソルーターであるルゥオの問いかけに答える義務があるという事だ。
 だが、そんな事はどうでも良い。
 命令ではなく、頼みとして聞きたかった。
 琴太達には何があり、伸び、自分には何が足りなくて伸びなかったのか?
 この差は何だったのか?
 与えられていた立場だったのか?
 それとも別の何かなのか?
 それらの疑問について聞きたかった。
 強制ではなく、お願いとして。
 ルゥオは、
「土の姫巫女、ドゥナ・ツァルチェンだな?」
 と言った。
 ドゥナは、
「……はい。ドゥナです。あなた様が訪ねてくる頃だと思っていましたルゥオ・スタト・ゴォル様。新たな力を得る決心がついたのですね」
 と答えた。
 彼女は星見でルゥオが訪ねて来ることはわかっていた。
 絶対者アブソルーターとしてではなく、力を純粋に追い求める者として。
 強くなるには自らの力でなくてはならないとルゥオは常々思っている。
 ティアグラの加護を受けつつも、ティアグラの力に頼る訳ではなく、自身で切磋琢磨を繰り返していた彼は、努力で惑星テララの支配者に上り詰めたという自負があった。
 だが、知らないところに向かった琴太に追い抜かれてしまった。
 主であるティアグラを守るため、ルゥオは琴太を討たねばならないが、自身の力だけでは駄目だ。
 どうやっても琴太には勝てない。
 だから、ジュエモクリエーターの力を借りて手っ取り早くスキルアップをと言われていたのだが、今まではそれを断っていた。
 ジュエモクリエーターの力など借りなくても自分はやれる。
 ――そう思っていたからこそ、琴太達が惑星グローに旅立ってから、ルゥオは鍛えて鍛えて鍛えて鍛え抜いた。
 だが、基本的なパワーは上がっていくものの、飛び抜けた成果と言えるようなものは得られなかった。
 そうこうしている内に、琴太は惑星グローでの【ルツ】との戦闘で大きな力を得て、ティアグラ軍に攻め入ろうとしていた。
 フィクジュエモ界の刺客達を次から次へと討ち果たし、正に今すぐにでも迫ってくるような勢いだという。
 そんな状態だからこそ、ルゥオには時間がない。
 手術の時間を考えるともう決断しないと行けないのだ。
 だから、手術は受ける。
 このままでは役には立てない事が自分でもよくわかったからだ。
 どうしても役に立ちたかったらジュエモクリエーターの手術を受ける道しかないのがわかっている。
 だが、その前に琴太の話を聞きたかった。
 ただ、それだけなのだ。
 ドゥナは、
「お話しましょう。芦柄 琴太という人間。そして、彼の行動の原動力ともなっている義弟、芦柄 吟侍という人間と、カノン・アナリーゼ・メロディアスという人間について、私が知る限りの事を。吟侍とカノンという人間はあのクアンスティータと向き合っているようです。そこからエナジーをもらっているからこそ、芦柄 琴太という人間は強いのです。前に進めるのです」
 と言って星見で見た、琴太と吟侍、カノンの話をルゥオに聞かせた。
 それは5時間にもわたる長い話だった。
 それでも語りきれない。
 それだけ、多くの重みを琴太達は背負っている。
 だから強い。
 だから勝てない。
 だから、追い越されてしまった。
 という事を話して聞かせた。
 他の絶対者アブソルーター達が聞いたならば、無礼打ちをしたかも知れない。
 だが、ルゥオは目を閉じ、黙って聞いていた。
 黙って、ドゥナの話をかみしめるように聞いていた。
 そして、
「ありがとう。ドゥナ・ツァルチェン。芦柄 琴太。確かに俺よりも重みのある人生を送っているようだ。だから勝てんか。――確かにな。俺もそう思う。だが、退(ひ)く訳にはいかん。退(しりぞ)く訳にはいかんのだ。不器用と言われようと俺は――」
 と言った。
 ドゥナは、
「――わかります。それがあなた様の道なのですね。ご武運を」
 と返した。
 ルゥオは、
「良いのか?俺は芦柄 琴太の敵だぞ」
 と聞くと、ドゥナは、
「私は訪ねてきた方の道しるべとなるように方向を提案するのがお仕事です。敵味方は関係ありません。あなた様もまた、私を訪ねて来てくださったのですから」
 と言った。
「時間だ。もっと話を聞きたかったがここまでのようだ。世話になった」
「……はい……」
 そういうとルゥオは土の神殿を後にした。
 これから、彼は手術を受ける。
 新たな力を手に入れ、新たな存在となるために。
 琴太の新たな敵となるために。


06 可変超獣装(かへんちょうじゅうそう)とティアグラ軍


 ルゥオ・スタト・ゴォルを初めとする絶対者アブソルーター達はジュエモクリエーター達による手術を受けた。
 それぞれに適した強化をするためにだ。
 ルゥオは手術により、可変超獣装(かへんちょうじゅうそう)という力を得ることになることが決まった。
 これは適合させるにはかなり強い肉体を必要としていて、他の絶対者アブソルーター達には適合しなかった。
 ひたすら肉体を鍛え続けていたルゥオだからこそ適合したのだった。
 そういう意味ではずっと鍛え続けていたという事は全くの無駄では無かったと言える。
 その可変超獣装とは如何なる力なのか?
 【装】とつくので装備なのだが、鎧や甲冑などの様に着るものではない。
 心臓部にチップのようなものを埋め込まれ、その側に特殊金属で出来た動物などに模した物体が着いてくるというものだ。
 その物体の事を可変超獣装と呼び、チップを埋め込んだ宿主を守るために、可変超獣装は変形を繰り返し防具となるのだ。
 もちろん、防具だけではない。
 攻撃時には宿主のサポートをして攻撃力を飛躍的に伸ばしてくれる攻防一体の兵器なのだ。
 この可変超獣装の手術に適合したのはルゥオを含めてたった19名しかいなかった。
 そして、その手術が成功するとルゥオはティアグラ軍の精鋭部隊として、徴兵されることが決まった。
 この精鋭部隊はスーパービースト部隊という名称に決まった。
 適合手術の結果、ルゥオには鳥型の可変超獣装が割り当てられる事になった。
 スーパービースト部隊として琴太を迎え撃つべく、ティアグラの本拠地に向かった。
 スーパービースト部隊に限らず、ティアグラ軍本隊の強化も順次に行われていた。
 リオン・マルクが率いるマルク部隊。
 神崩れ、悪魔崩れで構成される神魔部隊。
 ティアグラの実験体として人体実験に耐え抜いた強化者部隊。
 アンデッド達で構成されるアンデッド部隊。
 体をマシン化させた機械化部隊。
 等など続々と集結していた。
 その数、ゆうに1000万を超えていた。
 数だけはある。
 だが、新四天王軍と比べるとティアグラ軍本隊はいくらか見劣りしていた。
 新四天王軍が突破された場合は本隊だけでは敵を倒すという事は難しいと言えた。
 だからこそ、本隊の強化のためにジュエモクリエーター達による兵の強化を推奨したのだった。
 それにルゥオが乗っかったという事になる。

 琴太達の勢いは止まらないが、それでもティアグラ軍の層の厚さは相当ある。
 琴太達だけではまだ、足りない。
 だが、フィクジュエモクリエーター達の作り出す架空世界を次々と突破しているという情報は必要以上にティアグラ軍を怯えさせていた。
 それだけ、フィクジュエモクリエーター達は信用されていて、勝てるわけが無いと思われていたのにどんどん突破しているという事実が琴太達の兵力を過大評価させていたのだ。
 琴太達はまだティアグラ本陣には届いていない。
 が、確実にティアグラ軍に脅威を与えていたのだった。


07 【シュガーレス】の憂鬱


 bP6フィクジュエモクリエーターの【ラット】とbP7フィクジュエモクリエーターの【ミアン】をたきつけたbTフィクジュエモクリエーターの【シュガーレス】だったが、結局、二人は琴太達にそれぞれ敗れ去ったので、自分が出るしか無くなってしまったのでいらついていた。
 【シュガーレス】は自分が作り出した架空世界【シャッフル・ワールド】をこよなく愛しており、傷つけたく無かったので、琴太達に戦いを挑みたく無かったのだが、bP6からbQ0のフィクジュエモクリエーター達は琴太達の前に全員、敗北を喫していた。
 それでも出たくなくて他の有象無象のフィクジュエモクリエーター達を琴太達の討伐に向かわせているが、それではろくな時間稼ぎすらままならない状態だった。
 bUからbP5のフィクジュエモクリエーター達は裏切り者である【ソイツァ】と【ツィテリュ】の討伐に出ていて戻って来ていない。
 報告では、何名かのフィクジュエモクリエーターが戦死したという事も聞いているので、戦局が安定するまで戻って来ないだろう。
 ジュエモクリエーター達もフィクジュエモクリエーター達に続いて台頭して来たという報告も聞いているので、フィクジュエモ界としては良い報告をティアグラにしないと、ティアグラに見限られるという事も考えられる。
 残ったトップ5のフィクジュエモクリエーターの中では一番格下である自分が出なくてはならず、そうなると【シャッフル・ワールド】で迎え撃たなければならないと言うことになり、【シュガーレス】は憂鬱になっていた。
 【シュガーレス】は自分の作り出した架空世界に対するナルシストなのだ。
 勝つ自信はあるのだが、それでも【シャッフル・ワールド】の一部は壊れるかも知れないと思うと、出て行きたく無くなってしまう。
 だが、他のフィクジュエモクリエーターにした様に、他のトップ5のフィクジュエモクリエーター達に脅す事は出来ない。
 なぜならば、自分が一番格下だからだ。
 脅してもお前が行けと言われるのがせいぜいである。
 試しにお願いしてみたが、【頭は大丈夫か?】と心配されてしまった。
 それが逆に【シュガーレス】のプライドを傷つけた。
 【シュガーレス】は偏った性格の持ち主である。
 オリジナルで架空世界の全てを作り出せないs桁台以下のフィクジュエモクリエーター達の事を見下している。
 と、同時にbS以上のフィクジュエモクリエーター達に対しては強い劣等感を持っている。
 s桁台以下のフィクジュエモクリエーターを見下すのはそういった劣等感を隠す裏返しの行動とも言えた。
 フィクジュエモクリエーターとしての腕は相当なものだが、その人格についてはあまり褒められた人物とは言えないだろう。
 ティアグラが怖いから嫌々出る。
 そんな理由で動くのだからベストが尽くせる訳が無い。
 【シュガーレス】は、
「あ〜嫌だ嫌だ。なんで俺がこんなことしなきゃなんないんだよ。それというのもあいつらがふがいないからだ。俺が始末してやっても良かったくらいだ」
 とすでに亡くなっているbP6からbQ0のフィクジュエモクリエーター達の事をけなす。
 死者にむち打つとはこのことだった。
 普通の人が尊敬出来ない男――それが【シュガーレス】という男だった。
 だが、尊敬出来ない行為とその実力は別物だ。
 どんなにクズでもその腕はbT――上から数えて5番目の実力を持っているのだから。


08 【シャッフル・ワールド】の脅威


 有象無象のフィクジュエモクリエーター達の壁を突破した琴太達に待ち受けていたのは、bTフィクジュエモクリエーターである【シュガーレス】だった。
 【シュガーレス】は、
「喜べ。貴様らに我が最強の架空世界、【シャッフル・ワールド】に招待してやろう。存分に楽しむが良い」
 と言った。
 それを聞いていたドロシーは、
「不遜(ふそん)な男ね。見るからに雑魚っぽいわね」
 と言った。
 琴太も
「十把一絡げの奴はもう良い。大物連れてこい」
 と言った。
 その琴太の言葉に対して、【シュガーレス】は、
「この俺を雑魚扱いしおって――許さん。この俺はトップ5に属する男だ。その辺の雑魚と一緒にするな」
 と激高した。
 ウェンディは、
「とてもそうは思えない……」
 と言い、アリスは、
「あんなのがトップ5なら、大した事ないんじゃないの、フィクジュエモって世界は?」
 と言った。
 【K】は、
「あんなのでもトップ5には違いないよ。トップ5会談っていうのがかつてあって、そこの末席に彼はいた」
 と言った。
 その【K】を見た【シュガーレス】は、
「おやぁ?誰かと思え【久遠】さんじゃないですかぁ?落ちぶれたbPが今更、何の御用ですかぁ?ティアグラ様に捨てられたのにこんなところまで来て怒られますよぉ〜、あぁ、殺されちゃうかも知れないなぁ〜」
 と嫌味たっぷりの表情で言った。
 アリスは、
「とことん腐った男ねぇ〜。本当にトップ5なのか怪しいものだわ。なんかズルでもしたんじゃないの?」
 と言った。
 【シュガーレス】は、
「じゃあ、身をもって知るんだなぁ〜」
 と言ったかと思うと、架空世界を展開し、琴太達を【シャッフル・ワールド】の架空世界に引き込んだ。
 【シャッフル・ワールド】は独立した三つの世界観がある架空世界だ。
 それを琴太とウェンディ、ドロシーと【K】、アリスと振り分けた。
 アリスは特殊なウイルスを生成するので、危険と判断して、仲間と離れさせる事にしたのだ。
 仲間のサポートが無ければそんなに簡単に架空世界を破壊するウイルスを作る事は出来ないとして。


09 三つの世界の戦い


 琴太達は三つに分断されて【シャッフル・ワールド】の三つの世界に放り込まれた。
 琴太とウェンディが着いた世界は、アルファ・ワールドと言い、九つの大魔法を追い求めてバトルが行われるという架空世界だ。
 ドロシーと【K】が着いた世界は、ベータ・ワールドと言い、九つの大法具を追い求めてバトルが行われるという架空世界だ。
 アリスが着いた世界は、ガンマ・ワールドと言い、九つの大魔獣を追い求めてバトルが行われるという架空世界となっている。
 アルファ・ワールドにおいては九つの大魔法が絶対的な地位を持ち、ベータ・ワールドでは九つの大法具が絶対的な地位を持ち、ガンマ・ワールドでは九匹に大魔獣が絶対的な地位を持っているとされている。
 それぞれの架空世界には様々なキャラクターが存在し、それぞれの絶対的な地位を持つものを追い求めて他のキャラクターとバトルを繰り広げて行くというストーリー展開となっている。
 例外があるとすれば、それは、【天変地異】イベントが起きる時だ。
 その【天変地異】イベントで選ばれてしまったキャラクターは他の架空世界(アルファ・ワールドの場合はベータ・ワールドかガンマ・ワールド、ベータ・ワールドの場合はアルファ・ワールドかガンマ・ワールド、ガンマ・ワールドの場合はアルファ・ワールドかベータ・ワールドを指す)のキャラクターとキャラクターシャッフルという事になり、その架空世界に飛ばされる。
 飛ばされたら、飛ばされた架空世界のルールで生きていくことになるというものだ。
 つまり、アルファ・ワールドで九つの大魔法を追い求めていたキャラクターがベータ・ワールドに行ったら九つの大法具を追い求める戦いに身を投じ、ガンマ・ワールドに行ったら九匹の大魔獣を追い求める戦いに身を投じる事になる。
 ベータ・ワールドのキャラクターも同様にアルファ・ワールドに行ったら、九つの大魔法を追い求める戦いになり、ガンマ・ワールドに行けば九匹の大魔獣を追い求める戦いになる。
 ガンマ・ワールドのキャラクターも同様だ。
 郷に入っては郷に従えの様にその架空世界の絶対的地位にあるものを追い求めるようになってくる。
 その部分のアイディアが面白く、人格的に問題がある【シュガーレス】でもbTの地位を得ていたのだ。
 また、架空世界が変われば絶対的な地位にあるものは変わるがそれまでの人間関係は変わらない。
 別の世界から来たキャラクターは異邦人(いほうじん)という事になり、新たに人間関係を形成して行かないとその世界では孤独となってしまう。
 このあたりの作り込みは人間的に問題のある【シュガーレス】は直接作っては居ない。
 自立関係システムというのをプログラミングして、そのシステムが作り上げた人間関係がベースとなっていた。
 つまり、偶然出来た世界観なのだ。
 【シュガーレス】本来の実力では決して作り出せなかった世界観が偶然、うまく行った。
 オリジナルで世界は作れるが彼の本来の実力はbP2かbP3あたりなのだ。
 だからこそ、【シュガーレス】はこの三つの架空世界の完成度に酔いしれ、執着するようになったのだ。
 本人が二度と作り出せないバランス感覚でくみ上げられた世界観。
 ならばこそ、【シュガーレス】はこの三つの架空世界が壊れるのを極度に恐れていた。
 出来れば、琴太達の討伐などに使いたくはなく、自分の作った最高傑作をいつまでも眺めていたかった。
 だが、ティアグラは怖い。
 黙っていたら粛正されるだろう。
 だから、【シャッフル・ワールド】の架空世界をバトルフィールドとして提供することにしたのだ。
 出来れば【シャッフル・ワールド】が無傷のままで琴太達を全滅させたい。
 そんな【シュガーレス】思惑を余所に三つの架空世界によるバトルが開始された。
 それぞれの架空世界の突破条件はそれぞれの架空世界の絶対的な地位にあるものの制覇という事になる。
 琴太とウェンディはアルファ・ワールドで、
 ドロシーと【K】はベータ・ワールドで、
 アリスはガンマ・ワールドで、それぞれの戦いを始めた。
 まずは、そこに居るキャラクター達とのバトルだ。
 キャラクター達を片っ端から倒していって、絶対的な地位にあるもの――それぞれの情報を得ていくという展開だ。
 本来であれば、【天変地異】を起こしてキャラクターシャッフルを行うのがこの三つの架空世界が舞台となっている【シャッフル・ワールド】の醍醐味となるのだが、【シュガーレス】は【シャッフル・ワールド】を傷つけたくなくて、【天変地異】イベントを封印した。
 本来であれば、強化させて琴太達を迎え撃つべきなのだが、【シュガーレス】は逆に持ち味を削ってしまっていた。
 本来の持ち味を発揮させずに琴太達と戦わせている。
 この事が仇となっていた。
 創作者のエゴが作品【シャッフル・ワールド】の利点を消してしまっていた。
 【天変地異】イベントを使えば、琴太達をシャッフルさせる事により、琴太達が【シャッフル・ワールド】に慣れるまでの期間が延びる事になり、【シュガーレス】にとって有利に事が運びやすかったはずだ。
 【シュガーレス】とは別のフィクジュエモクリエーターが操作していたら、もっと【シャッフル・ワールド】の良さを発揮出来ていたはずだ。
 それだけに残念な結果となった。
 【シャッフル・ワールド】の持ち味をうまく発揮出来ずに琴太達はそれぞれの架空世界での絶対的な地位を完全制覇した。
 そのため、思ったよりも早く、【シャッフル・ワールド】はクリアされてしまったのである。
 【シュガーレス】は、
「ばかな……ばかな……俺の【シャッフル・ワールド】がぁ……そんなばかな……嘘だ、嘘だと言ってくれ」
 とつぶやいていた。
 アリスは、
「うるさい、黙れ」
 と言って、【シュガーレス】に一撃を食らわせた。
 【シュガーレス】は
「ぶるぉおぉわぁ……」
 と言って吹っ飛んだ。
 死んではいないが、完全に敗北した。
 そこへ、
「見苦しい……」
 と言って、【シュガーレス】の心臓を貫く者がいた。
 琴太は、
「お前は……」
 とつぶやく。
 【シュガーレス】を始末した者――それはルゥオ・スタト・ゴォルだった。
 ルゥオは、
「芦柄 琴太。貴様と一騎打ちを申し込む」
 と言った。
 新たな力を得たルゥオは琴太との勝負のため、ティアグラ軍本陣から抜け出し、琴太達の居た場所まで来ていたのだ。
 思えば、ルゥオと惑星イグニスの絶対者アブソルーター、ジェンド・ガメオファルアが琴太達の住んでいた孤児院、セント・クロスを襲撃したのが琴太達救出チームの冒険の始まりでもあった。
 言ってみれば宿命のライバルとの戦いである。
 琴太は、
「わかった。その一騎打ち、了承した」
 と答えた。
 にらみ合う両者。
 だが、双方憎みあっている訳ではない。
 やっと決着がつけられる。
 そういう意味では恋人に再会した気持ちと似ていた。
 決着の時が来たようだ。


続く。



登場キャラクター説明


001 芦柄 琴太(あしがら きんた)
芦柄琴太
 テララ編の主人公。
 曲がった事が大嫌いな性格。
 義弟である吟侍(ぎんじ)の心臓になっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で身につけた能力である、敵の弱点を突く事により出現する鍵を回す事により敵を倒す事が出来るキーアクションを得意とする。
 鍵十手(かぎじって)も使える。
 ルフォスの欠片核(かけらかく)を体内に宿す。
 更なるスキルアップを目指している。
 【ルツ】の切り札の一つ、【加重撃(かじゅうげき)】という同位相に複数の要素を込めて打てる攻撃力を手に入れる。


002 アリス・ルージュ
アリス・ルージュ
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来たスーパー人造人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 衛星軌道上に攻撃要塞を持ち、未来の通信装備、サイコネットを装備する。
 幼い外見をしているが、レッド・フューチャーの中ではリーダー格。
 性格設定が子供になっているため、コミュニケーション能力は高いとは言えない。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札の一つ、【アンチウイルステクノロジー】というオーバーテクノロジーを手に入れ、自身の体の改造を出来るようになる。
 フィクジュエモ界の作り出す架空世界を破壊する特殊ウイルスを作れる可能性が出て来た。


003 ドロシー・アスール
ドロシー・アスール
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た特殊な人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 左目の義眼を取り替える事により、超能力、魔法、錬金術などの能力を使い分けるスイッチファイター。
 三人組の中では一番大人であるため、話し合いなどは彼女が担当する。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札の一つ、【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】という完全に本物として力を得られる三つの力を得る。
 三つの内の一つを使い、神キャラの召喚術を身につける。


004 ウェンディ・ホアン
ウェンディ・ホアン
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た合成人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 動植物や虫、魚、鳥類、鉱物にいたるまで、彼女は同化する事が出来、同化したものの能力を強化した形で使うことができる。
 口下手であるため、口数は少ないが、いざという時、居て欲しい場所に素早く駆けつけるなど気の利いた部分も持っている。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札、【セパレーションマイセルフ】という力を得て【ハンズ&フィート(HF)】という移動する手足の様な攻撃能力を得る。


005 K(久遠(くおん))
K(久遠)
 琴太達と行動を共にする事になったbPフィクジュエモクリエーターにして二大イメージメーカーの一人。
 六つの最強、最超(さいちょう)、最謎(さいめい)、最高(さいこう)、最大(さいだい)、最極(さいきょく)、最絶(さいぜつ)と呼ばれる力を持っている。
 正体を隠し【K】と名乗って行動しているのはティアグラ軍には彼の消滅者(しょうめつしゃ/地球で言うところのドッペルゲンガー)になる【匿名者(とくめいしゃ)】に察知されないため。
 彼の持つ六つの最強がイメージ化されないという事がわかっている。



006 ティアグラ
ティアグラ
 吟侍の心臓になっている7番の化獣(ばけもの)ルフォスと引き分けた1番の化獣。
 ルフォス同様に独自の宇宙世界を持っている。
 最強の化獣である13番のクアンスティータの力を欲している。
 全ての策が徒労に終わり、動揺している。
 ティアグラ・ワールドという宇宙世界の所有者でもある。


007 偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】
偉存教教主ソイツァ
 ティアグラ元四天王の一人。
 偉存(いそん)と呼ばれる地球で言えば偉人にあたる偉大な存在達のデータを管理する教団の教主。
 クアンスティータにちょっかいをかけ大失敗したティアグラに代わり、覇権を目指そうとする。






















008 謎のフィクサー、【ツィテリュ】
謎のフィクサーツィテリュ
 ティアグラ元四天王の一人。
 歴史の闇のほとんどに関わっていたとされる謎のフィクサー。
 ティアグラと共感し一度は協力するものの、ティアグラのふがいなさに失望し、覇権を目指そうとする。


009 二大イメージメーカー【エメロディア・トライアル】
エロメディア・トライアル
 ティアグラ新四天王の一人。
 実在化(じつざいか)という形で現実化することも出来る架空の世界、フィクジュエモ界での二大巨頭も一つとされているbQフィクジュエモクリエーター。
 6つの最強を作ったbPの【久遠】には及ばないものの、御十家(ごじっけ)と言うフィクジュエモの世界での主要作品のほとんどに登場している人気キャラクターは彼女が作ったもの。















010 匿名者(とくめいしゃ)
匿名者
 地球で言えばドッペルゲンガーにあたる存在で、消滅者(しょうめつしゃ)と呼ばれている。
 アナザー久遠とも呼ばれ、bPフィクジュエモクリエーターである久遠が作る六つの最強を同じように使いこなす事が出来る。
 ティアグラ新四天王の一人。















011 ジェニファー(野茂 偲(のも しのぶ))
ジェニファー(野茂偲)
 テララ編のヒロイン。
 忍術を得意とするくのいち。
 琴太の事が好き。
 仲間を思いやる優しい性格だったが、魔薬アブソルートを無理矢理飲まされ、特殊絶対者となってしまう。
 琴太のライバルとなるべく、ティアグラによって新たな力を授かることになる。
 今回、ジュエモクリエーター達の改造手術を受け、新四天王のジェニファーとして仮面をかぶって行動する事になる。


012 スーパーS
スーパーS
 偲の生体データを元に生み出されたジュエモクリエーター達の最高傑作のジュエルモデル。
 ジュエモクリエーター達とその作り出された作品、ジュエルモデル達を率いて新四天王に抜擢される。


013 シュガーレス
シュガーレス
 bTのフィクジュエモクリエーター。
 【シャッフル・ワールド】という架空世界を作り出す。
 【シャッフル・ワールド】は独立した三つの世界で独自に話が展開していき、一定期間で起きる【天変地異】というイベントで一部のキャラクターが入れ替わるというもの。
 s桁以下のフィクジュエモクリエーターを見下している。
 自分の【シャッフル・ワールド】の世界観をこよなく愛すナルシスト。
 【シャッフル・ワールド】は九大魔法が絶対的な地位を持つアルファ・ワールド、九大法具が絶対的な地位を持つベータ・ワールド、九匹の大魔獣が絶対的な地位を持つガンマ・ワールドの三つで構成される。


014 ラット
ラット
 bP6のフィクジュエモクリエーター。
 進化という名目で敵キャラクターを食べる事で能力を奪い合う【進化論サバイバル】という架空世界を作り出す。
















015 ミアン
ミアン
 bP7のフィクジュエモクリエーター。
 能力のあるパーツを組み合わせて人造人間を作り出し100のラボでの陣取り合戦をする架空世界【人造人間トリプルエックス】を作り出す。




















016 ルゥオ・スタト・ゴォル
ルゥオ・スタト・ゴォル
 惑星テララを支配する6名の上位絶対者・アブソルーターの内の1名。
 かつて、琴太(きんた)の故郷、セカンド・アースを襲撃した事がある。
 当時は、吟侍の身につけたルフォスの力に退散を余儀なくされたが、今は力をつけ、星を支配するまでになっていた。
 吟侍との再戦を望むも叶わず、琴太達の事は相手にしていなかったが琴太に実力で追い抜かれてしまった。
 ジュエモクリエーター達による手術を受け、新たな力、鳥型の可変超獣装(かへんちょうじゅうそう)という心臓に埋め込まれたチップを守るために変形を繰り返し攻防一体の兵器を身につけ、ティアグラ軍本隊の精鋭部隊、スーパービースト部隊に抜擢される。


017 ドゥナ・ツァルチェン
ドゥナ・ツァルチェン
 土の姫巫女。
 テララ編のヒロイン。
 琴太の危機をいち早く察知し、彼に危険を伝える。
 吟侍の居るウェントスに居る風の姫巫女に助けを求める。
 現界(げんかい)を離れた事で姫巫女としての勘を取り戻す。