第006話 ジュエモ界、フィクジュエモ界の脅威

テララ編006話挿絵

01 現在の状況


 芦柄 琴太(あしがら きんた)達一行には大ピンチが続いていた。
 最強の化獣(ばけもの)である13番、クアンスティータの誕生事件をきっかけに急展開の連続だった。
 クアンスティータへのコンタクトに大失敗した1番の化獣、ティアグラは自身が所有する宇宙世界、ティアグラ・ワールドに閉じこもった。
 琴太達もそれに巻き込まれ、その時に居た惑星テララごと、ティアグラ・ワールドに取り込まれてしまった。
 それから、ティアグラの恋人【ルツ】との激闘が待っていた。
 その【ルツ】はティアグラとの交渉用に四つの切り札を持っていた。
 琴太達はその四つの切り札を奪って自分の力とし、【ルツ】を撃退するも、落ち着きを取り戻しつつあったティアグラは、四天王と呼ばれる4人の強者を中心に大組織を編成し、琴太達に対抗しようとした。
 だが、クアンスティータへのアプローチの失敗というのは、ティアグラの組織を崩壊させるに十分な材料だった。
 四天王である偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】と謎のフィクサー【ツィテリュ】がその覇権を巡って戦争を始めて各地で小競り合いを繰り返すようになった。
 残った四天王である二大イメージメーカーの一人、【エメロディア・トライアル】と【匿名者(とくめいしゃ)】もその火消しにかり出されるようになった。
 【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍、それに火消しのフィクジュエモ界の戦士達による三つ巴の戦いに発展し、ティアグラの配下がどんどん、戦死するという状況になっていた。
 琴太達にとっては、大チャンスとは言うものの、その組織の大きさを目の当たりにして、萎縮していた。
 そんな琴太達も謎の少年【K】という大きな仲間を得て、ティアグラを倒すためにティアグラ・ワールドの端から中央に向かって進む事になった。
 そんな彼らの前に立ちふさがったのがbQ0のフィクジュエモクリエーターである【フラッグス】だった。
 【フラッグス】は自身が作り出した架空の世界で、【フラッグファイターズ】の登場キャラクターを刺客として差し向けるも琴太達は【K】との連携で【架空化(かくうか)】に成功した。
 そして、【フラッグファイターズ】の刺客を一掃したのだった。
 【フラッグス】は撃破したが、まだ、他のフィクジュエモクリエーターが居る。
 琴太達の苦難の道のりはまだ続くのだった。


02 ジュエモとフィクジュエモの刺客


 琴太達はフィクジュエモにばかり気を取られていたが、ジュエモという刺客も存在した。
 フィクジュエモはフィクションジュエルモデルの略で、架空の存在だが、ジュエモはジュエルモデルの略で、実在する存在をキャラクター化させるというものだ。
 言ってみれば、実在する存在を二次創作するようなものでもある。
 次に待ち構えていた刺客、bP9のフィクジュエモクリエーターはフィクジュエモクリエーターとしての才能もあるが、ジュエモクリエーターとしての才能もある二刀流だった。
 むしろ、ジュエモクリエーターとしての方がランクは上だった。
 フィクジュエモクリエーターでは19番目だが、ジュエモクリエーターとしては実に14番目の実力者として名が通っていた。
 そのフィクジュエモクリエーター兼ジュエモクリエーターの名前は、【スリッパ】と言った。
 琴太達の前に立ちふさがる次なる壁はこの【スリッパ】だった。
 名前はふざけているが、この【スリッパ】はただものではなかった。
 琴太の元仲間、野茂 偲(のも しのぶ)のジュエモを作り出していたのだ。
 このジュエモ化の技術をティアグラに提供し、偲は、さらなる力を得ようとしていたのだが、それは今現在の琴太達は知るよしも無かった。
 ジュエルモデルで作られた偲はさらなる強化が施され、戦闘力を格段に上げていた。
 その偲そっくりなジュエモ達が琴太達の前に立ちふさがったのだ。
 琴太は、
「お、お前、偲……なのか?」
 と言うが、すぐにその考えを改めた。
 偲そっくりなのは一体では無かったからだ。
 少なくとも偽物が混じっていると言う事は確実だという事だ。
 【スリッパ】はジュエモクリエーターとしては、この【偲ジュエモ】達の他に、太古の昔に大暴れして退治されたと言われて居る巨大怪獣【ガードン】と【巨人アマゾネス】軍団を用意してきた。
 ジュエモなので、かつて実在した存在の複製達だ。
 また、フィクジュエモクリエーターとしては、【神話サモナーズ】という世界観を出して来ている。
 【神話サモナーズ】とは【フラッグファイターズ】と同様に読者や視聴者にあたるギャラリー参加型のアニメーションで、アニメーションに登場するキャラクター達がギャラリー達が考えて来た独自の神様キャラを召喚して勝負するという世界観だ。
 アニメーションストーリーの肝となるのはギャラリー達が考える神様のキャラクターのキャラクター性と【スリッパ】による、デザインのコラボと言える。
 このアニメーションの面白いところはギャラリーが自分で考えた神様の世界観を利用しているというところにある。
 フィクジュエモクリエーターとジュエモクリエーターとの両刀遣いである【スリッパ】は架空世界に合わせて、ジュエモ達も調節している。
 琴太達はこの【神話サモナーズ】の世界観で【神話サモナーズ】のキャラクターとジュエモ達の連合軍と戦う事になる。
 同時に仕掛けて連携をとられてはたまらないので、琴太と【K】、アリスとドロシーとウェンディにわかれてそれぞれ、相手にすることになった。
 琴太達が引き受けたのはジュエモの方だ。
 アリス達はフィクジュエモの方を担当する。
 ジュエモの方には偲もどき達がいるのでアリス達がと言ったのだが、琴太はもし本物が混じっていた場合、アリス達に任せたら後悔するかも知れないと思い、
「いや、俺がやる」
 と言って譲らなかった。
 この琴太の判断がどういう展開になるかはわからないが、とにかく、【神話サモナーズ】のエリアの端とその反対の端に陣取って敵を迎え撃つ事にした。


03 VSジュエモ戦


 琴太と【K】が相手にするのはジュエモ達だ。
 【偲ジュエモ】達と巨大怪獣【ガードン】、【巨人アマゾネス】達が敵となる。
 まず、目障りなのは巨大怪獣【ガードン】だ。
 体長は地球の1.5倍くらいはある。
 現界にはそれ以上の大きさを持つ存在も多く存在するが、琴太としてはこれほど大きな存在と戦った事は無い。
 【ガードン】の最大の攻撃は口から出す痰(たん)だ。
 痰といってもただの痰ではない。
 巨大な炎をまとっているのだ。
 地球の1.5倍の体長というだけあって、はき出す炎の痰の大きさも半端ではない。
 避けるだけで、至難の業となる。
 まずはこのデカ物をなんとかするしかない。
 頼りの【K】だが、実は6つの最強は一瞬しか出す事が出来ないのだ。
 それで、今まで一瞬で決着をつけていたのだが、一度、どれかの最強を出してしまうとしばらく使えないという事を【K】に告白された。
 琴太は、
「今、言うな」
 と言ったが、そうなると、使いどころが問題となる。
 【ガードン】を倒しても後には【偲ジュエモ】達と【巨人アマゾネス】達が控えている。
 【ガードン】には理性というのが無いので、同時に攻撃を仕掛けたら同士討ちになる可能性が出てくるので【ガードン】と【偲ジュエモ】、【巨人アマゾネス】が連携を取るという事は無いが、【ガードン】に【K】の力を使ってしまうと後が無くなる。
 ここは一つ、琴太の【加重撃(かじゅうげき)】で倒すしかないと判断した。
 琴太とて【加重撃】の連射は今の段階では無理だ。
 【K】が琴太の背後から、【偲ジュエモ】達と【巨人アマゾネス】達ににらみをきかせるという戦闘スタイルを取る事にした。
 琴太は、
「さて、こいつをどう、料理するかだ……」
 とつぶやいた。
 琴太は頭脳戦は得意ではない。
 力と力のぶつかり合い。
 それが性に合っている。
 だが、相手は、大きすぎる怪獣だ。
 そんなものと力比べをしても勝てる訳が無い。
 だとすればどうするか?
 琴太はキーアクションと【加重撃】のコラボで倒そうと考えた。
 キーアクションで【ガードン】の能力を分解しつつ、【加重撃】の強力な一撃で倒すというものだ。
 キーアクションを使うという事は二撃必殺となる。
 一撃目で【ガードン】の心臓に拳をあて、鍵を出す。
 二撃目で、その鍵を回して力を分解しつつ、【加重撃】の要素を盛り込み一気に倒すという方法だ。
 一撃目にも【加重撃】の要素による負担が必要だ。
 そうでなければ、地球の1.5倍の大きさの【ガードン】の心臓まで衝撃が届かないからだ。
 今の琴太では、【加重撃】の連射はせいぜい2回まで。
 2回使った後は、少し間を置かないと連撃は無理だ。
 つまり、失敗の許されない攻撃と言えた。
 琴太は緊張する。
 その間にも炎の痰が止めどなく、琴太に襲いかかる。
 炎の痰を避けつつ、集中する琴太。
 勝負は一瞬の隙が全てだ。
 時を待つ。
 少し隙のようなものが見えた。
 だが、まだだ。
 また、隙のようなものが……
 いや、まだだ。
 これも違う。
 これも違う。
 あれも違う。
 違う、違う、違う……
 今だ。
 これだと思う隙を【ガードン】の中に見た琴太は、【ガードン】の心臓に強力な一撃を入れる。
 鍵が出た。
 これで離れると駄目なのですぐに、次の一撃を入れる。
 鍵を回しつつ、それを【加重撃】の要素も上乗せする。
 【ガードン】は、
「ぐぎゃろごごごごごぉぉぉぉぉぉ……」
 という断末魔を叫び、消えた。
 今回は、【フラッグファイターズ】の時と違い、ジュエモも含まれていたのでそれから【神話サモナーズ】の基礎データを割り出していたので、力を十二分に発揮出来ていた。
 まず、【ガードン】は倒した。
 後は、【巨人アマゾネス】と【偲ジュエモ】だ。
 【ガードン】が倒れて間を置かずに、【巨人アマゾネス】達が突っ込んできた。
 体長は二十二、三メートルと【ガードン】に比べたら小さい。
 小さくともそれでも琴太達からすれば十分に大きかった。
 【巨人アマゾネス】達の特徴としては、腕が4本、乳房も4つあるというところだろうか。
 4本の腕で振り下ろされる巨大棍棒による攻撃は強力だ。
 その数、49体。
 50体近くの【巨人アマゾネス】達の攻撃はそれはそれで、脅威だった。
 たまらず、【K】は六つの最強の一つ、【最極(さいきょく)】の力を一瞬解放させた。
 一瞬にして、【巨人アマゾネス】の47体が息絶えた。
 だが、まだ、2体残って居る。
 【K】の出す最強6部門は攻撃力が優れているが、完全では無い。
 【巨人アマゾネス】達の様に集団で来られると2体残した様に、討ち漏らしが出てくるのだ。
 一瞬で全滅近くにまで持ってこれるというのはそれはそれで凄い事なのだが、敵が残っているという事はまだ脅威は終わっていないのだ。
 【巨人アマゾネス】2体は一瞬、ひるんだものの、気持ちを切り替えたのか、再び、攻撃態勢に入った。
 琴太も【K】も強力な攻撃をしたため、次の攻撃には一呼吸を必要とした。
 とにかく、今は逃げるしかない。
 様子を見ようとしていた【偲ジュエモ】達もこの事態を受け動き出した。
 【偲ジュエモ】の数は15体だ。
 つまり、【巨人アマゾネス】と足して17体の敵がまだ残っていることになる。
 距離を取ろうとする琴太と【K】。
 追いかけて来る【巨人アマゾネス】と【偲ジュエモ】達。
 追いかけっこが続く。
 【偲ジュエモ】達の攻撃は偲が得意とした忍術ではなかった。
 放電を繰り返し、電気による攻撃を仕掛ける【偲ジュエモ】、
 両腕の指先から銃弾を飛ばして来る【偲ジュエモ】、
 奇術のようなもので攻撃をしてくる【偲ジュエモ】、
 体の一部を溶かしてそれを鞭のようにして攻撃してくる【偲ジュエモ】、
 まるでアリスの様に体をマシン化させて攻撃してくる【偲ジュエモ】、
 いろいろだ。
 忍術を使わない以上、偲であることに意味は無い。
 ただ、琴太達を動揺させるために用いられているとしか思えない。
 【偲ジュエモ】はこの後の研究のための模索段階――その様な印象があった。
 追いかけっこは続いたが、次第に琴太達も次の攻撃が打てるようになった。
 さぁ、反撃だ。
 【K】は【最絶(さいぜつ)】を呼び出す。
 追い詰めつつあったため、逆に間近で呼び出された【巨人アマゾネス】2体と【偲ジュエモ】13体は一瞬にして消滅した。
 残った【偲ジュエモ】2体はきっちり琴太が【加重撃】で始末した。
 懸念されていた本物の偲はいなかった。
 安心したような不安が残っている様な奇妙な感覚だったが、琴太と【K】のコンビは勝利した。


04 VSフィクジュエモ戦


 一方、フィクジュエモ達との戦いをしているアリス達はサモナー達が召喚する神――ギャラリー達が考えたオリジナルの神による攻撃に苦戦していた。
 サモナー達が召喚して神を呼び出した瞬間にその神の効果で力が発動する。
 例えば、サモナー【シルビー】が呼び出した神【シェイク】は出たとたんに地震が発生する。
 出現している間はずっと地震が起きているので、【シェイク】を倒すまで地震はやまなかった。
 サモナー【ロッド】が召喚した神【ニーバイ】は1度の攻撃に対して2度の反撃が出来るという力を持っていた。
 アリス達が一回攻撃すると反撃が二回来るので、戸惑った。
 サモナー【ライクス】が召喚した神【カース】は呪いの歌を歌った。
 聞いているだけで、体調がおかしくなり、気が変になりそうだった。
 サモナー【ヤン】が召喚した神【ジョーズ】はサメの化身とされる神だった。
 大きな口から大量の水を吐き出し、その中にたくさんのサメが居て襲いかかってきた。
 サモナー【ドク】が召喚した神【ラスボ】は触った相手がラスボス属性を持ち、パワーが3000%アップするという特殊能力を持っていた。
 どんな神を呼び出すかが全くわからないのと召喚された神の持つ特殊能力に苦戦していた。
 中でも五大神と呼ばれる神の召喚には大苦戦した。
 五大神は呼び出すだけで、アリス達の動きがかなり制限され、さらにはいくつもの付随効果を持っていたので、脅威すら感じた。
 だが、ついにドロシーが【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】の力の一つを覚醒させた。
 完全コピーした力はサモナーの能力だった。
 サモナー達はギャラリー達が応募してきたデータが元になっている。
 ドロシーにはそれがない。
 その代わりとして、フィクジュエモ界に属する【K】が呼び出す六つの最強を神と見立てて召喚する事にした。
 ただでさえ完全ではない【K】の最強の力の召喚のさらなるコピー――その力も70%コピーがやっとだった。
 サモナー達が呼び出した神達の一掃――とはいかず、結構、討ち漏らしが出た。
 それでも苦戦していた五大神は全滅させる事には成功したので、残りの神の始末はアリスとウェンディが担当した。
 3人合わせて、神の一掃に成功した。
 ドロシーは大きな力を使ったので、一瞬、気を失いかけたが、すぐに気を取り直し、気を張った。
 ウェンディは
「ドロシー、大丈夫か?」
 と心配した。
 アリスも
「少し休む?」
 とねぎらった。
 だが、休んでもいられない。
 ドロシーは、
「問題ないわ。行きましょう」
 と答えた。
 そこは長年付き合ったチームだ。
 本当に駄目で大丈夫と言っているのと大丈夫だから大丈夫と言っている事の区別はつく。
 今回のは後者だ。
 本当に問題は無い。
 琴太達もアリス達も大分、苦戦はしたが、それでも難敵を撃破した。
 敵を一掃したので【神話サモナーズ】の架空世界も突破した。
 【フラッグファイターズ】の時の【フラッグス】の様にまた、【神話サモナーズ】の【スリッパ】も動揺していた。
 まさか、突破されるとは夢にも思っていなかったという表情だ。
 【スリッパ】自身の戦闘力も大した事ない。
 あっさりと撃破し、次に進む。


05 その他のフィクジュエモクリエーター


 それからというもの、時を稼いでいるのか、それとも琴太達を休ませないようにしているのか矢継ぎ早に8名のフィクジュエモクリエーター達が連続して琴太達に牙をむいた。
 まずは、bT7フィクジュエモクリエーターの【らんらん】だ。
 続いてbR5フィクジュエモクリエーターの【チャラ】、
 bS2フィクジュエモクリエーターの【ごん】、
 bU5フィクジュエモクリエーターの【マスターヘル】、
 bS9フィクジュエモクリエーターの【天然キャラです】、
 bT2フィクジュエモクリエーターの【メア】、
 bR3フィクジュエモクリエーターの【トッポ】、
 bS4フィクジュエモクリエーターの【ラッキーボーイ】と続いた。
 名前は全員ハンドルネームだ。
 本名じゃない。
 また、全員bQ1以下のフィクジュエモクリエーターなので、架空の世界の作り込みもbQ0までのフィクジュエモクリエーター達と比べたら甘かった。
 【らんらん】が作り出した世界は【喧嘩100番勝負】だ。
 この架空世界では打撃系と投げる固める以外の攻撃は全てペナルティーとなる。
 これは琴太だけで100勝した。
 100番勝負なので100勝すれば、クリアとなる。
 【チャラ】が作り出した架空世界は【フルーツチェンジミックス】というものだ。
 これはプレイヤー達が木の実を食べる事によって、変身――というかコスチュームチェンジを繰り返してバトルするというものだ。
 なかなかの面白味はあったが、これはウェンディが一人でクリアした。
 【ごん】の作り出した架空世界は【超高機動兵器オメガ】というものだ。
 キャラクターは超高機動兵器と呼ばれる装備を着用して、超高速でバトル――主に重火器などで撃ち合うというスタイルのものだ。
 これは、アリスが一人でクリアした。
 【マスターヘル】が作り出した架空世界は【ダンシングバトル】というものだ。
 これは踊りながらでないと攻撃判定が出ないというものだ。
 これはドロシーが一人でクリアした。
 【天然キャラです】が作り出した架空世界は【かぶりものファイター】というものだった。
 とにかく、生身で戦うということが禁止だったので、何かをかぶって戦わなければならなかった。
 これは誰が出るかでもめたがタッグバトルが可能だったので、アリスのサポートでウェンディが出てクリアした。
 【メア】が作り出した架空世界は【ステルスソルジャー】というものだった。
 これは暗殺だけが有効という架空世界だった。
 姿を現して攻撃すると全て無効判定となる。
 これはアリスとドロシーが連携してクリアした。
 【トッポ】が作り出した架空世界は【スペシャルバディ】というものだった。
 これはプレイヤーの精神と使うボディーがシャッフルして戦うという世界観だった。
 琴太達もその条件を満たさなければならないので、ウェンディが体を提供して、精神操作としての能力の高いドロシーがプレイヤーとして戦ってクリアした。
 【ラッキーボーイ】が作り出した架空世界は【必殺拳】というものだった。
 プレイヤーは攻撃数が限られていて、ガチャプレイをすれば、すぐに使用回数が減ってしまうので、出来ないというバトルスタイルだ。
 しかも敵の数と使用回数が同じなので失敗出来ないというものだ。
 これは一撃必殺には自信がある琴太が出た。
 一撃で数キャラ倒したりもしたので、半分以上の使用回数を残したままクリアした。
 この8連戦では【K】の出番は一度もなかった。
 それだけ余裕のある戦いでもあったのだ。
 多少、苦戦したところはあったものの、さして問題とはしなかった。
 独特な世界観もあったが、結局はメジャーになりきれなかったbQ1以下のフィクジュエモクリエーター達だったので、大した時間稼ぎにもならなかった。
 だが、敵の層はそう薄くは無いというのがわかった。
 琴太達にこれだけのフィクジュエモクリエーターをかり出せる余裕はむこうにもあるという事なのだから。
 油断大敵。
 勝ち進んでいるからと言って、気を緩めれば思わぬ苦戦もあり得る。
 琴太達は気を引き締め直して次に進んだ。


06 発掘ジュエモの脅威


 琴太達はさらなる襲撃を受けていた。
 今度はbP2のジュエモクリエーター【ロップ】による待ち伏せだった。
 ジュエモクリエーターという事は実在の存在のジュエルモデルを作り出す存在だ。
 【ロップ】はジュエルモデルが活動しやすいように【発掘モンスターズ】という架空世界を作り出した。
 ジュエモは本来、フィクジュエモと違い、架空世界を必要としない。
 だが、【ロップ】はフィクジュエモクリエーターの架空世界を作り出す力を研究し、ジュエモが活動しやすい架空世界を生み出す技術を得ていた。
 そういう意味では特異なジュエモクリエーターと呼べた。
 【発掘モンスターズ】の架空世界は至る所が土や岩場などになっている。
 発掘師(はっくつし)と呼ばれる考古学者の様なジュエモ化された存在が岩場や土の中に埋めている実在した存在の骨を発掘させて、肉付けしていく。
 表面上のボディこそはジュエルモデルだが、その骨格は本物を使っているので、より精度の高いジュエルモデルが出てくるというものだった。
 【発掘モンスターズ】のフィールドに埋まっている骨の数はおよそ5000種類にも及ぶ。
 架空世界で、埋まっている――わざわざそんなに面倒な手段を用いるには理由がある。
 この架空世界の岩場や土などには豊富なエネルギーがあり、埋まっている事によって本来の力を上回るエネルギーが得られるという状態になっているのだ。
 ジュエルモデルをより強くする環境が整ったこの【発掘モンスターズ】の架空世界。
 琴太達がこのエリアを突破する条件は発掘師を全滅させることだ。
 だが、発掘師の数は2万人だ。
 そう簡単に全滅させる事は出来ない。
 琴太達は手分けして発掘師の捜索をした。
 見つけ次第、倒していく琴太達だったが、2万人という数はかなり多い。
 倒しても倒しても発掘師達は埋まっている骨、化石を掘り出し、肉づけして刺客として仕向けていった。
 強化型のジュエモだけあって、生前の元の素材よりも戦闘能力が跳ね上がっていた。
 琴太達も更にスキルアップをして戦闘能力は上がっているのだが、それでも数という脅威は彼らを苦しめた。
 琴太もその頃には【加重撃】は20連射くらいまでなら余裕で出来る様になっていたが、多用は出来ず、キーアクションをメインに戦闘を組み立てていた。
 アリス、ドロシー、ウェンディも一緒だった。
 本気で戦えば疲労する。
 なので、いくらかセーブして戦っていた。
 でないと戦いの連続で疲弊したところを狙い撃ちされるからだ。
 後の事も考えて戦わないと逆にやられてしまう。
 ティアグラののど元に食らいつきたいのに、ティアグラまではまだ、全然届かない。
 次から次へと刺客が待ち構えている。
 焦る。
 焦る。
 また焦る。
 だが、焦っても好転していかないので、冷静になる。
 戦う。
 戦う。
 また、戦う。
 それでも終わらずまたさらに戦う。
 戦いの連続。
 改めてティアグラ軍の層の厚さを思い知る。
 琴太達が相手をしているのはこれでもフィクジュエモ、ジュエモ界の一部に過ぎない。
 本来であれば、これに偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】軍と謎のフィクサー、【ツィテリュ】軍とそれに追従する組織達、さらに火消しにあたっているフィクジュエモクリエーター達とも戦わなければならなかったのだ。
 仲間割れをしていなければ、それら全てが琴太達に向かって来てもおかしくなかったのだ。
 それを思えば贅沢など言っていられない。
 この好機を大事にして一つ一つのバトルを制して前に進んでいくしかない。
 こんな好機は滅多にないのだ。
 琴太達は戦い続ける。
 ところどころで、大物のジュエモが発掘されて、戦々恐々とするが気持ちを持ち直し、冷静に戦い、勝利をしていく。
 それをひたすら繰り返していく。
 ある程度、減ったところで、【K】の【最超(さいちょう)】を一瞬出現させ、全滅させた。
 この頃には【K】も一度に二回までなら最強6部門のどれかを出す事が出来るようになっていた。
 相変わらず、一瞬しか出せないが。
 つまり、一回出しても。もう一回の余裕を残す事が出来るという事になる。
 もう一回を盾にしばらく距離をとり続ければまた二回使えるようになる。
 これはずいぶん有利になったと言える。
 だが【K】が一瞬しか最強6部門を出せないのは理由があった。
 最強6部門のイメージは崩れてしまっていたのだ。
 だから、姿形を取る事が出来ない状態になっており、実現化のまねごとが出来るのも一瞬のみとなっていたのだ。
 出したくても形が無いから出せない状態――それが【K】が抱えている真実だった。
 【K】が持っている6つの最強はもはやキャラクターとは呼べない状態になっていたのだ。
 新たにイメージを付け加えたいが、【K】は【匿名者】に対して恐怖を抱いてしまった。
 クアンスティータなどは別として、他の存在に恐怖を覚えた時、【K】の中の最強のイメージは消えてしまった。
 もはや最強のイメージを作る事が出来ないという現実が彼に突きつけられたがそれを【K】は受け入れられなかった。
 真実を認めるのが怖い。
 正体がわかっていてなお、自分の事を【K】と呼ばせ、本名の【久遠(くおん)】を名乗らないのは自分の存在を幻にしておきたかったからでもあった。
 幻であれば、自分の作ったキャラクターが実在化しなくても許される――そんな事を思い続けていた。
 これは一種の逃げではある。
 噂通り、もはや、クアンスティータの力を借りなければ6つの最強の実在化は不可能というのは間違い無いことだったのだ。
 イメージすら出来ない状態――だから、イメージも含めてクアンスティータの力が必要としていた。
 イメージメーカーでもある【K】がイメージ出来ないのであれば、それはもはやイメージメーカーともフィクジュエモクリエーターとも呼べない。
 名ばかりのbPフィクジュエモクリエーター――それが【K】が抱えている心の闇でもあった。
 琴太達に頼りにされては居てもふたを開ければそんなもの――そんな弱さを知られたくなくて、【K】は謎をまとい、ドロシーにステータスを読ませないようにしていた。
 自分は本当は弱い存在――それを知られたくなかった。
 だが、その頃にはドロシーも【K】の秘密に気づき始めていた。
 理由は【K】が示す最強の6部門の力が完璧ではないという事だった。
 クアンスティータと比べて余りにも脆すぎる【K】の最強達にドロシーは疑問に思い、こっそりと【K】をサイコメトリーで探り続けていた。
 そして、【K】の心の闇にたどり着いた。
 たどり着いたが、これはドロシーがなんとか出来る問題ではない。
 【K】が自分で乗り越えて行かなければならない問題として、知らんぷりを決める事にしたのだ。
 だまって、【K】の方から打ち解けるのを待っていた。
 ドロシーは思っている。
 最強である必要なんてないと。
 最強でないと価値がないなんて事はないのだ。
 最強でなくとも仲間にはなれる。
 【K】はそこがわかっていない。
 ドロシーの思いはそれだった。
 琴太とウェンディは気づいていないが、ドロシーの考えはアリスも大体気づいていた。
 二人で見守ろうとお互い目配せして黙っている事にしたのだ。
 そんな思惑もあったが、琴太達はついに【発掘モンスターズ】のエリアを突破し、【ロップ】も倒した。
 そして、更に前に進むのだった。


07 ラスボスハンター


 琴太達はそれからbP00以下のフィクジュエモクリエーター達の襲撃を受けた。
 彼らはこれまでのフィクジュエモクリエーター達よりも更に未熟な腕の持ち主だった。
 そんな彼らが出来るのはとにかく、琴太達をバラバラに自分の作り出す架空世界におびき寄せ総攻撃で仕掛けるという方法をとるしかなかった。
 bP00番台になると、もはやどこかで見たような設定の使い回しのような世界観でしかなかったので、六十数名という数が連続して仕掛けて来たにもかかわらず、指して取りあげるほどの世界観ではなかった。
 とにかく下手な鉄砲も数打ちゃあたる戦法でこられたため、琴太達は面倒臭いと思い、全員、力押しで、強引に前に突き進んだ。
 結果、それだけの数で事に当たったにも限らず、全部合わせて小一時間程度という時間しか足止めする事は出来なかった。
 短いものはたった数秒で架空世界を突破されていたのだ。
 やはり、ランクの低いフィクジュエモクリエーター達では琴太達の相手にはならなかった。
 少しでもランクの高いフィクジュエモクリエーターが作り出す架空世界でないと、足止めすらままならないと思ったのか、bP8のフィクジュエモクリエーターが刺客として現れた。
 bP8のフィクジュエモクリエーターの名前は【メタリー】と言った。
 【メタリー】が作り出した架空世界の名前は【ラスボスハンター29】だ。
 【ラスボスハンター】シリーズとは架空世界のエリアに1000体のボスを配置し、それをプレイヤー達が協力して狩りとっていくというものだ。
 RPGゲーム風の世界観で、ボスは狩り取れば狩り取るほど、残ったボスのステータスが相対的に上がっていくというものだ。
 ボスキャラも視聴者や読者にあたるギャラリー達から応募されている。
 【フラッグファイターズ】や【神話サモナーズ】もそうだったが、基本的にキャラクターデザインなどをギャラリーに頼る事が多い。
 例外もあるが、フィクジュエモクリエーターがオリジナルキャラクターをデザインするのはトップ10であると言える。
 オリジナルで架空世界の全てのキャラクターデザインを出来るからこそ、トップ10のフィクジュエモクリエーターと呼ばれているのだ。
 【メタリー】はbP8なので、そのあたりはやはりギャラリーだのみとも言える。
 【ラスボスハンター】としての楽しみはボスがどんどん強くなるという事と、ギャラリーの誰がデザインしたボスキャラが最後の一匹、つまりラスボスになるかというのもある。
 【ラスボスハンター】でのラスボスを倒すというのと最後の一匹まで残れたという幸運をどのギャラリーのデザインしたボスキャラクターが勝ち取るかという楽しみの二つがある作品と言える。
 このシリーズは現在までに【ラスボスハンター43】まで出ている。
 つまり、【メタリー】が用意したのは最新作ではない。
 最新作ではないが使ったのには理由があった。
 その理由は【ラスボスハンター】シリーズ史上最高の名作と呼ばれるものだったからだ。
 【ラスボスハンター29】はその過半数が再登場ボスキャラで占められている作品だった。
 それまでの28作に登場して、特にインパクトが強かった550キャラを再登場させ、追加した450キャラと合わせて【ラスボスハンター29】としたのだ。
 それまでの人気ボスキャラがまた出て来たという事もあって、シリーズ最大の賞賛を浴びた作品でもある。
 逆に、最新作であるはずの【ラスボスハンター43】はマンネリ感が出て来てしまって、また、このパターンかと言われ、人気にも少なからず、陰りが出始めている作品でもあった。
 だからこそ、落ち目である【43】ではなく、最も全盛期であったと呼べる【29】を持ってくる事にしたのだ。
 最新作ではないため、【K】もこの【29】はプレイした事があった。
 やったことがあるからこそ、わかる。
 どのボスキャラを先に倒せば楽になるかがだ。
 どのボスキャラが強くなったら厄介な事になるかがわかっているからこそ、そのボスキャラを先に倒せば後は、強くなっても大して怖くないボスキャラを後に残せる。
 それが【ラスボスハンター】シリーズの最大の攻略法だった。
 【29】は【K】がやりこんでいた事があったため、勝手知ったる他人の家じゃないが、どうすれば最短で攻略出来るかが手に取るようにわかった。
 【K】の指示を元に、ボスキャラを琴太達は各個撃破していった。
 1000体も居るので時間はかかったが、それでも日が昇って日が沈む頃には最後の1匹、ラスボスを倒して無事にクリアした。
 架空世界を突破して、出て来た琴太達に対して、【メタリー】は次の名作、【ラスボスハンター32】の架空世界を作り出し、放り込んだ。
 言ってみれば二週目の戦いとなったのだが、【29】をクリアして、コツをつかんだ琴太達は【29】の時よりもさくさくと【32】をクリアしていった。
 慌てた【メタリー】はさらに【ラスボスハンター38】を用意しようとしたが、今度はそうはさせまいと【メタリー】を倒した。
 琴太は最後に一言、
「しつこいんだよ」
 と言った。
 何度繰り返しても一緒。
 最後には架空世界を突破出来る。
 後、時間稼ぎはさせないと言いたかったのだ。


08 戦況


 琴太達がジュエモクリエーターやフィクジュエモクリエーター達と戦っている間も各地の小競り合いによる戦況は刻々と変化していた。
 【ソイツァ】軍が有利になったと思ったら、潮の流れが変わるかの様に、【ツィテリュ】軍が優勢になったりと一進一退を繰り返し、両軍とも兵の数を確実に減らしていた。
 戦争を始める頃と比べたら、双方とも戦力は3分の2にまで減っている。
 だが、それでも戦闘を止めない。
 次から次へと犠牲者、悲劇を生むがそれでも止める気配がない。
 火消しにあったっているフィクジュエモクリエーター達も犠牲者を出していた。
 bW、bP2、bP4のフィクジュエモクリエーターが戦死したという報告が火消しにあたっているフィクジュエモ軍本陣に告げられたが、それでもなお、戦火がやむことはなかった。
 あまりにも戦闘が激化しすぎて、ティアグラ・ワールドの構造自体がどこかおかしくなっていた。
 このままではティアグラ・ワールドが崩壊すると思われる事が16回もあった。
 それだけ、激しい戦闘だった。
 だが、誰も止めようとしない。
 戦いを憎み、戦いを止めようと思う存在が極めて少ないのだ。
 それはティアグラが策略に策略を巡らせてこのティアグラ・ワールドを作って来たつけとも言える。
 創造主が腹黒いので、そこに住む存在は心から信用する事が出来なくなってしまっているのだ。
 事態は完全に収拾がつかなくなっている。
 生き残っている存在の多くもかなり負傷をしている。
 それでも終わらない。
 やってもやっても終わらない。
 いつまで戦えば良い?
 いつまで戦えば終わる?
 いつまで戦えば許される?
 誰もがそう思いながらもそれが出来ない。
 みんな怖いのだ。
 負けるのが。
 負けて何かをされるのが。
 負けて惨めな醜態をさらすのが怖いのだ。
 だから、戦いを止めない。
 これは愚かな事だと心の奥で気づきながらも誰もが戦いを止めないから自分達も戦いを止めない。
 戦いを最初に放棄するという勇気が誰も持てずにいた。
 それは琴太達とて一緒だ。
 敵が待ち構えているから戦う。
 その姿勢を崩さない。
 わかっている。
 わかっているのだ。
 敵がいるから戦うだけでは戦いはいつまで経っても終わらない。
 戦いは新たな戦いと悲劇を生むだけだ。
 後には何も残らない。
 何かを残したいから戦うが、結局は何も残らない。
 負けたら全てが終わりだ。
 だから負けられない。
 最初に戦いを止めれば負けてしまう。
 だから、戦いをやめられない。
 琴太はそれを考えると交渉で事を運ぼうとしていたカノンがどれだけ凄い事をしているかを知った。
 このティアグラ・ワールドでは誰一人出来ない事を彼女は惑星アクアでの救出活動で行おうとしていたのだ。
 交渉で助けると言った時、吟侍を除く誰もが愚かな事をと思った。
 そんな事が出来る訳も無いと思った。
 だが、出来る出来ないじゃない。
 行動に移せるか移せないかだ。
 それが出来たカノンはやはり凄いと思う。
 さすがは義弟(おとうと)の――吟侍の彼女だと思わざるを得なかった。
 恐らく、カノンや吟侍の様な存在が物語の主役を張れるのだろうと思う。
 自分には無理だ。
 無理だがそのサポートだけはしてやりたい。
 いや、したい。
 だからこそ、この負け犬の宇宙世界、ティアグラ・ワールドでいつまでもくすぶっている訳にはいかない。
 俺は吟侍の義兄(あに)だと誇れる自分になりたいと琴太は常に思って居る。
 だからこそ、強敵が山となって来ようがなんだろうが退くわけには行かない。
 俺には俺の戦い方がある。
 それが、吟侍やカノンとは異なる戦い方だとしても。
 不器用な自分にはこれしか出来ない。
 最高の自分で居たい。
 それが琴太の希望だ。
 それは昔から変わらない。
 吟侍の才能に嫉妬した事もあった。
 いくらがんばっても吟侍の偉業にはかなわないと隠れて泣いた事もある。
 だが、吟侍は吟侍、自分は自分と思う事で、自分を奮い立たせた。
 最強の勇者にはなれなくとも最高の自分にはなれる。
 そう思っているからこそ、琴太はひたすら前に突き進む。
 猪突猛進。
 単純。
 筋肉馬鹿と言うものも居る。
 言われてもそれが自分のベストにつながる道だからそれは決して止めない。
 止めてたまるか。
 琴太の意思は堅かった。
 戦況はまだまだ、完全には琴太の有利には運んでいない。
 だが、少しずつ好転もしている。
 だったら前に進むしかない。
 ひたすら前に。
 どこまでも前に。


09 動き出したトップ5


 フィクジュエモクリエーターやジュエモクリエーター達による数々の琴太討伐の失敗を受け、ついにトップ5のフィクジュエモクリエーター達が動き出そうとしていた。
 これ以上の失敗は主であるティアグラに対して申し訳ないと言う思いもあり、ついに大物が重い腰を上げたのだ。
 動き出したのはbTフィクジュエモクリエーターの【シュガーレス】だ。
 【シュガーレス】が作り出す架空世界はその名も【シャッフル・ワールド】という。
 全く違う3つの世界観――3つのエリアを作っていて、そのそれぞれで独自の世界を描いている。
 だが、【天変地異】というある一定の期間で起きるイベントがあり、それぞれの世界のキャラクターの一部がシャッフルトレードという形でトレードされていくという物になっている。
 それぞれが独立した世界観を表現しているという事とどのキャラクターをどの世界観で活躍させたいという希望に添って、キャラクターをトレードしたりする人気作品となっている。
 ここまでの創作力はbU以下のフィクジュエモクリエーター達には無い。
 それだけ、凄いフィクジュエモクリエーターと呼べた。
 フィクジュエモ界の5本の指に入るという事はそれだけ凄い事であり、尊敬のまなざしを向けられる存在とも言えた。
 【K】はそのフィクジュエモ界でトップに君臨し続けていたが、それは、過去の話だ。
 今や、最強6部門の実在化が不可能として、そのbPの地位も危ういとされていた。
 その代わりのbPが【匿名者】であるとも言えるのだ。
 そのトップがすぐ近くまで見える位置に居るのがトップ5であると言える。
 だが、このまま、トップ5であるbTの出陣を面白く思わない存在がいる。
 それは、残った大物フィクジュエモクリエーターであるbP6とbP7のフィクジュエモクリエーターだ。
 bUからbP5のフィクジュエモクリエーター達は裏切り者同士である【ソイツァ】軍と【ツィテリュ】軍の激突の火消しにかり出されている。
 それでトップ5とbP6からbQ0のフィクジュエモクリエーターが留守を任されているのだ。
 すでに、bP8からbQ0のフィクジュエモクリエーター達は琴太達との戦いで散っている。
 その上、bTに出てこられては自分達の出番が無くなるのだ。
 bP6のフィクジュエモクリエーターである【ラット】は言う。
「お待ちください、【シュガーレス】さん。次は自分達の番です」
 と。
 bP7のフィクジュエモクリエーターである【ミアン】も言う。
「ちょっと待っててください。必ず私達がやつらを倒して見せます」
 と。
 【シュガーレス】は
「信用できないね。自分でやった方が早い」
 と答えた。
 bP8〜bQ0のフィクジュエモクリエーター達のふがいなさを目の当たりにして堪忍袋の緒が切れたようだ。
 【ラット】は言う。
「今度は自分達二人でかかります。bP6とbP7のフィクジュエモクリエーターが敵を二つに割って各個撃破しますから。なにとぞ、しばし、お待ちを」
 と言った。
 これは決して二人が【シュガーレス】にひれ伏したと言うわけではない。
 二人に【シュガーレス】を敬う気持ちなど微塵も無い。
 本当の理由はここで、【シュガーレス】が出張って、琴太達を討ち取ったら、自分達は何をしていたんだという事になるからだ。
 上役に責任を任せ、自分達は何の役にも立たなかったという認識を主であるティアグラに持たせるわけにはいかなかったからだ。
 ティアグラは非情な化獣(ばけもの)だ。
 役に立たなかった者をどうするかは二人は知っていた。
 そうやって、恋人とされた【ルツ】をも切り捨てたのだから。
 明日は我が身。
 それを感じているからこそ、ここで、手柄を立てねばならなかったのだ。
 【シュガーレス】に出てこられたら、それも不可能となる。
 だから、必死で自分達が出ると主張したのだ。
 決して、【シュガーレス】をねぎらって出た言葉ではない。
 【シュガーレス】はしばらく考えた後、
「とりあえず、やってみろ。だが、長くは待たない。期限は一週間だ。それ以内に決着をつけろ。長くは待たん」
 と言った。
 二人は、
「「わかりました。必ずや」」
 と言った。
 実は【シュガーレス】、本心では出るつもりが無かった。
 自分の考えた世界観をこんなことで傷つけたく無かったからだ。
 これは自分だけの世界と考えていたのだ。
 自分の架空世界に対するナルシスト――それが【シュガーレス】だった。
 このままでは自分の出番が来るかも知れないと思った【シュガーレス】はキレたふりをして、【ラット】と【ミアン】にハッパをかけたのだ。
 自分が出ると言えば、二人は同時に向かうとふんでいたのだ。
 そもそも【シュガーレス】はbP8からbQ0のフィクジュエモクリエーター達が各個、琴太達に向かって行ったのにも反対だった。
 s桁のフィクジュエモクリエーター達は自分で全部を考えることもできないろくでなしと見下していた彼は、初めから全員で琴太達にかかれば良いと思っていたのだ。
 雑魚は雑魚なりに全員で向かっていけば良いと思っていたのだ。
 s桁のフィクジュエモクリエーター達にとってはずいぶん失礼な話だが、確かに、【シュガーレス】の言うことも一理あった。
 bP6からbQ0までのフィクジュエモクリエーター達が琴太達に各個ぶつかっていけば、琴太達は一人ずつでフィクジュエモクリエーター達の作り出す架空世界で戦っていた事になる。
 そうなっていたら、少なくとも今までよりも大苦戦していたのは間違いない。
 全員でかかっていれば、もっと簡単に倒せていたという思いがあるからこそ、【シュガーレス】はいらついてもいたのだ。
 そうやって【シュガーレス】のハッパにより、二名のフィクジュエモクリエーターが同時に琴太達に襲いかかる事になった。
 これまでの様に、bQ1以下のフィクジュエモクリエーター達が徒党を組んで向かって来た時とは訳が違う。
 レギュラーとも言える二名が同時に敵になり、自分達の戦力は分断されるのだ。
 単純に考えても4倍ピンチになっている事は間違いなかった。
 bP6とbP7のフィクジュエモクリエーターの作る架空世界が琴太達に牙をむこうとしていた。


10 野茂 偲(のも しのぶ)再び


 琴太達が激戦を繰り広げていた頃、ティアグラ軍でも動きがあった。
 部下の裏切りにより戦力の大半が削られつつあるティアグラ軍は戦力を少しでも強化するために、ティアグラの欠片核(かけらかく)をその身に宿す野茂 偲(のも しのぶ)を中心に戦力強化をはかっていたのだ。
 bP9フィクジュエモクリエーターにしてbP4ジュエモクリエーターであった【スリッパ】のジュエモ化の技術もその内の一つであった。
 リオン・マルクとは別のもう一名の片腕として、偲の力を上げるために様々な実験を繰り返されていた。
 そのほとんどがジュエモクリエーター達が関わっていたのである。
 琴太達や裏切り者達への火消しにほとんどフィクジュエモクリエーター達がかり出されジュエモクリエーター達がほとんどいなかった理由はそれだった。
 ジュエモクリエーター達が総力をあげて、偲の強化に力を注いでいたのだ。
 ジュエモクリエーター達は実在する存在を元にコピーなどを作る存在である。
 そのコピーの質を上げるために追加装備などを与えることも多々あった。
 その技術は本物の偲の体を使って表現していったのだ。
 どんどん人間離れしていく偲。
 その悲しみを琴太達は気づいてやれていなかった。
 かすかに残る人間としての偲の心が、涙を流させる。
 つうっと頬を水分が伝う。
 だが、気のせいかと思われる様にすぐにその水分は消えた。
 まるで、人間の心を偲が無くしてしまったかのように。
 彼女とはいずれ再会する時も来るだろう。
 その時、彼女に琴太の事を好きだった頃の人間の気持ちが残っているかどうか。
 それはわからない。
 こうしている間にもどんどん、人間という存在からかけ離れて行ってしまっているのだから。
 願うことならば彼女が流した涙が琴太に届けば良い。
 だが、戦う事に必死である彼には届いて居なかった。
 琴太達はティアグラには届いていない。
 また、偲にも届いていない。
 少しでも近づくために琴太達は戦い続ける。


続く。



登場キャラクター説明


001 芦柄 琴太(あしがら きんた)
芦柄琴太
 テララ編の主人公。
 曲がった事が大嫌いな性格。
 義弟である吟侍(ぎんじ)の心臓になっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で身につけた能力である、敵の弱点を突く事により出現する鍵を回す事により敵を倒す事が出来るキーアクションを得意とする。
 鍵十手(かぎじって)も使える。
 ルフォスの欠片核(かけらかく)を体内に宿す。
 更なるスキルアップを目指している。
 【ルツ】の切り札の一つ、【加重撃(かじゅうげき)】という同位相に複数の要素を込めて打てる攻撃力を手に入れる。


002 アリス・ルージュ
アリス・ルージュ
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来たスーパー人造人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 衛星軌道上に攻撃要塞を持ち、未来の通信装備、サイコネットを装備する。
 幼い外見をしているが、レッド・フューチャーの中ではリーダー格。
 性格設定が子供になっているため、コミュニケーション能力は高いとは言えない。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札の一つ、【アンチウイルステクノロジー】というオーバーテクノロジーを手に入れ、自身の体の改造を出来るようになる。


003 ドロシー・アスール
ドロシー・アスール
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た特殊な人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 左目の義眼を取り替える事により、超能力、魔法、錬金術などの能力を使い分けるスイッチファイター。
 三人組の中では一番大人であるため、話し合いなどは彼女が担当する。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札の一つ、【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】という完全に本物として力を得られる三つの力を得る。
 今回三つの内の一つを使い、神キャラの召喚術を身につける。



004 ウェンディ・ホアン
ウェンディ・ホアン
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た合成人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 動植物や虫、魚、鳥類、鉱物にいたるまで、彼女は同化する事が出来、同化したものの能力を強化した形で使うことができる。
 口下手であるため、口数は少ないが、いざという時、居て欲しい場所に素早く駆けつけるなど気の利いた部分も持っている。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札、【セパレーションマイセルフ】という力を得て【ハンズ&フィート(HF)】という移動する手足の様な攻撃能力を得る。


005 ティアグラ
ティアグラ
 吟侍の心臓になっている7番の化獣(ばけもの)ルフォスと引き分けた1番の化獣。
 ルフォス同様に独自の宇宙世界を持っている。
 最強の化獣である13番のクアンスティータの力を欲している。
 全ての策が徒労に終わり、動揺している。
 ティアグラ・ワールドという宇宙世界の所有者でもある。


006 リオン・マルク
リオン・マルク
 ティアグラの腹心の怪物でライオンの要素を持つ。
 動揺しているティアグラに代わり、色々裏で動く。






















007 K(久遠(くおん))
K(久遠)
 琴太達と行動を共にする事になったbPフィクジュエモクリエーターにして二大イメージメーカーの一人。
 六つの最強、最超(さいちょう)、最謎(さいめい)、最高(さいこう)、最大(さいだい)、最極(さいきょく)、最絶(さいぜつ)と呼ばれる力を持っている。
 正体を隠し【K】と名乗って行動しているのはティアグラ軍には彼の消滅者(しょうめつしゃ/地球で言うところのドッペルゲンガー)になる【匿名者(とくめいしゃ)】に察知されないため。
 今回、彼の持つ六つの最強がイメージ化されないという事がわかった。





008 偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】
偉存教教主ソイツァ
 ティアグラ四天王の一人。
 偉存(いそん)と呼ばれる地球で言えば偉人にあたる偉大な存在達のデータを管理する教団の教主。
 クアンスティータにちょっかいをかけ大失敗したティアグラに代わり、覇権を目指そうとする。




















009 謎のフィクサー、【ツィテリュ】
謎のフィクサーツィテリュ
 ティアグラ四天王の一人。
 歴史の闇のほとんどに関わっていたとされる謎のフィクサー。
 ティアグラと共感し一度は協力するものの、ティアグラのふがいなさに失望し、覇権を目指そうとする。


010 二大イメージメーカー【エメロディア・トライアル】
エロメディア・トライアル
 ティアグラ四天王の一人。
 実在化(じつざいか)という形で現実化することも出来る架空の世界、フィクジュエモ界での二大巨頭も一つとされているbQフィクジュエモクリエーター。
 6つの最強を作ったbPの【久遠】には及ばないものの、御十家(ごじっけ)と言うフィクジュエモの世界での主要作品のほとんどに登場している人気キャラクターは彼女が作ったもの。















011 匿名者(とくめいしゃ)
匿名者
 地球で言えばドッペルゲンガーにあたる存在で、消滅者(しょうめつしゃ)と呼ばれている。
 アナザー久遠とも呼ばれ、bPフィクジュエモクリエーターである久遠が作る六つの最強を同じように使いこなす事が出来る。
 ティアグラが、対久遠のために用意した最強の切り札であり、四天王の中で最も信頼されている。










012 スリッパ
スリッパ
 bP9のフィクジュエモクリエーターでありbP4のジュエモクリエーターでもある。
 【神話サモナーズ】というギャラリーの考えた神のキャラクターを召喚させるキャラクターを出す架空世界を作り、ジュエモクリエーターとして、精度の高いジュエルモデルと呼ばれる実在していた存在のコピーを作る技術も得ている。













013 メタリー
メタリー
 bP8のフィクジュエモクリエーター。
 【ラスボスハンター】というエリア内に1000体のボスキャラを配置し、倒していってラスボスを決めるという世界観の架空世界を作り出す。













014 シュガーレス
シュガーレス
 bTのフィクジュエモクリエーター。
 【シャッフル・ワールド】という架空世界を作り出す。
 【シャッフル・ワールド】は独立した三つの世界で独自に話が展開していき、一定期間で起きる【天変地異】というイベントで一部のキャラクターが入れ替わるというもの。
 s桁以下のフィクジュエモクリエーターを見下している。
 自分の【シャッフル・ワールド】の世界観をこよなく愛すナルシスト。


015 ラット
ラット
 bP6のフィクジュエモクリエーター。
 どんな架空世界を作るかは現時点では不明。






















016 ミアン
ミアン
 bP7のフィクジュエモクリエーター。
 どんな架空世界を作るかは現時点では不明。