第001話 恐獣(きょうじゅう)編


01 冒険の始まり 未熟な冒険者達

 岩、砂、土…ぺんぺん草くらいは生えているが、基本的に土…それが、この星、テララの印象だった。
テララ編01話01 琴太達は一路、土の姫巫女がいるとされる土の神殿に向けて進んでいた。
 この先の旅を占ってもらうためだった。
 この星には星見をする事で支配者階級である絶対者・アブソルーター達に生存を許された巫女の集団がいて、姫巫女はその中でも特に強い力を持つと言う。

 テララに到着早々、星の絶対的支配者にまでのぼりつめた絶対者、ルゥオ・スタト・ゴォルの圧倒的気魄により敗走を余儀なくされた琴太達一行はまず、この星で力をつける事が必要だった。

 義弟、吟侍の心臓と同化した化獣(ばけもの)、ルフォスの所有する世界で修行を積んで、かなりの自信を持ってテララに出向いたが、結果は圧倒的な力の差を見せつけられただけだった。

 化獣と言えば、絶対者・アブソルーター達よりも圧倒的に強いはず…しかもルフォスと言えば、その化獣の中でも上位の力を持つとされている。
 そのルフォスの世界で修行したのだから…
 そう、たかをくくっていた…
 が、結果は認識が甘かった。
 ルフォスとは言え、ティアグラという同等の力を持つ化獣との相打ちにより、力の大半を失っている。
 その殆どパワーの残っていないルフォスの世界での修行であったこと…
 また、アブソルーターよりも強いのはルフォス達、化獣であり、琴太達人間がそうではないという事…
 それらの事に気付かず、慢心して冒険に挑んだ琴太達の痛恨のミスでもあった。

 心を入れ替えて修行をし直したいところだが、生憎、ルフォスの宿主、吟侍は風の星、ウェントスへと旅立ってしまっている。
 ルフォスの世界での修行のやり直しは出来ない。
 現実の世界で力をつけるしか無かった。

02 冒険の始まり テララという星の勢力図

 力不足が否めない琴太達一行だったが、そんな中、活躍したのが、野茂 偲(のも しのぶ)だった。
テララ編01話02 偲はくのいち…忍者としての力を最大限に発揮して情報収集をつとめてくれた。

 敵を知り、己を知らば百戦危うからず…
 まずは、敵を知ることから始めたのだ。

 偲は、テララの星に隠れているレジスタンスとの接触に成功した。
 そのレジスタンスと偲独自の調査によってテララという星の大体の勢力図が見えて来た。

 それによるとテララは6名の上位絶対者達が星を支配しているとの事だった。
 その下に22名の中位絶対者が存在し、正式な拠点を持つのはこの中位絶対者までで、その他の下位絶対者や怪物等は各地を転々としているか、小さな集落を襲ってそこを拠点代わりにしているという。
 上位絶対者はルフォス以外の化獣の加護を得ているという。
 条件で言えば、琴太達と同じ…いや、ルフォスのように力の大半を失っていない分、向こうの方が上だったのだ。
 そして、その上位絶対者、ルゥオクラスの力を持つ者が他に5名いるという事でもあった。
 また、中位絶対者達は神御(かみ)や悪空魔(あくま)の加護を受けているという…。
 神御や悪空魔は神話の時代、化獣を倒したとされる存在…
 その力を受けている中位絶対者達の力も侮れなかった。
 そこから考えると、琴太達が現在、渡り合えるとすれば、下位絶対者か怪物達という事になる。

 現在、琴太達のいる位置から土の神殿までの一本道の間に小さな町があり、そこには下位の絶対者が我が物顔でのさばっているという。
 琴太達の腕試しとしては手頃な相手といったところだろう。
 彼らは少しでも経験をつみ、スキルアップをはからねばならないのだ。

03 不平不満…

「話が違うんじゃねぇか、なぁお兄様よ…」
テララ編01話03 救出チームの一員、ジャック・クローバーが不満を漏らす。
 彼は、エース・スペード、キング・ダイヤ、クイーン・ハートと共に賞金稼ぎを生業としていて、吟侍=ルフォスの世界で一ヶ月、時間を操作しているので、修行期間はまる3年間になるが…それだけ修行を積み、今回の土の惑星、テララでの救出チームに参加している。
 修行させてもらったという事で、出現する雑魚モンスター等はサービスで倒すが、ボスクラスを一体倒す毎に賞金をもらう事になっていた。
 圧倒的な力を身につけた今、ボスは狩り放題…のはずだった。
 だが、いざ、フタを開けてみたらルゥオの前に惨めな敗走という無様な醜態をさらしてしまっていたからだ。
 戦うまでもなく、圧倒的な格の違いはジャック達にもはっきりとわかってしまった。
 このままではボスクラスなど一体も倒せない…。
 まともにぶつかれば犬死にするだろう…。
 その不満をチームリーダーの琴太にぶつけたのだ。
「その、お兄様ってのをやめてくれねぇか…俺には芦柄 琴太(あしがら きんた)って立派な名前があるんだからよ」
「そりゃ、人名字典であんた自身が適当につけた名前だってんじゃねぇか…そんなご立派なもんかね」
「文句があるならいつでも相手になるぜ」
「やだね、俺は無駄な体力は使わない主義なんだ。あんたをぶっ殺しても一文にもならねぇからな」
「やめろよ、二人とも、だが、琴太、俺も納得してねぇぜ」
「エース…」
 琴太とジャックの仲裁に入るエースだが、彼もどちらかと言えば、ジャックよりの考えの持ち主だった。
 彼だけじゃない…キングとクイーンもジャックの意見に賛成するだろう…
 琴太側の意見は偲だけだろう…
 彼らが琴太を【お兄様】と呼ぶのは皮肉を込めてである。
 決して慕っての事では無かった。
 英雄、吟侍の兄という意味で【お兄様】なのだ。
 エース達はこう言いたかったのだ。
 自分達が吟侍のルフォスのような強大な力を身につければ良かったのだと…

 だが、琴太に言わせれば、それはお門違いというものだった。
 吟侍も好きでルフォスの力を身につけた訳ではない…。
 また、ルフォスの力を持ったからといって、勝ち続けられる訳でもない…。
 逆に、ルフォスは最強の化獣、クアンスティータを意識しているので、クアンスティータが出てくれば、負け続けるだろう…。
 それに、大きな力を手にするという事はそれだけ大きなリスクも手にするという事である。
 覚悟も無い者が手にしても、結果は自滅するだけ…
 吟侍にはその覚悟があり、ルフォスに才能を認められたからこそ、その力を得たのである。
 琴太も含め、このチームの誰だとしてもルフォスの力を手にする事は出来なかっただろう…。
 吟侍だったからこそ…彼が、ルフォスとの交渉を成功させたからこそ…こうして、自分達も力をつけさせて貰えたのだ。
 だが、その事をエース達に言えば、仲違いともなりかねない…
 そう思い、琴太は言葉を飲み込んだ。

04 恐獣(きょうじゅう)フラー

 絶対者アブソルーター…
 神御や悪空魔になりそこねた者達…
 神御の様に神性を帯びている訳でも悪空魔の様に魔性を帯びている訳でもない…。
 その特性は明確な区別がある訳ではない…。
 ただ、特別な力を持ち、我が物顔で振る舞う暴君のような存在…
 それが、アブソルーターと呼ばれる者達だった。
 そのため、一口に言っても様々なアブソルーターが存在した。
 
 中にはアブソルーターを更に細かく分けた呼び方でするものもいる…。
 琴太達の前に立ち塞がっているアブソルーターもそんな中の一つだった。
 別の言い方をすれば、恐獣(きょうじゅう)という部類に入る。
 恐ろしい獣という意味だ。
 恐獣という絶対者の特徴は変身能力を持つ獣人というのが正しい表現だろうか…
 人間の部分と二種類以上の獣の部分を持ち、100%の内、人間を何%、獣を何%という様に割り振る事によって、フォーム…戦闘携帯を自在に変える。
 もちろん人間100%や獣100%という場合もある。
 例外も有るが、恐獣という絶対者はそういうタイプの怪物だった。
 その小さな集落は絶対者・フラーという恐獣が支配していた。
 正式の統括ではない…。
 無理矢理支配下に置いたのだ。
 フラーの特性は人間の部分以外にバッファロー、ゴリラ、グリズリー、シロサイという4種類の獣の部分を持っていた。
 フラーは普段、人間型だが、自在に獣の部分を自らの身体に混ぜる事が出来る。
 混ぜる獣は一種類ずつではなく、例えば、人間20パーセント、バッファロー30%、ゴリラ10%、グリズリー20%、シロサイ20%等の様に、ごちゃ混ぜに混ぜる事も可能である。
 フラーには、4名の恐獣の部下がいて、
 虎と猿を体内に宿すニコライ…
 蛇と蠍を体内に宿すギルバーグ…
 猪と河馬を体内に宿すゴウス…
 蜘蛛と蝙蝠を体内に宿すエロワ…
 この四名は元、人間だった。
 恐獣の特徴としてもう一つ加えるのならば、仲間を増やす能力があるのだ。
 親となるフラーより体内に宿す獣の数は少なくなるのだが、噛みついた相手の体内に恐獣菌という細菌を注入することにより、親であるフラーに忠実な下僕となる子供(恐獣)を作り出す事が出来るのだ。
 いったん、この菌に侵されてしまうと通常の解毒薬ではまず、治療は不可能。
 それだけ、危険な力だという事である。
 この子供を作り出す事から、恐獣という名称が出来たのだ。
 力としては最下級である下位絶対者のフラーだが、それでも、冒険初心者の琴太達にとってはかなりの強敵だった。

05 いざ、勝負 エースVSニコライ

 諜報活動に出た偲を除けば、琴太達は5人…。
 敵の数も5人…。
 タイマンで勝てない様ではこの先、話にならない…
 そこで、助け合いはなしで1対1の勝負をする事になった。
 ここは一つ、真っ向勝負という事になった。
 琴太達は、人々を虐げていたフラー達に正面から勝負を挑む事にした。
 その場にいた配置から、琴太VSフラー
 エースVSニコライ
 ジャックVSギルバーグ
 キングVSゴウス、
 最後にクイーンVSエロワの女性対決となった。

 まず、エースVSニコライの戦いが始まった。
テララ編01話04 エースはルフォスの世界で、右の手のひらと左の手のひらの間にある空間を歪ませる能力を得て来た。
 つまり、ニコライの身体を左右の手のひらの間で挟み込めばダメージを与える事が出来る。
 元は人間…とは言っても今は怪物…
 ニコライの生死はエースにとってはどうでも良かった。
 身につけた力を悪用して悪さをしていた悪党には違いない…
 だったら、消すだけだ…
 それが、エースを始めとする賞金稼ぎ組4人の考え方だった。
 その点は琴太と考え方が違っていた。
 救える方法を模索する…。
 例え、そのために余計なダメージを受けようとも…。
 だが、そんな考えはエース達からすれば、ナンセンス。
 愚かな戦い方でしかない…。
 下位絶対者であるフラーが作り出した恐獣レベルなら、エースは苦戦するまでもない…。
 余裕で勝利をおさめられた。
 ただ、後は勝ち方である。
 敵を生かすか殺すか…
 彼は後者を選んだ。
「エース、お前!」
 琴太が怒鳴り声を上げる。
 無惨に殺したのを見たからだ。
「琴太、よそ見していて良いのか?この中じゃ、お前が相手にしているのが一番の大物、油断していると寝首かかれるぜ」
 自分の仕事をさっさと済ませたため、後は岩に腰掛けて黙って見ているエースだった。

06 ジャックVSギルバーグ、キングVSゴウス、

 続いて、ジャックとギルバーグの戦いが始まった。
 長いしっぽの先に蠍の猛毒の針がついているギルバーグの攻撃をジャックはかわす。
 続けざまに攻撃に移る。
 彼が、ルフォスの世界で身につけた力はナイフの様に尖った爪だ。
 彼は自在に爪を伸ばし、それに気を込めて敵を切り裂く事が出来る。
 手の爪だけでなく、足の爪も同じ事が出来るので、20本の鋭いナイフを持っているようなものだった。
 ギルバーグが猛毒をジャックに打ち込むのが早いか…
 ジャックがギルバーグの身体を切り刻むのが早いか…
 の勝負だった。
 恐獣になったとは言え、元々は素人のギルバーグに対して、賞金稼ぎとして、生計を立てていたジャックの方が一枚も二枚も上手だった。
 彼も、エースと同じく敵にかける情けは微塵も持っておらず、ギルバーグだった者は細切れの肉の塊へと変貌した。

 次は、キングとゴウスの戦いだ。
 猪の突進力に加え、河馬の強靱な顎で攻撃をしてくるゴウスに対し、キングがルフォスの世界で身につけた力は10秒間の具現化能力だった。
 異次元空間に貯蔵してある武器などをイメージする事によって、10秒間だけそれを現世に具現化させる事が出来るのだ。
 キングはゴウスの突進を上手く利用して、その進行方向に剣や槍の山などを具現化させて、ダメージを与えていく。
「よせ、その辺で…」
 という琴太の声は完全に無視である。
 虫の息となったゴウスに対して更に追い打ちを仕掛け、具現化させた大鎌で彼の首を切り落とした。

 それを琴太との間合いを計りながらみていたフラーの表情が変わった。
 残るはクイーンVSエロワと琴太VSフラーの二戦のみ。
 琴太チームの勝率が濃くなってきた。

07 戦闘能力アップ クイーンVSエロワ
 
 フラーは蝙蝠の翼を使って、クイーンと距離を取って戦っていたエロワを呼び寄せ口づけした。
 エロワの喉に何かが入ってくる。
 配下の力不足を補うために戦闘能力をアップさせる事にしたのだ。
 フラーの子供となる恐獣達にはフラーより少ない獣しか宿せない。
 だが、フラーは4つ、子供達は2つの獣を宿していた。
 つまり、フラーの子供達にはもう一種類の獣を宿すスペースが空いていたのだ。
 エロワは更にもう一つ、ピラニアの力も宿した。
 
 対して、クイーンはルフォスの世界で身につけた力を使おうとしていた。
 彼女が得た力とは、自在に動き触れたものを溶かす溶解質の髪の毛だった。
 耐性を持っている彼女以外のものがふれるとたちまちドロドロに溶かしてしまうという危険な能力だ。
 溶解濃度が0から10まであり、普段は0の状態にしてある。
 溶解濃度が7以上になると彼女自身にも危険が迫る危ない能力でもある。
 彼女は濃度を3にまで上げた。
 木の葉くらいなら簡単に溶かしてしまう程の濃度だ。

 クイーンとエロワ…
 どちらも殺傷能力はかなりある特殊能力を使う使い手だ。
 やられた方はタダではすまないだろう…。
「さぁ、どうやって仕留めようかしら…」
テララ編01話05 髪を振り乱し、舌なめずりをするクイーン。
 とても正義の味方という表情には見えない…。
 対するエロワの方も戦闘準備万全のようだ。
 二つの獣を宿していた時とは明らかに戦闘能力に差があった。
 かなりの戦闘能力アップをしていたのだ。
「…ちょこまかとうるさいわね…」
 ヒットアンドウェイで攻撃を仕掛けるエロワを鬱陶しくおもうクイーン。
 蜘蛛の糸も撒き散らしていて、戦いにくかった。
 クイーンは溶解濃度を5まで引き上げ、蜘蛛の糸を解かしながら間合いを詰めていった。
 そして、善戦したもののクイーンの方が、経験値の差で勝利をおさめた。
 トドメとばかりにエロワに詰め寄るクイーン…。
 それを遮ったのは琴太だった。
「…もう、良いだろ…彼女達も被害者だ…」
「はぁ?何言ってんのよ、琴太!こいつらは悪い奴。だからぶっ殺す。それでいいでしょ」
「確かに、悪い奴かも知れねえが殺しまではやっていなかった。だから、殺すことはねぇ、彼女達も反省するかも知れねぇ」
「バカ言ってんじゃないわよ。こんな奴に情けかけて何の得があるってぇのよ」
「損得の問題じゃねぇ、気持ちの問題だ」
 クイーンと琴太がもめている間にエロワは逃げ出した。
「ほら、逃げられたじゃない」
「良いんだ、行け!」
 エロワを見送る琴太。
 そこに…

08 琴太VSフラー 力比べ

「よそ見するな!」
「ぐわっ…」
 フラーが回し蹴りをしてきた。
 吹っ飛ぶ琴太。
「その女の言うとおりだ。甘い奴だな、貴様」
「なんだと…」
「お前達の手を借りずとも、エロワ…あの役立たずは後で始末してやる。お前達を皆殺しにした後でな」
「おめぇが悪の総元締めか…。するってぇとてめぇをぶちのめせば事は足りるって事だな」
「敵に情けをかけるようなクズが俺に勝てると思っているのか?」
「情けをかける余裕のねぇ奴には負ける気はしねぇな」
「言っておくが、俺は貴様らが相対したカス共とは違うぞ」
「仲間をカス呼ばわりか。やっぱ、おめぇは好きになれねぇな…」
「ほざけ、行くぞゴミ!」
「かかってこい!」
 琴太とフラーがぶつかる。
 正面からの力比べだ。
「どうした、小僧?」
「小僧じゃねぇ、俺は琴太だ」
「ぬっ…こ、こいつ…」
「根性ぉ〜っ」
「き、貴様ぁ…」
「ぜぇはぁ…どうでぇい…」
 なんと、琴太はフラーとの力比べに勝ったのだ。
 人間30%、ゴリラ50%、グリズリー20%というかなりパワーを出していたのにフラーは力負けした。
 フラーは一旦、引いてシロサイ100%となって突進してきた。
 琴太を突き刺すつもりだ。
「おぉ〜っと、あぶねぇなぁ…」
 すかさず、用意してあった十手でフラーの突進を防ぐ。
 琴太もまた、ルフォスの世界で特殊能力を得ているのだが、まだ、それは見せていない。
 特殊能力無しでも十分、絶対者と渡り合える所を見せたかったのだ。
 フラーはバッファロー100%でも試みたがやはり、琴太に攻撃を防がれた。
「ぐぬぬぬぬ…」
「俺はお前にゃ、負けねぇ…負けを認めて、退散しろ。だったら許してやる…」
「…ふざけるな…ふざけるな、ふざけるなぁ〜」
 フラーはバッファロー、ゴリラ、グリズリー、シロサイの体内%と細かく変化させ、様々な角度から攻撃をしかける。
 それを琴太は器用にかわしていく。
「…言ってもわからねぇタイプのようだな…仕方ねぇ…」
 琴太はフラーの心臓部を殴り、そこから、何かを取り出した。

09 琴太VSフラー 納得のいかない決着

 大きな鍵の様に見える…。
「…これからお前ぇの力を分解する…」
 そうつぶやくと大きな鍵をフラーの心臓部に突き立てる。
「な、なんだぁ…」
「そうら…」
 そのまま、鍵を回す。
テララ編01話06 ガチャッという音がしたかと思うとフラーの身体からパワーが無くなっていく。
「な、何をした…」
「早く、人間型に変身しろ。その姿がお前の唯一の姿になる。力は完全に無くなる…」
「何だと…」
 フラーは琴太の言うことを聞かずにバッファロー30%、グリズリー70%の姿になる。
 その姿はまるで悪魔のようだ。
「忠告はした…残念だ…」
 フラーの姿はそのまま固まった。
 彼の姿はそれ以上変わることはない…
「な、なんだ…姿が変わらん…」
 フラーはバッファロー50%シロサイ50%に変化させたつもりでいたが、バッファロー30%、グリズリー70%の姿から変わることはなかった。
「そ、そんな…」
 青ざめるフラー。
 そんな彼にトドメの一撃が…。
「さっきのお礼よ。とっといてね」
「クイーン、お前…」
 トドメをさしたのは先ほど、エロワとの戦いを琴太に邪魔されたクイーンだった。
 彼女は溶解濃度7にまで引き上げた髪でフラーを包み込み、彼を溶かしてしまった。
 フラーに琴太達を戦える戦闘能力は残っていなかった。
 トドメをさす必要は無かったのに…
「敵は殺してなんぼよ。覚えときなさい…」
「違う…断じて違う…」
 意見が衝突する琴太とエース達。

「ただいま…あれ?どうかした?」
 偲が偵察から帰るとそこには口をきかないでいる琴太とエース達の姿があった。
 この救出チームに出来てしまっている不協和音は大きくなっていった。

10 不協和音

「ねぇ、琴太君。セレナータ王子って覚えてる?」
「あぁ、確か、お花とおそなの弟だっけか?」
 偲はチーム内の雰囲気を少しでも和らげようと会話してきた。
 お花とは水の惑星、アクアに向かったカノン姫の事、おそなとはその双子の姉で吟侍と同じ風の惑星、ウェントスに向かったソナタ姫の事だった。
 二人とも琴太達とは幼馴染みである。
 二人の弟、セレナータは琴太に対して強い気持ちを持っていた。
 彼の男気に惹かれて、出発するまでつきまとわれていたのだ。
 この惑星テララへの救出チームにも参加すると言ってきかなかったが、何とかなだめて諦めてもらっていた。
 偲はそのセレナータの話を持ち出して何とかこのピリピリとした雰囲気を改善したかったのだが…。
 興味ないと言わんばかりにエース達は席を外した。
「あぁ…これからなのに…」
 偲はシュンとした。
 これが、カノン王女だったら…
 そう思うと情けない気持ちになった。
 カノン王女…
 琴太の義理の弟、吟侍の彼女である…
 王女にして歌姫…発明もこなすスーパープリンセスである…。
 彼女は惑星アクアに向かう時、交渉で人助けをすると言っていた。
 そんな事で人を助けられる訳はない…
 誰もがそう思ったはずである。
 彼女を心配し、万人が反対する中、彼女は意見を曲げず、カノンは自分に対するイエスマンでは無く、真っ向から反対意見を出していた七英雄という不良グループを救出チームのメンバーに選んでいた。
 七英雄は確かに反対意見を出していたが、それでも、彼女の事を心配したから…彼女の事が大好きだからそうしたのであって、彼女を守りたいという気持ちでは一致している…。
 残念ながら、自分には彼女の様にまとめ上げられる程のカリスマ性はない…。
 でも、その真似事だけでもと思い試してみたが、やはり慣れない事はするものではないと思うのだった。
 実際にはカノンはカノンで苦労をしているのだが、プリンセスに憧れる偲にとってカノンは何でも出来るようにうつっていた。
 仲間達の気持ちを一つにしなくては…
 そうは思うのだが、エース達は自分達の主義を曲げようとはしないし、琴太は頑固…
 なかなか一致団結という訳にはいかなかった。
 琴太チームは気持ちがすれ違ったまま、土の神殿へとたどり着いた。

11 土の姫巫女 ドゥナ・ツァルチェン

 土の神殿…
 というからにはご大層な作りかと思えば、確かに大きな建物ではあるのだが、ここが本当に神殿かと思う程質素な作りだった。
 土の巫女達に出迎えられ神殿の奥へと進んで行った。
 奥には姫巫女の部屋が用意されており、そこに、土の姫巫女、ドゥナ・ツァルチェンがいた。
「お待ちしておりました。私がこの土の神殿の責任者、土の姫巫女、ドゥナ・ツァルチェンと申します」
テララ編01話07 「…これはご丁寧に…俺…いや…私がこのパーティーのリーダーを務めさせてもらってる芦柄 琴太といいやす」
「ちょっと、琴太君、言葉使い、ちょっとおかしいって…」
 琴太のしゃべり方がおかしいのを偲が指摘する。
「うるさい、丁寧語は苦手なんだよ…」
「…普段話されている言葉で結構ですよ」
「そ、そっすか、悪いね、どうもかしこまった事は苦手で…」
「ちょっと、良いの、琴太君?」
「この人が良いっつーんだから良いんだろ?」
「はい、かまいませんよ」
「そうですか、すみません、礼儀を知らないリーダーで…」
「どうか、お気になさらずに…」
「じゃあ、遠慮無く…あんた、俺たちの事を待ってたって言ったけど、それは一体、どういう事なんだ?俺たちは別に連絡して来た訳じゃねぇが…」
「私は星見をしていましてね。あなた方の訪問はあらかじめ見えていました」
「星見?」
「占いのようなものだと思ってもらって結構ですよ」
「なるほど…でもすげえな、俺たちの訪問を当てちまったんだからな」
「未来はある程度、予見することが出来ますが、未来を変える力はありません。私はこの星の支配者に命乞いをしている惨めな存在に過ぎません…」
「そんなにご自分を卑下することはないと思いますよ。私が調べた所によると、ここは、人間にとっての安全地帯だって言ってましたよ。絶対者からそれを確保出来るなんて凄いと思いますけど」
 偲はドゥナを褒めた。
 実際、ドゥナが絶対者達に星見をする事により、この土の神殿は絶対者達が安全を保証していた。
 土の神殿に居る限り、その人間が理不尽に殺されたりすることはないのである。
「命の保証があるのはこの土の神殿の敷地内だけです…この神殿を一歩でも外に出れば、殺されても文句は言えません…」
「神殿を出られないってのは辛いな…」
「いえ…、それでも、戦う事を諦めている私達には過ぎた待遇です…」
「人には役割ってもんがあると思うぜ。だからって訳じゃねぇんだが…」
「はい…星見をさせていただきました。あなた方…このテララの救世主となるかも知れない方々の事を…」
「そいつは何かの間違いだ。救世主ってのは俺の弟の事かも知れねえが、俺はそんな器じゃねぇさ…」
「いいえ、貴方です。このテララの救世主は…ただ…」
「ただ?」
 琴太は首をかしげた。

12 星見

「星見ではこのままでは危険だと出ています。風の便りが必要だと出ています」
「風の便り?」
 琴太はその意味が何となく解るような解らないようなもやもやした気持ちになった。
 【風の便り】とは恐らく吟侍の向かった風の星、ウェントスの事ではないかと思った。
 だが、便りという部分が何のことだか解らない。
「風には連絡をしておきました。後は便りが着くまでに最善の対処を取るしかないと思っています」
「対処…?」
「はい、そうです。野茂 偲さん…」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたはすぐにでも故郷にお戻り下さい。不吉な相が出ています」
「戻れって言われましても…まだ、テララに来たばかりですし…」
「…残念ながら、テララと貴女との相性は最悪です。このまま旅を続ければ良くない事が起きるでしょう」
「そう、言われましても…」
 偲は困ってしまった。
 琴太達のチームワークは今、最悪の状態だからだ。
 エース達はくだらないと言って、土の神殿には入らず、外で時間を潰している。
 こんな状態の琴太達を残して、セカンド・アースに戻る事など出来ない。
「すみません、私はそれには従えません」
「…琴太さん達の事がご心配でしたら、私は時が来るまで、琴太さん達にはこの土の神殿にご滞在をお願いしようと思っていますよ」
「悪いが、そいつは俺も聞けねぇな。友達を助けてぇんでな。待ってたらその分、友達は苦しんでいるかも知れねぇ…先を急ぎてぇから星見ってのをやってもらったら俺たちはすぐにでも出発するつもりだ」
「…時を待つ事も大事ですよ」
「苦しんでいるかも知れねぇ友達をほっぽっといて待つ時間はねぇと俺は思っている」
「私はあなた方に死んで欲しくないのです…」
「俺もやられるつもりはねぇ…」
 話は平行線をたどった。
 やがて、諦めたのかドゥナは星見の他の結果の事を話始めた。
「…フラーという絶対者ですが、生きています…」
「生きて?そいつは良かった…でも、どうやって?」
「男性から女性に変わったと出ています」
「男から女に?…!そういう事か…」
 その星見に琴太は納得した。
 フラーはエロワとキスをしたとき、本体をフラーからエロワにうつしていたのだ。
 隙を見て奇襲をかけるつもりで…
 だが、エース達の非情さと隙が見あたらなかったのを見て退散したのだろう…
 いつか、力を取り戻して復讐に来るかも知れない…
 その時はその時でまた相手をしてやるつもりになった。
「それと…お友達ですが、この近くには居ません…ここからだとかなり離れていますが、一番近い方で、ここから二時半の方角に50キロ程行った所に…」
 ドゥナの星見で攫われた友達が居る可能性がある場所を占ってもらい、礼を言った。
「どうしても、行かれるのですか?」
「…悪いな、都合の良い所ばかり信用して…」
「御武運を…」
「1人助けたらまた、寄らせてもらう。そんときゃ、また、占ってくれ」
「はい…どうかご無事で…」
「行ってきます」
 琴太達は結局、ドゥナの制止を振り切って出発した。
 ドゥナも諦め、ただ無事を祈るのだった。

13 フラーの行方

 一方、新たなるフラーとなったエロワはとある沼にたどり着いた。
 禍々しいその沼には他の恐獣達が立ち寄る場所でもあった。
 絶対者としては弱い恐獣達は寄り集まる事によって他の絶対者に対抗していた。
「どうしたフラー?性転換か?」
「随分、焦っているようだが、どうしたんだ?」
 他の恐獣達が声をかける。
 姿形が変わっても匂いで解るのだ。
「あぁ、パルヴァーにクレーツァか…クティノス様は?」
 様とつける以上、クティノスと言う恐獣はフラーよりも格上の恐獣だと推測出来る。
 どうやら仲間を連れて復讐を計画しようとしているようだった。
「クティノス様なら…例の三薬を取りに行ってるらしいぜ」
「その三薬…飲ませたい奴らがいる…」
 エロワは怪しく笑う。
 三薬…三つの薬…これが、偲の運命を変える事になる薬だとはその時、琴太達は夢にも思っていなかった。
 沼にはエロワ、パルヴァー、クレーツァ以外にも10数体の恐獣が居た。
 冒険開始早々、厄介な敵を作ってしまった。
 エロワは元のフラーの身体が無くなった事により、許容する獣の数が四つになった。
 沼の力により新たなる獣、シャチの力も手にした。
 この沼は恐獣にとっての聖地、獣の沼と言った。
 怪しく光る恐獣達の瞳…
 獲物を狩る時の目だった。
 琴太達と恐獣達は完全に敵対したのだった。
 
14 一人目の友人…ハンス・ルイニ

 恐獣達うごめいているのに気付かず、琴太達は先を急いだ。
 ドゥナによって一人目の友人の名前が出たからだ。
 その名前はハンス・ルイニ…
 絶対者に攫われる前は琴太が庇ってあげた、いわゆるいじめられっ子である。
 苛めていたポール・オールウェイズ、エルナ・オールウェイズとと共に攫われてしまった、孤児院仲間である。
 琴太は訳ありでジョージ・オールウェイズ神父が父親代わりをしている孤児院で育てられている。
 ポールとエルナもそんな孤児院で暮らした仲間だった。
 ジョージ神父の提案により、名前を変えたいもしくは名前の無かった子供は人名字典で名前を選ぶことになっていた。
 ポールとエルナはジョージの子供になりたいからとオールウェイズ姓を名乗っていた。
 ハンスも孤児院育ちだが、両親からもらった名前は変更しなかった。
 名前を変更する子供と名前をそのままに名乗る子供…
 この二種類の子供は一時期対立した。
 人数は名前をそのまま名乗る子供の方が多かったが、琴太や吟侍などの実力のある子供の多くが名前を変更する方だったので、苛められるのは名前をそのまま名乗る方だった。
 だが、弱い者苛めが大嫌いだった、琴太や吟侍はよく名前をそのままにした子供の方を庇っていた。
 だが、琴太達の知らない所では陰湿な苛めなどが横行していた。
 苛めは次第にエスカレートしていき、それはジョージ神父の知る所となった。
 ジョージ神父は苛めをしていたポールとエルナに問いただしたがついには何も言わなかった。
 後から知った事だが、ジョージ神父に知らせたのは吟侍だった。
 彼はハンスが苛めを受けていたのを知っていたのだ。
 琴太は吟侍に何故、早く止めなかったのか問いただしたら、彼は
「おいらには、難しくて、よくわかんなかったから」
 と言った。
 当時は解らなかったが、エルナはハンスの事が好きで、ポールはエルナの事が好きだったらしい…。
 子供だった吟侍には人を好きになる気持ちが良く理解できずにいて、どう行動したら良いのかわからず、戸惑っていたのだ。
 そして、苛めがエスカレートしそうだったので、ジョージ神父に判断を仰いだのだ。
 男女の仲というのは今の琴太もいまいち、解らない…
 当時としては、吟侍は最善の方法をとったと思う。
 今の琴太に果たして、それが、出来るかどうか…。
 小さかった頃とは違い、今、判断ミスをすれば、命に関わることもある…。
 ハンスの事を思い出しながら、それを肝に銘じるのだった。

 そう、考えていた琴太に先に行って偵察をしていた偲が、新たな情報を告げる。
「琴太君、落ち着いて聞いて欲しい…ハンス君はどうやら…絶対者になったみたい…ポール君とエルナさんを…奴隷として使っているみたい…」
「何?」
 琴太は偲の言う事が俄には信じられなかった。

 偲の話をまとめるとこうだった。
 正確にはハンスが絶対者になったというのは間違いだった。
 彼が可愛がっていたオウムに絶対者コントラストが取り憑き、彼に力を与えているとの事だった。
 コントラストはフラーと同じ恐獣で、その亜種にあたる絶対者だという。
 スペシャル・キメラとでもいうべき怪物で、普通の恐獣との違いは、取り込んだ獣の要素を体内でコントロールして、100%計算で獣の部分を何%に割り振る事で、その獣の要素の一部分を能力としてつかうのに対し、この亜種はどんどん際限なく取り込んでいき、どんどん姿を変えていくというものだった。

 すでに、1000種類以上の獣を吸収しているコントラストは極度に肥大化し、獣というよりよく解らない物体のようになっている。
 身体も真っ黒に変色し、元のオウムだった姿は面影も無くなっている。
 唯一残っているとするなら、人語を話すという事くらいだろうか。

15 VSハンス

 ハンスの居る集落にたどり着いた。
 まだるっこしいのは嫌いだと、直接、ハンスに会いに行った。
 敵対した場合、エース達がまた、殺してしまうかも知れないと同行に反対したが、エース達はついてきてしまった。
 久しぶりに会ったハンスは大きく成長していた。
 と、言ってもそれは見た目だけで、やっている事は苛めていた人間と同じ事をしていた。
 いや、それよりもエスカレートしていた。
 そこには犬のように食事をさせられているポールとエルナの姿があった。
 既に、反抗する気力もないのか目が死んだ魚のようになっている。
 目に焦点が合っていない。
 苛めは放っておくとどんどん、エスカレートしていく…
 攫われたハンス、ポール、エルナを止めるものが居なかったのだろう…
 コントラストの力を得たハンスの暴走はポールとエルナから普通に生きていく気力を奪っていたのだ。
「やぁ、琴太だね…久しぶり…七年ぶりか…大きくなったね…」
「ハンス、お前はしばらく見ねぇ内に、根性が腐っちまったようだな…」
「僕が、こいつらに受けた事と同じ様な事をやっているだけじゃないか…それの何がいけない?」
 ハンスはポールの顔を蹴ってみせた。
「…人にはやったらいけねぇ事がある。お前ぇはそれをやっちまったみてぇだな…」
「強くなったんだよ僕は。だから弱い奴をどう扱おうと僕の勝手だろ…」
「お前ぇは強くねぇよ、…弱い者苛めってのは心の弱い人間がするもんだ…。人間の場合いは多人数で少数を苛める…お前ぇの場合はその化ケモンの力を借りて、ふんぞり返っているだけの偽モンの力だ」
「なんだよ、せっかく特別扱いにしてやろうと思っていたのに…。もう、いいや、お前もいらないよ、消えちゃえ琴太」
「俺の方はちゃんとお前ぇを強制送還するって仕事があるんでな。消える訳にはいかねぇんだよ」
「やっちゃえ、コントラスト」
「ヤッチャウ、コントラスト」
テララ編01話08 ハンスと気持ちがシンクロしているのかコントラストが暴れ出す。
 それを黙ってみていたエースが口を出す。
「琴太、これが、現実だ。お前のやり方じゃ誰も救えねぇ。こういう道を外したクズはとっとと始末するに限る」
 エースの両手に歪みが発生する。
 その両手をコントラストに触れてコントラストを削っていく。
「ぎょげげぇぇぇぇぇえっ」
 奇声を上げるコントラスト。
 ダメージを受けているのだ。
 だが…
「がっ…」
 エースが吹き飛ばされた。
 1000体以上の獣を吸収したコントラストはものすごいパワーで、ジャック、キング、クイーンも締め上げる。
「忍法、花縛りの術、…駄目」
 偲が捕獲を試みるが効果がない。
 エースが削ったコントラストのかけらがもぞもぞと動き出し、琴太達を襲う。
「このやろっ!」
 琴太は何とかコントラストの心臓部を探そうとするが、見つからない。
 心音が聞こえないのだ。
 琴太の能力は心臓部を殴る事によって、敵の弱点となる大きな鍵を作り出すというものだ。
 そうやって、フラーも倒した。
 だが、このコントラストには大鍵をを作り出すための心臓部が見あたらなかった。
 どこだ…どこにある…
 琴太は懸命に探すがいっこうに見つからない…。
 琴太は考えを巡らせる。
 そして…
「偲!」
「!了解!」
 琴太は偲にサインを送る。
 それを理解したのか、偲は、琴太のそばにより
「陽炎の術」
 忍法を使い、琴太の幻をいくつも作り出した。
 コントラストが戸惑う。
 パワーは凄いがコントラストは知能戦にむいていなかった。
 相手が何処にいるか解らないとなるととたんに動揺してしまう。
 そんな隙をついた琴太はハンスの前までやってきて…
「ここだ!」
 ハンスの心臓を殴った。
 そして、ハンスの心臓から、大きな鍵を取り出した。
 そして、その瞬間、コントラストに心臓部が出現した。
「お前ぇらは二つで一つ」
 琴太はハンスから取り出した鍵をコントラストの心臓部に差し込み、回した。
 すると、今度はコントラストから大きな鍵が出現し、それをハンスの心臓部に突き刺し回した。
「あぁぁぁち、力がぁぁぁぁぁ…」
 力が急速に無くなっていくことを感じるハンス。
 コントラストから、次々と獣の元が抜け出てくる。
 色も段々薄くなり出した。
 黒から白へと近づいている。
「お前ぇの持っていた力は、所詮、かりそめの力だ。お前ぇはこれから、セカンド・アースに戻って、人生をやり直してもらう。…ポールとエルナにした仕打ち…やられた人間は絶対に忘れねぇ…それは苛められてたお前が1番、よく解る事だろ?償ってこい…」
「そ、そんな…」
 ハンスはどうしたらいいのか解らない様な表情を浮かべる。
 自分がしてしまったことがまだ、よく理解出来ていないのだ。
「親父のとこで懺悔してこい」
琴太に言える事はそれだけだった。
 彼には答えはわからない…。
 ただ、彼の育ての親、ジョージ神父なら、的確な答えを用意してくれる…。
 そう思うからこそ、ハンスを義父の元まで送る事を選択した。
「おい、琴太、まさか、こいつを生かしておくんじゃ…」
 反論するジャック。
「もちろん、そうだ。ハンスは人殺しをしていたわけじゃねぇ。殺す理由なんてねぇさ。人を殺していたとしても、裁いていいものかどうか、俺にはいまいちわからねぇが…」
「ふざけるなよ」
「だから、ふざけてねぇって。お前らも何でも殺すとか言うなよ。俺たちは人命救助に来たんだ。断じて、人殺しに来た訳じゃねぇ!!」
 またしても平行線をたどる琴太とエース達…
 だが、既に、ハンスには抵抗する気力は失せている感じがした。
 コントラストの力と共に自分への自信を失ったのだ。
 この状態のハンスを殺せば、ただの人殺しと思われても仕方がない…。
「ちっ…」
 ジャックは舌打ちする。
 エース達も同じ気持ちだった。
 気持ちがすれ違うメンバー…

 とりあえず、偲とクイーンの女性陣が、琴太達の乗ってきた宇宙船のある地点、ベースキャンプへ自信を失ったハンスとショックにより人としての感情が半ば失われつつあるポールとエルナを連れて行く事になった。
 男性陣は再び、土の神殿へ向かい、次の攫われた友人を占ってもらう事にした。

16 たちこめる暗雲

 土の神殿へと戻った琴太達…。
 エース達は相変わらず、外で時間を潰す事になり、仕方なく琴太1人でドゥナの元を訪ねる。
「ドゥナさん、入るぜ」
 琴太は姫巫女の間へとたどり着く。
 そこには青い顔をしているドゥナの姿があった。
「遅かったようですね…。」
 と意味深な発言をする。
 聞いてみると
「次に偲さんが現れる時は敵となってしまっています…同士討ちを防ぐ意味でも今度こそ、時が経つまでここを離れないで下さい。ここであれば、上位絶対者とかわした不可侵条約により安全です。どうか…無意味な殺し合いを避ける意味でも…」
 と言った。
「どういう事だ、ドゥナさん…?」
「今ははっきりと見えます…あなたのかけた情けが仇となって、あなたに不幸を運び込んだようです」
「なんだ…と?」
 黙りこむ琴太とドゥナ…

 一方、ハンス達3人をベースキャンプへと送り届けた偲とクイーンは琴太達と合流するべく、土の神殿へと急いでいた。
 そして、向かう途中の森林地帯で恐獣の群れと遭遇していた。
 その数、100体。
 とても二人でどうにかなる数では無かった。
「全部、溶かしてやる!」
「クイーン、多勢に無勢よ、ここは一つ、琴太君達と合流して…」
「冗談、あんな奴と合流したら、また、止められるじゃないの」
「相手の数が多すぎるわ」
「うるさい、逃げたきゃあんた、1人で逃げな!あたしは1人でもやる」
「危ない!がっ…」
 よそ見をしたクイーンを庇って偲が捕らえられる。
「こいつで良い…撤収するぞ」
 リーダー格の恐獣がそう叫ぶと恐獣達は偲を攫っていった。
 後にはクイーンがとり残される。
 倒した恐獣の数はたったの8体…
 偲が攫われたのを代償とするならあまりにも少ない数だった。
 琴太チームに早くも暗雲がたちこめ始める…。
 合流したクイーンから恐獣に偲が攫われた事を聞かされた琴太はがっくりと肩を落とすのだった。

17 魔薬 アブソルート

「放せ!」
 恐獣達に連れ去られた偲が抵抗する。
 が、人40%虎30%ヒグマ30%の恐獣の力に押さえつけられ身動きが取れなかった。
 目の前には筋骨隆々な大きな老人が座っている。
「クティノス様、この女でよろしいのですか?」
 恐獣の1人がその老人、クティノスに尋ねる。
テララ編01話09 「よい…娘よ、強制はしない…二つに一つ、どちらか好きな方を選択するがいい…」
 クティノスが用意した二択…
 それは、三つの薬を飲むという事、もしくはここでなぶり殺しにされるという事だった。 遁走術…すなわち逃げる手段はたくさん持っている偲だったが、ここは恐獣の本拠地、獣の沼…逃げ切れるという保証はない…。
 生きていれば、必ず、勝機はある…
 そう思った偲が選択するのは三つの薬を飲むという選択だった。
 だが、得体の知れない薬を飲む気はない…
 忍術を駆使して薬を飲んだふりをする偲…
 だが…
「ワシは薬を飲むかなぶり殺しにされるかを選べと言った…飲んだふりをしろとは申しておらぬ!」
 クティノスに見破られ、無理矢理薬を飲まされてしまった。
「ぐぐぐ…がぁぁぁぁぁぁ…」
 もがき苦しみ出す偲…
 偲が飲まされた薬…
 それは、魔薬 アブソルートと呼ばれるものだった。
 絶対者、アブソルーター達が、より強い力を手にするために飲む薬でこの薬に耐えると中位もしくは上位アブソルーターになることが出来るという。
 三つの薬はそれぞれ、神御(かみ)の薬、悪空魔(あくま)の薬、そして、化獣(ばけもの)の薬とされ、最も適応した属性を持つという。
 つまり、神御の薬か悪空魔の薬に適応したら、中位絶対者となり、化獣の薬に適応したら、上位絶対者となるのだ。
 この星の支配者の1人、ルゥオもこの薬で化獣の薬に適応し、上位絶対者となったのだ。
 だが、これは絶対者が飲む薬…人間が飲むものではない…。
 人間が飲めば、強力な毒ともなりかねない…
 クティノスも中位、もしくは上位絶対者になるためにこの薬を渡されていたが、クティノスとて、適応に失敗すれば、死が待っている。
 用心深い彼はその様な危ない賭けに出ることを拒否したのだ。
 処分に困った彼は、それを人間で試す事にした。
 上手くいけばもう一度、薬をもらいにいくつもりでいた。
 危ない橋を渡らずにという訳だった。
 だが、何であれ、危険を冒さずに手に入れられる大きな力などない…。
 彼は後悔する前に消える事になる…。
 所詮、中位または上位絶対者になる器ではなかったのだろう…。
 苦しみから解放された偲が再び目を醒ました時、以前の彼女と様子が変わっていた…。
テララ編01話10 力を確かめるようにシャドウボクシングを始めたかと思うと考え込み、にやりと笑った。
 かと思うと先ほど、彼女を押さえつけていた恐獣と力比べを始めた。
 結果は指一本でその恐獣を地面にたたきつけた。
 明らかに別人となっている。
 それを見たクティノスは…
「ほぅ…これは面白い…では、ワシも…」
 もらってくるかと言おうとしたときには彼の心臓は抜き取られ、そのまま、偲の口の中に…
 絶命するクティノス…
 それを見て恐怖にかられ逃げ出す恐獣達だったが、一体も彼女から逃げおおせる事は出来なかった。
 彼女の中から感じられるのは神御の力と悪空魔の力、そして、化獣の力、全てが感じられた。
 偲は中位でも上位でもない特殊な絶対者となってしまった。
 殺された者の内、心臓を偲に食べられたクティノスを含む恐獣数体だけが、ムクリと起き上がり、他の恐獣はドロドロに溶けてしまった。
 どうやら、偲には心臓を食べた相手を支配下における力があるようだ。
 ドゥナの予言通り、偲は敵となってしまった。
 彼女の予言が全て正しかったとすれば、琴太のパーティーは全滅する。
 早くも正念場にたたされるのだった。

登場キャラクター説明


001 芦柄 琴太(あしがら きんた)

琴太 テララ編の主人公。
 曲がった事が大嫌いな性格。
 義弟である吟侍(ぎんじ)の心臓になっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で身につけた能力である、敵の弱点を突く事により出現する鍵を回す事により敵を倒す事が出来るキーアクションを得意とする。









002 ルゥオ・スタト・ゴォル

ルゥオ・スタト・ゴォル 惑星テララを支配する6名の上位絶対者・アブソルーターの内の1名。
 かつて、琴太(きんた)の故郷、セカンド・アースを襲撃した事がある。
 当時は、吟侍の身につけたルフォスの力に退散を余儀なくされたが、今は力をつけ、星を支配するまでになっていた。
 吟侍との再戦を望むも叶わず、琴太達の事は相手にしていない。








003 野茂 偲(のも しのぶ)

野茂偲 テララ編のヒロイン。
 忍術を得意とするくのいち。
 琴太の事が好き。
 仲間を思いやる優しい性格だったが、魔薬アブソルートを無理矢理飲まされ、特殊絶対者となってしまう。










004 エース・スペード

エース・スペード 吟侍の心臓、ルフォスの世界で左右の手のひらの間に空間を歪ませる能力を身につけた賞金稼ぎ。
 賞金稼ぎグループではリーダーをつとめる。
 琴太と反発している。












005 キング・ダイヤ

キング・ダイヤ 吟侍の心臓、ルフォスの世界で10秒間の具現化能力を身につけた賞金稼ぎ。
 異次元空間に隠し持っている武器を具現化できる。
 琴太と反発している。












006 ジャック・クローバー

ジャック・クローバー 吟侍の心臓、ルフォスの世界で自在に伸びる硬度を自在に変えられる鋭い爪手に入れた賞金稼ぎ。
 両手両足の20本の爪全てが自由に変化させられる。
 琴太と反発している。












007 クイーン・ハート

クイーン・ハート 吟侍の心臓、ルフォスの世界で自在に動き、触れたものを溶かす溶解質の髪の毛を手に入れた賞金稼ぎ。
 溶解濃度は0から10まであり、変更できる。
 琴太と反発している。












008 恐獣(きょうじゅう)フラー

恐獣フラー 琴太(きんた)達が最初に戦う下位絶対者・アブソルーター。
 力は絶対者としては弱い方だが、仲間がたくさんいる。
 人間を絶対者にする力がある。
 バッファロー、ゴリラ、グリズリー、シロサイへの変身能力をもっていて、それぞれを掛け合わせることで、いくつもの変身をする。
 服は変身する事によりボロボロになるので、特殊な素材のボロ布を着ている。






009 恐獣(きょうじゅう)ニコライ

恐獣ニコライ フラーにより、下位絶対者・アブソルーターとなった元人間。
 フラーより、変身能力の数は少なく、虎と猿の変身能力を持っている。














010 恐獣(きょうじゅう)ギルバーグ

恐獣ギルバーグ フラーにより、下位絶対者・アブソルーターとなった元人間。
 フラーより、変身能力の数は少なく、蛇と蠍の変身能力を持っている。













011 恐獣(きょうじゅう)ゴウス

 フラーにより、下位絶対者・アブソルーターとなった元人間。
 フラーより、変身能力の数は少なく、猪と河馬の変身能力を持っている。












012 恐獣(きょうじゅう)エロワ

恐獣エロワ フラーにより、下位絶対者・アブソルーターとなった元人間。
 フラーより、変身能力の数は少なく、蜘蛛と蝙蝠の変身能力を持っている。
 フラーが絶命した事により、ピラニアとシャチの変身能力を追加し、新たなるフラーとなる。












013 ドゥナ・ツァルチェン

ドゥナ・ツァルチェン 土の姫巫女。
 テララ編のヒロイン。
 琴太の危機をいち早く察知し、彼に危険を伝える。
 吟侍の居るウェントスに居る風の姫巫女に助けを求める。












014 恐獣王(きょうじゅうおう)クティノス

恐獣王クティノス 下位絶対者・アブソルーター。
 恐獣(きょうじゅう)の首領でもある。
 上位または中位絶対者となるために必要な魔薬アブソルートを受け取っていたが、慎重な性格のために偲(しのぶ)を使って人体実験をする。
 が、それが、仇となり、偲に一旦殺される。
 後に復活して、偲の配下になる。









015 ハンス・ルイニ

ハンス・ルイニ 琴太(きんた)と同じ孤児院セント・クロス出身の少年。
 当時、ルゥオに攫われてテララに連れてこられた。
 ポールとエルナに苛められていたことを根に持ち、力をつけてから彼らを奴隷として扱っていた。
 恐獣亜種(きょうじゅうあしゅ)コントラストと命を共有することにより半絶対者になった元人間。










016 恐獣亜種(きょうじゅうあしゅ)コントラスト

恐獣亜種コントラスト 元々はハンスが可愛がっていたオウム。
 恐獣(きょうじゅう)達に捕まり、恐獣化したが、うまく適合せず、亜種という存在となってしまった。
 恐獣の特徴である複数の生き物の要素を持っているが、限界が無くなってしまって1000体以上の生き物の要素を取り込んでしまっている。