第005話 ティアグラ軍との乱戦

テララ編005話挿絵

01 琴太達の置かれた状況


 最強であり13番の番号を持つ化獣(ばけもの)クアンスティータの誕生に恐怖した1番の化獣ティアグラは自身が所有する宇宙世界、ティアグラ・ワールドに逃げ帰った。
 動揺したティアグラは惑星テララで人命救助活動をしていた芦柄 琴太(あしがら きんた)一行をも星ごとその宇宙世界に取り込むことになってしまった。
 ティアグラはクアンスティータの余りに大きな力に激しく動揺し、琴太達の相手をしているどころでは無かった。
 対処に困った、ティアグラの腹心、リオン・マルクは、ティアグラの恋人とされる存在の一つ、【ルツ】を相手に戦わせる事にした。
 【ルツ】は出産能力に長けた怪物だったが、その力はクアンスティータには全く通用しないという事が判明し、ティアグラにとっては用済みの存在と言えた。
 ティアグラにとっての邪魔者、琴太一行と、ティアグラにとっては用済みの【ルツ】の戦いはどちらが勝とうがティアグラにとっては何の影響も無く、むしろ、いらない存在を一つつぶせるという事に過ぎなかった。
 ティアグラ・ワールドの端にある【ルツ】の済む惑星グローに琴太とアリス・ルージュ、ドロシー・アスール、ウェンディ・ホアンは向かった。
 そこで、【ルツ】の子供達とぶつかることになった。
 だが、そんな中、【ルツ】がティアグラとの交渉に使おうと思っていた四つの切り札の一つ、【セパレーションマイセルフ】を手に入れる事が出来た。
 【セパレーションマイセルフ】の力により【ハンズ&フィート(略してHF)】を背中の肩甲骨の部分からこの力を得たウェンディが出し、試して見たが、その戦闘力はもの凄かった。
 変化を繰り返し、獰猛に相手をつぶしていく、ウェンディの手足目鼻耳にもなる兵器を得たというのは琴太達にとってはかなりの戦力アップとなったのだった。
 琴太達としてみれば、【ルツ】との対戦の前に他の三つの切り札も手に入れたいところではある。
 だが、警戒心の強い【ルツ】はさらなる一手を打ってくるのではないかと警戒していた。
 勝負はこれからである。


02 ドロシーの新たな力


 【ルツ】とのアイテム争奪戦は熾烈を極めていた。
 【ルツ】の子供達による幾重もの罠が琴太達を苦しめていた。
 そんな矢先、ふとしたきっかけで、琴太達は【ルツ】の二つ目の切り札を手に入れた。
 それは、【ルツ】の子供達が罠をはるのに必死で、アイテムを隠しきれなかったため、琴太達がすかさず、手にしたのだ。
 思いがけず、二つ目のアイテムを手にした琴太達は誰がこのアイテムを使うかを相談した。
 ウェンディはすでに【セパレーションマイセルフ】を手にしているから除くとして、琴太、アリス、ドロシーの中で誰がこのアイテムに適しているかを見るため、ドロシーにサイコメトリーで見てもらった。
 すると、このアイテムは、【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】というアイテムで完全コピーを作るというアイテムだった。
 完全コピー――それを説明するのにクアンスティータを用いてみよう。
 クアンスティータは変化、つまり化ける事も出来るが、その精度は狐や狸が化かすようなレベルとは桁が違っていた。
 血筋などの血統から、周りの環境設定全てを本物とする事が出来る。
 それは超連鎖変化(ちょうれんさへんげ)という力だ。
 誰かの真似をしていた場合、完全な本物が2名存在するということになる(クアンスティータの場合は完全な本物になった後でも元に戻れる)。
 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)と冒険を共にしているフェンディナ・マカフシギの一番上の姉、ロ・レリラル・マカフシギは設定を変える力があるが、それは元々ある環境に紛れ込ませる事が出来るという力なので、完全な本物になれるというのがどれだけ凄いかがわかる。
 クアンスティータの力としては完全な本物化なのだが、【完全複製丸】の場合は、例えば能力などをコピーした場合、完全に元の自分の力として複製が作れるというもので、クアンスティータの力に近いものがあるのだ。
 偽物を作るのではなく、本物を作る――そこがこの【完全複製丸】の凄いところでもある。
 【完全複製丸】は3つある。
 なので、琴太、アリス、ドロシーで分けるという手もあるが、相談した結果、ドロシーが三つとも所有する事で決まった。
 サイコメトリーが使える彼女が一番良い使い道をわかるのでは無いかとの判断でだ。
 これも【セパレーションマイセルフ】と同様に飲み込むタイプだったので、ドロシーは三つとも飲み込んだ。
 これにより、ドロシーは三つまで【完全複製】を作る事が出来る。
 とは言っても限界はある。
 何でも作れるとは言ってもクアンスティータの様な存在は当然作り出せない。
 こんなので、クアンスティータに匹敵する力を得られるのであれば、苦労は無い。
 作れるのはあくまでもドロシーという存在が届く範囲内での事だ。
 何を作るかはドロシーが決めるという事になる。
 ドロシー自身が別人になるという事も出来るし、二つ目を使えば元に戻る事も出来る。
 だが、元に戻るための変身などもったいなくて使えない。
 後々、最も適した使い方を考えていくだろう。
 手にした切り札はこれで二つ。
 残る切り札の数も二つだ。


03 ティアグラの動き


 【ルツ】との戦いに集中している琴太達だが、ティアグラ側の方にも動きがあった。
 ティアグラは次第に冷静さを取り戻しつつあった。
 冷静に判断して、現界に戻るのは危険と判断したティアグラはまず、自身の所有するティアグラ・ワールドの安定(ただし、ティアグラにとっての安定)をはかる事にした。
 ティアグラはティアグラ・ワールドに来た戦力を一つにまとめ上げようとしていた。
 有象無象の強者達も居るが、中でも特筆すべき4名がティアグラの組織を盛り上げる事になった。
 一人目は偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】だ。
 偉存教の【偉存】は人間に例えれば歴史上の偉人ということになる。
 偉大な功績をあげて来た偉大なる存在達――それを偉存教では【偉存】として、神のようにまつり上げているのだ。
 偉大な存在が死亡すると、偉存教では【偉存】となる。
 偉存教は生前の生体データを収集しようとする組織で、生前の多くの偉存達と契約し、偉存達の死後、生体データを提供して、復活の時を待っているとされている。
 二人目は、謎のフィクサー、【ツィテリュ】だ。
 歴史上の大事件にはこの【ツィテリュ】の暗躍がかなりの割合であったと言われて居る。
 今回、ティアグラと意気投合し、味方になることにしたのだ。
 三人目は、二大イメージメーカーの一人、【エメロディア・トライアル】だ。
 【エメロディア】の説明をするまえに、まず【フィクジュエモ】の説明が必要だ。
 ジュエモ、ジュエモ化(じゅえもか)と呼ばれるものがあり、近いイメージで言えばプラモデルなどになる。
 それが、宝石で出来ているので、ジュエルモデル、略してジュエモとなる。
 現界では実在する事になっている存在のジュエモが出回っていた。
 最強と言われるクアンスティータもジュエモ化(じゅえもか)が期待されていたが、下手に手を出すと死んでしまう恐れがあるとして、望まれながらもジュエモ化は実現していない。
 簡単に言えば、ジュエモ化とはあこがれの存在のプラモデルの様なものを作って鑑賞したりするものである。
 ジュエモが現界で実在することになっているキャラクターなのに対して【フィクジュエモ】とはフィクションジュエルモデルの略で、架空のキャラクターのジュエルモデルになる。
 【フィクジュエモクリエーター】とはその【フィクションジュエルモデル】のキャラクターを考える存在で、アニメーションにしたりフィクジュエモ化したり、設定を考えて本などにしたりする創作活動をする存在を指し、二大イメージメーカーはそのトップに君臨する存在でもある。
 【フィクジュエモ】達が活躍する架空の世界を【フィクジュエモ界】と呼んでいて、本来、【フィクジュエモプロジェクター】と呼ばれるアニメーションなどの放送する機械を使って表現され、コアなファンを多く持つ、独特の世界を形成している。
 また、あまりにも人気があるキャラクターは、実在化(じつざいか)という実際に存在するような加工などの行為が行われた状態になる場合もあるという。
 フィクジュエモアニメーションはフィクジュエモ界の世界を表現する方法の一つとしてあるが複雑過ぎる動きなので、想像力転換装置という物が作られていて、それを元にアニメーション化する事になっているため、アニメーターではなくイメージメーカーという存在が制作している。
 そのイメージメーカーをメインとして活躍している二人が【フィクジュエモ界】のトップにいるので、【二大フィクジュエモクリエーター】ではなく、【二大イメージメーカー】と呼ばれている。
 この二名は他のイメージメーカーやフィクジュエモクリエーターでは作れない、キャラクターを作っていて、トップに君臨するのは、もう一人の【二大イメージメーカー】である、【久遠(くおん)】という存在で、【エメロディア】はbQという事になっている。

 【久遠】が作るフィクジュエモはフィクジュエモ界の最強と呼ばれている。
 架空の世界であるフィクジュエモ界において、最強という部類は6部門ある。
 6つ全部を総称して最強と呼び、それ以外の呼び名はそれぞれ最超(さいちょう)、最謎(さいめい)、最高(さいこう)、最大(さいだい)、最極(さいきょく)、最絶(さいぜつ)と呼ばれている。
 最超と最謎についてはクアンスティータがそう呼ばれているのでそのイメージを拝借したという形になっていて、この二つがフィクジュエモ界の二強となっている。
 本当の最強であるクアンスティータと合わせて七強と考える者も居るが、フィクジュエモ界はあくまでも架空の世界なので、この6つの部門の実在化(じつざいか)は不可能とされている。
 6つの部門の最強は実在化したとたん、力を失い、最強の座から引きずり落とされるとも言われている幻の存在でもある。
 真の意味で本当に最強なのはクアンスティータだけだという事だ。
 フィクジュエモ界の最強キャラクターを実在化出来るとしたら、それはクアンスティータの力を借りる以外には完全に不可能だとも言われて居る。
 そのため、【久遠】の作ったキャラクターは大変魅力的ではあるものの、実現化出来ないとして、次点である【エメロディア】がティアグラのパートナーとして選ばれたのだ。
 実現化不可能とされる【久遠】のキャラクターとは違い、【エメロディア】の作るキャラクターは、御十家(ごじっけ)と呼ばれる10名のキャラクターで、フィクジュエモ界を代表し、象徴ともなっていた。
 フィクジュエモ界ではいろんな世界観で描かれるが、その大部分に出演しているというところから特別視されているのが御十家ということになる。
 その御十家の実在化は可能とされている。
 【エメロディア】とはそれを作っている存在である。
 最後に四人目は、【匿名者(とくめいしゃ)】という存在で、その名が示す通り、正体を隠している存在だ。
 だが、ティアグラが最も信頼しているとされているようだ。
 偉存教の教主【ソイツァ】
 謎のフィクサー、【ツィテリュ】
 【二大イメージメーカー】のbQ【エメロディア・トライアル】
 そして、【匿名者】――
 この四天王を中心にして部隊を編成していくようだ。
 ティアグラの強力な布陣が琴太達を待ち構えている。
 果たして、【ルツ】の切り札だけで立ち向かえるのであろうか?
 この強敵達の存在を琴太達はまだ知らない。


04 謎の少年K


 琴太達は【ルツ】の子供達との激闘が続いていた。
 腐ってもティアグラの恋人と言われるだけあって、その出産能力は飛び抜けていた。
 たくさんの子供を産みだし、それを戦いに仕向けていく。
 倒す事はそう難しくはないのだが、多勢に無勢。
 数で押し切られるとさすがの琴太達も苦しかった。
 そんな中、琴太達は一人の少年と出会った。
 琴太は、
「誰だ、お前は?」
 と聞いたらその少年は、
「僕は……そうだな……【K】とでも名乗っておこうかな?君たち、ティアグラの敵だろ?
僕もちょっと敵対していてさ、良かったら協力関係を結ばないか?味方は一人でも欲しいと思ってて……」
 と言ってきた。
 【K】とはもちろん偽名である。
 本名も素性も明かさない者にティアグラと敵対しているから仲間になろうと言われてはいそうですかと言える訳が無い。
 当然、疑ってかかる。
 何か他に狙いがあるものと勘ぐってしまう。
 アリスは、
「正体を明かさないものを信用しろって方が無理があるわね。こっちのドロシーはサイコメトリーであなたを探る事が出来るわ。言わないのなら探らせてもらうけどかまわないかしら?」
 と言った。
 【K】は、
「無理だと思うよ。僕が作ったもので謎をまとわせているから探れないと思う」
 と答えた。
 ドロシーは、
「謎?――まさかとは思うけど、あなたクアンスティータと関係してないわよね?」
 と聞くと、【K】は、
「まさか、あんな恐ろしいものと関わるような勇気は無いよ。ただ、少し参考にはさせてもらっているけど……」
 と意味深な事を言った。
 怪しい。
 怪しすぎた。
 【K】の言って居る事は怪しすぎた。
 とても信用出来るレベルのものではなかった。
 琴太は、
「悪いが他を……」
 と言いかけた。
 すると、【K】は、
「これじゃ、駄目かな?この二つは【ルツ】ってやつの切り札みたいなんだけど、取ってきたんだ。仲間になってくれるなら、この二つを君たちにあげるよ」
 と言ってきた。
 まさか、熾烈な争奪戦を行っていた【ルツ】の残り二つの切り札をこの少年が取ってきたというのか?と琴太達は全員が驚いた。
 【ルツ】は琴太達に二つの切り札を奪われてから必死で切り札を守っていた。
 それこそ、琴太達の割り込む隙が全くないくらいに。
 それで、どうやったら奪えるのか必死で考えていたのだ。
 その切り札二つをいつの間にかこの少年は取ってきたというのだ。
 もし、それが本当ならこの【K】という少年はただ者ではないという事になる。
 試しにドロシーが【K】が持ってきた二つの切り札を受け取り、サイコメトリーで探る。
 すると確かに【K】の言うとおり、この二つは【ルツ】の切り札で間違い無かった。
 ウェンディが、
「本当に良いのか?」
 と聞いた。
 【K】は、
「良いよ。あげるよ。僕が出す条件はティアグラ軍には僕にとって都合の悪い奴が一人いるんだ。そいつをどうにかして欲しい。それが僕の望みだよ」
 と言った。
 つまり、ティアグラと戦う事には別にかまわないと思っているが、ティアグラの仲間に【K】にとって都合の悪い存在が居るという事を言っていた。
 ドロシーは、【K】から切り札二つを預かる時に彼に触れ、サイコメトリーで見ようと思ったが、やはり彼の言うとおり、何も見えなかった。
 どうやら訳あって素性を隠したいらしい。
 【K】を全面的に信用する訳にはいかないが、ティアグラと戦うため、【ルツ】の切り札を欲しがっていた琴太達にとっては仲間として受け入れても良いという事になった。
 とりあえず、【K】の同行を許し、早速、サイコメトリーで見た二つの切り札についての説明をした。
 これは、琴太とアリスが所有することになる。
 アリスが所有する事になった切り札の名前は、【アンチウイルステクノロジー】、琴太が所有する事になった切り札の名前は、【加重撃(かじゅうげき)】という。
 どちらもそれぞれにぴったりあった切り札だった。
 アリスが手にした【アンチウイルステクノロジー】は人造人間である彼女にとってはありがたい力と言えた。
 この力はウイルスソフトを指した言葉ではない。
 マシンでもある彼女の体を作り替える力だ。
 アリスの体には意外と弱点も多かった。
 通常のウイルスくらいなら全く問題ないのだが、必要以上に強化されたウイルスだと彼女の体を麻痺させる事が出来てしまうという弱点等を含む多数の弱点があったのだ。
 今まではたまたま、相性の悪い相手とはぶつからなかった。
 彼女の最大の課題はマシンでは無く、マシンの様な存在になることだったので、この【アンチウイルステクノロジー】で体を作り替えれば、コンピューターでの弱点の無い存在になることが可能となったのだ。
 ただし、その状態になるためにはたくさんの模索研究が必要となるという条件付きではあるが、ハッキングなどの恐怖などにおびえる事もない完全な人造人間になる可能性が出て来たという事になる。
 【アンチウイルステクノロジー】はオーバーテクノロジーでもあるため、解析まで時間を要するがものになったら想像以上の力を手にする事も可能となる。
 また、琴太が身につけた【加重撃】も強力な力と言えた。
 【加重撃】には様々な応用が利くが、最も基本的な事を例に挙げればパンチという事になる。
 例えば、普通にパンチを打ったとする。
 それは鍛えればある程度強力な一撃となるが、人間である以上、限界がどうしてもある。
 【加重撃】にあたるのは、パンチと全く同じ位相(いそう)にハンマーを重ねる事が出来たとしたらどうだろうか?
 パンチ力に加え、ハンマーでの一撃も攻撃力に加える事が出来るというものだ。
 つまり、【加重撃】とは同位相に全く違うエネルギー等を加える事が出来るという力である。
 見た目はただのパンチでも全く別の攻撃力を持っていると言うことになる。
 もちろん、ハンマーの変わりに刃物を加えたら、切れ味の鋭い一撃となったりもする。
 これは単なる基礎的な例であり、この応用は多種多様にわたる。
 同位相に別のエネルギーを加えれるのは1種類だけではなく、複雑に加重させれば、複雑なエネルギーを持つ一撃となるのだ。
 応用すれば、強者をも一撃で倒せる必殺の力ともなり得る力なのだ。
 一撃必殺――正に、琴太にとってはのどから手が出るほど欲しかった力となった。
 【セパレーションマイセルフ】、
 【完全複製丸】、
 【アンチウイルステクノロジー】、
 【加重撃】、
 この四つの切り札を持っていれば、確かに、ティアグラとの交渉に使えるほどの強力な力であると言える。
 謎の少年【K】――正体はわからないが、それでも【ルツ】の切り札4つの内2つを手にしたのは彼のおかげでもある。
 困った時はお互い様じゃないが、今度は琴太達が彼のために、苦手とするティアグラの配下か何かの排除をする。
 それでギブアンドテイクという事になるだろう。
 やってもらったら、お返しに何かする。
 それが、琴太の流儀でもある。
 琴太の鶴の一声で、少年【K】と行動を共にすることにした。


05 【ルツ】との戦い


 切り札4つ全てを奪われた【ルツ】はとうとう自ら動く事を決めた。
 ティアグラとの交渉に使うつもりだった4つが全て、琴太達の手に渡ったのだ。
 気が気では無かった。
 もはや、なりふりなどかまって居られない。
 琴太達が切り札の力を自分達のものにする前に何が何でも奪い返す。
 そのつもりで、【ルツ】は自身が産んだ子供を総動員させて、琴太達に攻撃を仕掛けてきた。
 総攻撃である。
 生み出した子供達同士を共食いさせてどんどん強化していく。
 それは見ていて目を背けたくなるような凄惨な状況だった。
 【ルツ】の子供の数は減っていくが、【ルツ】軍の戦力は逆に増えてくるという逆転現象が起きていた。
 数が減れば減るほど、強力な子供達が残っていた。
 また、【ルツ】自身も現界まで出産能力を高めて、元々強い子供達を生み出して行く。
 【ルツ】は子種が尽きるまで生み続け、ついには出産能力が無くなってしまった。
 だが、それだけの事をしただけあり、【ルツ】の子供達の戦力は極限まで高まった。
 自身の力を失ってまで戦力を強化する。
 それだけ、【ルツ】が怒っているという事でもあった。
 最悪でも、切り札4つを取り戻せば、まだ、ティアグラとの交渉の余地はあると考えているのだ。
 全てを捨てた【ルツ】――
 とは言え、はい、返しますと戻せる訳も無い。
 琴太達もどうしてもこの四つの切り札の力が欲しいのだ。
 生き残るために。
 こうして、【ルツ】と琴太達による生き残りを賭けた決戦が行われようとしていた。
 【ルツ】の子供達はすぐには攻撃を仕掛けない。
 間合いを取り、子供達同士共食いしあい、どんどん強くなっている。
 琴太達は思った。
 まずい、このままだと、敵はどこまでも強くなっていってしまうと。
 琴太達が倒さずに、敵の数が減るという事はイコール、敵がそれだけ強くなっているという事でもあるのだから。
 冷や汗が頬を伝う。
 琴太達の中で焦りを見せていないのは、新たに加わった少年【K】だけだった。
 【K】だけはどうってことないという様な表情で事態を見ていた。
 まるで、どうにでもなるさと言いたげな顔つきだった。
 だが、それを琴太達が何故だと考えている余裕は無い。
 なんとかこの状況を打破しないと生き残れない。
 だからと言って、下手に突っ込めば、やられてしまうかも知れない。
 敵がどれだけ強くなったか、今の時点では全くわからないのだ。
 ひょっとしたらもう琴太達の手の届かないくらいまで強くなってしまっているかも知れない。
 でも、それを確かめる術が無い。
 琴太達は4人とも奪った切り札の力を100%引き出せて居ない。
 琴太達は【ルツ】とある一定の間合いを取りつつ、体になれさせてから【ルツ】を討つつもりでいた。
 まさか、こんなに早く総攻撃を仕掛けてくるとは思って居なかったのだ。
 慎重な性格をしていると考えていたので、小出しにしてくると思っていたのだ。
 だが、切り札を4つ手にしたことで状況は一変した。
 【ルツ】に後が無くなったのだ。
 追い詰められた【ルツ】は一気に行動した。
 少年【K】は贈り物をしてくれたが、同時に大ピンチも運んで来たという事になる。
 どうする?
 このまま攻め込むか?
 それとも一旦、退くか?
 判断がつかない。
 琴太もアリスもドロシーもウェンディも迷っていた。
 ここでの判断ミスが最悪の事態を招く可能性が高い。
 だから、相談したかったが、相談している余裕は無い。
 敵は一定の間合いを保ったままだ。
 隙を見せれば襲ってくる。
 琴太はアリス達がこういう時、どういう判断をするか聞いて見たかったが、聞ける状況じゃない。
 アリスも自分のコンピューターではじき出した答えを琴太に伝えたかったが、敵にその隙を与えてもらえない。
 じりじりと共食いを繰り返し間合いを詰めてくる【ルツ】の子供達。
 その光景はおぞましかった。
 セレナータあたりが見ていたら、失神するだろう。
 それだけ、恐怖の印象を与える光景だった。
 敵はティアグラと肩を並べる存在。
 まともに戦って勝ち目は無い。
 焦る。
 焦るがどうにもならない。
 そう思った時、少年【K】が動いた。
 少年【K】は、
「出てこい、【最高】……」
 と言った。
 すると一瞬、光ったかと思うと、次に見た光景は、【ルツ】の子供達の遺体の山だった。
 全滅ではないが、それでも九分九厘が死亡していた。
 少年【K】は言った。
 【最高】と……
 【最高】とは何なのか?
 それは、フィクジュエモクリエーターにしてイメージメーカーである久遠が生み出した六つの最強の一つだ。
 【K】とは【久遠(くおん)】の【K】であれば合点がいく。
 琴太はフィクジュエモクリエーターの事は知らなかった。
 ただ、未来から来ていたアリスはその情報が僅かながらあった。
 クアンスティータの持つ最強という地位に憧れ、架空の世界に最強を求めた存在、それが久遠だった。
 久遠が作った架空の最強のイメージは形にならない。
 それ故に幻とされているものだった。
 アリスはいくつかの情報をコンピューターで整理して、今の現象を引き起こした存在であり得る可能性がその久遠が作り出したものではないか?という結論に至った。
 フィクジュエモは実体化という道があり、それによって、架空の力を現実のものとして実在化させることが出来るとされていたが、久遠の最強は幻の技術として、未来では語られていた。
 一般のフィクジュエモの実在化は十分に可能だが、六つの最強とされるフィクジュエモの実在化は不可能と言う判断だった。
 だが、未来ではその存在の有無は定かとなっていないが、もしも実在化に至っていたとしたら、という可能性を導き出していたのだ。
 もし、それが可能であれば今の【ルツ】の子供達のほとんどを全滅させた現象は納得がいくのだ。
 というか、それ以外の可能性が考えられなかった。
 少年が【K】と名乗って居なかったらこの可能性も否定されていたかも知れない。
 だが、現実として、どんどん強大になっていった【ルツ】の子供達をほぼ一掃した光景を目の当たりにしてはそれを考えるしかなかった。
 これで、【ルツ】の子供達の数は百数十名となった。
 先ほどまでの絶望的な数ではないにしてもまだ、戦力的に琴太達が不利である。
 それでも、今の【最高】と呼ばれる何かの引き起こした事により、敵はかなりひるんでいる。
 戦力のほとんどが一瞬にして失われたのだから無理も無い。
 全く届かない【ルツ】の首がそこまで見えているという状況になったのだ。
 ますます後が無くなった【ルツ】は残った子供全てを食べた。
 そして、自身の力を大きく上げた。
 もう本当に後には引けない。
 決着をつけるつもりなのだ。
 敵は【ルツ】のみ――となれば、琴太は一人で相手をすることに決めた。
 今までは棚からぼたもち状態で、事が有利に運んで来たが、決着は琴太自身の力で決めたい――そう考えた。
 【ルツ】と琴太の最終局面が始まろうとしていた。
 【加重撃】――新しく身につけたこの力に全てを賭けることにした。
 まだ身についていないこの力に全てを賭ける事にしたのだ。
 全てを賭けた大勝負――琴太達はそう思っていた。
 だが、【K】はそう思っていない。
 すべてのお膳立ては済んでいる――そう思っていた。
 【K】が出した【最高】の存在――それは最高のお膳立てをする存在でもある。
 【最高】によって、琴太が負けてしまう分の【ルツ】の子供達はすでに排除しているのだ。
 つまり、【ルツ】が食べた分の子供達ならば、琴太が【加重撃】さえうまく使いこなせれば負ける事はない状態にお膳立てしてあったのだ。
 だから、安心していた。
 【K】は【最高】の力によって、ティアグラの配下となっている彼の邪魔者を排除してくれる琴太というお膳立てを見いだしていたのだ。
 今は頼りなくても琴太ならば、【K】の邪魔者である存在を排除してくれる。
 それがわかって居るから、琴太達に協力していたのだ。
 ただで助ける訳じゃ無い。
 それなりの見返りがあるから、助けているだけなのだ。
 【K】の予想どおり、琴太は自身の力を最大限に使い、ついには【加重撃】で【ルツ】を倒す事が出来たのだった。
 【ルツ】は、
「そんな、馬鹿な……」
 という言葉をあげたが、【K】にはやる前からこのビジョンが見えていた。
 結局、【K】の手のひらで転がされただけなのだ。
 そうとは知らない琴太達は素直に喜んでいた。
 知らぬが仏。
 少年【K】には裏がある。
 それが、琴太達に吉を運んで来るのか凶を運んで来るのか今の時点ではわからない。
 少年【K】が怪しくほほえむ。
 そのほほえみは何を指しているのだろうか?


06 フィクジュエモ界の台頭


 【ルツ】を撃破した琴太達に朗報が入って来た。
 ティアグラの四天王の二つ、偉存教の教主【ソイツァ】と謎のフィクサー【ツィテリュ】が勢力争いを始めたのだ。
 それに追従する形で他の強者達がそれぞれの陣営に分かれ戦いを始めたというのだ。
 これはティアグラの支配力が弱っているという事を意味していた。
 一番の原因はティアグラがクアンスティータにちょっかいをかけて大失敗したという事だった。
 クアンスティータの意に反したという事はティアグラが支配する支配エリアであるティアグラ・ワールドにおいても信頼の失墜を意味していた。
 ティアグラには任せておけないとどんどん、他の強者が名乗りをあげ、争いをはじめ、あちこちで小競り合いを起こしていた。
 求心力が確実に落ちているという証明でもある。
 ティアグラの本来の目的はクアンスティータをうまく手なずけて、その体制を盤石なものにするはずだった。
 だが、全ての策略がクアンスティータの力により吹っ飛び、まさかの事態が起きてしまったのだ。
 もはや、ティアグラ・ワールドはティアグラが支配しているとは呼べない宇宙世界となりはてていた。
 ティアグラの主戦力は事態の収拾にかり出されていた。
 だが、それでも戦火は収まらない。
 ティアグラ軍の勢力を拡張するため、他の存在をティアグラ・ワールドに招き入れた事がティアグラにとって災いしていたのだ。
 ティアグラの配下によるつぶし合い。
 それは琴太達にとって最大のチャンスでもあるのだが、それでも四天王はまだ二つ残っている。
 フィクジュエモ界のbQ、【エロメディア・トライアル】と【匿名者】だ。
 この状況は行動を共にしている少年【K】には見えていた。
 【K】にとって、都合が悪い相手――それは【匿名者】の事を指していた。
 【K】はアリスの予想通り、フィクジュエモ界のbP、クリエーター、【久遠】で間違いは無かった。
 ティアグラの支配を拒んだ【久遠】はティアグラと敵対していた。
 【久遠】にとってはティアグラはそれほど恐れる存在ではなかった。
 だが、【匿名者】は別だ。
 【匿名者】の正体は【アナザー久遠】とも言うべき存在だった。
 【久遠】の【消滅者(しょうめつしゃ)】――地球で例えるならばドッペルゲンガーのような存在だった。
 これこそが、対【久遠】のためにティアグラが用意していた切り札だったのだ。
 【K】こと【久遠】が【匿名者】と会えば、【久遠】は死んでしまう事を意味していた。
 そのため、【匿名者】をなんとかしてくれる存在が必要だった。
 その存在として琴太達が選ばれたのだ。
 厄介なのは【K】だけでなく、【匿名者】もまた、同じ六つの最強が使えるという事だ。
 あれほど頼りになったフィクジュエモ界の最強と呼ばれる存在が今度は敵に回るのだ。
 しかも、その時、【K】は手伝えないので、琴太達でなんとかするしかない。
 その前に【エロメディア】もいる。
 彼女の才能も無視できない。
 【久遠】の才能の前に万年bQの座に甘んじてはいるが、彼女も立派にフィクジュエモ界を引っ張っているリーダーの一人なのだ。
 彼女が作り出すフィクジュエモの実在化は無視できない。
 かなりの強敵となる恐れがある。
 功を焦っている【ソイツァ】や【ツィテリュ】と違い、冷静に状況を分析している。
 彼女は知っているのだ。
 本当にティアグラに見限られたら、ティアグラ・ワールドの外に放り出される可能性があるという事を。
 腐ってもティアグラ・ワールドを作り、動かしているのはティアグラ自身なのだ。
 下手に逆らう事が危ないという事は十分承知しているのだ。
 ティアグラ・ワールドを追い出されたからと言って死ぬという訳では無いが、追い出される先は現界だ。
 現界には今、クアンスティータが生まれて大騒ぎになっている。
 そんな現界に放り出されれば、待つのは破滅だと理解しているのだ。
 ティアグラに逆らうのは得策ではない。
 それがわからず、争っている【ソイツァ】と【ツィテリュ】は状況が見えていないと言える。
 どんなに強がっていても所詮はクアンスティータから逃げてきた存在であることには変わりは無い。
 ティアグラ・ワールドから追い出される事はクアンスティータの恐怖にさらされる事を意味するのがわかっているのかいないのかという問題である。
 逆らっていると言えば、琴太達も一緒だが、琴太達は別にティアグラ・ワールドに居たい訳では無い。
 琴太達は現界に戻る事を拒否してはいない。
 むしろ、クアンスティータから離れてしまって居ることも一部後悔もしている。
 吟侍と共にクアンスティータと戦うつもりで未来の世界から来ていたアリス達はなおのことだ。
 思惑に沿って行動しているか出来ていないかで、その存在が愚かであるかどうかが見えてくる。
 【エロメディア】と【匿名者】は自分の目的に合わせて行動しているという事では強敵と言える。
 まだ、自分の我を通そうとして躍起になっている【ソイツァ】や【ツィテリュ】を敵に回した方が楽であるとも言えるだろう。
 【ソイツァ】と【ツィテリュ】が失脚するのは恐らく時間の問題だろう。
 どんなに強い勢力を持ってこようと、クアンスティータの居る現界に放り出されたら全てが水泡に帰す。
 つまり、この状況は【エロメディア】と【匿名者】のフィクジュエモ界の勢力がティアグラ・ワールドにおいて台頭してくる事を意味していた。


07 フィクジュエモ界の勢力


 琴太達が相手をしようとするフィクジュエモ界の勢力は【エロメディア】と【匿名者】だけでは無かった。
 当然と言えば当然なのだが、【久遠】と【エロメディア】はフィクジュエモ界のbPとbQであって、その全てという訳では無いのだ。
 当然bR以下のフィクジュエモ界のクリエーター達も居るし、それらによって考え出される、フィクジュエモも存在する。
 有力なのはbQ0までのクリエーター達だった。
 例えば、bQ0にあたるフィクジュエモクリエーターの名前は、【フラッグス】という。
 【フラッグス】が描きあげた世界観は【フラッグファイターズ】というものだ。
 これは、言ってみれば、3D格闘ゲームの様な世界観と言える。
 格闘ゲームと完全に一緒という訳では無く、3Dフィールド上に10カ所の地点があり、その10カ所でそれぞれ戦って、勝つたびに、その10カ所に一旗ずつ旗を立てる事が出来る。
 10カ所全部に旗を立てる事が出来たらクリアというものだ。
 プレイヤーとなるキャラクターが読者や視聴者にあたるギャラリー達の目線となるが、対戦相手にあたる各地点で待っているキャラクターもギャラリーから募集して決めている。
 その戦いのシーンをアニメーションとして放送していたのだ。
 ギャラリー達を巻き込んで予想出来ない展開が起きるとして、フィクジュエモ界ではbQ0の栄光を得ているとされている。
 この【フラッグス】が敵に回った場合、【フラッグファイターズ】の世界観という状況で戦うという事になるだろう。
 もちろん、【フラッグス】だけでは無い。
 他のフィクジュエモクリエーター達は自分に有利なフィールド、土俵を用意してくる。
 琴太達が戦う場合、そのフィクジュエモクリエーター達のフィールドで戦うという事になる可能性が高かった。
 出来るだけ、【K】も琴太達に手助けをするとは約束しているが、【匿名者】という牽制(けんせい)がある以上、100%のサポートは期待できない。
 フィクジュエモクリエーター達は横のつながりもあると言われている。
 フィクジュエモクリエーター同士がどこでつながっているかわからない。
 それが、もし、【匿名者】とつながっていた場合、【K】はその場には居られない。
 気配を察知したら、即座に撤退するだろう。
 会ってしまったらおしまいなのだから。
 【K】からフィクジュエモ界の事を聞かされ戦慄する琴太達。
 フィクジュエモ界の魔の手はすぐそばまで迫っていた。


08 激戦地帯の突破


 【ルツ】との激闘を終え、惑星グローを【K】と共に後にした琴太達は、ティアグラ・ワールドの中心に向かって進路を取っていた。
 中心に向かって行く段階で、【ソイツァ】と【ツィテリュ】を中心とする二つの巨大勢力のぶつかり合いを何度も目の当たりにした。
 二つともティアグラ・ワールドのかなりの戦力を吸収し、大規模に争っていた。
 こんな二つの勢力とまともにぶつかったら琴太達ではひとたまりも無いと思えるような組織力だった。
 つぶし合ってくれるのはありがたいと思うのと同時にこれを相手にしていたかも知れないと思うとぞっとした。
 【ソイツァ】と【ツィテリュ】の組織戦は激化をたどっていて、フィクジュエモ界からも火消しに出ているという情報を得た。
 これで、フィクジュエモ界の勢力もかなり削られるだろう。
 情けない話だが、こうやって漁夫の利でも得ないとティアグラが集めた大勢力にはとても太刀打ち出来なかったというのを思い知らされた。
 悔しいが、クアンスティータはそれよりも更に遙かに高みにいるのだ。
 アリス達はそのクアンスティータと戦って来たという自負があった。
 あったからこそ、ティアグラ程度が集めた勢力に対してもうまく立ち回らねばつぶされてしまうほど、力が弱いというのがとても残念に思っていた。
 未来の世界で使っていたパワーを発揮出来て居れば、こんな連中に遅れをとるつもりはないのに、過去の世界に渡るためにはどうしても極端にパワーを落とさざるを得なかった。
 本来の力さえ出せていれば、【ルツ】の切り札などに頼らずとも戦えたという思いがあった。
 だが、無い袖は振れない。
 今ある力でベストを尽くすしかなかった。
 アリス達の希望はクアンスティータから逃げてきた連中が御山の大将を気取るようなところ(ティアグラ・ワールド)でくすぶっているのではなく、吟侍が戦っているであろう現界に戻り、クアンスティータと戦うために加勢することだった。
 吟侍がティアグラに殺されると言う未来は回避出来たはず。
 ティアグラはこうして自分の宇宙世界の殻に引きこもったのだから。
 だとするとアリス達の目的は一つ、琴太を連れて、ティアグラ・ワールドを脱出し、現界に戻る事だ。
 だから、情けなかろうが恥ずかしがろうがかまわない。
 なんとしても、ティアグラを倒し、ティアグラ・ワールドから出る事だ。
 アリスは偵察キットを駆使してなるべく状況を把握しようとした。
 【K】のサポートもあったので、恐らく、フィクジュエモ界からもbUからbP5のフィクジュエモクリエーター達が火消しにかり出されているという事がわかった。
 bQ1以下のフィクジュエモクリエーター達もそれに追従する形で参加しているらしい。
 という事はどうやら、二つの巨大勢力の戦いと言うよりは、三つ巴の戦いに発展している可能性があるという事がわかった。
 例えそうだとしてもbQからbTまでとbP6からbQ0までのフィクジュエモクリエーター達はティアグラ軍の周りを固めているという事になる。
 ティアグラのそばは全くの手薄という訳でも無いようだ。
 それもあるが、三つ巴の戦いは激化しており、この地帯を避けて通らないと流れ弾に当たる可能性が高い事がわかった。
 戦闘が激しすぎた。
 あおっている者も居て、双方、というか三方、引くに引けない状態になっているのがわかってきた。
 戦火はティアグラ・ワールドの中心部分を中心に広がっており、このままだとティアグラ・ワールド自体が崩壊するのではないかという勢いになっていた。
 めちゃくちゃな戦いをしており、事態の収拾は全くつかない。
 これらの戦闘地帯の抜け道をかいくぐり、ティアグラの居る空間まで進みたいところだが、なかなかうまくいかなかった。
 琴太達は、小競り合いくらいは仕方が無いとして、比較的戦闘レベルの低い場所を探して進む事にした。
 やはり数度の戦闘は避けられず、何度か戦った。
 【ソイツァ】軍とも【ツィテリュ】軍とも戦った。
 どちらの軍のメンバーもこれで小者?と思えるような強敵ばかりだったが、やはり主線力では無いというのもあって、琴太達はなんとか勝ち進んでいった。
 そうして戦いを繰り返し、次第に【ルツ】の切り札にもなれていった。
 そして、ついに激戦地帯を突破したのだった。


09 フィクジュエモ界の刺客


 これまでなんとかうまく進んできたが、ついに大物が琴太達の目の前に刺客として現れた。
 フィクジュエモクリエーターの一人、【フラッグス】だ。
 彼が作った架空世界、【フラッグファイターズ】の世界観で琴太達は戦う事になったのだ。
 バラバラの状態で3Dエリアに放り出された琴太、アリス、ドロシー、ウェンディ、そして【K】はこのエリアにある10カ所に旗を立てなくては脱出する事が出来ない。
 つまりは、一人2カ所をノルマとして旗を立てる地点の門番である2キャラクターずつを倒さねばならないという事になる。
 【フラッグファイターズ】はシリーズ化しており、琴太達がはまった罠は最新作である【フラッグファイターズ16ダブルダッシュスーパーMAX】だった。
 【フラッグファイターズ1】から16回目のキャラクター一新をして、その16番目の作品の6作目という事になる。
 つまり、【フラッグファイターズ16】→【フラッグファイターズ16ダッシュ】→【フラッグファイターズ16ダブルダッシュ】→【フラッグファイターズダブルダッシュアルファ】→【フラッグファイターズダブルダッシュスーパー】→【フラッグファイターズ16ダブルダッシュスーパーMAX】という感じでの最新作だ。
 この後は【フラッグファイターズ17】が予定されており、【フラッグファイターズ16】のシリーズでは最終作という事になる。
 【K】だけは、フィクジュエモクリエーターとして、この【フラッグファイターズ16】のシリーズのキャラクターを認識していたが、琴太達4人は【フラッグファイターズ】はおろか、フィクジュエモ界自体ほとんど知らない状態だ。
 勝手がわからない戦いに参加させられているという状態になる。
 【フラッグファイターズ】では戦闘ルールが決められており、それに反する行為は全て反則でペナルティーとなる。
 だが、どれが反則になるかがわからない。
 わからなくてもとにかく敵と戦って勝てば旗を立てる事が出来るという事だけはわかる。
 琴太達5人はそれぞれバラバラに旗が立てられる地点に向かった。
 この特殊なエリアを脱出するのは10箇所に旗を立てるという事はあらかじめ共通認識としてある(【K】から【フラッグファイターズ】の話を例にフィクジュエモクリエーターの話を聞かされていたため)ので、とにかく、ナビの様に出ている自動マッピング機能を頼りにそれぞれが、別々の場所に向かった。
 とにかく、このエリアに長居する事は危険だと判断していた。
 なので、みんなで一緒に行動するよりもバラバラにそれぞれの地点の敵を倒して旗を立ててエリアを脱出した方が早いと判断したのだ。
 ほぼ、同時刻に5人はそれぞれの地点に到着した。
 それぞれの地点には、門番であるそれぞれのキャラクターが待っていた。
 それらのキャラクターの頭上にはキャラクターの名前が表示されている。
 このあたりが架空の世界と言えるだろう。
 現実の世界では、親切に名前の表示などされてはいない。
 あるという事はこれが現実の世界ではないという事を表現している。
 琴太の前に居る門番キャラクターの名前は、【カオスロード】、
 アリスの前に居る門番キャラクターの名前は、【パフォーマー】、
 ドロシーの前に居る門番キャラクターの名前は、【オリジナルマン】、
 ウェンディの前に居る門番キャラクターの名前は、【タフギャル】、
 【K】の前に居る門番キャラクターの名前は、【紅葉】だ。
 それらが、5人の対戦キャラクターとなる。
 【フラッグファイターズ】のシステムとしては、視聴者や読者にあたるギャラリーからキャラクターの案を募集し、それが門番となるキャラクターとして作り替えられるということになっている。
 【カオスロード】、【パフォーマー】、【オリジナルマン】、【タフギャル】、【紅葉】もまた、そうやって応募されたキャラクター達である。
 今回の【フラッグファイターズダブルダッシュスーパーMAX】では、その応募されたキャラクターをbQ1以下のフィクジュエモクリエーター達が再デザインをしたという力作となっている。
 【カオスロード】の容姿はまるで死に神のような姿をしている。
 【パフォーマー】の容姿は黒人風の男性。
 【オリジナルマン】は覆面をしたマッチョ。
 【タフギャル】は筋肉質なギャル。
 【紅葉】は和風な美女だ。
 それぞれ、どの様な特技を持っているかはわからないが、とにかく戦って勝つしかない。
 五者五様の戦いの火ぶたが切って落とされた。
 【カオスロード】の攻撃は死者を蘇らせて操るというもの。
 つまりはネクロマンサーのような能力者だった。
 不死身のアンデッド達が琴太を襲う。
 それを片っ端から破壊していく琴太。
 フィクジュエモクリエーターに手直しされたと言っても元は素人が応募して来たキャラクター――こんなものかと思っていた。
 だが、ただのアンデッドではなかった。
 琴太との戦いを経験値として吸収し、新しく出来たアンデッド達に琴太の情報を伝えていくために、アンデッドの実力がどんどん上がっていくのだ。
 アンデッド自体は琴太の【加重撃】でどんどんつぶしていっているが、新しいアンデッド達は際限無く出てくる。
 操っている【カオスロード】を倒さない限り、この流れは止まらない。
 だが、【カオスロード】に一撃を入れたくてもアンデッドの山に阻まれてうまく、【カオスロード】の場所までたどり着けなかった。
 一方、【パフォーマー】と戦っているアリスもまた苦戦をしていた。
 動きが異様に早い【パフォーマー】の動作に対して、アリスの反応速度がおいついていなかった。
 琴太もアリスもこのエリアの制限がどのようなものかが把握出来ていないため、うまく力を使えていないのだ。
 下手に力を使えば思いがけないペナルティーを食らってしまうかもしれないという事であまり複雑な動きが出来ないという事だ。
 それはドロシーも同様だった。
 【オリジナルマン】という怪しい出で立ちのマッチョはそのがたいの大きさにぴったりマッチしているかのように力自慢だ。
 ドロシーは超能力や錬金術を使おうを試みるが、うまく使えずにいた。
 サイコメトリーで探っては居るが、解読にはまだ少し時間がかかるといった感じだ。
 ドロシーはまだ【完全複製丸】を使っていない。
 もしもの時のために取っておいているのだ。
 理由は三つしか無いと言うのがある。
 ウェンディの相手、【タフギャル】はその名が示すようにかなり打たれ強い設定の格闘キャラだった。
 自身の攻撃力よりもとにかく、いろんな攻撃に対しての防御力を特化させていると言ってよかった。
 【HF】による獰猛な攻撃にも耐えたのだ。
 【HF】がまだ、この架空の世界使用になっていないというのもあるのだが、それを差し引いても相当な攻撃力を持っている【HF】の攻撃に耐えるというのは尋常では無かった。
 この様に琴太、アリス、ドロシー、ウェンディは架空の世界でのパワー設定などが確立されていない不安定な状態となっていて、逆に、対戦相手のキャラクター達は確実に自身の特性を活かして攻撃してきていた。
 つまり、琴太達は架空の世界での力の使い方がわかっていないという状態で、相手はその架空の世界の特性を120%引き出して戦っているという状態だ。
 それが仮にティアグラ・ワールドであったとしても現実の世界であれば、琴太達の力は100%引き出す事が出来る。
 が、フィクジュエモという架空の世界においてはそれがうまくなじんでいなかった。
 現実の存在である琴太達は、フィクジュエモが架空の世界から現実の世界への実在化するのと逆に【架空化(かくうか)】というのを行わなければならない。
 それが出来ない状態でいる限り、琴太達は1%にも満たない力しか発揮出来ていないのだった。
 【K】は対戦相手の【紅葉】と戦っているが、六つの最強の一つ、【最大】の力を一瞬出して、倒した。
 【紅葉】の得意とする戦い方は、回避能力の特化だったのだが、その特性を見抜いていた【K】は最も広範囲に影響力がある【最大】の力で倒したのだ。
 【K】は【紅葉】戦で入手したこの【フラッグファイターズダブルダッシュスーパーMAX】の基礎データをアリスに送った。
 この基礎データを解析する事によって、琴太達もこのエリアで力を発揮出来るようになる【架空化】が出来ることになる。
 フィクジュエモクリエーターごと、もしくは作品ごとにこの基本データというものが異なっているため、【K】はいち早く、【紅葉】から基礎データを入手したのだ。
 【K】から基礎データを受け取ったアリスは即座に分析を開始した。
 そして、それをドロシーに送る。
 ドロシーは更にサイコメトリーで解析をして、再度、アリスに戻す。
 そうやって得た解析された基礎データを琴太とウェンディにも送り、全員、【架空化】が完了する。
 さぁ、ここからが反撃だ。
 確かに強敵だったが、それは、琴太達の力が十分に発揮出来ない環境に追いやられていたからでもある。
 環境さえ整えば、これらのキャラクターは琴太達の敵では無い。
 琴太は【カオスロード】を撃破した。
 アリスは、【パフォーマー】を撃破した。
 ドロシーは【オリジナルマン】を撃破した。
 ウェンディは【タフギャル】を撃破した。
 【K】が倒した【紅葉】と合わせて5キャラ倒したので、後は5キャラ倒せば、このエリアは突破出来る事になる。
 相手はbQ0――まともに戦えば、琴太達ならば勝てない相手ではない。
 そのままの勢いで、残る5キャラも倒した琴太達は、【フラッグファイターズダブルダッシュスーパーMAX】の作り出した架空の3Dエリアを突破した。
 突破された【フラッグス】は慌てふためく。
 フィクジュエモクリエーター自身の戦闘力はたかがしれたもの。
 あっさりと【フラッグス】を倒し、先に進むのだった。


 続く。



登場キャラクター説明


001 芦柄 琴太(あしがら きんた)
芦柄琴太
 テララ編の主人公。
 曲がった事が大嫌いな性格。
 義弟である吟侍(ぎんじ)の心臓になっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で身につけた能力である、敵の弱点を突く事により出現する鍵を回す事により敵を倒す事が出来るキーアクションを得意とする。
 鍵十手(かぎじって)も使える。
 ルフォスの欠片核(かけらかく)を体内に宿す。
 更なるスキルアップを目指している。
 今回、【ルツ】の切り札の一つ、【加重撃(かじゅうげき)】という同位相に複数の要素を込めて打てる攻撃力を手に入れる。


002 アリス・ルージュ
アリス・ルージュ
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来たスーパー人造人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 衛星軌道上に攻撃要塞を持ち、未来の通信装備、サイコネットを装備する。
 幼い外見をしているが、レッド・フューチャーの中ではリーダー格。
 性格設定が子供になっているため、コミュニケーション能力は高いとは言えない。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 今回、【ルツ】の切り札の一つ、【アンチウイルステクノロジー】というオーバーテクノロジーを手に入れ、自身の体の改造を出来るようになる。


003 ドロシー・アスール
ドロシー・アスール
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た特殊な人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 左目の義眼を取り替える事により、超能力、魔法、錬金術などの能力を使い分けるスイッチファイター。
 三人組の中では一番大人であるため、話し合いなどは彼女が担当する。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 今回、【ルツ】の切り札の一つ、【完全複製丸(かんぜんふくせいがん)】という完全に本物として力を得られる三つの力を得る。


004 ウェンディ・ホアン
ウェンディ・ホアン
 未来の世界の一つ、レッド・フューチャーから来た合成人間。
 未来組織、新風ネオ・エスクのメンバー。
 動植物や虫、魚、鳥類、鉱物にいたるまで、彼女は同化する事が出来、同化したものの能力を強化した形で使うことができる。
 口下手であるため、口数は少ないが、いざという時、居て欲しい場所に素早く駆けつけるなど気の利いた部分も持っている。
 風の惑星ウェントスで芦柄 吟侍と勝負し、彼の頼みで琴太を助けるために土の惑星テララに助っ人に来た。
 琴太パーティーの新メンバーとなる。
 【ルツ】の切り札、【セパレーションマイセルフ】という力を得て【ハンズ&フィート(HF)】という移動する手足の様な攻撃能力を得る。


005 ティアグラ
ティアグラ
 吟侍の心臓になっている7番の化獣(ばけもの)ルフォスと引き分けた1番の化獣。
 ルフォス同様に独自の宇宙世界を持っている。
 最強の化獣である13番のクアンスティータの力を欲している。
 全ての策が徒労に終わり、動揺している。
 ティアグラ・ワールドという宇宙世界の所有者でもある。


006 リオン・マルク
リオン・マルク
 ティアグラの腹心の怪物でライオンの要素を持つ。
 動揺しているティアグラに代わり、色々裏で動く。




















007 ルツ
ルツ
 ティアグラの恋人に数えられる強者。
 出産能力に特化している。
 ティアグラに見限られる所だが、ティアグラとの交渉に四つの切り札を所有している。
 食べたものの要素を取り込み、自身が産み出す子供を進化させる事が出来る。
 自らの子供を食べて更なる強者を産み出す事もある。
 人間の常識では計れない存在。


008 K(久遠(くおん))
K(久遠)
 琴太達と行動を共にする事になったbPフィクジュエモクリエーターにして二大イメージメーカーの一人。
 六つの最強、最超(さいちょう)、最謎(さいめい)、最高(さいこう)、最大(さいだい)、最極(さいきょく)、最絶(さいぜつ)と呼ばれる力を持っている。
 正体を隠し【K】と名乗って行動しているのはティアグラ軍には彼の消滅者(しょうめつしゃ/地球で言うところのドッペルゲンガー)になる【匿名者(とくめいしゃ)】に察知されないため。







009 偉存教(いそんきょう)の教主【ソイツァ】
偉存教教主ソイツァ
 ティアグラ四天王の一人。
 偉存(いそん)と呼ばれる地球で言えば偉人にあたる偉大な存在達のデータを管理する教団の教主。
 クアンスティータにちょっかいをかけ大失敗したティアグラに代わり、覇権を目指そうとする。




















010 謎のフィクサー、【ツィテリュ】
謎のフィクサーツィテリュ
 ティアグラ四天王の一人。
 歴史の闇のほとんどに関わっていたとされる謎のフィクサー。
 ティアグラと共感し一度は協力するものの、ティアグラのふがいなさに失望し、覇権を目指そうとする。


011 二大イメージメーカー【エメロディア・トライアル】
エロメディア・トライアル
 ティアグラ四天王の一人。
 実在化(じつざいか)という形で現実化することも出来る架空の世界、フィクジュエモ界での二大巨頭も一つとされているbQフィクジュエモクリエーター。
 6つの最強を作ったbPの【久遠】には及ばないものの、御十家(ごじっけ)と言うフィクジュエモの世界での主要作品のほとんどに登場している人気キャラクターは彼女が作ったもの。















012 匿名者(とくめいしゃ)
匿名者
 地球で言えばドッペルゲンガーにあたる存在で、消滅者(しょうめつしゃ)と呼ばれている。
 アナザー久遠とも呼ばれ、bPフィクジュエモクリエーターである久遠が作る六つの最強を同じように使いこなす事が出来る。
 ティアグラが、対久遠のために用意した最強の切り札であり、四天王の中で最も信頼されている。














013 フラッグス
フラッグス
 bQ0のフィクジュエモクリエーター。
 自身が作った架空の世界、【フラッグファイターズ】の世界に琴太達を誘い込み、戦いを挑むも琴太達が【架空化(かくうか)】に成功した時には彼の元に素人が応募して作り上げたキャラクターでは琴太達の敵では無かった。
 フィクジュエモクリエーター達が作り出す架空の世界では独自の基礎データが必要でそれがわからない限り、【架空化】は出来ないとされている。