第004話 幽界へ

ルーメン・テネブライ004話挿絵

第一章 これからの事


 キャリア達はこれからの相談をする事にした。
 もうまもなく、クアンスティータは誕生するだろう。
 そうなれば、キャリア達とて、無関係では居られない。
 この宇宙にいる限り、クアンスティータの影響力は隅々にまで行き渡るだろうからだ。
 クアンスティータの脅威から逃れたくば、他の宇宙に行くしかないのだ。

 ――他の宇宙。
 クアンスティータの誕生を前にして、宇宙同士がくっつきあい、クアースリータの宇宙世界に被さる形で、集結している。
 そのため、宇宙と呼べるものは三四界(さんじゅうよんかい)と虚無六界(きょむろっかい)の四十宇宙世界だけとなっている。
 他にも存在しない世界として抜界(ばつかい)というのがあるが、それは例外だ。
 それ以外は宇宙ではないもの、宇宙以外という事になる。
 三四界と呼ばれる34の宇宙世界――それは、1番の化獣(ばけもの)ティアグラが所有するティアグラ・ワールド、7番の化獣ルフォスが所有するルフォス・ワールド、12番の化獣クアースリータが所有するロストネットワールド(これは本来クアースリータが所有している宇宙世界の周りに他の宇宙が固まって出来た総合宇宙世界であり、本当の名称ではない)、そして、13番の化獣クアンスティータが所有するとされる24もの宇宙世界がある。
 その化獣達が所有している合計27の宇宙世界を除けば、今、キャリア達が存在している現界(人間界)、神側が所有している三つの世界(天界、楽園界、仙界)、悪魔側が所有している三つの世界(魔界、幽界、冥界)がある。
 神話の時代に神と悪魔が魔女ニナから奪ったとされる、それぞれ三つずつの世界に行けば、現界で今起きようとしているクアンスティータの脅威から逃れる事が出来るかも知れない。
 また、虚無六界とは虚界三界(きょかいさんかい/虚絶界(きょぜつかい)、虚湧界(きょゆうかい)、虚裏界(きょりかい))と無界三界(むかいさんかい/無真界(むしんかい)、無全界(むぜんかい)、無想界(むそうかい))と呼ばれ、クアンスティータの脅威が届いていない世界とも呼ばれている。
 抜界については、全く知られていないため、情報が無い。
 キャリア達はそれらの宇宙世界の知っている知識を寄り集めて、何処に行こうかという事を相談した。
 一番まともなルートとして考えられるのはやはり、神と悪魔の属性を持っているキャトラとフォールが居やすい、神と悪魔の所有する六つの宇宙世界のどこかに行くという事だった。
 だが、その六つの宇宙世界は神や悪魔にとっての最後の砦のようなもの。
 光の惑星ルーメンや闇の惑星テネブライよりもさらに強大な敵が居る可能性が高かった。
 キャリア達の心配は的中していた。
 天界には神の最強戦力とされる眞秘~(しんぴしん)、魔界には悪魔の最強戦力とされる超絶魔(ちょうぜつま)が居ると言われている。
 その力は如真(にょじん)や化深(けしん)の比ではない。
 それを上回る力は~上立者(しんじょうりっしゃ)や~超存(しんちょうそん)しかないとされている。
 楽園界や仙界、幽界や冥界にもまだ見ぬ強者達は潜んでいる。
 ルーメンやテネブライは神や悪魔にとっては現界における出張所のようなものに過ぎない。
 本拠地は神と悪魔が所有する六つの宇宙世界なのだから。
 言ってみれば、散々キャリア達を苦しめた敵の本陣に乗り込むようなもの――
 そうは言ってみてもやはり、体質的な相性から考えると他の宇宙世界よりは六つの宇宙世界の方が数段安全と言えた。
 最大の理由としては、敵は多いだろうが、その宇宙世界にある、神や悪魔のアイテムもキャリア達は使える可能性が高いからだ。
 あぁだ、こうだと話し合いは長きにわたり、とうとうその日の夜を迎えた。
 クアースリータが誕生したのが今日なので、もう、クアンスティータが産まれていてもおかしくない。
 だが、クアースリータが誕生した時のような存在のブレを体感しなかった。
 クアースリータの誕生時には自分達が素粒子レベルにまで分解され、再び戻るという状況にまでなったが、クアンスティータの時はそれがない。
 実は、クアンスティータは思ったよりも大したことないのではないか?
 姉であり、兄でもあるクアースリータの方が凄いのではないかとキャトラが口にした。
 だが、それをフォールが否定する。
「何を言っている猫、俺はこれほどまでに恐ろしい存在だとは思っていなかったぞ」
 と言った。
 キャリアは、
「あら、なぜ?」
 と聞いた。
 彼女もよく解らなかったからだ。
 だが、その解らなかったというのが問題なのだ。
 ――そう、全ての存在が反射的に、クアンスティータを感知するのを拒否したのだ。
 クアンスティータの感覚を感じれば存在が消えてしまうためだ。
 存在を保つために、クアースリータの時と違い、外部の気を感じるという行為を全ての存在が拒否したのだ。
 そのため、何も感じなかったのだ。
 存在の本能がクアンスティータの感覚をシャットアウトして存在を保ったのだ。
 つまり、クアンスティータとはそれだけの力を持った化獣(ばけもの)であるという事になる。
 クアンスティータに比べれば、あれだけ、全ての存在がその誕生に焦っていたクアースリータが可愛く見える。
 存在レベルから太刀打ち出来ない化獣が誕生したという事になる。
 フォールは感覚を重視するタイプの戦士であったため、この異常事態に気づいたのだ。
 はっきり言ってこの状態は異常過ぎる。
 この感覚をそのままにしておくのは危険だ。
 早急に何らかの対応を取らなければならない。
 恐らくは、神と悪魔側が何らかの対処を取るだろう。
 もはや、キャリア達にかまっている余裕はないはずだ。
 この隙に乗じて別の宇宙世界へ旅立つ事を決めるのだった。


第二章 幽界


 話し合いの結果、キャリア達が行く宇宙世界は幽界という事に決まった。
 幽界――死者の世界と呼ばれる宇宙世界だ。
 もう一つ、冥界も死者の世界と呼ばれているが、幽界は精神世界、冥界は死体世界とも呼ばれている。
 地球上で語られている幽界や冥界とは少し違った解釈の宇宙世界でもある。
 幽界の方は知的生命の精神が他の生物や物体などに入り、物の怪のような存在となり、この宇宙世界での強者という事になっている。
 冥界は元々死んでいる者達が強者として君臨しているのでその辺りが違う点と言える。
 ちなみに、悪魔側が所有しているもう一つの世界、魔界は魔族が支配する世界なので、こちらとは全く異なっているといえる。
 キャリア達はクアンスティータ誕生の混乱による、神々や悪魔達の隙をつき、見つけ出した幽界の入り口を通り、幽界へと足を踏み入れた。

 幽界は現界とは違い、多種多様な存在がいるという訳ではない。
 現界は神と悪魔の両方からの影響を受け、実に様々な種族や存在がいる。
 だが、幽界は悪魔が所有している宇宙世界でもある。
 必然的に悪魔よりの存在が多くを占めている。
「ここが幽界ニャン」
 キャトラがつぶやく。
 キャリアによって、神と悪魔の両方の性質を持つ身となったキャトラだが、元々は猫の女神である彼女にとっては本来であれば行くことのなかった宇宙世界だ。
 物珍しさも手伝って、あちこちを見回した。
 幽界と言ってもここは幽界の宇宙空間なので、どこかの星に降りてみることにした。
 現界では神と悪魔の猛攻から解放されて落ち着けたのは1日に満たなかった。
 名も知らぬ星へとたどり着いたが、すぐにクアンスティータが誕生したので、またすぐにその星も出て、この幽界へと向かう事になったのだ。
 安住の地とは言わないまでも、どこか落ち着ける星を探したいところだった。
 だが、ここは幽界。
 何が起きるかは解らない。
 全く知らない宇宙世界よりはいくらかマシだが、悪魔の要素を持つ宇宙世界だ。
 いつ、恐ろしい目に合うことがあるかも知れない。
 とりあえず、この宇宙世界の勢力図を少しでも早く知ることが先決だった。
 この宇宙世界の強者が解らないとこれからの行動が見えてこないからだ。
 強者と戦う事が目的ではないが、とにかく、その強者を何とかすれば、この宇宙世界での脅威はその強者よりはないという事になるからだ。
 安心したいという気持ちが一番だった。
 キャリア達は小惑星を見つけてそこに降り立った。
 小惑星は大きさも小さいため、球体ではない歪な形をしている。
 酸素は無いので、異能力を使って自分達で酸素を作り出さないと呼吸もままならない。
 でも、規模が小さすぎて、脅威となる存在は確認出来ない。
 ひとまず落ち着くには良い星と言えた。
「これからどうするんだ?」
 フォールがキャリアに聞いてくる。
 このメンバーのリーダーはキャリアなので、彼女に方針を聞くのが筋だと判断したのだ。
「そうね。まずはこの宇宙世界の強弱を計ってみるわ」
 と答えた。
 キャリアは頭上の五つの光体の内、一つ、オレンジ色の光体を光らせた。
 五つの光体は赤、青、黄、緑、オレンジの五色となっていて、それぞれの光体に別々の異能が隠されている。
 オレンジの光体は探知能力に優れた光体だった。
 敵を知り、己を知れば百戦危うからずの例に従って、まずは、この宇宙世界の敵となる可能性の高い、強者達を調べる事にした。
「何か解ったかニャン?」
 キャトラが質問する。
「待って、今、調べてる。……そうね、幽界のこの辺りの宇宙で恐ろしく強大なエネルギーを三つ感じるわ。でも、恐らくは幽界一番の強者ではないわね」
 キャリアが返答した。
「近づいて反応でも見てみるか?」
「いえ、やめて置きましょう。パワーはやたらと大きいけど、技能がついて来ていないそんな感じの反応だから。力押しタイプだと思うし、無理して戦いを挑むような相手でもないと思うわ」
「そこまで解るのかニャン?」
「あくまでも予想だけど、パワーを垂れ流ししている感じだから、力の制御が出来ているタイプとは言いがたいわね。だとしたら、話して解るタイプとも思えないし、向こうが近づいて来ないならこちらからも行かないというのが正解だと思うわ」
「なるほどニャン」
「俺としてもパワーだけのでくの坊と戦っても仕方ないと思うぞ」
 三名の意見は関わらないという事で一致した。
 強いパワーの相手に手当たり次第戦っていたのでは命がいくつあっても足りない。
 避けられる戦闘は避けた方が良いという方針に決まった。
 戦闘は避けるという事にしたが、それだと、今後の行動が見えてこない。
 幽界の入り口近くという事もあって、ここは本当の幽界と呼ぶには端過ぎるのだろう。
 もう少し、幽界の中心に近づいて見た方が、これからの事も見えてくるだろうという事になり、強い三つの反応を避けるようなルートで、幽界の中心に向けて進路を取った。
 途中、軽い戦闘は何度かあった。
 が、どれも戦闘と呼ぶには物足りないものだった。
 急成長したキャリア達の実力であれば、束になって向かって来ても全く相手にならない程度のレベルの相手しかかかって来なかった。
 それだけ実力差があるにもかかわらず、向かって来るという事は頭の悪い敵と言わざるを得ない。
 身の程知らずと言った所だ。
 どこの世界にもバカは居る。
 そんな風に受け止めていた。
 だが、そんなバカでも何かしら役には立つ。
 キャリアはオレンジの光体を使って、その愚か者達の精神にアクセスし、この幽界の理を探索していた。
 それで解った事が一つ。
 この幽界は階層構造になっているという事が解った。
 キャリア達が居るこの宇宙は表層階層と呼ばれ、幽界から漏れた部分で出来ている宇宙階層だという事が解った。
 表層階層を別とすれば、幽界には第一階層から第十階層まであり、第十階層に近づく程、大物が多く存在しているとの事だった。
 第一階層は12匹の怪妖(かいよう)が支配する宇宙世界だという事だ。
 怪妖とは地球で言うところの妖怪のようなものだろう。
 文字を逆さに読んだだけでもあるので、地球出身のキャリアは理解しやすかった。
 表層階層で解る事はそれくらいだった。
 幽界の表層宇宙の中心に行くと、巨大なブラックホールがあり、その中に入ると次の第一階層へと入る事が出来るらしい。
 だが、一口に表層宇宙の中心と言ってもすぐに行ける訳ではない。
 現界の宇宙空間と同じなのだ。
 むしろ、こちらの方が大きいと言える。
 なので、幽界の端から中心にまで行くにはかなりの距離を進まないと行けなかった。
 光の速さで進んでも気が遠くなる程かかるのだ。
 ワームホールを何度も利用して飛び飛びで進んでいるとは言っても相当日数がかかる旅だった。
 さすがにそこまでかかると途中トラブルに見舞われる事も多々あった。
 幽界に来て最初に感じた三つのでかい気配クラス、もしくは、それを遙かに上回る気配に遭遇する危機もあった。
 が、寸前にオレンジの光体でキャッチし、争いを極力回避する方向に動いて、難を逃れていった。
 殆どオマケ扱いとも言える表層階層であっても、戦えばタダでは済まない強者はゴロゴロ出てきていた。
 キャリア達は宇宙世界規模から見れば、自分達はなんと小さい存在なんだろう――そう思ったのだった。
 惑星を起点にワープして行ったので、惑星内にまる一日滞在する事もあった。
 その惑星内でのトラブルに巻き込まれる事もあった。
 だが、これまでキャリア達が惑星ルーメンと惑星テネブライでの連戦につぐ連戦の日々に比べれば、トラブルと言っても単発、もしくは少数のトラブルなので不思議と冷静に対処出来た。
 それだけ、スキルアップしていたという事でもある。
 旅を続けるキャリア達は 幽界に来て、あっという間に二月が経過しようとしていた。
 かなり、急いで、ワープしていたが、まだ、表層宇宙の中心部には距離があった。
 それだけ、この幽界の宇宙空間が広大だとも言える。
 それから更に三週間ほど移動に費やし、ようやく、表層宇宙の中心が見えて来た。
 だが、表層宇宙最大の障害がキャリア達の前に立ち塞がった。
 地球で言えばラプンツェルを思わせるようなかなり長い髪。
 ただ、ラプンツェルとの違いは髪の毛の持ち主が人間の女性ではなく、猫科の獣人型の男性だという事だった。
 しっぽも三本生えているので、これを素直に獣人と呼べるかどうかは疑問ではあるが。
 何かのキメラと表現した方が良いのかも知れない。
「我が名はジュウダ。幽界の番人なり。尋常に勝負されたし」
 幽界の番人であれば、幽界の入り口にいるべきであると思うが、恐らく、この表層宇宙は幽界にカウントされていないのであろう。
 なので、表層階層から第一階層への入り口となるブラックホールの近くにこの番人が陣取っていたのだろう。
「俺が出る。身体が鈍っていた所だ」
 とフォールが前に進み出る。
 彼は露払いくらいにしか思っていない。
 能力としては髪の毛がウネウネ動いて絡みつくような攻撃をするタイプだと踏んでいた。
 だが、それは違っていた。
 毛量の多い髪の毛は形状記憶合金の様に一本一本が何かの存在を一本の髪の毛に伸ばした状態だった。
 つまり、髪の毛の分だけ、たくさんの存在が寄り集まっていた。
 髪の毛が複雑に形を変えてモンスターの様になり、フォールに襲いかかる。
 このモンスターもただのモンスターではない。
 攻撃力をやたら強化している。
 まるで、ヂグウ族のカヂとやりあった時の様に、攻撃によって、空間の方が歪んで行く。
 カヂよりは無いとは思うが、モンスター一匹一匹が相当な戦闘力を持っていると言えた。
 全ての髪の毛を使い切ったジュウダに対して、モンスターの連続攻撃を避けながら突っ込んできたフォールだったが、ジュウダは自らの三本のしっぽの一つをひきちぎった。
 すると、今度はまるで液体の様な髪の毛がぶわっと出てきた。
 その液体の様な髪の毛がフォールの一閃を防いだ。
 更に、彼の身体に絡みつく。
 恐らく、ジュウダはしっぽを引きちぎる事によって、複数の特性を持つ髪の毛を出せるタイプの戦士なのだ。
 フォールは完全に相手の力量を見誤っていた。
 正直、ただの門番、衛兵だと思っていた。
 思っていたよりもかなり戦闘力は高かったのだ。
 フォールは超高速で身体を動かし、絡みついた液体状の髪の毛を振り払う。
「……出来る」
 フォールは相手の実力を認めた。
 油断して勝てる相手では無いと自分の落ち度も認めた。
 土刀(どとう)を抜くフォール。
 土刀を使うという事は彼の必勝パターンでもある。
 土刀は元々、魔の属性を持つ武器でもある。
 なので、同じ属性とも言える幽界の敵には効果は薄いかも知れない。
 むしろ、キャトラが出た方が、相手に大ダメージを与えるかも知れない。
 とは言え、フォールもまた、キャリアの手により、光の属性を与えられても居る。
 闇の属性の土刀に光のエネルギーを送ったら、どうなるのかは解らないが、それでもやるしかない。
 危険を冒さずして、この目の前の相手には勝てない。
 そう思った。
 キャリア達の現在のレベルでもまた、この幽界で生きていくには足りていない。
 この幽界でも何かしら力をつけていく必要があると思うのだった。
 結果から見ると、三日三晩の死闘の末、フォールはこの強敵を倒している。
 だが、この強敵は表層階層の敵に過ぎない。
 次の第一階層にはこれ以上の敵が居ることは推測がつくし、第二階層、第三階層と深い階層に進む程、より、強敵が待ち受ける事も推測出来た。
 幽界で生きていくという事を選択するのであれば、生きていくだけの強大な力が必要だ。
 キャリア達はそう思うのだった。
 キャリア達はこの幽界では異分子に過ぎないのだから。
 難敵を突破し、いよいよ、本当の幽界となる第一階層の宇宙に進むため、表層宇宙の中心部にあるブラックホールに入っていった。
 吸い込まれるキャリア達。
 あっという間に彼女達は幽界の第一階層の宇宙へと運ばれて行った。


第三章 幽界の第一階層


 キャリア達は幽界の第一階層の宇宙空間に出てきた。
 表層階層との違いは全くわからない。
 パッと見、その差異は見受けられない。
 とは言え、宇宙空間でボケッと浮かんでいても仕方がない。
 とりあえず、足場となる惑星を探して降り立つ事にした。
 辺りを見回す。
 近くに星は見あたらない。
 現界で言う所の超空洞ヴォイドという所だろう。
 この宇宙の場が第一階層のどの部分に相当するのかは解らない。
 だが、迷って居ても仕方がない。
 星がある所まで再びワープを繰り返し、進んでみる事にした。
 途中、星間物質も確認出来た。
 現界と作りはそう変わらないかも知れないと思うのだった。
 調べた所によると、この第一階層は十二匹の怪妖が支配しているはず。
 まずは、それを理解する事から始める事にした。
 第一階層の中心に近づくに従って、敵の攻撃も激しくなっていった。
 キャリア達を完全に排除しようという動きが出てきた。
 慣れているとは言え、受け入れられないという事は悲しいことでもあった。
 今のところ使えそうなアイテムも落ちていない。
 新しい新技なども身につけては見たものの、これと言って際だつ技ではなかった。
 対して、敵はどんどん強い者が出てくる。
 このままでは勢いに負けてまた大ピンチになるのは時間の問題だった。
 何かを得なくては――
 この状況を変えるような大きな何かを。
 それは解っているのだが、焦れば焦るほど何も見つからない。
 あれこれ右往左往している間に強敵がまた現れた。
 今まで第一階層で戦って来たのは、単独、もしくは、少数の集団だった。
 だが、今度は違う。
 大きな組織に所属する敵だった。
 十二匹の怪妖に属する下部組織だった。
 下部組織とは言え、これまで戦って来た相手よりも遙かに実力は上だった。
 フォールの斬撃で千切れた腕が別の個体になって更なる攻撃を仕掛けてくる敵。
 キャトラに心臓を貫かれて絶命しても尚、攻撃を仕掛けて来る敵。
 キャリアに首を跳ねられても絶命しない敵など、戦闘力、生命力が強い敵が多く出現した。
 一体一体であれば、それほど、苦戦はしないが、チームを組んで来られるとかなり厄介だった。
 また、それらの猛者達はただの兵隊にすぎない。
 それらをまとめる隊長クラスはその比ではなかった。
 特に際だった特殊能力はないのだが、それでも戦闘力が桁外れに高かった。
 そのまま戦っていては無事では済まないので、キャリア達は新しく覚えたエナジードレイン効果で敵の戦闘力や体力を奪ってから対応していた。
 合わせて、封印術も追加効果として使っていった。
 敵の力を落として戦うというスタイルはあまり好きではなかったが、連続戦闘の効率を考えるとこれが一番合っていた。
 強敵がうじゃうじゃいるとは言え、ここはまだ第一階層に過ぎない。
 幽界は第十階層まであるのだ。
 いつまでも第一階層をうろうろしては居られない。
 敵の戦闘力は極端に上がっているが、特別厄介な能力などは見受けられない。
 特殊な力はあるが、どの能力も現界で一度は見た事のある能力ばかりだった。
 厄介なのは数だ。
 ざっと見えるだけで10万は居る。
 見たことある能力ばかりでも10万もの大群に来られたらたまらない。
 F(怪物ファーブラ・フィクタ)は関係者全てにいっぺんにダメージを与える力を持っているが、キャリア達にその力はない。
 大勢にどっと来られたら、その相手をするのはたまらない。
 下部組織でこれだけの戦力を持っているのだ。
 上位の組織の戦力を考えるとゾッとする。
 そして、その頂点にいる十二匹の怪妖の一匹はどれだけの力を持っているのだろう。
 今のキャリア達では敵わないだろう。
 第一階層の支配者のレベルでこれだ。
 第二階層から第十階層までの支配者はどれだけ凄まじい力を持っているのか皆目検討もつかない。
 だが、そんな先の話を考えていても仕方ない。
 今はこの目の前の敵をどうにかする事だけを考えるべきだ。
 それに、どんなに凄くても、クアンスティータよりは遙かにマシなのだ。
 クアンスティータを相手にする事を考えたら、この幽界の敵との戦いなど、茶番に過ぎない。
 いや、茶番にも満たないレベルだろう。
 ――そう、どんなに辛い戦いの連続だろうと、クアンスティータが誕生した現界で起きているだろう事よりは、ずっと遙かに好転しているのだ。
 今は、その幸運を喜び、この戦いを生き抜こう。
 キャリア達はそう思うのだった。
 これくらいの窮地であれば、クアースリータの誕生から始まって、クアンスティータの誕生を体感した彼女達にとっては絶望感を感じるほどでもない。
 いくらでもこの状況を打破する方法は考えつく。
 それを証明するかのように、下部組織を攪乱して、ついには全滅まで追い込んだ。
 これによって、上位組織の反感は買うだろうが、それが何ほどのものだろうか。
 クアンスティータから見ればゴミ以下の敵だ。
 少なくともキャリアは偽者とは言え、クアンスティータを産み出した存在なのだ。
 この程度の相手にひるむいわれはない。
 キャリア達は強気になっていった。
 強気になるに従って、キャリア達の戦闘力もアップしていき、これまでの強敵も強敵では無くなっていった。
 また、更に成長していったという事になる。
 キャリア達の進軍は続く。
 そして、ついに怪妖の一匹が彼女達の前に顔を出した。
 惑星ルーメンと惑星テネブライの無限ループに捕まったばかりのキャリア達ならば震え上がっているような強大な力を感じる。
 だが、今の彼女達からしてみると、何だこんなものか――という考えがどこかにあった。
 クアンスティータの影響で感覚がかなり麻痺しているのだ。
 クアンスティータを感じた後で他の存在を見ても、大した事だとは思えなくなる。
 そんな症状だった。
 恐れは身体を萎縮させる。
 だから、恐れないという事は有利に働く事でもあるが、それでも力の差は向こうの方が相当上向きになっている。
 このままでは勝てないのだ。
 怪妖 呪業(かいよう じゅごう)――
 キャリア達に立ち塞がったその怪物は元は小さな小動物だった。
 何の小動物だったかは定かではないが、長生きをし、その力に呪いの力を得た。
 幽界の様々な精神エネルギーを取り込み、その身体は肥大していき、元の動物が何だったのかも解らなくなった。
 特に好むのが、人間タイプの業のエネルギーであるという事から【呪業】と呼ばれるようになった。
「ぐぎゃろごろぐろごろっ……」
 何の鳴き声だか解らないうなり声を上げる。
 力の弱い者が聞けば、このうなり声を聞いただけで、発狂死してしまう程の力を秘めている。
「下がってて、今回は私が行く」
 前に出るキャリア。
 いつもであれば、まず、真っ先に前に出るのはフォールだが、キャリアはこの呪業の力を確かめるため、自ら前に出た。
「行けるのか?」
 キャリアの行動にフォールが尋ねる。
「さあ?やって見ないと解らないわ」
 自分でもどうして、戦おうと思ったのか解らないので、返答に困った。
「手伝うかニャン?」
 キャトラが気遣う。
「ありがとう。でも、良いわ。どうしてもダメっぽかったら、その時は手伝ってもらうかも知れないけど、この相手には一人でやってみたいから」
 そういうとキャリアは頭上の光体の一つ、緑色に光る光体に手を伸ばす。
 この光体はクアンスティータで言えば背花変(はいかへん)に相当するものだ。
 背花変のように何にでも変わる万能物質では出来ていないが、それでもかなりの変化を可能としている。
 緑の光体は形を変えて銃のような形態となる。
 幽界の自然エネルギーを吸収し、それをエネルギーに変換して、弾として打ち出すタイプの武器となる。
 打ち出された弾は相手にダメージを与えた後、再び、自然に帰るという循環方式をとっている。
 ガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッ……
 連続で弾を発射するキャリア。
 呪業は避けもしない。
 そのまま、弾を受けた。
 ダメージは無い。
 全くない。
 どうやら、呪業は幽界のエネルギーを取り込めるようだ。
 そこまで解れば、手段を変えるだけだった。
 緑の光体は銃から槍のように形状を変えた。
 先端には生体物質の反物質を作り出す塗料を塗っている。
 呪業に突っ込むキャリア。
 今度は避けた。
 どうやら、自分に対して影響のあるなしを判断出来ているようだ。
 自分に悪影響のある攻撃は受けないという事が解った。
 さらに光体の形状を変えるキャリア。
 今度は巨大な鞭のようなものだ。
 先端には反物質を生成する玉のようなものが取り付けられている。
 しなる鞭。
 千変万化、変幻自在の攻撃に呪業は距離を取る。
 追いかけるキャリア。
 だが、ここで、呪業の反撃が始まる。
 殺気を込めたうなり声をあげる。
 その声の恐ろしさに周りの存在が恐怖を感じる。
 その恐怖をエネルギーに変換して、キャリアにしむける。
 ドドドドドガドガドガドドドドドドドドドドドドドドドドドガガガガガドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガガガドドドドドドドドドドドドド……
 もの凄い勢いでキャリアに向かって行く凶悪な畏怖と怨念のエネルギー。
 キャリアは頭上の黄色の光体に手を伸ばし、球状の盾を作り出す。
 黄色の光体には様々な極端な浄化効果を持っている。
 今回ではこれが大きな効果を持つ。
 青色の光体には逆浄化の効果を持っているが、それは、闇属性ではなく、光属性の存在に対して効果を持つ。
 キャリアの黄色の光体の盾に次々と怨嗟のエネルギーが突っ込んでいく。
 突っ込んで行った怨嗟のエネルギーはすぐに浄化され、昇天していく。
 とりあえずは受けきっているが、なにしろ、勢いがもの凄い。
 このままでは力押しで負けてしまう。
 怨嗟のエネルギーは勢いを増す。
 ドドドドドドドドドドガガガガガドドドドドドドドドドドドドガガガガガガドドドドドドドドドドドドドガガガガガガガガガガガドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガガガガガガガガガガガガガドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
 ピキィ……
 という音が鳴り、ついに、怨嗟のエネルギーの勢いに負け、その中に居たキャリアに怨嗟のエネルギーが直撃した――
 かに見えた。
 が、その中に居たキャリアは緑の光体で作り出したキャリアのダミーだった。
 彼女は初めからその中には居なかった。
 彼女は別の場所に瞬間移動し、オレンジの光体で呪業のウィークポイントを調べていた。
 そして、囮に呪業が驚いた一瞬の隙をついて、残る赤の光体を巨大な斧に変化させ、それを背中に振り下ろした。
 赤も緑の光体と同じでクアンスティータで言えば、背花変に当たる万能細胞で出来ている。
 だが、どちらも、背花変と比べれば力に制限があり、赤の光体が出来ても緑の光体が出来ない事、逆に緑の光体が出来て赤の光体が出来ない事もある。
 また、どちらも出来る事とどちらも出来ないこともあり、背花変よりは数段劣る力と言える。
 だが、それでも相当な力であることは間違いなかった。

 ザンッ
 という音がして、呪業の身体が真っ二つに別れる。
 呪業はどんなに傷つけても再生する身体をもっているが、ウィークポイントである元の動物の身体は血液を通して体内をもの凄いスピードで動いている。
 その動きを見極めて、呪業の背中にウィークポイントが移動した時を見計らって、タイミングを合わせて一撃を食らわせたのだ。
 グギャアゴォォォッ……
 という雄叫びが聞こえたかと思うと、呪業の大きな身体が、どんどん小さくなっていく。
 肉眼では確認できないが、エネルギーが急速に体外に放出されているのだ。
 手強い敵だったが、見事、12匹の怪妖の一角となっていた呪業を撃破したのだった。
 勝つには勝ったが、一歩間違えば、負けていたのはキャリアだった。
 だが、第一階層を支配していた一匹を倒したので、刺客も滅多な事では仕掛けて来なくなった。
 怪妖を倒せる者に下手に挑めば返り討ちにあうと思っているのだろう。


第四章 第二階層へ


 ほぼ素通りで、第一階層を進むキャリア達だが、全く敵が居なくなったという訳ではない。
 ――そう、他の怪妖達がまだ、残っているのだ。
 特に、呪業を倒してしまったという事で、自分達の権威を失墜させたとして、キャリアに対して、強い殺意を覚えるようになった。
 そして、二匹目の怪妖が彼女達の前に立ち塞がるのだった。
 怪妖 怨堕(かいよう えんだ)。
 それが、その怪妖の名前だ。
 怨堕は元、天使だ。
 それが、幽界に落ち、深い怨嗟を浴び続け、やがて原型をとどめない怪妖へと姿形を変えていったのだ。
 今ではすっかり、幽界の住人だ。
 心の底から、天使という部分は無くなっている。
 天使であった自分と引き替えに強大な力を手にした怪妖。
 見た目としては天使と呼ぶよりは鬼に近いだろう。
 完全な鬼では無く、印象として鬼に近いという意味でだ。
 透き通った白い肌は浅黒い筋肉質な肉体となっている。
 エンジェルハイロゥは頭に突き刺さり、その翼は固まり、翼というよりは大きなトゲの様に見える。
 幽界は精神の世界とも呼ばれているので、精神の影響が肉体をも変化させる。
 怨堕にはフォールとキャトラが戦う事になった。
 キャリアですら、怪妖に対しては危なかったので、最初はキャトラが戦う事になっていたが、それでは足りないという事でフォールが加勢する事になった。
 2対1になるので、彼としては面白くない展開だったが、それを言ってしまえばキャトラはこの相手に勝てないかも知れないので、手伝う事にしたのだ。
 だが、2対1でもかなり苦戦を強いられていた。
 キャリアも手伝いたいが、彼女の前には更に2匹の怪妖が立ち塞がっていた。
 1匹は耳飾りになっていた聖魔ジャンルと聖魔マドゥワスを召喚して対応させたが、残る1匹はまた、キャリアが対応するしかない。
 2匹の怪妖の名前は憎羅(ぞうら)と疑闇(ぎあん)という。
 ジャンルとマドゥワスが相手をする憎羅は闇よりも暗い暗黒をまとう怪妖だ。
 そのため、正体が全くわからない。
 疑闇は虚像を映し出す怪妖だ。
 実際に見えている姿である可憐な少女と実物は全く似ても似つかない。
 実体は醜い怪物である。
 本当の姿が解らないという事では憎羅と共通点のある怪妖だ。
 キャリア達に襲い掛かる三匹の怪妖達の猛攻が始まった。

 ギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャギャギャギャギャギャガガガガギャギャギャ……

 ゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガ ガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガ ガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガ ガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガ ガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガ ガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガゴガガガガガゴゴゴガガガガガガガガガガ……

 ズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダダダダズババババダダダダダダダダダダ ダダダズババババダダダダダダダダダダダダダ……

 それぞれの闘いでの猛ラッシュが始まる。
 最初に戦った呪業もそうだが、怪妖は共通して、好戦的だ。
 キャリア達があれこれ戦略を練るより前に凄まじい連続攻撃を仕掛けてくるので、彼女達は本能の部分で、直感よりも早く回避しながら攻撃をするしかない。
 だが、一度は呪業という怪妖を倒しているのだ、コツは何となくわかる。
 キャリアは四名の仲間にテレパシーでサインを送った。
 怪妖の弱点はずばり、攪乱だ。
 この第一階層で圧倒的な力を持っている怪妖達は力押しでその覇権を握ってきている。
 第一階層の怪物たちもそんな怪妖達に真っ向から力で対抗し、敗れ、その血肉となって行っている。
 そのため、あまり、攪乱とか奇策を使ってくる相手が居なかったのだ。
 その力が広範囲に及ぶため、例え攪乱しても攪乱になっていなかったのだ。
 だが、キャリア達のパワーとスピードであれば、何とか怪妖達に攪乱として通じる。
 まともに戦えば、勝機は薄いが、今は三匹の怪妖達が相手である。
 恐らく、怪妖達は今まで、協力して戦ったという経験はなかったはずだ。
 怪妖一匹いれば、事足りる相手ばかり相手にしてきただろうからだ。
 だが、キャリア達という不足の事態に急ごしらえのチームワークで闘っている。
 いや、チームワークとすら呼べないだろう。
 怪妖達はお互いのテリトリーを犯さないように戦っているため、本来の力が出せていない。
 元々は憎悪の固まりのような存在なのだ、本当の信頼関係とは無縁だろう。
 うまい事、攪乱しながら、怪妖同士をぶつけ合わせればと思っていたら、本当にそうなった。
 回避を続けていた、キャリア達は偶然、同じエリアに逃げ込んだ。
 追いかけてきた怪妖達を無事交わしたが、怪妖達はお互いが衝突した。
 お互いがぶつかったとなったら、後は、怪妖同士の殺し合いが始まるだけだった。
 三匹の怪妖達が、それぞれ他の二匹に対して闘いを挑んできた。
 三つ巴の闘いとなり、キャリア達は観戦者という立場に変わった。
 正直、活路がなかなか見いだせなかったので、助かったと言えた。
 三つ巴の完全なつぶしあいとはならなかったが、生き残った、最後の一匹、怨堕をキャリアの反物質でできた矢が急所をとらえた。
 棚から牡丹餅という形でキャリア達は勝利した。
 フォールはこの勝ち方に納得はしていなかったが、それでも勝ちは勝ちだ。
 そんなことよりも、キャリア達が原因で、12匹いた怪妖が2/3にまで減ってしまったのだ。
 更なる怪妖の怒りを買う前に、第一階層を突破する事を優先させた。
 幸い、追手は現れなかった。
 キャリア達は知らなかったが、4匹の怪妖の消滅により、第一階層の勢力図に大きな変化があったので、他の8匹の怪妖は出てこなかったのだ。
 侵入者であるキャリア達を追うよりも、自分の担当するエリアの拡大を怪妖達は重視したのだ。
 幸運が続き、難を逃れた、キャリア達は、第一階層の宇宙の中心へとたどり着いた。
 そこには表層階層の時と同様に巨大なブラックホールがあった。
 ここに入れば、第二階層という事になる。
 足早に動いたため、第二階層の情報は仕入れて来れなかったが、それを探っていたら、状況を立て直した怪妖達が追ってこないとも限らない。
 幸い、見張りもいない事だし、入る事にした。
 ──が、突然、フォールが叫ぶ。
「違う、こっちじゃない」
 向かうところだった、キャリア達は急旋回して、そのブラックホールを離れた。
 すると、そこから何千光年も離れたところにもう一つ、巨大なブラックホールがあった。
 先に見た方のブラックホールは第二階層の入り口ではなく、侵入者を永遠の闇に閉じ込める罠だったのだ。
 怪妖達が追ってこなかったのもこの最後の罠があったからかもしれない。
 キャリアは、
「なんで気づいたの?」
 とフォールに聞いた。
 彼は、
「何となく、表層階層の時のブラックホールと違う気がした。ただそれだけだ」
 と答えた。
 頼りになる仲間が居ると言うことは心強い事だとキャリアは思った。
 一瞬、冷やっとしたが、キャリア達は無事、第二階層の宇宙へと進んだ。
 キャリア達は怪妖を全滅させる事が目的ではない。
 なので、無事に通れれば、無理に全部の怪妖と戦う必要はない。
 追って来ないのであれば、こちらも相手にしない。
 フォールだけはリベンジとして、他の怪妖との一騎打ちをしたかったが、そうも言っていられない。
 第二階層には更なる脅威があるのだ。
 納得がいかない結果でもそこは割り切って前に進むのみだった。


第五章 第二階層の宇宙世界(幽界)


 幽界の第二階層の宇宙世界にキャリア達はやってきた。
 第一階層の時のように、あらかじめ、情報を得ていないので、この宇宙世界では何が脅威になっているのかがまだ、よく解っていない。
 とりあえずは、キャリアがオレンジの光体を大きくして、周辺のパワーをさぐってみた。
 そこで解った事が一つ。
 どの様な存在がいるかはまだ、解らないが、第一階層が怪妖という脅威の一極集中だったのに対し、この第二階層はそうではないというのが解ってきた。
 むしろ、第一階層がシンプル過ぎたのだ。
 この幽界は現界(人間界)の宇宙世界と同じ規模を持つ世界だ。
 たかだか、十階層の脅威が十種類だけでは、現界と釣り合わない。
 現界ほどではないにしても、もっと、色んな脅威が存在するのが、幽界と言えるだろう。
 言ってみれば、第一階層もまた、表層階層と同じように、あまり規模の大きくない宇宙世界と言える。
 考えて見れば、こんなにすんなり、それぞれの宇宙の中心にまで進めるというのも層が薄かったという証拠だ。
 本来は、もっと、様々な脅威が無数存在し、手ぐすねを引いてキャリア達を待ちかまえているというのが実際の所だろう。
 だが、それは悪いことばかりでもない。
 上手く脅威と脅威の狭間を見つける事が出来れば、案外すんなり通れるかも知れないという可能性をもまた持っているという事になる。
 なるべく当たり障りのないように行動していけば、トラブルともそれほどぶち当たらずに進めるだろう。
 そもそも、キャリア達はトラブルと正面から向き合い過ぎているきらいがある。
 真っ正面から戦い続けて行けばいずれ疲弊し、やがて、倒されるという運命が待っている。
 クアンスティータではないのだから、その宇宙世界全てと戦う様な戦力はキャリア達は持っていないし持つことは出来ない。
 避けるべき戦いは避けるべきなのだ。
 何が何でも戦うということは間違っている。
 だからこそ、フォールにも怪妖との満足いかなかった戦いを諦めてもらった。
 フォールもそれが解るからこそ、黙って、指示に従ったのだ。
 この幽界に来てしばらく経つが、キャリア達は心の成長もしていった。

 その成長に影響されたのか、新生キャリアの背中から生えている帯の様なものが形を少しずつ変えていって、二本の突起物になった。
 その二本の突起物には何らかの結晶が何種類かついている。
 これがどのような力をもたらすのかはまだ不明だが、元々の帯の様なものは頭上のオレンジの光体と連動していて、現在に至るまで幽界の宇宙世界の状況を感じ取り、この宇宙世界に特化した形態へと形を変えたのだ。
 この突起物はその場の宇宙空間と連動し、それに見合った結晶を作り出す。
 その結晶を使って、幽界での戦いを有利に進める事が出来るというものだ。
 キャリアはこの自身の体内構造をオレンジの光体を利用し、理解した。
 また、キャリアだけがスキルアップした訳ではない。
 フォールとキャトラもまたスキルアップしていた。
 二人はどちらも見た目に大きな変化があるという訳ではなかったが、属性などが体内でめまぐるしく変化していた。
 それは、絆玉(ボンドボール)を通して、キャリアの成長が直に影響するという事でもある。
 絆玉(ボンドボール)はもう無い。
 フォールやキャトラが完全に身も心も仲間になった時、その役目を終えるからだ。
 だが、その絆玉(ボンドボール)からの影響はフォールとキャトラにずっと残る。
 キャリアの成長は同時にフォールとキャトラも成長しているという事に繋がるのだった。
 スキルアップの同調現象をもたらすのが絆玉(ボンドボール)の大きな特徴だった。
 キャリアの背中の突起物で作られる結晶はフォールとキャトラにも良い影響を与える事になるのだ。

 キャリア達は幽界に身体をなじませつつあった。
 そうしなければ、生きていけず、異物として、狙われる立場が続く事になるのだ。
 否が応でもそうしなければならなかった。
 成長するにしてもそれには限度というものがある。
 成長し続けるにしても成長のスピードというものはどうしても限られるからだ。
 だが、自らの成長で幽界の反発を買う事よりも、より、幽界に適した身体になることで、幽界の反発というものをかなり抑えた形になった。
 郷に入っては郷に従えではないが、幽界に来たのだから、幽界に会った体質をベースにやって行くことがキャリア達が生き残って行く事に対して最も適した事となった。
 それを証明するかの様に、敵対する存在の数や種類は第一階層の宇宙世界よりも相当数多いという調べがついているのに、実際に向かってくる敵の数はむしろ、第一階層よりもこの第二階層の方がかなり少ないと言えた。
 それは、木を隠すなら森の中のように、より、幽界になじんだ事によって、敵の方も異物としてキャリア達を見つけにくく、気づきにくくなっているという事でもあった。
 とは言え、全く敵がいないかというとそうでも無く、進んでいくと、少なからず絡んでくる輩というものは出てくるものである。
「お前達、ここを通りたくば、お前達の生命力を置いていけ」
 キャリア達の前に大きな影が立ち塞がる。
 ここはまだ、第二階層宇宙世界の宇宙空間だ。
 敵の名は【オイティエッケ】。
 第二階層宇宙世界の宇宙空間に漂う生命エネルギーを食べて生きている存在だった。
 キャリアは
「生命力を置いていけと言われて、はい、そうですかという訳には行かないわ。他に方法はあるのかしら?」
 と言った。
 オイティエッケは
「ならば、死ぬしかないな」
 と返す。
「そういう訳にはいかないのよね」
「ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……」
 オイティエッケの【ぼぼぼぼ……】の連呼に反応して、オイティエッケの身体が無数に分裂していく。
 オレンジの光体で見ると、オイティエッケの属性が変わっている。
 どうやら、オイティエッケは分裂を繰り返すことによって、オイティエッケを構成している原子の構造が変わって行き、次々と別属性の分身を作り出すことが出来るようだ。
 強敵――ではある。
 だが、この広すぎる第二階層の宇宙世界からみたら、その辺にゴロゴロいる敵の1つに過ぎない。
 もっと特別な力を持った更なる強敵はまだまだウヨウヨいる。
 いつまでもこの程度の相手に躓いている暇は無い。
 先はもっとずっと長いのだ。
 もっと奥まで進みたいと思っているキャリアは早々にこのオイティエッケを倒す事を選択した。
 背中の突起物から新たな結晶が作り出される。
 対オイティエッケに特化した結晶だ。
 オレンジの光体を通して、オイティエッケが何が得意で何が苦手かというのはよく解るようになっている。
 キャリアは背中の突起物から結晶を一つ飛ばした。
 もちろん、オイティエッケに向けてだ。
 オイティエッケは無数に分裂しているので、分裂した内の一つに向けてという事になる。
「おぎょぎょぎょぎょあがぎょぎえげぇ〜っ」
 という悲鳴が上がり、次々とオイティエッケの無数あった分裂が消滅していく。
 F(怪物ファーブラ・フィクタ)の関係者全てにダメージを与えるというところまでは行かないが、元々、一つの名前でくくられる存在――この場合はオイティエッケになるのだが、このオイティエッケ全てに影響する結晶だったのだ。
 どんなに違う属性が増えて行っても、結局は元はオイティエッケという一つの存在が増えて行ったものである。
 元が一つである限り、全てに影響するダメージを与えるという力がその結晶にはあったのだ。
 しかも、これはただ、結晶を放っただけだ。
 結晶の加工次第で、どのような攻撃バリエーションになるか、想像するだけでもかなりのスケールアップと言えた。

 オイティエッケは最後の一つまで、全て、消滅していった。
 時間にすると大体、数十秒くらいだろうか。
 F(怪物ファーブラ・フィクタ)の攻撃だったなら一瞬なので、その辺のスケールダウンはあるが、それでもかなりの力だと言える。
「先を急ぐわよ」
 キャリアはフォールとキャトラに声をかける。
 自分達が何をなそうかというのはまだ決まっていない。
 目的もはっきりしない。
 だが、ここはまだ、第二階層に過ぎないのだ。
 幽界で何かをなすとしても中途半端過ぎる位置であると言える。
 進むなら、最深部である第十階層辺りまでは行かないとやりたい事とかが見えてこないのかも知れない。
 キャリア達は何かをするのではなく、まず、目的を見つけるために前に進む事を選択するのだった。
 キャリア達の現在地は幽界の第二階層の宇宙世界のどこか。
 第三階層に進むには恐らく、第二階層の宇宙世界の中心部にある巨大ブラックホールの所まで行くしかない。
 その前に、第二階層に居る本当の意味での強敵達とはまだ、出会っていない。
 第一階層と違い、多種多様な存在が居る第二階層。
 これからどんな冒険になっていくのかは解らない。
 だが、彼女達は前に進むしかない。
 明日を手にするために。

続く。





登場キャラクター説明

001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 偽クアンスティータを産み出し、新たなる姿へと変わっていった。
 天使と悪魔の翼とエンジェルハイロゥは消え、代わりに、背中からは帯状のものから結晶を産み出す突起物が生えるようになり、頭上には赤、青、黄、緑、オレンジの五色の光体を持つようになる。
 赤と緑はクアンスティータの背花変(はいかへん)の劣化版万能細胞、青は逆浄化、黄色は浄化、オレンジは探知能力を持っている光体。
 エナジードレイン、封印術など、細かい成長などもしている。



002 猫神 キャトラ
キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼女にも影響する。
 キャリアによって、神の要素だけでなく、悪魔の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。


003 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
フォール
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼にも影響する。
 キャリアによって、悪魔の要素だけでなく、神の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。






004 聖魔(せいま)ジャンル
聖魔ジャンル
 キャリアの悪魔の要素を持ったサボータと天使の要素を持ったセラフィールの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている男性でもある。





















005 聖魔(せいま)マドゥワス
聖魔マドゥワス
 キャリアの悪魔の要素を持ったクルゥと天使の要素を持ったフクィンの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている女性でもある。



















006 ジュウダ
ジュウダ
 幽界(ゆうかい)の表層階層の中心部にある巨大ブラックホールを守護する戦士。
 長い髪の猫科の男性で、三つのしっぽがある。
 髪の毛は形状記憶合金の様に複数の存在を変えたもの。
 また、髪の毛が無くなっても三つのしっぽを引きちぎる事により、他の髪の毛を出すことも可能。




007 怪妖 呪業(かいよう じゅごう)
呪業
 幽界(ゆうかい)の第一階層の宇宙世界を支配する12匹の怪妖(かいよう)の一角。
 元々は小動物だったが、呪いの力を得て肥大し、強大な力を振るう。
 力のない存在が聞いたら発狂するほどのうなり声を上げる。
 幽界のエネルギーを体内に変換することが出来る。


008 怪妖 怨堕(かいよう えんだ)
怨堕
 幽界(ゆうかい)の第一階層の宇宙世界を支配する12匹の怪妖(かいよう)の一角。
 元々は天使だったが、原型をとどめない怪妖へと身も心も変わっていった。
 透き通った白い肌は浅黒い筋肉質な肉体となり、エンジェルハイロゥは頭に突き刺さり、翼は大きなトゲのようなものに変わっている。
 見た目は天使というよりは鬼に近くなっている。















009 怪妖 憎羅(かいよう ぞうら)
憎羅
 幽界(ゆうかい)の第一階層の宇宙世界を支配する12匹の怪妖(かいよう)の一角。
 闇より深い暗黒をまとう正体のわからない怪妖。


010 怪妖 疑闇(かいよう ぎあん)
疑闇
 幽界(ゆうかい)の第一階層の宇宙世界を支配する12匹の怪妖(かいよう)の一角。
 正体は見にくい怪物だが、見た目は可憐な少女に見える怪妖。


011 オイティエッケ
オイティエッケ
 幽界(ゆうかい)の第二階層の宇宙世界にいる強者だが、支配者ではない。
 分裂を繰り返す度に別属性の分身を作り出せる。
 見た目は大きな黒い影のように見える存在。