第007話 仙界(せんかい)

ルーメン・テネブライ007話挿絵

第一章 光明


 キャリア・フロント・バック達一行は現在、冥界(めいかい)の第二階層の宇宙空間に来ている。
 ここで、【古都百合(ことゆり)】の娘、【古都薔薇(ことばら)】の子孫達の悲劇の歴史を知ってしまった。
 同族同士の殺し合い。
 それは、【古都薔薇】の分家の一つ、フラワ族でも例外なく行われていた。
 凄惨な殺し合いがあり、フラワ族も残すところフラワ・デイジーとフラワ・ダリアの二名を残すのみとなっている。
 フラワ族には【古都百合】の力でも解除出来ないほど強力な死の呪いがかけられている。
 たった1名になるまで殺し合わないと苦しみながら死んでしまうという呪いだ。
 最凶最悪のフラワ族と呼ばれたフラワ・ダリアは殺さずを貫いているフラワ・デイジーのために他の同族達と戦っていた。
 そんなフラワ・ダリアの目的はフラワ・デイジーに殺される事。
 だが、フラワ・デイジーは親友であるフラワ・ダリアを殺したくない。
 このままでは二名とも苦しみながら死んでしまう。
 その絶望的な事実を知り、キャリア達はなんとかしようと立ち上がる。

 しばらく捜索したのち、ついにフラワ・デイジーとフラワ・ダリアを見つけた。
 二人は向き合って話していた。
 フラワ・デイジーは、
「出来ないよ、フラワ・ダリア、私には出来ないよ」
 と辛そうな声を上げている。
 フラワ・ダリアは、
「一回だけです。私がお渡しした【破源(はげん)の大皿】の力を使えば、私も死ねます、お願いしますフラワ・デイジー」
 と切羽詰まった様な表情です。
 フラワ・ダリアは身内をたくさん殺してしまった事実に耐えられないとフラワ・デイジーによってとどめを刺される事を望んでいるようだ。
 フラワ・デイジーもフラワ・ダリアも相手を殺したくない。
 相手に殺される事を望んでいる。
 見ていて痛々しい。
 【破源の大皿】とはフラワ・ダリアが持っている力を具現化したもので、その力は【古都薔薇】より譲り受けた【古都百合】の一族の三大能力の一つだった。
 他の二つは封凶岩に眠っている【古都百合】自身と【古都蘭丸(ことらんまる)】の末裔であるピリオド・エンドがそれぞれ持っている。
 【破源の大皿】の力は、大皿の部分から大皿に入る範囲であればどのようなものも具現化して出すことが出来るとされる力だった。
 【破源】と呼ばれているのは具現化するものは実際にあるものに限られ、呼び出す事で、もとの源(みなもと)の物などが壊れることからついている。
 対する、フラワ・デイジーの力は、【魔法のコップ】だ。
 コップに入る分だけ、相手の力を奪ったり別の誰かに移したりする事が出来る力だが、コップ一杯分だけ力を削っても大したダメージにはならない。
 気の優しいフラワ・デイジーならではの力でその威力も控えめなのだ。
 はっきり言って、【破源の大皿】と【魔法のコップ】とでは全く格が違いすぎた。
 本来であれば、全く相手にならないのだが、【破源の大皿】はフラワ・ダリアが作り出し、フラワ・デイジーに手渡している。
 これで、自分を倒して欲しいとして。
 ピリオドが、
「ちょっと待ったぁ〜」
 と割って入る。
 同じ、【古都百合】の子孫として、こんな不毛な戦いは避けて欲しいという気持ちが強かった。
 だが、二人の間に割って入るだけの材料が無い。
 二人の呪いを解く術が見つからない。
 【古都薔薇】の子孫とは出会えたが、ここからどうすれば良いのかわからなかった。
 付き添ってきているキャリア達も同様だ。
 答えが見つからない。
 そんな状態で一同が静まりかえったところで、どこからか声がした。
(お困りのようじゃの……わしがなんとかしてやろうか?)
 と。
 ピリオドが、
「誰です?こんな時に?」
 と尋ねる。
 謎の声は、
(わしの見立てでは、仙王~桃(せんおうじんとう)なら一発じゃ。仙王~桃に解けない呪いは無いからのう)
 と答えた。
 【仙王~桃】――聞いた事ないものだ。
 フォールが、
「誰だ?どこに居る?話したいなら出てきて話せ」
 と言った。
 当然のことだ。
 姿も見せない者の言うことなど信用出来ないからだ。
 だが、声の主は、
(そうは言ってものう……わし、捕まっとるし……意識と声を飛ばすのが精一杯なんじゃよ)
 と言った。
 どうやら、声の主はどこかにとらえられているようだ。
 キャリアは、
「詳しく話してください」
 と伝えた。
 今のままでは全く状況がつかめないからだ。


第二章 仙~(せんじん)善峰(ぜんぽう)救出へ


 声の主の話をまとめると――
 声の主の名前は仙人の神、仙~(せんじん)の善峰(ぜんぽう)というらしい。
 物見遊山のつもりで、冥界に来たが、仙界(せんかい)出身の彼は第二階層の強者に捕まってとらわれたらしい。
 その後、その第二階層の強者はフラワ族の戦いから逃れるように第三階層に逃げ、善峰も一緒に連れていかれたという。
 だが、捕まりながらも善峰は得意の仙術で占い、フラワ族の血縁が自分を助けてくれる事になると出たので、意識を第二階層に残しておいたらしい。
 当然、取引となる材料が必要だが、フラワ族の呪いを解くという理由があれば、取引として成立すると思っていたので、話が通じるのをまっていたのだ。
 フラワ族の二名にも直接思念を送っていたのだが、二人はそれどころではなく、善峰の念話は無視され続けた。
 それでも根気よく待っているとキャリア達が現れたのだ。
 善峰の占いはキャリア達と行動を共にしたピリオドの事を指していたのだ。
 待っていた存在がようやく現れてくれたので、善峰は声をかけたのだ。
 善峰が取引としてもちかけたのは仙界にあるとされる不思議な桃、【仙王~桃】だ。
 彼は、仙界で【仙王~桃】を作っていた、【仙王~桃】農家でもあったのだ。
 正直、【古都百合】ですら解けない呪いが解けるかどうかはわからないが、それでも【仙王~桃】の解呪効果は折り紙付きだ。
 今まで解けなかった呪いは無いというのは本当の話だった。
 善峰を助け出してくれれば、自分が仙界を案内し、【仙王~桃】を食べさせる事が出来ると説明した。
 善峰の話を100%信用する訳にはいかないが、それでも他に頼みの綱が無い以上、僅かな希望にでもすがるしかない。
 だが、そうなると、第三階層の宇宙空間で善峰を助け出した後はまた、逆戻りして、冥界からも出て行かなければならないという事になる。
 いつになったら安住の地を見つけられるのだろうという不安はあるが、とにかく、フラワ・デイジーとフラワ・ダリアにかけられた呪いを解くためにはまず、善峰を助け出す必要がある。
 事情を話し、フラワ・デイジーとフラワ・ダリアも宇宙船に乗せ、第二階層宇宙の中心にある、巨大ブラックホールを目指した。
 道中、キャリア達の自己紹介や【古都百合】、【古都薔薇】、【古都蘭丸】等の話をして、二人のフラワ族の理解を求めた。
 二人は忌まわしい呪いが解けるのであればと渋々了承してくれた感じで着いてきた。
 どうやら、まだ死にたがっているようだが、【古都百合】を悲しませないで欲しいと言うことで無理矢理にではあるが納得してもらった。
 先がどうなるかわからないが、とにかく、二人のフラワ族の呪いを解く事が最優先事項と言えた。
 途中数少ない強者も少し現れたが、そんなものにかまっている暇は無い。
 うまく避けて通り、第二階層宇宙の中心にある巨大ブラックホールに着いた。


第三章 冥界第三階層宇宙


 早速、巨大ブラックホールに入り、続く第三階層宇宙空間に進んだ。
 幽界では第二階層宇宙空間までだったので、冥界では一つ先まで進んだという事になる。
 仙~、善峰を捕まえているのは元、第二階層宇宙の強者、ゼットオメガだ。
 そんなゼットオメガもこの第三階層宇宙での覇権を取るのは難しい。
 大軍団を率いて鳴り物入りで第三階層まで来たは良いが、どんどん戦力を削られ、今はしがない殺し屋集団のリーダーに収まっていた。
 つまり、ゼットオメガは第三階層宇宙空間の強者ではない。
 その辺に居る、御山の大将程度のレベルでしかない。
 それでも、自分が第二階層の強者時代に取得したものについては何が何でも所有するという強欲ぶりを示していた。
 善峰は冥界では珍しい術を使っていたので、方術コレクターでもあったゼットオメガは自分の所有物として、なんとか、善峰の力を奪ってやろうと思って捕まえていたのだ。
 じっくり研究するつもりだったのだが、そうこうしている内に、戦力が削られていってしまい、研究は進んでいなかった。
 だが、とらえた善峰達の方術を解析すれば、自分達がのし上がる事は出来るはずだという希望を持っており、善峰を手放すつもりはなかった。
 善峰は老神であり、力はある程度あるのだが、肉体的には虚弱であるため、脱獄する事も出来ずに今に至っていた。
 なので、脱出させて逃げるという訳にはいかず、ゼットオメガ一派を倒して行かなければならないと推測出来た。
 ゼットオメガの現在の戦力は不明で、ほぼ、全員が暗殺業を生業としているので、身を隠すのがうまく、正面からまともにという訳にはいかないようだった。
 善峰が言うには、ゼットオメガ以外は20名から30名の間くらいの数にまで減っているとの事だが、果たして、捕まっている状態の善峰の言うことを100%信じて良いものかどうかは怪しい。
 敵の数を見誤るという事はそれがきっかけでやられる可能性だってあるのだ。
 慎重にかつ早急に行動する必要がある。
 早急にというのは、当然、フラワ族の二名の負担の問題もあるからだ。
 お互いが争っていない状態の二名は徐々に痛みが増しているのだ。
 黙っていてもフラワ族の二名が受けている呪いは二名に苦痛を与えているのだ。
 このままの状態でいつまでもつかわからない以上、急ぐ必要がある。
 いつまでも冥界でモタモタしているような余裕はないのだ。
 すぐにでも善峰を救い出し、とんぼ返りで、冥界を出て、仙界に行かなければならないのだ。
 気持ちは焦るが、暗殺者に対して焦りは禁物だ。
 それこそ、相手の思うつぼだ。
 冷静に、正確に敵を仕留めて行く。
 ある程度、敵の数を減らしたら、善峰を捕まえて、そのまま超光速宇宙船に乗せてドロン。
 それがキャリア達が取るべき行動だった。
 フラワ族二名と封凶岩の保護があるので、ピリオドには超光速宇宙船に残ってもらい、キャリアとキャトラ、フォールとジャンルとマドゥワスの五名で、行動することになった。
 この五名であれば、感覚による通信が可能なので、別行動でも善峰を発見した事がわかるはず。
 善峰の回収に成功したら、そのまま全員待避して、超光速宇宙船に乗り込み、ダッシュで冥界の外に向かう。
 ゼットオメガ一派を全滅させる必要は無い。
 降りかかる火の粉をはらう程度に対処して、善峰を救出することが最優先事項。
 それ以外は無視という方向で話が通っていた。
 善峰以外にも捕まっている者は居る。
 だが、その全てを助け出している余裕はない。
 捕まっているふりをしている敵の仲間がいるかも知れないし、そうなったら、長期戦になる可能性が出てくる。
 全てを助ける事は出来ない。
 キャリア達にはそれを可能とするだけの力がないのだ。
 力不足を嘆いても仕方が無い。
 今は出来る範囲の事を精一杯やるだけだ。
 キャリア達は三組に分かれる。
 キャリアは単独で、キャトラはフォールと、ジャンルはマドゥワスと組んで、三方から善峰が捕まっていると思われる場所を探す。
 対する、ゼットオメガ一派も動きを見せた。
 刺客達が三組に対して、それぞれ、襲いかかろうと手ぐすねを引いて、待ち構えていたのだった。


第四章 ゼットオメガの刺客達との戦い


 善峰を探すキャリアの前に二つの影が現れた。
 ゼットオメガの放った刺客だ。
 その二名は、
「助けてください」
「ここから出してください」
 とゼットオメガに捕まっているふりをした二名だった。
 余計な存在は助け出さないと決めていたが、面と向かって助けをこわれると無視する事が出来なかった。
 キャリアは牢を破壊し、二人を助け出そうとした時、
「本当に……ありがとねぇ〜」
「助かったわぁ〜」
 と笑いながら攻撃を仕掛けて来た。
 要らぬ情けが仇でかえってきた瞬間だった。
 キャリアは交わす。
 だが、多少、攻撃を受けてしまった。
 一人は細かい粒子のかけらを操る敵、
 もう一人は体中に凶器を埋め込んだ全身凶器の敵だ。
 粒子のかけらを操る敵の名前は、アレンジ。
 全身凶器の敵の名前は、ボードと言う。
 キャリアは、
「助けるんじゃなかったわ」
 と悔しげに言葉を放つ。
 アレンジは、
「馬鹿がひっかかったわ」
 という。
 ボードは、
「ざまぁみろ」
 と言った。
 その台詞を聞いた、キャリアは
「ふぅ……」
 と一息つき、冷静になった。
 そして、
「ありがとう……あんた達を見て少し安心したわ」
 と言った。
 アレンジは、
「毒が回ってきたようだな。俺の粒子には猛毒が……」
 と言いかけたところでキャリアが、
「毒なんかとっくに私の光体で無力化しているわよ。私が言ったのはあんた達が単なる小者だってわかって安心したってことよ」
 と言った。
 ボードが、
「おいおい、負け惜しみか」
 と言うもキャリアは、
「あんた達の行動そのものが小者だって言ってんのよ。今まで相手をしてきた敵は少なくとも自分の力に誇りを持っていた。あんた達のようにつまらないだまし討ちをするような単なるカスじゃなかったわ。行動からもよくわかる。力に自信を持っている者はそんな行動はしない。弱いからこそそういう手を使うんだってわかった。クアンスティータの勢力を相手にしていたら、恐らく、そんなやつはいないだろうからね。こういう姑息な手を使う奴がふんぞり返っているってことはそれだけクアンスティータの手が届いていない場所でもあるって事がわかった。それだけでも安心できるわ。改めてありがとう」
 と言った。
 アレンジとボードは自分達がかなり小馬鹿にされた事を感じ取ったのか、押し黙り、強力な殺意を持って向かって来た。
 キャリアは、
「はい、さようなら」
 と言って、刺客を瞬殺した。
 キャリアの前だけでなく、キャトラ、フォール組とジャンル、マドゥワス組にも同じような刺客達が襲いかかっていたが、その二組も問題なく刺客を撃破した。
 どうやら、刺客の弱体化を見る限り、ゼットオメガ一派の勢力は末期に近い状態のようだ。
 思ったよりも簡単に善峰救出が出来るかも知れないとキャリア達は思った。
 だが、簡単に倒せようがなんだろうが、無駄な戦いはしたくないという思いは変わらない。
 とらえられている存在は全て解放させたいところだが、キャリア達は先を急いでいる。
 目についた救助要請者は助けるが、深くまで探さないと決めて、善峰を探した。
 そして、ついに善峰と思わしき老人をキャトラとフォールのコンビが見つけた。
 キャトラが、
「善峰さんニャ?」
 と聞く。
 老人は、
「いかにも」
 と答えるが、罠の可能性もある。
 フォールは、
「悪いが証拠を見せてくれないか、我々があんたを本物だと確信出来る何かを示して欲しい」
 と言った。
 老人は、
「疑り深い奴じゃのぅ。まぁ、ええわい。まぁ、ここまで近づけば……」
 と言いかけた時、フォールは、
「わかった。じゃあな」
 と言って切りつけた。
 老人は、
「な、何故、わかった?」
 と言った。
 老人の正体は善峰ではなく、ゼットオメガだった。
 ゼットオメガの得意攻撃は幻覚だった。
 幻覚術を使って、キャトラとフォールを自身の部屋に誘い込み、善峰のふりをして近づいたのだ。
 感覚が惑わされている内に始末をしようと、猛毒を塗り込んだ刃物を用意していたが、フォールはその微妙な殺意を感じ取った。
 後は迷わず、殺意を向ける刺客を斬った。
 ただ、それだけの話だった。
 善峰はゼットオメガの奥の部屋に隔離されて身動きが取れないようにさせられていた。
 フォールは、
「今度は本物のようだ……」
 と言った。
 何となく人を食ったような表情をしていた善峰を見て彼はそう思った。
 善峰との念話からだいたいこんな人物像だなと予想していた通りの顔だったのだ。
 善峰は、
「助かったわい。念話もバレてしもうて、何も出来ずにどうしようかと思っておったのじゃ。よく、偽物を見極めた」
 と言った。
 キャトラは、
「善峰さんも一応、神様にゃんだから、もう少し威厳を、持っていて欲しいニャン」
 と頬を赤らめた。
 それだけ、善峰は恥ずかしい格好でとらえられていたのだ。
 だがこれで、最初の目的は達成した。
 ゼットオメガ一派は大した事なかったが、敵は暗殺を生業としている一派だ。
 捕らえた存在を解放させてしまうという醜態をさらした以上、汚名を返上するために、キャリア達の首を取りにくるかも知れない。
 今までの暗殺者は大した事無かったが、中には大物が隠れているかも知れない。
 なるべく戦闘にならないようにそそくさと脱出準備を整えて超光速宇宙船に乗って、第二階層の宇宙空間を目指す。
 第三階層宇宙空間から第二階層宇宙空間に行くには、反対に宇宙の果てに進めば良い。
 宇宙の果てには第二階層宇宙につながる穴が点々としている。
 その穴に入る事が出来れば第二階層宇宙に行くことが出来る。
 先を急ぐ、キャリア達。
 その宇宙船の中に余計な気配が一つあった。
 フォールは、
「誰だ?」
 と言う。
 キャリア達は臨戦態勢を整える。
 すると、一つの影が現れた。
 影は名前を名乗る。
「俺の名前は、クライム。ゼットオメガ一派の一人だ。一つ勘違いの無い様に訂正させてもらう。お前達がすんなり通れたのは俺たちが出なかったからだ。俺たちは主であるゼットオメガを見限っていた。だから、俺を含めて5名の実力者達は見捨てた。お前達を襲ったのは二流以下の暗殺者だ。そこだけは勘違いしないでもらおう」
 と言った。
 ピリオドは、
「たった1名で私達とやり合うつもりですか?」
 と尋ねる。
 クライムは、
「まさか――本当に訂正に来ただけだ。それが済めば退散する。こんな風にな……」
 と言って、そのままかき消えた。
 超光速宇宙船に気づかれず忍び込まれたという点で見てもキャリア達がやり合った殺し屋達とはまるで格が違うのがわかった。
 クライムが言う様に実力者5名というのが参加していたら、もっと苦戦をしていただろう。
 誰だって、尊敬出来ない上司の下では働きたくない。
 実力者達は主のゼットオメガのやり方に賛同出来なかったのだろう。
 衰退していく組織の哀れさを感じた戦いだった。
 今回は、見逃してもらえたというのが正しい答えだろう。
 とにかく、第三階層宇宙空間の実力者達とはなるべく戦いは避けた方が良さそうだ。
 倒されるとは思わないが、少なくとも第二階層宇宙空間までのようにすんなりとは事は運びそうもない。
 そう思わせるだけの気配が数多く感じられた。
 キャリア達の第三階層宇宙空間に対する印象はそんな感じだった。
 だが、第三階層宇宙空間で腕試しをしているつもりはない。
 第三階層以降に進むのであれば、自分達の実力がどこまでか、はかって見る事もあるかも知れないが、今は、冥界を出ることを最優先事項としてとらえている。
 フラワ・デイジーとフラワ・ダリアを連れて仙界に行き、善峰の育てているという【仙王~桃】を食べさせなくてはならないのだ。
 キャリア達を乗せた宇宙船は超光速で第三、第二、第一階層宇宙空間へと戻っていってついには表層階層宇宙空間にたどり着いた。
 ここを出れば、いよいよ、仙界に行くことが出来る。
 こうしている間にもフラワ・デイジーとフラワ・ダリアの呪いは進行していく。
 時はあまりないのだ。
 ピリオドは苦しさを隠して平然を装う二人のフラワ族を痛々しい目で見つめる。
 力になってやりたいが、自分の力ではどうすることも出来ない。
 仮に【仙王~桃】を食べさせたからと言って呪いが解けるという保証はない。
 先行き不安だらけ。
 だが、わらにもすがる思いで先に進むしかないのだ。


第五章 仙界へ


 キャリア達を乗せた超光速宇宙船は表層階層宇宙で思いもかけない邪魔者に進行を邪魔されていた。
 新たなるリビングデッドだ。
 どうやら死にたてホヤホヤのリビングデッドらしいが、自分が元の宇宙世界で殺されたのが納得いかないのか周りにあたり散らしている。
 この急いでいる時に――
 キャリア達はいらいらを募らせた。
 だが、宇宙船を壊してしまったら、超光速での移動が不可能になってしまう。
 それだけは避けねばならなかった。
 ピリオドが、
「私がなんとかしてきます。キャリアさん、二人をよろしくお願いします」
 と言った。
 二人とは、フラワ族の二人の事を指す。
 遠い親戚のような存在である二人の事が心配なのだ。
 キャリアは、
「私が代わりに……」
 と言ったが、ピリオドは、
「いえ、先ほどは留守番だったので、今度は私にやらせてください」
 と言った。
 それは建前で、本音は進行の邪魔をしているリビングデッドが許せないのだ。
 是非とも自分の手でたたきのめしたいと思っているのだ。
 キャリアは、
「わかった。冷静にね……」
 と言った。
 ピリオドは、
「わかっています。冷静ですよ、私は……」
 と言ったが、その表情からは冷静さが感じ取れない。
 明らかにいらだっているようだった。
 戦いにおいて冷静さを欠くという事は命取りにもつながる。
 キャリアはその事が心配だったのだが、彼には通じて居なかったようだ。
 暴れているリビングデッドが思ったよりも強かったというのもあるが、冷静さを著しく欠いていたピリオドは敵の思わぬ反撃にあい、深手を負って帰ってきた。
 ピリオドが、
「わ、私とした事が……あの程度の相手に」
 とますますいらついている。
 それを見ていたキャトラは、ピリオドの両頬をパンっと叩き。
「急がば回れだニャン。焦っても仕方ないニャン」
 とたしなめた。
 それを聞いたピリオドは、
「……はい……」
 と思わず言ってしまった。
 まさか、このメンバーの中で一番落ち着きのなさそうなキャトラに言われるとは思っていなかったからだ。
 キャトラに言われるようなら――とは思うが、冷静さを保つピリオド。
 自分の痛みであれば耐えられるが同族の苦しみに対しては何故これほど取り乱すのか?
 それは、彼は自分の一族を愛しているからだった。
 愛しているからこそ、焦り、いらつき冷静さを欠いてしまっている。
 だが、この愛するという気持ちは【古都百合】から引き継いだものでもあった。
 誇りでもあるのだ。
 【古都百合】は生前、とても家族を大切に思っていた。
 遠い子孫であるピリオドもまた、一族を愛しているのだ。
 それはフラワ族であっても同じ気持ちだ。
 そんなフラワ族は愛する者同士が殺し合うという呪いをかけられている。
 それがどんなに辛い事かピリオドは痛いほどわかっているつもりになっていた。
 早く、呪縛からフラワ族の二人を解放させてあげたい。
 その気持ちが強く出てしまっていた。
 ピリオドの夢は一族で穏やかに過ごせる土地を見つける事だった。
 そういう意味では安住の地を求めているキャリア達と同じ目標を持っているとも言える。
 ピリオドの手当をしながらキャリアは、どんどん、ピリオドの内面が見えてくるのがうれしくもあった。
 正直まだ、旅の同行者という立場であるピリオドだが、旅を続けていく内に彼が内に秘めている強い思いというのが度々顔を出してきている。
 まだ、彼の事はよくわかっていないかも知れないが、本当は優しい男性なんだなと思うようになっていた。
 ピリオドの手当が済んだ時とほぼ同時刻に宇宙船は冥界を出た。
 そのまま善峰の案内で、仙界へと進む。
 そう、ここはもう、冥界ではない。
 仙人が多く住む宇宙世界であり、今までの悪魔側が支配していた幽界や冥界とは違い、神側が支配する仙界へとたどり着いたのだ。
 ここからは新たなる世界観、新たなるルールがまかり通る宇宙世界となる。
 まずは、仙界という宇宙世界を知ることが必要だ。
 キャリア達は連れてきた善峰に仙界の事を聞いた。
 善峰は、
「そうさのう……」
 と言って、仙界の事を語り始めた。
 善峰によると仙界は階層構造にはなっているが、幽界や冥界の様に表層階層はない。
 そして、第一から第六までの階層があるが、それが表の階層と裏の階層にそれぞれ別れている。
 つまり、第一表層(だいいちひょうそう)から第六表層までと第一裏層(だいいちりそう)から第六裏層までが表裏一体という形であるため、十二階層あるようなものとなっている。
 仙界の入り口としては、第一表層と第一裏層の二つがあり、基本的には、神側から訪れた場合は第一表層から、悪魔側から訪れた場合は第一裏層からその門戸が開かれることになる。
 神側と悪魔側、どちらにも属さない宇宙世界などから来た場合はどちらになるかわからない。
 キャリア達は悪魔側の宇宙世界である冥界から訪れたために、門戸が開かれるのは当然、第一裏層という事になる。
 つまり、キャリア達がいるこの宇宙空間は仙界の第一裏層という事だ。
 善峰は第一表層の出身なので、第一裏層から第一表層へつながるリバーストンネルというところを通らなくてはならない。
 だが、リバーストンネルは、ネクストトンネルと全く同じ位置に存在していて、許可の無い者が通ると第二裏層に行ってしまう可能性が出てくるという。
 裏層の方は第一第二第三……と深い階層に進むのは容易だが、表層に行くのは難しいとされている。
 安全に行くには、第一裏層の重要な役割を担っている特別仙人が出す試練を突破して、特別仙人から通行手形をもらう必要があるとの事だった。
 これは、仙人の神である善峰も例外ではなく、いかに、仙人の神であろうとこのルールを破る事は御法度とされている。
 冥界で酷い目にあったので今は別の感情を持っているが、善峰はこの手続きの面倒な仙界が嫌になり、一度、仙界を飛び出したのだった。
 これが本当であれば、確かに善峰の案内が無ければ、キャリア達だけでは迷って、【仙王~桃】のある畑までたどり着かないと言えた。
 善峰を連れてきたのは正解だと思って良いだろう。
 体にガタが来ている彼が足手まといにならなければの話しだが。
 とにかく、善峰は激しい運動は出来そうもないので、障害があれば、それを排除してからでないと通る事は出来ない状態と言えた。
 善峰が居ないと【仙王~桃】を見つけても素通りしてしまう恐れもある。
 キャリア達は特別仙人の居る屋敷に進路を取った。
 特別仙人の屋敷は星がまるまる一つになっているため、屋敷=星を目指して超光速宇宙宇船を移動させた。
 善峰の指示もあったので、比較的早く特別仙人の居る星にたどり着けた。
 幽界、冥界と違い、ここは神が管理する宇宙世界の一つなので、むやみやたらに戦闘をふっかけるという事は無かった。
 だが、屋敷は星まるまる一つ分なので、いったい、その特別仙人が屋敷のどこに居るかは屋敷の中を探さないと行けなかった。


第六章 特別仙人の試練


 キャリア達は屋敷=星への着陸許可を得て、着陸した。
 だが、着陸した場所は特別仙人が現在居る場所の星の反対側らしく、そこからかなり移動する必要があった。
 老人(善峰の事)を連れて移動するには遠かった。
 キャリア達は事情を家の小間使いに説明すると、小間使いは屋敷専用の乗り物を貸してくれた。
 借りた乗り物の名前は、【転移トランポリン】と言った。
 【転移トランポリン】はその上に立つと目的地にある他の【転移トランポリン】まで、ジャンプを繰り返し、運んでくれるというものだ。
 ただ、飛ばされれば良いのだが、それは老人(神)にはきつかったらしく屋敷(星)の裏側にある【転移トランポリン】に着いた頃には、
「も、もう……少……し、老人……をいた……われ……」
 と息も絶え絶えに文句をつけた。
 ごもっともである。
 だが、なんとか、特別仙人の居る場所に着いた。
 特別仙人はこの【転移トランポリン】から百数十メートル離れた位置にいるらしい。
 後は歩いて行けるので、キャリア達はそこまで徒歩で向かった。
 歩いて行く内に、それらしき影が見えてきた。
 パッと見は何かの動物のようにも見える。
 どうやらこの者が特別仙人のようだ。
 特別仙人は、
「我が輩に何かようかな?」
 と尋ねて来た。
 ピリオドが、
「実は……」
 と説明しようとした時、
「あぁ、わかった。なるほどのう……」
 と言った。
 どうやら、思っただけで、事情を察したようだ。
 読心術でも使えるようだ。
 特別仙人というのもあながち嘘ではなさそうだ。
 説明しなくて良いのであれば、話は早い。
 通行手形を渡して欲しい。
 ただ、それだけだ。
 だが、
「規則は規則。我が輩が用意する試練を突破したならば、通行手形を渡そう」
 と言った。
 善峰が言っていた融通の利かない仙界の嫌な部分を見た気分だった。
 だが、争っていても仕方が無い。
 とにかく試練を突破すれば、通行手形を渡してくれるのだ。
 ここは素直に試練を突破するのが良策と言える。
 キャリア達は特別仙人から試練の説明を受けた。
 その試練とは――
 3つあった。
 一つ目の試練とは目利きだった。
 この仙界の通貨の一つである【源(げん)】という単位。
 その単位で100源から150源の価値を持つ品物を借りてくるというものだった。
 これは何度挑戦しても良いが、持ってくるのは一人一品ずつ。
 それ以外は認められなかった。
 一人でも範囲内の品物を借りて来られればそれでオッケーだが、この範囲内というのがなかなか難しかった。
 高すぎても低すぎても駄目なのだ。
 品物の判定は特別仙人が行う。
 品物の価値を見定める試練。
 戦いに勝つという事ではないので、キャリア達は相当苦労した。
 キャリアのオレンジの光体も使うなという指示が出ていた。
 あくまでも自分の目で見極めろとの事だった。
 特別仙人は読心術が使えるので嘘もつけない。
 正直にやるしかないので、繰り返し、屋敷=星のいろんなところから品物を借りてきた。
 159回目にして、ようやくマドゥワスが借りてきたものが149源と鑑定された時は全員ほっとした。
 続く第二の精錬はウェディングドレスを渡された。
 このウェディングドレスの持ち主を探して来るというものだった。
 またしても戦いではない。
 勝てば済むという話ではないので、キャリア達は非常にやりにくかった。
 だが、やりにくかろうがなんだろうが、やるしかない。
 試練を突破しなければ、通行手形はもらえないのだから。
 キャリア達はまた、屋敷=星の中を探し回り、ウェディングドレスの持ち主を探して回った。
 ウェディングドレスの持ち主も第一の試練同様に屋敷=星の中から探すという条件を与えられていたので、探しているのだが、使用人の数は、屋敷=星の中には数億人も居た。
 その一人一人に聞いて回るのは大変なので、ウェディングドレスが着られそうな相手を見つけては声をかけた。
 だが、それがそもそもの間違いだった。
 特別仙人はウェディングドレスの持ち主を探せと言ったのであって、ウェディングドレスが着れるかどうかとは一言も言っていない。
 そのとんちの答えがキャリア達は理解出来ていなかった。
 答えにたどり着く事が出来たのは特別仙人が
「我が輩は何もウェディングドレスが着れる人物を探せとは申しておらんぞ」
 というほとんど答えのような言葉を聞いたからであった。
 ウェディングドレスの花嫁はウェディングドレスが着れなくなってそのウェディングドレスを手放していたのだ。
 特別仙人は思い出の品だから、本人に返せと言いたかったのだ。
 そして、ようやく少々小太りなウェディングドレスの持ち主に渡すことが出来た。
 試練を突破した時、特別仙人は、
「説破詰まっとったみたいじゃから今回のはオマケじゃぞ」
 と言った。
 確かにオマケをしてもらったようだ。
 案外いい人(獣?)かもしれなかった。
 そして、最後の試練。
 これは待望の戦いだった。
 対戦相手は霧の幻と呼ばれる相手だった。
 戦うのは代表で、キャリアが担当することになった。
 試合会場へと案内されるキャリア。
 他のメンバーは後からついてくる。
 通された場所は、1000メートル四方の闘技場の様な場所だった。
 ここで、霧の幻と呼ばれる存在と戦えとの事だった。
 対戦相手を待つキャリア。
 すると、闘技場は霧に包まれていく。
 キャリアは、
「何?何なの?」
 と言った。
 ここは霧が発生するような場所ではなかったからだ。
 にもかかわらず濃霧が発生している。
 これまでたくさん不思議な現象を目撃してきた彼女にとってはさして驚く事でもなかったのだが、この霧は何かがおかしかった。
 使用を許可されているオレンジの光体がそう告げていた。
 察するに、これが、霧の幻という相手なのかも知れない。
 濃霧の中に存在が居るような居ない様な不思議な気配が感じられた。
 何が起きるかわからない。
 そんな不安が彼女を包んでいた。
 キャリアの不安をよそに、特別仙人の
「それでは試合はじめ」
 というかけ声がかかった。
 とにかく、やるしかない。
 キャリアは霧の中で気配を探り攻撃を仕掛けようとした。
 だが、この気配はキャトラのものに感じられた。
 濃霧で、キャトラが闘技場に上がり込んでしまったのかと感じ、攻撃を躊躇するが、キャトラの気配は攻撃をしてきた。
 キャリアは、
「キャトラ、待って、私よ」
 と声をかけるが、反応が無い。
 今の攻撃がキャトラからのものなのか、それとも違うのか全くわからない。
 間違ってキャトラに攻撃してしまったら仲間を傷つける事になる。
 キャリアの中に不安がよぎる。
 だが、相手は待ってくれない。
 続く気配はフォールのものだった。
 なんとか寸前で交わしたが、この太刀筋はフォール本人のものと言っても過言ではなかった。
 キャリアは、
「フォールなの?落ち着いて」
 と言ったが、【落ち着いて】というのは自分自身にあてた言葉だった。
 フォールはむやみやたらに攻撃を仕掛ける相手ではない。
 だとすれば幻?
 そういう考えに至り攻撃を仕掛ける。
「ぐわっ」
 というフォールの悲鳴が聞こえる。
 不安がよぎる。
 彼を傷つけてしまったのか?
 いや、違うはず。
 だが、今のは彼の声だった。
 真実を知りたい。
 早く戦いから解放されたいという気持ちが支配した。
 悩むが敵は待ってはくれない。
 続いて、ジャンル、マドゥワス、ピリオドと次々に相手が代わる。
 これは問いかけの試練なのだ。
 戦う理由を探る試練。
 キャリアは落ち着いて考える。
 何かあるはずだ。
 この霧の幻を解く方法が何か。
 試行錯誤を繰り返すキャリア。
 これも駄目。
 あれも駄目。
 それも駄目。
 駄目駄目駄目。
 どれも駄目。
 でも考える。
 考えるのを止めたら答えは見つからない。
 そして、ある答えにたどり着く。
 それは仰向けに横になるという事だった。
 一見、無謀にも思える。
 だが、霧の幻は足下には届いていなかった。
 寝っ転がれば、霧の幻は届かないと判断したのだ。
「お見事。そこまで」
 との特別仙人の声がかかった。
 それが正解だったのだ。
 この試練は霧の幻に勝つ事では無かった。
 霧の幻から抜け出る方法を探すという事だった。
 常に戦う姿勢で立って構えて居ればいつまでも答えにたどり着かない。
 疲弊し、やがて倒されるのを待つのみだった。
 だが、霧が届いていない場所――足下には霧がかかっていないという事実に気づき、そこを抜ける事が出来た時、試練は突破出来たという事になる。
 これは冷静さを見極める試練だったのだ。
 特別仙人は、
「約束の通行手形じゃ。第一表層に行くが良い」
 と行って、通行手形を渡した。
 これでリバーストンネルを通る事が出来る。
 念願の第一表層宇宙空間に行くことが出来るようになったという事だ。
 キャリア達は特別仙人に、
「ありがとうございます」
 とお礼を言って超光速宇宙船に乗り込み、リバーストンネルのあるエリアに急いだ。
 フラワ族の二人はもう立って居られないほど衰弱している。
 時は一刻を争う。
 もはや、【仙王~桃】が効きませんでしたでは済まされない。
 なんとしても呪いを解いてもらわなければならなかった。
 超光速宇宙船はリバーストンネルを通過する。
 通過した先は、第一表層宇宙空間だ。


第七章 安住の地?


 キャリア達は、第一表層宇宙空間に着いた。
 フラワ族の二人の様子を見る。
 見るからに苦しそうだ。
 青ざめていていつ死んでもおかしくない。
 急がねばならない。
 善峰の案内で、リバーストンネルから100光年離れた星にある善峰の住んでいた家を目指す。
 100光年くらい超光速宇宙船ならばあっという間だった。
 星に着陸し、畑に急ぐ。
 善峰に聞いて彼をおいて先に向かったがついてみると桃の木は枯れていた。
 ひょっとして手入れしてなかったから枯れてしまったのか?
 まさか、これが、【仙王~桃】のなれの果てなのか?
 絶望するピリオド。
 駄目なのか?
 フラワ族の二人はもう助からないのか?
 諦めるしか無いのかと暗い気持ちになっていると後から着いた善峰が、
「慌てるでない。これは盗まれないようにわしが出て行く前に施しておいた処理じゃ。【仙王~桃】はそう簡単に枯れたりせん」
 と言って、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。
 すると、それに従って、みるみる、みずみずしさを取り戻していく桃の木。
 一分後には見るからにおいしそうな桃が実っていた。
 だが、【仙王~桃】がどれだかわからない。
 見たところ100種類以上の桃がなっている。
 善峰は、その中から二つ指さす。
「あれとあれじゃ。取って絞り汁を二人に飲ませてやるといい」
 と言った。
 キャリアとピリオドが善峰が指し示した二つの桃を取った。
 見たところ、この二つは形が違う。
 とても同じ桃には見えない。
 この二つが【仙王~桃】なのだろうか?
 善峰が言うには形が全く違う【仙王~桃】はパッと見、見分けがつかない。
 【仙王~桃】以外の桃は猛毒の桃で食べたら死んでしまうという。
 ここにも泥棒よけのトラップがしてあったようだ。
 見た目は違うが、どちらも【仙王~桃】らしいので、煎じて、フラワ族の二人に飲ませる。
 もはや、自力で飲む力も残って居なかったので、キャリアとマドゥワスが口移しで飲ませた。
 すうっとフラワ族の体に吸い込まれて行く【仙王~桃】の絞り汁。
 二人の経過を見守る。
 青ざめて見るからに死にそうだった二人に僅かに暖かみが感じられ、精気が戻って来たような気がした。
 どうやら、死の呪いに効果があったようだ。
 ピリオドは、
「――助かったのか?」
 と善峰に尋ねた。
 善峰は、
「どうやら無駄足ではなかったようじゃぞ。良かったな」
 とにっこり笑った。
 正直、呪いが解けたと言ってもフラワ・ダリアがやってきた同族殺しという事実が消える事はない。
 その事実は彼女をこれからも苦しめるだろう。
 何も出来なかったフラワ・デイジーにも同じような苦しみはつきまとうだろう。
 それでも生きていて欲しいというピリオドの願いは届いた事になる。
 ピリオドの頬をつうっと涙が伝う。
 うれしさのあまり、思わず涙がこぼれたのだ。
 フラワ族の二人の呪いを解呪出来た事により、キャリア達は当面の目標は達成した事になった。
 問題はこれからどうするという事だった。
 ピリオド達と別れるか?
 それとも相談して、一緒に次の目標などを決めて行動するか?
 ピリオド達は一族で安心して暮らしたいと思っている。
 この仙界は安住の地となるかも知れない。
 だとすると彼らの旅はここで終わりだという事になる。
 それはキャリア達にとっても同じ意味を持つ。
 この仙界がキャリア達にとって災いをもたらす宇宙世界でないのであれば、ここを終の棲家として決めて住むのも悪くない。
 キャリア達は試練は与えられたが、まだ、この仙界に来て、明確な悪意にさらされては居ないのだ。
 その事を相談する。
 だが、これからの事をすぐには決められない。
 それを見ていた善峰は、
「お前さん達、まずは、ここで疲れを癒やしたらどうじゃ?ここはわしの土地じゃ。他に邪魔者はおらん。何日か過ごし、その後でそれぞれの進路を決める。ここまで駆け足で来たんじゃろうから、まずは、疲れをゆっくり取る。それからでも良いんじゃなかろうかのう?」
 と言った。
 善峰は家に泊めてくれると言っていたのでその好意に甘える事にした。
 敵は居ない。
 その安心感がキャリア達を落ち着かせる。
 答えを出すのは疲れをとってから。
 彼女達はその後で答えを出す事にした。



続く。





登場キャラクター説明

001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 偽クアンスティータを産み出し、新たなる姿へと変わっていった。
 天使と悪魔の翼とエンジェルハイロゥは消え、代わりに、背中からは帯状のものから結晶を産み出す突起物が生えるようになり、頭上には赤、青、黄、緑、オレンジの五色の光体を持つようになる。
 赤と緑はクアンスティータの背花変(はいかへん)の劣化版万能細胞、青は逆浄化、黄色は浄化、オレンジは探知能力を持っている光体。
 エナジードレイン、封印術など、細かい成長などもしている。



002 猫神 キャトラ
キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼女にも影響する。
 キャリアによって、神の要素だけでなく、悪魔の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。
 尻尾から玉を出し、その玉に敵を取り込み溶かすという新技を身につけている。


003 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
フォール
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼にも影響する。
 キャリアによって、悪魔の要素だけでなく、神の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。








004 聖魔(せいま)ジャンル
ジャンル
 キャリアの悪魔の要素を持ったサボータと天使の要素を持ったセラフィールの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている男性でもある。
 光と闇のエネルギーをショートさせる事で莫大なエネルギーを作り出せる。



















005 聖魔(せいま)マドゥワス
マドゥワス
 キャリアの悪魔の要素を持ったクルゥと天使の要素を持ったフクィンの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている女性でもある。
 光と闇のエネルギーをショートさせる事で莫大なエネルギーを作り出せる。



















006 ピリオド・エンド
ピリオド・エンド
 キャリア達と行動を共にすることになる謎の男性。
 見世物の戦闘をして生計を立てているプロバトラーであり、カードの中に自身のしもべとして召喚する囚人達を閉じ込める【プリズン・カード】を得意とする。
 幽界最強の悪霊とされる【古都百合(ことゆり)】の息子、【古都蘭丸(ことらんまる)】の末裔であり、【古都百合】の娘、【古都薔薇(ことばら)】の子孫を探している。
 女性に対しては親切だが、男性軽視である。
 自分はジェントルマンだと思っている。
 少々キザな性格。









007 古都百合(ことゆり)
古都百合
 幽界(ゆうかい)最強の悪霊とされる霊。
 生前は2人の子供、【古都薔薇(ことばら)】と【古都蘭丸(ことらんまる)】を愛する心優しき美しい女性だった。
 夫には先立たれたが夫から、自身と子供達に特別な力を一つずつ受け取っている。
 悪霊となった時、幽界全土を巻き込む戦争を起こしており、敗れてなお、消滅させるに至らなかった彼女は封凶岩(ふうきょうがん)という岩に封じられて第六階層の宇宙空間に放置される。
 が、それでも数億光年にわたって影響力を持つため、そこは封鎖されるに至っていた。 幻霊族が、封凶岩を制御する技術を確立した事により、第二階層の宇宙空間に運ばれる事になる。





008 フラワ・デイジー
フラワ・デイジー
 【古都百合】の娘、【古都薔薇】の子孫の一つ、フラワ族の一名。
 同族同士、殺し合う事を強要されているフラワ族の中でも戦いを良しとせず、殺される事を望んでいたが、最後の二名まで残ってしまった。
 コップ一杯分の力を入れ替える【魔法のコップ】という具現化能力を持つ。


009 フラワ・ダリア
フラワ・ダリア
 【古都百合】の娘、【古都薔薇】の子孫の一つ、フラワ族の一名。
 同族同士、殺し合う事を強要されているフラワ族の中でも最凶最悪とされ、最も多くの同族殺しをしたが、それは全て親友のフラワ・デイジーのため。
 フラワ・デイジーに殺される事を望んでいる。
 【破源(はげん)の大皿】と呼ばれる具現化能力を持つ。
 この力は大皿に入る範囲であれば何でも具現化させて力に出来るが存在するものに限る。
 また、元になったものがこわれてしまう事から【破源】とついている。


010 仙~(せんじん)善峰(ぜんぽう)
仙~善峰
 冥界第二階層宇宙空間の強者だったゼットオメガ一派に捕まっていた仙界の神。
 仙界の第一表層(だいいちひょうそう)出身で、育てている【仙王~桃(せんおうじんとう)】という特別な桃はあらゆる呪いを解呪出来るとされる。
 特別な仙術を使い占いも得意だが、老人(神)であるため、激しい運動が出来ない。















011 アレンジ
アレンジ
 ゼットオメガ一派の暗殺者。
 粒子のかけらを操る能力者。
 とらわれているふりをしてキャリアを襲うがすぐにやられる二流以下の暗殺者。


012 ボード
ボード
 ゼットオメガ一派の暗殺者。
 全身に凶器を埋め込んでいる凶器人間。
 とらわれているふりをしてキャリアを襲うがすぐにやられる二流以下の暗殺者。





















013 ゼットオメガ
ゼットオメガ
 ゼットオメガ一派の頭。
 元々はかなりの勢力を持っていたが、フラワ族の激しい戦いから逃れるために冥界の第三階層宇宙空間に行ったは良いがどんどん勢力を削られてしまっていた。
 優秀な部下にも見限られた哀れなリーダー。
 幻覚術を使う。


014 クライム
クライム
 ゼットオメガ一派の暗殺者。
 気づかれず宇宙船に乗り込み立ち去る事が出来るほど、腕は立つ。
 ゼットオメガを見限っていたため、キャリア達との戦闘はなかった。

















015 特別仙人
特別仙人
 仙界の第一裏層(だいいちりそう)を統括する仙人。
 獣のような姿をしている。
 彼が出す三つの試練を突破しないと第一表層(だいいちひょうそう)には行けず、第二裏層に行くことになってしまう。
 それは、第一表層に渡るリバーストンネルと第二表層に渡るネクストトンネルの位相が全く同じ位置にあるため起きる事となっている。
 意外と優しい人(獣)である。