第003話 キャリア覚醒

第一章 ルーメンとテネブライでの円卓会議


 キャリアは目を醒ます。
 時間だ。
 また、戦わなければならない。
 結界内でのFとの口論は彼女の内面を深く傷つけた。
 が、悩んでもいられない。
 まだ、戦いは終わっていないのだから。
 キャリアは重い腰を動かし、キャトラと共に、2級天上使(てんじょうし)リリング、ロロード、ゾゾーンと3、4、5級天上使との戦いに向かった。
 これが終わっても次はテネブライで、2級使愚魔(しぐま)ブラドット、ボーンボ、ダミーダと3、4、5級使愚魔達との戦いが待っている。
 終わりの見えない戦いが始まった。
 ただ、戦うしかない。
 それしか生き延びる術はない。

 一方、光の惑星ルーメンの中心、セントラルハイタワーにある巨大な議場には続々神々が集結していた。
 いよいよ、クアンスティータを議題とした円卓会議が始まろうとしていたのだ。
 様々な世界の王神、帝神達が集まる。
 どの顔もその世界では主神と言われる面々だ。
 そして、それらを束ねる、真~達も顔を出す。
 今までの議題であれば、これで済んでいた。
 だが、今回の議題はクアンスティータだ。
 これまでの様にはいかない。
 真~のさらに上、最真~達もまた出席していた。
 フォルフェアフト・ラール・ウイラァ
 ケアルト・シィーリー・ブヌース
 ソシュケール・リアル・ミータスオリィーアフト
 フェイレ・トゥローディシュン・オーラン
 いずれも真~(しんじん)をも超える力を持つ超高次元生命体だ。
 神の最高権力者達である。
 この存在より上の存在の~上立者(しんじょうりっしゃ)と~超存(しんちょうそん)は神を超越した存在となるので神とは言えない。
 今回はこの4柱も出席している。
 それだけ、大事であると言えた。
『クアンスティータの誕生が近づいている』
 最真~フォルフェアフトが告げる。
 ザワザワとざわめく一同。
 クアンスティータの事など、神話の時代、怪物ファーブラ・フィクタが負け惜しみに告げただけの与太話だと思われて来た。
 が、その与太話が現実のものとなろうとしている事を神々は認めたくないのだ。
 クアンスティータが誕生してしまえば神々の軍勢が負けるというあってはならない事が起きるかも知れないのだ。
 それは神として、絶対に認める訳には行かないことだった。
 神が負けるなどあってはならないのだ。
 特に神話の時代、頂魔と共に、怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナの娘レインミリーに最悪の苦痛を与えた深~達は気が気ではない。
 純粋な少女レインミリーが最強最悪の化獣(ばけもの)クアンスティータとして再生誕する事は何が何でも避けたいところだ。
 自分達が神の威厳を保つために、人が耐えられない痛みを全てレインミリーに押しつけたという事実は隠し通しておきたい事であると同時に、その復讐として、クアンスティータが産まれるとなると、自分達の立場が危うい事でもあるからだ。
 クアンスティータが暴れる事の全責任を負わされる事にもなりかねない。
 そのため、当事者である深~達は青ざめていた。
 神自らが世の理に直接関与する訳にも行かないため、戦闘は天上使に任せているが、本来であれば、クアンスティータを強くしてしまうものは残らず、自分達の手で始末したかった。
 神の指導者たる自分達の立場がそれをさせてくれなかった。
 自分達が出れないのであれば、1級、0級天上使の出陣よりも如真(にょじん)プロジェクトの早期開始を提案するべきだと思っていた。
 神御の戦闘力を上回るとされる1級、0級天上使よりもさらに強大な力を与えられた如真だが、神々への絶対服従を最優先とさせているので、その調整に時間がかかっている。
『如真だ、如真を動かせ。天上使などに任せてはおけん』
『そうだ、如真を出せ』
『いや、待て、万が一、神へ反旗を翻したらどうするのだ』
『そんな事を言っていたら手遅れになる』
『だが、しかし……』
『そうやって、結論を延ばせばどうなるか……』
 神々は自分の意見を言っていく。
 だが、意見がまとまらない。
 結論の先延ばし。
 力を得て、その安定にあぐらをかいている者達にはありがちな事だった。
 だが、議題はクアンスティータについてだ。
 そんな事をやっていたら、手遅れになるのは誰もが理解していた。
 だが、クアンスティータに関する事で責任を持ちたくない。
 その心の弱さが神々に結論を先延ばしにさせていた。

 所変わってテネブライの中心にある超魔殿(ちょうまでん)では、悪魔達の円卓会議が行われていた。
 ルーメンの円卓会議の時と同様に名だたる悪魔、邪神達が集結していた。
 それらをまとめる頂魔(ちょうま)達。
 それらの会議が行われるのがいままでの会議だった。
 だが、今度はその上、極超魔(ごくちょうま)達も参加している。
 クヴィウート・ネツァッハ・メスカン
 マクスィム・メホアル・イェリダー
 メルフラフ・ラア・サカナー
 この三体の名は極超魔と呼ばれている超越的な悪魔となる。
 神側と悪魔側という違いはあれ、議題は同じクアンスティータだった。
 そして、悪魔を超える力を与えられた1級と0級の使愚魔(しぐま)だけでは物足りないとして、化深(けしん)の導入を検討していた。
 化深は調整が難しいとされ、下手をすれば悪魔達にも牙を剥くことになるかも知れない。
 その事が化深の戦線への参加を遅らせていた。
 つまり、神側も悪魔側も同じ様な悩みを抱えていることになる。
 クアンスティータを何とかしたいが、それも直接では危険過ぎる。
 何とか触れないようにそーっと済ませたいがそうも行かない。
 代わりを用意しようとするが、自分達では手に負えない可能性も出てきている。
 そのため、二の足を踏んでしまっている。
 それがルーメンとテネブライの円卓会議での共通点だった。
 結論の出ない議論はやっていないと同じ事だ。
 今回は何が何でも結論を出さねばならない。
 神々と悪魔達は背に腹は代えられないとして、クアンスティータよりは、如真や化深の方がましという事で、導入を早める事にした。
 細かい調整は省いて、2、3日中にも参戦してくることになるだろう。
 となると、キャリア達もいつまでも2級の刺客に手間取っている訳にはいかなかった。
 1級と0級の天上使や使愚魔を飛び越えて如真や化深が顔を出してくるのだから。


第二章 キャリア覚醒


 キャリアは戦闘中苦しみだした。
 2級使愚魔達の猛攻にも何とか耐えていたのだが、突然頭が割れるような痛みに襲われたのだ。
 何とか、敵と少し距離を取って、その間、フォールが敵を引きつけてくれているが、何時までも彼一人に任せてはおけない。
 ジリジリと後退してくるフォール。
 やはり、一人で敵全てを相手にするには無理がある。
「そんなに持たん。キャリア、お前、どうしたんだ?」
 たまらず、フォールが聞いてくる。
「う、うん。ごめん、何か変だ。けだるい……」
「けだるいって、戦闘は無理ってことか?このままだと……」
 やられてしまうという言葉をフォールは飲み込んだ。
 後ろ向きに考えたらそれが現実になってしまうかも知れないからだ。
 ここは、フォールが何とかこの状況を変えるしかない。
 そう思っていたのだが、チラッと見ると、どうもキャリアの様子が本当におかしい。
 所持していた残り4つのボンドボール(絆玉)の内のテネブライ側の2つが反応する。
 2つのボンドボールがキャリアの頭にあるハート型のエンジェルハイロゥに吸い込まれていく。
 次の瞬間、辺りの景色が激しく点滅する。
 あまりの光景に双方戦いをやめる。
 何が起こったのかと思ったからだ。
 その光源の出所がキャリアのエンジェルハイロゥだという事に気づいた使愚魔達はフォールを避けてそのままキャリアの元に近づく。
「死ね、厄災の娘」
 と切り裂きにかかるが、その攻撃をエンジェルハイロゥから伸びて来た腕のようなものが防ぐ。
「何だ?」
「何があった?」
「どうした?」
 口々に叫ぶ使愚魔達。
 ズブズブとエンジェルハイロゥから身体が現れてくる。
 フォールは、
「まさか、偽クアンスティータか?」
 と言ったが、再び現れたFがそれを否定する。
「いや、違う。偽クアンスティータは神でも悪魔でもない。これは、元々あった悪魔の要素をエンジェルハイロゥに取り込んで存在を産み出す練習をしたようなものだ。だから、悪魔属性の紛い物を産み出したに過ぎん」
 Fが言う様に偽クアンスティータと呼ぶにはパワーが足りなさすぎる。
 だが、悪魔としては相当な力を持っていた。
 キャリアが産み出した悪魔は、
「我が名はサボータ。悪魔の要素を持つ存在」
 と言った。
 サボータは蝙蝠の様な翼を持つ正に悪魔っぽい姿をした男性だった。
 サボータが完全に出てきた時、何故か、キャリアの悪魔の翼の方が縮んだように見えた。
 天使の赤い翼とは元々バランスが取れた大きさだったのだが、今は明らかに天使の翼の方が倍くらいの大きさになっている。
 さらに続いて、もう一体、悪魔が飛び出す。
「私の名前はクルゥ。私も悪魔の要素を持つ」
 と言った。
 クルゥもやはり蝙蝠の様な翼を持つ悪魔っぽい姿をしている。
 ただし、こちらは女性の姿だ。
 クルゥの出現により、キャリアの悪魔の翼は消失してしまった。
 片翼となり、上手く飛ぶことも出来なくなった。
 まさか、キャリアの悪魔の要素をサボータとクルゥに取られた?
 フォールはそう考えた。
 どうやらサボータもクルゥも味方になってくれそうだが、逆に、キャリアの戦闘力が半減したのではないのだろうか?
 闇の惑星テネブライにおいて、光の属性だけでいるという事は自殺行為でもある。
 完全にアウェー状態になるからだ。
 闇の存在に光の属性の効果は絶大だと言っても、立っている場が闇属性なら話は別だ。
 キャリアは足手まといにもなりかねない。
 だが、フォールの心配を余所に、テネブライでの戦いがタイムアップになった。
 舞台がテネブライからルーメンにチェンジする間にフォールが向こう側にいるキャトラに声をかける。
「おい、猫、キャリアが変だ。何かあるかも知れん、気をつけろ」
 と。
「解ったニャン。鬼さんありがとニャン」
 と返すキャトラ。
 とは言ったものの何をどうすれば良いのかさっぱり解らなかった。
 ルーメンに舞台は移り、キャリアとキャトラに2級天上使達が指揮する軍勢が襲う。
 片翼となったキャリアはまたすぐに苦しみだした。
 残った2つのボンドボール(絆玉)がエンジェルハイロゥに吸い込まれる。
 すると、すぐに、エンジェルハイロゥから二羽の天使が舞い降りる。
「僕の名前はセラフィール」
「私の名前はフクィン」
 天使達が名乗りを上げる。
 セラフィールが男性型、フクィンが女性型の天使に見える。
 二羽の天使の出現により、キャリアの天使の翼も無くなってしまった。
 これでは飛べない。
 天上使達が飛べないキャリアを襲う。
 交わしきれず攻撃がかすった。
 身体にはダメージが無いが、エンジェルハイロゥが傷ついてしまった。
「キャリアさん」
 キャトラが叫ぶ。
 その声も虚しく天上使達がキャリアの身体に群がり身体をバラバラに裂いた――様に見えた。
 だが、キャリアだった身体は砂山が崩れるかのようにさらさらと崩れた。
「………っ!!」
 キャトラが悲鳴にならない悲鳴を上げる。
 キャリアは死んでしまったのだろうか?
 いや、違った。
 キャリアの身体は再構成されていたのだ。
 キャリアが崩れ去った近くの空間にキャリアの砂が集まる。
 砂が結集し、女性型のフォルムを形成していく。
 やがて、美しい女性の姿となる。
 キャリアに容姿が似ている。
 だが、内在しているパワーが明らかにキャリアとは別物だった。
 容姿こそ似てはいるが全く別の存在――そう感じられた。
 様子を見ていたFは
「ようやく覚醒したか……」
 と言った。
 その事からも元はキャリアだったというのが解った。
 キャリアとは顔や体型は似ているが、その女性には天使の翼も悪魔の翼も無い。
 頭上にあったハート型のエンジェルハイロゥも別の物に変わっている。
 五色の光体が頭上にあった。
 表現するのであれば、五種類の光の帯が頭上にあるという事になる。
 翼の代わりに背中から生えているものもある。
 膜のような感じのものだ。
 蝶や蛾の羽根のように見えなくもない。
 だが、これはまだ、形が定まっていないのかもしれない。
 ゆらゆらと形を変化させている。
「キャリアさんなのかニャ?」
 キャトラは恐る恐る、尋ねる。
 女性は、
「キャリアでもある。でも私は偽クアンスティータを産む存在でもある」
 と答えた。
 どうやら、キャリアであることは間違いないようだが、それでもあれだけ嫌がっていた偽クアンスティータを産むという事を肯定している。
 彼女の中で何かがあったという事は明らかだった。
「殺せぇ〜」
「倒せぇ〜」
「始末しろぉ〜」
 天上使達が叫ぶ。
 そして、一斉にキャリアに向かっていく。
 だが、たった一睨みで、その場に居た天上使達は全滅した。
 それを見ていたFは
「バカめ、今のあの小娘は言ってみれば偽クアンスティータを産み出すエネルギーを体内で調節している生命エネルギーが最も活性化している状態だ。今、迂闊に手を出せば、偽クアンスティータを構成するエネルギーで消し飛ばされると言うのが解らなかったのか」
 と言った。
 神話の時代より、偽クアンスティータ用に核は30核用意されていた。
 その内10核は現在存在している偽クアンスティータを形成するために使われている。
 今まではその10核の偽クアンスティータが予備として、2核ずつ所有しているという事になっている。
 だが、Fはその各偽クアンスティータが所有している2核ずつ、合計20核の核を他に割り当てようと思っている。
 その内、10核は、クアンスティータの姉であり、兄でもある存在、クアースリータに属するクアースリータ・マネージャーズに割り振るつもりだ。
 クアースリータ・マネージャーズはクアンスティータで言えば偽クアンスティータにあたいする存在だ。
 つまり、偽者のクアースリータ達という事になる。
 クアースリータの公式の偽者であり他の生物の要素も持つ、10核という事になる。
 残り、10核――
 それをキャリアに産ませようという考えを持っている。
 それは、今、存在している偽クアンスティータ10核を一期の偽クアンスティータとするならば二期の偽クアンスティータという事になる。
 つまり、クアンスティータには20種類の偽クアンスティータがつくという事になる。

 反対していた頃のキャリアにも説明した様に、偽クアンスティータを産むのに必要なのはキャリアの母体ではない。
 キャリアは頭上にある5つの光体の維持をする事で偽クアンスティータが産まれるという事になる。
 妊娠期間は存在しないのだ。
 Fはキャリアが偽クアンスティータを作り出す存在としての意識が目覚めた事に安堵した。
 自殺でもされたら、これまでの苦労が水の泡だったからだ。
 だが、偽クアンスティータの母としての自覚に目覚めたのかキャリアは産む事を否定しなくなった。
 それはありがたい事でもあった。

 クアンスティータと一口に言っても、こういう存在であればクアンスティータであるという定義はない。
 特徴としては背花変(はいかへん)と呼ばれる万能細胞や千角尾(せんかくび)と呼ばれるしっぽがあるが、これは本物のクアンスティータの共通点だ。
 本物であっても本体や側体によっては全く違う構造をしているので、視覚的共通点以外はこれがクアンスティータという定義はない。
 それは偽クアンスティータにも言える事で、どの部分をもって、偽者の【クアンスティータ】としているのか明確な定義は存在しないのだ。
 だが、クアンスティータのために動くという事や圧倒的なパワーを与えられる事などから、それは偽クアンスティータだという事になっている。
 そのため、偽クアンスティータ同士の共通点も無い。
 しいて挙げるのであれば、クアンスティータとは元々が怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナの娘、レインミリーの生まれ変わりであるという事から、おんこという男でも女でもない性別でありながら、容姿などは女性に近いため、偽クアンスティータは女性型で統一されているという事くらいだろうか。
 また、本体を守る、側体と同じ様な立場でクアンスティータ全体を守るという事から、年頃の女性の姿をしているという事になる。
 ただ、Fからしてみれば、それは猿真似に過ぎないと思っていた。
 本物のクアンスティータはもっととんでもない存在。
 そういうくくりで計れるような存在ではないのだ。
 クアンスティータを守るというのも疑問に思っている。
 クアンスティータの立場であれば、守って貰う必要は全く無いのだ。
 むしろ、他の存在を守っているというのが正解だろうか。
 下手にクアンスティータに手を出せば巻き添えで、他の存在も死滅するため、本物より、弱い偽者が相手をする事で極力本物との接触を断つ役目を果たしているという点では必要な存在であると言える。
 だが、Fからしてみれば、それは相手側に立った視点だ。
 クアンスティータの目線ではない。
 クアンスティータにとっても中途半端な存在にチョロチョロされるよりは代わりに相手をしてくれる偽クアンスティータが居た方が良いのかも知れないが。
 どちらにしても、Fはキャリアをどうしたいのかが見えてない状態だった。
 このまま、偽クアンスティータを産ませるのが正解なのか、それとも、放っておいて、好きにさせるのが正解なのか?
 どっちか解らない。
 または、全く別の答えかも知れない。

 自らの後世である芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)は【答えの力】という力を身につけつつあるようだが、前世である自分にはその力がない。
 【答えの力】はクアンスティータに対抗する力とされているが、クアンスティータが本気になれば、そんな力など、物の数ではないと思っている。
 だが、Fとしてはその【答えの力】に多少興味はあった。
 答えがわかるというのであれば、是非とも身につけてみたい。
 そうは思うが、芦柄 吟侍は自分の魂の七分の一の転生した魂に過ぎない。
 自分の七分の一の者の力に憧れるというのは彼のプライドが許さなかった。
 芦柄 吟侍は自分より格下、下等であるべきだ。
 その吟侍が自分より、先に答えを見つける事など許し難い。
 そう思っていた。
 悩むことではないと割り切り、Fは偽クアンスティータを集める事と、芦柄 吟侍達の様子を見に、惑星ウェントスに向かうことにした。
 キャリアの覚醒は確認した。
 後は、黙っていても、新たな偽クアンスティータを産み落としていくだろう。
 F――怪物ファーブラ・フィクタがする事は、まず、惑星ウェントス近辺の様子をさぐり、偽クアンスティータ達から核を受け取り、それをクアースリータ・マネージャーズに振り分ける事。
 そして、クアンスティータよりも先に産まれるクアースリータの誕生に立ち会う事。
 それを優先させる事にした。
 怪物ファーブラ・フィクタは惑星ファーブラ・フィクタを経由して、ニナ・ルベル――本物のクアースリータ、クアンスティータの双子を産む母体と共に、惑星ルーメンと惑星テネブライの無限ループの中から抜け出て行った。
 後で、二期の偽クアンスティータのための核を届ける事になるだろうが、それはまた、後の話だ。
 怪物ファーブラ・フィクタはその場を後にした。
 キャリア達には何も告げなかった。
 伝えなくても今のキャリア達であれば、彼が思った通りの行動を取ると確信したからだ。
 敵が居なくなったが、Fは進化石の四種族をキャリア達の敵として用意してその場を離れた。
 覚醒したとは言え、まだ、パワーの安定していないキャリアの力を制御させるためにだ。
 はっきり言えば、キャトラや二羽の天使など、どうでも良かった。
 キャリアさえ自分の思い通りに動いてくれればそれで良かった。

 キャリア達4名と進化石の四種族の戦いが始まる。
 今度は手加減は必要ない。
 キャリアは全くの別物へと進化を果たしたのだ。


第三章 キャリアVS進化石の四種族


 キャリアは進化石の四種族との戦いの最中、まだ、時間になっていないのにテネブライに渡り、2級使愚魔達も全滅させた。
 この事から、キャリアが自在にルーメンとテネブライを行き来出来るようになった事がうかがえた。
 もはや、光の属性、闇の属性という事にこだわる必要がないのだ。
 そして、キャトラとフォールにも自身のエネルギーを送り、光と闇の両属性を与えた。
 更に、悪魔の属性を持った男性サボータと天使の属性を持った男性セラフィールを、
 悪魔の属性を持った女性クルゥと天使の属性を持った女性フクィンをそれぞれ融合させる。
 それにより、サボータとセラフィールの融合生命体、聖魔(せいま)ジャンルとクルゥとフクィンの融合生命体、聖魔マドゥワスが誕生した。
 それが神の領域、生誕を司る力を持った事を意味した行動であることをキャトラとフォールは理解した。
 男女の違いはあるが、ジャンルとマドゥワスはどちらもかつてのキャリアのように、天使の翼と悪魔の翼を片方ずつ持つ存在となった。
 天使でも悪魔でもないため、それは聖魔という事になる。
 新生キャリアとキャトラとフォール、ジャンルとマドゥワスの5名はルーメンとテネブライの区別はつけなくても良くなった。
 むしろ、ルーメン側、テネブライ側に勢力が別れてしまう、神や悪魔の軍勢の方が不利に働くことになる。
 神と悪魔は是が非でも、神と悪魔の両方が成立する聖魔地帯の確保が重要となった。
 それだけ、キャリアの勢力が増したという事になる。
 神と悪魔の軍勢は慌てていたが、今相手をしている敵は神でも悪魔でもない。
 怪物ファーブラ・フィクタが用意した進化石の四種族という事になる。
 後には、ツイン・シスターオペレーションの三大成功例である三組の姉妹、デクシア(右)、アリステラ(左)姉妹、プリュス(+)、モアン(−)姉妹、プラーミァ(炎)、リョート(氷)姉妹との戦いも控えている。
 全て、クアンスティータを強化したり、参考にしたりなどの関わりがある存在達だ。
 クアンスティータが関わっているという事はただ者ではないという事でもある。
 ヂグウ族のカヂが前に出る。
 前の戦いでは全く相手にされて居なかった。
 極限まで手加減をされて、それでも傷一つつけるに至らなかった相手だ。
「俺にやらせてくれ」
 フォールが前に出る。
 キャリアに力を与えられた今でも彼の流儀は変わらない。
 多数で少数を倒すというのを良しとはしない。
 向こうが一名で来るのであれば、こちらも一名で対抗する。
 バカだと言われようが何だろうが、それが、フォールの行動の全てだった。
 居合いの構えを取るフォール。
 同じ構えでも素人がいきなり達人になったくらいの違いがあった。
 自分が自分ではないという感覚に包まれるフォール。
 カヂも構えを取る。
 歴戦の強者としての勘が舐めたままではやられる事を察知したのだ。
 辺りに緊張が走る。
 ジリジリと間合いを詰めていくカヂ。
 フォールはその間合いを詰められた分、引いていた。
 まだ、自分の間合いではカヂにやられると思っているのだ。
 それでもカヂは間合いを詰めてくる。
 フォールが瞬きをした瞬間、動く。
 カヂによる猛攻が始まる。
 カヂの攻撃の影響で、空間が歪む。
 カヂに空間を歪める能力はない。
 カヂのパワーに耐えきれず、空間の方が勝手に歪みだしたのだ。
 ギャリリリンッ
 という音がしたと思うと、二名の間合いが広がる。
 見ると、フォールの土刀がカヂの腕に傷をつけていた。
「………」
 初めての傷をじっと眺めるカヂ。
 傷つけられたのが初めてなので、多少驚いたようだ。
 だが、カヂの強靱な精神は初めての事態にも動揺することはなかった。
 そうなったらそうなったで傷を舐めた。
 すると、傷ついた腕がすぐに元通りになった。
 傷つけられたくらいで動揺するような存在が恐れられている訳はない。
 この精神力の強さもカヂという存在、ヂグウ族という存在の強さを物語っていた。
 カヂの劣勢にも他のヂグウ族が助けに入るという姿勢はない。
 カヂであれば問題ないという確信があるからだろう。
 再び身構える両者。
 再び緊張が走る。
 次の瞬間、また、動く。
 フォールの土刀とカヂの拳による応酬が続く。
 様子を見にやってきた使愚魔達が消し飛ぶくらいの戦いが続く。
 その様子をキャリア達は黙ってみている。
 その場に居られるという事からもフォール以外の者も格段にスケールアップしているというのが解る。
 惑星テネブライが震える。
 このテネブライとルーメンは他の惑星よりも遙かに強固に出来ている。
 にも関わらず、大地震を思わせる振動が星を揺り動かしていた。
 惑星規模の戦闘を超え始めている。
 神と悪魔の両方の強固な加護があるにもかかわらず、星が維持出来なくなり始めていた。
 それはルーメンのセントラルハイタワー、テネブライの超魔殿にまで振動が伝わる。
 円卓会議中の神々や悪魔達も動揺する。
 その戦闘は舞台がルーメンとテネブライを行き来するという無限ループ自体を破壊した。
 惑星が光のルーメンと闇のテネブライに完全に分離されてしまった。
 もはや、キャリアを無限ループに閉じこめておけなくなってしまった。
 彼女が逃げようと思ったら、逃げ出せてしまう。
 現在彼女が居る闇の惑星テネブライだけでは、彼女達を止められない。
 最真~達と極超魔達が共同で力を使う。
 強制的に、聖魔地帯を作り出した。
 ルーメンとテネブライの惑星間には聖魔地帯とされる第三の土地が出現した。
 強制的にキャリア達を聖魔地帯へと送る極超魔達。
 思わず手を出してしまった。
 下々の存在に関わってしまった。
 それだけ、この戦闘によるパワーがでかかった。
 神や悪魔達も黙って見ている訳にはいかない事態へとなりつつあった。
 フォールとカヂの戦闘は二週間にも及んだ。
 決着がつかず、戦闘がいつまでも続いたのだ。
 その間にも怪物ファーブラ・フィクタ達の方の物語も進んでいく。
 向こうでは着実に、クアースリータ誕生のカウントダウンが始まろうとしていた。
 クアースリータが誕生してしまえば、その双子の妹であり、弟でもあるクアンスティータはすぐに誕生してしまうという事になる。
 最超脅威が二度にわたって起きるのだ。
 キャリアもただ、黙って見ていた訳ではない。
 身体の内部ではめまぐるしい変化が起きていて、第二期偽クアンスティータを産み出す存在として、着実に変化していった。
 神や悪魔の軍勢は如真や化深を送り込むタイミングを失っていた。
 フォール対カヂの戦闘に如深や化深を送り込んでしまえば、ルーメンやテネブライは破壊される。
 そうなれば、惑星ファーブラ・フィクタを監視していた二つの星の役目を果たせなくなる。
 野ざらしになった惑星ファーブラ・フィクタにより、本物のクアンスティータが誕生してしまうかもしれないと恐れたのだ。
 そのため、惑星ルーメンと惑星テネブライの維持を優先させた。
 カヂとフォールの戦いが始まって二日後には如真や化深の準備は整っていたが、緊急ストップをかけて出動を取りやめたのだ。
 警戒レベルはマックスを飛び越えていた。
 神と悪魔の軍勢は新しく出来た聖魔地帯をファーブラ・フィクタ星系から引き離す事にした。
 聖魔地帯毎、キャリア達を惑星ファーブラ・フィクタから放す事によって、影響を少しでも減らそうとしたのだ。
 カヂとの決着がつかない事にしびれを切らしたのか、同じヂグウ族の学者リグが戦いを仕掛けてきた。
 それにはキャトラがあたった。
 それに触発されたのかヂグウ族の巫女ミヴがマドゥワスに、族長のラゾがジャンルに飛びかかる。
 ヂグウ族は4名しかいないので、全員が向かってきた事になる。
 聖魔地帯での戦闘が激化する。
 空いていたキャリアには別の進化石の種族の一つ、ツェヴァ身族(ツェヴァしんぞく)達が襲いかかる。
 クアンスティータの本体の色のイメージにもなった種族でラヴァン(白)、シャホール(黒)、アドム(赤)、カホール(青)、サゴール(紫)、ヤロック(緑)、ツァホーヴ(黄色)、フム(茶色)、アフォール(灰色)、シャニ(緋色)の10名が一斉に彼女に向かってきた。
 ツェヴァ身族は勘が優れた一族でもある。
 覚醒したキャリアを危険と判断したのか、一族全員で彼女を始末しに動く。
 ツェヴァ身族は全員男だ。
 身体的特徴としては顎の部分に二つの突起物がある。
 また、二の腕の付け根と膝の部分にも突起物がある。
 また、瞳の内側に膜があり目の印象も通常の者とは異なる。
 ヂグウ族ほどではないが、この一族も強靱過ぎる身体を持っている。
 強敵と呼ぶにふさわしい実力を備えている。


第四章 第二期偽クアンスティータ誕生


 戦いも激化したその時、キャリアの頭上にある5つの光体がぐんっと伸びる。
 一本につき2メートルくらいにまで伸びた。
 文字が浮かび上がる。
 クアンスティータ学で使われるクアンスティータ語で言うところの【イミターティオ・クアンスティータ】と読める。
 イミターティオとはラテン語で【模倣】の意味を持つ。
 第一期の偽クアンスティータ達は別名として【メンダシウム・クアンスティータ】という名前を持っている。
 メンダシウムとはラテン語で【嘘】の意味を持っている。
 第一期の偽クアンスティータ達は二つずつ名前を持っている。
 すなわち、
 プリームム(第一)・メンダシウム・クアンスティータはアラーネア(蜘蛛)・クアンスティータ
 セクンドゥム(第二)・メンダシウム・クアンスティータはプランタ(植物)・クアンスティータ
 テルティウム(第三)・メンダシウム・クアンスティータはパピリオー(蝶)・クアンスティータ
 クァルトゥム(第四)・メンダシウム・クアンスティータはセプス(毒蛇)・クアンスティータ
 クィントゥム(第五)・メンダシウム・クアンスティータはピスキス(魚)・クアンスティータ
 セックストゥム(第六)・メンダシウム・クアンスティータはアウィス(鳥)・クアンスティータ
 セプティムム(第七)・メンダシウム・クアンスティータはアピス(蜂)・クアンスティータ
 オクターウム(第八)・メンダシウム・クアンスティータはケルウス(鹿)・クアンスティータ
 ノーヌム(第九)・メンダシウム・クアンスティータはウルペース(狐)・クアンスティータ
 デキムム(第十)・メンダシウム・クアンスティータはセーピア(烏賊)・ポリプス(蛸)・クアンスティータ
 というように分類されている。
 第二期の偽クアンスティータもこれに習うという事になる。
 名前をつけるという事は誕生させる準備が整ったという事になる。
 五つの光体から十本の円柱が飛び出す。
 その十本にはそれぞれ名前が刻まれている。
 プリームム(第一)・イミターティオ・クアンスティータ/パグールス(蟹)・クアンスティータ
 セクンドゥム(第二)・イミターティオ・クアンスティータ/プルモー(海月)・クアンスティータ
 テルティウム(第三)・イミターティオ・クアンスティータ/ティグリス(虎)・クアンスティータ
 クァルトゥム(第四)・イミターティオ・クアンスティータ/エレプハース(象)・クアンスティータ
 クィントゥム(第五)・イミターティオ・クアンスティータ/ヒッポポタモス(河馬)・クアンスティータ
 セックストゥム(第六)・イミターティオ・クアンスティータ/ダシュポディダエ(アルマジロ)・クアンスティータ
 セプティムム(第七)・イミターティオ・クアンスティータ/カペル(山羊)・クアンスティータ
 オクターウム(第八)・イミターティオ・クアンスティータ/エクウス(馬)・クアンスティータ
 ノーヌム(第九)・イミターティオ・クアンスティータ/カメーロパルダリス(きりん)・クアンスティータ
 デキムム(第十)・イミターティオ・クアンスティータ/ルプス(狼)・クアンスティータ
 と記されている。
 つまり、第二期の偽クアンスティータがこの瞬間、誕生した事になるのだ。
 十本の内、九本の円柱が四方八方に飛んで行った。
 偽クアンスティータの役割は、クアンスティータに害なす存在の始末をするという事になる。
 第一期偽クアンスティータと同じように、その存在の始末に向かったのだ。
 キャリアの前には残る1本円柱が残っている。
 この一本は、プリームム(第一)・イミターティオ・クアンスティータ/パグールス(蟹)・クアンスティータとある。
 つまり、第二期の第一の偽クアンスティータがこの円柱に入っているという事になる。
 ツェヴァ身族をクアンスティータに害なす存在として認識したという事になる。
 円柱がドロドロに溶けていく。
 中から、女性型のフォルムが顔を出す。
 女性のような形をしていながら女性ではない別の生命体――
 第二期偽クアンスティータ、パグールス・クアンスティータだった。
 パグールス・クアンスティータが現れた瞬間、神と悪魔による加護を受けている聖魔地帯が崩壊した。
 パグールス・クアンスティータのパワーに耐えきれなかったのだ。
 宇宙空間に投げ出される一同。
 宇宙空間で生きられない存在はこの場には居ないがそれでも足場がいきなり消滅したので、一同は驚いた。
 大分、ルーメンやテネブライから離れた位置に移動して来ているので、この宇宙空間がどの辺りかと言うことは解らない。
 だが、星が殆ど無いので、この辺りが超空洞ヴォイドのすぐ近くだという事は解る。
 最真~と極超魔がこのままでは危険だと判断して、大きな超空洞ヴォイドまで聖魔地帯を移動させたのだ。
 近隣に生命体の居る星は存在しない。
 生命体とは縁のない宇宙空間だ。
 ツェヴァ身族達が身構える。
 が、攻撃は出来なかった。
 あっという間にパグールス・クアンスティータによって、10名とも両断された。
 両断された傷口からダメージが浸食して、ツェヴァ身族達を消し去った。
 神話より前の時代から、消し去る事が出来ずに封印するしかなかったツェヴァ身族も偽クアンスティータの手にかかればあっという間だった。
 刃向かう事すら出来なかった。
 同じ、進化石になっていたツェヴァ身族があっさり倒された事による危機感が、残るシェアスール族とワサト永族(えいぞく)を同時に動かした。
 シェアスール族は森羅万象を司る。
 族主(ぞくしゅ)のエアラッハ(春)、サウルー(夏)、フォーワル(秋)、ゲブルー(冬)の四名からなる。
 身体的特徴としては胸や股間などが、多くの毛で守られているという事と足の指が手の指の様に長いという事になる。
 ワサト永族は族王(ぞくおう)ワサトを中心として、アマーム(前)、カルフ(後)、ヤミーン(右)、ヤサール(左)、アァラー(上)、アスファル(下)の七名で構成されている。
 身体的特徴としては、両目が頬の端まであり、その視野は通常の人間よりも広い。
 また、膝がそれぞれ、二カ所ずつあり、間接の数が人間よりも多いというのが特徴だ。
 どちらの一族もヂグウ族、ツェヴァ身族に勝るとも劣らない力の持ち主になっている。
 通常の攻撃では全くダメージにならない。
 通常であればだ。
 この二つの一族が相手をしているのは通常の相手ではない。
 偽クアンスティータだ。
 まともに戦って勝てる相手ではない。
 だが、この神話より前から生きる一族達はクアンスティータに対する恐怖心が無いという共通点も持っている。
 勝てないからと言って、ひるむような一族では無かった。
 恐れず、偽クアンスティータに向かっていく。
 ――が、相手が悪すぎた。
 パグールス・クアンスティータは情け容赦無く、二つの一族を滅亡させた。
 さらに言えば、フォール達が交戦中だったヂグウ族の四名もフォール達から奪う形であっという間に始末した。
 役割を終えたパグールス・クアンスティータは新たな獲物を求めて、どこかへと消えていった。
 Fが残した刺客としてはまだ、ツイン・シスター・オペレーションの三つの成功例である3組の双子の姉妹達が残っていたが、彼女達には偽クアンスティータと戦う意志はない。
 元々、クアンスティータとクアースリータの双子を元に研究されてきた存在だ。
 クアンスティータに対する恐怖心は普通の存在よりも多く持っている。
 間違ってもクアンスティータと名のつく者に逆らおうという気持ちはないのだ。
 戦う意志は無いと表現するように去っていった。
 進化石の4種族――彼らは本来であれば途轍もない存在だったのだが、そうとは思えないくらいあっさりと偽クアンスティータに敗れ去った。
 フォールとキャトラは今更ながら、クアンスティータという名前のブランドの凄まじさを理解したのだった。
 戦いも終わり、宇宙空間に投げ出された形になったキャリア達は、しばらく、宇宙をただよっていた。


第五章 クアンスティータ誕生の気配


 宇宙空間をただようキャリア達に神と悪魔からの追撃部隊が向かっていった。
 神側からは3名の如真、悪魔からは3名の化深がメインとして配置されている。
 周りには如真や化深の監視の意味もふくめて、10羽の0級天上使、20羽の1級天上使、10体の0級使愚魔、20体の1級使愚魔もいる。
 2級天上使、2級使愚魔もそれぞれ300以上は確認出来る。
 どこの大宇宙と大戦争でも始めるのかというような戦力だった。
 もはやキャリア個人を倒すという戦力ではなかった。
 偽クアンスティータを産み出したという事実が神と悪魔を本気にさせたのだ。
 10核の偽クアンスティータを産み出したキャリアにはもはや、偽者のクアンスティータという部分は残っていないのだが、第二期の偽クアンスティータを産み出したというインパクトはそれだけ強かった。
「とんでもにゃい兵力だにゃ……」
 キャトラが思わずつぶやく。
 勝てる気が全くしない――それが正直な感想だった。
「私がやる……みんなは下がっていて……」
 キャリアが他の4名を下がらせる。
 キャリアの頭の光体にはまだ、偽クアンスティータが誕生した時の強大過ぎるエネルギーがくすぶっている。
 このエネルギーを使って、この超大兵団にどれだけ対抗出来るかは解らないが、とにかく、やるしかない。
 残されたパワーはこの絶望的な戦力を前にしては心細い。
 キャリアは死を覚悟した。
 が、せめて、共に戦ってくれた4名の仲間達だけでも助けたい。
 自分が囮になって逃がしたい。
 その悲壮感漂う気持ちだけで、前に出ていた。
 迫る、天使と悪魔の軍勢――
 その戦力は余りにも強大だった。
 たった5名ではどうあがいても勝てない。
 その事実だけがキャリアに押しつけられていた。
 偽クアンスティータが戻ってきてくれれば、この状況は変えられるだろう。
 だが、偽クアンスティータ達はクアンスティータのために行動する。
 母と言えど、クアンスティータでない者のために行動する事はない。
 絶体絶命の大ピンチ。
 そう思われた。
 だが、戦闘に入る前にある事が起きた。

 ブォォォォン……
 突然、キャリア達の存在がブレた。
 キャリア達だけじゃない。
 天使と悪魔の軍勢もブレた。
 素粒子レベルまで分解されて、また、戻った。
 何かが起きたのだ。
 何かとは――
 宇宙のどこかで、クアンスティータの姉であり、兄でもあるクアースリータが誕生したのだ。
 クアースリータが誕生したという事はその妹であり弟でもあるクアンスティータが誕生するまでのカウントダウンが始まったという事も意味している。
 もはや、偽者のクアンスティータを産み出した母体、キャリアなどにかまっている状態ではなかった。
 一刻も早く、全戦力を立て直し、クアンスティータに対抗するために行動させなくてはならない。
 神と悪魔の軍勢がキャリア達の前から急反転して、ルーメンとテネブライの方に戻って行く。
「た、助かったの?」
 キャリアは呆然としていた。
 何故助かったのかは何となく解る。
 偽者とは言え、クアンスティータを産み出した身だ。
 これが、本物のクアンスティータが誕生する前に産まれるクアースリータ誕生で起きた事だというのは理解できる。
 クアンスティータ――
 自分が様々な存在から疎まれる原因ともなった化獣――
 もちろん、それは、クアンスティータが悪いという事にはならない。
 周りが勝手にクアンスティータに対して怯えているのに過ぎないからだ。
 ただし、今のところはであるが。
 まだ、産まれていないのだから、何もしていないのは当たり前だが、実際に産まれたら、どうなるのか?
 産まれてもいないのにこれだけ、騒がれるのだから、相当な力を持った化獣だという事は解る。
 だが、偽クアンスティータを産んではみたものの、本物のクアンスティータとはどのような化獣だかは、実のところよく解っていない。
 正直、クアンスティータを疎ましく思うことも多々あった。
 何で、クアンスティータに関わっただけで、こんな目にあうんだと泣いた日も数多く記憶している。
 だが、動いていたのは、クアンスティータではなく、クアンスティータに関わる利権で動いている者達なのだ。
 クアンスティータを非難しているのは間違っていた。
 大ピンチを迎えたが、クアンスティータは自身が産まれそうになるという事でこうして、キャリアのピンチを救ってくれた。
 その事を素直に感謝しようという気持ちになった。

「どうするニャン?」
 キャトラがキャリアに今後の行動について尋ねる。
 宇宙空間での呼吸はそれぞれの能力により可能としているが、このまま、宇宙空間に居続けるというのはあまり、良い状態とは言えない。
 どこか、特殊能力を使わずに呼吸が出来る場所を探して落ち着かないと行けない。
 これまで、ルーメンとテネブライで来る日も来る日も敵との連戦連戦また、連戦だったが、ようやく、敵の目が自分達からクアンスティータに移ってくれた。
 やっと少し、落ち着ける時が来たんだとホッとする。
 逆に、神や悪魔は落ち着かない日々が始まるのだろう。
 なんせ、ついに、クアンスティータが産まれるのだ。
 どんな状況になっていくのか全く読めない。
 今まで神々や悪魔は圧倒的優位な立場で、下々の存在を見てきた。
 だが、これからは、自分達の立場さえも脅かしかねない途轍もない脅威と向き合う日々がやってくるのだ。
 因果応報――
 神々や悪魔達がキャリア達に対してしてきた事の報いがこれから起きるかも知れないと思うとちょっと複雑な気持ちになった。
 クアースリータが産まれて少し経ったが、それに合わせて、様々な存在がざわついているのを感覚として、受けた。
 どの存在にも焦りのようなものを感じる。
 寝耳に水でもかけられたかのような驚きを感じた。
 それだけ怖いのだろう。
 今まで、神話の中のフィクションだと思われてきた、クアンスティータ。
 だが、今はその姉(兄)クアースリータが誕生してしまった。
 クアースリータが誕生するという事はその双子の兄弟姉妹のクアンスティータもまた誕生するという事でもある。
 クアースリータが確認されたという事はフィクションはフィクションじゃなかったという現実が突きつけられたという事でもある。
 臭い物には蓋――そうやって生きてきた者達は現実と向き合えず右往左往している。
 今まで、ふんぞり返ってきた強者達が怯えているのも解る。
 クアンスティータの誕生により、自分達が弱者に分類されてしまうかも知れないからだ。
 中央に居た者が隅へと追いやられもするだろう。
 クアンスティータの誕生が引き金となり、強者の勢力図は何度も塗り変わると言われている。
 自分の力に自惚れ、満足に精進して来なかった強者達はまず間違いなく弱者の烙印が押されるだろう。
 強者から弱者へ転落した者の末路。
 それは考えただけでもゾッとする結末だ。
 その最悪のシナリオが現実の物になるかも知れないという恐怖が伝わってくる。
 クアンスティータ誕生という事はそれだけ大きな事なのだとしみじみ思うのだった。
 キャリア達5名は疲れた身体を癒すために、近くの呼吸できる星に降り立った。
 そこはまだ、文明と呼べるものが存在していない、自然豊かな星だった。
 文化は何もない。
 あるのは大自然のみ。
 人間が生きていくには危険な場所ではある。
 だが、キャリア達は人間ではない。
 キャリア達の力ならば、ここで生きていくのは決して難しい事ではない。
「綺麗な星――そう言えば、今まで、こんな風に土地を眺めるなんて事なかったな」
 キャリアがボソッと言った。
「あぁ、悪くない――」
 フォールが同意する。
「しばらくバカンスニャン」
 キャトラはこの星で遊ぶつもりのようだ。
 それも悪くないと思う。
 ジャンルとマドゥワスは耳飾りへとメタモルフォーゼし、キャリアの両耳についた。
 ジャンルとマドゥワスもまた、キャリアが産み出した存在でもある。
 偽クアンスティータではないが、この二名もまた、愛するわが子でもある。
 偽クアンスティータ達はクアンスティータのために動き、キャリアの元を去って行ってしまったが、この二名の聖魔は母である彼女を守るために常についていてくれることを選択したようだ。
 常に離れず耳飾りとして、キャリアにつき、非常時には聖魔となって彼女を守ってくれるのだろう。
 キャリア、キャトラ、フォールの三名は海岸の近くにキャンプを張った。
 のんびりこれからの事を相談し、生きていくための話し合いをした。
 今、宇宙ではクアースリータ誕生とクアンスティータ誕生のカウントダウンにより大混乱の真っ最中だ。
 だが、それは直接、キャリア達には関係ない。
 今は休息中。
 今まで散々、苦労してきたんだ。
 こんな時くらい休ませてもらう。
 キャリアはそう思いながら捕れたばかりの新鮮な魚を口に運ぶのだった。

続く。

登場キャラクター説明

001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 地球での居場所が無く、新天地を求めてやってきたが、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータを更にどうしようもないレベルに引き上げる最悪の因果律を持つとして、神御(かみ)と悪空魔(あくま)に敵対視される。
 Fの力を借りて何とか生き残っているが……












002 F(怪物ファーブラ・フィクタ)
怪物ファーブラ・フィクタ
 この世界で暗躍する謎の存在。
 正体は最強の化獣(ばけもの)クアンスティータの父親。
 愛娘、レインミリーの無念を晴らすため、クアンスティータを最強の形で産みだそうと画策している。
 キャリアがその鍵を握るとして、彼女に協力する。













003 猫神 キャトラ
猫神キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。

















004 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
はぐれ使愚魔フォール
 最低ランクに属する12級の使愚魔だが、実力的には4級、6級の使愚魔を瞬殺出来る程ある。
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプだ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。













005 ヂグウ族の戦士カヂ
カヂ
 神話より前の時代に活躍し、強靱過ぎる肉体のため、滅ぼす事が出来なかった4種族の一つ、ヂグウ族の戦士。
 進化石(しんかせき)という状態になっていたが、復活する。
 極端に高い能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)を持つ。
 原始人を思わせる容姿に首の後ろには触手、ふくらはぎからはしっぽのようなものが生えているのが特徴。













  
006 2級天上使(てんじょうし)リリング
リリング
 強靱な無数のリングを操る2級天上使(てんじょうし)。
 その力は神御(かみ)に匹敵する。
 生み出したリングが囲った無機物はかりそめの生命を得て刺客となる力を持つ。


















007 2級天上使(てんじょうし)ロロード
ロロード
 ワープを得意とする2級天上使(てんじょうし)。
 別空間にあるものを持ってこれる。
 その力は神御(かみ)に匹敵する。



















008 2級使愚魔(しぐま)ブラドット
ブラドット
 猛毒で出来た血液を持っていてその血液に触れたら身体が腐っていってしまうほど強力。
 悪空魔(あくま)に匹敵する力を持つ2級使愚魔(しぐま)。


















009 2級使愚魔(しぐま)ボーンボ
ボーンボ
 異様に硬い特殊な金属で出来た骨を体中にしこんでいる。
 悪空魔(あくま)に匹敵する力を持つ2級使愚魔(しぐま)。




















010 2級天上使(てんじょうし)ゾゾーン
ゾゾーン
 神御(かみ)に匹敵する力を持つ2級天上使(てんじょうし)。
 自分の領域を作り出し、その領域内に入ると何らかの効果が出てしまうという罠を作り出せる。


















011 2級使愚魔(しぐま)ダミーダ
ダミーダ
 悪空魔(あくま)に匹敵する力を持つ2級使愚魔(しぐま)。
 自分や味方のダミーを作ることに長けている。




















012 聖魔(せいま)ジャンル
聖魔ジャンル
 キャリアの悪魔の要素を持ったサボータと天使の要素を持ったセラフィールの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている男性でもある。














013 聖魔(せいま)マドゥワス
マドゥワス
 キャリアの悪魔の要素を持ったクルゥと天使の要素を持ったフクィンの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている女性でもある。

















014 パグールス・クアンスティータ
パグールス・クアンスティータ
 新生キャリアが産み出した第二期の偽クアンスティータの一核でプリームム(第一)・イミターティオ・クアンスティータとも呼ばれている。
 蟹の要素を持っている。
 キャリア達が手も足も出なかった相手を瞬時に全滅させるなど、圧倒的過ぎる力を持っている。