第005話 幽界(ゆうかい)

ルーメン・テネブライ005話挿絵

第一章 幽界第二階層宇宙空間の強者


 キャリア・フロント・バックを中心にキャトラとフォールを含めた三人は幽界(ゆうかい)の第二階層の宇宙空間に居る。
 幽界は第十階層の宇宙空間まであり、出来れば、そこまで進みたいと思っている。
 だが、異物として入ってきた彼女達を素直に受け入れてくれる宇宙世界では無かった。
 現界(げんかい)の宇宙世界に戻ればクアンスティータが居るはずなので戻る訳にもいかないので、幽界が肌に合わなかったならば、魔界、冥界、天界、楽園界、仙界のどこかに行くことも選択肢としてあるが、まだ、合っていないかどうかを判断するには時は経って居ない。
 だが、現界から――正確には最強の化獣(ばけもの)クアンスティータから逃げ出して早、数ヶ月が経とうとしている。
 ここは現界とは時の流れが違うとは言え、現界でもかなり時間が経っているだろう。
 幽界は彼女達にとっては辛い場所ではあるが、クアンスティータに関わる事を考えれば遙かにましだ。
 クアンスティータと関わるという事は完全なアウトと言われていることと一緒なのだから。
 生き残る可能性があるという事が与えられている分、ありがたいと思わなければならない。
 キャリア達は次の宇宙空間である第三階層へつながると思われる第二階層の宇宙空間の中心にあると思われるブラックホールを目指している。
 だが、キャリア達の足では、移動だけでもずいぶんかかる。
 第一階層の中心のブラックホールに進むだけで数ヶ月かかったのだ。
 このペースでは第十階層にたどり着くのは何年かかることやらというところだった。
 超光速で移動が出来る宇宙船などの購入も検討したいところだが、彼女達は幽界の通貨を持っていない。
 通常の状態では手に入りにくい状況だった。
 問題は山積みと言った感じだった。

 キャリア達が第二階層の宇宙空間でモタモタしている内に、この階層でも動きがあった。
「おい、しっかり運べ。こんなところで解放させたらえらいことになる」
「大丈夫なんじゃないですか?誰も解けないんでしょ、これ?」
「もしもって場合があるだろうが」
「気にしすぎだと思いますけどね〜」
 男二人が荷物を運搬している。
 キャリア達が欲しがりそうな超光速の宇宙船での運搬作業だ。
 名前は、ブサとビヨという。
 どちらもたいした存在ではない。
 実力としては現界であれば星の一つや二つ、支配してそうな実力はあるが、今のキャリア達からすればまるでたいしたレベルでは無かった。
 上には上が居る。
 このブサとビヨは下っ端の下っ端に過ぎなかった。
 上から命令されてあるものを運んでいる――その程度の存在だった。
 力はそれなりにあるが、下克上をする勇気も無い。
 言ってみればぬるま湯につかりすぎた中途半端な強者と言えた。
 そんな二人だからたいした運命は待っていない。
 たいした事と言えば、今二人が運んでいるものがそれにあたると言えなくもないが。
 二人が運んでいる物――それは、幽界の第六階層にあったものだった。
 あるものが封印されている岩――封凶岩(ふうきょうがん)だった。
 封印されているあるものの名前は古都百合(ことゆり)――
 幽界最強の悪霊とされる霊だった。
 幻霊族(げんれいぞく)の女王が古都百合の力を欲し、下っ端の二人がわざわざ第六階層から運んできたのだ。
 理由は幻霊族が第二階層の宇宙空間の覇権をつかむためだった。
 第二階層の宇宙空間は群雄割拠の時代に突入していた。
 各地に猛者が現れ、飛び抜けてすごいという者が居ないため、誰が覇権をとってもおかしくない状態だが、その場合は鳶(とんび)が油揚げをさらうように他の猛者達がつぶし合って疲弊(ひへい)した時に覇権をもぎ取るという方法しかありえそうも無かった。
 なんとも情けない方法だが、1つもしくは少数の猛者が第二階層の宇宙空間全ての猛者を制して覇権をつかむには無理があった。
 そのため、他の階層からより強い存在をスカウトし、その圧倒的な力でのし上がった方がインパクトが強いという事になっていた。
 そのため、幻霊族に限らず、他の猛者達も他の階層からより強い存在をスカウトするスカウト合戦が横行していたのだ。
 幻霊族は他と差をつけるため、幽界最大の禁忌とも言える古都百合という悪霊に手を出したのだ。
 運搬は順調――そう思われたのだが、ブサとビヨの宇宙船の前に立ちはだかる宇宙船があった。
 ブサは、
「ったく、誰だてめぇは?どけ、おらっ」
 と宇宙回線を使って怒鳴りつける。
 ビヨも、
「荷物に何かあったらただじゃおかねぇぞ。わかってんのか、このボケ」
 と息巻いている。
 本来の二人だったならば、相手を消し飛ばすのだが、さすがに運搬しているものが運搬しているものなので、過剰な刺激は危ないと思って行動には出なかった。
 相手の宇宙船からも反応があった。
「あ〜、テステス……私は【ピリオド・エンド】って者だ。プロバトラーをして生計を立てている者だ。悪いがその荷物、こちらに渡してもらいたい」
 と言ってきた。
 ピリオドと言う男が運搬物をよこせとそう告げているのだ。
 宇宙海賊ではないようだが、それにしても今まで苦労して運んできた運搬物をよこせとは虫の良い話だ。
 ブサは、
「ぶわぁ〜か、誰が渡すか。頭、蛆でもわいてんのか?なんでてめぇに渡さなきゃなんねぇんだよ?」
 と再び怒鳴る。
 ピリオドは、
「私は、ジェントルマンなんでね、出来れば穏便に話しを進めたかったんだが、そうなるともう一つの方法をとらざるを得なくなってしまう――困ったなぁ――」
 と良い、
 ビヨは、
「もう一つの方法ってのは何だよ?金でも払おうってのか?」
 と聞く。
 ピリオドは、
「いいや、力ずくってことになるな。服が汚れるからあんまり好きじゃ無いんだ、戦うの」
 と答えた。
 なめた男である。
 完全にブサとビヨをおちょくっている。
 ブサは、
「殺されてぇのか?」
 と三度怒鳴る。
「君たちには無理だよ。なんとか話し合いで解決できないかね?」
「「ぶち殺す」」
 当然、交渉――とすら思えないが決裂し、戦闘が開始された。
 ピリオドは、
「あ〜やだやだ。野蛮な下等生物はこれだから……レディーは一人も乗っていないみたいだし、そうそうに決着をつけるか」
 と言って嫌々戦闘に答える。
 だが、その力はブサとビヨを終始圧倒した。
 プロバトラー――戦いをショービジネスに活かしたプロフェッショナルだけあって、戦闘はその辺の小者が挑んでも勝てる相手ではなかった。
 戦えば一瞬で決着はつくのだが、あえてそうしない。
 ブサとビヨに攻撃をさせてそれを圧倒的な力で防いでいた。
 ブサは、
「こ、この野郎……」
 と息も絶え絶えに睨むが、目力が無い。
 ビヨも、
「チョロチョロとよけやがって……」
 と強がるが、実力では二人がかりでも勝てない事は薄々感づいている。
 感づいているが、戦闘を仕掛けた手前、止める訳にもいかず、戦闘を続けた。
 ブサとビヨがバテバテになったところで、ピリオドが動く。
「そろそろ、良いか……正直、君らは要らないんだが、まぁ、持っていれば使い捨てくらいには役に立つかも知れないな」
 と言って、カードを二枚、手品の様に指先から二枚、出した。
 ブサは、
「な、何だ?」
 ビヨは、
「何の真似だ?」
 と首をかしげる。
 ピリオドは、
「二人には牢獄に入ってもらうよ。刑期を終えるまで出られないからそう思うように……」
 と言ってカードの中にそれぞれを閉じ込めた。
 ピリオドの得意とする力は【プリズン・カード】と呼ばれる彼が出現させたカードに閉じ込めるというものだった。
 捕まった者はそれまでピリオドに働いた無礼という名の罪(?)を背負い、それを償うまで、カードの中から出られない。
 刑期を終えるまではピリオドのために働くという条件の下でしか外に出られないという事になってしまったのだ。
 そのため、ピリオドは最初にブサとビヨに攻撃を許したのだ。
 そうすれば、罪がたまり、刑期も長くなるという寸法だった。
 ブサとビヨは、
「「だせぇ〜」」
 とカードの中から叫ぶが後の祭り。
 【プリズン・カード】の囚人となってしまった。
 一仕事終えたピリオドは、
「こっちの方が速そうだな……ではいただくとしようか」
 と言ってブサとビヨが使っていた宇宙船を奪った。
 それまで乗ってきた宇宙船は乗り捨てるという事になる。
 乗り換えた宇宙船には目的の岩もあるし、一石二鳥――いや、三鳥と言ったところか。
 三つ目としては幻霊族のあじとへのスペースマップが搭載されているからだ。
 ピリオドは、
「幻霊族の女王様と言えば、美人で有名だし、手土産の古都百合ちゃんも美人だって言うし、あ〜幸せ」
 と言った。
 初めから幻霊族の女王に取り入る事を目的とした行動だったのだ。
 幻霊族の女王にピリオド・エンド、古都百合――キャリア達のあずかり知らぬところで強者達も少しずつ動き出していたのだ。


第二章 幻霊族


 キャリア達は幻霊族が支配するエリアに近づこうとしていた。
 この場がそのエリアだという事は当然、理解していない。
 たくさん居る強者の中の一角に過ぎない幻霊族のエリアに突入したというだけの話だった。
 キャリア達三名とは別行動で偵察に出ていた聖魔(せいま)ジャンルと聖魔マドゥワスは先に幻霊族のエリアに侵入していて幻霊族と戦闘になっていた。
 ジャンルはマドゥワスに
「ここは俺が引き受けた。マドゥワス、お前は母さんにこのことを伝えてくれ」
 と言った。
 【母さん】とはキャリアの事を指す。
 キャリアによって生み出されたこの二名にとっては彼女は母親も同然だった。
 マドゥワスは
「だけど、ジャンル、あなただけで大丈夫なの?」
 と心配そうだ。
 ジャンルだけを残し、この場を離れる事をためらっている。
 キャリアを通してかなりの力を得てきている二名が手こずるだけの力を幻霊族は有していたのだ。
 幻霊族の特徴は半身半霊体の体を持っている。
 半分は霊体であり、肉体用の攻撃も霊体用の攻撃もダメージは半減されてしまう。
 オマケに肉体の方は単なる器であり、攻撃を受けてボロボロになったら、打ち捨てて、放棄し、新たなる器に入れば体力が元通りになるという特徴を持っている。
 ダメージを半減された状態で一瞬にして倒さない限り倒れないという厄介な特徴を持っていた。
 超絶的ダメージを与える事も出来るが、それだと体力などを大きく消費する。
 幻霊族の数に対して、超絶的ダメージを与えるだけの体力は残っていない。
 つまり、このまま行けばじり貧で、体力が尽きてしまうことを意味していた。
 そんな状態でマドゥワスが戦線を離脱することはその時期を早めてしまうという事になる。
 ジャンルは、
「このまま二人で戦っても同じ事だ。だったら、どちらかが助かる確率の高い方を取った方が良い」
 と言って、マドゥワスを思いっきり突き飛ばした。
 マドゥワスは幻霊族の支配エリアを越えるほど飛ばされた。
 エリアから出たところで、後から来たキャリア達と会えたマドゥワスは、キャリアに
「母様、ジャンルが、ジャンルが……」
 と訴えた。
 キャリアは
「落ち着いてマドゥワス。何があったの?」
 と事情を聞いた。
 マドゥワスはこれまであった経緯を話した。

 それによると――
 第二階層の宇宙世界の探査に出ていたジャンルとマドゥワスは、他の勢力と交戦中だった幻霊族の一団を目撃した。
 勢力としての力はほぼ互角――
 だが、切り札を所有していた。
 サンプルとして所持していた封凶岩から1億光年離れたところにある小石だった。
 封凶岩から1億光年も離れた場所にあるにも関わらず、強い呪力を持ち、敵対勢力を一層したのだ。
 封凶岩――つまり古都百合が封じられている岩の事だ。
 古都百合が最強最悪の悪霊とされているのはこの強過ぎる呪力を指していた。
 第六階層では、古都百合が封じられていた封凶岩の10億光年先まで封鎖されているという。
 幻霊族はこの封凶岩の呪力のコントロールに成功したので、持ち帰る事にしたという。 戦況を一変させる力を持つ、古都百合の封じられている封凶岩そのものがまもなく、第二階層の宇宙空間に到着するらしいという事を知ったのだ。
 幻霊族だけならば、キャリア達の力を借りればなんとかなるかも知れないが、古都百合本体が来るとなると話は別だ。
 クアンスティータの恐ろしさをほんの少し知ったので麻痺しているが、クアンスティータには遠く及ばないにしても、古都百合の力は余りにも異常過ぎる。
 とてもキャリア達が力を合わせてどうにかなるようなレベルではないという事が予想出来た。
 ジャンルは自分は見捨てて他のエリアに回ってくれと言っている。
 だが、マドゥワスとしては兄弟であるジャンルを助けて欲しい。
 見捨てないで欲しいと願っていた。

 それを聞いたキャリアの答えは、
「当たり前でしょ。あなたは大切な娘であり、ジャンルは大切な息子なのよ。子供を見捨てるような母親に見えるの?」
 だった。
 当然、助けに入るつもりだ。
 後ろに控えていたフォールとキャトラも同意見だった。
 フォールは、
「マドゥワス、案内してくれ」
 と言った。
 キャトラも
「任せるニャン」
 とウインクして力こぶを作って見せた。
 ここまで危険を共にしてきた仲間は見捨てない。
 力を合わせてきたのだ。
 これからも一緒だ。
 マドゥワスも加えてキャトラ達4名はジャンルが戦っていると思われるエリアに急いだ。


第三章 封凶岩


 ジャンルの元に急ぐキャリア達は突然現れたただならぬ気配に足を止めた。
 それほど、強大な呪力を感じたのだ。
 キャリアは
「な、何?この気配は……」
 と戦慄する。
 クアンスティータ事件関連を除けばこれほどの脅威を感じたことはなかった。
 明らかに第一階層の宇宙空間に居た怪妖(かいよう)をも遙かに上回る異質な気配だった。
 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……
 という音が響き渡る様な感覚に包まれる。
 何だ?
 何が現れた?
 キャリア達は動揺する。
 その異様な気配は目の前に出現した宇宙船の中から感じた。
 幻霊族の技術によって完璧に押さえ込んでいるはずの呪力。
 それでいてなおかつにじみ出てきている圧倒的なまでの圧迫感。
 間違い無い――
 あの宇宙船の中に封凶岩――古都百合が入っている。
 臨戦態勢を取るキャリア達。
 そこへ宇宙船の中から現れた一つの影が近づいて来た。
 ピリオド・エンドだった。
 キャリア達は知らないが、ブサとビヨから封凶岩を奪い去った男だった。
 ピリオドは、
「そこのマドモアゼル達――、あ、男は別に答えなくて良いから――君たちの中に幻霊族の女王様は居るかい?」
 と言った。
 フォールは、
「何だ、貴様は?」
 と返す。
 ピリオドは、
「男は答えなくて良いと言ったじゃ無いか。私は彼女達に聞いているんだよ。おつむの方は大丈夫かい?」
 と言う。
 相変わらず男性軽視の発言だった。
 フォールは、
「馬鹿にしているつもりか?」
 と言うが、キャリアが制す。
「良いわ、私が話す。私はキャリア・フロント・バック、こちらはフォール、右がキャトラとマドゥワスよ。残念だけど、幻霊族の女王は居ないわ。あなたはどなた?幻霊族の女王に何のご用?」
「キャリアさんか、お美しい。私の名前ですか?私の名前はピリオド――ピリオド・エンドと申します。女王様に手土産をお持ちしています。封凶岩と言えばおわかりになるかと思います」
 本来であれば、敵かも知れない者に事情を話す事などあり得ないことだが、ピリオドは美しい女性に敵は居ないと思っている。
 なので、全て話すつもりでいた。
 封凶岩は別の二人が運んでいたが、その二人ではいつ刺客に襲われて封凶岩が奪われても仕方ないので、自分が代わりに運んできたという事をアピールしたいようだった。
 聞いていると幻霊族の女王はとても美しく、その女王に求愛行動を取るためにこのピリオドという男は動いているらしい。
 なんとも軽そうな男ではあるが、雰囲気からかなりの実力者であるという事は推測がついた。
 だが、こちらは急いでいる。
 今にも、ジャンルがやられてしまうかも知れないという瀬戸際なのだ。
 こんな男にかまっている暇は無い。
 キャリアは、
「悪いけど通してもらえるかしら。仲間がピンチなの」
 と言った。
 それを聞いたピリオドは、
「仲間?それはさぞ美しい女性なのでしょうね」
 と訳のわからない事を言うので、
 キャリアは
「大事な息子よ。他には返られないわ」
 と言った。
 それを聞いたピリオドは、
「息子……なんだ、男か。だが、あなたの息子であるというのであれば私が助けましょうか?」
 と言った。
 どうやらキャリアにも良いところを見せたいらしい。
 女だったら誰でも良いのか?とちょっと軽蔑の目を向けるが、大ピンチであるこの状況を変えてくれるのであれば、そんな手助けも必要だった。
 キャリアは
「……出来るというのであれば、お願いしたいくらいだわ……」
 と言った。
 ピリオドは、
「オッケェ〜イ。ではあなたの笑顔を報酬とさせていただきましょう」
 と言って、キャリア達に道を譲り、後をついて言った。
 道案内と助ける対象さえ教えれば後はピリオドがなんとかするという事だろう。
 現場について見ると、力負けしたジャンルが幻霊族に捕まっている正にその時だった。
 ピリオドは、キャリアに
「助けるというのは……あの男ですか?」
 と尋ねる。
 キャリアはコクンと頷く。
 今にも死にそうなジャンルの姿を見て泣きそうだった。
 ピリオドは、
「美しい女性を悲しませるのは関心しないな、野蛮なお猿さん達。この私が成敗してやろう」
 と言った。
 キザだ。
 幻霊族はピリオドも敵と判断、向かって来た。
 ピリオドは、
「今回はどれにするか……そうだな、これで良いだろう……出てきたまえ、【アド・ヴァイス】全滅させたならば、刑期を2年短縮させてあげよう」
 と言ってカードを一枚取り出した。
 プリズン・カード――彼の最も得意とする攻撃パターンだ。
 カードの牢獄から【アド・ヴァイス】と呼ばれた存在が現れる。
 その姿は、ひげの大男だ。
 彼はブサやビヨの様な小者とは違う。
 その力を知ったピリオドにより牢獄に閉じ込められたれっきとした戦力だった。
 【アド・ヴァイス】の力は【素材変換】だ。
 その力を説明するのに、例えば、人間に例えて見よう――
 対象者Aと戦うとする。
 その対象者Aは戦う前に栄養としておにぎり3個、パン3個取っていたとする。
 【アド・ヴァイス】は攻撃を当てる事により、栄養として取っていたおにぎり3個を体から元に戻す力があるのだ。
 対象者Aは体からおにぎり3個分の栄養を抜き取られる事になる。
 おにぎり3個のエネルギーを使って与えたダメージなどは全て無効となる。
 同じように攻撃を再び当てればパン3個の栄養も抜き取られる。
 これは別に3個ずつというわけではないが、対象者は栄養を攻撃が当たるたびに抜き取られる事になるのだ。
 そのため、対象者は栄養失調、餓死という形で敗北する。
 【アド・ヴァイス】はそういう力の持ち主なのだ。
 【アド・ヴァイス】はピリオドの期待に応えるかのように幻霊族の力を根こそぎ奪い去って倒して行った。
 気づけば、【アド・ヴァイス】だけで幻霊族を全滅させていた。
 また、幻霊族からこそぎ落としたエネルギーを瀕死の状態だったジャンルに与える事によって、ジャンルは奇跡的に命を取り留めた。
 キャリアは
「あ、ありがとう」
 とお礼を言う。
 だが、続けて、
「だけど、良いの?倒したの、幻霊族よ」
 と言った。
 幻霊族の女王に取り入ろうという男が幻霊族を倒したのだ、大問題だろう。
 だが、意に介さないようにピリオドは、
「それはそれ、これはこれだよ。目の前に美しい女性が悲しんでいたらつい、手を貸してしまいたくなるのが私なんだ」
 と言った。
 やっている事はむちゃくちゃだが、ピリオドにとってはそれなりにポリシーがあるようだ。
 だが、それはピリオド側の理屈であって、それが幻霊族には通じない。
 ピリオドもまた幻霊族に喧嘩を売ったという事になるのだ。
 ピリオドの常識は世の非常識。
 例え、仮に、キャリア達に味方してくれるようになったとしても、敵側に美しい女性が居たらいつ寝返ってもおかしくないという事になる。
 信用に足らない男――それがピリオドであると言って良かった。
 だが、ジャンルを助けてくれた事には素直に礼を言わなければならない。
 味方にはなれなくてもとりあえずは一緒に行動する。
 ある程度の警戒は必要だが、表向きは味方としても良いかも知れない。
 キャリア達はそう判断した。
 ピリオドはまだ、幻霊族の女王に会うことを諦めていないようなので、とりあえず、幻霊族の女王の元に同行する事にした。
 女王と会った時、ピリオドがピンチになった時助ければ貸し借り無しという事で済むかも知れないという判断だ。
 それはそれとして、ピリオドが運んで来ている封凶岩の問題もあった。
 こんな危険極まりないものを幻霊族の女王に渡して良いのかどうかためらわれたのだ。
 この件に関わらないで行こうとしても、10億光年先にまで強い影響をもたらせるほどの強い呪力を持ったこの岩を野放しにすることなど出来ない。
 女王がどのような存在なのかはまだわからないので、安心して、第三階層以降の宇宙空間に進むためにもこの事を無視して進むわけにはいかなかった。
 キャリア達は、封印処理が施されている封凶岩をまじまじと見た。
 見れば見るほど禍々しい感じがする。
 物言わぬ、恐ろしさがにじみ出ている不気味な岩――
 不吉な予感がした。


第四章 幻霊族の刺客との戦い


 ピリオドが幻霊族の一部隊を全滅させたという噂は幻霊族の女王、カオロの耳にも届いた。
 ピリオドにやられた幻霊族達もただではやられなかった。
 しっかりとやられるに至った映像を女王の元に送っていたのだ。
 女王を目指して進むキャリア達の前に巨大な女王の顔が出現した。
 カオロは、
「貴様達が我々に逆らいし愚か者達だな」
 と言った。
 カオロの姿は禍々しかった。
 確かに美しい顔をしているが、巨大な首と体がそれぞれ独立している。
 大きな首を首無しの四つの体が支えていた。
 それがカオロの正体だった。
 こうなるとさすがのピリオドにとっても守備範囲外と言えた。
 ピリオドは、
「オーノー、残念……顔は確かに美しいが体が人型じゃなかったのか……」
 と言い、本当に残念そうな顔を浮かべた。
 カオロは、
「お前達は許さない。三名の刺客がお前達を殺しに行く。首を洗って待っているがいい……」
 と言った。
 どうやら刺客を雇い、キャリア達に仕向けるようだ。
 まもなくして、三つの影がキャリア達の前に顔を出す。
 この三名が女王カオロの放った刺客だろう。
 刺客達は真っ正面から現れた。
 どうやら正面からぶつかるつもりらしい。
 影達はそれぞれ、名乗りを上げる。
「お前達が女王陛下の怒りを買った愚か者達だな。僕の名前は【レイヤー】だ」
「私の名前は【ビルダー】」
「俺の名前は【ゲーマー】だ」
 と三者三様に戦いの相手として選んだ相手を睨む。
 【レイヤー】はキャリアを、
 【ビルダー】はフォールを、
 【ゲーマー】はピリオドを対戦相手として選んだようだ。
 それ以外のキャトラ達の相手はいつの間にか現れたのか有象無象の幻霊族の兵隊達が相手をするようだ。
 戦う相手も決まったところで戦いの火ぶたは切って落とされた。
 キャリアの相手は【レイヤー】だ。
 その名が示すように何かのコスプレイヤーのようだ。
 何かの真似をすることで、真似した存在の力を使うという能力者のようだ。
 フォールの相手は【ビルダー】だ。
 その名が示すように何かを作るという能力の持ち主のようだ。
 作った何かで攻撃するタイプの相手と言える。
 ピリオドの相手は、【ゲーマー】だ。
 その名が示す様にゲームにまつわる力を持つ能力者だろう。
 この三名は幽界の住民ではない。
 それぞれ、余所の宇宙世界から流れて来た賞金稼ぎの様な存在だ。
 恐らく、キャリア達同様にクアンスティータから逃げてきた連中かも知れない。
 幽界での立場を得るために賞金稼ぎとして、現地の有力者に取り入ろうという事なのだろう。
 刺客達にも戦う理由はある。
 だが、それはそれだ。
 こちらとしても引くわけには行かない。
 戦いを仕掛けてくるというのであれば、戦うしかない。
 負けるという事はその場での居場所を無くすという事と同じ意味だからだ。
 負けられない戦いが始まる。

 キャリアと戦っている【レイヤー】が何かのコスプレをする。
 だが、何のコスプレだかわからない。
 それを感じ取ったのか、コスプレイヤーとして、相手が何のコスプレだかわからないというは我慢出来なかったのか、自身が真似たコスプレの説明を始めた。
 それによると【錯覚者(さっかくしゃ)】という存在のコスプレだそうだ。
 【錯覚者】とは文字通り、錯覚を起こさせる存在の事だ。
 例えば人間は生きているだけで様々な錯覚などをしている。
 見た目が違う長さでも実際には同じ長さだった等の勘違いだ。
 そのようなある意味勘違いして見ている事なども多いのだ。
 それは生きていく上で必要な事ではある。
 人間は理解しやすい形などに変えて解釈することで勝手に思い込む事などもある。
 そのため、実際の有り様と結果が食い違う事もあるのだが、生命体が生きていく上で必要な錯覚を利用した勘違いなどを逆手に取った効果を与えるという力を持つという。
 見た目や認知などとは違う結果をもたらすので非常に厄介な力であると言える。
 キャリアが生きていく上で必要な事柄、認知を逆手に取っているため、無理なく惑わせているのだ。
 キャリアは、
「くっ……やりにくい……」
 と、とても戦いにくそうだ。
 フォールは【ビルダー】の作り出す物体と戦い、土刀で切りまくっていた。
 だが、それらは全ておとりでフォールがおとりと斬り合っている間に、別の何かを作っていた。
 本命はどうやらそっちらしい。
 作るのに多少時間がかかるのでおとりを出して相手をさせているのだ。
 何かを狙っているようだが、まだそれが何なのかはわからない。
 一方、ピリオドはいたって冷静だ。
 対戦相手の【ゲーマー】のプログラミング攻撃に対して、完全に見極めているような反応だ。
 【ゲーマー】は物体をプログラミングする事で自由に操る力を持っている。
 だが、その力をもってしても全くピリオドには届かない。
 【ゲーマー】は、
「お、お前、何か隠しているな?」
 と言った。
 対してピリオドは、
「何のことだい?」
 ととぼけた表情を浮かべている。
 【ゲーマー】は隙あらば、ピリオドが背後で守っている封凶岩を奪ってしまおうと考えていた。
 だが、ピリオドはその行動だけは許すまいと抵抗してくる。
 一般的な考えでは封凶岩は危険極まりないものだ。
 こんなものを背にして戦う事などあり得ない事なのだ。
 だが、ピリオドは安心しきっている。
 封凶岩は決して自分に害をもたらさないとわかりきっているかのようだった。
 【ゲーマー】は相手の行動を読み取るのに長けた存在でもあったため、ピリオドが隠している事を何となく感じたのだ。
 【ゲーマー】の動揺から、彼が本当にピリオドが隠している事に気づき初めている事を察知したピリオドは、
 パチパチパチ……
「どうやら、私とこの封凶岩の縁に気づき始めたようだね。褒めてあげるよ、私は男は滅多に褒めないんだよ。ご褒美に昔話をしてあげよう」
 と言って語り始めた。


第五章 古都百合の伝説


 ピリオドは、昔話を始めた。
 遠い遠いずっと遠い昔の話だ。

 ある時、美しい女性が居た。
 名前を【古都百合】と言った。
 封凶岩に封じられている古都百合の生前の姿だ。
 【古都百合】には特別な夫が居た。
 名前は不明だが、その夫には特別な力があった。
 夫は性行為をしてしまうと消滅してしまうという特異な存在であったが、妻である【古都百合】と二人の子供【古都薔薇(ことばら)】と【古都蘭丸(ことらんまる)】には1つずつ力を残した。
 夫は消えてしまったが、親子三人で慎ましく生活していた。

 そんな【古都百合】は時の帝に見初められた。
 だが、夫の事を愛していた【古都百合】は帝の求婚に対して決して首を縦にはふらなかったという。
 だが、どうしても【古都百合】を手元に置きたかった帝は、特別侍女として、宮中に迎える事にした。
 【古都百合】としても仕事をしなくては生きていけない。
 特別侍女としての役目を引き受けた。
 しばらくは平和な日々が続いたが帝の死と時を同じくして【古都百合】の立場は危うくなっていった。
 いつまでも若く美しい姿の【古都百合】を宮中の者が不気味に思うようになったのだ。
 そして、言われ無き迫害が始まる。
 何かと理由をつけては無理難題を【古都百合】につきつける宮中の者達だったが、【古都百合】は黙って対処していた。
 子供達の生活のためと思えば、どんな仕打ちにも耐えられたのだ。
 長い迫害が続き、ついに、【古都百合】の体にも異変が出始める。
 体がなまりのように重くなり体が醜く崩れ始める。
 ずっと毒を盛られていたのだ。
 それが、とうとう、【古都百合】の体をむしばみ始めたのだった。
 さらに不幸は続く。
 帝の天子二名が病で亡くなったのだ。
 その二名の死を【古都百合】のせいにさせられたのだ。
 【古都百合】は否定するが、ならば二名の天子を探し出して来いと新たな帝は命じたのだ。
 天子は亡くなっている訳だから、探してこいと言われても居るわけが無い。
 その居ない天子を見つけるまでは子供達にも会わせないと理由をつけ、【古都百合】の子供の【古都薔薇】と【古都蘭丸】をどこぞへと売り飛ばしたのだ。
 古都百合は、発狂しそうになり、
「大切な子供達なんです。返してください。返してください……」
 と訴えるが、宮中の者達は
「ならば天子二名を探し出して来い」
 と無理な注文をつけた。
 この事件を【六亡(ろくぼう)の悲劇】と呼ぶ。
 無くなった天子二名といるはずのない架空の天子二名、売り飛ばされた二名の子供を足して六名――その六名が古都百合の前から居なくなった事を指す。
 六芒星とは無関係だ。
 古都百合は探す。
 探す。
 探す。
 探しまくる。
 でも見つからない。
 どこにも居ない。
 居ない。
 居ない。
 居ない。
 どこにも見当たらない。
 途方に暮れる古都百合。
 知らず知らずの内に呪力がたまる。
 天子を探し続けて数億年。
 当時を知る者が全て居なくなっても古都百合は天子を探し続けた。
 帝の国はすでに滅びており、その系統家系がいくつか残っているという状況になっていた。
 時が経ち、その系統家系の一つに天子二名を連れた見目美しい女性が現れる。
 古都百合だった。
 古都百合の力はいつしか存在しない天子をも作り出せるほど強大になっていた。
 帝の系統家系の者達は、
「そのような事、預かり知らぬ」
 と古都百合をつっぱねる。
 その言葉がきっかけで幽界最強とされる悪霊が誕生する事になる。
 古都百合はとうの昔に体が朽ち果て、幽体となっていたのだ。
 古都百合は、
「返してください……返して……返せぇ〜……返せぇ〜……」
 と牙をむく。
 瞬く間に帝の系統家系を全て根絶やしにした。
 霊体については現界よりもポピュラーである幽界でも古都百合の異常さは際だっていた。
 たちまち危険指定され、幽界のそうそうたる面々が古都百合討伐に動き出した。
 古都百合の二人の子供、【古都薔薇】と【古都蘭丸】もすでに亡くなっているため、古都百合を鎮める事はもはや不可能と判断したからだ。
 幽界の実力者の連合軍が古都百合と戦う。
 だが、古都百合にとってはそれら全ては自分と子供達との再会を邪魔する存在にしか見えなかった。
 連合軍の数が増えれば増えるほど、古都百合の力も膨大に増えて行った。
 ついに古都百合と連合軍による大戦争が幽界で起きた。
 それは数百世紀にわたって続いたと言う。
 やがて、連合軍が勝利するが、その被害は甚大なものだったという。
 倒すまでに至らなかった古都百合は封凶岩に封じられ第六階層の宇宙空間に封じられたが、それでも呪いは消えず、数億光年先にまでその影響力が続いているという事だった。
 聞けば聞くほど恐ろしい話だった。
 【ゲーマー】は、
「ま、まさか……」
 とうろたえた。
 ピリオドは、
「そのまさかだよ。私は古都百合の息子、【古都蘭丸】の末裔だ。古都百合を求めているというから、てっきり幻霊族の女王ってのは娘の【古都薔薇】の子孫かと思ったんだけど、違ったみたいだ。残念だよ。本当に残念だ。子孫である私達以外が古都百合をどうこうする事は許さない」
 と言った。
 その表情は憎しみに満ちているようだ。
 女性に対してだらしない様に見えた時とはまるで別の存在のようだった。
 【ゲーマー】は戦慄する。
 まさか、自分が戦っている男が幽界全土を恐怖に陥れた古都百合の子孫だったとは夢にも思っていなかったからだ。
 【ゲーマー】は、
「お、俺は降りる」
 と逃げの姿勢だ。
 だが、そうは問屋が卸さない。
 ピリオドは、
「……もう手遅れだよ。君の物体にルールを詰め込んで【ゲーム】の様に操るという力は少々魅力的だ。取り込ませてもらうよ」
 と言った。
 と、同時に【ゲーマー】はカードに閉じ込められる。
 勝負はすぐについた。
 ピリオドは、
「さて、どうしたものか……幻霊族の女王は始末するとして……【古都薔薇】の子孫に対する手がかりは無しか……先が見えないな……」
 と言った。
 とりあえず、同行する事になったキャリア達の実力を見ておこうと遠巻きの位置に陣取り、彼女達の戦いを見学する事にした。
 瞳の奥に深い闇を持つ【古都蘭丸】の末裔、ピリオド・エンド。
 彼が何を考えているかはまだわからない。
 ピリオドは、
「古都百合様……貴女の無念は私達が晴らします。どうか安らかに……」
 と優しい表情を封凶岩に向けた。


第六章 VS幻霊族の女王カオロ


 フォールと戦っている【ビルダー】は巨大な存在を作り出して行く。
 見ると4、50メートルくらいはありそうだ。
 現界の神話の時代、暴れ回ったとされる化獣(ばけもの)の中で4番の番号を割り当てられたクルムレピタークという化獣は巨獣徒(きょじゅうと)と呼ばれる巨大生物兵器の勢力を持っていたとされる。
 その巨獣徒の中で最も数が多かったとされるゴブリックの体長がちょうどそのくらいだった。
 【ビルダー】は見よう見まねで、そういう巨大生物兵器を作りだそうとしていたのだ。
 巨獣徒の中でも最弱とされていたゴブリックですら、一吠えで山脈の形が変わるほどだったとされる巨大生物兵器の恐ろしさは、フォールも知っている。
 クアンスティータを筆頭とする化獣は単独では神御(かみ)や悪空魔(あくま)よりも実力が上でチームを組んで戦わなければ撃破は出来ないとされていた。
 悪空魔の僕であった使愚魔(しぐま)のフォールにもその恐怖は伝わっている。
 化獣は勢力を持つ存在とされており、24もの宇宙世界を所有するというクアンスティータは全くの別物として、ついで、クアースリータ、ルフォス、ティアグラが1つずつ宇宙世界を所有しているとされている。
 それ以外の9核の化獣は宇宙世界は持っていないが、それでも勢力を保存しておく、空間のようなものはもっていた。
 クアンスティータ誕生事件で9核の化獣よりも強いとされる存在は数多く出現した様だったが、勢力を隠し持てるというアドバンテージを持つ化獣の存在感は大きい。
 大きな力を得た今でも化獣とは戦いたくないという気持ちが強い。
 横道にそれたが、フォールは巨獣徒という巨大生物兵器に対して、潜在的な脅威を感じており、それを彷彿とさせる【ビルダー】の作り出す巨大な存在は彼の心を揺さぶった。
 少しではあるが、何となく怖いという気持ちがあるのだ。
 グゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォ……
 という音が聞こえそうだ。
 大きな物が動く様な感覚だ。
 それだけの威圧感を【ビルダー】が作り出す巨大な存在は持っていた。
 怖い。
 怖いが、これを乗り越えれば更に上に進む事が出来るとフォールは感じている。
「ふぅ〜っ……」
 呼吸を整え身構える。
 集中するは一点。
 巨大な存在を崩す一点だ。
 その一点をつけば、巨大な存在は崩れ去る。
 その集中を邪魔しようと【ビルダー】が作り出す有象無象の兵隊が波状攻撃を仕掛ける。
 それを器用によけながら集中する。
 そして……
「さぁっ……」
 というかけ声をあげ、得意の土刀で一閃する。
 フォールはくるっと後ろを向く。
「迷いは断ち切った。まがい物で俺はやれない……」
 と言った。
 その言葉が言い終わった時、【ビルダー】が作り出した巨大な存在が消滅し、同時に【ビルダー】も倒した。
 一瞬にして複数の存在を切りつける【超多居合い】を身につけたのだ。
 時、同じくして、錯覚者のコスプレに苦しんでいたキャリアも【レイヤー】を倒す事に成功していた。
 コスプレはコスプレ。
 本物ではない。
 本物の錯覚者であれば、もう少し苦戦したかも知れないが、本物よりも力が劣るためなんとか倒す事が出来た。
 だが、かなりの強敵であったと言えるだろう。
 キャトラ達も幻霊族の刺客を一掃した。
 結果、だれも欠員を出すこと無く、幻霊族の刺客を撃退したのだった。
 実はキャリアはもう少し、簡単に【レイヤー】を倒す事も出来た。
 そうしなかったのは、ピリオドの会話に聞き耳を立てながら戦っていたのだ。
 ピリオドの正体を気にしていた彼女は赤と緑の光体を盗聴能力の強化に当てていたのだ。
 そのため、背花変もどきであるこの二つの能力が使えず、黄色と青の光体を使って戦っていたため、攻撃バリエーションが減っていたのだ。
 最終的にはオレンジの光体で【レイヤー】の生体を読み取り、背中の突起物の結晶を放って倒したが思ったよりも時間がかかってしまったのだ。
 だが、苦戦はしたが、ピリオドの事情も聞けたという利点はあった。
 正直、女性にだけ優しいという男を信じるに値するか不安だったのだが、心に秘めている事を少し聞けたので信じても良いかと思うようになったのだ。

 だが、それをピリオドに話したりしない。
 彼はまだ、隠そうとしている。
 彼には彼の思うことがあるのだろう。
 幸い、フォールとキャトラには絆玉(ボンドボール)のつながりを通して、ジャンルとマドゥワスは自身が作り出したつながりがあるので、ピリオドには内緒で、こういう事情があるようだという事を感覚的に伝えた。
 ピリオドも自分達に隠し事をしているので、お互い様というところだ。
 一同が戦いを終えて集まった時、キャリアが、
「私の頭上にあるオレンジの光体はルーツなんかもたどる力もあるみたい……」
 とつぶやいた。
 もちろん、ピリオドに聞かせるためにだ。
 ピリオドが【古都薔薇】の子孫を探すなら封凶岩を通せば、探し出せるかも知れない。
 それにはもちろん、お互いの信頼関係が必要だけどと彼女は言いたいのだ。
 ピリオドは、
「………」
 と黙っている。
 キャリア達の動きに対して少し警戒し、少し考えているのだ。
 悪意が無いというのは感じるがならば何故という疑問で考えているのだ。
 キャリアは返事を待たず、
「とりあえず、幻霊族の女王の元に急ぎましょう。その後の事は事が済んでから考えるとして」
 と言った。
 キャリアはピリオドと一緒に【古都薔薇】の子孫を探す旅に出ても良いと考えている。
 どうせ、明確な目標は無かったのだ。
 旅は道連れ世は情け。
 目的を決めて、一緒に何かすれば見えてくる事があるかも知れない。
 フォール達も異論は無い。
 目的があった方が行動を決めやすい。
 その考えでは一致している。

 キャリア達は幻霊族の本拠地に乗り込んだ。
 刺客達の数は増し、次々と彼女達に襲いかかってきた。
 キャリア達は抵抗していたが、ある時、自分達の身に起きている異変に気づく。
 敵の数と敵の強さは増しているはずなのに、戦いはだんだん楽になっている。
 自分達が急成長しているという事なのか?
 いや、違う。
 何らかの加護がついている。
 それも強力な――
 それが何なのか――
 答えはすぐに思いついた。
 一緒に持ってきている封凶岩だ。
 これが、キャリア達に加護を与えている。
 この加護により、キャリア達の勢力は増し、敵は弱体化している。
 どうやら、封凶岩は彼女達を味方として認識してくれたようだ。

 女王の間にたどり着く。
 女王カオロが強大な呪力を解放する。
 すさまじい迫力だった。
 だが、明らかに、封凶岩からにじみ出してくる呪力の方が勝っていた。
 戦いにはならなかった。
 封凶岩を味方にしているキャリア達に逆らうだけの力が女王カオロには無かったのだ。
 ピリオドは、
「幻霊族の女王カオロ、貴女を幽閉します」
 と言って、プリズン・カードに閉じ込めた。
 幻霊族は一掃した。
 後はこの後、どうするかだ。


 続く。






登場キャラクター説明

001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 偽クアンスティータを産み出し、新たなる姿へと変わっていった。
 天使と悪魔の翼とエンジェルハイロゥは消え、代わりに、背中からは帯状のものから結晶を産み出す突起物が生えるようになり、頭上には赤、青、黄、緑、オレンジの五色の光体を持つようになる。
 赤と緑はクアンスティータの背花変(はいかへん)の劣化版万能細胞、青は逆浄化、黄色は浄化、オレンジは探知能力を持っている光体。
 エナジードレイン、封印術など、細かい成長などもしている。



002 猫神 キャトラ
キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼女にも影響する。
 キャリアによって、神の要素だけでなく、悪魔の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。


003 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
フォール
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼にも影響する。
 キャリアによって、悪魔の要素だけでなく、神の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。








004 聖魔(せいま)ジャンル
ジャンル
 キャリアの悪魔の要素を持ったサボータと天使の要素を持ったセラフィールの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている男性でもある。





















005 聖魔(せいま)マドゥワス
マドゥワス
 キャリアの悪魔の要素を持ったクルゥと天使の要素を持ったフクィンの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている女性でもある。





















006 ピリオド・エンド
ピリオド・エンド
 キャリア達と行動を共にすることになる謎の男性。
 見世物の戦闘をして生計を立てているプロバトラーであり、カードの中に自身のしもべとして召喚する囚人達を閉じ込める【プリズン・カード】を得意とする。
 幽界最強の悪霊とされる【古都百合(ことゆり)】の息子、【古都蘭丸(ことらんまる)】の末裔であり、【古都百合】の娘、【古都薔薇(ことばら)】の子孫を探している。
 女性に対しては親切だが、男性軽視である。
 自分はジェントルマンだと思っている。
 少々キザな性格。









007 古都百合(ことゆり)
古都百合
 幽界(ゆうかい)最強の悪霊とされる霊。
 生前は2人の子供、【古都薔薇(ことばら)】と【古都蘭丸(ことらんまる)】を愛する心優しき美しい女性だった。
 夫には先立たれたが夫から、自身と子供達に特別な力を一つずつ受け取っている。
 悪霊となった時、幽界全土を巻き込む戦争を起こしており、敗れてなお、消滅させるに至らなかった彼女は封凶岩(ふうきょうがん)という岩に封じられて第六階層の宇宙空間に放置される。
 が、それでも数億光年にわたって影響力を持つため、そこは封鎖されるに至っていた。 幻霊族が、封凶岩を制御する技術を確立した事により、第二階層の宇宙空間に運ばれる事になる。







008 女王カオロ
女王カオロ
 幽界(ゆうかい)の第二階層の宇宙空間で覇権を目指す一派、幻霊族(げんれいぞく)の女王。
 幻霊族は半身半霊体であり、肉体へのダメージも霊体へのダメージも半減するという特徴を持ち、器となりからだを変える事でダメージも回復するという厄介な存在。
 女王カオロは美しい顔を持っているが、巨大で、首から上が独立している。
 大きな首を四つの首無しの体が支えるという姿である。