第001話 光の星ルーメン 闇の星テネブライ


プロローグ

 神御/光の星ルーメン、悪空魔/闇の星テネブライ……
 この二つの星を無限ループでつなぎ閉じこめられた少女が一人いた。
 少女の名はキャリア。
 キャリア・フロント・バック――天使であり、悪魔でもある少女だ。
 彼女は地球圏からこのファーブラ・フィクタ星系へと流れ着いた。
 地球での居場所が無く、新天地を求めてやってきたのだ。
 だが、そこでも疎まれることになった。
 この星系で恐怖の代名詞ともなっているクアンスティータ。
 未来においては全ての世界はそのクアンスティータによって壊滅寸前にまで追い込まれると言う。
 聖も魔もその未来に恐怖し、その未来を変えようと動いていた。
 が、そこに、キャリアが加わる事によって、クアンスティータは更なる恐ろしいものへと変化するとされ、聖と魔が彼女を始末するために動き出したのだ。
 そこら中、敵だらけのルーメンとテネブライの二つの星に閉じこめられた少女は今日も生きる為に戦うのだった。

…………………………………………………………………………

「はぁ……少し、少しだけ休もう……」
 深傷を負ったキャリアはテネブライの中の魔の泉で休息を取ることにした。
 傷がみるみる回復していく。
 泉の力ではない。
 彼女の頭上に浮いている、ハート型のエンジェルハイロゥの力の影響だ。
 今までの彼女だったらとっくに消滅していただろうダメージも少し休めば、勝手に回復してくれる。
 それというのもFと名乗る男が彼女のエンジェルハイロゥに何かの力を送り込んだからだ。
 Fという男にとっては、彼女は生きてあがく事そのものが望んだ結果をもたらす事なのだろう。
 だからといって、Fが味方であるかというとそうとも思えなかった。
 まるでゴミを見るような目で彼女を見ていたからだ。
 Fは聖も魔も嫌いで、両方の資質を持つ、キャリアの事も嫌い――そんな印象だった。
 嫌いだけど、利用価値があるから生きる為の力を提供した。
 その気になれば、神御(かみ)や悪空魔(あくま)すらあっという間に一掃できる力をキャリアに与えられただろうに、あえて中途半端な力を提供したのだ。
 神御や悪空魔を引っかき回すのに丁度良いくらいの中途半端な力。
   そう――Fは調整しているのだ。
 彼の望む、クアンスティータの強化のために必要な調整を。
 だから、キャリアには神御や悪空魔を圧倒する力は与えられなかったのだ。
 現に、エンジェルハイロゥから供給されるパワーは激しく上下する。
 強い者にも弱い者にもそれなりに苦戦するようにパワーが調整されている。
 そうとしか思えない。
 絶対的なピンチを圧倒的なパワーで切り抜けたと思えば、下級な相手にも苦戦することもあったからだ。
 非常に不安定な力。
 圧倒的な力を秘めてはいてもいまいち信用出来ない力なのだ。
 何にしても、パワーだけに頼っていられないのも事実だ。
 何か特殊な能力でも得られれば少しは有利に事を運べるのにといつも思ってしまう。

 とにかく、そう遠くない内に、ルーメンとテネブライそれぞれで、円卓会議がある。
 そのどちらかにでも乗り込んで行って、直訴するしかないとキャリアは考えていた。
 ルーメンでは聖なる存在の頂点、真~(深~/しんじん)が、テネブライでは魔なる存在の頂点、超魔(頂魔/ちょうま)が参加するという。
 キャリアはトップに直談判してやるつもりでいたが、それには実力が全く足りていない。
 このまま行ってもトップと目通りすら叶わず消されるのがオチだ。
 意見を通すにはまず、力だ。
 相手と対等の力を持って初めて意見が通る。
 円卓会議までに、エンジェルハイロゥに込められた力を使いこなして乗り込むつもりだった。
 何で、こんな大胆な考えにいたったのだろう。
 本来ならば、絶対に叶わない事だ。
 身の程知らずの愚行と言っていいだろう。
 だけど、何故か、それが不可能じゃないようにも思えてしまう。
 真~や超魔すら怯えるというクアンスティータ……これに関わっているというだけで、妙な自信が出てくるのだ。
 相手は想像も出来ない程強い、神や悪魔達で数も把握出来ない程、存在する。
 しかも、円卓会議には他の世界の無数の神々や悪魔達も出席するのだ。
 対して、自分はたった一人。
 にも関わらず、あり得ない程の自信が湧いてくるのだ。
 まるで、圧倒的優位に立った位置から神や悪魔を見下ろしているような……そんな気持ちになっている。
 一溜まりもなく消されるではなく、神や悪魔でさえも全く相手にさえならないという余裕さえ感じるのだ。
 自分はどこか壊れているのではないか?
 そんな不安がある。

 だが、神や悪魔と敵対する不安は不思議とない。
 ルーメンとテネブライには神御とその配下の天上使(てんじょうし)、悪空魔とその配下の使愚魔(しぐま)の他にも神や悪魔の眷属達が刺客としてやってくるという事が解っても全然不安に思わない。
 むしろ、そんなに自分の事が怖いのか?矮小な奴らめとさえ、蔑んででしまいそうな自分がいる。
 自分には何かがある。
 それも神や悪魔を圧倒する何かが。

 それが、自分に分不相応な自信を与えている事は解った。
 だから、怖いのはその何だか解らないものであり、決して神や悪魔では無かった。

 考え事をしていたら、身体はすっかり回復した。
 キャリアは再び戦場に足を踏み入れるのだった。


第一章 VS使愚魔


 キャリアは魔の森に来ていた。
 そこには刺客となる使愚魔が待っていた。
 使愚魔――悪空魔の配下。
 地球圏で考えれば、使愚魔は、使い魔にあたる。
 一般的には、地球圏では天使の敵対者は悪魔であり、使い魔はそれより劣るものとして見られる。
 神と対等なのは邪神として考えられる。
 だが、このファーブラ・フィクタ星系では地球圏で言えば天使である天上使と対等なのは使い魔である使愚魔であり、悪魔である悪空魔は神である神御と対等の立ち位置として考えられている。
 その辺りが地球圏とファーブラ・フィクタ星系での考え方の違いだ。
 その為、聖なる者で言えば、天上使と対等の立場にある使愚魔もそれなりに力を持った魔である。
 天上使が特権階級の0級から12級までのランク付けがされているように、使愚魔も特権階級の0級から12級までのランク付けがされている。
 キャリアを待っていたのは9級使愚魔だ。
 ランク的には下から数えた方が早い。
 だが、この9級使愚魔のジャンクックには特殊の能力があった。
 他の使愚魔を喰らう事によって力と能力を増すという能力が。
 ジャンクックはキャリアを待つまでに仲間の使愚魔達を食らいつくし、強大なパワーと能力を得ていた。
「よぉ、お嬢ちゃん。俺はジャンクック。あんたを喰らって0級使愚魔にしてもらう男さ」
 ジャンクックは挨拶する。
 これから食べようと思っている相手に挨拶するのも変な話だが、9級から0級への昇格はジャンクックの野望でもある。
 それを叶えてくれる美味しいエサ(キャリア)を他の使愚魔と共有する必要はない。
 手柄は全部自分のもの――。
 魔の存在らしい、自分勝手な考えだった。
「このおびただしい血、あなた、仲間を食べたの?」
 予想はついたがキャリアは一応質問する。
「愚問だな。俺はエサを仲間と呼ぶ習慣はねぇな。とうぜん、あんたの事もな」
「情けをかけるような相手じゃないって事ね。良いわ。相手になってあげる。かかってらっしゃい」
「言われなくてもそのつもりさ、いくぜ、美味しそうな晩飯ちゃん」
 言うが早いかジャンクックは巨大化させた顎で食らいつこうとする。
 仲間を食べ尽くしたのはこの攻撃だというのは容易に想像がついた。
「その程度じゃ、私は倒せないわよ」
「解ってるさぁ、そんなことは……ただ、前菜喰ったからな。食後の運動だよ、運動」
「あら、そ。じゃあ今度はこっちから……」
「行かせねぇよ。今度もこっちだ」
 ジャンクックは何も無い空間から無数の大きな口を出す。
 どの口にも牙があり、獰猛そうな感じがする。
 その無数の口がキャリアを色んな角度から襲いかかる。
 が、それを器用に避ける。
 彼女がくぐってきた死線はこの程度のことなど、当たり前の様に避けられる程スキルアップさせていたのだ。
「へぇ……やるねぇ」
「たった一人で私に挑んだ勇気だけは褒めてあげる。でも、力不足よ」
「じゃあ、こんなのはどうだ?」
 不敵に笑うジャンクックが出したのは年端もいかぬ少女だった。
「助けて……お姉ちゃん……」
「何の真似?」
「くくくくく……あんたがそのまま食べられてくれれば、こいつを解放するって言ったらどうする?半分は天使ってやつなんだろ、あんた」
「………半分は悪魔なんだけど」
「半分ありゃ十分さ、あんたの行動次第でこのガキは助かる」
「私が食べられたからと言ってその子を助けるという保証はないわね」
「そうだなぁ、確かにそうだ……なぁんてな、隙ありぃ〜」
 少女だった者が大きな顎に変わった。
 顎を少女に擬態させていたのだ。
 間合いを詰められていたキャリアの左の肩口から大きな牙が食い込む。
「くくく、あんま、美味くねぇなぁ、お嬢ちゃん」
「そうでしょうね、それ、あなたのしっぽだし」
「なっ…ぎやあぁぁぁぁぁ、ば、バカな、何で俺が?」
 キャリアはジャンクックに幻覚を見せていたのだ。
 自分のしっぽをキャリアに見せる幻覚を。
 ジャンクックはキャリアを騙したつもりでいて、自分が騙されていたのだ。
「私もね、……パワーに頼るのをやめて、ちょっと小細工してみたの。やっぱり、そうだった。パワーに対してパワーで挑むと苦戦するけど、戦い方を工夫して戦えば、十分、余裕を持って戦える。じゃんけんの要素ね。グーはパーには弱いけど、チョキには強い。同じ事がチョキにもパーにも言える。それが解っただけでもあなたとの戦いは有意義だったわ。ありがとう。お礼を言うわね。でも、もう良いわ。あなたは、策を弄するにはバカすぎる。ここは闇の星テネブライでしょ。人間の子供が易々と来れる場所じゃない。と考えると何かあると思うのが普通でしょ」
「き、汚ぇぞ。罠にはめやがって」
「何が汚いよ。先に卑怯な手を使おうとしたのはあなたの方でしょ。そういうのを自業自得っていうのよ。それと、そんなんだから、あなたは9級止まりなのよ。むしろ、9級でも高位なくらいじゃない?弱すぎて話にならないわ」
「こ、殺してやる……」
「殺されるのはむしろあなたよ。さようなら。もうあなたの顔は覚えていたくないの。じゃあね」
「ぎゃぐっ……」
 一閃。
 光の力を使ってキャリアはジャンクックを真っ二つにした。
 彼女は闇の勢力には光の力、光の勢力には闇の力で対抗するようにしている。
 その方が敵に対して、大ダメージを与える事が出来るからだ。
 ジャンクックの絶命を確認した後、キャリアは飛び立つ。
「そろそろかしらね……」
 彼女はつぶやいた。

 そろそろ――
 それは、彼女の身体が、闇の星、テネブライから光の星、ルーメンへと移る時期を意味していた。
 彼女はそうやって一定の時間でテネブライとルーメンを行ったり来たりを繰り返しているのだ。
 テネブライでの戦いをある程度終えたキャリアは光の星、ルーメンでの戦いへとシフトチェンジしていくのだった。


第二章 VS天上使


 キャリアは光源の滝でテネブライでこびりついていた魔素を洗い落としていた。
 これからは、天上使との戦いが待っている。
 天上使には魔の力が有効だが、魔素をまとっていては、ルーメンでは逆にダメージを受ける。
 必要なのは自分自身の魔の部分のみ。
 それ以外の魔の要素はダメージを受けるだけ。
 光と闇の力を持つキャリアだけが、その微妙な戦い方を使い分ける。

 しばらく待っているとやがて天上使が現れた。
 8級天上使セセントだ。
「魔より邪悪な存在め。滅せよ」
「今度の相手はあなた?」
「我が名はセセント。貴様を消滅させる」
「悪いけど、消えるのはあなたの方。私はこんな所でやられる訳にはいかないの」
「黙れ、消えて無くなれ、ホーリーソード」
 光の剣で斬りかかる。
 キャリアは間一髪の所で交わす。
 髪の毛が数本持って行かれた。
「女の髪を切るなんて……高くつくわよ」
 どうやら、セセントは聖剣士のようだ。
 剣技の方はなかなかのものだ。
 一昔前のキャリアなら斬られていてもおかしくない腕だ。
 だが、彼女はルーメンとテネブライで腕を上げて行った。
 死線を何度もくぐり抜け、実力は驚くほど跳ね上がっている。
「バスターソード」
 セセントは新たなる剣を呼び出す。
 どうやら無数の剣を扱う事が出来るらしい。
 先に持っていたホーリーソードと合わせて二刀流の剣術でキャリアに怒濤の如く連撃を繰り返す。
 だが、全然、当たらない。
 戦いの途中でもキャリアは更なるスキルアップを果たし、見切りという点では戦う前とはまるで違う実力を身につけた。
「くっ、この……」
「ごめんね、あなた、もう敵じゃ無くなったわ」
「がっ……」
 非常の一撃がセセントの腹部を貫く。
 堅い鉱物へと右腕を変化させたキャリアが貫いたのだ。
 そして、そこから猛毒を流し込む。
 セセントはもがき苦しみながら息絶えた。
 非情である。
 だが、そうしなければ、再び、彼女を倒しにやってくるのだから。
 心を鬼にして、息の根を止めなくてはならないのだ。
 生き残るために彼女は戦う。
 殺さないと殺されるから。
 そんな残酷な状況に彼女は居る。
 仕方がない。
 心ではそう言い聞かせても心の奥では天使である部分が傷ついて行く。
 生き残るためにはたとえどんな事でもしなくてはならない。
 だが、自分が生きている事が周りの迷惑になるのなら生きている意味があるのだろうか?
 自問自答を繰り返しながら、彼女はひたすら戦い続けるのだった。
 光源の滝から場所を移し天輝(てんき)の森の奥へと進む。
 光に包まれたこの世界はあちこちから神の威光の象徴、光が差し込む。
 森の奥深くと言えども、その例外にあらず。
 光は平等に降り注ぐ。
 ただ、その光もキャリアに対しては寛容ではない。
 容赦なく、次なる刺客を差し向ける。
 今度は勇騎士セイバースだ。
 とある星での武勇伝が評価された彼は寿命を全うした後、転生して、このルーメンでキャリアを襲う新たな刺客としての使命を受けた。
 ドキュウン!
 銃声が鳴る。
 彼は、騎士であり、狙撃手でもある。
 生前はライフルが彼の愛銃でもあったが、今の彼は銃型の宝具、射石(しゃせき)の使い手でもある。
 特殊効果を持つ、力宝石(りょくほうせき)を弾にして、撃ちはなつ。
 この天輝の森は力宝石の産地でもある。
 弾はそこら辺にいくらでも転がっているのだ。
 ドン、ドオン、ドン、ドン、ドン
 弾を込めては撃ち放ち、また弾を込めてはキャリア目がけて狙いを定めていた。
 力宝石も種類がある。
 種類によっては効果が変化する。
 セイバースは力宝石の効果を熟知している。
 ここは彼の庭のようなもの。
 ここに居ては、キャリアが倒されるのも時間の問題だった。
「くっ、しつこい男は嫌われるわよ」
「だまれ、悪魔女め、天に代わって成敗してくれる」
「私は天使でもあるのよ」
「貴様は天使などではない。穢れた悪魔だ」
「天使よ」
「悪魔だ」
 キャリアは天使でもあり悪魔でもある。
 どちらにも認めて貰いたいのにどちらからも認められない。
 そういう心の傷の痛いところをセイバースはついてきた。
 カチンと来たキャリアは容赦がない。
 テネブライから持ち込んだ魔石をホーリーオーラで包みこみセイバースに投げつける。
「バカめ、弾を投げてよこすとは……」
 魔石を力宝石と勘違いしたセイバースはそれを射石に込めて撃つ。
 ゴギャッギャギャギャギャギャンッ!
「ぐわぁぁあぁぁぁぁあっ」
 射石が暴発し、セイバースにダメージを与える。
 ルーメンには無い魔石を力宝石と勘違いした彼のミスだ。
「バカはあんただったようね」
 苦しむセイバースの背後から悪魔の翼による斬撃を喰らわせる。
 セイバースは真っ二つとなり胴と腰が切り離された。
 トドメとばかりに、赤い翼の羽根を無数、彼の全身に突き立てる。
 セイバースはそのまま絶命した。
「ふぅ。……ちょっとは休ませてよね」
 キャリアは戦いの影響で倒れた木の切り株に腰をおろした。
 が、続けざまに、新たな刺客が顔を出す。
 下級神ドルユーロだ。
 下級とは言え、今度は神だ。
 簡単には倒せない。
「死ね、因果律を狂わせる悪魔よ」
「死んでたまるか。私は生きる」
 ドルユーロは天輝の森の土地神でもある。
 この土地のものはドルユーロの好きに出来る。
 回りの木々があり得ない方向にくね曲がる。
 至る所に落とし穴が出現し、空に逃げるしかなくなる。
 逃げる場所へ無数の葉っぱが雨の様に降り注ぐ。
 たまらないと逃げるが、逃げても逃げても追っ手がやってくる。
 やっと振り切ったと思ったら、ルーメンでの時間が終わる。
 再び、闇の星、テネブライでの戦闘が待っている。
 キャリア――
 彼女はそんな苦しく辛い戦いの日々を過ごしていた。


第三章 仲間


「はぁはぁ……くっ……」
 傷口を押さえながらうずくまるキャリア。
 ここまで連戦につぐ連戦で疲労もピークに来ていた。
 精神的にも限界でこのまま殺されてしまおうかとも考えていた。
 だから、襲って来た使愚魔の群れにも無抵抗でなすがままにダメージを受けていた。
 それを見かねてか、突然、現れたFが使愚魔の群れを一掃し、結界を張った。
 ここには、使愚魔は入って来れなかった。
「……使えない女だな……もう、降参か?」
「はあ、はあ、はぁ……」
 声にならない。
 答えるべき答えも用意出来ない。
 答えがない。
 自分は何がしたいのか、何をするべきなのか、何を守りたいのか、何も解らない。
 そう、自分には何も無いのだ。
 生きて苦しむか、死んで楽になるか、キャリアにとっては等価値だった。
「仕方ねぇ……お前に希望を作ってやる。この結界、お前も張れるようにしてやる。一日に四時間だけそのエンジェルハイロゥから結界を張れるようにしておく。四時間ぶっ続けでも、二時間ずつでも何でも良い、休みたい時、四時間だけ休める。神や悪魔は入って来れねぇからな。それともう一つ、お前は孤独を恐れている様だ。仲間を作れる様にしてやる。神側に三体、悪魔側に三体ずつ仲間に出来る珠を置いておく。もちろん、神側のやつはルーメンで悪魔側のやつはテネブライでしか出せねぇ。出られない内は珠の中で眠っていることになる。どいつを仲間にするかはてめぇの勝手だが、あんまり弱えぇ奴を仲間にすると後が辛いぞ。考えて仲間にしろ」
「な、何がしたいの、あなたは……?」
「クアンスティータを最強の形で産み出したいだけだ。その後世界をどうするのかはクアンスティータの判断に任せる」
「クアンスティータって……」
「俺の最愛の娘の魂を受け継ぐ史上最強の怪物だ。誰にも倒せねぇ。もちろん、俺にもな」
「そんなのを産みだして何がしたいの」
「この世界の為に犠牲になった娘の代わりにこの世界を好きな様にさせる……それだけだ。他に他意はねぇ」
「悲しい瞳……不幸なひと……」
「俺は人じゃねぇ。てめぇも同情なんかするな。まず、自分が生き残る事に集中しろ。じゃあな、また、気が向いたら見に来る」
「うそ……あなたは常に私を見ている……じゃなきゃ、すぐに助けに何か来れなかった」
「好きに思え」
 それだけ言うとFは再び消えた。
 キャリアはつかの間の休息を取るのだった。
 一日に与えられた4時間という時間を死んだように眠る事に使った。

 たっぷり四時間結界を張ってしまったから今からまる一日は結界が張れない。
 それまでは生き延びるしか無かった。
 次なる敵がすぐそこまで迫っている。
 結界を張っている内にテネブライからまたルーメンに移ったようだ。
 次の敵は聖者ローだ。
 生前、救世主と崇められた偉大な男がキャリアの前に立ち塞がる。
 キャリアは手元に残された6つの珠、絆玉(ボンドボール)を見た。
 Fは言った――
 仲間を作れる珠だと。
 だとすれば、このローを仲間にする事も可能だと言うことだ。
 ローの攻撃を避けながら考える。
「神の為、礎となるがよい下郎」
 が、仲間にするには性格の不一致が感じられた。
 仲間に出来るとは言っただ、一緒に居て楽しくない者と一緒に居ても苦しいだけではないか。
 どうせなら、一緒に居て楽しい、安らげるような相手と一緒にいたい。
 そう思うのだった。
 だから、目の前の相手、ローはそれには不適格者だ。
 もっと、好きになれる、友達になりたいと思える相手じゃないと嫌だ。
 じゃないと、苦痛だ。
 生きる希望を持てない。
 キャリアはローとは敵対する事に決めた。
 そして、その勢いのまま、ローを倒すのだった。
 フッと見ると、物陰に誰か隠れている。
「誰?」
「ひっ……殺さにゃいで……お願い」
 見ると、気の弱そうな獣人らしき女の子が震えていた。
 猫の獣人、猫マタ、化け猫、そう言った類だろうか。
 だが、何故、聖なるルーメンに?
 正解は獣人ではなく猫の女神だった。
 神話によっては獣の神も存在する。
 彼女は猫の神でもあった。
「名前は?」
 キャリアは訪ねる。
「お願い……命ばかりは……」
 命乞いをする女の子。
 キャリアは池に映った自分の顔を見た。
 返り血でドロドロだった。
 禍々しくも見える。
 キャリアは池で顔を洗って、ボンドボールを一つ差し出した。
 怯えている姿が自分にダブったのだ。
 どうせ仲良くするなら、こういう相手が良い――
 そう思った。
 戦力としては全然頼りないが、心の安らぎは与えてくれそうだ。
 そう思った。
 猫神の女の子は恐る恐るボンドボールを手にした。
 すると、
「あちしの名前はキャトラ。にゃかまにしてくださいにゃ」
 と言った。
 どうやら仲間にして欲しいという事らしい。
「よろしく。私はキャリア」
「よろしくにゃん」
 産まれて初めての仲間だった。
 素直に嬉しかった。
 猫の様にじゃれついてくる姿もたまらなく愛おしかった。
 やり直しは出来ない。
 彼女を仲間にした事が吉とでるか凶と出るかは解らないが、とりあえず、少し安堵した。
「よーし、やるにゃん」
 背中を預けられる仲間がいると居ないのとでは安心感が雲泥の差だった。
 ひとりぼっちの時は常に背後から狙われないかとビクビクして過ごし、それを敵に悟られないように平静を装うのも更にストレスを感じていた。
 クールに決めていても内心は常にオドオドしていたのだ。
 だが、背中を守ってくれる仲間がついたということはそれだけ精神的に余裕が出来るという事でもあった。
 いつ、裏切られるかも知れないと言う恐怖、仲間を守らなくてはいけないという使命感、この仲間というのはアイテムを使ったかりそめのものだという後ろ暗さは無いとは言えないが、それでも心強くあることが出来る事はキャリアにとってありがたかった。
 事実、まだ、仲間のいない闇の星テネブライでの戦いでの疲労度に比べ、光の星ルーメンでの戦いは半分、いや、三分の一くらいの疲労度ですんでいた。
 だからこそ、テネブライでの戦いでも仲間となる存在を探すのに必死だった。
 この存在はタイプではない。
 あの存在は違う……などとやっていく内に、もしかしたらという相手もやっと出てきた。
 実に、ルーメンとテネブライのループを8回繰り返した後のやっとの出会いだった。

 その男の名前はフォール。
 はぐれ使愚魔である彼のランクは最低の12級になっている。
 だが、その実力は4級と6級の使愚魔を瞬殺出来る程あった。
 フォールは他の使愚魔と共に、キャリアの元に現れた。
 キャリアの首を取り昇格を狙う他の使愚魔と違い、彼はキャリアとの一対一の真剣勝負を望んだ。
 当然、他の使愚魔の反発にあうが、彼は我を通し、他の使愚魔に命を狙われる事になった。
 大勢で一人を狙うというやり口が気に入らなかった彼は、自らが傷つこうとも一対一の戦いを望んだ。
 結果、彼一人で、他の使愚魔達を倒した。
 その上で、キャリアに挑んできた。
 それこそボロボロの身体で。
 結果、キャリアが勝負には勝ったが、万全の状態だったならば、彼女は負けていただろう。
 そして――
「生き恥はさらさん、殺せ」
 との一言が彼に潔さを感じ、好意を持てた。
 彼女はフォールの命を奪わず、代わりにボンドボールを手渡した。
 そして、念願のテネブライ側の仲間第一号となってもらった。
 フォールは鬼型の戦士だ。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプだ。
 この土刀がくせもので、フォールの邪気をすって様々な形に変化する。
 その変幻自在の刃の波状攻撃にはキャリアは何度も死を覚悟した。
 敵に回せば超強敵だが、味方になってくれれば、これほど、心強い相手はいない。
 こうして、キャリアはルーメン側とテネブライ側、両方に信頼のおけるパートナーを得ることができたのだった。


第四章 ルーメンの動きとテネブライの動き


 心強い仲間を得たキャリアはルーメンで2時間の休憩を取るためにエンジェル・ハイロゥから結界を張った。
 その間、ミーティングとして、キャトラと話す事にした。
 また、結界内では属性が中性となっているため、ボンドボールを通して、テネブライの属性であるフォールとも話す事が出来る。
 つまり、三人で話してみようという事になったのだ。
 簡単な自己紹介とプロフィールなどをそれぞれ話した後、キャリアはキャトラとフォールにルーメンとテネブライの事で知っている事があれば教えて欲しいと言った。
 すると、キャトラは――
「わかったニャン、あちしの解る範囲で教えるニャン」
 といい、フォールも――
「よかろう、俺も自分の解る範囲で答えてやる」
 と言ってくれた。
 時間は二時間しかないので、あまり詳しく聞いている時間はない。
 残る二時間は完全休息にしないと体力的にも持たないため、今日一日では二時間のミーティングが限界だった。
 まず、ルーメンの情報では、ルーメンを支配する神御(かみ)々(がみ)がホスト、ホステスとなり、全宇宙から様々な神話の王である王神(おうじん)達を招こうとしているらしいという情報だった。
 その中には皇帝神(こうていしん)である帝神(みかどがみ)などもいて、まさに神々のサミットと呼んで良いものが近いうちに開かれるとのことだった。
 噂では神々のトップである真~(深~/しんじん)も降臨するかもしれないとまで言われていた。
 正直、Fからある程度円卓会議のようなものがあるとは聞かされていたが、改めてもっと詳しい情報として聞けた。
 議題は最強の化獣(ばけもの)クアンスティータについて話し合われるという事だ。
 この事はつまり、キャリアにも関係する事に他ならなかった。
 何しろ、このルーメンとテネブライの無限ループに彼女が捕まった理由は彼女がクアンスティータを最強状態で誕生させる為の因果律を持っているからだ。
 人知れず、彼女を抹殺して、クアンスティータを最弱の状態にしたいらしい。
 最弱の状態だろうが、なんだろうが、クアンスティータという化獣は神と悪魔が総出でかかっても全く歯が立たない存在らしいが。

 次に聞いたテネブライの情報でもルーメンの時と同じような状態だった。
 テネブライの支配者、悪空魔(あくま)達がホスト、ホステスとなり、全宇宙の邪神、悪魔などの王である禁邪神(きんじゃしん)、超魔神(ちょうまじん)、絶対魔(ぜったいま)等を招き、サミットが行われる予定だという。

 二つの話に共通しているのは神と悪魔が結託して、クアンスティータを押さえ込もうとしているらしいという事はキャトラとフォールの話から推測がついた。

 どちらも極端に、クアンスティータが世に出るのを恐れている印象があった。
 神経質なくらいに、クアンスティータの刺激になりそうなものは徹底排除しようという動きが見て取れた。

 そう、その一つとして、ルーメンとテネブライの刺客も一度にキャリアを襲える数は制限されつつあるのだ。
 たくさんの刺客が出向けばそれだけクアンスティータの刺激になると考えて、一度に100柱(100体)までの刺客に数を縮小させる動きがあるという。

 となると、量より質。
 これからの刺客は雑魚がたくさんくるのではなく、それなりに腕に自信がある猛者達が来るという事は予想できた。
 また、今はキャリア(達)の体力を奪うために、毒にも薬にもならない敵を用意して絶えず送り込んでいる状態で、準備が整い次第、本格的な刺客が送られてくるという情報も得られた。

 本格的とは神御の刺客で言えば、上位の天上使達がまず、考えられる。
 1級と0級の天上使達はその忠誠と引き替えに、神御の力を超える力を与えられているという。
 同じ事は対なる存在の使愚魔にも言える。
 1級と0級の使愚魔は悪空魔よりも強大な戦闘能力が与えられているという。

 もちろん、刺客とはそれだけではない――

 神御よりも位こそ下だが、神御よりも高い力を与えられている如真(にょじん)、
 悪空魔よりも位こそ下だが、悪空魔よりも凶悪な力を与えられている化深(けしん)、
 この二つも動くための準備に取りかかっているという。

 天使と悪魔であるキャリア一人を狙うにしては強大過ぎる戦力だった。
 まともに戦えば、彼女など一溜まりもなく殲滅されるだろう。
 それでも、それらが動く準備をしているという事実はクアンスティータという存在の名前のでかさを物語っていた。

 キャリアはキャトラとフォールにFとの出会いとこれまでのいきさつを話した。
 結局のところFという者が何者であるかは解らないが、恐らく、神々や悪魔達でも手が出せない程強大な力を秘めた存在であることは伝える事が出来た。
 事実、Fから与えられた結界の中には、キャリアが味方と認めた存在以外は入れないという事からも、Fは神々や悪魔達以上の力を持っていることが証明されていた。

 2時間ぎりぎりいっぱいのミーティングで、ルーメンの方にもテネブライの方にも続々と手強い刺客が集まってきているという事も解った。
 絶望的な気分にもなったが、状況を完全に把握した上でないと改善はしない。
 臭い物に蓋をしたままではなにも解決はしないのだから。
 その意味で言えば、一歩前進と言って良いミーティングだった。

 ミーティングで気疲れしたのか、二時間休憩を延長して、キャリアは死んだように眠った。
 まるで、これは悪い夢だ。
 夢なら覚めて欲しいとでも言うかのように。
 何にしても四時間経ったらまた、丸一日、戦い続けなくてはならない。
 全ては生き残るために。
 キャリアは夢の中で何度も殺される夢を見た。
 ルーメンでは神御に、天上使に、まだ見ぬ刺客に……
 テネブライでも悪空魔に、使愚魔に、まだ見ぬ強敵に……
 何度も何度も殺され、気づくと再び、三度、四度、戦い続けるという悪夢の連鎖だ。
 死んでも楽にはならずに、Fに死の淵からたたき起こされ何度も命がけの戦いを続けされられるのだ。
 どこまでが夢で何処までが現実かも解らない。
 並の人間だったらとっくに発狂しているだろう。
 終わることのない無限の戦地獄(いくさじごく)――
 彼女はそのまっただ中にいるのだ。

 そして、彼女は起きて戦い始める。
 悪夢は終わらない。
 いつまでも……いつまでも……


第五章 VS聖女パレス VS魔女ジュジュ


 キャトラとフォールから聞いた神と悪魔の事情はショックだった。
 自分の手に負えるようなレベルではないと絶望感がキャリアを襲う。
 だが、そのまま絶望感だけに支配されてむざむざと殺される訳にはいかない。
 それに僅かだが希望もある。
 Fが与えた力だ。
 彼は彼女に生き残るギリギリの力を与えている。
 だから、苦しみはするが、彼女には生き残るだけの力が備わっている筈なのだ。
 どんなに苦しくとも危険を突破する力が秘められている筈なのだ。
 後は、その隠された状態の答えを見つければ、おのずと生き残れる筈なのだ。

 それを信じて彼女は今日も戦いを続ける。
 そんな、彼女とキャトラの前に立ち塞がった刺客は聖女パレスだった。
 よっぽど、自信があるのか、彼女の仲間は十把一絡げの雑魚ばかりだった。
 案の定、あっという間に片付けた。
 残すは彼女一人のみだった。
 今まで戦って来て一番手応えの無い敵だった。
 だが、それに対して、パレスの顔は余裕だった。
 倒されてもどうという事もないという表情だ。
 こういう場合は逆に警戒した方が良い。
 普通の世界ではなく、ここはルーメンなのだ。
 何かしら凄い特技を持つ者しか存在を許されない。
 ここに存在しているという事はそれだけ、何か凄いものを一つ以上持っているはずなのだ。
 だとすると、彼女の仲間のつまらなさが逆に不自然だった。
「ららら………」
 パレスは歌い出す。
 天使が歌ったかの様な美しい美声だ。
 歌詞は無いが、半分天使であるキャリアがどういう歌なのかは理解出来た。
 神に不甲斐ない仲間の代わりに頼りになる仲間をお与え下さいという祈りの歌だ。
 すると、倒された、パレスの仲間の遺体が全て消滅した。
 代わりに見るからに先ほどの仲間までとは実力が段違いだと解るような屈強な戦士達が現れた。
 彼女は歌う事により、強力な仲間を召喚出来るタイプの聖女だったのだ。
 一度に100名までしか攻撃に参加出来ないというので有れば、パレスが歌う事によって、いくらでも100名以内で仲間を送り込めるのだ。
 彼女の余裕の表情にはそういう秘密があったのだ。
 それでも経験を積んだ、キャリア達は新たな刺客を全滅させたが、そこで、また、パレスが歌い、更なる刺客を召喚した。
 それも倒しても、さらにまた召喚の歌を歌った。
 彼女を倒さない限りイタチゴッコが続くと判断した、キャリアとキャトラはターゲットをパレスの仲間達からパレス自身に変更、彼女を倒すために彼女に向かっていったが、彼女には壁となって立ち塞がる仲間達が邪魔をして、彼女にたどりつけなかった。
 そうこうしている内に、ルーメンでの時間はタイムアップとなってしまった。
 時間内に刺客を倒せなかったのは久しぶりだったので、キャリアは歯噛みした。

 舞台は移って、テネブライでキャリアとフォールを待ちかまえていたのは魔女ジュジュだった。
 彼女も召喚タイプだった。
 ジュジュが引き連れて来た仲間は大した事は無いが、彼女は踊る事で発散する汗によるフェロモンで彼女に従う下僕が後から後からたくさん湧いてくる。
 倒しても倒しても、倒された仲間をエサに、より強力な怪物達が新たな刺客として、キャリアとフォールの前に立ち塞がる。
 方法などは別だが、タイプとしては聖女パレスの時と全く同じ状況だった。
 これもきりがない状況に追い込まれ、やはりタイムアップまで、戦わされた。

 戻って来たルーメンでは生き残っていたパレスが仲間達と攻撃を仕掛ける。
 こうして、ルーメンではパレス、テネブライではジュジュによる、しつこい、連続攻撃が続けられた。
 たまらず、結界を張ったキャリアだが、内心はかなり同様していた。

 倒せなくなってしまっている――
 ルーメンでのパレス、テネブライでのジュジュによる挟み撃ちにあい、悪戯に体力が消耗されていく。
 不安でどうしようもないキャリアに声をかけたのはフォールだった。
「これで、次はけりをつけられる」
「え?どういう……?」
「言葉の通りだ。次で決着をつける。結界を張ったのは良い事だ。次は勝てる」
 との事だった。
 意味が解らない。
 何故、次は勝てると言えるのだろうか?
 戦いが始まってもたくさんの仲間に邪魔をされて、パレスやジュジュに近づけないのに――
 それなのに、勝てるとフォールは断言した。
 意味も解らずいると――
「おい、猫、そっちは任せたぞ。俺のやり方を見て、同じようにやれ。お前のスピードが有れば、可能な筈だ。」
「鬼さん、解ったニャン、こっちもうまくやるニャン」
 フォールとキャトラはお互い納得したようだった。
「キャリア、俺が良いと言ったタイミングで結界を解け」
「わ、わかった」
「少し、まて……今だ」
 キャリアはフォールの合図と共に結界を解く。
 すると辺りが一瞬でバトルフィールドと化す。
 だが、予想より早く結界が解けたため、ジュジュは油断していた。
 その一瞬の隙をついて、フォールは一気にジュジュとの間合いを詰め彼女の首を落とした。
 ――ポトンッ――
 彼女の絶命と共に、召喚されていた怪物達は散り散りに去っていく。
 頭となっていたジュジュが無くなった為だ。

 何故、勝てたか?
 それは、今まではルーメンとテネブライとのループを時間毎に繰り返していたため、迎える側であるパレスやジュジュはキャリアが来るのを待ちかまえる事が出来たのだ。
 だが、結界はキャリア自身が張ったもの。
 この結界を解くタイミングはキャリアが決められる。
 パレスやジュジュは当然、結界のタイムアップとなる時間ギリギリを予想する。
 だから、早く結界を解けば、迎え撃つタイミングが一瞬遅れる事になる。
 相手が準備を整える前に間合いを詰めて、司令塔になっていたジュジュを抹殺すれば良かったのだ。
 同じ方法で、キャトラはパレスの首を裂いた。
 同じ様な敵だったため、同じ様な攻略法で何とかなったのだった。
 キャリアはこの時、初めて仲間を持つ事の頼もしさを知るのだった。
 ルーメンではパレスに召喚された仲間は去らなかったが、キャトラと協力して、残ったパレスの仲間達を倒していった。
 協力する事によって、勝てた、チームプレイによる勝利だった。
 キャリアは残りの時間、結界内でぐっすり眠る事が出来た。
 何度も殺される悪夢を見ることも無く、安らかな眠りにつけた。


第六章 聖魔獣と堕天上使


 聖女パレスと魔女ジュジュを退けたキャリア達に対して次に立ち塞がったのは同じ様に対照的な立場の存在だった。
 まずは、ルーメン――
 キャリアとキャトラの前に現れたのは聖なる魔獣、エルデスだった。
 元々はテネブライの魔獣だったが、神と悪魔の協定により、交換居住した魔獣がエルデスだった。
 その後、聖なるエネルギーを浴びて、存在変換が行われ、聖魔獣エルデスという新たな生命となった。
 改心した聖魔獣の力は強力で、単独での挑戦にもかかわらず、彼女達を苦しめた。
 何しろ、今までは、キャリアの魔の部分による攻撃でルーメンの刺客に対して大ダメージを与えていたが、元々が魔である聖魔獣には大して効果が無いのだ。
 エルデスは戦いの邪魔になるからと言って仲間を引き連れて来なかったが、言うだけはあり、近くの木々をなぎ倒し、大岩を破壊し、山を切り崩す暴れぶりにキャリア達はたじろいだ。
 再び時間切れとなり、テネブライでキャリアとフォールを待ちかまえていたのは堕天上使ジャマーだった。
 元々は、天上使だったが、罪を犯し、テネブライへと追いやられた堕天上使で、ルーメンへの復帰をかけて死にものぐるいで向かって来た。
 図らずもテネブライからルーメンに来たものとルーメンからテネブライに来たものとの連続した戦いとなった。
 やはり、元々が天上使だった、ジャマーにはキャリアの聖なる部分での攻撃も半減となっていて、決定的なダメージを与えられずにいた。
 考えてみれば、ルーメンとテネブライでのバトルを繰り返すので、ルーメンで起きた問題とテネブライで起きた問題を交互に解決していかないと行けない状態なのだ。
 全く落ち着かない状態でもある。
 どちらかで問題を抱えれば、もう一方にもその問題を引きずる事になりうるし、それが両方で発生したら、軽くパニックになりかける。
 片方だけじゃなく、もう片方もなんとかしないといけないとテンパッて、逃げ所が無くなってしまう。
 そして、結界に閉じこもるしかなくなって、追い詰められる。
 パレス、ジュジュの時と同じ様な状況だった。
 だが、今回は対処法がそれぞれ、異なった。
 まずは、聖魔獣エルデス――
 これは、キャトラが提案し、ルーメン側の仲間にしようという事になった。
 キャトラが押さえ込み、その隙にキャリアがボンドボールを口に放り込むというものだった。
 倒すのが困難な相手ならば仲間にしたらいいという発想だった。
 対して、ジャマーには――
「向こうが一人で来ている以上一人で戦う」
 とフォールはジャマーとの一騎打ちを望んだ。
 結果、ジャマーは他の刺客を隠していて、隙を見て討つつもりだったらしく、一歩引いていたため、それにいち早く気づいた、キャリアはその刺客を倒して行った。
 隠れていた刺客をキャリアが倒してしまったため、わざと隙を作り、チャンスと思わせて、隠れていた刺客がフォールを討つつもりいたジャマーは予定が狂った。
 そのため、わざと作った隙が仇となり、フォールにあっさりと倒されてしまった。
「愚弄するな」
 とフォールは怒り狂っていたが、それは、ジャマーに対するものである。
 仮に、ジャマーを仲間にしたとしても仲違いは避けられなかっただろう。

 一方、聖魔獣エルデスの方はなかなか押さえ込めるような状態ではなかった。
 滅茶苦茶に暴れ回るので、捕らえられない状況が続いた。
 ジャマーの方はかたがついたので、次の敵が現れたが、エルデスの方は捕らえる事が出来ずに右往左往する状況がしばらく続いた。
 そうこうしている内に、聖魔獣エルデスは自らの攻撃を受けて自爆してしまった。
 エルデスの方は敵と戦うつもりでいたのに対し、キャリアとキャトラが捕獲しようとして動いていたため、偶然、予定としていた攻撃を自ら受ける結果になってしまった。
 要するに、トラップに自分で引っ掛かってしまったのだ。
 絶命するエルデス。
 仲間にしようと動いていたのに後味の悪さだけが残った結果になってしまった。
 やはり、無理矢理仲間にしようとしても反発を招くだけだという事が身にしみてわかった。
 簡単には仲間は増やせない。
 この相手とならという運命の糸が絡んでこないと仲間というのはすぐには作れないものなのだなと思うキャリアだった。
 仲間はいまだに、キャトラとフォールだけ。
 敵は後から後から湧いてくる。
 キャトラにしろ、フォールにしろ、これだというインスピレーションが湧いたので仲間になって貰えたのだ。
 誰でもかれでも仲間には出来ない。
 今日もまた、新たな刺客がやってくる。
 だが、本格的な刺客はまだ現れていない。
 神御も悪空魔もまだ本気になっていないのか?
 それともクアンスティータが怖くて上手く動けないのか?
 それはわからない。
 神御と悪空魔の本拠地に乗り込んで、確かめてやるだけだ。
 キャリアはそう思うのだった。

 これまでも神御と悪空魔の刺客の多くの血が流されて来た。
 これからもそれは増え続けるだろう。
 それを黙って見ている影が一つ。
 Fだ。
 彼はじっと、時が来るのを待っている。
 クアンスティータが最強の化獣として誕生するその日を。

 続く。 

登場キャラクター説明


001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 地球での居場所が無く、新天地を求めてやってきたが、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータを更にどうしようもないレベルに引き上げる最悪の因果律を持つとして、神御(かみ)と悪空魔(あくま)に敵対視される。
 Fの力を借りて何とか生き残っているが……










002 F(怪物ファーブラ・フィクタ)
怪物ファーブラ・フィクタ
 この世界で暗躍する謎の存在。
 正体は最強の化獣(ばけもの)クアンスティータの父親。
 愛娘、レインミリーの無念を晴らすため、クアンスティータを最強の形で産みだそうと画策している。
 キャリアがその鍵を握るとして、彼女に協力する。











003 9級使愚魔(しぐま)ジャンクック
9級使愚魔ジャンクック
 キャリアが最初に相手にする強敵。
 闇の星テネブライに属する使愚魔(しぐま)という地球で言う悪魔に当たる存在。
 何でも食べるアギトを持つ。


















004 8級天上使(てんじょうし)セセント
8級天上使セセント
 キャリアが最初に戦うルーメン側の強敵。
 地球で言えば天使に当たる天上使。
 無数の剣を操る剣士。


















005 勇騎士セイバース
勇騎士セイバース
 とある星での武勇伝が評価された彼は寿命を全うした後、転生して、このルーメンでキャリアを襲う新たな刺客としての使命を受けた騎士。
 騎士であり、狙撃手でもある。
 生前はライフルが彼の愛銃でもあったが、今の彼は銃型の宝具、射石(しゃせき)の使い手でもある。
 特殊効果を持つ、力宝石(りょくほうせき)を弾にして、撃ちはなつ。












006 下級神ドルユーロ
下級神ドルユーロ
 天輝(てんき)の森の土地神でもある。
 この土地のものはドルユーロの好きにコントロール出来る。


















007 聖者ロー
聖者ロー
 生前、救世主と崇められた偉大な男だが、融通が利かずキャリアの仲間とは認められなかった。

















008 猫神 キャトラ
猫神キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。

















009 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
はぐれ使愚魔フォール
 最低ランクに属する12級の使愚魔だが、実力的には4級、6級の使愚魔を瞬殺出来る程ある。
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプだ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。













010 聖女パレス
聖女パレス
 彼女は歌う事により、強力な仲間を召喚出来るタイプの聖女。
 キャリア達にプレッシャーを与える。



















011 魔女ジュジュ
魔女ジュジュ
 踊る事で発散する汗によるフェロモンで彼女に従う下僕が後から後からたくさん湧いてくる。
 倒しても倒しても、倒された仲間をエサに、より強力な怪物達が新たな刺客として、キャリアとフォールの前に立ち塞がる。

















012 聖魔獣(せいまじゅう)エルデス
聖魔獣エルデス
 元々はテネブライの魔獣だったが、神と悪魔の協定により、交換居住した魔獣がエルデスだった。
 その後、聖なるエネルギーを浴びて、存在変換が行われ、聖魔獣エルデスという新たな生命となった。
 今までは、キャリアの魔の部分による攻撃でルーメンの刺客に対して大ダメージを与えていたが、元々が魔である聖魔獣には大して効果が無いので苦戦した。












013 堕天上使(だてんじょうし)ジャマー
堕天上使ジャマー
 元々は、天上使(てんじょうし)だったが、罪を犯し、テネブライへと追いやられた堕天上使で、ルーメンへの復帰をかけて死にものぐるいで向かって来た。
 元々が天上使だった、ジャマーにはキャリアの聖なる部分での攻撃も半減となっていて、決定的なダメージを与えられずにいた。