第002話


 八 最強のストーカー



 私が【陰】の【田中重道】と【昏】【佐藤敏夫】のイメージが似ていて気持ち悪いと思ったのには理由があった。

 私につきまとったストーカーの中に、【伊藤篤志(いとうあつし)】と【伊藤隆史(いとうたかし)】という双子がいた。

 その双子は何をするにも一緒で、二人がかりで私につきまとった。
 一人でつきまとうストーカーより威圧感が凄かった。
 二人がかりという事は向こうは半分の労力ですむけど、私の恐怖は倍になる……

 力も一人のストーカーよりずっと強かった。

 ストーカーに対する本当の恐怖はこの二人に植え付けられたと言っても過言ではなかった。
 やはり、数の有利と言うべきか……【斑】の【山田翔馬】でさえ、二人がかりで行動する伊藤兄弟の前では大人しくせざるを得なかった。
 正直、この兄弟が消えてくれてホッとしていた。
 例え、それが、【呪いの七つ道具】を手にするためにであっても……
 二人が細部にまで仕込んだ盗撮カメラのせいで、私は一時期、お風呂もトイレも入れなくなってPTSD(心的外傷後ストレス障害)にまで陥った。
 中学では、クラスメイトの協力で双子を追い払い、何とか立ち直りかけた。

 だけど、高校にまでつきまとって来て……
 クラスメイトが最初はガードしてくれていたけど……
 【田中重道】の件で私は田舎の高校を去る事になって黄昏高校に編入する事になった……
 だけど、双子は【呪いの七つ道具】を手にして私に再び迫ってきた……
 だから……解る……【朧】か【空】……そのどちらかを手にしたストーカーは居ない……
 なぜなら、伊藤兄弟が【棘】を手にしているからだ……

 行方不明になったのは七人……
 その中に伊藤兄弟も含まれる……
 ――という事は残る一つ、【朧】か【空】を手にした人間で七人という事になるからだ……
 その事はまず、置いておいて……
 【棘】……そっくりな二人だから手に出来た【呪いの七つ道具】……
 双子だけが手に出来る七つ道具……
 そこの茂みの雑草のように、何人も何人も増殖していく魔道具……

 【棘】の力の前には人混みはかえって危険……
 そこに【棘】が紛れ込んでいても全く解らないからだ……

「かぐやちゃん……」
「かぐやちゃん……」
 すずねが二人いた時……私はその恐怖を感じた……
 どちらが本物か解らない……
 あるいは本物はどこかにいて、目の前に居るのはどちらも偽物であるかも知れない……
「かぐやちゃん……」
 そして、三人目が顔を出す。

 私はパニックになった……
 【昏】の様に、クラスメイトに紛れてこっそり見ているのではない……
 堂々と目の前に現れながら、なおかつ、その正体がわからない……
「かぐやちゃん……」
「かぐやちゃん……」
 四人目、五人目と次々に増えていった時、私はその場から逃げ出した。

 誰か……助けて……
 誰も信じられない……
 私はどんどん追い詰められていった……
 発狂しかけた時、助けてくれたのが……
「姫野、こっちだ!」
 おじいさんだった。
 山下君は……

(――だから……おじいさんは山下じゃなくて、俺だって言ってるだろうが……わかんない女だな……)

 え?……また……?
(お前と結ばれたのは俺だよ……【渡辺雅紀(わたなべまさき)】だよ……)
 え……わ……渡辺く……ち、違う、渡辺なんかじゃない……
 私は混乱して来た……



 九 現実へ…六番目の悪夢…



 どうしたんだろう……?
 頭が少し混乱してきた……
 えぇと……私は孫達にお話を聞かせてあげていて……
(はぁ?孫ぉ?今更、何言ってんだよ。てめぇが、幸せな結婚をして、孫達に昔話を聞かせてやるのが夢だっつーから見せてやってんじゃねぇか……)

 だ、誰?
(孫だぁ?――じゃあ、言って見ろよぉ……孫の名前をよぉ……)
 ま、孫は三人居……て……
(三人だぁ?そりゃぁ、てめぇの希望じゃねぇか……孫なんか最初からいねぇよ……てめぇが今まで聞かせてた話は昔話なんかじゃねぇ……たった今の現実の話なんだからよぉ……てめぇはぴっちぴちの女子高生じゃねぇか……いつからババァになったんだよぉ……)
 ……そ、そうだ……まだ、何も解決していない……

 【棘】から逃げて……
 【助けてやろうか……】って言葉にすがってしまったんだ私は……
 それが六番目の悪夢だと知りながら……
 【渡辺雅紀】……【呪いの七つ道具】で言えば【朧】の男……
 この男の誘いに乗って私は夢の世界に連れて来られたんだ……
 そして、【呪いの七つ道具】の事は終わった過去の事として処理したかった私はこの男の悪夢の魅力に取り憑かれて……

(さぁ、やり直そうぜ……これで、何回目だっけか?……段々と少しずつ、俺色に染まっていくのは見ていて気持ち良いなぁ……さぁ、次はどんなシチュエーションで行くか……?)
 や、やめて……
(さぁ……また、やり直そう……)
 た、助けて……
(だから、助けてやってんじゃねぇか……俺のものになっちまえば……何も苦しまなくて良いんだぜ……ただ、俺を楽しませるだけの肉人形になっちまえよ……)
 私は、【朧】から逃れようと必死にあがく……
 でも、心が捕らえられてしまったのか抵抗する術がない……
 やがて、私の意識は遠くなり、【朧】の見せる次の悪夢へと……

「姫野、姫野、大丈夫か?姫野」
 こ、ここは……?
 誰かに揺さぶられて私は目を醒ました。
 ここは、何処だろう……?
 彼は……
「山下く……ん?」
 今度はどんな設定なんだろう……
 ぶっきらぼうなクラスメイト?
 熱血漢な恋人?
 クールな幼馴染み?
「かぐやちゃん……身体……大丈夫?」
「す、すずね……?」
「大分、うなされてたよ……凄い寝汗……」

 あ、あぁ……
 【朧】に見せられていた悪夢で何度も怖い目にあって来たから……
 段々、頭が冴えてくる……
 あぁ……そうだ、【朧】に洗脳されかかっていたんだ。
 【朧】の見せる悪夢は部分的には合っているけど、大きく見ると違っている……
 混乱しないようにこれまでの事を整理しないと……



 十 今までの出来事とこれから…



 整理すると今まで見ていたのは【朧】が見せていた現実ではない偽物の物語……
 実際には、私はイジメにあっていないし、転校もしていない……
 友達は居るけど、人間関係とかが少しずつ違っている……
 【呪いの七つ道具】――これは、実在する……現に、私は六番目の、【朧】の見せる悪夢につかまって、ずっとうなされていた……
 あぁ……だめだ、だめだ、こんな整理の仕方じゃ……
 起きた事を順を追って思い出していこう……

 私が結構、モテたのは本当だ……
 かぐや姫と名前が近いから、交際の申し込みを断る時、普通の人が取ってくるのは難しいものを言ってた……
 でも、取ってくるように言ったのは【呪いの七つ道具】なんかじゃない……
 あんな禍々しい物なんて、頼まれても欲しくなんかない……
 私は【優しさ】【情熱】【好きという気持ち】等を物に例えて【胸がキューンとなるような私を幸せにしてくれるものを持ってきてくれたら交際を考えるわ】と言ったんだ。
 そうしたら、何を勘違いしたのか【田中重道】が、【呪いの七つ道具】を探しに行ったんだ……
 その死と引き替えに誰かの願いを叶えてくれるという【陰】をとりに行って……
 私の意に沿わない願いを叶えて来たんだ……
 私に注意した先生が火傷を負ったり……
 私とちょっとぶつかった生徒が割れたガラスで顔を切ったり……
 私にじゃれつく犬が交通事故にあったり……
 私にストーキングしていた生徒達が次々と退学になったり……
 犯人は【田中重道】という事になって私じゃなく、【田中重道】がみんなから攻められていた。

 追い詰められた【田中重道】は飛び降り自殺をして、噂通り、死んでしまった。
 それから、【田中重道】は【陰】となって、無理矢理、私の願いを叶えるようになってしまった。
 願いが強制的に叶えられる度に……と言っても私が望んでいる願いではないのだけど……
 少しずつ、私の影が薄くなり、私の存在感が薄れていった。
 それだけでは、終わらなかった……
 退学になった生徒達が、次々と自殺していったんだ……

 【昏】を手にした【佐藤敏夫】が……
 【闇】を手にした【鈴木美恩】が……
【斑】を手にした【山田翔馬】が……
 【棘】を手にした【伊藤篤志】と【伊藤隆史】の兄弟が……
 【朧】を手にした【渡辺雅紀】が……

 それぞれ、死亡して、それぞれの悪夢へと変わっていった。

 そして、それぞれが、私を奪い合っておぞましいアプローチを仕掛けて来た。
 黄昏刻に現れ、私の寿命を削っていくラブレターを渡してくる【昏】の【佐藤敏夫】……
 現れる度に、私に似せて来て私の個性を奪ってくる【闇】の【鈴木美恩】……
 誰かに取り憑き私を突き落としたりカッターで斬りつけて来た【斑】の【山田翔馬】……
 四六時中誰か…もしくは何かになりかわり私を監視してくる双子のストーカー【棘】の【伊藤篤志】と【伊藤隆史】……
 そして、【棘】から逃げて来た私を捕まえて悪夢を見せ続けた【朧】の【渡辺雅紀】……
 他の【呪いの七つ道具】と啀み合い、お互いを牽制しつつも私を自らのものにしようと迫ってくる悪霊のストーカー達。

 私はそんな悪霊達と戦ってきた。

 仲間がいたから……
 親友の生島すずね。
 霊力がある山下悟、北村浩介、藤崎香奈美、香取秀彦、鮫島勇作、進藤留華、真鍋倫……
 みんな、大切な仲間だ。
 みんなの協力があったからこそ、私はあの悪質な悪霊達と渡り合ってこれたんだ。
 絶対に負けない。
 あんな連中の好きになんてさせない。
 私は気持ちを奮い立たせた。

(何か……忘れてない……?)

 私はまだ、何か重要な事を忘れているような気がしたけど、そんな事よりも、目の前の6つの悪夢をどうにかする事が先だと思った。
 私達は六つの悪夢と同時に相手にするよりは個別に撃破していこうと思った。
 まずは、【呪いの七つ道具】の原因を作った【陰】――【田中重道】だ。
 そもそも、【田中重道】が【呪いの七つ道具】に目をつけなければ、こんな悪夢は起きなかった。
 彼が、発端となり、次々と連鎖的にストーカー達が死をとげ、悪夢と化していったんだ。
 この元凶を何とかするのが先だろう……
 どうすれば良いか……
 それは、悪霊と化した【田中重道】と【陰】を切り離せば良い。
 【田中重道】は【陰】の力を借りて悪夢を起こしている……
 だから、【田中重道】から【陰】を取り除いたらその力は失われるはずだ。
 基本的に悪夢達から【呪いの七つ道具】を切り離していけば、力を失っていくはず……
 逃げてばかりはいられない。
 戦わなくちゃ……
 私はそう思うのだった。



 十一 俺から見た視点



「……すんっ……えっ……ぐすっ……」
 俺が、彼女と初めてあった時……
 彼女は隠れて泣いていた……

「あの――大丈夫……?」
「!み、見た?」
「見たって何を?」
「な、何でもないわ……この事は黙ってて……」
「う、うん……」

 ツンとした感じの印象だった……

 彼女の名前は【姫野華玖耶】……
 俺――山下悟は一瞬にして、彼女の長くて綺麗な髪に心を奪われた……
 影があるというか……彼女から不思議な魅力を感じてしまった。
 影がある様に見えたのは彼女が悪霊共に取り憑かれていたからかも知れない……
 でも、確かにその時、俺にはとても魅力的に映ったんだ。
 守ってやりたい……
 ただ、それだけを思ったんだ……
 それだけ、衝撃的な出会いだった。

「あ、あのさ……勇作、あの髪の長い……」
「髪の長いって言うと?」
「ほら、その……」
「髪が長いと言えば、英会話のジェニー先生だな!胸がボンて出て腰がキュッて締まってて、正にオレっちにとってドストライクって感じだな」
「いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、あれか?、アイドルの……」
「いや、いい……何でもない……」
「おい、なんだよ?……」
 親友の鮫島勇作に彼女の事をさりげなく聞こうと思ったんだけど、俺は元々、口下手なタイプだから、上手く聞けなかった。
 勇作は情報通だからわかると思ったんだけど……
 勇作とはある理由で、昔からつるんでいた。

 その理由は二人とも霊感が強いって事だ。
 つるんでいないと霊感があるってだけでイジメの対象になっていたかも知れないから自然と、霊感のある者同士がくっつくようになっていったんだ。
 でも、霊感があるのを隠して生活するのは嫌だから、霊感があっても……いや、むしろ、霊感があった方が良い状況を俺たちは探して、そして、見つけた。

 それは……
 主に夏……
 肝試しの季節に俺たちは活躍した。
 幽霊出る所で写真を撮ってくるとほぼ確実に心霊写真が撮れたりした。
 それだけで、女子はキャーキャー言ってくれた。
 ちょっと嬉しかった。

 だけど、叔母さん……真鍋倫には深入りするなって釘を刺されてもいる。
 叔母さん……って行っても、俺と倫は同い年……
 倫は俺の親父の年の離れた妹なんだ。
 だけど、倫の事を叔母さんって呼ぶのは禁句だ。
 立場が逆で、俺が倫に叔父さんって呼ばれたら嫌だし、倫も俺に叔母さんって呼ばれるのは好きじゃないみたいだ。

 実は、元々、俺も山下悟じゃなくて真鍋悟だったんだけど、両親が離婚して、俺は母方の姓を名乗ったんで山下になった。
 真鍋家は元々、霊感一家で俺も親父も霊感が強かった。
 それが原因で、お袋と別れる事になったみたいなんだけど、俺はお袋について行った。
 だから、お袋を刺激しないように俺は普段、家では、霊の話はしない……
 ちょっと複雑な家庭環境だけど、俺はまっすぐ生きているつもりだ。
 そして、恋もする……
 その対象が……彼女かも知れない……
 それだけの話だ。
 彼女は何か困っている様子だった。
 出来れば力になってやりたい。
 だけど、俺と彼女が言葉を交わしたのはさっきが初めて……
 そんな俺に何が出来ようか……
 あぁ……彼女の事をもっと知りたい……
 俺はそう、思った。



 十二 【陰】…【田中重道】



「勇作、彼女の事なんだけどさ……」
「……あぁ……彼女か――彼女の名前は【姫野華玖耶】――何人もの男が彼女に告って玉砕してるよ。別名【かぐや姫】……なんだ、お前、彼女に興味あるの?」
「え……あ、あぁ……まぁ……ちょっと……」
「――ふーん……唐変木のお前がねぇ……春が来たもんだねぇ」
「な、何だよ、そ、そんなんじゃ……」
「じゃあ、どんなんだ?」
「い、いや……その……」
「男でしょ、うじうじしない!」
「な、なんだよ倫まで…」
「あんたが、もたもたしてるから私が付き添ってあげたんじゃないの。大体、鮫島にじゃなくて本人に聞きなさいよ、本人に」
「ほ、本人って……」
「――こんなのが私の甥かと思うと情けなくなってくるわ……」
「………」

 俺は、どうやら寝言で姫野の事を何か言ったらしい……

 たまたま、それを倫が聞いていてしまって直接彼女に言いに行くと言い出した。
 それを俺が阻止して、勇作に情報を聞きに行くという事にした。
 我ながら、情けないと思う……
 意気地の無い俺。

「あぁ〜駄目だ、イライラする……私、やっぱり彼女に言ってくる」
「ま、まて、倫。勇作、止めてくれ」
「はは、お前も玉砕してこいって……すっきりするかも知れねぇぞ」
「そうよ、玉砕してるのはあんただけじゃないのよ」
「俺はまだ玉砕してない……」
「なら、玉砕した分、他の男子の方があんたより数百倍マシよ。行ってきなさいよ、怖がっていても仕方ないでしょ」
「う、うん……」
 俺はなし崩し的に彼女に告白をする事になった。

 放課後、俺は彼女を校舎裏に呼び出した。
「……何?」
「え……えと……ひ、姫野さんだよね……」
「……私にかまわない方が良いわ……死にたくないでしょ?」
「し、死にたくないって……?」
「私……質の悪い七人のストーカーに狙われてるの……」
「え……?……じゃあ……警察に」
「警察じゃ無理よ……」
「そ、そんな事わから……」
「……わかるわ。だって、そのストーカーって人間じゃないもの……」
「え……?」
「ほら……そこ……」
「?」
「……今日は【陰】の日みたいね……うっかり願い事を言わないように気をつけなくちゃ……」

(――彼女は僕のものだ……近づくな……)

 彼女の示した方向を見ると一人の男子生徒が立っていた。
 一目でわかった。

 こいつは霊だ……それもかなり質の悪い……
 怖い……
 怖いけど……ここで逃げたら、永遠に彼女を失う――そんな気がしたから、俺は直立不動で動かなかった。
「……逃げないの?」
 彼女は問いかける。
「に、逃げない……君の前では」
「………」
 俺は精一杯の虚勢を張る。
 彼女は目をぱちくりさせていた。

(後悔させてやる……)
 霊はそう言い残し消えた。

 俺は、フニャフニャと腰が抜けてしまってその場にへたり込んだ。
「……逃げなかったのは、あなたが初めてよ……」
「へ…へへ……へへへへへへ……」
「……あの霊の名前は【陰】――人間だった時の名前は【田中重道】――どうするの?……あいつ、あなたに目をつけちゃったわよ」
「……お、俺……霊感ありますから……」
「だから……?」
「だから、免疫あります……」
「……変な人……」
 彼女はそういうとそのまま去っていった。

 でも……俺……玉砕しなかった。
 フラれなかった……のか?
 ひょっとして脈あり……なのか?
 よく、わからないけど――つ、次につながったみたいだ……
 俺は、彼女にフラれなかったからなのか、幽霊に会ったからなのかは解らないけど、心臓が経験したことないくらいドキドキしていた。
 ……今夜は眠れそうもないな……



 十三 【昏】…【佐藤敏夫】



「や、やぁ……」
「……また、あなたなの?……私と一緒にいるとストーカーに狙われるわよ……」
「だ、大丈夫、お、俺、霊感強いから霊が来ても解るし……」
「……ホントに変な人……」
 昨日の件で妙にハイになっているのか、俺は姫野に声をかけてみた。
 また、玉砕はしなかった。
 良かった……

「やるじゃない……見直したわ」
「倫……見てたのか?」
「どうやら、玉砕してないみたいね……他の男子に一歩リードって所かしら」
「そんなんじゃ……実は……」
 俺は、倫に昨日の事を説明した。
「……なるほどね……微妙ね……叔母としてはあんたを応援してあげたいけど……霊がらみか……」
「……霊感強いってのも強みだと思うんだ」
「……バカね、霊感強いって事は逆に霊に影響されやすいって事じゃないの……ちっとも良くないわよ……逆に危険じゃないの――下手すると彼女の言うように本当に死ぬわよ」
「じゃあ……どうすれば……」
「諦めなさい……」
「そ、そんな……」
「背に腹は……命には代えられないわ。命あってのもの種よ」
「だけど、それじゃ」
「聞いたことあるわ……一人の女の子を自分のものにしようとストーカー達が次々に【呪いの七つ道具】を探しに行って行方不明になったって……彼女の事だったのね……」
「い、嫌だ…そんな理由で諦めたくない」
「仕方ないじゃない……私達、霊媒師じゃないんだから……霊を祓うなんて出来ないし……」
「だけど、先祖が残してくれた道具とかいっぱいあるし……」
「使いこなせないわよ……霊力が高いってだけで修行した訳じゃないんだから……」
「俺、頑張るから……」
「……どうなっても知らないわよ……」
 俺は、倫の前で虚勢をはった。
 せっかく、好きになった女の子が出来たのに悪霊のストーカーなんかの為に諦めたく無かったからだ。

 そして、俺は今日も悪霊と対峙した。
 今日は、【昏】の【佐藤敏夫】だった。
 雰囲気は【陰】の【田中重道】とそっくりだった。
 まるで、双子のようだと思ったが、どうやら別人(霊)のようだ。
 正直な感想は無個性だ。
 【陰】と【昏】の区別がつかない。
 これはあくまでも俺の考えだが……例え双子であっても兄と弟、それぞれに別の個性が合ってこそ、それを選ぶ女の子はその内の片方を選ぶんだと思う。
 だから、区別の無い無個性というのは女性にとってあまり魅力を感じないのではないだろうか?
 そんな理由だからこそ、別人という個性が見えない【佐藤敏夫】と【田中重道】はフラれたのではないだろうか。
 俺が女でもこの二人から同時に好きだと言われてもどちらかを選ぶ事は出来ないと思う。

(君……邪魔だよ……)

 【昏】が脅しにかかる……
 だけど、そんなことくらいで諦めてたまるか。
 俺は、彼女に認められたい……
 彼女に駄目だと言われるならまだしも……こんな訳のわからないストーカーごときに諦めさせられてたまるか。
「……俺をあんまりなめない方が良い。お前達を祓う道具なら家にいっぱい揃ってる……」
(……君に彼女の何がわかる……)
「知った風な事を言うなよ、少なくともお前達の存在が彼女を苦しめているのはわかる!お前達にはそれがわからないのか?」

(……お前に何がわかる……)

「……解るさ……俺は生きているんだ。成長だってしてやる。成長して、彼女に好きになってもらう事だって不可能な事じゃない。生きているんだからな。死んで成長の止まったお前達なんかよりよっぽどわかるさ!」
 俺は精一杯の見得を切った。
(……後悔するぞ……)
 【昏】はここでも【陰】と同じ様な捨て台詞を吐いて消えた。
 やっぱり個性がない……
 俺は、【昏】が無言で置いていった手紙を読まずに破り捨てた。
 こうして、【昏】に対しても宣戦布告をした。



 十四 【闇】…【鈴木美恩】



 正直、驚いた……
 俺は彼女に話があると呼び出された。
 何だろうと思ってついて行ったら……

(あなた……私のことが好きなのよね……?付き合ってあげようか……)

 そう言われた。
 一瞬、姫野にそう言われたのかと思ったけど、霊感の強い俺はすぐに解った。
「誰だ、お前……?」
(私ぃ?私は姫野華玖耶よ)
「嘘だ、お前は姫野じゃない」
(何処が?何処から見ても姫野華玖耶じゃない?節穴なの、あなた……?)
「節穴じゃないからそう言っているんだ。お前は断じて姫野華玖耶じゃない!」
(あら、残念……姫野さんになりきれたと思ったんだけど……まだまだのようね……)
「お前も七つ道具の一つか?」
 そう質問した時……
「そいつは【闇】……【鈴木美恩】よ。私になりたがっている女……」
 俺の後をつけて来ていたのか、本物が声をかけて来て、偽物の正体を教えてくれた。
「……ひ、姫野……」
「……ほんと……あなたにはびっくりだわ。よく、そいつが私じゃないって解ったわね?」
「……言ったろ、俺は霊感が強いって……本物とぱちもんの区別くらいつくさ」
「……ほんと……変な人……」
 姫野が俺に対してよく言う【変な人】……それは興味あると受け取って良いのだろうか……?
(……ねぇ……あなた……私ならあなたに対して、つくしてあげることが出来るわ。そっちは多分、あなたの思うようにはしてくれない……同じ顔なら……私を選んだ方が得じゃない?)
「――損とか得とかの問題じゃない。俺は姫野が好きなんだ。お前のような偽物じゃない!」
 い、言ってしまった。
 普段、口下手な俺でも、悪霊に対する恐怖心が中和するのか、スラスラと姫野に対して気持ちを伝える事が出来てしまう。
「……恥ずかしい人ね……」
「え、いや、これは……その……」
「……ありがと、気持ちは嬉しいわ……」
 ひ、姫野……嬉しいって言ってくれた。
「姫野……」
「だからこそよ……私と関わると不幸になる……だから、お願い……」
「じゃ、じゃあ……悪霊を全部追っ払っちまったら……」
「……無理よ……そんなの……」
「無理じゃない……やってみないと……わからない」
「……無理よ……お願い……私を困らせないで……」
「……大丈夫だから」
 俺は、気持ちを押し殺してあえて俺を遠ざけようとしている姿がたまらなく愛おしくなり、ますます、彼女の力になりたいと思うようになった。

 同時に、悪霊のストーカー達に対する激しい怒りがこみ上げる。
 こんな優しい子に……
 許せん……

(……私を姫野華玖耶だと認めさえすれば……私が本物でそっちが偽物になるのよ……)
 黙れ……
(そうしたら……本物としてあなたを愛してあげる……)
 黙れ……
(どんな事でもしてあげるわ……どんな事でもね……)
「黙れってんだ、この悪霊がぁ!お前達は全部まとめて俺が祓ってやる!覚悟しとけ!」
 俺は怒りにまかせて悪霊を怒鳴りつけた!
 彼女を理不尽に悲しませる悪霊達がどうしても許せなかったからだ。

(バカな奴、お前は私が殺してやるよぉ……)

 偽姫野……【闇】の【鈴木美恩】も掻き消えた。
「……ぐすっ……バカな人……」
 こつんと俺の肩に額をのせた姫野は肩を振るわせてつぶやいた。
 俺は気付いた。
 彼女はずっと一人で戦って来ていたんだ……
 誰かに相談すれば、その誰かを巻き込んでしまうから……
 誰にも心を許さず……たった一人で……
 俺の心は悪霊に対して、怖いという気持ちより、許せないという気持ちの方が勝っていた。
 俺は、彼女の肩に手を置いた。
 少し、また、彼女に近づけた気がした。



 十五 【斑】…【山田翔馬】



「生島すずねです……よ、よろしく……」
「……あぁ……よろしく……」
「彼女をお願い……」
「……あぁ……任せてくれ」
 少し話せるようになった姫野に親友を紹介された。
 生島すずね……少し気の弱そうな女の子だった。
 ずっと人を避けてきた彼女が、親友を作った訳はやっぱり、【呪いの七つ道具】の一つが原因だった。

 姫野は脅されていた。
 悪霊の一つ、【斑】の【山田翔馬】に……

 【斑】は生島に取り憑き、友達を作ったら彼女を殺すと脅して来ていたのだ。
 だからこそ、彼女は生島以外、誰も近づけずにたった一人で戦っていたのだ。

 こいつも許せん……
 ほんとに【呪いの七つ道具】共は腐った根性の奴らの集まりだと思った。
 どいつもこいつも人の気持ちを土足で踏みにじるような真似をして……
 聞けば、【斑】は姫野に対して危害を加えるタイプのストーカーらしい……。
 生前、彼女に対して、嫌がらせの限りを尽くし、嫌いと言われたのを逆恨みしたクズのようだ。

 俺は、実家から御祓いの道具を手当たり次第持ってきて、色々と試した。
 霊媒師の様に上手くは使えてない気がするけど、それでもいくらか効果があるのか、生島のお腹の斑模様の痣はかなり薄くなってきている。
 恐らく、【斑】という名前からして、この斑模様が奴の源だと思う。
 心配した倫が霊媒仲間の進藤と藤崎、北村と香取を連れて来てくれた。
 俺はよく知らないが、SNSで仲良くなった友達だ。
 勇作も駆けつけてくれた。
 霊力の強い人間がこれだけ居て、道具がたくさん揃っていれば、いかに悪霊と言えどもそうそう勝手な真似は出来ないと思った。

 悪霊達はお互いをいがみ合っている……
 だけど、俺たち人間は霊力の強い者同士、助け合って協力しあう事だって出来る。
 ふざけたストーカー共になんて負けてられない。

 ある程度、処理をした頃…
「ぐぎゃぎあぁぁぁぁぁぁぁあ……」
「すずね!」
「大丈夫、……効果があった見たいだから……」
「そうなの?」
 苦しむ生島を心配する姫野だったが、倫が安心させてくれた。
 生島はしばらく苦しんだ後、大人しくなった。
 そして、お腹の痣から地獄の釜から聞こえてくるような声がした。

(……お前らぁ……お前らぁ……許さん、許さんぞぉ……)
 恐らく、【斑】の【山田翔馬】のものだろう……
 声質からして好きに慣れない感じだった。
「お前は終わりだよ、観念しな」
 勇作がトドメの言葉を【斑】に投げかける。
 俺も同じ気持ちだった。
 とっとと成仏でもしろ……
 そう思っていた。

 だが、こいつは……
(ふん……お前らは何も解ってない……俺は何度でも出てくるぞ、何度でもなぁ……)
 負け惜しみを……
「なら、俺が何度でもトドメを刺しにいってやる」
 俺も勇作に負けじと【斑】を威嚇する。
(ふ……せいぜいあがくがいい……)
 生島の腹の痣が不敵に笑ったように一瞬、見えてそのまま吸い込まれる様に消えていった。

 ……やった……やってやった……
 この調子で、他の【呪いの七つ道具】も始末してやる。
 俺は恥ずかしいから実際にはやらないが、心の中では小躍りしていた。
「……やったの?」
 姫野が恐る恐る尋ねて来た。
 俺は……
「……あぁ……やったよ。まずは一つ」
「あ、ありがとう……」
 姫野の目頭が熱くなっている。
 喜んでくれているんだ……
 俺も何だか嬉しくて目頭が熱くなって来た。



 十六 【棘】…【伊藤篤志】【伊藤隆史】



 次の日…俺たちは最強と目される【棘】――【伊藤篤志】と【伊藤隆史】と対決した。
 【陰】の【田中重道】と【昏】の【佐藤敏夫】の様に区別のつかない二人組だ。
 もっとも、こっちは本物の双子……そっくりでも別に不思議じゃない。

 姫野の話では、生前、彼女に最も恐怖を植え付けたのはこの二人らしい……
 二人……そうは言っても【棘】の力によって、どんどん、偽物の伊藤兄弟が現れては俺たちに祓われて消えるというのを繰り返している。
 この場合、司令塔となっている頭をどうにか探しだして潰せば何とかなりそうなんだけど……
 司令塔は二つある……
 元々は双子の二人だからだ。

 だからこそ余計に厄介だ。
 一人の指示の偽者達の中にもう一人の指示の偽物を混ぜても解らない……
 そのため、偽者が別の動きをとった時、対処が遅れてしまう。
 敵を褒めたくはないが、双子ならではの見事な連係プレイで俺たちを翻弄していた。
 偽者は祓われると普通の人間に戻る。
 その人間は自分が何をしていたか解らない。
 だから、責める訳にもいかない……
 だけど、その人間が再び【棘】に取り憑かれ、姫野を襲おうとする……
 こんな【いたちごっこ】を続けてもこっちが消耗するだけだった。

 とにかく、姫野から人を遠ざけないと……
「姫野、こっちだ……」
「う、うん……」
 俺は姫野の手を取り、人通りの少ない所に出ようとした。
「よし、あっちへ行こう……」
「だめ……人が居なくなると……他の悪霊が……」

 ――そうだった。
 姫野を狙っているのは【棘】だけではなかった。
 【棘】を警戒して、人通りを避ければ他の悪霊達がこれ幸いと近づいてくる。
 くそっ……八方塞がりだ……
 甘かった……
 【斑】を倒せたから【棘】も……

 そう思っていたけど、悪霊はそんなに甘く無かった。
 そう思っていた俺から希望を奪う一声がかかる。
(楽しいか?俺とも後で遊ぼうぜぇ……)
 その声の主の女生徒の左腕には斑模様の痣が……
 俺たちは【斑】も倒してなんかいなかった……
 奴らは悪霊であると同時に悪質なストーカーでもあるんだ……
 簡単に諦めるようなたまじゃない……
 俺たちは……俺は……奴らをなめていた……。
「いやっ……」
「ひ、姫野、待って……」
 姫野はたまらず人通りの多い方へ駆け出す。
 俺もついていくしかなかった。

 だが、人通りが多い、イコール【棘】のエリアだ。
 霊力の無い人間は容易く【棘】の操り人形に成り下がる。
 前からも後ろからも彼女を追い詰めて行く……
 姫野はずっとこんな奴らを相手にしていたんだ……
 警察も悪霊じゃ対処のしようが無い。
 霊能者なんて、身近に居ない。
 姫野の絶望感を考えると俺は自分の考えの甘さに腹が立った。
 【棘】除けのお札の数も残り少ない。
 どうすれば良いんだ……
 俺まで絶望感に打ちのめされて行く。
 そんな時、声がした。

(……助けてやろうか……)

 確かにそう聞こえた。
 俺と姫野はその声にすがった。
 ……すがってしまった。



 十七 【朧】…【渡辺雅紀】



「姫野、姫野……起きてくれ、姫野!」
 俺は何度も彼女を揺さぶった。
 だけど、彼女は目を醒まさない。
 眠り姫の様に彼女は深い眠りに落ちてしまった。
 落としたのは六番目の悪霊…【朧】の【渡辺雅紀】だ。

(ははは……無駄だよ、無駄……その女は起きない……)
 【朧】が高笑いをする。

 くそっ……救いの手なんかあるわけ無かった。
 悪夢の後にはまた悪夢。
 希望の光だと思ったのは新たな絶望だった。
 姫野はうなされる度に、どんどん精気を失っている様に見える。
 恐らく、【朧】の手により悪夢を繰り返し見せられているんだ……
 助け方が解らない。
 駆けつけた倫達も手をこまねいている様子だった。
 【朧】の手に落ちてからは他の悪霊は襲って来ない……

 だから、なんだと言うんだ……
 このままでは、姫野は【朧】の手に落ちてしまう……
 何とかしなくては……
「倫……何かないのか?」
「悟、落ち着いて……今、考えているから……」
 叔母にすがっても仕方ないのは解ってる。
 倫だって、俺と同い年。
 経験値だって俺とそんなに大差ない。

 だけどどうすれば……

 このままだと本当に眠り姫の様に……
 ……眠り……姫?……眠れる森の美女……
 確か、100年の眠りについた姫が王子のキスで……
 でも、あれは100年目だったから目覚めたという説も……
 でも、キス……
 キスでどうにかならないのか?
 キスで目覚めてくれれば……
 だけど、ただのキスじゃ駄目だ……
 何か無いか……?
 何がある……

 そうだ、聖水が、家の押し入れに入っていたはず……
 口移しで聖水を飲ませればあるいは……
 俺は、そう考えた。
「倫……」
「どうしたの悟?」
「姫野を頼む!俺、ひとっ走り行ってくる」
「行ってくるって何処へ?」
「家!聖水を取ってくる……」
「聖水?」
「そう、聖水!押し入れにたしか……」
「待って!」
「一刻を争うんだ、待ってなんか……」
「聖水ならあるわ。ここに……少しだけだけど」
「ホントか?サンキュ、倫」
「でも、悟、聖水をどうするの」
「こうする!」
 俺は、倫から聖水を受け取り、口に含み、そのまま、寝息を立てている姫野の唇に自分のを重ねた。

「ちょ、ちょっと……」
 倫が戸惑う……
 俺も自分の行動に驚いた。
 聖水は、俺の口内から姫野の喉の奥へと少しずつ吸い込まれていった。
「かはっ……」
 姫野が聖水を喉に詰まらせた。
 だが、起きてくれたようだ。

「姫野!」
「や、山下く……ん……?」
 ぼんやりとだが、姫野は意識を取り戻していく。
 逆に……
(貴様ぁよくも【姫野華玖耶】の唇をぉぉぉぉ…)
 【朧】は逆上し取り乱す。
 姫野には後で謝っておく。
 勝手に唇を奪ったんだ、ボコられても仕方ない。
 だけど、悪霊共には好きにさせない……絶対に!
 嫉妬に狂った【朧】は俺に襲いかかる……

 それを察知してか、香取と進藤が前に出て、ロザリオで【朧】をはね除けた。
(……殺してやる……殺してやるぞぉぉぉぉぉぉ……)
「お前の負けだ。立ち去れ!」
 香取が叫んだ。
 あぁ……出来ればその台詞、俺が言いたかった……
 だけど、俺たちは見事、大ピンチを切り抜けた。



 十八 【空】…【姫野華玖耶】



 俺が、姫野と口づけをした事は【朧】の【渡辺雅紀】だけに効果があったのではなかった。
 【陰】の【田中重道】にも、【昏】の【佐藤敏夫】にも【闇】の【鈴木美恩】にも【斑】の【山田翔馬】にも【棘】の【伊藤篤志】と【伊藤隆史】にも同様に動揺を与えた。

 ストーキングするくらいだ……

 姫野とのキスというのはそれだけ衝撃的だってことだ。
 悪霊達に対して、大きなアドバンテージを得た感じだった。
 悪霊達にとっては大事な姫野が穢されてしまったのだろう……

 【処女性】というのを求めていたのだろうか……
 もちろん、キスで、処女が失われるという事はないが、彼女とのキスによって、悪霊達にとっての価値観が崩れたのだろう……

 始めからこうすれば良かったんだ……
 ――とは、言っても……
 キス……してしまった。
 この先、どんな顔をして、彼女と接したらいいか……
「悟……」
 何だよ、倫……ちょっと俺、今、悩んでいるんだから……
「悟ってば……」
 だから、何?
「姫野さんの様子がおかしい……どういう事?」
「……え?」
 俺が的外れな事を考えている内に、どうやら、状況が変わったらしい…

 気付かなかった……
 何が……何があったんだ……?
「彼女……起きて居るんだけど……起きてないわ……」
「え??ど、どういう……」
「目の焦点が定まってない……」
 え……俺とのキスってそんなにショック…だったのか…
「ご、ごめ……俺、あれが最良の方法かと思って……」
「何、言っているの?さっきの事は済んだのよ、今、起きているのは更に別の何かよ」
「べ、別???」
 状況が把握出来ずにいる俺の前にゆらりと姫野が立ち上がる。
(何かを忘れてない?)

 え?忘れて??……何だ……何なんだ一体……?
(皆さん……始めまして……【空】の【姫野華玖耶】です……)
 姫野は確かにそう言った。

 【空】……居るはずがないと思っていた七番目の悪霊…
 誰も見ていない姫野の瞳が俺たちを見つめた。
 最強の悪霊は【棘】なんかじゃなかった。
 【空】……姫野が悪霊となった姿。
 長い間、6つの悪夢に悩まされ続けた姫野が手にしてしまった七つ目の呪い……

 相手が本人じゃ、守りようがない……
 それに、姫野は生きているから死霊ではなく、生き霊だ。
 死霊よりも生き霊の方が厄介だ。
 正に、これ以上ない……最強のストーカーだった。
 空ろな瞳で笑う姫野……
 【空】に心を支配されているようだ……

 最後の最後でこんな隠し玉が登場するとは……
 姫野が相手じゃ、俺たちは何も出来ない。
「姫野、姫野、しっかりしてくれ!」
(聞こえないわ……私は、何も見えていないし何も聞こえないもの……)
「姫野!聞こえるか、姫野!」
 俺は声をかけ続ける。
 俺には、そうすることしか出来ないから……
(!………)
「姫野!?」
 俺には心なしかピクッと反応したようにも見えた。

 だが、それは気のせいの様にまた、無反応に戻った。
 途方に暮れる俺……

 一体、どうしたら良いんだ……
 そんな時、俺と姫野の間に立ち塞がった影が二つあった……


登場キャラクター紹介

001 姫野 華玖耶(ひめの かぐや)

姫野華玖耶  このストーリーの一人目の主人公の少女。
 悪霊のストーカー達に狙われる事になる不幸な少女。















002 生島 すずね(いくしま すずね)

生島すずね 華玖耶の親友の少女。
 心優しい。

















003 山下 悟(やました さとる)

山下悟 このストーリーの二人目の主人公の少年。
 悪霊につきまとわれる華玖耶を守ろうとする。















004 北村 浩介(きたむら こうすけ)

北村浩介 華玖耶達の仲間の少年。
 霊感あり。

















005 藤崎 香奈美(ふじさき かなみ)

藤崎香奈美 華玖耶達の仲間の少女。
 霊感あり。

















006 香取 秀彦(かとり ひでひこ)

香取秀彦 華玖耶達の仲間の少年。
 霊感あり。

















007 鮫島 勇作(さめじま ゆうさく)

鮫島勇作 華玖耶達の仲間の少年。
 霊感あり。

















008 進藤 留華(しんどう るか)

進藤留華 華玖耶達の仲間の少女。
 霊感あり。

















009 真鍋 倫(まなべ りん)

真鍋倫 華玖耶達の仲間の少女。
 霊感あり。

















010 七つの悪夢【陰(かげ)】田中 重道(たなか しげみち)
  陰
 
 
 















  011 七つの悪夢【昏(くら)】佐藤 敏夫(さとう としお)

昏


















012 七つの悪夢【闇(やみ)】鈴木 美恩(すずき みおん)

闇


















013-1 七つの悪夢【棘(おどろ)】伊藤 篤志(いとう あつし)
伊藤篤志


















014 七つの悪夢【棘(おどろ)】伊藤 隆史(いとう たかし)
伊藤隆史


















015 七つの悪夢【斑(まだら)】山田 翔馬(やまだ しょうま)
斑


















016 七つの悪夢【朧(おぼろ)】渡辺 雅紀(わたなべ まさき)
朧


















017 七つの悪夢【空(うつろ)】?


018 天使ツイエル
天使ツイエル


















019 悪魔ヨメイビル
悪魔ヨメイビル


















020 七つの悪夢【新陰(しんかげ)】高橋 耕作(たかはし こうさく)
新陰


















021 七つの悪夢【新昏(しんくら)】小林 幸弘(こばやし ゆきひろ)
新昏


















022 七つの悪夢【新闇(しんやみ)】山本 光彦(やまもと みつひこ)
新闇


















023 七つの悪夢【新斑(しんまだら)】吉田 悦子(よしだ えつこ)
新斑


















024 七つの悪夢【新棘(しんおどろ)】加藤 栄二(かとう えいじ)
新棘


















025 七つの悪夢【新朧(しんおぼろ)】斉藤 芳樹(さいとう よしき)
新朧


















026 七つの悪夢【新空(しんうつろ)】中村 七緒(なかむら ななお)
新空


















027 中村 京子(なかむら きょうこ)
中村京子