転003話

おるおさんの新宇宙世界第3話挿絵

01 おるおさんは話しています


「それにしても我が娘ながら、見事な推薦じゃった」
 オルオティーナ様――おるおさんは娘さんであるティーオルオナ様――てぃーおちゃんと会話をしています。
 てぃーおちゃんは、
「それほどでもないです。
 私はただ、好きな事を作っている方を推挙したまでのことです」
 と言います。
 おるおさんはそれを聞いて少し残念そうに、
「なんじゃ、あやつの資質を見抜いておったのではないのか?」
 と聞きました。
 てぃーおちゃんが【稀生 踊詩(きにゅう ようし)】――【踊詩】君を推していたので、てっきり【本物】の資質を見抜いて言っていたのだと思っていたようです。
 てぃーおちゃんは、
「お母様。
 【本物】の資質とはどのような事を言うのですか?」
 と聞きました。
 おるおさんは、
「そうか、わからぬか。
 まぁ、そなたはまだ若いからな。
 わからぬでも無理はあるまい。
 では教えてやろう。
 【稀生 踊詩】には【偽者】が多く存在していた。
 あやつの作品を真似て己の手柄とする不届き者が数多く居たのじゃ」
 と言うと、てぃーおちゃんは、
「なるほど。
 【偽者】が多く居る方が【本物】という訳ですね?」
 と納得しました。
 おるおさんは、
「慌てるでない。
 そうではない。
 【偽者】を放置していた。
 そこにあやつの資質があるのじゃ」
 と言います。
 どういう事でしょうか?
 【本物】として、【偽者】を放置するというのがそんなに良い物でしょうか?
 どちらかというと消極的で後ろ向きの様な気もしますね。
 そいつは【偽者】だと宣言した方が自分の事としても良い様にも思えますが……
 おるおさんは、
「何故?という顔をしておるな。
 では解説をしてやろう。
 【偽者】共は【本物】の作品の力をかすめ取っておる。
 それは一見、【本物】にとって不利益とも思える。
 じゃが、良く考えてみい。
 【偽者】はあくまで【偽者】じゃ。
 逆立ちしても【本物】にはなれぬ。
 対して、【本物】はどこまでも高みを目指せる。
 高みを目指すという事はどういう事かわかるか?
 そう、有名になるという事じゃ。
 【偽者】がかすめ取っている偽情報ごと、【本物】は有名になる。
 その力が【本物】であれば、【本物】の意思とは関係なく確実にな。
 そうなった場合、どうなると思う?
 それまで、威光を盗んでいた【偽者】は嘘がバレて、【不正】を良しとしない者達によって叩かれるじゃろう。
 それまでついていた【嘘】が大きければ大きいほど、大きな痛手となって返っていくじゃろうのぅ。
 そうならないかも知れないと思うか?
 それがなるのじゃ。
 【本物】にも【偽者】にも知り合いはおる。
 【偽者】が【嘘】の【情報】で、ちやほやされているのと同時に【本物】の持っている【情報】も大きくなっていく。
 すると、どうなると思う?
 【偽者】の持っておる【情報】も宣伝効果となり、【本物】の力の威光も更にでかくなるのじゃ。
 それが大きくなったとき、世間では真偽を見極めようとする。
 そこで【嘘】の【情報】を持っておった【偽者】がはじき出されるという仕組みじゃ。
 つまり、【偽者】はあくまでも【本物】の力の評価がまだ小さい時のみ、【本物】のふりをする事が出来る。
 大きくなった時の末路は悲惨じゃぞ。
 何せ、その代償として、全ての信頼を失うのじゃ。
 その【偽者】がその後どんな事をしようと信用される事はまず無い。
 それまで【嘘】をついてきた時間を上回る時間で信頼回復をせねばならぬ。
 表舞台では活躍出来ぬという事になるのじゃ。
 あやつは黙ってコツコツ作り上げて行けば、いつか【偽者】は消えて無くなるとわかっているからこそあえて放置しておったのじゃ」
 と長い説明をしていたのですが、そこに、てぃーおちゃんの鋭いツッコミが入ります。
「ですが、お母様。
 あの方、この前、対戦して打ち負かした3人組の【隔離世界】に招待されて行ってますよ。
 男子は怖いので、私、遠目に見てましたけど、確か【肉欲】の何とかという所に招待したいからついてきて欲しいと言われて、こそこそと……」
 と言いました。
 どうやら、【踊詩】君は打ち負かした3名に弟子入りしたいとせがまれて、【男の弟子】は取らないと一旦は断ったのですが、我々を弟子にしたら特典がつきますよと言われて、【スドケベェ】候補が作った【肉欲の宴(にくよくのうたげ)】の【モデルバージョン】に招待すると言われてスケベ心を発揮した【踊詩】君はのこのこついて行ったらしいのです。
 おるおさんは、
「あやつはぁ〜。
 少し褒めれば、すぐ醜態をさらすな。
 【化形の少女】を泣かされて怒りに燃えておったあ奴は何処へ行ったのじゃ?
 後で仕置きじゃ。
 仕置き」
 と言いました。
 せっかく褒めたのに台無しですね。
 そこが、前作の主人公、【芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)】――【吟侍】君との違いです。
 【吟侍】君はかっこよくきっちり決めるのですが、その弟弟子である【踊詩】君はかっこよく決まらないのです。
 いざという時だけはビシッと決めますが、普段は、みっともなくて、おっちょこちょいな男の子なのです。
 頼りになる所とならない所が共存するのが彼ですね。
 更に、後日談として、その3人を弟子に取っても良いかな?と思い始めた矢先、
「あ、先生、今日限りで先生の弟子を卒業させてください」
「あ、俺も」
「僕も」
 と3人に言われたそうです。
 例えるなら告白する前にフラれた様なものです。
 弟子に取る前に弟子を卒業――引退されてしまいました。
 圧倒的大差で破った3人に尊敬されて、弟子入りを希望されたものの、武者修行だとして、他の創作大会に参加した3人はその大会の優勝者に【踊詩】君以上の圧倒的大差をつけられたそうです。
 それで、3人はあっさりと【踊詩】君から、その優勝者へと弟子入りを乗り換えたらしいのです。
 まぁ、嫌がらせをしてきた経緯もありますし、ひねくれていて、てきとーな性格の3名でしたので、弟子入りさせても何のプラスにもならなかったかも知れませんが、弟子入りを乗り換えられるというオチは【踊詩】君としてはかなりみっともない結末ですね。
 【踊詩】君は、
「ふ、ふん。
 は、初めから男の弟子は取らないって思ってたもんね」
 と言い訳しますが、【化形の少女】は、
「もう、3人とも立ち去っているので、言い訳しても意味ありませんよ」
 とツッコミました。
 【踊詩】君は耳まで真っ赤になり、
「み、見なかった事にして……ね」
 と【化形の少女】に訴えました。
 【化形の少女】は、
「良いですよ、そんな事。
 元々、あの3人とは折り合いが悪かったですし。
 ご主人が弟子入りさせなくてせいせいですよ」
 と言ってくれたようですね。
 【踊詩】君は涙目になり、
「あ、ありがとう……」
 と言ったそうです。
 何やってんですかね?


02 鑑定対決(かんていたいけつ)と複種体験(ふくしゅたいけん)システム構築


 一応、【踊詩】君が4つの【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】の彩りを任されました。
 【世界混宇宙連】とは【宇宙世界(うちゅうせかい)】の一つ上の単位である【世界他外(せかいたがい)】の一部から切り取った【新宇宙世界】とでも言うべき場所の事ですね。
 ですが、その最終審査で、【踊詩】君に敗れた3名――
 【領総(りょうそう)】候補(【無】をテーマにした世界観構築が得意)、
 【触対漢(しょくたいかん)】候補(【食】をテーマにした世界観構築が得意)、
 【スドケベェ】候補(【肉欲】をテーマにした世界観構築が得意)
 ――を【踊詩】君が勝った時以上の大差をつけて圧倒したというその創作大会の優勝者というのもどんな存在なのか気になる所です。
 【踊詩】君の才能は折り紙付きですが、彼より優れた創作者が居たとすれば、話は少し変わってきます。
 交代とまでは行かなくても4つの内、半分を任せるなども検討もしたい所です。
 ですが、その存在はおるおさんの招集に応じなかったという点が気にもなります。
 招集に応じていれば、【踊詩】君との【モデルバージョン】勝負をしていたかも知れないのです。
 必ずしも【世界混宇宙連】の創作に加わらなくてはならないという事にはなりませんが、せめて、参加しなかった理由は聞きたい所ですね。
 そこで、おるおさんは、3人を打ち負かした優勝者の素性を調べる事にしました。
 調べた所によると、名前は、【ラピッマ】と言い、若くして【超謎才(ちょうめいさい)】の少女と言われた女性です。
 【超謎才】とは【天才】、【秀才】、【逸材】などの最上位の言葉です。
 【大超謎才】などと言う言葉も出来ますが、現界(げんかい)における最高の褒め言葉となっています。
 【ラピッマ】さんの作った物は最高ランクの評価を受けるものばかりで、【生きる超高額商品製造器(ちょうこうがくしょうひんせいぞうき)】などと呼ばれていたそうです。
 その才能を遺憾なく発揮して、3人を圧倒的な大差をつけて勝利したのでしょう。
 おるおさんは、この【ラピッマ】という女性と【踊詩】君で【鑑定対決(かんていたいけつ)】をしてもらおうと思っていました。
 より価値の高いものを作る技術を持った方が勝利するという勝負です。
 それにより、主任創作者と副主任創作者を決めようと思っていました。
 そうです。
 おるおさんはこの二名、どちらも評価したのです。
 どちらの才能も欲しいと思ったのです。
 2人で【世界混宇宙連】を担当してもらえば良いという結論に達したのです。
 おるおさんは、【踊詩】君の実力は評価していましたが、性格面で問題があったので、女性である【ラピッマ】さんと協力して創作する事によって破天荒な行動にもブレーキがかかると考えました。
 問題は【ラピッマ】さんの性格です。
 【踊詩】君と協力体制を取れる性格をしているかどうかを確かめなくてはなりません。
 それには会って人柄を確かめるのが一番です。
 一方、【踊詩】君は、現在、【複種体験(ふくしゅたいけん)システム構築】という作業をやっています。
 これは、例を挙げれば、
 【A】という存在が、この【複種体験(ふくしゅたいけん)システム】というサービスを体験しようするとします。
 【A】という存在は【B】という【隔離空間】で様々な冒険をして戻ってきました。
 更に【C】という【隔離空間】で別の冒険をしたくなり、そこで冒険して来ることにしました。
 【C】という【隔離空間】では、【B】という【隔離空間】とは別の人間関係になります。
 出会う仲間、すれ違う人々、出くわす敵――全てが【B】という【隔離空間】と【C】という【隔離空間】では異なります。
 同じように、【D】、【E】、【F】〜……という全く別の【隔離空間】も作ります。
 そして、【A】という存在は出会いたい存在の居る【隔離空間】に出向き一時を過ごすというサービスになります。
 まるで友達の家に遊びに行くかのように様々な【隔離空間】に出会いに行くというシステムが【各種体験システム】になります。
 これにはもちろん、各【隔離空間】の中身を充実させる必要があります。
 本来であれば相当な手間暇のかかる仕事となります。
 ですが、【踊詩】君は【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補との【モデルバージョン】の【隔離空間】創作でも信じられないくらいのスピードと精度でかなりの数の作品を作った実力がありました。
 そんな彼だからこそ、このような手間暇のかかる仕事をも行う事が出来るのです。
 これは、【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補にそそのかされて、【肉欲の宴】という【隔離空間】をのこのこ覗きに行った事への罰の一環の宿題として、おるおさんが提案した創作依頼です。
 【踊詩】君はぶつぶつ言いながらもおるおさんが課した宿題をやらされているのです。
 ――と、こんな感じで、おるおさんが指導して、【踊詩】君が【世界混宇宙連】を作るための準備作業を開始しています。
 【ラピッマ】さんとの面会も【世界混宇宙連】のための行動の一つとなります。
 ただ面会させるのも何なので、理由をつけて【踊詩】君と【鑑定対決】をさせる事にしようと思っているのです。
 おるおさんは、【ラピッマ】さんの住んでいる場所を訪れました。
 おるおさんは、
「ごめん。
 じゃまするぞ。
 そなたが【ラピッマ】じゃな?
 妾はオルオティーナと申してな……」
 と言いましたが、【ラピッマ】さんと思われていた女性は、
「あのぅ……。
 確かに私は【ラピッマ】と言いますけどぉ〜……。
 大会に出ていた方をお探しなんですよね?
 それ、私じゃありません」
 と言いました。
 おるおさんは、
「な、なんじゃとぉ〜?
 ど、どういう事じゃ?」
 と尋ねます。
 どうやら人違いをしていたようです。
 おるおさんが会いたい存在は【ラピッマ】という名前では無いようです。
 経歴詐称(けいれきさしょう)です。
 【ラピッマ】さんは、
「あの……、私、名前と姿を貸して欲しいと頼まれたので、代金もらって貸しただけなんです。
 だから、あの大会に出て感動したって人、たくさん来たんですけど、私じゃ無いので困っているんです。
 良い物作ってくれって言われても私じゃないし……
 もしかしたら有名になるかも知れないと言われてましたけど、こんなに有名になるなんて思って無かったし。
 はっきり言って迷惑しているんです。
 詐欺女、詐欺女って言われるし。
 迷惑料も込みでって言われたけど、美味しい話だなって思って何も考えて無くて……」
 と言いました。
 安易に名前と姿を貸した事を後悔している様です。
 そう――楽してもうける話ほど怪しむべきなのです。
 その報酬が法外であれば法外であるほど怪しいと思わなくては。
 それがわかってなかった【ラピッマ】さんは、手痛いしっぺ返しを食らったようですね。
 おるおさんは、
「どうやら、無駄足をふんでしまった様じゃな。
 にしても、何故、姿を隠す必要が?
 ますます興味を持ったわ」
 と言いました。
 そして、
「それで、【ラピッマ】とやら。
 その名前を貸した奴の本名や姿でわかる事はないか?
 無ければ記憶を覗かせてもらいたいのじゃが……?」
 と言います。
 すると、【ラピッマ】さんは、
「……あれ?
 私どうしたんだろう?
 あれ、あなたどなた?」
 と言い出しました。
 おるおさんは、
「ちぃ……記憶消去――いや、記憶消滅か?
 徹底しておる。
 自分の居た形跡を隠すのに長けておるな。
 それにしても妾を謀る(たばかる)とは大した奴じゃ。
 是非、スカウトしたい」
 と言いました。
 行方を追う、おるおさんを手玉に取った、その手腕を評価しました。
 おるおさんには悔しいという気持ちはありません。
 むしろ、なかなかやるなと感心したのです。
 【ラピッマ】さんの名前を借りた本名も姿もわからない、謎の【超謎才】な存在。
 ますます、味方に引き入れたくなる、おるおさんでした。
 さて、姿形、名前もわからない、才能だけはあるという事がわかっている何かを探すにはどうしたら良いのでしょうか?
 おるおさんはしばし思案して、
「そうじゃのう。
 これもあやつへの宿題に追加しておくか。
 謎の【超謎才】を探し出す。
 これは良い罰ゲームになりそうじゃ」
 と言って楽しんだのです。
 おるおさんにとって見れば八方ふさがりではなく、新しいゲームを提供された様な気分でした。
 それにプレイヤーを【踊詩】君にしてしまえば、余計に頭を悩ませるより、【踊詩】君のお手並みを拝見する事にもつながり一石二鳥です。
 早速、おるおさんは、
「という訳じゃ。
 頼んだぞ」
 と【踊詩】君に言いました。
 【踊詩】君は、
「そんな、むちゃくちゃなぁ〜」
 と抗議しましたが、おるおさんは、
「それと、お主のコレクションの一部没収。
 どちらが良い?」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「はい。
 頑張って、その何かを見つけます」
 と二つ返事で返しました。
 【踊詩】君はコレクションを奪われるのがそれほど嫌なのです。
 コレクションだけ眺めて生活していたいくらいなのですから。
 

03 【SOIS/ソイス】――サムシング・オブ・インビジブル・サイド(SOMETHING OF INVISIBLE SIDE/見ることが出来ない側の何か)


 おるおさんから無理難題を突きつけられた【踊詩】君でしたが、おるおさんも鬼ではありません。
 彼女なりに、ヒントをくれました。
 おるおさんが言うには、
「恐らく、探すべき相手は【SOIS/ソイス】では無いかと思われる。
 【SOIS/ソイス】とは【サムシング・オブ・インビジブル・サイド(SOMETHING OF INVISIBLE SIDE/見ることが出来ない側の何か)】の略で、決して表舞台に出てこない存在達の事を指す。
 そのほとんどがクアンスティータ様に関する存在とされておるので、問題視しておらぬのじゃが、何故、【SOIS/ソイス】が姿を現さぬのかは正直、わかってはおらぬ。
 同じ【SOIS/ソイス】でも理由は様々じゃろうが、何一つとしてわからぬのじゃ。
 【ラピッマ】と名乗り、創作者の大会に参加した理由もな。
 じゃが、実力はどの【SOIS/ソイス】であろうとも折り紙付きじゃ。
 それだけは間違いないじゃろう。
 創作者の大会に参加すれば、優勝は確実視される。
 妾に正体を気づかれぬ者など、【SOIS/ソイス】にほぼ間違いないじゃろう。
 そもそも妾に知られておらぬ存在をまとめて【SOIS/ソイス】と呼んでおるのじゃからな。
 これでヒントになったじゃろ?」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「そ、そんなんがヒントになるかぁ〜」
 と文句を付けます。
 それはそうですね。
 おるおさんでもわからない存在だという事がわかっただけで、それが見つけるヒントには全くつながっていないのですから。
 ですが、それは【宇宙世界】の常識で考えればです。
 【宇宙世界】で【世界他外】以上のものを見る常識で考えればあり得なくはありません。
 それはどういう事でしょう?
 例を挙げましょう。
 【宇宙世界】から【世界他外】のものを見るときに、見ることが出来た数字を【1】、【2】、【3】、【5】という数字以外の数字だという事がわかったの【A】と
 【1】、【2】、【4】、【5】という数字以外の数字だという事がわかった【B】が判明したとします。
 正体のわからない【C】という数字が【A】と【B】を足したものを3倍にした数字だという事がわかったとします。
 更に、数字が【A】と【B】は【1】から【5】の整数しか無いと仮定すると【A】は、【4】、【B】は【3】だと仮定できて、【C】=3×(【4(A)】+【3(B)】)=3×【7】=【21】という数字が導き出せます。
 ですが、これはあくまでも数字が【1】から【5】までの整数となっているという条件や、3倍という条件が正しかった場合のみ肯定される答えとなります。
 それ以外のものがあればこの考えは破綻します。
 この【見聞方式(けんぶんほうしき)】を当てはめて考えると、【消去法(しょうきょほう)】に近い形で、ある程度まで答えが推測出来るという捜索方法になります。
 とは言え、この例はあくまでも簡単な数字に置き換えて説明しているだけであり、実際の捜索思考は超複雑怪奇なものとなっています。
 【吟侍】君と違い【世界他外】にも直接行き来できる力を持っている【踊詩】君であれば、捜索は全くの不可能ではないのです。
 完全に的中という形にはなりませんが、それでも、範囲をかなり絞って捜索する事が出来るのです。
 この不思議な方法を使って【踊詩】君は名前も正体もわからない、恐らくはおるおさんが認識出来ない存在――【SOIS/ソイス】を探します。
 ダメ元でしたが、なんと、【踊詩】君、名前だけはあっさりと見つけたのです。
 その名前は、【ニヌ・クォトヌァール】さん――です。
 あれ?
 どこかで聞いた様な名前ですね?
 そう、【世界混宇宙連】の7つを任せる事になっているクアンスティータ様の置き土産と呼ばれている【ニズ・クォトヌァール】ちゃんに名前が似ているのです。
 違いは、【ニヌ】さんと【ニズ】ちゃんというファーストネームだけです。
 では、【ニヌ】さんとは何者なのでしょうか?
 それは、第四次女と呼ばれる存在になろうとしている存在です。
 現在は、第三姉妹の審査が行われているため、第四姉妹は存在していませんが。
 ややこしいですね?
 一体、どういう事でしょうか?
 【ニズ・クォトヌァール】ちゃんは、【永遠の妹】と呼ばれている存在で、彼女の姉になりたいという年頃の女の子達は後を絶ちません。
 それだけ、【ニズ】ちゃんは、魅力的なのです。
 これまで、第一審査と第二審査が行われ、それぞれ、第1長女から第1三女と第2長女から第2三女まで選ばれております。
 この姉妹は四姉妹制となっていて、第1四女と第2四女は共に、【ニズ】ちゃんとなっています。
 理解しにくいとは思いますが、これは【ニズ】ちゃんと義理ではなく、実の姉妹になるという儀式の様なものなのです。
 姉達は可愛い妹、【ニズ】ちゃんのためにだけ動く様になると言われています。
 おるおさんがお探しの【ニヌ・クォトヌァール】さんは第4次女ですので、第3姉妹が決まっていない状態で姿を現す事は出来ない。
 ――というつまり、そんなよくわからない理由である事がわかったのです。
 第4審査が行われるまで姿を現す事が出来ない女性――それが、【ニヌ・クォトヌァール】さんなのです。
 その答えを導き出したのが【踊詩】君のレベル3の【答えの力】――【虚答(きょとう)】でした。
 【正解】につながらない【答え】を出す【答え】の力、【虚答】。
 この力は【吟侍】君には使えません。
 彼だから【答え】につながったのです。
 そして、更にレベル3の【答えの力】――【超答(ちょうとう)】を使って、【ニヌ】さんとコンタクトを取りました。
 【超答】――それは超えられぬ壁を越える力。
 出会え無いという壁を越えて、【ニヌ】さんへとたどり着きました。
 交渉してみると、彼女は【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補に【師匠】と呼ばれてつきまとわれているので、姿を見せる訳にはいかないとの事でした。
 あの3名はここでも迷惑をかけていたようです。
 だったら簡単です。
 【踊詩】君は、レベル3の【答えの力】――【謎答(めいとう)】を使います。
 【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補は、永遠に【ニヌ】さんにたどり着かないという【答え】を植え付けられました。
 【謎答】――それは答えにたどり着かないという【答え】を植え付ける力です。
 クアンスティータ様の【謎の力】に近い力ですね。
 そう言えば、【謎答】にも【謎】の文字がついていますからね。
 【虚答】、【超答】、【謎答】という3つのレベル3の【答えの力】――これを持っているから、【踊詩】君は【吟侍】君を超える才能があると言われているのです。
 【踊詩】君は、さらに【ニヌ】さんと【超答】を使って交信し、正体が知られたくないのであれば、【謎答】を使って【正体】を隠すので、おるおさんと会ってくれませんか?とお願いしました。
 【ニヌ】さんは、【正体】じゃなくて良いのであればと二つ返事で答えてくれました。
 さっそく、【踊詩】君は、【謎答】を使って、彼女の【正体】を隠す体を用意しました。
 【踊詩】君好みの美女ができあがりました。
 更に正体を隠したいというので【眼鏡】をかけさせてみると、【ニヌ】さんは、【眼鏡】をかけているのは自分と一緒だと言っていました。
 どうやら本物は【眼鏡】をかけた知的美女の様ですね。
 【踊詩】君が用意した仮の体に入り、名前も【ティラリン】と言う偽名を用意して、おるおさんと会う約束を取り付けました。
 これならば、おるおさんの会って話したいという希望もクリアしていますし、【正体】を知られたくないという【ニヌ】さんの希望もクリアしています。
 オマケに、見た目が、【踊詩】君好みの美形になっているので、一石三鳥(いっせきさんちょう)というところですね。
 早速、事情をおるおさんに話します。
 おるおさんは、
「ふむ。
 そういう事情であれば、しかたあるまい。
 では第4次審査が終了すれば【正体】を表すという事で良いのじゃな?」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「本人はそう言ってましたね。
 まぁ、人じゃないかも知れないから【本人】という言い方が合っているのかわかりませんけどね」
 と答えました。
 おるおさんは、
「うむ、見事な手前じゃ。
 【肉欲の宴】に行きおった件はこれで不問とする」
 と言ってくれました。
 良かったですね、【踊詩】君。


04 【千頂属鑑定対決(せんちょうぞくかんていたいけつ)】13番勝負1


 さらに、おるおさんは、
「では、【稀生 踊詩】、
 そなたにはその者と【鑑定勝負】をしてもらう。
 勝てば、【世界混宇宙連】の【主任創作者】、負ければ【副主任創作者】になってもらう。
 妾はそなたとその者の共同で【世界混宇宙連】を創作して欲しいのじゃ
 それで、かまわぬな?」
 と【踊詩】君に聞いてきました。
 【踊詩】君も【ニヌ】さんは【正体】が女性っぽいし、性格も良さそうなので、
「良いですよ。
 この勝負、お受けしましょう」
 と答えました。
 女性と一緒だと好き勝手に作れなくなるという事は頭にはありません。
 それよりも素敵な女性と共同作業が出来るという事に舞い上がっているのでした。
 おるおさんは、
「それで、【鑑定勝負】のルールじゃが、その者と共に説明する。
 共に説明せねば不公平じゃからな。
 そなたはまず、作りかけの【複種体験(ふくしゅたいけん)システム構築】を完成させよ。
 話しはそれからじゃ」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「あ、それなら出来てますよ。
 時間があったので、1000種類ほど【隔離世界】のバリエーションを増やしましたけどね」
 と言いました。
 おるおさんは、
「おぉ、それは良い。
 さすが、仕事が早いな。
 では、早速、その【ティラリン(偽名)】という者を連れて参れ。
 話をしようではないか」
 と上機嫌です。
 おるおさんには【ニヌ】さんの名前を【ティラリン】として伝えています。
 【踊詩】君は早速、レベル3の【答えの力】を使って、【ニヌ】さんを【ティラリン】の体の中に隠して招待しました。
 【ニヌ】さんは、
「初めまして【ティラリン】です。
 本名はまだ名乗れませんが、よろしくお願いします」
 と挨拶をしました。
 礼儀正しい女性の様です。
 【ラピッマ】さんを利用しておるおさんから隠れている手腕を見ていますから、もっと【破天荒】な女性が来ると思っていましたが、どちらかと言うと清楚なタイプの様です。
 姿を隠していてもその物腰から品が良い女性だというのがよくわかります。
 おるおさんは、
「ふむ。
 なかなか礼儀正しい者の様じゃな。
 妾はオルオティーナ。
 クアンスティータ様の乳母にして摂政を任されたものじゃ。
 じゃが、クアンスティータ様も引退なされるという事になってのぅ。
 御方(おんかた)の後継者様が使用なさる【世界混宇宙連】と言う空間をそなたとこやつ――【稀生 踊詩】に彩って欲しいのじゃ。
 それに従い、そなたと【稀生 踊詩】のどちらに主任創作者をしてもらうかを見るために、勝負をしてもらいたい。
 勝った方が主任創作者。
 負けた方が副主任創作者となる。
 むろん、報酬ははずむ。
 どうじゃ?
 受けてはもらえぬか?」
 と言いました。
 【ニヌ】さんは、少し考えて、
「――そうですね。
 お受けしても良いですよ。
 この方(【踊詩】君)には先日、助けていただいた様ですし、私が副主任でかまわないのですが、勝負で決めたいというのであれば、それでもかまいませんよ」
 と言いました。
 どうやら、こっそりとやった【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補との縁を絶ちきった【謎答】の事をご存じだった様です。
 それがわかるだけでも相当な実力者だというのが推測出来ます。
 おるおさんは、
「良い物を作ってもらいたいので、【勝負】は真剣にしてもらいたい。
 【稀生 踊詩】――そなたも相手がおなごだと思って手を抜くなよ。
 手を抜けば仕置き再開となる。
 それは肝に銘じておけ」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「りょ、了解です」
 と言いました。
 どうやら、【踊詩】君、おるおさんの事がちょっと怖いみたいですね。
 特にお仕置きが。
 おるおさんは、
「では勝負の方法を説明する。
 これは【千頂属鑑定対決(せんちょうぞくかんていたいけつ)】13番勝負とする。
 13番勝負にしたのはクアンスティータ様の数字にちなんでじゃ。
 7本先取で勝利となる」
 と言いました。
 【千頂属鑑定対決(せんちょうぞくかんていたいけつ)】の【千頂属(せんちょうぞく)】とは何を指すのでしょうか?
 それは、【千種類】の【骨董品】の様なものを指します。
 地球でも【鑑定】するのに【茶器】や【アンティークドール】、【壺】や【掛け軸】、【刀剣】に【絵画】、【おもちゃ】など様々な種類の品物があります。
 そう言った種類の中で、現界の中で【骨董品】の最高峰とされるのが、【千頂属品揃え(せんちょうぞくしなぞろえ)】と呼ばれる千種類のアイテムになります。
 残念ながら、地球では重宝されていても宇宙レベルとなると先ほどの【茶器】や【アンティークドール】、【壺】や【掛け軸】、【刀剣】に【絵画】、【おもちゃ】などは含まれません。
 地球では見たことも聞いたこともない様なアイテムが選ばれています。
 よくわからないと思いますので、少々例を挙げましょう。
 例えば、【パーパスポイ】というアイテムです。
 これは、そのままでは維持できない無形の物質などを固めて保存する道具なのですが、当然、地球にはありません。
 ですが、これは安価なものでも星が2、3買えるほどの値打ちがついていると言われています。
 高い物になると天井知らずとも言われています。
 それにも関わらず、残念ながらこのアイテムも【千頂属品揃え】には選抜されておらず、次のランクの百万種類のアイテムを指す【百万次品揃え(ひゃくまんじしなぞろえ)】に属するアイテムになります。
 という様に、【千頂属品揃え】とはものすごく価値のあるアイテムなのです。
 おるおさんの提案では、珍しい【千頂属品揃え】を取りそろえてきても良し、自分で作って【千頂属品揃え】に選ばれても良いとの事でした。
 収集で勝つか、それとも己の才能で勝つかは自由という事ですね。
 ですが、【千頂属品揃え】には当然、歴史的価値も含みますので、自分で作ったアイテムはそこが不利とも言えますね。
 何にせよ、相当な価値のあるものが出てくる面白そうな勝負になりそうですね。
 血も流れない勝負ですし、ここは一つ楽しむのが手ですね。


05 【千頂属鑑定対決(せんちょうぞくかんていたいけつ)】13番勝負2


 おるおさん、【踊詩】君、【ニヌ】さんで相談した結果、準備期間に10日を要して、勝負する事になりました。
 それを決めてから、はい、勝負スタート。
 【踊詩】君と【ニヌ】さんは早速準備に取りかかりました。
 【ニズ】さんと言っていますが、おるおさんには、【ティラリン(偽名)】と名乗っているので、勝負が終わるまで【ティラリン】さんで通しましょう。
 おるおさんが彼女を呼ぶと本名と異なりややこしくなりますので、混乱を防ぐ意味でもとりあえず、【ティラリン】さんで統一しておきましょう。
 勝負は個人戦なので、【踊詩】君は【化形の少女】達の手は借りません。
 あくまでも自分の力で戦います。
 え?
 こっそりやればバレないですって?
 それは無いです。
 【踊詩】君は自分の好きな分野で勝負しています。
 好きな事に対してインチキを使うのはその事に対する侮辱と彼はとらえています。
 なので【踊詩】君はそんな卑怯な真似はしません。
 あくまでも真剣勝負です。
 それが【コレクター】としての矜持(きょうじ)、意地でもあります。
 対する【ティラリン】さんもそれは同じです。
 【踊詩】君には鬱陶(うっとう)しい3人を追っ払ってもらったという恩がありますが、勝負は勝負。
 わざと負けるのは逆に失礼です。
 だから彼女も真剣勝負です。
 そんな感じで、双方共に、力の限り、準備を整えました。
 勝負開始の10日後はあっという間に過ぎた様な感覚でした。
 さて、勝負の現場である、おるおさんの別荘の1つ、【サラトネ宮殿跡地】ではおるおさんが配下の美女軍団と共に審査席を取り囲む様にして待っています。
 審査席には【特頂査定者(とくちょうさていしゃ)】の13名も座っています。
 おるおさんは今回、審査には加わりません。
 【千頂属品揃え】についての【査定眼(さていがん)】を持ち合わせていないからです。
 【千頂属品揃え】と言えば、その査定の専門職、【特頂査定者】に任せるのが一番だと判断して、自身が統括しているクアンスティータ・ファンクラブから、【特頂査定者】を呼び出して、審査に当たらせる事にしたのです。
 彼等には、真剣に審査しろとおるおさんは命じています。
 なので忖度(そんたく)無しの判定となります。
 先に現れたのは【踊詩】君でした。
 まだ、勝負開始予告の40分前です。
 彼は仮にデートがあった場合、待ち合わせ時間より先に来て待っているタイプなようですね。
 最もデートをする相手が居ればの話ですけどね。
 デートではないのですが、対戦場に来てソワソワと待っています。
 対して、【ティラリン】さんは、開始10分前に現れました。
 こちらは時間をきっちり管理するタイプの様ですね。
「ごめんなさい。
 待ちました?」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「い、いや、今、来たとこです」
 と言いました。
 嘘です。
 これは嘘です。
 彼は40分前から来ています。
 まるでデートの待ち合わせの様に本人、浮かれております。
 という様に多少、勘違いしている者が約一名いるみたいですが、双方共に遅刻癖が無いのは良いことですね。
 遅刻しようものなら、おるおさんからきつぅ〜いお仕置きを食らっていた可能性がありますので。
 時間厳守。
 勝負の時間を守るのは大切です。
 どこぞの侍の様に遅れてきて相手のイライラを誘うなどの行為をしてはならないのです。
 さて、真剣勝負という事になったこの【13番勝負】ですが、
 方やにこにことしています(【ティラリン】さんサイド)。
 方やデレデレしています(【踊詩】君サイド)。
 とても真剣勝負をこれからしようという雰囲気ではありませんね。
 見学に来た【化形の少女】は、
「ご主人〜。
 顔がにやけていますよ〜。
 しっかり〜」
 と応援します。
 応援するのは結構ですが、勝負はアイテムの【鑑定】――【査定対決】ですので、ここにアイテムを持ってきている時点で勝負は半分、決まった様なものですけどね。
 アイテムを出す順番くらいは変更出来るでしょうが、双方、持ってきた13のアイテムというのは代わりがありませんからね。
 つまり、応援しようがしまいが、結果はほぼ変わらないという事になりますね。
 ですが、味方を応援したくなるというのは人情というやつですかね?
 【化形の少女】は人間ではありませんけどね。
 さて、【ティラリン】さんが現れてから10分というのはすぐに経ちました。
 さぁ、勝負の時です。
 双方、まず、一品目を出してください。


06 【千頂属鑑定対決(せんちょうぞくかんていたいけつ)】13番勝負3


 まず、【踊詩】君が出した1品目――それは、【フォークァイ】という種類のアイテムです。
 この種類は当然の事ながら、【千頂属品揃え】の中に含まれていなくてはならないのです。
 【千頂属品揃え】以外の品目、もしくは贋物(がんぶつ)だったのであれば、即、判定は×(バツ)という事になります。
 さて、どうでしょうか?
 【特頂査定者】の一人、【クラウス】氏が口を開きます。
「これは【千頂属品揃え】に間違い無いです。
 【フォークァイ】ですね。
 見事な作品です。
 【フォークァイ】とは、一見、ただのガラス玉に見えるのですが、見えない物を【吸依(きゅうい)】――物による【憑依(ひょうい)】の様なものの事を【吸依】と呼ぶのですが、そうさせて形にする道具ですね。
 見えない物の価値を見える様にして、判断する道具です。
 ただし、一度でも使用してしまうとこの玉は【崩壊】する事から【崩壊】→【フォークァイ】と呼ばれる様になった逸品です。
 ただ、残念なのは、これの歴史的価値はゼロだという事ですね。
 歴史的価値は100年ものからつき始めるのですが、これ、ひょっとしてあなたが作ったものではないですか?
 仕事としては見事と言うより他はありませんが、歴史的価値がつかない分のマイナスは痛いかも知れませんね」
 との評価でした。
 【踊詩】君は、
「見抜かれちゃったか。
 年期加工したんだけど、駄目だった」
 と言いました。
 【クラウス】氏は、
「ビンテージ感を持たせるためにそういう加工をする方、結構いるんですけどね。
 その仕事も見事でしたよ。
 素人目ならそう思ったかも知れませんが私には通用しませんよ。
 一見するとただのガラス玉ですからね。
 その善し悪しを判断出来る者じゃないと私達【特頂査定者】にはなれませんよ。
 残念でした。
 でも技術は凄いです」
 と言いました。
 【踊詩】君はどうしても13アイテム揃えられなくなって、最後に【千頂属品揃え】の中で一番作りやすい【フォークァイ】の創作をした様でしたが、プロの目はごまかせなかった様ですね。
 続いて、後攻である【ティラリン】さんが出した一品は、【ブロッキュン】というアイテムでした。
 これも当然、【千頂属品揃え】の中に含まれております。
 【特頂査定者】の【チャーリー】氏は、
「これは、お嬢さん、あれですね?
 【ブロッキュン】。
 素晴らしい。
 良い出来ですね。
 これは【ロスト暦】2469年の作品――幻の逸品です。
 【ロスト暦】とは歴史から消えた年の事を指し、2469年とは正式に数え初めてから【2469】番目に消えた年の事を指します。
 2469年ものは少ないんですよね、出回っているものが。
 更に言えば、【ブロッキュン】とは、【時を再生】するアイテムですからね。
 失われた年代にありながら【時を再生】するアイテムが実在していたという事が驚きの逸品なのです。
 相反する物が同じ時代に存在した。
 【時の再生】自体は当然、壊れていているのですが、歴史的価値――ん?
 これ……
 動いている?
 まさか、【時の再生】が生きている?
 き、奇跡だ。
 奇跡の逸品だ。
 こ、これ、どうやって手に入れて?」
 と何やら驚愕している様子です。
 これは一目瞭然ですね。
 第1審査は【ティラリン】さんに軍配が上がったようです。
 負けはしましたが【踊詩】君も大健闘という所でしょう。
 それに、これは7本先取の13番勝負です。
 まだ、勝負は始まったばかりです。
 次こそはと思って【踊詩】君はとっておきのアイテムを用意します。
 それに対して【ティラリン】さんもとっておきのアイテムで対抗します。
 勝負は信じられないくらいの超高額査定のオンパレードでした。
 結果、【踊詩】君は、3勝しますが、先に【ティラリン】さんに7勝を取られ敗北しました。
 敗北こそしましたが、どちらも【贋物】無しの素晴らしいアイテムを取りそろえてきたのでおるおさんは、
「うむ。
 良い勝負であった。
 目で楽しませてもらった。
 では、【ティラリン】、そなたに主任創作者をやってもらいたいと思うが受けてもらえるか?」
 と言いました。
 【ティラリン】さんは、
「そうですね。
 残念ですが、お受けできません。
 ですが、副主任創作者であればお受け出来るのですが?」
 と言いました。
 おるおさんは、
「何故じゃ?
 そなたは勝ったのじゃぞ?
 なぜ、副主任なのじゃ?」
 と聞きますと、【ティラリン】さんは、
「あら?
 勝ったからこそ、どちらかを選ぶ権利があると思いますが違いますか?
 それに私は収集したアイテムばかり持ってきました。
 対して、【稀生 踊詩】さんは、ご自分で創作されたもので勝負して、私に3勝もしているのですよ。
 私としてはその創作技術を正統に評価してあげて欲しいと思っていますよ。
 駄目ですか?」
 と言いました。
 言われて見れば、確かにその通りだとも言えます。
 【踊詩】君には【千頂属品揃え】の査定で勝てるだけの技術があるのです。
 おるおさんは、
「しかしのぅ……
 勝った者が副主任というのは……」
 と言いますが、【ティラリン】さんは、
「だったら、私から彼へのお礼だと思ってください。
 私もお手伝いさせていただきますし、創作するのであれば、主任、副主任という事に大きな違いは無いと思いますが?」
 と言います。
 おるおさんは、
「うむ。
 そなたが良いというのであれば、妾としても反対する言われはないな。
 元々、【稀生 踊詩】に任せるつもりじゃったからな」
 と言いました。
 それを聞いた【化形の少女】は、
「ご主人。
 やりましたね。
 棚からぼた餅です」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「その言い方、なんだか傷つくな……」
 とつぶやきました。
 確かに物語の主人公としてはあまり、格好の良い結果ではないからです。
 ですが、どういう経緯であろうと【踊詩】君が【世界混宇宙連】の主任創作者を勝ち取ったのは間違いないのですから。
 あ、いや、【負け取った】の間違いでしたね。
 お後がよろしいようで。


続きます。






登場キャラクター説明

001 おるおさん(オルオティーナ)

おるおさん この話の主人公で、クアンスティータ様の【宇宙世界(うちゅうせかい)】の管理を任されているクアンスティータ様の乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあるとっても偉いお方です。
 クアンスティータ様が引退し、芦柄 くあん(あしがら くあん)として生きていく事になったため、クアンスティータ様の所有していた【宇宙世界】をクアンスティータ様の後継者に渡すかで問題になり、【世界他外(せかいたがい)】という【宇宙世界】より一つ上の単位の場所の一部を切り取り、【新宇宙世界】→【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】として、一から作ることになり、その創作者として13を【クエニーデ】ちゃん、7つを【ニズ・クォトヌァール】ちゃんに任せる事にして、残り4つを誰にするかで悩んでいます。


002 【踊詩】君(稀生 踊詩(きにゅう ようし))

稀生 踊詩 才能はあるけど、性格がとてもザンネンな男性です。
 【芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)】君の弟弟子に当たる存在ですが、彼と違い勇気も無く引きこもり生活を続けています。
 【世界他外】で【マイスペース】を作って生活するなど、しれっと高いポテンシャルを発揮します。
 女の子は大好きですが女性不信でもあります。
 マヌケな性格をしていますので、得る事よりも失う事が多いというのが彼の特徴でもあります。
 でも大切な女の子を泣かされた時は彼はかっこよく変貌します。
 【吟侍】君のものを超えるレベル3の【答えの力】を使います。
 よくわからない男性ですね。


003 化形の少女(けぎょうのしょうじょ)

化形の少女 【踊詩】君の元にいる【化形(けぎょう)】と呼ばれる存在の少女です。
 元々は第14側体クアンスティータ・フィーニス様の勢力とされていて、宇宙の初めから終わりまでを記録する存在でしたが、どういう経緯か【踊詩】君の【マイスペース】でお掃除などを担当して生活をしています。
 【踊詩】君の事を【ご主人】と呼びお世話をしていますが、どこか不満があるのか、時折、【踊詩】君の事を【ご主人】では無く、【奴】と呼びます。
 【踊詩】君の代わりにプレゼンをしてくれます。


004 てぃーおちゃん(ティーオルオナ)

てぃーおちゃん おるおさんの娘でおるおさんの後を継いで、クアンスティータ様の後継者の乳母(うば)と摂政(せっしょう)をしようという女の子です。
 男性が少々苦手な様ですが、【踊詩】君の作品の大ファンであり、彼を【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】の創作者に推薦します。
 実力的にはおるおさんよりも劣るようです。


005 【領総(りょうそう)】候補

領総候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その1です。
 自分の事を【私】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【無】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【無の春】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【虚の夏】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【絶の秋】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【断の冬】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。
 【ニヌ】さんに負けて彼女の弟子になろうとしますが、【踊詩】君の【答えの力】、【謎答(めいとう)】により、彼女との縁を完全に絶ちきられます。


006 【触対漢(しょくたいかん)】候補

触対漢候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その2です。
 自分の事を【俺】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【食】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【膨食(ぼうしょく)――暴食(ぼうしょく)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【業飲(ごういん)――暴飲(ぼういん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【爆酒(ばくしゅ)――酒豪(しゅごう)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【速食(そくしょく)――早食い】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。
 【ニヌ】さんに負けて彼女の弟子になろうとしますが、【踊詩】君の【答えの力】、【謎答(めいとう)】により、彼女との縁を完全に絶ちきられます。


007 【スドケベェ】候補

スドケベェ候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その3です。
 自分の事を【僕】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【肉欲】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【肉欲の宴(にくよくのうたげ)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【肉布団(にくぶとん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【酒池肉林(しゅちにくりん)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【女体盛り(にょたいもり)】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。
 【ニヌ】さんに負けて彼女の弟子になろうとしますが、【踊詩】君の【答えの力】、【謎答(めいとう)】により、彼女との縁を完全に絶ちきられます。


008 【ラピッマ】さん

ラピッマさん 【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補を打ち負かした【ニヌ】さんに名前と姿形を貸した女性です。
 迷惑料も込みの安易な報酬に目がくらんで、痛い目を見たちょっと思慮に欠ける女性ですね。


009 【ニヌ・クォトヌァール】さん

ニヌ・クォトヌァール おるおさんでも【正体】がわからない、【SOIS/ソイス】――【サムシング・オブ・インビジブル・サイド(SOMETHING OF INVISIBLE SIDE/見ることが出来ない側の何か)】と呼ばれている存在の一人で、【永遠の妹】と呼ばれている【ニズ・クォトヌァール】ちゃんの第4次女になりますね。
 現在は第3姉妹の審査中であるため、第4姉妹である彼女は表舞台に出ることが出来ません。
 そこで、【正体】を隠して趣味の創作の大会に参加したのですが、才能がありすぎて、【超謎才(ちょうめいさい)】という現界における天才、秀才などの最高位の褒め言葉で呼ばれる存在として有名となります。
 その時は、【ラピッマ】という女性のふりをしていたのですが、【踊詩】君のレベル3の【答えの力】、【虚答(きょとう)】により彼女の【正体】がつきとめられます。
 結果、【踊詩】君に、【ティラリン】という仮の体と偽名を用意してもらって【踊詩】君と鑑定勝負し、勝利します。
 結果として、【踊詩】君に主任を譲って彼女は副主任創作者を引き受けることになりました。


010 【クラウス】氏

クラウス氏 【踊詩】君と【ニヌ】さんが、【鑑定勝負】をした時の審査員の一人で、クアンスティータ・ファンクラブに所属する男性です。
 【千頂属品揃え(せんちょうぞくしなぞろえ)】という現界における千種類の頂点のアイテムを査定する事に特化した【特頂査定者(とくちょうさていしゃ)】の資格を持っています。
 【フォークァイ】という一見、ガラス玉に見える見えない物を【吸依(きゅうい)――物による【憑依(ひょうい)】の様なもの】させる事によって形を作って見るアイテムの査定をしました。


011 【チャーリー】氏

チャーリー氏 【踊詩】君と【ニヌ】さんが、【鑑定勝負】をした時の審査員の一人で、クアンスティータ・ファンクラブに所属する男性です。
 【千頂属品揃え(せんちょうぞくしなぞろえ)】という現界における千種類の頂点のアイテムを査定する事に特化した【特頂査定者(とくちょうさていしゃ)】の資格を持っています。
 【ブロッキュン】というアイテムの査定をしました。
 【ブロッキュン】とは歴史から消えた年、【ロスト暦】の中であるはずの無い【時を再生】する機械の事を指します。
 本来は壊れているものなのですが、【ニヌ】さんが持ってきた【ブロッキュン】は動いていたので、それは奇跡だと評価しました。