承002話

おるおさんの新宇宙世界2話挿絵

01 おるおさんは悩ましい


「残ったのはこの4名か……
 正直、どいつもこいつもという感じじゃな……」
 おるおさんは悩んでいます。
 彼女はクアンスティータ様の乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあると同時に、クアンスティータ様が芦柄 くあんと名を変え、引退する事が決まってからクアンスティータ様の後継者様を誰にするかで頭を悩ませていました。
 【クアンスティータ様の後継者様】の乳母や摂政は彼女の娘であるティーオルオナ――てぃーおちゃんに任せたのは良いのですが、クアンスティータ様の所有する【宇宙世界(うちゅうせかい)】はクアンスティータ様の部屋の様なものです。
 よって【世界他外(せかいたがい)】以上の単位は後継者様に引き継ぎますが、【宇宙世界】だけはクアンスティータ様のものであり、それをおるおさんが管理しています。
 問題は【クアンスティータ様の後継者様】が所有する【宇宙世界】が存在しない事になるという事です。
 そこで、【世界他外】以上の場所の一部から、【新たな宇宙世界】用の空間として、ダウンサイジングして持ってくる事が決まりました。
 ですが、【宇宙世界】と違い、それはスペースのみの空っぽの空間です。
 そこで、【新たな宇宙世界】を【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】として、一から作ることになりました。
 【世界混宇宙連】は24あり、その内の13は【クアンスティータ様の後継者様】の大本命、【クエニーデ・クアンスティータ】ちゃんが作る事になり、7つは【クアンスティータ様の置き土産】とも言われる【ニズ・クォトヌァール】ちゃんが受け持ち、クアンスティータ様の第一本体から第七本体までの所有【宇宙世界】をリメイクする事になりました。
 残った4つの【世界混宇宙連】ですが、その創作者を巡って、なかなか適任者がおらず、苦悩している所でした。
 てぃーおちゃんの推薦で、くあんちゃん達の養父となった【芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)】君の弟弟子に当たる存在、【稀生 踊詩(きにゅう ようし)】君を紹介されましたが、彼は才能こそはあるものの、性格面ではとてもザンネンな男性でした。
 それでも彼の代わりにプレゼンテーションをした【化形の少女(けぎょうのしょうじょ)】のアピールは素晴らしいものがありましたので保留にいたしました。
 他の創作者候補達も見て回り、クアンスティータ様の【宇宙世界】の劣化コピーとしか思えない様なテーマを提案した者達を省いていくと4名が残ったのです。
 その4名の候補者の用意した書類を見て、おるおさんはため息をつきます。
「――候補者bO83
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【無の春】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【虚の夏】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【絶の秋】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【断の冬】か……
 こやつのテーマは【無】じゃな。
 じゃが、こやつはテーマをはき違えておる。
 【無】では、持ってくる空っぽの状態の【世界混宇宙連】のままではないか。
 何かで埋めろと申しておるのに、【無】では意味がないのじゃ」
 と言いました。
 芸術性で見たら、【無】もありかも知れませんが、それでは【世界混宇宙連】を持って来た意味がありません。
 何も埋めないのであれば創作者は誰でも良いという結論に達してしまいます。
 bO83さんは問題をはき違えているという事ですね。
 続いて、
「――候補者bP98
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【膨食(ぼうしょく)――暴食(ぼうしょく)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【業飲(ごういん)――暴飲(ぼういん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【爆酒(ばくしゅ)――酒豪(しゅごう)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【速食(そくしょく)――早食い】……
 こやつのテーマは【食らう】か――つまり、食っちゃ寝しかしておらん。
 食う事と飲む事にしか執着していないのであればわざわざ、【世界混宇宙連】を持ってくる意味が無い」
 とつぶやきます。
 これでは食べる量や飲む量、早く飲み食いする事、グルメなどのテーマにはなりますが、それ以外には何もありません。
 これだけでは、面白味に欠けるという事ですね。
 さらに、
「――候補者bT42
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【肉欲の宴(にくよくのうたげ)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【肉布団(にくぶとん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【酒池肉林(しゅちにくりん)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【女体盛り(にょたいもり)】……
 こやつは論外じゃな。
 何を考えておるのじゃ?
 クアンスティータ様の後継者様が受け持つ【世界混宇宙連】のテーマとしてはあり得ん事じゃ。
 この痴れ者を無礼討ちにしたいくらいじゃ」
 と言いました。
 【ファーブラ・フィクタ】と【プハンタシア・クアンティタース】は健全な物語を目指しています。
 作者としては決して嫌いでは無いですが、【ファーブラ・フィクタ】と【プハンタシア・クアンティタース】のテーマとしては認める訳にはいきませんね。
 他の作品でやりましょうという所ですね。
 そして、
「――候補者bP034
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【代体(たいたい)――別の体】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【コレクションタワー、コレクションレイク――趣味の塔、趣味の湖】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【姫形(きぎょう)――貴重な人形】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【唯秘蔵物(ゆいひぞうぶつ)――大切な宝物】……
 やはりこやつが一歩も二歩も抜きん出ておる。
 やはりこやつを選ぶのがベストじゃろうな。
 候補者bP034――【稀生 踊詩】――奴を候補者に選ぶのが一番良い――というより適任者がこやつしかおらん。
 他の奴よりはいくらかマシじゃな。
 問題は奴の困った性格じゃが……。
 なんとか矯正したい所だのぅ……」
 と言いました。
 残った4名の候補者達の中では【踊詩】君を創作者として選ぶのが一番しっくり来るようです。
 ですが、おるおさんの印象が悪い、他の3名が、
「「「ちょっと待ったぁ〜」」」
 と声を上げたのです。
 他の3名に寄ると、えこひいきは納得が行かないという事でした。
 一応、その他の十把一絡げの候補者達より優れた才能を披露したのだから、ちゃんと審査して欲しいと申し出てきたのでした。
 確かにクアンスティータ様の劣化コピー以外は候補として残すつもりでしたが、内容が内容ですので、おるおさんとしては認めたくありません。
 ですが、彼等が言っているのは正論です。
 一応は、条件をクリアしたのですから、判定基準でミスをしたのはむしろ、おるおさんの方でしょう。
 という訳で次の審査に残ったのです。
 次の審査は、【モデルバージョン審査】として、独自の【隔離空間】でのプレゼンを行うのです。
 メインテーマ1点、サブテーマ3点の計4点を審査する事になっており、審査を受ける者は一番自信のある【モデルバージョン】を作り、審査を受ける事になります。
 審査責任者としておるおさんが見ることになるのですが、【踊詩】君以外の3名の【モデルバージョン】の【隔離空間】など見たくもないというのが正直な意見ですかね。
 おるおさんは【踊詩】君に檄を飛ばします。
「良いな。
 必ず勝つのじゃ。
 負けは許さぬ」
 と。
 少しドスを利かせています。
 どうやら、どうしても【踊詩】に勝って欲しいみたいですね。
 その後、おるおさんが知らない内に、【踊詩】君の代理である【化形の少女】が他の3名の候補者と対立し、他の候補者3名対【踊詩】君の図式ができあがったようですね。
 喧嘩の仲裁に入ったおるおさんが3対1となった対立に対して、
「では、こうするのはどうじゃ?
 【モデルバージョン】はメインテーマ1点、サブテーマ3点を作り、審査するものじゃった。
 2対2で勝負し、勝ち残った者が決勝審査として別の【モデルバージョン】を提供してもらう事にする予定にしておったのじゃが、変更する。
 お主達3名はチームとなり、これまで通りメインテーマ1点、サブテーマ3点の一人4点をアピールせよ。
 対して、【稀生 踊詩】側は12点作ってもらう。
 3つの【世界混宇宙連】のテーマから持ってきてメインテーマ3点、サブテーマ9点にするも良し、自信があるのなら1つの【世界混宇宙連】から、1つのメインテーマとサブテーマ11点にしても良い。
 勝負はそれで優劣を決める。
 【稀生 踊詩】側が勝てばそれで、決定じゃ。
 お主達3名が勝てば、お主達3名で決勝審査を行う。
 それで、文句はあるまい?」
 と言いました。
 それでも他の候補者3名はぶつぶつ言っていたので、【化形の少女】は、
「わかりました。
 ならば、あなた方が私のご主人の【世界混宇宙連】の中から好きなものを選択してください。
 ご主人はそのテーマで戦わせていただきますわ」
 と啖呵を切ったのです。
 3人の態度がよっぽど腹に据えかねたんでしょうね。
 ブーブー文句を言う3人に対して、【踊詩】君が完膚無きまでに叩きのめしてやるのでしょうと思って強気の発言をしたのです。
 おるおさんは、
「良いのか?
 一応、本人の許可を取った方が良くはないか?」
 と聞きましたが、興奮している【化形の少女】は、
「大丈夫です。
 ご主人は才能だけはあるのです。
 あんな連中、けちょんけちょんにしてやりますよ」
 と言っていましたが、ちょっと不安顔です。
 ご主人の許可を得ずに勝手な約束事をしてしまったと思って不安に思ったんでしょうね。
 おるおさんは気をつかって、
「では、妾からの提案という事にしておく。
 それならば、そなたのメンツも保たれるであろう?」
 と言いました。
 【化形の少女】は、涙ぐみ、
「ありがとうございます」
 と言いました。
 それを見てたんでしょうね。
 相手側の3名は後で嫌がらせをしてきます。
 最初は【第三世界混宇宙連】のテーマである【姫形(きぎょう)――貴重な人形】を指定していたのに、期限の半分以下になってから、やっぱり、【第一世界混宇宙連】のテーマである【代体(たいたい)――別の体】にテーマを変更しろと指定したのです。
 【踊詩】君側の制作時間を減らすという嫌がらせですね。
 はぁ〜、やな奴ら。
 【化形の少女】は、
「ご、ごめんなさいご主人……」
 と涙目になり謝りました。
 それを見た【踊詩】君は、
「心配しなくて良いよ。
 あっちは、おいらっちの可愛い【化形の少女】を傷つけた。
 ちょっと本気になっちゃおうかなぁ〜。
 おいらっち、怒っちゃった。
 でも、あんな連中に本気になるのも悔しいね〜。
 あ、そうだ、手抜きして勝っちゃおうか。
 その方が悔しがるだろうし。
 悪意には悪意で返してやろう。
 手抜きをしながら工夫をして叩きつぶしちゃおう。
 奴らはやり過ぎた。
 おいらっちは根に持つタイプだからね。
 思いっきり悔しがらせてやろう」
 と言いました。
 ちょっと邪悪な気配がしますが、ここが【踊詩】君が主人公でも良いというポイントですかね。
 自分の可愛がっている存在を傷つけたら怒って、仕返しをする。
 【踊詩】君は強さが曖昧な存在です。
 ある時はとてつもなく情けない醜態を見せたかと思うと、別のある時は筋の通らない行為をする者に圧倒的な力をもってお仕置きする。
 つかみ所のない存在。
 女の子を泣かした相手は許さない。
 やったことを後悔させようとする。
 彼はそんな男の子なのです。


02 対決の日


 準備期間が半分以下になってしまった【踊詩】君サイドですが、しっかり期日までに【モデルバージョン】を用意出来た様です。
 対戦者側の嫌がらせにはおるおさんも気づいていて、
「【世界混宇宙連】の創作に泥を塗りおって……」
 と激怒されました。
 この時点で、勝利は【踊詩】君側に決まっていたのですが、【踊詩】君サイドは、
「まぁ、最後までやらせてくださいよ。
 せっかくここまでやったんだから……」
 と言ってきました。
 何やら考えがあると察したおるおさんは、
「お主の勝利を信じてよいのだな?」
 と聞くと、【化形の少女】の通信機の先で、【踊詩】君は、
「向こうさんの嫌がらせの全部、上を行きますよ。
 スカッとすると思いますよ」
 と言いました。
 よほど自信があるようです。
 おるおさんは、
「わかった。
 そなたの言葉を信じよう」
 と言いました。
 こうして、既に決まっていた【踊詩】君の勝利は一時、保留となりました。
 そして【モデルバージョン】対戦のある日、
 候補者bO83、【無】をテーマとした【領総(りょうそう)】候補
 候補者bP98、【食】をテーマとした【触対漢(しょくたいかん)】候補
 候補者bT42、【肉欲】をテーマとした【スドケベェ】候補
 がやって来ました。
 どの顔もふてぶてしいです。
 【世界混宇宙連】創作が【踊詩】君が優勢だったので、3人とも拗(す)ねちゃったんですね。
 【スドケベェ】候補は、
「あ、そうそう。
 変更しても良いですかね?
 やっぱり、【第二世界混宇宙連】のテーマ、【コレクションタワー、コレクションレイク――趣味の塔、趣味の湖】ってやつですかぁ〜?
 それにさせてもらって良いですかね?」
 と言ってきました。
 ぬけぬけと何をのたまわっているんでしょうかね?
 憎々しいですね。
 すると、
「良いですよ、別に。
 こんな事もあろうかと、
 【第一世界混宇宙連】のテーマ、【代体(たいたい)――別の体】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ、【コレクションタワー、コレクションレイク――趣味の塔、趣味の湖】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ、【姫形(きぎょう)――貴重な人形】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ、【唯秘蔵物(ゆいひぞうぶつ)――大切な宝物】、
 の全てのテーマでメインテーマ全部とサブテーマ各40種類ずつ。
 合計、164種類のテーマで作りましたから。
 何なら更にハンデとして、メインテーマを外してさしあげましょうか?」
 と言う声がしました。
 【踊詩】君です。
 【化形の少女】を連れだって自信たっぷりにやって来ました。
 【スドケベェ】候補は、
「な……こ、この短期間で……」
 と驚愕しました。
 まさかどの様な事をしてもかまわないように全てのメインテーマとサブテーマも40種類ずつ、作ってきたというのです。
 3候補とは、スケールがまるで違います。
 役者が違うと言うところですね。
 動揺する【スドケベェ】候補に、【領総(りょうそう)】候補は、
「まぁまぁ、良いではないですか。
 そんなに自信があるのであれば、その164種類の中からメインテーマを外して160種類でくじを引いて、当たったテーマでプレゼンしてもらうと言うのはどうですか?
 どうせたくさん作ったんですから、ろくなものが混じっていませんって。
 ぷっぷぅ〜」
 と言いました。
 つくづくやな男ですね。
 更に、【触対漢(しょくたいかん)】候補が、
「俺に考えがあるぜ。
 くっくっく……」
 と嫌な笑みを浮かべています。
 どうやら、おるおさんの前で悪巧みを考えているようです。
 ですが、
「良いですよ。
 1枚や2枚なんてケチな事、言わずに160枚の空くじを混ぜましょうか?
 それで、作ってないやつをその場で作れって言うつもりなんでしょ?
 だったら、2分の1の確率で出した方が面白いんじゃないんですか?
 何なら、1440枚増やして、10分の9の確率で空くじが当たる様にでもしますかね?
 おいらっちはどっちでも良いですよ。
 今、用意しているものでも、これから作るものでも。
 どっちでもね……。
 元々、【世界混宇宙連】ってのはたくさんの要素を入れるんでしょ?
 だったら、1000や2000や100億や200億くらいのアイディアがあってしかるべきでしょ?
 ただの数あわせの手抜きアイディアにこの期間に全力を注いだ主力のアイディアが完膚無きまでに負けたらさすがに図太いあんた達も諦められるでしょう?」
 と【踊詩】君は言いました。
 不敵な笑みを浮かべています。
 おるおさんは、
(なるほどのぅ。
 やはり【稀生 踊詩】は群を抜いた才能をもっているようじゃ。
 【領総(りょうそう)】、【触対漢(しょくたいかん)】、【スドケベェ】については後でたっぷり仕置きするとして、【稀生 踊詩】の創作――見てみたくなった)
 と思いました。
 【踊詩】君が不届き者3名を完膚無きまでに叩きつぶそうと思っているという意図が見えておるおさんも上機嫌です。
 【踊詩】君が勝負を続けて欲しいというのはこういう事だったんですね。
 【スドケベェ】候補は、
「つ、強がりだ。
 決まっている……
 あり得ない」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「つまり、そのあり得ないはずの事をおいらっちがやってたとしたら、あんた達は手も足も出ないって事でいいんだよね?
 良かった。
 あんた達がまるで大した事なくて。
 この程度の事で出来る訳ないと決めつけている時点で、あんた達はおいらっちの見ている領域にまでは絶対にたどり着けない事が証明された。
 言っておくけど、これでもおいらっち――手抜きしてるんだけどね。
 ご不満なら、もうちょっとだけレベル上げようか?」
 と言います。
 【領総(りょうそう)】候補は、
「つ、つまらんハッタリだ。
 くだらない妄想だ」
 と言うと、【踊詩】君は、
「だったら、こうしようか?
 あんた達は全員で12点紹介すれば良い。
 おいらっちはその10倍、120点見てもらってその平均点で見てもらうってのはどうだい?
 それでも不満なら1200点でも良いよ。
 それとも12000点にしようか?
 やるんならそれでかまわないけど、やるからには最後までつきあってもらうよ。
 戦意喪失しようが何だろうが、やると決めた所までは最後までやってもらう。
 力づくでもね」
 と言って脅します。
 【触対漢(しょくたいかん)】候補は、
「……いい加減にし……」
 【ろ】と言う前におるおさんが、
「その辺にしておくのじゃな……」
 と言いました。
 それに対して【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補が同意して、
「「「そーだ、そーだ」」」
 と言います。
 それに対しておるおさんは、
「何を言うておる?
 妾は、お前達の事を言うておる。
 黙っておれば好き放題やりおって。
 妾としてはすでに【稀生 踊詩】に頼む事に決めておる。
 今回の勝負は【稀生 踊詩】がどうしてもと言うからあやつの気持ちを組んで乗っただけじゃ。
 言うてみれば、この勝負は茶番じゃ。
 【稀生 踊詩】がお前達3名を完膚無きまでに叩きつぶすのが見たいからやっておるだけじゃ。
 あやつに文句があるなら妾に言え。
 妾がきっちりとお前達に存在している事を後悔させてやるわ」
 と凄んで見せました。
 それを聞いた3名のお馬鹿さん達はシュンとなってしまいました。
 それに対して【踊詩】君は、
「おるおさん、困りますよ。
 おいらっちが徹底的に叩きつぶして差し上げようと思っていたんですから。
 台無しじゃないですか」
 と言いました。
 おるおさんは、
「おぉ、それはすまぬな。
 こやつらの行動があまりにも見苦しいのでな。
 つい熱うなってしもうたわ」
 と言いました。
 すでにつうかあの間柄の様にも見えますね。
 【踊詩】君は、
「申し訳無かったね。
 あんた達のレベルで考えるとその程度なのはよくわかったよ。
 勝ちは確信した。
 勝負は面倒だから、まとめてやりましょうかね?
 交互にやるなんて面倒な事しないで。
 先行後攻、どっちにします?
 お好きな方をどうぞ」
 と言いました。
 完全に勝ちを理解したようです。
 馬鹿者3名達は動揺し、
「「「どうする?」」」
 と相談を始めました。
 おるおさんの前で恥をかかされた事が許せないのか、おるおさんに拒絶されても万に一つの可能性を信じて戦おうと言うつもりのようです。
 所詮、結果が全て。
 良いテーマをプレゼンしてしまえば、おるおさんの気持ちも変わるだろうと考えているようです。
 【踊詩】君1人に対して、向こうは3人。
 強気になっているのでしょう。
 この実力の差が遙かにあり過ぎる事に気づかない時点で、【世界混宇宙連】を埋める実力が無いという事になります。
 こういう連中は他者を貶めて(おとしめて)自分達を有利に持って行こうとしますが、そう言った連中は得てして【本物】には勝てません。
 【本物】の足下にも及ばない所でぴーちくぱーちく言っているだけです。
 【本物】がどれだけ高い領域に足を踏み入れているのか全く気づきません。
 【踊詩】君の偉業を【あり得ない】と切って捨てた時点で、この3名には逆立ちしてもたどり着けません。
 その事に気づかない【愚か者】達はまだ勝つつもりでいます。
 嫌がらせの方は、おるおさんにばれない様にやれば何とかなると思っているようです。
 この後に及んでまだ何かするつもりの様ですね。
 立つ鳥跡を濁さず――とはならないようです。
 見苦しく醜態をさらして去っていくことになりそうですね。
 その結果、
 まとめて紹介するというのは【踊詩】君のアイディアだから採用出来ない。
 そこで、まず、【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補がサブテーマを一つずつ紹介するので、その後で、【踊詩】君がくじを引いて3つ紹介。
 次にまた【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補がサブテーマを一つずつ紹介して【踊詩】君がくじを引いて3つ紹介。
 次もまた【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補がサブテーマを一つずつ紹介して【踊詩】君がくじを引いて3つ紹介。
 最後に【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補がメインテーマを一つずつ紹介して【踊詩】君がくじを引いて3つ紹介。
 という4回に分けて行う形式を取る事にしました。
 これで【踊詩】君の勢いを止めるという安易な考えのようです。
 それにどうやら、3人が提案したメインテーマに渋い顔をしていたおるおさんに対して納得してもらう様にサブテーマの方に力を入れていたようです。
 そのサブテーマで強烈なインパクトを残して、【踊詩】君の戦意を削ぐつもりのようですね。
 つまり、自信のあるサブテーマから発表していく作戦に出たようです。
 そんな浅はかな考えなど【踊詩】君はお見通しです。
 どのような姑息な手にうって出てこようともそれを上回る対応で、返そうと【踊詩】君は決めていたのです。
 誰に喧嘩を売ったのか、それを教えるためにです。
 姑息な手段で自分達の有利に運ぼうとしている連中など、【踊詩】君の敵ではありません。
 自分達の行いを後悔する時が来たようです。
 こうして対決の日は始まりました。


03 先攻、【領総(りょうそう)】候補、【触対漢(しょくたいかん)】候補、【スドケベェ】候補がサブテーマの【モデルバージョン】


 いよいよ、【モデルバージョン】のプレゼンが始まります。
 先攻は【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補がサブテーマの【モデルバージョン】の紹介となります。
 最初は【領総(りょうそう)】候補、
 次に【触対漢(しょくたいかん)】候補、
 最後に【スドケベェ】候補の【モデルバージョン】の紹介が行われます。
 まず、【領総(りょうそう)】候補のプレゼンからです。
 彼が用意したサブテーマ――その1つ目は、【惑星変形ロボ】というものでした。
 【領総】候補は、
「オルオティーナ様。
 我々が選ばれるのをご不満に思っていらっしゃるのかも知れませんが、我々のテーマを見てから判断なさってください。
 私達の第一のサブテーマは偶然、一致してましてね。
 それが【惑星】をテーマとしたものです。
 どうです?
 スケールがでかいでしょう。
 私がテーマとしたのは【惑星】を変形させて超巨大ロボットに変形させるというものです。
 丸い惑星が如何に変形して、かっこいい超巨大ロボットに変形するかをご覧ください」
 と言いました。
 どうやら、【領総】候補は大きさをアピールしたかった様です。
 それを聞いたおるおさんの反応は、
「だから何じゃ?
 ただ、でかいだけではないか。
 妾は中身を充実させろと申したのじゃ。
 でかさを競えとは申しておらぬ」
 と冷ややかなものでした。
 【領総】候補は、
「うっ……
 ひ、一つだから、面白味が無く見えるんですよ。
 ご覧ください。
 私は10もの【惑星】にこの加工を施しました。
 10の【惑星】が超変形をして、超巨大ロボになる姿は圧巻ですよ」
 と言います。
 そして、【モデルバージョン】の【隔離空間】に用意した10の【惑星】を変形させます。
 が、おるおさんの反応は、
「はぁ……。
 見たぞ。
 確かに見たが、どのロボットも同じ様な変形ではないか。
 せめて、バリエーションをつけるくらいは出来なかったのか?
 つまらぬ事この上ないぞ」
 とやはり冷たいものでした。
 【領総】候補は、
「で、ですがこれだけ巨大な物の加工となると作り込むだけで大変で……」
 と言い訳します。
 おるおさんは、
「これだけ【巨大】?
 貴様は、クアンスティータ様の【宇宙世界】に入る資格が無いからわからぬかも知れぬが、クアンスティータ様の【宇宙世界】では、超銀河団よりでかい存在くらいまでならゴロゴロおるわ。
 もちろん、それを遙かに超える大きさの存在もな。
 大きさを主張するなら、せめて銀河レベルは超えて見せろ。
 たかが惑星一つの大きさで【超】まで付けて【巨大】と申すのは貴様のおごりじゃ。
 他の二人もこの程度のレベルなら興ざめも良い所じゃぞ。
 【惑星】レベルならもう少し工夫を加えろ。
 ……コメントは以上じゃ」
 と言いました。
 どうやら不評な様です。
 【領総】候補は他にアピール出来るものがこの1つ目には無く、2つ目のサブテーマのアピールをしようとしますが、おるおさんは、
「それは2つ目じゃろ?
 今は1つ目じゃ。
 これ以上無いのなら、次行け、次」
 と言いました。
 次は【触対漢】候補です。
 彼は、
「次は俺ですが、すみません。
 テーマ変えて良いですか?」
 と言いますが、おるおさんは、
「ならぬ。
 【領総】の奴が【惑星】をテーマにしてやったと申したのじゃ。
 【領総】の奴が不評じゃったからと言ってテーマを変える事はまかり通らぬ。
 勝負を自分達の都合でルール変更するのもたいがいにせいよ。
 これ以上、妾の怒りを買うのであれば、黙っておらぬぞ」
 と言いました。
 そうとう怒っているようですね。
 そりゃそうでしょう。
 クアンスティータ様の後継者様の【世界混宇宙連】の創作者としてはあるまじき行為を繰り返していた訳ですからね。
 消滅されられるどころか審査を受けさせてもらえているだけでもありがたいと思ってもらいませんとね。
 【触対漢】候補は、
「わ、わかりました。
 お、俺のテーマですが、【巨大惑星】に擬態している【超巨大生物】の卵になってまして、中には【超巨大生物】が……」
 と言いました。
 おるおさんは、
「で?」
 と質問しました。
 一言というか一文字です。
 【触対漢】候補は、
「い、いや、だから……
 その……以上です……」
 と押し黙ってしまいました。
 顔面蒼白状態です。
 完全に萎縮してしまっていますね。
 どうやら、【惑星】に擬態した巨大な【卵】の中身の【超巨大生物】も同じ種族しか用意出来なかったようですね。
 【領総】候補の時の【惑星】だとそれほど大きくないのでせめて、バリエーションを付けろというツッコミがそのまま適応されるみたいですね。
 大きさで圧倒してしまおうと言う見え透いた魂胆が出す前にくじかれた感じですかね。
 おるおさんは、
「次……」
 と言います。
 彼女の態度はもはや、つまらないものを見ている無駄な時間を過ごしているとしか思っていない様な感じですね。
 3人目の【スドケベェ】候補は、
「え、えーと……
 ぼ、僕のテーマは、【巨大惑星】でして……
 実は、【超巨大兵器】に変形しまして……
 この様に……」
 と言って、10の【巨大惑星】を変形させて、超巨大砲台に形を変えました。
 言うまでも無く、全て同じデザインです。
 どうやら、この3名――【超巨大】という事にこだわり過ぎていて、バリエーションをつけるという事が視野に入っていなかった様ですね。
 おるおさんは、
「貴様もそれで終わりか?
 ならば、【本物】の創作者のプレゼンの審査に移るぞ。
 本来であれば、対戦相手の【モデルバージョン】のプレゼンには立ち入らぬのがルールじゃが、特別に貴様らも【稀生 踊詩】の【モデルバージョン】の審査に加えてやる。
 自らの目で、【本物】とのレベルの違いを理解しろ。
 盗めるものであれば、あやつの技術を盗んでみせろ。
 貴様らにあやつのデザインを再現する力があればの話じゃがな」
 と言いました。
 おるおさんの審査結果としては、例え、対戦相手として【踊詩】君が居なくても、この3名が【世界混宇宙連】の創作者としては選ばれなかったでしょう。
 それほどに創作者としては稚拙(ちせつ)なものでした。
 心構えだけでなく、実力もそこまで達していないと判断したのです。
 逆に言えば、突出した実力を持つ、【踊詩】君を多少とは言えやる気にさせた事だけでもこの3名を評価するべきでしょう。
 創作者としてはふさわしくないクズな面が、【化形の少女】を泣かせた事につながり、それに怒った【踊詩】君が、相手を倒すつもりで、【モデルバージョン】を作る気になったのですから。
 そうで無ければ、【踊詩】君は趣味の世界にどっぷり浸かったおかしなものをプレゼンして、おるおさんは不合格としていたでしょうから。
 おるおさんが、この3名をかろうじて許しているのはそこを評価しての事なのです。


04 後攻、【稀生 踊詩】の【モデルバージョン】


 【領総】候補の【惑星を使った超巨大変形ロボ】、【触対漢】候補の【惑星を使った超巨大生物の卵】、【スドケベェ】候補の【惑星を使った超巨大兵器】が全て不評に終わった所で攻守交代です。
 今度は【踊詩】君の【モデルバージョン】の審査に入る事になります。
 【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補の時の【モデルバージョン】の【隔離空間】審査では、おるおさんは入って確かめましたが、対戦相手である【踊詩】君は入れませんでした。
 ですが、【踊詩】君の【モデルバージョン】の【隔離空間】では、特別審査員として、【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補も加わる事になりました。
 おるおさんの提案で、【モデルバージョン】による審査の白黒は自らの目でつけろという事になったのです。
 それまでの【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補の嫌がらせで、【踊詩】君は、作ってきた164種類のテーマの内、メインテーマ4つを外した160のサブテーマとその数と同数の空くじ160票を足して320種類のくじを作り、それを引き当てたものをプレゼンするという事になっています。
 そのくじを【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補が1枚ずつ引くという事までおるおさんは認めました。
 ですが、その後の【踊詩】君が120種類プレゼンする、1200種類、12000種類プレゼンして平均点で審査するというのは時間の関係で、却下しました。
 【踊詩】君がプレゼンするのはあくまでもサブテーマ12種類という事になります。
 3つずつ、【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補が選び、それを4回ずつ、【踊詩】君サイドと3名サイドで攻守を交代してプレゼンするという事になっています。
 1回目の先攻、【領総】候補と【触対漢】候補と【スドケベェ】候補のプレゼンは【超巨大惑星】をテーマにして審査したので、次は1回目の後攻、【踊詩】君の3つの【モデルバージョン】の審査になります。
 くじを3名が引いた結果、1つ目と2つ目のプレゼンが、元々、作って用意して来たサブテーマの1つずつ。
 3つ目が空くじだったので、審査の時に【踊詩】君が新たに作って見せるという事になりました。
 つまり、3つ目のプレゼンは実際に作る工程が見れるという事になります。
 そんな3つの審査の1つ目――このサブテーマは、メインテーマ、【コレクションタワー、コレクションレイク――趣味の塔、趣味の湖】と同じ【第二世界混宇宙連】に属するテーマになりますね。
 このサブテーマは、【生命体の誕生から滅亡】です。
 【踊詩】君は、
「オリジナル存在である女性型の存在【クリエイティス】と彼女達が通った後に出現する【つかのま】と呼ばれる存在が特徴となっています」
 と説明しました。
 それを聞いた【領総】候補は、
「何かと思えばくだらない。
 オリジナル存在を1つ作っただけじゃないか」
 とこき下ろします。
 【触対漢】候補も、
「そうだ。
 これこそちっぽけなアイディアだ。
 俺達の方がスケールがでかかった。
 俺達の勝ちだ」
 と言い、【スドケベェ】候補も、
「問題外とはこの事だね。
 僕達の足下にも及ばない」
 と勝利宣言をしています。
 それに対しておるおさんは、
「……他にアピールする事は無いか?」
 と聞きます。
 【踊詩】君は、
「まぁ、百聞は一見にしかずでしたっけ?
 一緒に彼女達が通った所を見てみましょう」
 と言ったので、【踊詩】君を先頭に、おるおさん、【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補の順番に【クリエイティス】の後をついて行く事にしました。
 【踊詩】君は他の3名が審査で10ずつの【惑星】を見せたというので、×3で、30名の【クリエイティス】を配置しました。
 【クリエイティス】達はすやすや眠っています。
 【踊詩】君は、
「本当はもっとゆっくりなんですけど、審査用に【クリエイティス】の行動を1万倍に早めています」
 と追加説明しました。
 1分ほどですかね?
 待つと【クリエイティス】達は起き出しました。
 パジャマらしき服装で寝ていたのですが、パチンと指を鳴らすと【クリエイティス】達の服装は綺麗なドレス姿になりました。
 ドレスと一口に言っても後ろは地面までつくほど長いスカートなのですが、前面はミニスカートの様な構造になっていますし、胸の下あたりからはキーホルダーを大きくした様な様々なキャラクターを模したものがついていたりなど、普通のドレスデザインと多少異なっております。
 ここが【踊詩】君の真骨頂ですね。
 美しいものを作る事にかけては他の創作者を遙かに凌駕する腕前を持っています。
 【クリエイティス】達もどこの【ミス・ワールド候補】の集まりだ?と思わせる様な美女ばかりです。
 【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補は美しいだけだとバカにした目で見ていましたが、【クリエイティス】達が歩き出すと状況が一変します。
 なんと、【クリエイティス】達が歩いた後から草花が生えてきたのです。
 その草花は進化をして生き、そこに【つかのま】と呼ばれる小さな妖精達が文明を築いていくのです。
 やがて家なども立ち上げ、老衰で死んでいく。
 その行程が【クリエイティス】が通った後で展開されていくのです。
 【つかのま】同士は結婚もすれば喧嘩、戦争もします。
 言ってみればミニチュアの【人間】の様なものです。
 【つかのま】達は【クリエイティス】達が通った道筋から離れてしまうと死んでしまいます。
 あくまでも【クリエイティス】の道筋にのみ出現する存在なのです。
 おるおさんは、
「ふむ。
 文句の付け所がないな。
 どうじゃ、貴様ら?
 これが【本物】というものじゃ。
 貴様らにも創作者としてのプライドがかろうじて残っておるのであれば、認めたらどうじゃ?
 貴様らの作ったものと違って、この【稀生 踊詩】の作ったものには【花】がある。
 【バリエーション】も豊富じゃ。
 ただ、でかいものを作った貴様らとは段違いじゃ。
 まさか、それもわからぬほど節穴じゃと申すのか?」
 と言いました。
 審査は一目瞭然です。
 【踊詩】君が提供したものの方が明らかに優れています。
 ところが、【領総】候補は、
「し、審査は平均を見るものです。
 これがたまたま良かっただけで決めるのは……」
 と苦しい言い訳をしています。
 【触対漢】候補も、
「そうです。
 お、俺達だって、まだ、全部見せた訳じゃないし、【偶然】、一つ目が良かっただけで……」
 と言い、【スドケベェ】候補も、
「くじを操作したのかも……
 じゃなきゃ出来る訳がない。
 絶対そうだ」
 と言います。
 あくまでも自分達の非を認めません。
 見苦しいですね、ホントに……。
 【踊詩】君は、
「そりゃ、あんた達が出来ないってだけでしょ?
 あんた達の尺度(しゃくど)でものを言われても困るんだけど?
 はっきり言うけど、おいらっちはあんた達が想像している事の遙か上の事をやって来たし、今でもやってるよ。
 つまり、あんた達の実力はどんどんおいらとかけ離れて行っているってことさ。
 おいらっちはこの程度の事では全然満足してない。
 まだまだ上の事をやるって決めている。
 作ったらそれでおしまいと思っているあんた達とは志そのものが違ってると思うけど?
 おいらっちはあんた達を置いて先に進んでいる」
 と言いました。
 前に醜態をさらしていた存在と同一人物とは思えないようなかっこいい台詞ですね。
 【踊詩】君はよくわからない存在なのです。
 続けて、おるおさんは、
「うむ。
 【稀生 踊詩】の言うておる事は正論じゃ。
 じゃが、確かに貴様らが言う様に1つ目の審査で全てを決めるのは性急(せいきゅう)とも言える。
 じゃがな、まことに【偶然】1つ目が良かったと思うておるのか?
 くじは、妾が貴様らが引いている所をちゃんとチェックしておる。
 不正は無かった。
 下らぬ言いがかりをつけるな。
 1つ目で納得行かぬならば、2つ目に行くまでじゃ。
 【稀生 踊詩】、次をあないせい」
 と言いました。
 【踊詩】君は、
「りょーかいです。
 2つ目のテーマですけど、【美しい獣】ですね。
 メインテーマ、【代体(たいたい)――別の体】と同じ【第一世界混宇宙連】に属するテーマになりますね。
 何でしたら次の3つ目は空くじでしたから、続けて何か新しいテーマを作りましょうか?」
 と言いました。
 あくまで余裕顔です。
 【本物】は【偽者】にどう揺さぶられようと動じません。
 だって、実力があるのは【本当】の事なんですから。
 中途半端な実力でゴチャゴチャやっている存在が、あれは【反則だ】やこれは【違う】などの文句を言っているのですが【本物】はそれを【一発】で黙らせる力を持っているのです。
 おるおさんは、
「そこまでせんで良い。
 妾はこやつらに創作者としての最後のプライドを期待しておる。
 真に創作者じゃと言うのであれば素直に認めるべきじゃからのう。
 じゃが、1つの作品だけで判断したくないという気持ちもわからんでもない。
 じゃから2つ目までは認める。
 それで判断できねば、妾は心の底からこやつらを軽蔑する。
 ただ、それだけじゃ」
 と言いました。
 おるおさんの態度からも勝負はほとんど決しているとは思いますが、【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補は次のプレゼンに希望をつなぎます。
 どうか、くだらないプレゼンでありますように――という後ろ向きな姿勢ですが、この3名にはそれにすがるしかプライドを保てませんでした。
 これで負けを認めてしまったら、さんざんかっこ悪い卑怯で姑息な手を使ったあげく、圧倒的大差で負けるという最悪の負け方をして、プライドが地に落ちる結果となってしまいます。
 だから、素直に認めたく無かったのですが、それをおるおさんは許してくれそうもありません。
 次が最後――そう、宣告された様なものです。
 審査を受けているのは【踊詩】君ですが、対戦相手の3人の方が極度なプレッシャーを受けています。
 嫌がらせをすれば、今度こそ、おるおさんに殺されてしまうかも知れないのでそれも出来ません。
 死刑宣告でも受けている様な気分でしょう。
 これまで自分たちが蒔いてきた種――自業自得とは言え、少し哀れな気もしますね。
 では、運命を決する2つ目の【本物】を見ていきましょう。
 パッと見は【人馬】――の様にも見えます。
 【人馬】とは馬の首の部分に人間の上半身がくっついた神話にも出てくる存在ですね。 でもよく見ると違います。
 馬の胴体の部分も女性のウエストを思い起こす様ななめらかな曲線になっています。
 馬の背の部分が誰かを乗せるようには出来ていないという事になります。
 乗ったら折れてしまう様な華奢な背。
 違う所はそれだけじゃありません。
 どちらかというと【人馬】というと男性の上半身の方が有名な印象がありますが、やはり女性好きの【踊詩】君らしく、女性型の上半身がついていますが、その女性の上半身の背中にティーカップの取っ手の様なデザイン性のある突起物があり、その手でつかむ部分の様な空間の所から、半透明な薄い布の様なものが出て舞っています。
 まるでクラゲの様なイメージのその布には何かのデコレーションでしょうか?
 宝石を思わせる光る何かがちりばめられております。
 しっぽはクジャクの羽を思わせる様な綺麗でなめらかなものになっています。
 服装も羽衣を纏った様な幻想的な服装で、パッと見た印象が、テーマの通り【美しい獣】を思わせる様な印象でした。
 動きも馬というよりはしなやかな猫を思わせる様な動作となっています。
 どうやったらこんな美しい生き物を考え出せるのか?
 そう思って思わずうっとりしてしまいます。
 この生物の名前は、【ビューティシア】と言います。
 山羊の様に険しい山の断崖絶壁などにも生息しています。
 セイレーンの様に美しい歌も歌うという獣です。
 鳴き声は小鳥の様なものとなっています。
 女性でも思わずうっとりとしてしまう様な怪しい色香を持っています。
 生命体の完成度としては文句の付け所が全くありません。
 【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補はこの獣を見た時、心から涙を流します。
 それぞれ、
「私の負けです……」
「俺の負けだ……」
「僕が負けてしまった……」
 とつぶやきました。
 おるおさんは、
「お前達の最大の敗因は、ここまでやれば十分じゃと限界を決めてしまったことにある。
 対して【稀生 踊詩】は、これだけ素晴らしいものを創造しながら、まだ上を目指しておる。
 上限を決めてしまったお前達が束になっても勝てないのはそういう事じゃ。
 敗北を認めただけ、お前達は創作者としての最後の一線だけは守った。
 これでまだグダグダ抜かすようであれば、妾はお前達から全ての創作能力を剥奪して放置するところじゃった。
 お前達に【世界混宇宙連】の創作は任せられぬが、じゃからと言って、お前達の創作活動が全て否定された事にはならぬ。
 他の道で研鑽に励むがよかろう。
 【本物】を見たというのはお前達にとって良い経験、財産にもなろう。
 妾から言える事はそれだけじゃ」
 と言いました。
 【領総】候補、【触対漢】候補、【スドケベェ】候補は、
「「「はい……」」」
 と言って去っていきました。
 こうして、【踊詩】君が4つの【世界混宇宙連】の創作者候補として正式に認められたのです。
 募集はまだしていますので、他に有力な候補者が現れなかった場合は彼が4つ全て受け持つことになりますね。
 色々ありましたが、やはり正しい行動を取っていた者が勝利するのは気持ち良いですね。


続きます。






登場キャラクター説明

001 おるおさん(オルオティーナ)

おるおさん この話の主人公で、クアンスティータ様の【宇宙世界(うちゅうせかい)】の管理を任されているクアンスティータ様の乳母(うば)にして摂政(せっしょう)でもあるとっても偉いお方です。
 クアンスティータ様が引退し、芦柄 くあん(あしがら くあん)として生きていく事になったため、クアンスティータ様の所有していた【宇宙世界】をクアンスティータ様の後継者に渡すかで問題になり、【世界他外(せかいたがい)】という【宇宙世界】より一つ上の単位の場所の一部を切り取り、【新宇宙世界】→【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】として、一から作ることになり、その創作者として13を【クエニーデ】ちゃん、7つを【ニズ・クォトヌァール】ちゃんに任せる事にして、残り4つを誰にするかで悩んでいます。


002 【踊詩】君(稀生 踊詩(きにゅう ようし))

稀生 踊詩 才能はあるけど、性格がとてもザンネンな男性です。
 【芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)】君の弟弟子に当たる存在ですが、彼と違い勇気も無く引きこもり生活を続けています。
 【世界他外】で【マイスペース】を作って生活するなど、しれっと高いポテンシャルを発揮します。
 女の子は大好きですが女性不信でもあります。
 マヌケな性格をしていますので、得る事よりも失う事が多いというのが彼の特徴でもあります。
 でも大切な女の子を泣かされた時は彼はかっこよく変貌します。
 よくわからない男性ですね。


003 化形の少女(けぎょうのしょうじょ)

化形の少女 【踊詩】君の元にいる【化形(けぎょう)】と呼ばれる存在の少女です。
 元々は第14側体クアンスティータ・フィーニス様の勢力とされていて、宇宙の初めから終わりまでを記録する存在でしたが、どういう経緯か【踊詩】君の【マイスペース】でお掃除などを担当して生活をしています。
 【踊詩】君の事を【ご主人】と呼びお世話をしていますが、どこか不満があるのか、時折、【踊詩】君の事を【ご主人】では無く、【奴】と呼びます。
 【踊詩】君の代わりにプレゼンをしてくれます。


004 てぃーおちゃん(ティーオルオナ)

てぃーおちゃん おるおさんの娘でおるおさんの後を継いで、クアンスティータ様の後継者の乳母(うば)と摂政(せっしょう)をしようという女の子です。
 男性が少々苦手な様ですが、【踊詩】君の作品の大ファンであり、彼を【世界混宇宙連(せかいこんうちゅうれん)】の創作者に推薦します。


005 【領総(りょうそう)】候補

領総候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その1です。
 自分の事を【私】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【無】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【無の春】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【虚の夏】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【絶の秋】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【断の冬】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。


006 【触対漢(しょくたいかん)】候補

触対漢候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その2です。
 自分の事を【俺】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【食】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【膨食(ぼうしょく)――暴食(ぼうしょく)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【業飲(ごういん)――暴飲(ぼういん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【爆酒(ばくしゅ)――酒豪(しゅごう)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【速食(そくしょく)――早食い】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。


007 【スドケベェ】候補

スドケベェ候補 【踊詩】君の【世界混宇宙連】の創作者を巡る勝負の対戦相手その3です。
 自分の事を【僕】と呼びます。
 彼がテーマとしたのは【肉欲】です。
 【第一世界混宇宙連】のテーマ――【肉欲の宴(にくよくのうたげ)】、
 【第二世界混宇宙連】のテーマ――【肉布団(にくぶとん)】、
 【第三世界混宇宙連】のテーマ――【酒池肉林(しゅちにくりん)】、
 【第四世界混宇宙連】のテーマ――【女体盛り(にょたいもり)】となっていますが、問題をはき違えています。
 他の2人と組んで【踊詩】君と対決しますが、嫌がらせをしながらも圧倒的な大差で負けるという醜態を演じます。