第002話


第四章 モテ期?




 夜中に俺の頭の中で色々とゲームをして、翌日、その夢の中で作った物が出てくるという日々が続いた。
 俺は、何となく、でみちゃんとでもちゃんと仲良くなりつつあると感じはじめていた。

 この二人になら気を許せる。
 そう思いつつあった。
 一緒に途中まで下校したりもした。
 二人は時々、夢の中の話をするので、他の生徒にそれが伝わらないように、誤魔化すのも大体、慣れて来ていた。

 そんなある日、俺は一人教室に忘れ物をしたので取りに戻る事があった。
 放課後、誰もいないはずの教室。
 そんな所に二つの影が蠢いているのを感じとり、俺は咄嗟に掃除用具入れに隠れた。
 何で隠れたか?
 それは、何となくだ。
 ちょっと異様な感じがしたので思わず身を隠してしまった。
 用具入れの隙間から覗いて見ると、俺のクラスの人間じゃない二人の女生徒が俺のクラスの俺の机の上に座って何やらしゃべっているのが解った。

 何で、俺の机の上に?とも思ったが、俺は出るタイミングを失ってしまった。
 二人がいきなり服を脱ぎだしたからだ。
 ここで、出てきてしまったら、俺は覗き魔というレッテルを貼られるかも知れない。
 そう思うと出て行く事が出来なかった。

 ハラハラしている俺を余所に、二人は舌を絡め合い、キスをしていた。
 いわゆるレズビアンというやつだろうか?
 二人はお互い、服を脱がせあって、ついに一糸まとわぬ姿になった。

 おいおい、人が来たらどうするんだ?
 俺だってここにいるのに。
 そう思っていると二人は一瞬、こっちを見たような気がした。

 バレた?

 俺は一瞬、凍り付いた。
 このままでは俺は破滅だ。
 どうしよう?
 あたふたしていると二人は視線を外し、いちゃつき始めた。

 それを見ている内に何故だか眠たくなってきた。
 そして、知らない内に寝オチしていたみたいだ。

 気付くと、でみちゃんのいう、デミウルゴスフィールドについていた。
 でみちゃんとでもちゃんの姿は無い。
 代わりに二人の美少女が立って待っていた。

 俺の机の上でいちゃついていた二人だった。

「な、なんだ、あんたらは?」
 俺の問いかけ。
「初めまして、色男さん。私、緑川 麻衣(みどりかわ まい)って言います」
「あたしは関山 美保(せきやま みほ)、よろしくね」
 と答える二人。
「何者なんだ」
「何者でも良いじゃない。今は三人で楽しみましょう」
「さぁ、こっちへいらっしゃい」
 二人は夢の中でも服を脱ぎ始める。
 俺はトロンとなって来た。

 が、次の瞬間――
 ガンッ
 と音がして、頭に鈍い痛みが走る。

 目を醒ますと俺は教室の机の上で寝ていた。
 目の前には緑川と関山ではなく、でみちゃんがいた。

「契約者しょーすけ。危ない所だったな」
「え?俺、何かあったのか?」
「魔女の呪いにかかる所だったのだ。見ろ、この魔法円を」
 でみちゃんに促されて見ると俺の机の上に小さな魔法円が二つ描いてあった。
 魔女?
 俺はどういう事か判断しかねた。
 魔女みたいな事をしていると言えば、でみちゃんやでもちゃんもだが、二人は魔女じゃないっていつも否定しているし。
 だとしたら、誰だ?
 何にしても大した事無くて良かったと思った。
 俺にはでみちゃんとでもちゃんがいる。
 何かあったら助けて貰えるんじゃないかと思った。

 そして、その日はそのまま帰った。

 翌日、いつものように、でもちゃんが次の夜の挑戦状をたたきつけにやってきた。
 違うのは、でもちゃんの横に二人の美少女がいたという事だ。
 そう、緑川と関山の二人だ。

「あなたが兼六君?初めまして、緑川 麻衣です」
 初めまして?
 昨日の放課後のあれは?気のせいだったのか?
「後楽ちゃんからお噂はかねがね聞いてます。格好いい男子がいるって。あ、あたしは関山 美保、よろしく」
「格好いい男子とは言っていない」
 関山の一言を訂正するでもちゃん。
 そこは否定しなくてもいいじゃん。

 話を聞いてみると二人は転校して来たばかりで、気になる男子、つまり俺を見つけて、でもちゃんに、聞いて来たのだという。
 俺に興味があるという美少女がまた二人。
 ひょっとしてモテ期か?
 俺は顔がにやけてしまうのを必死で隠した。

 だけど、俺の周りに美少女が四人もいる。
 でみちゃんだって普段、相変わらず、鷲鼻をつけてるけど、中身は立派な美少女だ。
 こんな事ってあるの?
 俺はウキウキした気分が隠せなかった。

 その日から、緑川と関山もちょくちょく俺の所にやってくるようになった。
 人生初のモテ期到来って感じで気分が良かった。

 予想はしていたが、緑川がメデューサ、関山がセイレーンだったが、話してみるとそんなに悪い奴にも思えなかった。
 俺に対して興味があるのかも知れないと思うと夢精事件も未遂だった事だし、忘れる事にしようと思った。

 今までは、でもちゃん一人が俺に近づいて来ていた印象だった。
 でみちゃんは鷲鼻だったので数に入っていないとしてだ。
 でも、今は、三人(でみちゃんも入れれば四人なんだが)の美少女が俺の周りに寄ってくるというので何となく目立って来てしまった。
 それに嫉妬した奴らのちょっとした嫌がらせとかもあったが、美少女を侍らせる喜びに比べたらそんなもん屁でもないと俺は気にしなかった。

 そんな中、でもちゃんと緑川、関山がクラスに戻った時、でみちゃんは気になる事をちょっと言ってきた。
「契約者しょーすけ、あの二人には気をつけろ」
 って。

 まぁ、でみちゃんは思いこみが激しい所があるからな。
 と、俺はさして気にしなかった。

 そんなある日の昼休み――

 午後から体育なので、俺は早々に着替えて、体育館に向かった。
 バレーをやるので、その準備をするためだ。

 俺は、体育倉庫の鍵を開けて、中からネットを取る事にした。
 すると、倉庫の鍵が勝手に閉まった。

「な、何だ?」
 俺はビックリする。
 倉庫の中でブラとパンティーだけになっていた緑川と関山がいたからだ。

「あの時は邪魔が入ったけど、今度こそ、三人で楽しみましょ」
 緑川が妖艶な声で言う。
「ここは結界になっているから、デミウルゴスもデモゴルゴンも入って来れないわ」
 関山が怪しく見つめる。
「なななな、何を?」
 俺はタジタジだった。
 女の子の方から積極的に誘惑されるというのは正直嬉しいが、俺は初体験なんで、最初はサシでというのが良いんだ。
 三人でというのは抵抗がある。
 何にしても、俺は、初体験は、でみちゃんかでもちゃんが良いと思っている。
 気持ちは嬉しいが、この二人じゃない。

「じじじ、自分を大切にだな……」
 俺はしどろもどろで言い訳をする。
 何とかこの状況を回避したいからだ。
 二人と関係を持ってしまうと、おれはでみちゃんとでもちゃんに秘密を持った事になる。
 そんな後ろめたい気持ちのままででみちゃん達といられない。
 そう思ったからだ。
 良い格好をしたい……
 そう、良い格好をしたいんだ。
 隠れて浮気をする甲斐性は俺にはない。
 だから、せめて、最初はでみちゃんかでもちゃんのどちらかに。
 そう思っていたんだ。

「うるさいわね。とにかく、私達にあんたのフィールドをよこせばいいのよ」
「犬にかまれたとでも思えば良いでしょ。うふふ、もっとも、あんたの股間は一生使い物にならなくなるかも知れないけどね」
 本性を現す二人。
 つ、使い物にならなくなるって……
 い、嫌だぁ〜。

 その時
「そこまでだ」
 でみちゃんの声がした。
 でもちゃんもいる。
「バカな、どうやって?」
 緑川が憎々しげな表情をした。
「絶対に結界は外せないはずだったのに」
 関山も悔しさを滲ませる。
「簡単な事だ。私だけでは無理なので、デモゴルゴンに協力してもらった」
 でみちゃんが答える。
「まさか、二人は犬猿の仲のはず」
「あたし達の作戦では……」
 緑川と関山の作戦ではでみちゃんでもでもちゃんでも結界は崩せないとふんでいたみたいだ。
 まさか、仲の悪い二人が協力するとは思っていなかったらしい。
「お前達が罠を仕掛けている間、私はデモゴルゴンにお前達の悪事の証拠を説明していた」
「私を裏切ったな。メデューサ、セイレーン」
「私は造物主デミウルゴス。私の目を誤魔化せると思うな、魔女達よ」
「くっ……ならば決着をつけよう出来損ないの造物主共」
「今夜、このヘタレの頭の中で待っている」
 そう言うと二人の魔女は去って行った。
 どうでも良いけど、俺の頭の中を決戦場に選ばないで欲しいな。

「大丈夫か、契約者しょーすけ」
「あ、ああ、何とか……助かったよ、サンキュー」
 でみちゃんの心配に俺は笑って答える。
「すまない。私は見抜けなかった。あの二人が魔女という事に」
「良いって、許せないのはあいつらだ。でみちゃんと協力して、あいつらをぶっ飛ばして欲しいな」
 俺は、でもちゃんにでみちゃんとの共闘を持ちかける。
「……良いだろう。今回だけは、私の方にもミスがあった。忌々しいが、デミウルゴス、お前と今回だけ、共闘しよう」
「うむ、今回だけだぞ」
「解っている」
 こうして、俺の好きな女の子二人が力を合わせる事が決まった。




第五章 魔女との戦い




 その夜――

 俺は就寝すると、デミウルゴスフィールドに向かった。
 そこには、決戦着、勝負服のでみちゃんとでもちゃんが待っていた。
 でみちゃんは純白のドレス、でもちゃんは漆黒のドレスだ。
 白黒つけようという意味では洒落の効いた衣装だ。

 少し待っていると、深紅の服を着たメデューサ、緑川 麻衣と紫の服を着たセイレーン、関山 美保がやってきた。

「待ったかしらマヌケなお二人さん」
 メデューサが挑発する。
「決戦はこのデミウルゴスフィールドで行う。依存は無いな」
 でみちゃんが叫ぶ。
「あるぞ、ここはデモゴルゴンフィールドだ」
 でもちゃんが叫ぶ。
「何を言う。ここはデミウルゴスフィールドだ」
「違う、デモゴルゴンフィールドだ」
 二人はほっぺたをつねり合ってもめる。
「ぷっ……大したコンビネーションだこと」
 それを見ていた、セイレーンが笑い飛ばす。
 くそっ、舐められてるぞ、二人とも。

 勝負は変形五行将棋という物に決まった。

 どういう物か解らないので、俺はでみちゃん達に説明を受けた。
 どうやら、でみちゃん、でもちゃん合作の新ゲームらしい。

 基本ルールは五行という物の考え方を利用するらしい。
 まず、コマには木、火、土、金、水という五つの属性が存在する。
 そして、それぞれのコマの関係は
 相生という順送りに相手を生みだして関係と
 相剋という相手を討ち滅ぼして行く関係が存在する。
 すなわち、
 相生は
 木は火を発生させ、
 火は土にかえり、
 土を掘ったら金が出て、
 金は凝結によって水が生じ、
 水は木を養う。
 相剋は
 木は土を締め付け、
 土は水を濁し、
 水は火を消し、
 火は金を溶かし、
 金は木を傷つけるという関係だ。

 それをコマの属性に置き換えると――
 木のコマは火のコマを寝返らせ、土のコマを消滅させる事が出来、
 火のコマは土のコマを寝返らせ、金のコマを消滅させる事が出来、
 土のコマは金のコマを寝返らせ、水のコマを消滅させる事が出来、
 金のコマは水のコマを寝返らせ、木のコマを消滅させる事が出来、
 水のコマは木のコマを寝返らせ、火のコマを消滅させる事が出来る。 
 この法則を適用し、敵のコマを消滅させたたり、味方に寝返らせる事が出来るという。
 本当の五行は別の意味もあるんだけど、このゲームで適用される属性はここまでだ。

 例えば、木のコマは火と土のコマには影響をもたらすけど、水と金、それと敵の木のコマには影響しない。
 これをふまえて、敵のコマを減らして行くゲームだ。
 次に、コマの数だが、敵味方、双方、五十コマずつ割り当てられる。
 双方のチームはその五十のコマに十コマずつ、五つの属性を割り当てるらしい。
 これは敵のチームには内緒にするという事だ。
 敵チームに属性がバレてしまえば、そのコマを寝返らせたり、消滅させたりする属性が解ってしまうからだ。
 また、コマ毎に一つのターンで動けるマスは違うらしい。
 どの属性にどの動きが出来るコマを割り当てるかも戦略の一つとして、考えられるだろう。

 そして、勝敗を決める方法は二つある。
 一つは、味方のコマを盤上にある全てのコマの九割以上にすること。
 もう一つは五十コマのどれかに割り当てられる将棋で言ったら王将の役目をするコマを消滅させるか、寝返らせれば勝ちというものだ。
 マスは百マス×百マスの合計一万マスで行われる。
 そして、交互に交代しながらコマを一つずつ動かすらしい。
 例えば――
 でみちゃん→メデューサ→でもちゃん→セイレーン→でみちゃん……
 の様にやっていく。
 つまり二人のコンビネーションも関係してくる。
 これは、バカな俺の頭では思いつかないような複雑なゲームになりそうだな。

 舞台は超巨大な盤。
 コマは台座の様になっていて、その上には銅像として、様々なキャラクターの立像が乗っている。
 これは見ている俺もワクワクしてきそうなゲームだな。

「さてと、説明はすんだかしら?じゃあ、そこのヘタレにはカゴの鳥になってもらいましょうか」
 メデューサの目が光ると俺はインコの姿に変えられ、上空につるしてある棘一杯の鳥かごの中に入れられた。
 真上からこの変形五行将棋を見る形になった。

 頼むぜ、でみちゃん、でもちゃん。
 俺の運命は君達にかかっているんだから。

 俺は造物主の二人を応援した。

 しばしのにらみ合いの末、ゲームがスタートする。
 最初は様子見だ。
 どのキャラクターがどの属性を持っているかお互い解らないから、なるべく違う属性を近くに配置していつでも対応が取れる様に、持っていかなければならない。
 かといって、五つのコマで移動したら、それが、五行のコマのそれぞれの属性のコマだという予想がたってしまう。
 相手に悟らせないような配置も考えなくてはならない。
 そう言った意味でも駆け引きが必要となる。

 双方、慎重にコマを進めて行く。
 それぞれが、考えた陣形を取りながら、敵のコマに少しずつ近寄ってくる。

 そして、敵チームのターン――

 何故か、メデューサはコマを後ろに下げた。
 何故だ?
 そんな意味は無いはずなのに。
 俺が解らないだけか?

 そう思っていたが、それはあの魔女共の罠だった。
 次のでもちゃんがメデューサのコマを追いかけてコマを進めた時――

 何も無いマスで突然、こっちのコマが爆発した。

「な、何だ?」
 俺は何が起こったか判断出来なかった。
「やった。引っ掛かった、引っ掛かった」
 メデューサが歓喜した。
「何をした?」
 でもちゃんがメデューサを睨む。
「だって、このゲーム、貴女たちが考えた物でしょう。そんなの不公平じゃない。だから、私達も盤上にトラップを仕掛けさせて貰ったのよ」
「特定のマスに進んだら爆発するの。楽しいでしょう。うふふ」
 二人の魔女は不敵に笑う。

 汚ねぇ。
 勝手にルール変更しやがった。

「姑息な真似を」
 でみちゃんも睨む。
「何とでも言いなさいな。あ、それと、爆発させたらペナルティーね。そうね、そこのコマの属性を教えて貰おうかしら?」
 セイレーンが勝手にルール変更をする。
「そんなルールは無い」
 でみちゃんは拒否する。
「あら、もう一つくらいルール追加した方が面白いじゃない。良いでしょこれくらい」
 メデューサもセイレーンに乗っかった。

「ふざけるなお前ら、卑怯だぞ」
 怒鳴る俺。
「あら、卑怯って言葉は魔女にとっては褒め言葉よ、ありがとう」
 セイレーンがニタリと笑う。
 む、ムカツクこいつら。
「でみちゃん、でもちゃん、やっちまえ、こんなやつら」
「あらあら、怒った顔はそそるわね。もうすぐあんたの脳みそは私達のものよ」
「あたしが美味しく味付けしてあげるわね」
 完全に虚仮にされてる。
 魔女に口では勝てない。

 その後も踏んだら二回動かせるマスや、踏んだら寝返るマスなど、卑怯なマスを多様してくる魔女チーム。
 みるみる造物主コンビのコマが消滅したり寝返ったりしていった。
 気付くと、盤上のコマは敵チームが八割近くを占めていた。
 ここまで来るとコマの数で勝つ事は不可能に近い。
 何とか王将のコマを探し出して、一発逆転を狙うしかない状態だった。

 だけど……

「デミウルゴス、そのコマは私が動かすんだ」
「いいや、私だ、デモゴルゴン」
「そのコマは動かすな」
「動かして良いのはあっちのコマだ」

 こっちのチームのチームワークは相変わらず最悪だった。
 しょっちゅういがみ合っている二人にいきなり協力しろというのが無理な話だったかもしれない。
 逆に、向こうのチームはちちくりあうくらい仲が良く、コンビネーションもバッチリだ。
 勝つ要素は造物主チームには微塵もないようにも思える。

 どうすんだよ、これ。
 負けちゃうじゃねぇか。

 造物主チームの配置は敵の陣地に入っている一つのコマを除けば二つの塊がある。
 そのどちらかを叩かれてしまったら、王様が潰されるのが早いか、敵コマの数が九割行くのが早いかって事になる。
 絶体絶命だ。

 それなのに……

「そのコマを移動しろとは言っていない」
「良いでしょ。気分転換よ」
「一コマで攻めても意味がない。他のコマとくっつけなくては」
「大丈夫よ」

 相変わらず言い争っている。
 離れ小島のようにぽつんと一つある敵陣地に攻め込んでいるコマを移動したりしている。
 それじゃ勝てないじゃないか。

 俺はハラハラドキドキが止まらない。
 これじゃ負けてしまう。
 負けたくない。
 そう思ってはいても。

「はい、また一つコマが寝返ったわ」
「ふふふ、じわじわと攻めてあげるわね」

 敵チームのコンビネーションは悔しいが見事だ。
 どんどん、造物主チームのコマを減らしていく。
 敵チームには造物主チームのコマの属性が半分以上バレているし、味方コマが一割にされるのも時間の問題だ。
 どうすんだよ、これ。
 あぁ嫌だ。
 負けたくねぇ。

「はい、これで、後一つ、寝返えったら九割ね。あたし達の勝ちよ」
「後でパーティーを開きましょう。私達の勝利のね」
 勝ち誇る魔女二人。

 だが――

「愚か者め。負けはお前達だ」
「私達が何も考えずにコマを動かしていたと思うのか?」
 不敵に笑う造物主二人。

 どういう事?
 負けるが勝ちとか?
 意味わからん。

 でみちゃんは敵陣地に踏み込んでいる一つのコマを見当違いの方向に移動した。
 周りにはなんのコマも無い。
 全くの無意味に見える位置だ。

「はっそれがなんだって言うの?」
 メデューサの疑問も最もだ。
 本当に何だって言うんだそれが。

「解らないのならば教えてやろう。このコマは敵陣地で縦横斜め五マス分ずつ全くコマの無い位置に来るとワープする事が出来る」
 でみちゃんが叫ぶ。
「そして、私達は観察していた」
 でもちゃんも叫ぶ。
 そして、交互にその謎の勝利宣言の説明をしていく。
「姑息なお前達が最も安全な位置に置いているコマ」
「そして、攻撃に回っているコマの属性をだ」
「そこで、願えったコマを除き、火の属性と水の属性と木の属性は全て把握した」
「お前達の事だ。その攻撃のコマの中に王将は混じっていないはず」
「つまり、王将であるコマは把握していない属性、金と土の属性で影響するコマだという事だ」
「金と土の属性両方に影響を与えるのは火の属性。すなわち、火の属性で攻撃すれば、王将がどちらの属性であっても影響する」
「ここまで来ればわかるだろう。ワープ出来るこのコマは火の属性だ」
「そして、お前達の王将はこのコマだぁ」
 造物主チームは勝ち名乗りを上げた。

「ば、バカな……」
「そんな……」
 肩を落とす魔女達。

 やった……
 とにかく、勝ったんだ。
「やったな、ヒヤヒヤしたよ。どんどん味方が減ってくるし。王将も見つかるんじゃないかって焦ってたよ」
「案ずるな、契約者しょーすけよ。王将は一番安全な位置にあった。見つかることは無いと解っていた」
「へぇ、どこにあったんだ?」
「簡単よ。あのコマが王将だったんだから。見つかりっこないわ」
 そういうでもちゃんが指したのは敵の王将にトドメを刺した火の属性のコマだった。

 え?
 あれなの?
 だって、敵のど真ん中に攻め込んでたんじゃない。 
 それも一コマだけで。

「一コマだけで行動すれば、あの魔女達は無視をすると解っていた」
「敵の陣地に攻めれば、安全パイと考えると思っていたわ」

 この二人すげぇわ。
 敵のど真ん中に王様一人置き去りにしてたとは。
 そりゃ、敵も気付かないわな。
 最後に王様のダイレクトアタックで敵倒しちゃったって事だろ。
 とても真似できねぇわ、俺は。
 尊敬するよ、マジで。

 とにかく、大逆転勝利だ。

「さぁ、去るがよい魔女よ」
「二度と現れるな」
 造物主二人が魔女を追い払う。
「覚えてなさい」
「きー悔しい」
 捨て台詞を吐いて、魔女達は去って行った。

 隠して、俺の貞操と平和は守られた。
 出来れば二度と会いたくない。
 そう思ったのだが――

 次の日――

「あら、元気、意気地無しさん」
「あたし達は帰らないわ。これからもよろしくね」
 普通に魔女達が話かけて来ていた。

 あの決戦はなんだったんだろう?




第六章 昼食戦再び




 メデューサとセイレーンの事が落ち着いて来た頃、でみちゃんとでもちゃんは、また、いがみ合いだした。
 この二人は仲が良いんだか悪いんだかわからんな。
「契約者しょーすけ、今晩、明日の昼食を作りに行く」
「そうはいかない。今度は私が作る」
 バチバチと火花を散らす。
 どうでも良いが、もう少し、発展的な事は出来ないもんかね?
 俺の頭の中を貸しているんだから昼食を作るとか止めて欲しいんだけどな、本当は。
 もうちょっとすげぇって物を作るとかないもんかね?
「デモゴルゴン、今日こそ決着をつける」
「デミウルゴス、今夜こそお前の命日だ」
 おいおい、昼飯作るだけだろうが。

 呆れる俺を余所に、二人は不敵な笑いを浮かべ合って、自分の席と自分の教室に戻っていった。
 この後、何かあるかと言うと、俺の昼間での生活はつまらないものだ。
 誰かと喜び合うという事も無いし、どこかに寄るという事もない。
 ただ、俺にとって無意味な時間が過ぎ去って行くのを待つだけだった。
 俺の学生生活なんてそんなもんだ。

 だけど、俺には夜の生活がある。
 こう言うと何だかいやらしく聞こえるかも知れないが、俺の本当の生き生きとした生活は夜、夢を見てからにあるんだ。
 そこで、美少女達が俺の頭の中を訪ねて来るからだ。
 言わずもがな、でみちゃんとでもちゃんだ。

「契約者しょーすけ、今日はおいなりさんにしようと思う。酢飯に油揚げ、具材を用意した」
 性懲りもなく、でみちゃんが明日の献立を発表する。
「あーはいはい。おいなりさんね。酢飯と油揚げだけで良いんじゃねぇの?」
「だめだ、それでは、デモゴルゴンに舐められる」
「舐められるって、おいなりさんだろ?」
「中に、いろんな具材を入れて差をつけるのだ」
「へいへい、で、具材って何を持ってきたんだ?」
「うむ。ヒジキとベーコン、卵に佃煮を持ってきた。後、漬け物もだ」
「俺の頭の中に食材持ち込むの止めて欲しいんだけどな、ほんとは」
 俺がボソッとつぶやくとでみちゃんは聞いていなかった。
 食材のチェックをしていた。
「何か言ったか?」
「何でもねぇ、好きにしてくれ」
「そうか、出来たら契約者しょーすけにも分けてやる。だから安心しろ」
「何を安心するんだか……」
「来たぞ。デモゴルゴンだ」
「あ、でもちゃんね」

 見上げると、でもちゃんが空中に浮いていた。
 あの……パンツ見えてるんですけど。
 目のやり場に困る。

「待たせたわね、デミウルゴス」
「待っていたぞ、デモゴルゴン、私はおいなりさんだ」
「ふふふ、私はおにぎり弁当よ。色んな具材を用意したわ」
「ふふふ、私もだ」
「ふふふ」
「ふふふ」
 笑い合う二人。
 実はかなり気が合うんじゃねぇの、このお嬢さん達……

 しばしのにらみ合いの後、また、前回同様に、十三本ずつの腕が上がる。
 やっぱり、それぞれ、握り拳状態だ。
 前も言ったが、最大十三回戦って、勝ったら、チョキ、負けたら降参のパーになる。
 先に七本チョキを出した方が勝ちっていう勝負だ。

 二人は俺の頭の中の調理場を巡って争う。
 負けた方は弁当が作れず、明日は購買部でパンでも買うのだろう。
 二人の戦いが再び始まった。

 まず一戦目はカラオケ勝負だ。
 勝敗は俺が曲名を当てられた方が勝ちというものだ。
 二人とも美声で、俺は思わずウットリする。
 好きな女の子達が交互に歌ってくれるのだ。
 最高なシチュエーションの一つと言っても良いだろう。
 だけど――だけどさ……。
 二人とも選曲がマニアックすぎて曲名が解らないんだよ、これが。

 確かに上手いし良い曲なんだけど、もうちょっとメジャーな歌を歌って欲しいんだよな。
 これじゃ、俺がわからんわ。
 もっとメジャーな歌手とかの歌なら解るんだけど、聞いたことない曲を連発されて俺は戸惑った。

「契約者しょーすけ、遠慮する事はない。どどーんと私の曲名を答えるがよい」
 だから、曲名がわかんねぇんだってば。
「ふっ、そんなマイナーな曲が解るはずもない。さぁ、私の曲名を答えなさい、契約者しょーすけ」
 いや、でもちゃんのもかなりマイナーだと思いますけど。
「さぁ!」
「さぁ!」
 二人の美少女に詰め寄られる俺。
 だけど、答えようがない。
 だって知らねえんだもん。

 結局、二十曲ずつ歌ったけど、俺が知っている曲は一切出てこなかった。

 この試合はドロー、引き分けに終わった。

 続いて、二戦目はドミノ対決だ。
 交互にドミノを作っていって先にドミノを倒した方が負けというものだった。
 先攻でもちゃん、後攻でみちゃんで戦いが行われたけど、これがまた地味で面白みの無い戦いだった。
 俺は黙って、二人が交互にドミノを積み上げていくのをじっと待っていなくちゃならなかった。
 いくら夢の中の時間感覚が現実の時間と違っていると言っても、これは耐えられない。
 俺は、この戦いの中止を申し出た。
 そして、協議の末、この試合は無効試合となった。

 次の三戦目はツイスターゲーム対決だ。
 二人が交互に両手両足を一つずつ動かし合って先に尻餅などをついた方が負けというゲームだ。
 二人は制服姿で対戦する。
 が、ゲームが進む度に二人の服がはだけたり、スカートがまくれたりして、俺にとっては嬉しい催し物となった。
 俺が鼻の下を伸ばして見ていると、でみちゃんと視線が合ってしまった。
 それを見て恥ずかしくなったのかでみちゃんは尻餅をついて、勝敗がついた。
 この勝負はでもちゃんの勝ちとなった。
 後で、でみちゃんに――
「契約者しょーすけ、エッチな目で見るのは良くないと思うぞ」
 と言われてしまった。

 次の四戦目は変な格好対決だ。
 交互に俺が引いたカードに描かれているおかしなポーズを取る。
 そして、先に倒れてしまった方が負けというさっきのツイスターゲームに似たものだ。
 さっきのでみちゃんに悪いと思ったので、俺はでもちゃんを見続けた。
 視線に気付いたでもちゃんは転んで、この勝負はでみちゃんがとった。
 後で、でもちゃんに――
「そのえっちな視線は反則だ」
 と言われてしまった。
 んなこと言ったって、俺はこういう特典があるから、俺の頭への二人の進入を許してるんだけどな。
 これが、無くなっちゃったら、俺はつまんないしな。

 次の五戦目はくすぐり対決だ。
 お互いがくすぐりあって先に笑った方が負けというゲームだ。
 二人はお互いをくすぐりあった。
「あ…ん……」
「うっ……」
 二人は何とも色っぽい、声を上げる。
 笑うのを我慢しているのだろうけど、何とも変な気持ちになってしまう。
 これは、くすぐったがりなでもちゃんが先に笑ってでみちゃんが連取した。

 次の六戦目はどんけつゲームだ。
 おしりで相手を水に落とすというゲームだ。
 これは見事なおしりさばきで、でもちゃんが圧勝した。
 ずぶ濡れになったでみちゃんは服が透けて、下着が浮いて見えて俺は思わずドキッとした。
「あ、あっち向いていてくれ、契約者しょーすけ」
「あ、あぁ、すまん」
「も、もういいぞ。着替えた」
「そ、そうか」
 などというやりとりがあったが、彼女が着替えたのは制服から私服に着替えていた。
 白とピンクのワンピースだった。
 なかなか可愛かった。

 ここまでの戦いはお互い二勝二敗二分けで全くの互角だった。
 この戦いも最後の十三戦まで、ズルズルいきそうだな。
 二人の力はある意味、拮抗していると言っていいな。

 続く七戦目は掃除対決だ。
 滅茶苦茶汚れている部屋が用意されて、そこをそれぞれが作り出した掃除機でホコリを吸っていく。
 最後にホコリの量を計量して量が多かった方が勝ちというものだ。
 これは俺にはつまらないと思って見ていたんだけど、なかなかどうして、良い勝負だった。
 というのも取りにくい位置にあるホコリを取るためにふたりはちょっと色っぽい姿勢を取ったりしたからだ。
 俺は、その姿勢でくるか、おお、その態勢は……などとちょっと興奮した。
 勝負の結果は僅かにでみちゃんの方が上だった。

 続く八戦目は美文字対決だ。
 題材は俺が用意して良いというので、せっかくだから、俺へのラブレターを書いてもらった。
 これは、甲乙つけがたかった。
 というのも美文字ではわずかにでもちゃんだったが、俺のストライクゾーンど真ん中なラブレターを書いたのはでみちゃんだったからだ。
 特に、【私を見て下さい】というのは俺のハートをきゅんきゅんさせた。
 だけど、これは美文字対決なので、好みとしてはでみちゃんなんだけど、軍配はでもちゃんに上がった。
 でも感想は、ラブレターを貰うのってこんなに嬉しいものなのかだった。
 すっげぇ嬉しかった。
 また、この勝負やりたいな。

 続く九戦目は一見、碁のようにも見えるゲームだけど、違うものだった。
 交互に白と黒の石を置いていき、絵を作るゲームだった。
 数多くの絵を作った方が勝ちというゲームで、この勝負はでもちゃんが取った。
 相手にイラストを作っているのを悟らせないように作っていくゲームで、一度に三つの石を置くことが出来るというものだった。
 見ていて楽しいゲームだった。

 続く十戦目はイラスト対決だった。
 一分間で俺が彼女達が描いたイラストを当てていくというゲームだ。
 一分間なので、丁寧に描くというより、早く分かり易いイラストを描くのを重要視されるゲームで、イラストのお題は俺の背後のフリップに描かれているので、俺には解らない状態で行われる。
 俺がより多く答えた方が勝ちという勝負に勝ったのはでみちゃんだった。

 十戦目を終えて、やっぱり、でみちゃん、でもちゃんは一歩も譲らない互角の戦いだった。

 続く十一戦目は折り紙対決だった。
 より多くの折り紙が出来た方が勝ちという勝負だった。
 女の子の勝負としては良いのかも知れないが俺は面白く無かった。
 結局、四十八種類ずつでドローになった。
 俺に言わせれば、飛行機で何種類か作れると思うし、騙し船とか手裏剣とか作れなかったのかなとも思ったけどな。

 続く十二戦目は山手線ゲームだった。
 これはなかなか白熱した勝負だった。
 と言うのも例えば、山手線の駅などのお題を二人とも全部言ってしまうので、決着がつかなかったのだ。
 なんで、そんなマニアックなお題をとか言うのもあったけど、二人とも全部言ってしまうので、勝敗はつかなかった。

 そして、やっぱり最終戦にもつれ込んだ十三戦目は水中石取り対決だった。
 水中にばらまかれた石を拾い集めて多く取った方が勝ちというゲームだ。
 当然、二人は水着になる。
 俺にとっては良い目の保養になるわけだ。
 厳正な審査とやらをやるために水中カメラも用意されて、俺はそれを外から覗く。
 俺にとっては不正を暴くというより、良いアングルを見るという事に重点を置きたい気分だ。
 だが、二人にとっては真剣勝負。
 どちらも負ける訳にはいかない最後の勝負となる。

 この勝負の決着は二百四十六対二百四十六でドロー、引き分けに終わった。
 決着をつけたかったら石の数を奇数にしとけば良いのに、この辺は二人ともぬけているんだよな。
 結局、次の日の弁当は二人とも作る事になった。

「次こそは負けない」
「次は私が勝つ」
 二人が次の勝負の勝利宣言をする。
 っていうか、引き分けで一緒に弁当を作るなら初めから勝負しなくて良いんじゃねぇの?
 最初から仲良く作れば良いじゃん。
 何で勝負する必要があるの?
 って俺は思ってしまう。
 まぁ、何にしても今日の所は仲良く、二人で弁当を作ってくれて、俺も嬉しい。

 そして翌日――。

「契約者しょーすけ、さあ、おいなりさんだ。食べて良いぞ」
「何を言う。こっちのおにぎりの方が美味しいぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、二人とも。どうしたんだよ、いったい?」
 俺は二人が弁当を持って詰め寄ってくるのにちょっとばかり動揺した。
 どちらも最初の一口を俺によこそうとしているからだ。
 俺にしたらどちらも交互に食べれば良いと思うんだけど、最初の一口は自分の方にして欲しいとどちらも譲らない。
「さぁ、どっちの弁当を食べるのだ?」
「どっち?」
「いや、どっちと言われても……」
 あっちを立てればこっちが立たないし、こっちを立てればあっちが立たない……。
 俺、こういう状況苦手なんだけどな。
 結局、俺の口を無理矢理こじ開けられておいなりさんとおにぎりを両方いっぺんに詰め込まれて、俺は窒息しかけた。
 そのまま、俺は保健室に担ぎ込まれた。
 勘弁してくれよ。


登場キャラクター紹介

001 兼六 庄助(けんろく しょうすけ)

兼六庄助 この物語の主人公。
 今までのつまらなかった生活と決別し、でみちゃんとでもちゃんと友達関係になる少年。
















002 偕楽 芽吹(かいらく めぶき)

偕楽芽吹  でみちゃん。
 学校一の変わり者とされている、造物主。
 庄助と契約を交わす。
















003 後楽 風稀(こうらく かざき)

後楽風稀  でもちゃん
 学校一の美人。
 でみちゃんの宿敵、ライバル。
















004 緑川 麻衣(みどりかわ まい)

緑川麻衣  コードネーム メデューサ。
 卑怯な手を使う魔女。


















005 関山 美保(せきやま みほ)

関山美保  コードネーム セイレーン。
 卑怯な手を使う魔女。


















006 小島 妙子(こじま たえこ)

小島妙子  コードネーム ドッペルゲンガー。
 人に化けたりするのが上手い魔女。


















007 我妻 甘奈 (あがつま かんな)

我妻甘奈  生徒会長。
 双子の姉、蘭菜の暴走に頭を痛めている。


















008 我妻 蘭菜(あがつま らんな)

我妻蘭菜  闇の生徒会長でコードネームはバハムート。
 会長選で妹に負け、憂さ晴らしに魔女となった。
















009 高田 萌(たかだ もえ)

高田萌  コードネーム バジリスク。
 キス魔で彼女とキスした者はお腹を壊す。
 魔女。















010 真田 美知恵(さなだ みちえ)

真田美知恵  コードネーム グリフォン。
 姑息な手を使う魔女。


















011坂本 妃華利(さかもと ひかり)

坂本妃華利  コードネーム キマイラ。
 姑息な手を使う魔女。