第003話


第七章 日曜日の休日




 さて、今日は定休日です。
 看板娘達もみんなそれぞれの休日を過ごしているでしょう。
 今日は一日、私、ひすいにお付き合い下さいますか?
 ちょっとぶらっと外出しましょうか。
 何処へ行きましょうか?
 そうですね――
 神宝商店の近くを回ってみましょうか。
 それでは、今日一日、よろしくお願いいたします。


「ふぅ〜う、今日も一日、エンジョイするぞぉ〜」


 私ははりきりました。
 正直、日曜日はだらっとしている事も多いのですが、今日は皆さんとご一緒という事で私の方もちょっとそれなりの休日を過ごしている所を見ていただこうと思いまして。
 ふふ、ちょっと良いかっこをさせて下さいませね。
 では出発いたします。


「行ってきます」


 私は神宝商店の女子寮を出ました。
 本当は寮に住んでいる他の看板娘達に密着したかったのですが、どの子も恥ずかしいからとやんわりと拒否されましたので、仕方ないので、今日の所は一人で行きます。


「あのあの、いってらっしゃい」
「行ってきます。良かったらめのうさんもご一緒にどうかしら」
「え?でもでも、良いんですか?」
「良いですよ。丁度、寮のみんなにフラレて私一人で出歩く事になったので、誰か一人、パートナーが欲しいと思っていたところなんですよ」
「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」


 どうやら、一人ぼっちでの散歩にならずにすんだようです。
 来週の週末から入寮予定のめのうさんが寮の様子を見に来ていて、お誘いした所、オッケーが出ましたので、一緒に回る事にします。
 ちょうど、めのうさんも近所とか解らないでしょうから、案内も兼ねて一緒に散歩しますね。


「あのあの、お待たせしました」
「もう、部屋の様子は見ましたか」
「はいです。とっても広くて住みやすそうなお部屋でしたぁ」
「これからあなたの家具が入るから住む時はもっと狭く見えるけどね」
「あ、そうでした」


 あらまぁ、相変わらず、ちょこっと抜けてそうですね、めのうさんは。


「じゃあ、案内がてら、この辺を一緒にまわりましょうか」
「はい。お願いします」
「はい、解りました。じゃあ、まずは、寮のお隣さんからですね」
「はい」
「お隣は、金オーナーと銀副オーナーの家です。寮の大家さんも兼ねています」
「なるほどです」
「反対側のお隣は現在、空き地になっています。将来、ビルが建つとか建たないとか。それで日照権の問題で一部で反対運動があります」
「そうなんですか?」
「それは、ほぼ解決済みですのであまり気になさらずに。うちがもめているわけではありませんので」
「はい、解りました」
「では、オーナーの家の隣ですが、コンビニがあります。この神隠しエリアでは一番の老舗、サンクチュアリです」
「はい」
「さらに隣が、スーパーどすこいです。大体、サンクチュアリとどすこいで必要な物の八割くらいは揃うと思いますよ」
「あ、助かります」
「その隣が私達の職場、神宝商店ですね」
「そうですね、そうなりますね」
「神宝商店の隣が神宝工場、うちの工場になりますね」
「はい」
「神宝工場のとなりが、衣料店ビビットキターです。更にそのとなりが理髪店よござんす、その隣が寄り道公園、その隣が……」
「す、すみません。覚えられません」
「あらまぁ、ごめんなさい。全部覚える必要はないのよ。大体どんなお店があるかをなんとなく覚えていてもらえばそれで良いわ」
「はい、わかりました」
「じゃあ、ちょっと足を伸ばして、私の行きつけのお店をのぞいてみましょうか」
「はい、お願いします」


 私は道案内もそこそこに行きつけのお店、カフェ・ゆらぎに向かいました。


「わぁ、凄い」
「ラテ・アートよ」
「これがラテ・アートですかぁ、私、初めて見ました」
「私のが弁天様、貴女のがサラスバティ様ね」
「なるほど……どうやって描いたんですか」
「それは私には解らないわ。テクニックの一つだと思うわ」
「へぇ……私もやってみたいです」
「うーん、貴女にはちょっと難しいかもね。失敗したらそこで、終わりだからね、これは」
「そ、そうですね」
「そうそう、ここの抹茶ケーキが絶品なのよ、食べてみて」
「本当だ。美味しい」
「後ね、ストライクタワーパフェと三種類の蜜のパンケーキ、特盛りモンブランに、シフォンケーキ、レアアイスに――」
「そ、そんなに食べられないです」
「あ、あぁそうだったわね。ごめんなさい、私ったらつい……」
「いえ、徐々に食べに来て見ます」
「そうね、一度に食べる必要は無いものね」
「はい、そうですね。それより、この後、どうしますか?」
「そうね……一度見に言って欲しいのは神宝美術館かな?」
「神宝美術館……ですか?」
「そう。うちのオーナーが館長をしているの」
「いろいろやってますね、きんオーナー」
「ぎん副オーナーもね。なんたってこのエリアの顔役ですからね」
「なるほどです」


 そうそう、皆様にもお伝えしますね。
 めのうさんとのお話で出た、神宝美術館は神宝商店から流れていった物が半分くらい置かれているんですよ。
 理由は一つです。
 レア度百を超えるアイテムだからです。
 あまりにも凄いので、店頭にはおけないので、美術館で管理をしているんです。
 稀に、百を少し超えたレア度のアイテムが神宝商店にも入って来ますが、基本的に、レア度百以上のアイテムはこの美術館が管理しています。
 美術館には一般のお客様が閲覧できるエリアとVIPのお客様が閲覧なさるエリアがあって、VIPのお客様も七つのレベルが存在していまして、VIP7の方は私等がお名前を口にするのも失礼にあたる雲の上以上の方がいらしたりします。
 一般のお客様は大体、レア度二百くらいまでのアイテムを閲覧出来ます。
 私は一度、VIP1閲覧用のアイテム……確か、レア度二五七だったかしら……それを拝見させていただいたんですが、あまりの凄さに気絶してしまったんですよ。


「じゃあ、神宝美術館を見た後は、映画でも見ましょうか。冠映画祭で好評だった映画で【曇天から晴天へ】って言う映画なんだけどご存じかしら?」
「あのあの、知ってます。泣けるやつですよね。私、一回見てみたいと思ったんですよ」
「そう、一緒に見ましょうか。マスカット味のポップコーンとストロベリー&ラズベリーシェイクは絶品よ」
「あ、実は食いしん坊さんですね、ひすいさんは」
「あらまぁ、わかる?このお仕事は体力勝負ですからね。力をつけようといっぱい食べているうちにね」
「あんまり食べ過ぎると太っちゃいますよ」
「大丈夫、私は太らない体質だから。食べた分は下からでちゃうから」
「あ、お下品ですよ、ひすいさん」
「ほほほ、そうね、失礼しました」
「えへへ」
「締めくくりは絶景の夜景が見えるスポットに案内するわ」
「へー楽しみです。夜景、好きなんですよ」
「彼氏と一緒に見たいとか?」
「えー彼氏なんていないですよぉ〜」
「彼氏募集中?」
「わた、私にですかぁ……まだ、早いといいますか、なんと言いますか」
「はいはい、そういうお話は苦手なようね」
「はいです。すみませんです」
「良いのよ。彼氏がいると解ったら、見られなくなるお客様も少なからずいらっしゃるし、居てもなるべく内緒にしていてねと言おうと思っていたからね。いないのならそれで結構よ」
「作ったらダメですかぁ?」
「ダメとは言わないけど、あまり、開けっぴろげにされてもって、あれぇ?興味あるのかなぁ?」
「ななな、無いですぅ、今は、無いですぅ」
「あまり、突っ込むと困っちゃいそうだから、そういう事にしておきますか」
「はい、お願いしますぅ」


 私とめのうさんは神宝美術館、映画、夜景の順番に回って、一日を過ごしました。
 これが、私の休日です。
 ちょっと立て前が入っていますが、こんな感じの休日を過ごせたらなんて思っています。
 では、今日の所はお休みなさいませ。




第八章 月曜日の看板娘 瑪瑙(めのう)2




「おはようございます」
「あのあの、おはようございます。いらっしゃいませ」
「おや?ひすいさんは引退したのかい?」
「いえ、主任として控えてますよ。私がひすいさんの代わりに月曜日の看板娘になりましためのうです。よろしくお願いします」
「おやおや、ご丁寧に私は魔女のジャスミンってもんだよ、よろしくね」
「はい、よろしくですぅ」
「ほほほ、可愛いわねぇ」
「ありがとうございます」


 あらまぁ、ジャスミン様がいらしているのですね。
 腰痛はもうよろしいのでしょうかね。
 ちょっと様子を見に行きますか。


「ジャスミン様」
「おぉ、ひすいさん、元気かえ?」
「はい、お陰様で。いつもので宜しいですか?」
「そうだねぇ、いつもので頼むよ」
「はい。今度こそご縁があると良いですね」
「今年は三百年目の記念デーじゃからなぁ、特別製を作るつもりじゃよ」
「あのあの、失礼ですが、あのようなものをどのように?」
「あらまぁ、そういえば、めのうさんは初めてだったわね」
「はいですぅ。」
「ほほほ、女なら当然、恋のおまじないじゃよ」
「へぇ、そうなんですか」
「まぁ、そうなりますかね」
「良いなぁ……私も素敵な恋がしたいです」
「お前さんは可愛いから、すぐに良い相手が見つかるさ」
「はい、ありがとうございます。ジャスミン様も頑張って下さいね」
「おお、もちろんじゃとも」


 恋バナの途中ですが、ジャスミン様は三百年間の恋愛をしておられます。
 お相手は、魔王シナンモンネーダー様です。
 シナンモンネーダー様に不老不死のお薬をジャスミン様がお作りになってからのお知り合いで、その時に、シナンモンネーダー様に一目惚れをされたんです。
 ですが、シナンモンネーダー様には常に意中のお相手がいらっしゃいます。
 各国のお姫様方です。
 様々な国のお姫様にときめいては攫われて、勇者様に退治されるという悲恋を繰り返しておられます。
 そうです。
 シナンモンネーダー様は無類のプリンセス好きなのです。
 魔女であるジャスミン様ではハートを射止める事が敵わないのです。
 ですが、お優しいシナンモンネーダー様はある条件を出されました。
 ジャスミン様がお作りになる惚れ薬を一日、一ダース飲まれて、もしも、お姫様方よりもジャスミン様に対して恋心が強くなられた暁には、ジャスミン様を娶られるとお約束されました。
 その恋も今年で三百年目だとお聞きして、百年の恋の三倍も恋をされているなんて素晴らしいなと思いました。
 めのうさんじゃありませんが、私もそのような恋をしてみたいですね。


「こんにちは」
「あのあの、いらっしゃいませぇ」
「僕はカーネルといいます。でもこれは本名じゃなくて……」
「あのあの、カーネル様?」
「あの……名前を返しに来ました。ただ、二年も過ぎちゃって、延滞金っていくらですか?今、手持ちがこれだけしか……」
「あのあの……もしかして、名無しのカーネル様ですか?」
「そ、そうです。元々、僕に名前は無くて、名前を一年間お借りしたんですけど、返しそびれてしまって」


 あらまぁ、名無しのカーネル様。
 当時、私が担当していたお客様だわ。
 また、ちょっと行ってきましょう。


「名無しのカーネル様、私を覚えていらっしゃいますか?ひすいです。お久しぶりですね」
「はい、覚えています。素敵なお名前だなって思っていました」
「ありがとうございます。それと、良かったです。訪ねて来て下さって。ずっと待っていたんですよ」
「ご、ごめんなさい。どうしてもカーネルという名前が欲しくて……」
「いえいえ、その事なんですが、三年前と状況が変わったんですよ。お名前のレンタルは無くなりました」
「え?それじゃ、僕はどうしたら」
「代わりに名付け親登録というシステムができました。私で良かったら、名付け親登録をさせていただきますが?どうですか?」
「え?良いんですか?」
「はい、それで、カーネル様のお名前はカーネル様のものとなります。ずっと使っていただいて、いっこうにかまいませんよ」
「ほ、本当ですか?」
「はい、本当です」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「いえ、今度はご連絡先を教えていただけると私共としては助かるんですが」
「ご、ごめんなさい、今度はお教えします」
「あのあの、良かったですね」


 そうなんですよね。
 私からめのうさんに月曜日はバトンタッチしたんですが、私の前のお客様との事をまだまだ、彼女に教えていかないといけないと思っています。
 まだまだ、看板娘の引き継ぎは終わりませんね。


「おう、ごめんよぉ。ねーちゃん、元気か?」
「あのあの、天野様、いらっしゃいませ」
「おう、元気でやってるか」


 天野ジャック様がまた、お越しになられたようですね。
 めのうさんの時に買われた七宝セットをまいかいさんにプレゼントされていたようですが……
 お客様のプライベートを私の口からお話する訳にはいきませんので、この事はまいかいさんにもめのうさんにも内緒です。


「あのあの、今日は良いものが入ったんですよ」
「ほう、なんだ、そいつは?」
「三つありまして、一つ目が黄金の七支刀(しちしとう)」です。これはレア度百四十五の所をレア度九十五として、店頭に並ぶ事になりました」
「うおぉ、そいつはすげぇ」
「二つ目は特注クリスタル性聖杯です。これもレア度百七十四の所をレア度百三に下げました。レア度は百を超えてしまいますが、三杯限定で店頭に置くことになりました。人気商品ですので、今を逃すと……」
「そりゃそうだろうよ。何てこった。ちょっと待ってろ、神宝ATMで下ろしてくるから」
「はい、お待ちしています」


 あらまぁ、天野ジャック様が慌てて席を外されましたね。
 無理もありませんね。
 今回の目玉商品はどれも本来、店頭には並ばない程のレア度のものばかりです。
 これを逃したら、なかなか、他では手に入らない物ばかりです。


「ぜぇはぁ……待たせたな。商品は売れてないな?」
「はいですぅ」


 神宝ATMは当店の中にありますから、慌てなさらなくても商品は逃げませんよ。


「み、三つ目の商品を聞こうか」
「はいですぅ。三つ目はオートクレールのレプリカです」
「レプリカ?なんで、レプリカが目玉商品なんだ?」
「レプリカはレプリカでもこれは、本物と遜色ない出来になったレプリカなんです。ですから、その一品のみで、レア度は九十九になっています。これでも、状態を考えますと、かなりのお買い得ですよ。本来なら、百八十前後つくとひすいさんもおっしゃってましたよ」
「ちょ、ちょっと物を見せてくれ」
「はいです」
「お、おぉこいつは、何とも……誰が作ったんだ」
「名匠、タコチュー様です」
「おぉ、レプリカ制作の巨匠、タコチューさんか。あの人が作ったレプリカは物によっちゃ本物を超えると評判だからな。こいつを見て納得したわ。確かにすげぇ、逸品だ。ちょっと待てよ。足りるかこれで?ちょっと待ってろ、もっかい、下ろしてくる。三品全部、注文だ。予約したぞ」
「はいです。でもでも、神宝ATMで下ろされるなら予約なさらなくても」
「何、言ってやがんだ。その間に、他の客に取られたら洒落にならねぇだろうが」
「そ、そうですか?失礼しました」


 あらまぁ、かなり興奮なさってますねぇ。
 無理もないとは思いますけどね。
 天野ジャック様はこういう商品には目のないお客様ですからね。




第九章 火曜日の助っ人 水晶(すいしょう)




 今日はさんごさんはお休みです。
 やはり、先週の一件がちょっとショックだったようで、大事を取ってお休みにしたようです。
 勘違いとは言え、お客様を傷つけてしまったのは本人もちょっと気にしていたようですね。
 代わりに入っていただくのは水晶(すいしょう)さんです。
 よろしくお願いします。


「こんにちは」
「うむ、よくきた」
「あれ、今日はさんごちゃんじゃないの?」
「今日は休みだ。代わりに我が出ることになった。このすいしょうでは不満か?」
「いや、そうじゃないけど、勝手が違うからさぁ」
「我に任せておけば大丈夫だ。して、何用じゃ?」
「あ、あぁ、これ……なんだけど」
「何だ、これは?」
「見ての通り、髪の毛なんだけどさ。腕に食い込んじゃって、困ってるんだよね」
「どういう事だ?」
「あぁ、そうか、さんごちゃんは状況知ってたんだけど、あんたは知らないか」
「そう言うことだ」
「実は俺、下級~やらしてもらってるもんぺってもんなんだけどよぉ」
「ふむ」
「実は俺の社で女が一人、自殺してさ」
「ほう……」
「なんでも、男にこっぴどくフラレたらしいが、それが、俺のせいだと思いこんで、俺に対して逆恨みをして死んだんだよ」
「なるほど」
「んでもって、俺の右腕に恨みを残した髪の毛がまとわりついてさ。どうにかならんもんかね?」
「運が良かったな。さんごではどうしようもないが、我ならば、それは解決出来る」
「ホントか?そいつは良かった。早速、何とかしてくれ」
「うむ、では腕を出せ」
「ん?こうか?」
「ちょっと痛いぞ」
「痛いぞって何する気だ?」
「腕をぶった切る」
「ちょっちょ、ちょっと待て」
「何だ?、礼ならいらんぞ」
「そうじゃなくて、腕切られんの、俺?」
「そうだが?」
「じょじょ、冗談じゃない。腕切られたら困るだろうが」
「そうなのか?残念だ」
「何を考えているんだよ」

 あらまぁ、すいしょうさん、おしゃべりが苦手ですからねぇ。
 ちゃんと説明しないとお客様が不安になられてしまいますよね。
 ちょっと行ってきましょうね。


「お客様」
「ちょっと、この人に言ってやってよ、逆恨みの呪いなんかで腕切られちゃったらたまらないって」
「申し訳ありません、お客様。すいしょうさんは口下手で。説明が足りませんでしたね。実は彼女は、癒しの剣を使うんです」
「癒しの剣?」
「はい、主に、呪いの浄化をします。ですので、お客様の件は正にうってつけなのですが、呪いの方も抵抗しますので、多少痛みと幻覚を伴います。その時、腕が切れたように見えるのですが、実際には切るのは呪いのみで、腕は大丈夫です。すいしょうさんは切れた様に見えるので、そう言ったのだと思います」
「そのとおりだ」
「なんだ、そういう事か。最初に言ってよ」
「うむ、以後、気をつけよう」
「申し訳ありません」


 ふぅ、何とか誤解は解けたようですね。
 すいしょうさんが看板娘ではなく、助っ人をしているのはこの口下手による、お客様の誤解が多いという事にあります。
 もう少し、会話が上達して下さると安心して、お店をお任せ出来るのですが、なかなか……。


「おはようございます」
「うむ、よく来た。入れ」


 それにしても、もう少し、お客様に対しての言葉使いは何とかなりませんかねぇ。
 ちょっと接客向きではないんですよね。
 それは注意しているんですが、なかなか直らないんですよね、すいしょうさんの言葉使いは。


「こんちわ」
「うむ、よく来た、入れ」
「実は、頼みがあって来たんだけどさ」
「何だ?言って見ろ」
「俺は九十八代目の四色ウナギ店の店長になった助蔵(すけぞう)ってもんだけどさ。見ての通り、ほら、俺、腕なくてさ、足なら十本あるんだけどさ」
「ふむ、そのようだな」
「先代がさ、お客様に足で切ったもんを出すってのかと言われちまってさ、何とか義手を作ってもらえないかと思ってさぁ」
「義手を作ってどうする?」
「それ使って、ウナギを捌こうかと思ってさ」
「ただ、作ったのではだめだな、義手に魂を乗せて切るのだ。修行し直さなくてはなるまい、一兵卒からやり直せ」
「一兵卒って兵隊じゃないんだからさ」
「細かい事を気にするな。だが、今のままでは誰もお前の料理を食さんだろう。よし、我が稽古をつけてやろう。かかってこい」


 あらまぁ、すいしょうさん、お客様にそれはないでしょう。
 ちょっとまた、言ってこなくては。


「お客様、申し訳ありません」
「この人、何を言ってるんだ?」
「少々、ズレた感性を持っていまして」
「何を言う、ひすい、我はまともだぞ」
「はいはい、そうね。そうかもね」
「わかればよい」


 すいしょうさんは自分では普通だと思っていますので、ここで否定してしまいますと、少々ややこしい事になります。
 難しいお年頃なんですよ。


「こんばんわ」
「うむ、よく来た、入れ」
「あの、息子を止めて下さい」
「どういう事だ?話せ」
「はい、実は、あの子神になるんだって聞かないんです。根っからの悪魔っ子なのに」
「ほう、なるほど」
「さんごさんからも言ってやって下さい。あなたは悪魔なのよと」
「我はさんごではないが、よいか、母親よ。息子は神になることは可能だ」
「えぇ?何故ですか?」
「神や悪魔という概念は元々、人が決めたものだ。ある国では神とされる者は別の国では悪魔とされる事もあるのだ。逆もまた、しかりだ。つまり、引っ越しを進める。この際だ、神になってしまえ」
「えぇ、私もですか」
「親ならば、息子に付き合え」
「で、でも……」
「つべこべ言わずに決断しろ」
「は、はい」
「うむ、よろしい」
「そ、そうでしょうか」
「そうなのでしょうかではない、納得しろそれで」
「わ、わかりました」


 あらまぁ、これは難しい問題ですね。
 この問題は私にも解決は難しそうですね。
 なれと言われても簡単に悪魔様が神様になるのは難しいですしね。
 でも、こういう難しい問題もスパッと言えるのはすいしょうさんの強みかもしれませんね。
 私も一部、見習いたいと思っています。
 ここはひとつ、すいしょうさんにお任せしましょうかね。




第十章 水曜日の看板娘 瑠璃(るり)&玻璃(はり)2




 今日は、はりちゃんが一人で看板娘をしています。
 るりちゃんは、蜂の巣山の一日主様をやっていますので、出張しています。
 今まではるりちゃんのしっかりな部分に頼りきりだったので、はりちゃん、一人で出来るのかちょっと不安なのですが、どうでしょうか?


「こんにちは」
「いらっしゃい、サリーのおばちゃん」
「おや、今日は、はりちゃん一人かい?」
「うん、今日は僕一人だよ。るりちゃんは一日主様やりに行ってるからね」
「なるほどね」
「今日は僕が一人で接客するよ。よろしくね」
「はいはい、よろしくね」


 おやまぁ、何とか接客出来ているみたいですね、はりちゃんは。
 魔神城の魔神、サリー様のお相手をしている見たいですね。
 どれどれ、少し様子を見ましょうかね。


「実はね、はりちゃん、今日はるりちゃんがいないとちょっと難しいかな?なんて思っているんだけど」
「大丈夫だよ、僕はちゃんと出来るから。言ってみて」
「そうかい?実は城アリ退治をしてほしいんだけど」
「白アリ?」
「ううん、お城のアリさんだよ。お城に住み着いてお城を壊す悪いアリさんの事だよ」
「ふーん。どうすれば良いの?」
「るりちゃんだと城アリ用の特性、殺虫剤か何かを用意してくれると思うんだけど、はりちゃん、置いてある場所とかわかる?」
「うーん……わかんない。でも大丈夫、僕、探すから」
「いやぁ、確か特殊なものだっていうから……はりちゃんには難しいかな?なんて」


 あらまぁ、いけませんね、お客様にお気を使わせているのは。
 私が行ってきましょう。
 えーと、確か、城アリ撃退用の殺虫香がベストね。
 どこだったかしら?
 あれの管理はるりちゃんに任せきりだったから。
 あ、そうだ、るりちゃんの残してたメモに何か書いてないかしら?
 あ、あった。
 さすがはるりちゃんだわ。
 こういう時の事を考えてしっかりメモに残しているわ。


「お客様いらっしゃいませ」
「あら、ひすいさん、こんにちは」
「はりちゃん、ボードの上にるりちゃんのメモが残っているからそれを確認して、城アリ退治の殺虫香を用意してね」
「うん、わかった」
「お客様、少々、お待ち下さい。今、持って参りますので」
「はい。さすが、るりちゃんね。いなくてもしっかりしているわ」
「僕だってしっかりしてるよ」
「そうね、ごめんなさいね」
「行ってくる」
「……申し訳ございません。お気を遣わせてしまって」
「いいのよ、はりちゃんも大好きだし。元気があって良い子だしね」
「ありがとうございます。あの子も喜ぶと思います」
「あったよ」
「残念、はりちゃん、それは旧式だから、ここに、Qってあるでしょ。Sってのを持って来て」
「うん、わかった」


 やれやれ、何とか、対応出来ましたね。


 リリリリリリリリリリ


「はいはい、もしもし、こちら神宝商店です」
「はりちゃん、そっちは大丈夫?」
「あ、るりちゃん、大丈夫だよ、こっちは。そっちは?」


 あらまぁ、どうやら、るりちゃんが心配して電話をかけて来たみたいですね。
 よっぽど、はりちゃんの事が心配だったのかしら。


「色々、勉強になるわ。それより、メモは見てくれた?」
「あー見たよ」
「多分、魔神サリーさんが来られると思うけど」
「来たよ」
「S印の殺虫香だからね。書いてあったでしょ」
「うん、書いてあったね。見落としてたよ」
「だめでしょ、しっかり見てよ」
「うん、わかった」
「後、午後から、金オーナーが来るから」
「そうなんだ」
「そうなんだじゃないでしょ、私達、セットじゃないけど、しっかり説明しておいてよ」
「大丈夫、僕は一人でもやるから」
「そうじゃなくて、金オーナーは私達ふたりが揃っているのを見に来るの」
「そ、だね」
「私は急用が入ってそっちにいけないんだから、しっかりお相手してよ」
「うん、わかったよ」
「本当に解ってる?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当に?」
「大丈夫だってば」
「頼んだからね」
「うん、るりちゃんも頑張ってね〜」
「もう、呑気なんだから」
「じゃあね〜ばいばい」
「ばいばい。お願いね」
「うん」


 チン


 あらまぁ、よっぽど、心配だったのね、るりちゃん。
 何度も念を押していたわね。
 でも、私もちょっと心配よね。
 何とかフォローしなくちゃ。


「るりちゃん、はりちゃん、いる?」
「あ、金オーナー、いらっしゃい」


 あぁ、金オーナーが来られたわ。
 どうしましょう。
 大丈夫かしら。


「はりちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「るりちゃんは?」
「るりちゃんは出張だよ」
「出張?」
「蜂の巣山の一日主様だよ。ホントは僕がやりたかったんだけど、るりちゃんが行ったんだ」
「あら、行ってくれれば、ふたり一緒に行かせたのに」
「ホント?」
「ホントよ、でも、もうダメね。ふたり一緒じゃないもの。後から行ってもセットにはならないもの」
「え〜」


 あぁ、ハラハラする。
 はりちゃん、ひとりには任せられないわ。


「いらっしゃいませ、金オーナー」
「あら、ひすいさん、こんにちは」
「あの……、るりちゃんの事なんですが」
「もう、ふたりはセットと言っているじゃない。るりちゃんが出張ならはりちゃんもそうでなきゃ。離ればなれにしないで」
「はい……申し訳ありません」
「ぶぅ、僕は別にるりちゃんとセットじゃないよ」
「まぁ何を言うの?」


 あぁ、はりちゃん、余計な事を。


「私と銀はね。双子なのにあまり似てないの。だから、せめてあなた方には……」
「僕とるりちゃんは別に双子じゃ……」
「な、何を言っているのかしらこの子は。す、すみません、オーナー」
「なるほど、ふたりは喧嘩中なのね。だから、一緒にいないと。それなら納得だわ」
「違うよ」
「何が違うの?」
「ほほほ、はりちゃん、ちょっとお客さんを見てきて」
「えー?」
「良いから、はい、ダッシュ」
「うん……」
「ひすいさん、違うというのはどういう事かしら?」
「い、いえ、その……申し訳ありません。ふたりは双子では無いんです。黙っていて申し訳ありませんでした」
「何を言っているのかしら?」
「ですから、ふたりは双子ではないという事で……」
「肉体的な事を言っているのなら、それは私も銀も知っているわよ。そんな事は百も承知よ」
「え?」
「私と銀はあの子達を魂の双子だと言っているのよ。ふたりはセットでこそ輝く。お互いがお互いの足りない部分を補い合うことで、より一層輝く。そんなふたりなの。この出会いは奇跡に近いわ。」
「知っていらしたんですか」
「当たり前よ、伊達に双子をやっているわけじゃないのよ」
「はぁ、そうなんですか?」
「外見が似ているのは魂の部分でつながっている事の単なるオマケに過ぎないわ。私達はこのふたりを磨けば輝く原石のように思っているのよ」
「じゃあ、言葉遣いが違っていても」
「いっこうにかまわないわよ。だって、魂が似ているんですもの。その他の事なんてどうでもいいのよ。ずっと思ってたわ。るりの方が演技をしているって。もっと自由にしていればいいのにって」
「それ、聞いたらるりちゃんも喜ぶと思います」
「そうなの?」
「はい、そうです。帰ってきたら、伝えます」


 どうやら、気持ちがすれ違っていたようです。
 私達はオーナー姉妹のご機嫌を伺うように演技していましたが、オーナー姉妹はそれには気付かれていて、もっと一緒に行動して欲しいだけだったようです。
 最初の誤解が生んだ悲劇ですね。
 もっと早く話し合えば良かった。
 私も反省します。
 どうやら、取り越し苦労だったようですね。



登場キャラクター紹介

001 めのう
めのう
 主人公の女の子。
 ちょっとドジなところもあるけど一生懸命な女の子。
 特別注文店、神宝商店の月曜日担当の看板娘。
















002 ひすい
ひすい
 特別注文店、神宝商店の前の月曜日担当の看板娘で主任。
 ナレーションも兼任。
















003 天野 ジャック(あまの じゃっく)
天野ジャック
 神宝商店のお得意様の人間。
 数年前、神隠しにあって以来の常連客。
















004 きん
きんオーナー
 特別注文店、神宝商店のオーナー。
 ぎんとは双子の姉妹。
















005 ぎん
ぎん副オーナー
 特別注文店、神宝商店の副オーナー。
 きんとは双子の姉妹。
















006 さんご
さんご
 特別注文店、神宝商店の火曜日担当の看板娘。
 曲がった事が大嫌いな正確。
 さっぱりとしていて、適当と見られる事もしばしばある。
















007 るり
るり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その1。
 はりと双子のふりをしている。
 しっかりとした性格。
















008 はり
はり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その2。
 るりと双子のふりをしている。
 無邪気な性格。
















009 しゃこ
しゃこ
 特別注文店、神宝商店の木曜日担当の看板娘。
 独特の感性を持つ。
 自分で考えたキャラクターになりきってしまう。
















010 しんじゅ
しんじゅ
 特別注文店、神宝商店の金曜日担当の看板娘。
 女優志望。
 何事も一生懸命。
















011 まいかい
まいかい
 特別注文店、神宝商店の土曜日担当の看板娘。
 大人しく人見知り。
 意外とファンが多い。
















012 こはく
こはく
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 しょっちゅう、言い間違える。

















013 すいしょう
すいしょう
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 丁寧な言葉が使えない。