第001話


序章 ようこそ神宝商店(かんだからしょうてん)へ



「あのあの……私、めのうって言います。あのあの……私、神宝商店さんで働きたいと思いまして……あのあの……ですから……」
 あらまぁ――何だかあわてん坊さんな感じの女の子が訪ねて来ましたね……

「まぁまぁ――あなたが、瑪瑙(めのう)さんね……話はオーナーから聞いてます。私が、新しく主任になりました翡翠(ひすい)と申します。よろしくお願いします」
 私は軽く会釈しました。

 すると彼女も慌てて合わせて来て――
「こここ、こちらこそ、よろよろよろしくお願いします」
 ふふふ、可愛い、何だか初初しいわね。

 でも……
「お客様との会話で【あのあの……】はちょっとね……」
「あのあの……あ……また言っちゃった――ご、ごめんなさ……」
「ふふふ、良いのよ、それもあなたの個性かも知れないわね……お客様から苦情が出たら考えるとして、あなたはあなたらしくお客様にあたってくださいね」
「はい、わかりました。あのあの……あ……」
「ふふふ……癖みたいね。なかなか抜けないかしらね――それ」
「すすす、すみませ……」
「良いのよ、謝らなくて。あなたには私の変わりに月曜日に入ってもらうから――それで良いかしら?」
「あ、はい……わかりましたぁ」
「よろしい……では説明を始めます……」
「はい」

 私は彼女に神宝商店の説明をしました。
 あ、でも、皆さんもよくわかりませんよね?

 では、皆さんにもご説明いたします。
 特別注文店/神宝商店を。
 どうかよろしくお願いいたします。
 さて、何からご説明いたしましょう……

 まずは、職種といいますが、神宝商店が何をするお店かをご説明いたします。

 当店はいわゆる特別注文の品物を取り扱っております。
 つまり、普通の商品は一切、取り扱っておりません。
 全て、特別、特殊な商品ばかりです。
 それが、特別注文店と呼ばれる所以でもあります。

 次に、お客様についてですが……

 あまり、普通の人間のお客様はいらっしゃいませんね。
 お得意様としては神様や悪魔様、精霊様、モンスター様が多いですかね。
 お客様は神様ですという言葉もありますが、うちには本物の神様もいらっしゃいますね。

 次は、商品についてです。

 商品にはレア度という基準がついていまして、うちではレア度十一以上のものから商品として取り扱っております。

 例外としてはレア度三の奇石(きせき)などをサービスでお配りしていますね。
 基本的にレア度十一から百までを多く取り扱っております。
 ごくたまにレア度百を超える商品も取り扱いますが、基本的には百までという事になっております。

 最後に従業員ですね。

 売り場と工場等は別になっていますので、私が詳しくお話出来るのは売り場の方ですので、そちらだけ、ご紹介しますね。

 まずは、オーナーの金(きん)さん、副オーナーの銀(ぎん)さんです。
 このお二人は双子さんです。
 時々、お店(売り場)を見に来られますが基本的には工場の方にいらっしゃいますね。
 私、翡翠(ひすい)もこのお二人に雇われています。
 私事ながら、この度、看板娘から主任に昇格いたしました。

 次に、看板娘ですね。

 まずは月曜日担当の看板娘です。
 これは今まで、私、ひすいが担当していましたが、これからは彼女、めのうさんが担当する事になりますね。
 ちょっとあわてん坊さんな性格みたいですね。

 次に火曜日担当の看板娘は……
 珊瑚(さんご)さんですね。
 彼女は私の次に入ったベテランさんでもあります。
 性格は良く言えばおおらかなんですけど……おおざっぱといいますか……てきとうと言いますか……そんな女の子です。

 次は水曜日担当の看板娘です。
 瑠璃(るり)ちゃんと玻璃(はり)ちゃんですね。
 二人はオーナーと副オーナーが双子みたいで面白いからという理由で採用された別人で双子ではありません。
 ただ、他人のそら似と言いますか、よく似た容姿をお持ちの二人です。
 オーナー達がいらっしゃる時はそっくりなふりをしますが、普段は全然、タイプが違いますね。
 るりさんの方が大人しく、はりさんは逆に活発ですね。

 次は木曜日担当の看板娘です。
 しゃこさんですね。
 彼女の事は私にはよくわかりませんね。
 ちょっと変わった性格のお嬢さんです。
 彼女目当てのお客様もちょっと変わっているような……すみません、お客様に対して言う言葉ではありませんね。

 次に、金曜日担当の看板娘です。
 真珠(しんじゅ)さんです。
 彼女はそうですね……女優さんとかアイドルなんかをやっている方が性にあっているのかもしれませんね。
 少々派手な事がお好きなようです。
 サインなども書いたりしているみたいですよ。
 頼んだら書いてくれるかも知れませんね。

 最後に土曜日担当の看板娘です。
 まいかいさんですね。
 彼女はちょっと恥ずかしがり屋さんですね。
 接客業なのですから、もうちょっと、しっかりしてとは思うのですが、そんな彼女が良いとおっしゃられるお客様もいらっしゃいますからね。

 以上が、看板娘になりますね。
 日曜日は定休日となります。
 たまに日曜日に看板娘が全員集まって何かをやることもありますが、基本的にお休みとなります。

 他に従業員と言いますか、ヘルパーとして、看板娘が病欠の時等に琥珀(こはく)さんか水晶(すいしょう)さんが、入ることもありますね。
 お二人とも都合が悪い時は他の曜日の看板娘が入る事もあります。
 以上のメンバーでお店を切り盛りしています。

 どうか、神宝商店をよろしくおねがいいたします。




第一章 月曜日の看板娘 瑪瑙(めのう)




「あのあの……月曜担当、めのうです。よろしくお願いします」
「ふーん……あ、そ……ひすいさん引退したの?」
「いえ、あのあの主任という形で私達をサポートしてくれてます」
「なるほどね、新しい月曜担当はあんたというわけか……よろしくな、俺は常連やらしてもらってる天野(あまの)ジャックってもんだ」
「はぁ……あまのじゃくさんですね」
「ちげぇよ、そりゃ妖怪か何かの名前だろ、俺はれっきとした人間だよ。この店じゃ数少ねぇ人間の客だって」
「あ、そうなんですか?てっきり、私、妖怪さんかと思いました」
「おいおい、俺から妖気なんて出ちゃいねぇだろ?」
「そうですね。どちらかと言うと人間っぽいような」
「人間ぽいんじゃなくて、人間なんだよ」
「え、でも……人間のお客様は……」
「俺のように迷い込んで来ちまう人間もごく、たまにはいるんだよ」
「なるほど……」
「わかりゃいいんだよ、わかりゃ……」

 おやおや……どうやら、お客様との接客業は良い感じになってますね。
 めのうさんがお相手をしているお客様は天野ジャック様。
 三年前、神隠しにあられて、弊社、神宝商店を見つけた人間のお客様です。
 あの方のおっしゃる通り、人間のお客様は珍しいのですが、全くいないという訳ではありません。
 時々、いらっしゃるのも事実です。
 天野様もその中のお一人です。
 あの方は商品購入というよりは看板娘とのお話が目当てのお客様ですからね。
 大丈夫……めのうさんとはちゃんと会話になっています。
 しばらく様子を見てみますか。

「あのあの天野様、今日はどう言った物をお求めで?」
「俺か?うーん、そうだな――今日はあれだ……ウインドウショッピングってやつよ。一個買いてぇもんもあるけどな……何か良いモンねぇの?」
「そうですか?それでしたらこのカタログを……」
「おいおい、ちょっと待てって、俺はあんたのおススメってやつを聞きに来たんだぜ。なのに、そいつぁねーんじゃねーか?」
「し、失礼しました。私のおススメはですねぇ…」
「ふんふん……」
「レベル十五の閏石(うるうせき)なんてどうでしょう?」
「ほーう……で、何で?」
「それは……四年に一度しか見つからないんですよ!四年に一回、発見されることからついた名前が閏石……素敵だと思いませんか?」
「だがよぉ……それって、見つけにくいってだけで、そんな大したもんじゃ……」
「何言っているんですか……誰が探しても四年に一回、二月二十九日にしか見つからないんですよ。神秘的じゃないですか。それにその石を見つけるとそれから四年間は幸せだって言われているんですよ」
「迷信だろ、それ……」
「それでも見つけられるって事は運が良いって事だと思いますよ」
「そりゃそうだけどよぉ……売りモンを買っちゃ意味ねえだろ?」
「それもそうですね〜」
「ちげぇねぇや……はははは」
「あはははは」

 会話が弾んでいるようですね。
 なかなか良いですよ、めのうさん。

「あのあの……じゃあこれなんてどうですか?」
「ん?なんだこりゃ?」
「レベル十二の蜃気楼(しんきろう)を閉じこめた氷です。異国の地がいつでも見れて素敵です」
「おいおい、ねーちゃん、俺は男だぜ、素敵ってよりだなぁ……何かこう、ロマンをくすぐられるだなぁ……」
「なるほど……男性のロマンですか……じゃあこれなんてどうでしょう――聖剣エクスカリバーを磨いだ時に取れた剣のかけらです。少量ですが、貴重ですよ。レベルは三十九です。三十九ですのでサンキュー価格でお届けできますが」
「ほほぅ……そいつはなかなか……」
「あ、これもありますよ、レベル二十一の天女が置き忘れた羽衣です。昔話にもありますよね」
「おぉ、なかなか良い物揃えてるじゃねぇか……くぅ〜たまんねぇなぁ〜この店のウインドウショッピングはよぉ……」
「ありがとうございます。あ、これなんてどうですか?彗星の隕石です。これはレベル十六と結構、お買い得になってますけど」
「いや、今日買うモンは決めてんだ。あれだ、あれ、七宝セットくれ、七宝セット」
「七宝セットですね。金、銀、瑠璃、玻璃、??、珊瑚、瑪瑙のセットです」
「そうだ、あんたと同じ名前の瑪瑙も入ってる。あんたがここに入るって聞いてから買うって決めてたんだ。大くれ、大」
「え、そ……それは、ありがとうございます!うわぁ――何だか嬉しいなぁ……お祝いしていただいたみたいで」
「だから、みたいじゃなくて祝ってんだよ、あんたを」
「え、ほんと?」
「ホント、マジだよ」
「わぁ〜ありがとうございます。嬉しいです」
「今度来るときゃ、たんまり軍資金持ってくっからよぉ……楽しみにしてな、ねーちゃん」
「はい、ありがとうございます。でも、出来れば名前で呼んでいただけると……」
「そいつは、あんたが一人前になったらな、聞いてるぜぇ……あんた、結構ドジだって」
「あ、誰に聞いたんですかぁ?」
「さぁな、だが、おつりを間違えたとか、頭下げたら客に頭突きしたとか、エピソードは結構聞いてるぜぇ」
「そ、それは……その……」
「ははは、まぁ、今回に関しちゃ、一応合格点って、言いたいけどよ、それ、大じゃなくて、特大だぜ……」
「え?あ……す、すみません…」
「ははっ、大きいにこしたこたぁねぇが、出せる代金は大までだぜ」
「す、すみません、あのこれ、オマケです。私が作った折り紙です。あの……一応……バラのつもりなんですけど…」
「……なるほどな、あんがとよ、ねーちゃん、また来らぁ」
「あ、ありがとうございましちゃ……あ……」
「ははは、もっと接客練習しとけよぉ」
「あのあの……ごめんなさい……」


 うーん……これは、ちょっと合格点はあげられないかな?
 これからもう少し精進しましょうという感じですね〜。
 さて、次のお客様は…


「こんにちは……」
「いらっしゃいませ……あのあの…私、月曜日担当のめのうって言います。よろしくお願いします」
「それはそれはご丁寧に……私は茶碗の九十九神、チャッキーです。よろしく」
「チャッキー様ですね。よろしくお願いします。今日はどう言ったご用件で?」
「えぇ……実はお見合いで……」
「まぁ、それはおめでたいですね」
「あの……湯飲みのユリアンさん……来てますか?」
「ユリアン様ですね。少々お待ちを……あ……はい、いらしてます。二階のラウンジでお待ちですよ。綺麗な方ですよね、ユリアンさん……」
「そうなんですよ、写真を見て、一目でこの湯飲みだって思って……」
「うまく行くといいですね。頑張って下さい」
「はい。じゃあ、二階でしたね」
「はい、そうです。あ……こちらからお上がり下さい」
「あ、どうも……あ〜緊張するなぁ」
「大丈夫だと思いますよ、お似合いですよ」
「そ、そうですか……へへ……嬉しいなぁ」
「チャッキー様、あまり、女性をお待たせするのは……」
「そうでしたね…支度に手間取ってしまって……」
「なるほど、そうでしたか、素敵ですよ、その蝶ネクタイ」
「あ、ありがとう」
「いけない、ユリアンさまをお待たせしてましたね。ささ、こちらです」
「あ、はい……」


 神宝商店には人間以外のお客様がいらっしゃいますので、ご用件も様々です。
 チャッキー様のように、お見合いで来られる方もいらっしゃいます。


「ご免よぉ……」
「いらっしゃいませ。あのあの……私、月曜日の担当をしています、めのうです。よろしくおねがいします」
「おぉそうかい、俺は獏(ばく)の仁三郎(にさぶろう)ってケチな野郎なんだけどよぉ……生きの良い悪夢が入ったってんで、ちょいとつまみに寄ってみたんだけどよぉ」
「はい、仁三郎様ですね。承っております。三つの祟りのスパイスが効いたとびっきりの悪夢を詰め込んだ缶詰、奇(き)・怒(ど)・哀(あい)・落(らく)の四点セットでございますね。レアレベルは四十に調整させていただいております。生ものですので開封後三秒以内にご堪能下さい」
「おぅ、また、生きの良い悪夢が入ったら連絡よろしくな」
「はい、わかりました」
「あ、そうそう、噂で聞いたんだけどよぉ」
「はい、何でございましょう?」
「俺のブロマイド、売れてるらしいじゃねぇか」
「はい、お陰様で、主に地球の日本を中心に売れておりますよ」
「へへへ、嬉しいねぇ」
「また、よろしくお願いしますね」
「おうともよ!また、安く提供させてもらうからよろしくな」
「はい、ありがとうございます」


 神宝商店は本当に様々なお客様がご来店下さいます。
 お客様によって、対応する事は千差万別……実に多様です。
 中にはお客様にお願いして何かを作っていただくこともあります。


「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あ、伯爵様、この前はありがとうございます」
「なんの、私も吸血鬼として必要な血液を提供してもらっているからね。持ちつ持たれつという事だね」
「はい、ありがとうございます。ところで、ニンニクの方は…」
「あぁ……何とかね……参ったよ。この前試食で食べた餃子にまさかニンニクが入っているとは……」
「災難でしたね。あ、百パーセント生娘の血液二十リットルでしたね」
「あぁ……前の店ではよりにもよって娼婦の血液を飲ませられたからなぁ〜神宝商店に来て正解だったよ。ここはそんなもの出さないからな。信頼してるよ」
「ありがとうございます。今後ともご贔屓にお願いしますね」
「こちらこそ、美女の血液が手に入ったらこのジェフリー伯爵まで、一報を頼むよ」
「はい、あ、来週なんですが、来週はロザリオが入荷してしまいますので……」
「そうだったな、次回は再来週以降にするよ」
「申し訳ございません」
「いやいや……連絡をくれるのはありがたい事だよ。この前言ったレストランじゃ、よりにもよって、この私に聖水のスープを出した愚か者もいたくらいだからね〜。この店は親切でたすかるよ」
「お客様のご迷惑にならないようにと心がけているだけです」
「それが大事なんだよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、また、来しゅ……再来週に」
「はい、またのおこしをお待ちしています。ありがとうございました」


 神宝商店ではお客様に不利益が無いように細心の注意をはらっております。
 様々な存在の方がお見えになる店では当然の気配りですね。
 間違ってもお客様の不利益にならないようにしないといけませんね。


「こんにちわ」
「いらっしゃいませ。あのあの……私、月曜日を担当する事になりました、めのうと言います。よろしくお願いいたします」
「そう、私はバンシーのナンシーよ。よろしくね。実は愛用の目薬を落としちゃってね……特注品だから、この店で置いてないかと思ってね?」
「目薬ですか?どういった形式のもので?」
「不幸一・八、不吉一・三、悲哀三・七、涙四・五の割合で調合したやつに怒りと嘆きをブレンドしたエキスを注入したやつなんだけど……」
「あぁ……それなら【不安のワルツ】シリーズの五番ですね。……丁度、グレイドラゴン様からご提供があったばかりです」
「そうかい……じゃあ一ダースもらおうかね」
「ありがとうございます。あ……これ良かったらどうですか?女性限定でお配りしているんですが、四つ葉のクローバージュースなんですけど」
「気持ちはありがたいけどね〜、でも私はバンシーだからねぇ……」
「失礼しました。ナンシー様にはこちらのティアーズドロップが宜しいですね」
「そうだね、一ついただいていくよ」
「本当に申し訳ありませんでした」
「いやいや、新人さんだからね。おいおい、覚えていってね。気にしてないよ、本当に」
「はい、ありがとうございます。またのご来店、お待ちしています」


 まだまだ、新人さんとして、お客様への対応を間違えたりするみたいだけど、すぐに対応を切り替える所を見ても大分慣れてきた感じがしますね。
 頑張って、めのうさん。


「あのう……」
「いらっしゃいませ。あのあの……私、月曜担当のめのうです。よろしくお願いします」
「実は相談が……」
「はい、承ります。どのようなご用件で?」
「性転換手術ってここ……やってますか?」
「……少々お待ちを……えーと……そうですね、サービスとしてはやってますが、性転換ではなく種族変換などを……」
「それでも――私、サキュバスなんですけど……実は女の子が好きなので、インキュバスになりたいんです。男は嫌です」
「……はぁ……そうなんですか?……ですが、サキュバスですと男性からしか……」
「……そう……今までは仕方なくやってきたけど……もうダメ、もう限界……男は生理的には受け付けないの……でも生物的には逆だし……」
「それはお辛かったでしょう……あのあの、こちらにお名前を書いていただけますか?主任に相談して来ますので」
「はい……サキュバスのイザベラと申します……どうぞよろしく」
「はい、よろしくお願いします。少々、お待ち下さい……あ……二階のラウンジにきびだんごがサービスで置いてありますので良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」


 ――どうやら、私に相談に上がってくるみたいですね。


「あのあの、主任〜」
「めのうさん、お疲れ様です。話は聞いていましたよ」
「どうすればよろしいですか?」
「そうですね…イザベラさんはまだ、未成年のようですから、手術は親御さんの承諾が無いとうちの方では……」
「そうですね。言ってきます」
「あ、待って……」
「はい、何ですか?」
「彼女はナーバスになってますから、くれぐれもうっかりミスで傷つけないようにして下さいね」
「はい、わかりました」
「よい、返事ですね、めのうさん。それに、頑張ってますね」
「はい、私、このお仕事、楽しくて仕方ないんです。色んなお客様とお話できて、私、とってもハッピーです」
「そう、良かったわね」
「はい、あ……お客様を待たせてるので、これで……」
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「あ……待って……」
「はい?何でしょう?」
「リボン……ほどけてますよ」
「あ……ごめんなさい」
「行ってらっしゃい……」
「はい……」


 ……ちょっと心配な面もあるけど、彼女なりに頑張っているみたいね。
 慣れるまではもうちょっとかかりそうだけど。
 あぁ……言ってるそばからもう転んでるし……


「お待たせしました。イザベラさん……失礼ですがお年……いくつですか?」
「あ……私……来月二十歳です」
「そうですか。お若く見えますね。でしたら、来月、おいでいただくか、今でしたら、ご両親の捺印が……」
「でも……母は賛成してくれているんですが――父がその……」
「ご両親のご理解がいただけないとこの先、お辛いかも知れませんね」
「説得はしてるんですが……」
「では、二十歳までお待ちいただくか……」
「……いえ、やっぱり説得してみます。出来れば理解して欲しいから……」
「頑張って下さい。影ながら応援させていただきます」
「ありがとうございます。少し勇気でました」
「あの……間違っていたらごめんなさい……ひょっとして、スポンジって雑誌で……」
「はい……そこで、読者モデルをやらせていただいてます」
「やっぱり、凄い、イザベラさん本人だ〜。私、毎週、スポンジ読んでます」
「あ、ありがとう」
「そうですよね、イザベラさん、どっちかというとボーイッシュだし。女の子が好きだって気持ち何となく納得です。多分、イザベラさんなら応援してくれる人、たくさんいると思いますよ。私ももちろん、応援します」
「ありがとう、本当にこの店に来て良かったわ。次に来る時は……」
「男性ですね」
「えぇ」
「お待ちしています」
「ありがとう」


 お見事です、めのうさん。
 見事にイザベラさんの気持ちをくんであげてましたね。


「こんちわ〜」
「いらっしゃいませ。あのあの……私、月曜日担当のめのうです。よろしくお願いします」
「よろしく。俺は使い魔アガシオンのリッキーだ。ちょっと引っ越しを考えていてさ。どっかに良いランプとかねえかな?」
「それなら良い物件がありますよ。三千年前の高級ランプで一つ空き家がありますね……」
「へぇ……どんなんだ?」
「そうですね……ジン様が歴代住んでいらしたものなんですが、使い魔用にリフォームしています」
「へぇ……見せてもらえるかな?」
「あ……すみません……入荷は実は明後日で……」
「何だ、残念だな」
「申し訳ありません。飛行機の都合でどうしても……」
「そんなら仕方ねぇな……また来るわ」
「はい、お待ちしております。他の看板娘にも伝えておきますので、お好きな曜日にいらして下さい」
「おぉ……ありがと」
「ありがとうございました」


 不足の自体にもちゃんと対応できてますね。
 これからの成長が楽しみです。




第二章 火曜日の看板娘 珊瑚(さんご)




「あ〜、いらはい、いらはい〜」
「おいっス、さんごちゃん、今日もてきとーだね〜」
「まぁ、てきとーなのがあたしの売りだからね〜」
「ちげえねぇな」
「今日は何か用?船幽霊の旦那」
「今日はねぇ良いひしゃくが手に入ったんでね〜この店で売って貰えないかと思ってね〜」
「旦那の持ってくるのはいつも底が抜けてっからな〜」
「何とか底の抜けてないひしゃくと交換してもらえねえかな?」
「って言ってもな〜うちにひしゃくなんか置いてるかな〜?」
「置いてないの?船幽霊のひしゃくって結構、貴重じゃないの?」
「いや、旦那達、結構居るからレア度って低いんだよ、多分、二くらいじゃねーの?」
「え〜?」
「ほら、海難事故って結構あるからさ、新人とか毎年でるじゃん。悪いけど、ここは特別注文店だから、レア度の低いのはちょっと……」
「冷たい事いうなよ〜」
「この前、海に行ったら、あたしを引き込もうとしたくせに」
「あれは……その……こっちも商売だから……それに、さんごちゃんの船幽霊姿って結構イケてると思うよ」
「やだっつってんじゃん。勘弁してよ」
「連れないな〜」
「あたし、死にたくないもん」
「苦しいのはちょっとの間だって」
「そういうのは余所でやってちょうだい」


 あらまぁ、さんごさんも困ってますね。
 船幽霊の凡太(ぼんた)さんは少し困ったお客様です。
 他のお客様をご自分の仲間にしようと思われているみたいで、その中にさんごさんも入っているのです。
 お客様に自殺はお奨め出来ませんからね。
 出来るだけ丁重にお引き取りいただきたいですね。


「ごめんよぉ」
「お、ジョニーじゃん、久しぶり、元気してた?」
「さんごも相変わらずだな」
「まあね。それより精霊王選挙どうだった?」
「ダメだったわ。内の先生、人気ねぇからな。当選しろって方が無理だわ」
「ダニエル先生、女癖が悪いからな〜」
「そうそう、先生、相変わらず、さんごの事気に入ってるみたいだぞ」
「えぇ〜」
「観念して寿退社したらどうだ?」
「ダニエル先生と一緒になる気は無いよ」
「まだ、あいつに熱あげてんのか」
「か、彼は関係ないって」
「本当かぁ〜なんつったっけ、ヒバゴンの……」
「は?ひょっとしてサブの事いってたの?あいつは全然関係ないって」
「何で?結構良い感じだったじゃないか?それとも何か、誰か別の男が?誰の事だと思ったんだ?」
「あ、あたしは別に……」
「おいおい、誰なんだよ、言って見ろよ」
「何でもないって言ってるだろ」
「あ、ひょっとして吸血蝙蝠の茂吉(もきち)の事か?」
「違うって、何であんなひょーろくだまが出てくんだよ」
「じゃあ、チュパカブラのジャンか」
「違うって言ってんだろ、何で変なのばっかでてくんだよ」
「じゃあ誰なんだよ」
「お前、帰れ」


 お客様つかまえて【帰れ】はないでしょ、帰れは。
 お客様に対しての言葉使いも全然ダメだし。
 これは減点ね。
 後でお給料から天引きしないといけないわね。
 もうちょっと接客を覚えてね。


「ごめんください」
「あ、いらっしゃい」
「僕の事覚えてます?」
「え、誰だったっけ?」
「そうですよね……僕の事なんか……」
「い、いや、たまたま、だよ。ちょっとど忘れ、うっかりとさ、ゴメンって」
「はい……僕は、その……」
「見た目からすると天使さんかな?」
「いえ……実は鳥人なんです。天使じゃないんです」
「ほぅ……なるほどね。で、用件は?」
「実は、その事なんですけど、僕……ガールフレンドがいるんですけど」
「そりゃよかったな」
「僕が天使じゃないってわかったら、怒られたというかなんというか」
「何で?」
「多分、僕が天使じゃ無かったから……」
「違うな、それは」
「違うって?」
「それはあんたが鳥人間って事に自信を持ってないからだよ。もっと自信もちなって」
「でも、天使じゃないし……」
「天使がなんぼのもんじゃい。鳥人間の何処が悪い?」
「でも、天使のようにメジャーじゃないし……」
「んなもん頭にわっかがついてるかついてないかの違いじゃん」
「いえ、天使は手がありますけど、僕は手は翼ですし……」
「大して違わんと思うで〜」
「あの、何だか、珊瑚さんしゃべり方がおかしくなってませんか」
「うち、真剣になると話し方がおかしくなんねん。だから、みんなにてきとーとか思われるんやけど、実はちゃうねん。ワシ、大まじめやで」
「そうなんですか?とてもそうには……」
「酷い……私の事、そんなに信用できないんですの?」
「はぁ……」


 ……ちょっとこれはペナルティーですね。
 ちょっと言ってきましょう。


「ちょっと、さんごさん、良いですか」
「なんや?」
「良いからちょっとこっちに来て下さい」
「いてて、なんやねん」
「お客様、少々、お待ち下さい」
「あ、はい」
「お待ちいただく間、あちらで試食会をやっております。良かったらそちらで」
「いえ、また、来ます」
「申し訳ありません」


 あぁ……お客様を帰してしまった。


「ちょっとさんごさん、どうして、あぁ言う態度にでたんですか?」
「あーゆう態度って?」
「さんごさんがてきとうなしゃべり方をする時は真剣になった時じゃなくて、どうでも良いと思った時ですよね。そんな事をされると私も考えなくてはなりませんよ」
「考えなくてはって?」
「シフトを外れていただくという事もあるという事です」
「ちょっとまっとくれよ。あたしにだって考えが……」
「どういう事ですか?」
「あの鳥人間、スティービーっていうんだけど」


 なんだ、お名前ご存じなんじゃないの。


「なんで知らないふりしたの?」
「あいつ許せないんだよ。あたしの友達、三人もあいつに利用されて……」
「………」
「あいつが天使のふりをしているのはわざとなんだ。わざと天使のふりをして女の子達をだまくらかして……」
「だからと言って、お客様に対してあのような態度はないでしょう。お客様はお客様なのですよ」
「だって……」
「だってじゃありません」


 仕事に私情を持ち込むなどもってのほかです。
 これはきつぅいお灸が必要かも知れませんね。


「やっぱり……誤解してたんだ……」
「あ、あんた……」
「お、お客様……」


 振り返ると先ほど帰られたはずのスティービー様が。


「僕は、実は持病があるんだ」
「ふん、持病が何だって?」
「さんごさん!申し訳ありません、お客様、なんとお詫びしたら良いのか」
「いや、良いんです。僕の虚言が元で傷ついた女の子達がいるのも事実ですから」
「何か御理由がありそうですね」
「実は、まだ、奇病におかされています。サギ病という病に」
「は?何言ってんのあんた?」
「さんごさんは黙ってなさい」
「はいはい、わかりましたよ」
「すみません、本当にすみません。僕は鳥の中でも鷺科の鳥人間なんです。鷺と人間の混血種でこの二つが合わさると本人とは無関係に情報を偽り、相手を騙してしまうという奇病があるんです。まだ、医療の学会でも発表がまだなんですけど」


 聞いたことがあります。
 まだ、スティービーさん以外に三例しか報告されていない奇病、サギ病……
 これにかかった鳥人間は孤独死に向けて一直線だと言われてますね。
 他の方から信用されないという奇病です。
 あぁ恐ろしい。


「僕が天使だと偽ったのは本当です。でも、僕は言いたかった。僕は鳥人間だと!僕は一人になりたくない」
「あ、あんた……」
「信用してと言われても無理かも知れない。だけど、僕は……ぐっ……」
「ど、どうしたんだ」
「ぼ、僕は天使なんだ……いや、天使じゃ無いんだ……いいや天使なんだ……」
「な、何が、一体……」
「僕は……僕は……誰なんだ……」


 い、いけません、急患です。


「さんごさん、至急、雲母(うんも)先生を呼んで来て下さい」
「わ、わかった」
「ま、まって、さんごさん、僕は……」
「わかった、あたしが悪かった。あんたの病名も知らんで勝手に……」
「僕は嘘をつきたくない、つきたくないんです……」
「わかった、わかったから、もうしゃべらんでいい」
「僕は、僕は……」
「さんごさん、早く」
「あ、あぁ、すまん、スティービー。後であたしを殴ってくれ」


 神宝商店には実にいろんなお客様がいらっしゃいます。
 中には誰にも理解されずに一人で悩んでいらっしゃる方もいらっしゃいます。
 看板娘達の役目はその方々の目に見えないサインを感じ取り、そっとサポートする。
 その事も、求められています。
 さんごさんは今回の事で大変、勉強になったと思います。
 お客様を見た目で判断しない。
 これは大事な事でもあります。


「……もう大丈夫だ。容体は安定しているから」
「うんも先生、ありがとうございます」
「何の何の、なれとるよ、これしきの事」
「どうなんですか、スティービーさん」
「ふむ、彼――スティービー君以外の三名は残念ながら、孤独死をさせてしまっていた。だが、三名の犠牲は無駄ではなかった。今では少しずつ認知がされて来ておる。三名とも献体登録をされていて、現在、特効薬が作られている。保険がきかないので少々、値ははるが、完治する事は可能じゃ」
「そうですか」
「人間と鷺が恋をしてはならんとは言えんからのう……これからもスティービー君の様な患者が出てくる可能性もある」
「そうですか……あ、さんごさん、どうしたんですか?泣きそうな顔をして」
「うんも先生、ひすいさん、あたしを殴ってくれ!スティービーが殴ってくれないんだ。女の子は殴れないって言って――だけど、このままじゃあたしの気がすまない。病人を更に傷つけてしまった。あたしはダメな奴だ」
「そんな事はありません。十分反省したのでしたら、これから気をつけて下さい。でもスティービーさんの病状を知らなかったのはあなたの勉強不足です。それに、例え、病気ではなかったとしても、お客様に対して、あのような態度を取るべきではありません。お客様あっての神宝商店なんですからね」
「ごめん、本当にごめん……」
「失敗を繰り返さないで下さいね、もう、泣かないで。泣き虫さんね」
「だって……だって」


 訂正します。
 さんごさんは情にあつくて曲がった事が大嫌い、そしてちょっぴり泣き虫さんな女の子です。
 自分の否はちゃんと認める真っ直ぐな女の子です。
 でも、忘れっぽいのがタマにきずです。
 また、ちゃらんぽらんにならないと良いのですが。



登場キャラクター紹介

001 めのう
めのう
 主人公の女の子。
 ちょっとドジなところもあるけど一生懸命な女の子。
 特別注文店、神宝商店の月曜日担当の看板娘。
















002 ひすい
ひすい
 特別注文店、神宝商店の前の月曜日担当の看板娘で主任。
 ナレーションも兼任。
















003 天野 ジャック(あまの じゃっく)
天野ジャック
 神宝商店のお得意様の人間。
 数年前、神隠しにあって以来の常連客。
















004 きん
きんオーナー
 特別注文店、神宝商店のオーナー。
 ぎんとは双子の姉妹。
















005 ぎん
ぎん副オーナー
 特別注文店、神宝商店の副オーナー。
 きんとは双子の姉妹。
















006 さんご
さんご
 特別注文店、神宝商店の火曜日担当の看板娘。
 曲がった事が大嫌いな正確。
 さっぱりとしていて、適当と見られる事もしばしばある。
















007 るり
るり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その1。
 はりと双子のふりをしている。
 しっかりとした性格。
















008 はり
はり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その2。
 るりと双子のふりをしている。
 無邪気な性格。
















009 しゃこ
しゃこ
 特別注文店、神宝商店の木曜日担当の看板娘。
 独特の感性を持つ。
 自分で考えたキャラクターになりきってしまう。
















010 しんじゅ
しんじゅ
 特別注文店、神宝商店の金曜日担当の看板娘。
 女優志望。
 何事も一生懸命。
















011 まいかい
まいかい
 特別注文店、神宝商店の土曜日担当の看板娘。
 大人しく人見知り。
 意外とファンが多い。
















012 こはく
こはく
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 しょっちゅう、言い間違える。

















013 すいしょう
すいしょう
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 丁寧な言葉が使えない。