第003話


 第六章 マリス戦の決着




「殺してやる……」
 偵察に出ていた【フェル】から、【ネーベル】の消失を聞かされたマリスは怒りで我を忘れていた。
 【ファング】と【クラオエ】の精鋭を招集し、追撃指令を出した。
 また、【ファング】の超兵器、【バンディート(山賊)】も用意させている。

 【ホルン】は自陣を守る為に配置したままだが、【ファング】と【クラオエ】の主戦力をリグレット討伐にさし向けたのだ。
 マリスは憂さ晴らしに自分の使徒を何名かなぶり殺したが、それでは気が収まらない。
 【ネーベル】はマリスのお気に入りの兵器だった。
 それを潰したリグレットが許せなかった。

 そして、それに輪をかけていらつかせたのは実は、シリスは魔女神として目覚めていたという事実だ。
 そのまま殺しておけば、シリスの分の生け贄のカウントはマリスに入っていたのだ。
 みすみすそのチャンスをふいにしたという悔しさがあったのだ。
 おそらく、この追撃も失敗に終わったら、マリス自信が出てくる事になるだろう。

 マリスとリグレットの決戦の時は近かった。

 追撃部隊の構成は――

 【ファング】から十二名、【クラオエ】から十一名の総勢、二十三名の精鋭達だ。
 どいつもこいつも、ただ者ではない。
 リグレットが瞬殺した相手とは明らかに格が違った。
 まともにぶつかったらリグレットには勝ち目はないだろう。

 さらに超兵器【バンディート(山賊)】だ。
 これは小山ほどの大きさを持つ巨体に六本腕と三本の尾を持つ鬼のような形相の人型の超兵器だった。
 巨体からは信じられない程のスピードで動ける怪物だった。

 シリスの力を得る前のリグレットなら、まず、勝てなかっただろう。

 精鋭部隊と超兵器の部隊がリグレット討伐を目指して動き出した。
 ――が、リグレットの方も黙って待っている事はしない。

 追撃部隊を交わして、マリスシティに潜入を成功していた。
 シリスの力を使ってデコイを作り出し、上手く、人里離れた位置に追撃部隊を誘導して、反対側から、マリスシティに向かって、紫の風による高速移動で一気に進入する事に成功したのだ。
 ただ、また、地下道を通ったので、一緒についてきたシリスはブーブー文句を言っていたが……

 どうやら、マリスに地下道という発想はないようだ。
 地下道は人間もマリスシティでの生活が出来る様に作っていたのだが、下々の者の事に全く興味を持たないマリスは使徒にマリスシティを建造させていた。
 その為、マリス城以外については殆ど把握していないのだ。
 上手く進入に成功したリグレットだが……

「早くしろ!何やってるんだ」
「ちょっと待ってよ。今、汚れ落としているんだから」
「敵の本拠地で何やってんだ。勝手についてきたかと思えば」
「女の子だから仕方ないでしょ。汚いの嫌だもん」
「おいていくぞ」
「待ってよ。この水、ちょっと温めてくれない?火使えるでしょ」
「ふざけるな、俺の能力をそんな事の為に使えるか」
「ちょっとくらい良いじゃない」
「お前、やっぱり帰れ」
「ぶー、やだもん。あたいは、リグレット君についていくって決めたんだもん」
「魔女神についてこられても迷惑なんだよ」
「さっき、あたいの力使ってたじゃん」
「うっ……さっきは、たまたまだ」
「あたいといると便利だよ」
「………」

 リグレットは、シリスとの微妙な関係でしどろもどろだった。
 彼女は悪い人間、いや、魔女神とは思えない。
 だけど、引っ掛かる部分があって、素直になれないのだった。
 やはり、紫の魔女神、アエリスとの事を引きずっているのだ。

 突き放したい気持ちとほっとけない気持ちが同居するなんとももどかしい気持ちを抱えていた。

 シリスが身体を洗っている間、仕方ないので、情報を得る作業に徹していたリグレットは超兵器の最後の一つで【ホルン】の所有する【マスケ】についての情報を得ていた。
 【マスケ】――それは、最強者の劣化コピーを作る兵器だった。
 メインとなる【ヴァイゼマスケ(賢者仮面)】を【ホルン】最強のティンケルという者がかぶっている。
 そして、現在134ある【ナールマスケ(愚者仮面)】を他の者がかぶる。
 すると、【ナールマスケ】をかぶった者は【ヴァイゼマスケ】をかぶった者の戦闘能力を一時的に手にするらしい。
 最も元が元だから、身体に無理をさせているという事になる。
 そのため、【ナールマスケ】をかぶった者の末路は廃人の様になるという禁断の兵器だ。
 だが、最強の力の者が量産されるというのが厄介だ。

 そんなのとはまともに戦えない。
 戦ったら、消耗していってやられるのは目に見えているからだ。
 やはり、使徒の網をかいくぐり、現在はマリス城に居ると思われるマリスを直接叩く方が良いと思われる。

 リグレットとシリスは短期決戦を狙ってマリス城に忍び込む事にした。

 マリス城――茶色の魔女神の居城。
 茶色を司るだけあって、茶色一色の異様な城だった。
 海岸で作った砂の城にイメージが近いかも知れない。

 その城の外観は豪奢な作りをしていたが、中は空洞、がらんどうだった。
 見せかけだけの張りぼての城と表現した方がいいだろうか。
 なので、隠れて進入を試みたかったが、隠れる場所が一切、無いのでそれは無理だった。
 中央にぽつんと置かれた玉座からは丸見えだったからだ。

 進入してすぐに、マリスの姿を確認する。
 マリスは下着姿のまま、だらしない格好で玉座に座っていた。
 こちらからは丸見えだったが、向こうからも当然、リグレット達は丸見えとなり、すぐさま、マリスはランジェリー姿から戦闘スタイルのランジェリードレス形態となる。
 ひらひらのたくさんついた下着姿と言えば的確な表現だろうか。

 ガーターベルトの紐をパチンと叩いて手招きするマリス。
 何処からでもかかってこいと言った態度だ。

 おそらく、マリスは使徒達を呼んでいる。
 まもなく、マリスの使徒達がまとめて城になだれ込んで来るだろう。
 そうなれば、シリスが狙われ、彼女はなぶり殺しにされるだろう。
 そうなる前に、マリスを仕留めなくてはならない。

 相手は魔女神――使徒との戦いの様に簡単には勝てない相手だ。
 考えている暇はない。
 とにかく、当たって砕けろだ。
 そう決断して、突っ込むと玉座の所に着く前にマリスの姿が消えた。

 何処だ?とあたりを見回していると、次の瞬間、リグレットの目の前に右足が現れ、彼の左肩に太ももがのしかかる。
 続けて左足も現れ右肩にのしかかり、必然的に自らの股間をリグレットの顔になすりつける事になる。
 なまめかしい出現に大抵の男はメロメロになりそうな妖艶な動きだった。

 だが、リグレットはしゃがんでかわし、そのままバックステップで距離を取る。

「なめやがって」
 リグレットは毒づく。
「あら、舐めたかったら、舐めても良かったのよ。シャイなのね、あなた」
 マリスはからかう。
「ちょちょちょ、ちょっと、あんた、恥ずかしくないの?」
 シリスが動揺する。
 彼女にとっては大胆過ぎる行動だったからだ。
「あら、魔女神がこの程度でオタオタするなんて、あなたの方がどうかしていると思うけど?ねぇ、桃色の魔女神さん」
「あ、あたいはそんなはしたない事なんてしないもん」
「なら、魔女神としては半人前以下ね。大人しく私に殺されて生け贄のカウントをよこしなさいな」
「べーだ。あんたなんかに殺されてやるもんですか。やっちゃえ、リグレット君」
「そこのへっぽこ魔女神に言われてやるのもしゃくだが、あんたは俺に喧嘩を売った。きっちりけじめはつけさせてもらうぜ、茶色の魔女神、マリスさんよ」
「あら、まだ、間に合うわよ。【ネーベル】を潰した腕は買えるわ。今ならまだ、私の忠実な下僕として認めてあげるわ」
「作り笑いをしてまで、俺を勧誘したいのか?本心の方じゃ、俺を八つ裂きにしたいって言っているように見えるぜ」
「あら、解った?でも残念ね、八つ裂きじゃなくて百裂き、千裂き、万裂きにしたいわね〜。それでも飽き足らないくらいよ。私の【ネーベル】を潰してくれたクソ虫が」
「嘘つきの魔女神と取引するつもりははなっからねぇよ。最初から、本心むき出しの醜いすっぴんで来てもらった方がすっきりするねぇ」
「何をしている、【ホルン】共、さっさと【マスケ】を使って始末しろ」

 マリスが怒声をあげる。
 それに反応して、使徒達もマリス城に入ってきた。

「おっと、おしゃべりが過ぎたか……なぁんてな、待ってたぜ、この時を」
「何?」
「キーアクショントラップ発動」
「な、何だ?何が……」

 リグレットが仕掛けたトラップが発動する。
 彼が仕掛けたのはシリスからの供給能力だった。

 【キーアクショントラップ】――それは特定の行動がぴったりマッチした時に発動するトラップだった。
 マリス城と城下町の距離が余りにも近すぎる為、例え、マリス城にマリスだけがいたとしてもすぐに、城下町から使徒を呼ばれて囲まれてしまう。
 そう考えたリグレットはいくつかの条件をトラップとして設定した。

 一つは
 敵に遭遇せずに、マリスに会うこと。
 二つ目は
 マリスと会話をかわすこと。
 三つ目は
 マリスに触れる事。
 四つ目は
 マリスを怒らせる事。
 五つ目は
 マリスが使徒を呼ぶ事。
 六つ目は
 使徒がマリス城に一斉になだれ込む事。

 この六つの条件がぴったり合った時、六芒星トラップが発動する。
 このトラップでもマリスを倒す事が出来ないが、変わりに設定したのは――

 リグレット討伐に向かった、【ファング】と【クラオエ】の精鋭と【バンディート】とマリスの位置を入れ替えるという事だった。

 マリスシティから離れた位置にいる討伐部隊との入れ替えにより、マリスは一人、その位置に運ばれる。
 残念ながら、リグレット達はマリス城に居たままだけど、突然の事態にマリスの使徒達は動揺している。
 現状の状況把握までは多少、時間がかかるだろう。

 その間に、シリスを連れて、紫の風で、一気に討伐部隊のいたと予想のつく位置まで向かい、使徒が着く前にマリスを倒せばいい。

 まんまと成功――と思いたかったのだが、少し考えが甘かった。

 リグレットの作戦に気付いた精鋭が何名か、彼らを追ってきていた。
 紫の風の方が僅かに早いがこのままマリスに向かってもまた、すぐに追いつかれるだろう。

「ちっ……仕方ねぇ」
 作戦が失敗したと判断して、追いかけて来た四名を向かえ討つ事にした。

 マリスは倒せなくても、使徒を削る事が出来れば、戦力ダウンさせる事が出来る。
 それだけでも今は良しとしなくてはならないと判断した。

 追ってきた四名は【ファング】の精鋭ゴウヴェイアとカルヴァロ、【クラオエ】の精鋭ファビアーノとボルグだ。
 元々は人間だったのだが、それは見る影も無い。
 四名とも異様な姿をしていた。

 頭がイソギンチャク、身体中ブツブツで覆われた三本足の怪物がゴウヴェイア、
 豹のような顔にコモドオオトカゲのようなボディの怪物がカルヴァロ、
 鼻のない象の様な顔にナナホシテントウを大きくした様なボディの怪物がファビアーノ、
 首のない四本腕の怪物がボルグだ。

 四名とも趣味の悪い姿をしている。
 片時も一緒にいたくない醜悪な姿をしていた。

 バランスの悪い姿にもかかわらず、俊敏な動きで攻めてくる四名に対し、それでもリグレットは冷静に対処した。
 以前の彼なら手こずっただろうが、シリスの大幅な加護を得ている彼にとって、さほど脅威には感じなかった。
 ゴウヴェイアのブツブツから溶解液が飛びだそうが、
 カルヴァロの岩をも砕く突進を受けようが、
 ファビアーノの見えない攻撃を受けようが、
 ボルグの怪力での一撃を受けようが、
 リグレットにとってはだから何だという感じだった。

 大した事ない――そう感じていた。
 所詮は、イロモノ、雑魚に過ぎない。
 そう感じていた。

 リグレットはまたしてもシリスの力をつかった。

 今度は、遠隔操作で動く、ピンク色の毛玉【カモフラージュ・ヘア】だ。

 毛の塊の様なものを自由自在に飛ばして、その毛の中に隠しているもので攻撃出来るという戦法だ。
 毛玉の中に隠れて、その中の何かが解らないので、相手にとっては何が飛び出すか解らない攻撃を仕掛けることが出来る。
 三十数束の毛玉が入れ替わり立ち替わりしながら、四名の追っ手を牽制する。

 リグレットはシリスの力を使ってみて、その使い勝手の良さに驚かされるのだった。
 明らかにアエリスの力より、上手く、使える。
 この力をもってすれば魔女神も倒せるのではないかと思えてくる。

 魔女神の加護はその魔女神が使徒をどの程度信用しているかでも力の供給が違う。
 それだけ、シリスはリグレットを信用しているという事だった。

 【カモフラージュ・ヘア】で攪乱しながら、敵の油断を誘い、紫光の剣で切り裂くという二色の力を使うスタイルでリグレットは追っ手を撃退した。

「やったね、リグレット君」
 喜んだ、シリスが抱きついてきた。
「く、くっつくな」
「良いじゃない。勝ったんだし」
「と、トドメをさしたのは紫の力だ、ピンクの力じゃない」
「あー、そんなイジワル言うんだ?あたいの力で優勢になってたじゃん」
「あれは試しに使っただけでだな」
「ブーブー、あたいの力だって凄いんだもん」
「う、うるさい……行くぞ」
「もう、素直じゃないんだから……」
「くっつくなと言っているだろうが」
「あ、照れてるの?」
「て、照れてない」
「かわいっ!」
「う、うるさい」
 リグレットはシリスを連れて、マリスの所に急ぐ。

 リグレットの方は素直になれないでいるが、どうやら、何となく、二人の関係性が深まってきたようだ。

 マリスの方は精鋭を少し失ったがまだ、精鋭は大勢いるし、超兵器【マスケ】と【バンディート】は健在だ。
 まともにぶつかったら、大苦戦は必死。
 何しろ、シリスは今のところ戦力になりそうもない。
 そのため、こっちはリグレット一人で戦っているのだ。

 敵を攪乱しながら、大将であるマリスを討つしかないのだ。

 リグレットに有利に働くとしたら、マリスはまだ、自らの使徒達をそれ程、信用していないという事だ。
 そのため、精鋭部隊と言えど、驚く程の戦闘能力は与えられていない。
 だから、束になってかかって来られたら、一溜まりもないが、こうやって分散して戦っていけば、つけいる隙はいくらでもある。
 そう分析をすませていた。

 一方、マリスの方は、リグレットを脅威と感じ、対抗するために近隣の町を襲いだしていた。
 マリスの行動には意味があった。
 百名の肝を食べる事で魔女神になるとされているが、実はその先がある。
 マリスは現在、百二十七名の生け贄の肝を食べている。
 もし、マリスが二百名の生け贄の胆を食べたら最初の覚醒が起きるとされている。
 千名の生け贄で第二の覚醒が、一万人の生け贄で第三の覚醒が起きるとされているのだ。
 だからこそ、魔女神達は生け贄を求めて残虐な行為を続けていたのだ。
 そして、それこそ、魔女神が人々を滅ぼすと言われている所以でもあった。

 魔女神は基本的に魔女神を殺せない。
 だが、一度覚醒した魔女神は覚醒していない魔女神を使徒の力を借りずとも殺す事が出来る。
 使徒の力をいまいち信用していないマリスは自信の力を最優先に考えている。
 生け贄の肝の質によって、覚醒した力は大きく左右される。
 そのため、マリスシティで活きの良い生け贄を連れてこさせていたのだ。

 だが、背に腹は替えられない。
 一刻も早く二百名目の肝を食べて、覚醒し、シリスを討とうと考えたのだ。

 逃げまどう、町民達。
 追いかけるマリス。
 その姿は美しい容姿にもかかわらず、獣の様にも見えた。

 逃げ遅れた弱者達の肝をどんどん食べていく。
 そして、百五十七名目の肝を食べた所で
「何をやっているんだ。決着をつけるぞ、魔女神め」
 リグレット達が到着した。

「食事の邪魔をするな〜」
 リグレットの方に襲いかかってくるマリス。
 今はシリスの事は殺せないが、リグレットなら倒せる。
 シリスは後で、使徒にやらせるなり、覚醒して自分で殺すなりすればいい。
 今は、目障りなリグレットを始末すればいい。
 そう決めて、襲いかかってきたのだ。

 リグレットは右腕で紫光の剣、左腕で桃光の刀の二刀流で相手をする事にした。
 力では押し負けていても二種類の色を持つ、リグレットには茶色一色のマリスは苦戦する筈だからだ。
 マリスは伸ばした爪で攻撃を仕掛けるが、異なる色の力がぶつかれば、それぞれに抵抗負荷がかかる。
 それは、リグレット側、マリス側双方にあるのだが、二色を扱っているリグレットの方がその抵抗が少ない。
 逆に、マリスの方が、ぶつかる度に交互に色違いの抵抗負荷がかかるため、負担が大きくなる。
 また、力はマリスの方があるが、戦って来た戦歴はリグレットの方が上だ。
 逆にマリスは上から命令をしていただけで自らの手を下すのは生け贄の肝を食べる時だけだった。
 戦闘経験の差から双方の戦いは次第に、リグレットの方が押してきた。

 パワーがでかくても、戦い方がまるでなっていないマリスでは、修羅場をくぐり抜けてきたリグレットに対して、無駄な力を消費するだけで、上手な戦い方をしている彼の方に軍配が上がりそうだった。

「うばばっばばばばばばばばばばば」
「な、何だ?」
 マリスによる突然のデタラメな攻撃に一瞬、リグレットもひるむ。
「こここ、こんな所でくたばってたまるかってのよ〜」
 そう叫ぶと、戦線離脱を試みようとする。
 ――が、
「俺に挑むにはあんたは小物過ぎた。じゃあな!」
 背後から剣と刀を突き刺す。
「あ、あと四十三人……」
 それが、マリスの最期の言葉だった。
 マリスの消滅により、使徒や超兵器は消滅した。
 マリスの加護が得られなくなった事で、その存在を保てなくなったのだ。
 これが、リグレットのように二名の魔女神の加護を得られていたら、二名の魔女神消滅するまで、存在を確保できただろうが、一名の魔女神の加護を受けている者の末路は主の消滅と共に……という運命なのだろう。
 だからこそ、使徒達は主である魔女神を守るために忠誠を誓い、必死になるのだ。

「あたいもこんな最期になるのかな……」
 不安げな面持ちでシリスがつぶやく。
「……俺がさせねぇよ」
 リグレットはぶっきらぼうにそう言った。
「ありがと、大好きだよ」
「な、なにしてくれてんだ、お前」
「何って、感謝のキスだけど」
「ふざけ……」
「――てないよ、良いでしょ、ほっぺにくらい」
「よくない」
「もう……つまんないな……」
「つまんなくて良いんだよ」
「えーあたいはやだよ〜。やっぱ、楽しい方が良いし〜」
「楽しくなくて良いんだよ。これは俺の復讐なんだから」
「その何だかさんに?」
「アエリスだ。あの女は俺がぶち殺す」
「………」

 勝利はしたものの何となく、納得のいく結果ではなく、パートナーとしてリグレットとシリスの意見の相違も解決されていなかった。
 二人の気持ちがすれ違ったまま、次の旅路につくのだった。




 第七章 新たなる魔女神




「――って訳さ」
 酒場ではマスターのリグレットとシリスの物語の話を店の常連客達が聞いていた。
「ホントかよ」
「何か嘘臭えな〜」
「茶色の魔女神を殺したって証拠は何処にあるんだ?」
 店の客達が疑った。
 マスター――カルロスの話が俄には信じがたいものだったからだ。
 カルロスは話しを続ける。
「信じる信じないはあんたらの自由さ」
「信じるも何も、マスターの話が本当ならマスターは元情報屋って事になるのか?」
「そういう事だ」
「だけど、そのリグレットって男が茶色の魔女を倒したんだろ?マスターその時、いねえじゃねえか。そのリグレットって男はしゃべりそうな感じはしねぇし、一体誰から聞いたんだよ、そんな与太話」
「もう一人、登場していたじゃねぇか、おしゃべりそうなのが」
「おしゃべりそうなのって桃色の魔女神の事か?」
「いくらなんでもそれは……」
「だってよぉ、魔女神だぜ?一般人にそんな事、話すとは……」
 客達はますます、顔をしかめる。
 どう考えても信じられなかったからだ。

 その時――

「マスター、ゴメンね〜、ちょっとリグレット君が……」
 元気よく酒場に入ってきた女の子がいた。
「おや、噂をすれば……」
「え?何、なに?何の噂?」
 興味深そうに訪ねて来る。

「いや、あんたが魔女神だって噂が……」
 客が説明する。
「あ、わかっちゃった?やっぱ隠しててもこのあたいの魅力は……」
 女の子は照れる。
「お嬢ちゃんは何にも隠してねぇじゃねぇか。あけっぴろげ過ぎんだよ」
 カルロスが突っ込む。

「あ、あんた、本物の魔女神なのか?」
「あ、よろしくね。あたい、シリスって言って」
「ひぃぃぃ殺さないで…」
「死にたくない、死にたくない」
 シリスが魔女神だと知るととたんに客達は怯え出す。

「あたい、別に殺したりしないもん」
 ぷくぅと頬を膨らませるシリス。
「だから、おっちょこちょいで魔女神になったって説明したじゃねぇか。怯えるなよ。お嬢ちゃん、困ってるじゃねぇか」
 カルロスがフォローする。
「だだだ、だってよぉ〜俺はてっきり」
「そうだぜ、心臓に悪いや」
「もう、あたいをなんだと思ってんのぉ」
 ぷんぷんといった感じでシリスが膨れる。
「だから、魔女神だろ」
 カルロスが突っ込む。

 だが、カルロスとシリスのやりとりを見て、客達も彼女が安全だと理解し次第に打ち解けてきた。
 話も弾み、客の大半がほろ酔い加減になって来た時、カルロスが――
「嬢ちゃん、話があって来たんじゃないのか」
 と言ってきた。
「あ、そうだった。ごめんねマスター。せっかく慣れてきたのに、また、しばらくバイト、お休みする事になりそうなんだ〜」
「……そうか、リグレットが動き出したのか」
「……うん……」
「アエリス……」
 言いかけたカルロスは首を振るシリスを見て、
「……じゃねぇみたいだな。」
「黄緑だって、今度は……」
「そうか、で、何でまた?」
「ほら、あたい、生け贄のストックが茶色の魔女神と合わせて二百五十七になっちゃったから、目障りだってちょっかいをかけて来たのが居て、リグレット君が……」
「そうか……色々と面倒な立場だな、お前さんも……」
「うん……そだね。あたいも静かに暮らしたいんだけど、向こうはそう思ってくれなくてさ……」
「だからって死のうって思うなよ。お前さんはもう、二百五十七人、マリスも入れれば二百五十八人の命を背負ってんだからよぉ。大事に生きてみせな。私はこんなにも立派な人生を送ったんだってな」
「良いのかな、それで?」
「お前さんが死んでも、犠牲になった人間は戻って来ねぇんだぜ。それに、性格の悪い魔女神の糧になるよりお前さんの糧になってた方が百万倍ましだと思うがね」
「ありがと、マスター」
「じゃあ、行ってこい、この跳ねっ返りが」
 カルロスはシリスのおしりをパシンと叩く。
「いたっ、あ、マスターセクハラだよ」
「正義の魔女神なら、それくらいサービスしろや、それにしても相変わらず、良いケツしてんな、嬢ちゃん」
「えっち!もう、……行ってきます」
「行ってこい。無事に帰ったらまた触ってやっから」
「べーだ。もう触らせませんよぉーだ」

 アッカンベーをして店を出て行くシリス。
 それを見守るカルロスと客達。
「死ぬなよ……」
 シリスには聞こえないようにつぶやくのだった。

 ――真の魔女神フィアエリス……
 それを決めるまでこの戦いは終わらない。

 天空にそびえ立つ謎の十三本の柱――フィアエリスピラー――
 その柱には現在九つの柱に炎が灯っている。
 それは九名の魔女神が現在存在するという事を意味している。
 人々はその炎の色を見て、どの魔女神が存在するかを知るのだ。

 現在、灯っているのは
 赤、青、黄色、白、黒、金、黄緑、紫、そしてマリスの茶色に代わって灯った桃色の炎だ。
 十三色が揃う前に消えた茶色は無効となるため、残る色は四色だ。
 その四色が揃った時、魔女神達の本当の戦いが始まるのだ。

 生きとし生ける民はその時が来るのを本能的に恐れている。
 その時、本当の地獄が始まるのだと。

 魔女神殺し――本当に魔女神を殺せるのなら、最悪の時が来ないようにどんどん、魔女神を倒していって欲しい――。
 それでも、どうせ殺されるというなら桃色の魔女神に……
 これが切なる願いだった。

 ――が、そんな願いも虚しく十番目の柱に緑色の炎が灯った。
 真の地獄へのカウントダウンは始まっている。
 そう――すぐそこまでに迫っているのだ。




 第八章 残る三柱の七つの噂




「あ、緑がついた……」
「そうだな……だが、関係ない、今は黄緑の魔女神だ」
 旅に出ていたシリスとリグレットは天空に立つフィアエリスピラーを確認した。
 十番目の魔女神が誕生したことを確信したのだ。
 この地上のどこかで、百名以上の尊い命が犠牲になったという事でもある。

 空も一段と暗くなり、逆に天空の十三柱の柱が灯台の様に明るく見えていた。
 その光が月明かりの代わりにもなってしまっている。
 もっとも、辺りの景色の暗さからは昼間だか夜だかの区別は既につかない。

 その事が、この世界は魔女神に支配されている。
 魔女神が生きている限り、本当の幸せは来ないと無理矢理実感させられた。

 リグレット達は、新たな町の酒場へと入り情報を収集する事にした。
 その酒場はストリップ劇場も兼ねていて、ダンサーが一枚ずつ服を脱ぎながらポールダンスを披露していた。

「んもう、リグレット君、こういうのが趣味なの」
「いちいち、絡むな桃、情報収集に来ているんだ。しっかり聞き出せ」
「そんなこといったって、さっきから、舞台で踊ってみないかって誘われてばっかりなんですけど」
「踊ってくれば良いだろう」
「ぶー、やだもん、あたいは裸を安売りしたりしないんだから」
「見てくれる人がいるってのもありがたいと思うぞ」
「じゃあ、あたいが知らない人に裸、見られてもリグレット君、良いの?」
「俺は別にお前と恋人って訳じゃない。したいならお前の好きなようにしたらいい」
「ぶぅーぶぅー、それには抗議するよ。もっと女の子を大切に扱ってください」
「お前は魔女神だろうが」
「でも、女の子だよ」
「知らん」
「もう、いつもこうだ」
「早くいけ、お前の方が口が回る。情報収集はお前の方が上手い」
「わかったわよ、やればいんでしょ、やれば」
「踊ってこい」
「違うよ、情報収集をしてくるって言ってるの」
「もちろん、それがメインだ」
「あーあ、不幸なあたい」
「黙って行ってこい」
「黙ってたら情報収集出来ないモン」
「屁理屈言うな」
「はーい、言ってきますよぉ〜」

 シリスは文句を言いながらも情報を得てきた。
 それでも、胸の谷間に手を入れられたとか、おしりをなで回されたとか文句を言ってきたが。

 シリスの掴んで来た情報によると――
 魔女神の候補の情報は7つあった。

 つまり、その内の3つが魔女神となる女の情報か、あるいは、既存の魔女神が何柱か死亡して、新たな魔女神が加わるかとなるだろう。
 さらに言えば、どれも魔女神にはなりきれないかも知れない。
 あくまでも、将来的に魔女神になる可能性のある有望株と言った所だろう。
 それだけ、どいつもこいつも癖のある者ばかりだった。

 まず最初の情報は、現在、向かおうとしている黄緑の魔女神の関係者だ。
 色で言えば藍色という事になるだろうか。
 元々が黄緑の魔女神の親友だった女で、まだ、魔女神になっていないにもかかわらず、黄緑の魔女神と同盟を組む約束をしているらしい。
 もし、この藍色の魔女神が黄緑の魔女神と組む様になったら、他の魔女神にとって脅威となるだろう。
 魔女神同士組む事があればの話だが。
 大方、お互いのために利用しあうと言った間柄だろう。
 魔女神になる以前に、根っからの悪女かも知れない。

 次は、リグレット的にはこっちの方が脅威になる可能性が高い二色の魔女神だ。
 色は銀灰の魔女神という事になる。
 銀色と灰色という事だ。
 どういう事かと言うと、この魔女神は双子の姉妹だからだ。
 二人で一柱を目指すということなのだろう。
 理論上は可能だった。
 それぞれが、魔女神になるために生き肝を食べて言って、最期の一口を姉妹の肝をそれぞれが喰らい合えばその特殊な魔女神は誕生する。

 次は、色で言えばベージュだ。
 人としての身の時の強さで言えば、この女が一番強いと言うべきだろう。
 女子としての格闘、死闘の大会を総なめにしている女だという。
 女王様体質で人の身である現在も男を自分が強くなるための飾りだと考えている残虐な性格の女だと言う。

 次は、色で言えば藤色だ。
 元々は世界的な女優だった女だ。
 男を手玉にとるのはお手の物だろう。
 詐欺師としての腕も超一流でこの女に財産を搾り取られた男は星の数ほどいるという。

 次は、色で言えばクリーム色だ。
 冷酷な殺人鬼とされる女だ。
 その殺害数は魔女神もビックリの数千人にのぼるという。
 それでも、今まで魔女神にならなかったのは、単に、最近まで、生き肝を食べていなかったからだという。
 もし、食べていたら、いきなり第二覚醒をした状態での魔女神になっていたかもしれない女だ。

 次は、前大戦の勝者となった先代魔女神の子供とされる女だ。
 色は、母親から引き継いでいるので、橙色という事になる。
 前回の勝利者の子供だ。
 ただ者ではないのは誰にでも解る。
 いきなり千人の肝を喰ってしまうのではないかと噂にもなっている。
 嫌々魔女神になったシリスとは才能、ポテンシャルの面でも全く器が違う存在だ。

 そして、最後の噂は……
 正直解らなかった。
 ただ、橙色の魔女神になろうとしている先代魔女神の後継者が、その少女が魔女神になるのを極端に警戒しているという事だった。
 色で言えば水色。
 ただ、橙色の魔女神が警戒しているという事だけが噂として飛び交っている謎の存在だった。

 噂が正しいとすれば、銀灰の魔女神を一柱と考えても十三柱には四柱多い。
 最低、四柱は脱落するだろうという事は予想がついた。
 だが、その中には桃色の魔女神であるシリスも含むのかも知れない。
 彼女は魔女神としてやっていくには純粋過ぎた。
 このまま戦い進めれば、他の魔女神の毒気にやられてしまうかも知れないのだ。
 リグレットはそれだけが心配だった。
 自分には、アエリスに――紫の魔女神への復讐という目的がある。
 だが、それにシリスを付き合わせて良いのか。

 だから、本当は認めているのだが、どうしても、彼女の存在を認める訳にはいかなかった。
 次の魔女神を倒したら、シリスを安住の地に連れて行って、別れよう――そればかりを考えて行動を共にしている。
 だが、それでも、別れられず、一緒にいる自分がいる。
 マリスとの戦いの後、別れようと思ったら別れられた。
 だが、心のどこかでシリスにすがっている自分がいた。
 どこかでお互いを支え合っているのだ。

 お互い、明日、どうなっているか解らない身同士、どうしても傷をなめ合うかのように一緒にいてしまう。

 リグレットは自問自答を繰り返し、桃色の魔女神との関係を続けるのだった。




 第九章 四名の魔女神候補の使徒




 黄緑の魔女神の居るとされる場所に着くとそれは別の場所だった。
 黄緑の魔女神の親友とされる藍色の魔女神になろうとしている女、カリスが支配する土地だったのだ。
 親友――表向きはそうだが、その実は全く別の関係だった。
 黄緑の魔女神はカリスに使徒となる施しをしていた。
 つまり、支配下においていたのだ。
 つまり、カリスが魔女神になった時、そのまま、その主に位置する黄緑の魔女神のランクもアップするという仕組みになっていた。
 親友とは名ばかりの主従関係だった。
 カリスの方も黄緑の魔女神を出し抜こうと何やら画策しているようだった。
 そのため、既に、魔女神になれるだけの生け贄の肝を食べていたにもかかわらず、シリスの時、同様に魔女神にならないという選択をしていた。
 じっと魔女神になる機会を探っているのだ。
 既に、黄緑の魔女神の使徒も一部を抱き込んでいて反旗の機会を窺っていた。

 そういう事情を知ると、やはり、シリスの様なピュアな魔女神というのは珍しいのだと思わざるを得なかった。
 魔女神同士は騙し騙されの関係で成り立っているのだ。
 また、情報から黄緑の魔女神に支配されている魔女神候補は他にもいて、隠れて同盟を結んでいる事が解った。
 他にもベージュの魔女神候補ナリスと藤色の魔女神候補クリス、クリーム色の魔女神候補レイリスも同じように、黄緑の魔女神の支配を受けていた。

 カリス、ナリス、クリス、レイリス――この四名は既に、魔女神になれるだけの生き肝を食べている。
 つまり、この内の三名が魔女神になってしまえば、十三柱揃ってしまうのだ。
 相手を出し抜く事を常に考えている魔女神達からすれば、何時裏切って先に魔女神になるか解らない状況だ。

 それでも、かろうじてそれぞれの魔女神候補が魔女神にならずにいるのは、そのまま魔女神になってしまえば、黄緑の魔女神一柱が得をする事になるからだ。

 その状況は四名の魔女神候補にとって面白くない事と言えた。

 相手より、常に上に――
 それを考えている魔女神候補達だからこそ保てている微妙なバランスだった。

 それを知った以上、リグレットとしても迂闊な行動を取る訳にはいかない。
 下手に刺激をして、一角を崩せば、他の魔女神候補達がこぞって魔女神になってしまうかも知れない危うい状況だ。

 相手は魔女神に匹敵する力を持つ四名の使徒……
 リグレット達が苦戦するのは必至だった。
 だが、それでもやらなくてはならないのだ。

 リグレットとシリスは再び死線に飛び込んだ。




 最終章 それから……




「始まっちまったな、魔女神大戦……」
 酒場の常連客デニスがマスター、カルロスに話しかける。
 たくさんいた客も一人減り二人減り、今では、デニス一人になってしまった。
 この酒場にも魔女神達の脅威が迫っていたのだ。
「そうだな……リグレット達がここを出て行ってどのくらいになるか……」
「もうすぐ一年だよ。早いもんだな」
「赤色の魔女神ジャリス……」
「青色の魔女神アイリス……」
「黄色の魔女神メイリス……」
「白の魔女神セレリス……」
「黒の魔女神ドロレス……」
「銀灰の魔女神エリス&イシス……」
「金色の魔女神ミリス……」
「緑の魔女神ルルス……」
「黄緑の魔女神リリス……」
「紫の魔女神アエリス……」
「橙色の魔女神フェアリス……」
「水色の魔女神フィナレリス……」
 カルロスとデニスは魔女神の名前を次々と挙げていった。
 そして、十二柱目の魔女神フィナレリスの名を告げてから一拍おいてから最後の一柱の名前をつぶやく……
「桃色の魔女神シリス……」
「あの子、頑張ってるかね?」
「さあな、ただ、何とかやってるんじゃないか、あの凸凹コンビは」
「もうちょっと大人びたスタイルになってると撫で甲斐があるんだけどな」
「よせよ、キレたお嬢ちゃんに店を破壊されたくねぇ。やるんなら外でやってくんな」
「冗談だよ、冗談、……にしてもリグレットの奴、羨ましいねぇ、あんな別嬪に好かれちまってな」
「あいつは朴念仁だからな。お嬢ちゃんの気持ちに気付くのは何時になるんだろうな」
「まぁ、ぼちぼちやっていくんじゃねぇか」
「そうだな……」
「どの魔女神が勝つか賭けねぇか?」
「いいぜ、俺は嬢ちゃんが勝つのに店の抵当権を賭ける」
「おいおい、それじゃ、賭けが成立しねえだろ、俺だって全財産、あの子に賭けようと思ってたんだぜ」
「そりゃ残念だ。身ぐるみはがしてやろうと思ったんだが」
「へっ、こっちこそ」
二人はシリスの勝利を信じて疑わない。

 彼女こそ次の――
 真の魔女神フィアエリスになるだろうと信じているから。

 一方――

「おーい、リグレット君、こっち、こっち、ここ見晴らし良いよぉ〜」
「お前、魔女神としての自覚がねぇのか?こんな真っ暗な世界で何が見晴らしが良いだ」
「だって、桃光の光をあてるとこんなに……」
「青空ならもっと良い景色だろうぜ」
「そうだね。勝って青空を手に入れよう」
「他の魔女神がみんなお前みたいなら楽なんだがな……」
「むー、それは褒めてるのかな?けなしてるのかな?」
「褒めてんだよ、……一応な」
「じゃあ、良いでーす。お弁当食べよ」
「だから、ふざけんな、ここは敵地のど真ん中なんだよ」
「いいじゃん、今、誰も来てないみたいだし」
「んーなの、わかんねえだろうが」
「もう……心配症だなリグレット君は。臆病なんだね、基本的に」
「なんだと、この脳天気女」
「怒らない怒らない、カルシウムが足りてないんじゃない?はい、どーぞ、あーんして」
「食えるか、こんなとこで」
「大丈夫、あたいがいるから」
「お前と居るから心配なんだろうが」
「心配してくれるの?ありがとね」
「な、泣くな」
「嬉しくなっちゃってつい……」
「敵がいつ現れるかわからねぇんだ。弁当は……その……安全を確保してだな……」
「そだね。今日のは自信作だよ。楽しみにしててね」

 リグレットとシリスの夫婦漫才が辺りに響き渡る。

 喧嘩するほど、仲が良い。
 この二人が青空を手にするのもそう遠くない。

 人々はそう信じている。

 完。




登場キャラクター紹介

001 リグレット・ギルティ
リグレット・ギルティ
 この物語の主人公。
 結婚した女、アエリスに両親を含む知り合い100人の胆を食べられるという過去を持つ。
 その後、紫の魔女神の加護を得るが、紫の魔女神アエリスを殺す為に行動する。
 その後、桃色の魔女神シリスと出会い、行動を共にするようになる。













002 アエリス・ギルティ(紫の魔女神)
紫の魔女神アエリス・ギルティ
 リグレットと結婚した女。
 が、それは、自分が紫の魔女神になるための罠だった。
 リグレットに対し、歪んだ愛情を持っている。















003 サム(ロゴツキー)
サム(ロゴツキー)
 リグレットの友人だった男。
 が、彼の骸は茶色の魔女神マリスの配下であるロゴツキーが乗っ取り、記憶と口調を真似たものだった。
 リグレットをマリスの配下に勧誘するが、この男にそのつもりはなかった。














004 マリス・フカキツミ(茶色の魔女神)
茶色の魔女神マリス・フカキツミ
 リグレットの才能に目をつけ、彼を自分の配下に勧誘する茶色の魔女神。
 が、彼の逆鱗に触れ、リグレットと敵対する事になる。
 自分の配下を手駒として考えていて、他の魔女神を殺すための道具として見ている。
 配下の事も信じ切る事が出来ないし、利口な魔女神とは言えなかった。













005 カルロス(マスター)
カルロス(マスター)
 情報屋として生計を立てていたバーのマスター。
 娘がいて、その娘の為に、危険な情報屋として仕事をしていた。
 その後、魔女神としては未熟なシリスを知り、魔女神に対するイメージを改め彼女を臨時のバイトとして雇うという事もしている。













006 シリス・パクッター(桃色の魔女神)
桃色の魔女神シリス・パクッター
 茶色の魔女神マリスに捕まっていた桃色の魔女神でこの物語のヒロイン。
 父親に無理矢理、100人の胆を食べさせられ、無理矢理魔女神にされたという過去を持つ。
 魔女神としては大変幼く、生娘で、下ネタ一つでも嫌な顔をする。
 ひょんな事からリグレットに助け出され、そのまま彼について行くことを決める。
 彼に桃色の加護を与える事になる。