第二話 決勝トーナメント

01 史郎と五名のアソシメイト達のサポート


 史郎が火星にきてしばらく経った。
 アソシメイト達の競技も大分見てきた。
 体力系、知力系、技能系……アソシメイト達が蝶のように舞い蜂のように刺す姿は美しかった。
 現在行われている競技は網目状になった雲梯(うんてい)にぶら下がり、他のアソシメイト達を下のプールに落とす競技、モンキーフォールだ。
アソシメイトサクラ第二話シーン1 現在、この競技にはミカンが参加している。
 彼女も史郎をマスターとしたため、彼も見守りに来たのだ。
「ダーリン、優勝するから見ててね〜」
 終始余裕のミカン。
 それもそのはず、彼女は参加している100名のアソシメイトの1/3をプールに落としているからだ。
 圧倒的な強さをしめしている。
 だが、油断は出来ない。
 この競技にはランク4位の彼女より一つ上の3位、三強の一角、パンプキンも参加している。
 実力的にはパンプキンの方が上だ。
 油断すれば負けてしまう。
 何より、アソシメイト達をたくさん、たたき落としているミカンはそれだけ体力も削られいる。
 この競技はたくさん、たたき落とせばポイントが入る訳ではない。
 より長く、モンキーフォールにぶら下がっていた方が高いポイントを得られるのだ。
 史郎に良いところを見せたいミカンは奮闘しているが、それだけではこの競技には勝てない。
 案の定、ランク8位のスイカと激闘をしていた隙をつかれ、パンプキンにスイカごと落とされてしまった。
 まだ、40名近くモンキーフォールに残っているからミカンのポイントは下がるだろう。
 ポイントが低いからへたするとミカンのランクは4位から6位くらいまで落ちてしまう可能性が出てきた。
 こうやって、アソシメイト達のランクは競技の度に変動していた。
 19星(じゅくせい)筆頭のミカンと言えども、油断すれば、すぐにランクは落ちてしまうのだ。

 結局、この競技が終わってミカンは7位になってしまった。
「えへへ、負けちゃった」
 笑うミカン。
 だけど、瞳の端にはうっすらと涙が。
 ミカンは面と向かって慰めると強がってしまう。
 こういう時は――
「次の競技ってたしかミカンの得意な……」
「うん、早着替え競争。次は間違いなく優勝よ」
 ミカンはガッツポーズを取る。
 早き替え競争は60分間にいくつの服を着れるかという競争だ。
 様々なコスチュームが中央にバラバラに置かれ、それをアソシメイト達が着ていく。
 着ていったらお立ち台に立ち、判定員がオーケーを出したら、脱いで自分のカゴに入れて行く。
 要はその着た服の数を競う競技だ。
 当然、服はバラバラに置かれているから、服の山から全パーツを探すのは容易ではない。
 場合によっては他のアソシメイト達とダブってしまったりもするため、他のプレイヤーアソシメイトを見ながら服を選ばなくてはならない。
 また、パーツが多い服よりも少ない服を選んだ方が有利でもある。
 それをミカンは熟知していて、この競技が行われた過去3回、負け無しで優勝している。
 また、オーケーになった服の数も1回目から12着、14着、17着と記録を伸ばしているのだ。
 史郎はミカンの得意種目の話しをすることで彼女を慰めた。
 それが、マスターである彼の役目だ。

 マスターである彼の役目はミカンのサポートをする事だけではない。
 同じくマスター契約をしたさくらのサポートも必要だし、ミカンがさくらに続いてマスター契約をしたという事を聞きつけ、新たにマスターになって欲しいと言ってきたアソシメイト達が三名いた。
 ミカンとの契約を了承して、その三名との契約を断る訳にはいかないと思った史郎はその三名ともマスター契約をした。
 その三名は現在ランクが上の方から(19星の一人)16位のアンズと28位のレタス、37位のカリフラワーだ。
アソシメイトサクラ第二話シーン2 そのため、史郎は次から次へとアソシメイト達の競技を見に行っているのだ。
 競技への参加は申告制なので、さくら、ミカン、アンズ、レタス、カリフラワーは同じ競技には参加しないようにしてもらっている。
 同じ競技に参加したら誰を応援したらいいのか解らなくなって困るからだ。

 また、この五名以外にも気になっているアソシメイトがいる。
 それは、さくらの親友であり、今は亡き初恋のグレースの脳を受け継いだ不思議ちゃんタイプのアソシメイト、ぶどうだ。
 彼女とはマスター契約はしていない。
 彼女はさくらの事が大好きで彼女をマスターにしたいみたいだが、さくらの方で断っている。
 もっともアソシメイトがアソシメイトのマスターになるなど聞いたこともないので、それが受理されるかどうかは疑問だが。
 グレースの脳は右脳と左脳の二つに分けてアソシメイトに移植されている。
 右脳がぶどうで左脳はマスカットというアソシメイトに移植されているのだが、マスカットの方は調整中でまだ、火星に到着していない。
 ぶどうとマスカットには山城 次郎(やましろ じろう)という天才ケアマネージャーがつくと聞いている。
 長らく三強(ピーチ、マンゴー、パンプキン)の時代だった、アソシメイト達が19星を初めとする新勢力が台頭(たいとう)してきたのは彼の功績が大きいと言われている。
 ミカンやアンズも彼の調整を受けていると言われている。
 ぶどうは現在、彼の調整を受けるために彼専用のラボに行っていて、姿をしばらく見ていない。
 ぶどうはランクが最下位なのだが、一挙に強豪へと化けると噂されている。
 アソシメイトとは言え、元はうわさ話が三度の飯より大好きな女の子達である。
 内密の話も噂としてあっという間に広まるのだ。
 全てはマスカットと揃った時、ぶどうは最強のアソシメイトとなる。

 グレースの左脳を持つマスカットとも会いたい気持ちはあるが、今は五名のアソシメイトを抱える忙しい身である。
 彼は次のサポートとして、カリフラワーの出場する高速50音かるた借り物競走の応援に向かうのだった。
 この競技は早口で読み上げる【あ】から【ん】までの50音かるたを取り、なおかつ、そのかるたに書かれたアイテムを1分以内に所定の位置に移動させないといけないというものだ。
 お手つきは一回休み、一分以内に所定の位置に移動させられないとお手つき扱いで、三名ずつで行われる競技でトーナメント式になっている。
 カリフラワーは奮闘したのだが、最終的には準々決勝敗退という成績だった。
 スタートダッシュが苦手な彼女にとってはあまり得意な種目ではないのだが、苦手を克服したいと今回挑戦したのだ。
 彼女にとっては頑張った成績だといえるだろう。
「準々決勝まで進むなんてすごいじゃないか、カリフラワー」
「もう少し頑張りたかったけど、ダメだった」
「そんなことないって、苦手種目でここまで進めれば凄いことだよ」
「そうかな?」
 彼女は小柄で体格的にも恵まれていない。
 体力自慢のアソシメイト達にはどうしても力負けしてしまうのだ。
 そんな彼女は右肩をポンポンと叩かれるのが好きらしい。
 それを知っている史郎は迷わず、叩いた。

 カリフラワーの機嫌が直ったのを確認すると続けて、アンズの出るカロリービンゴの応援に向かう。
 カロリービンゴは料理競技だ。
 縦横10マスずつ合計100マスに数字が書かれている。
 それはカロリー表示だ。
 プレイヤーアソシメイト達は料理を作っていき、料理のカロリーを計測する。
 見事同じカロリーを計測されれば、マスが赤く表示される。
 1マスが表示されても勝敗には影響はない。
 どんどん、料理を作っていき、縦横斜めのビンゴが揃った時点でその料理を作ったアソシメイトが一位となる。
 このビンゴは三つまで有効だから三位まではポイントがつくが、他のプレイヤーは得点がつかない厳しい競技だ。
 なお、作られた料理は転送装置で地球へと運ばれ、アソシメイトの誰が作った手料理として、販売されるという仕組みだ。
 食材は全て売れるので、無駄は一切無い競技だ。
 アソシメイト達は気兼ねなく、手料理を作っていく。
 アンズはこの競技が得意ではない。
 料理のレパートリーが少ないのだ。
 少ないレパートリーを駆使して、頑張ったが、三位までには入れなかった。
 だが、マスを三つ赤く表示させたことからそれが彼女の自信にも繋がった。

 史郎に出来ることは彼女がマスを赤く表示させた三つの料理を注文し、完食することだった。
 多少、胃もたれがしたが、おくびにも出さず――
「美味しかったよ。腕、あげたんじゃない?」
「まぁね。次やるときは四つマスを埋めるよ」
「その意気だ」
「きゅうりといちじくとパプリカの作っていた料理も覚えたからレパートリーが増えたわ」
「それは良かったね。次が楽しみだ」

 続けて、レタスの応援に回る。
 レタスがやっている競技はウォーターショット合戦だ。
 この競技は参加アソシメイト全員、水着の上に紙製のTシャツを着る。
 手には圧縮水を放出する水鉄砲を装備する。
 アソシメイト達は水鉄砲を撃ち合い、Tシャツを溶かすのだ。
 Tシャツが溶けて身体から離れればそのアソシメイトは戦線離脱する事になる。
 一時間、競技が行われ、生き残ったアソシメイト全員にポイントが入る競技だ。
 ボーナスポイントとして、全くTシャツが濡れていなかったら、10倍のポイントが入る事になる。
 圧縮水は6発まで撃てる。
 弾が無くなると、給水ポイントまで行って給水しなくてはならないが、その時はどうしても隙だらけとなる。
 水鉄砲は二丁まで持てるから一丁の弾が無くなったら給水ポイントで給水するのがポイントでもある。
 水鉄砲を避ける事が大事だが、あんまり早く動きすぎると風圧などでTシャツが破れてしまう。
 バランスを考えて動かないといけない競技でもある。
 ちなみにこれはセクハラ親父、機内 陸郎(きない ろくろう)のお気に入り競技でもある。
 水圧が強めに設定してあるので、勢い余ってポロリということもあるからである。
 陸郎は絶対王者ピーチのマスターであるという事でも知られている。

 案の定、ピーチは参加していないのに、陸郎が鼻の下を伸ばして覗きにきていた。
「おぉ、坊主。お前も好きじゃのう」
「陸郎さんと一緒にしないで下さいよ。僕はレタスの応援に来たんです。レタスを変な目で見ないで下さいよ」
「他のアソシメイトなら良いのか?」
「出来れば遠慮していただきたいなと思っていますよ。僕は紳士なんで」
「何を気取っとる。一皮剥けばお主もドスケベなエロ男爵なんだろ?」
「違います。僕はあくまでも彼女達の心のケアを……」
「そういう事にしておくか。ほれ、競技が始まるぞ」
「あ、ホントだ、頑張れーレタスぅ〜」
 史郎の応援が利いたのかかろうじて、レタスはTシャツが残っていたためポイントが加算された。
 予定通り、ランク2位のマンゴーから距離を取る作戦に出ていたので、彼女から狙われずにすんだのだ。

 ウィンクしてきたレタスに親指を立てて答えると今度はさくらがやる種目の場所へと移動した。

 さくらがやる競技――
 それは、水中ポージングだ。
 アソシメイト達はプールの底においてあるカードを拾う。
 そのカードにはポーズの指示が書いてあり、アソシメイト達は水中で指定のポージングをする。
 それが美しいポーズと認められればポイントが入るという仕組みだ。
 息継ぎは三回まででその間にどれだけ多くのカードを拾ってポーズを決めるかが勝負の分かれどころだ。
 これはポージングスキャンという機械で正確に判定するので審査員などで判断が分かれるという事はない。
 また、スキャニングの関係上、一度にプールに入れるのは3名までなので、3名ずつ行われる。
 一つでもポーズを決められればポイントが入るお得な競技だ。
 そのため、人気競技で定員30名の抽選という狭き門を通り、さくらは見事、参加資格を得ていた。
 彼女の順位は現在64位。
 出会った頃は全体の中盤くらいの順位だったから、随分順位を上げてきているという事になる。
 この水中ポージングで更に順位を上げるのはまず間違いないだろう。
 このまま行けば彼女達の決勝大会出場はほぼ間違いないだろう。
 上位128名までに入れば参加できるのだから、よっぽどのミスをしないかぎり、五名とも出場は出来るはずだ。

 問題があるとすれば、ぶどうだ。
 彼女は相変わらず最下位を独走中のままなのだ。
 競技にも出場していないからそのすぐ上のランクとの差でさえ300ポイント以上も大きく開いてしまっている。
 仮に今の時期から128位圏内に入るという事を考えるとかなりの競技に参加して、全ての競技で優勝するしかない。
 それはもはや化け物クラスの所行だ。
 絶対王者ピーチでさえ不可能な芸当だと思われているので、ぶどうの決勝大会出場は絶望的とされていた。
 噂では明日、ぶどうはマスカットと共に競技に復帰するという。
 マスカットはサポートだから元々決勝大会には出ないとしても今更出場してもどうしようもないからどう慰めようか……
 そのような事を史郎は考えていた。


02 超モンスター、ぶどうとマスカット


 翌日、次郎と共にぶどうは現れた。
 マスカットも一緒だ。
 アソシメイト達はざわついた。
 なんと、ぶどうとマスカットの同時出場を申請していたからだ。
 もともと、グレースの脳を二つに分割している二名なので、別の競技になら同時出場は認められている。
 サポートであるマスカットは元々、ぶどうの代用タイプのアソシエイトだ。
 ぶどうの身体が傷つき動けない間、ブレインを移して、ぶどうとしてマスカットが競技に出場するというものだ。
 ツインタイプとも呼ばれている。
 この様に、ぶどうとマスカットのようなボディを二つ持つタイプはいるが、それは火星には一切来ていない。
 ぶどうとマスカット同様に右脳と左脳で分けているため、身体能力が他のアソシメイトよりどうしても劣るからだ。
 二つのボディを持つことで当初は凄いタイプが出来たと期待されたが、現実には個々のボディのレベルダウンにしかならなかった。
 火星に行けるレベルにまで達しているぶどうとマスカットの方が異例と言えるのだ。
 と同時に不思議ちゃんタイプでもあるぶどうとマスカットは平均約70%解析がすんでいる一般のアソシメイトと比べても解析率20%未満というアソシメイト全タイプから見ても最も解析がすんでいない謎の多いタイプとも言えるのだ。
 わからない事が多いから不思議ちゃんタイプと呼ばれている。
 それが、ぶどうとマスカットだった。
 別の競技への同時出場はブレインが二体あわせて一つという事もあって不可能であるという研究結果が出ていたはずであるが、それでもあえて別の競技への同時参加を申請したという事がアソシメイト達の興味をひいたのである。
アソシメイトサクラ第二話シーン3 どう考えても無謀――。
 二つの競技に対応出来ず、オーバーヒートするのがオチだと思われた。

 ぶどうが出場する競技は空中ブランコイス取りゲームだ。
 ドームの天井に設置された1000セットの空中ブランコを渡り、1名分ずつしかない足場を取り合うというものだ。
 足場の数は参加アソシメイトより1〜10ずつ少なくなる。
 アソシメイト達は少なくなっていく足場を争うのだ。
 一曲流れるまで競技は続くので、曲が終わった時、足場に残っていれば良いので、曲が流れている間は足場を奪うためにアソシメイト達を襲っても良い事になっている。
 もちろん、下にはマットが敷かれているので安全な競技である。
 この競技は最後の1名になるまで続けられて残っている時間が長い程、多くのポイントを得られる競技だ。
 参加アソシメイト数は100名だ。

 一方、マスカットの出場する競技はポイントボールバトルロイヤルだ。
 柔らかいクッションで出来たアスレチック上になっている競技場のあちこちには大小100個のポイントボールが置いてある。
 大きなボールほどポイントが高いがそれを持って戦うのは困難になっていく。
 参加アソシメイト達はこの100個のボールを奪い合う。
 一時間の奪い合いの後、所有しているボールがそのままポイントになる競技だ。
 参加アソシメイトの数はやはり100名だ。

 まったく違う二つの競技。
 これを同時進行でやってなおかつ良い成績を取るなど不可能だと誰もが思った。

 だが、この競技の関係者達は全員、前代未聞の状況に驚愕した。
 ぶどうが空中ブランコイス取りゲームの最後の1名に残ったのだ。
 同時にマスカットはポイントボールバトルロイヤルで100個全てのボールを保持していた。
 ボールをお手玉のようにして、100個全て保持していたのだ。

 とんでもない超モンスターの誕生だ。
 誰もがそう思った。
 史郎はぶどうの競技を見に来ていて、史郎に頼まれたさくら、ミカン、アンズ、レタス、カリフラワー(史郎と一緒に見に行くと喧嘩になるから、五名は一緒に見に行く事になっていた)はマスカットの競技を見に来ていて、それぞれが驚愕した。
 とんでもない逸材だと思った。
 圧倒的過ぎる。
 他のアソシメイト達が全く歯が立たない。
 何名か19星も混じっていたのに、圧倒的な勝利だった。
 ポイントが圧倒的に低かったので、それでもまだ最下位だが、その上のランクとの差はたった1ポイントにまで迫っていた。
 史上最強の最下位というニュースが地球にも流れ、あっという間にぶどう&マスカットフィーバーになったという情報が史郎達の耳にも入ってきた。
 その日、ぶどうとマスカットはそれぞれ同時に5競技に出場し、その全ての競技で圧勝した。
 たった一日で198位にまで順位を上げたのだ。
 その後、勝負にならないからとクレームが殺到し、大会委員から三強同様にぶどうとマスカットの出場制限が言い渡されるという異例づくしだった。
 そして、三強もピーチ、マンゴー、パンプキンに加えてぶどう&マスカット加え、四強、または五強(ぶどうとマスカットは2体で1セットという考え方とそれぞれを1体という二つの考え方があった)と呼ばれる様になった。
 二つの呼び方だとややこしいので、2体で1セットの考え方が採用され、四強という事に落ち着いた。
 一日で時の人ならぬ時のアソシメイトとなったぶどうとマスカットだったが――
「さくちゃん会いたかったよぉ〜」
「ぶ、ぶーちゃん、凄いね」
「何が?これ、ますちゃんで私の分身」
「よろしくですぅ、さくちゃん」
「よ、よろしくますちゃん」
 さくらに対しては相変わらずののんびりペースだった。
「ま、負けないんだからね」
 涙目になって言うミカン。
 無理もない。
 あんな凄い光景を見せつけられて戦意喪失するなという方が無理な話だ。
 それでも強がっているだけ、ミカンは凄い。
 アンズ、レタス、カリフラワーに至っては完全に意気消沈している。
 ランクは自分達の方がずっと上だが、明らかに格が違う。
 史郎もなんと声をかけたら良いのか解らなかった。
 ぶどうとマスカットの活躍は正直、かなり嬉しかったが、ものには限度がある。
 この二名の活躍は完全に、限度を超えすぎている。
 他のアソシメイト達の事を考えるとどうしても素直に喜べない。

 ふと、見ると、次郎が近づいてきた。
「やあ、史郎君だね。始めましたて。山城 次郎と申します」
「あ、あなたが次郎さんですか……」
「ぶどうとマスカットの活躍は見て貰えたみたいだね」
「な、何と言って良いのか……凄過ぎて……」
「それなんだけどね、この後、ぶどうとマスカットがランクが何位になろうと決勝大会は辞退してもらうことになった」
「え……あの、どういう……?」
「ちょっとやり過ぎた感があってね。他のアソシメイト達のやる気が著しく低下したみたいなんだよね。参ったよ」
「そりゃそうですよ。あんなの見せられたら」
「そこで、特例の処置として、ぶどうとマスカットはエキシビジョンマッチ以外は参加しない事になったんだ。そのかわり、来年はランク4位からスタートする事が正式に決まったよ」
「そ、そうなんですか?」
「後、僕のジローサポートを希望者全員が受けられる事になった。これで、アソシメイト達の不安もいくらか緩和されるだろう。君のアソシメイト達もよかったらどうだい?」
「あ、はい。後で聞いてみます」
「僕としてはさくら君を見れるのは楽しみの一つにしているんだよ。彼女はぶどうのライバルになれる資質を持っていると思っているからね。是非、拝見したい」
 ひょっとしたら、さくらを見たいから、次郎はぶどうとマスカットに派手な演出をさせたのでは?
 そう思った。
 後日、五名のアソシメイト達に聞いてみたら、アンズ、レタス、カリフラワーはジローサポートを受けると申し出た。
 来年、ランク4位の座をぶどうに奪われるミカンはそのプライドからかジローサポートを拒否した。
 さくらもミカンと同じく拒否した。
 次郎は残念がったが、史郎は何となくホッとした。

 ほぼ、ぶどうとマスカットが参加しない状態で大会は続けられた。
 ぶどうとマスカットが参加するのはかなりのハンデをつけたハンディキャップマッチだけだった。
 元三強とぶどう&マスカットの戦いを見てみたいという者が続出したが、それは来年度のお楽しみという事になっていた。
 ジローサポートは火星にいるアソシメイトの9割が受けた。
 その9割は例外無く順位をあげ、ジローサポートを受けなかったアソシメイト達は順位を落とすか火星を去っていった。
 去っていくアソシメイト達が増えたので、運営本部では火星に来るアソシメイト達の数を来年増やす事に決めた。
 来年度は今年の三倍以上の1500名まで増やし、決勝大会は512位までと大幅にスケールアップすることが決まっている。
 絶対王者ピーチや超モンスターぶどう&マスカットを倒すのは誰か?という話題がもう持ち上がっていた。
 そういう意味では決勝大会に参加しなくてもぶどうはすでに台風の目となっていた。


03 決勝大会


 ぶどう&マスカットショックというハプニングはあったが、大会も順調に進み、決勝大会への出場資格を持つ上位128位までのランキングが発表された。
 もちろん、さくら、ミカン、アンズ、レタス、カリフラワーも参加資格を得た。
 ここからは五名の中で競技でぶつかる可能性もあるので、史郎は基本的に応援出来ない。
 あくまでも平等に公平に見なくてはならないからだ。
 こういう時、複数のアソシメイトとマスター契約をしていると不便だなと思うのだった。

 史郎は次郎と陸郎以外のマスターにも会っている。
 大和 市郎(やまと いちろう)
 河内 佐武郎(かわち さぶろう)
 摂津 吾郎(せっつ ごろう)の三名だ。
 彼らと契約しているアソシメイト達とも今後直接ぶつかる事が出てくるだろう。
 マスターとしてのプライドからも自分が契約するアソシメイトが上位に来るというのはやはり嬉しいものだ。
 史郎としてはアソシメイト達の心のケアという立て前はあるが、やはり他のマスターに負けたくないという気持ちもどこかにある。
 次郎は殆どのアソシメイトをサポートしているが、マスターとしての仮契約をしているのはぶどうとマスカットのみだから、今回は患者(ジローサポートを受けたアソシメイト)達を見守るつもりでこの大会を見ている。
 陸郎は優勝候補筆頭、絶対王者のピーチのマスターとしてドンと構えている。
 それを追うのがランク2位のマンゴーのマスターの市郎だろう。
 市郎はマンゴーの他にもランク6位のメロンとランク10位のスイカというおっぱいパワフルコンビのマスターでもある。
 メロンとスイカは19星でもある。
 次はランク3位のパンプキンのマスター佐武郎だ。
 彼は他にもランク7位のイチゴとランク9位のパインのロリータコンビのマスターもしている。
 イチゴとパインも19星だ。
 19星以外にも29位のパセリ、44位のごぼう、46位のネギのマスターもしている。
 残る吾郎だが、三強のマスターではないが、一番契約アソシメイトを多く持っている。
 8位のリンゴ、12位のレモン、15位のキゥイ、16位のドリアンはいずれも19星である。
 他にも21位のキャベツ、23位のケール、25位のトマト、26位のいよかん、28位のきゅうり、31位のうり、34位のナスといずれも上位に契約アソシメイトの名前を連ねていた。
 この事からもわかる通り、マスター契約をしているアソシメイトは上位に食い込むことが確認されている。
 最終的には史郎と契約している五名の順位は上からミカンがリンゴと同率の8位、アンズが14位、レタスが20位、カリフラワーが27位、さくらが98位となっている。
 ジローサポートを受けた三名は順位を上げたがサポートを拒否したミカンとさくらは順位を下げている。
 サポートを受ける受けないで明暗が分かれてしまった結果になってしまった。
 が、決勝大会に進めばランクは関係無くなる。
 あくまでも平等な選手として、また、0からの勝負になるのだ。
 そして、特殊トーナメント方式での1対1のさしでの勝負になる。
 一つ勝ち上がるごとにシャッフルされ、対戦相手が決まるというものだ。
 これはベスト4になるまでシャッフルされるので、次の対戦相手はどの相手とぶつかるかは解らない。
 128名から64名になるまで(決勝トーナメント1回戦)は1発勝負で全て共通競技となる。
 64名からベスト16になるまで(決勝トーナメント2回戦、3回戦)は2本先取の3本勝負。
 ベスト16からベスト4になるまで(決勝トーナメント4回戦、5回戦)は3本先取の5本勝負。
 準決勝が4本先取の7本勝負。
 決勝が5本先取の9本勝負となる。
 64名となった決勝トーナメント2回戦からは、じゃんけんで勝った方が種目を選べる。
 それぞれのアソシメイト達は得意不得意の競技があるため、運も必要な要素だという事だ。
 勝ち残って最後の1名となった時、その年の王者、女王となるのだ。
 今まではピーチがそれにあたっていた。
 今年は波乱があるのでは?と終始噂されていたのだ。
 さくら達の本当の戦いが始まるのだった。

 決勝トーナメント1回戦は巨大球体押し出し相撲だ。
 直径10メートルの球体上で行われる相撲だが、手をついても負けではない。
 ただ、相手を球体の外に押し出したら勝ちというルールで、普通の相撲の技だけにこだわっている訳ではない。
 例えば、プロレスのドロップキックで押し出しても良いのだ。
 巨大球体はつるつるしていて滑りやすく、バランス感覚も必要となる。
 パワーがあれば勝てるという競技ではないのだ。
 現に、第一試合ではパワー自慢のランク6位のメロンがランク124位のポテトに負けるという大波乱の結果に終わっている。

 5名の中では最初に出番が来たのはカリフラワーだった。
 彼女は第4試合でパプリカとぶつかった。
 つるつるしてお互いにバランスがとれず、一度もぶつからずに両者リングアウトになってしまった。
 ただし、これは、一応、相撲という形をとっているので、押し出しが決着の基本ルールとなっている。
 ぶつからずに勝敗が決まるという事はないので、仕切り直しが行われた。
 3回目の仕切り直しでようやく、ぶつかって、かろうじてカリフラワーが僅かの差で球体の土俵に残り、勝利をもぎ取った。
 辛勝だった。
 どちらが負けてもおかしくなかった。

 次はミカンだ。
 彼女はヘチマとぶつかり、持ち前のバランス感覚の良さを発揮し、終始、ヘチマを圧倒した。
 その上でヒップアタックで押し出しての完勝だった。

 その次はアンズだ。
 彼女はニラとぶつかった。
 両者一歩も譲らず、一進一退の攻防だった。
 惜しくも結果はバランスを崩したアンズが自爆。
 彼女は悔し涙を流した。

 続いて、レタス。
 ランクは格下の46位のネギとぶつかるが油断したのか敗れてしまった。
 そして、ネギは佐武郎とマスター契約を結んでいるアソシメイトだ。
 他のマスター関係のアソシメイトとの初戦は敗北という苦い経験をしてしまった。

 最後はさくらだった。
 同じく佐武郎をマスターとするランク44位のごぼうと激突。
 レタスの雪辱を晴らすようにさくらの圧勝だった。

 こうして、1回戦はほぼ滞りなく行われ、さくら、ミカン、カリフラワーの3名が2回戦へと進み、アンズとレタスは涙を飲んだ。

 続く2回戦と3回戦は3本勝負となる。
 ここからは運も必要だし、戦略も必要となるだろう。
 シャッフルが行われ、対戦カードが次々と発表される。

「おぉ〜っ」
 と注目を集めたのは3つのカードだった。
 一つは佐武郎をマスターとするランク7位のイチゴと吾郎をマスターとするランク8位のリンゴの戦いだ。
 ランクが近いという事もあって、注目カードとなった。
 二つ目は吾郎をマスターとするランク15位のキゥイと絶対王者ピーチの戦いだ。
 19星がどこまで三強に挑めるかという事での初戦になるカードだ。
 三つ目はミカン対ナンバー2のマンゴーの戦いだ。
 やはり、これも19星がどこまで三強にという事だが、ランクが落ちたとは言え、ミカンは元、19星筆頭だったアソシメイトだ。
 そのミカンがマンゴー相手にどこまで出来るかが注目されている点でもある。

 この三戦は注目カードという事で、二回戦の最後にマッチメイクされた。
 つまり、さくらとカリフラワーが先に試合をする事になる。

 まず、試合が回ってきたのはさくらだった。
 彼女はランク55位のゴーヤとぶつかった。
アソシメイトサクラ第二話シーン4 55位とは言え、ゴーヤはくせ者として有名なアソシメイトだった。
 なにより、予選最終ランクが98位のさくらよりランクが上なのだ。
 決して油断して良い相手ではない。
 ゴーヤもジローサポートを受けて順位を大きく上げたアソシメイトだ。
 元々は110位圏内にいたのだ。
 もう少し、サポート期間が長かったら、彼女はもっと順位を上げていただろう。
 つまりは強敵だった。

 さくらはゴーヤとじゃんけんをする。
 勝負は、さくらがパー、ゴーヤがグーでさくらの勝ち。
 つまりはさくらに1本目の勝負を選ぶ権利が与えられる。
 2回戦に用意された種目は10種類。
 その中から、じゃんけんに勝ったアソシメイトは一つ選ぶ。
 一度、選んだ種目は選べないので、最大10種目中3種目で勝負する事になる。
 さくらは慎重に種目が書いてあるプレートを見る。
 10種目中知っている競技は7つあった。
 内、6種目はこれまでの競技で見たことがある競技だ。
 1種目についてはこの2回戦でお披露目した新競技で、前の戦いで出た為、確認済み。
 残り3種目について言えば、さくらが2回戦の第6試合という事もあってまだ、解っていない。
 さくらは考える。
 この後にはカリフラワーの試合も控えている。
 彼女の為にも得意か不得意か確認できる競技が1つでも多い方が良い。
 残り3種目はゴーヤも未確認という事は条件としては同じ。
 じゃんけんに勝ったという有利な展開ではあるが、ここは一つ、冒険心を出して、新競技に挑戦するか、安全策で得意競技を選択するか――
 考えた末、さくらは新競技を選択する事にした。
 カリフラワーの為だけじゃない。
 得意競技で安全策をという後ろ向きの姿勢で勝負したく無かったからだ。
 それを戒めるためもあってあえて、新競技を選択した。
 選択した競技名はロシアンロープ引きだ。
 新競技のため、運営委員から競技の説明が行われた。

 ロシアンロープ引きのルールは――

 対戦するアソシメイト達は並行に置かれた鉄棒の上に立つ。
 対戦相手と自分の鉄棒の間には天井から箱がつるされていて、その中にそれぞれ、10本ずつロープの先が出ている。
 10本のロープはそれぞれ相手のロープの先と繋がっているが、中央の箱の中を通していて、どのロープがどのロープと繋がっているかわからない状態になっている。
 アソシメイト達は鉄棒から落ちないようにバランスを取りながら1本、または、2本ずつ、ロープを同時に引いていく。
 ロープは相手が引いて行かなければ、当然引っこ抜ける。
 お互いが引いているロープを引き当てた時、本当の勝負が始まる。
 押しても良いし引いても良いのだ。
 とにかく、バランスを崩した相手のアソシメイトが鉄棒から下のプールに落ちたら負けという競技だ。
 もちろん、立っている、鉄棒を手で掴んではいけない。
 いつ、始まるか解らないという緊張感。
 ロープの引き具合の駆け引きという複雑な競技だが、勝負は一瞬でつくこともある。
 競技開始後は一瞬たりとも気が抜けない競技でもある。

 さくらはゴーヤとの対決に挑んだ。
 一本、また、一本と慎重にロープを引いていくさくらに対して、ゴーヤは2本ずつ引いて揺さぶりをかけてきている。
 そして、さくらが3本目を手にしていた時、ゴーヤとの勝負が始まった。
 ゴーヤは2本ずつロープを引いていたので、1本のロープに対する集中力はさくらより低かった。
 ゴーヤが1本のロープに集中する隙をついて、サクラはちょっと力を込め、ゴーヤがそれに対応しようと力を入れた時、ロープを放した。
 それでバランスを崩し、ゴーヤはプールに落ちてしまった。
 策士策に溺れると行った感じの勝負だった。
 3本勝負の1本目を取ったさくらは大喜びだった。
 安全策ではなく挑戦していったのが良い結果に結びついたのだろう。

 続けて、また、じゃんけんをすると今度はゴーヤが勝った。
 ゴーヤはさくらに対抗するつもりなのか、また、新たな、新競技を選択した。
 次に選ばれた競技の名前はつり革ドボンだ。
 これは天井に設置された1600本のつり革にぶら下がり、相手を下のプールに落とすというものだ。
 つり革は10秒ぶら下がり続けるとロックが外れて下に落下する。
 落下しないようにするには別のつり革に移動し続けるしかない。
 また、ランダムで、つり革が1分ごとに1つずつロックがはずされ落ちていく。
 どんどん減っていくつり革を渡っていって、最後までつり革にぶら下がっていた方が勝ちという競技だ。
 これにはゴーヤも悔しがった。
 これでは、策もろくにたてられない。
 常に移動しなくてはいけない競技だからだ。
 これは駆け引きというものをしづらい勝負と言えるだろう。
 どうやら、勝利の女神は今回はゴーヤには味方をしてくれなかったようで、さくらが2本目も連取し、勝った。

 その二試合後に試合したカリフラワーもさくらに答えるべく、ロシアンロープ引きとつり革ドボンを選択した。
 ロシアンロープ引きは負けてしまったが、つり革ドボンは勝てたし、じゃんけんは三連勝していた彼女は三種目の選択権も得たので、自分の得意競技を選択し、見事、勝つことが出来た。
 悲喜交々の二回戦も順調に進んでいき、残すは注目の三カードを残すのみとなったのだった。


04 注目3カードの戦い


 注目カード1戦目はイチゴ対リンゴの戦いだ。
アソシメイトサクラ第二話シーン5 史郎が注目したのはイチゴだ。
 イチゴのタイプはロリータタイプ。
 正直どんなタイプなのか解らなかった。
 見たところ、子供のような体型だ。
 だが、彼女は19星でもあるのだ。
 順位で言えば、8位のミカンよりランクが上なのだ。
 対するリンゴもランクの順位はミカンと同じ8位。
 つまり、ミカンクラスのアソシメイト同士がぶつかるという事でもあるのだ。
 これで気になるなという方が無理な話だった。
 まず、じゃんけんに勝ったのはリンゴだった。
 彼女が選択した競技は残る一つの新競技だった。
 とはいえ、彼女達の試合になる前にドリアン対オニオン戦で選ばれていたからもはや新競技ではないのだが。

 競技名はバルーンクラッシュだ。
 競技場内には赤と青の風船が100個ずつバラバラに配置されている。
 アソシメイトは赤と青のどちらかを選択し、バルーン、つまり風船を割っていく。
 どちらが赤でどちらが青になるかは、最初に割れた風船で決まる。
 例えば片方が先に赤の風船を割ったら、その時点で赤がそのアソシメイトが割る風船となる。
 その後で相手アソシメイトが赤を割っても自分の風船を割った事になるので、ポイント的にはマイナスとなる。
 つまり、最初のダッシュで割れた風船で自分の割る風船が決まり、先に自分の割る風船を全部割った方が勝ちという競技だ。
 アソシメイト同士の接触は禁止で、ぶつかった方と判定されたアソシメイトはペナルティーとして、5秒間その場で立ち止まらなくてはならない。
 アソシメイトの運動能力での5秒間のロスは勝敗に大きく影響するので当たる訳にはいかないという勝負でもある。
 この競技はやはりイチゴより手足の長いリンゴの方が有利だった。
 あっという間に差をつけ、リンゴが一本取った。
 この競技はリンゴの得意競技。
 当然と言えば、当然と言った結果の勝負だった。
 だが、負けたイチゴにはまだ余裕の表情だった。

 続く二本目はイチゴが勝った。
 選んだ勝負はペイントガンエスケープだ。
 この競技はアソシメイト達は競技場を一定時間逃げ回る。
 追ってくるのはコンピューター制御された、メカガンマン10体。
 メカガンマン達はそれぞれ、一色ずつのペイントガンを持っている。
 勝負はアソシメイトの全表面積に対し、何パーセントペイントガンに当たってしまったかで決められる。
 当然、割合の低い方が勝ちというものだ。
 また、ガンマン達の持っているペイントの色でも得点に影響がある。
 10色のペイントで得点も異なるため、当たる色によっては3倍以上のマイナスポイントが加算されてしまう場合もある。
 まずは、リンゴが逃げ回り、表面積の15%のペイントを浴びた。
 加算ポイントもあったが、脅威だったのは続くイチゴだった。
 なんと表面積の0%のペイントを浴びた事になったのだ。
 つまり全く当たらなかったのだ。
 身体が小さかったというのもあるだろうが、この競技で0%を出したものは今までいなかったのだ。
 加算ポイントの計算をするまでもなく、この競技はイチゴが取った事になった。
 これで、1対1のイーブンとなる。
 勝負は3本目となった。
 じゃんけんはリンゴが勝ち、勝負はロシアンロープ引きを選択した。
 勝負は9対1でリンゴが勝つ方に観客はかけたが、番狂わせが起きた。
 ロープを引く駆け引きの最中、ロリータ体型だった、イチゴの身体が、成人体型に変化したのだ。
 子供から大人へ。
 これは前にぶどうが、ミカンとの勝負で使ったのを見たことがあった。
 ぶどうがメロンの体型をコピーし、ミカンを圧倒した時の事だ。
 それと同じ力がこのイチゴにもあったという事なのだろう。
 対戦相手の体型が激変したのでバランスを崩し、リンゴはプールにドボン。
 勝利はイチゴが勝ち取った。
 この二回戦では最大の盛り上がりを見せた。

 続く注目カード第二戦は絶対女王ピーチ対ランク15位キゥイの対決だ。
 キゥイが絶対女王に対し、どこまで食い下がれるかというのが注目ポイントだった。

 最初のじゃんけんはキゥイが勝った。
 というより勝たせてもらった。
 明らかに後出しで、ピーチは負けるように出したのだ。
 どの種目を選ぼうと自分が勝つという自信の表れだろう。
 それにカチンと来たキゥイは下克上宣言。
 ピーチを倒すと言った。

 まずキゥイが選んだ種目はアーティスティックフットボールだ。
 複数のサッカーボールを使い、ボールを蹴って神技を競う競技だ。
 アーティスティックビリヤードの様に、決められた型があり、それをクリアすると高い得点が与えられる。
 二回戦の競技では最も難しく、殆どのアソシメイト達が避けて来た競技でもある。
 難しさからレベル1からレベル30まで10ずつ設定されていて、全アクションは300種類になる。
 レベル1でも難しいのにキゥイはレベル3を選択する。
 選択したものは的玉となるボールを100メートル離れた別のボールに当てて、当てたボールをカゴの中に入れるというものだ。
 これは3回までやり直しが認められていて、3回以内に入れば、得点となる。
 キゥイは2回目で見事決め、勝利のVサインを決める。
 が、次のピーチが設定したのはレベル10だった。
 的玉を20メートル離れた別のボールに当てて、当てたボールが更に別の角度に30メートル離れた別のボールに当てて、それがさらに別の角度にあるカゴに入るという超難度の高いものだった。
 正直、レベル5以上はお飾りの設定とされているのにその二倍のレベル設定のアクションを選択し、一発で決めた。
 この後はキゥイが最低でもレベル10以上のアクションを決めないと負けてしまうのだが、彼女にそれをやれというのは無理な話だった。
 この競技、彼女は負けを認めた。

 続けて、またキゥイがじゃんけんに勝ち、彼女が選んだのはあまり、技量の関係ないつり革ドボンだった。
 一戦目で圧倒的な実力差を見せつけられた彼女が選択出来るのはこれくらいだった。
 が、その希望も虚しく、あっという間にピーチが勝った。

 勝利したピーチはインタビューでこう答えた。
「19星も他の挑戦者にもまだまだ、私達三強は負けるつもりはない。四強?私はまだ、認めちゃいないわ。私達に勝ちたかったら、死ぬ気で来なさい。誰の挑戦でも私達は受ける」
 19星の一角を崩したピーチの宣言に盛り上がるギャラリー達。
 三強対19星、来年は三強対四番目のぶどう&マスカットの戦いがあるという事で、アソシメイトプロジェクトはかつて無い盛り上がりを示したのだった。

 そして、最後の注目カード、ミカン対マンゴーの勝負を残すのみとなった。
 元19星筆頭対ナンバー2の対決は最大限の興味をひいた。

 最初の勝負はマンゴーがじゃんけんに勝ち、バルーンクラッシュを選択する。
「私は負けない」
 勝つ気満々のミカン。
 順位を落としたミカンは出来る限り最大限の努力をして、この決勝トーナメントに挑んでいる。
 相手がナンバー2のマンゴーであろうと負けてやるつもりはかけらもない。
 勝負が始まってからのミカンはスタートダッシュで青の風船を割り、半分以上赤の風船を残した状態で100個の風船を割り1本目を先取した。
 対戦したマンゴーは――
「やるね。さすが、19星筆頭さんね。でも私もナンバー2としての誇りがある。次からは本気でやらせてもらうわ」
 とまだまだ余裕顔だった。

 次のじゃんけんはマンゴーが勝ち、彼女はペイントガンエスケープを選択した。
 これはイチゴが0%を出した事で注目された競技だ。
 先行のマンゴーも驚きの0%をたたき出した。
 イチゴの時より凄かったのは全く危なげない状態での0%で圧倒的な身体能力を示したのだった。
 対するミカンも負けてはいなかった。
 マンゴーほどではないにしても彼女も危なげない状態での0%だったのだ。
 この競技始まって以来のイーブン、引き分けだった。

 1勝1引き分けで勝負に王手をかけるミカンだったが、次にじゃんけんを勝ったミカンが選択した彼女の得意競技、アスレチック・タッチでまさかの大惨敗をしたのだ。

 アスレチック・タッチ――
 この競技は30種類の遊具が設置されたアスレチックコースをまわり、遊具の特定の場所に置かれた合計100カ所のポイントに自分の手形を残していくという競技で、より多くの手形を残した方が勝ちという競技だ。
 先にポイントに手形を残した方が有効なので、どのコースを取るかでこの競技のポイントは多く取れるか少なくなってしまうかが決まる。
 結果は100ポイント対0ポイントでマンゴーが完全勝利したのだ。
 なぜ、そのような事が可能だったかというとマンゴーはミカンと全く同じコースを併走し、横からポイントをかすめ取るという方法を用いたのだ。
 どんなにガードしても横から取られてしまうため、最終的には90カ所目でポイントを取るのを諦めてしまった。
 それが禍して、勝敗的には1勝1敗1引き分けという状態なのだが、戦意喪失と判断されて、マンゴーが勝ち上がる事になってしまったのだ。

「勝負は引き分けだったじゃないか……」
 という慰めの言葉を史郎は飲み込んだ。
 勝負は引き分けでも身体能力からする圧倒的なパフォーマンス能力の差は明らかだった。
 100人いたら100人がマンゴーの方が上だと思うだろう。
 だが、101人目として、史郎はミカンの頑張りを評価した。
「頑張ったね」
 史郎はミカンの肩をそっと抱いた。
 ミカンはすすり泣いた。
 悔しさで顔を上げられなかった。
 まだまだ、19星と三強の差は大きかったのだ。

 決勝トーナメントは三回戦に移ろうとしていた。
 5名の中で残ったのはさくらとカリフラワーの2名だけとなってしまった。
 決勝トーナメントはまだまだ続く。

続く。


登場キャラクター説明

001 アソシメイト・サクラ(千絵梨(ちえり))
アソシメイト・サクラ
千絵梨(ちえり)の脳を元に作られたアソシメイト。
本編の主人公。
もう1人の主人公、史郎の事が幼い頃から好きだった。
アソシメイト・サクラとして生まれ変わってからは、彼をマスターに指名する。
アソシメイトとしては秘めたる力がある。
史郎とペアを組むことによりその真価は発揮される。









002 和泉 史郎(いずみ しろう)
和泉史郎
もう1人の主人公。
幼馴染みの千絵梨とグレースを亡くした事により人生に希望が持てない状態で青春を過ごしていたが、アソシメイト・サクラとして、再会した千絵梨達とのコミュニケーションを通じて、本来の自分を取り戻していく。
サクラのマスターとなる。










003 アソシメイト・ぶどう(グレース右脳)
アソシメイト・ぶどう
幼い頃、史郎に好かれていた少女。
千絵梨と共に死亡したと思われていたが、アソシメイト・プロジェクトによりアソシメイト・ぶどうとして再び生を得る。
ぶどうはグレースの右脳を元に作られている。
左脳を元にしているアソシメイト・マスカットとセットになった時、その本来の力を取り戻す。
何を考えているか解らない不思議ちゃんキャラだが、そのポテンシャルは想像を絶する程高い。







004 アソシメイト・マスカット(グレース左脳)
アソシメイト・マスカット
幼い頃、史郎に好かれていた少女。
千絵梨と共に死亡したと思われていたが、アソシメイト・プロジェクトによりアソシメイト・マスカットとして再び生を得る。
マスカットはグレースの左脳を元に作られている。
右脳を元にしているアソシメイト・ぶどうとセットになった時、その本来の力を取り戻す。
何を考えているか解らない不思議ちゃんキャラだが、そのポテンシャルは想像を絶する程高い。








005 アソシメイト・ミカン
アソシメイト・ミカン
絶対王者ピーチを含む三強に対抗出来る候補として、選ばれた19体のアソシメイトの1体。
その19体を19星(じゅくせい)と呼び、彼女はその筆頭候補でもある。
サクラがマスターを持っているのをうらやましがり、史郎にアプローチを仕掛ける。
一悶着があった後、史郎の事を気に入り本気でアプローチをするようになる。
今回、正式に、史郎とマスター契約を結んだ。








006 アソシメイト・アンズ
アソシメイト・アンズ
史郎とマスター契約を結んだ19星(じゅくせい)のアソシメイト。
決勝トーナメント出場128名の中に選ばれるも1回戦で敗退という残念な結果に終わる。














007 アソシメイト・レタス
アソシメイト・レタス
史郎とマスター契約を結んだアソシメイト。
決勝トーナメント出場128名の中に選ばれる萌1回戦で敗退という残念な結果に終わる。














008 アソシメイト・カリフラワー
アソシメイト・カリフラワー
史郎とマスター契約を結んだ小柄なアソシメイト。
実力的には5名中では一番劣るが、頑張りをみせて、今回決勝トーナメント2回戦も勝ち抜く。














009 アソシメイト・ピーチ(ピーチちゃん)
アソシメイト・ピーチ
アソシメイト・プロジェクトの大会での絶対王者。
三年間、負け無し。
彼女を含めたトップ3のアソシメイトに敵うアソシメイトが他に無かったため、彼女達に勝てるアソシメイトを作るべく、研究を1からやり直し次世代アソシメイトとして、さくら達が誕生した。
19星(じゅくせい)の台頭に対し真っ向から受けて立つ。。









010 機内 陸郎(きない ろくろう)
機内陸郎
絶対王者アソシメイト・ピーチのマスター。
セクハラ大王でもある。
剛胆な性格で何事にも動じない。
相手の実力を見抜く力量がある。











010 アソシメイト・パンプキン
アソシメイト・パンプキン
ナンバー3の実力を持つアソシメイト。
マンゴーとピーチ以外には負けた事がない。














011 アソシメイト・マンゴー
アソシメイト・マンゴー
ナンバー2の実力を持つアソシメイト。
ピーチ以外には負けた事がない。














012 山城 次郎(やましろ じろう)
山城次郎
アソシメイト・ぶどうの為に彼女の仮のマスターとして派遣されてきた天才ケアマネージャー。
彼がぶどうにサポートする事により、彼女は万年ビリからトップを脅かす脅威の存在へと変貌を遂げることになる。











013 アソシメイト・ゴーヤ
アソシメイト・ゴーヤ
決勝トーナメント1回戦でさくらと激突したアソシメイト。
策をろうするタイプのくせ者だったが、今回はそれが発揮される事はなかった。













014 アソシメイト・リンゴ
アソシメイト・リンゴ
予選最終ランクがミカンと同率の8位という成績で決勝トーナメントに参加したアソシメイト。
2回戦でイチゴと激突し、善戦するもおしくも敗退する。













015 アソシメイト・イチゴ
アソシメイト・イチゴ
予選最終ランクが7位という成績で決勝トーナメントに参加したアソシメイト。
ロリータタイプで、普段は幼い体型だが、ここぞという時はムチムチプリンな体型に変身することが出来る。