第一話 アソシメイト

1 三角関係? 史郎(しろう)と千絵梨(ちえり)とグレースと

10年前…

「ねぇ、千絵梨(ちえり)ちゃん、千絵梨ちゃんは誰が好きなの?」
「千絵梨はねー…史郎(しろう)ちゃんが好きー!大好きなのー」
「じゃあ、史郎ちゃんは誰が好きなの?」
「ぼ、僕は…ぐ、グレースちゃん…」
「グレースちゃんは誰なの?」
「千絵梨ちゃんが好き」
「うーん、困ったわね〜…こういうのも三角関係っていうのかしら…」
 古鬱(ふるうつ)先生は困っていた。
 彼女は幼稚園の先生であり、バスで園児達の送り迎えをしている屋妻(やさい)さんに相談されていた。
 相談とは園児達が誰の席の隣に座るのかという事だった。
 みんな誰の席の隣が良いのかでもめていた。
 そんな中の三人が史郎と千絵梨とグレースだった。
さくら001話01 
 千絵梨は史郎の事が好き。
 史郎はグレースの事が好き。
 グレースは千絵梨の事が好き。
 という見事な三角関係になっていた。
 三人とも好きな子の隣に座りたいと言っていたのだ。

 三人は幼馴染み。
 いつも仲良く三人で遊んでいた。
 だから、二人という区分けは我慢が出来なかった。
 結局、バスは三人とも別々の席に乗ってということで納得してもらっていた。

 そんな三人の仲も長くは続かなかった…。
 幼稚園バスが暴走トラックの事故に巻き込まれたのだ。
 左側の席に座っていた史郎は無事だったが、右側の席に座っていた千絵梨とグレースは帰らぬ人となった。

「これは酷い…脳以外は殆ど損傷が激しい状態だ…」
「この子もだ…不憫だな…」
「この子達の両親との契約に基づき、これよりアソシメイト処理を開始する…」
「はい…」

それより10年の時が流れる…


2 大きくなった史郎

 史郎はその後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされる事になるが徐々に回復し、なんとか、普通に生活を送れるようになった。

 ただ、ショックからか10年前の記憶がとんでいた。

 人を好きになる事も事故以来、経験していなかった。

「…という訳で、現在ではアソシメイトの実用化に向けて…って聞いてるのか和泉(いずみ)!和泉 史郎(いずみ しろう)、ぼーっとするなといつも言っているだろう」
「す、すみません…」
さくら001話02 史郎は今日も教師に怒られた。

 ぼーっとする事も多く、授業に集中出来ない日々が続いていた。

 生きている実感が湧かない…
 そんな気分だった。
 自分には何かが欠けている…そんなモヤモヤした日々を過ごしていた。
 自分を変えてくれる何かが欲しい…そんな想いを常に抱いていた。

「和泉の奴、また怒られてるよ」
「何考えていんだかわかんねぇ奴だからな」
 同級生達は史郎に対して陰口をたたくが聞こえてはいても気にする事は無かった。

 今日も一人、下校する…
 クラブ活動には何も入っていない…
 しいて言うなら帰宅部だった。
 友達と呼べるような友人は居ない…
 そんな人生だった…

 これまでは…

 この後、史郎の人生は一変することになる…

 アソシメイト達との出会いによって…


3 選ばれた史郎

 史郎はいつものようにてきとーに時間を潰しながら家に向かっていた。
 すぐに帰ると両親があれこれ詮索すると思っていたからだ。
 クラブ活動も天文部に入ったと嘘をついていた。
 
 今日もメイドカフェ、【フルーティー】の人気メイド、ピーチちゃんを覗きに寄った。
 人に恋する気持ちには、なかなかなれなかった史郎だが、ピーチちゃんは彼のお気に入りでもあった。
 ピーチちゃんの人間ばなれした美貌がそうさせるのか、大迫力のスタイルがそうさせるのかは解らなかったが…。

 だが、ピーチちゃんは高いので、お小遣いに限りのある史郎はいつもジュースを一杯頼んで、一般メイドさんを頼み、横目でチラチラと見るだけだった。

 今日も同じ事をする予定だった。
 だが、【フルーティー】はいつもと違っていた。
 お店に入って見るとメイドさんは一人しか居なかった。

 ピーチちゃんはいない…。
 見知らぬメイドさんが、ぽつんと立っていた。
さくら001話03
「ご、ごめんなさい…」
 史郎は入ってはいけない所に入ってしまったのだと思い、店を立ち去ろうとした。
 それをメイドさんが呼び止める。
「和泉 史郎君…よね?」
「え?…な、何で僕の名前を…」
「詳しくは後で話します。あなたは選ばれました。一緒に来て下さい」
「え?何?何を…」
「私の名前は畑(はたけ)と申します。こういう者です」
 史郎は畑と名乗ったメイドさんの名刺を受け取った。
 名刺にはこう書いてあった。

 アソシメイトプロジェクト研究員と…

 アソシメイト…授業でもやっていたような…
 だけど、史郎は授業をろくに聞いていないかった。
 だから、何のことだか解らなかった…。


4 アソシメイト プロジェクト

 訳もわからず、畑さんに連れ出された史郎は道中、アソシメイト プロジェクトについて簡単な説明を受けた。

 アソシメイトと呼ばれる女性型アンドロイドが現在、作られていて、実用化に向けて火星で様々な取り組みが行われていると言う事。
 【フルーティー】のメイド、ピーチちゃんは実は、アソシメイトであり、アソシメイト達の優劣を決める大会が毎年開かれており、そこで、三大会負け無しの絶対女王として君臨しているという事。
 そして、今年誕生したアソシメイトの中にピーチちゃん以来となる高い可能性を持ったアソシメイトが何体かいて、その内の1体が史郎をマスターにと指名したという事。
 アソシメイト達の人工知能は不幸にして命を失った女性達の脳がベースとなっていて、その思いが残ってしまう場合があるという事などだった。

 アソシエイト プロジェクトは生きたくても生きられなかった人に第二の人生を与えるという事と新しい、働き手を作るという事が融合した一大プロジェクト…そう説明された。

 史郎には伝え無かったが、10年前に亡くなった千絵梨とグレースの脳もこのプロジェクトで使われていた。

 史郎をマスターに指名したのは千絵梨の脳がベースとなっているアソシメイトだったのだ。

 史郎、千絵梨、グレース…止まっていた時間が再び動き出そうとしていた。
(これだ…自分を変えてくれるのはこれだ…)
 史郎はなんとなく、そう思った。

 全ては、アソシメイト プロジェクトの名の下に。
 史郎の青春が今始まろうとしていた。


5 はじめまして? 史郎さん、私、さくらです

 マスターとは…そのアソシメイトの専属のオーナーとなるという事である。
 マスターとなる条件はアソシメイトに認められる事のみである。
 マスター側に選択権は無い。
 あるのはマスターとなるのを拒む場合だけだ。
 とは言え、マスターになるという事はそのアソシメイトが稼ぎ出したギャラを共有するという事でもある。
 この条件を断る者などまず、いなかった。
 黙っていてもマスターには金が入ってくるのだ、断るいわれはない。
 とは言え、全てのアソシメイトがマスターを決める訳では無かった。
 アソシメイトにとってマスターは自分がアソシメイトになってしまった事への不安を癒してくれる心の支え、拠り所となる相手で無くてはならない…。
 なかなか、そう言う相手は見つからないのが現状だった。
 史郎のように選ばれる事は宝くじで当選するより低い確率だった。
 
 畑さんに案内された場所は刑務所の面会室を大きく派手にした感じの場所だった。
 透明の敷居ごしに向こう側にもスペースがあり、ドアも一つ存在した。
 史郎は敷居の前に設置されたソファに腰をかけるように促された。
「面会の時間です…」
 畑さんがそう言うと向こう側のドアがガチャっと開き、女の子が一人、入って来た。
さくら001話04 普通の女の子に見えるが、史郎を指名したアソシメイトだろう事は簡単に想像がついた。

(…可愛い…)
 史郎は直感でそう思った。
 長い髪、長髪の美少女が史郎の前に歩み寄ってきた。
「…史郎さん…ですね」
 美少女が、口を開いた。
 澄んだ綺麗な声だった。
「は、はい…史郎です…」
 史郎はドキドキしながら返事をした。
 女の子とまともに口をきいたのは記憶に無いが10年ぶりだった。
 女子への免疫が無い史郎は恥ずかしくなるくらいうろたえた様子だった。
「会いたかった…はじめまして、私、さくらです。さくらと言います」
 美少女は目に涙をためて微笑んだ。
(う、うわぁ…)
 史郎は自分の心臓の音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うくらいドッキンドッキン動いた。
「彼女がバランス・タイプ チェリー型のさくらよ。あなたを指名した…あなたとは運命の相手になるかもしれない女の子よ」
 畑さんがさくらの自己紹介に付け足した。


6 覚えてませんか?

「コミュニケーションも大事よ。しばらく二人きりにさせてあげるから適当に話てね」
 そう言うと畑さんは部屋を出て行った。
 この面会室ではアソシメイトとマスターが透明の敷居ごしに話し合い、カップルが成立したら、透明の敷居が取れて史郎は晴れてさくらのマスターとなることを認めてもらえる事になっていた。

その事も事前に聞かされていたので、史郎は何かをしゃべろうとしたが、いかんせん、女の子とろくに話した事もない彼は何をしゃべって良いのか全くわからなかった。

「あの、その…えーと…」
「はい…」
「だから、その、つまり、その…」
「はい…」
「いや、だから、…あー、えー…」
「はい…」
 史郎は何か言わなくてはと必死になるが言葉が出てこない。
 時間だけが、無情に過ぎていく…
 これでは、マスターになるなんて土台、無理な話だった。
「………」
「………」
 沈黙がしばらく続く。
 さくらの方は史郎が話しかけるのを待っていたようだが、史郎の方は何かをしなくてはと気ばかり焦っていた。
 やがて、史郎の方からは話にくいと悟ったのかさくらの方から話かけてくれた。
「…覚えてませんか…?」
「え?…」
 覚えてませんか…
 さくらは確かにそう言った。
 さくらは千絵梨の脳がベースになっている。
 どこかで、自分の事を覚えていて欲しいという気持ちがあったのだ。

 だが、ベースが千絵梨の脳というだけで、姿形、仕草、言葉使いなど、全部変わってしまっている…。
 覚えていろという方が無理な話である。
 でも史郎は…
「…雰囲気が少し…」
 と言った。
 史郎にとってはどこかで会った事がある…そんなデジャビュにも似た感覚を持っていたのも確かであった。
 さくらにとってはそんな台詞は口裏を合わせた言葉とも取れるのだが、それでも「覚えていない」と言われるより数倍嬉しかった。
 その後、史郎は言葉を紬だそうと必死になったが、それでも適当な言葉が見つからず、醜態をさらし続けた。
 そのまま、面会時間が終了し、史郎は軽くお辞儀をして、肩を落として、踵を返して部屋を立ち去ろうとした。

 ゴゴゴゴゴゴ…

 その時、大きな音がして、透明の敷居が地面に潜っていった。
 透明の敷居を動かすスイッチはさくらの手にあったのだ。
 さくらは、史郎をマスターと認めた。
 不器用な人…
 でも一緒にやっていきたい…
 そう思ったからだ。
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
 さくらは三つ指をついて挨拶をした。


7 現在のトップ3とこれからの候補達…

 さくらと共にアソシメイトのトップを目指す事になった史郎は畑さんから現在のトップ3と呼ばれる三強を映像で紹介された。

 bPは絶対女王、三大会連続優勝の目下負け無しの王者、ピーチだった。
 メイドカフェ【フルーティー】でも絶対的なエース(bP)だったが、大会でも同じだったようだ。

 ピーチのライバルとされているのがbQのマンゴーとbRのパンプキンだと言う。
 この二体もピーチにこそ敵わないものの、他のアソシメイト達を大きく凌駕する実力の持ち主達だと言う。
 三大会とも終始、この三強での優勝争いだったという。
 それでは、面白味が半減するとして、更なる研究が続けられ、今年は新たなる強者となりそうなアソシメイト達が何体も誕生した。
 映像は無かったが口頭で説明を受けた。
 その中でも特に高いポテンシャルを持っているとされていたのが、ぶどうとさくらの二体だった。
 だが、残念ながら、二体ともテスト期間では思うような成績は上げられなかったという。
 不思議ちゃんタイプのぶどうは調整期間では思うような結果が出ないのは仕方ないにしても、バランスタイプのさくらの成績が振るわなかったのは何か別の要因が有るように思われた。
 そこで、検査をした結果、人工知能がマスターを求めていることが解ったのだ。
 それによって史郎が選ばれてたのだ。
 通常、成績を残していないアソシメイトにマスターをつける事が出来ない。
 高い可能性を持っているさくらだから、認められた特例だった。

 とは、言え、成績を振るわなかったさくらは現在、注目はされていなかった。
 さくらやぶどうの変わりに次世代の女王候補として注目されている者達は19星(じゅくせい)と呼ばれる19体のアソシメイト達であった。
 どのアソシメイトも独自の得意技を持つ強者達のようだった。
 これから、さくらと二人三脚で打ち負かして行かなければならない相手だと思った。
 ただ、畑さんは…
「さくらの最大のライバルになるのはぶどうよ…多分ね…」
 とつぶやいた。
 史郎は成績を振るわなかったぶどうがライバルという事は期待されていないのかとちょっと残念に思った。
 でも、畑さんはさくらを期待はずれとは決して思っていなかった。


8 アソシメイト セロリ

 史郎はさくらと畑さんと一緒に施設内を見学して回った。
 色んなアソシメイト達が日々、鍛錬を積んでいるようだった。
 そんな中、スタッフともめ事を起こしているアソシメイトに出くわした。
 どうやら、一方のアソシメイトが相手のアソシメイトに対し、過剰攻撃をしかけたようだった。
 被害者のアソシメイトはメンテナンス室に運ばれて行った。
 命に別状はないようだが、危険行為には違いなかった。
 畑さんは加害者アソシメイトに注意をする。
さくら001話05 「アソシメイト セロリ、また、貴女なの?練習中の過剰攻撃は禁止されているはずだけど」
「ふん、あいつは私を侮辱した。だから、ちょっとお仕置きしてやっただけさ」
「また、貴女は…19星に選ばれなかったのは貴女の素行にも問題があるのよ」
「実力じゃ、決して、私は19星の奴らにだって劣ってない!それをあの女は…」
「わかったから…確かに19星には選ばれなくてもそれと同等の力を持つアソシメイトは何体もいるわ。あなたもその内の一体よ…だけど、19星に選んだ基準というものがあるのも確かなの。それをクリアした19体が19星として選ばれただけ」
「だったら…」
「いいこと、19星に選ばれる事がトップになるという事じゃない…。ただ、トップ3の牙城を崩すかも知れない候補としてそう呼ばれているだけなの。19星以外にもトップを脅かす存在はいる…それじゃ満足出来ないの?」
「ちっ、解ったわよ…」
 アソシメイト セロリは畑さんに説得されて去っていった。
 それをポカンと見ていた史郎に畑さんは声をかける。
「ごめんなさいね。アソシメイトと言っても女性としての心もあるのよ。女が集まるともめ事も…ね」
 「ね」と言われても女性の気持ちについては殆ど解らない史郎はただ、そうなのかと納得するしかなかった。
 19星以外にも今年誕生したアソシメイト達には猛者が隠れていそうな事だけは予想がついた。
 正に、アソシメイト達にとっては群雄割拠の時代といった感じだった。
 その迫力に史郎は圧倒されそうだった。
 見た目が、か弱い女の子であるさくらが戦わなくてはいけない相手のレベルの高さに史郎はたじたじだった。


9 不思議なアソシメイト、ぶどう

 しばらく歩くと何かに気付いたさくらは口を開いた。
「史郎さん、畑さん、少し待っていてもらえますか?」
「どうかした?…あぁ、なるほどね、行ってきなさい。紹介してあげて…」
 畑さんは納得した感じだった。
 少し待つとさくらは一体のアソシメイトを連れてやって来た。
さくら001話06 ドキン…
 史郎の胸が高鳴る…
 さくらと会った時と同じ感覚がした…
 顔が真っ赤になる…。
「史郎さん、紹介します。私と同期のアソシメイト、ぶどうです」
 さくらがぶどうと紹介したアソシメイトは史郎にとってまた、会ったことがあるような感覚を与えてくれた。
 ぶどうの元になった脳は史郎の幼馴染み、グレースだった。
 史郎の初恋の相手の右脳が彼女の元(ベース)になっていた。
 ドキドキがおさまらなかった。
 ぶどうはグレースの雰囲気を持っていた。
「うっく…」
 史郎は涙を流した。
 自分に欠けていた二つのピースが揃った。
 その気持ちがこみ上げて頬を伝ったのだった。
「史郎さん、大丈夫ですか?」
「ご、ゴメン、…つい…」
「ぶーちゃん、この人が私のマスター、史郎さんよ」
「えー…じゃあ、ぶどうのマスターは?」
「ゴメンね、なってあげられないの…」
「ぶぅー…」
 ぶどうはすねた。
 どうやら、さくらにマスターになってもらいたかったみたいだ。
 アソシメイトをマスターに等聞いたことがない。
 もしそうなったら前代未聞だった。
 幼馴染みとしての感覚がよみがえる。
 さくら(千絵梨)は史郎の事が、史郎はぶどう(グレース)の事がぶどう(グレース)はさくら(千絵梨)の事が気になった。
 奇妙な三角関係が復活した。
「ぶどうにはマスカットというアソシメイトがいるけど、現在、調整中なの。また、機会があったら紹介するわね」
 畑さんが追加説明をした。
 マスカットはグレースの左脳が使われているため、ぶどうとセットとして考えられていた。
 マスカットのいないぶどうはアソシメイトとしては半人前という事になるのだ。
 畑さんはこのぶどうとマスカットのコンビにかなり期待しているようだった。


10 機内 陸郎(きない ろくろう)

 ぶどうはまだ、調整中だったため、史郎達とはまた、別れた。
 史郎達はさらに奥のフロアへと進む。
 すると、女の園であるこの施設には不釣り合いな男の姿が見えた。
さくら001話07 「がっはははっはぁ〜こりゃたまらんのぅ〜」
「やめろ、変態ジジィ」
「良いではないか、減るもんじゃなし〜」
「減るわ!私達の価値が下がるわ、このすけべ!!」
「しょうがあるまい、お主達がまるで触ってくれと言わんばかりのムチムチプリンな身体をしとるんだからのぅ〜これで触るなというのが無理な話じゃわぃ〜」
「ふざけんな!」
「ワシに触られるという事は名誉な事だと思え、なぁ〜」
 …どうやらセクハラをしてまわっているようだ…
「…陸郎さん、また、ですか…。彼女を呼びますよ…」
「おぉ、スマン、スマン、ちょっと遊んどっただけだ。気にするでない」
「アソシメイト達が気にすると言っているんです。彼女達あっての貴方なのですよ。そこの所、忘れないでいただきたいですわ」
「堅いことを言うでないわ、ほれ、お主にも触ってやるからのぅ」
「ちょっ、やめて下さい。訴えますよ!」
「…軽いジョークだと言うに…相変わらず冗談が通じんなぁ〜。そんなんでは、嫁のもらい手が…」
「余計なお世話です!」
 どうやら、この男性も畑さんと知り合いらしい…。
「…あの…ど、どちら…?」
 史郎は畑さんにまた訪ねた。
「…彼の名前は機内 陸郎(きない ろくろう)と言います。絶対女王、ピーチのマスターです」
「えっ?」
 史郎はビックリした。
 まさか、自分以外にもマスターがいるとは思わなかったからだ。
 史郎とは似ても似つかない剛胆な男…陸郎はそんなタイプだった。
「よろしくな、坊主、ワシは男もいける口でのぅ…」
 史郎の背筋に悪寒が走る。
 彼にそっちの趣味はない…
「がっははは、冗談だ、気にするな。こっちの相談なら遠慮無く申せ。可能な限り相談に乗るぞ」
 小指を立てて陸郎は叫んだ。
 近くにいるんだから、そんな大声でも…と思った。
「現在、貴方方二人以外にも数人のマスターがいます」
 畑さんはこう付け足した。
 知らなかった…
 史郎はてっきりマスターは自分だけだと思っていた…。


11 その夜

 いろいろあったが、その日は帰ってそのまま寝る事にした。
 ただ…
「お邪魔します…」
「どどど、どうぞ…ななな、何もないですけど…」
 さくらが着いてきた…。
 史郎の両親は既に事情を察しているらしく何も言わなかった。
 自分の知らない所で話が進んでいる?
 そんな感じだった。
 既に、さくらとは公認の仲という事になっていた。
 母の…
「千絵梨ちゃん、お久しぶり。元気だった?さぁ、上がって上がって」
 には参ってしまった。
 何処まで事情を知っているのだろう…。

 史郎はアソシメイトとの契約のために親元を離れなくてはならない事を神妙な面持ちで伝えたが、両親の反応は…
「よし、わかった。うらやましい奴だな。父さんが代わりたいくらいだよ。いてて、母さん、冗談だよ、冗談、つねらないで…とにかく、史郎、頑張ってこい」
「あんたに子供はまだ早いから避妊はするのよ」
 と割とあっさりしていた。
 自宅に着く前に一大決心をしていたのに、拍子抜けしてしまった。
 少なくとも十年間は会えなくなるのに寂しくないのかな?
 とちょっと悲しくなってしまった。
 その夜は寂しさを少しでも埋めようと、両親とさくらと史郎、4人で遅くまで話して過ごした。


12 いざ火星へ…って、え?そんなにあっさり?

 いざ、アソシメイト達の活躍する火星へ…
 と言っても簡単な事ではない…
 それなりの宇宙生活での訓練なども必要だし、それなりに準備もある…

 と、思っていた…。

「え?…それで、終わりで…すか?」
「はい、そうなります」
 史郎は面食らってしまった。
 彼の目の前には自動転送装置なるものがぽつんと設置されてるドームだった。
 そこに足を踏み入れると一気に火星までジャンプするらしい。
 そんなSFチックなものが目の前にある…
 つまり、帰ろうと思えばいつでも地球に帰れたのだ。
 両親が別れの場にあっさりとしていたのはこれを知っていたからだろう。
 とは言え、にわかには信じがたい話だった。

 しかも、火星は既に地球型の環境に星ごと、テラフォーミングされており、地球と全然変わりないという。
 しいて違いを言うならアソシメイトの実験施設がメインのために、施設や建物などは地球と比べて圧倒的に少ないという事だろうか。

 今までは、三強のアソシメイト達の対戦だけが火星で行われていたらしい。
 今回、三強以外にも今までのアソシメイトのレベルを遙かに凌駕するアソシメイト達が登場したこともあって、本拠地を火星に移す事になったのだ。

 今までのアソシメイト達はメイド用アソシメイトとして地球に残り、三強とさくらも含めたルーキー達がこの火星に移り住む事になった。
 もちろん、さくらに認められた史郎を含む、マスター達もである。

 今の所、他のマスターの姿は見えない。
 まぁ、あれだけあっさり行き来出来るのだ。
 みんな一緒に来る必要は無いだろう…。
 とにかく、心の準備もろくに整わないままに、史郎の火星生活が始まった。


13 火星生活 アソシメイトランキング

 史郎は火星の生活に慣れるためにさくらの案内で、あちこちを見て回った。
 その殆どが、アソシメイト関連施設だった。
 アソシメイトの実験のために火星に来ているのだからそれは当たり前の事なのだが、たくさんお金をかけているのがよくわかった。

 そのアソシメイトの施設の一つで訓練の成績などから決められたランキングが表示されているランキングボードには史郎も興味を惹かれた。
 それによると、現在、火星に来ているアソシメイトの数は343体で、1位から3位までは三強になっていた。
 これは実戦経験のある3体だから仕方ないだろう…
 問題は4位からである。
 4位から22位までの19体がおそらくアソシメイト セロリの言っていた19星という事になるのだろう…
 4位はアソシメイト ミカン…
 知らないアソシメイトだ。
 アソシメイト セロリは87位だった。
 随分、ランクが落ちるんだな…と思った。
 それで、さくらはというと…
 172位…
 全、アソシメイト中、真ん中の成績だった。
 そんなに落ちるのか…
 そう思った。
 ぶどうは…343位…ドベだった。

 畑さんはさくらにはピーチちゃんを倒せるかも知れないポテンシャルを秘めた逸材だと言っていた。
 そして、その最大のライバルとなりうるのがぶどうだとも…
 だが、このランキングを見る限りでは、本当にそうなのか?と思ってしまう…
 ぶどうは不思議ちゃんタイプでエンジンがかかりにくいと言っていたがさくらの成績が振るわないのは何故だろう?
 正直、お金を稼ぐという事に全く興味がない訳ではなかったが、それを別にしても、さくらとぶどうには一位を取って欲しかった。
 少なくとも、自分はさくらのマスターなのだから、何か力になれる事はないか…。
 そう、思った。
 さくらの心のケア…それが、史郎に与えられた役割なのだから…。
「ランキングを見られるのは、ちょっと、恥ずかしいですね。」
 さくらは照れくさそうにした。
 彼女にとって成績が思うように振るわない事が恥ずかしかったようだ。
「あ、あっち、行こうか…」
「そうですね。そうしましょう」
 史郎とさくらは別の場所に移動した。


14 火星生活 第三の女の子

 しばらくの間、史郎はさくらとのデートを楽しんだ。
 火星にはアソシメイトの心のケアをするための施設も存在する。
 そういう場所をまわると良いデートコースになっていた。

 日も暮れかかったので今日、止まるホテルのチェックインをすませようと思った。
 火星では様々なホテルが点在し、自由に泊まって良いことになっているのだ。
 同じ場所に住み続ける必要が無いということだ。
 旅行気分でホテルを転々としても良いという事になっているのだ。
「えーと、今晩はここにしようかな…」
「じゃあ、私、チェックインの準備をしてきますね」
「あ、お願いします。僕もいつか覚えるから…」
「気長に待ってます(笑)」
 そういうとさくらはホテルのチェックインに向かった。
 史郎はロビーで待機していた。
 待ち時間が何だかそわそわする。
 昨日は史郎の両親も一緒だったが、今日はさくらと二人っきりで泊まるのだ。

「ダァーリン!」
 不意に、声をかけられた。
 ダーリン?
 どういう意味だろう?
 史郎はそう思った。
「あの、…何か?」
 史郎は声をかけてきたアソシメイトに向かって話しかけた。
「合格!あなたにするわ」
さくら001話08 「は?」
 史郎はそのアソシメイトの言う事の意味が理解出来なかった。
「よろしくね、ダーリン!私、ミカン」
 ミカン?
 …確か、ランキングボードで4位だった…
 すると、この子が19星の一体…
 そう思っていると
「史郎さーん、チェックインすませて来ました〜」
 さくらが戻ってきた。
「さくらちゃんだっけ?この人、私に頂戴!」
 ミカンはさくらにこう告げた。
「み、ミカンさん…」
 さくらは緊張する。
 ミカンは不敵に笑った。


15 力の差 さくらVSミカン

「あの、どういう事ですか?」
 さくらはミカンに尋ねた。
「私もマスターが欲しいの!だけど、私にはこの人だって人がいない…だから、ここに来ているマスター達にある言葉を投げかけてみたの…」
「言っている意味がわかりません」
「他のマスター達は反応してくれなかったわ。でも、彼は返してくれた…」
 返したって【あの、…何か?】と言っただけなのだが、ミカンはそれを返事と受け取ったようだ。
「史郎さんは私のマスターです。他をあたって下さい」
「あら、アソシメイト条例には複数のアソシメイトのマスターになってはいけないとは書かれて無いわよ。私のマスターにしたって良いじゃない?」
「マスターになるという事はそんな簡単な事じゃありません」
「…心の拠り所でしょ?私だって欲しいわ。あなたが良くて私は駄目なの?」
「そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて、なんなの?」
「とにかく、駄目なものは駄目なんです」
「良いじゃない、私が彼をマスターにしたって…」
「駄目です」
「じゃあ、こうしましょう…私が勝ったら、彼をマスターにしても良いという事に」
「何でですか…」
「もちろん、ランキングの事もあるからハンデをあげるわ。私はここから動かない。使うのも右腕だけにするわ。それで、相手を転ばせた方が勝ち。それで良いわね?」
「何を勝手な事を…」
 さくらはミカンに突進して行った。
 口で言っても解らなさそうなので、手っ取り早く転ばせて諦めてもらおうとしたのである。
 だが…
「あらあら、腕一本も必要無かったわね。今のあなたなら指一本で十分のようね…」
「そ、そんな…」
 死角から突進したさくらを人差し指一本で押さえつけるミカン。
さくら001話09 力の差がこれほどあるとは正直、思っていなかった。
「もう、飽きたし、そろそろ転ばせて良いかしら?」
 余裕顔のミカン。
 さくらは悔しさに顔を歪ませる。
 ミカンはさくらの額をデコピンしてあっさりと吹き飛ばした。
 壁に向かって一直線に飛ばされるさくら…

 間一髪で、壁に激突するのを防いだのはぶどうだった。


16 力の差 ぶどうVSミカン

「さくちゃん…大丈夫?」
「あ、ありがと、ぶーちゃん…どうしてここに?」
「さくちゃんが危ないってゆー、匂いがしたの」
「匂い?」
「そう、匂い。ぷぅ〜んと匂ったよ〜」
「そ、それはちょっとショックかな…」
 助けに入ったぶどうは何を言っているか解らない。
 それが、不思議ちゃんと呼ばれる所以なのだろうが。
「あら、万年、ペケのぶどうさんじゃない…もうちょっとで転ばせられたのに、邪魔しないで下さる?それとも代わりにあなたがやるのかしら?」
「…やる…」
「…そう、じゃあ、あなたにはもっとハンデを…」
「…いらない…」
「…好意はもらっておいた方が良いと思うけど…いらないんなら仕方ないわね。じゃあ、ハンデ無しで行きましょうか」
「…行く」
 さくらに代わってぶどうがミカンと相撲を取る事になった。
 ミカンは万能型アソシメイト…
 パワーはグラマラスタイプに次いであった。
 単純な力比べでは不思議ちゃんタイプのぶどうに勝ち目は無い…
 だが…
「モード・アクトリス…タイプ・メロン!」
 ぶどうがそう言ったかと思うとぶどうの左頬にある飾りの一つの色が赤くなり、ぶどうのおっぱいが大きくなった。
さくら001話10 「な、何ですってぇーっ」
 ミカンは驚いた。
 ランキングで言えば5位にあたるグラマラス・タイプ、アソシメイト メロンのパワーを感じたからである。
 成績こそ、ミカンの方が上でも単純な力の勝負ではメロンには遠く及ばない。
 ぶどうはそのメロンのパワーを発揮していたからである。
 ミカンを片手で持ち上げて見せた。
 ぶどうは圧倒的な力の差をミカンに見せつけたのである。
「ぽいしちゃう…」
 ぶどうがそうつぶやいたかと思うとバランスを崩したミカンは地面に転びそうになる。

 だが、またしても邪魔が入り、決着はつかなかった。
 邪魔をしたのは史郎であった。
 史郎がミカンを抱きかかえていた。
「…もう、やめよう…こんな事、意味ないよ…」
 史郎は悲しい顔をした。


17 喧嘩両成敗 深まる絆

「…史郎さん…何で…」
 さくらは戸惑った。
 史郎がミカンを庇うとは思っていなかったので軽くショックを受けた。
「誰が勝ったか、負けたか何てどうでも良いよ。…マスターってのは、心の拠り所なんだろ?そういうんじゃないと思う」
 史郎は悲しかった。
 心の拠り所という部分を賭け事に使われた事が。
 誰が良いという問題ではない…
 喧嘩両成敗だと思った。
「史郎さん…」
「さくら、僕はアソシメイトの心のケアのためにここに来ている。確かに君には特別な想いを持っているけど、心の拠り所を求めている人を無下には断れない」
「……」
「ミカンさん、だったよね。君は本当に僕を求めているの?冗談で言って来たのなら僕はお断りだよ」
「…そうね…さっきまでは確かに本気じゃなかった…」
「…なら、残念だけど…」
「慌てないで、さっきまではよ。今は違う…本気で貴方が欲しい…貴方を下さい」
「えぇ?」
 史郎は戸惑った。
 彼の予定では喧嘩両成敗で無事諍いをおさめて解決…のはずだった。
 どうやら、ミカンは本気で史郎の事が好きになってしまったようだ。
「史郎さん、どういう事ですか?」
「いや、違う、さくら…こんなはずでは…」
 史郎はあたふたしはじめた。
 いまいち、決め台詞が決まらなかったようだ。
「知らない!!」
「ちょっと待ってよ、さくら、違うんだ…」
「ダーリン、そんな子ほっといて私といちゃいちゃしましょ!」
「いや、ちょっと待って…」
「待たない。早くぅ〜」
「ぶーちゃんいこ!」
「うん、さくちゃん…」
「ちょっと、さくらさん…?」
「知りません、その子とずっといちゃついてて下さい」
「ほらぁ、さくらもそう言ってる事だから…」
「待って、話がややこしく…」
 雨降って地固まる…
 史郎とさくら、ぶどうにミカンを加えた四角関係が生まれてしまった。


18 天才ケアマネージャー 次郎

 さくら達がホテルのロビーでもめていた頃、自動転送装置を通ってマスターが一人、降り立った。
 彼の名前は山城 次郎(やましろ じろう)といった。
 次郎を陸郎が出迎える
さくら001話11 「おぉ、ようやくお出ましか、天才ケアマネージャー殿」
「やめて下さいよ、陸郎さん。僕は患者を見に来ただけですから…」
「何を言う、お主の功績は大きい。アソシメイト達のレベルが跳ね上がったのはお主の働きがあったからだと聞いたぞ」
「僕はちょっと手助けしただけですよ。彼女達はそれに見事に答えてくれただけです」
「そういう事にしておくか。ところで、お主は誰のマスターになったんじゃ?」
「マスターというか、主治医みたいなものですかね?彼女は僕を求めてはいませんからね」
「ほぅ…」
「僕は、今、最下位にいるぶどうを見るつもりです。彼女は大化けしますよ。うかうかしているとピーチの王座も危ないと思いますよ」
「がっはっはっ、そーか、そーか。それはえらいことだのぅ。気をつけねばならんな〜」
「近いうちに、サポートアソシメイトのマスカットの調整もすみます。彼女は台風の目になります…」
「おぉ、それは、怖い、怖い」
「…個人的にはさくらのマスターになってみたかったですけどね。彼女も面白い才能の持ち主ですよ」
「ほほぅ…楽しみが増えそうじゃわぃ」
「えぇ、楽しみにしていて下さい。引っかき回してあげますよ」
「よぅゆーた。宣戦布告と受け取った」
「では、これで」
「おぅ、またな!」
 次郎はホテルのエントランスに消えていった。
 また一人、ライバルが登場した。
 

19 さくらという可能性

 ミカンは結局、史郎と一緒に泊まることはなかった。
 さくらが怒って別の部屋に泊まってしまったために、史郎はこれ以上さくらを怒らせないように、ミカンも遠ざけたからだ。
 ミカンは渋々、別の部屋でシャワーを浴びていた。

 渋々とは言え、ミカンも一人になって考え事をしたかったので、都合は良かった。
 考え事とはぶどうの…そして、さくらの事だった。
 さくらは、真ん中くらいの成績、ぶどうにいたっては最下位。
 二人がかりでも勝つ自信があった。

 だが、決着こそつかなかったもののぶどうの能力には驚かされた。
 あのまま、史郎が割って入らなかったらミカンは負けていただろう…。
 ぶどうには底知れない能力が隠されている事がはっきりとわかった。

 今まで、自分は王座にいるピーチにしか意識を集中してこなかったが、あのぶどうのポテンシャルはもしかしたらピーチ以上…そう思わせる何かがあった。
 そして、さくらだ…
 彼女と力比べをして思ったのだが、彼女は自分のパワーにどこかブレーキをかけているような感じがした。
 スピードにしてもそうだ。
 一瞬にして死角にまわったスピードはミカンの目では追えなかった。
 彼女もぶどうと同じようにパワーが空回りしている…
 そんな気がした。
 彼女も正常にパワーを発揮出来るようになったら、かなりの強敵になる…
 ミカンはそう感じていた。
 あまり、上ばかり見ていると下から足元を掬われるかも知れない…
 ミカンはそう、肝にめいじた。
 彼女に自覚は無いが、彼女もそれまであった傲慢さが消えて真摯に勝負に集中出来るようになった。
 彼女も成長したのだ。

 アソシメイト達は心の持ちようで力はいくらでも発揮出来る。
 心の強さがその能力の高さを左右するのだ。
「私は負けない!あの子達にも…」
 ミカンはそうつぶやいた。


20 さくら始動

「おぉ…」
「うそっ…」
 アソシメイト達が驚く。
 記録会で一項目とはいえ、ピーチの持つ記録を上回ったからだ。
 記録を出したのは…
「さくちゃん凄い…」
 さくらだった。
さくら001話12 昨晩、さくらは気持ちの浮き沈みが激しかった。
 史郎とのデートではまるで天にも昇るような気持ちを体感し、ミカンとの事では奈落の底に落ちるような気分も味わった。
 昨日一日で幸せな気持ち、悔しさ、落ち込みなど、感情がかなり大きく揺れ動いた。
 史郎との関係が揺れれば揺れる程、その力を発揮する…。
 それが、さくらの才能の一つだった。
 さくらはマスターを持つ事で初めて実力が発揮されるタイプのアソシメイトだったのだ。

「凄いよ、さくら」
「ありがとうございます、史郎さん…あっ、…怒ってるんですからね。昨日の事は…」
「…ゴメン。どうしたら良いかな?」
「史郎さんはどう思っているんですか?」
「確かに、ミカンさんの支えになることを断るのは悪いことだとは思うけど…だからと言ってさくらの気持ちも無視出来ないよ。君が、嫌だっていうなら、やっぱり断るよ」
「…別に良いですよ…」
「え?」
「史郎さんがその気になるのがちょっぴり悔しかっただけです。確かに支えになって欲しいと頼まれていて、断るのはちょっと可哀相ですね。だから、良いですよ、ミカンさんのマスターになっても」
「…でも…」
「でも、一番は私です。ミカンさんは二号さんです」
「ははは…」
 史郎は苦笑した。
「ちょっと、聞き捨てならないわよ!」
 ミカンが割って入ってきた。
「負けませんから…私」
 さくらはミカンに宣言する。
「…認めるわ…」
「…?何をです?」
「あなたを正式なライバルとしてよ。さくら、あなたには負けないわ」
「こっちこそ!」
 さくらとミカンはお互いを認め合った。

 アソシメイト さくらが始動する。

登場キャラクター説明

001 アソシメイト・サクラ(千絵梨(ちえり))

アソシメイト・サクラ 千絵梨(ちえり)の脳を元に作られたアソシメイト。
本編の主人公。
もう1人の主人公、史郎の事が幼い頃から好きだった。
アソシメイト・サクラとして生まれ変わってからは、彼をマスターに指名する。
アソシメイトとしては秘めたる力がある。
史郎とペアを組むことによりその真価は発揮される。









002 和泉 史郎(いずみ しろう)

和泉 史郎 もう1人の主人公。
幼馴染みの千絵梨とグレースを亡くした事により人生に希望が持てない状態で青春を過ごしていたが、アソシメイト・サクラとして、再会した千絵梨達とのコミュニケーションを通じて、本来の自分を取り戻していく。
サクラのマスターとなる。










003 アソシメイト・ぶどう(グレース)

アソシメイト・ぶどう 幼い頃、史郎に好かれていた少女。
千絵梨と共に死亡したと思われていたが、アソシメイト・プロジェクトによりアソシメイト・ぶどうとして再び生を得る。
ぶどうはグレースの右脳を元に作られている。
左脳を元にしているアソシメイト・マスカットとセットになった時、その本来の力を取り戻す。
何を考えているか解らない不思議ちゃんキャラだが、そのポテンシャルは想像を絶する程高い。








004 アソシメイト・ピーチ(ピーチちゃん)

アソシメイト・ピーチ アソシメイト・プロジェクトの大会での絶対王者。
三年間、負け無し。
彼女を含めたトップ3のアソシメイトに敵うアソシメイトが他に無かったため、彼女達に勝てるアソシメイトを作るべく、研究を1からやり直し次世代アソシメイトとして、サクラ達が誕生した。
普段はメイドカフェで働いていた。










005 畑(はたけ)さん

畑さん アソシメイト・プロジェクトの研究員。
史郎をアソシメイト・プロジェクトに導く女性。
アソシメイトの事にある程度精通している。
アソシメイトの体調管理を担当している。
サクラとぶどうの才能を信じている。











006 アソシメイト・セロリ

アソシメイト・セロリ 絶対王者、アソシメイト・ピーチを倒すために作られた次世代アソシメイトの一体。対ピーチ候補の19星(じゅくせい)に選ばれなかった事に不満を持っている。
19星に選ばれなくてもかなりの実力者である。
アソシメイトを1体、メンテナンス室送りにした。











007 機内 陸郎(きない ろくろう)

機内 陸郎 絶対王者アソシメイト・ピーチのマスター。
セクハラ大王でもある。
剛胆な性格で何事にも動じない。
相手の実力を見抜く力量がある。












008 アソシメイト・ミカン

アソシメイト・ミカン 絶対王者ピーチを含む三強に対抗出来る候補として、選ばれた19体のアソシメイトの1体。
その19体を19星(じゅくせい)と呼び、彼女はその筆頭候補でもある。
サクラがマスターを持っているのをうらやましがり、史郎にアプローチを仕掛ける。
一悶着があった後、史郎の事を気に入り本気でアプローチをするようになる。









009 山城 次郎(やましろ じろう)

山城 次郎 アソシメイト・ぶどうの為に彼女の仮のマスターとして派遣されてきた天才ケアマネージャー。
彼がぶどうにサポートする事により、彼女は万年ビリからトップを脅かす脅威の存在へと変貌を遂げることになる。