第003話 王杯大会編その3
01 居心地の悪い控室
怪物ファーブラ・フィクタとニナ・ルベルの暗躍も気になるが、吟侍は生き残るため、王杯大会エカテリーナ枠の本戦に集中しなくてはならなかった。
吟侍は本戦トーナメント第6試合でステラと当たる。
だが、ステラにばかり意識を集中している訳にもいかない。
勝てば再び対戦の抽選会が行われる以上、第1〜第5試合の勝者と次にぶつかるかもしれないのだ。
対戦相手のチェックという意味でも試合を観戦しなくてはならなかった。
控え室には吟侍とその心臓である7番の化獣(ばけもの)ルフォスと試合が気になるのかルフォスの世界の管理者、全能者オムニーアのウィンディスがいつものように見ている。
本戦の観戦からは予備戦で負けたソナタとフェンディナも来ていた。
「ちょっと、あんた、何で、吟侍の控え室に来ているのよ」
ソナタがフェンディナに対して、威嚇する。
「……私は……その……ちょっと、吟侍さんにお話が……」
ビクビクしながら、フェンディナが答える。
「今は本戦が始まっているのよ。吟侍をかき乱すような事はしないで欲しいわね」
「そんな……私はただ……」
戦闘能力は確実にフェンディナの方が上だが、気の強さでは逆だった。
『それはお前も同じ事だ』
ルフォスがつっこむ。
ここは、選手のための控え室。
基本的に敗退した選手が居て良い場所ではない。
「うっ……私は吟侍の保護者だから良いのよ」
苦しい言い訳をするソナタ。
「二人とも居て貰ってかまわねぇから、今は試合に集中させてくれ」
吟侍が場を静めようとする。
「フェンディナちゃん、私の事覚えている?私、ウィンディスお姉さんだよ」
我、関せずとばかりに、同じ全能者オムニーアであるフェンディナに話かけるウィンディス。
「あ、はい。姉からお噂は……」
おずおずと答えるフェンディナ。
「私はねぇ、あなたのおむつを替えたこともあるのよ」
「そ、そうなんですか?それは、お世話になりました」
『うるせぇ、黙って見てろ』
ルフォスが周りを黙らせる。
シーンとなる控え室。
だが、吟侍はわいわい騒いでいるのも、ちょっと嬉しかった。
今までの予備戦はルフォスやウィンディスは居たものの、基本的には一人で試合を観戦していた。
周りの環境がどんな動きがあるのか解らず、不安に思いながら見ていた。
だが、今は気の許せる相手、ソナタやフェンディナも一緒に試合観戦をしてくれている。
その安心感はあった。
仲良く出来るのであれば言うこと無いのだが、それはちょっと難しかったみたいだが、ソナタも穏やかな性格のフェンディナに対してはそれほど、強く言って来るという感じにはなりにくいだろう。
二人の事は二人に任せるとして、気になるトーナメント第1試合はいよいよ、最強の絶対者アブソルーター、エカテリーナ・シヌィルコが出てくる。
この王杯大会エカテリーナ枠の【エカテリーナ】とは彼女の名前を冠している。
この大会の代名詞と言っても良い。
その彼女の初戦の相手はやはり、以前、吟侍達も出会っている相手だ。
緑の女フテラ・ウラと同じく、自分をクアンスティータに次ぐbQだと言っていた女の一人、赤の女、カルン・ナーブだ。
フテラ・ウラと言い争っていただけあって恐らく、このカルン・ナーブもただ者ではないだろう。
2番の化獣フリーアローラをその子宮に宿すエカテリーナだが、その力だけで、この怪物と戦えるのかどうかは不安が残る。
エカテリーナにも是非、勝ち上がってもらいたいというのは吟侍の希望でもあった。
一緒にアピス・クアンスティータとの戦いを生き抜いた仲間でもあるのだから。
そのエカテリーナの初戦開始まで30分を切ったところで、新たなる火種が控室に入って来た。
「お客さん、本当に全部食べれるんですかぁ〜?」
少し間延びした声がしたかと思うと、カップラーメンを山盛り運んで来た女の子が二人入って来た。
その二人を見たソナタの目がキランと光り、吟侍をにらみつける。
「吟侍君、何かなぁ、この二人は?」
ソナタの知らない女がまた増えたので、彼女は警戒したのだ。
吟侍にまた変な虫がついたと。
「あぁ、そういやぁ、この二人とおそなちゃんは初対面か、えーと、アナスタシア城に行く前、一回おそなちゃん達と別行動したろ。そん時、出会ったんだよ。この二人、変なやつらに絡まれててさ」
と吟侍が説明した。
惑星ウェントスでならず者達に絡まれていた所を吟侍が助けたのだ。
助けた二人の内、一人は地球屋(ちきゅうや)という行商人で、吟侍の育ての親、ジョージ神父の弟子の末裔だと言う。
その少女はジョージ神父のファンだと言う事であり、吟侍の方はジョージ神父から地球の事を聞かされていたので、意気投合し、お互いに対して興味が沸いたという事だった。
助けてもらったお礼に、地球屋の少女、片倉 那遠(かたくら なえ)は1年間割引で地球の商品を提供してくれるという事になったのだ。
吟侍は試しに食べた駄菓子と焼き鳥を大変、気に入り、那遠のお得意様として利用させてもらう事にしたというのだ。
もう一人は調治士(ちょうちし)の少女レスティーだ。
本名ではないらしい。
お忍びの旅だったらしく本名は伏せているらしかった。
調治士とは化物などの超越者達の医者のようなものを言う。
患者に当たるのは患存者(かんそんしゃ)という。
超越的な力を持つ存在は体の作りが人間とは全く異なっているし、存在毎に様々なタイプが存在する。
つまり、通常の医者では超越者達の看病はできないのだ。
調治士は超越者達の身体の構造を調べ、それに見合った対処を行うものを言う。
普通の調治士は医者にとっての病院にあたる調治院(ちょうちいん)に勤めているのだが、たまに、レスティーのように流れの調治士も存在する。
レスティーには吟侍=ルフォスの専属の調治士になってもらったという。
今まではルフォスの世界の調整は全能者オムニーアのウィンディスに任せ、吟侍やルフォス本体の身体は自然治癒に任せるしかなかったが、専属医みたいな存在がついてくれるというのは大変ありがたい事でもあった。
だが、ソナタにとっては美少女二人が新たに吟侍の周りにひっついてくるのは内心穏やかという訳にはいかない。
「ずいぶん、綺麗な子達よね。下心あったんじゃないの?」
ソナタは吟侍に詰め寄る。
吟侍はタジタジだった。
「下心って、この二人、最初ゴリラと馬の被り物してたけど……」
と言い訳する。
「え?」
ソナタが那遠とレスティーの方を思わず見る。
「あ、だって、女の二人旅って危険だったから……」
レスティーが訳を説明する。
確かに美少女二人、旅をしていたら、狙ってくれと言っているようなものだ。
彼女達なりに、暴漢対策をとっていたのだろう。
「お客さんの彼女さんですか〜?」
那遠がソナタに尋ねる。
「え?そう見える?」
思わず頬を赤らめるソナタ。
「いやいや、違う、おいらの彼女のお姉さんだよ」
吟侍が訂正する。
わかってはいるが、そうあからさまに否定されるとソナタは面白くない。
「そうなんだ……」
レスティーが意味深なつぶやきをした。
「彼女さんは一緒に旅してないんですかぁ〜」
那遠がツッコむ。
吟侍は、
「いやぁ〜お花ちゃん……おいらの彼女、カノンっていうんだけど、おいらはお花ちゃんってよんでるんだけどな、お花ちゃんはおいらと一緒にいると具合悪くなっちまうから一緒には旅はしてないんだよ」
と言った。
「倦怠期なんだ?」
レスティーが良い男見つけたみたいな表情を浮かべる。
「倦怠期ってなんだ?」
吟侍は首をかしげる。
鈍い彼は気づいていないが、控室は女の探り合いが行われていた。
その微妙な空気に気づいているウィンディスは
「……ばか……」
とつぶやいた。
吟侍にとってはカノン一筋のつもりだろうが、カノンと一緒に旅ができていないという事は喧嘩中だと思われてもおかしくない状況なのだ。
別れるのも時間の問題と思われて、次の彼女の座を狙おうと良い男に飢えた女の子達を増やした事になったのだ。
その後、那遠とレスティーにソナタとフェンディナの紹介をしたが、控室内が何となくピリピリしているような感じがしたのだが、その原因については渦中の吟侍は全く理解していなかった。
「さぁ、食おうぜ、美味いんだこれが、あ、味噌とんこつのそれはおいらが食べて良いかな?」
吟侍は那遠とレスティーが運んで来た大量のカップラーメンを食べようと進める。
それを見ていたルフォスは、
『お前は相変わらず、女関係がダメだな……その内、刺し殺されるぞ、お前』
とつぶやいた。
「ん?なんか言ったか、ルフォス?」
『何でもねぇよ。お前はずっとそうやってろ』
「変な奴だな?」
『お前に言われたかねぇよ』
「お、そろそろ、始まるぜ」
吟侍は控室のモニターに注目した。
現在、控室には微妙な空気が漂っていた。
何となく居心地悪いな、とは思いつつ、吟侍はトーナメント第1試合に集中する事にした。
02 本戦トーナメント1回戦第1試合エカテリーナ・シヌィルコVSカルン・ナーブ
吟侍の控室のやりとりをよそに、本戦トーナメント第1試合、エカテリーナ・シヌィルコとカルン・ナーブの闘いが始まろうとしていた。
エカテリーナはアピス・クアンスティータとの敗戦の後、かなり鍛えたのであろうと言うのは雰囲気で解った。
まるで別人のような気配を身にまとっていた。
2番の化獣フリーアローラの他にも何かを隠し持っている。
そんな感じだ。
エカテリーナは思っている事がすぐに顔に出る。
だから、何となくそう思ったのだ。
それだけ、今の彼女は自信に満ちて見えた。
対するカルン・ナーブも只者ではない気配をまとっている。
赤い鬼女という印象の彼女も緑の女、フテラ・ウラのような秘密を持っているに違いなかった。
実力者同士の闘いが始まった。
最初は力比べだ。
がっちりとつかみ合い、力比べをする。
「ぐっ……な、なか……なかやるな!そりゃ!!」
力比べはカルン・ナーブの方に軍配が上がるが、力ではかなわないと判断したエカテリーナはカルン・ナーブを投げ飛ばした。
光速を軽く突破するようなスピードで遠くに吹っ飛ばされるカルン・ナーブだったが、すぐに、元の位置まで戻ってきた。
どうやらスピード、パワー共に桁違い――並大抵ではないようだ。
お互い、身体能力は惑星規模では収まりきらないようだ。
「力は私の方が上のようだな」
カルン・ナーブは早くも勝利を確信したような表情を浮かべる。
「ふん、馬鹿力だけはな」
エカテリーナも負けていない。
勝つのは自分だと信じて疑わない。
「じゃあ、こんなのはどうだ?」
カルン・ナーブは一瞬、消えたかと思うと、次の瞬間、どこから持ってきたのか惑星一つを持って来てそれをエカテリーナめがけて投げつける。
さっきの力比べの比ではない。
カルン・ナーブはまるで本気になっていなかったのだ。
「こざかしいわ」
エカテリーナは自身の子宮から2番の化獣フリーアローラを呼び出し、惑星そのものをとてつもなく大きな鏡の中に吸い込んで、別の角度から鏡を出し、吸い込んだ惑星をカルン・ナーブに投げ返す。
「ふんっ」
カルン・ナーブはそれをキャッチし、さらに投げ返す。
投げ返されたエカテリーナはまたさらに投げ返す。
惑星一つを使ったキャッチボールが始まった。
エカテリーナとカルン・ナーブの間をもの凄いスピードで、行ったり来たりしている内に惑星一つはどんどん超圧力により、圧縮され、元々は木星程の大きさだったものがハンドボール程の大きさになり、ブラックホール化した。
ブラックホールと化した元惑星をなおも投げ合う両者。
完全に人間技ではなかった。
どちらもとてつもないパワーの持ち主だった。
その内、飽きっぽいエカテリーナは鏡の中に吸い込み、吸収してキャッチボールは終了した。
「玉遊びは飽きたわ」
異能反転(いのうはんてん)──フリーアローラの異能力が発揮される。
この力、鏡に映された者は属性が反転する。
例えば、力自慢は、虚弱体質へと変換される。
が、その効果はなかった。
どうやら、能力浸透耐久度がフリーアローラの能力の能力浸透度を上回っているらしい。
カルン・ナーブは正に肉弾戦タイプ。
極端に高い体力、パワー、スピードに加え、能力浸透耐久度も並外れているため、能力による効果が効きにくいという体質の持ち主なのだ。
能力が効きにくいとなるとほとんどの場合、体力勝負となる。
完全な力押しタイプの怪物だ。
「どうした?こんなものなのか?」
勝ち誇るカルン・ナーブ。
「アローラ」
エカテリーナはフリーアローラに合図する。
ドレッサーを呼び出し、その中から無数の花びらが出てくる。
その花びらに書かれた名前を求めて【名無し】と呼ばれる強者達がエカテリーナの下僕となり、カルン・ナーブに攻撃を仕掛ける。
フリーアローラの勢力としての力だ。
だが、カルン・ナーブは力任せに【名無し】達をなぎ倒していった。
「弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱いぃ〜っ」
次々と瞬殺で【名無し】達を消し飛ばしていくカルン・ナーブ。
この光景はエカテリーナにとっては相当な恐怖に映るのでは?と思われたが、
「ふんっ、こんなものか……」
大して気にした風でもなかった。
やはり、エカテリーナは何かを隠し玉として持っているのだ。
「これで最後だぁ〜っ」
勢いづいた、カルン・ナーブがエカテリーナに迫る。
エカテリーナは、
「この無礼者がぁ!」
掛け声と共に、カルン・ナーブを殴り倒した。
「………」
沈黙するカルン・ナーブ。
「ふんっ、これで妾の勝ちじゃ」
勝ち名乗りを挙げるエカテリーナ。
審判がカルン・ナーブが気絶している事を確認。
エカテリーナの勝利が決まった。
目を覚ましたカルン・ナーブが
「な、何をしたんだ?」
と聞いた。
エカテリーナは、
「ふんっ、体力馬鹿の貴様ごときに、妾の切り札を使う必要はあるまいと思ったのでな。ついでに身につけた一回きりの使い捨ての力を使ったまでだ」
と言った。
アピス・クアンスティータに負けたのがよっぽど悔しかったのか、エカテリーナは様々な力を欲した。
それこそ、手あたり次第、何にでも手を出したのだ。
その中には今回の一回しか使えない力、【渾身超撃(こんしんちょうげき)】の様にあまり、役に立たない力も数多くあった。
【渾身超撃】とは、様々な存在が渾身の力を注ぎこんだ集約された一撃のエネルギーの事だった。
長い時をかけて貯めたもので、一回使ったら、それっきりという力なので、エカテリーナは正直、いらないと思っていたのだが、戦闘中、思い出したので、使って見たのだ。
「つ、使い捨ての力ごときに私は負けたのか……」
絶句するカルン・ナーブ。
「ふんっ、芸がないなりに、貴様はよく戦った。妾が少し苦戦したくらいだからな。自慢しても良いぞ。許す」
あくまでも高飛車なエカテリーナだった。
役者が違うとでも言いたげだった。
03 本戦トーナメント1回戦第2試合ツェーゾVS陸 海空
続く本戦トーナメント第2試合は吸収者マンジェ・ボワール族のツェーゾとフェンディナを倒した陸 海空との戦いだ。
どちらも予備戦を勝ち上がってきた選手だ。
ツェーゾは手あたり次第なんでも吸収し、自身のパワーとする厄介な相手。
対する海空はフェンディナ戦で見せた封印術は見事なものだった。
フェンディナクラスを封印出来るのだから、ツェーゾ辺りではまともに封印術を食らったら、ひとたまりもないだろう。
封印術のスペシャリスト、海空の攻撃をいかに交わし、海空を吸収するかがツェーゾの勝敗を左右するだろう。
封印か、吸収か。
どちらにしても一瞬の隙が勝敗を左右する気の抜けない闘いとなるだろう。
ツェーゾは前の試合でスグェーヨを一瞬にして飲み込んで勝利している。
決着は思ったよりも早いだろう。
勝負が開始され、ツェーゾは自身の吸収力を最大にして、海空を吸収しにかかった。
が、前の試合を見ていた海空はツェーゾが真っ先に勝負に出ると踏んでいたので、吸収能力に対して、最大限の注意を払っていた。
封印術を駆使して、ツェーゾの吸収能力を封印した。
吸収してくるとわかっていたので対処は取りやすかった。
吟侍であっても能力破壊という方法で、ツェーゾの吸収能力は叩くことができる。
海空の場合はそれが封印術だったというだけだ。
「なんだ?吸収できん」
うろたえるツェーゾ。
海空は、
「前の試合で見せた闘い方を今回もしてくるとはお粗末ですよ。対処して破ってくれと言っているようなものです。フェンディナさんに勝った身としては貴方に負けてあげる訳にはいきませんのでね」
と言った。
だが、ツェーゾも吸収能力だけで、この王杯大会エカテリーナ枠に参加した訳ではない。
ツェーゾは吸収した者の力も使えるのだ。
吸収能力であっさり決着をつけようと思ったのは相手である海空をなめていたに過ぎない。
スグェーヨを瞬殺できたので、海空もと思っていただけだ。
ツェーゾはスグェーヨをはじめとする、吸収した存在の力を使って攻撃を開始した。
だが、冷静に海空は一つ一つ、その力を封印していく。
ツェーゾに吸収された存在ごときの力では、海空は全く焦らなかった。
海空は封印術以外にも得意とする力がある。
それは、【存在履歴(そんざいりれき)の検索】だ。
海空は戦っている相手が今まで戦ってきた相手を感じ取ることが出来る。
戦って来た相手=吸収して来た相手であるツェーゾであれば、尚更わかりやすかった。
なので、ツェーゾがどの吸収した相手の力を出そうとしているのか手に取るように分かった。
これが、自身が考えて身に着けた力であれば、海空にはどうすることもできないが、ツェーゾが使っている力は吸収してきた相手の力そのものである。
ならば、ツェーゾ自身が対処して吸収してきた事に習い、海空もまた、同様の対処をしていけば、攻撃は交わせるというものだ。
例え、ツェーゾにあって、海空にない対処であれば、応用して、同じような対処の仕方に変更すれば済む話だった。
出す能力が全てはじかれ焦りだすツェーゾ。
彼は今回の闘いのために、1000種類以上の能力を吸収してきた。
だが、すでに、八割以上が海空に防がれていた。
「なぜだ、なぜだぁ〜」
攻撃をしながら、追い詰められるツェーゾ。
海空は、
「──もう、良いでしょう。これ以上は無意味。決着をつけさせていただきますよ」
と言って、フェンディナ戦では説明だけしかしていなかった来刀刃(らいとうじん)を取り出し、ツェーゾを突き刺す。
「う……ぐぇぇ……」
うめくツェーゾ。
「来刀刃は様々な刀身を召喚できる刀です。この刀身は貴方にはきついでしょう。負けを認めなさい」
敗北を促す海空。
「ま、参ったぁ」
素直に負けを認めるツェーゾ。
ツェーゾとて馬鹿ではない。
海空が実力を出さずに、戦っている事には気づいていた。
このまま戦っても海空には勝てないと判断し、敗北宣言をした。
こうして、第2試合は陸 海空が勝利を収めた。
04 本戦トーナメント1回戦第3試合テスタ・ファッチャVSフェアトラーク
トーナメント戦第3試合はテスタ・ファッチャとフェアトラークの闘いだ。
テスタ・ファッチャの方は吟侍は面識があった。
フテラ・ウラ、カルン・ナーブと共に、自分がクアンスティータに次ぐbQだと言っていた女、最後の一人だ。
その肌の色から【青の女】という印象がある。
フテラ・ウラもカルン・ナーブも只者ではなかった。
この2名と言い争っていたのだ、恐らくこのテスタ・ファッチャも只者ではないのだろう。
対するフェアトラークは見た事がない選手だった。
名前に(契約)という意味を持つこの選手の事は全く分からない。
だが、このエカテリーナ枠──力の差はそれぞれあるが、力の弱い者は一人たりとも参加していない。
このフェアトラークも恐らく何らかの力の持ち主なのだろう。
あれこれ考えている内に、試合は始まった。
テスタ・ファッチャは死の回収者と呼ばれる【ファイシャ】を先祖に持つ末裔だった。
【ファイシャ】は元々、死亡した存在の力を全て回収する力を持っていたが、神話の時代に怪物ファーブラ・フィクタによって、能力を弱体化させられたという。
それによって触れた者が死亡した場合、【ファイシャ】の力となるという様に、縮小された能力になったのだが、テスタ・ファッチャの場合は縮小された能力を進化させ、生者の状態から、触れた者の力を吸収出来る力を得ていた。
そういう意味では前の試合の吸収者マンジェ・ボワール族のツェーゾと似たタイプと言ってよかった。
この力もやはり、能力浸透耐久度がテスタ・ファッチャよりも上回れば防ぐ事は出来るだろう。
それでは、ツェーゾと同等という事でとてもクアンスティータに次ぐbQだとは言えない。
そう、このテスタ・ファッチャは第二のメイン能力と言える、別の力も持っていた。
【無限増殖(むげんぞうしょく)】だ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるじゃないが、テスタ・ファッチャは自身の細胞の素粒子分、一つが一つの身体であり、その素粒子分一つがテスタ・ファッチャ本体と同じ姿になれる。
なので、増殖できると言っても身体を構成している素粒子分だけなので、正確には無限とは言えないが、テスタ・ファッチャを構成している素粒子分全てと考えると傍目には無限に増殖すると思っても不思議ではなかった。
さらに、吟侍ほどではないが、彼のウィークポイントレシピの様に、別の要素同士を混ぜて、新たな属性を作る事も出来る。
正に、多彩な力を持っているのだ。
分裂を繰り返し、もの凄い数へと増殖するテスタ・ファッチャ。
勝負は、彼女の圧勝かと思われた。
が、フェアトラークはただ者ではなかった。
彼こそが、偽クアンスティータの放った刺客、bRを名乗るものだった。
bQを自称する青の女をつけねらう、恐怖のbR。
フェアトラークは、クアンスティータ・ファンクラブに所属する。
クアンスティータ・ファンクラブとは、クアンスティータを崇拝し、クアンスティータに挑もうとする者を処分する集団の事を言う。
クアンスティータはまだ、誕生はしていないが、誕生を望む存在は無数に存在しているのだ。
クアンスティータのファンクラブは大小含めて5千阿僧祇(あそうぎ)団体以上(阿僧祇=10の56乗)の団体が存在している。
その中の主要十団体のトップが公式の偽者クアンスティータとなっている。
それは、吟侍のあった蜂のアピス・クアンスティータや毒蛇のセプス・クアンスティータの事を指す。
フェアとラークは、その偽クアンスティータの配下として参加して来たという事になる。
今回、刺客として、参加したフェアトラークは多く、クアンスティータ・ファンクラブで使用されている存在超過割り当て/イグジスタンス・オーバー・アロットメントの手術を受けてきている。
クアンスティータと言えば、特徴の一つとして、複合生命体というのがある。
ファンクラブとしてはこれを真似しない手はないとして利用されているものでもあった。
これは、単独では力の弱い存在も、存在を他の存在とシェアする事により、自分で居られる時間は二名なら半分、三名なら1/3と減ってしまうが、その分、存在感を何倍にも何乗にも高められるというものだった。
つまり、自分でいられる時間を少なくすることで、力の密度を上げるというものだった。
これはクアンスティータの持つ特徴とは性質は全く異なるが(クアンスティータはそれぞれの身体が単独で動けるので、意味合いとしては正反対になる)、クアンスティータに少しでも近づきたいと思う存在にとっては無くてはならない方法となっていた。
これは個の尊厳を無くすことから基本的に違法とされているが、力の弱い女性、(時には力の弱い男性)に好まれて実行されてきていた事でもある。
神側としては取り締まりたいのだが、クアンスティータの名前に関するとなると二の足を踏んでしまってなかなか取り締まれずにいるという現状があった。
また、弱者だけではなく、強者にもこれを行う傾向が広まっていた。
フェアトラークはこの強者に当たる。
刺客として吟侍と戦うために、手術を受けてきたのだ。
フェアトラークは存在のシェアとして、3名の存在と身体を共有している。
4分の1しか自分ではいられないという状況になってしまっているが、その存在力は桁外れにアップしていた。
4名だから4倍だという事ではない。
もっと遥かにパワーを増していた。
「いくぞ、紛い物」
フェアトラークが攻撃態勢に入った。
「誰が紛い物よ」
テスタ・ファッチャは余裕で答える。
が、その余裕はすぐに消えた。
次の瞬間、自分の能力を忘れてしまったからだ。
自分がどんな能力の持ち主だか、わからなくなってしまった。
フェアトラークの能力──それは、相手の力を忘れさせるという力だった。
どんなに強い力を持っていようが、その使い方がわからなくなってしまっては使いようが無い。
忘れるという事への恐怖がテスタ・ファッチャを襲う。
「どうした?」
フェアトラークが聞く。
彼はテスタ・ファッチャに起きている状況が解っていて、あえて質問していた。
「解らない……私は誰だ?」
記憶喪失状態になるテスタ・ファッチャ。
「負けを認めるのなら教えてやる」
敗北を促すフェアトラーク。
不安に駆られたテスタ・ファッチャは、
「参った」
すんなりと負けを認めた。
これが、フェアトラークだけの力であったならば、能力浸透耐久度で勝るテスタ・ファッチャには一切、利かなかっただろう。
だが、フェアトラークは存在超過割り当て/イグジスタンス・オーバー・アロットメントの手術を通して、自身の能力に圧倒的な強制力を付随させた。
そのため、テスタ・ファッチャは、なすすべなく、自分を忘れ、その恐怖から敗北を認めたのだ。
フェアトラークは、
「俺は、クアンスティータ・ファンクラブの戦士、フェアトラーク。クアンスティータ様に害する者は誰であろうと許さない」
と叫んだ。
この宣言を見た者達のほとんどはクアンスティータなど、絵空事だ、何をとち狂った事をのたまわっているんだこの男はと思っている者達だったが、吟侍達、少数の存在は、この男が偽クアンスティータからの刺客だと理解した。
この男に勝たねば、偽クアンスティータに殺されると思ったのだ。
こうして、第3試合はフェアトラークが勝利した。
05 本戦トーナメント1回戦第4試合レズンデールVSスィヴシュギ
続くトーナメント一回戦第4試合は、レズンデールとスィヴシュギの闘いだ。
レズンデールは予備戦でレディーメーカーを破っている。
とは言っても、レディーメーカーは【トゥルースレス】と呼ばれる、生命体とは異なる異質な存在に疑似精神をインストールしようとして、自滅。
レズンデールはほとんど、【トゥルースレス】をアンインストールしただけなので、実力の程は解らなかった。
圧倒的な迫力だけは感じていたが、その力がどのようなものなのかは吟侍は解らなかった。
今回の闘いではそれが見られるだろう。
レズンデールの正体は宇宙外生命(うちゅうがいせいめい)だった。
宇宙外生命とはファーブラ・フィクタ星系において宇宙の外に存在するとされている高次元生命体の一つだった。
宇宙の法則とは別の法則で生きている生命体、それが宇宙外生命だ。
かなりの高次元的存在でもある。
通常の攻撃は無意味になる可能性がある存在でもあった。
どういう事かと言うと、例えば、炎による攻撃を受けたとする。
通常は熱さというダメージがあるが、この高次元的生命体には寒さという形でダメージが伝わるという事だ。
これはあくまでも解りやすく例えた例であるため、実際には全く別の形で受け止められる。
効果が通常通り伝わらない──それが、このレズンデールの特徴だった。
つまり、どんな効果になるのか探り探りで攻撃していかないと痛い目を見るのは攻撃している側となるという事だ。
対するスィヴシュギも只者ではない。
彼は封術館(ふうじゅつかん)というところに封印されていた存在だった。
封術館とはなんなのか──
それは、ファーブラ・フィクタ星系においてどこかにあるとされている建物の事を指していた。
イメージ的には美術館や博物館などの展覧物がおいてある場所で、そこに置かれているものは封印された存在達だ。
様々な理由で存在ごと動けない状態にされ、様々な物などに封じられているのだが、それらの存在が解放されるチャンスが一つだけある。
それが存在解放(そんざいかいほう/イグジスタンス リベレーション)カタログと呼ばれるものだった。
このカタログは、封術館に展示されている物が書いてある。
カタログ毎に書いてある物は違い、もしも、このカタログを手にした者がその展示物を気に入れば、絶対服従を条件に解放させる事が出来るとされている。
封術館の展示物からその存在を解放した者が死ぬと解放された者は再び、展示物に戻るため、解放者を殺す事は出来ない。
例え出来ても、戻るだけだ。
解放者と封じられている存在の出会いは相性が良ければ続くが、悪ければ成立しないという事になる。
スィヴシュギはその解放された存在である。
解放した者は客席で観戦しているウォンという男だった。
ウォンは高い金を支払って手に入れたスィヴシュギの力を見るために、この王杯大会エカテリーナ枠に出場させていた。
そして、スィヴシュギの力は身体の一部を切り離して相手に寄生させる力を持っていた。
例えば、血液、汗一つとっても意思を持たせ、対象となる相手の体内に潜り込ませ、体内から浸食する事も可能だった。
体内に侵入した汗が体内から爆発するという芸当も出来るのだ。
自身の血の一滴、汗一粒に至るまでが、全て、スィヴシュギの意思の元に動くという特異体質だ。
やはり、どちらも超危険な存在と言えるだろう。
闘いは稀に見る激戦となった。
どちらの戦闘力も強大かつ危険であるが、どちらも相手に対しての決定力に欠けていた。
全くの互角。
そう呼ぶにふさわしい闘いとなった。
そのすさまじい激闘を見ていた観客たちの多くはあまりの凄惨な闘いにモニター越しに気絶する者が続出。
それでも決着がつかず、7日7晩続いた闘いはついには、引き分けとなった。
激闘の凄まじさは超空洞ヴォイドの範囲を超え、ついに近くの超銀河団一つを壊滅状態にまでした。
急遽、大会委員会の方で協議がなされ、それまで、闘っていた超空洞ヴォイドよりもはるかに大きな超大型の超空洞ヴォイドに会場を移す事が検討された。
だが、闘いが再開される事はなかった。
スィヴシュギを解放したウォンが自分の手に余ると判断し、スィヴシュギを封術館に戻したのだ。
これによってレズンデールの勝利が確定した。
確定したが、どちらが勝ってもおかしくなかった。
この闘いで、闘いが長引けば、恐ろしい被害が出る事を実感したギャラリー達だった。
自分達がお祭り気分で見ている闘いはどれほど、凄まじい闘いなのかを実感したという事でもあった。
決着としては納得しにくいものとなったが、王杯大会史に残る、屈指の名勝負と言って良かった闘いとなった。
実力が近い者同士の闘いとはそれほど、なりにくい勝負だった。
滅多に、好勝負とはならない。
たいがい、どちらかの力がもう片方を圧倒する形で決着がつくからだ。
闘いの場所も移したという事もあり、大会もスケールアップしていく事になるのだった。
06 本戦トーナメント1回戦第5試合フテラ・ウラVS存在ビルディング タワー
続くトーナメント1回戦第5試合はフテラ・ウラと存在ビルディング、タワーとの戦いとなる。
フテラ・ウラは予備戦を勝ち上がって来た選手で、緑の女だ。
正体は太陽系並みの巨体という事で度肝を抜いた自称bQを名乗る女だ。
反転変換器(はんてんへんかんき)という厄介なものも持っている。
対するは、存在ビルディングと呼ばれるタワーだ。
実はこのタワーも超巨体の持ち主だった。
超巨大生命体VS超巨体生命体の闘いとなる。
見た目のインパクトは相当なものとなる。
超大迫力のバトルが予想される。
では、フテラ・ウラの対戦相手、タワーとはどのような存在なのか?
勢力を持つとされている存在は、化獣(ばけもの)が最も有名だが、他にも勢力という力を持つ存在は少なからず存在する。
ただ、勢力を持つ存在として化獣が有名すぎるだけなのだ。
その勢力を持つ存在の一つが、タワーだ。
見上げる程の巨体にいくつもの存在を住まわせている。
その住居兼大家となるのがタワーなのだ。
言ってみれば、もの凄く巨大なビルが生命体になっているようなものだった。
この大会へはタワーとして参加しているので、タワーに住みついている存在全てが、タワーの一部としてカウントされる。
タワーは自身の身体に10万を超える部屋を持っていて、その全てに住民を住まわせている。
もちろん、タワー自身が自らの戦力になり得る者だけを厳選して住まわせている。
巨大さでは、フテラ・ウラの方に軍配が上がるが、タワーには10万室以上に住む兵力もある。
もはや、1対1のバトルではなく、1対10万以上の大兵団による戦争のようなものであると考えられる。
大きすぎるくらいの超空洞ヴォイドで行われるため、余裕だと思われていた闘いだったが、それでも足りないくらいの激しいバトルになることが予想される。
いくら、屈指の巨体を誇るフテラ・ウラとは言え、10万以上の存在とたった1名で勝負するのは不利である事は誰の目にも明らかだった。
タワーの方は戦力強化を得意とする歌姫を多数在籍させていて、個々の戦闘能力が強化させていくのははっきり見えている。
また、−273.15度を絶対零度(ぜったいれいど)と言うが、存在自体を氷つかせる抹消されるような低温の事を超越絶対零度(ちょうえつぜったいれいど)と呼び、その力を使える者。
宇宙の端(果て)から反対側の宇宙の端(果て)まで熱気が届くことを超越絶対温度(ちょうえつぜったいおんど)という呼び方をしていて、その力を使える者。
歌姫は歌姫でも対象者を極限まで呪う呪歌姫(じゅかひめ)。
何でも食べてしまう存在、オールイーター族。
師主族(ししゅぞく)ラスティズムも使っていた稀法(きほう)を使える稀法術士(きほうじゅつし)。
何かを食べて変身を繰り返す、変化族(へんげぞく)。
反則とされる禁術ばかりを収集する禁術収集家(きんじゅつしゅうしゅうか)。
実体を持つ幻を無数に作り出せる特技の持ち主。
とてつもない化け物ばかりを飼っている化物コレクター。
相手を透かし見る力をもつ特別な眼鏡を持つ謎の男。
等々、只者ではない住民が山ほどいる。
これは、反則ではないのか?という意見も出るくらいの戦力だった。
だが、これが、反則であるのならば、勢力の力を持っている化獣を宿す、吟侍やエカテリーナ、フェンディナも反則という事になるので、それはありという事になっている。
個として収まっているならば、それは良しという事だ。
複数の存在になろうともそれが、個の存在としてまとまっているのであれば、7番の化獣ルフォスのルフォス・ワールド全ての力を使える吟侍が1選手として登録されているようにタワーもまた、1選手として認められる。
その事にフテラ・ウラも異存はない。
ようは勝てば良いのだ。
同じ様に自分こそがbQだと主張していたカルン・ナーブとテスタ・ファッチャはこの1回戦で敗退している。
フテラ・ウラとしては、何としても勝ち残りたかった。
彼女は切り札ともいうべき力を使う事を選択するのだった。
フテラ・ウラの切り札は【属性強制(ぞくせいきょうせい)】と言う力だった。
自身の身体を爆発させ、飛び散った肉片に触れた者はフテラ・ウラの属性となる。
つまり、フテラ・ウラの配下になるというものだった。
だが、一度身体を爆発させてしまえば、その大きさになるまではまた、反転変換器を使って栄養を吸収して大きくなっていくしかなくなる。
大きさという武器を捨てる事にもつながる行為なのだ。
なので、この力は最後の切り札として、もしものためにとっておく事にしていたのだ。
だが、贅沢を言っていられる状況ではなかった。
この力を使わねば、タワーの持つ勢力によって、彼女は攻め滅ぼされかねない状況に迫られていたからだ。
だが、この決意は正解だったようで、フテラ・ウラの肉片はかなりの広範囲に飛び散り、タワーの持っていた勢力の過半数が、フテラ・ウラに寝返った。
これにより、数に勝るフテラ・ウラ軍が辛くも勝利を収める事が出来たのだった。
フテラ・ウラにとって不幸中の幸いだったのは、寝返った、タワーの元勢力の中には、変換能力に長けた者が多数存在し、寝返った者達の栄養をフテラ・ウラに再注入させることができた。
さすがに、元の大きさとまではいかないまでも。元の大きさの3分2くらいの大きさくらいまでは回復できた。
タワーの大きさよりはずっと大きな体長を維持する事には成功したという事になる。
フテラ・ウラは栄養を吸い取った寝返った存在達はこのまま配下に加えても意味がないと判断し、属性を解除した。
解除された存在達にとっては力もなくなったので、タワーからも見捨てられる事になる。
本当に不幸だったのは寝返った者達なのかも知れなかった。
自分の意思で寝返った訳ではないのだが。
07 会いに来た女性
またしても、超空洞ヴォイドでの闘いはその範囲を大きく超えて被害を出した事になったので、大会実行委員会は再検討をして、現在ある超空洞ヴォイドではその範囲内で闘いを済ませる事が難しいと判断した。
この闘いを勝ち残る選手同士の闘いはもっと大規模になる事が予想されるため、超空洞ヴォイド同士を合わせてもっと大きな超空洞ヴォイドを作り出し、そこを新たなバトルスペースとする事が提案された。
超空洞ヴォイド同士を合わせると一口に言ってもそんなに簡単な事では済まない。
何しろ、超銀河団等を大移動させてしまうという事になるのだ。
そんなに簡単に出来ることではない。
では、どうするのか?
それは、惑星ファーブラ・フィクタの力を借りるというものだった。
クアンスティータの核があるとされている惑星ファーブラ・フィクタには信じられないくらい異常な力が確認されている。
クアンスティータの核をその子宮に宿したニナ・ルベルはそこから移動しているのだが、惑星ファーブラ・フィクタにはかなりのエネルギーが残っている。
周りの星であるテララやウェントスが破壊されても次の瞬間、元通りになり、より強固となったりしたのもその影響の一つだ。
強固になった星は以前の星であれば、破壊されていたような一撃も傷一つつかないようなレベルにまで強化されていたりしている。
この不可思議なエネルギーを何とか超空洞ヴォイドのある位置まで届けて、超銀河団を動かそうというのが発案された。
では、どうするのか?
それは偽クアンスティータの力を借りる事だった。
偽クアンスティータの1名、ノーヌム・メンダシウム・クアンスティータ/ウルペース・クアンスティータが突然、大会委員会本部に現れ、提案してきたのだ。
ウルペース・クアンスティータは狐の要素を持った偽クアンスティータだ。
偽クアンスティータと言えば、配下でもあるクアンスティータ・ファンクラブのフェアトラークが一回戦を勝ち上がっている。
今回の提案はその勝利に対するご祝儀代わりと言って良かった。
大会委員会は超空洞ヴォイド同士を合わせるなど馬鹿げていると最初は思っていたが、実際に、惑星ファーブラ・フィクタのエネルギーを送り込み、超銀河団が移動するのを確認するとただただ、驚いた。
あり得ない光景が目の前で起こっている。
超空洞ヴォイドと超空洞ヴォイド、さらにもう一つの超空洞ヴォイドが合わさり一つになろうとしている。
それによって、いくつもの超銀河団が大移動という現象が起きている。
大会本部から見てもかなりのスピードで移動しているように見えるのだ、実際に移動している超銀河団の移動スピードは光速ですら済まされないようなスピードでの移動をしている事がわかった。
それが、わかったが、ウルペース・クアンスティータの事を偽クアンスティータだと認識している者は大会本部の中にはいなかった。
ただ、親切な不思議な力を持つ獣人女性という認識で受け止められていた。
超銀河団を動かす力など、クアンスティータに関わる存在以外、あり得ない事など大会本部の者達のレベルで理解できるはずもなかった。
超巨大超空洞ビッグヴォイドが作られ、大会は再開される。
トーナメント戦第5試合までが終了したので、次は、いよいよ、吟侍とステラによる第6試合となる。
だが、超巨大超空洞ビッグヴォイドのスペースは空いたが、それを惑星ウェントスなどに伝える情報伝達準備の方が整っていない。
それは、偽クアンスティータがやる事ではなく、大会運営本部がする事だからだ。
そのため、第5試合と第6試合の間は数日空くことになった。
吟侍としては闘う前に次の対戦者であるステラに会いに行こうかどうか迷っていた。
闘う前に会うのはマナー違反ではないかと思ったからだ。
迷っていると吟侍とステラとの試合の後で、1回戦を闘う選手の1人が吟侍を尋ねて来た。
「芦柄 吟侍さんですよね?」
突然、声をかけられる吟侍。
「そうだけど、あんたは?」
誰だかわからないので、尋ねると、その選手は、
「私は、ディアマンテと言います。ファンです、吟侍さん」
と言った。
突然来て、自分のファンだと言われてもどう対処して良いのかわからない。
面識もないのにいきなりファンだと言われても困るのだった。
ディアマンテ──
彼女は未来から来た存在、新風ネオ・エスクのメンバーだった。
アリス達のレッド・フューチャー。
ステラのグリーン・フューチャー。
クアンスティータに壊滅状態にさせられ、過去に希望を託し、渡ってきた未来はもう一つある。
それが、ブルー・フューチャー。
ディアマンテの所属する未来だった。
琴太の助けに土の惑星テララに助っ人に行ってくれたアリス達も言っていた。
自分達レッド・フューチャー以外にもグリーン・フューチャーとブルー・フューチャーからも吟侍と接触するために過去の時代である今の時代に戦士たちが渡ってきていると。
そして、グリーン・フューチャーからはステラが吟侍に会うためにやってきていた。
そして、残る一つ、ブルー・フューチャーからは彼女が接触しにやってきたのだ。
だが、ディアマンテの印象はアリスやステラ達とは違っていた。
彼女達のようなどこか悲壮感を漂わせる雰囲気というものが感じられなかったのだ。
どちらかというと呑気な感じがした。
ディアマンテは吟侍のファンというだけあって、吟侍の事をよく知っていた。
彼が、今までやってきた偉業。
まだやっていなくて、この先やるであろう偉業も含めて、マニアではないかと思える程、彼女はペラペラとよくしゃべった。
憧れていた相手にようやく会えたという喜びでも表現したいのか、とにかく嬉しさをしきりにアピールした。
何事かと思って、控室から出て来たソナタ達も思わずあっけにとられるような勢いだった。
ソナタにとってはまた、変な虫が吟侍に近づいてきたと思って警戒を強めた。
そこへ、ステラもやって来た。
ステラは、
「ディアマンテさん、まずは、私よ」
と言った。
「解ってますよ、ステラさん。私はその次ですよね」
と返すディアマンテ。
微妙な空気が漂う吟侍の控室だった。
ステラもディアマンテも単独で、この今の時代に来た訳ではない。
それぞれの未来での同僚達はクアンスティータ誕生に備えて準備をしている。
2つの未来が動き出すと言う事はいよいよ、クアンスティータ誕生の時が迫っている事も意味していた。
怪物ファーブラ・フィクタやニナ・ルベルという暗躍をしている存在もある。
また、別に偽クアンスティータ達の暗躍もまた気になるところだ。
全ては、クアンスティータという強大すぎる化獣を中心に動いているのだ。
1回戦の試合は後、吟侍VSステラの試合も含む3試合を残している。
それで、全選手がどのような選手なのかが解ることになる。
その後は2回戦が行われるが、そこからはすでに出た選手同士の闘いとなる。
その前にまた、抽選が行われ、闘う相手が決まる。
強いのは解っているので、誰と当たっても苦戦は確実になる可能性が高い。
波乱ばかりの王杯大会エカテリーナ枠の闘いはまだ、続く。
いろいろあったが、吟侍は次の対戦相手、ステラと勝負するため、超巨大超空洞ビッグヴォイドに設置された舞台に移動した。
いよいよ、ステラとの闘いが始まろうとしていた。
続く。
登場キャラクター説明
001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
敵からすると最も厄介な勇者である。
ウェントスでの救出チームに参加する。
しばらくソナタ達の成長を見守っていたがクアンスティータがらみで本気にならなくてはならない時が近づいて来ている。
002 ソナタ・リズム・メロディアス

ウェントス編のヒロインの一人。
吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
吟侍の事が好きだが隠している。
メロディアス王家の第六王女でもある。
王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。
力不足を指摘されていたが、ルフォスの世界のウィンディス、ガラバート・バラガの助力により極端な力を得ることになる。
第一段階として、女悪空魔(めあくま)マーシモの力の覚醒、第二段階として、全能者オムニーアの外宇宙へのアクセスという力を得ることになる。
003 ルフォス

吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。
ルフォス・ワールドには大物が隠れ住んでいる。
004 ウィンディス

元全能者オムニーア。
吟侍(ぎんじ)と契約し、ルフォスの世界で管理者になった。
ルフォスに依頼されて圧縮してあったロスト・ワールドという既に失われている世界の解凍作業をしている。
様々な知識を持つ知恵者でもある。
005 フェンディナ・マカフシギ

3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。
吟侍にティルウムス以外の何か秘密があると思われている。
潜在している力が覚醒すれば、偽クアンスティータよりも上回ると推測されている。
脳を支配している筈のティルウムスが、すぐ下の両方の瞳より下を異常に警戒している。
006 片倉 那遠(かたくら なえ)

地球屋(ちきゅうや)の少女。
絡まれているところを吟侍に救われ、吟侍を地球屋のお得意様とすることになる。
007 レスティー

調治士(ちょうちし)の少女。
調治士とは化獣(ばけもの)などの超越者達の医者のような存在を言う。
患者に当たる患存者(かんそんしゃ)の構造を調べ、治療するという仕事。
008 エカテリーナ・シヌィルコ

風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、アブソルーターの中では最強と呼ばれている。
戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。
王杯大会エカテリーナ枠は彼女のための大会であり、彼女のレベルに合った参加者だけが参加できる。
009 フリーアローラ

風の惑星ウェントスの絶対者アブソルーターのエカテリーナの子宮に宿っている女性型の化獣(ばけもの)。
鏡と花畑をイメージした力を持ち、一枚一枚名前を持った花びらを求めてやってくる名前の無い超怪物達を支配する力を持つ。
010 カルン・ナーブ

自称、クアンスティータに次ぐ第二の実力者を名乗っている女性。
赤色の肌をしている。
恐ろしい程高い能力浸透耐久度(のうりょくしんとうたいきゅうど)を持つパワーファイター。
011 陸 海空(りく かいくう)

吟侍達が冒険の途中で会った謎の僧侶風の男性。
王杯大会エカテリーナ枠に出場出来る程の技量を持ちながら、勘が鋭い筈の吟侍にすらその力を悟らせなかった程の実力者。
気さくな性格のようだが、実際にはどうなのかは不明。
別の場所では鬼と呼ばれていた。
自己封印(じこふういん)という自分に、かける封印を幾重にもしている。
それは、クアンスティータ対策でもある。
封印術を得意とする。
012 ツェーゾ

吸収者(きゅうしゅうしゃ)マンジェ・ボワール族の戦士。
何でも吸収して自身の力とする力の持ち主。
宇宙絶滅危惧種の一つ。
013 テスタ・ファッチャ

自称、クアンスティータに次ぐ第二の実力者を名乗っている女性。
青色の肌をしている。
死の回収者である【ファイシャ】の子孫であり、【無限増殖(むげんぞうしょく)】という力も隠し持っている実力者。
014 フェアトラーク

偽クアンスティータによる組織、クアンスティータ・ファンクラブのメンバー。
存在超過割り当て/イグジスタンス・オーバー・アロットメントの手術を受けている。
これは複数の存在をダブらせる事により、大きな力を得るというもの。
015 レズンデール

宇宙外生命(うちゅうがいせいめい)。
通常の攻撃は全く違った効果となって受け止められる。
そのため、通常の攻撃が通じない。
016 スィヴシュギ

存在解放(そんざいかいほう/イグジスタンス リベレーション)カタログによって解放された封術館(ふうじゅつかん)に封じられていた存在。
自身の血や汗の一滴に至るまで自由に操れる力を持っている。
017 ウォン

スィヴシュギを解放した男性。
怖くなり、スィヴシュギを再び封印する。
018 フテラ・ウラ

自称、クアンスティータに次ぐ第二の実力者を名乗っている女性。
しっぽが生えていて緑色の肌をしている。
太陽系程の巨体を隠し持っている。
019 タワー

存在ビルディングとされる巨体の持ち主。
自身の身体がマンションのようになっていて、様々な存在が済んでいる。
タワー自身が住まいであり、大家でもある。
タワーに住んでいる存在全てが彼の戦力として数えられる。
020 ディアマンテ

未来の世界の一つブルー・フューチャーから来た戦士で新風ネオ・エスクに所属する女性。
吟侍の大ファンであり彼のマニア。
16体もの怪物と同化している超戦士。
ブルー・フューチャー最強。