第001話


 序章 酒場での噂




 十三名のフィアリスが生まれいずる時
 凄惨な戦いの時代が幕を開ける
 一名のフィアリスが栄冠をつかみ、フィアエリスとなりし時
 やがて、世界に終末の刻印が刻まれるだろう


「おい、聞いたか?」
「何をだ?」
「隣町が消えたらしい――根こそぎやられたらしいぞ」
「またか――また、魔女神の生け贄にされたか」
「どうなってやがるんだ一体……世も末だな」
「違えねぇ」
「明日は来るんだろうか」
「明日も無事でいられる事を祈るよ」
 酒場では男達が世の中で起きている異変について話あっている。
 次々と町が消失する事件が起きていて、それらが全て、魔女神の生け贄にされたと言われている。
 世界を滅ぼすとされる悪女……
 誰もがそう思うのだが、男達はそれでも、魔女神に魅せられる。
 彼女達は皆、妖艶な下着姿のようなドレスで現れるからだ。

「どうせ死ぬなら魔女神に倅をお世話してもらってからくたばりてぇなぁ」
「そうだな、どいつもこいつも美人揃いだって言うしな」
「おれは赤のが良いな」
「俺は黒」
「ぼくはやっぱり白かな」
「はは、自分は金ですかな」
「あぁ、やりてぇ〜」
 男達は魔女神を酒の肴に盛り上がった。
 そうでもしないとやりきれなかったからだ。
 明日は我が身かも知れない。
 次の日には消えて無くなるかも知れないのだ。
 それを見かねた店のマスターが声をかけた。
「兄ちゃん達、こんな噂、聞いたことねぇか?」
「なんだ、マスター?」
「魔女神殺しの噂なんだが」
「あぁ、茶色の魔女神を倒したっていう、あの与太話の事か?」
「それが、どうも与太じゃねぇってことなんだが」
「うそこけよ、いくらなんでも、魔女神を相手に勝てる訳ねぇじゃねぇか?」
「そいつはわからねぇぞ、なんてったって、魔女神殺しには一人、魔女神がついてるって話だ――魔女神がいれば、同じ魔女神を殺せたとしても不思議じゃねぇだろ」
「確かにそうだが……」
 酒場の男達はマスターの話に興味がわいた。
 もし、それが本当なら、そいつは人類の救世主と言ってもいいからだ。

「おい、もったいぶらずに、話してくれよ、その魔女神殺しって奴の事を――」
「そうだな……」


 マスターは語り出す。
 魔女神殺しが茶色の魔女神を殺すまでの物語を……


「ちょっと待ってよ、リグレット君」
「着いて来るなって言ってるだろ。この魔女神が」
「まだ、魔女神じゃないもん。本当はフィアリスってゆーんだもん。それに、あたいにはシリスっていう立派な名前がちゃんとあるもん。しーちゃんって呼んでよ」
「うるさい、ついてくるな」
「あーん、待ってってばぁ〜」
 少し陰がある青年、リグレット・ギルティと彼についてまわる少女、シリス・パクッター――
 いずれ、リグレットは魔女神殺し、シリスは桃色の魔女神と呼ばれるようになる。


 そして、物語はこの二人が出会う所から始まる。




 第一章 リグレットととらわれのシリス




「聞いたぜ、リグレット、大丈夫か?お前、あんなに幸せそうだったのに……」
 リグレットの親友、サムが声をかけた。
 リグレットは元恋人、アエリスの裏切りにあい、全てを失ったばかりだった。

 家族、友人、知人は根こそぎ、アエリスが魔女神になるための生け贄とされ、彼女は紫の魔女神として再誕した。
 たまたま、旅行に行っていたサムだけが、無事だったらしい。

「ほっといてくれ、今は何も考えられない……俺はどうすれば良いのかわからない」
「無理もねぇな――あの女が魔女神だったとは思わなかったよ」
「夢も希望もない……俺はどうすれば良いんだ……」
「魔女神に受けた傷は魔女神で晴らしたらどうだ?隣町に、魔女神になり損ねた出来損ないがいるって話、聞いた事ねぇか?」
「知らねえよ、今は何も聞きたくない」
「まぁ聞けって――そいつは桃色の魔女神になるはずだったんだけどよぉ、今じゃ、茶色の魔女神にとっ捕まっているって話だ。茶色の魔女神にはかなわねぇだろうけどよ、桃色の魔女神モドキになら、俺達でも何とかなるんじゃねぇかと思ってよぉ、どうだ?一口乗らねぇか?」
「興味ない」
「そんな事いうなって、つれねぇなぁ――俺とお前の仲じゃねぇか、一緒に、ダチを皆殺しにされた憂さを晴らそうぜ」
 サムはしつこくリグレットを誘った。
 男気にあふれていた彼はこんなことを言うような男ではなかった。
 何が彼を変えてしまったのかリグレットにはわからない。
 だが、このまま、サムと居ても鬱陶しいだけなので外に出た。
 外は薄暗い天気、曇天だった。
 魔女神が誕生する度に、空はどんどん暗くなっていく。
 もう長いこと晴天というのを拝んでいない。
 魔女神が十三名揃う頃には暗闇が支配するようになるかも知れない。
 だから、世の中でもっとも売れているのは携帯型光源発生装置だという。
 人々は本能的に安心を得るため、光を求めていた。

「どうなっちまったんだ一体……」
 リグレットは天を仰ぐ。
 やりきれない気持ちでいっぱいだった。
 サムとあった事により、アエリスとの思い出が走馬灯のように思い出されていく。

 アエリスとは結婚を約束した仲だった。
 友に祝福され、婚約し、そう遠くない内に入籍するつもりだった。

 なのに──アエリスは婚約パーティーと称して、招いた仮装ホームパーティーの料理に遅行性の毒を混ぜて、全員、殺したのだ。
 その場にいた者全てが毒にもがき苦しむ中、彼女は紫色の下着姿になり、踊り狂い、儀式らしい事を行っていた。

 一方、彼女にサプライズのプレゼントとして、エンゲージリングを用意していたリグレットは自分の代わりに代役を立てて、パーティー会場の隅の箱の中でじっと出番を待っていた。
 物音が外に聞こえないように防音装置をつけていたため、状況が分からなかったが、いつまでたっても自分の入った箱が運ばれる様子がない。

 あまりにも遅いので、とうとう、箱の中から飛び出した彼が目にしたのは──

 ピクリとも動かぬ躯と化した参加者達の遺体から鉈で肝を取り出して食べているアエリスの姿だった。
 あまりに凄惨な状況で立ちすくむ彼に背を向け──
 百人目、リグレットの父親の肝を食べた終えた彼女が魔女神に生まれ変わっていく姿が彼の瞳に映し出された。
「うわぁあぁぁぁぁぁぁ……」
 絶叫するリグレット──

 終末論が叫ばれているこの世界において【魔女神になり、勝ち残った女だけがこの世の終わりから解放される】それを信じ、魔女神になろうとする女は後を絶たなかった。
 魔女神になるには百人の生贄の肝を食べる事と、魔女神となった時のランジェリー姿で踊る事が必要だった。
 すでになっている魔女神がしているランジェリーの色でやっても効果がない。
 別の色のランジェリーを選択する必要がある。
 そして、魔女神になれるのは十三人までとされていた。

 アエリスは紫のランジェリーを着て踊り、紫の魔女神となったのだ。
 紫の魔女神となった彼女がリグレットに発した言葉──
「ありがとう、リグレット……私、百人も知り合い居ないから──友達の多いあなたをパートナーに出来て幸せよ。もう、百人目の生贄を出せたから生贄はいらない……後は他の魔女神を倒すための私の使徒が欲しい……あなたは私の使徒として、生きてね」
 その言葉が、彼が今までとらわれていた愛という名の呪いから解放した。

 その瞬間、アエリスは彼のもっとも愛する者からもっとも憎むべき存在に変わった。
「あ、アエリスゥ……」
 自分が助かるために、他の人間の事をなんとも思わない悪女に憎悪の視線を向けた。
「どうしたの?一緒に世界を治めましょうよ」
 自分のしたことをまるで理解していないかのような彼女の視線との温度差は天と地程のひらきがあった。

 リグレットはそのまま怒りにまかせアエリスに攻撃を仕掛けた。
 アエリスの好意により紫の魔女神の加護を得た彼は超人的な力を発揮した。
 だが、それは紫の魔女神に向いた時点で無効化されてしまう。
 彼の攻撃は恐ろしいスピードで動き回り、アエリスに当たると跳ね返るという状態が続いた。
 リグレットは傷つきながらも攻撃の手を緩めない。

「あぁ、リグレット……愛しているのに……何故?、何故わかってくれないの……」
 アエリスの頬を涙が伝う。
 自分に対する憎しみを向ける男に歪んだ愛の気持ちを告白する。
 このままではリグレットが死んでしまうと考えたアエリスは彼を残し、その場を立ち去る事を選んだ。

「愛するリグレット──気持ちが変わったらいつでも私を呼んでね。あなたを愛している。一緒に人を殺しましょう」
 その言葉を残し、消えていった。
 後には愛憎入り交じった気持ちのリグレットだけが残され、生け贄の遺体は全て塵となって消えた。

 こうして、リグレットは紫の魔女神の加護を得ながら彼女を殺すための人生を選択した。

 目の敵は紫の魔女神──
 茶色や桃色の魔女神に用などない。

 立ちつくして考えていると
「おい、待てって」
 サムが追いかけてきた。
 彼はあくまでもリグレットを魔女神への憂さ晴らしに誘うつもりらしい。
「俺は、紫の魔女神以外に興味はない」
「だけどよぉ、お前、紫の魔女神の加護を得たままじゃ紫の魔女神は倒せないぜ」
「そんなことは解ってる」
「わかってねぇよ、まぁ、聞けって――桃色の魔女神をぶっ殺すのには訳があるんだよ」
「訳?」
「そう、訳だ。桃色の魔女神を殺した奴にはもれなく茶色の魔女神の加護が貰えるんだよ。茶色の魔女神の加護を得られれば、紫の魔女神を殺す事も不可能じゃない。どうだ、悪い話じゃないだろ?」
「………」
「それに、桃色の魔女神って奴は特殊な魔女神でな、自分の意志でなった魔女神じゃねぇんだ。娘を溺愛してた父親が桃色の魔女神にするために無理矢理喰わせたんだよ。九十九人分の胆を。――で、最後の一つとして、父親が自分の胆を差し出したんだけど、それを拒否して吐き出しちまって魔女神になりそこねたって奴なんだよ。バカだろぉ?後、一人分くらい喰っちまえば良いのに」
 サムはにたりと笑ってそう言った。

 ――そう言ったのだ。
「誰だ、お前?……サムじゃねぇな」
 リグレットはサムに対して思っていた違和感がはっきりと別人のものだと確信した。
「何言ってんだよリグレット、何処からどう見てもサム本人じゃねぇか。忘れたのか親友の顔を」
「顔や、口調なんかは真似られても言動がまるで違う。サムは間違っても、そんな事言う奴じゃない。そんな三文芝居で騙されるか」
「おいおい、これは確かにサムなんだよ。サムの記憶と身体なんだよ」
「サムの遺体を解放しろ。あの時のパーティーにはサムも呼んでたんだ。一人だけたまたま、旅行で留守だなんて事がある訳ないだろうが」
「バレちゃ仕方ねぇな――確かに俺はサムじゃねぇ。茶色の魔女神マリスに頼まれてお前をスカウトに来たロゴツキーってもんだ」
「趣味の悪い真似しやがって」
「おいおい、マリスはあんたのことかってんだぜ。知ってるだろ、魔女神に魔女神は殺せない――殺すには魔女神の使徒にやってもらうしかない。だからこそ、魔女神は優秀な使徒を求めている。あんたは評価されたんだ。主である魔女神に喰ってかかるその姿勢がな。どうだ、一口乗らねぇか。一緒に茶色の魔女神に仕えてみねぇか?マリスがオーケー出せば、マリスと寝ることだってできる。最高だろ?」
「――気が変わった」
「そうだろ?こんなおいしい話、乗らねぇ奴はいねぇよなぁ」
「勘違いするな、気が変わったってのは茶色の魔女神に仕える事にしたんじゃない――茶色の魔女神もぶっ殺す事に決めたって事だ」
 敵意をロゴツキーに向けるリグレット。

「おいおい、冗談でも、そんな事言うもんじゃねぇぜ」
 ロゴツキーは落ち着けという仕草で近づいてくる。
 ただし、背中から顔を出している触手はナイフを持っている。
 油断した所を斬りつけるつもりだった。

 ロゴツキーは元々、リグレットを仲間にするつもりはなかった。
 マリスに気に入られる彼の事をむしろ面白く思っていなかった。
 だから、勧誘するにはほど遠い、気分の悪くなる勧め方をしたのだ。

「それ以上近づけば斬る」
「おいおい、俺は、別に」
「姿形は真似られても滲み出る悪意は誤魔化せてないぜ」
「ふん、気付いていたか。大体、気にいらねぇんだよ。マリスに気に入られるなんざ。百年早いっての」
「嫉妬か。見苦しさでは魔女神とはお似合いだ。いっそそのまま一緒に消えてなくなれよ」
「お前はマリスに反逆の意志を示したとして、俺に殺される。そして、その分、俺の株は上がるって寸法だ。良いシナリオだろ?俺は脚本家にも向いているのかも知れねぇなぁ〜」
「どんな三流ドラマも貴様の筋書きよりいくらかマシだ。お前のシナリオなんて使ってくれるところなんざどこにもねぇよ」
「あぁ、殺してやる、殺してやるぞ」
「雑魚感丸出しのお前じゃ、俺はやれねぇよ。かかってこい。返り討ちにしてやる」
「ひゃはぁ〜死ぃ〜ねぇ〜」
 リグレットの挑発にキレたロゴツキーは飛び跳ね攻撃を仕掛けてくる。
 背中の触手がサムの遺体を食い破って本体が飛び出す。

 正体は、無数の触手がある翼の無い鳥の様な化け物だった。
 元々は、人間だったが、身も心も魔女神に売り渡し、本物の化け物になったのだ。
 リグレットは十字を切ったかと思うと、何処から取り出したのか紫色に光る剣を手にロゴツキーを一刀両断した。
「ぎぃぃぃぃぃぃ…」
 という断末魔と共にロゴツキーは茶色の土塊になった。

 リグレットは紫色の剣を出し――
 ロゴツキーは茶色の土塊になっていった。

 これはそれぞれの魔女神の加護を受けているという証でもあった。

 リグレットは紫の魔女神アエリスの、ロゴツキーは茶色の魔女神マリスの加護を受けているという事である。
 仮に、リグレットがマリスの加護も受けていたら紫と茶色の二種類の色の武器を出している事になる。
 紫の武器ではアエリスは斬れないが、茶色の武器ではアエリスを斬る事が出来る。
 加護によって使える武器の色が変わるため、色を見れば、どの魔女神の加護を受けているかが一目でわかるのだ。

 紫の魔女神を斬るには紫以外の魔女神の加護が必要となる。
 それは解っているのだが、魔女神と言えば、百人の生け贄の犠牲の上になっている存在だ。

 桃色の魔女神について言えば、自分の意志で胆を食べた訳ではないらしいが、それでも、百人が彼女のために命を落としている。
 とてもじゃないが、そんな禍々しい存在の加護を増やす気持ちにはなれないのだった。

 だが、この世界に魔女神の加護以外で、魔女神に対抗する力は存在しないというのも事実だった。
 魔女神を倒したいが、倒すには他の魔女神の加護がいる――

 そんな矛盾を孕みながらリグレットはかつて愛し、今、最も憎んでいるアエリスを倒そうと思っていた。

 リグレットは僅かに残ったサムの亡骸を埋葬して、茶色の魔女神マリスを目指すのだった。

 そして、それを確認する影が一つあり、そのまま消えた。
 それは、マリスの居城へと一瞬でワープした、
「ご苦労――どうだった?」
 マリスはその影に報告を求める。
 影はマリスの配下で加護を受けているサバイバールという魔物だった。

「はい、マリス様。あなた様のご推察通り、ロゴツキーは使い物になりませんでした。使いも満足に出来ていませんでした」
「そう――で、リグレットとか言う男の方はどうだ?」
「はい、予想通り、融通の利かない男のようで、仮に別の者が使いに行っても果たして、素直にマリス様のご加護を受けたかどうか……」
「魔女神自体を憎んでいるって事かしら?」
「恐らくは」
「どうしたものかしらね〜、魔女神を殺す意志は強ければ強い程、私にとっては最高の手駒になるけど、魔女神全てに敵意を持っているのなら、私に危害が加えられるという恐れもある」
「やはり記憶を操作するなどして」
「それだと、力が弱まる可能性があるわ。魔女神に対する殺意は天然に近いものの方が良いわ」
「それでは、始末しますか?使えないクズとは言え、マリス様の使徒を一体殺していますし」
「あんな役にも立たない使えないゴミがどうなろうと気にしてないわ。むしろ、掃除をしてもらって感謝しているくらいよ。何とか味方に引き入れる事は出来ないものかしらね〜」
「では、この様にされてはどうかと」
 サバイバールはマリスに耳打ちした。

「そうね――私はまだ、百二十五人しか生け贄にしていないし、増やす意味でも良いかも知れないわね」
「では、お支度をします」
「ふふふ……楽しみね」
 マリスは舌なめずりをした。

 魔女神になるには百人の生け贄の胆が必要だが、何も、百人丁度にする必要はない。
 生け贄の肝の数を増やせば魔女神としての潜在能力は上がるのだ。
 潜在能力が上になっても魔女神を魔女神は倒せないが、その使徒達への加護の力がアップする。
 つまり、その分、有利になるのだ。
 魔女神マリスは自身の生け贄を増やすために、人のふりをして、人の中に身を隠すことにした。

「そうそう、シリスが逃げない様にちゃんと見張ってるのよ」
「はい……解っております。殺せるようなら殺してもよろしいのですよね」
「えぇ、かまわないわ」
「こちらも楽しませていただきますよ」
「ほほほ…」
「ははは…」
 邪悪な二人の笑い声が響く。

 シリスとは桃色の魔女神の名前だった。
 捕まえたものの、なかなか倒せる隙を見せない彼女は牢に捕られていた。
 魔女神の使徒が魔女神を倒すと倒した魔女神の生け贄のカウントは倒した使徒の主の魔女神に移る。
 つまり、シリスを殺せば、シリスの生け贄の分のカウントが、そのままマリスに移るという事になるのだ。
 魔女神になれず、生け贄のカウントだけが蓄積されている彼女は魔女神にとってこれ以上ないおいしい獲物だった。
 労せず、九十九人分の生け贄が手に入るという事だ。

 そのため、マリスは自分の加護を受けた使徒の力で彼女を殺したかったのだが、シリスには切り札があった。
 彼女は、桃色の下着の上からストライプ柄のブラジャーと水玉のパンティーを重ね着している。
 それが、封印となって、カウントを失効させていた。

 そのまま彼女を殺してもシリスのカウントはマリスに加算されないのだ。
 下着はシリスの意志以外では外せない。
 そのため、力づくで捕らえる事は出来ても殺せないのだ。
 捕らえて彼女が自身の手で脱ぐのを待つしかない。
 下着の重ね着、それが彼女の最後の抵抗だった。




 第二章 マリスの勢力




「お兄さん、寄ってかない?サービスするよ」
「………」
「兄ちゃん、良い子揃っているよ」
「………」
「ちっ、何だい、愛想のねぇ、てめぇなんざもう誘わねぇよ」
「だったら、最初から誘うな」
「消えろ●●ポ野郎」
 立ち寄ったとある町では客引きの男と女がリグレットを勧誘してきた。
 が、相手にしないでそのまま立ち去った。

 こういう場合はいつもそうだ。
 荒みきっているこの世界では自分達だけ助かりたいと思う者が続出している。
 大方、さっきの客引きと女とはグルで、誘いに乗ってきた男の生き肝を女に喰わせて、魔女神にしようと考えているのだろう。
 何人分かは喰っているのかも知れないが、早々、百人以上もの生き肝なんて喰えない。
 だから、小分けにして、少しずつ、喰っていって魔女神に近づこうとしている。

 客引きの男は女の使徒になる約束でも取り付けているのだろう。
 もっとも、いざ、魔女神になれるとなったら、あんまり優秀そうに見えないあの男も裏切られて殺されるだろう事は容易に推測がつく。
 魔女神になる女というのはたいがいの場合、裏切りはお手の物だ。
 信じて仕えても飽きられて、ポイッと捨てられるかも知れないのだ。

 リグレットはその醜いやり口を見てきたからこそ、相手にするつもりは無かった。
 彼は解っている。
 そうやってせこくやっている女は決して魔女神にはなれない。
 途中で、正義感に燃える人間に見つかって、殺されるだろう。
 魔女神になる女はもっと大物の巨悪なんだ。
 あんな小物じゃない。

 リグレットはそのまま、その町を立ち去った。
 自分は正義の味方じゃない。
 だから、あの女に殺された人間の敵討ちなどする義理はないし、事情も知りたくない。

 俺が狙うのは茶色の魔女神と紫の魔女神だ。
 とりあえず、この二人は生かしておけない。
 かならず、おれの大切な人間達の敵を討ってやる。

 そう思うのだった。

 そして、この後、リグレットは情報屋カルロスと会った。
 ――情報屋、魔女神達に生かされた普通の人間達だ。

 魔女神達はそれぞれお互いを牽制し合っている。
 だから、敵の魔女神の情報が欲しい。
 だけど、そのままでは情報は手に入らない。
 そこで、魔女神達は共通して、手を出さない人間を決めている。
 魔女神通しの協定で取り決めた手を出さない、生存権を得た人間達、それが情報屋だ。

 彼らは、生きている限り魔女神に情報を流さなくてはならない。
 そのかわり、魔女神の情報を探る事を許可されている。

 そうやって、それぞれの魔女神に情報を流す事によって、生かされているのだ。
 情報屋は情報を探れなくなった時点でクビ、殺される事になる。
 だから、彼らは必死で、他の魔女神の情報を探し、それを流す。
 時には偽の情報もつかまされる。
 それを上手く裁いて、正確な、いや、正確に見える情報を魔女神に渡す事が生きていける理由だった。

 もちろん、情報屋達も何時までもこんな状況が続くとは思っていない。
 誰かが魔女神を倒してくれるなら、その者に情報を渡す事も厭わないのだ。
 だが、命が惜しくて、その可能性を持つ者を魔女神に売り渡す事もある。
 それが、情報屋という家業だった。

 カルロスもそんな中の一人だった。
 魔女神に仇なそうとしているリグレットに近づいて来て情報を提供しているのだ。

 リグレットは最初、彼を疑っていたが、最近、ようやく、少し、信じる気になったのだ。
 もちろん、百パーセント信じている訳ではないが。

「やあ、リグレット。聞きたい情報ってのは何だい?紫の魔女神の情報なら、あまり、提供できそうなネタは今のところないんだが……」
「……今は良い、それより、先に、茶色の魔女神だ。とりあえず、戦力が知りたい。これでどうだ?」
 リグレットは指二本を出した。
 情報と言ってもタダではない。
 情報料というものがかかる。
「それはちょっと安すぎるな。こいつといきたいところだが、奮発してこれでどうだ?」
 カルロスは四本から三本の指に替えて出した。
「……解った。それで良い。いつもの所で良いな?」
「……あぁ、頼むよ」
 リグレットはカルロスから情報を買った。

 得た情報――茶色の魔女神の戦力はこうだった。

 魔女神によって、勢力というのは様々な形態があるが、茶色の魔女神、マリスの場合は――

 上位、中位、下位などの区別はしていない。
 ただ、グループ分けはしていて【ホルン(角)】、【ファング(牙)】、【クラオエ(鉤爪)】という三グループが存在する。
 上下関係などはなく、ただグループ毎に研鑽を積んでいるため、同じグループ内でも力の強い者、弱い者等様々な存在がいる。
 また、グループ毎に一つずつ超兵器を所有している。

 三つのグループ以外にも有象無象の配下が居て、それらは【フェル(毛皮)】と呼ばれる。
 サムのふりをしてリグレットにちょっかいをかけて来たロゴツキーや、リグレットは知らないがサバイバールはこの【フェル】に属する。

 【フェル】の役割が情報の調整になっていて、カルロス達情報屋とも繋がりが深い。
 時には正しい情報を――時には偽情報を流す。
 情報屋はそれを見定めて、情報を欲する魔女神や魔女神を倒そうとしている者に新情報を流して行く。
 魔女神にはもちろん、無料で提供するが、全ての情報は渡さない。
 それだと用済みとして始末されてしまうからだ。
 情報を小出しに出して、生きながらえているのだ。

 また、リグレットの様な立場の者に情報を流す時は有料だ。
 有料がたまに無料になる時もあるが、その時は情報を得た者もそれに見合った情報を提供するか罠という事もあり得る。
 情報屋は常に疑心暗鬼な状態で生活しているのだ。
 身体に良い職業とは言えなかった。

 だからこそ、なるべく信頼を得られる人材を求める。
 その人間になら、情報屋が誠意を尽くして接している限り、裏切られる可能性は低いからだ。
 カルロスにとってその対象がリグレットだった。
 たまたま、知り合いの知り合いで、リグレットの人物像を理解していたという事もあるので、カルロスが裏切らない限り、リグレットの方から何かするという事はほぼ無いと判断していた。

 だから、カルロスが裏切るとしたら、せっぱ詰まった土壇場で、その後はリグレットとの接触は断たなくてはならない。
 そういう計算が働いていた。

 リグレットの方も、何となく、カルロスの人柄を信じるに足る理由があったため、ある程度、信用していた。

 カルロスには幼い娘がいるのだ。
 彼が裏切るとしたら、娘のためだろう。
 自分と娘の安全を守る為なら、危ない橋も渡るだろうし、八方美人を通して、色んな所と微妙な関係を続けていくという方法が今の所、最善の手段だと思っている。

 それに、カルロスだって思っている。
 魔女神を殺せるのなら殺して欲しいと――
 もう、こんな最悪な世の中はゴメンだと。
 リグレットにこの世界を変えて欲しいと。

 リグレットはそんなカルロスの事情も知っているので、彼の情報を信用する事にしている。
 最も、偽情報を流されているという可能性も無くは無いが、カルロスの情報は比較的正確という事で有名だ。
 ほぼ、正しい情報はあっていると見て良かった。
 隠れた勢力はいるかも知れないが、主戦力は三つ、【ホルン】、【ファング】、【クラオエ】という事で良いだろう。
 【フェル】については烏合の衆と考えて良いと判断した。
 他にも地図を含めた書類を手に入れた。

 リグレットはそれだけ、聞くと、そそくさと立ち去った。
 彼が情報屋と接触している所を見られる訳にはいかない。
 なるべく一緒にいない方が良いのだ。

 リグレットは町外れの三本の針葉樹から東に少し歩いた所にある何の変哲もない岩と岩の間に代金を置いて次の目的地に向かった。

 カルロスが後で代金を引き取りに来るだろう。

「さて、急ぐか」
 リグレットは手に入れた地図を元に、茶色の魔女神の支配地域を目指して歩き出した。




 第三章 マリスシティー




 リグレットはマリスシティに到着した。

 マリスシティ――

 名前の示す通り、茶色の魔女神、マリスの支配する城下町だ。
 色とりどりの町並みだが、中央にある、マリス城は茶色一色でかなり違和感があった。
 マリスシティは中央のマリス城を中心として、円を描くように町が建っていて、百二十度ずつ、三つのエリアに別れていた。
 現在、リグレットの居る場所はホルンエリア。
 名前の通り【ホルン】の管轄の場所だ。
 残り二カ所はファングエリアとクラオエエリアとなる。

 ホルンエリアは別名、女郎街と呼ばれ、たくさんの遊女が店を構えている。
 旅人である男が一晩の恋を求めて立ち寄る場所らしい。
 だが、実態は、遊女達が選別をしている。
 マリスへの新たなる生け贄のだ。
 遊女達はもちろん、【ホルン】、マリスの使徒の事でもある。

 魔女神と言えども、一度に食べられる肝の量には限度がある。
 グルメを気取っているマリスはより、鮮度の高く、生命力に満ちあふれた肝を求めていた。
 このエリアはその選別工場と言った所だろう。
 また、生け贄と言っても悪戯に食べていても使徒は増やせない。
 ファングエリアとクラオエエリアでは使徒となる者を育てている。

 だが、このやり方だと【ホルン】では強力な使徒が育たない。
 そこで、持ち回りでローテーションを組み、女郎街と使徒の育成エリアを順番に交代している。
 今は、ホルンエリアが遊郭担当ということになっている。

 次に、遊郭の仕組みについてだが、
 使徒達は性転換などお手の物だ。
 客が女だった場合はホストとなり、女を客として呼び込む。
 そこで見初められた女はマリスの加護を得て遊女となる。
 新たなる生け贄を求めて客を取っていくようになる。

 男の場合は使徒として、生まれ変わるか、マリスへの供物となるかを遊女によってより分けられる。
 戦闘力が高い資質を持っているようなら、使徒になる道もあるのだが、戦闘力が高い者は大体、精力もある。
 マリスに肝を提供されてその生涯を終える事になる。
 理想としては、精力が高いが戦闘力の低い者が供物となり、精力が低いが戦闘力の高い者が使徒となるのが一番だが、なかなか、そんな都合の良い者など現れない。
 たいがい、どちらでも良い者かどちらとしても使えない者かのどちらかだ。

 だから、判断は遊女達のさじ加減という事になる。
 大体、好みで決まるらしい。
 一緒にいたいと思われれば、使徒として、生き残る道が用意され、どうでもいいとされれば、供物にされる事になる。
 が、あまり、良い男過ぎると使徒にする時、何故、マリスへの供物にしないのだと言われてしまうので、良い男過ぎると逆に肝に回される事もある。

 と言った感じだ。
 だが、客として訪れる者はそんなに多くはない。
 客として入ったが最後、二度と外には出られないと解っていて来る者などいない。
 行くのは状況の解っていない者だけだ。
 だから、効率の良いやり方とは言えない状況だ。

 あまり、利口な魔女神ではないな……
 リグレットはそう判断した。

 リグレットが町に入ると各店が彼を誘って声をかけてくる。
 状況を知っていなければついフラフラと言ってしまいそうな甘美で色気のある声だ。

 しばし、考える。

 このマリスシティには桃色の魔女神モドキが捕まっているはず。
 魔女神二柱を同時に相手にするのは大変、危険だ。
 捕まえているマリスに味方をするとも思えないが、いつ裏切って、誰かを襲うかわからないのが魔女神だ。
 元々は、たくさんの人々の犠牲の上に魔女神となっているのだから。

 魔女神との戦いはこんな町など、すぐに破壊されてしまうだろう。
 だとしたら、桃色の魔女神が何時、解き放たれるかもわからない。
 なら、位置だけでも把握しておいた方が良い――
 それには、情報が居る。
 内部の情報に詳しい者の情報が――

 とにかく虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。
 客として、遊女の店に入り、情報を探ってみるか……

 見るとどの女も茶色のランジェリーを来ている。
 それが、マリスの管轄街という事なのだろうか。
 リグレットは適当な遊女を見つけて、その店へと足を踏み入れていった。

「お客さんの名前は何て言うのかしら?私を選んでくれて嬉しいわ。私、リエンっていうの。よろしくね、お客さんの顔、わりと好みよ、今日は楽しみましょ」
「……リグレットだ。楽しむ前に話がある、良いか?」
「寝物語としてあっちで聞くわぁ〜、さぁ、どうぞ、こっちへ」
「いや、先に聞きたい」
「んもう、いけずぅ。良いわ、ちょっとだけならお話しましょ。ジラすってのも嫌いじゃないわ」
 おそらく、関係を持とうとしたらその場で戦闘になるだろう。
 その前に聞ける情報はなるべく聞き出したかった。
 その為におしゃべりっぽそうな印象の遊女を選んだのだ。

「手間は取らせない。二、三、聞きたい事がある」
「何かしら?」
「この町に世にも珍しい女が居るって聞いて来たんだが、何でも魔女神になり損ねたとか言ってたっけな……」
 リグレットはとぼけて言った。
 とりあえず、マリスよりの考えの人間だと思わせないといけない。
「あら、妬けちゃうわね。あんなねんねがお好みなの?」
「ねんね?」
「ガキってことよ。小娘も良いところね。あれはまだ、男を知らないわね。あんなのがいいの?私なら、そういうシチュエーションでもやってあげるわよ。演技力の問題でしょ。あんなマグロ女より、断然、私の方が……」
「いや、そういう事じゃなくて、そのマヌケ面をちょっと拝んでみたいなと思ってさ」
「良いわね、後で案内してあげても良いわよ。――後でね」
 リエンはおそらく、リグレットを使徒にするつもりなのだろう。
 後でという事はそういう意味だと取れた。

 一人で確認に行きたいのだが、この女もついて来るつもりなのだろう。
「あぁ、そうか、それはありがたい。だけど、はぐれた時のために一応、場所だけ、聞いておいて良いか」
「……そうね、あの女は今、ファングエリアの中央動物園に居るわ。ワニと一緒に飼われてるわね。ふふ、今頃、ワニのエサになっているかも知れないわね」
「……なるほど……」
「嘘、冗談よ、腐っても、マリス様に近い力を持っている女だからね、ワニごときじゃ殺せない。いつでも始末出来る様に、隔離塔の地下に閉じこめてあるわ」
「……そうか」
「あんなブスの事より、早く楽しみましょうよぉ〜」

 リエンがリグレットに身体をすり寄せてくる。
「待て、後一つだけ、後、マリス……様はどちらに?」
 リグレットは最低限、マリスと桃色の魔女神の位置関係だけは把握しておきたかった。
「マリス様はねぇ〜かくれんぼしてるわ」
「かくれんぼ?」
「そう、なんでも殺し屋が来るかもしれないから、いつものかくれんぼしているわ。町の人間にとけ込んで、じっと獲物がかかるのを待っているの。もしかしたら私がそうかもねぇ〜……」

 リグレットはドキッとした。
 いきなり、マリスかも知れない相手と鉢合わせしたかも知れないからだ。

 殺るか。
 どうする?
 リグレットは考えた。

「だから冗談……ぐ……」
 また、話をはぐらかそうとしたリエンの口から刃物が出てきた。
 見ると、延髄の方から突き刺されている。

「ちっ……」
 舌打ちする。
 少なくとも後、一つ、超兵器というものがどのような物か知りたかったが、どうやら、敵さんは先刻承知だったらしい。

「おしゃべりさんには消えてもらわないとね」
 声が室内に響き渡る。
 室内で反響してしまっていて、どこから聞こえて来ているのかわからない。

「誰だ?」
 リグレットは誰とも無く、適当な方向に向かって叫んだ。
「誰だとはご挨拶ねぇ……初めまして。マリスと申します」
「俺が来るのは知ってたのか?」
「まぁね、使いを出したくらいだからね――使えないゴミだったけどね」
「あんたの趣味の悪い挑戦状を受けて来た」
「私は使徒となるように誘ってこいと言ったつもりだけどね。後はあのゴミが勝手にやったことよ」
「残念だったな。その使えない部下のお陰であんたは命を落とすんだ」
「部下だなんて思ってないわ。部下っていうのは私に有益な物を提供する者の事よ」
「まぁいい、出てこい。ブッ倒してやる」
「おしゃべりな雌豚が言ってたでしょ?かくれんぼ……しましょ。鬼はあなた。私を見つけてね」
「くそったれ」
「この町には普通の人間と私の使徒が一対九の割合いるわ。確かに九割は使徒だけど、一割は普通の人間……私もその中に混じっている。あなたに区別がつくかしら?」
「襲いかかって来た奴をブッ倒して行けば良いだけだ」
「私からは攻撃しないからそれだと永遠に会えないわね。それに催眠術でもかけて普通の人間にも攻撃をしてもらおうかしらね。どう?楽しい遊びでしょ。人を殺めた罪悪感に耐えられなくなったらいつでもおっしゃいな。私が快楽と共に、素晴らしい人殺しの世界に連れてってあげるから」
「くそ女が」
「――あぁ、そうそう、貴方に情報を提供した情報屋、トーマス、カルロス、リズ、クリスティンだったかしら、貴方に余計な情報を与えている恐れのある奴はみんな始末しておいた方が良さそうねぇ。私に取って、目障りな感じがするわ」
「てめぇ……」
「あはは、さあ、表に出て来なさいな、ゲームはスタートしたわ」

 マリスに言われるまでもなく、外に出るリグレット。
 町中の人間が敵。
 その内、一割は普通の人間だという。

 マリスはあえて、普通の人間も共に生活をさせていた。
 それは、この悪趣味なかくれんぼをするためだった。
 魔女神を倒そうという人間を誘い込んではこの町で配下になるか、死かを選ばせていたのだ。
 状況は最悪だがやるしかない。

 リグレットは屋根伝いに移動する事にした。
 使徒と普通の人間の大きな違いはその運動能力だ。
 普通の人間には簡単に移動できない手段で移動して、それについて来られた奴だけ始末すれば、それは、十中八九、使徒と見て良いだろう。

 だが、それだと、リグレットは悪戯に体力を減らしてしまう。
 それに、マリスは普通の人間に混じっているのだから、普通の道を歩いているはずだ。
 とにかく移動を繰り返しながら、マリスっぽい者を探すしかない。

 つまり、かなり分の悪い行動だった。
 だけど、やるしかない。

 幸い、マリスの部下に頭の回転の早そうな奴は見あたらない。
 アクロバティックな動きにそのままついてきては、リグレットに撃退されて行った。

 リグレットは紫光の炎を作り出し、使徒達を焼き払って行った。
 ――が、このままだとらちがあかない

 とりあえず、先に、桃色の魔女神モドキの姿を拝んでおくか。
 そう、思って、リエンの言っていた塔を目指す事にした。

 紫の光を最大限にあげて上空に閃光を見せた。
 それが目くらましとなり、リグレットは物陰に隠れる事に成功した。

「探しなさい、早く!」
 マリスの怒声が響き渡る。
 それをリグレットは確認する。

 リエンの居た部屋から鏡を割って持ってきていて、それをばらまいておいた。
 それを光の屈折を利用して、映像を転写させて、離れた位置から観察していたのだ。

 残念ながら、マリスの特定にはいたっていないが、パッと見た状況で居た人数と光の屈折による映像で見た人数を比較し、さらに、歩いていた方向からあり得ない者を除外し、怒声の響いた方向などから計算し、マリスと予想される人間は十人くらいにまでしぼれていた。

 後は、一人一人、確かめて行けばいい。
 だが、焦りは禁物だ。
 いきなり、調べて行くとマリスに警戒される恐れもある。
 やはり、一旦、桃色の魔女神モドキを探しに行って、後から、確認をしていけば怪しまれないと判断した。

 リグレットが下水道を通ってファングエリアに向かった頃――

「エリアを封鎖しなさい。急いで。そして、【マスケ】を用意なさい、早く!」
 マリスが指示を出す。
 【マスケ】とはマスク、仮面の事だ。
 ホルンエリアの超兵器でもある。

 どのような兵器かは今のところ謎のベールに包まれている。

 鬼のような形相となるマリス。
 自分の思い通りにならない事が面白くないのだ。

登場キャラクター紹介

001 リグレット・ギルティ
リグレット・ギルティ
 この物語の主人公。
 結婚した女、アエリスに両親を含む知り合い100人の胆を食べられるという過去を持つ。
 その後、紫の魔女神の加護を得るが、紫の魔女神アエリスを殺す為に行動する。
 その後、桃色の魔女神シリスと出会い、行動を共にするようになる。













002 アエリス・ギルティ(紫の魔女神)
紫の魔女神アエリス・ギルティ
 リグレットと結婚した女。
 が、それは、自分が紫の魔女神になるための罠だった。
 リグレットに対し、歪んだ愛情を持っている。















003 サム(ロゴツキー)
サム(ロゴツキー)
 リグレットの友人だった男。
 が、彼の骸は茶色の魔女神マリスの配下であるロゴツキーが乗っ取り、記憶と口調を真似たものだった。
 リグレットをマリスの配下に勧誘するが、この男にそのつもりはなかった。














004 マリス・フカキツミ(茶色の魔女神)
茶色の魔女神マリス・フカキツミ
 リグレットの才能に目をつけ、彼を自分の配下に勧誘する茶色の魔女神。
 が、彼の逆鱗に触れ、リグレットと敵対する事になる。
 自分の配下を手駒として考えていて、他の魔女神を殺すための道具として見ている。
 配下の事も信じ切る事が出来ないし、利口な魔女神とは言えなかった。













005 カルロス(マスター)
カルロス(マスター)
 情報屋として生計を立てていたバーのマスター。
 娘がいて、その娘の為に、危険な情報屋として仕事をしていた。
 その後、魔女神としては未熟なシリスを知り、魔女神に対するイメージを改め彼女を臨時のバイトとして雇うという事もしている。













006 シリス・パクッター(桃色の魔女神)
桃色の魔女神シリス・パクッター
 茶色の魔女神マリスに捕まっていた桃色の魔女神でこの物語のヒロイン。
 父親に無理矢理、100人の胆を食べさせられ、無理矢理魔女神にされたという過去を持つ。
 魔女神としては大変幼く、生娘で、下ネタ一つでも嫌な顔をする。
 ひょんな事からリグレットに助け出され、そのまま彼について行くことを決める。
 彼に桃色の加護を与える事になる。