第002話


第三章 水曜日の看板娘 瑠璃(るり)&玻璃(はり)




「るりちゃん、はりちゃんこんにちは」
「あ、いらっしゃいませハチロー様」
「おー、るりちゃん、今日もおしとやかだね」
「ありがとうございます。今日はどういったご用向きで?」
「あぁ、それなんだけど――」
「あ、ハチローのおっちゃん、いらっしゃい」
「やぁ、はりちゃん、今日も元気だねぇ」
「まぁね〜僕はいつでも元気だよ」
「そうか、それは良いね。実は君達にお願いがあってきたんだよ」
「お願い……ですか?」
「何なに?何のお願い?」
「私が蜂の巣山の主様の使いをしているのは知ってるよね」
「はい、知ってます」
「僕も知ってるよ」
「それで、主様なんだけど、今度の水曜日にお忍びで、でぇとをしたいらしいんだ」
「で、デートですか?」
「おー、すげー」
「でも、蜂の巣山はご存じの通り、主様が居て初めて成り立っている山なんだよ」
「そうですね」
「そうなのか?」
「そこで、君達のどちらかに一日主様をやってもらえないかと思って来たんだよ」
「突然、そのような事をおっしゃられても……」
「はいはーい、僕やるよ!面白そうだし」
「はりちゃん、看板娘も立派なお仕事よ。水曜日は私達の担当でしょ」
「でも、僕達、二人いるから、どっちかが抜けても大丈夫だよ、きっと」
「そんな勝手に決められないでしょ。ひすいさんのご意見も聞かないと」
「だから、るりちゃんは残ってていーよ。僕が一日主様やるから」


 あらまぁ、るりちゃんとはりちゃん、もめているみたいですね。
 こういう事はるりちゃんの方がしっかりしているみたいですね。
 どうするのかもう少し様子を見てみましょうか。


「じゃあ、私はひすいさんに聞いて来ますので」
「えーダメって言われるかも知れないよ〜」
「なら、それに従うまでです」
「えー、つまんないよぉ〜」
「つまんなくてもいいんです。これはお仕事ですから」
「やだやだ、主様やりたいんだぁ〜」
「そんなだだっ子みたいな真似してもダメです」
「るりちゃんは残ってて良いから〜」
「オーナーに怒られますよ」
「怒られても行きたいんだぁ〜」
「わがままを言わないで下さい。私はちょっと席を外しますんで、ハチローさんのお相手、よろしくお願いしますね」
「う〜るりちゃんのいじわるぅ……」
「私は職務に忠実なだけです」


 はりちゃんもはりちゃんですが、るりちゃんにも問題がありますね。
 看板娘なのですから、もう少し愛嬌を持ってやっていただきたいですね。


「主任、少し、よろしいですか?」
「るりちゃん、見てましたよ」
「そうですか。はりちゃんももう少し、しっかりしてもらえると良いんですけど」
「あなたもですよ、るりちゃん、はりちゃんと足して二で割ると丁度良いんですけどね」
「私の何処がいけないんでしょうか?」
「私達は看板娘なのよ。もう少し、愛想をふりまかないと」
「愛想ですか……?」
「そうそう、はりちゃんを見てみなさいな」


 私は、るりちゃんにはりちゃんのお仕事の姿を見せました。


「ハチローのおっちゃん、主様って何やるの?」
「そうだね、まずは、甘ぁ〜い蜜を作っているよ。後は小作りかな?これははりちゃんには早いかな?」
「子作りかぁ……どんなんだろ?」
「もう少し、大人になったら自然に覚える事だよ」
「そっかぁ〜楽しみだなぁ」
「お得意様に熊のベア吉さんという人が居てねぇ」
「ベア吉さん?」
「そうそう、蜂蜜の評論家をしているんだ。彼に認められると、星がプレゼントされるんだ。星は一つから七つまであってね、星七つと言えば、蜂蜜界のトップブランドと呼ばれるんだよ」
「へぇ……面白そう」
「うちはまだ、星二つしか貰ってないからね。星三つを目指して社員一同、頑張ってるんだよ」
「へぇ……」
「うちは一族経営だからね。子作りも重要な主様のお仕事って訳さ。だけど、そればっかりだと主様も大変だからね。時々、わがままを聞いてあげるのさ」
「良いなぁ〜僕がわがまま言うといつも、るりちゃん、怒るんだよ」
「それは、はりちゃんを思ってのことだと思うよ」
「そっかな?へへ、そうだね」
「そうそう、るりちゃんの事好き?」
「うん、大好きだよ。いつも、手伝ってくれるし」
「そうか。それは良かったね」
「僕とるりちゃんは二人で一つってオーナー達が言ってたんだぁ」
「なるほどね〜確かにそうかもねぇ」
「僕達はセットなんだって」
「私もそう思うよ。二人は仲良しさんだってね」
「うん」


 はりちゃんのお客様に対する接し方は素晴らしいと思います。
 るりちゃんのお客様に対する接し方も素晴らしいと思います。
 だけど、二人の接し方は微妙に違います。
 はりちゃんの対応はお客様に親近感を持っていただける良い対応。
 るりちゃんの対応はしっかりしているのでお客様に頼りにされる良い対応。
 どちらも優れています。
 だけど、二人の対応が合わされば、百点満点をあげられるのです。
 るりちゃんにも、そして、はりちゃんにも気付いて欲しい。
 二人を一緒にするのは相手の対応をお互いに見て欲しいから。


「……はりちゃんは、私に無いものを持っています」
「そうね」
「私には、あんな応対出来ません」
「そうかしら、私は出来ると思うけどな。るりちゃん、努力家さんだもの」
「でも……」
「はりちゃんにだって足りない所はあるわ。だから、はりちゃんにもるりちゃんをしっかり見て欲しい。二人がお互いを学んだら、他の看板娘達がびっくりするくらいの看板娘になると思うけどな」
「そ、そうですか?」
「そうなの」
「……はい」
「それと、蜂の巣山の一日主様の件だけど。私は許可しますよ」
「え?でも……」
「お仕事だから?」
「そう……です」
「看板娘のお仕事は困っているお客様のお手伝いをすることも含まれます。だから、私は賛成ですよ」
「でも……はりちゃん……」
「そうね。はりちゃんだと羽目を外し過ぎて暴走しちゃうかも知れないわね。だから、あの子はお留守番の方。るりちゃん、あなたがお手伝いに行きなさい。これも社会勉強よ」


 るりちゃんは私が?と言わないばかりに目をぱちくりさせてますね。
 まさか、るりちゃんが行くことになるとは思ってなかったんでしょうね。
 来週にるりちゃんがお手伝いに行くことになってはりちゃんはぶーっと文句を言ってたけど、はりちゃんにはお店のお仕事をもっと覚えてもらいませんとね。


「ごめんよぉ。ルルイエ異本のイタリア語版入った?」
「いらっしゃいませ、ダゴン様。すみません、生憎ロシア語版はあるのですが……」
「えぇ、それじゃダメだよ。イタリア語版じゃないとね」
「ダゴンのおっちゃん、いらっしゃい」
「お、はりちゃん、アーカムの地図でも良いんだけど置いてない」
「んーとねぇ、グングニルの糞じゃだめ?」
「え?……えーと……」
「ご、ごめんなさい、ダゴン様。はりちゃん、それは偽物だって言ったでしょ。まだ、置いてたの?グングニルは槍の名前で生き物じゃないの。糞なんて出ないのよ」
「でもさ、これ本物かも知れないよ。ここにほら、金色っぽいものが」
「……これは……まさか……ね……」
「どうかしたのかいるりちゃん?」
「え、えぇ、実は、金の卵を産む鶏が生んだ金の卵を腐らせたものが出回っているっていう噂が……でも、まさか……」
「いや、これは、そうだね、金も知れないよ。プラチナもちょっと混じっているかも知れないな」
「本当ですか?」
「あぁ、間違いないな、これはこれで貴重かも知れないよ」
「え?なになに?何がどうしたの」
「はいはい、はりちゃんは良い子だからちょっと大人しくしてて」
「ずるぅい、僕だって何だか知りたいよぉ〜」
「もしかするとこれは歴史的発見かも知れないよ。普通、金は腐らないからね〜。金を腐らせた手法というのが何だか気になるし」
「そうですね。非情に興味があります」
「のけものにしないでよぉ〜」


 あらまぁ、これは大発見かも知れませんね。
 ちょっと私も興味がありますので、失礼して。


「どうしました?」
「ひすいさん、これなんですけど」
「ふんふん、これは……」
「凄いでしょ、この糞、僕が取っておいたんだ」
「残念でした。これは金に見えますが、違いますね。架空粘土で作ったレプリカですよ。糞でもありません」
「えーなんでぇ?」
「あぁ、ビックリしました。思わず、歴史的発見に立ち会ったのかと」
「ふふ、そんな簡単に歴史的発見は無いわよ」
「そうですね。早とちりでしたね」
「なんだ、違うのか」
「ダゴン様、お騒がせしました」
「あぁ、こちらこそ慌ててしまって申し訳ない」
「いえいえ」
「さすがは、目利き検定超五段のひすいさんですね。私もてっきり、金が腐ったものかと」
「伊達に主任にはなっていませんよ。それより、ダゴン様、申し訳ありません。ルルイエ異本のイタリア版は絶版となっていますので」
「そうなのか……それは残念」
「ですが、アーカムの地図でしたら、コピーがございますのでこちらでよろしかったら」
「そうか、それは助かる」
「コピーですので、特殊加工コピー代だけで結構ですよ」
「ありがたい。じゃあ、これで」
「はい、ではおつりを」
「いや、いい、おつりは、それくらいはとっといてくれ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「サンキュー、ダゴンのおっちゃん」


 お客様との繋がりは大切に。


「るりとはりは、いるかしら?」


 あらまぁ、大変、ぎん副オーナーがいらしたわ


「これは、副オーナー」
「ひすい、元気してる?」
「はい、お陰様で」
「あの二人はどこかしら?」
「はい、今は準備……いえた、棚卸しを」
「棚卸し?」
「いえ、間違えました。二人揃ってお花を摘みに」
「そう。やっぱり双子ねぇ」


 きんオーナーもですが、ぎん副オーナーもるりちゃんとはりちゃんが双子の姉妹だと思っていらっしゃいます。
 クビになるとは言いませんが、二人が双子じゃないとわかりますとちょっと面倒な事になりそうですので、オーナーと副オーナーの前では二人は双子という事になっています。
 るりちゃんとはりちゃんの性格は全然違いますので、普通にしていたら、二人が双子じゃないと解ってしまいます。
 かと言って、はりちゃんの方にるりちゃんの真似をしてと言っても無理ですので、るりちゃんがはりちゃんの真似をします。
 かっこうも違いますので、いきなりは出来ません。
 ですので、一旦、隠れて、るりちゃんが着替えるのを待ってから、はりちゃんとおそろいのかっこうをしてもらって出てくるのです。


「あ、ぎんばーちゃん、いらっしゃい」
「おやおや、お前はるりかい?はりかい?」
「うん、はりだよ」
「そうかい、じゃあ、私に向かってばーちゃんと言ったのはこの口かい?」
「いひゃい、いひゃい、ばーちゃんゴメン、もう言わないよばーちゃん」
「ほほほ、相変わらずのおバカな子だねぇ、言ってるそばからばーちゃんと言ってるじゃないか」
「ごめんよ、ばーちゃん」
「この口か、この口か」
「いひゃい、いひゃい」


 見た目は二十代の後半と言った感じですが、こう見えて、ぎん副オーナーのお年はお孫さんが居てもおかしくない年齢なんです。
 双子ですからきんオーナーも同じです。
 ふたりとも若作りでまだ、よくナンパされるとご自慢されてましたね。
 おふたりが気にするのはもちろん、お年の事です。
 はりちゃんはそういうのは全然気にしていないので、おふたりの事をよく【きんばーちゃん】、【ぎんばーちゃん】と言います。
 その度にほっぺたをつねられているのですが、はりちゃんは何故、自分がつままれているのかよく解っていないようですね。
 大変なのはそのはりちゃんに合わせている、るりちゃんですね。


「ぎ、ぎんばーちゃん、いらっしゃい」
「おやおや、るり、お前もかい」
「いひゃい、いひゃい」
「この口かい、この口かい」


 いつものように、はりちゃんの動きに合わせてるりちゃんもお仕置きされています。
 ですが、これは副オーナーにとっては一種のスキンシップのようなものです。
 本当はるりちゃんの事もはりちゃんの事も大好きなんですよね。
 だから、よく様子を見に来られるんだと思います。
 アットホームなこの職場はみんながみんなの事が大好きなのです。
 私もその一員としてみんなが大好きです。




第四章 木曜日の看板娘 しゃこ




「しゃこちゃん、遊びに来たよん」
「しゃこではない、今日は変形ロボ、マインドイレブンだ、ピーガシャン」
「マインドイレブン、合体変形はオッケーですか、ドーゾー」
「あーテステス、こちらマインドイレブン、了解です」
「ブレンドトゥエルブ帰還いたします」
「ラジャー」


 こらこら、帰しちゃだめでしょ。
 お客様をおもてなししないと。
 彼女はしゃこさんです。
 彼女の趣味はなりきりです。
 いつもある一定の設定の自分になりきってしまうのです。
 お客様もそんな彼女に合わせてなりきってくださる方がメインとなります。
 時々、事情を知らないお客様がいらして、驚かれてしまうのですが、その時は私がフォローにまわります。
 まだまだ、一人でお任せする訳にはいかない女の子ですね。


「ブレンドトゥエルブ、今日の任務を伝えに来ました」
「ラジャー」


 相変わらずのノリですね。
 私にはちょっと入っていけない世界です。
 ちなみに、ブレンドトゥエルブ様は本名をガネーシャ様と言って、夢を叶える神様です。
 優しいお方なので、しゃこさんに合わせて下さっているんですね。


「天罰セーバーを一つ装備させて下さい」
「ラジャー、ギーガチャン、起動を開始します」


 ロボットか何かの真似をしてしゃこさんが動き出します。
 天罰セーバー――それは天罰の力をセーブさせる道具です。
 ガネーシャ様の様にお力が強いと天罰も加減が難しいようです。
 天罰を与えるにもその対象者に見合った天罰を与えませんと、必要以上に罰を与えてしまうと大変ですからね。
 そこで、神宝商店では力を抑制する道具も売っているのです。
 ガネーシャ様はよくご利用いただいております。


「すみません、ガネーシャ様、いつも合わせていただいて」
「おぉ、ひすいさんか。なになに、もう慣れたよ。最初は面食らったけどな」
「悪い子ではないのですが、ちょっと……」
「これがあの子のコミュニケーション手段なんだろう。私は気にしてないよ」
「いつもありがとうございます」
「可愛いじゃないか。あの子のそういう所もな」
「ギーガチャン、天罰セーバーを装備します」
「ギーガチャン、了解であります」
「七百ポイントを消費します」
「了解であります。七百ポイントであります」
「出撃お願いします」
「発進します」
「カウントダウン開始します。スリー、ツー、ワン、発射」
「ゴー」


 しゃこさんに合わせて下さって本当に頭がさがります。
 ガネーシャ様の様に、合わせて下さっているお客様もいらっしゃえば――


「やや、ここはムーンライトプリンセスがいる城か?」
「はい、王子様。ここはムーンライト城」


 しゃこさんと同好の士という方もいらっしゃいます。
 がしゃどくろのタケゾーさんもそのお一人です。


「姫、実は折り入ってお願いがあって参りました」
「まぁ、なんでしょう」
「賢者の石と人魚の肉のミックスジュースを飲みたくてはせ参じました」
「まぁ、何てことでしょう」


 そちらの世界に入っていらっしゃっても商品名だけはしっかりと現物の物をご注文いただいております。
 賢者の石はありますが、人魚の肉はマーメイド様にご提供いただきませんと手に入らないので、当然、簡単にはお出しできません。


「さぁ、姫、こちらへ」
「王子様……では、これを……」
「これは確かにミックスジュースですが、これは」
「はい……これは私の……」


 忘れていましたが、しゃこさんは人魚とのハーフでしたね。
 ご自分のを用意すれば、良かったのですね。


「おぉ、なんという事だ。なんたる悲劇」
「あぁ、王子様」
「おぉ姫よ」
「これを私だと思って」
「あぁ、大切にするよ」
「お買い上げありがとうございます」


 ……そこはしっかり言うんですか。
 なんとも入っていきづらい世界ですね。
 私にはとても中に入っていけません。
 ふたりの世界というのがあって、そこに他の者は入っていけないんですね。


「ゼロゼロゼロセブン、依頼だ」
「ボス、今回のターゲットは?」


 またまた、そちらの趣味のお客様がいらっしゃいました。
 今度のお客様は浮遊霊のボギー様です。
 元々は地縛霊だったのですが、しゃこさんの事を気に入って時々いらっしゃるんですよね。


「カントリーユニオンのマラディナ。奴がターゲットだ」
「ブツはなんですか、ボス」
「獲物はブルーローズだ」
「報酬は?」
「九百万ポンドだ」
「わかりました。任せてくださいボス。ブルーローズさえありゃ、いちころですぜ、あんなの」
「あんなのと言うな、俺の大切な人だ」
「失礼しましたボス」


 ……えーと……ややこしくなるので、解説しますと、カントリーユニオンのマラディナとはターゲットっていうよりも告白するお相手の事をおっしゃっています。
 マラディナ様は、グール、女性ですからグーラですね。
 獲物のブルーローズは青いバラの花束の事をおっしゃっています。
 報酬とは青いバラの代金になります。
 回りくどいおっしゃり方をされていますが、要するに告白をなさりたいという事ですね。
 素直に、おっしゃって下されば、他の曜日の看板娘にも解るのですが、はぐらかしておっしゃられると対応出来るのはしゃこさん以外にいませんからね。
 ボギー様の告白は今回で三十七回目のお相手になります。
 今度こそ上手くいくとよろしいのですが……


「しゃこはいるか?」
「お客さん、ここはバーメアリーですよ。ここにしゃこってのはいませんねぇ」
「何を言っとる、お主がしゃこじゃろが」
「いえいえ、お客さん、あっしはしがないバーのマスターぺんぺん草のハリーってケチな野郎ですよ」
「ふざけるな、この前は、殺人鬼ゴードン、その前は女料理人マオと名乗っとったじゃろが〜」


 あらまぁ、巨人族のユーミル様がいらしたわ。
 早速、しゃこさんにお説教をしていらっしゃっているようですね。
 でも、慌てる必要はございません。
 この方は、しゃこさんにお説教をしたくていらっしゃっているのですから。


「なんと言われましても、ここにしゃこって女はいませんぜ、旦那」
「これで何度目じゃ。最初の妖怪変化の又三郎から始まって、弁護士ロッキー、レスラー定本、ロック歌手ベイベー、格闘家チャン、ロバの化身ブルル、かちかち山の狸の子孫真智子、泉の精チャーリー、堕天使ルージュ……」


 それにしてもよく覚えていらっしゃる。
 しゃこさんのなりきりを全部覚えていらっしゃるみたいですね。
 本当はしゃこさんのファンなんですよね、ユーミルさんは。
 本当にいろんなお客様がいらっしゃいます。




第五章 金曜日の看板娘 真珠(しんじゅ)




「しんじゅちゃん、今日も元気?」
「あら、お化けタコのペコベエじゃないの。私を見に来たのね」
「そうだね。そういう事にしておこうかな」
「素直に感謝して良いのよ。この私が応対するんだから、ホント、感謝なさい」
「はいはい、いつもありがとうね」
「何でしたらサインを差し上げてもよろしくてよ」
「そうだね、じゃあ、サイン、下さいな」
「仕方ないわね。じゃあ、一枚だけよ」
「本当は二十三枚目だけどね」
「よ、余計な事は良いのよ、最初の一枚と思って感謝なさい」
「そうだね、いつか有名になってサインいっぱい書けると良いね。いっぱい、練習しているもんね」
「うう、うるさいわね。サイン書いてあげないわよ」
「本当にそれで良いの?」
「し、仕方ないから書いてあげてるのよ。本当なんだから」
「そうだね」


 あらまぁ、しんじゅさん、相変わらずですね。
 もう少し、素直になれたら良いんですが。
 本当はいっぱい、お客様に感謝をしていて、お店のお掃除とか、一生懸命頑張って、少しでも気持ちよく来てもらおうと思って、色々努力しているんですよね。
 でも、努力していると思われたくないから、あぁやって強がって。
 でも、本当は寂しがり屋さんなんですよね。


「きょ、今日は何をしに来たのかしら?」
「今日もしんじゅちゃんの顔を見に来たんだよ」
「そ、それもあるでしょうけど、他に用事とかないかしら?」
「そうだね、ちょっとあるかな?今、住んでいるたこつぼがね、狭くなったから引っ越したいんだよね」
「そ、そうなの、じゃあ、特別に私が良い物件を教えてあげようかしら」
「頼むよ、しんじゅちゃん」
「し、仕方ないわね。ちょっとだけよ」
「うん、お願いね」
「そ、そうね、この深海一万メートルにも耐えられるギョギョっと驚くたこつぼシリーズか、オリハルコンで出来た、マルキン印のたこつぼなんてのも……でも、あなたの予算を考えるとマイホームたこつぼか竜宮城のお膝元のたこつぼ、それか、アトランティスのたこつぼマンションなんかが……」


 さすが、しんじゅさんね。
 仕方なくとは言っていても、しっかりペコベエさんのためにいろいろ物件を調べあげていたようですね。
 的確な情報です。
 彼女は優秀です。
 強がっていますが、人一倍、努力を惜しまない努力家さんでもあるんです。


「ご免下さい」
「あら、メデューサじゃない、元気だった?」


 あらまぁ、しんじゅさんのお友達が見えましたね。
 激励ですかね。


「元気じゃないわよ、勇者に追いかけ回されて。危うく首を切られる所だったわ」
「ラミアとはもう仲直りしたの?」
「まぁ、何とかね。ちょっとお互い誤解があったみたいだし」
「まぁ、この私が仲裁したんだから、仲直りして当たり前だけどね」
「あんたの方は相変わらずみたいね。まだ、女優になろうって思ってんの?あんたにはこの看板娘の方が似あってると思うけどね」
「も、もちろん、看板娘だって、私が抜けたら困るでしょうから、居てあげてるんだけどね。でも、女優になる夢だってあるからね」
「無理無理、あんたに演技は向いてないって。あんた、演技の方はへたくそだもん」
「な、何を言っているのかしら?私ほど、女優に向いている女はいなくってよ」
「はいはい、夢を持つのは良いことだけどね。人には向き不向きがあるの」
「な、何……」
「ホント、マジで言ってるんだよ。あんたにはこの職場が一番あってる。あんたを応援してくれるお客さんだっていっぱい、いるって聞いた。さっき、たこさんとすれ違ったけど、本当に嬉しそうな顔してた。こっちの方が良いって、絶対」
「何をバカな、私は女優になるために生まれた女よ」
「しんじゅ、私は真面目に話をしてるんだよ」
「私だって真面目に」
「そうは、思えない……」
「私だって……」


 あらまぁ、いけない……


「まあまあ、メデューサ様も」
「ひすいさん、私は彼女を心配して」
「解っていると思いますよ。でも、まだ、夢として見ていたいんだと思います。彼女は影で一生懸命努力をしています。それだけは解ってあげてください」
「解ってるけど……」
「しんじゅさんを思うメデューサ様のお気持ちは大変ありがたいことだと思います。ですが、それを決めるのはしんじゅさん本人に任せてはいただけないでしょうか?」
「……そうかもね……出過ぎた真似をしたかも知れない……」
「しんじゅさんを思っての事ですから」
「しんじゅを追いかけなくちゃ。私、謝ってくる」
「大丈夫ですよ。彼女は強いですから。落ち着いたらまた、戻ってきます。それまでは私がお相手いたします」


 私がメデューサ様と話していると……


「ごめん、ひすいさん、私、大丈夫だから」
「しんじゅさん……」
「しんじゅ……」
「メデューサ、ゴメン、私、まだ、諦められない。だって、私の夢だもん」
「……そうだね、当たって砕けてこい。胸ならいつでも貸してやるから」
「うん。ありがと」


 やれやれ、何とかおさまりましたね。
 一時はどうなる事かと思いました。
 でも、仲直り出来たみたいで一安心です。


「こんにちわ」
「あら、いらっしゃい」
「どうも、私の名前覚えてるかしら?」
「覚えているわ、ローレライでしょ」
「違うわよ、私の名前はローレライラよ、覚えておいてって言っているでしょ」
「ローレライじゃないの?」
「あっちは別人だって言っているでしょ」


 あらまぁ、いけませんね。
 お客様のお名前は正確に覚えておかないとお客様に失礼です。


「申し訳ございません。ローレライラ様。ほら、しんじゅさんも謝って」
「わかったわよ。……その……ごめん……」
「そんな謝罪がありますか。もっと頭を下げて、こう」
「良いわよ。あっちの方が有名なのは解っているから。無名でいる内は間違えられても仕方ないと思うし」
「うっ……」


 しんじゅさんはギクッとした様ですね。
 まるで、自分の事を言われているような感じに受け取ったようです。
 彼女も女優志望でいますが、この前も【ちんじゅう】と間違われたと言って怒っていましたからね。
 人ごとではないのでしょう。
 なら、なおさら、お客様のお名前を間違えるべきではありませんね。


「ホントにゴメン。間違えられて不愉快なのは私も解る」
「良いわよ。いつか、超メジャーになって、見返してやるから」
「私、応援する」
「あんたも確か女優よね。お互い、頑張りましょ」
「そうね。負けないわ」
「こっちもね」
「ふふふ」
「うふふ」


 にっこり笑い合っていますね。
 お互いを認めたという証ですね。
 お二人とも、いつか、有名になると良いですね。
 神宝商店には実に様々なお客様がいらっしゃいます。
 時には切磋琢磨し、お互いを磨き合える関係になる方もいらっしゃいます。




第六章 土曜日の看板娘 まいかい




「オス!まいかいさん、いらっしゃいますか?」
「あの……いらっしゃいませ……」


 あらまぁ、相変わらず声が小さいですね。
 お客様に聞こえないかも知れませんね。
 もう少し、大きな声でお迎えしていただきませんといけませんね。
 気が弱いと言いますかなんと言いますか、まいかいさんにはもう少し、ハキハキと受け答えをしていただきたいですね。
 でも、まいかいさんを目当てに来られるお客様はそのか細い声が良いとおっしゃられる方が殆どなので、忠告するのもどうかと思ってしまうんですよね。
 カラス天狗のかあ太郎さんもそんなお客様のお一人です。


「オス!今日も可憐ですね」
「ご、ごめん……なさい……声が小さくて……」
「いえ、自分はその繊細なお声が、その……」
「はい……」
「………」
「………」


 いけない、お客様に対して黙っているなんていけませんね。


「かあ太郎様、申し訳ございません。見ての通り、彼女は口下手で」
「いえ、自分はおしゃべりな女性よりもこういう慎ましい女性の方が、その――好みなので……」
「そうですか?」
「はい、自分も口下手なので、あまり会話が得意ではないので。これが丁度良いぐらいであります」
「そうですか。それは失礼しました。じゃあ、まいかいさん、後、お願いね」
「はい、主任」


 ……大丈夫かしら?


「………」
「………」
「………」
「………」


 いけません。
 言ってるそばから……


「も、もうし訳……」
「じ、自分は……」
「はい?」
「これくらいが丁度良いであります」
「そ、そうでしたね、失礼しました」


 ちょっとでしゃばりすぎたかしら?
 心配なのだけど……


「………」
「………」


 このふたりにはこれくらいの方が丁度良いのかもしれませんね。
 かあ太郎さんもまいかいさんが良いので土曜日に来ていらっしゃるんですからね。


「ごめんください」
「……いらっしゃい……ませ……」


 今度のお客様は仙人の張(ちょう)様です。
 張様もまた、まいかいさんの事をご贔屓にして下さっている方です。
 張様はお話好きな方で、黙ってお話を聞いて相づちを打ってくれる女性が良いとおっしゃられていて、その条件にまいかいさんがぴったりだと言うことで、お見えになる度に、お話を一つされて、当店のアイテムも一つご購入される方です。
 今日はどんなお話を聞かせていただけるのでしょうか?


「まいかいくん、ちょっといいかな?」
「……はい……」
「今日の話はねぇ【転がる石に苔は生えぬ】ということわざに話をつけてきたよ」
「……はい……」
「意味は解るかね?」
「……いえ……ごめんな……さい……わかりません」
「これは二つの意味があってね」
「……はい……」
「身体をよく動かして働く者は病気にならないという例えと……」
「……はい……」
「もう一つは職を転々とする者は地位やお金が手に入らないという例えなんだよ」
「……はい……」


 申し訳ありません。
 張様のお話は長いので、割愛させていただきますが、とてもためになるお話をされているんですよ。
 張様のお話はことわざや四字熟語から題材を一つ選ばれて、人が興味を持つように工夫して創作されているんですよ。
 大変面白く、現在五十冊の本になっているんですよ。
 神宝商店にも置いてありますので、宜しかったら、ご購入下さいね。


「お、オイッスぅ……」
「……いらっしゃい……ませ……」


 今度のお客様は月曜日にもいらした天野ジャック様ですね。
 実はジャック様……
 いえ、お客様のプライベートの事ですので、私の口からは……
 とにかく、様子を見て参りましょう。


「あ、あぁ……あれだな……」
「……はい……」
「いい天気だな……」
「あの……今日は曇り……です……」
「あれぇ?そうだっけ、あ、ホントだ、おっかしいなぁ〜晴れだと思ったんだが」
「……ごめんな……さい……」
「いやいやいや、お前さんが謝ることじゃねぇよ。悪いのは俺だって、気にすんなって、俺のバカ、バカバカバカってな」
「……はい……」


 ジャック様とまいかい様のやりとりを見ればおわかりになるとは思いますが、ジャック様はまいかいさんに恋をされています。


「じ、実はよう、月曜日に新人が入ったってんで、ちょっとのぞいてみたんだよな」
「は、はい……」
「だ、だだ、だけどよう、別に月曜日に鞍替えしたって訳じゃねぇんだぜ。ちょっとのぞいて見ただけっつうか、なんつうか」
「はい……」
「そ、それでだ、お前さんの誕生日プレゼントっつうかなんつうか、これ」


 ジャック様が差し出されたのは月曜日に購入した【七宝セット】ですね。
 ですが、当店でご購入されたものをプレゼントされてもちょっと……
 めのうさんには看板娘のお祝いとしてご購入されて、それをまいかいさんのお誕生日プレゼントで渡される……
 ジゴロですね〜ジャック様は。
 罪なお方です。


「……ありがとう……ございます……でも……誕生日、明後日……」
「あ、明後日だと月曜日になっちまうじゃねぇか、だ、だだ、だからよぉ」
「ありがとう……ございます……うれしい……」
「へへっ……よせよぉ……照れるじゃねぇか」
「……はい……」
「よ、よよ、用ってのはこれだけなんだが、せせ、せっかくだから、何か買っていくかな、えーと何にしよっかなぁ」
「あの……おすすめは……」
「お、あんのかい?どれ?」
「ちゃ……茶柱とおみくじの大吉……の各千セット……今なら血液型と誕生星座が両方一位……だった……時の占いくじつき……です」
「おぉ……そいつは縁起が良いや」
「……レア度四十五……です」
「お、そいつはお買い得ってやつだな」


 そうそう、お値段の事を忘れていましたね。
 レア度のレベルによって大体の値段は決められています。
 一レベル上がる毎に日本円で考えますとそうですねぇ……大体、一万円〜百五十万円程値が上がります。
 え?高いですって?
 それは申し訳ありませんが、当店は特別注文店ですので、商品の方もそれなりに値ははります。
 それでも欲しいというお客様がいつもいらっしゃいます。
 当店では品物を注文される方ばかりが来られる訳ではありませんので、当店の方で注文した場合もそれなりにお代をお支払いしています。
 また、売り買い以外の目的で来られる方もいらっしゃいますので、どうか、お気楽に入らして下さいませ。


「ごめんよ〜」
「いらっしゃい……ませ」


 ほら、また、別の目的のお客様がいらっしゃいましたよ。
 あの方は、クー・シーのワン吉郎様です。
 ワン吉郎様はまいかいさんの笑顔を見に来られています。
 スマイルはもちろんタダ、無料でございます。


「ありがと、元気をもらったよ」
「またの……ご来店を……お待ちしています」


 私からもお願いします。
 またのご来店をよろしくお願いいたします。



登場キャラクター紹介

001 めのう
めのう
 主人公の女の子。
 ちょっとドジなところもあるけど一生懸命な女の子。
 特別注文店、神宝商店の月曜日担当の看板娘。
















002 ひすい
ひすい
 特別注文店、神宝商店の前の月曜日担当の看板娘で主任。
 ナレーションも兼任。
















003 天野 ジャック(あまの じゃっく)
天野ジャック
 神宝商店のお得意様の人間。
 数年前、神隠しにあって以来の常連客。
















004 きん
きんオーナー
 特別注文店、神宝商店のオーナー。
 ぎんとは双子の姉妹。
















005 ぎん
ぎん副オーナー
 特別注文店、神宝商店の副オーナー。
 きんとは双子の姉妹。
















006 さんご
さんご
 特別注文店、神宝商店の火曜日担当の看板娘。
 曲がった事が大嫌いな正確。
 さっぱりとしていて、適当と見られる事もしばしばある。
















007 るり
るり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その1。
 はりと双子のふりをしている。
 しっかりとした性格。
















008 はり
はり
 特別注文店、神宝商店の水曜日担当の看板娘その2。
 るりと双子のふりをしている。
 無邪気な性格。
















009 しゃこ
しゃこ
 特別注文店、神宝商店の木曜日担当の看板娘。
 独特の感性を持つ。
 自分で考えたキャラクターになりきってしまう。
















010 しんじゅ
しんじゅ
 特別注文店、神宝商店の金曜日担当の看板娘。
 女優志望。
 何事も一生懸命。
















011 まいかい
まいかい
 特別注文店、神宝商店の土曜日担当の看板娘。
 大人しく人見知り。
 意外とファンが多い。
















012 こはく
こはく
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 しょっちゅう、言い間違える。

















013 すいしょう
すいしょう
 特別注文店、サポート看板娘。
 看板娘が休みの時、臨時で入る。
 丁寧な言葉が使えない。