第001話
序章 発端…
いつからだろう――
こうして普通に宇宙旅行が楽しめるようになったのは――
宇宙旅行と言っても大気圏を越えて十五分くらい宇宙空間から地球を見て、それから地球へと戻って行く……
ただ、それだけのコースだけど……
学生でもこうして訓練無しに行けるようになったのはわりと最近になってかららしい……
二一二五年春…
俺達はたった十五分の宇宙旅行をして、地球に戻った……
戻ったつもりだったのに……
戻って見ると……
そこは俺達の知っている地球ではなくなっていたんだ……
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「見ろよ、尊志(たかし)――あいつら手をふってるぜ」
「へぇ、どれどれ……あ、ホントだ……おーい、そっちには何が映ってるんだ〜」
「ばぁ〜か、あっちも一緒だよ、映っているのは宇宙空間と太陽……そんでもって青い地球……そんだけだ」
「まぁ、そうなんだけどな」
俺は、東郷 尊志(とうごう たかし)。
俺達は男女五人ずつ、十人で一組になって、この十五分だけの宇宙旅行を楽しんでいる。
メンバーは俺を含めたスクールフォー……名前に小学校、中学校、高校、大学の【小、中、高、大】をイメージする文字が含まれる四人を指してるんだけど……俺が高校……つまり【尊志→高】で、【大】が久住 大(くすみ まさる)、【中】が氷川 忠司(ひかわ ちゅうじ)、【小】が反町 笙(そりまち しょう)──がいて……
後は俺の親友の片瀬 心理(かたせ しんり)……この五人が男だ。
女子は……
心理の年子の妹……片瀬 節理(かたせ せつり)……それに【松竹梅トリオ】の三人……スクールフォーの俺達同様に、名前に【松、竹、梅】がついてる三人組で山谷 松里(やまたに まつり)、日向 美竹(ひゅうが みたけ)、鈴村 小梅(すずむら こうめ)だ。
そして──
俺の好きな宇崎 佳桜(うざき かおう)で五人だ。
正直、後半は受験があるからという理由で前倒しになり、修学旅行は前半である五月の連休明けの今、行われている。
新しいクラスになってそう経ってないというのもあって、俺達は……特に男子と女子とはどこかぎこちない。
だけど、【あんな事】もあったんだし、俺達はお互いを下の名前……ファーストネームで呼び合うという事になった。
正直、【宇崎】の事を【佳桜】と呼び変えるのはちょっとばかり、照れる。
でも、心理と節理のように二人とも【片瀬】という名字の人間もいることだし──
俺はファーストネームで言い合うという事に賛成した。
佳桜って堂々と言えるのは嬉しくもあるしな。
そうそう、【あんな事】のことについてなんだけど……
ある事件が俺達が三年に進級してすぐに起こった。
連続美少女殺人事件だ。
犯人は……
俺達の班に十一人目として入るはずだった男──
滝沢 彰人(たきざわ あきと)だった。
あいつは頭が良い――という訳ではなかった。
むしろ幼稚な性格だったようにも思う。
そして、狡猾だった。
連続して、女の子が殺された事件が起こったが、いっこうに犯人――滝沢は捕まらなかった。
次々と被害者が出て俺達は恐怖のどん底に突き落とされていた。
それを余所に修学旅行の班分けが決められ、各班でミーティングが行われた。
そして、滝沢の家でミーティングをする事になった時、奴は告白した。
【実は自分が連続殺人犯】だと……
もちろん、最初は誰も信じなかった。
何、言ってんだこいつは。
みんながかたくなっていた場を和ませようとしているのかもしれないが、それにしても趣味が悪すぎる。
連続殺人鬼が自分だと告白されて、誰が喜ぶと言うんだ。
そう思って誰も相手にしなかった。
その反応を見て奴は面白くないと思ったのか……
押し入れから色々と出してきた。
そう──奴が連続殺人鬼だという数々の証拠を。
耳、眼球、指、舌……
奴はお気に入りの美少女の特に気に入った部分をそぎ落とし、切り取って集めていたんだ。
そして震え上がる俺達を見て、奴は興奮していた。
異常だ。
俺達はそう思った。
そして、俺達は警察に通報し……
奴はブタ箱にぶち込まれた。
警察の取り調べは行われた。
──が、粗野でどうしようもなく短絡的な性格の奴がどうして、警察の網をかいくぐって殺戮を続けられたのか……それだけは結局、解らなかった。
他に協力者がいる──そうも思われたが、口を割ることはなく、手がかりも全く発見されず、そのまま奴一人の犯行として、処理された。
精神鑑定も行われたが、責任能力ありと判断されて、その残虐性から死刑は確実だろうと言われている。
奴のせいでPTSD──心的外傷後ストレス障害に陥る生徒も多数出た。
学校に来れなくなる生徒も数多く出た。
――が、政府の計らいというのもあって、俺達は心のケアの一環で、もっと大きなスケールのもの――
地球を見せたいと……宇宙旅行をプレゼントされた。
十五分とは言え、宇宙旅行だ。
誰もが行ってみたいと思うのは無理はなかった。
こんな事滅多に体験出来る事じゃない……
そんな訳で俺達は今、宇宙にいる。
水が宙を漂うとか貴重な体験をさせてもらって地球へ戻る。
そのはずだった。
「お……おいみんな……見ろよ何か地球……変だぞ?」
地球を見ていた大が叫ぶ
「何がよ?ほ、……ホントだ……海が黄色に……あ、今度は赤……緑……ど、どうしちゃったの?」
松里も驚く。
彼女だけじゃない……俺達は全員驚いていた。
こんな事があるなんて聞いたことない。
「光の……現象……なのかしら?」
佳桜がつぶやく。
答えてやりたいけど、俺にもどういう事か全く解らない。
宇宙船のパイロットの人に聞いてみたけど、解らないと言っていた。
誰もが首をかしげている時、地上から通信が入った。
「裏切り者のみんな……宇宙旅行は楽しんでくれたかな?」
映像には奴が映っていた。
滝沢だ。
「お、お前……どうしてそこに?」
笙がつぶやく。
「君、どういう事だ?」
パイロットのおじさんも口を開いた。
「……外野は黙っててね。これは、復讐のゲームなんだから……」
奴が残忍な笑みを浮かべる。
「何を言ってるんだ、君!何が……」
パイロットのおじさんはなおも質問をしようしていたが……
「……邪魔だな……じじい……」
奴はそう言うと何かを操作した。
すると、パイロットのおじさんたちは何者かの手によって、宇宙空間の外に出されてしまった。
宇宙船の中には俺達だけが取り残される。
「ちょっと、何やったのあんた?」
美竹が叫ぶ。
が、相手はあの殺人鬼だ。
まともな答えなんて帰ってくるはずがない。
「……黙ってて貰えるかな?説明出来ないじゃないか。許可無くしゃべったら次、おっさん達みたいに、外に放り出すよ」
その一言に俺達はみんな黙る。
死にたくないからだ。
よくわからないが、奴は俺達の命をどうにでも出来る立場にある。
「よしよし……良い子達だ。俺の事はこれから【虎狼(ころう)】……そう呼んでくれ」
奴はにやぁ〜と不気味な笑みを浮かべた。
奴の言う【虎狼】……恐らく残忍な人間を表現する言葉だ。
滝沢は……いや、虎狼は話を続ける。
「今から、お前達は地球へと帰還する……だが、地球はもう、お前達の知っている地球じゃなくなっている……ファンタジーな地球へと生まれ変わっている……」
「何をバカな……ぐっ……」
思わず口を開いた心理に宇宙飛行士達を外に放り出した何かが殴りつける。
どうやら、見えないだけで何かが宇宙船の中にいるらしい……
「片瀬兄……次は本当に無いぞ。しゃべるなと言ったんだ俺は……」
「………」
俺達が黙るのを確認して、虎狼は話を続ける。
「俺は神になった。だから、お前達に復讐するのは容易い……が、それだと面白くない――そこで、ゲームをする事にした。お前達が苦しむ姿を見て俺が楽しむというゲームを」
俺は元々、こいつの事を好きだった訳ではないが、俺達にただ復讐するだけでは飽きたらず、俺達の苦しむ様を見て楽しむつもりらしい。
「十のステージを用意した……。が、たった十五分では、いかに俺でも準備するには時間が足りなさすぎる……。そこで、チュートリアルステージでお前達には楽しんで貰いたいと思ってな……丁度、宇宙旅行もしたことだし、ネットゲーム【ブラッド・アース】をベースにした練習ステージを用意した……親切だろ……俺」
俺達は返事をすることが出来ない……。
が、キレると何をするか解らないこいつを刺激しないように親切という言葉に対して頷いてみせた。
もちろん、本心からじゃない。
誰が、こんな奴を親切だと思うかっての。
ただ、宇宙空間に放り出されたくないから少なくとも地球に戻るまではこいつを刺激しないようにとの判断でだ。
それを知ってか知らずか、頷いた俺達に満足して話しを続ける。
「地上に着いたら、ある場所にまで、向かえ!そこにはこれからのステージに必要なものとスタンプが用意してある。……少しはお前達にも希望ってものを与えてやらないとな……スタンプラリーって知ってるだろ?……十のステージで一つずつ、スタンプを用意してある。十個集めたら俺は復讐を諦めてやる。どうだ、良い条件だろ?」
俺達は再び頷く……
地上ではどうなっているのか知らないが――
着いたら奴をとっつかまえて警察につきだしてやる。
そう思った。
「じゃあ、チュートリアルステージの説明だ。地表に着いたら四時間、時間をやる……四時間後にお前達の宇宙船に忍び込ませている見えない生き物(インビジブルクリーチャー)に処刑指示を送る……そいつに殺されずに目的地まで到着したらクリアだ。――少なくとも、俺はお前達をこのチュートリアルステージで殺そうとは思っていない……死ぬ気で走って生き延びろよ。あくまでも、これはお前達に緊迫感を感じさせるためだけのステージだ。【ブラッド・アース】の細かい設定は全部取っ払ってある……お前達はただ、走って逃げれば良い……解ったな?」
俺達は三度頷く。
やつの言う【ブラッド・アース】というネットゲームは宇宙飛行士が地球に戻って来たら、地球じゃなかったという設定で、楽しませるために様々な仕掛けや設定などがあるのだが、その中でも一番シンプルな設定……【脱出】というステージを模倣したのだろう。
【脱出】では、プレイヤーが武器を全て無くしてしまった状況から武器のあるセーブエリアまで、インビジブルクリーチャーから逃げるというゲーム展開となっている。
つまり、それをやれということなのだろう……
ふざけやがって。
そうこうしている内に、宇宙船は大気圏の突破を開始した。
俺達は強制的に死のゲームに参加させられる。
「じゃあ、次の目的地で会おう……通信を切る。これからの僅かな時間はミーティングにでも使え……せいぜい、生き延びるための作戦でも練るんだな」
言うだけ言うと虎狼は通信を切った。
冗談じゃない。
誰が、こんな馬鹿げたゲームに参加するか。
そう思っていたのだが――
「ぐるるるるるるるるるっ…」
獣がうなる。
僅かな獣臭もする。
「な、何よ……本当に何かいるの?」
と小梅。
全員、震え上がり……辺りを警戒した。
が、見えない生き物というだけあって全く見えない。
もしかしたら、地上に着いたら、本当にこの化け物と命を賭けた、追いかけっこをしなくてはならないのか。
奴の性格から考えてこれは遊びなんかじゃない。
これは本気なんだ。
そのつもりで取りかからないと俺達は皆殺しにされる。
俺達は本気で相談を始めた
第一章 ミーティング
心理「時間がない…ミーティングを始めよう…奴は本気だ」
佳桜「…そうね…このままだと、私達…殺されてしまう」
松里「あいつ…捕まってたんじゃないの?」
美竹「脱獄したってちょっと前のニュースでやってたわ」
大「あいつ、通報した俺達の事恨んでいるんだ」
尊志「仕方ないだろ……あのままあいつを放置してたら、更に犠牲者が出たんだ。どう考えたって捕まえるべきだろ……」
節理「あの男の動機なんて今はどうでも良いでしょ……それより……」
心理「そうだ……節理の言う通りだ……まず、状況の把握、整理だ……」
尊志「他の宇宙船は恐らく――【ブラッド・アース】の設定通りなら、別の場所に下ろされる。ゲームでは、他のプレイヤーは別の場所に落ちるという設定になっているからだ。」
佳桜「尊志君、やったことあるの?そのゲーム……」
尊志「あ、あぁ佳桜……やりこんではいないけど、ちょっとかじった程度なら……だから、基本的なルールはある程度知ってる」
佳桜「良かった……尊志君がルールを知ってるなら少しはマシかもしれないね……」
尊志「佳桜……」
忠司「俺も知ってる……だけど、あの野郎はこれをチュートリアルステージと言っていた。奴が本気になるのは多分、ファースト・ステージからだ。チュートリアルステージには抜け道があると見た」
笙「そうだな……だけど、奴はどうやって、こんな真似が出来たんだ?警察でも殺人を続けられた理由がわからないって言ってたぜ。何か裏があるんじゃないか?」
心理「それは、俺もそう思う」
松里「誰か裏で協力している奴がいるのよ、やっぱり……そうじゃなきゃ……あんな奴に」
美竹「私もそう思う……誰か解らないけど、協力している何者かが裏で糸を引いているのよ……きっとそう」
尊志「あいつを追い詰めるのはもっとステージが進んでからにしようぜ。たぶん、今のあいつと俺達には距離がありすぎる……傲慢な奴の事だ……油断して俺達のチャンスになる時は必ずくるはず……その時をじっと待とう」
佳桜「そうね……尊志君、チュートリアルステージでは何をすれば良いのか教えてくれる?このままじゃ何をしていいのかわからないし」
小梅「そうね……私も聞きたい」
尊志「あぁ……そうだな……あくまでもチュートリアルステージが【ブラッド・アース】の【脱出】ステージのままだったらの話だけど」
忠司「【脱出】ステージでも同じように先にプレイヤーが逃げて、後からインビジブルクリーチャーが追ってくるって設定になってる……まっすぐ逃げてもプレイヤーの一・八倍のスピードを持っているインビジブルクリーチャーには追いつかれてしまうんだ」
尊志「――そう。だから、プレイヤーはジグザグに逃げたり隠れたりして、インビジブルクリーチャーを巻かなければならない」
佳桜「……なるほど……」
尊志「直線で逃げても……逃げられた距離の三倍、ゴール地点までには距離がある。だから、どうしても作戦を練ってかわさなくてはならないんだ」
忠司「インビジブルクリーチャーは匂いで追ってこれる――だから、途中で湖とかを通って匂いを途切れさせないといけない」
小梅「水に浸かるの?やだな……」
尊志「ゴール地点にはシャワーとかあって暖まる事が出来るはずだ。だけど、水に浸かれば当然、体力も奪われる……。出来るだけ、ゴールに近い位置でやらないと悪戯に体力を削るだけだ。それに……食料の問題もある……」
佳桜「どういう事?」
尊志「ゲーム通りならゴール地点まで、最短でも三日かかるって事さ。それまで、飲まず食わずってのは辛すぎる……」
佳桜「そうね……どこかで調達しないと」
大「それとゲーム通りなら、インビジブルクリーチャーには通れない場所もあるはずだ。そこを上手く通っていけば、ゴール出来るはず」
尊志「当然、安全なエリアにはインビジブルクリーチャーは入って来れないが、食料は危険なエリアにのみ用意されている……。囮か何かを用意しないといけない場合だってある……戦略を練って逃げないといけないんだ」
美竹「ねぇ……私達、一体どうなっちゃうの?」
心理「考えるんだ……考えて全員、生き延びる方法を模索するしかない……」
松里「でも……どうやって……?」
尊志「【ブラッド・アース】はチュートリアルステージだけだろうから、意味が無いかもしれないけど――このゲームでは他の場所に着陸した仲間と合流出来るイベントもある。……仲間が増えるのは俺達にとっても有利に働くはずだ。恐らく他の班の奴らも別の場所でこのくだらないゲームをやらされているに違いないんだ。仲間を増やして、チャンスを見つけて奴を叩く……それしかない……」
佳桜「うん……」
尊志「それと忘れてはならないのがインビジブルクリーチャーの受けられる命令は一度に3つまでと決まっている……どんな命令を受けているのかは解らないが、三つ以上の命令を受理できる知能はない……その事も何かの利点になれば……」
――等と俺達は情報交換を繰り返した。
少しでも多くの情報を共有し――
それぞれが最善の動きを出来るように。
ただ、淡々と話し合った。
俺が、佳桜の事を好きとか嫌いとか――
そんなのを気にしている暇は無かった。
――生き残るためにただ、必死で数分の後に始まるであろうサバイバルの為の心の準備を各々と始めていた。
地上到着五分前にはみんな黙った。
呼吸を整える奴。
準備運動をして備える奴。
天を見上げて祈る奴。
様々だ。
俺は――
チラッと佳桜の方を見た。
彼女と共に生きたいからだ。
俺はもちろんだが、彼女にも死んで欲しくない……
例え、他の誰かが――例え他の奴、全員が犠牲になったとしても。
でも、そんな事は言えやしない。
俺達は全員生き残るというのが立て前としてあるからだ。
だけど、こういうものは大抵、脱落者が出る。
誰かが犠牲になるんだ。
それは俺かも知れない……
佳桜かも知れない……
嫌だ。
死にたくない。
俺はこの場から消えてしまいそうな不安に襲われる。
抜け駆けして一人だけ逃げてしまいたい。
そんな気持ちもわいてくる。
この死のゲームは一人一人の人間性もためされる。
生き残るため、誰かが誰かを裏切るかも知れない。
奴が俺達をそう呼ぶように……俺達は虎狼を――滝沢を裏切っている。
奴は俺達を信用して、自分が連続殺人鬼だと告白したのかも知れない。
理由はどうあれ、それを裏切って、俺達は警察に通報した…。
そして、その報いなのか、今は俺達が、お互いの信頼関係をためされる。
…あぁ…
あれこれ考えている内に地表が見えてきた。
一目でわかる……これはもう、俺達の知っている地球じゃない…
全く別の異世界に変わってしまっている。
今までいた世界はドラゴンやグリフォンが空を飛びまわっているなんてことはありえない……
そんなのお話だけのものだ……
フィクションの中だけのものだったはずだ。
こんな場所で生きて行かなくちゃいけないのか。
一体、元の世界はどうなってしまったんだ。
俺達は元の世界には帰れないのだろうか。
何も解らないまま死んでいくのだろうか。
着地まで、あと一分もないだろう。
佳桜とも離れたくない。
あぁ……だめだ、時間がなさ過ぎて考えがまとまらない。
ズウン――
そして、俺達はサバイバルの地へと降り立った。
死のゲームがまもなくスタートする。
第二章 チュートリアル ステージ
プシュウ……
跳ね上げ式扉(ハッチ)が開かれ俺達は一斉に飛び出す。
まずは、四時間――
この四時間の間に、俺達は出来るだけ宇宙船から離れなくちゃならない。
宇宙船にはインビジブルクリーチャーが潜んで居るんだ。
その怪物から少しでも遠くに逃げなくちゃならない。
佳桜を連れて行きたかったが、そんなことをしている余裕は全くなかった。
とにかく、生き残らなくちゃ話にならない。
俺達はバラバラに行動する。
これも、生き残る為の知恵だ。
ターゲットである俺達がばらければ、それだけインビジブルクリーチャーも追いにくくなる。
が、最初に狙われる奴にとっては意味はない。
そいつが犠牲になっている内に、他のみんながインビジブルクリーチャーとの距離を稼ぐというものだ。
そうだ、この方法は最初から、全員が生き残るという作戦ではない。
少しでも多くの人間が生き残るという作戦でしかないんだ。
この策には女性陣が強く反発したが、有無を言わせなかった。
他に方法が無いんだ。
見えない怪物相手じゃどうしようもない。
協力して戦っても、犬死にするだけだ。
だから、仕方が無かったんだ。
本当に仕方が無かったんだ。
俺はそう、自分に言い聞かし、がむしゃらに走った。
――どれくらい走っただろうか――
三十分、いやもうちょっとか……
そこまで来て後ろを確認する。
男性陣では俺が一番遅れているのか他の男子はみんな俺より先に行っている。
女性陣は――
少し遅れて、節理が来ている。
彼女はスポーツ万能だから、体力的にも男とそう変わらない。
問題は他の女子四人だ……
えーと……左側に小梅……右に……美竹が来ている……
松里と佳桜は……
いた……大分遅れて松里が来た……佳桜は……
――いない……何処だ、居ない……反対側に逃げたのか?
バカな――反対側は崖になっている……その下は海だ。
だから、みんなこっちに逃げてくるしかないのに……
何故来ない?
尊志「松里!……佳桜はどうした?こっちに来てない見たいだけど」
松里「うるさい!あの子が悪いのよ……私の前を走るから……」
尊志「松里……お前、まさか……」
俺は反射的に引き返す。
このままでは佳桜が……
佳桜が一人目の犠牲者になってしまうからだ。
松里「あ〜はっはっは……これで、佳桜と尊志……二人分の囮が出来たわ。これで……」
そう言うと松里は更にスピードを上げてかけだして行った。
くそっ……
解っていた事とは言え、こういう状況になるなんて……
俺は佳桜を探しに戻った。
佳桜「た、尊志君……なんで?」
尊志「か、佳桜……良かった……まだ、無事だったか……」
俺は佳桜を見つけホッとした。
彼女は松里によってだろうが。
深い穴に突き落とされて這い上がろうとしていた。
幸い、傷はないようだが、上手く上がれないようだった。
俺は、彼女に手を貸して彼女は上がってこれた。
生きていてくれて本当にホッとした――安心した……良かった……本当に……
そう思ったら目から水がこぼれ落ちた。
佳桜「何で、戻って来たの?」
尊志「そんなことは後だ――まずは出来るだけ離れよう……もう、一時間半は過ぎてしまった……他の奴らから大きく出遅れてしまった」
佳桜「私の事なんかほっとけば良かったのに……」
尊志「バカっ!そんなこと出来るか」
佳桜「尊志くん……」
本当は見捨てようという気持ちもちょっとはあった……
でも……でも……佳桜が死んでしまうかも知れないと思った時、身体が勝手に動いた。
俺の命に代えても絶対に、死なせたくないと本気で思ったんだ。
尊志「とにかく大分、時間をロスした。ここは少しでも遠くへ離れるという事よりもまずは……セーフティーエリアの確保を優先した方が良いな」
佳桜「ど……どうすれば……」
尊志「ゲーム通りなら奴は沼が苦手だ……湖とかは匂いは消せるけど、見られていたら追って来られる。だけど、沼は嫌がって入ってこない」
佳桜「……そうなんだ」
尊志「……あくまでも【ブラッド アース】通りならの場合だけどね――性格のひねくれた奴のする事だから百パーセントあてになる保証はないけどね」
佳桜「でも確か……このチュートリアルステージでは誰も殺すつもりは無いって……」
尊志「そう……言っていた。その後、ステージが十あるというなら、一ステージで一人殺すつもりだと考えれば、このチュートリアルステージで死んでしまうとステージ十まで誰も進めない計算になる。愉快犯の奴がギリギリまで楽しもうと考えていると考えるとこのステージはあまり、複雑な仕掛けは用意していないと考える方が正しいかも知れない……俺や忠司みたいに【ブラッド アース】のルールを理解している人間がいるのを知っていながらミーティングの時間まで与えた事を考えると……」
佳桜「そうね……そうよね……」
尊志「もっとも……奴にそれだけの事を考える知能があるとは思えないけどな……裏で糸を引いている奴がいる事を考えれば……他に何か意味があるのかも知れない」
佳桜「うん……」
尊志「あ……松里の事なんだけど」
佳桜「……仕方ないと思う……誰だって追い詰められたら……私だってやったかも知れないし……」
尊志「許せるのか?」
佳桜「わかんない――そんな事……彼女にあったらつかみかかるかも知れないし……でも悪いのは彼女よりもむしろ……」
尊志「そうだ……奴だ。全ての原因は奴が作ったんだからな。ぶっ飛ばすんならやっぱり、奴にするべきだ。その時は俺も協力する」
佳桜「うん……ふふっ、ありがと」
尊志「ははっ」
佳桜「生きて帰ったら……」
尊志「生きて帰ったら?」
佳桜「もう少し普通のお話とかしたいね」
尊志「……うん……そうだな…」
佳桜「……約束」
と佳桜は小指を出した。
俺は少し照れながら小指をからめ……
尊志「や、約束……」
佳桜「指切りげんまん……」
尊志「ゆ、指切りげんまん……」
俺は佳桜と一歩近づけた気がした。
だが、今は生きて帰る事が先決だ。
追ってくるインビジブルクリーチャーを何とかしなくてはならない。
後、一時間ちょっとであれは宇宙船から解放されて、俺達を追ってくるのだから。
だけど――
なんとしても生き延びたい。
そして、佳桜と……
そう思うのだった。
俺と佳桜が出来るだけインビジブルクリーチャーに対する準備をしていたが、時間となり、それは野に放たれた。
生き残るための戦いが始まろうとしていた。
見えない以上、それが何時来て何時攻撃を仕掛けるかは解らない。
ゲームでは他のプレイヤーがやられている時のみ、その動向がわかる。
では、現実では――
佳桜「尊志君……解る?」
尊志「……いや……解らない……やっぱり……」
佳桜「そうだよね……解らないよね……」
尊志「これからどうするかだよな……俺は佳桜がやられている間に逃げるなんて真似はしたくない……でもこれでは……」
佳桜「そうだね……この沼地から動けないね」
尊志「どうすれば……」
佳桜「私……考えたんだけど……何であのモンスターは沼地に来れないの?」
尊志「あぁ……ゲームでは沼の泥に含まれる成分が苦手って」
佳桜「じゃあ、この泥を持っていったらどうかな?」
尊志「え……」
俺は一瞬考える。
佳桜「だ……だめかな?」
佳桜がつぶやいた一言……よく考えたら……
尊志「ナイスだ、佳桜――それだよ、それ、全身に泥かぶって、泥を服とかに入れて持ち歩けば、怪物は近づけないはずだ……」
佳桜「うん」
尊志「ゲームでは泥は持って行けない……でも、現実は違う……泥は持ち歩けるんだ。……そうだよ……そうなんだよ――何も恐れる事なんてないんだ……行けるよ」
どうしても俺はゲームをやっている感覚で物を考えてしまう。
だけど、現実とゲームとでは設定等、相違点とかあるはずだ。
虎狼の奴も本気でこのチュートリアルステージで誰かを殺す事を考えている訳ではないんだ。
このステージは穴だらけだ。
隙間に入り込む余地は探せばいっぱいありそうだ。
最高だよ佳桜。
君は最高の女だよ。
俺と佳桜は早速、全身に泥をかぶり、俺はポケットに、佳桜はスカートに泥をためてその沼地を離れた。
「ぐるるるるっるるるるるるっるるるる……」
佳桜「た、尊志君……」
尊志「大丈夫だ、俺を信じろ、泥を落とさず普通にしていれば奴は近づけない」
佳桜「う……うん……」
佳桜には大丈夫と言ったが、俺も正直ブルっちまっている。
だけど、信じて行動するしかない……
立ち止まっていても体力は消耗していくし、飢えもする。
前に進むしかないんだ。
緊張しながら、俺達は進む。
しばらくすると音がしなくなった。
見えないから居るのか居ないのか解らない。
だが、獣は獲物を簡単には諦めたりしない。
虎視眈々とチャンスをどこかで探っているのかも知れない。
どうにかして、見える形で、インビジブルクリーチャーを振り切らないといけない。
――どうする?
――どうすれば良い?
俺は考える。
佳桜も考える。
安全を確保出来ない限り心が安らぐ事はない。
命がけの極度の緊張が俺達を支配する。
どこだ……何処にいるんだ。
怖い……
怖くてまた逃げ出したくなる。
嫌だ。
佳桜の前では絶対に逃げたくない。
彼女の前でかっこ悪いところを見せたくない。
そう考えながら少しずつ……少しずつ……俺達は目的地に向かって進んでいく。
見えない生物との一進一退の状態を繰り返しながら、少しずつ虎狼の指示したポイントに近づいて行った。
途中、食料なども泥を利用して調達し、新たに泥を作る為に捨ててあったペットボトルなどに水をくんでおいた。
水分は湖らしき所で補充したが、身体に泥がついているので、どうしても泥が混じった水を飲むことになった。
でも、背に腹は替えられない。
生き残るためには泥水だろうが飲むしかない。
俺と佳桜はお互いを励ましあいながら、少しずつ目的地に進んでいった。
そして、四日と3時間程かかってしまったが、なんとか生きてたどり着く事は出来た。
忠司から聞いていたのか、心理達の服も泥で汚れていた。
無事、一人も欠ける事無く、目的地には着いたようだ。
だけど、佳桜と松里との間には微妙な空気が流れていた。
松里は自分が助かるために佳桜を陥れたのだ。
そうなっても仕方がない。
女子の方では松里が美竹と小梅を仲間に引き入れ、佳桜は節理と一緒になり、分裂した形になった。
男子はその微妙な空気に気付いてはいたが、逃げる時に何も出来なかったという罪悪感からか、仲が良い状態をキープしているという体にして、仲違いには気付いていないふりをしていた。
俺も、気付いていないふりをしていたが、俺が事情を知っているのは佳桜も松里も知っている。
――これじゃ、だめなんだ――
仲違いなんかしている場合じゃないんだ。
仲間と協力して虎狼に立ち向かわないといけないんだ。
本当に悪いのはこんな状況を作り出した虎狼なんだ。
松里だって、死にたくないから仕方なくしただけなんだ。
それは、頭では解っているんだけど、佳桜の脚を引っ張った、松里に対しては俺も好意的な目では見れなくなっていた。
こいつのせいで佳桜は命の危険にさらされたと思うと、どうしても、松里が憎く思えてしまう。
冷静にならなきゃ――クレバーになるんだ。
そうも考えているけど、気持ちの上で怒りが先行して出てきてしまい、正しい判断が出来なかった。
その気持ちに気付いているのか――
松里「な、何よ……何か文句でもあるの?」
尊志「文句――なんかねぇよ……」
嘘だ。
本当は罵ってやりたい気持ちを俺は押し隠している。
俺が怒鳴ってしまったら、終わりだ、チームワークは崩れ去る。
その危険性が解っているから、俺はギリギリのところで踏みとどまっていられた。
全員が到着して――
つまり、最後に到着した俺達が着いてから、二十四時間の休息時間が与えられた。
先に到着したやつはその分だけ多くの時間が休息となっていたが、俺と佳桜はまる一日しか休憩時間が与えられない不利な状況となっていた。
その事が、解ったのは、ご丁寧に【お前らの休息時間】というプレートの下のカウンターが二十四時間からカウントダウンされていたからだ。
休息場所となっている建物にはそれぞれ、個室が用意されていた。
それぞれの場所で休めという事だろう。
佳桜「……ちょっと良いかな?」
尊志「佳桜……どうしたんだ?」
佳桜「うん……ちょっとね…」
シャワーを浴びた後、それぞれの部屋で、休息を取る事になってからしばらくして佳桜は俺の部屋を訪れた。
不安だったんだろう。
俺と佳桜はしばらく話をした。
最初は楽しかった時の話をした。
まだ、佳桜と親しく話が出来ていない頃の話だ。
その時、俺は意識していたが、彼女も何となく意識していた事等が解ったりして新鮮だった。
その後は、チュートリアルステージの話をした。
【ありがとう】と言われた。
俺は気の利いた台詞は何も言えなかった。
【うん……あぁ】と生返事を返しただけだった。
混乱していてどう返事をしたら良いのか解らなかったからだ。
気持ちの整理がついていない状態だったからだ。
だけど、少し気持ちを確かめ合ってほんのちょっとだけすっきりした。
佳桜が休むために部屋を出て行こうとした時、俺は彼女を見送った。
丁度、その頃、向かいの大の部屋から松里が出てくる所だった。
服装を見ると少し乱れている。
何かあったのか?
佳桜も不安で俺の部屋を訪れたのだ。
松里が他の誰かの部屋を訪れてもおかしくは無い。
だけど、何となく気まずい雰囲気だった。
松里「ふんっ……」
佳桜「………」
気まずい雰囲気のまま、松里は自分の部屋に戻った。
尊志「か、佳桜……」
佳桜「ご、ごめんね尊志君……解っちゃうよね?」
尊志「あれは佳桜が悪いんじゃ……ないと思うよ」
佳桜「うん……解ってる」
バツが悪そうな佳桜にかけてやれる言葉を俺は他に持ち合わせていなかった。
ただ、沈黙することしか出来なかった。
こんな気持ちのまま、ファーストステージをやるのか……
その事が不安でたまらなかった。
登場キャラクター紹介
001 東郷 尊志(とうごう たかし)

主人公。
002 宇崎 佳桜(うざき かおう)

ヒロイン。
003 片瀬 心理(かたせ しんり)

尊志の親友。
004 片瀬 節理(かたせ せつり)

心理の年子の妹。
005 久住 大(くすみ まさる)

尊志の友達。
006 氷川 忠司(ひかわ ちゅうじ)

尊志の友達。
007 反町 笙(そりまち しょう)

尊志の友達。
008 山谷 松里(やまたに まつり)

佳桜の友達。
009 日向 美竹(ひゅうが みたけ)

佳桜の友達。
010 鈴村 小梅(すずむら こうめ)

佳桜の友達。
011 滝沢 彰人(たきざわ あきと)/虎狼(ころう)

殺人鬼。