第一話 キャロルの登校

プロローグ

 史上最強の化獣(ばけもの)クアンスティータ……
 まだ、産まれてもいないその化獣の脅威を恐れてあまたの強者が雲隠れした。
 消えた先はロストネットワールド――
 クアンスティータの双子の姉、クアースリータが受け継ぎ所有する予定の世界だ。
 猛者達はクアンスティータの身内と関係を持ったという事で安心した。

 揃いも揃ってどいつもこいつも臆病者――
 いや、違う、クアンスティータが恐ろしく強すぎるのだ。
 強いからこそ、余計にその恐怖が伝わりどうしようも無く怯えたのだ。

 ロストネットワールドという世界の中で隠れた者達はルールを作り、ひっそりと生きる。
 決して、クアンスティータの視界に入らないように……


…………………………………………………………


「キャロル、起きなさい、何時だと思っているの」
 カヴァティーナがなかなか起きない娘を起こしに来た。
「う〜ん、ママ、後、五分だけ……」
「だめよ、今日から学校でしょ。遅刻しちゃうわよ」
 母のその言葉に娘キャロルはガバッと起きる。
「そうだった。今日からだったね。もう、早く言ってよ」
「さっきから言ってるでしょ。全く、起こしてと言うから起こしたのに、一応、貴女、プリンセスなのよ。そこの所自覚して……」
「実感わかないよ、そんなの。私、お姫様扱いされた事ないもん」
「ゴメンね、ママが神隠しになんてあったから……」
「それは言わない約束だよ。今は現実を受け止めて元の世界に戻る為に頑張ろうって決めたじゃない」
「あなたは強いわね」
「なんてったって【大先生】の弟子ですからね〜」
「ふふっ、そうね」
「行ってきまぁ〜す」
「行ってらっしゃい、気をつけていくのよ」
「解ってるって」
 カヴァティーナはキャロルを見送った。

 さて、何から説明しよう――
 まず、キャロルがプリンセスだという事――
 彼女はメロディアス王家第八王女キャロル・フレーズ・メロディアスという肩書きを持っている。
 彼女の母、カヴァティーナが現国王ブルースの第四王妃、カヴァティーナ・フィナリス・メロディアスだからだ。
 元の世界とは現実世界の事で、当然、彼女達の現在居る世界は現実世界ではない。
 ロストネットワールド――あまたの強者が寄せ集まっている世界、ネット状に連なったあまたの異世界が集まって出来た大世界だ。
 彼女達がいるのはその大世界の中の一つの世界にいる。
 カヴァティーナが神隠しにあってしまい、ロストネットワールドに引き込まれてしまったのだ。

 次に、キャロルの言う【大先生】とは誰の事か?
 それは芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)という名前の元の世界に居る英雄の事だ。
 彼は幼いながらにして、侵略者達から故郷の星、セカンド・アースを守っている。
 カヴァティーナは当時、幼い少女だったが、故郷を守ったのは自分よりさらに二つも年下の少年だと聞いて当時は驚いたのを覚えている。
 カヴァティーナは吟侍とは面識がないのだが、親友だった第六王女、ソナタ・リズム・メロディアスからよくその話を聞かされていた。
 吟侍が第七王女、カノン・アナリーゼ・メロディアスとどうやら付き合っているらしく、ソナタは微妙な立場に立っていたが、隠してはいても彼女の言動からソナタも吟侍の事を好きなことは十分に解った。
 その話をカヴァティーナは嫌と言うほど聞かされて育ち、やがて、成長して、彼女は現国王、ブルースに見初められ、四番目の妃となった。
 つまり、ソナタやカノンの義母となったのだ。
 そして、キャロルを身ごもってしばらくしたある日、突然、神隠しにあってしまった。

 突然の事だった。
 一人身重のままロストネットワールドに引き込まれたカヴァティーナにとっては藁にもすがりたい気持ちで不安だらけだった。
 そんな中、キャロルを産み落としてしまった。
 不安で仕方ない気持ちでいっぱいだったカヴァティーナは、ソナタの話していた吟侍なら何とかしてくれたのでは無いか?――そう思った。
 だが、吟侍は自分の事を全く知らない。
 何故、自分は吟侍と知り合いにならなかったのだ。
 それを後悔した。
 だが、ロストネットワールドの過酷な環境はそんな弱音を決して、許してはくれない。
 時の流れさえ現実世界とは違い、赤子であったキャロルはあっという間に年頃の少女に成長したからだ。
 自分の年がそれ程変化したように見えない事からも明らかに時間の流れが狂っているのが見て取れた。
 早く赤子の状態から戦力となる者に成長するように時間が調節されているらしい。
 成長したキャロルはカヴァティーナと親子というよりは姉妹のようだ。
 だが、娘の急速な成長はカヴァティーナに希望を与えた。
 それが吟侍という希望の存在のイメージと重なり、娘に吟侍という【大先生】を目指して頑張りなさい――
 【先生】なら気軽に会って教えてくれるけど、【大先生】はお忙しい方だから、あなたが頑張らないと会ってもくれないのよと教え込んだ。
 ソナタから吟侍のバトルスタイルを聞いていたカヴァティーナはその戦い方を自分なりに解釈して、それをキャロルに教えた。

 吟侍のバトルスタイル――
 それは創作バトル。
 戦い方を発想し、戦う度に戦い方を変えるという変幻自在のバトルスタイル。
 戦い方が千変万化するので、対戦相手にとっては非情に戦い辛い相手になる。
 【悪党泣かせ】とまで言われていた吟侍の戦闘スタイルはキャロルを納得させるには十分過ぎるものだった。
 やがて、キャロルは吟侍に憧れ、【大先生】と呼び、会ったこともない吟侍の弟子となった。
 そのスタイルでメキメキ力をつけてきたキャロルによって、それまで奴隷のような生活だったカヴァティーナ親子の生活は庶民の生活が出来るようになるまでに改善した。
 もう、近くに居るものでキャロル達に因縁をふっかけるものはいない。
 やがて、勇者を育てる女子の学校、【ブレイブ・ヒロイン・スクール】の書類審査に見事合格出来たのだった。

 ロストネットワールドは元々、どちらかというと勇者ではなく、勇者に倒される側、大魔王などが集まっている世界だ。
 勇者と言えば、敵対者に当たる。
 だが、ロストネットワールドの猛者達はあえて勇者学校を作り、カヴァティーナ達のようにロストネットワールドに迷い込んで来てしまった者達の中から勇者を誕生させて現実世界に排出させようとしていた。
 それはいずれ、現実世界に現れるとされているクアンスティータを倒して欲しいという願いの現れでもあった。
 もちろん、クアンスティータがただの勇者にやられる訳はない。
 だから、少なくともこのロストネットワールドのクエストを突破する実力がある者でなくてはならない。
 だが、迷い人達はそのままではどうしようもない。
 そこで、現実世界に戻るための通行手形を作った。
 迷い人達1人につき1つ、通行手形を手にしたら、現実の世界に戻すという条件を出したのだ。
 つまり、勇者としてクエストを最低でも1つクリアすれば、現実の世界に戻ることが出来るとしたのだ。
 そして、その制度を喜んだ、迷い人達はこぞって勇者を目指したのだった。
 が、元々烏合の衆だった迷い人達が簡単にクエストをクリア出来る訳も無かった。
 そこで、勇者としての基礎から教える勇者学校を設立させたのだ。
 学校への参加資格はある程度の腕が無くてはならない。
 箸にも棒にもかからない程度の基礎体力しかない者を鍛えても仕方ないからだ。

 この情報を聞いたカヴァティーナは娘の分と二人分の通行手形を手にする為に挑戦し、二回とも失敗した。
 これにより、カヴァティーナは勇者としての資格を永久剥奪された。
 失敗は二回までしか許されないからだ。

 そして、娘、キャロルがカヴァティーナの後を継ぎ、勇者となるために勇者学校に入る事になったのだ。
 キャロルは、自分の分と母、カヴァティーナの分、それにカヴァティーナの2回の失敗を帳消しにするのを合わせて4回のクエストを成功させないと親子で元の世界に戻る事は出来ない。
 可憐な少女キャロルの腕に重たい現実がのしかかったのだ。
 だが、彼女は負けない。
 いつか、ロストネットワールドを出て、吟侍大先生に会うんだという気持ちが強く、困難も苦とは思っていないのだった。


第一章 初登校


「ふんふ、ふんふ、ふーん〜」
 キャロルは楽しそうに登校する。
 これから、母の後を継ぎ、勇者としての第一歩を踏み出すんだと思うとワクワクするのだ。
 奴隷あがりのキャロル達の家は彼女の通う事になるブレイブ・ヒロイン・スクール13万41分校からはかなり遠い。
 だが、それでも彼女は嬉しかった。
 だって【13万41】……【いさましい→勇ましい】だからだ。
 語呂合わせでも勇者を目指す彼女にとってはとても縁起のよさそうな学校だからだ。
 吟侍のバトル・スタイルの基本はいきなり否定しないでまず、そこの良いところを探す事にある。
 良いと思ったものをバトルの素材として持ってくる事でそのスタイルが活かされるからだ。
 キャロルは普段の生活からそれを実戦しているのだ。
 普段の私生活からそれを怠らない。
 生活にそれが滲み出ているのだ。

 そんな彼女に声をかける者が現れる。
「ちょっとそこのあなた……」
「ん〜?私のこと?」
「そうよ、あなたよ」
「私が何か?エディスちゃん」
 キャロルは声をかけた者の名前を言い当てる。
「なっ、何で私の名前を?」
「あ、ごめんね、知らないと失礼かと思って調べさせてもらったの今。あ、名前だけだから、後は殆ど見てないよ」
「ななな、何をしたの?」
「うん、この技は私のオリジナルじゃなくて、【大先生】の技の応用なんだけどね。ホントの名前は【ウィークポイント・レシピ】って言って相手の弱点を調べる技で……これは、その応用、【ミステリアス・アンサー】って技だよ。相手のプロフィールをちょっとだけ覗けるんだよ。あんまり良いイメージの技じゃないから普段はしないんだけど、ゴメンね、咄嗟に出しちゃった」
「出しちゃったってあなた……」
「あなたの事を一部とは言え知っちゃったのにこっちが名乗らないのも失礼だよね。私はキャロル・フレーズ・メロディアス。一応、メロディアス王家ってところの王女なんだけど、お城で生活したことはないんだ。ママがこっちの世界に来てから私を産んだんで」
「お、王女なの、あなた?」
「一応は……でも、私は王女より、【大先生】のようなかっこいい勇者を目指してるんだよねぇ〜」
「誰よ、【大先生】って?」
「知らない?芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)大先生」
「知らないわよ、そんなの。何者よ、それ?」
「うん、実は私もよく知らないんだ。会った事ないしね」
「はぁ?それで、よく【大先生】なんて呼んでるわね?」
「ママから聞いたんだけど、凄いらしいよ。【大先生】。私のバトルスタイルはママから聞いて【大先生】のバトルスタイルを真似たものなんだ。だから、私のお師匠様でもあるんだよね」
「何言ってるのよ、それじゃ、あなたのママが師匠であって、芦柄 吟侍って人は関係ないじゃない」
「関係あるよ。私の夢は吟侍大先生に会うこと。会って色々教えてもらうんだぁ」
「変わった子ね、あなた。まぁ、良いわ、ついて来てくれない?貴女、結構強そうだから、手を貸して欲しいのよ」
「手を?はい、どうぞ」
 キャロルは手を差し出した。
「冗談を言ってどうするのよ?私は助けてと言ったのよ」
「あ、なんだ、そっか、てっきり私は手が必要なのかと」
「バカ言ってないで、入学試験なんだから。時間までに教室に入れなかったら、初日から退学よ」
「え?どういう事?」
 キャロルは状況が見えなかった。
「校門まで行ってないの?」
「行ってないよ。今、登校中だから」
「校門を抜けるには、くじで引いた門番のモンスターを倒さないといけないのよ。初日だから、実力に自信がなければ、誰か一人までなら助っ人を頼めるけど、同じ一年生の中から選ばなきゃいけないのよ。こう見えて、私は人を見る目があるから、ここで実力のありそうな1年生が来るのを待ってたのよ。そこに貴女が通りかかったって訳。おわかり?」
「うん、解った。だけど、協力して戦うっていうのはちょっと苦手なんだけど。【大先生】のやり方ともちょっと違うし……」
「そんなイジワル言わないで助けてよ、私、真獣ベスティア・フェラ引いちゃって困ってるんだから、あれ、私、苦手なのよ」
「イジワルしたつもりはないんだけど、ベスティア・フェラって強いの?」
「このパルティスの中じゃ上位に当たるモンスターよ」
「ふーん……まぁいいや、じゃあ、一緒に倒そうか」
「あ、ありがと、助かるわ」
 キャロルはエディスと力を合わせて戦う事に決めた。
 校門まで行くと、そこには一年生と思われる女生徒達が列をなしていた。
 校門には教師と思われる者達がいて、一年生はくじで引いた紙を教師に手渡す。
 すると校門がスライドして、校門の内側にモンスターが現れる。
 女生徒はそのモンスターを倒せれば、無事、教室へ向かう事が出来るのだ。
 やられても何度でも挑戦出来るが、時間内にモンスターを倒せなければ、そこで退学が決まってしまうというものだった。
 また、モンスターはくじで決められるので、そこに運も左右する。
 強いまたは、苦手なモンスターが当たるか弱いまたは、得意なモンスターが当たるかはくじを引いたものの運次第。
 くじは一回引いたら二度と引けない。
 つまり、一回、くじを引いてしまったエディスは二度と引けないので、手を貸してくれる女生徒を探していたのだ。
 待っていると、後ろに次の女生徒が並んで来た。
 そして、その女生徒が声をかけてきた。
「エディス、パートナー見つかったみたいね」
「シニョリーナ、あなたも助っ人確保出来たみたいね」
「うん、こちら、マーテリアさん」
「よろしく、マーテリアです」
「よろしく、こっちはキャロル、王女様だって」
「へー、王女様なんだ、でも、こういっちゃなんだけど、全然、そういう風に見えないね」
「よろしく、シニョリーナちゃんに、マーテリアちゃんね。うん、王女として生活したことないから、どちらかというと奴隷生活だったかな?」
「ど、奴隷って、それはまた、極端ね」
「うん、そうだね。でも今じゃ、標準生活になったよ」
「そ、そう……」
 キャロルの奴隷発言にビミョーな空気が流れた。
 奴隷なんて軽い気持ちで言える言葉じゃない。
 それをあっさり言えるなんて、よっぽど胆が座った大人物だと思う三人だった。
 そうこうしている内に、順番はキャロルとエディスの所まで回って来た。


第二章 入学テスト――VSベスティア・フェラ


 エディスは教師にくじで引いた紙を手渡す。
 校門はスライドし始めた。
 いよいよ、キャロル達の戦闘の番だ。
 エディスをパートナーとした今、キャロルにも選択権は無い。
 二人にはベスティア・フェラという真獣が立ち塞がる。
「ヴルルルルルルルル……」
 うなり声を上げるベスティア・フェラ。
 この奈落の底から聞こえてきそうなうなり声からもかなりの力を秘めているのがわかる。
 キャロルは助っ人という立場になってしまったので、最初の一分間は黙って、エディスの戦いを見ていなくてはならない。
 その一分でエディスが仮にベスティア・フェラを倒せれば、パートナーは解消し、キャロルは一人、くじを引き直す事になる。
 また、一分以内にエディスがやられてしまったら、二人揃ってまた、順番に並び直す事になる。
 仮にエディスが死んでしまったら、パートナーは解消出来るが、それは後味が悪い。
 つまり、キャロルにとってはどうしても、一分間、エディスにベスティア・フェラからの攻撃に耐えて貰わないといけないのだ。
「エディスちゃん、頑張ってぇ〜」
 手を振り応援するキャロル。
「か、簡単に言わないでよ、苦手だって言ったでしょ。一分たったらすぐに助けに入ってよ、お願いね」
「うん、わかったぁ〜。一分なんてすぐだよ」
「私には何時間にも感じるわよ」
「じゃあ、とにかく逃げに徹して。逃げ回るだけなら大丈夫でしょ」
「わかんないわよ。でももちろん、そのつもりよ。サポートよろしく」
「了解。まかせて」
「あ〜心臓がバクバクするわ」
「落ち着いて行けば大丈夫」
「根拠の無い事言わないでよ」
「根拠はあるよ。さっきの【ミステリアス・アンサー】には簡単な占い能力もあって、それによるとエディスちゃんは中吉だよ」
「び、微妙ね……」
「大丈夫、生き残れるって占いに出ている」
「信じるわよ」
「信じて」
 終始不安顔のエディスを励ますキャロル。
 そうこうしている内に、エディスとベスティア・フェラのバトルが開始された。

 ベスティア・フェラ――
 この真獣がこのパルティスにおいて上位に位置する理由はいくつもある。
 まず、体力。
 これは他の真獣の平均の21億2000万倍の体力を持っているとされている。
 体力消耗を狙っていても時間の無駄だと言うことを意味している。
 次に、腕力。
 これも他の真獣の平均値の5倍近くある。
 次は、スピード。
 これも他の真獣の平均値の3倍あるとされている。
 次は、回復力。
 これも他の真獣の平均値の23倍あるとされている。
 そして、特殊能力。
 触れた者が石化する爪、絶対零度の100万倍の冷気を持つ魂も凍る炎、様々な毒がある体毛、あびたものを溶かすブレス等々、いくつもある。

 ――が、それだけだ。
 基本的には他の真獣より体力面で優れているというだけ。
 特殊能力については、ロストネットワールド全体においては大したものは持っていない。

 パルティスにとっては上位に位置する真獣であっても所詮、入学テストレベルの真獣だ。
 この真獣に手こずっているレベルでは到底、元の世界に戻る事を許可されるレベルの女勇者にはなれないのだ。

 だが、実は、エディスは幼い頃、野良ベスティア・フェラに襲われた事があり、それで、苦手意識を持っていたのだ。
 ――が、ロストネットワールドで言えば、ベスティア・フェラは野良猫レベルだという事だ。
 猫を恐れているレベルでは到底勇者にはなれない。
 つまり、そういう事だった。

「きゃー来ないで、来ないで、来ないで」
「ヴルルルルルルルル」
「あっち、行ってってば、来ないでぇ〜」
「ヴルルルルルルルル」
「もう、一分たったよね。一分、早く助けに」
「落ち着いて、エディスちゃん。まだ、20秒だよ。後、40秒、頑張って」
「長い、死んじゃう。助けてぇ〜」
「大丈夫だって。エディスちゃんなら大丈夫だから〜」
「も、もう、一分たったよね」
「まだ、25秒だよ、後35秒だよ」
「ひー、もうダメ、もう捕まっちゃう、もう、嫌」
「大丈夫だから、後、30秒、もう半分回ったよ〜」
「お母さぁ〜ん。助けて、死んじゃう……」
「本当に大丈夫だから」
「ヴルルルルルルル」
「嘘よ、大丈夫じゃない」
 等と、かなりみっともないやりとりをしていた。
 教師達は苦笑いしていた。

 が、逃げに徹するなら1分くらいは何とかなるものだ。
 一分が経ち、教師が、キャロルの参加を認める赤旗をあげると

ドガンッ――

「ヴル…ル…」
 一発だった。
 ただの一発で、キャロルはベスティア・フェラを倒した。
 殺してはいないが、完全に気絶させた。
 体力自慢のベスティア・フェラを一撃で失神させるという彼女のポテンシャルの高さが試験官達に証明された。
 文句なく――
「エディス、キャロル組合格。教室で待機するように」
 との言葉を貰った。
「行こう、エディスちゃん。私達、合格だって」
「う、うん……す、凄いわね、あんた……」
「エディスちゃんのお墨付きだからね。このくらいなら余裕だよ」
「非力な女の子の一撃とは思えないわ。どうやったのあれ?」
「うん、あぁ、あれね。あれは【打撃変換】っていう私のオリジナル技だよ」
「【打撃変換】?」
「奴隷時代にイジワルしてきた怪物の中で一番攻撃力があった怪物の一撃を瞬間保存していたんだけど、それを拳に乗せて放出したの。やっぱりとっておいて正解だったな。後で、絶対に使えると思ってたんだよねぇ〜」
「しゅ、瞬間保存って……」
 呆気にとられるエディス。
 そう、キャロルは吟侍の弟子。
 吟侍のように、思いもしない所から攻撃方法を思いつく事が出来るのだ。
 これは彼女の恐ろしい程あふれている、強力な才能の氷山の一角、極一部に過ぎないのだ。
 彼女はまだ見せていない力がごまんとあるのだ。
「そんな事より、早く、教室行こ、楽しみだなぁ」
「決めた、私、あんたとチーム組むわ」
「ほんと?嬉しいな、よろしくね」
「こっちこそよろしく。あんた、凄いわ」
「凄くないよ、べつに。私は出来ることをやっているだけ」
「私には真似できないわ」
「そうかな?」
「そうよ、あんた、自分の才能を理解してないのね」
「才能?」
「超天才レベルよ、あんた」
「やだなぁ、エディスちゃん。おだてたって何も出ないよ」
「天然ね、あんた」
「天然?」
「何でもないわ、行きましょ」
「うん」
 二人は教室に向かった。
 その後も試験は執り行われ、合格者は51名。
 不合格者は5000万名以上だった。
 これは、全体でという事ではなく、13万41分校だけでの結果だ。
 分校は約1000億校あるので、合格者も不合格者もそれぞれ約その1000億倍と取って良いだろう。
 もちろん、これは今年度だけの話ではあるが。
 それだけ、難関だったという事だ。


第三章 クラスメイト


 今年度の13万41分校での一年生は51名という事で、17名ずつ3クラスに分かれる事になった。
 クラス毎での勝負もする事になるので、入学テストの実力が各クラス平均値になるように生徒は分けられた。
 幸い、エディスやシニョリーナ、マーテリアコンビとも同じクラスになれた。
 四人はすぐに打ち解けた。
 仲良しグループの誕生だった。
 キャロル達のクラスは一年二組。
 キャロル達以外にも13名のクラスメイトがいた。
 13名はいずれも入学テストをそれぞれ、一人の力で突破して来た女の子達だった。
 それだけ、実力には自信を持っていて、キャロル達の様に、コンビを組んで入学テストを勝ち抜いた生徒はむしろ落ちこぼれとして見ているふしがあった。
 13名それぞれが、bPを主張し、キャロル達のように、仲良くなろうという気持ちは持ちあわせていないのか、常に、教室で1名ずつでいた。
 そのため、グループを組んでいるキャロル達の方が浮いているという奇妙な構図ができあがっていた。
 それでも気にせず、楽しく和気藹々と会話していたら、勘に障ったのか、一人の女生徒が喧嘩をふっかけてきた。
「ギャーギャーうるせぇんだよ。こっちはてめぇらみたいに、群れなきゃ何にも出来ねぇ雑魚とは違って、このクラスで最強は誰か解らせるために、どうやってアピールするかを考えてるんだ。雑魚は雑魚らしく隅でじっとしてりゃいいんだよ」
「ちょっと、あんた、いきなり失礼でしょ」
「誰かと思ったら、入学テストで無様な醜態をさらしていた奴か。ここはてめぇのような臆病者が来る所じゃねぇんだよ」
 ベスティア・フェラに追いかけ回されるエディスを見ていたのだろう。
 名札には【ロヴァ】と書いてある。
「な……」
 二の句がつけないエディス。
「ちょっと失礼でしょ。エディスに謝りなさいよ」
 シニョリーナが抗議した。
「謝らせたかったら俺を倒して見てから言えよ。4人いっぺんで良い、かかって来いよ。実力の違いを見せてやんよ」
 挑発するロヴァ。
 それを黙って見ていたキャロルは――
「君はあっちにいる6人にアピールしたいみたいだけど、あっちの6人は誰も君の事を気にしていないみたいだけど?それに……あぁ、まぁいいかこれは……」
 と言った。
 キャロルは【ミステリアス・アンサー】である程度、クラスメイト達の事を把握していた。
 ロヴァが気にしていた6名の生徒、フィクラ、グーロッタ、スルクン、ミーラヤ、フェップル、ブリエは入学テストではこのクラスにおける上位の生徒達だ。
 ロヴァが目をつけるのも解る程の成績をたたき出しているのだが、キャロルはむしろ、そこには入らない三人の生徒、プリヴィエート、セリアード、フェーリエンの方が気になっていた。
 実力を隠しているのだろうが、恐らく、フィクラ達よりも実力は上だ。

 それ以外の生徒、ジャケット、マカルック、パロを含めた17名がキャロル達のクラスメイトとなる。
 キャロルのお目にかからなかったジャケット達三人でさえ、難関だった入学テストをあっさりと合格したのだから、かなりの実力者の集まりだという事に代わりはなかった。
 くせ者揃いの一年二組。
 恐らくは一年一組と一年三組にも同じ事が言えるだろう。
 残った生徒は難しい難関を突破してきた生徒達なのだから。

「つべこべ言ってないで表出ろや、こらぁ!」
 ロヴァは恫喝する。
 が、キャロルはすまし顔だ。
 奴隷時代にこういうやからから絡まれる事には慣れている。
 むしろ、絡んでくる様な相手は大概、大した事はない。
 その様子を見ている輩の方が遙かに厄介なのだ。
「仕方ないな……じゃあ、てきとーに遊んで来るからみんなは待ってて」
「きゃ、キャロル……」
「大丈夫、私は平気、慣れてるから」
 心配そうなエディス達ににっこり笑って答える。
 むしろ心配なのは、入学準備が整うまで教室で待機という事を言われているので、後で怒られないかの方だった。

「一人で来た事を後悔させてやんよ」
「お構いなく」
「その余裕顔が気にいらねぇんだよ」
「あなたは本当に試験突破出来たの?精神面で随分、不安が残るけど?」
「黙れ、行くぞ、おらぁ」
 攻撃をしかけるロヴァ。
 彼女は拳を握る度に体質変化を繰り返した。
 攻撃パターンを変化させて攻撃するタイプのようだ。
 だが、彼女の攻撃が当たる事は無かった。
 表に出た時、キャロルは気を練り上げて細かい光妖気(こうようき)で出来た糸、ソウルネットを作り出し、回りのいたるところに張り巡らせていた。
 攻撃を開始した頃には既にトラップは仕込み済み。
 体質を細かく変質させて、揺さぶりをかけようとフェイントで攻撃を仕掛けて来たのが仇となって、ソウルネットが絡みつき、キャロルに向かう頃にはぐるぐる巻きで身動きが取れなくなっていた。
 戦う前から勝敗は決していたのだ。
「もう、良いでしょ?」
「ほどけ、くらぁ〜」
「解く力もないの?」
「くそがぁ、放せおらぁ〜」
「………」
 怒鳴り散らすロヴァを悲しい表情で見詰めるキャロル。
 やがて来る彼女の運命を察していた。

 やがて、騒ぎを聞きつけた教師達が現れ、キャロルとロヴァの前に立った。
「先生……」
「一年二組キャロルだな。良いから、君は教室に戻っていなさい。後はこちらで処理しておくから」
「はい……」
 教師に促され、そのまま教室に戻るキャロル。
 それを見届けた教師メイリーはふり向き、
「一年二組ロヴァだな」
 とつぶやいた。
「な、何だよ……」
 口調では強がってはいても、ロヴァは動揺を隠せない。
「君の不正入学が確認された。試験を受けたのは二年のヴマだという事が解った。彼女は君の姉だね。今、ヴマの退学が決まった。当然、君の入学も認められない。君達二人は放校処分とする」
「な、なんで……」
「女勇者となるにふさわしくない人格と判断されたからだ。君達には二度と我が校を受ける資格は無くなることになる」
「そ、そんな……」
 ロヴァは肩を落とす。
 そう、彼女は焦っていたのだ。
 不正で入学出来たは良いが、実力を示さなくてはこの学校では生き残れない。
 だから、クラスの実力者に自分は強いんだという事を示す必要があったのだ。
 だが、それは実力のある生徒達はそれを見抜いていて相手にしていなかった。
 姑息な手段で生き残った者とは格がまるで違う生徒達が残っていたのだから。

 こうして、一名、除名処分となり、一年二組は十六名となったのだった。
 解ってはいた事だったが、キャロルにとっては後味の悪い事をしたと思った。
 これが、入学初日に起きた出来事だった。


第四章 二日目の授業


「キャロル〜朝よ〜起きなさい」
「う、うーん…あと五分だけ」
「何言ってるの。遅刻しちゃうわよ」
「解ってるって……」
「解ってないでしょ。眠ってるじゃない」
「はーい……今、起きまぁ〜す」
 母、カヴァティーナとの朝のいつものやりとりがある。
 昨日、学校で気持ちの良くない事があったが、一旦、家に帰れば安心して甘えモード全開のキャロルだった。
 急速な成長をしているが、キャロルは本来なら、まだ、赤ちゃんなのだから。
 急成長による身体の芯の疲れが夜に出てしまうため、どうしても朝は起きられないのだった。
 身体の奥では母親に甘えたいという衝動がどこか残っているのだ。
また、知識の上でもかなり頼りにしている。
 今日も母に教えてもらいたい事があった。
「ねぇ……ママ……」
「なぁに?スープが冷めちゃうわよ」
「聞きたい事があるんだけど」
「良いわよ。ママが答えられる範囲であれば、何でも答えてあげるわよ」
「うん……今日の授業の事なんだけど……」
「今日の授業はどんな事をやるの?」
「雑学だって」
「そう、雑学……」
「クアンスティータ学っていうのをやるんだって」
「……そう……クアンスティータ……」
「やっぱりその顔は知ってるんだね、クアンスティータってのがなんなのか」
 キャロルは昨日、今日の授業の予告としてクアンスティータ学の名前が出た時、殆どの生徒は顔面蒼白になっていたのを思い出した。
 母親も同じ顔をしていたのだ。
 顔面蒼白になった生徒達、それは――
 おそらく、クアンスティータがなんなのか知っている生徒達だ。
 キャロルはロストネットワールド育ちなので、クアンスティータという名前はチラッとだけ聞いた事はあるが、大抵、その言葉の後にはみんな口をつぐんでしまう。
 まるで、聞きたくない言葉を聞いたかのように、そそくさとみんな会話の中心から離れてしまう。
 結局、うやむやになってしまって、キャロルには何の話だか解らないまま終わっていた。
「やっぱり、避けては通れないわね。このロストネットワールドにいる限り。出て行くからにはその名前と正面から向き合わないといけない訳だしね」
「どうしたのママ?顔色悪いよ。無理に話さなくてもいいんだよ」
「ううん。やっぱり話すわ。あなたの【大先生】、吟侍くんはクアンスティータに唯一、対抗出来るんじゃないかと言われていた勇者なの。つまり、吟侍くんが一目おかれるようになったのはそのクアンスティータと対抗出来ると言われているからなのよ」
「【大先生】のライバルって事?」
「……残念ながら、ライバルにはならないと思うわ。クアンスティータの力は異常過ぎるという言葉も当てはまらないくらいの特別なものだと聞くわ。いかに、吟侍くんとは言え、生きて帰る事が出来るかも知れない……そんなレベルだと思う。吟侍くんの育ての親、ジョージ神父に聞いた話だと、現実世界では、最強を目指してはならない。最強はクアンスティータだけのもの。だから、その他の存在はbQを主張する。bQを名乗る者なら相当な数が居る。だけど、最強を目指したとたんに抹殺されると言われているわ。このロストネットワールドもbQを名乗る猛者達がクアンスティータを恐れて隠れ住んでいる世界とされているわ。ロストネットワールドはクアンスティータの姉、クアースリータが支配する世界になるから、クアンスティータと身内になれて難を逃れる事が出来ると言われていてね。つまり、クアンスティータとはそれだけの存在なのよ。ロストネットワールドの全勢力が束になっても敵わないくらいのね」
「そんな、凄いのが、現実世界にはいるんだ?」
「正確にはまだ、いない。クアースリータ同様に産まれていないのよ。産まれていなくてもその恐ろしさは隅々にまで浸透しているわ。」
「すごいね、それ」
「だけど、このロストネットワールドでは吟侍くんの様に、クアンスティータに対抗出来ると認められなければ、出ることが出来ないのよ。いくら強くてもクアンスティータにまるで歯が立たないと判断されれば、出ることは叶わないの」
「そうなの?」
「そう」
 カヴァティーナの話はキャロルにとって衝撃的だった。
 今まで、何で、吟侍が凄いのかよく解っていなかったが、クアンスティータという規格外の超化獣(ちょうばけもの)と対抗する力を持っているという事が吟侍をさらに凄い存在だと尊敬する材料となった。
 もっとも、カヴァティーナの方はどう考えてもソナタから聞いたレベルの吟侍ではクアンスティータには近づく事すら叶わないと思っているが、娘、キャロルの希望を奪いたくないと思っていた彼女はその事をふせておいた。

 母から、クアンスティータの情報をある程度聞いたキャロルは13万41分校に二日目の登校をしたのだった。
「おはよう、みんな」
 キャロルはエディスとシニョリーナとマーテリアに元気に挨拶をする。
「あ……おはよう……」
「おはよう……」
「おはよう……」
 心なしかみんな元気が無い。
 今日の授業予告を受けた時からずっとだ。
「どうしたの、みんな、元気無いね」
 キョトンとした表情でキャロルは訪ねる。
 マーテリアは
「それはそうですよ。覚悟はしていましたけど、改めてクアンスティータの名前が出されるとへこみますよ」
 と言った。
「別に、クアンスティータを倒さなくても良いんじゃない?対抗できる力を示せれば、手形を貰えると思うけど。元の世界に戻った後でクアンスティータに挑戦するしないは私達の勝手じゃない?」
 とキャロルは励ました。
 が、シニョリーナは
「対抗出来るレベルっていうのも今の私達からすると果てしなく遠い目標なんだよね。本当に、そこまでレベルアップ出来るのかも不安だし」  とネガティブな事を言った。
「クアンスティータは産まれて無いって聞いたよ。産まれてもいないものを恐れても仕方ないと思うけど?」
 キャロルは何で、そんなにみんなが落ち込んでいるのかよく解らない。
 エディスは
「何度レベルアップしても全く追いつかない。むしろ、その力の差をどんどん理解できて絶望する。それが、クアンスティータっていう化獣のレベルよ。あんたもその途方もない絶望感を感じるようになるわ」
 と言った。
 キャロルはどうもいけないなと思った。
 みんな、やる前から諦めている。
 そんな状態だと出来る事も出来なくなる。
 キャロルの持論はそうだった。
「みんな、ポジティブに行こう、ポジティブに」
「あんたは脳天気でいいわね」
「同感です」
「キャロルちゃんはまだ、よくクアンスティータを知らないから」
 やる気を促そうとするキャロルに対して、冷めた反応の三人。
 何で、そんなにマイナス思考なんだろうと思ったキャロルだが、今日の授業を聞いて、その意味をある程度理解した。

 クアンスティータ学――
 それは、通常の基準では計れないために、クアンスティータをある程度理解するためにもうけられた基準の学問だった。
 クアンスティータの為だけにあり、単位から言って、クアンスティータ以外ではまず必要ないものの集まりだった。
 クアンスティータにして言えば、頑張れば勝てるというレベルの話では無かった。
 ただ、クアンスティータの恐ろしさを示すだけの学問だった。
 だが、これはふるい落としの意味ではこのロストネットワールドの勇者にとっては必要な学問だった。
 この学問で震え上がって足が竦む程度では全く話にならないからだ。
 最低でも、このクアンスティータ学をなるほどな程度に聞き流せる程にはならないとロストネットワールドから出られるレベルの勇者には到底なれないのだ。
 昨日の時点では、まだ、ロストネットワールドから出たいために入る学校への入学という気持ちが強かったが、今日は違う。
 出るためにはクアンスティータに対抗できる力を身につけるという絶対条件が提示されたのだ。
 この授業を受けて初めて、学校を卒業するのは無茶苦茶大変だという事実を突きつけられる。
 簡単に卒業できるなら誰も、大魔王達がたくさんいるロストネットワールドの中にわざわざ、勇者学校など作りはしない。
 大魔王達は安心したいのだ。
 多くは望まない。
 ロストネットワールドの中で、君臨できればそれでいい。
 だが、クアンスティータは何とかしたい。
 その切実な思いで自分(大魔王)達が倒されるというリスクを込みで誕生させた学校なのだから。
 今日の授業を聞いて、一年二組からはジャケットとマカルック、パロの三人が学校を去った。
 やはり、実力の差を思い知らされたからだろう。
 エディス達も危なかったが、何とか宥めて学校には残ったが、いつやめてもおかしくないような授業内容だった。
 雑学だけだったのだが、それでも、ふるい落としには十分な授業だった。
 これで、一年二組はキャロル、エディス、シニョリーナ、マーテリア、フィクラ、グーロッタ、スルクン、ミーラヤ、フェップル、ブリエ、プリヴィエート、セリアード、フェーリエンの13名となってしまった。
 一年一組と一年三組も何名か脱落者を出しているようだ。
 たった2日で4名が辞めるという状況だが、ブレイブ・ヒロイン・スクールでは毎年ある当たり前の光景だった。
 入学してからもその過酷さ故に毎年ふるいにかけられて、脱落する生徒がポロポロでてくるのだ。
 今年もそれがあった。
 ただ、それだけの話しだった。
 卒業するためには歯を食いしばって頑張るしかないのだ。
 こうして、またも脱落者を出した、二日目の授業は終了した。
 二日目終了時点で一年生の数は一組14名、二組13名、三組13名の合計40名にまで減っていた。
 過酷なサバイバルを思わせるような状態だった。
 去る者は追わずが、この学校のルールだ。
 この学校を去った者は心が折られ二度と、このロストネットワールドから出ようとする気持ちにはならなかった。
 明日からは一週間、休みだった。
 今日の授業を受けて、じっくり、学校に残るかどうか考える時間を与えられたのだ。
 やる気が残っていれば、キャロル達は一週間後、担任のメイリーの元で次の授業を受けることになっている。
 本格的な授業はその一週間後からになるのだ。


第五章 リフレッシュと友達


 与えられた一週間の内、三日間はキャロルも悩んだ。
 これからの事。
 自分が置かれている状況。
 学校を卒業しなくても手形は取れるという事。
 友達の事。
 色々悩んだ。
 だけど、結論は友達と一緒に学校を卒業して、手形を貰いたいという気持ちが一番強かった。
 となると、気になるのはエディス達の事だ。
 彼女達はキャロル以上に意気消沈していた。
 このままでは彼女達は学校を去るかも知れない。
 そんなの嫌だ。
 出会って、まだ、間もないとは言え、せっかく仲良くなったのだ。
 みんな仲良く卒業というのが望ましい。
 そう考えるとみんなは何をしているんだろう……。
 そう思うようになった。
 いてもたってもいられなくなり、キャロルはかけ出す。
 みんなに会って話し合いたい。
 これからどうするか。
 みんなはどう思っているのか?
 確かめたい。

 キャロルはただひたすら走った。
 ある場所を目指して、ただひたすら走った。
 ある場所――
 登校時にみんなで待ち合わせしようと決めた竜面樹(りゅうめんじゅ)の下に向かって、みんなが待っていてくれると信じて。
 ただ、走った。

 竜面樹につくと――
 いない……そんな……
 そう思ったけど、違った。
 竜面樹の後ろに隠れていた。
 エディスだ。

「へへっ……気づかなかったでしょ?気配の消し方覚えたんだ」
「エディスちゃん……」
 何だかホッとして涙が出てきた。
「シニョリーナとマーテリアも来てるよ。今、みんなでお菓子食べようと思って、買い出しに出てる……どうしたの?」
 みんなが待っていてくれた事が嬉しくてエディスについ、抱きついてしまった。
 キョトンとしたエディスは何だか解らない状態だ。
 この竜面樹に来ていたという事は残るという意思があるという事だ。
 それが解ったら泣けてきたのだ。
 一番才能があったキャロルが一番涙脆かった。

 みんなで卒業しようという気持ちはみんな一緒だった。
 クアンスティータが怖くないと言えば嘘になる。
 だけど、怖いのはみんな一緒。
 その恐怖に打ち勝った者がこのロストネットワールドでは勇者と呼ばれるのだから。

 後から合流してきたシニョリーナとマーテリアを交えて友情を深める四人だった。
 一緒に卒業しよう。
 一緒に勇者になろう。
 一緒にロストネットワールドから出よう。
 共通の目的を確認して、四人はその日、リフレッシュとして、あちこちで遊び回った。
 戦いを強要されているけど、みんな年頃の女の子。
 普通の女子と一緒で遊びたいさかりなのだ。

 休暇の残りはまだある。
 残り時間は遊び倒そうと決めた四人は次の日もその次の日も竜面樹の前で待ち合わせて遊びまくった。
 時が来れば、この竜面樹の前は登校前の待ち合わせ場所にかわる。
 だけど、友情を深めたこの休みの間だけは、楽しく過ごすための待ち合わせの場所だ。
 四人にとっては大切な思い出の場所となった。

 四人はまだ、他のクラスメイト達と打ち解けていない。
 授業も本格的になるだろうから、今まで以上に厳しくなる。
 だけど、くじけそうになったら、他の誰かが励まそう。
 そうしてみんな、強くなって、抜け出すんだ。
 そう誓った。

 そして――

 一週間はあっという間に経ち、再び登校する日がやってきた。

「キャロル〜起きなさい」
「ママ、もう、起きているよ」
「あら、珍しい。どうしたの」
「この前までは何となくだったけど、明確な目標が出来たんだ、私」
「どんな?」
「友達とみんなで学校を卒業する事。もちろん、ママも一緒だよ」
「キャロル……」
「さーて、やるぞぉ。ドンと来い、試練ちゃん」
 キャロルの戦闘準備は万全だった。
 今日からまたブレイブ・ヒロイン・スクール第13万41分校に登校する。

続く。

登場キャラクター説明

001 キャロル・フレーズ・メロディアス
キャロル・フレーズ・メロディアス
 ロストネットワールドで産まれた、本作の主人公。
 パルティスの勇者女学校13万41分校に通いながらロストネットワールドから目指す女の子。
 元の世界では、メロディアス王国の第八王女。
 母親であるカヴァティーナから芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)という少年の事を聞かされ、彼を【大先生】と尊敬し、彼のバトルスタイル、創作バトルを真似るようになる。











002 カヴァティーナ・フィナリス・メロディアス
カヴァティーナ・フィナリス・メロディアス
 キャロルの実母であるメロディアス王国第四王妃。
 ある日突然、神隠しに遭い、ロストネットワールドで生活をする事になる。
 脱出を試みるも失敗し、マイナス2ポイントで勇者の資格を剥奪されている。
 赤ん坊だったキャロルが急激に成長し、自分とそれほど年が変わらなくなった事から、キャロルに脱出の希望を託すようになり、彼女の身の回りの世話をしている。
 親友のソナタから聞かされた吟侍を最後に残った希望としてキャロルに伝える。











003 エディス
エディス
 キャロルが勇者女学校に通うとき、最初に声をかけて来た女生徒。
 入校テストの相手が苦手な真獣ベスティア・フェラだとしり、助っ人として、キャロルを見つける。
 生徒としては落ちこぼれ気味だが、人を見る目は確かなものがある。
















004 シニョリーナ
シニョリーナ
 エディスの友達で、彼女も苦手な相手とあたり、パートナーとしてマーテリアを連れて来た。
 少し気が強い所があるが、仲間意識が強い。


















005 マーテリア
マーテリア
 シニョリーナが連れてきた助っ人で礼儀正しい女の子。
 黄緑の肌をしている宇宙人でもある。
 仲良し4人組の一員となる。


















006 真獣(まじゅう) ベスティア・フェラ
真獣ベスティア・フェラ
 くじ運の悪いエディスが入門テストの相手として引いてしまった真獣。
 滅茶苦茶強いが、勇者女学校では野良猫レベルとされている。
















007 メイリー
メイリー教官
 キャロル達を受け持つ事になる勇者女学校の教官。