序章タイトル

 序章 事の発端

「母さん、これからは僕が一緒についているよ」
「私の事は良いの。それよりよく聞きなさいフェリクス。あなたには妹達を探し出して欲しいの。バラバラになった家族をまた、一つに戻したい。それが私の最も求める事。だけど、今の私ではそれは不可能。だから愛するあなたにそれをやって欲しいの」
 母と子の会話。
 だけど、この二人はただの親子ではない。
 特別な関係の親子でもあった。
 少年、フェリクスは偉大なる父、バティスト・セドリックとアンジェリーヌとの間に生まれた待望の男子だ。
 バティストは万能師(ばんのうし)と呼ばれ、数多くの他の者には真似の出来ない秘術を生み出していた。
 そんな彼も寄る年波には勝てず、晩年は自身が生まれ変わる事だけを考えていた。
 彼が思いついたのは彼と女性との間に子供を作り、その子供に自身が転生するというものだった。
 転生することに狂った彼は女性達との間に次々と子供を作った。
 同性である男児に転生することを希望した。
 が、生まれてくるのは女児ばかり。
 しかも、関係を持った女性達は圧倒的なパワーを持つ、バティストの子供を産み落とすのに力を使い果たし、全て、死亡していた。
 バティストの子供を産めば死ぬ。
 その事実が英雄だった彼から女性を遠ざけた。
 十四名の女性との子作りに失敗した彼が取った方法は人の道を外れるものだった。
 彼は自身の長女との間に子供を作ったのだ。
 そして、生まれてきたのがフェリクスという少年だった。
 つまり、フェリクスにとって、母、アンジェリーヌは半分は母親であり、半分は姉でもあるのだ。
 巨大なパワーを持っていたが故にアンジェリーヌは死ぬことは免れたが、実の娘との間の禁断の行為に対して、アンジェリーヌの妹達は過剰に反応し、父、バティストを殺害してしまった。
 そして、その事が切っ掛けで妹達は散り散りに出て行った。
 母、アンジェリーヌにとって、愛する妹達の幸せを奪ってしまったのは自分と父親であり夫となったバティストであるという罪の意識が残った。
 そのため、いつかバラバラになった家族を一緒にしたいというのが、彼女の心からの願いでもあった。
 だが、その願いを叶える事は今のアンジェリーヌには不可能だった。
 彼女は下半身不随になってしまったからだ。
 彼女にとっての不幸はバティストの死と妹達との生き別れだけではすまなかった。
 バティストの知財を巡って、さまざまな組織が息子、フェリクスを狙って来たため、彼女は愛息を守るために必死で戦わざるを得なかったからだ。
 生前、バティストは自身の力を息子に移すと触れ回っていたからフェリクスが何かを得ていると考えた組織が彼を狙いだしたのだ。
 その戦いの最中、彼女はフェリクスを守るために、背中に大きなダメージを負い、下半身が動かなくなった。
 だが、不幸中の幸いか、アンジェリーヌは例え一人になっても自分の身は自分で守れるように、フェリクスの事を鍛え上げていた。
 だから、動けなくなった今、希望を息子に託そうとしていた。
「僕が姉さん達を探しに行ったら母さんはどうするんだよ?」
「私は大丈夫。私だって、父さんの娘よ。多少、身体が不自由になったくらいで、生活が出来なくなるような事はないわ」
「だけど、刺客とか来たら……」
「刺客は、あなたを狙っているの。私じゃないわ。出来れば、あなたを守ってあげたいけど、一緒に居れば、私はあなたの足手まといになる。だから、別々に行動するの。あなたには私の出来る限りの技能を教え込んでいる。その力で私の妹達、あなたのお姉さん達を探し出して欲しいの。お願い」
「解った。だけど、僕は父さんが嫌いだ。家族をこんなに不幸にして。死んでせいせいしてるよ」
「そんなこと言わないで。父さんは寂しかった人。人の愛し方が解らなかった。それだけの人」
「父さんが余計なもの考えたりするから家族が不幸になったんだ」
「余計なものじゃない。父さんの知識で助かった命もたくさんあるの」
「他人をいくら助けたって仕方ないじゃないか。家族が……」
「違うわ。父さんが悪かった訳じゃない。人は弱いから便利なもの、強い者にすがってくる。父さんは人に頼られるものを考えた人。そこは誇って良い事よ。人間は便利なものでも使い方があまり上手じゃないの。不幸だと考えるのは上手に使いこなしてないからよ。知識というものは上手く使えば、良いものなのだから」
「僕には解らないよ」
「少しずつ理解していって。男の子だもんね。少し冒険した方が良い。冒険して多くの事を学んで来なさい。そして、父さんを超えるような良い男に育ってね。母さんは、姉さんはそれが一番嬉しいわ」
「母さんは何でいつも父さんの肩を持つんだよ?父さんが考えたもののせいで……」
「なんのせいでという考えはいけないわ。何のお陰でという考え方に変えなさい。何かのせいにしていたら、人は成長できないわ。何かのお陰で何が出来た。そう考えなさい。そうすることで見えてくる世界もあるわ」
「母さんの言うとおり姉さん達を探してくるけど、僕は父さんを認めない。姉さん達は間違った事をしたわけじゃない。父さんはあの時……」
 死ぬべきだったと言いかけてフェリクスは口ごもった。
 アンジェリーヌの悲しそうな顔が目に映ったからだ。
「行きなさい、フェリクス。行って、姉さん達と話してあなたなりの真実をその目で見極めなさい」
 アンジェリーヌはそれだけ言うと、目を閉じた。
 それは、もう行きなさいという合図だった。
「……行ってきます」
 あふれ出る涙をぬぐってフェリクスは駆けだした。
 彼が見えなくなった頃アンジェリーヌは目を開けて
「いってらっしゃい。待っているわ」
 そうつぶやいた。

 フェリクスは旅に出る。
 長女アンジェリーヌを別とすれば、彼の姉は十三名。
 次女 ミレーヌ
 三女 マリレーヌ
 四女 ジョセフィーヌ
 五女 カトリーヌ
 六女 レオンティーヌ
 七女 セレスティーヌ
 八女 エリアーヌ
 九女 ジャクリーヌ
 十女 ファビエンヌ
 十一女 ジュリエンヌ
 十二女 ロクサンヌ
 十三女 クリスティーヌ
 十四女 ヴィオレーヌ
 生き別れとなってしまった姉たちを捜して彼は宛のない冒険へと足を踏み出していった。




キャラクタータイトル

 001 フェリクス

フェリクス  本作の主人公。
 偉大なる万能師(ばんのうし)バティスト・セドリックと一番上の姉、アンジェリーヌとの間に生まれた数奇な運命の少年。
 父殺害を切っ掛けにバラバラになった姉たちを捜す旅に出る事になり、万能師を継ぐ者として、父の知財を狙う者達に狙われる事になる。




002 バティスト・セドリック

バティスト  フェリクスの実父。
 万能師(ばんのうし)と呼ばれ、彼の残した知財はあらゆる組織が狙っているとされている。
 自分の力を伝達させるために、男子が生まれる事を望んでいたが、女子ばかり産まれていたため、禁断の手段として、一番上の娘との間に子供をもうける。
 それで生まれたのがフェリクスで、それが切っ掛けで、他の娘達によって殺害されることになった。


003 アンジェリーヌ

アンジェリーヌ 偉大なる万能師(ばんのうし)バティストの一番上の娘であり、主人公、フェリクスの母となった女性。
 フェリクスにとっては半分母であり、半分姉であるという微妙な立場である。
 自分のせいで、妹達が父を殺し、家族がバラバラになってしまったと思い、フェリクスに妹達を捜して貰うように依頼する。




 

ダミーイラスト

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