第0話 僕の視点



01 春都の悩み


 ――僕の名前は夏川 春都(なつかわ はると)、2年生をやってるんだ。
 気になる先輩が僕にはいる。
 幼馴染みでもある清花(さやか)さんだ。
 上島 清花(うえしま さやか)――この学校の3年生で生徒会長をやっている才媛だ。
 才媛と言っても、本人の性格はそれっぽくない。
 さばさばした感じの女性だ。
 勉強も出来てスポーツ万能……
 気さくで誰でも分け隔て無く接する人気者で生徒会長は3年連続やっている。
 これは学校が始まっていらいの異例中の異例の快挙として語り継がれている…。
 入学していきなり全国トップの成績を取って見せた彼女はその年の生徒会選挙に立候補して、瞬く間に票を集め、1年生にして生徒会長になって見せたらしい…。
 そして、二年、三年と連続当選…
 今に至るという凄い先輩だ。

 でも、彼女は少し変わっている……
 生徒会長というのも目的の手段の一つに過ぎないという。
 あくまでも、彼女の目的は生徒会長と兼任している【人間観察部】なる部活を維持するためだという。
 清花さん達、数人が所属しているその部活は変わり者の人達が集まる部活みたいで、その活動自体は謎に包まれている…。
 その部活を存続させるためだけに生徒会長になったのだ。

 そして、実は、僕はその謎の部活に誘われている。
 
「はーるとっ!」
「さ、清花さん、当たってるから…」
 清花さんは後ろから僕に抱きついた。
 何となく胸を押しつけられているような感じがする。
「当たってるって何が〜?」
「だ、だから……その……」
「だからその、じゃわからないよ〜ほれほれ、言ってみそ〜(笑)」
 【胸】ですとは言えない……
 恥ずかしいからだ。

 昔は一緒にお風呂にも入った仲なんだけど、清花さんが成長していく内に、僕は女性として意識しだしてしまった。
 とても、美しいと思う……
 正直、好き……なんだと……思う……
 だから、清花さんとのスキンシップは嬉しくないと言えば嘘になる。
 だけど、僕は男だから、出来れば、リードしたい。
 男として……
 でも、恥ずかしさが先に立って、つい、心にも無い事を言ってしまう。
「なーに、ブツブツ言ってんのよ、それで、決めてくれた?」
「決めたって……」
「決まってんでしょーが、人間観察部への入部よ」
「だ、だけど……」
「はっきりしなさいよ、私、あんたのそういう所が好きじゃないわ」
「う、うん……」
「入ったら、ハーレムよ、ハーレム。女の園に男が一人よ、憧れでしょ?」
「あ、憧れてなんか……そこが問題なんだよ、部員ってみんな女の人なんでしょ?しかもみんな先輩で……僕なんかが入ったって……」
「また、んーなこと言って……」
「………」

 【人間観察部】は全員、三年生の女性の先輩だと言う噂を聞いていたので、そう答えた。
 みんな一癖も二癖もある先輩だけど、美人揃いだと言われている。
 入部したいという生徒は意外に多く、それはみんな、美人の先輩達とお近づきになりたいという理由の人が多い。
 そこが、学校側が鼻につくらしく、廃部にさせるために先生達が動き回ったらしいんだけど、部長でもある清花さんが、生徒会長になって、【人間監察部】を先生達に認めさせてしまったんだ。
 入部希望者は多いけど、入部出来る資格のある人間はテストされて、それに合格出来ないと入部出来ないという事になっている。
 今まではそれを貫いていたけど、【人間監察部】の部員はみんな三年生……
 つまり、今は後継者がいないんだ……。
 そこで、一年生か二年生から入部する生徒を集めなければ廃部という事を先生達に言われたらしい……。
 そこで、目をつけられたのが、僕という訳で……
 もちろん、入部する為にはテストを受けなくちゃいけない訳で……。
 入部テストの内容は当然、解らない。
 入りたい気持ちもあるけど……
 清花さんの前でテストに不合格というかっこ悪い事にだけはなりたくない。
 だから、はぐらかしているんだ。
 女の子達の中に男が一人、入るのはちょっとという言い訳をして……
 我ながら女々しいとは思うけど、臆病な僕は一歩前に出る勇気が出ない…。
 
 多分、そんな僕の気持ち……
 清花さんは気付いていると思う……
 そういうの解っちゃう人だから……
 解ってると思いつつも、ついつい、苦しい言い訳をしてしまう……
 これが、親友の秋彦(あきひこ)だったらビシッと決めるんだろうけど……
 高校に入って仲良くなった帰化した元外国人の晴雪(はれゆき)ももっと積極的に行動するんだろうな……
 でも……
 僕にはそれが出来ない……
 あぁ……穴があったら入りたい……

 それにしても、何で、清花さんは秋彦じゃなくて僕を誘うんだろう?
 秋彦の方がずっと男らしいのに……
 まぁ秋彦にはセーラちゃんがいるからかな?
 彼女、秋彦にべったりだもんな。
 僕もセーラちゃんに頼られる秋彦の様に清花さんに頼られる男になりたい……
 そうは、思うけど、なかなか……
 秋彦に言ったら――
 【てめぇで動かなけりゃ、結果は変わんねぇんだよ】
 とか言われそうだけどね……
「ねぇ……清花さん……」
「ん、なぁに?」
「なんで、僕なの?秋彦じゃ駄目なの?」
「秋彦も親分肌だからね……私とじゃそりが合わないのよ……私もどっちかってゆーと姉御肌だし……私達にはあんたくらいなのが丁度良いのよ」
「そう……なのかな……」
「そうなの、つべこべ言わずに、ここに判子押して、テストを受けなさいって」
「う、うん……」
 僕は人間観察部の入部テストの申込書に判子を押した。


02 清花


 僕と秋彦、セーラちゃんは清花さんと幼馴染みという関係だ。
 清花さんは年長者という事もあって、昔から、よく色んな事をして遊んでくれた。
 彼女は面白い事を考えるのが得意で、子供ながらに彼女は凄いと思うことも多かった。
 昔からの憧れの存在…
 それが彼女だ。

 だから、これからも彼女について行きたいし、いつかは追い抜きたいと思っている。
 いつからだろう――
 彼女を女性として意識したのは……

 ――そうだ、あれは、それまで、やっていた相撲とかを清花さんが突然止めると言い出した頃だ…
 彼女は【痛いから】という理由で相撲を僕達ととらなくなった。
 何が【痛い】のかよく解らなかったけど、彼女の家に遊びに行った時、それが何となくわかった。
 冬のある日、彼女の部屋に遊びに行った時、窓から差し込む日差しが彼女の背中に差し込み、セーター上から、彼女の上半身のシルエットが映し出された。
 そこには、確かにあった。
 二つの膨らみが……

 ドキッとした。

 ぺったんこだと思っていた彼女の胸は……少し、膨らみがあり、眩しかった。
 後で、お母さんに聞いたら女の子は胸が膨らむと痛くなる事があると聞いて、納得した。
 彼女が女の子を意識した時、僕も彼女を女性として意識してしまった。
 それは、彼女が小学校の高学年の時の事だった。
 その時から僕は彼女の事を【清花さん】と呼ぶようになった…。
 やがて、彼女は先に小学校を卒業し、僕は中学に追いかけ、彼女は中学も卒業し、僕は高校にも追いかけて行って今にいたる。
 中学の頃は勉強とかも見てもらった。
 親分というよりは優しいお姉さんみたいな立場に変わっていった。

 そして、高校生……
 僕はどう、彼女に接して良いのか解らず、付かず離れずの立場を維持していたけど、彼女が三年生になって彼女の方から僕に近づいて来た。

 まただ……また、いつも僕は受け身だ。
 どうしても彼女の前で、積極的になれない。
 そんな自分が嫌だ。
 変えたい。
 そう思っている。

「なぁ〜に、また、ぶつくさ言ってんのよ」
「い、いや、何でもないよ、清花さん」
「じゃあ、テストは三日後にやるからね。今回は私が担当。あんただからって、手加減はしないからそのつもりでね!」
「手加減って、テストは何をするの?」
「だぁ〜め、教えない。三日間、テストへの猶予期間を与えるのもテストの一つなの。私達の部活は【人間観察部】よ。状況判断も重要な要素の一つなの。私達の部活は別名、【人助け部】、高い人間的な能力が要求されるの。おわかり?」
「い、いや、全然わかんないんだけど……」
「解らなかったら考えなさい!それがテストよ」
「う、うん……解った。でも、それならなおさら秋彦の方が適任じゃ……綺麗な人達の集まりならセーラちゃんでも……」
「でももへったくれもないわよ。私は秋彦とセーラの仲を邪魔するつもりは無いの。私達が必要だと思っているのはあんた!いい加減、聞き分けなさい」
「は、はい!」
「よろしい、じゃ、解散」
「ば、ばいばい、清花さん」
「またね」
「うん……」
 僕は、清花さんのやりたい事が理解できない。
 彼女の考えている事はいつも僕の想像を超えるもので……
 その彼女が作った【人間観察部】のテストが何をやるのか何て想像も出来ない……。
 僕は、自宅までの道のりをトボトボと帰って行く……
「お、春都じゃねぇか、どした?暗い顔をして」
「あ、秋彦か……実は……」
 僕は秋彦に清花さんの考えていることが解らないと相談した。
 その答えは……
「何だ、んなつまんねぇ事か……」
「つ、つまんないって何だよ……僕は真剣に……」
「何が真剣にだよ、お前はいつも答えから逃げてんだよ。清花の事はお前が一番よく知ってんじゃねぇか。清花だったら、どうする?それを考えるだけじゃねぇか。お前にとっちゃ簡単なことだろーが」
「か、簡単って、答えがわからないから秋彦に聞いているんじゃないか。友達だろ、答えを教えてくれよ」
「ヒントならやるよ、三日後にテストなんかねぇよ。そんだけだ」
「はぁ?意味わかんないよ」
「ばぁ〜か、後は自分で考えろ、じゃーな、お休み〜」
「お、おい、待ってよ、秋彦……」
「テストすんのは他の部員じゃなくて清花なんだろ?随分良い待遇じゃねぇか。羨ましいこった」
「だから、何だって?、わかんないよ」
「ちったぁ頭使え、はい、バイバイ」
 そういうと秋彦はさっさと自分の家に戻ってしまった。

 結局、解らなかったよ。
 友達甲斐の無いやつだ。
 清花さんならどうするって、それが解るなら、秋彦に相談なんてしないよ。
 女の人は永遠の謎なんだから…。
 僕は悩みながら布団に入った。


03 入部テスト前


 ね、眠れなかった……
 一晩中悩んでしまって、そのまま眠れなかった。
 答えは結局わからないままだ。
 どうしろって言うんだ僕に……
 セーラちゃんに頼んで、清花さんが何を考えているか探って……
 駄目だ……そんなことしたら秋彦の奴に殴られる…
 うーん……わからない……なんなんだよ、答えは!!
 考えろ……考えるんだ……

 秋彦は答えを知っている風だった。
 でも教えてくれなかった。
 何故だろう?
 そこにヒントが……
 だ、駄目だ、全然解らない……
 後、テストまで、二日しか無いって言うのに……

「おはよう、秋彦……」
「おう、清花か、オッス」
「春都はどうだった?相談に来たんでしょ?」
「来たよ、しち面倒臭ぇな……答え言ってやりゃあ、良いじゃねぇか」
「駄目よ、教えちゃったら答えがハズレに変わっちゃうもの……」
「あのまんま、あいつは二日過ごすのか?」
「――そうね……ちょっと可哀相かも知れないけど、ここは一つ心を鬼にして……」
「面倒臭ぇ女だな、お前は……」
「あんたに言われたかないわよ。セーラとはどうなってんのよ」
「あ、あいつはいも、妹みてぇなもんだからよ……」
「ほら、あんたも面倒臭いじゃないの」
「うるせぇ……」
「あんたもね……」
 というやりとりがあったみたいだけど、僕はそんなことを気にしている余裕は無かった。

 学年も違う僕と清花さんの接点はそう多くはない。
 だからせめて、僕は、彼女と同じ部活をしたい。
 それだけが、今の僕の希望だった。
 一日中、何を探して良いのかもろくにわからず、探し回ったけど、成果らしい成果も得られず、終わってしまった。

 疲れて帰る途中、秋彦とすれ違ったけど、その時、あいつ……
「それで良いんだよ、やりゃぁ、出来るじゃねぇか」
 とか何とか言ってたな……
 何がやれば出来るだ。
 ちっとも意味わかんないよ……。
 清花さぁ〜ん……
 一緒にいたいよぉ〜

 僕は疲れすぎてそのままバタンキューと寝てしまった。
 そして、また、日は登る。

 うわぁ……とうとう後、1日しかなくなってしまった。
 どうしよう……
 こうなったら人の目なんて気にしている場合じゃない……
 手当たり次第に何かを探っていこう……
 しらみつぶしに何かを探して行けば、きっと答えが……
 見つかるかな……

 不安だ……
 ダメだ、諦めちゃ。
 諦めるのは清花さんが一番嫌いな事だから……
 諦めるのだけはダメなんだ。
 時間いっぱいまで、最後までやり遂げないと……
 くそぅ……答えはなんなんだよぉ〜。
 誰か、教えて〜。
 あ、こんなことやっている場合じゃない……
 とにかく、片っ端から……

 僕は血眼になってがむしゃらに動き回った。
 人が僕をおかしな人間でも見るかのような眼で見ているのを感じるけど、そんなことになんかかまっていられない。
 何しろ、後一日しかないんだ。
 だんだん、人の目も気にしなくなった頃、僕はいくつかの答えになりそうな事を探しだした。
 とにかく、やるだけはやった……
 僕は、明日のテストに控え、ぐっすり眠った。


04 合格発表


 翌日、テストのある日だ。
 僕は、放課後、清花さんに会いにいった。
「清花さん、やるだけはやって来ました」
「そう?良い顔している気もするわね。昨日はぐっすり眠れた?」
「眠れましたよ。僕はやるだけやったんでね、これでダメなら僕には合格は無理だと思います」
「そう……聞いたわよ〜裏の木に登って先生に怒られたんですって」
「えぇ、まぁ……他にも金網登ってたらおまわりさんに怒られたり、バケツひっくり返したら中から腐ったパンが出てきたり、モップを調べてたら割れててそれが僕の責任になって先生に反省文を書かされたり……」
「楽しかった?」
「楽しかったって言うか……こんなに真剣になったのって生まれて初めてって言うか……とにかく大変だったよ」
「そう、じゃぁ合格って事で……」
「えぇ?て、テストは?」
「だから、今までがテスト!んで、合格よ、春都」
「えぇ〜?メンバーを探せとかじゃなくて?……だから、僕、【人間観察部】に所属してそうな人を探したりしてて、ほら、この人とか……」
「それは、違うわね、その人、【人間観察部】とは全く関係ないわ、検討違いも良いところね」
「え?じゃぁ、不合格?」
「だから、合格って言ってるでしょ、合格って……。【人間観察部】に必要な要素はどんなことでも真剣になって取り組める事。今日、テストがあると言ったのは嘘、今日までがテストだったの」
「うぇえ?っどどど、どういう事?」
「【人間観察部】はどんなことをやるかわからない部活よ、それこそ、答えが決まっていないような事でもね。何も無いところから問題を探し出してそれを解決にまで持っていくような事もする……そういう意味では的確なテストだったはずよ。あんたは見事に問題を探し出して、答えを用意した……だから、合格」
「は?」
「んもぅ……わからないの?今まで、【人間観察部】に合格者が殆どいなかったのはそれだけ真剣に取り組もうという人がいなかっただけ……条件さえ満たせば、うちの部活は誰でもオッケーよ。私はあんたなら、答えを探しだせると思ったから、誘ったのよ。私、見る目あるでしょ?」
「は……はは……そ、そういう事……」
 僕は力が抜けた。
 結果的に合格は出来たけど、がむしゃらになってなかったら僕は不合格だったかと思うとまるで、綱渡りをした後の様な気持ちになった。

 でも、合格出来てよかったぁ〜
「あ、そうそう……あんたのメンバーを探せって奴、面白そうだから、追加テストでやってみようか。私以外のメンバーの数は五人……五人全員探しだせば合格って事で」
「えぇ〜!!」
「冗談よ、冗談。合格って事にかわりないわ。でも、メンバーは探してみてね。面白いと思ったら即、実行、これがうちの部のモットーだから」
「ちょちょちょ、ちょっと待って……」
「待たない……はい、スタート」
「は、はひぃ〜」
 僕は自らが出した問題を解く羽目になってしまった。
「あら、いけない……ごめーん、春都、今日、みんな帰ったみたい。また、今度やりましょ〜ね〜♪」
 そりゃないよ、清花さぁん〜
 僕は、いつも、彼女には振り回されっぱなし…。
 そんな彼女の事が僕は気になります。


05 部活動開始


 週が明けて、本当に、メンバー探しをやることになってしまった。
「はい、じゃあ、メンバーは五人だから、今日から金曜日までにメンバーを五人探す事とします。メンバーにはすでに伝えていて、隠れ通せばメンバーには来週ご褒美が……春都君には逆に罰ゲームがあります」
「えぇ……聞いてないよ」
「今、言ったでしょ。もちろん、メンバーを見つけられたら、その分のご褒美はあげるわよ。五人全員見つけたら五つのご褒美があるわ。良かったね、春都」
「よ、良かったって、何の情報も無しに……も、もしかして、五人全員見つけられなかったら……」
「その時はクビにはしないけど、きっつぅ〜い罰ゲームが五つプレゼントされますのでよろしく」
「よ、よろしくってそんな……」
「探さなくて良いの?もう始まっているわよ」
「ひぃ〜」
 僕は残る五人の【人間観察部】の部員探しを強制的に始められた。
 ヒントは三年生という事だけ……
 後は、手掛かり一切なし。
 正直、この部活動はきついけど、それでも清花さんと一緒にいられるのなら、耐えて見せます。

「よぉ、春都楽しそうだな」
「秋彦もやる?」
「俺はいいよ、そういうのはお前のがあってっからな」
「清花さんにもてあそばれるのがか?」
「そうだ。俺じゃ反発しちまうからな。お前にはピッタリだ」
「それ、褒めてるのか?」
「褒めてるつもりだが?」
「ほんとかよ」
「ほんとさ。だから、清花はお前を選んだんだよ」
「……じゃ、僕、人探さないといけないから……」
「おう、行って来い。またな」
「うぉぉぉぉ、まずは一人目だぁぁぁぁ」
「こらっ、廊下を走るなと……」
「す、すみません……」
「また、お前か、何度言わせれば……」
「すみません、時間無いんでこれで……」
「何の時間だ?塾か?」
「タイムリミットです」
「何を言っとるんだ?」
「じゃぁ、せんせーさよーなら」
「こら、まだ、話は終わっとらん……」
「来週聞きまぁ〜す」
「待てと言っとるだろうが」
 僕は先生から逃げた。
 こうして、僕の楽しい学生生活は再スタートした。

 今度こそ、清花さんを支えられる男になるんだ……

 さて、五人のメンバーだけど、【人間観察部】は謎の部活。
 清花さんも含めて、6人はそっと生徒を見ていて、困った時に、そっと助け船を出してくれるという部活らしい。

 そのため、一部の生徒以外、メンバーについて知っている人がいないのはそのためだ。
 清花さんのことだから秘密結社ゴッコみたいな感じにしたかったんだろうな。

 だから、僕に出来る事は【人間観察部】に助けてもらった生徒をさがす事から始める。
 それしかない。

 人に聞くコツは入部テストで大体掴んだ。
 後はそれを実戦するだけだ。

 僕はいろんな人に聞いてまわった。
 変な噂もたくさんあったけど、今日一日で五人全員の名前を聞き出す事が出来た。

 下川 愛衣(しもかわ あい)先輩
 前田 翔華(まえだ しょうか)先輩
 後藤 帆乃霞(ごとう ほのか)先輩
 横峰 瑞那(よこみね みずな)先輩
 縦田 羽蘭(たてだ うらん)先輩だ。
 どんなもんだい。

 名前さえ解ってしまえばこっちのもんだ。
 後は順番に名前の該当者を割り出して行けばいい。
 簡単だね。

 まずは、下川先輩からだ。
 どうやら、クラスメイトの人の話だと、昼休みにプールの前で待っていてくれるらしい。
 ネームプレートをしてくれているらしいから、一発で解るな。

 僕はプールに向かった。

 プールの近くには生徒が十数人いた。
 みんな女生徒だ。

 えーと……下川先輩はっと……
 あ、いた、下川って書いてる。
 あの人が下川先輩なんだ、なるほどね。

 ――ってあれ?
 あっちの人も下川って書いてる……
 そっちの人もだ。

 どういう事?
 下川っていう人が五人もいる。
 だ、だれが、下川 愛衣先輩なんだ?

「誰が、愛衣だ?」
「さ、清花さん……ど、どういう……」
 僕は背後から清花さんが出てきた事に驚いた。
「本物の愛衣は一人です。後は偽者です。さて、誰が愛衣でしょう」
「えぇ〜……?」
 僕は混乱した。

「あはは、じゃあ、名前の当てっこしようか。ここには愛衣は一人だけど、残りのメンバーも全員揃ってます。つまり、愛衣以外は残りのメンバーって事になるわね」
「え?そ、そうなん……」
「情報ってのは正しいものだけがあるんじゃないのよ。本物と偽物の区別も自分で見極めないといけない。その意味では良い訓練でしょ」
「な……」
「金曜日までというのは無しにします」
「そ、そんな、勝手な」
「臨機応変、それがうちの部のモットーよ」
「えぇ〜」
「文句は認めません。正解率によって、ご褒美が出るかバツゲームが出るかが決まるわよ」
「そ、そんな事言われても」
「制限時間は10分です。はい、カウントダウンスタート」

 僕は自分の持てる力を総動員させて、当てにいった。
 結果は全員不正解。
 みんな違った。

 よってバツゲームになった。
 バツゲームはおしくらまんじゅうだった。
 僕にとってはバツゲームというよりご褒美をもらったようなものだったけど。

「ようこそ、人間観察部へ。歓迎するわ」
 清花さん達が迎えてくれた。
「よ、よろしくお願いします。夏川 春都です。ふつつかものですけど……」

 こうして、僕の楽しい学園生活が始まった。


続く。

登場キャラクター説明

001 夏川 春都(なつかわ はると)
夏川春都
本編の主人公。
年上の女性が好きな木の弱い少年。
頼まれると嫌とは言えない性格。














002 上島 清花(うえしま さやか)
上島清花
春都の先輩で幼馴染み。
春都を弟のように思っている姉御肌の少女。
学年トップの才媛で生徒会長もつとめている。














003 下川 愛衣(しもかわ あい)
下川愛衣
春都の先輩。
巨乳で有名。















004 前田 翔華(まえだ しょうか)
前田翔華
春都の先輩。
絵画や音楽などのアーティストとして有名。















005 後藤 帆乃霞(ごとう ほのか)
後藤帆乃霞
春都の先輩。
図書委員をしていておっとりもしている。















006 横峰 瑞那(よこみね みずな)
横峰瑞那
春都の先輩。
クールビューティー。
元、ヤンキー。














007 縦田 羽蘭(たてだ うらん)
縦田羽蘭
春都の先輩。
女の子が大好き。