第一話 勇者 マタイ・チナン

01 千宮(ちきゅう)…千のアイテムが眠る星

「食らえ、聖剣、エクスカリバー!!」
ジオ・レガシー01話01 「ぐうぉおおおおおお…ば、ばかなぁ〜この俺様がぁ〜…」
「千宮はお前達のような邪悪の化身の思うようにはならない、諦めろ!」
「ひひひひひ…た、確かにこの俺様では、お前達に勝てないようだ…」
「観念しろ…」
「ひひひ…俺様は負けた…だが、何度でも俺様の様な者が現れ、お前達を脅かすだろう…何度でもなぁ…」
「何度来ようが、その度に、時の勇者がお前達の野望を打ち砕く…千宮がある限り、お前達の好きなようにはならない…」

勇者が最初の魔王を退治してより数千年…
神秘の星、千宮(ちきゅう)には数多くの侵略者達が現れた。
その度に、時の勇者達がその邪なる者達を退けた。
ジオ・レガシーと呼ばれる伝説のアイテムを使って…

時は流れ、また新たな侵略者達が姿を現そうとしていた…。
侵略者達と時の勇者は表裏一体…。
侵略者達が現れる時、時の勇者もまた、姿を現すだろう…
これは、そういう物語である…


02 チナンとエレーナ

「ちょっと、しっかりしてよ…」
「あ、ごめん…今度はちゃんとするから…」
ジオ・レガシー01話02 「もう、良いよ…ねぇ、あなた、これちょっとお願い…」
 不甲斐ない少年に愛想を尽かして、少女は別の少年にお願いに行った。
 少女は物語に関係ない…
 少年のただのクラスメイトだ。
 少年の名前はチナンと言った。
 フルネームはマタイ・チナンだ。
 よく、【(一難去って)また一難】とかからかわれる冴えない少年だった。
 冴えなくてもそこそこ可愛い顔をしているチナンはよく何かを頼まれる事が多かったが、その度にがっかりされる事が多かった。

「チナン君、気にしなくて良いよ。あれは他の男子にだって無理だもん。頼んだあの子が悪い」
 そんなチナンには庇ってくれる女の子が三人いた。
 その内の一人がちょっと気の強い、エレーナ・マーネだった。
 エレーナはチナンの幼馴染みだった。
 気の弱いチナンはよくいじめっ子のターゲットにされた。
 苛められる度に庇ってくれたのが彼女だった。
 最初は出来の悪い弟分みたいに思っていたのだが、とある事件が切っ掛けで彼の評価はグンっとアップした。
ジオ・レガシー01話03
 その事件とは変質者がエレーナに悪戯をしようと近づいて来た事件だった。
 当時、まだ、子供だったエレーナに対して、変質者は大人…
 力では全然、勝てなかった。
 そんな中、彼女を泣きながら助けてくれたのがチナンだった。

 彼は恐怖のあまり、思わず、大きい方を漏らしてしまった。
 だが、彼は逃げず、その排泄物を持って変質者を牽制したのだった。
 とても、格好いいとは言えない助け方だったけど…
 大人が駆けつけてくれるまでの時間を彼は見事に稼いでくれた。
 彼は確かに彼女を守ったのだ。
 どんなに無様に見えても彼は彼女の恩人だった。

 その後、チナンは友達にばい菌扱いされたが、エレーナの心には温かい何かが芽生えた。
 それ以来、いざという時、助けてくれるのはチナンだと思っている。

 チナンはエレーナのナイトなのだ。


03 ミルナとアレーニ

 では、エレーナ以外に後二人いるチナンの味方は誰だろう…
ジオ・レガシー01話04 二人目の名前はミルナ・コッチ、三人目の名前はアレーニ・シナイと言った。
 二人共、チナンに対して、エレーナと同じ様な思いを持っていた。
 ミルナはいわゆるぶりっ子というやつで男性には好かれるが女性には嫌われるというタイプだった。
 だが、彼女が顔に元に戻らないとまで言われた大やけどを負った時、それまでちやほやしてくれた男性達は彼女の前から去っていった。
 女性には元々嫌われていたため、彼女はひとりぼっちになってしまった。
 そんな時に仙桃(せんとう)というジオ・レガシーを持ってきてくれたのがチナンだった。
 実は、先代勇者にチナンは会った事があり、その時、余った仙桃の一部を分けてもらっていたのだ。
 丁度、エレーナを変質者から守った時、それを見ていた先代勇者がご褒美だと言って分けてくれたものだった。
 傷を治すためにもらったのだが、かすり傷だったために使わずに取っておいたものが役に立ったのだ。
 ミルナの顔の傷が完全に治った時、チナンは彼女の王子様になった。

 アレーニは女の子にモテる女の子だ。
 そして、性同一性障害でもある。
 本当は女の子の事が、特に、ミルナの事が好きなのだ。
 だが、それを自分で恥だと思い込み、ひた隠しにしていた。
 ミルナが困っている時も助けに入ってやれなかった。
 そんなミルナを助けてくれて、しかも自分の気持ちを知っても変わらず、接してくれたチナンは彼女に取っての親友となった。
 彼と親友になった時、彼女は自分の事を【ワタシ】から【ボク】と呼び代え、少しずつ自分の気持ちに正直になりつつあった。
 その勇気をくれたのがチナンのさりげない優しさだった。

 だから、ミルナもアレーニもチナンに対して、特別な思いをそれぞれ持っていた。
 彼女達にとって、チナンは掛け替えのない大切な人なのだ。
 思いの質は違えど、彼を認めるという事に違いはない…


04 ドクター・アルファ

 チナンとエレーナはミルナとアレーニも在籍している大学の構内に入った。
ジオ・レガシー01話05 それを出迎えたのはゴリラのようなカバのような大男だった。
「おーう、マイスイートハニー!今日も綺麗だねぇ〜」
「やめてって言ってるでしょ。昨日のあれは何?迷惑よ」
「おーう、つれないねぇ〜。あれは、私からの愛の印さ!良かっただろ〜」
「良いわけないでしょ。一気に気分が悪くなったわよ」
「照れているんだね〜」
「照れてないわよ!送り返したからね、あれ」
 エレーナがその大男に向かってどなった。
 大男の名前はゴメス。
 だが、自分の事をドクター・アルファと呼んでいた。
 こんなんでも一応、博士号を持っている。
 もとは、ひょろっとした男だったが自分のコンプレックスを自らの実験により克服し、今や肉達磨のような体型となっている。
 筋肉質な身体を手に入れた時、自分に対して絶対の自信を持ち、周りに対してわがもの顔にふるまっていた。
 エレーナに対して、好意を持っていて、趣味の悪い贈り物をしては自己満足をしていた。
 ちなみに、先日送られて来たのはエレーナの形をした柱時計だった。
 鼻の頭に長針と短針を留めていて、見ようによってはエレーナに髭が生えているようにも見えた。
 股間の部分に妙な飾りがあったり、かなり奇妙なデザインだった。
 高そうだったから送り返したが出なければ叩き壊していたところだった。
 エレーナとは全く趣味が合わないどころか問題外と言ったところだった。
「今は良いさ。だが、その内、君は私のものになる…」
「ふざけないで。誰があんたのものになるもんですか…」
「そこのもやしより、私が数段優れているという事を思い知るだろう…」
「もやしだったのはあんたでしょ」
「あの、ゴメス君…嫌がるのを無理やりは良くない…」
「てめぇは黙ってろ、コラっ!俺は彼女と話してんだよ」
 チナンが口をはさんだとたんに豹変するゴメスこと、ドクター・アルファ。
 こういう本性を知っているからこそ、エレーナは決して彼を認めない。
「黙るのはあんたの方よ。とっとと消えなさい」
「ハニィ…後悔する事になるよ…」
「逆にせいせいするわよ」
「私が本気になればわかるよ…」
「ふん。あー気分悪い。行こ、チナン君」
「あ、う、うん…」
 ドクター・アルファーのもとを早々に立ち去る二人。
 それを忌々しげににらみながらドクター・アルファはつぶやいた。
「…今に見ていろ…」
 と。


05 ドクター・ベータとドクター・ガンマ

 エレーナとチナンがドクター・アルファに絡まれていた頃、ミルナとアレーニにも絡んできた者達がいた。
ジオ・レガシー01話06 一人目はデービスという男。
 彼もドクター・アルファ同様、博士号を持っていて自らをドクター・ベータと呼んでいた。
 もう一人はサムという男。
 彼もドクター・ガンマと名乗り、ドクター・アルファ、ドクター・ベータと共にマッド・サイエンティスト協会に属していた。
 マッド・サイエンティスト協会…それは、知識はすごいのだが、その性格や研究内容が世の中にとって害のあるとされている者達の集まりだった。

 ドクター・ベータはミルナに…
 ドクター・ガンマはアレーニに気があった。

 二人もドクター・アルファ同様、一方的で、変質的な愛を彼女達に向けていた。
「ミルたん、こっち向いて笑ってー」
ドクター・ベータがミルナに気持ちの悪い笑顔を向けた。
ぷいっ
「ミルナ、カマキリ嫌い」
ドクター・ベータはカマキリそっくりだった。
「ひょひょひょ、ミルたん、だいちゅきでちゅ」
気持ちの悪い男が気持ちの悪い会話をしてきている。
そう思うだけで、全身から鳥肌がたつミルナだった。

ジャーン
「魂のロック、お前に捧げるぜ、聴いてくれ、ベイベー」
「聴かないよ。それより、ボク達にかまわないで欲しい」
「おいおい、それじゃ俺の立場が…」
「はっきり言って君の音楽は聴くに堪えないよ。あれはもう、騒音だ」
 アレーニはドクター・ガンマが昼夜問わず、ロックと称する騒音で近所の人達に迷惑をかけてしまっているのを良く思っていなかった。
 そもそも、彼女は男性に興味がない。
 迷惑行為を平然とする男の求愛など受けるつもりは毛頭、無かった。

 ミルナとアレーニは丁重にお引き取りを願った。
 去り際に、ドクター・ベータは
「Xデーがたのちみでちゅ…」
 と言い残した。
 彼女達に意味は解らなかったが何となく気味の悪い一言だった。


06 楽しい一時

「あ、いたいたー。おーい、こっちだよー」
 大学の構内でミルナとアレーニを見つけたエレーナは声をかけた。
 チナン、エレーナ、ミルナ、アレーニの四人は仲の良いグループだった。
 何をするにも一緒に行動を取る事が多かった。
「聞いてよ、ミルナ、また、カマキリにからまれたの」
「あぁ、デービスって人だね。災難だったね」
「ボクにも騒音男が来たよ。ひょっとしてエレーナにも来たんじゃないか?」
「来た来た、あのカバゴリラ。しつっこいったらありゃしないわ」
「あの人達何かたくらんでるかもよ。ミルナ、カマキリが変なこと言ってたの聞いたもん」
「変な事?」
「そうそう、ボクも聞いたよ。Xデーがどうのこうのとか言ってたよ」
 四人はドクター・アルファ、ベータ、ガンマの噂をした。
 その三人のドクターがここ最近、不穏な動きを見せているのは構内でも有名な話だったからだ。
 何かの準備をしているらしいが、正直、関わりたくないので、無視しているのだが、何となく気持ちの悪い話だった。

「はいはい、あんな変態共の話はこれくらいにしよ。あんなのの話なんかしてると時間の無駄だよ。大学生活にあんなのは必要なしってね」
「そうだね。ボクもその意見に賛成だよ」
「ミルナも」
「それで、今度の旅行の事なんだけど、僕が調べた所によると20キロ東に面白い所を見つけたよ」
「ほんと?」
「隠れスポットとして知られていてね…」
 チナン達は次の休みの小旅行の話をしていた。
 四人でよく休みの日には日帰りで行ける範囲でちょくちょくあちこちに出かけたりしていた。
 四人とも四人で何かをするのが楽しくて仕方なかった。
 出来れば、この関係を崩したくない…。
 みんなそう思っていた。

 この楽しい時間は永遠に続く…
 そう思っていた。


07 動き出した悪意

 三人のドクターが大学に姿を見せなくなったのはそれからしばらくしてからだった。
 ドクター達は学生では無く、客員教授のようなものだったので、契約等が切れたのだろう…
 その程度にしか考えていなかった。
 だが、ドクター達は動き出していた。
 邪なる悪意を持って…

「ぐへへへへ…ついに完成だ」
「出来たんでちゅ」
「魂が震えるぜ」
 3ドクターの研究が完成した。
 三人の変態の思いを叶えるための悪夢の研究が…
 完成したのは移動要塞…
 巨大なドーナツ型の攻撃兵器だった。
 大きく分けて三ブロックあり、三人のドクターのラボがそれぞれのブロックに一つずつあった。
 その中で、侵略兵器の製造が行われていた。
 プログラムを打ち込むと新たなる兵器を生み出していく。
 この移動要塞は彼らが千宮を支配するための決戦兵器だった。
 悪意に満ちた彼らの野望が動き出そうとしていた。

 目指すは最北端の大都市、アルファベットシティー
 そこを彼らの拠点にするつもりだった。
 そこには、彼らに資金援助をした謎の組織の拠点があったからだ。
 チナン達の住む最南端の町、イロハシティーに面した海から巨大な物体が飛び上がる。
 移動要塞は北へ向けて進路を進めた。

「ぐふふふふ…マイスイートハニィ〜後で迎えに来るからね…」
「ミルタンちょっと待っててね…」
「俺のすごさを見せてやるぜベイベー…」
 三人のドクターは口々に叫んだ。

 数日後、北の大都市、アルファベットシティーが謎の侵略者達に落とされたというニュースが各地に広まった。
 そして、その侵略者達は、徐々に南に進行してきているとの情報も…

 チナン達に静かに危険が近づいて来ていた。


08 拉致

「ふぁ〜あ…ちょっと眠いな〜」
「まったく、昨日、遅くまでゲームしてたんでしょ」
「へへ、まぁね」
「しょうがないなぁもう…」
 チナンとエレーナは今日も一緒に大学に向かった。
 家が近所の二人は一緒に学校に行くことが多かった。
 同じようにミルナとアレーニの家は近所にあり、二人はよく一緒に大学に通っていた。
 待ち合わせはいつも大学の構内…
 それが、おきまりのパターンだった。
 ところが…

「た、大変だ。ミルナが攫われた」
「え?ど、どういう事…?」
「何で…」
 突然、走って来たアレーニにも驚いたが、彼女の口から攫われたという一言がもっと驚きだった。
 彼女の話によると一緒に登校中、突然、現れた捕縛メカにミルナが捕まり、拉致されたというのだ。
 あっという間の出来事で彼女はどうしようも無かったらしい。
 犯人は大体見当がつく…
 ドクター・ベータだろう…。
 あの男は彼女に執拗に迫っていた。
 いつかやるんじゃないかとは薄々思ってはいたが、ついに本当にやったようだ。
「と、とにかく、警察に…」
「そ、そうね…」
 状況を少しでも改善しようと警察に相談する事にした。
 そして、警察署のあったはずの場所によるとそこは瓦礫の山に変わっていた。
「そ、そんな…」
 途方に暮れるチナン達…
 そこへ…
「ようやく俺のナオンになる時が来たぜぇ〜」
 ドクター・ガンマの声が響いた。
 間髪入れずに地面から捕縛メカがアレーニを捕らえる。
「う、うぁ…」
「アレーニ!」
「ちょっと、アレーニを放しなさい!このクソドクター」
 エレーナが怒鳴る。
 その背後から影が現れ、エレーナを捕まえる。
「心配することはないよマイ スイート ハニィ〜、アルファベットシティーで合同結婚式をやろう」
 ドクター・アルファーだった。
「ふざけんじゃないわよ、このカバゴリラ!放しなさいってば!」
「放さないよハニィ〜二人の愛はもう永遠なんだよ〜」
「誰があんたなんかと…ちょっと苦しい、放しなさい」
「二人を…いや、三人を放してくれ。酷いじゃないか」
「…また、お前か…。うるさいんだよ、クソガキが!」
 そう言うとドクター・アルファは妙な道具でチナンを吹き飛ばした。
「うわぁっ…」
「チナン君!!」
 不覚にも気を失うチナン。
 エレーナとアレーニはドクター達に攫われて行ってしまった。


09 ドクター達が愛と呼ぶ行為

「ちょっと、うちに帰してよ」
 エレーナがドクター・アルファに抗議する。
 同様に、ミルナはドクター・ベータに、
 アレーニはドクター・ガンマに抗議をした。
 講義内容はみんな一緒。
 要するに、家に帰せという事である。
対するドクター達の反応は…
「おいおい、花嫁が帰ってどうするんだ?」
「これから、ずう〜っと一緒でちゅ」
「俺のワイフになるんだ。もう、家に帰る必要はないぜ〜」
 という自分勝手なものだった。
 当然、エレーナ達は…
「ふっざけんじゃないわよ。」
「ミルナ、お家に帰りたい…」
「ここには一切用はないよ」
 という答えを返した。
 少女達はみんなドクター達に反抗的。素直に花嫁にはなりそうも無かった。
 当然と言えば、当然だが。
 だが、しかし、ドクター達は決して慌てない。
 初めから予定されていたことだから…。
 世界征服とハーレムは彼らの夢だった。
 反抗的な女に興味はない。
 あくまでも彼らに従順な彼らだけに尽くす花嫁という名の器がいれば良い。
 必要なのは器だけ。
 気に入った顔とスタイルだけあれば、良い。
 彼らはそれを愛と呼んでいた。
「さぁ、始めようかハァーニィー!」
 薄気味悪い笑顔を浮かべるドクター・アルファ。
 マッドサイエンティスト達は人格を入れ替える実験を開始した。
 エレーナの身体にエレーナ以外の意志を入れるのだ。
 エレーナの中にプログラムした彼らに従順な心が入れられる。
「や、止めなさいよ…きゃあぁぁぁっ」
「ちっ、失敗か、次」
「きゃあぁぁぁっ」
 女の子を物としてしか考えていないような実験が続く。
「…これ以上は体力がもたないか…残念だが、体力が回復するのを待つか。その間に世界征服でも続けるか…ぐへへへへ…ぐほほほほ」
 ドクター・アルファは発明した自動栄養補充装置へとエレーナを乱暴に放り込み、侵略の準備に取りかかった。
 ミルナにはドクター・ベータが…アレーニにはドクター・ガンマが同じ様な事をしていた。
 同じ様に人格を否定され、乱暴に扱われ、放り出されていた。
 三人のドクターは実験が上手くいかない憂さを侵略という形ではらしていった。
 何処までも人間の腐った男達だった。


10 繰り返される悪夢

「やっぱり、こっちの性格の方が好みだな…こっちにしよう」
ジオ・レガシー01話07 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちっ失敗か…もういいや、あっちにしようか…」
「いやあぁぁぁぁぁ…」
 エレーナ達に非人道的な人格交換実験が続けられる。
 ドクター達はエレーナ達を花嫁どころか人とすら見ていない…。
「はぁはぁ…バッカじゃないの。私達か苦しんでいるのも解らないの?そんなんで何が花嫁よ」
「口を慎み給え。確かに私は君の顔、声、スタイルは好みだが、君の性格は好みじゃない…そして…」
「そして、何よ」
「このクソアマァ、この俺様を捕まえてバカだとぉ!この俺はなぁ、お前らの何倍も、何十倍も頭が良いんだよぉ!バカにバカって言われると腹が立つんだよぉ!!」
「常識をわきまえていないところをバカって言ってんのよ。そんなこともわかなんないの?頭、イカレてんじゃないの?」
「なんだとぉ、今日は特別メニューで可愛がってやる」
「なにすんのよ!」
「今日は電圧2倍だぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
 度重なる人体実験でエレーナ、ミルナ、アレーニは疲れ切っていた。
 そんな時、浮かぶのはチナンの事だった。
 彼なら、きっと助けに来てくれる。
 そう、盲目的に信じていた。
 では、彼は今、どこに…
 それは…


11 チナンの行方

 時はエレーナ達が攫われて少し経った頃に戻る。
 不覚にも気絶をしてしまい、目が覚めると彼女達は攫われた後だった。
 自分の力不足に肩を落とすチナン。
 その時、現れたのはかつて、彼に仙桃をくれた人…
 先代勇者だった。
 先代勇者は落ち込むチナンに鍵を一つ渡してくれた。
 そして…
「生憎、他の鍵は元あった場所に戻してしまったんだよ。私に出来るのはこの鍵を君に託す事だけだ…」
 と言った。
 先代勇者の戦いはもう終わっている…。
 次の勇者になるのは、チナン、君だ…
 そう言われた気がした。
 その言葉を言われる代わりに、鍵の特性を聞かされた。
「千の宮殿にあるジオ・レガシーを手に入れるためには鍵が必要なんだよ。だけど、君に渡した鍵で開けられるのは1000の内10種類だけなんだよね。この鍵で開けられるのはそれだけなんだ。他の990の宮殿に眠るジオ・レガシーを手に入れたければ、他に99の鍵を手に入れる必要がある…君にそれが出来るかい?」
 先代勇者はそう言った。
 千の宮殿の一つについたからと言って、そこにあるジオ・レガシーを手に入れられるとは限らない。
 99%は違うタイプの鍵なのだから。
 勇者になる旅は鍵を出来るだけ多く見つけ、出来るだけ多くのジオ・レガシーを手に入れる事。
 そういう事なのだろう…
 まっすぐ、一直線に北に向かえば済むという事ではないようだ。
 敵を倒せるジオ・レガシーを手に入れてこそ、チナンは勇者としてエレーナ達を助けられるのだ。
 そして、数日の間、チナンは1000の宮殿の一部をまわり、今、所有している鍵で開けられるジオ・レガシーを探していたのだ。
 ただ、闇雲につっこんで行っても返り討ちにあうのが関の山。
 彼は、今すぐ助けに行きたい気持ちを押し殺して、ずっとジオ・レガシーを探し続けていた。
 ろくに睡眠も取らずにただひたすら、宮殿を回っていた。


12 幽体離脱

 そうした、チナンの努力…
 実は、エレーナ達はずっと見ていた。
 度重なる人体実験により意識が遠のくと、幽体離脱してしまい、彼女達の思い人、チナンの元へ魂が飛んでいって、彼の選択した道を見ていたのだ。
 目が覚めるとまた、苦しい、人体実験が始まる。
 だけど、チナンの努力を見ている彼女達は不思議と頑張れた。
 必ず、チナンが助けに来てくれる…。
 そう思えば、彼女達は頑張れた。

 そして、頑張ってきたチナンはついに一つ目の奇跡を起こす事が出来るようになった。
 その奇跡とはチナンと会いたいというエレーナ達の気持ちをかなえるものだった。
 彼は、一つ目のジオ・レガシーにたどり着いたのだ。
 彼が、見つけたジオ・レガシーの名前はお香だった。
 その名も【反魂香(はんごんこう)】と言った。
 その力は死者の魂を蘇らせるという神秘のお香だった。
 この先を不安に思っていたチナンやエレーナ達にとっては最もありがたいジオ・レガシーだった。
 エレーナ達は死んではいないが、反魂香の力で1日一人、1時間ずつ呼び出す事が出来るようになったのだ。
 本来の力ではないが、人体実験という過酷な状況が逆にそれを可能とさせてくれたのだ。
(チナン君…)
「みんな…会いたかったよ。無事?変なことされてない?」
(大丈夫だよ。君が助けに来てくれるのを待っているよ)
(あんな奴らガツンとやっつけちゃってよ)
(あのバカ共は私達を花嫁にするつもりだから殺しはしないと思う)
「必ず、助けるから…必ず」
(みてたよ、君は勇者になったんだね)
「これからだよ、みんなを助けたら、晴れて勇者だ」
(かっこいいよ、チナン君)
(惚れ直しちゃいそうだよ)
「みんな辛いだろうけど、必ず行くから、諦めないで」
 チナンは幽体離脱してきたエレーナ達とたっぷり会話した。
 だが、一時間というのはあっという間に過ぎてしまうもの…。
 今日の所の別れの時間はやって来た。
 呼び出してみて思ったのだが、三人いっぺんに呼び出してしまうとそれぞれと会話出来るのが、1/3になってしまうので、これからは一人ずつ呼び出すことに決めて、その日は別れた。
 チナンは三人の声が聞けて力がわいた。
 エレーナ達はチナンの事が知れて安心した。
 四人の絆はよりいっそう深まった。


13 冒険の始まり 最初の敵

 エレーナ達と絆を深めあったチナンは冒険を開始した。
 今までは敵と呼べるようなものはいなかった。
 ただ、少しきついサバイバルのようなものをして、宮殿を巡っていた。
 だが、これからは違うだろう…
 ドクター・アルファー達の世界侵略は進んでいる。
 その内、チナンの所にも刺客を差し向けてくるだろう。
 だが、チナンにはまだ、武器と呼べるジオ・レガシーを所有していない。
 何とか敵の刺客が現れる前に、武器を手に入れたいと思っているチナンだった。
 そして、刺客が現れる前に、二つ目のジオ・レガシーを手に入れる事には成功していた。
 二つ目はYHVHと書かれた護符のようなものだった。
 チナンには何に使うものか皆目見当もつかなかった。
 武器なのか、それとも回復などのアイテムなのかもわからない。
 一つ目の反魂香は何となく使い方はイメージ出来たが、この二つ目の護符はどう使って良い物か解らなかった。
 解らないものは使いようがないと思い、三つ目のジオ・レガシーを探しに次の宮殿をめざそうと思った時、恐れていた事が起きてしまった。

 刺客が現れたのだ。
 ドクター・アルファ達はエレーナ達と中が良かったチナンを始末しようと試作品の殺人メカを刺客として差し向けていたのだ。
 殺人メカと言ってもドクター達の初期の試作品であるため、戦闘力は大したことは無かった。
 だが、無力な人間にとっては十分殺傷能力のあるロボットだった。
 ドクター達がそれぞれ、一体ずつ差し向けたため、殺人メカの数は三体だった。
 どの殺人メカも人型だった。
 人間になり損なった様な姿形をしていた。
 チナンにとっての最初の戦いの時が来た。
 だが、チナンが所有しているのは反魂香と謎の護符の二つだけ…。
 チナンは逃げ回るしか無かった。
 対して、見事な連携でチナンを襲う、殺人メカはじわじわと彼を追い詰めていった。
(こんな所で…こんな所で死ぬわけには…)
 チナンはそう思った。
 冒険はまだ、始まったばかり…
 こんな所でやられてしまっては助けると約束したエレーナ達に申し訳が立たない…。
 何とか活路を見いだそうと必死に逃げながら考えた。
 考えたが、的確な手段は思いつかない…
 それでも、やるしかないと宮殿の近くにあった石を拾って投げる事にした。


14 大逆転? ゴーレム登場

 とりあえず、故障でもしてくれればと石を思いっきり投げてみる。
 だが、カーンと甲高い音がして石は虚しく転げ落ちた。
 効果は無い…
 だけど、やるしかない…
 そう思ったチナンは石の多い所を探し始めた。
(石…石…出来るだけ大きな…石…)
 そう言えば、二つ目のジオ・レガシーがあった宮殿には石がいっぱい転がっていた…
 それは、この辺りの石より少し大きめだった。
 もしかしたら、効果があるかも知れない…
 そんな僅かな希望…藁にもすがる思いで、宮殿のある方向に戻る。
 それを追ってくる三体の殺人メカ…。

 命からがら宮殿に逃げ込むとバリヤーのようなものが出て、殺人メカを足止めしてくれた。
 幸い、殺人メカの戦闘力程度ではこのバリヤーは破れなさそうだった。
 ひとまず、助かったと安堵するチナンだが、そうも言っていられなかった。
 殺人メカはしっかりと彼をターゲットとして認識している。
 という事はこのままではチナンは宮殿を出ることが出来ないのだ。
 彼にとっては一刻も早く、エレーナ達救出に向かいたい所なので、こんな所でほとぼりが冷めるのを悠長に待っている訳にはいかない。

 とにかく、まずは、武器になりそうな大き目の石を…
 そう思ったチナンは宮殿内に散らばった石を集めることにした。

「…あれっ?…これにも…」
 ちなんは石を探し始めてふと疑問に思った。
 それは宮殿内の石にはみんなアルファベットが一つずつふってあるという事だった。
 それが、何を意味する物かは解らない…
 何かの暗号?
 でも解らない…
 そう思っていたが、とりあえず、一カ所に石を集め出した。

 そして、全くの偶然なのだが、チナンは奇跡を起こす事になる。
 石を集めている内に、偶然eとmとeとtという文字が書かれた石が横に一列に並んだ。
 そこへ、懐から偶然二つ目のジオ・レガシーの護符がはらりと落ちたのだ。
 すると…
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 まるで地鳴りのような音がして、そこに集められた石がくっついていった。
ジオ・レガシー01話08 そして、みるみる内に、人の形をなしていった。
 二つ目のジオ・レガシー…
 それは、ストーン・ゴーレムを作り出すお札だったのだ。
 ゆっくりと…静かに…ゴーレムは動き出す。
 そして、外で待ちかまえていた殺人メカと対峙する。


15 初勝利

 外では、殺人メカがバリヤーに攻撃を加えていた。
 中に入ろうとしていたのだ。
 バリヤーの中からのっそりとゴーレムが顔を出すと殺人メカは顔の認証を行った。
 もちろん、チナンでは無いので、無視して障害物となっているバリヤーに攻撃を続けていた。
 そこへゴーレムの強力な一撃が炸裂する。
 殺人メカの一体が無惨に破壊される。
 ゴーレムの一撃必殺のパンチはそれだけの威力があった。
 残る2体の殺人メカが自らの命令プログラムを書き換える。
 ゴーレムを命令の執行の邪魔になると判断したのだ。
 ゴーレムを敵と認識し、襲いかかる。
 ガキン!!
 という音がして、殺人メカの攻撃がはじかれる。
 ジオ・レガシーの力で強化されているゴーレムのボディーには傷一つつかなかった。
 戦闘能力がそれほど高くない試作機の殺人メカ程度の攻撃では当たっても効果はなかった。
 だが、腐ってもキリング・マシーン…
 ゴーレムの間接部分に殺人メカは攻撃を集中させた。
 接合部分は弱いとして攻撃ターゲットにしたのだ。
(このままではまずい…)
 チナンはそう思った。
 そして、思わず…
「ジャンプしてかわせ!」
 と叫んだ。
 すると、ゴーレムは殺人メカの攻撃をジャンプしてかわすようになった。
 そして、着地地点に上手く殺人メカの一体がいて、踏みつぶす事が出来た。
 残るは一体…
(勝った…)
 チナンはそう思った…。
 だが、ゴーレムはジャンプを繰り返すばかりで、いっこうに攻撃をしかけなくなった。

 しばらく考えたチナンだったが、ゴーレムの特性を理解した。
 最初、ゴーレムが誕生した時、殺人メカと戦わなくちゃと口ずさんでいた。
 その後でゴーレムが殺人メカと戦いに行った。
 そして、ジャンプしてかわせと言ったら、今度はゴーレムがジャンプを始めた。
 ゴーレムはチナンの言う事を聞いて行動をしていたのだ。
 すかさずチナンは…
「殺人メカを倒せ」
 と再度、命令をする。
 すると、ゴーレムは再び、殺人メカに攻撃を開始する。
 だが、単純な動きのゴーレムに対し、殺人メカはヒットアンドウェイを繰り返していた。
 向こうの方が一枚上手だ。

(ど、どうしよう…そ、そうだ!)
 チナンはいい手を思いつき、バリヤーの外に顔を出した。
 すると、殺人メカは…
 ピピピ…
 と顔の認証を開始する…。
 その一瞬の隙でゴーレムは残る一体の殺人メカにトドメの一撃を放った。
 三体とも殺人メカは破壊され、チナンの初勝利が確定した。
「や、やったー」
 チナンは大喜びした。
 勝ったのだ。
 嬉しかった。

 役目を終えたゴーレムは再び、石の塊に戻った。
 チナンの初勝利だった。


16 ゴーレムの実験と他の鍵の行方

 ゴーレムという強力な武器を得たチナンだったが、石の塊をそのまま、冒険に持っていくという訳にはいかない…。
 そこで、チナンはゴーレムの実験をしてみる事にした。

 実験で解ったのは、【emet】という文字を石に書くという事と【YHVH】と書かれたお札をその石に貼る事でストーンゴーレムが誕生するという事。
 他の物ではゴーレムにならないという事。
 ゴーレムは単純な命令を聞くという事。
 複雑な命令は理解出来ないという事。
 最初に出した命令を実行し終えると石に戻るという事などが解った。
 最初はガリガリと石を削って文字を書いていたのだが、それでは効率が悪いと思い、いったん、町まで行ってペンを買って来た。
 そして、ペンで石に【emet】という文字を書いて実験して見たら、意外と上手く言った。
 これは、効率が良いと思って、再び町に行ってペンを何本か買ってそれを装備した。

 宮殿の石を持って行かなくても、そこらに落ちている石などをかき集めてペンで書けばゴーレムは出来ると判断出来た。
 ゴーレムを手にしてとりあえずの武器は出来た…。
 だが、まだ、試作品の殺人メカにも苦戦するような戦力でしかない…。
 これでは、まだ、心もとなかった。
 もっと使い勝手の良い武器が必要だった。
 だが、チナンが持っている鍵だけでは、手にすることが出来たとしても後8種類のジオ・レガシーしか持てない。
 やはり、先代勇者が言っていたように鍵を集めて他のジオ・レガシーも手に入れるしかない…。
 チナンはそう思った。
 一つの鍵だけで、冒険が終わるような単純な旅ではないのだ。
 他の鍵の探し方だが、彼は先代勇者から100ページの小冊子を渡されていた。
 1ページに一つずつ、鍵のありかを暗号化などをして記してある。
 1ページ目の鍵のありかは別に必要無いとしても残りの99ページに書かれた謎を解く事に寄ってそこに記された場所に鍵があるはずなのだ。
 実は、チナン…
 彼はこういう問題等の謎を解く方が自信があった。
 彼は、2ページ目に書かれている暗号を解いて見せた。
「最後に…この地点から北に39歩分…東に61歩分歩いた所に埋まっている…と、これを書いたのが先代勇者さんだから、彼の歩幅を計算して歩くと…大体、この辺りかな?」
 地面に3メートル掘るとも書いてあったので、チナンはゴーレムを呼び出し、地面を三メートル掘って、2つ目の鍵を見つけてからまた、埋めさせた。
 こうして、彼は、2つ目の鍵もゲットしたのである。
 なかなか順調なスタートだった。


17 謎の姉妹

 だが、何かが影でうごめいていた。
 その何かはチナンをも見張っていた。
ジオ・レガシー01話09
「ミュー姉さん…」
「なぁに、ニュー?」
「私、モルモット見つけちゃった。とっても可愛いの」
「そう…私にも紹介して欲しいな、そのモルモット…」
「良いわ。今度一緒に見に行きましょう…」
「そうね。楽しみだわ。」
 会話からすると姉妹のようだ…
 その正体は解らない…
 だが、ドクター・アルファ達よりは賢そうな顔立ちをしていた。
 そして、ドクター・アルファ達の様に自らの身体にメスを入れているのか動きが人間のそれを軽く超越していた。
 崖と崖の間を軽く飛び越え、坂道をスポーツカーより速いスピードで駆け上がっていた。
 知らずに彼女達をナンパして来た男性達の腕を簡単にへし折ってもいた。

 腕を折られた男性達が大騒ぎをしたので、面倒臭く思ったのかその場から消えた。
 謎の姉妹はUFO…未確認飛行物体のような乗り物を呼び出し、それに乗り込んで飛び去った。
 去り際にUFOを操縦して来ただろう人物に…
「ありがとう、父さん」
 と言っていた。
 どうやらその姉妹には父の様な存在がいるようだ…

 解っている事…
 それは、世界の混沌に向けて動き出したのはドクター・アルファ達だけでは無いという事だった。
 ドクター・アルファ達とは目的が異なる何かも動き出していた。
 謎の姉妹とその父もその内の一組だった。

 チナンが勇者となるための試練…
 それは変態ドクター達を倒すことだけでは済みそうも無かった…。
 もっと違う何かも有るのかも知れない…
 チナンの冒険はまだ、始まったばかり…、先の事は解らないのだ…


18 次なる刺客

「ぐぬぬぬぬぬ…」
 殺人メカの反応が消えたのを知り、一緒に送っていた昆虫型偵察メカの映像からチナンの活躍を知ったドクター・アルファは顔を真っ赤にして激怒した。
「ミルたん、お食事の時間でちゅよ〜」
「ヘイ、ベイビー、愛を語ろうぜ!」
 ドクター・ベータとドクター・ガンマはそれぞれ、ミルナとアレーニに夢中でそんなことはどうでも良いような感じだった。
「お前ら、悔しくないのかぁ?」
「何がでちゅか?」
「あんなどうでも良い試作品がどうなろうが知ったこっちゃねぇな!」
 どうやら、チナンに対して悔しさを示したのはドクター・アルファだけのようだ。
「確かに、どうでも良いメカだったが、この私が時間をかけて作ったものをあんなクソガキが壊したんだぞ!」
「なら次を送ればいいんでちゅ!」
「もっと良いもの送ればいいぜぇ!」
「た、確かに…そうだなぁ、私とした事があんなつまらんゴミ相手に熱くなるとはらしくないな…次はこれでも送ってみるか…」
ジオ・レガシー01話10 「いいんじゃないでちゅか?」
「オーイェー!」
「ぐほほほほ…見ておれクソガキが!次こそ、お前の息の根を止めてやるわぁ、ぐあははははは…」
 どうやら、次の刺客はドクター・アルファが送る事になりそうだった。
 ドクター・アルファが次の刺客に選んだメカ、それは…
 全長15メートルくらいの巨大なクラゲの様なメカだった。
 ドクター・アルファ達もチナンを敵として認識した。
 巨大なクラゲモドキ、アルファ2号がチナンを殺すために飛び立った。
 1000万ボルトの電撃を出す攻撃兵器である。


19 チナンの活躍

 クラゲモドキ、アルファ2号はチナンのいる地域までたどり着いた。
 早速、センサーでチナンを探す。
 だが、チナンが何処にもいない…。
 どういう事か解らないままに、ドクター・アルファは大量の虫型偵察メカを送り込み各地を探した。
 そして、全然、見当外れの場所にチナンを見つけ、そこにアルファ2号を向かわせた。
 現場にたどり着くと、また、チナンの姿は何処にもない…
 しばらく探していると別の偵察メカがチナンを発見し、そこにアルファ2号を向けた。
 だが、またしても、チナンの姿がない…。
 そして、しばらく、チナンの姿を発見し、アルファ2号を向かわせると姿が無いという事が続いた。
 チナンはどうやってアルファ2号の追跡を振り切っていたのだろう…
 それは、アルファ2号が現場に着く前に手に入れていた3つ目と4つ目のジオ・レガシーを使って刺客を攪乱していたのである。
 3つ目のジオ・レガシーは隠れ蓑。
 文字通り、姿を隠せるアイテムであった。
 4つ目のジオ・レガシーは羽衣。
 それにより、チナンは地面に足跡や匂いを残さずに空中を移動する事が出来たのだ。
 チナンはなかなか攻撃に適したジオ・レガシーを手にしてはいない…
 だが、手にしたジオ・レガシーを利用して逃げ回る事は出来ていた。
「クソガキャー」
 偵察メカで様子を見ていたドクター・アルファは机を壊して激怒した。
 まるでチナンにバカにされているようで腹が立ったのだ。
 そうこうしている内に、動かすのに大量の電力を必要としていたアルファ2号のバッテリーが切れ始め、補給のためにドクター・アルファの元に戻ろうとしていた隙をついて、あらかじめ、呼び出して山の陰に隠しておいた巨大ゴーレムがドロップキック!
 アルファ2号に致命的なダメージを与えた。
 チナンの2勝目だった。
 手に入れたジオ・レガシーを上手く使った見事な勝利だった。
 逃げ回りながら新たなジオ・レガシーと3つ目の鍵も手に入れた非の打ち所がない完璧な勝利だった。
「ざ、ざまー見ろだわ。あんたなんかにチナン君が負ける訳ないでしょ」
 ドクター・アルファはエレーナにチナンが負ける所を見せようと偵察メカの映像を見せていたのだが、思いも寄らない敗北を見せる結果となってしまった。
「う、うるさい。次こそは必ず、あのガキを始末してやる」
 ドクター・アルファは悔しさに歯ぎしりしていた。
「やったー、ダーリンがまた勝ったー」
「…何となく面白くないでちゅね…」
「正義は必ず勝つんだね〜」
「も、もう消すでちゅ…」
 ドクター・アルファの強いすすめでドクター・ベータもミルナに同じ映像を見せていた。
「悪い奴の末路なんてあんなものだよ…」
「負けたのは俺じゃないぜぇー」
「その前は負けたじゃないか」
「うっ…」
 ドクター・ガンマも同様にアレーニに見せていたのだが、不愉快な思いをする事になった。


20 勇者チナン

「伸びろ如意棒ーっ!」
 チナンは5つ目のジオ・レガシー如意棒でドクター・アルファの送った熊型のアルファ3号とドクター・ベータの送ったイノシシ型のベータ2号、ドクター・ガンマの送った鬼型のガンマ3号を一直線に串刺しにした。
 3体のメカの串焼きの完成だった。
 隠れ蓑と羽衣を使っての攪乱で三つのメカを誘導して一直線に並んだところで仕掛けておいた如意棒を伸ばしたのだ。
 またしてもチナンの作戦勝ちだった。
 早くも、勇者としての力を発揮し始めている感じのするチナンだった。
「あはははは、バカみたーい」
「ぐぬぬぬぬぬ…笑うな!」
「ダーリンすごーい!」
「ダーリンって…ひどいでちゅ…」
「君達も懲りないね…いい加減負けを認めたら?」
「お、俺は負けを認めないぜぇ!」
 今度こそ、エレーナ、ミルナ、アレーニに自分達のメカが勝っている所を見せようと思っていた、ドクター・アルファ、ベータ、ガンマ達だったが、またしても敗北。
 恥の上塗りをしただけだった。
ジオ・レガシー01話11 「あんガキャ、今度こそ…」
「ガキガキって、あんたボキャブラリー少ないわね?ほんとに天才なの?」
「う、うるさい、気が散る、あっち行け!」
「あっち行けって囚われの身の私にあっちに行く方法ないじゃない。それとも出してくれるの?」
「う、うるさい、私が、向こうへ行く」
「へへーんだ、一昨日来やがれってのよ」
 ドクター・アルファに悪態をつくエレーナ。
 ドクター・ベータ、ドクター・ガンマのラボでもミルナ、アレーニとのやりとりで似たような光景が繰り広げられていた。
 チナンは何処に出しても恥ずかしくない戦士へと育ちつつあった。
 彼は戦う。
 エレーナ達を助け出すまで。

登場キャラクター説明

001 マタイ・ チナン

マタイ・チナン 本作の主人公。
少し気弱な男の子。
先代勇者に認められジオ・レガシーを手に入れる為の鍵をもらう。
エレーナとミルナとアレーニを次々と攫われてしまったが、ジオ・レガシーを手に彼女達を救うべく冒険に出る。











002 エレーナ・マーネ

エレーナ・マーネ 本作のヒロインその1。
勝ち気な女の子。
チナンに思いを寄せるが、ドクター・アルファに攫われてしまう。
ドクター・アルファの実験により幽体離脱が出来るようになる。












003 ミルナ・コッチ

ミルナ・コッチ 本作のヒロインその2。
ちょっとぶりっ子な女の子。
チナンに思いを寄せるが、ドクター・ベータに攫われてしまう。
ドクター・ベータの実験により幽体離脱が出来るようになる。












004 アレーニ・シナイ

アレーニ・シナイ 本作のヒロインその3。
女の子が好きな女の子。
チナンに友情を感じるが、ドクター・ガンマに攫われてしまう。
ドクター・ガンマの実験により幽体離脱が出来るようになる。












005 ドクター・アルファ(ゴメス)

ドクター・アルファ 本名、ゴメス。
エレーナの事を気に入り、花嫁として攫う。
世界征服を企てる悪党。













006 ドクター・ベータ(デービス)

ドクター・ベータ 本名、デービス。
ミルナの事を気に入り、花嫁として攫う。
世界征服を企てる悪党。













007 ドクター・ガンマ(サム)

ドクター・ガンマ 本名、サム。
アレーニの事を気に入り、花嫁として攫う。
世界征服を企てる悪党。













008 ミュー(姉)

ミュー 暗躍する謎の姉妹の姉。
身体を改造しており、常人離れした力を使う。
冷徹な性格。













009 ニュー(妹)

ニュー 暗躍する謎の姉妹の妹。
身体を改造しており、常人離れした力を使う。
冷徹な性格。













010 父さん

父さん 暗躍する謎の姉妹の父?
姉妹同様正体不明の存在。