序章 ブラックワンポイントオブアブソルートアトランティス
ここは、最強とされる十三番目の化獣(ばけもの)、クアンスティータの四番目の側体、クアンスティータ・レマが支配する宇宙世界、レマ・ワールド。
二十四もあるクアンスティータの所有する宇宙世界の一つの中の物語である。
全宇宙の始まりよりも更に遙かな前――存在していた大化獣(おおばけもの)がいた。
後の世となる太古の昔、怪物ファーブラ・フィクタはその名称の一部を取って、十三核の化獣(ばけもの)とした。
化獣に使われている核を含む、百六十八の核は元々、この大化獣の身体の一部とされている。
クアンスティータに使われている九十六の核も元々はその大化獣の身体の一部だった。
クアンスティータの構成要素が核だけではないとは言え、大元となっている核の源となっている大化獣はそれだけの存在と言えた。
大化獣の名はエンテオア・ウェーントゥエス。
姿形としてはドラゴンに似ているが竜族ではない。
全く別の化け物だ。
今は、四肢と身体を失い、首だけとなって女性だけの楽園、レマ・ワールドに唯一の雄として存在していた。
七番の化獣ルフォスが、クアンスティータと戦うために、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の勇気を必要とした様に、同時に、ルフォスはエンテオアの身体をも求めていた。
勇気だけでは、クアンスティータに対してはどうにもならない。
核となっていないエンテオアの残りの身体と融合したら、少なくとも体力的にはクアンスティータと対抗出来ると信じている。
そのため、吟侍、ルフォスにとって、エンテオアは希望の存在でもあった。
クアンスティータの支配する二十四の宇宙世界の中のどこに存在するか解らないエンテオアの首との同化するという事が、絶対的な体力をも持つ、クアンスティータに対抗する唯一無二の手段だととらえられていた。
クアンスティータにはエンテオアの心臓の部分の核を使われている。
そのため、他の化獣(ばけもの)よりも圧倒的な力を持っているのだ。
それに対抗するには、頭、脳の部分を核として抽出し、同化する必要があった。
それをやった所で、超絶圧倒的な力を持つクアンスティータには遠く及ばないが、それでも、クアンスティータの力に耐えうる体力は手に入る。
そう言う存在が女性だけの楽園、レマ・ワールドに居座っていた。
エンテオア「おいおい、ねーちゃん達、早く飯にしてくれよ。俺様は手足も使えなくて不自由してるんだからよぉ」
エンテオアは世話役の女性達に声をかける。
今は丁度、食事の時間だ。
エンテオアの世話は、パラアッテ・ルーサティスという少女とクレソラ・キレスという少女が主に請け負っている。
エンテオアはクアンスティータにとっていずれ害となる存在になる可能性があるが、クアンスティータにとっての価値は悪意を持っているかどうかで決まる。
例え、クアンスティータに有益な事をする者でも悪意が有れば排除し、逆にクアンスティータに害をもたらす者でも信念や熱意を持って行動している者は歓迎するのだ。
パラアッテ「エンテオア様、サイコキネシスでもなんでも使えばよろしいじゃないですか。手足が無くたって別に不自由してないでしょう?怠けていると本当に使えなくなりますよ」
エンテオア「俺様は女好きだからな。サービスしてくれるなら、ありがたく受けるだけよ。ヤローに毒されてないここは、正に俺様にとって楽園よぉ。ずうっとここに居たい気分よぉ。さぁ、裸踊りでも見せてくれ」
パラアッテ「べぇーだ。そんなことしませんよぉ。もぅ、エッチなんだから」
エンテオア「まぁ、そういうな。お前さん達には感謝しておる。お前さん達の主にもな」
パラアッテ「私達の主はクアンスティータ・レマ様ですよ」
エンテオア「そのレマちゃんは、あの泣き虫な赤子の従属なのだろう?なら似たようなものだ」
パラアッテ「そうですね。そうかもしれませんね」
エンテオアは実は、既に存在してはいなかった。
クアンスティータの父、怪物ファーブラ・フィクタによって、エンテオアは百六十八の核を取り出され残りの部分は消滅するところだった。
それを助けたのは遥かな未来に誕生する第四本体、クアンスティータ・ミールクラームだった。
ミールクラームの流す涙、クアンスティータ・パールの奇跡の力により、霧散して消えるところだった、エンテオアの頭部がかき集められ頭部だけで再生したのだ。
通常の生命体の場合、エンテオアの生死を左右することはできない。
殺すこともできなければ復活させることも出来はしない。
それだけ、エンテオアの命は重たいのだ。
その命を復活させたクアンスティータ・パールの力はまさに奇跡の力と言ってよかった。
このエンテオアの命を未来から助けたことから第四本体クアンスティータ・ミールクラームの涙は最大の奇跡の象徴とされ、様々な存在が、奇跡のクアンスティータと呼ぶ、クアンスティータ・ミールクラームを求めることになったのだ。
何でもありの奇跡を起こすクアンスティータ・パールが最大の宝となるのに時間はかからなかった。
だが、気の弱いミールクラームがクアンスティータ・パールとともに、エンテオアの命を預かる事は荷が重かった。
そこで、ミールクラームの従属側体であるクアンスティータ・レマが代わりにエンテオアの身柄を引き取ったのだ。
そこで、パラアッテとクレソラが世話をすることになったという経緯がある。
また、クアンスティータはエンテオアの核を体内に吸収したニナによって生み出されたので、エンテオアは祖父のようなものである。
父、怪物ファーブラ・フィクタはその祖父であるエンテオアを倒したという微妙な間柄ではある。
だが、豪快な性格であるエンテオアはそんな事、微塵も気にしてなかった。
元々は、自分を核にして欲しいとやって来た怪物ファーブラ・フィクタに対し、
「欲しくば、俺様を倒して見せろ。そうすれば、遠慮なくもっていけ」
と伝え勝負し、怪物ファーブラ・フィクタはそれを成し遂げただけの話だ。
その結果に対して異論を唱えるのはむしろ、無粋というものだ。
むしろ、愛娘、レインミリーを失っていた時の悲壮感漂っていた頃の怪物ファーブラ・フィクタと魔女ニナを見ていたエンテオアは同情すらする。
筋の通らない事はエンテオアも嫌いなのだ。
だが、怪物ファーブラ・フィクタはどこか間違っている。
神が嫌い、悪魔が嫌い、人間が嫌いはわかる。
それだけの事をされたのだ。
恨むなという方が無理がある。
だが、レインミリーの生まれ変わりとして誕生したクアンスティータはこんなにも優しいじゃないか。
この優しさに最強という立場を加えると、困るのはクアンスティータではないのか?
心のどこかではその考えが間違っているかもしれないと思うからこそ、怪物ファーブラ・フィクタは自身の魂を七つに分けて、転生したのではないか?
魔女ニナは確かに、クアンスティータを生むためには母体が七つ必要だった。
だが、父親である怪物ファーブラ・フィクタは魂を七つに分ける必要はない。
ニナに合わせたと言うのは方便で、実際は生き方を模索したかったのではないのか?
怪物ファーブラ・フィクタの七つの魂の一つ、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)という少年はその答えを見つけられるのかも知れない。
条件付きにはなるだろうが、見事、吟侍とルフォスが自分を見つけられのなら協力しても良い──そう思うのだった。
それまでは、この女達の楽園で、大化物(おおばけもの)ではなく、大馬鹿者(おおばかもの)でも演じてのんびりと待っているか──その考えをエンテオアは秘めていた。
エンテオア「そろそろチチでも拝ませてもらいたいもんだな」
パラアッテ「何、馬鹿な事言ってるんですか?お食事抜きにしますよ」
エンテオア「冗談じゃ。全く、冗談の通じないやつだ」
クレソラ「パラアッテ、交代時間よ」
パラアッテ「あ、はーい。じゃあ、そういう事で」
エンテオア「あ、ちょっと待て。俺様の飯は?」
クレソラ「私が作りますよ」
エンテオア「お前さんがか?お前さんの料理はいまいちだからな……」
クレソラ「失礼な。たまーに失敗するだけです」
エンテオア「三回に一回はたまにとは言わんぞ」
クレソラ「五回に一回ですよ」
エンテオア「どっちでも変わらんわ」
クレソラ「何言ってるんですか、十五回出したら、三回しか失敗してないのに五回も失敗していると言われているんですよ。心外です」
エンテオア「そういうのは百パーセント完璧な料理を出してから言え」
クレソラ「文句を言うエンテオア様には料理半分です」
エンテオア「スマン、俺様が悪かった」
女達の楽園、アブソルートアトランティスは今日も平和だった。
00 クアンスティータ・レマ
この世界を支配するクアンスティータで、4番目の側体。第4本体クアンスティータ・ミールクラームの従属の存在。
クアンスティータが所有する24の宇宙世界の一つ、レマ・ワールドを所有している。
この物語はレマ・ワールドの中の出来事でもある。
01 エンテオア・ウェーントゥエス
クアンスティータをはじめとする化獣(ばけもの)の元となる核はこのエンテオア・ウェーントゥエスの身体から抽出したものであるため、化物の祖父にあたる存在。
命が重たく、他者にその生命を左右することはできない。
怪物ファーブラ・フィクタに敗れ、命が尽きるところだったが、第4本体クアンスティータ・ミールクラームの涙、超奇跡の結晶クアンスティータ・パールの力で首だけで復活する。
女性だけの世界、アブソルートアトランティスで余生を暮らしている。
02 パラアッテ・ルーサティス
クアンスティータ・レマより、エンテオアの世話役に任命された少女。
楽園で暮らす超美女。
03 クレソラ・キレス
クアンスティータ・レマより、エンテオアの世話役に任命された少女。
料理が苦手。