通常編 第一話 イビル・アンバー

01 いつもの光景

「ねぇねぇ、ブリューラー、どっちが良いと思う?」
イビルアンバー第001話01 「シンディア…頼むから俺の部屋で着替えるの止めてくれよ」
「ホントは嬉しいくせにぃ、照れてるのぉ?」
「照れてねぇよ、お前の下着姿くらい、ガキの頃から見慣れてるしよぉ…」
「どうだかなぁ〜」
「ホントだって、マジで全然なんとも…思ってねぇよ…」
「今、一瞬言葉に詰まったよねぇ〜」
「の、喉が詰まっただけだよ」
「へー…」
「何だよ」
「何でもなーい、ほら、早く起きて、遅刻しちゃうぞ」
「そ、そうだな…」
 幼馴染みのシンディアはブリューラーを起こしにくるついでで、服を何着か持ってきて、いつも彼の部屋で今日の服を選ぶ。
 それが日課だった。
 二人は付き合っているという訳では無かったが、お互いを何となく意識しあっている仲ではあった。
イビルアンバー第001話02 二人の家は隣同士…。
 幼い頃からいつも一緒だった。
 風呂にも一緒に入ったし、隣で寝た事だってある…。
 だから、恋愛対象というよりは兄妹というような感じが先に立ってしまい、次のステップには進めないでいた。
「で、どっち?」
「ん、あぁ…そっち…かな?」
「ブッブー、残念でした。今日はこっちの気分なの」
「ちぇっ…」
「これで、七連敗だよ、明日こそ当ててよねぇ〜」
「わざと当てさせねぇようにしてるんじゃねーだろうなぁ…」
「そんなことはしないよ。ちゃんと決めてますぅ」
「明日こそはさせてやる…」
「またのチャレンジをお待ちしております」
 シンディアの服を選ぶのはブリューラーの日課にもなっていた。
 彼が、彼女が今日、着ていきたい服を選んだら、彼の好きなポニーテールにするために髪をまとめてくれたが、外れた時は、そのまま、長い髪を靡かせて登校する。
 彼女としてはこちらの方が好みなのだが、ブリューラーの好みに合わせたいという気持ちも無くはなかった。
 だから、毎朝、服を選んでもらい、自分の好みとブリューラーの好み(選んだ服の事)があえばポニーテールにしていた。
 二人は友達以上、恋人未満という関係だが、かなり、恋人よりに近い立場でもある。


02 友達

「さぁ、行くわよ」
「わかってるって…んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。私も、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 ブリューラーとシンディアはお互いで行ってきますと行ってらっしゃいを言い合った。
 二人の両親は共に海外に赴任しており、家には3ヵ月に一回くらいしか戻って来ない。
 海外で一緒に暮らさないかという話もあったが、二人の両親の赴任先は別の国のため、離ればなれになってしまうから二人はかたくなに反対して、今のスタイルを選択したのだった。
 二人の生活費は毎月銀行に振り込んであるし、家事の方は二人の登校中、ハウスキーパーさん達が来てくれて何とかしてくれていた。

「おはよう、シンディア、後、ついでにブリューラーも」
イビルアンバー第001話03 「おはよう、ケント。今日も元気そうね」
「ついでにってなんだよ、ついでにって」
「お前はシンディアのオマケなの」
「…こいつは…」
 ブリューラーの親友、ケントが声をかけてきた。
 彼もブリューラーとシンディアの幼馴染みでもある。
 シンディアの事が好きなのだが、ブリューラーとシンディアの気持ちに気付いていて、二人を思って身を引いているナイスガイでもある。
 彼の他には男子ではハルム、シュルツ、サイラス、クリストフ、エリオ、ラルフとよくつるみ、女子ではパティー、シモンヌ、マイラと仲が良かった。
 この12人で行動を共にする事が多かった。

「でさぁ、予約なんだけどさ…」
 ケントは夏期休暇の旅行の話を始めた。
 時期的にはもう少しで、夏休みという事になる。
「なんだよ、ケント、まだ予約取れてねぇの?」
「取れたよ、取れたんだけどさ、ちょっと曰く付きの所なんだよな…」
「曰く付きなのか…良いじゃん、行ってみようぜ!」
「だけどよぉ…ちょっとヤバイって噂がよぉ…」
「噂?」
「あぁ…」
 ケントが12人分の宿泊施設の予約を取る約束をしていたのだが、どうも歯切れが悪かった。
 ブリューラー達の住む星、惑星テラ…
 彼らの決めた旅行先にはテラの外から降ってきた巨大隕石があると言われていた。
 そして、その隕石にはテラ外生命体…宇宙人の噂も…
 それを見に行った人達とは連絡がつかないという事も言われているのだ。

 良くない噂が広まっているため、その地への人気が下がり、夏休みの間中という長期間にもかかわらず、破格の値段で行ける事になっていたのだ。
 ただ、宿泊施設が問題でなかなか、隕石の近くにそういう宿がやっておらず、予約を取るのに難儀していたが、ネットで見ると隕石の現場のすぐ近くの宿屋の予約が取れたのだ。
 ただ、隕石のある現場とは距離にして1.5キロと近すぎるのだ。
 小さな山程もある隕石が落ちたのにそこからたった1.5キロの位置にある宿屋が無事なのも気になる所だった。
 ひょっとしたら、隕石は巨大UFOだったのかも知れない。
 あるいは、巨大な生物…
 そんな噂もあった。
 何にしても怪しい場所には違いないのだ。
 もし、何かあった場合、そこからだと現場に近すぎて逃げられないのでは…。
 そんな不安がケントにはあったのだ。


03 ケントの不安

 そんなケントの不安をよそに、夏期休暇に向けて時は一日、また、一日と刻んで行き、とうとう、夏期休暇に入ってしまった。
 旅行は明日出発となっている。
 女子達は琥珀が取れるかも知れないと期待に胸を躍らせていた。
 男子達も誰に告るとかで話題は持ちきりだった。
 そんな中、ケントだけは不安で仕方なかった。
 ケントはブリューラーに電話をかけた。
「もしもし、あ、ケントか、どうしたんだよ?明日早いんだから、もう、寝ろよ」
「あぁ…ブリューラー…ちょっとだけ…」
「ちょっとだけだぞ…」
「あぁ…スマン…旅行の事なんだけどさ…」
「あー、楽しみだな。パティー達の水着姿が拝めるとなると、下半身の制御が聞かなくなるかもしれねぇな〜」
「あぁ…そうだな…」
「ん?どうしたんだ?お前、何か変だぞ」
「いや、なんでも無い…」
「なら、良いけどよ…」
 ブリューラーは首をかしげた。
 いつものケントならシンディアに言いつけるぞくらいの事は言ったはずなんだが、今日に限っては言ってこない。
 いつものやりとりがないので、どうもしっくりと来ない。
「旅行…なんだけどさ…取りやめにできねぇ…かな?」
「はぁ?…今更、何言ってんだよ。今更、止められるわけねぇだろぅ、明日だぞ」
「解ってる…解ってるけどさ…俺、毎晩、夢に見るんだよ…」
「夢?あぁ…例の予知夢か…で、今度は何よ」
 ケントは少しだが、超能力のようなものがあった。
 昔はそれで苛められたものだったが、ブリューラーが庇い、それ以来、悪友を続けていた。
「シンディアが…取り込まれちまう…あの、琥珀に…」
「琥珀?…お前、おかしいぞ。琥珀っていやぁ木の樹脂が長い年月で固まった宝石の事だろ?中に虫とかいたりする…」
「あれは、普通の琥珀じゃない…イビル・アンバー…悪魔の琥珀だ…」
「悪魔の琥珀だぁ?お前、熱でもあるんじゃねぇの?」
「違う、みんな死んじまうんだ。…いや、死ぬんじゃない、別の何かに変わって…俺とお前、シモンヌの三人だけになる…」
「お前の予知夢の的中率…たしか10%くらいだったよな…気のせいだよ、気のせい。気にすんな」
「だけど、毎晩…いや、いい…そうかも知れないな…ゴメン悪かった。おやすみ」
「おう、お休み。体調もどしておけよ」
 ケントとの電話を切るブリューラー。
 彼は後で後悔する事になる…。
 何故、ケントの話をもっと真剣に聞いておかなかったんだろうと…


04 楽しい旅行

 ブリューラー達は元はにぎわった避暑地、ゴールデンシルバーに来ていた。
 森林浴が出来る森林に泳ぐには最適の川、近くには小さな山もある…。
「ちょっと覗かないでよ、ハルム」
「へへへ、良い身体してんじゃんパティー」
イビルアンバー第001話04 「さいてー」
「お約束、お約束ってね」
 川で泳ごうと思って、水着に着替えている所をハルムが覗く。
 彼がエッチなのは仲間内では有名で、女子達はいかに彼から隠れて着替えるかがポイントだった。
 パティーが犠牲(?)になってくれたお陰でシンディアとシモンヌ、マイラの三人は見られずに着替えられたようだ。
 シンディアもブリューラーには見られても良いが、他の男子にはという気持ちが強い。
「さぁ、泳ごうぜ、みんな」
「お、魚もいるぜ、取って晩飯のおかずにしようぜ」
「いいねぇ…お、そっち、いったぞ」
「どれどれ、あ、駄目だ」
「バカ、何やってんだ、俺にやらせろ」
「こっちきた、とって」
「任せろ、そりゃ、やった、大物ゲットだぜー」
「こっちも取れたぜ」
「ちっちぇえな〜それ」
「うるせぇよ、そんなかわんねぇだろ」
「尾びれ一つ分くれぇは大きいよ」
 川での遊泳と魚釣り…
 ブリューラー達は楽しい一時を過ごした。
 12人で遊ぶ時が一番楽しかった。
 
 夜には近くで見つけて来たドラム缶で風呂を沸かして入った。
 女子はハルムを警戒して入らなかったが男子8人は交代で入った。
 また、バーベキューも美味しく食べた。
 12人にとって、最高の休日だった。

「お、そう言えば、俺ら、チェックインまだじゃねぇか」
「そうだ、そうだ、早く行こうぜ」
 ブリューラー達は一度、宿屋に着いていたのだが、チェックインは3時からと言われ、近くの川で遊んでいたのだった。
 彼らは再び、宿屋へと向かう…。
 着いてみると…


05 不穏な影

 その宿は昼間見たときとはうって変わり、何となく不気味なイメージがあった。
「怖っ」
「良いじゃん、雰囲気出てて良いよ」
「早く入ろう」
 仲間達は我先に宿屋へと入っていった。
 何となく、背筋が寒くなったからだった。
 残された、ブリューラー、シンディア、ケントの幼馴染み三人は隕石のある方を見る。
「なぁ、ケント…」
「何?」
「お前の言った事…」
「………」
「いや、何でもねぇ…」
「そうか…」
「何々、何なの?二人で解ったような感じね。私にも教えてよ」
「何でもねぇよ」
「あ、解った、私達を覗こうと考えているんでしょ。ハルムみたいに」
「違うって」
「教えてってば…」
「クソして寝ろ」
「何よ、クソって、女の子に言うもんじゃないわよ」
「お前を女と思った事はねぇよ」
「じゃあ、何よ」
「腐れ縁」
「何ですってぇ」
「痛て、痛て、髪ひっぱんなって、禿げる」
「禿げてしまえ」
 ブリューラーとシンディアいつものようにいちゃつき始める。
 だが、それは、いつもと感覚が違った。
 いつもの様に愛情を確かめ合うような行為では無く、何となく感じてしまった不安を打ち消すためのものであった。
 三人は何となく思ってしまった。
 何かある…
 と。


06 部屋での会話

 ブリューラー達の部屋割りは4人ずつ、3部屋取っていた。
 まずは、ブリューラーとケント、エリオとラルフの4人。
 ハルム、シュルツ、サイラス、クリストフの4人。
 シンディア、パティー、シモンヌ、マイラの女子4人という組み合わせだった。
「…ブリューラー」
「何だ、エリオ?」
「シンディアとは何処まで進んでるんだ?」
「何だよ、いきなり…」
「いつも、見せつけられてるからさ、シンディア、結構人気あんだぜ」
「俺も狙ってたしな」
「ラルフ…」
「お前との仲が眩しすぎてみんな手を出せないんだよ」
「ケント…」
「ケント、お前だって狙っていたんじゃねーの」
「ラルフ!」
「あ、内緒だったか、悪りぃ悪りぃ」
「僕ら4人はシンディアが気になるって事さ」
「エリオ…」
「でさ、シンディアの何処が好き?」
「俺はさ…」
 ブリューラー達、4人は好きな女の子、主に、シンディアの話題で盛り上がっていた。
 同じように、シンディア達女子は…
「それで、ブリューラーとは何処までいったの?」
「…それがねぇ…全然…って、何言わせるのよ、シモンヌ」
「私とパティーも実はちょっと狙ってたんだぞ。でも、あんた達最初から、アツアツだったからさ、ちょっと入って行けないなと思って花持たせてあげたのに、全っ然進展しないじゃないの」
「あれは、ブリューラーがニブチンなんじゃないの?あんだけあんたが、ラブラブ光線出してんのにさ」
「マイラ」
「あ、解る。でも、あれはブリューラー、知っててとぼけてると思うよ」
「パティーもそう思う?絶対、解っててすっとぼけてるよね、あいつ」
「押し倒しちゃいなよ、いっそ」
「何、言ってるのよ、みんな、私達の事はほっといてよ」
「ほっとけないって、もどかしいのよ、あんた達」
「もう…」
 やはり、ブリューラーとシンディアの事で盛り上がっていた。
 二人は仲間内では殆ど公認の仲だった。
 一方、残る4人は…
「おい、ハルム、どうだったんだよ?」
 シュルツがハルムに聞いてきた。
「やっぱ、乳首、ピンクだったか?」
 サイラスも興味津々だ。
 二人が気になっているのはパティーの事だった。
 昼間、ハルムが覗いたと知って、聞いてきたのだ。
「慌てるなよ、二人とも、パティーの乳首はなぁ…」
「ごくっ」×2
「丁度影になってて、良く見えませんでした」
「何だよ、それは…」
「独り占めかよ、見たんなら教えろよな…」
「止めろよ、みんな、パティー、聞いたら傷つくぞ…」
「クリス…お前、一人だけ良い子ちゃんぶって…」
「違うって、クリストフはパティーの事好きだから面白くないんだって」
「あ、そっか、そっか」
「ち、違うって…」
「とぼけんなって、バレバレだって」
「違うったら…」
「今度から、パティーの件はクリスにお願いするわ」
 パティーの件で盛り上がっていた。
「もう、良い…」
 からかわれ出て行くクリストフ。
「悪かったって…」
 後を追っていくサイラス…
 しばらくして、クリストフは部屋に戻って来たが、サイラスは戻らなかった。
「クリス、サイラス知らね?」
「…僕を追いかけて来たのは知ってる…でも、途中で女の人、追いかけてどこか行ったよ…」
「あぁ、あいつはハルムに負けないくらい女好きだからな…」
「俺の方が女好きだ」
「解ってるよ、お前の女好きは死んでも直らん」
「そうそう、それで、女子の入浴タイムなんだが…」
「サイラスの事は良いの?」
「あいつはあいつで好きにやってるんだろ?あいつの趣味の邪魔をしちゃ悪いからな」
 行方が解らなくなったサイラスの事を放っておいて、ドラム缶風呂に入らなかった女子達が宿の温泉には入るだろうと思って、覗きの相談をしていた。


07 サイラスの行方

 一方、サイラスの行方だが、彼は、クリストフを追いかける途中で、色気ムンムンの美女を見つけ、彼を放っておいて、美女の後をフラフラと着いて行った。
イビルアンバー第001話05 美女は宿を出て、隕石のある方にまで歩いて行った。
 サイラスはまるで何かに取り憑かれたかのようにフラフラと彼女の後を追いかける。
 そして、隕石の目の前まで来たとき、美女はスーッと隕石の中に取り込まれていった。
 それを目撃したはずだが、正気を失っているのかそのまま、美女の後を追うように隕石の中に入っていった。
 サイラスは美女にキスをされていた。
 クリストフの目の前で。
 舌を絡める程の濃いやつを…
 それを見たクリストフは呆れて、その場を離れたのだが、その時からサイラスの正気は失われていた。
 フラフラと美女の後をつけていき…そして、隕石に飲み込まれた。
 隕石の中で彼の身体は分解され、別の何かへと変換されていく…
 ケントの夢は正夢だったのだ。


08 消えていく仲間

 サイラスは朝になっても戻らなかった。
 念のため、彼の実家にも連絡を入れたが、戻っていないとの事だった。
 人が帰って来ないという噂はみんな、知っていたが、まさか仲間内で出るとは思っていなかった。
 突然の自体に困惑する11人…
 旅行を取りやめて帰る事も相談したが、まだ、来たばかりであり、サイラスはどこかでブラッとしているのかも知れないという事になり、しばらく、彼の帰りを待つ意味も含めて、しばらく滞在する事にした。
「どうする…隕石」
 シュルツがみんなに聞く。
「どうするったって…私は行ってみたいと思うよ。せっかく来たんだし…まだ、隕石見てないから…サイラスも私達を驚かそうと思ってやってるのかも知れないし…」
 パティーが言う。
「全く、サイラスの奴、冗談がきついぜ、悪ふざけにしても、もうちょっと考えてだな…」
 ラルフが文句を言う。
「あいつは後でお仕置きだ。戻り次第、簀巻きにしてやろうぜ」
 ハルムも文句を言った。
 仲間内ではサイラスが悪戯でやっているという事で納得しているようだった。
 だが、ブリューラーとケントは…
「ブリューラー…」
「ケント…」
 お互い、目配せした。
 ケントの予知夢が現実になるかも知れない…
 そう思ったのだ。
 そして、二人は隕石の所に行くのを反対した。
 したのだが、同意してくれたシンディアを入れても3人で少数意見となり、11人は隕石を見に行く事にした。
 そして、隕石を目の前にした。
「おぉーすげー」
「でけぇな…」
 仲間は隕石の大きさに驚いた。
 そんな中…
「あれ、サイラスじゃん…」
 ぐるっと隕石の後ろに回って見学をしていたシュルツがサイラスに気付いた。
「………」
 彼は無言で手招きした。
「サイラス、てめぇ、何処行ってたんだよ、みんな心配して…」
 文句を言いに彼に近づくシュルツ…
 そこへ昨夜いた美女が突然、現れシュルツに濃厚なキスをする。
 シュルツもまた、正気を失い、隕石の後ろに吸い込まれて行った。
「サイラスいたのか?あれ?…シュルツ?」
 シュルツが叫んだのを聞いたハルムがクリストフと共に駆けつけたがそこに彼は居なかった。
「あれ?…シュルツも消えちゃったよ…」
「あいつも悪のりしたのか?」
「どうしようもない奴らだな」
 仲間達は事の重要性に気付いていない。
「何かヤバイ、すぐにここを離れよう」
 ブリューラーは叫ぶ。
「そうだ。そうしよう」
 ケントも同意する。
 だが…
「何言ってんだよ。お前らまであいつらに乗っかるのかよ」
「そうだよ。何考えているんだよ。僕らの不安を煽って何がしたいの?楽しいのそれ?」
「違うよ、クリス、何かマジでヤバイって、これ」
「はいはい、肝試しは今夜にでもしましょ。まだ、昼間よ」
「違うんだマイラ、聞いてくれ」
「ケントはそういう冗談は言わないと思ってた…なーんてね。あんたも言うか」
「違う、シモンヌ、実はケントが…」
「はいはい、あんた達幼馴染みコンビもグルだったって訳ね」
 ブリューラーとケントの真剣な説得にもかかわらず他のメンバーは消えたサイラスとシュルツに乗っかって悪ふざけをしているようにしか思っていなかった。
 ケントの予知夢の話はシンディアにも内緒にしている二人だけの秘密だった。
 だから、ブリューラーとケントがいくら言っても普段の行いが禍して、説得力という点では誰も納得させる事は出来なかった。
「ちょっと、二人とも、冗談はやめてよね」
 さっきは味方をしてくれたシンディアも二人を責める。
「シンディア、君だけでも逃げてくれ」
 必死のケント。
 だが、仲間は…
「ヒューヒュー、何だ、ケント、新しい告白か?ブリューラーとの三角関係勃発かぁ?」
「あ、俺も参戦しようかな?」
「あ、じゃあ…」
 ケントの事をからかい本気で相手にしてくれていない。
「お前ら、ふざけるな」
「ふざけているのはお前らだろ?」
「俺たちは大まじめだ」
「真面目にふざけてる…と」
「違う!」
 あくまでもふざけているとして取り合ってくれなかった。
 その夜…
 エリオとラルフも消えたのだった…


09 ケントの見た夢…イビル・アンバーとセント・アンバー

 朝になって4人の行方が解らなくなった事を知る残った8人。
 さすがにおかしいと思い始めていた。
 4人の行方が解らない…。
 警察に電話を入れたが、昨日までつながっていた携帯が圏外となってつながらなくなっている…。
 ゴールデン・シルバーから遠ざかろうとしても道が全て崖でふさがれてしまっているようだった。
 ここには3つの道がつながっているが3本とも塞がれるというのはどう考えてもおかしい…。
 テレビを見てもその事に対するニュースはやっていない…
 インターネットも通じなくなっている…
 そもそも、この星にゴールデン・シルバーなんて地名があったか?
 いや、無い…
 どうして、こんな場所に来てしまったんだろう?
 そもそも、こんな山ほどでかい隕石が落ちてこの辺りが無事なわけない…
 もっと広範囲にわたって被害が出たはずだ…
 何で、こんな簡単な疑問に気付かなかったのだろう…。
 よくよく考えてみたらおかしいことだらけだ。
 地図上に無い土地…
 それが、この隕石が作り出したものなら…
 考えれば考える程、疑問が増えていく…
 その事が緊急事態という事を物語っていた。
「聞いてくれ、真面目な話だ…信じて欲しい…」
 ケントはここへ来る前に感じた違和感、不安などを含めて、予知夢の事を話し出した。
「信じて欲しいって言われても…」
 シモンヌは困ってしまう。
「にわかには信じられないな…」
 クリストフも同じ気持ちだ。
「俺も、イビル・アンバーって言われてもなぁ…」
 ハルムも同意する。
「とにかく、イビル・アンバーを何とかしない限り出られない…ここはそういう空間だ…」
 ケントは絶望的な言葉を口にする。
「んなこといわれてもなぁ…」
 納得がいかないハルム。
「全く対抗策が無い訳じゃない。イビル・アンバーには対立する存在がある。セント・アンバー…そいつを探し出せば対抗する術はある…近くにあるはずなんだ…イビル・アンバーとは対の存在だから、必ず…」
「ケントが夢で見た、対抗出来る存在だ。イビル・アンバーに取り込まれた奴は残念だが、もう、手遅れらしい…」
「ブリューラー、何か冷たい…」
 パティーがつぶやく。
「俺だって、こんな事言いたくない…。だけど、俺たちは生きて帰らないと行けない。だから…」
 ふと、ブリューラーはケントが言った言葉を思い出す。
 助かるのはブリューラーとケント、それに、シモンヌだけ…。
 後は助からない…
 そう言っていた。
 シンディアも助からない…
 そう言っていたのだ…。


10 襲いかかってきた女性

 残った8人は状況を整理する事にした。
 今、いるのは…
 男子が、ブリューラー、ケント、ハルム、クリストフの4人。
 女子が、シンディア、パティー、シモンヌ、マイラの4人。
 行方不明なのが、シュルツ、サイラス、エリオ、ラルフの男子4人。
 謎の女性がサイラスと一緒だったのをクリストフが目撃していることから、犯人(?)はその女性である可能性が高いという事。
 行方不明の4人はそれぞれ、一人の時に居なくなっているため、恐らく、その女性の戦闘能力は高くなく、一人になる瞬間を狙っていると思われる事。
 サイラス、エリオ、ラルフは夜、消えたが、シュルツは昼間。つまり、昼夜問わず、襲われる危険性があるという事。
 それらをふまえて言える事は…
 決して一人にはならないと言うことだった。
 警戒しているのが幸いしてかしばらく、謎の女性は現れなかった。
「ふぁ〜あ…」
 緊張感が解けたのかマイラが席を立つ。
「ちょっとマイラ、何処へ行くの?」
 シンディアが声をかける。
「何処ってトイレよ、トイレ。一緒に行く?」
「そうね、男子、誰かついて行ってあげて」
「うぉぉ、俺行く、俺」
「あんたは駄目よ、ハルム。私達が危ないわ。別の意味で」
「ちぇっ…」
「俺が行く…」
「ブリューラーが来てくれるなら安心かな…」
「えー私、嫌よ、男子と一緒なんて…音、聞かれたくないもん…」
「そうも言ってられないわよ。いつ襲われるかわかんないし」
「じゃあ、シンディアはブリューラーと一緒に行けば良いでしょ。私、一人で行くから…」
「マイラ、それは駄目」
「平気よ、今まで、男子しか襲ってないみたいじゃない…相手は女だって言うし…女には興味無いんじゃない?」
「行方不明だって人の中には女性だっていたのよ」
「じゃあ、興味無くなったんじゃない?じゃあ、行ってきまーす」
 そう言うとマイラは走ってトイレに行ってしまった。
 いきなりだったので、シンディアは出遅れてしまった。
 シンディアとブリューラーはマイラを追っていった。
 そして、そこで見たものは…
 マイラの四肢を行方不明だった4人の男子が押さえつけ、仰向けに寝かされた彼女のへそから彼女の体内に侵入しようとする女性の姿だった。
 いや、正確に言えば、女性だった者の口から蛞蝓のような生き物がはい出てマイラのへその中に入ろうとしていた。
イビルアンバー001話06 「お前ら、何してんだ!」
 ブリューラーが怒鳴る。
 その声を聞きつけて部屋に残っていた仲間も駆けつける。
 蛞蝓のような生き物はマイラの身体をのっとったら、彼女の身体を使って走り去ってしまった。
 後に残されたのは行方不明だった4人と謎の女性の抜け殻だった。
 ブリューラー達は知らなかったが、その謎の女性は行方不明になっている女性だった。
 行方不明の4人が保護されホッとする反面、今度は、マイラが居なくなってしまった。


11 イビル・アンバーとは…

「何があった?話せ!」
 正気を取り戻したみたいだった4人に詰め寄るブリューラー。
 4人は正気ではない間、夢物語の様に他人事の様な感覚で見ていたと話した。
 4人が口々に言っていた事をまとめると…
 敵の名前は【イビル・アンバー】で間違いないとの事。
 別の星からやってきたその知的生命体はテラの中に存在する次の女王となる資質を持った女性を捜している事。
 現在は弱っていて、かろうじて女性の中を渡り歩き、生きながらえていると言うこと。
 男性の精気は栄養として取り込む事が出来、変わりに女王の分泌液を注入することにより、女王の兵隊にする事が出来るという事。
 兵隊となった者には階級が存在し、現在の女王の力で操れるのは最下級の兵隊だけだという事。
 イビル・アンバーの本体は例の隕石の中の一部にあると言う事。
 新女王の誕生前なら本体を燃やしてしまえば倒せるかも知れない事
 等が解った。
 そして、もう一つ、ワクチンとなる【セント・アンバー】を探し出さない限り、一度、兵隊になった者は女王の栄養をもらわない限り、一週間で死に至る事が解った。
 それは、最初に攫われたサイラスが砂のように崩れ去った事で証明されてしまった。
「い、いやだぁ〜死にたくないっ!」
「女王の所へ帰るんだ〜」
「帰してくれ〜」
 口々に叫ぶ、シュルツ、エリオ、ラルフ。
 3人は女王の元に戻りたがった。
 無理もない…。
 このまま居たら、サイラスの二の舞、三の舞、四の舞になるのは彼らなのだから。
 ブリューラー達は苦渋の選択で3人を女王の元に帰す事にした。
 女王の元に戻せば、また、敵になってしまう…。
 だからと言ってこのまま居たら、3人を見殺しにしてしまうことになる…。
 ブリューラー達は【セント・アンバー】を探す事を優先させる事にした。
 ケントの予知夢では今、【イビル・アンバー】は本来の力の1%も使えないでいる…
 だが、新たな女王を見つけ、本来の力を取り戻したら、手のつけられない程の大きな力を得てしまう…。
 それだけはなんとしても避けなければならなかった。
 だから、探すのだ…
 対抗策、打開策となりうる【セント・アンバー】を…。


12 失念…もう一体いた女王

 【イビル・アンバー】の女王となったマイラとその配下となったシュルツ、エリオ、ラルフとの生き残りを賭けた戦いが始まった。
 今まで、安全策をとり、一人になった時を襲っていた女王だが、バレてしまったためか強引に襲いかかって来た。
 ブリューラー達の立てた作戦はこうだった。
 女王達をひきつけて置いて、本拠地であろう隕石、イビル・アンバーを誰かが燃やしに行くというものだ。
 ブリューラー達はなるべく、マイラ達を殺さない様に木の棒で応戦し、隙を見たクリストフとパティーが隕石の場所に向かって行った。
 早くしないとブリューラー達もやられてしまうと思い、クリストフとパティーは別々に隕石の中の【イビル・アンバー】の本体を探した。
 そして…
「見つけた。これかな?」
 クリストフが【イビル・アンバー】の本体らしき黄色く透き通った物体を見つける。
 だが、その時…
「え…うぁ…むぐぅ…」
 クリストフの前に別の女性が現れた。
 一緒に来たパティーじゃない…。
 彼女は隕石の反対側を捜索中だ。
 ブリューラー達は失念していた。
 そもそも、たった一人ずつしか襲えないような女王一体だけで、たくさんの行方不明者を出せる訳が無かったのだ。
 そう、女王は一体じゃなかった。
 まだ、女王はいたのだ。
 たちまち、栄養として、精気を取られ、隕石の中に取り込まれるクリストフ。
「どうしたのクリス?」
 様子を見に来たパティーにもう一体の女王が襲いかかり、たちまち彼女の身体をのっとった。
「まだか、まだなのか?」
 緊急事態に気付かず、クリストフ達の状況を待つブリューラー達だったが、そこへパティーがフラフラとやってきた。
イビルアンバー001話07 「パティー?…どうしたんだ?」
 駆け寄るハルム。
「よせ、ハルム、そいつはもう、パティーじゃない!!」
 ケントが叫ぶも間に合わなかった。
 不意に、パティーにキスをされ、正気を失うハルム。
 そのまま、隕石のある方向へ歩いて行った。
 まだ、ハルムは隕石の中に取り込まれていない。
 女王となってしまう女性に対しては直接、へそから進入するが、男性に対しては隕石の元に取り込まないと兵隊には出来ない。
 だから、まだ、暗示にかかっただけのハルムを助けられる可能性がある…。
 だが、今度はマイラ達が壁となり、彼の救出を阻んでいた。
 このままでは1人、サイラスは死んでしまったが、7人が【イビル・アンバー】の虜になってしまい、ブリューラー達はケント、シンディア、シモンヌの4人だけとなってしまう。
 一進一退の攻防が続いた。
 どちらも一歩も引けない…そんな状況だ。
 膠着状態が続く…。
 それで、困るのはブリューラー達だ。
 このままでは、パティー、ハルム、クリストフも敵に回ってしまう…。
 そして、ケントの予知夢通り、ブリューラー、ケント、シモンヌ以外は【イビル・アンバー】に取り込まれてしまうかも知れない。
 嫌だ…
 シンディアは助けたい…。
 ブリューラー達は気持ちばかり焦りだす。
 焦りが状況を不利にしていき、次第に押され始める。
 そんな時、
「ゴメン、見つけたかも…お願い、ちょっと踏ん張っていて…」
 シモンヌが駆けだした。
 見つけたというのは【セント・アンバー】の事だ。
 ぼんやりと光る卵のような繭の様な物体がそこにはあった。
 灯台元暗し…
 今まで遠くを探していたが、【セント・アンバー】はすぐ近くにあったのだ。
 【セント・アンバー】に駆け寄るシモンヌの前に…
 三体目の女王から飛びだした蛞蝓のような生き物が襲いかかった…
 絶体絶命のシモンヌ…
 彼女は無事だった…
 だが、彼女を庇ったシンディアの身体に女王は入っていった。
 最悪の形でケントの予知夢は的中してしまったのだ。


13 【イビル・アンバー】と【セント・アンバー】の神女王

 ゴゴゴゴゴゴゴ…
 地鳴りがした。
 明らかに今までと状況が違っていた。
 シンディアの事がショックで見ていなかったが、シモンヌも【セント・アンバー】の繭に包まれていった。
 シモンヌは繭から出るとブリューラーとケントを掴み、繭の中に二人を放り込んで、その場を離れる。
 その場には巨大化したシンディアの姿が…
イビルアンバー001話08 明らかにパティーやマイラとは違っている。
 シンディアこそ、次の女王としての適正を持った存在だった。
 【イビル・アンバー】の神となるべき存在、神女王(しんじょうおう)とでも言うべきか…。
 神女王誕生によって、隕石が胎動を始める…。
 今までの兵隊よりも上位の兵隊達が動きだそうとしているのだ。
 ズシン、ズシンと神女王、シンディアは隕石の方に向かっていった。
 迎えたのは3人の女王…。
 シンディアと彼女に追従しているパティーとマイラをあわせて6体、女王がいたのだ。
 その中で適正を持ったシンディアが女王達を束ねる神女王となったのだ。

 一方、【セント・アンバー】の神女王となったシモンヌはゴールデン・シルバー内に散らばっていた繭を集めていた。
 集めた繭同士はくっついて大きくなっていき、100個全て集まる頃には、三階建ての家くらいの大きさになっていった。
「シモンヌ…?」
 繭の中でブリューラーが目覚めた。
「ごめんなさい…彼女は眠っています。私は【セント・アンバー】…【イビル・アンバー】に敵対するものです」
「何がどうなって…」
 ケントも目を醒ます。
「時間が無くて、私はあなた達、二人しか兵隊を持てませんでした。ですが、その分、多くの力をあなた方に渡せます…」
 シモンヌの身体をのっとった【セント・アンバー】の神女王は二人に状況を説明し出す。
 彼女が言うには、多次元大宇宙の高次元生命体が生み出した生体兵器、【イビル・アンバー】が星々を破滅に追い込むようになり、それに対処するために【セント・アンバー】が生み出されたという事だった。
 同じ様な力を持つのだが、【イビル・アンバー】をウイルスとするなら、【セント・アンバー】はワクチンの様な存在であり、【セント・アンバー】が勝てば、その星は元通りとなるが、【イビル・アンバー】が勝ってしまうとその星は死に絶えるという。
 星の生死を賭けてずっと【イビル・アンバー】と【セント・アンバー】は対立して来た事などを説明された。
 それを聞いた、ブリューラーは…
「勝手な事を、この星は俺たち、テラに住む人の、生き物のもんだ。テラの外から来た奴らのものじゃない…」
 と憎々しげに言った。
 そんな馬鹿げた事のために、大切な人が犠牲になる事が我慢ならないのだ。
「ごめんなさい…お気持ちは解ります…」
「畜生…」
「すみません…すみません」
イビルアンバー001話09 シモンヌ(【セント・アンバー】の神女王)に対して怒っても仕方がない事だとは解っている。
 許せないのは【イビル・アンバー】とそれを生み出した高次元生命体だ。
 そんな、よく解らない存在のために、今まで平和に暮らしていた人達が犠牲になっている。
 その反面、自分がケントの心配を聞き入れて、旅行を中断していたら、こんな事にはならなかったのにと後悔もした。
 だが、ブリューラー達が行かなかったら他の誰かがゴールデン・シルバーに向かい、誰かが涙を流す事になったかもしれないのだ…。
 彼らに出来る事…
 それは、決着をつけて、二度と、テラにやってこれなくする事だ。


14 兵力差

 【セント・アンバー】の兵力は神女王たるシモンヌと兵隊となったブリューラー、ケントだけの三人。
 対して、【イビル・アンバー】側の兵力は今まで何百年もの間、行方不明になった人達という兵隊が存在するため、かなりの兵力を持っていた。
 軍隊の様な階級が存在し、兵隊は今までブリューラーが相手をしてきた二等兵の上には一等兵、上等兵、兵長が存在し、その上にも将校として准尉、少尉、中尉、大尉、上級大尉、少佐、中佐、大佐、上級大佐、代将、将官として准尉、少将、中将、大将、上級大将、元帥、大元帥が存在する。
 そして、その上に5体の女王が君臨し、さらにその上に神女王シンディアという布陣である。
 この事からも層が厚いのがうかがえる。
 兵力差としては1000倍以上の差があった。
 だが、ブリューラーやケントにとって、それは問題じゃない…。
 問題なのは、シンディア達大切な人達が敵に回ってしまったという事だった。
 お互い、力を貯め合っている、今のこの時期…二人はその事だけが、辛いと思っていた。
 どうしても戦わなくてはならないのか…
 今までの様に、バカやって、怒られて…
 そんな楽しかった時期はついこの間までは当たり前の様に日常として、ブリューラー達を優しく包み込んでいてくれていたのに…
 もう、戻れないのか…
 やり直しはきかないのか…。
 あの時、旅行をとり止めていれば…
 後悔だけが彼らの胸を締め付ける…。
 だが、悩んでいる内にも時は刻まれていき…
 お互いの陣営で戦闘準備が整った。
 整ってしまった…。
 泣いても笑ってもこれで決着をつけるしかない。
 それを思うととても暗い気持ちになってしまっていた。
 【セント・アンバー】の力の源は明日への希望…
 今、ブリューラーとケントにそれはない…。
 絶望感が、彼らから、【イビル・アンバー】に対抗する力を半減以下にさせてしまっていた。
 このままでは負ける…
 それは彼ら自身も何となく感じていた。


15 そして、世界へ…

 ブリューラーとケントの気持ちをよそに、決戦は始まってしまった。
 隕石の中から今までより強力な兵隊達が姿を現す。
 殆ど人間の戦闘力と大差のない二等兵の姿は殆どない、殆どが、人間の力の数倍の力を持つ一等兵以上の兵隊達だった。
 将校、将官はまだ、戦闘準備が整っていないらしく、上位の者でも兵長止まりだったが、それでも、2000を超える大軍勢…。
 たった二人で相手にするには多すぎる人数だった。
 気持ちを押し殺して、兵隊達を次々となぎ倒していくブリューラーとケントだったが、兵隊の中にはハルム達友人も混ざっている。
 【イビル・アンバー】の神女王が誕生してしまった以上、倒すまで、【セント・アンバー】のワクチンの力は半減する。
 それまで、確保しても元の状態には戻せない…
 友達は倒せない…
 その気持ちからか、ハルム達が襲ってくるとその場を離れて態勢を立て直す…
 そんな攻防が続いた。
 本気を出せないブリューラー達は変に余計な力を使ってしまい、疲弊していった。
 敵の数が多すぎるというのもあったが、戦いづらさというのも二人の体力を奪っていった。
 兵隊になったばかりのハルム達男子は全員、二等兵…
 【セント・アンバー】の力を得た、ブリューラー達にとっては大したダメージはおわない。
 だが、それでも、ハルム達を庇いながらの戦闘では押し寄せてくる大軍勢の中では戦いにくかった。
 そうこうしている内に足元をすくわれ、ブリューラーは大ピンチに陥った。
 トドメをさそうと向かってくるラルフの胸を貫き、彼を救ったのはシモンヌの一撃だった。
イビルアンバー001話10 彼女の頬を涙が伝う。
 彼女とラルフはブリューラーがシンディアやケントとそうであるように幼馴染みという関係だった。
 意識は眠っていても彼女の心にはラルフの殺害というイメージが残ってしまった。
 ラルフは倒れ込み、そのまま、砂の様に崩れていった。
 シモンヌにラルフを殺させてしまった…。
 その事がブリューラーの胸に深い傷を残す。
 彼は、続けざまに襲ってきたクリストフを亡き者にしてしまった。
 ケントもエリオを倒してしまっている。
 サイラスに続いて、ラルフ、クリストフ、エリオももう戻らないのだ。
 【セント・アンバー】側の三人はみんな心に傷を負ってしまった。
 そのショックに耐えられなくなったシモンヌはゴールデン・シルバーの異空間を壊してしまった。
 元々、ゴールデン・シルバーは【セント・アンバー】が結界として【イビル・アンバー】を閉じこめていたのだ。
 それに抵抗していた【イビル・アンバー】が外の世界に小さな影響を与え、獲物となる人間達を結界空間となるゴールデン・シルバーの中に誘い込んでいたのだ。
 ゴールデン・シルバーが壊れてしまった事によって【イビル・アンバー】は解き放たれてしまった。
 新たなる獲物を探して、他の地へと隕石が動き出した。
 被害が拡大してしまったのだ。
 ブリューラーとケント、シモンヌは途方に暮れるのだった。

登場キャラクター説明

001 ブリューラー

ブリューラー このお話の主人公。
 友達と旅行中に、イビル・アンバーの騒動に巻き込まれる。
 イビル・アンバーに対抗できる存在、セント・アンバーの加護を得る。












002 シンディア

シンディア このお話のヒロイン。
 主人公のブリューラーとは幼馴染み以上恋人未満の関係。
 旅行中、イビル・アンバーに取り込まれる。













003 ケント

ケント ブリューラーとシンディアの幼馴染み。
 昔から、予知夢を見る事があった。
 ブリューラー同様、セント・アンバーの加護を得る。













004 パティー

パティー ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーに取り込まれる。














005 ハルム

ハルム ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる。














006 シュルツ

シュルツ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる。














007 シモンヌ

シモンヌ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、セント・アンバーと化す。














008 サイラス

サイラス ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる最初の犠牲者。














009 クリストフ

クリストフ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる。














010 エリオ

エリオ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる。














011 ラルフ

ラルフ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーの支配下におかれる。














012 マイラ

マイラ ブリューラー達とつるんでいる友達。
 旅行中、イビル・アンバーに取り込まれる。