第五章


00 三本の柱


5話挿絵1 松村 榮一郎(まつむら えいいちろう)とその従兄弟、松村 俊征(まつむら としゆき)、俊征の彼女、黛 玲於奈(まゆずみ れおな)とその友達の大森 香月(おおもり かづき)の4人はファストフード店で待ち合わせをしている。
 待ち合わせの相手は、玲於奈、香月の友達、横田 由紀(よこた ゆき)と由紀の紹介で来る花坂 里桜(はなさか りお)だ。
 今回はその里桜と会うのが大きな目的だった。
 彼女は【パンドラ】の呪いに対する大きな戦力となる可能性があるのだ。
 今回の対面では本当にそうなのかどうかを確かめるという事になっている。
 里桜は対策チームの勝利のための三本の柱の一つ、【両手に光輝をまとう女神】である可能性が高かった。
 もちろん、【両手に光輝をまとう女神】だけを見つけても勝てない。
 他の二つ、【視線に真実をまとう女神】と【声に癒やしをまとう女神】という二人も見つけなくてはならない。
 三人の女神の存在――それを味方とすることで対策チームは勝利するという。
 だが、裏を返せば味方に出来なかったら、敗北することも十分にあり得るという事だ。
 碓井 栄美(うすい えみ)の霊感占いだけが全てという訳ではないが、かなり的中率の高い占いなので、無視するという訳にもいかなかった。
 だから、最終的には栄美に確認を取らないと里桜が三つの柱の一つかどうかはわからないが、榮一郎にとっては、そんなことよりも里桜があの時見た少女かどうかという方が大事だった。
 柱で無くてもあの時の少女であれば即戦力となるのは間違い無かった。
 十分ほど待った後、待ち合わせ場所に由紀と思われる少女ともう一人、少女が現れた。
 間違い無い。
 あの時の少女だ。
 由紀は
「あ、待ったぁ?」
 と言って近づいて来た。
 香月が、
「悪いね、由紀、連れてきてもらっちゃって。あんた、怖い話駄目だったよね」
 と言った。
「まぁ……ね……」
 と由紀は頷いた。
 香月の話では由紀は里桜のおばさんの事件の時に霊を目撃してそれっきり怖い話はNGだと言う。
 つまり、無理して連れてきてもらったのだ。
 由紀はあまり関わりたくないのか、
「じゃあ、悪いけど、私はこれで」
 と言ってそそくさと退散した。
 君子危うきに近寄らず。
 由紀としては最良の選択であったと言える。
 ポツンと取り残された少女に、榮一郎は、
「花坂 里桜さんだね?初めまして。僕は松村 榮一郎。こっちは従兄弟の松村 俊征とその彼女の黛 玲於奈さん。友人の大森 香月さんだ。突然だけど……」
 と話始めた。
 その話に割って入るように少女が口を開いて。
「知ってる。【パンドラ】退治でしょ」
 と言った。
 説明が必要だと思っていた榮一郎は面食らってしまった。
「知っているなら話は早い、実は……」
「【パンドラ】の馬鹿女をぶっつぶすっていう話ならオーケーよ。叩きつぶしてやろうと思っていたんだから」
「え?」
「里桜おばさんの敵だからね。根絶やしにしてやるわ」
「は、はぁ……」
 これからじっくり里桜を説得しようと思っていたのだが、本人の方がかなりやる気だったので拍子抜けした。
 だが、気になる一言があった。
 彼女は【里桜おばさん】と言った。
 【里桜】とは彼女の事では無かったのか?
 話が見えなかった。
 混乱している榮一郎を尻目に、玲於奈が口を開いた。
「あの……よかったら、その里桜おばさんって人の事件を私たちに教えてくれないかな?あなたは一人で倒したって聞いたんだけど、実力を知る意味でも参考までに」
 と言った。
 榮一郎が言いたいことは大体網羅していた。
 これまでの口調から里桜はかなりさばさばした性格だというのはわかった。
 なんとなく【女神】というよりは【肝っ玉姉ちゃん】という感じの女の子だった。
 里桜は、
「まぁ、むかつく話だけど、自己紹介代わりに話すわ」
 と言った。
 榮一郎達は里桜から彼女が巻き込まれた事件を聞いた。


01 花坂 里桜の【パンドラ】退治


 花坂 里桜には5つ年上のおばが居た。
 里桜の母親の年の離れた妹であり、おばというよりは年の離れた姉のような存在だった。
5話挿絵2 名前は母親の旧姓と同じ名字の杉山 里桜(すぎやま りお)と言った。
 ややこしいので、花坂 里桜と杉山 里桜と言うことにする。
 花坂 里桜の母親は年の離れた妹の杉山 里桜を特にかわいがっていて、娘が生まれたら同じ名前をつけると言っていたのだ。
 それで花坂 里桜が誕生したのだ。
 杉山 里桜もまた、自分と同じ名前となった姪の花坂 里桜をかわいがった。
 名前も同じなので、姪の花坂 里桜はおばの杉山 里桜のところに度々遊びに行っていた。
 この話には後、二人、主要登場人物が居た。
 黒木 暁(くろき さとる)と近松 静那(ちかまつ しずな)だ。
 暁は杉山 里桜の元恋人になり、静那は暁の新しい恋人ということになる。
 この時の【パンドラ】の呪いの名前は【パンドラ】のバトンだった。
 バトンと言っても形がはっきりとあるという訳では無い。
 別の言い方をすれば、【パンドラ】のキスマークと呼んでも良い。
 これは恋人から恋人へ伝染するタイプの【パンドラ】だった。
 つまり、この呪いの被害者は男女男女男……の様に、交互に男と女の被害者を出す呪いで、最初の被害者の恋人がキスマークというバトンを受け取り、別れる。
 最初の被害者の恋人が次の新しい恋人と付き合い、バトンを次の恋人に渡し、また、別れる。
 そうやって、キスマークのリレーを42回繰り返すというものだった。
 被害者達はキスマークをつけた次の被害者が新しい恋人を作った時点で、かつてつけられて消えたはずのキスマークが浮かび上がり、キスマークからだんだん女の様な形の痣のようなものに代わりながら、だんだん心臓の上に近づいて来る。
 その痣が心臓にたどり着いた時点で、被害者は死亡するという時間差のある呪いだった。
 杉山 里桜は元恋人からこのバトンを受け取り、次の暁へとバトンを渡したのだ。
 杉山 里桜が些細な喧嘩から暁と別れ、やがて別れた暁が新しい恋人、静那を作った時点で、杉山 里桜の呪いが発動。
 それを幼なじみの由紀と共に、遊びに来ていた花坂 里桜が目撃する。
 大好きなおばが苦しみながら死んでいったのを見た時、花坂 里桜は覚醒した。
 おばの遺体を触り、それが【パンドラ】による呪いだと気づき、呪いの後を追った。
 呪いは暁から静那へと移っていて、暁と静那が不仲になっていて別れるまで時間の問題という状況だった。
 そんな暁と静那が別れ話をするために会っていた時に花坂 里桜は乱入。
「里桜おばさんが亡くなった時になにやってんのよ、あんたはぁ〜」
 と言って、暁を思いっきりひっぱたいた。
 すると、【パンドラ】バトンの呪いは強制的に霧散し、消え去った。
 最後に、
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃ……」
 という断末魔を残して。
 それを付き添いで見ていた由紀はショックで霊の話が怖くなり、その時の話がやがて、
「里桜が悪霊をぶっ倒した」
 という噂となり広まったのだ。
 もちろん、里桜本人から聞いた話ではもう少し別の表現をしていたが、後で検証したらこういう結末になっていたというのがわかった。
 理解すれば理解するほど、【女神】ではなく、【肝っ玉姉ちゃん】に見えてきた。
 だが、間違い無い。
 彼女は強力な戦力になる。
 後日、栄美とも面会し、何度か面談が必要だが里桜が【両手に光輝をまとう女神】でほぼ間違い無いという事がわかった。
 対策チームに一人目のカリスマが誕生した瞬間だった。
 喜ぶ一同だったが、それから間もなくして、5、6、7体目のビスクドールが出現してしまったという報告が来た。
 カリスマ擁立に対抗するかの様に【パンドラ】側は事を急いで勢力を増そうとしていたのだ。


02 【パンドラ】シャドウ


 榮一郎達は、ビスクドール誕生の残念な報告を聞かねばならなかった。
 またしても3つのビスクドール出現。
 聞きたくないが聞かねばならなかった。
 3つとも里桜のスカウトに浮かれていた榮一郎達とは離れた担当地区で活動していたチームが取り扱っていた事件のようだ。
 まずは、5つ目のビスクドール誕生となってしまった【パンドラ】事件についてだ。
 この呪いは【パンドラ】シャドウ――つまり、影に関する呪いだった。
 これは被害者というよりは加害者がこの呪いに関わっていた。
 とある山の六合目に【パンドラ】の岩と呼ばれている場所があった。
 その【パンドラ】の岩で出来た影に呪い殺したい相手を強く念じながら、踏む。
 踏み込んだ足は一切上げずに引きずりながら四合目にある【パンドラ】の穴と呼ばれるところまで進み踏み込んだ足を穴に突っ込む。
 すると、呪う対象者が不慮の事故で死亡するという呪いだった。
 これは山の中であるし、単純に六合目から足を引きずりながら四合目まで降りるのは至難の業と言える。
 引きずりながら山を下りればすれ違う人に怪しまれるし、一度でも足を放せば無効となる。
 効率から考えれば他の呪いに手を出した方が、良いと思える。
 だが、そういう事に挑戦する変わり者も時にはいるのだ。
 それに挑戦した男は何度も失敗を繰り返した。
 それでも諦めず、最初から何度もやり続けた。
 そのエネルギーを他の事に向ければ何らかの成果を得ることも可能だろうと思うが、負の感情に支配された者はそうは考えない。
 雨の日も風の日も繰り返し呪いの成就に向けて山を登っては下りた。
 そして、ついに成功してしまうのである。
 その男はフラれた腹いせにフッた女の子を呪い殺したのだ。
 その成功例は【パンドラドリーマー】のSNSで拡散。
 負の感情を持つ者達がこぞって挑戦しだした。
 効率が悪い呪いという事から対策チームはその山に人員を割かなかった。
 噂が対策チームの耳に入って来たときはすでに9人の呪いが成就していた。
 慌てて、【パンドラ】の岩と【パンドラ】の穴がある山を探すが、なかなか見当がつかなかった。
 やっと山が特定出来た頃にはすでに20人が呪いを成就させて居て、慌てて対策チームを山に派遣したが、その時は最後の21人目が【パンドラ】の穴に足を入れた後だった。
 21人目が呪ったと思われる女性の死亡が確認されて間もなく、呪った21人も後を追うかの様に全員心臓麻痺で死亡した。
 これで、呪った人間と呪われた人間で42人の死亡が確定。
 21人目の呪いをかけた人間を探っていた対策チームは21人目を回収する5体目のビスクドールを発見。
「ふふふ……これで5体目……」
 という言葉を残して消えていったという。
 【パンドラ】の呪いと戦っているのは榮一郎達だけではない。
 榮一郎達の手の届かないところでも攻防があるのだ。
 そして、負けた。
 そういう事だ。
 榮一郎はこの報告を受けて苦虫をかみつぶした気持ちになった。
 対策チームの怠慢が招いた敗北だからだ。
 人員を少しでも配置していれば防げていたかもしれない事件だっただけに悔しさが残った。


03 【パンドラ】メル友


 続いて、榮一郎達は6体目のビスクドール出現になってしまった【パンドラ】事件の報告を聞いた。
 この事件の【パンドラ】の名前は、【パンドラ】メル友と言う。
 【パンドラ】を名乗るメル友と4219回やりとりすると【4219】→【死に行く】で死亡するというものだ。
 犠牲者の数は17名。
 不吉な言葉で考えると【17】→【否(いな)】だろうか?
 【パンドラ】メル友の【パンドラ】メールはある時、突然、被害者のスマホなどに来る。
 普通であれば迷惑メールかと思って削除などをするのだが、妙に気になってつい、記事を見てしまったら、【パンドラ】の思うつぼ。
 メールの内容がとても面白く感じ、ついつい、次に来た【パンドラ】メールも見てしまう。
 そうやって、だんだん、【パンドラ】メールに被害者達ははまっていくのだ。
 これはまだ、携帯電話が発売したばかりからあり、時代を経てスマホになっても受け継がれているという呪いだった。
 4219回という数はものすごく多い。
 なので、そう簡単に呪いが成就するものとも思えない。
 だが、個人に直接メールが届くので、呪いの発見は極めて困難と言わざるを得なかった。
 呪いの成就にはかなりかかるが、その代わり非常に見つかりにくい呪いと言えた。
 この呪いを見つけるには被害者の状態をよく観察する事につきる。
 被害者の状態は呪いが侵攻すればするほど、悪くなる。
 そこで、何らかの異変が被害者に起きていると気づけば、そこから、スマホに行き着く場合も考えられる。
 だが、スマホは個人のプライバシーの問題もある。
 そんなに簡単にはスマホの中味を見せてくれるはずも無い。
 被害者の異変に気づいてからいかなアクションをとるかでもその後の対処が変わってくる。
 被害者にどこまで踏み込めるかで呪いを解呪出来るかどうかが決まる。
 対策チームは被害者とは赤の他人だ。
 なので、他人である対策チームが被害者の内面にまで踏み込めるような状況にはなりにくく、わかってはいても対処が取れず、黙って呪いの侵攻を見ているしかなかった。
 これに関わっていたのが里桜だったならば、被害者に触れ、呪いの解呪が出来た可能性が高い。
 もっと早く、里桜を見つけ出して、彼女を派遣できていれば……
 その事が悔やまれる事件でもあった。
 被害者にとっては運が無かったでは済ませられないのだから。
 里桜の参加不参加で戦況が大きく変わると言っても良かった事件だった。
 それに里桜は一人だ。
 彼女に全ての【パンドラ】事件をまかなえるはずも無い。
 悔やんでも被害者は戻って来ない。
 今ある環境で最善を尽くすしかないのだ。


04 【パンドラ】の贈り物


 最後に榮一郎達は7つ目のビスクドールを出現させてしまった【パンドラ】の呪いの事件の報告を受けた。
 この呪いの名前は【パンドラ】の贈り物という。
 この呪いはある日突然、差出人不明の荷物が届く。
 こんな時代だから、そんな怪しい物はほとんどの人間が怪しむだろう。
 だが、そんな中にももらえるものはもらうという主義の人間もいる。
 差出人は不明だが、包み紙を開けて見ると中に差出人の名前が書いてある。
 送り主の名前は【パンドラ】だ。
 当然、心当たりは無い。
 ここで捨てたりなど処分するか送り返すかなりすれば問題は無い。
 だが、送り先が自分の名前だからともらってしまう者も居る。
 それこそが悲劇の始まりだ。
 この贈り物は受け取った人間が欲しかった物が巧妙に送られて来ているのでついつい、受け取りたくなってしまうのだ。
 この贈り物をクーリングオフが聞かなくなるまで保管していると次にまた、贈り物が贈られてくる。
 詐欺でも似たようなやり口があるので、警戒すれば良いのだが、それでも受け取って知らんぷりを決め込む人間はいる。
 詐欺が来ても知らん存ぜぬを貫こうとするある意味強者だ。
 次の贈り物もやはり自分の好みの物でやはり受け取る。
 それを12回繰り返す。
 すると最後の13回目に送られてくるのは鏡だ。
 その鏡を見ると鏡が割れ、割れた破片が贈り物をもらった人間の首を切り落とし、贈り物の箱の収まる。
 それで一人の人間が犠牲者となるという呪いだった。
 これを13人分繰り返す事でこの【パンドラ】の呪いが成就する事になる。
 贈り物を受け取る人間は自分から【パンドラ】からの贈り物を受け取っていると言うわけもないので、これも非常に見つけにくい案件と言えた。
 郵便局などには守秘義務があるので、情報開示は出来ない。
 なので、この事件をつきとめるには被害者の自宅に被害者が欲しがっている物が短期間の間に増え続けているという事に気づくかどうかだが、被害者が誰も自分の自宅に招かない場合は対処の取りようが無い。
 対策チームとしては、【パンドラ】に取り憑かれている人間は強い死相が出るので、それからその被害者がどんな【パンドラ】に取り憑かれているかを見極められるかどうかというのが呪いを食い止める事が出来るかもしれない第一歩となる。
 だが、【パンドラ】の呪いはこれ以外にもわかりにくい厄介な呪いは数多くある。
 なので、【パンドラ】の贈り物の事件にもそれほど人員を割く訳にもいかず、人手不足が祟って、あえなく撃沈。
 呪いが成就してしまったという事だ。
 7体目のビスクドールを対策チームが確認。
 お決まりの、
「ふふふ……これで7体目……」
 という言葉を聞いたそうだ。
 ここのところ、【パンドラ】側は勢いがついてきたのか、呪いのバリエーションが豊富になってしまっている。
 里桜のようなカリスマが出てきたら退治させられる可能性が高くなるので、呪いの【質】よりも【量】に頼って、里桜が関わらないところで呪いを成就させようという動きが見て取れる。
 現に、5つ目から7つ目の【パンドラ】の呪いは里桜を避けるように動いている痕跡が確認出来た。
 それは【パンドラ】が里桜を恐れているという事でもあるが、それだけに、これまで以上に闇深く沈んで行動していくという事が考えられた。
 いかに里桜の力が強力だろうと見つける事が出来なければ話にならない。
 里桜を日本中連れ回すという訳にもいかないので、どうしても他のカリスマの必要性も出てくる。
 他の二つの柱をスカウトすること。
 これは対策チームの重要な使命と言えた。


05 最悪の【パンドラ】


 5体目から7体目のビスクドールの報告を受けた榮一郎達だったが、それ以外に悪い知らせも受けていた。
5話挿絵3 対策チームで噂になっている【最悪の【パンドラ】】についての噂だ。
 何故、最悪なのか?
 それは、被害者の中に対策チームのメンバーが含まれるからだ。
 ただ、呪いによる被害者を出すだけでなく対策チームの戦力も削ってしまうのだ。
 被害者の数も恐らくは666名かそれ以上を目指しているのでは無いかという勢いの最大規模の呪いの話だ。
 その呪いに捕まったら最後、条件を満たすまで帰れない。
 【パンドラ】の呪いの中でも最強と言える呪いだった。
 その【最悪の【パンドラ】】とはどのような呪いなのか?
 一度、生き残った者の話では、異空間に連れて行かれ、一緒に連れてこられた他の12人と殺し合いを強要されるのだという。
 つまり、一度の取り込みで12人の犠牲者を出すのだ。
 殺された12人は存在が消えてしまうという。
 666を12で割ると55.5で端数が出る。
 12人ずつ殺されてもきっちり割り切れない。
 だが、そんな端数も計算には入っているのだろう。
 報告をした生き残りは12人を殺して来ていた。
 その事実に耐えきれず、その報告者は自ら命を絶っている。
 つまり、その件に関して言えば犠牲者は13人全員という事になる。
 だが、この呪いに関して言えば最大にして最後の呪いとされていた。
 13体目のビスクドール候補の呪いとされていた呪いなのだ。
 それが、何故今?
 次に呪いが成就しても8体目のはず。
 榮一郎は首をかしげたが報告を受けて納得した。
 呪いが成就したという話ではなく、活性化しているという報告だったからだ。
 殺された者は存在が消えてしまうので知る方法は対策チームの採用人数と実際の人数が合っていないなどのすり合わせによるものだ。
 だが、それは【最悪の【パンドラ】】の事件に関わったものだけとも言えない。
 例えば内通者。
 【パンドラ】側に寝返った裏切り者などが居てもやはり途中から人数がおかしくなるという事もあり得るだろう。
 だが、それを言っていたらきりが無い。
 一つ一つ真偽を確かめつつ適切に対処していくことが【パンドラ】を倒す事にもつながるのだから。
 今は出来ることを精一杯やるだけだ。
 榮一郎はそう思うことにした。
 何より、里桜の加入の喜びにこれ以上水をさされたくないのだ。
 今は三本柱の一つが立った事を素直に喜び合いたかったのだ。
 今は【最悪の【パンドラ】】の事は忘れよう――そう、思うのだが、心のどこかでやはりこの最強最悪の呪いを意識せざるを得なかった。
 出来れば捕まりたくないというのが本音だった。


06 【パンドラ】のオルゴール


 【パンドラ】に関する事件は後を絶たない。
 次から次へと巧妙かつ陰湿な悪意はばらまかれていく。
 多田 絵里子(ただ えりこ)は一度、【パンドラ】事件に巻き込まれたが助かった。
 【パンドラ】の栞(しおり)という呪いに付け狙われた。
 この呪いは好きな人の本に栞を紛れ込ませるという触れ込みで伝わっていたが、実際は無理心中を起こさせる呪いだった。
 だが、対策チームの活躍でこの呪いの成就を阻止できたのだ。
 だが、完全に呪いから逃れた訳では無い。
 新たな【パンドラ】の呪いが彼女に魔の手を伸ばしていた。
 今度の【パンドラ】の呪いの名前は、【パンドラ】のオルゴールという。
 これは突然、送られてくる女性を模した形のオルゴールの曲を聴き続けるという事で呪われるというものだった。
 ただ、聞くだけなのだが、666回聞くと自殺するというものだ。
 111回ずつで6段階になっていて、112回目には曲調が変わる。
 同じように223回目、334回目、445回目、556回目にやはり曲調が変わって行く。
 曲調が変わるたびに被害者の死相が強くなっていく。
 この呪いは一度、【パンドラ】事件に巻き込まれた者達の多くがターゲットとして狙われた。
 まるで呪い残しはしないとばかりに一度助かった人間も再び、【パンドラ】の恐怖が彼ら彼女らを襲うのだ。
 それに、この【パンドラ】のオルゴールは一度、【パンドラ】事件に関わった者が虜になりやすいという特徴を持っていた。
 一度、【パンドラ】の虜になった者が再び【パンドラ】の怪しい魅力に取り憑かれ、やがて破滅に向かって行くのだ。
 悪夢は終わらない――【パンドラ】から逃れた者は【パンドラ】への恐怖と共に【パンドラ】の魅力を潜在意識の深い部分で持ってしまっている。
 そこを付け狙われるのだ。
 【パンドラ】のオルゴールの魅惑のメロディーは常習性が高く、666回という回数にもかかわらず、聞き入る回数はかなりの早さで増えて行く。
 1段階目から2段階目へ、2段階目から3段階目へ……とどんどん聞く回数は増えていく。
 対策チームとしては、その【パンドラ】オルゴールを見つけ次第破壊するという事で対処をとっていた。
 だが、【パンドラ】事件の生還者達の数はかなり多い。
 その生還者全てをカバーするのは至難の業だった。
 【パンドラ】財団から資金提供されているのか、【パンドラ】オルゴールの数は数え切れないほど確認された。
 配る前に未然に回収したものの、これが【パンドラ】事件の生還者達に配られていたかと思うとぞっとする数だったという。
 【パンドラ】オルゴールの呪いの成就に必要な犠牲者の数は13名だというのがわかっている。
 それは、発見された【パンドラ】オルゴールには【13】の刻印がしてあり、犠牲者二人を出したところで確認すると、刻印は【11】になっていた。
 最終的には刻印の数は、【9】にまでになった。
 つまり、4人の犠牲者を出したのだが、それ以上は減らなかった。
 いつしか、【パンドラ】オルゴールの事件も終息していったようだ。
 【パンドラ】側としては大規模な計画だっただけに、犠牲者が4人というのは失敗だったと言えるだろう。
 だが、対策チームとしては、1人でも犠牲者を出したのであれば、それは失敗であると言えるのだ。
 犠牲者を誰も出さずに呪いを終息させる。
 それこそが、対策チームが掲げている目標なのだ。
 なので、この事件はどちらかが勝ったというよりも両者敗北と言った結果であろう。
 【パンドラ】のオルゴール事件は終息したが、【パンドラ】一派は、また、新たな呪いを考えるだろう。
 元を絶たなければ、悲劇は量産されてしまう。
 あの手この手を使って被害者達に忍び寄って来る陰湿な悪霊――それが【パンドラ】の呪いだ。
 呪いの元凶である【パンドラ】を倒す事。
 それが、対策チームの最終目的だった。


07 【パンドラ】の手鏡


「手鏡様、手鏡様、私はどれくらい【パンドラ】様に近づきましたか?……え?30%?――まだまだですね」
 篠崎 美也(しのざき みや)は今日も手鏡を見ている。
 彼女の手元にある手鏡の名前は【パンドラ】の手鏡と言った。
 手にした者を【パンドラ】の虜にさせる手鏡である。
 この手鏡は主に、顔などにコンプレックスを持つ女性に送られる。
 表向きはこの手鏡を毎日見ていると次第に美しくなるという触れ込みだった。
 来る日も来る日も手鏡を見ていく内に、被害者は次第に鏡の中から声がするように感じるという。
 鏡の中に【神】を感じた被害者女性達は次第に【パンドラ】の手鏡が示す様に行動をしていくという。
 最初は顔のマッサージから。
 だが、次第に整形も強要するようになる。
 たっぷりお金をかけて体を改造していく被害女性達。
 いつしか生活の全てを手鏡の言葉に左右される様になっていく。
 被害女性達は【パンドラ】という名の理想の女性像にどれくらい近づいたかを聞く。
 すると【パンドラ】の手鏡はどのくらい【パンドラ】に近づいたかを答えるという。
 その度合いが増すほど、被害者女性達は【死】に近づいて来る。
 100%になった時――それは【パンドラ】そのものになったという事と同じく、自身の【死】を意味していた。
 この事件の被害者はすでに3人居た。
 その被害者は全員、同じ姿で死亡していたため、警察の方でもおかしいと思ったのだ。
 2人目までは、双子が死んだか何か、他人のそら似の死亡事故として考えていたが3人目が出たことと死因が全員同じで、整形手術のしすぎで、体が拒絶反応を起こし、それによるショック死だったため、事件性を確認したのだ。
 3人とも同じ女性像を目指して整形し死亡していることが確認された。
 だが4人目となるのではないかと思われている女性は保護し、強制入院させた。
 見つかった女性はそれだけ、体にショック反応が出ていたのだ。
 4人目の女性は手鏡を強く求めていた。
 ところが、事件の事情聴取に来ていた捜査員のミスで手鏡を落としてしまい、割れてしまった。
 すると、4人目になりそうな女性はまるで憑きものが落ちたかのように穏やかな表情になり、体は少しずつ回復に向かっているという。
 まさかとは思ったが、5人目になりそうな女性も保護した時、やはり手鏡に執着していたので、手鏡から引き離そうとした時、手鏡が落ち、割れた。
 その瞬間、5人目になりそうな女性もまた、平静を取り戻したのだ。
 捜査員がよくよく調べて見ると、先に死亡した3人の遺留品にも手鏡があった。
 警察ではこの手鏡に何かあるかと思ったが結局何も出てこなかったので、たまたま偶然、そうなったとして処理された。
 美に執着する女性達がたまたま同じ女性像を目指すようになり、それが、手鏡の背面に彫られているイラストの女性の姿に酷似していたという事として捜査線上から外れた。
 だが、諦めきれない捜査員がいた。
 中石 隆三(なかいし りゅうぞう)刑事だった。
 隆三は三年前、妹を【パンドラ】関連の事件で無くしている。
 警察の方でも調べたが、【パンドラ】が関係しているという証拠は見つからず、捜査は行き詰まっていたが、その事件で隆三は【パンドラ】に対して強い憎しみを持つようになっている。
 そんな彼は、ネットで【パンドラ】事件に対応している対策チームの事を知った。
 記事を調べて見ると結構な割合で最近【パンドラ】事件が起きていてそれらを片っ端から解決して回っているという事が書いてあった。
 【パンドラ】事件と言えば、妹が事件に巻き込まれたのは【パンドラ】の香水というものだった。
 【パンドラ】の香水に取り憑かれた妹は死亡してしまったが、その事件を解決に持って行ったのは妹の友達だった、清宮 結羽(きよみや ゆう)という少女だった。
 彼女は妹、中石 小夜(なかいし さよ)の死をきっかけに何かの力に覚醒したようだった。
 まるで、全てを見通すような目――それを彼女は身につけたようだ。
 小夜の敵である【パンドラ】の香水を一瞬にして無力化した彼女の力は、対策チームが探していると記事に出ていた三つの柱の一つ、【視線に真実をまとう女神】ではないかと思える。
 【パンドラ】の香水事件は詐欺事件として、警察の方で立件し、調べているため、対策チームとしては関わっていないが、もし、結羽の存在が対策チームの求めている存在だったならば、隆三も力になれるのではないか?という気持ちが芽生えていた。
 だが、自分は刑事であって、一般人に危険かも知れない事件に関わる様に勧めるというのはいかがなものか?
 そう言う気持ちもあったため、今まで、対策チームには接触して来なかったし、当然、結羽を紹介もしていなかった。
 だが、隆三はこの【パンドラ】事件は警察の手に余るものではないかと思えてきていた。
 捜査線上に浮上した【パンドラ】財団が何かしら関わっているのではないかというところまでは突き止めたのだが、それ以上はもみ消されているのか、証拠となるようなものは発見出来ない。
 圧倒的な権力に捜査のメスを入れたいという気持ちはあるが、上からこれ以上関わるなと命令されてしまっていた。
 隆三は【パンドラ】の香水事件からも外され、今回の【パンドラ】の手鏡事件からも深入りするなと釘を刺されてしまっている。
 だが、隆三は美也が持っていた手鏡を目撃してしまった。
 美也の容姿は【パンドラ】とはまだほど遠いものだったが、それでもまるで取り憑かれたかの様にうっとりしているその表情は明らかに異常だった。
 4人目と5人目になりそうな女性は無事だったが、美也は6人目の被害者になりそうな雰囲気を出していた。
 いや、6人目という言い方は正しくない。
 4人目と5人目になりそうな女性は無事だったので、美也が本当の4人目の被害者になる可能性があるのだ。
 被害者という意味では助かった2人も被害者と言えるが、この場合は【死】という結果が待っている被害者の数だ。
 この【パンドラ】の手鏡の被害者を救う方法は簡単だ。
 手鏡を奪って割れば良い。
 だが、隆三は刑事だ。
 刑事がさして理由も示さずに手鏡を奪って割る事は出来ない。
 それが危険だと言う証拠が必要だ。
 【パンドラ】の手鏡の虜になっている被害者にその証拠を示すのは極めて困難だ。
 そもそも、おかしいと気づくのであれば、隆三が割るまでもなく、被害者が自分で割れば済む話なのだから。
 割らないという事はそれだけ、心がつかまれてしまっているという事になる。
 手が出ない――
 それを解決するのはやはり、対策チームか、あの時、大きな力を得た、結羽の力を借りに行くかするしかなかった。
 刑事なのに何も出来ない――
 その無力感が彼を苦しめる。
 隆三は悩んだ。
 悩んで悩んで悩んだ末、結羽と会うことにした。

 隆三は結羽と待ち合わせをした。
 幸い、妹が巻き込まれた事件をきっかけにアドレスを聞いていたので、久しぶりに電話したのだ。
 電話口に立った結羽は少し戸惑ったが、会ってくれることになった。
 三年ぶりに会うことになる。
 当時は中学二年だったので、今は高校二年か――
 そんなことを考えていると、
「お久しぶりです、小夜のお兄さん……」
 と声をかけて来た少女が居た。
 隆三は、
「結羽ちゃん?……久しぶりだね。元気だった?」
 と返した。
「……えぇ……まぁ……」
「……良い天気だね……」
「……そうですね……」
「………」
「………」
 会話が弾まない。
 いくら当時の事を知っていても三年も経っているので、結羽も見違えるほど成長していた。
 大人の仲間入り――というにはまだ幼いかもしれないが、それでもお年頃という言葉はしっくりくる。
 だが、会話をしなくては話が進まない。
「ちょっと、そこのファストフードでもどうかな?」
 隆三は話す場所として、駅前のファストフード店【バクバクバーガー】に誘った。
 結羽は、
「はい……わかりました」
 と言ってついて来た。
 どうやら、彼女は小夜の死亡事件で兄の隆三に事情聴取されると思っているのだ。
 だから、緊張していた。
 だが、そんなこと、彼女の本来の力を出せば、違うとわかるのではないかと思った。
 彼女は深く目をつぶって開くと目の色が変わる。
 その時、嘘は全て明らかにされ、真実が映し出される。
 その力で【パンドラ】の香水を消して見せたのだから。
 隆三はその力を期待しているのだ。
 隆三は、
「あのさ……これは、刑事としてじゃなくて、小夜の兄として話しをするんだけどさ……あの時の力……まだ、あるのかな?」
 と聞いて見た。
 結羽はビクッとして、
「あの時の……力……」
 と答えた。
 彼女の方もあの時の力というのが何を指すのかを理解しているようだ。
 彼女の瞳の奥の力の事だ。
 隆三は、続けて、
「これを見て欲しい……君にとっては忌まわしい力かも知れないけど、俺にはあの力は救いだったんだ。……これは大学の【心霊サークル】というところが運営しているサイトなんだけど、最近になって、三本柱の一つとされていた一人が見つかったという記事が出ているんだ。これ、君じゃないよね?」
 と言った。
 見つかった三本柱の一つは【両手に光輝をまとう女神】――結羽の特徴とは別の子だろう。
 だが、知っててとぼけてみせたのだ。
 彼女が本当に【視線に真実をまとう女神】ならば、仲間が居るという事は彼女の励みになるのではないかと思ったからだ。
 結羽は望む望まないに関わらず、ずっと、力を持って生活をしていくことになる。
 特別な力というのは普通の人々からは奇異に映る事が多い。
 覚醒してからの三年間という日々は彼女をいかに傷つけて来たかは想像に難くない。
 だからこそ、同じ悩みを持つかも知れない仲間の存在はかけがえのないものとなるのではないか――
 いや、それは建前だ。
 隆三は小夜の敵、【パンドラ】に勝てる力を持っているのであれば、使って欲しいと思っている。
 それが本音だった。
 妹の敵を討つために、妹と同じ年の女の子を利用しようとしている。
 自分の力では真相までたどり着けそうも無いから、他人を利用しようとしている。
 汚い大人になってしまった。
 我ながら反吐が出る。
 真実を見ることが出来る彼女であれば、この薄汚い考えは筒抜けだろう。
 だが、それでもなお、かたきを討って欲しい。
 力があるのなら、力を示して欲しい。
 わがままなのはわかっている。
 だが、それでも――
 そんな事を考えながら黙っていた隆三の表情は曇っていた。
 苦悶し、ゆがんでいた。
 これでは、真実を見るまでもなく、バレバレだ。
 だが、それを全て知っての上で、結羽は
「……お兄さんも苦しんだんですね……私もです。……小夜ちゃんが居なくなってずっと。……ご家族のお兄さんと比べたらたいしたことないかも知れませんがそれでも苦しかった。……私もこのままじゃ嫌です。何か動きたいです。……紹介してください。私も戦いたい……」
 と言いながら涙した。
 そして、三年前の力が今もなお、あるという事を証明するために、【パンドラ】の手鏡事件を解決して見せると言った。
 彼女は美也と会うなり、背後に回り、美也の背後から【パンドラ】の手鏡を凝視した。
 結羽の瞳が【パンドラ】の手鏡に映った時、【パンドラ】の呪いは消滅する。
 それを証明するかのように、
「口惜しや……口惜しや……」
 という声があたりに響いた。
 結羽の力は三年前と同じ力どころか増していた。
 それこそ、三本柱の一つとしてふさわしいかのように。


08 2つの柱


 隆三は結羽を連れて大学を訪ねた。
 今は刑事としてではない。
 非番であるという事もあるが、今は【パンドラ】事件からの救いを求める一人として来ている。
 会ったのは松村 榮一郎。
 対策チームのリーダーだ。
 榮一郎に小夜と結羽が巻き込まれた事件の事を伝え、結羽が三本柱の一つではないかという事も伝えた。
 榮一郎は
「ちょうど良かった。今日はもう一人の三本柱、花坂 里桜さんと会う予定なんですよ。清宮さんが三本柱の一つであるという事は彼女と会えば何か起きるかも知れない。彼女は今、心霊占いが得意な碓井さんという女性に見てもらっているところなんです。良かったら一緒に行きませんか?」
 と言った。
 栄美の占いで結羽も三本柱かどうか見てもらえれば一石二鳥にもなって良いし、二人が会うことで化学変化の様なものが起きるかも知れないという期待があった。
 隆三としても今日は非番なので、今日の内に会わせてくれるというのであれば、都合が良かった。
 結羽の意見も聞いてから、里桜と会うことになった。
 栄美と里桜との待ち合わせは隣町になっている。
 里桜の学校が隣町なので、栄美はその近くに行ったのだ。
 榮一郎も後から行くと伝えていたので、彼女達が待っているであろう公園に向かった。
 その公園にはちょうど、新たなる【パンドラ】事件が起きていた。
 その【パンドラ】の名前は、【パンドラ】の狂人と言った。
 ある時、夢枕に【パンドラ】を名乗る女性が現れる。
 その【パンドラ】は自分のために15人を殺してくれたら結婚してあげると言う者だった。
 取り憑かれた者は最初信じないが、最初のターゲットに指定された人間が死亡する。
 それでも無視していると二人目のターゲットも死亡する。
 慌てていると三人目も死亡する。
 実はこの3名は初めから死ぬ運命にあったので、呪いとは全く無関係な死だった。
 だが、それを偶然という名の嘘で【パンドラ】は取り憑かれた者を説得する。
 この力が本物だと信じた者は15人から3人減った12人のターゲットを殺し、最後に自らで命を絶って13人目の生け贄として【パンドラ】に捧げる事で成立する呪いだった。
 生け贄として必要なのは初めから13人であり、夢で【パンドラ】を見た者自身も初めから犠牲者の数として取り込まれているのだ。
 この【パンドラ】の狂人が呪いのビスクドールを出現させるのに必要なのは13人の生け贄×4グループだった。
 【パンドラ】は対三本柱への刺客としてこの【パンドラ】の狂人を使ったのだ。
 4人の男が姿を現した。
 4人とも夢枕に立った【パンドラ】に踊らされて11人ずつ殺害している。
 12人目のターゲットとして、【パンドラ】は里桜を指名したので、我先を争って、白昼堂々、彼女を殺しにやってきたのだ。
 里桜は、
「この馬鹿どもが。私が引導をわたしてやるわ」
 とやる気だ。
 だが、多勢に無勢。
 里桜の見方は栄美しかおらず、彼女は戦力としては頼りない。
 相手は屈強な4人の男だ。
 いかに勇ましい里桜と言えども4人の男をいっぺんに相手にするのは少々荷が重い。
 大ピンチ――
 その現場に榮一郎がもう一人の救世主を連れてきた事になるのだ。
 結羽は駆け出し、
「里桜さんは、そちらの二人を。私はこちらの二人をやります」
 と言った。
 里桜は、
「あんたは?」
 と聞いてきたが、
 結羽は、
「自己紹介は後でも出来ます」
 と返した。
 里桜は、
「了解。んじゃまず、一人目、歯を食いしばりなさい」
 と言って、男にバッチンと張り手をかました。
 時を同じくして、結羽も男の正面に立ち、一旦、深く目をつぶったかと思うと、両目を見開いた。
 結羽は、
「悔い改めなさい」
 と言った。
 大の男二人はこれで沈黙。
 気の抜けたような状態になった。
 残る二人も彼女達に襲いかかるが、
 里桜は、
「クロスカウンター」
 と言ってグーパンチ。
 結羽は、再び深く目をつぶり、また見開いて、
「終わりです」
 と言って相手を凝視した。
 この間、数十秒。
 電光石火の出来事だった。
 ただ、呆然と見ていた榮一郎は、
「ぶ、ブラボー……」
 と言って手をたたいた。
 結羽の付き添いとして来ていた隆三は目をぱちくりさせていた。
 あまりの突然の出来事に反応できなかった。
 結羽は、
「お兄さん、この人達は殺人を犯しています。捕まえてください」
 と言った。
 隆三が刑事なので、そう言ったのだ。
 非番だった隆三は仲間の刑事を呼び、容疑者4人を里桜への殺人未遂の現行犯で連行してもらった。
 調べたら4人が複数の人間を殺害しているという事は次第にわかって来るだろう。
 隆三は半信半疑だったが、三本の柱の2人の力を目撃したのだった。
 神々しさも感じられた彼女達の活躍を目の当たりにした今、彼女達の力を信じざるを得ないだろう。
 里桜は、
「あんたやるね。私は花坂 里桜」
 と言って、結羽に自己紹介した。
 同じような力を持っていると肌で感じたのだろう。
 結羽も、
「私は清宮 結羽と言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
 と言って握手を求めた。
 里桜はそれに答え、ここに三本柱の内の2つの運命の出会いが実現した。
 後、一人、【声に癒やしをまとう女神】が揃えば、【パンドラ】に勝てるかも知れないというのはあながち嘘とも思えなかった。
 隆三はこの後は仕事になるので去らねばならなかったが、
「俺は刑事をやっている中石 隆三って者だ。そこの結羽ちゃんとは妹が亡くなった【パンドラ】事件からのちょっとした知り合いだ。刑事である以上、俺は人間の犯罪者を追うことになる。だから、【パンドラ】事件には直接は関われないとは思う。だが、俺も【パンドラ】を憎む気持ちはある。だから、出来るだけの協力はしたいと思っている。何かあったら連絡をくれ。じゃあ、結羽ちゃんの事、よろしく頼む」
 と言って帰っていった。
 正直、この場に来るまで隆三はお遊びで心霊ゴッコをやっているのであれば、しかって終わりにするつもりでいた。
 だが、現実として【パンドラ】の呪いに犯された者――狂人を見て確信する。
 これは麻薬と一緒だ。
 放っておけない。
 放っておけば、たくさんの人が困ることになる。
 たくさんの人達が傷つく事になる。
 たくさんの人達が亡くなって行ってしまう。
 その不幸の連鎖はなんとしても絶たなくてはならない。
 不幸にも天に召されてしまった妹はどう思うだろう。
 お兄ちゃん、危険だから止めてと言うだろうか?
 それとも、私の様な被害者をもう出さないでというだろうか?
 どちらも言う可能性はある。
 優しい妹だったから。
 どちらの台詞も兄を思って言うだろう。
 例え正反対の事をさしていようとも。
 隆三は帰り道、立ち止まった。
 そこは生前の妹と最後に行動した橋の上だった。
「お兄ちゃん、私ね、将来大きくなったら、ボランティア活動をしようと思っているんだ」
 と妹は言った。
 何でだ?と聞くと、
「だって、世の中、不幸な人がいっぱいいるんだもん。私の夢は世の中の不幸を全て終わらせる事。どう?大きな夢でしょ?」
 と言っていた。
 その言葉を思い出した隆三はつぶやく。
「――確かにでっけぇ夢だな。俺には無理だ。……けど、それが出来るかも知れねぇやつが居るんなら協力してやりてぇよ。――それくれぇなら俺にもさせてくれよな――小夜――」
 と。
 隆三は上を向く。
 柄にも無く涙が出そうになったからだ。
 涙を抑えるのは上を向けば良いと相場が決まっている。
 小夜が亡くなってから三年――
 隆三には良いことなんか一つも無かった。
 いや、無かったように見えていただけだった。
 だが、今日、一つの希望が見えた。
 少なくとも【パンドラ】をつぶせる三本柱の一つは小夜の死をきっかけにして、小夜の様な不幸な人間を出したくないという思いで動いている。
 小夜の思いは親友だった結羽が継いでくれる。
 全ての不幸が無くなる事は無いとは思うが、少なくとも多くの不幸をまき散らしている【パンドラ】は倒す事が出来るかも知れない。
 それだけでも隆三にとっては大きな救いとなった。
 隆三は、
「今日はぐっすり眠れそうだ。夢の中で今日の報告をしてやるよ、小夜」
 と言って家路についた。


続く。



登場キャラクター説明

01 松村 榮一郎(まつむら えいいちろう)
松村榮一郎
松村 俊征(まつむら としゆき)の従兄弟の大学生。
優れた霊能力を持つ。
霊能力を活かしてパンドラ対策チームのリーダーをしている。













02 松村 俊征(まつむら としゆき)
松村俊征
松村榮一郎(まつむら えいいちろう)を従兄弟に持つ奥手な高校生。
黛 玲於奈(まゆずみ れおな)という彼女が出来たばかり。
多少、霊能力はあるが、うまく使いこなせていない。
口下手。












03 黛 玲於奈(まゆずみ れおな)
黛玲於奈
笑顔が素敵なショートカットの女性。
松村 俊征(まつむら としゆき)の彼女でもある。
霊能力は全く無いがパンドラ事件に関わって行く事になる。
高校生。











04 大森 香月(おおもり かづき)
大森香月
黛 玲於奈(まゆずみ れおな)の親友の高校生。
空手の有段者でもある。
気が強い性格。
頼りになる姉御肌だが、霊能力は無い。











05 横田 由紀(よこた ゆき)
横田由紀
黛 玲於奈(まゆずみ れおな)と大森 香月(おおもり かづき)の友達。
花坂 里桜(はなさか りお)とも友達で彼女を連れて来てくれた。
霊体験をして、怖がっている。










06 花坂 里桜(はなさか りお)
花坂里桜
霊能者チームの切り札となり得る碓井 栄美(うすい えみ)の霊感占いで預言された三柱の女神の一人。
両手に光輝をまとう女神と呼ばれている。
両の手のひらに超浄化作用があり、触るだけで悪霊を浄化出来る。











07 碓井 栄美(うすい えみ)
碓井栄美
松村 榮一郎と同じく大学生。
霊能者チームに在籍している。
里村 翔子(さとむら しょうこ)とよくペアを組む。
霊感占いが得意。










08 杉山 里桜(すぎやま りお)
杉山里桜
花坂 里桜(はなさか りお)の五歳年上のおば。
パンドラの呪いにかかって死亡した故人。
花坂 里桜とは名前も同じで彼女をとても可愛がっていた。












09 黒木 暁(くろき さとる)
黒木暁
杉山 里桜(すぎやま りお)の元恋人。
パンドラ・バトンの呪いにかかっていたが、花坂 里桜(はなさか りお)によって祓われる。













10 近松 静那(ちかまつ しずな)
近松静那
パンドラ・バトンの次のターゲットであり、黒木 暁(くろき さとる)の新しい恋人。
呪われる所だったが、花坂 里桜(はなさか りお)によって祓われる。













11 多田 絵里子(ただ えりこ)
多田絵里子
パンドラの栞に呪われた女性。
助かったが新たにパンドラ・オルゴールに呪われるという不幸な女性。













12 篠崎 美也(しのざき みや)
篠崎美也
パンドラの手鏡に見せられた女性。
どんどん容姿がパンドラに近づいて行くという呪いをかけられている。












13 中石 隆三(なかいし りゅうぞう)
中石隆三
妹の中石 小夜(なかいし さよ)をパンドラの呪いに亡くした刑事。
妹の友達でもあった清宮 結羽(きよみや ゆう)を霊能者チームに引き合わせる役目を請け負う。













14 中石 小夜(なかいし さよ)
中石小夜
中石 隆三(なかいし りゅうぞう)の妹でパンドラ事件がきっかけで亡くなっている故人。
生前は、優しい性格をしていた。













15 清宮 結羽(きよみや ゆう)
清宮結羽
霊能者チームの切り札となり得る碓井 栄美(うすい えみ)の霊感占いで預言された三柱の女神の一人。
視線に真実をまとう女神と呼ばれている。
一度目をつぶり、見開くとまやかしを消し去るという強力な力を持っている。










16 三柱の女神最後の一人。
三柱の女神最後の一人
霊能者チームの切り札となり得る碓井 栄美(うすい えみ)の霊感占いで預言された三柱の女神の一人。
声に癒やしをまとう女神と呼ばれている。
悪霊を浄化する歌を歌う事が出来るとされている。










17 パンドラ
パンドラ
世界中に呪いの種を蒔く謎の女性。
現在日本に進出してきているとされている。
呪いが成就する事により出現する13体のビスクドールを集めている。