第002話 偽クアンスティータ編前編


00 星見に従っての行動


 風の神殿より北西に進んでいる吟侍(ぎんじ)一行――
 それは、風の姫巫女、カゼッタ・フゥルクロワの星見で【吉】と出た方角だからだ。
 彼女の星見では友達とは当分会えないと出ている。
 この風の星、ウェントスに来た最大の目的が友達の救出である以上、その友達と会えないというのは行き詰まるという事でもある。
 様々な能力を持っている吟侍だが行方不明の友達をピンポイントで捜し当てるような都合の良い能力は持ち合わせていない。
 なので、地道に探して行くしかなかった。
 他の星の救出チームと違い、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの力を持っている吟侍が居れば、例え上位絶対者であっても大して苦戦はしないだろう。
 ただし、18名の上位絶対者の中の1名、最強とされるエカテリーナは別だが。
 彼女は2番の化獣、フリーアローラをその子宮に宿しているという。
 殆どの力を失った状態であるルフォスでは今のフリーアローラには勝てない可能性が高い。
 最も、ルフォスは失った力の補填として、ある切り札は持っているのだが、準備がまだ整っていない。
 現在、ルフォスの世界の管理者となっている全能者オムニーアのウィンディスに調整を依頼していて、その結果報告待ち状態だ。
 つまり、現在それを有効に利用出来る状態にはなっていないのだ。
 それに正体不明の輩がもう1名いる。
 そいつは10番の化獣、ティルウムスを脳に宿らせている。
 フリーアローラとティルウムスを同時に相手をするのは自殺行為だ。
 また、このウェントスは謎の星、ファーブラ・フィクタと近いというのもある。
 迂闊な刺激はルフォスが最も恐れる最強の化獣、13番のクアンスティータを出現させる危険性も孕んでいる。
 なるべくならそっと行動したいというのがルフォスの意見だった。
 今はクアンスティータに萎縮して本来の力が発揮できないという状況下にあるのだ。

 惑星ウェントスに向かう前、吟侍達の保護者、ジョージ神父は口を酸っぱくして言っていた。
 クアンスティータには関わるなと。
 様々な偉名を名乗り、地球では伝説とされていたジョージ神父も心の底からクアンスティータを恐れていた。
 クアンスティータが出てきてしまったら全てが終わりだと言っていた。
 吟侍が戦った強敵、後に協力してくれるようになったが――新風ネオ・エスク、レッドフューチャーのアリス達の居た未来の世界では(クアンスティータの)五番目の本体とやらが壊滅状態にまでさせたという。
 ルフォスを【現在】、ルフォスのライバル、一番の化獣ティアグラを【過去】として、三大化獣に数えられる【未来】を司るクアンスティータは神話の世界では産まれていないとされている。
 産まれていないにも関わらず、絶望の象徴とされ、神御(かみ)や悪空魔(あくま)の勝利もこのクアンスティータが関わっていたら、無かったとされている。

 なぜ、存在してもいないものを恐れるのだろうか?
 クアンスティータについては矛盾と思える事も多い。
 矛盾をも肯定してしまう存在、それがクアンスティータなのだ。

 ルフォスはこのクアンスティータを恐れ、その恐怖に打ち勝つために、吟侍の勇気を欲した。
 その事から考えてもクアンスティータは吟侍達にとっては重要な存在である。
 だが、今は出くわしたくはない。
 ルフォスにとってはウィンディスの準備が整うまでは無駄な争いは避けたいところだ。
 カゼッタの星見による【吉】と出たのはその無駄な争いが少ない方角だったと言えた。
 もめ事になっても吟侍が出るまでもなく、ソナタと三銃士達だけで、戦える程度のレベルでしかない。
 また、ソナタ達にとっても自身のスキルを上げるためには丁度良いレベルの相手達だったといえた。
「また、あんたの出番は無かったわね」
 ソナタが吟侍に声をかけた。
 彼女は大変機嫌が良い。
 この所、彼女は連勝街道まっしぐら。
 苦戦はするものの、三銃士達のサポート、吟侍の影ながらの手助けもあって勝ち続けていた。
 自信を得るのに、十分な戦いばかりだった。
 吟侍から見れば大した事ないレベルでもソナタ達の戦いは惑星テララ、イグニス、アクアで戦っているメンバー達と同レベルの敵達との戦いだ。
 本当のピンチになったら吟侍が前に出れば良いと思っているので、彼は安心して、ソナタ達の成長を見守れた。
 吟侍が出なくてはいけないレベルはソナタ達ではどうしようもないレベルの敵が現れた場合だ。
 幸い、今の所、それに該当する敵は現れていない。
 冒険としては順風満帆と言えるだろう。
 当分、友達とは会えないみたいだし、ソナタ達のスキルアップのために各地を回るのもありかなと考えていた。

 だが、いつまでも北西に進み続けていく訳にもいかない。
 そろそろ別のルートを検討しなくてはならない時が来た。
 北西方向には大きな湖があり、方向転換をせざるを得ないからだ。
 カゼッタの星見では出来るだけゆっくり北西に進んで下さいと出ていた。
 北西から方向を変えた時、物事が本格的に動き出すからと言っていたのだ。

 だが、旅が順調にいっていたので、少々、急いで進みすぎたかな?という状況だった。
 予定ではまだ、最低でも2、3週間は北西に向かって歩き続けたかったが、行き止まりが来てしまった以上、向きを変えざるを得ない。

「ちょっとここで休んでいかない?」
 吟侍は提案する。
 ここで方向転換すれば、物事が動く。
 そろそろだとは思うが、ウィンディスの準備の方はまだ、不安が残る。
 今、動くべきではないのかも知れないと考えているからだ。
「何言ってんのよ、吟侍、私達は進むのよ。友達、助けたいんでしょ?」
 ソナタは反対意見だ。
 調子が良いので、このままどんどん進みたいという事なのだろう。
 結果多数決になったが、ソナタが進むという意見を言っているので、三銃士達も進むという意見に賛同し、4対1で、吟侍の意見は通らず、方向を変えて進むという事になったのだった。

 吟侍は、自分が動かないといけない状態になりそうだと思った。
 懸念材料が増えて来ているのを感じた。


01 偽者のクアンスティータ


 方向転換して東に向かう吟侍達の前に立ち塞がったのは下位絶対者エルナンデスをリーダーとする山賊のような集団のはずだった。
 旅人に対し、追いはぎのような事をしていて、時には殺害も厭(いと)わない集団だった。
 噂では耳にしていたので、現れるのでは無いかと思って身構えていた。
 だが、そこにあったのはエルナンデスと思われる骸(むくろ)と無数の肉片だ。
 肉片はエルナンデスの部下のなれの果てだと思われる。
 これをやったものの残虐性が感じられた。

「ひ、ひでぇ……」
 ロックがつぶやく。
 ソナタは気分が悪くなったのか顔を背けている。

 少し先には霧が立ちこめていて、その霧の中には山ほどもある巨大な物体が浮いている。
 その巨大な物体からは何かが飛び出たり引っ込んだりしている。
「蜂の巣か?」
 吟侍がぽつりとつぶやいた。
 彼には巨大な物体が蜂の巣で、そこから出たり入ったりしている無数の何かが働き蜂かなにかのように見えたのだ。

ボガンッ!!

 突如、エルナンデスの骸が四散し、中から一つの影が飛びだして来た。
「何だ、お前ぇは?……」
 吟侍はその影に質問する。
 気配でわかる。
 こいつは恐ろしく強いという事が。
「君こそ何だい?、この無礼な生き物の仲間だったら、始末するぞ」
 影はそう答えた。
「おいらの名前は芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)。旅の者だ。彼女達は旅の連れ。あんたが始末した奴とは関係ねぇ」
「ふ〜ん……。確かに関係ないみたいだね。僕の名前はクアンスティータ」
『なっ……』
 その影の言葉に吟侍の心臓、ルフォスが真っ先に反応する。
 その影は確かに自分の事をこう言った。
 【クアンスティータ】だと。
「ただし、偽者だけどね」
 その影は偽者だと言うことを付け加えた。
 そう、クアンスティータはまだ、誕生していないのだ。
 居るはずがない。
「自分で偽者を名乗るっていうのは良い度胸だな。本物が怖くないのか?」
「偽者って言っても公式の偽者だからね。本物のクアンスティータ様に仇なす愚か者は僕達、10名の公式偽クアンスティータが始末する。ここに転がっている肉片も自分の悪事にクアンスティータ様の名前を使った。よって、速やかに処理したよ」
「正義の味方って訳じゃねぇが、そのやり方に賛成する訳にはいかねぇな」
 吟侍は偽者のクアンスティータと戦うつもりになった。
 やられたのは悪党だったかもしれないが、この殺され方は残酷だ。
『ま、まて、吟侍、相手が悪い』
 すかさず、ルフォスが止めに入る。
 偽者とは言え、敵はクアンスティータを名乗る者。
 勝てるという保証はない。
 どうしてもルフォスはクアンスティータに対しては逃げ腰になってしまう。
「だけど、ルフォス……」
 吟侍はルフォスの消極的な態度に戸惑う。
 今まではどちらかと言えば、行け行けと言った感じの態度だったルフォスがクアンスティータの名前が出たとたん尻込みしているのに驚いたのだ。
「君の心臓の化獣、僕の事、怖がっているみたいだねぇ。確かにその化獣はクアンスティータ様と同じ化獣になるけど、その力はクアンスティータ様よりも遙かに劣る。僕の名前がクアンスティータだと知って萎縮しちゃっているんだよね」
「おいらは別にお前ぇなんかに怯えてねぇよ」
「君は力の差がよく解っていないからだよ。僕と戦えばこうなる」
 パチンッ!
「なっ……」
 言うが早いか偽者のクアンスティータは指を鳴らした。
 すると、風の惑星ウェントスが完全大爆発した。
 いきなりの事で吟侍は反応がとれなかった。
 星が超新星爆発をして、ソナタ達は死――
 ななかった。
 すぐさま、星が復活し、元通りになったのだ。
 だが、確かに星が一瞬にして爆発し、危うく仲間はみんな死ぬところだった。

 さすがの吟侍も何が起きたのか解らない。
 その疑問に答えるかの様に、偽者のクアンスティータと名乗る少女は口を開く。
「何が起きたか解らないでしょ?僕は一度、星を破壊した。だけど、この星ウェントスは隣の星、ファーブラ・フィクタの影響を強く受けていて、例え、完全消滅してもより強固になって復活する。惑星ファーブラ・フィクタはクアンスティータ様の核が存在する星。誕生されていなくてもこの程度の影響力はあるんだよ。産まれていないからと言ってクアンスティータ様を侮ると痛い目みるよ」
 不敵に笑う偽クアンスティータ。
「お前ぇこそ、俺達を舐めるなよ。あんまり舐めていると痛い目みるかもよ」
 吟侍は挑発する。
 危険な賭だが、舐められたら、どんな目にあわされるか解らない。
 少なくとも対等近くの力を持っているんだと示す必要がある。
 黙っていても滲み出ている圧倒的過ぎるパワーを前にソナタ達は完全に萎縮してしまっている。
「なら、力試しでもしてみる?一応、僕の立場を説明すると僕は偽者のクアンスティータとは言ったけど、偽者のクアンスティータの本体じゃない」
「どういう事だ」
「君はさっき、霧の中の物体を見たとき、【蜂の巣】って言ったよね?」
「あぁ……」
「イメージとしては正解だよ。僕は七番目にあたる公式の偽クアンスティータ、アピス(蜂)クアンスティータの一核だからね」
「蜂のクアンスティータか……」
「クアンスティータとしての能力に蜂の要素を混ぜた存在だね、僕は。蜂にも女王蜂と働き蜂っているだろ?僕は働き蜂のようなものさ。たくさんいるんだよ」
「後ろに見える蜂の巣に女王蜂がいるって事か……」
「ちょっと違うな。確かに、女王蜂にあたるアピス・クアンスティータはいるけどね。普通の蜂と違うのは階級の違いがあるってことだよ」
「どういう意味だ?」
「アピス・クアンスティータ全体で考えると特大、大、中、小の四段階の巣が存在するって事さ。特大は一つで、そこに真の女王がいる。特大は一つだけど、大は10、中は1000、小は10000000くらいあるよ。もちろん、あそこにあるのは小クラスの巣だよ、僕はその巣の末端の働き蜂に過ぎない。でも、君を圧倒する力はあるよ」
「自分はクアンスティータの中じゃまるで大した存在じゃねぇけど、おいら達は敵じゃねぇってか?嫌みな奴だな」
「クアンスティータ様じゃないよ、偽クアンスティータとしても敵じゃないって言っているつもりだけど?クアンスティータ様にとっては問題外でしょ」
 挑発合戦はアピス・クアンスティータに分があるようだ。
 言っている事は恐らく事実だろうが、そう、はっきり言われるとムカつく。
 吟侍としてはこの偽者に一泡ふかせてやりたい気持ちだった。
 だが、ここ、いや、このウェントスで戦えば、ソナタ達も無事では済まないだろう。
 その気持ちを察したのか、アピス・クアンスティータは――
「場所変えようか。僕の家に招待するよ」
 と言った。
 次の瞬間、吟侍の前の景色がガラッと変わる。
 この景色には見覚えがある。
 空は紫色、雲は黄緑、山は黒、湖は白桃色、木々は球体の葉っぱがなっている。
 通常の星とは異質の常識がまかり通る異空間。
 九頭大蛇(くずおろち)戦の直後に迷い込んだ惑星ファーブラ・フィクタの時に見た景色と雰囲気がそっくりだ。
「何処だ?ここは……」
 吟侍は、アピス・クアンスティータに尋ねる。
「ここは、さっき霧の中にあった巣の中の部屋の一つだよ。空間がねじ曲がっているからねぇ、外から見るよりずっと大きいんだよ。ここは頑丈だから、僕や君が暴れたくらいじゃびくともしないよ」
 どうやら、ここで戦おうって事らしい。
 吟侍は身構える。
 ルフォスは怯えているようだが、何とかするしかない。
「慌てなくて良いよ、さっき星、壊した時、めぼしいのを何名か見つけておいたよ。力を合わせて僕と戦って見ればいい。一発でも当てられれば、君達の存在を認めるよ」
 相変わらず、こっちを舐めた口調だ。
 だが、今の状況ではまず、勝てそうもない。
 その条件を飲むしかない。

 数秒待つと3名の女性がこの異空間に強制転送された。

「な、何じゃここは?」
「ここは?」
「どこ?」
 3名とも状況が飲み込めないでいる。
 3名は面識がないらしいのは雰囲気からも察知出来た。

「力を合わせるのに自己紹介しないっていうのもあれだね。僕が代わりにしてあげるよ」
 状況をしっかり把握しているのはアピス・クアンスティータだけだ。
 彼女がこの状況を作り出したのだから。

 吟侍とルフォス以外の3名の素性はこうだった。

 1人目はウェントス最強のアブソルーター、エカテリーナ・シヌィルコだ。
 2番の化獣フリーアローラを子宮に宿す、吟侍もマークしていた女性だ。

 2人目はフェンディナ・マカフシギ、外宇宙から来た全能者オムニーアの少女だ。
 全能者オムニーアとはルフォスの世界の管理者ウィンディスと同族という事になる。
 頭の中に10番の化獣ティルウムスを宿す。
 今まで正体はわからなかったが、この事で、解った。

 3人目は新風ネオ・エスクのメンバーの一人、ステラ・レーターだ。
 新風ネオ・エスクと言えば、未来の世界から来て、吟侍と戦い琴太の救出に向かったアリス達の仲間だ。
 アリス達はレッド・フューチャー。
 彼女は後で接触してくると言われていたグリーン・フューチャーのメンバーだ。
 彼女も未来の世界でクアンスティータの脅威にさらされ、吟侍と出会うために過去の世界である、今の時代へとタイムリープをしてきたのだ。

 エカテリーナとフェンディナはフリーアローラとティルウムスの事もあるからマークしていたし、ステラ・レーターは吟侍を追ってこの時代に来ている。
 つまり、全くの無関係という間柄でもなかった。

 縁とは奇なるもの――
 とは言え、まさか、偽者のクアンスティータによってこんな出会いがあるとは思っても見なかった。
 だが、この出会いも目の前のアピス・クアンスティータを何とかしないと話にならない。
 共に殺されたのでは笑い話にもならないのだ。

「つもる話は後だ、まず、こいつを何とかするしかない」
 吟侍は他の3名に声をかける。
 それぞれがどんな思いで行動するかは解らない。
 解っているのはどんな事をしようとしても、まずは、アピス・クアンスティータに一撃を入れなくては何も始まらないのだ。
「解っておるわ、妾に命令するでない」
 エカテリーナは状況に納得する。
 アピス・クアンスティータを敵と認識したのだ。
「了解。話は後ね」
 ステラも理解していた。
「解りました。お願いします」
 フェンディナも答える。
 だが、彼女の口調から判断すると好戦的な性格ではなさそうだ。
 圧倒的な力を持つ相手に対してどう出るか疑問が残る。

 やるしかない。
 やるしかないのだ。

 アピス・クアンスティータ対吟侍(&ルフォス)、エカテリーナ(&フリーアローラ)、フェンディナ(&ティルウムス)、ステラの連合チームの戦いが始まった。

 吟侍達のこの戦力を前にしても全く物怖じしていないアピス・クアンスティータ。
 どこか余裕を感じられる。

 先手必勝。
 戦闘はすぐに始まった。

 エカテリーナはフリーアローラの鏡のような力を使った。
 モード・ドレッサーと呼ばれる鏡台から次々と花びらが出現する。
 フリーアローラは花畑の化獣だ。
 花びら一つ一つには名前がついていて、その名前を求めて、名前を持たない超怪物達が彼女の忠実な兵となる。

 フェンディナの頭から身体の透けた少年が現れる。
 この少年こそ、ティルウムスだ。
 本棚のようなものをいくつも作りだし、本棚の本から、いくつもの物語が紡がれる。
 そこから無数の超異形達が顔を出す。

 ステラはかかしを出現させる。
 かかしとは案山子のイメージから来た兵器で、未来の世界では超攻撃兵器として選ばれた者のみが使えるものだ。

 3名ともやる気だ。
 ここを何とかしないと生きて帰れないと解っているから本気で向かっている。

 吟侍も負けてはいない。
 尻込みしているルフォスのしりをひっぱたく感じでルフォス・ワールドから、様々な超物体を召喚して、一斉総射した。

 4方向からのデタラメな総攻撃にも涼しい顔をして防いでいく。
 吟侍も他の3名も本気にはまだなっていない。
 だが、感覚的に解った。
 このまま本気になって攻撃していってもやはり防がれると。

 負けるイメージが既に出来ていたのだ。
 それは4名とも戦闘能力が高いからこそ、より強い者の気配を瞬時に察する事が出来、力の差を理解出来たのだ。
 攻め込んでいるが敗色濃厚と言った状態だった。

 このままだとやられる。

 それが、4名が感じている予測だった。
 打つ手はないのか?

 いや、ある。
 ルフォスが切り札を使う時が来たのだ。
 ウィンディスの準備が整っていないなどとは言っていられない。

 ルフォス・ワールドに隠し持っている切り札を使う時は今しかない。
 これがダメなら、やられるのを待つしかないのだ。

 吟侍とルフォスに選択の余地はなかった。
 ルフォスはその切り札を使う事にした。

 吟侍は他の3名の攻撃で出来た一瞬の隙を探した。
 必要なのはこの一瞬だけ。
 この一瞬で吟侍とルフォスは別の世界へと意識を飛ばす。

 ルフォスの世界に圧縮保存している既に消滅した世界へと向かうためにだ。
 その世界で失われた力を身につけて来るしかない。
 それしか、4名の全勢力を用いても敵わないアピス・クアンスティータに対抗する手段はないのだ。

 吟侍は幼い頃より、暇な時間というものが無かった。
 余暇貯時間管理(よかちょじかんかんり)――
 無駄な時間を排除するために、吟侍は暇な時間を貯蓄していた。
 いざという時にはその貯蓄した時間を使うためだ。
 クアンスティータが関わると時空の管理はとたんに困難になる。
 だが、吟侍だけの為に使われる時間なので影響はない。

 吟侍はその余暇貯時間管理で貯めた時間を使って、既に消滅した世界、ロスト・ワールドの一つの世界へと魂を飛ばす。

 新たなる力を得るため、この一瞬の隙を有効に使うのだ。

(どちらか選択して下さい)

 →【ファーブラ・フィクタ シークレットステージ】A001話へ進む。

 →【ファーブラ・フィクタ】ウェントス編第002話後編へ進む。






登場キャラクター説明


001 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)
芦柄吟侍
 ウェントス編の主人公であり、ファーブラ・フィクタのメイン主人公。
 子供の頃、故郷、セカンド・アースを襲った絶対者・アブソルーター達を追い払った事から英雄と呼ばれる。
 その時、心臓を貫かれるが、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核でそれを補い、以降、ルフォスの力を使える様になる。
 勇者としての格は他の冒険者達より上だが、それだけに、他のメンバーより、強い敵を引きつける。
 創作バトルを得意としていて、攻撃方法のバリエーションはやたら多い。
 敵からすると最も厄介な勇者である。
 ウェントスでの救出チームに参加する。



002 ソナタ・リズム・メロディアス
ソナタ・リズム・メロディアス
 ウェントス編のヒロインの一人。
 吟侍(ぎんじ)の恋人、カノンの双子の姉であり、共に行けない彼女の代わりに吟侍と共にウェントスの救出チームに参加した。
 吟侍の事が好きだが隠している。
 メロディアス王家の第六王女でもある。
 王家最強術であるCV4という特殊能力を使う。
 CV4は4つの声霊、ソプラノ、アルト、テノール、バスを器に入れる事により、特殊な能力を持ったキャラクターゴーレムとして操る能力である。






003 ルフォス
ルフォス
 吟侍(ぎんじ)の心臓となった七番の化獣(ばけもの)。
 ネズミに近い容姿をしていて、最強の化獣である十三番、クアンスティータを異常に恐れていて、その恐怖に打ち勝つために、最も勇気を示した吟侍と命を同化する道を選んだ。
 ルフォス・ワールドという異世界をまるまる一つ所有していて、その世界のものは全て彼の戦力である。
 異世界には修行するスペースもあり、冒険者達の修行場として提供していた。
 異世界にある三つの核、マインドコア(心核)、スキルコア(技核)、ボディーコア(体核)を合わせる事により、新しい怪物等を生み出す事も出来る。
 ルフォス・ワールドはそれ以外にもロスト・ワールドという既に失われた世界をいくつも圧縮保存してある。




004 ロック・ナックル
ロック・ナックル
 ソナタを守る三銃士の1人。
 神御(かみ)の拳を持つ。
 吟侍事をあまり信用していない。














005 ニネット・ピースメーカー
ニネット・ピースメーカー
 ソナタを守る三銃士の1人。
 三つの目を持ち、神通力を使う。














006 カミーロ・ペパーズ
カミーロ・ペパーズ
 ソナタを守る三銃士の1人。
 神形(しんぎょう)職人。
 自らが神形デウス・フォルマ777号となった。
 666号である魔形を追っている。













007 ウィンディス
ウィンディス
 元全能者オムニーア。
 吟侍(ぎんじ)と契約し、ルフォスの世界で管理者になった。
 ルフォスに依頼されて圧縮してあったロスト・ワールドという既に失われている世界の解凍作業をしている。
 様々な知識を持つ知恵者でもある。












008 カゼッタ・フゥルクロワ
カゼッタ・フゥルクロワ
 風の姫巫女。
 吟侍達に安全に旅を進める方向を示している。














009 エカテリーナ・シヌィルコ
エカテリーナ・シヌィルコ
 風の惑星ウェントスに君臨している絶対者アブソルーターの一人。
 2番の化獣(ばけもの)フリーアローラをその子宮に宿しているため、最強と呼ばれている。
 戦闘狂であり、奴隷達の支配よりも強い相手との戦いを求める。
 突然のトラブルで出会った吟侍の事を気に入った。














010 フリーアローラ
フリーアローラ
 風の惑星ウェントスの絶対者アブソルーターのエカテリーナの子宮に宿っている女性型の化獣(ばけもの)。
 鏡と花畑をイメージした力を持ち、一枚一枚名前を持った花びらを求めてやってくる名前の無い超怪物達を支配する力を持つ。














011 フェンディナ・マカフシギ
フェンディナ・マカフシギ
 3名の姉(ロ・レリラル、ジェンヌ、ナシェル)達と別れて一人旅をしていた全能者オムニーアの少女。
 戦闘向きではない大人しい性格だが、自身のポテンシャルは姉たちをも遙かにしのぐ。
 また、そのポテンシャルの高さ故に脳に10番の化獣(ばけもの)ティルウムスを宿す事になる。
 心臓に7番の化獣ルフォスを宿すという吟侍を探していた。












012 ティルウムス
ティルウムス
 全能者オムニーアの少女、フェンディナの脳に取り憑いた10番の化獣(ばけもの)。
 神話の時代には生まれていなかったが、その力は1番の化獣ティアグラや7番の化獣ルフォスをもしのぐと言われている。
 本棚のようなものを作りだし、その中の本に描かれている者全てを戦力とする。
 姿形は半透明の少年の姿をしている。














013 ステラ・レーター(ラ・エル/依良 双葉(いら ふたば))
ステラ・レーター
 未来の世界において、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータと戦いを繰り広げて来た組織、新風ネオ・エスクの一員。
 新風ネオ・エスクは大きく分けて三つの組織があり、レッド・フューチャー、グリーン・フューチャー、ブルー・フューチャーに別れる。
 ステラはグリーン・フューチャーの一員で、かかしという超兵器を使う。
 また、若くして亡くなった依良 双葉(いら ふたば)という吟侍の幼馴染みの生まれ変わりでもある。











014 アピス・クアンスティータ
アピス・クアンスティータ 
 吟侍達が遭遇してしまった、偽者のクアンスティータの一名。
 偽者と言っても公式で認められた存在であり、本物のクアンスティータに対して悪意を持って接する存在を始末する役目を持っている。
 アピス・クアンスティータはクアンスティータとしての要素に蜂の要素を混ぜ合わせた力を持っている。
 特大、大、中、小という4種類の巣を持っていて、特大は1つ、大は10、中は1000、小は10000000の巣がある。
 そのそれぞれに女王蜂にあたるアピス・クアンスティータと働き蜂にあたるアピス・クアンスティータがいる。
 本体とされるのは特大の巣の女王蜂にあたるアピス・クアンスティータ。
 だが、小の巣の末端の働き蜂タイプのアピス・クアンスティータでさえ、吟侍、エカテリーナ、ステラ、フェンディナの四名を圧倒する力をもっている。